説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】チェーファの巻き込み端におけるセパレーションなどの故障を抑制して、ビード部の耐久性に優れた空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】チェーファ6は、カーカスプライ4の本体部41のタイヤ幅方向内側に位置する巻き込み部61に、ビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられた巻き上げ部62を一連に設けてなる。チェーファ6の巻き込み部61における補強コード6Cは、タイヤ径方向外側に向かってCD1方向に傾斜して延びている。カーカスプライ4の本体部41におけるカーカスコード4Cは、CD1方向に弧状に曲がる弧状区間40を有し、チェーファ6の巻き込み端61Eに弧状区間40を隣接させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビード部の耐久性に優れた空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りラジアルタイヤにおいて、特に産業車両や建設車両などの重量が重い車両に使用されるタイヤでは、ビードコアの周りで巻き上げたカーカスプライの巻き上げ端を起点としてセパレーションなどの故障を起こす懸念があり、ビード部の耐久性を向上するためにチェーファを設けることが一般的に行われている。チェーファは、ビードコアの周りで、タイヤ幅方向の内側から外側に亘ってカーカスプライを包み込むように配設される(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
本発明者は、タイヤ幅方向内側に位置するチェーファの先端(巻き込み端)を相応にタイヤ径方向外側へ配置することにより、カーカスプライの巻き上げ端への応力集中を緩和して、セパレーションの発生を抑制しうるとの知見を得ている。ところが、かかる場合には、チェーファの巻き込み端を起点としてセパレーションなどの故障が起こりやすくなるため、ビード部の耐久性を向上するには、これを更に改善する必要があった。
【0004】
特許文献5,6には、ビードコアの周りでタイヤ幅方向外側に巻き上げられたカーカスプライの部分(後述するカーカスプライの巻き上げ部に相当)において、カーカスコードを波状に湾曲させたビード構造が開示されている。しかし、このビード構造は、ビードコアをカーカスプライで包む特殊な形態を採用しているうえ、上述したようなチェーファの巻き込み端を起点とした故障に関して、その解決手段を何ら示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭53−119501号公報
【特許文献2】特開平5−319035号公報
【特許文献3】特開平6−191240号公報
【特許文献4】特開2005−297927号公報
【特許文献5】特開2005−186792号公報
【特許文献6】特開2005−186794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、チェーファの巻き込み端におけるセパレーションなどの故障を抑制して、ビード部の耐久性に優れた空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、チェーファの巻き込み端に作用する歪みに関して研究を重ねたところ、以下の事柄を見出した。図6は、カーカスプライとチェーファの巻き込み端との間に生じる周方向せん断歪みを示すグラフである。横軸のタイヤ周方向位置は、図7の模式図に対応している。図7では、タイヤ幅方向内側に位置するチェーファ16の巻き込み端16Eが描かれており、チェーファ16が含む補強コード16Cは、タイヤ径方向外側に向かってタイヤ周方向一方側に傾斜して延びている。
【0008】
このように、接地端E1,E2の近傍では、チェーファの巻き込み端に大きな歪みが作用しており、そのうえ接地端E1の近傍では、短い周期にて歪みが変動する傾向にある。したがって、巻き込み端は、接地端E1の近傍で大きな周方向せん断歪みを受けながら、更に短周期で振動することになり、かかる挙動がビード部の耐久性に悪影響を与えていることが判明した。本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記の如き構成により上記目的を達成できるものである。
【0009】
