説明

空気清浄機

【課題】 空気中の汚染物質を除去する能力が高い空気清浄機を提供すること。
【解決手段】 空気清浄機1は、筐体3、プレフィルタ5、5枚の光触媒フィルタ7―1〜7−5、6本の紫外線ランプ9−1〜9−6、及びファン11を備えている。空気清浄機1は、ファン11を駆動させることにより、筐体3の内部に、開口部3aから、光触媒フィルタ7−1〜7−5を順番に通過しながら上方に進み、仕切板19の通気孔19aを経て、開口部15から排出される空気流を発生させる。光触媒フィルタ7−1〜7−5における空気流の流速は、下流にゆくほど速い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒機能を利用して空気を浄化する空気清浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、室内又は室外の空気に含まれる汚染物質を光触媒機能により分解・除去する空気清浄機が知られている。この空気清浄機は、例えば、ブロアによってハウジング内に空気を吹き込み、その吹き込んだ空気を、光触媒機能を有する光触媒フィルタにより浄化するものである(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−088571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の空気清浄機は、空気中の汚染物質の除去能力が充分ではなかった。特に、空気中の汚染物質濃度が高い場合に、除去能力不足が一層顕著となっていた。
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、空気中の汚染物質を除去する能力が高い空気清浄機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(1)請求項1の発明は、
空気流を生じさせる送風手段と、前記空気流の中において、前記空気流の方向に対し直列配置された複数の光触媒フィルタと、前記光触媒フィルタに紫外線を照射する紫外線照射手段と、を備えるとともに、前記複数の光触媒フィルタにおける前記空気流の流速が、前記空気流の下流にゆくほど速いことを特徴とする空気清浄機を要旨とする。
【0005】
本発明の空気清浄機は、上記のように、複数の光触媒フィルタにおける空気流の流速が、空気流の下流にゆくほど速いことにより、汚染物質の分解性能が顕著に優れている。この理由は次のように考えられる。空気清浄機の上流側において、空気流の流速が速すぎると、汚染物質の大部分が光触媒フィルタの活性点に充分吸着されないまま、通過してしまう。しかし、本発明の空気清浄機では、上流での流速を遅くすることにより、汚染物質が、空気流の上流に位置する光触媒フィルタの活性点に吸着される時間を確保し、汚染物質の除去率を向上させることができる。
【0006】
また、空気流の下流では、それより上流での処理により空気中の汚染物質の濃度は低下しているから、空気中の汚染物質の大部分は、短時間で光触媒の活性点に吸着することができ、空気流の流速を遅くする必要はない。仮に、下流での流速が遅いと、単位時間当たりに光触媒フィルタの活性点に吸着する汚染物質が減り、かえって効率が低下してしまう。しかし、本発明の空気清浄機では、下流の流速を上流に比べて速くすることにより、空気の処理効率を向上させることができる。
【0007】
複数の光触媒フィルタのうち、最も上流にあるものにおける空気流の流速Vaと、最も下流にある光触媒フィルタにおける空気流の流速Vbとの比率は、Va/Vb= 0.2〜0.5の範囲が好適であり、その中でも、0.25〜0.45の範囲が好適である。また、Vaの値は0.18〜0.47m/sの範囲が好適であり、Vbの値は0.87〜2.11m/sの範囲が好適である。また、或る光触媒フィルタ(ただし、最下流のものを除く)における流速Vnと、その一つ下流にある光触媒フィルタにおける流速Vn+1との比率は、Vn/Vn+1=0.04〜0.12の範囲が好適であり、その中でも、0.06〜0.1の範囲が好適である。
【0008】
本発明において、光触媒フィルタにおける流速とは、その光触媒フィルタの位置における流路の断面全体にわたる流速の平均値をいう。
本発明における送風手段としては、空気流を発生させることができるものであれば特に限定されないが、例えば、各種のファン、ブロアなどが挙げられる。
【0009】
