説明

空気電池用空気極及びその製造方法、並びに空気電池

【課題】空気極に添加された触媒の活性点を増やして触媒機能を充分に発揮させ、空気電池の高エネルギー密度化の実現を可能とする空気極及び空気電池を提供する。
【解決手段】空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを備える空気電池を構成する空気極であって、磁石を含有することを特徴とする空気電池用空気極、該空気極を備える空気電池、並びに、空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを備える空気電池を構成する空気極の製造方法であって、少なくとも磁石材料を含む空気極材料を成形した空気極成形体に対して、磁化処理を施すことを特徴とする空気電池用空気極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池用の空気極及びその製造方法、並びに、前記空気極を備える空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質として酸素を利用する空気電池は、エネルギー密度が高い、小型化及び軽量化が容易である等の利点を有する。そのため、現在、広く使用されているリチウム二次電池を超える高容量電池として注目を集めている。空気電池としては、例えば、リチウム空気電池、マグネシウム空気電池、亜鉛空気電池等の金属空気電池が知られている。
金属空気電池は、空気極において酸素の酸化還元反応が行われ、負極において負極に含まれる金属の酸化還元反応が行われることで、充放電が可能である。例えば、伝導イオンが一価の金属イオンである金属空気電池(二次電池)では、以下のような充放電反応が進むと考えられる。尚、下記式においてMは金属種を示す。
【0003】
[放電時]
負極 : M → M + e
正極 : 2M + O + 2e → M
[充電時]
負極 : M + e → M
正極 : M → 2M + O + 2e
【0004】
金属空気電池は、例えば、導電性材料及び結着材を含有する空気極層と、空気極層の集電を行う空気極集電体と、負極活物質(金属や合金等)からなる負極層と、負極層の集電を行う負極集電体と、空気極層及び負極層の間に介在する電解質とを有する。
空気極における放電時及び/又は充電時の電極反応を促進させ、電池特性を向上させるべく、空気極への触媒の添加が行われている(例えば、特許文献1や特許文献2等)。
具体的には、特許文献1には、炭素質物と、該炭素質物の表面に担持された触媒と、結着剤とを含む酸素還元能を有する層が開示されている。特許文献1において、上記触媒としては、例えば、マンガン酸化物、ランタンストロンチウムコバルト酸化物等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−286414号公報
【特許文献2】特開2010−108622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のように、空気極に触媒を含有させることによって、充放電特性の改善を図ることはできる。しかしながら、空気電池の高エネルギー密度化を実現するためには、さらなる放電容量や充電容量の増大が必要である。
【0007】
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、空気極に添加された触媒の活性点を増やして触媒機能を充分に発揮させ、空気電池の高エネルギー密度化の実現を可能とする空気極及び空気電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の空気電池用空気極は、空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを備える空気電池を構成する空気極であって、磁石を含有することを特徴とする。
本発明の空気電池用空気極は、磁石を含有しているため、空気極における酸素濃度(活量)を増加させることができる。その結果、放電時の空気極における反応が促進され、放電容量を増大させることができる。
【0009】
前記磁石としては、例えば、硬磁性材料が挙げられる。具体的な硬磁性材料としては、例えば、NdFeB系磁石が挙げられる。
前記磁石として前記NdFeB系磁石を用いる場合、前記空気極は、前記NdFeB系磁石を10重量%以上60重量%以下含有することが好ましい。
【0010】
本発明の空気電池は、空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを備える空気電池であって、上記本発明の空気極を備えることを特徴とするものである。
本発明の空気極を備えるため、本発明の空気電池は高い放電容量を示す。
【0011】
本発明の空気電池用空気極の製造方法は、空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを備える空気電池を構成する空気極の製造方法であって、少なくとも磁石材料を含む空気極材料を成形した空気極成形体に対して、磁化処理を施すことを特徴とする。
本発明の空気電池用空気極の製造方法は、磁石材料の磁化処理条件を容易に調整することが可能であり、生産性に優れる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、空気極における酸素濃度を高くすることができ、空気極に添加された触媒に充分な触媒機能を発揮させ、空気電池の高エネルギー密度化を実現させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の空気電池の一形態例を示す断面図である。