即ち、本発明に係る空気入りラジアルタイヤは、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至る本体部に、前記ビード部のビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられた巻き上げ部を一連に設けたカーカスプライと、前記カーカスプライの本体部のタイヤ幅方向内側に位置する巻き込み部に、前記カーカスプライの巻き上げ部のタイヤ幅方向外側に位置し、前記ビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられた巻き上げ部を一連に設けたチェーファと、を備えた空気入りラジアルタイヤにおいて、前記チェーファが、引き揃えた補強コードをゴム被覆してなるとともに、そのチェーファの巻き込み部における前記補強コードが、タイヤ径方向外側に向かってタイヤ周方向一方側に傾斜して延び、前記カーカスプライが、引き揃えたカーカスコードをゴム被覆してなるとともに、そのカーカスプライの本体部における前記カーカスコードが、タイヤ周方向一方側に弧状に曲がる弧状区間を有し、前記チェーファの巻き込み部の先端である巻き込み端に前記弧状区間を隣接させてあるものである。
【0010】
本発明の空気入りラジアルタイヤでは、カーカスプライの本体部に上記の如き弧状区間を形成してあるため、インフレート時の内圧によってカーカスコードに張力が作用すると、そのカーカスコードの曲がりを矯正して真っ直ぐにしようとする力が発生する。この力は、タイヤ周方向他方側に向かう周方向力であり、弧状区間の周辺のゴムに作用する。そのため、チェーファの巻き込み端には、補強コードの傾斜方向とは逆向きのタイヤ周方向他方側に向かう周方向力が作用する。
【0011】
上記の周方向力は、チェーファの巻き込み端において、補強コードの向きをタイヤ径方向に近付ける方向に作用する。これは、図6のグラフにおける各プロットの位置を下方に移動させる結果をもたらし、延いては、短周期の振動を生じる接地端E1の近傍において、巻き込み端に作用する歪みの絶対値を低減できる。他方、接地端E2の近傍では歪みの絶対値が増大するものの、短周期の振動を生じる部位ではないため、それによる弊害は問題視される程ではない。
【0012】
以上のように、本発明では、インフレート時の内圧に伴うカーカスコードの動きにより、タイヤ周方向一方側に位置する接地端(図6の接地端E1)の近傍において、チェーファの巻き込み端に作用する周方向せん断歪みを低減できる。それ故に、巻き込み端は、当該接地端の近傍で比較的小さい歪みを受けながら短周期で振動することになり、これによって耐久性に対する悪影響は小さくなる。その結果、チェーファの巻き込み端を起点としたセパレーションなどの故障を抑制して、ビード部の耐久性を向上することができる。
【0013】
上記において、前記巻き込み端が、リム基準径を基準として、前記リム基準径からタイヤ最大幅位置までの高さの1/3〜2/3となる範囲に位置するものが好ましい。かかる構成によれば、リム基準径を基準としたチェーファの巻き込み端の高さが確保されるため、カーカスプライの巻き上げ端への応力集中を緩和し、その巻き上げ端を起点とした故障の発生を抑制できる。また、これによってチェーファの巻き込み端を起点とした故障の発生が懸念されるものの、本発明では上述した作用が奏されることにより、ビード部の耐久性を向上できる。
【0014】
上記において、前記巻き込み端を厚み方向に沿って前記カーカスプライの本体部へ投影してなる投影線を基準として、前記弧状区間のタイヤ径方向内側端までの距離が30mm未満で、且つ、前記弧状区間のタイヤ径方向外側端までの距離が190mm未満であるものが好ましい。かかる構成によれば、弧状区間が必要以上に大きくなることを防いで、カーカスプライが弧状区間を有することによる他のタイヤ性能への影響を抑えることができる。
【0015】
上記において、前記弧状区間において弧状に曲がる前記カーカスコードと、その両端を結ぶ直線とで囲まれる閉鎖区域を、前記巻き込み端を厚み方向に沿って前記カーカスプライの本体部へ投影してなる投影線に沿ってタイヤ径方向に二分したとき、タイヤ径方向内側の面積がタイヤ径方向外側の面積よりも小さいものが好ましい。かかる構成によれば、上記の周方向力がチェーファの巻き込み部に過大に作用することを防ぎ、傾斜した補強コードを含むチェーファ本来の機能、即ちビード部を補強する機能を適切に確保して、ビード部の耐久性を有効に向上することができる。
【0016】
