説明

空気入りタイヤ

【課題】熱可塑性樹脂を主成分とするインナーライナー層のスプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するようにした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤ周方向の両端部を重ね合わせてスプライスしたカーカス層1と、カーカス層1のタイヤ径方向内側にタイゴム層2を介し、その両端部をタイヤ周方向に重ね合わせスプライスした熱可塑性樹脂を主成分とするインナーライナー層2を有する空気入りタイヤであって、インナーライナー層3のスプライス部5がタイヤ周方向のスプライス量aが3mm以上であり、かつインナーライナー層3のスプライス部5の少なくとも一部がカーカス層1のスプライス部4と重なっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を主成分とするインナーライナー層を有し、そのスプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの重量を低減するため、インナーライナー層を熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂とエラストマーとからなる熱可塑性エラストマー組成物で形成されたフィルムを使用することが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかし、熱可塑性樹脂を主成分とする矩形フィルムをタイヤ周方向の両端部を重ね合わせてスプライスすることによりインナーライナー層を構成するとき、熱可塑性樹脂フィルムの接着力が不足するため、インナーライナー層のスプライス部において、空気入りタイヤの製造時や走行時に、クラックや剥がれが起きることがあった。このため、インナーライナー層を熱可塑性樹脂フィルムで形成したときに、そのスプライス部のクラックや剥がれが起きないようにすることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−164805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂を主成分とするインナーライナー層のスプライス部に起因するタイヤ故障を抑制するようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向の両端部を重ね合わせてスプライスしたカーカス層と、該カーカス層のタイヤ径方向内側にタイゴム層を介して、その両端部をタイヤ周方向に重ね合わせてスプライスした熱可塑性樹脂を主成分とするインナーライナー層を有する空気入りタイヤであって、前記インナーライナー層のスプライス部が、タイヤ周方向のスプライス量が3mm以上であり、かつ前記インナーライナー層のスプライス部の少なくとも一部が前記カーカス層のスプライス部と重なっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、熱可塑性樹脂を主成分とするインナーライナー層のスプライス部が、タイヤ周方向のスプライス量を3mm以上にすると共に、その少なくとも一部が隣接するカーカス層のスプライス部と重なるようにしたので、空気入りタイヤの製造時や走行時に、インナーライナー層のスプライス部に作用する外力を緩和してクラックや剥がれが起きるのを抑制することができる。
【0008】
前記インナーライナー層のスプライス部が、前記タイゴム層を介して構成されることが好ましく、熱可塑性樹脂を主成分とするインナーライナー層のスプライス部が剥がれるのを抑制することができる。
【0009】
前記カーカス層のスプライス部のタイヤ周方向のスプライス量は、前記インナーライナー層のスプライス部のスプライス量より大きく、かつ前記インナーライナー層のスプライス部の全部が前記カーカス層のスプライス部に重なっていることが好ましく、インナーライナー層のスプライス部に作用する外力の緩和をより確実にすることができる。
【0010】
前記インナーライナー層のスプライス部のスプライス量は3mm〜30mmであることが好ましく、スプライス部に作用する外力の緩和をより確実にすることができる。
【0011】
前記カーカス層のスプライス部のスプライス量は3mm〜50mmであることが好ましく、カーカス層のスプライス部の接着力を確保すると共に、タイヤ重量の増加を抑制することができる。
【0012】
前記空気入りタイヤが、トレッド部を構成するトレッドゴムの両端部をタイヤ周方向に重ね合わせたスプライス部と、サイド部を構成するサイドゴムの両端部をタイヤ周方向に重ね合わせたスプライス部を有し、前記カーカス層のスプライス部、トレッドゴムのスプライス部及びサイドゴムのスプライス部が、タイヤ周方向に均等に配置されていることが好ましく、空気入りタイヤのユニフォミティーを改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の空気入りタイヤの実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤの実施形態の他の例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の空気入りタイヤの実施形態の更に他の例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の空気入りタイヤの実施形態の更に他の例を模式的に示す断面図である。
【図5】図1の空気入りタイヤを加硫した後の断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の空気入りタイヤの実施形態の要部の一例を模式的に例示する断面図である。なおタイヤ周方向を矢印Rで示した。
【0015】