【図2】実施例及び比較例における空気極(空気極層)の製造プロセスA〜Cを説明する図である。
【図3】実施例及び比較例における放電容量と放電電圧との関係を示す曲線である。
【図4】実施例及び比較例における放電容量と放電電圧との関係を示す曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の空気電池用空気極は、空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを備える空気電池を構成する空気極であって、磁石を含有することを特徴とする。
【0015】
以下、本発明の空気電池用空気極及び空気電池について、図を参照しながら説明する。
図1において、空気電池10は、空気極(正極)1と、負極2とが、空気極缶6及び負極缶7で構成される電池ケース内に収容されている。空気極1と負極2は、電解質3が、空気極1と負極2との間に介在するように、積層されている。空気極缶6及び負極缶7は、ガスケット8により固定されており、電池ケース内の密封性が確保されている。
【0016】
図1において、空気極1は、空気極層5と、空気極層5の集電を行う空気極集電体4とから構成されている。
空気極層5は、酸素の酸化還元反応の場であり、磁石、導電性材料(例えばカーボンブラック)、及び結着材(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)を含む空気極材料から形成されている。
空気極集電体4は、多孔質構造を有する導電性材料(例えば、金属メッシュ)から構成されており、空気極缶6に設けられた空気孔9から取り込まれた空気が、空気集電体4を経て空気極層5に供給される。
【0017】
負極2は、伝導イオン種である金属イオンを放出・取り込み可能な負極活物質(例えば、Li金属)を含む。
【0018】
電解質3は、非水溶媒(例えば、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド)に支持電解質塩(例えば、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド)を溶解させた電解液を含み、該電解液が空気極1と負極2との間に配置された絶縁性多孔質体からなるセパレータ(図示せず)に含浸されている。
【0019】
本発明者らの鋭意検討の結果、空気極を構成する材料として、磁石(磁性材料)を用いることによって、空気電池の放電容量を向上させることが可能であることが見出された。これは、空気極の活物質である酸素(酸素ガス)が常磁性を示すことから、磁石を含む空気極は、酸素を取り込みやすく、酸素濃度(活量)が増加するためと考えられる。空気極における酸素濃度が増加する結果、放電時の空気極において、触媒性能が効率良く発揮されて金属酸化物(或いは金属水酸化物)の析出等の電極反応が促進され、空気電池の放電容量が増加する。空気極における酸素濃度の増加によって、さらには、酸素還元の過電圧が低下して空気電池の放電電圧も増加すると考えられる。
【0020】
尚、本発明において、空気電池とは、正極活物質として酸素を用いるものであれば特に限定されず、一次電池であっても二次電池であってもよい。空気電池の具体例として、例えば、リチウム空気電池、ナトリウム空気電池、カリウム空気電池、マグネシウム空気電池、カルシウム空気電池、亜鉛空気電池、アルミニウム空気電池等の金属空気電池を挙げることができる。
【0021】
以下、本発明の空気電池用空気極及び空気電池の各構成について詳しく説明する。
(空気極)
空気極は、通常、磁石と、磁石に加えて導電性材料を含む空気極層を備える。空気極層では、供給された酸素が金属イオンと反応し、導電性材料の表面に金属酸化物や金属水酸化物が生成する。空気極層は、通常、多孔質構造を有し、活物質である酸素の拡散性が確保される。
【0022】
磁石としては特に限定されず、軟磁性材料であっても硬磁性材料であってもよいが、安定した磁気を示し、上記したような本発明の効果を長期間にわたって発現することから、硬磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、例えば、Fe、軟鉄、スピネルフェライト、AFe(A=Mn、Ni、CuZn等)等を挙げることができる。また、硬磁性材料としては、例えば、アルニコ系磁石、フェライト系磁石、サマリウムコバルト系磁石、ネオジウム鉄ボロン系磁石(NdFeB系磁石)、サマリウム鉄窒素系磁石、Fe−Pt合金磁石、Fe−Co合金磁石、Fe−Pd合金磁石、Co−Pd合金磁石等が挙げられる。好ましい硬磁性材料としては、NdFeB系磁石が挙げられる。
【0023】
空気極における磁石の好ましい含有量は、用いる磁石の磁気特性や、空気極層を構成する他の材料との割合等によって異なるため、適宜設定することができる。放電容量及び放電電圧の向上の観点から、例えば、空気極層における磁石の割合は、10重量%以上80重量%未満が好ましく、特に10重量%以上60重量%以下、さらに10重量%以上40重量%以下が好ましい。磁石として、NdFeB係磁石を用いる場合には、10重量%以上60重量%以下が好ましい。
【0024】
導電性材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、導電性炭素材料が挙げられる。導電性炭素材料としては特に限定されないが、金属酸化物や金属水酸化物が生成する反応場の面積や空間の観点から、高比表面積を有する炭素材料が好ましい。
