説明

空気抜き弁及びそれを備えたプラスチック製バッグ

【課題】プラスチック製バッグを用いて粗飼料サイレージの調整を可能にするため、プラスチック製バッグ内部の空気を外部に抜くための空気抜き弁を提供する。
【解決手段】空気抜き弁5は、プラスチック製バッグの側壁シート2に設けたバッグ内部の空気を外部に抜くための第一の孔6と、第一の孔6を覆う状態で周囲を側壁シート2の外側表面に接着させた可撓性の弁体シート7と、弁体シート7に設けた第二の孔8とを備えており、第二の孔8は第一の孔6と重畳しない位置に設けられて側壁シート2と弁体シート7により弁室10を構成する。弁体シート7はバッグ内外の圧力差に応じて側壁シート2に対して接離し、バッグ内部過圧時には側壁シート2から離れた状態となってバッグ内部の空気を外部に放出する一方、バッグ内部負圧時には側壁シート2に接触して第一の孔6を閉塞する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳牛や肉牛などの反芻家畜用の粗飼料サイレージを調整するプラスチック製バッグに関し、特にプラスチック製バッグ内部の空気を外部に抜くための空気抜き弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乳牛や肉牛などの反芻家畜用の粗飼料サイレージを調整するために塔型サイロやバンカーサイロなどの建築構造物が利用されていた(例えば特許文献1)。このようなサイロを利用した粗飼料サイレージの製造方法は、例えば細断した粗飼料5〜20トンを圧力を加えながらサイロ内に堆積させた後、プラスチック製シートで被覆して更にその上部に重石を載せた状態で発酵させるという方法である。そして発酵終了後は必要量をサイロ内から取り出して利用する。
【0003】
【特許文献1】特開平6−14649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、サイロによって粗飼料サイレージを調整する場合、サイロ内から必要量のサイレージを取り出す際に、サイロ内の外気と触れる部分は変敗し、次の取り出し時にはその変敗した部分を除去しなければならない。そのため、一般にこの方法によるサイレージのロスは20%程度であると言われており、その量は大きい。そのため、ロスの少ない調整方法が望まれている。
【0005】
また粗飼料サイレージの製造者が酪農家でないこともあり、製造したサイレージの輸送行為が伴う場合には使い勝手などの観点からバッグに詰めた状態でサイレージを調整し、発酵終了後はサイレージを外気に晒すことなく、バッグに詰めたままで輸送できることが好ましい。
【0006】
ところで、植物系粗飼料のサイレージ化とは、粗飼料に付着し常在している乳酸菌を利用して気密性のある容器内で乳酸発酵させ、反芻家畜の飼料としての嗜好性及び保存性を高めることである。ここで乳酸発酵は偏性嫌気性雰囲気で行われるため、粗飼料をバッグに封入して発酵させるにはバッグ内部の空気や発酵初期段階で発生する有機性ガスをバッグ外部に放出して除去する必要がある。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の問題点を解決することを目的としてなされたものであり、プラスチック製バッグを用いて粗飼料サイレージの調整を可能にするため、プラスチック製バッグ内部の空気を外部に抜くための空気抜き弁を提供すると共に、その空気抜き弁を備えたプラスチック製バッグを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明が解決手段として採用したところは、反芻家畜の粗飼料サイレージを調整するためのプラスチック製バッグに設ける空気抜き弁であって、プラスチック製バッグの側壁シートにバッグ内部の空気を外部に抜くための第一の孔を設け、前記第一の孔を覆う状態で周囲を前記側壁シートの外側表面に接着させた可撓性の弁体シートを備え、該弁体シートには前記第一の孔と重畳しない位置に第二の孔を設けて前記側壁シートと前記弁体シートによって弁室を構成しており、バッグ内外の圧力差に応じて前記弁体シートが前記側壁シートに対して接離し、バッグ内部過圧時には前記弁体シートが前記側壁シートから離れた状態でバッグ内部の空気が前記第一の孔から前記弁室を通って前記第二の孔より外部に放出される一方、バッグ内部負圧時には前記弁体シートが前記側壁シートに接触して前記第一の孔を閉塞する点にある。かかる構成により、バッグ内部過圧時には空気抜き弁を介してプラスチック製バッグの内部の空気を外部に抜くことができ、またバッグ内部負圧時には第一の孔を閉塞して外部からの空気の浸入を防止できるので、バッグ内部を粗飼料のサイレージ化に適した偏性嫌気性雰囲気に保つことができるようになる。
