説明

空気入りタイヤ

【課題】相反するタイヤ性能を両立させるとともに、加工性を向上すること。
【解決手段】フィラーの配合量が異なる2種類のコンパウンドを、トレッド部2のトレッドゴムとしてタイヤ幅方向に並べて配置した空気入りタイヤ1において、フィラー量の多いコンパウンドのオイル量を、フィラー量の少ないコンパウンドに比べて少なく配合し、各コンパウンドに環状スルフィドを配合するとともに、オイル量に対する環状スルフィドの配合量を、フィラー量の多い前記コンパウンドで多くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、特に、相反するタイヤ性能を両立させるとともに、その加工性を向上させた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトレッドの特性は、タイヤ性能に大きな影響を与えるものである。そして、近年では、車両の高性能化に伴い、操縦安定性と転がり抵抗との関係や、耐摩耗性と乗り心地との関係など、相反する特性を高いレベルで両立させることが切望されている。このため、従来では、トレッドを特性が異なる複数のゴムコンパウンドを組み合わせて構成するようにしたマルチトレッドの空気入りタイヤが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の空気入りタイヤ(空気入りラジアルタイヤ)は、トレッドの中央域と両側ショルダー域とに硬度が異なる2種類のゴムコンパウンドを配置することにより、操縦安定性と低騒音性を両立させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−10308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の空気入りタイヤのように、タイヤ幅方向で硬度が異なる2種類のゴムコンパウンドを配置すると、製造時において押出加工性が悪くなる。具体的には、例えば、タイヤ幅方向の一方と他方とで硬度が異なるゴムコンパウンドを配置した場合、硬度が高いゴムコンパウンドは、硬度が低いゴムコンパウンドに比較して押出性が悪いため、硬度が高いゴムコンパウンド側に曲がってしまうことになる。この曲がりが顕著に生じると、押出後に製造ラインから外れてしまい、その後の加工ができなくなるおそれもある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、相反するタイヤ性能を両立させるとともに、加工性を向上することのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の空気入りタイヤは、フィラーの配合量が異なる2種類のコンパウンドを、トレッド部のトレッドゴムとしてタイヤ幅方向に並べて配置した空気入りタイヤにおいて、フィラー量の多いコンパウンドのオイル量を、フィラー量の少ないコンパウンドに比べて少なく配合し、各前記コンパウンドに環状スルフィドを配合するとともに、オイル量に対する前記環状スルフィドの配合量を、フィラー量の多い前記コンパウンドで多くすることを特徴とする。
【0008】
環状スルフィドは、熱可塑性の物質であり、加硫前は液状のオイルのような物質であるが、加硫後は架橋材として働く。このため、オイルのように加硫後の硬度を落とすことがなく、製造時において押出加工性を悪化させる事態を防ぐことが可能である。すなわち、硬度を高く保ちたいフィラー量の多いコンパウンドに対しては、オイル量を少なくするとともに、環状スルフィドの配合量を多くすることで、硬度を落とさずに加工性を向上させることができる。一方、硬度を低く保ちたいフィラー量の少ないコンパウンドに対しては、オイル量を多くするとともに、環状スルフィドの配合量を少なくすることで、硬度を高くせずに加工性を向上させることができる。この結果、この空気入りタイヤによれば、フィラーの配合量が異なる2種類のコンパウンドをタイヤ幅方向に並べて配置することで、相反するタイヤ性能を両立させることができ、かつオイル量に対する環状スルフィドの配合量をフィラー量の多いコンパウンドで多くすることで、加工性を向上することができる。
【0009】
また、本発明の空気入りタイヤは、フィラー量の多い前記コンパウンドへの前記環状スルフィドの配合量は、オイル量の5[%]以上とし、フィラー量の少ない前記コンパウンドへの前記環状スルフィドの配合量は、オイル量の5[%]未満とすることを特徴とする。
【0010】
硬度を高く保ちたいフィラー量の多いコンパウンドに対しては、オイル量を少なくするとともに、環状スルフィドの配合量を多くすることで、硬度を落とさずに加工性を向上させることができるが、オイル量に対して環状スルフィドの配合量が少なすぎると、その効果が得難い。一方、硬度を低く保ちたいフィラー量の少ないコンパウンドに対しては、オイル量を多くするとともに、環状スルフィドの配合量を少なくすることで、硬度を高くせずに加工性を向上させることができるが、オイル量に対して環状スルフィドの配合量が多すぎると、その効果が得難い。従って、この空気入りタイヤによれば、フィラー量の多いコンパウンドへの環状スルフィドの配合量をオイル量の5[%]以上とし、フィラー量の少ないコンパウンドへの環状スルフィドの配合量をオイル量の5[%]未満とすることで、上記効果を顕著に得ることができる。
