説明

空気入りタイヤ

【課題】耐久性に優れた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】サイドウォール及びケースを有する空気入りタイヤであって、サイドウォールが、ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量が30〜70質量%で、ゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量が1.29質量部を超え2.30質量部未満であるサイドウォール用ゴム組成物からなり、ケースが、スチールコードをスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量が下記関係式を満たす空気入りタイヤに関する。
2.70<(スチールコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)−(サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)<4.20

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、路面と接するトレッド以外にもサイドウォール、ケース等様々な部材により構成されている。従来、各部材に使用されるゴム組成物の配合設計においては、それぞれの部材のゴム組成物ごとにラボ試験を行い、それぞれの部材ごとに最も良好なゴム組成物を設計していた(例えば、特許文献1〜3)。そして、このラボ試験の評価結果に基づいて、それぞれの最も良好なゴム組成物で構成された各部材を組み合わせて空気入りタイヤを作製していた。しかし、作製した空気入りタイヤの耐久性が、ゴム配合物単独のラボ加硫・ラボ試験の結果から期待される耐久性よりも低くなる場合が多いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4308289号公報
【特許文献2】特開2008−24913号公報
【特許文献3】特許第4246245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、耐久性に優れた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、加硫中やタイヤの使用中に硫黄が部材間で移動し、この硫黄の移動により各部材において物性の変化が生じ、結果として、作製した空気入りタイヤの耐久性が、ラボ試験の結果から期待される耐久性よりも低くなるとの仮説に想到した。
そして、ケースに使用されるスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の移動に着目し、スチールコード被覆用ゴム組成物と、ケースの隣接部材であるサイドウォールに使用されるサイドウォール用ゴム組成物の硫黄の含有量が特定の関係式を満たすことにより、作製した空気入りタイヤの耐久性が非常に優れていることを見出し、更に、サイドウォール特有の期待性能に合わせて硫黄量を定めて、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、サイドウォール及びケースを有する空気入りタイヤであって、サイドウォールが、ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量が30〜70質量%で、ゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量が1.29質量部を超え2.30質量部未満であるサイドウォール用ゴム組成物からなり、ケースが、スチールコードをスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量が下記関係式を満たす空気入りタイヤに関する。
2.70<(スチールコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)−(サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)<4.20
【0007】
サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量が下記関係式を満たすことが好ましい。
2.80<(スチールコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)−(サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)<3.70
【0008】
加硫金型温度、又は、加硫機のスチーム充填温度が130〜158℃であることが好ましい。
【0009】
サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量%中の天然ゴム、イソプレンゴム、液状イソプレンゴム、及びスチレンブタジエンゴムの合計含有量が30〜70質量%であることが好ましい。
【0010】
サイドウォール用ゴム組成物が、ブタジエンゴムとして、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0011】
サイドウォール用ゴム組成物の加硫促進剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、0.3〜0.8質量部であることが好ましい。
【0012】