光触媒フィルタとしては、例えば、多孔性の基体の表面に光触媒機能層を設けたものが挙げられる。この光触媒機能層としては、光触媒活性物質(例えば、ペルオキソ基を有するアナターゼ型TiO2等の光触媒半導体金属)の微粒子を含むゾル液を基体の表面に塗布し、乾燥、焼結させたものが挙げられる。また、光触媒半導体金属としては、TiO2の他にも、ZnO、SrTiO3、CdS、CdO、CaP、InP、In23、CaAs、BaTiO3、K2NbO3、Fe23、Ta25、WO3、SnO2、Bi23、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS2、MoS3、InPb、RuO2、CeO2等がある。
【0010】
光触媒フィルタの数は、2〜8の範囲が好適であり、その中でも、3〜6の範囲が一層好適である。
紫外線照射手段としては、例えば、紫外線蛍光ランプ(紫外線ランプ)、冷陰極管、発光ダイオード等が挙げられる。紫外線照射手段が射出する紫外線の光触媒フィルタ表面における強度は、3〜7mWcm―2の範囲が好適である。また、紫外線の波長は300〜400nmの範囲が好適である。
【0011】
本発明の空気清浄機は、例えば、壁、天井、家具の構成面等に取り付けることができる。また、住宅等の各種建築物、鉄道車両、ペットハウスに設置することができる。
(2)請求項2の発明は、
前記送風手段がファンであるとともに、前記複数の光触媒フィルタが、前記ファンに向かう空気流の中に配置されていることを特徴とする請求項1記載の空気清浄機を要旨とする。
【0012】
本発明の空気清浄機において、複数の光触媒フィルタは、ファンに向かう(ファンに吸引される)空気流の中に、空気流の方向に対して直列に配置されている。このような配置により、空気流の上流にある(ファンから遠い)光触媒フィルタにおける空気流の流速は遅く、下流にある(ファンに近い)光触媒フィルタにおける流速は速い。
【0013】
この理由は、光触媒フィルタや空気流の流れを形成する壁面による抵抗(圧力損失)により、下流にゆくほど、空気の圧力が低下し(負圧が大きく)、空気の単位重量あたりの体積が増加し、その結果として、下流にゆくほど流速が大きくなるからであると推測される。
【0014】
本発明によれば、「前記複数の光触媒フィルタにおける前記空気流の流速が、前記空気流の下流にゆくほど速い」という事項を、ファンと複数の光触媒フィルタを用いた簡単な構成により実現することができる。
(3)請求項3の発明は、
前記光触媒フィルタ及び前記紫外線照射手段を収容する筐体を備え、前記ファンは、前記筐体内に前記空気流を生じさせることを特徴とする請求項2に記載の空気清浄機を要旨とする。
【0015】
本発明の空気清浄機は、多孔質のフィルタを複数枚筐体内に収容することができるが、フィルタの積層に伴い、フィルタにより生じる圧力損失も増していく。よって、空気流の上流側から下流側までの、各フィルタにおける空気流の流速を制御することが容易である。そのことにより、「前記複数の光触媒フィルタにおける前記空気流の流速が、前記空気流の下流にゆくほど速い」という事項を確実に実現させることができる。
【0016】
本発明におけるファンは、例えば、筐体内のうち、筐体内を流れる空気流の出口となる位置に設置することができる。この場合、筐体内を流れる空気流は、ファンに向かう空気流となり、筐体における空気の入り口では空気流の流速が最も遅くなり、空気流の出口(すなわちファンの近傍)で流速が最も速くなる。また、ファンを出口におくことにより、汚染物質、たとえば煙草ヤニの付着などによるファンの故障を避けられるうえファン本来の寿命が期待できる。
【0017】
本発明において、筐体内に、空気の流路の断面積を小さくする絞り部材を設けることができる。この絞り部材の形状は、例えば、その主平面が空気流の方向と直交する板状部材とすることができる。
【0018】
絞り部材は、例えば、筐体の内壁に立設することができる。絞り部材の取付位置は例えば、図1における仕切板17のように、下流部(例えば、最も下流にある光触媒フィルタとファンとの間)とすることができ、あるいは、図10に示すように、複数の絞り部材33−1〜33−5を空気流の方向に対し直列配置することができる。図10に示すように絞り部材を複数配置した場合は、空気流の方向から見た絞り部材の面積が、下流にゆくほど大きくなるようにすることができる。絞り部材は、例えば、光触媒フィルタの表面のうち、空気流の方向と直交する面の一部を占めるように設置することができる。