【0011】
また、本発明の空気入りタイヤは、各前記コンパウンドの前記環状スルフィドの配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.2重量部以上5重量部以下の範囲とすることを特徴とする。
【0012】
高速走行時でのコンパウンドの熱だれによる性能低下を抑制するには、環状スルフィドの配合量をゴム成分100重量部に対して0.2重量部以上とすることが好ましい。一方、環状スルフィドを多量に配合すると、加硫速度が遅くなり生産性が悪化する傾向となるため、環状スルフィドの配合量をゴム成分100重量部に対して5重量部以下とすることが好ましい。従って、この空気入りタイヤによれば、高速走行時での性能低下を抑制しつつ、生産性を維持することができる。
【0013】
また、本発明の空気入りタイヤは、車両に装着した場合、前記車両の内側および外側に対する向きが指定されており、車両外側に配置される前記コンパウンドの硬度を、車両内側に配置される前記コンパウンドの硬度よりも高くすることを特徴とする。
【0014】
操縦安定性を向上するためには、コーナリング時で荷重の掛かる車両外側のトレッド剛性を高めるようにコンパウンドの硬度が高い方が有利であり、乗り心地性を向上するためには、車両内側のコンパウンドの硬度が低い方が有利である。従って、この空気入りタイヤによれば、操縦安定性と乗り心地性との相反するタイヤ性能を両立させることができる。
【0015】
また、本発明の空気入りタイヤは、車両に装着した場合、前記車両の内側および外側に対する向きが指定されており、車両外側に配置される前記コンパウンドの硬度を、車両内側に配置される前記コンパウンドの硬度よりも低くすることを特徴とする。
【0016】
タイヤ性能として、乗り心地性を向上するためには、車両外側のコンパウンドの硬度が低い方が有利であり、耐摩耗性を向上するためには、車両内側のコンパウンドの硬度が高い方が有利である。従って、この空気入りタイヤによれば、乗り心地性と耐摩耗性との相反するタイヤ性能を両立させることができる。
【0017】
また、本発明の空気入りタイヤは、車両に装着した場合、前記車両の内側および外側に対する向きが指定されており、車両外側に配置される前記コンパウンドの60℃における損失正接tanδを、車両内側に配置される前記コンパウンドの60℃における損失正接tanδよりも高くすることを特徴とする。
【0018】
タイヤ性能として、操縦安定性を向上するためには、コーナリング時にグリップ性が要求されるため、車両外側のコンパウンドの60℃における損失正接tanδが高い方が有利であり、低転がり抵抗性を向上するためには、車両内側のコンパウンドの60℃における損失正接tanδが低い方が有利である。従って、この空気入りタイヤによれば、操縦安定性と低転がり抵抗性との相反するタイヤ性能を両立させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る空気入りタイヤは、相反するタイヤ性能を両立させるとともに、加工性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤの一部裁断子午断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【図3】図3は、本発明の実施例2に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る空気入りタイヤの一部裁断子午断面図である。
【0023】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施の形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0024】
本実施の形態の空気入りタイヤ1は、図1に示すように、トレッド部2を有している。トレッド部2は、ゴム材(トレッドゴム)からなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。このトレッド部2の表面は、空気入りタイヤ1を装着する車両(図示せず)が走行した際に路面と接触する面であるトレッド面21として形成されている。
【0025】
トレッド面21は、複数の溝により陸部が形成されている。その一例として、本実施の形態の空気入りタイヤ1では、トレッド面21は、図1に示すように、タイヤ周方向に沿って延在する複数の縦溝22が設けられている。本実施の形態における縦溝22は、トレッド面21に4本設けられた周方向主溝であり、図には明示しないが周方向主溝よりも細幅の周方向細溝を含む。そして、トレッド面21は、複数の周方向主溝22により、タイヤ周方向に沿って延び、タイヤ赤道線CLと平行なリブ状の陸部23が複数形成されている。本実施の形態における陸部23は、周方向主溝22を境にしてトレッド面21に5本設けられている。
【0026】
また、トレッド面21は、図には明示しないが、各陸部23について、周方向主溝22に交差する横溝が設けられていてもよい。かかる横溝は、ラグ溝やサイプを含む。
【0027】