上記空気入りタイヤが、重荷重用タイヤであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サイドウォール及びケースを有する空気入りタイヤであって、サイドウォールが、特定量のブタジエンゴム、硫黄を含むサイドウォール用ゴム組成物からなり、ケースが、スチールコードをスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量が特定の関係式を満たす空気入りタイヤであるので、耐久性に優れている。また、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びも同時に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、サイドウォール部周辺を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の空気入りタイヤは、サイドウォール及びケースを有し、サイドウォールが、ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量が30〜70質量%で、ゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量が1.29質量部を超え2.30質量部未満であるサイドウォール用ゴム組成物からなり、ケースが、スチールコードをスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量が下記関係式を満たす。なお、本明細書において、スチールコード被覆用ゴム組成物、サイドウォール用ゴム組成物に含まれる薬品の含有量は、全て加硫前のゴム組成物における含有量を意味する。すなわち、スチールコード被覆用ゴム組成物、サイドウォール用ゴム組成物に含まれる薬品の含有量は、スチールコード被覆用未加硫ゴム組成物、サイドウォール用未加硫ゴム組成物に含まれる薬品の理論含有量を意味する。ここで、理論含有量とは、未加硫ゴム組成物を調製する際に、投入した薬品の量を意味する。
2.70<(スチールコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)−(サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)<4.20
【0016】
ケースは、一般的に、繊維コードを繊維コード被覆用ゴム組成物で被覆された部材により構成される。しかし、トラック・バス用タイヤ、産業用タイヤ等の重荷重用タイヤでは、ケースとして、スチールコードをスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆された部材が使用される。そして、スチールコードのメッキ層にスチールコード被覆用ゴムが結合するのに必要な硫黄量は、繊維コードに繊維コード被覆ゴムが結合するのに必要な硫黄量の約1.5倍以上の硫黄が必要であるため、本発明の空気入りタイヤのように、ケースが、スチールコードをスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆された部材の場合、ケースとサイドウォールとの間の硫黄の濃度差が大きくなりやすい。
この濃度差を小さくするために、サイドウォールの硫黄量を増量しすぎると、熱老化後の破断時伸びが低下し、疲労により割れが生じやすくなり、耐久性が低下する。一方、サイドウォールの硫黄量が少ないと、ケースとの硫黄の濃度差が大きくなり、ケースの硫黄がサイドウォールに移行する。図1では、硫黄量が多いケースから硫黄量が少ないサイドウォールへ硫黄が移行する様子、及び硫黄の移行により予測される硫黄の分布を模式的に示している。この硫黄の予測分布図のように、サイドウォールゴム中において硫黄の濃度勾配が生じており、ケースとの境界部分が最も硫黄量が多く、ケースとの境界部分から、サイドウォールのタイヤ軸方向の幅の中央部分にかけて硫黄量が徐々に減少し、該中央部分付近で硫黄量が最も低くなっており、ブルームにより、サイドウォール表面にかけて再び硫黄量が徐々に増加するものと推測される。なお、乗用車用タイヤに比べて加硫温度は低いものの、タイヤのゲージが厚く、長時間加硫が行われやすい重荷重用タイヤでも、硫黄の移行が顕著になる。一方、良好な空気透過性を期待されるインナーライナーには、好んで、ハロゲン化ブチルゴムが使用される。このハロゲン化ブチルゴムは、ポリマー形態がタイトであるため、極性の強い硫黄元素を、ジエン系ゴムほど受け入れないため、ケースからインナーライナー方向への硫黄の移行はほとんど起こらないものと推測される。
【0017】
ケースからサイドウォールへの硫黄の移動が進むと、サイドウォールゴムの架橋密度が増大し、サイドウォールゴムの耐亀裂成長性、破断時伸びが大幅に悪化し、更に、ケースをコーティングするディップ表面でセパレーションが生じやすくなり、耐久性が大幅に悪化してしまう。更に、加硫中やタイヤの使用中に、サイドウォールゴム表面の硫黄量がサイドウォールゴム内部の硫黄量よりも多くなり、サイドウォールゴム表面に硬い層が形成されてしまい、耐亀裂成長性が低下し、耐久性が低下する。
一方、上記移動により、硫黄が減少することとなるケースでは、スチールコード周辺の硫黄濃度が低下し、スチールコードのメッキ層とスチールコード被覆用ゴム間の硫黄の再結合に働く硫黄が不足し、接着性ひいては耐久性が低下してしまう。
逆に、サイドウォールからケースへ硫黄が移動する場合、移動量が多いとサイドウォールの硬度(Hs)が低下し、操縦安定性が低下する。そして、ケースでは、硫黄量が増加し、スチールコードとの接着性は良くなるものの、ケースの柔軟性が低下し、疲労により割れが生じやすくなり、耐久性が低下する。
【0018】
それに対して、本発明では、サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量が上記関係式を満たすと共に、サイドウォール用ゴム組成物に特定量のブタジエンゴム、硫黄が含まれているため、硫黄の移動を抑制して硫黄の移動量を適度な量に調整でき、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られる。
【0019】
本発明の空気入りタイヤは、サイドウォール及びケースを有する。
ケースとは、スチールコード及びスチールコード被覆ゴム層からなる部材であり、カーカスともいう。具体的には、例えば、特開2010−043180号公報の図1等に示される部材である。
サイドウォールとは、ケースの外側に配された部材であり、具体的には、例えば、特開2010−043180号公報の図1等に示される部材である。
【0020】
本発明において、サイドウォールは、サイドウォール用ゴム組成物からなり、ケースは、スチールコードをスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなる。
【0021】