【0019】
空気流の方向から見て、筐体の内側のうち、絞り部材により覆われる部分の面積と、それ以外の部分(空気の流路)の面積との比率は、1:0.1〜0.4の範囲が好適である。上記のような絞り部材を備えることにより、空気流の下流における流速を、上流に比べて一層速くすることができる。
【0020】
前記筐体の外面には、例えば、鏡や装飾物または広告等を取り付けることができる。また、筐体の内面には、例えば、空気中の汚染物質を吸着する吸着剤を取り付けることができる。また、筐体の内面に、紫外線を反射する層を設けることができる。こうすることにより、筐体の内面で反射した紫外線が光触媒フィルタに入射するので、光触媒反応による汚染物質の分解を一層促進することができる。
(4)請求項4の発明は、
前記筐体が、縦方向及び横方向に比べて奥行き方向に薄い薄箱形状を有し、前記ファンは、その軸方向が前記筐体の奥行き方向と略平行となるように前記筐体内に取り付けられ、前記光触媒フィルタと前記紫外線照射手段は、前記筐体内で、前記縦方向又は横方向に対し交互に直列配置されていることを特徴とする請求項3に記載の空気清浄機を要旨とする。
【0021】
本発明の空気清浄機において、ファンは、その軸方向が筐体の奥行き方向と略平行となるように筐体内に取り付けられている。ファンの寸法は、その軸方向において最も小さくなるから、上記の向きにファンを取り付けることにより、筐体の奥行き方向の厚みを薄くすることができる。つまり、本発明によれば、筐体の奥行き方向に薄型化することができる。筐体の奥行き厚みは、ファンの奥行き厚みの150%〜350%の範囲が好適である。
【0022】
また、発明の空気清浄機では、図1に示すように、光触媒フィルタ7−1〜7−5と紫外線照射手段9−1〜9−6とが、筐体3内で、縦方向又は横方向に対し交互に直列配置されることにより、空気清浄機の奥行き方向を薄くすることができる。
【0023】
さらに、光触媒フィルタと紫外線照射手段が、交互に直列配置されることにより、光触媒フィルタに対し、効率的に紫外線を照射することができ、汚染物質の除去性能が高い。
(5)請求項5の発明は、
前記光触媒フィルタは、前記筐体内における前記空気流の流路の断面全体をカバーすることを特徴とする請求項3又は4に記載に空気清浄機を要旨とする。
【0024】
本発明では、光触媒フィルタが、筐体内における空気流の流路の断面全体をカバーしているので、筐体内を流れる空気は必ず光触媒フィルタを通過する。そのため、空気が光触媒フィルタによる光触媒反応を受けずに素通りしてしまうようなことがない。
(6)請求項6の発明は、
前記送風手段、前記光触媒フィルタ、及び前記紫外線照射手段のうちの1以上を含み、相互の結合/分離が可能なユニットから構成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気清浄機を要旨とする。
【0025】
本発明の空気清浄機は、設置場所の状況や、必要とされる汚染物質の除去能力に応じて、その構成を変化させることができる。例えば、空気清浄機を設置する場所のスペースが限られていたり、汚染物質の濃度が高くない場合は、光触媒フィルタの数が少なく、空気清浄機全体のサイズが小さくなるように、ユニットを組み合わせることができる。また、例えば、空気清浄機を設置する場所における汚染物質の濃度が高い場合は、例えば、光触媒フィルタを含むユニットを多数組み合わせたり、光触媒フィルタを多く含むユニットを組み込むことにより、汚染物質の除去能力が高い空気清浄機とすることができる。
【0026】
本発明におけるユニットとしては、
例えば、送風手段、光触媒フィルタ、及び紫外線照射手段を含むユニット、光触媒フィルタと紫外線照射手段を含むユニット等がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0028】
a)まず、空気清浄機1の構成を図1を用いて説明する。図1(a)は空気清浄機1の正面図であり、図1(b)は縦断面図である。
空気清浄機1は、筐体3、プレフィルタ5、5枚の光触媒フィルタ7―1〜7−5、6本の紫外線ランプ(紫外線照射手段)9−1〜9−6、及びファン11を備えている。
【0029】