具体的には、導電性炭素材料は10m/g以上、特に100m/g以上、さらに600m/g以上の比表面積を有することが好ましい。高比表面積を有する導電性炭素材料の具体例として、カーボンブラック、活性炭、カーボン炭素繊維(例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等)等を挙げることができる。ここで、導電性材料の比表面積は、たとえばBET法によって測定することができる。
【0025】
空気極層における導電性材料の含有量は、その密度や比表面積等にもよるが、例えば、10重量%〜90重量%の範囲であることが好ましい。空気極における導電性及び反応場確保の観点から、磁石や磁石材料の配合比(配合量)に応じて、適宜、適量配合すればよい。
【0026】
空気極層は、磁石や導電性材料の固定化の観点から、さらに、結着材を含有することが好ましい。
結着材としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。
空気極層における結着材の含有量は、例えば、5〜50重量%であることが好ましく、特に10〜30重量%であることが好ましい。結着材含有量が、5重量%以上であることによって、空気極層の成形が容易になる。一方、結着材含有量が、50重量%以下であることによって、空気極の反応場を減少させることなく、所望の反応を効率よく進行させることができる。
【0027】
空気極層は、上記磁石に加えて、空気極における酸素の反応を促進する上記磁石以外の空気極触媒を含有していてもよい。このような空気極触媒は、上記導電性材料に担持されていてもよい。
空気極触媒としては、特に限定されず、例えば、コバルトフタロシアニン、マンガンフタロシアニン、ニッケルフタロシアニン、スズフタロシアニンオキサイド、チタンフタロシアニン、ジリチウムフタロシアニン等のフタロシアニン系化合物;コバルトナフトシアニン等のナフトシアニン系化合物;鉄ポルフィリン等のポリフィリン系化合物;MnO、CeO、Co、NiO、V、Fe、ZnO、CuO、LiMnO、LiMnO、LiMn、LiTi12、LiTiO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiVO、LiFeO、LiFeO、LiCrO、LiCoO、LiCuO、LiZnO、LiMoO、LiNbO、LiTaO、LiWO、LiZrO、NaMnO、CaMnO、CaFeO、MgTiO、KMnO等の金属酸化物;これらの複合物等が挙げられる。
空気極層において、磁石以外の空気極触媒の含有量は、例えば、1重量%〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0028】
空気極層の厚さは、空気電池の用途等により異なるものであるが、例えば2μm〜500μmの範囲内、特に5μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0029】
空気極は、空気極層の他、さらに該空気極層の集電を行う空気極集電体を備えていてもよい。
空気極集電体としては、所望の電子伝導性を有していれば、多孔質構造を有するものであっても、或いは緻密構造を有するものであってもよいが、空気(酸素)の拡散性の観点から、多孔質構造を有するものが好ましい。多孔質構造としては、例えば、構成繊維が規則正しく配列されたメッシュ構造、構成繊維がランダムに配列された不織布構造、独立孔や連結孔を有する三次元網目構造等が挙げられる。多孔質構造を有する集電体の気孔率は特に限定されないが、例えば、20〜99%の範囲であることが好ましい。
尚、多孔質構造を有する空気極集電体を用いる場合、空気極層と該空気極集電体を積層(隣接)させた図1とは異なり、空気極層の内部に該空気極集電体を配置することもできる。空気極層の内部に空気極集電体を配置する場合、空気極の集電効率の向上効果が期待できる場合がある。
【0030】
空気極集電体の材料としては、例えば、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、銅等の金属材料、カーボンファイバー、カーボンペーパー等のカーボン材料、窒化チタン等の高電子伝導性セラミックス材料等が挙げられる。カーボン材料を用いた集電体は、耐腐食性が高く、空気極における放電反応により強アルカリ性の金属酸化物が生成した場合に、集電体が溶出するのを抑制し、これに起因する電池特性の低下を抑えることができるというメリットを有している。
好ましい具体的な空気極集電体としては、カーボンペーパー、金属メッシュが挙げられる。
空気極集電体の厚さは特に限定されないが、例えば、10μm〜1000μm、特に20〜400μmであることが好ましい。
尚、後述する空気電池の電池ケースが空気極の集電体としての機能を兼ね備えていてもよい。
【0031】
空気極の製造方法は、特に限定されない。例えば、磁気を発現している磁石を導電性材料、結着材等のその他の空気極層構成材料と混合した空気極材料を用いて、空気極を形成することもできるし(例えば、図2のプロセスB)、或いは、磁気を発現していない磁石材料を導電性材料、結着材等のその他の空気極層構成材料と混合した空気極材料を用い、該空気極材料又は該空気極材料を成形した成形体に対して、磁石材料を磁化(着磁)する処理を施して空気極を形成することもできる(例えば、図2のプロセスA)。
【0032】