上記において、前記弧状区間において前記カーカスコードが最もタイヤ周方向一方側に張り出した箇所が、前記巻き込み端よりもタイヤ径方向外側に位置するものが好ましい。かかる構成によれば、上記の周方向力が大きくなる部位がチェーファの巻き込み部に隣接しないことから、その周方向力が巻き込み部に過大に作用することを防いで、傾斜した補強コードを含むチェーファ本来の機能、即ちビード部を補強する機能を適切に確保し、ビード部の耐久性を有効に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の空気入りラジアルタイヤの一例を示すタイヤ子午線半断面図
【図2】図1のタイヤのビード部を拡大して示す図
【図3】カーカスプライの本体部とチェーファの巻き込み部をタイヤ内面側から見たときの展開図
【図4】カーカスプライの本体部が含むカーカスコードとチェーファの巻き込み部が含む補強コードとの位置関係を説明するための模式図
【図5】本発明の別実施形態に係るコード配列を示す模式図
【図6】カーカスプライとチェーファの巻き込み端との間に生じる周方向せん断歪みを示すグラフ
【図7】軸方向から見たタイヤを示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1,2に示した空気入りラジアルタイヤTは、一対のビード部1と、ビード部1からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向外側端に連なって踏面を構成するトレッド部3とを備える。ビード部1には、ゴム被覆したビードワイヤを積層巻回した収束体よりなる環状のビードコア1aと、そのビードコア1aのタイヤ径方向外側に位置するビードフィラー1bとが配設されている。
【0019】
タイヤTは、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至る本体部41に、ビードコア1aの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられた巻き上げ部42を一連に設けたカーカスプライ4を備えている。巻き上げ部42は、ビードコア1aやビードフィラー1bのタイヤ幅方向外側に配置され、その先端が巻き上げ端42Eとなる。カーカスプライ4の内側には、タイヤTの内周面を構成するインナーライナー5が設けられている。
【0020】
また、タイヤTは、カーカスプライ4の本体部41のタイヤ幅方向内側に位置する巻き込み部61に、そのカーカスプライ4の巻き上げ部42のタイヤ幅方向外側に位置し、ビードコア1aの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられた巻き上げ部62を一連に設けたチェーファ6を備える。巻き込み端61Eは、タイヤ幅方向内側に位置する巻き込み部61の先端であり、巻き上げ端62Eは、タイヤ幅方向外側に位置する巻き上げ部62の先端である。
【0021】
図3は、本体部41と巻き込み部61をタイヤ内面側から見たときの展開図であり、左右方向がタイヤ周方向に相当し、上下方向がタイヤ径方向に相当する。図4は、その本体部41が含むカーカスコード4Cと、巻き込み部61が含む補強コード6Cとの位置関係を説明するための模式図であり、図3からコードを大幅に間引いて描いている。どちらの図においても、タイヤTに内圧や荷重が作用していない自然状態を示している。
【0022】
チェーファ6は、引き揃えた補強コードをゴム被覆してなる補強材であり、互いに平行に引き揃えた複数の補強コード6Cがトッピングゴムで被覆されている。補強コード6Cは、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミド等の有機繊維コードでも構わないが、補強効果を高める観点からスチールコード(金属コードの一例)が好ましい。補強コード6Cは、タイヤ径方向に対して斜めに配列され、巻き込み部61では、タイヤ径方向外側に向かってタイヤ周方向一方側(CD1方向)に傾斜して延びている。タイヤ径方向に対する補強コード6Cの傾斜角度θ6Cは、例えば40〜70°である。
【0023】
カーカスプライ4は、引き揃えたカーカスコードをゴム被覆してなり、互いに平行に引き揃えた複数のカーカスコード4Cがトッピングゴムで被覆されている。カーカスコード4Cには、スチールコード又は有機繊維コードが好適に使用される。カーカスコード4Cは、タイヤ周方向に対して略直交する方向に配列され、後述する弧状区間40外では、タイヤ周方向に対するカーカスコード4Cの傾斜角度が90±5°、より好ましくは90±3°である。この傾斜角度が90±5°から外れると、ショルダー部(サイドウォール部2のタイヤ径方向外側部分)でカーカスプライ4がセパレーションを起こしやすい。
【0024】