本発明において、サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量は、下記関係式を満たす。これにより、空気入りタイヤの耐久性を好適に向上できる。なお、2.70以下の場合、スチールコードとスチールコード被覆用ゴムとの接着性が低下し、耐久性が低下する。また、4.20以上の場合、サイドウォール(特に、サイドウォール表層)の架橋密度が増加し、耐亀裂成長性が低下し、耐久性が低下する。
2.70<(スチールコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)−(サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)<4.20
なお、本明細書において、硫黄の含有量とは、ゴム組成物に配合される加硫剤の純硫黄分の合計含有量を意味する。ここで、純硫黄分とは、例えば、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合には、オイル含有硫黄に含まれる硫黄分を意味し、また、加硫剤として、硫黄原子を含有する化合物(例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物)を使用する場合には、該化合物中に含まれる硫黄元素分を意味する。
【0022】
上記関係式の下限は、2.80が好ましい。
上記関係式の上限は、3.70が好ましく、3.55がより好ましく、3.40が更に好ましい。
【0023】
次に、本発明において使用されるサイドウォール用ゴム組成物、スチールコード被覆用ゴム組成物について説明する。
【0024】
(サイドウォール用ゴム組成物)
サイドウォール用ゴム組成物に使用できる加硫剤としては、特に限定されないが、硫黄、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物等を好適に使用できる。加硫剤としては、硫黄が好ましい。
【0025】
硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。
【0026】
サイドウォール用ゴム組成物において、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1.29質量部を超え、好ましくは1.40質量部を超え、より好ましくは1.50質量部を超え、更に好ましくは1.60質量部を超える。1.29質量部以下では、ケースからの硫黄の流入量が多くなり、サイドウォールゴムの耐亀裂成長性、破断時伸び、低燃費性が大幅に悪化し、更に、ケースと接するディップ表面でセパレーションが生じやすくなり、耐久性が大幅に悪化する。また、充分な操縦安定性が得られない。更に、ケースの硫黄が不足し、スチールコードとの接着性が低下し、耐久性が低下する。また、該含有量は、2.30質量部未満、好ましくは2.20質量部未満である。2.30質量部以上では、破断時伸び(特に、熱老化後の破断時伸び)、耐亀裂成長性が悪化し、耐久性が悪化する。
【0027】
サイドウォール用ゴム組成物には、ブタジエンゴム(BR)が使用される。BRとしては、特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等の1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBR、Polimeri Europa社製のEuroprene BR HV80等の高ビニル含量のBR、希土類元素系触媒を用いて合成されたBR(希土類系BR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)も使用できる。
なかでも、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、シス含有量が95質量%以上の高シス含有量のBR、希土類系BR、SPBを含むBRが好ましく、SPBを含むBRがより好ましい。
【0028】
希土類系BRの合成に使用される希土類元素系触媒としては、公知のものを使用でき、例えば、ランタン系列希土類元素化合物、有機アルミニウム化合物、アルミノキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じてルイス塩基を含む触媒が挙げられる。なかでも、ランタン系列希土類元素化合物としてネオジム(Nd)含有化合物を用いたNd系触媒が特に好ましい。
【0029】
ランタン系列希土類元素化合物としては、原子番号57〜71の希土類金属のハロゲン化物、カルボン酸塩、アルコラート、チオアルコラート、アミド等が挙げられる。なかでも、前述のとおり、Nd系触媒の使用が高シス含量、低ビニル含量のBRが得られる点で好ましい。
【0030】
有機アルミニウム化合物としては、AlR(式中、R、R、Rは、同一若しくは異なって、水素又は炭素数1〜8の炭化水素基を表す。)で表されるものを使用できる。アルミノキサンとしては、鎖状アルミノキサン、環状アルミノキサンが挙げられる。ハロゲン含有化合物としては、AlX3−k(式中、Xはハロゲン、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基又はアラルキル基、kは1、1.5、2又は3を表す。)で表されるハロゲン化アルミニウム;MeSrCl、MeSrCl、MeSrHCl、MeSrClなどのストロンチウムハライド;四塩化ケイ素、四塩化錫、四塩化チタン等の金属ハロゲン化物が挙げられる。ルイス塩基は、ランタン系列希土類元素化合物を錯体化するのに用いられ、アセチルアセトン、ケトン、アルコール等が好適に用いられる。
【0031】
上記希土類元素系触媒は、ブタジエンの重合の際に、有機溶媒(n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、ベンゼン等)に溶解した状態で用いても、シリカ、マグネシア、塩化マグネシウム等の適当な担体上に担持させて用いてもよい。重合条件としては、溶液重合又は塊状重合のいずれでもよく、好ましい重合温度は−30〜150℃であり、重合圧力は他の条件に依存して任意に選択してもよい。
【0032】
上記希土類系BRは、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上である。1.2未満であると、加工性の悪化が顕著になる傾向がある。該Mw/Mnは、好ましくは5以下、より好ましくは4以下である。5を超えると、耐摩耗性の改善効果が少なくなる傾向がある。
【0033】