磁石を空気極材料の原料として用いる場合、該空気極材料を成形することで磁石を含む空気極を形成することができる。具体的には、空気極集電体の表面に、溶媒を含む空気極材料を、圧延又は塗布して成形し、必要に応じて、乾燥処理、加圧処理、加熱処理等を施すことで空気極層と空気極集電体とが積層した空気極を作製することができる。或いは、溶媒を含む空気極材料を圧延又は塗布して成形し、必要に応じて、乾燥処理、加圧処理、加熱処理等を施した空気極層を、空気極集電体を重ね合わせ、適宜、加圧や加熱等を行うことで、空気極層と空気極集電体とが積層した空気極を作製することができる。
空気極材料に用いる溶媒としては、揮発性を有していれば特に限定されず、適宜選択することができる。具体的には、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられる。空気極材料の乾燥が容易になることから、沸点が200℃以下の溶媒が好ましい。
空気極材料を塗布する方法は特に限定されず、ドクターブレード、スプレー法等の一般的な方法を用いることができる。
【0033】
磁気を発現していない磁石材料を空気極材料の原料として用いる場合、空気極材料に対して、或いは、空気極材料を成形した空気極成形体に対して、磁化処理を施すことで、磁気を発現していない磁石材料を磁化させ、磁石を含む空気極を作製することができる。空気極材料を成形した空気極成形体に対して磁化処理を施す方法は、磁化処理の条件の調整が容易であるというメリットを有する。
磁石材料としては、上記磁石として例示した各材料の磁気を発現していない状態のものが挙げられる。
磁石材料の磁化方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、着磁電源を用いて、着磁コイルや着磁ヨークに電流を流すことで磁界を発生させることで、着磁することができる。
【0034】
磁石材料を含む空気極材料を用いて空気極を形成する方法としては、空気極材料中の磁石材料を着磁させる磁化処理工程が必要であること以外は、上記にて説明した磁石を含む空気極材料を用いる場合と同様である。
磁化処理を行うタイミングは特に限定されず、例えば、上記したように、空気極材料に対して行ってもよいし、空気極材料を成形した空気極成形体に対して行ってもよい。空気極成形体に対して磁化処理を行う場合、空気極成形体に対して行うその他の処理(例えば、乾燥処理、切断等)と磁化処理の順番は、特に限定されない。
【0035】
(電解質)
電解質は、空気極と負極との間で伝導イオンを伝導できれば、特に限定されず、電解液でもよいし、固体電解質でもよい。
電解液としては、非水系電解液、水系電解液等を用いることができる。
【0036】
非水系電解液は、支持電解質塩及び非水溶媒を含有する。
非水溶媒としては、特に限定されず、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、イソプロピオメチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコージジエチルエーテル、アセトニトリル(AcN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエトキシエタン、ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)等が挙げられる。
【0037】
また、イオン性液体を非水溶媒として用いることもできる。イオン性液体としては、例えば、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[略称:TMPA−TFSA]、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[略称:PP13−TFSA]、N−メチル−N−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[略称:P13−TFSA]、N−メチル−N−ブチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[略称:P14−TFSA]、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[略称:DEME−TFSA]等の脂肪族4級アンモニウム塩;1−メチル−3−エチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート[略称:EMIBF]、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[略称:EMITFSA]、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムブロマイド[略称:AEImBr]、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート[略称:AEImBF]、1−アリル−3−エチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[略称:AEImTFSA]、1,3−ジアリルイミダゾリウムブロマイド[略称:AAImBr]、1,3−ジアリルイミダゾリウムテトラフルオロボラート[略称:AAImBF]、1,3−ジアリルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド[略称:AAImTFSA]等のアルキルイミダゾリウム4級塩等が挙げられる。
【0038】
酸素ラジカルに対する電気化学安定性という観点からは、非水溶媒として、AcN、DMSO、DME、PP13−TFSA、P13−TFSA、P14−TFSA、TMPA−TFSA、DEME−TFSA等が好ましい。
【0039】