【0009】
また上記構成において、前記空気抜き弁は前記側壁シートの周縁部に設けられ、粗飼料を収容した前記プラスチック製バッグが上下に複数積載された状態で、前記空気抜き弁は上段又は下段の前記プラスチック製バッグに当たらず、バッグ内外の圧力差に応じて前記弁体シートが前記側壁シートに対して接離可能である構成とすることが好ましい。これにより、複数のプラスチック製バッグを上下に複数積載した状態の各バッグにおいて粗飼料のサイレージ化を行うことができるようになる。
【0010】
またプラスチック製バッグにあっては、上記空気抜き弁を備えることにより、粗飼料を収納した状態での乳酸発酵時にバッグ内部の空気又は有機性ガスを、上記空気抜き弁を介して外部に放出することができるようになる。プラスチック製バッグに設ける空気抜き弁はひとつであっても良いが、バッグ内部の雰囲気を均等な偏性嫌気性雰囲気に保つためにはバッグの周面に対して複数の空気抜き弁を設けることがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る空気抜き弁によれば、バッグ内外の圧力差に応じて弁体シートが側壁シートに対して接離し、弁体シートが側壁シートから離れた状態でバッグ内部の空気が第一の孔から弁体シートと側壁シートの間の空間を通って第二の孔から外部に放出される一方、弁体シートが側壁シートに接触した状態で第一の孔が閉塞され、バッグ外部からの空気の浸入が防止されるので、プラスチック製バッグの内部を粗飼料サイレージの乳酸発酵に適した雰囲気に保つことができ、プラスチック製バッグによる粗飼料サイレージの調整が可能になる。そして発酵終了後はサイレージを外気に晒すことなく、プラスチック製バッグに詰めたままで輸送できるので、サイレージの変敗を生じさせることがなく、サイレージの利用時に発生するロスを低減できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面に基づいて本発明の好ましい実施形態を詳述する。図1及び図2は粗飼料サイレージを調整するためのプラスチック製バッグ1を示す図であり、図1はその斜視図を、図2は粗飼料を充填して密封した状態のバッグ側面図である。プラスチック製バッグ1は、例えばビニールなどの柔軟性のある合成樹脂シートから成り、表裏一対の側壁シート2,2によって袋状のバッグとして構成され、開口部3からバッグ内に粗飼料を入れたり、又は取り出すことができるようになっている。このプラスチック製バッグ1の開口部3には開口縁に沿ってレールチャック4が設けられており、該レールチャック4を閉じることにより側壁シート2,2を互いに密着させて開口部3を封止することが可能である。このようなプラスチック製バッグ1は例えば粗飼料サイレージを収納した状態で約15〜30kgの重量となるように形成される。
【0013】
またプラスチック製バッグ1の側壁シート2の周縁部にはバッグ内部の空気を外部に抜くための空気抜き弁5が設けられる。図例では、側壁シート2の4隅のうち対角線上にある2つの隅部に設けた場合を示している。また図2に示すように空気抜き弁5は表裏一対の側壁シート2,2のそれぞれに設けることが好ましい。そして側壁シート2に設けた空気抜き弁5によりバッグ内部を偏性嫌気性雰囲気に保つように構成している。
【0014】
図3はプラスチック製バッグ1に設ける空気抜き弁5の構成を示す図であり、(a)は側壁シート2に取り付けた状態を示す平面図、(b)は空気抜き弁5の構成を示す分解した斜視図である。空気抜き弁5は、プラスチック製バッグ1の側壁シート2に設けたバッグ内部の空気を外部に抜くための第一の孔6と、第一の孔6を覆う状態で側壁シート2の外側表面に接着させた略矩形状で可撓性のある弁体シート7と、弁体シート7に設けた第二の孔8から成り、第一の孔6と第二の孔8とは互いに重畳しないように、図3(a)に示す如く平面視で所定間隔離れた位置に設けられる。そのため第一の孔6と第二の孔8の間には、弁体シート7と側壁シート2によって構成される弁室10(図4参照)が形成される。弁体シート7はその周縁部の全体が側壁シート2と接着する接着部9となっており、弁体シート7の周りからは空気漏れが生じない構成である。また弁体シート7の接着部9より内側の部分では、弁体シート7と側壁シート2は互いに接着されず、弁体シート7は側壁シート2に対して接離自在なように構成されている。このような弁体シート7はプラスチック製バッグ1の側壁シート2と同材の合成樹脂シートを用いることができる。ただし、これに限定するものではなく、弁体シート7を側壁シート2とは異なる材料で構成しても良い。