図3,4に示すように、本体部41におけるカーカスコード4Cは、CD1方向に弧状に曲がる弧状区間40を有する。図2,4では、弧状区間40のタイヤ径方向内側端をA点とし、弧状区間40のタイヤ径方向外側端をD点としており、このA点からD点に至る間でカーカスコード4Cを湾曲させている。このタイヤTでは、巻き込み端61Eに弧状区間40を隣接させてあり、巻き込み部61のタイヤ径方向外側の部分が弧状区間40に重なるように配置されている。
【0025】
インフレート時の内圧によってカーカスコード4Cに張力が作用すると、弧状区間40の周辺のゴムにおいて、タイヤ周方向他方側(CD2方向)に向かう周方向力CFが発生し、これが巻き込み端61Eにも作用する。このため、短周期の振動を生じるCD1方向に位置する接地端(図6の接地端E1に相当)の近傍において、巻き込み端61Eに作用する周方向せん断歪みを低減できる。その結果、チェーファ6の巻き込み端61Eを起点としたセパレーションなどの故障を抑制して、ビード部1の耐久性を向上できる。
【0026】
図2のように、本実施形態では、巻き込み端61Eがカーカスプライ4の巻き上げ端42Eよりもタイヤ径方向外側に位置する。これにより、巻き上げ端42Eへの応力集中を緩和して、その巻き上げ端42Eを起点としたセパレーションの発生を有効に抑制できる。かかる位置関係は、規定リム装着時において成立していればよい。規定リム装着時は、タイヤサイズに対応してJATMAで定められた標準となるリムに装着し、同じくタイヤサイズに対応してJATMAで定められる単輪最大負荷能力に対応する最高空気圧をかけた時の状態を指す。
【0027】
また、本実施形態では、規定リム装着時において、チェーファ6の巻き上げ端62Eが、そのチェーファ6の巻き込み端61Eやカーカスプライ4の巻き上げ端42Eよりもタイヤ径方向内側に位置している。これにより、転動時の変形が大きい位置を避けるようにして巻き上げ端62Eが配されるため、その巻き上げ端62Eを起点とした故障の発生を抑えて、ビード部1の耐久性を向上するうえで有利にできる。
【0028】
図1において、リム基準径NDは、タイヤTに応じて決められたリム径の呼びに対するJATMAに記載の径寸法である。この径によってリム20のビード座の径が決定され、この径に応じたタイヤ設計がなされる。ビード部1の耐久性を向上するうえでは、巻き込み端61Eが、リム基準径NDを基準として、リム基準径NDからタイヤ最大幅位置BPまでの高さHの1/3〜2/3となる範囲(高さXの範囲)に位置することが好ましい。かかる位置関係は、規定リム装着時において成立していればよい。
【0029】
図4では、弧状区間40において弧状に曲がるカーカスコード4Cの両端を結ぶ直線SLを破線で描いており、この直線SLは、弧状区間40外におけるカーカスコード4Cの延在方向と平行に延びている。投影線PLは、巻き込み端61Eを厚み方向(カーカスプライ4の厚みの方向)に沿って本体部41へ投影してなり、図4では巻き込み端61Eと重ねて描かれている。B点は、投影線PLと直線SLとの交点であり、E点は、投影線PLとカーカスコード4Cとの交点である。
【0030】
投影線PLを基準とした弧状区間40のタイヤ径方向内側端までの距離、即ちB点からA点までの距離L1は、30mm未満であることが好ましい。それでいて、投影線PLを基準とした弧状区間40のタイヤ径方向外側端までの距離、即ちB点からD点までの距離L2は、190mm未満であることが好ましい。このように、カーカスコード4Cが弧状区間40を局所的に有することで、弧状区間40が必要以上に大きくなることを防ぎ、弧状区間40による他のタイヤ性能への影響を抑えることができる。
【0031】
距離L1は、巻き込み端61Eに作用する周方向せん断歪みの低減効果を確保する観点から、20mmを超えることが好ましい。また、距離L2は、弧状区間40におけるカーカスコード4Cの曲がりを緩やかにして歪みの集中を防ぐ観点から、79mmを超えることが好ましい。
【0032】
図4において、周方向線CLは、弧状区間40においてカーカスコード4Cが最もCD1方向に張り出した箇所を通るタイヤ周方向の仮想線である。C点は、周方向線CLと直線SLとの交点であり、F点は、周方向線CLとカーカスコード4Cとの交点である。閉鎖区域40Aは、弧状区間40において弧状に曲がるカーカスコード4Cと、その両端を結ぶ直線SLとで囲まれてなり、タイヤ径方向に細長く延びたD字状を呈して、そのタイヤ径方向内側部分が巻き込み部61に隣接している。
【0033】