上記希土類系BRのMwは、好ましくは30万以上、より好ましくは50万以上であり、また、好ましくは150万以下、より好ましくは120万以下である。更に、上記希土類系BRのMnは、好ましくは10万以上、より好ましくは15万以上であり、また、好ましくは100万以下、より好ましくは80万以下である。MwやMnが下限未満であると、耐摩耗性が低下したり、低燃費性が悪化する傾向がある。上限を超えると、加工性の悪化が懸念される。
なお、本発明において、Mw、Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレンより換算した値である。
【0034】
上記希土類系BRのシス含量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。90質量%未満であると、耐摩耗性、低燃費性が低下するおそれがある。
【0035】
上記希土類系BRのビニル含量は、好ましくは1.8質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下である。1.8質量%を超えると、耐摩耗性が低下するおそれがある。
なお、本発明において、希土類系BRのビニル含量(1,2−結合ブタジエン単位量)及びシス含量(シス−1,4−結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0036】
SPB含有BRはタイヤ工業において汎用されているものを使用でき、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶がBRと化学結合し、分散しているものが好ましい。含まれる1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、押し出し方向に整列することにより、タイヤ周方向の充分な複素弾性率が得られ、剛性を向上できる。これにより、良好な操縦安定性が得られる。また、亀裂の成長をSPB含有BRの島構造が好適に抑制し、優れた耐亀裂成長性も得られ、耐久性を好適に向上できる。
【0037】
1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶の融点は、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上である。180℃未満では、ゴム練り時に1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶が融解し、剛性が低下するおそれがある。また、該融点は、好ましくは220℃以下、より好ましくは210℃以下である。220℃を超えると、ゴム組成物中での分散性が悪化する傾向がある。
【0038】
SPB含有BR中において、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶の含有量は、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。2.5質量%未満では、耐久性を充分に向上できないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。20質量%を超えると、SPB含有BRがゴム組成物中に分散しにくくなり、耐久性が低下する傾向がある。
【0039】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、30質量%以上である。30質量%未満では、充分な操縦安定性、低燃費性、熱老化後の破断時伸び、耐久性が得られない。該BRの含有量は、70質量%以下、好ましくは50質量%以下である。70質量%を超えると、充分な破断時伸び、熱老化後の破断時伸び、耐久性が得られない。BRの含有量が上記範囲内であると、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られる。
【0040】
BR以外にサイドウォール用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、液状イソプレンゴム(L−IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸び、耐亀裂成長性を確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、NR、IR、L−IR、及びSBRが好ましく、NR、IRがより好ましく、NRが更に好ましい。
【0041】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0042】
ゴム成分100質量%中のNR、IR、L−IR、及びSBRの合計含有量(好ましくはNR及びIRの合計含有量、より好ましくはNRの含有量)は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。30質量%未満であると、充分な破断時伸び、熱老化後の破断時伸び、耐久性が得られない傾向がある。該含有量は、好ましくは70質量%以下である。70質量%を超えると、充分な操縦安定性、低燃費性、熱老化後の破断時伸び、耐久性が得られない傾向がある。上記含有量が上記範囲内であると、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られる。
【0043】
本発明では、軟化剤として、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、プロセスオイル、植物油、クマロンインデン樹脂等を使用できる。なかでも、粘着性、破断時伸び、耐オゾン劣化性に優れ安価であるという理由から、C5系石油樹脂が好ましい。
【0044】
C5系石油樹脂は、C5(炭素数5)系石油炭化水素を重合して得られる。ここで、C5系石油炭化水素とは、ナフサの熱分解により得られるC5留分(炭素数5の留分)のことをいい、具体的には、イソプレン、1,3−ペンタジエン、ジシクロペンタジエン、ピペリレンなどのジオレフィン類や2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、シクロペンテンなどのモノオレフィン類が挙げられる。