本発明の空気入りタイヤは、カーカス層1とインナーライナー層3を有する。カーカス層1とインナーライナー層3との間には、タイゴム層2が介在する。カーカス層1は補強ゴムからなる矩形シートで構成され、そのタイヤ周方向Rの両端部1e,1eは、一方の端部の上に他方の端部を重ね合わせてスプライス部4が形成される。このカーカス層1のタイヤ径方向内側にタイゴム層2、更にその径方向内側にインナーライナー層3が配置される。図示の例では、タイヤ周方向の一周にわたりタイゴム層2が配置されている。タイゴム層2は、インナーライナー層3とカーカス層1との接着力を改良する。
【0016】
インナーライナー層3は熱可塑性樹脂を主成分とする矩形シート状のフィルムで構成され、そのタイヤ周方向Rの両端部3e,3eは、一方の端部の上に他方の端部を重ね合わせてスプライス部5が形成される。図示の例では、インナーライナー層3の両端部3e,3eの間にタイゴム層2が介在する。このようにタイゴム層2を介在させることによりスプライス部5の剥離故障を抑制することができる。
【0017】
本発明では、インナーライナー層3のスプライス部5の少なくとも一部が、カーカス層1のスプライス部4と重なることが必要である。図1の例では、スプライス部5の全部がカーカス層1のスプライス部4に重なっている。この他に図2,3及び4に示すように、インナーライナー層3のスプライス部5の一部が、カーカス層1のスプライス部4と重なっていればよい。このようにスプライス部5の少なくとも一部が、カーカス層1のスプライス部4と重なることにより、インナーライナー層3のスプライス部5にかかる外力を低減し、スプライス部5にクラックや剥がれが起きるのを低減することができる。
【0018】
インナーライナー層3のスプライス部5のタイヤ周方向の長さ、すなわちスプライス量aは3mm以上、好ましくは3〜30mm、更に好ましくは5〜15mmである。スプライス量aが3mm未満であるとスプライス部5の接着力が不足しタイヤ製造時や走行時に剥離が起きることがある。またスプライス量aが30mmを超えると空気入りタイヤのユニフォミティーが悪化する。
【0019】
カーカス層1のスプライス部4のタイヤ周方向の長さ、すなわちスプライス量bは、好ましくは3〜50mm、更に好ましくは5〜20mmである。スプライス量bが3mm未満であるとスプライス部4の接着力が不足しタイヤ製造時や走行時に剥離が起きることがある。またスプライス量bが50mmを超えると空気入りタイヤのユニフォミティーが悪化する。またタイヤ重量が増加する。
【0020】
カーカス層1のスプライス部4のタイヤ周方向Rのスプライス量bは、インナーライナー層3のスプライス部5のスプライス量aより大きいことが好ましく、かつインナーライナー層3のスプライス部5の全部がカーカス層1のスプライス部4に重なっていることが好ましい。これによりインナーライナー層のスプライス部に作用する外力の緩和をより確実にすることができる。
【0021】
図5は、図1にその要部を模式的に示した空気入りタイヤを加硫成形した後の相当する部分の断面図である。このようにインナーライナー層3のスプライス部5がカーカス層1のスプライス部4に保護されるように覆われるため、カーカス層1のスプライス部4にかかる外力が緩和されタイヤ故障が起きるのを抑制することができる。
【0022】
本発明において、空気入りタイヤが、トレッド部を構成するトレッドゴムの両端部をタイヤ周方向に重ね合わせたスプライス部と、サイド部を構成するサイドゴムの両端部をタイヤ周方向に重ね合わせたスプライス部を有し、上述したカーカス層1のスプライス部4、トレッドゴムのスプライス部及びサイドゴムのスプライス部が、タイヤ周方向に均等に配置されていることが好ましい。カーカス層、トレッドゴム及びサイドゴムのそれぞれのスプライス部をタイヤ周方向に均等に配置することにより、空気入りタイヤのユニフォミティーを改良することができる。
【0023】
本発明において、インナーライナー層は、熱可塑性樹脂を主成分とする矩形フィルムで形成される。また熱可塑性樹脂を主成分とするフィルムとは、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー組成物から矩形に成形されたフィルムである。熱可塑性エラストマー組成物は熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分とをブレンドした組成物である。熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマー組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーに通常使用されるものを用いることができる。例えば、熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマー組成物の熱可塑性樹脂成分としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂などを例示することができる。熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分としては、例えば、ジエン系ゴム及びその水素添加物、オレフィン系ゴム、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム、熱可塑性エラストマーなどを例示することができる。熱可塑性エラストマー組成物における熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分との組成比は、フィルムの厚さや柔軟性のバランスで適宜決めればよいが、好ましい範囲は10/90〜90/10、更に好ましくは20/80〜85/15(重量比)である。
【0024】