【0015】
上記空気抜き弁5における第一及び第二の孔6,8は、図3に示すようにスリット状の孔として形成しても良いし、また丸孔や角穴として形成しても良い。上述のように第一の孔6と第二の孔8は互いに重畳しない位置に形成されており、弁体シート7の側壁シート2に対する接離動作が弁の開閉動作となるように構成されている。すなわち、弁体シート7はバッグ内外の圧力差に応じて第一の孔6を開閉し、バッグ内部を偏性嫌気性雰囲気に保つのである。
【0016】
図4は空気抜き弁5の開弁状態を示す断面図であり、図5は閉弁状態を示す断面図である。上述のプラスチック製バッグ1に粗飼料を充填して乳酸発酵させる際、バッグ内部の空気や発酵初期段階で発生する有機性ガスなどによりバッグ内圧が過圧状態になると、第一の孔6から弁体シート7と側壁シート2の間に流入する空気の圧力によって弁体シート7は側壁シート2から離間するように押し上げられ、図4に示すように開弁状態となる。このとき弁体シート7と側壁シート2の間の弁室10によって空気の通路が形成され、第一の孔6と第二の孔8が連通する。そしてバッグ内部の空気又は有機性ガスは第一の孔6、弁室10及び第二の孔8を通ってバッグの外部に放出される。
【0017】
一方、バッグ内圧が負圧状態になると、弁体シート7は大気圧に押されて側壁シート2に接触した状態となり、図5に示すように閉弁状態となる。このとき、第一の孔6は弁体シート7によって閉鎖されるので、バッグ内部への外気の浸入を防止することができる。またこのとき第二の孔8も側壁シート2に密着して閉鎖されるので、外気の浸入をより効果的に防止することができる。尚、閉弁状態では、雨水や露などがバッグ内部に浸入することも防止できる。
【0018】
したがって、プラスチック製バッグ1の内部は粗飼料の乳酸発酵に適した偏性嫌気性雰囲気に保つことができ、プラスチック製バッグ1に収納した状態で良質の粗飼料サイレージを製造することができる。
【0019】
尚、バッグ内外の圧力差がない場合には弁体シート7は必ずしも第一の孔6を閉鎖するとは限らないが、そのような状態ではバッグ内部の乳酸発酵に悪影響を与える程の空気の流通はなく、特に問題となることはない。寧ろ、微量の空気を流通させることにより乳酸菌などの呼吸に必要な成分を供給できる点で有効である。
【0020】
以上のような空気抜き弁5を備えたプラスチック製バッグ1は、粗飼料サイレージを収納した状態で、図6に示すように上下に複数積載され、必要に応じて更にその上に重石などを載せて圧力を加える。そして図6の状態で粗飼料の乳酸発酵が行われる。本実施形態では複数の空気抜き弁5をプラスチック製バッグ1の側壁シート2の周縁部に設けているため、図6に示すように粗飼料を収容したプラスチック製バッグ1が上下に複数積載された状態であっても、各空気抜き弁5は上段又は下段のプラスチック製バッグ1に当たらず、バッグ内外の圧力差に応じて弁体シート7が側壁シート2に対して接離可能な位置に設けられている。したがって、積載した個々のプラスチック製バッグ1の内部を偏性嫌気性雰囲気に保つことができ、乳酸発酵を良好に行うことができる。そして発酵終了後は、各プラスチック製バッグ1をそのまま輸送することにより変敗などを生じさせることがなくなるので、ロスの少ない粗飼料サイレージの利用が可能である。
【0021】
更に上述の空気抜き弁5は比較的簡単な構成であるので、粗飼料サイレージに適したプラスチック製バッグ1を安価に提供することができる。例えば粗飼料サイレージの原材料として産業廃棄物などに含まれる樹木枝葉を使用することもあり、一部に硬い素材や針状のものが含まれる場合があると共に、また粉状のものが含まれる場合もある。そのためプラスチック製バッグ1の空気抜き弁として複雑な構造の空気遮断弁などを使用すると針状物などにより弁が損傷した場合や目詰まりした場合などのメンテナンスやバッグの交換に要するコストが高くなる。これに対して本実施形態の場合には空気抜き弁5を備えたプラスチック製バッグ1そのものを安価に提供できるので、メンテナンスやバッグの交換に要するコストは安く、極めて利便性の高いものである。そして上述の空気抜き弁5は破れるなどの損傷がない限り、繰り返し再利用できるので、更なるコスト削減を期待することができる。