C5系石油樹脂の含有量は、適度な粘着性、破断時伸びに優れるという理由から、1〜5質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。
【0045】
プロセスオイルは、ポリマーの締め付けを緩くし、硫黄を移動しやすくする。プロセスオイルによる硫黄の移動促進効果は、C5系石油樹脂等の他の軟化剤よりも大きい。そして、サイドウォール用ゴム組成物は、元来架橋密度が比較的低いため、薬品、硫黄のモビリティが大きい。ゆえに、プロセスオイルの量が少ない方が、ケースからの硫黄の流入を抑制できる。従って、プロセスオイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下が更に好ましい。10質量部を超えると、ケースからの硫黄の流入量が増大し、耐久性が低下するおそれがある。
【0046】
サイドウォール用ゴム組成物には、カーボンブラックを配合してもよい。カーボンブラックを配合することにより、補強性を高めることができ、耐亀裂成長性、耐久性、操縦安定性、耐紫外線劣化性を向上できる。使用できるカーボンブラックの例としては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0047】
カーボンブラックを使用する場合、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は20m/g以上が好ましく、60m/g以上がより好ましい。NSAが20m/g未満では、耐亀裂成長性、耐久性、操縦安定性が低下するおそれがある。また、カーボンブラックのNSAは120m/g以下が好ましく、100m/g以下がより好ましい。NSAが120m/gを超えると、充分な低燃費性、加工性が得られないおそれがある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0048】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。10質量部未満では、充分な補強性が得られず、耐亀裂成長性、耐久性、操縦安定性が悪化する傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。100質量部を超えると、低燃費性が悪化するおそれがある。
【0049】
上記ゴム組成物には、前記成分の他に、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、シリカ等の充填剤、ワックス、酸化防止剤、老化防止剤、加硫促進助剤(ステアリン酸、酸化亜鉛等)、ハイブリッド架橋剤(フレキシス社製のHTS、PK900等)、加硫促進剤等を含有してもよい。
【0050】
加硫促進剤としては、グアニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、チウラム系、ジチオカルバメート系、ザンデート系の化合物などが挙げられる。これら加硫促進剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ゴム中への分散性、加硫物性の安定性の点から、スルフェンアミド系加硫促進剤〔N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなど〕、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンイミド(TBSI)、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(DM)が好ましく、TBBS、CBS、TBSI、DMがより好ましく、TBBSが更に好ましい。
【0051】
加硫促進剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。また、該配合量は、好ましくは0.8質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下である。加硫促進剤の配合量が上記範囲内であると、サイドウォールゴムとしての好適な架橋密度、耐亀裂成長性が得られ、硫黄の移動量を適度な量に調整でき、本発明の効果がより好適に得られる。
【0052】
サイドウォール用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練する方法等により製造できる。
【0053】
(スチールコード被覆用ゴム組成物)
スチールコード被覆用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては、特に限定されないが、サイドウォール用ゴム組成物と同様のジエン系ゴムを使用できる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、NRが好ましい。
【0054】
NRとしては特に限定されず、サイドウォール用ゴム組成物と同様のものを使用できる。
【0055】
ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%である。NRの含有量が上記量であると、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られる。
【0056】
使用できる加硫剤としては、特に限定されないが、サイドウォール用ゴム組成物と同様のものを使用できる。
【0057】
スチールコード被覆用ゴム組成物において、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3.0質量部を超え、より好ましくは4.50質量部を超え、更に好ましくは4.80質量部を超える。3.0質量部以下では、スチールコードとの接着性が低下し、耐久性が低下するおそれがある。また、充分な低燃費性、破断時伸びが得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは6.00質量部未満、より好ましくは5.80質量部未満、更に好ましくは5.30質量部未満である。6.00質量部以上では、破断時伸び、耐亀裂成長性が低下し、耐久性が低下する。また、充分な低燃費性が得られないおそれがある。硫黄の含有量が上記範囲内であると、良好な操縦安定性、低燃費性を確保しつつ、良好な破断時伸び、耐亀裂成長性、スチールコードとの接着性が得られ、結果的に良好な耐久性が得られる。