また、本実施の形態に係る空気入りタイヤ1は、カーカス層6と、ベルト層7とを備えている。
【0028】
カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア(図示せず)でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6は、タイヤ周方向に対する角度が90度(±5度)でタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向に複数並設されたカーカスコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。カーカスコードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンやアラミドなど)からなる。このカーカス層6は、図1に示すように、本実施の形態では1層で設けられているが、1層以上で設けられていてもよい。
【0029】
ベルト層7は、少なくとも2層のベルト71,72を積層した多層構造をなし、トレッド部2においてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト71,72は、タイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、20度〜30度)で複数並設されたコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンやアラミドなど)からなる。また、重なり合うベルト71,72は、互いのコードが交差するように配置されている。
【0030】
また、空気入りタイヤ1は、トレッド部2におけるトレッド面21をなすトレッドゴム(図1において斜線部分で示す)が、フィラーの配合量が異なる2種類のコンパウンドを、タイヤ幅方向に並べて配置して構成されている。フィラーは、例えば、カーボンブラックやシリカなどの無機材料の粒子である。なお、図1では、各コンパウンドは、タイヤ赤道面CLを境にタイヤ幅方向に並べて配置して示されているが、タイヤ赤道面CLを境とせずにタイヤ幅方向に並べて配置されていてもよい。
【0031】
なお、トレッド部2のトレッドゴムは、図には明示しないが、トレッド面21を構成するキャップトレッドゴムと、キャップトレッドゴムのタイヤ径方向内側であってベルト層7側に配置されたアンダートレッドゴムとがある。そして、フィラーの配合量が異なる2種類のコンパウンドを、タイヤ幅方向に並べて配置するにあたり、キャップトレッドゴムのみに対して2種類のコンパウンドをタイヤ幅方向に並べて配置しても、キャップトレッドおよびアンダートレッドゴムに対して2種類のコンパウンドをタイヤ幅方向に並べて配置してもよい。
【0032】
本実施の形態の空気入りタイヤ1は、上記のごとく構成された空気入りタイヤ1において、フィラー量の多いコンパウンドのオイル量を、フィラー量の少ないコンパウンドに比べて少なく配合する。さらに、各コンパウンドに環状スルフィドを配合する。そして、オイル量に対する環状スルフィドの配合量を、フィラー量の多いコンパウンドで多くする。
【0033】
ここで、環状スルフィドは、下記式(1)で示されるものである。
【0034】
【化1】

【0035】
上記式(1)において、Rは置換あるいは非置換の炭素数2〜20のアルキレン基、置換あるいは非置換の炭素数2〜20のオキシアルキレン基、または芳香族環を含むアルキレン基であり、xは3以下の数であり、nは1〜20の整数である。
【0036】
環状スルフィドは、熱可塑性の物質であり、加硫前は液状のオイルのような物質であるが、加硫後は架橋材として働く。このため、オイルのように加硫後の硬度を落とすことがなく、製造時において押出加工性を悪化させる事態を防ぐことが可能である。すなわち、硬度を高く保ちたいフィラー量の多いコンパウンドに対しては、オイル量を少なくするとともに、環状スルフィドの配合量を多くすることで、硬度を落とさずに加工性を向上させることができる。一方、硬度を低く保ちたいフィラー量の少ないコンパウンドに対しては、オイル量を多くするとともに、環状スルフィドの配合量を少なくすることで、硬度を高くせずに加工性を向上させることができる。この結果、この空気入りタイヤ1によれば、フィラーの配合量が異なる2種類のコンパウンドをタイヤ幅方向に並べて配置することで、相反するタイヤ性能を両立させることが可能になり、かつオイル量に対する環状スルフィドの配合量をフィラー量の多いコンパウンドで多くすることで、加工性を向上することが可能になる。
【0037】
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、フィラー量の多いコンパウンドへの環状スルフィドの配合量は、オイル量の5[%]以上とし、フィラー量の少ないコンパウンドへの環状スルフィドの配合量は、オイル量の5[%]未満とすることが好ましい。
【0038】