【0022】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は上述した内容に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では空気抜き弁5を、側壁シート2の4隅のうち対角線上にある2つの隅部に設けた場合を例示したが、これに限られるものではなく、4隅のすべてに空気抜き弁5を設けても良いし、また側壁シート2の周縁に沿って複数の空気抜き弁5を連続的に配置しても良い。
【0023】
また弁体シート7の形状についても図例では略矩形状である場合を例示したが、これに限られるものではない。すなわち、弁体シート7は閉弁時に側壁シート2に接触して第一の孔6を閉塞することができる構成であれば良く、その形状は略矩形の他、楕円形や円形であっても良いし、また他の形状を採用しても良い。
【0024】
更に、ひとつの空気抜き弁5に対して複数の第一の孔6を設けても良いし、また複数の第二の孔8を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】粗飼料サイレージを調整するためのプラスチック製バッグの斜視図である。
【図2】粗飼料サイレージを調整するためのプラスチック製バッグに粗飼料を充填して密封した状態の側面図である。
【図3】プラスチック製バッグに設ける空気抜き弁の構成を示す図であり、(a)は側壁シートに取り付けた状態を示す平面図、(b)は空気抜き弁の構成を示す分解した斜視図である。
【図4】空気抜き弁の開弁状態を示す断面図である。
【図5】空気抜き弁の閉弁状態を示す断面図である。
【図6】プラスチック製バッグを上下に複数積載した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 プラスチック製バッグ
2 側壁シート
5 空気抜き弁
6 第一の孔
7 弁体シート
8 第二の孔
9 接着部
10 弁室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反芻家畜の粗飼料サイレージを調整するためのプラスチック製バッグに設ける空気抜き弁であって、
プラスチック製バッグの側壁シートにバッグ内部の空気を外部に抜くための第一の孔を設け、前記第一の孔を覆う状態で周囲を前記側壁シートの外側表面に接着させた可撓性の弁体シートを備え、該弁体シートには前記第一の孔と重畳しない位置に第二の孔を設けて前記側壁シートと前記弁体シートによって弁室を構成しており、
バッグ内外の圧力差に応じて前記弁体シートが前記側壁シートに対して接離し、バッグ内部過圧時には前記弁体シートが前記側壁シートから離れた状態でバッグ内部の空気が前記第一の孔から前記弁室を通って前記第二の孔より外部に放出される一方、バッグ内部負圧時には前記弁体シートが前記側壁シートに接触して前記第一の孔を閉塞することを特徴とする空気抜き弁。
【請求項2】
前記空気抜き弁は前記側壁シートの周縁部に設けられ、粗飼料を収容した前記プラスチック製バッグが上下に複数積載された状態で、前記空気抜き弁は上段又は下段の前記プラスチック製バッグに当たらず、バッグ内外の圧力差に応じて前記弁体シートが前記側壁シートに対して接離可能であることを特徴とする請求項1記載の空気抜き弁。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の空気抜き弁を備えたプラスチック製バッグであって、粗飼料を収納した状態での乳酸発酵時にバッグ内部の空気又は有機性ガスを前記空気抜き弁を介して外部に放出することを特徴とするプラスチック製バッグ。
【請求項4】
前記空気抜き弁を複数備えた請求項3記載のプラスチック製バッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−106173(P2009−106173A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280226(P2007−280226)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000217251)田中産業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】