【0058】
使用できる軟化剤としては、特に限定されないが、サイドウォール用ゴム組成物と同様のものを好適に使用できる。
C5系石油樹脂の含有量は、適度な粘着性、破断時伸びに優れるという理由から、1〜5質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。
【0059】
プロセスオイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下が更に好ましい。10質量部を超えると、ケースからの硫黄の流出量が増大し、耐久性が低下するおそれがある。
【0060】
スチールコード被覆用ゴム組成物には、カーボンブラックを配合してもよい。カーボンブラックを配合することにより、補強性を高めることができ、耐久性、操縦安定性を向上できる。
【0061】
カーボンブラックを使用する場合、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は40m/g以上が好ましく、60m/g以上がより好ましい。NSAが40m/g未満では、耐久性、操縦安定性が低下するおそれがある。また、カーボンブラックのNSAは150m/g以下が好ましく、100m/g以下がより好ましい。NSAが150m/gを超えると、分散性が悪く、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
【0062】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。10質量部未満では、充分な補強性が得られず、耐久性、操縦安定性が悪化する傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。100質量部を超えると、低燃費性が悪化するおそれがある。
【0063】
スチールコード被覆用ゴム組成物は、スチールコードとの接着性を向上させる目的で、有機酸コバルトを配合することが好ましい。有機酸コバルトは、ゴムとスチールコードを架橋する役目を果たすため、有機酸コバルトを含有することにより、スチールコードとゴムとの接着性を向上させることができる。
【0064】
有機酸コバルトとしては、例えば、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素3ネオデカン酸コバルト、アビチエン酸コバルトなどが挙げられる。なかでも、加工性(粘度)に優れ、加硫反応が進行しやすいという点から、ステアリン酸コバルトが好ましい。
【0065】
有機酸コバルトの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、コバルトに換算して好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.07質量部以上である。0.05質量部未満では、スチールコードとゴムとの接着性が充分ではないおそれがある。また、該含有量は、コバルトに換算して好ましくは0.15質量部以下、より好ましくは0.12質量部以下である。0.15質量部を超えると、耐酸化劣化性、耐亀裂成長性、耐久性が悪化する傾向がある。
【0066】
上記ゴム組成物には、前記成分の他に、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、シリカ等の充填剤、ワックス、酸化防止剤、老化防止剤、加硫促進助剤(ステアリン酸、酸化亜鉛等)、加硫促進剤等を含有してもよい。
【0067】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3〜20質量部、より好ましくは6〜12質量部である。酸化亜鉛の含有量が上記範囲内であると、良好な操縦安定性、低燃費性を確保しつつ、良好な破断時伸び、耐亀裂成長性、スチールコードとの接着性が得られ、結果的に良好な耐久性が得られる。
【0068】
加硫促進剤としては、サイドウォール用ゴム組成物と同様のものを使用できるが、コードとの接着性に優れるという理由から、DCBS、TBSIがより好ましい。
加硫促進剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上である。また、該配合量は、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.2質量部以下である。加硫促進剤の配合量が上記範囲内であると、スチールコード被覆用ゴムとしての好適な架橋密度が得られ、硫黄の移動量を適度な量に調整でき、本発明の効果がより好適に得られる。
【0069】
スチールコード被覆用ゴム組成物の製造方法としては、サイドウォール用ゴム組成物と同様の方法を用いることができる。
【0070】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状(サイドウォールの場合は、サイドウォール用ゴム組成物をサイドウォールの形状、ケースの場合は、未加硫の段階で、シート状のスチールコード被覆用ゴム組成物をスチールコードに上下から圧着被覆してケースの形状)に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機(好ましくはドーム型加硫機)中で加熱加圧して加硫することによりタイヤを製造することができる。
【0071】
タイヤの加硫を行う際の加硫金型温度、又は、加硫機のスチーム充填温度は、好ましくは130〜158℃、より好ましくは130〜155℃、更に好ましくは130〜152℃、特に好ましくは130〜145℃、最も好ましくは130〜140℃である。加硫温度が高いほど、ゲージの薄いサイドウォールでは、過度に加硫され、リバージョンが起こりやすくなり、ケースからサイドウォールへの硫黄の移行が促進されやすくなり、耐久性が低下する。ここで、リバージョンとは、一旦形成された硫黄架橋が切断され、硫黄が一方のポリマー鎖にペンダント状にぶら下がる現象、又は、ポリマー自体の分子鎖が切断する現象をいう。
【0072】