硬度を高く保ちたいフィラー量の多いコンパウンドに対しては、オイル量を少なくするとともに、環状スルフィドの配合量を多くすることで、硬度を落とさずに加工性を向上させることができるが、オイル量に対して環状スルフィドの配合量が少なすぎると、その効果が得難い。一方、硬度を低く保ちたいフィラー量の少ないコンパウンドに対しては、オイル量を多くするとともに、環状スルフィドの配合量を少なくすることで、硬度を高くせずに加工性を向上させることができるが、オイル量に対して環状スルフィドの配合量が多すぎると、その効果が得難い。従って、この空気入りタイヤ1によれば、フィラー量の多いコンパウンドへの環状スルフィドの配合量をオイル量の5[%]以上とし、フィラー量の少ないコンパウンドへの環状スルフィドの配合量をオイル量の5[%]未満とすることで、上記効果を顕著に得ることが可能になる。
【0039】
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、各コンパウンドの環状スルフィドの配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.2重量部以上5重量部以下の範囲とすることが好ましい。
【0040】
高速走行時でのコンパウンドの熱だれによる性能低下を抑制するには、環状スルフィドの配合量をゴム成分100重量部に対して0.2重量部以上とすることが好ましい。一方、環状スルフィドを多量に配合すると、加硫速度が遅くなり生産性が悪化する傾向となるため、環状スルフィドの配合量をゴム成分100重量部に対して5重量部以下とすることが好ましい。従って、この空気入りタイヤ1によれば、高速走行時での性能低下を抑制しつつ、生産性を維持することが可能になる。
【0041】
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、車両に装着した場合、車両の内側および外側に対する向きが指定されている。向きの指定は、図には明示しないが、例えば、タイヤ側面となるサイドウォール部に設けられた指標により示される。以下、車両に装着した場合に車両の内側に向く側を車両内側、車両の外側に向く側を車両外側という。なお、車両内側および車両外側の指定は、車両に装着した場合に限らない。例えば、リム組みした場合に、タイヤ幅方向において、車両の内側および外側に対するリムの向きが決まっている。このため、空気入りタイヤ1は、リム組みした場合、タイヤ幅方向において、車両の内側(車両内側)および外側(車両外側)に対する向きが指定されていてもよい。そして、車両外側に配置されるコンパウンドの硬度(JIS−A硬度)を、車両内側に配置されるコンパウンドの硬度(JIS−A硬度)よりも高くする。
【0042】
タイヤ性能として、操縦安定性を向上するためには、コーナリング時で荷重の掛かる車両外側のトレッド剛性を高めるようにコンパウンドの硬度が高い方が有利であり、乗り心地性を向上するためには、車両内側のコンパウンドの硬度が低い方が有利である。従って、この空気入りタイヤ1によれば、操縦安定性と乗り心地性との相反するタイヤ性能を両立させることが可能になる。
【0043】
なお、加工性を考慮した場合、各コンパウンドの硬度の差が10以内にあることが好ましい。また、高速走行時での操縦安定性において、グリップ性や乗り心地性などを考慮した場合、各コンパウンドの硬度が65以上85以下の範囲にあることが好ましい。
【0044】
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、車両に装着した場合、車両の内側および外側に対する向きが指定されており、車両外側に配置されるコンパウンドの硬度を、車両内側に配置されるコンパウンドの硬度よりも低くすることが好ましい。
【0045】
タイヤ性能として、乗り心地性を向上するためには、車両外側のコンパウンドの硬度が低い方が有利であり、耐摩耗性を向上するためには、車両内側のコンパウンドの硬度が高い方が有利である。従って、この空気入りタイヤ1によれば、乗り心地性と耐摩耗性との相反するタイヤ性能を両立させることが可能になる。
【0046】
なお、加工性を考慮した場合、各コンパウンドの硬度の差が10以内にあることが好ましい。また、高速走行時での操縦安定性において、グリップ性や乗り心地性などを考慮した場合、各コンパウンドの硬度が65以上85以下の範囲にあることが好ましい。硬度は、JIS K 6253に記載の様に、 デュロメータ硬さ試験機 タイプAを用いて20[℃]で試験する。
【0047】
また、本実施の形態の空気入りタイヤ1は、車両に装着した場合、車両の内側および外側に対する向きが指定されており、車両外側に配置されるコンパウンドの60℃における損失正接tanδを、車両内側に配置されるコンパウンドの60℃における損失正接tanδよりも高くすることが好ましい。
【0048】
タイヤ性能として、操縦安定性を向上するためには、コーナリング時にグリップ性が要求されるため、車両外側のコンパウンドの60℃における損失正接tanδが高い方が有利であり、低転がり抵抗性を向上するためには、車両内側のコンパウンドの60℃における損失正接tanδが低い方が有利である。従って、この空気入りタイヤ1によれば、操縦安定性と低転がり抵抗性との相反するタイヤ性能を両立させることが可能になる。
【0049】