本実施形態では、閉鎖区域40Aを投影線PLに沿ってタイヤ径方向に二分したときに、タイヤ径方向内側の面積がタイヤ径方向外側の面積よりも小さい。即ち、閉鎖区域40Aにおいて、投影線PLよりもタイヤ径方向内側となるA、B、E点を通る区域の面積が、投影線PLよりもタイヤ径方向外側となるB、C、D、F、E点を通る区域の面積よりも小さい。これによりチェーファ6の本来の機能を確保して、ビード部1の耐久性を有効に向上できる。この面積比(外側/内側)は、9〜13倍が好ましい。
【0034】
投影線PL上における直線SLからカーカスコード4Cまでの距離、即ちB点からE点までのタイヤ周方向の距離D1は、巻き込み端61Eに作用する周方向せん断歪みの低減効果を確保する観点から、1mmを超えることが好ましい。また、距離D1は、巻き込み部61に周方向力CFが過大に作用することを防ぐ観点から、5mm未満であることが好ましい。
【0035】
周方向線CLにおける直線SLからカーカスコード4Cまでの距離、即ちC点からF点までのタイヤ周方向の距離D2は、周方向力CFを適切に発現させる観点から、距離D1に対する比D2/D1が1.3を超えることが好ましい。また、巻き込み部61に周方向力CFが過大に作用することを防ぐ観点から、比D2/D1は2.0未満であることが好ましい。更に、カーカスコード4Cが最もCD1方向に張り出しているF点は、巻き込み端61Eよりもタイヤ径方向外側に位置することが好ましい。
【0036】
投影線PLを基準として、カーカスコード4Cが最もCD1方向に張り出した箇所までの距離、即ちB点からC点までの距離L3は、巻き込み部61に周方向力CFが過大に作用することを防ぐ観点から、35mmを超えることが好ましい。また、弧状区間40が必要以上に大きくならないように、距離L3は70mm未満が好ましい。
【0037】
周方向線CLから弧状区間40のタイヤ径方向外側端までの距離、即ちC点からD点までの距離L4は、周方向力CFを適切に発現させる観点から、L4/(L1+L3)が0.8を超えるように設定されることが好ましい。また、距離L4は、弧状区間40が必要以上に大きくならないように、L4/(L1+L3)が1.2未満となるように設定されることが好ましい。
【0038】
弧状区間40で円弧形に湾曲するカーカスコード4Cでは、その曲率半径Rは1つに限られず、複数の(例えば2つ又は3つの)曲率半径を組み合わせても構わない。例えば、A点からE点に至る区間、E点からF点に至る区間、F点からD点に至る区間において、カーカスコード4Cの曲率半径を相違させることが考えられる。これにより、カーカスコード4Cを滑らかに延在させつつ、上記した各種寸法を好ましい値に設定することが簡単になる。
【0039】
本実施形態では、弧状区間40におけるカーカスコード4Cを、CD1方向に凸となる円弧だけで構成しているが、これに限られず、直線や、CD2方向に凸となる円弧で構成することも可能である。特に、弧状区間40外のカーカスコード4Cに連なる箇所では、カーカスコード4Cを滑らかに延在させるうえで、カーカスコード4Cを直線またはCD2方向に凸となる円弧で構成することが有効である。
【0040】
本実施形態では、弧状区間におけるカーカスコード4Cが円弧形をなして湾曲する例を示したが、カーカスコード4Cを図5のように弧状に曲げても構わない。このコード配列では、カーカスコード4Cが最もタイヤ周方向一方側に張り出した箇所がタイヤ径方向に延びているが、かかる場合には、そのタイヤ径方向における中央を通るようにして周方向線が設定される。
【0041】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、ビード部を上記の如く構成すること以外は、通常の空気入りタイヤと同等であり、従来公知の材料、形状、構造、製法などが何れも本発明に採用することができる。例えば、カーカスプライは複数枚を重ねて配設してもよく、その場合には、少なくともチェーファに隣接するカーカスプライにおいて上記の如く弧状区間を形成すればよい。
【0042】
本発明に係る空気入りラジアルタイヤは、ビード部の耐久性に優れるため、トラックやバス、産業車両、建設車両などの車両重量が重い車両に使用される重荷重用空気入りラジアルタイヤとして有用である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示すため、ビード部の耐久性試験を行ったので、以下に説明する。試験に供したタイヤのサイズは11R22.5 14PRであり、サイズ22.5×8.25のリムに装着した。
【0044】
耐久性試験では、内圧700kPa及び荷重32kNの条件下で10万kmを走行させた後にタイヤを解体し、チェーファの巻き込み端におけるセパレーション量を調査した。セパレーション量は、補強コードがトッピングゴムから剥離した長さであって、その補強コードに沿った長さとして測定した。評価では、測定したセパレーション量の逆数を算出し、比較例の結果を100として指数で比較した。したがって、数値が大きいほどセパレーションの発生や進展が抑制され、ビード部の耐久性に優れていることを示す。