上記筐体3は、縦方向(図1(a)における上下方向)、及び横方向(図1(a)における左右方向)に比べて奥行き方向(図1(a)において紙面に直交する方向)が薄い薄箱状の部材であり、その底面が開口部3aとなっているとともに、その背面3c側の上部に開口部15を備えている。また、筐体3の内部における上方には、背面3cに立設され、筐体3の厚み方向における途中まで伸びる水平方向の仕切板17と、筐体3の上面3eから仕切板17の端部に至る垂直方向の仕切板19とが設けられている。仕切板19には通気孔19aが設けられている。また、筐体3の側面3dにおける内側には、一対の板状部材が突出して成る光触媒フィルタホルダー21と、ランプソケット23とがそれぞれ複数設けられている。
【0030】
上記プレフィルタ5は、筐体3の開口部3a全体をカバーするように設けられている。このプレフィルタ5は、三菱製紙(株)製の商品名:プレフィルターAである。
上記光触媒フィルタ7―1〜7−5は、東芝セラミックス(株)製のセラミックス脱臭フィルタである。この光触媒フィルタ7―1〜7−5は、多孔質の基材の表面に光触媒機能層を形成したものであって、紫外線の照射下で汚染物質を分解する機能を有する。光触媒フィルタ7―1〜7−5は、それぞれ、板状の形状を有しており、その主平面が水平となるように、筐体3の内部に固定される。光触媒フィルタ7―1〜7−5の固定は、その両端を光触媒フィルタホルダー21に挿入することで行う。5枚の光触媒フィルタ7―1〜7−5は、下から、光触媒フィルタ7―1、光触媒フィルタ7―2、光触媒フィルタ7―3、光触媒フィルタ7―4、光触媒フィルタ7―5の順に取り付けられており、光触媒フィルタ7―1〜7−5同士の間隔は等間隔である。筐体3の内部に取り付けられた光触媒フィルタ7―1〜7−5は、筐体3の内部において、筐体3の水平方向での断面全体をカバーする。
【0031】
上記紫外線ランプ9−1〜9−6は、東芝ライテック(株)製の紫外線ランプFL8BLB(型番)であり、円筒形の部材である。紫外線ランプ9−1〜9−6は、その軸方向が水平となり、且つ筐体3の正面3b及び背面3cと平行となるように筐体3の内部に取り付けられる。また、紫外線ランプ9−1〜9−6と上述した光触媒フィルタ7−1〜7−5とは、鉛直方向に対し、交互に直列に配置される。つまり、紫外線ランプ9−1の取付位置は光触媒フィルタ7−1の下方であり、紫外線ランプ9−2の取付位置は光触媒フィルタ7−1と7−2の間であり、紫外線ランプ9−3の取付位置は光触媒フィルタ7−2と7−3の間であり、紫外線ランプ9−4の取付位置は光触媒フィルタ7−3と7−4の間であり、紫外線ランプ9−5の取付位置は光触媒フィルタ7−4と7−5の間であり、紫外線ランプ9−6の取付位置は光触媒フィルタ7−5の上方である。そして、紫外線ランプ9−1〜9−6は、隣接する光触媒フィルタ7−1〜7−5との間隔が一定値となるように配置される。紫外線ランプ9−1〜9−6は、その両端をランプソケット23に差し込むことにより固定されるとともに、図示しない電源部から電力を供給され、紫外線を照射可能となる。
【0032】
上記ファン11は、日本サーボ(株)製の送風機E0515H12B8(型番)である。このファン11は、筐体3の内部のうち、仕切板19の背面側に取り付けられる。ファン11の取付向きは、その軸方向が、筐体3の奥行き方向に直交する向きであり、図1(b)において、左方から開口部15へ向かう空気流を生じさせる向きである。
【0033】
b)次に、空気清浄機1が奏する作用効果を図1を用いて説明する。
空気清浄機1は、ファン11を駆動させることにより、筐体3の内部に、下から上に向かう空気流を生じさせることができる。すなわち、空気は、開口部3aから筐体3の内部に入り込み、プレフィルタ5、光触媒フィルタ7−1〜7−5を順番に通過しながら上方に進み、仕切板19の通気孔19aを経て、開口部15から排出される。このとき、光触媒フィルタ7−1〜7−5は、紫外線ランプ9−1〜9−6による紫外線照射を受けて光触媒活性を有しているので、光触媒フィルタ7−1〜7−5を通過する空気中に含まれる汚染物質を分解する。
【0034】
本実施例1の空気清浄機1において、光触媒フィルタ7−1〜7−5は、空気流の上流から下流に向かう方向(すなわち下から上に向かう方向)に沿って、光触媒フィルタ7−1、7−2、7−3、7−4、7−5の順に並んでいるが、光触媒フィルタ7−1〜7−5における空気流の流速は、下流にゆくほど速い。つまり、光触媒フィルタ7−1における空気流の流速は最も遅く、光触媒フィルタ7−2、7−3、7−4と進むにつれて流速は次第に速くなり、光触媒フィルタ7−5において最も速い。
【0035】