熱可塑性エラストマー組成物には、上記熱可塑性樹脂成分及びエラストマー成分に加えて第三成分として、相溶化剤などの他のポリマー及び配合剤を混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分との相溶性を改良するため、材料のフィルム成形加工性を良くするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等であり、これに用いられる材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、SBS、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0025】
本発明において、カーカス層及びタイゴム層は、空気入りタイヤに通常用いられる構成を適用することができる。
【0026】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
タイヤサイズが195/65R15 91Hで、カーカス層、タイゴム層及びインナーライナー層の構成を共通にし、インナーライナー層及びカーカス層のスプライス部の重なりの有無、インナーライナー層のスプライス量a、カーカス層のスプライス量b及びカーカス層、トッレドゴム及びサイドゴムのスプライス部の均等配置の有無を、表1のように異ならせた8種類の空気入りタイヤ(実施例1〜6、比較例1〜2)を作製した。なお、インナーライナー層は、熱可塑性エラストマー組成物(ナイロン6/66共重合体及び臭素化ブチルゴムを(ナイロン6/66共重合体)/(臭素化ブチルゴム)=31/50の重量比で含むエラストマー組成物)からなる矩形フィルムで構成した。得られた8種類の空気入りタイヤの耐久性及びユニフォミティーをそれぞれ下記に示す方法で測定した。
【0028】
耐久性
空気入りタイヤをリム(サイズ15×6J)にリム組みし、空気圧120kPaにして、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機(ドラム径1707mm)にかけて、荷重7.24kN、速度81km/hの条件で80時間走行させた。試験後、インナーライナー層のスプライス部について、クラック及び剥がれの有無を目視評価した。評価結果を表1の「耐久性」の欄に示す。クラック及び剥がれがなければタイヤ走行時のタイヤ故障が抑制されたことを意味する。
【0029】
ユニフォミティー
空気入りタイヤをリム(サイズ15×6J)にリム組みし、JASO C−607−87に基づき、RFV(ラジアルフォースバリエーション)をn=10で評価した。得られた結果は、比較例1の空気入りタイヤの値を100にする指数にして表1の「ユニフォミティー」の欄に示した。この指数が大きいほどユニフォミティーが優れることを意味し、指数で5の相違が、ユニフォミティーの優劣に有意差があることを意味する。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜6の空気リタイヤは、クラック及び剥がれがなく、タイヤ故障が改善された。また、実施例1〜3の空気リタイヤは、ユニフォミティーを維持することが確認された。
【0032】
これに対し、比較例1及び2の空気入りタイヤでは、クラック及び剥がれか認められタイヤ故障が発生した。比較例2の空気入りタイヤは、インナーライナー層のスプライス量aが3mm未満であるためタイヤ故障を改良できなかった。
【符号の説明】
【0033】
1 カーカス層
1e カーカス層の周方向端部
2 タイゴム層
3 インナーライナー層
3e インナーライナー層の周方向端部
4 カーカス層のスプライス部
5 インナーライナー層のスプライス部
R タイヤ周方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向の両端部を重ね合わせてスプライスしたカーカス層と、該カーカス層のタイヤ径方向内側にタイゴム層を介し、その両端部をタイヤ周方向に重ね合わせてスプライスした熱可塑性樹脂を主成分とするインナーライナー層を有する空気入りタイヤであって、前記インナーライナー層のスプライス部がタイヤ周方向のスプライス量が3mm以上であり、かつ前記インナーライナー層のスプライス部の少なくとも一部が前記カーカス層のスプライス部と重なっていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記インナーライナー層のスプライス部が、前記インナーライナー層の両端部の間に前記タイゴム層を介して構成されることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記カーカス層のスプライス部のタイヤ周方向のスプライス量が、前記インナーライナー層のスプライス部のスプライス量より大きく、かつ前記インナーライナー層のスプライス部の全部が前記カーカス層のスプライス部に重なっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記インナーライナー層のスプライス部のスプライス量が3mm〜30mmであることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカス層のスプライス部のスプライス量が3mm〜50mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記空気入りタイヤが、トレッド部を構成するトレッドゴムの両端部をタイヤ周方向に重ね合わせたスプライス部と、サイド部を構成するサイドゴムの両端部をタイヤ周方向に重ね合わせたスプライス部を有し、前記カーカス層のスプライス部、トレッドゴムのスプライス部及びサイドゴムのスプライス部が、タイヤ周方向に均等に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−240658(P2012−240658A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116165(P2011−116165)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)