スチールコードとしては、とくに制限はないが、たとえば、1×n構成の単撚りスチールコード、k+m構成の層撚りスチールコード等があげられる。ここで、1×n構成の単撚りスチールコードとは、n本のフィラメントを撚りあわせて得られる1層の撚りスチールコードのことである。また、k+m構成の層撚りスチールコードとは、撚り方向、撚りピッチの異なる2層構造を持ち、内層にk本のフィラメント、外層にm本のフィラメントを有するスチールコードのことである。nは1〜27の整数、kは1〜10の整数、mは1〜3の整数である。スチールコードの表面は、ゴム組成物に対する初期接着性を向上させるため、黄銅(真鍮)、Zn等でメッキすることが好ましい。
【0073】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、重荷重用タイヤ等として用いられ、特に、重荷重用タイヤとして好適に用いられる。なお、本明細書における重荷重用タイヤとは、耐久性に特に優れたタイヤであり、トラック・バス用タイヤ、重機等の産業用車両に使用される産業用タイヤ等が挙げられる。重荷重用タイヤでは、通常、ケース、ブレーカーに使用されるコードが共にスチールコードであるオールスチールタイヤが使用される。
【実施例】
【0074】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0075】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
IR:JSR(株)製のIR2200
BR1:宇部興産(株)製のBR150B(シス含有量:97質量%)
BR2:ランクセス(株)製のCB24(Nd系触媒を用いて合成したBR、Tg:−116℃、シス含量:96質量%、ビニル含量:0.7質量%、ML1+4(100℃):45、Mw/Mn:2.69、Mw:50万、Mn:18.6万)
BR3:宇部興産(株)製のVCR450(SPBを含むBR、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶の含有量:3.8質量%)
BR4:宇部興産(株)製のVCR412(SPBを含むBR、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶の含有量:12質量%)
カーボンブラック1:三菱化学(株)製のダイアブラックH(N330、NSA:78m/g)
C5レジン:丸善石油化学工業(株)製のマルカレッツT−100AS(C5系石油樹脂)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
10%オイル含有不溶性硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミOT
TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
カーボンブラック2:三菱化学(株)製のダイアブラックLH(N326、NSA:84m/g)
ステアリン酸コバルト:大日本インキ化学工業(株)製のcost−F(コバルト含有量:9.5質量%)
20%オイル含有不溶性硫黄:四国化成(株)製のミュークロンOT−20
DCBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0076】
実施例及び比較例
サイドウォール用ゴム組成物については表1、2に示す配合内容、スチールコード被覆用ゴム組成物については、表1、2及び下記に示す配合内容に従い、バンバリーミキサーを用いて、加硫剤及び加硫促進剤以外の材料を160℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、105℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
次に、得られた未加硫ゴム組成物を、スチールコード被覆用ゴム組成物の場合は、トッピング後のシートの厚みを0.8mmに成形後、該シートをスチールコード(3+9+15/0.175)に被覆してケースの形状に、サイドウォール用ゴム組成物の場合はサイドウォールの形状(タイヤのタイヤ軸方向の最大幅部のサイドウォールゴムの厚みを5mmとした)に成形した。そして、表1、2に示す組み合わせに従い、他のタイヤ部材と貼り合わせ、ドーム型加硫機で表1、2に示す温度で12分間プレス加硫することにより、試験用空気入りタイヤ(オールスチールラジアルタイヤ)(295/80R22.5)を作製した。
スチールコード被覆用ゴム組成物は、NR100質量部に対して、カーボンブラック2を60質量部、ステアリン酸コバルトを1質量部、酸化亜鉛を10質量部、C5レジンを2質量部、20%オイル含有不溶性硫黄を表1、2に示す量(表1、2に示す量は、純硫黄分を示す)、DCBSを1質量部配合した。
【0077】
得られた試験用空気入りタイヤを80℃の空気充填オーブンの中で3週間静置し、熱老化後の試験用空気入りタイヤとした。
【0078】
得られた試験用空気入りタイヤのタイヤ軸方向の最大幅部(サイドウォールゴムが最も薄い箇所(ゴム厚が5mm)なので、加硫温度が最も上がりやすい箇所、即ち、最も硫黄移行が生じやすい箇所である)のサイドウォール表面から内側へ2mmの部分(サイドウォールゴムのタイヤ軸方向の幅のほぼ中央部分(SW中央部))から、サイドウォールゴムサンプルを採取した(図1参照)。
同様にして、熱老化後の試験用空気入りタイヤから、熱老化後のサイドウォールゴムサンプルを採取した。
【0079】
得られた熱老化後の試験用空気入りタイヤ、サイドウォールゴムサンプル、熱老化後のサイドウォールゴムサンプルを使用して、下記の評価を行った。それぞれの試験結果を表1、2に示す。
【0080】
(硫黄量の測定)
サイドウォールゴムサンプルについて、加熱炉で硫黄(S)を二酸化硫黄(SO)に変換し、炭素硫黄分析計を用いて、赤外線検出により化学分析(硫黄の定量)を行った。
【0081】
(複素弾性率(硬度)(E)、低燃費性(tanδ))
岩本製作所(株)製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、70℃、初期歪10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で、各サイドウォールゴムサンプルの損失正接(tanδ)及び複素弾性率(E)を測定した。
tanδが小さいほど、転がり抵抗が低く、低燃費性に優れることを示す。Eが大きいほど、操縦安定性に優れることを示す。
【0082】
(引張試験)
サイドウォールゴムサンプルからなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、室温にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定した。EBが大きいほど、破断時伸びに優れることを示す。同様に、熱老化後のサイドウォールゴムサンプルについても、熱老化後の破断時伸びEB(%)を測定した。熱老化後の破断時伸びが大きいほど、熱老化後の破断時伸びに優れることを示す。
【0083】
(ドラム耐久性(高荷重耐久ドラム試験))
熱老化後の試験用空気入りタイヤのタイヤ軸方向の最大幅部のサイドウォールゴムに、カッターナイフを用いて、幅2mm、深さ0.2mmの亀裂を45度方向に、周上20箇所設け、JIS規格の最大荷重(最大内圧条件)の140%荷重の条件下で、前記タイヤを速度80km/hで8万kmドラム走行させ、亀裂の成長度合いを指数化した。なお、亀裂は、斜め45度方向に伸展する場合が多いが、バラツキがあるため、20箇所の評価結果を平均して、基準タイヤ(実施例7)の耐亀裂成長性指数を100とし、各タイヤの耐亀裂成長性を指数表示した。なお、耐亀裂成長性指数が大きいほど、耐久性に優れ、良好であることを示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
表1、2により、サイドウォール及びケースを有する空気入りタイヤであって、サイドウォールが、特定量のブタジエンゴム、硫黄を含むサイドウォール用ゴム組成物からなり、ケースが、スチールコードをスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量が特定の関係式を満たす空気入りタイヤは、耐久性に優れていた。また、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びも同時に得られた。
【0087】
比較例1〜3では、サイドウォール用ゴム組成物の硫黄の含有量が少なく、硫黄がケースからサイドウォールへ移行しやすいため、耐久性が劣っていた。比較例4〜6では、サイドウォール用ゴム組成物の硫黄の含有量が多く、熱老化後の破断時伸びが劣るため、耐久性が劣っていた。ブタジエンゴムの含有量が、特定量から外れる比較例7、8では、熱老化後の破断時伸びが劣るため、耐久性が劣っていた。サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量の差が4.20を超える比較例3、9は、硫黄がケースからサイドウォールへ移行しやすいため、耐久性が劣っていた。また、上記硫黄含有量の差は小さいが、サイドウォール用ゴム組成物の硫黄の含有量が多い(2.5質量部の)比較例4、5、6は、サイドウォールゴム自体の熱老化後の破断時伸びが低く、耐久性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドウォール及びケースを有する空気入りタイヤであって、
サイドウォールが、ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量が30〜70質量%で、ゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量が1.29質量部を超え2.30質量部未満であるサイドウォール用ゴム組成物からなり、
ケースが、スチールコードをスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆されてなり、
サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量が下記関係式を満たす空気入りタイヤ。
2.70<(スチールコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)−(サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)<4.20
【請求項2】
サイドウォール用ゴム組成物及びスチールコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量が下記関係式を満たす請求項1記載の空気入りタイヤ。
2.80<(スチールコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)−(サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量)<3.70
【請求項3】
加硫金型温度、又は、加硫機のスチーム充填温度が130〜158℃である請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量%中の天然ゴム、イソプレンゴム、液状イソプレンゴム、及びスチレンブタジエンゴムの合計含有量が30〜70質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
サイドウォール用ゴム組成物が、ブタジエンゴムとして、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴムを含む請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
サイドウォール用ゴム組成物の加硫促進剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、0.3〜0.8質量部である請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
重荷重用タイヤである請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−60184(P2013−60184A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−17256(P2012−17256)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【特許番号】特許第5111670号(P5111670)
【特許公報発行日】平成25年1月9日(2013.1.9)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】