このように流速が、下流にゆくほど速くなるのは、光触媒フィルタ7−1〜7−5や筐体3の内壁による圧力損失により、下流にゆくほど負圧が大きくなるからであり、また、筐体3内での空気流の流路が、開口部3aから仕切板17までは、筐体3の水平方向での断面全体であるのに対し、それより下流では、仕切板19の通気孔19aに流路が絞られているためである。
【0036】
本実施例1の空気清浄機1は、上記のように光触媒フィルタ7−1、7−2、7−3、7−4、7−5における空気流の流速が変化することにより、汚染物質の分解性能が顕著に優れている。
【0037】
この理由は次のように考えられる。空気清浄機の上流側において、空気流の流速が速すぎると、汚染物質の大部分が光触媒フィルタの活性点に充分吸着されないまま、通過してしまう。しかし、本実施例1の空気清浄機1では、上流での流速を遅くすることにより、汚染物質が上流の光触媒フィルタの活性点に吸着される時間を確保し、汚染物質の除去率を向上させることができる。
【0038】
また、空気流の下流では、それより上流での処理により空気中の汚染物質の濃度は低下しているから、空気中の汚染物質の大部分は、短時間で光触媒の活性点に吸着することができ、空気流の流速を遅くしなくてもよい。仮に、下流での流速が遅いと、単位時間当たりに吸着する汚染物質が減り、かえって効率が低下してしまう。しかし、本実施例1の空気清浄機1では、下流の流速を上流に比べて速くすることにより、空気の処理効率を向上させることができる。
【0039】
c)次に、本実施例1の空気清浄機1の奏する効果を確かめるために行った試験について説明する。
(i)筐体3内の流速の測定
図1に示す位置S1〜S15において、筐体3の正面3bに孔を開けた。S1〜S5は空気流における下流であり、S6〜S10は中流であり、S11〜S15は上流である。S1〜S15に設けた孔のそれぞれから、KANOMAX社製の熱線式携帯風速計CLIMOMASTER Model6511(型番)のプローブを筐体3の奥行き方向での中心まで差し入れて風速を測定した。測定は、ファン11の回転数を低速としたとき(L―モード)、中速としたとき(M−モード)、高速としたとき(H−モード)のそれぞれにおいて行った。また、S1〜S15のうちの一つで風速測定を行うときは、他の孔は閉じておいた。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
上記表1に示すように、本実施例1の空気清浄機1では、上流ほど空気流の流速が遅く、下流ほど流速が速くなっていることが確認できた。
また、比較例として、図2に示す空気清浄機101を作成した。この空気清浄機101は、空気清浄機1の上下を逆にし、且つ、ファン11の取付けの向きを表裏反対にしたものである。従って、この空気清浄機101において、空気はファン11により、開口部15から筐体3の内部に吹き込まれ、光触媒フィルタ7−5、7−4、7−3、7−2、7−1を順番に通過しながら上方に進み、開口部3aから排出される。この空気清浄機101にも、図2に示す位置S1〜S15において、筐体3の正面3bに孔を開けた。S1〜S5は空気流における下流であり、S6〜S10は中流であり、S11〜S15は上流である。空気清浄機101についても、空気清浄機1と同様に空気流の流速を測定した。その結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
上記表2に示すように、比較例の空気清浄機101では、上流ほど空気流の流速が速く、下流ほど流速が遅くなっていた。
(ii)筐体内の静圧の測定
図1に示す位置S1〜S15に設けた孔のそれぞれに、(株)柴田社製の静圧測定計ISA−17(型番)のプローブを設置し静圧を測定した。測定は、ファン11の回転数を低速としたとき(L―モード)、中速としたとき(M−モード)、高速としたとき(H−モード)のそれぞれにおいて行った。また、S1〜S15のうちの一つで風速測定を行うときは、他の孔は閉じておいた。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
上記表3に示すように、本実施例1の空気清浄機1では、上流ほど負圧の値が低く、下流ほど負圧の値が高くなっていることが確認できた。
(iii)脱臭性能の試験