なお、操縦安定性と低転がり抵抗性とのバランスを考慮した場合、高い損失正接tanδ(H)と低い損失正接tanδ(L)との関係を1.05≦H/L≦1.80の範囲とすることが好ましく、さらに1.10≦H/L≦1.50の範囲とすることがより好ましい。H/Lが小さすぎると転がり抵抗性の向上効果が得難くなり、H/Lが大きすぎるとグリップ性の向上効果が得難くなる。損失正接tanδは、JIS K 6394に記載の様に、粘弾性スペクトロメーターを使用して、周波数20[Hz]、初期歪み10[%]、動歪み±2[%]、温度60[℃]の条件で試験する。
【実施例】
【0050】
[実施例1]
本実施例では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、押出加工性、転がり抵抗性、操縦安定性、および乗り心地に関する試験が行われた(図2参照)。
【0051】
この試験では、タイヤサイズ255/40R19の空気入りタイヤを対象とした。
【0052】
押出加工性の試験では、上記試験タイヤを製造するにあたり、トレッドゴムを押出成型機により押し出した際の曲がり具合を観察し、製造ライン上に沿って押し出された場合を「○」とし、曲がりはあるが製造ライン上から外れていない場合を「△」とし、曲がりがあって製造ライン上から外れた場合を「×」とする三段階の評価が行われる。
【0053】
転がり抵抗性の試験では、上記試験タイヤを正規リムに組み付け、内圧250[kPa]を充填し、正規荷重の70[%]を加え、ドラム径1707[mm]のドラム式転がり抵抗試験機にて、速度80[km/h]での転がり抵抗が測定される。そして、この測定結果に基づいて従来例1の空気入りタイヤを基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、指数が小さいほど、転がり抵抗が減少していることを示している。
【0054】
操縦安定性の試験では、上記試験タイヤを正規リムに組み付け、正規内圧を充填し、試験車両(3000[cc]セダン)に装着した。そして、この試験車両にて乾燥試験路を走行し、0[km/h]〜200[km/h]の速度レンジで、レーンチェンジ時およびコーナリング時における操舵性ならびに直進時における安定性について、5人のテストドライバーによる5段階の官能評価の平均値によって行った。そして、この官能評価に基づいて従来例1の空気入りタイヤを基準(3)とした評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど、操縦安定性が優れていることを示している。
【0055】
乗り心地性の試験では、上記試験タイヤを正規リムに組み付け、正規内圧を充填し、試験車両(3000[cc]セダン)に装着した。そして、この試験車両にて凹凸を有する直線テストコースを50[km/h]で走行した乗り心地性について、5人のテストドライバーによる5段階の官能評価の平均値によって行った。そして、この官能評価に基づいて従来例1の空気入りタイヤを基準(3)とした評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど、乗り心地性が優れていることを示している。
【0056】
ここで、正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。また、正規荷重とは、JATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
【0057】
図2に示すように、従来例1の空気入りタイヤは、タイヤ幅方向でトレッドゴムのフィラー配合量およびオイル量を異ならせているが、フィラー量の多いコンパウンドのオイル量をフィラー量の少ないコンパウンドに比べて多く配合し、かつ環状スルフィドを配合していない。
【0058】
一方、図2に示すように、実施例1〜実施例5の空気入りタイヤは、タイヤ幅方向でトレッドゴムのフィラー配合量を異ならせており、フィラー量の多いコンパウンドのオイル量を、フィラー量の少ないコンパウンドに比べて少なく配合し、かつ各コンパウンドに環状スルフィドを配合するとともに、オイル量に対する環状スルフィドの配合量を、フィラー量の多い前記コンパウンドで多くしている。また、実施例1〜実施例5の空気入りタイヤは、車両外側のトレッドゴムのフィラー配合量を、車両内側よりも多くしている。
【0059】
図2の試験結果に示すように、実施例1〜実施例5の空気入りタイヤは、それぞれ押出加工性、転がり抵抗性、操縦安定性、および乗り心地性が改善されていることから、相反するタイヤ性能が両立されているとともに、加工性が向上されていることが分かる。
【0060】
[実施例2]
本実施例では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、押出加工性、耐摩耗性、および乗り心地に関する試験が行われた(図3参照)。
【0061】
この試験では、タイヤサイズ255/40R19の空気入りタイヤを対象とした。
【0062】
押出加工性の試験では、上記試験タイヤを製造するにあたり、トレッドゴムを押出成型機により押し出した際の曲がり具合を観察し、製造ライン上に沿って押し出された場合を「○」とし、曲がりはあるが製造ライン上から外れていない場合を「△」とし、曲がりがあって製造ライン上から外れた場合を「×」とする三段階の評価が行われる。