【0045】
図1,2に示すタイヤ構造において、カーカスプライが上記の如き弧状区間を有していないものを比較例とし、図3,4に示した弧状区間を有するものを実施例とした。その他の構造は比較例と実施例とで共通しており、弧状区間外でのタイヤ周方向に対するカーカスコードの傾斜角度は90°、チェーファの補強コードはスチールコードである。また、実施例では、距離L1を25mm、距離L2を125mm、距離L3を50mm、距離L4を75mm、距離D1を2.0mm、距離D2を3.5mmとした。
【0046】
【表1】

【0047】
表1のように、実施例では、比較例よりもセパレーション量が低減されており、カーカスプライに上記の如き弧状区間を形成したことによる改善効果が確認された。
【符号の説明】
【0048】
1 ビード部
1a ビードコア
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカスプライ
4C カーカスコード
6 チェーファ
6C 補強コード
40 弧状区間
40A 閉鎖区域
41 カーカスプライの本体部
42 カーカスプライの巻き上げ部
61 チェーファの巻き込み部
61E チェーファの巻き込み端
62 チェーファの巻き上げ部
62 チェーファの巻き上げ端
BP タイヤ最大幅位置
ND リム基準径
PL 投影線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部に至る本体部に、前記ビード部のビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられた巻き上げ部を一連に設けたカーカスプライと、
前記カーカスプライの本体部のタイヤ幅方向内側に位置する巻き込み部に、前記カーカスプライの巻き上げ部のタイヤ幅方向外側に位置し、前記ビードコアの周りでタイヤ幅方向内側から外側に巻き上げられた巻き上げ部を一連に設けたチェーファと、を備えた空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記チェーファが、引き揃えた補強コードをゴム被覆してなるとともに、そのチェーファの巻き込み部における前記補強コードが、タイヤ径方向外側に向かってタイヤ周方向一方側に傾斜して延び、
前記カーカスプライが、引き揃えたカーカスコードをゴム被覆してなるとともに、そのカーカスプライの本体部における前記カーカスコードが、タイヤ周方向一方側に弧状に曲がる弧状区間を有し、前記チェーファの巻き込み部の先端である巻き込み端に前記弧状区間を隣接させてあることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記巻き込み端が、リム基準径を基準として、前記リム基準径からタイヤ最大幅位置までの高さの1/3〜2/3となる範囲に位置する請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記巻き込み端を厚み方向に沿って前記カーカスプライの本体部へ投影してなる投影線を基準として、前記弧状区間のタイヤ径方向内側端までの距離が30mm未満で、且つ、前記弧状区間のタイヤ径方向外側端までの距離が190mm未満である請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記弧状区間において弧状に曲がる前記カーカスコードと、その両端を結ぶ直線とで囲まれる閉鎖区域を、前記巻き込み端を厚み方向に沿って前記カーカスプライの本体部へ投影してなる投影線に沿ってタイヤ径方向に二分したとき、タイヤ径方向内側の面積がタイヤ径方向外側の面積よりも小さい請求項1〜3いずれか1項に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記弧状区間において前記カーカスコードが最もタイヤ周方向一方側に張り出した箇所が、前記巻き込み端よりもタイヤ径方向外側に位置する請求項1〜4いずれか1項に記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107548(P2013−107548A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255417(P2011−255417)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)