本実施例1の空気清浄機1と、220ppm濃度の悪臭ガス(アセトアルデヒド)とをJEM規格に基づいた容量1m3の反応容器に入れて密閉し、空気清浄機1の運転を開始した。そして、反応容器内でのアセトアルデヒド濃度を、INNOVA社製のマルチガスモニター 1312(型番)を用いて継続的に測定した。実験は、空気清浄機1の運転条件が、L―モード、M−モード、Hモードのそれぞれの場合において行った。また、比較例の空気清浄機101についても、空気清浄機1の場合と同様に試験を行った。
【0046】
本実施例1の空気清浄機1を用いた場合のアセトアルデヒド濃度変化を図3(a)に示す。図3(a)において○は空気清浄機1の運転条件がL−モードである場合の濃度変化であり、△はM−モードである場合の濃度変化であり、□はH―モードである場合の濃度変化である。
【0047】
また、比較例の空気清浄機101を用いた場合のアセトアルデヒド濃度変化を図3(b)に示す。図3(b)において○は空気清浄機1の運転条件がL−モードである場合の濃度変化であり、△はM−モードである場合の濃度変化であり、□はH―モードである場合の濃度変化である。
【0048】
図3のグラフにおける傾き、すなわち、(アセトアルデヒド濃度の減少量)/(測定開始から終了までの時間)を算出し、それを反応速度とした。その結果を表4に示す。
【0049】
【表4】

【0050】
上記表4に示すように、L−モード、M−モード、H―モードのいずれの場合においても、本実施例1の空気清浄機1の反応速度は、比較例の空気清浄機101の反応速度よりも顕著に大きかった。空気清浄機1と空気清浄機101は、構成する部材自体は全く同一であり、相違するのは、空気清浄機1では、光触媒フィルタ7−1〜7−5における空気流の流速が下流にゆくほど速いのに対し、空気清浄機101では、その逆であるという点のみである。よって、上記の実験結果から、光触媒フィルタ7−1〜7−5における空気流の流速を空気流の下流にゆくほど速くすることにより、汚染物質の反応速度が顕著に向上することが確かめられた。
(iv) 2−プロパノールを分解したときの中間生成物であるアセトンの処理速度に関する試験
上記(iii)と同様の反応容器に、本実施例1の空気清浄機1と、0.3mM濃度の2−プロパノールを入れて密閉し、空気清浄機1の運転を開始した。そして、反応容器内での2−プロパノール濃度と、2−プロパノールを分解したときの中間生成物であるアセトンの濃度とを、島津のガスクロマトグラフィー、GC−14Bを用いて継続的に測定した。測定は、空気清浄機1に取り付けた光触媒フィルタの枚数が1枚のとき、2枚のとき、4枚のとき、5枚のときのそれぞれの場合について行った。尚、光触媒フィルタが1枚のときとは、光触媒フィルタ7−1〜1−5のうちの7−1のみを残した状態であり、光触媒フィルタが2枚のときとは、光触媒フィルタ7−1〜1−5のうちの7−1と7−2を残した状態であり、光触媒フィルタが4枚のときとは、光触媒フィルタ7−1〜1−5のうちの7−1と7−2と7−3と7−4とを残した状態である。
【0051】
その結果を表5、図8、及び図9に示す。尚、表5は、2−プロパノールの初期濃度を100%として表したものであり、図8、9は濃度(単位はμM)で表したものである、
【0052】
【表5】

【0053】
表5、図8、及び図9に示すように、本実施例1の空気清浄機1は、2−プロパノールを迅速に分解することができ、また、2−プロパノールを分解したときの中間生成物であるアセトンも、迅速に分解することが確認できた。
【0054】
特に、光触媒フィルタの枚数が増すにつれ、2−プロパノール及びアセトンの分解能力が一層向上することが確認できた。
さらに、光触媒フィルタの枚数が増すにつれ、アセトン量/反応した2―プロパノール量の比率が小さくなった。すなわち、光触媒フィルタの枚数を増すことにより、中間生成物を減少させることができる。
【実施例2】
【0055】
本実施例2の空気清浄機1の構成は、基本的には前記実施例1と同様である。但し、本実施例2では、図4に示すように、筐体3の背面3cではなく、上面3eに開口部25を備えている。
【0056】
そのため、本実施例2の空気清浄機1では、図4に示すように、開口部3aから取り入れられ、筐体3の内部を上昇した空気は、仕切板19よりも正面側に入り、そこから、仕切板19の通気孔19aを背面側に向けて進み、さらに、ファン11によって開口部25から排出される。
【0057】
本実施例2の空気清浄機1は、前記実施例1と同様の効果を奏するとともに、筐体3の背面3cを壁面などに密着させたときでも、空気の流動が妨げられないという効果を奏する。