【0063】
耐摩耗性の試験では、上記試験タイヤを正規リムに組み付け、正規内圧を充填し、試験車両(3000[cc]セダン)に装着した。そして、この試験車両にて乾燥路面を1万[km]走行したときの周方向主溝の最大溝深さ位置の残溝量(溝深さ)が測定される。そして、この測定結果に基づいて、従来例2の空気入りタイヤを基準(100)とした指数評価が行われる。この指数評価は、数値が大きいほど耐摩耗性が優れていることを示している。
【0064】
乗り心地性の試験では、上記試験タイヤを正規リムに組み付け、正規内圧を充填し、試験車両(3000[cc]セダン)に装着した。そして、この試験車両にて凹凸を有する直線テストコースを50[km/h]で走行した乗り心地性について、5人のテストドライバーによる5段階の官能評価の平均値によって行った。そして、この官能評価に基づいて従来例2の空気入りタイヤを基準(3)とした評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど、乗り心地性が優れていることを示している。
【0065】
図3に示すように、従来例2の空気入りタイヤは、タイヤ幅方向でトレッドゴムのフィラー配合量を異ならせているが、フィラー量の多いコンパウンドのオイル量を、フィラー量の少ないコンパウンドに比べて多く配合し、かつ環状スルフィドを配合していない。
【0066】
一方、図3に示すように、実施例6〜実施例10の空気入りタイヤは、タイヤ幅方向でトレッドゴムのフィラー配合量を異ならせており、フィラー量の多いコンパウンドのオイル量を、フィラー量の少ないコンパウンドに比べて少なく配合し、かつ各コンパウンドに環状スルフィドを配合するとともに、オイル量に対する環状スルフィドの配合量を、フィラー量の多い前記コンパウンドで多くしている。また、実施例6〜実施例10の空気入りタイヤは、車両内側のトレッドゴムのフィラー配合量を、車両外側よりも多くしている。
【0067】
図3の試験結果に示すように、実施例6〜実施例10の空気入りタイヤは、それぞれ押出加工性、耐摩耗性、および乗り心地性が改善されていることから、相反するタイヤ性能が両立されているとともに、加工性が向上されていることが分かる。
【符号の説明】
【0068】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
21 トレッド面
22 縦溝(周方向主溝)
23 陸部
6 カーカス層
7 ベルト層
71,72 ベルト
CL タイヤ赤道面(タイヤ赤道線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラーの配合量が異なる2種類のコンパウンドを、トレッド部のトレッドゴムとしてタイヤ幅方向に並べて配置した空気入りタイヤにおいて、
フィラー量の多いコンパウンドのオイル量を、フィラー量の少ないコンパウンドに比べて少なく配合し、
各前記コンパウンドに環状スルフィドを配合するとともに、オイル量に対する前記環状スルフィドの配合量を、フィラー量の多い前記コンパウンドで多くすることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
フィラー量の多い前記コンパウンドへの前記環状スルフィドの配合量は、オイル量の5[%]以上とし、フィラー量の少ない前記コンパウンドへの前記環状スルフィドの配合量は、オイル量の5[%]未満とすることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
各前記コンパウンドの前記環状スルフィドの配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.2重量部以上5重量部以下の範囲とすることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
車両に装着した場合、前記車両の内側および外側に対する向きが指定されており、車両外側に配置される前記コンパウンドの硬度を、車両内側に配置される前記コンパウンドの硬度よりも高くすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
車両に装着した場合、前記車両の内側および外側に対する向きが指定されており、車両外側に配置される前記コンパウンドの硬度を、車両内側に配置される前記コンパウンドの硬度よりも低くすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
車両に装着した場合、前記車両の内側および外側に対する向きが指定されており、車両外側に配置される前記コンパウンドの60℃における損失正接tanδを、車両内側に配置される前記コンパウンドの60℃における損失正接tanδよりも高くすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−1341(P2013−1341A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137142(P2011−137142)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】