【実施例3】
【0058】
本実施例3の空気清浄機は、図5に示す基本モジュール27単独、あるいは、基本モジュール27に、図6に示す追加モジュール29を1以上組み合わせて構成される。尚、図5(a)は基本モジュール27の正面図であり、図5(b)は縦断面図である。また、図6(a)は追加モジュール29の正面図であり、図6(b)は縦断面図である。
【0059】
基本モジュール27の構成は、光触媒フィルタが、光触媒フィルタ7−3、7−4の2枚であり、紫外線ランプが、紫外線ランプ9−3〜9−5の3本であること以外は、前記実施例2の空気清浄機1と同様である。
【0060】
追加モジュール29は、前記実施例1の空気清浄機1のうち、光触媒フィルタ7−2よりも下方の部分を切り出した構成を有している(図1参照)。追加モジュール29の筐体31は、その底面が開口部31aとなっているとともに、その上面が開口部3
1eとなっている。
【0061】
基本モジュール27は、それ自体でも、前記実施例1の空気清浄機1と同様の作用効果を奏する(ただし、実施例1の空気清浄機1は、光触媒フィルタの枚数が5枚であることにより、汚染物質の除去能力は一層高い)。
【0062】
また、基本モジュール27は、追加モジュール29と組み合わせることができる。つまり、図7(a)における拡大図に示すように、追加モジュール29の筐体31における上部を、基本モジュール27の筐体3における下部の中に差し込み、両者を結合することができる。このとき、基本モジュール27のプレフィルタ5は外しておく。尚、組み合わせる追加モジュール29の数は1個には限定されず、基本モジュール27と組み合わせた追加モジュール29の下側に、更に別の追加モジュール29を組み合わせることもできる。
【0063】
基本モジュール27と追加モジュール29との組み合わせは、全体として、空気清浄機の作用効果を奏する。つまり、追加モジュール29の底面にある開口部31aから取り入れられた空気は、追加モジュール29内の光触媒フィルタ7−1、7−2を通過しながら上昇してゆき、基本モジュール27の底面における開口部3a、及び追加モジュール29の上面における開口部31eを通り、基本モジュール27の内部に入る。さらに、空気は、基本モジュール27内の光触媒フィルタ7−3、7−4を通過しながら上昇してゆき、ファン11により排出される。追加モジュール29内の光触媒フィルタ7−1、7−2、及び基本モジュール27内の光触媒フィルタ7−3、7−4は、それらを通過してゆく空気中の汚染物質を分解する。
【0064】
本実施例3の空気清浄機は、それを設置する場所の条件に応じて、その構成を変化させることができる。つまり、設置する場所のスペースが限られていたり、汚染物質の濃度が高くない場合は、基本モジュール27のみを空気清浄機として設置することができる。また、設置する場所における汚染物質の濃度が高い場合や、短時間で汚染物質を除去する必要がある場合は、基本モジュール27と1個以上の追加モジュール29とを組み合わせることにより、汚染物質の除去能力を高めることができる。
【実施例4】
【0065】
本実施例4の空気清浄機1の構成は基本的には前記実施例1と同様であるが、図10に示すように、筐体3の内部に、板状部材である絞り部材33−1〜33−5を備えている。絞り部材33−1〜33−5は、それぞれ、筐体3の背面3cに立設され、筐体3の一方の側面3dから他方の側面3dまで達している。また、絞り部材33−1の位置は光触媒フィルタ7−1の下流側であり、絞り部材33−2の位置は光触媒フィルタ7−2の下流側であり、絞り部材33−3の位置は光触媒フィルタ7−3の下流側であり、絞り部材33−4の位置は光触媒フィルタ7−4の下流側であり、絞り部材33−5の位置は光触媒フィルタ7−5の下流側である。そして、絞り部材33−1〜33−5の高さは、下流にゆくほど徐々に高くなっている。そのため、筐体3内において、絞り部材33−1〜33−5により塞がれていない部分(絞り部材33−1〜33−5と正面3bとの間の部分)の面積は、下流にゆくほど狭くなっている。
【0066】
本実施例4の空気清浄機1は、上記のような絞り部材33−1〜33−5を備えることにより、下流における空気流の流速を、上流に比べて一層速くすることができ、その結果として、汚染物質の除去能力が一層高い。
【0067】
尚、本発明は、上記実施例に制限されるものではない。
例えば、上記実施例1〜4において、光触媒フィルタ7−1〜7−5の空孔率を、上流ほど高く、下流にゆくほど低くすることができる。こうすることにより、下流にある光触媒フィルタでは、空孔率が低いため、空気の流路が細くなり、空気の流速が一層速くなる。光触媒フィルタの空孔率は、70〜90%の範囲が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例の空気清浄機の構成を表す説明図であって、(a)は空気清浄機の正面図であり、(b)は空気清浄機の縦断面図である。
【図2】比較例の空気清浄機の構成を表す説明図であって、(a)は空気清浄機の正面図であり、(b)は空気清浄機の縦断面図である。
【図3】アセトアルデヒドに対する空気清浄機の反応速度を表すグラフであって、(a)は実施例の空気清浄機についてであり、(b)は比較例の空気清浄機についてである。
【図4】実施例の空気清浄機の構成を表す説明図であって、(a)は空気清浄機の正面図であり、(b)は空気清浄機の縦断面図である。
【図5】実施例の基本ユニットの構成を表す説明図であって、(a)は基本ユニットの正面図であり、(b)は基本ユニットの縦断面図である。
【図6】実施例の追加ユニットの構成を表す説明図であって、(a)は追加ユニットの正面図であり、(b)は追加ユニットの縦断面図である。
【図7】基本ユニットと追加ユニットを組み合わせた状態を表す説明図であって、(a)は正面図であり、(b)は縦断面図である。
【図8】実施例の空気清浄機を動作させたときの2プロパノール濃度の推移を表すグラフである。
【図9】実施例の空気清浄機を動作させたときのアセトン濃度の推移を表すグラフである。
【図10】実施例の空気清浄機の構成を表す説明図であって、(a)は空気清浄機の正面図であり、(b)は空気清浄機の縦断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1、101・・・空気清浄機
3、31・・・筐体
3a、31a・・・開口部
3b・・・正面
3c・・・背面
3d・・・側面
3e・・・上面
5・・・プレフィルタ
7―1〜7−5・・・光触媒フィルタ
9−1〜9−6・・・紫外線ランプ
11・・・ファン
15、25・・・開口部
17、19・・・仕切板
19a・・・通気孔
27・・・基本ユニット
29・・・追加ユニット
33−1〜33−5:絞り部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気流を生じさせる送風手段と、
前記空気流の中において、前記空気流の方向に対し直列配置された複数の光触媒フィルタと、
前記光触媒フィルタに紫外線を照射する紫外線照射手段と、を備えるとともに、
前記複数の光触媒フィルタにおける前記空気流の流速が、前記空気流の下流にゆくほど速いことを特徴とする空気清浄機。
【請求項2】
前記送風手段がファンであるとともに、
前記複数の光触媒フィルタが、前記ファンに向かう空気流の中に配置されていることを特徴とする請求項1記載の空気清浄機。
【請求項3】
前記光触媒フィルタ及び前記紫外線照射手段を収容する筐体を備え、
前記ファンは、前記筐体内に前記空気流を生じさせることを特徴とする請求項2に記載の空気清浄機。
【請求項4】
前記筐体が、縦方向及び横方向に比べて奥行き方向に薄い薄箱形状を有し、
前記ファンは、その軸方向が前記筐体の奥行き方向と略平行となるように前記筐体内に取り付けられ、
前記光触媒フィルタと前記紫外線照射手段は、前記筐体内で、前記縦方向又は横方向に対し交互に直列配置されていることを特徴とする請求項3に記載の空気清浄機。
【請求項5】
前記光触媒フィルタは、前記筐体内における前記空気流の流路の断面全体をカバーすることを特徴とする請求項3又は4に記載に空気清浄機。
【請求項6】
前記送風手段、前記光触媒フィルタ、及び前記紫外線照射手段のうちの1以上を含み、相互の結合/分離が可能なユニットから構成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気清浄機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−29639(P2007−29639A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220984(P2005−220984)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】