支持電解質塩は、非水溶媒に対して溶解性を有し、所望の金属イオン伝導性を発現するものであればよい。通常、伝導させたい金属イオンを含む金属塩を用いることができる。例えば、リチウム空気電池の場合、支持電解質塩としてリチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiOH、LiCl、LiNO、LiSO等の無機リチウム塩が挙げられる。また、CHCOLi、リチウムビスオキサレートボレート(略称 LiBOB)、LiN(CFSO(略称 LiTFSA)、LiN(CSO(略称 LiBETA)、LiN(CFSO)(CSO)等の有機リチウム塩を用いることもできる。
非水電解質において、非水溶媒に対する支持電解質塩の含有量は、特に限定されないが、例えば、非水系電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.5mol/L〜3mol/Lの範囲内である。
【0040】
非水系電解液は、ポリマーを添加してゲル化して用いることもできる。非水電解液のゲル化の方法としては、例えば、非水系電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリマーを添加する方法が挙げられる。
【0041】
水系電解液は、支持電解質塩及び水を含有する。支持電解質塩は、水に対して溶解性を有し、所望のイオン伝導性を発現するものであれば特に限定されない。通常、伝導させたい金属イオンを含む金属塩を用いることができる。例えば、リチウム空気電池の場合、例えば、LiOH、LiCl、LiNO、LiSO、CHCOOLi等のリチウム塩を用いることができる。
【0042】
固体電解質としては、例えば、無機固体電解質が挙げられる。尚、無機固体電解質としては、ガラス、結晶、ガラスセラミックスのいずれでもよい。
具体的な無機固体電解質は、伝導金属イオンに応じて適宜選択すればよい。
例えば、リチウム空気電池の場合、NASICON型酸化物としては、例えば、Li(XはB、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeよりなる群から選択される少なくとも1種であり、YはTi、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlよりなる群から選択される少なくとも1種であり、a〜eは、0.5<a<5.0、0≦b<2.98、0.5≦c<3.0、0.02<d≦3.0、2.0<b+d<4.0、3.0<e≦12.0の関係を満たす)で表される酸化物を挙げることができる。特に、上記式において、X=Al、Y=Tiである酸化物(Li−Al−Ti−P−O系NASICON型酸化物)、及び、X=Al、Y=Ge若しくはX=Ge、Y=Alである酸化物(Li−Al−Ge−Ti−O系NASICON型酸化物)が好ましい。
また、ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、LiLa1−xTiO等で表される酸化物(Li−La−Ti−O系ペロブスカイト型酸化物)を挙げることができる。
【0043】
また、リチウム空気電池の場合、LISICON型酸化物としては、例えば、LiXO−LiYO(XはSi、Ge,及びTiから選ばれる少なくとも1種であり、YはP、As及びVから選ばれる少なくとも1種である)、LiXO−LiAO(XはSi、Ge,及びTiから選ばれる少なくとも1種であり、AはMo及びSから選ばれる少なくとも1種である)、LiXO−LiZO(XはSi、Ge,及びTiから選ばれる少なくとも1種であり、ZはAl、Ga及びCrから選ばれる少なくとも1種である)、並びに、LiXO−LiBXO(XはSi、Ge,及びTiから選ばれる少なくとも1種であり、BはCa及びZnから選ばれる少なくとも1種である)、LiDO−LiYO(DはB、YはP、As及びVから選ばれる少なくとも1種である)等が挙げられる。特に、LiSiO−LiPO、LiBO−LiPO等が好ましい。
【0044】
また、リチウム空気電池の場合、ガーネット型酸化物としては、例えば、Li3+x2−v12で表される酸化物を挙げることができる。ここで、A、G、MおよびBは金属カチオンである。Aは、Ca、Sr、Ba及びMg等のアルカリ土類金属カチオン、又は、Zn等の遷移金属カチオンであることが好ましい。また、Gは、La、Y、Pr、Nd、Sm、Lu、Eu等の遷移金属カチオンであることが好ましい。また、Mとしては、Zr、Nb、Ta、Bi、Te、Sb等の遷移金属カチオンを挙げることができ、中でもZrが好ましい。また、Bは、例えばInであることが好ましい。xは、0≦x≦5を満たすことが好ましく、4≦x≦5を満たすことがより好ましい。yは、0≦y≦3を満たすことが好ましく、0≦y≦2を満たすことがより好ましい。zは、0≦z≦3を満たすことが好ましく、1≦z≦3を満たすことがより好ましい。vは、0≦v≦2を満たすことが好ましく、0≦v≦1を満たすことがより好ましい。なお、Oは部分的に、または、完全に二価アニオン及び/又は三価のアニオン、例えばN3−と交換されていてもよい。ガーネット型酸化物としては、LiLaZr12が等のLi−La−Zr−O系酸化物が好ましい。
【0045】
(負極)
負極は、伝導イオン種を放出・取り込み可能な負極活物質を含有する負極層を備える。負極は、負極層に加えて、負極層の集電を行う負極集電体を備えていてもよい。
負極活物質は、伝導イオン種、典型的には金属イオンの放出・取り込みが可能なものであれば特に限定されず、例えば、伝導イオン種である金属イオンを含有する単体金属、合金、金属酸化物、金属硫化物、及び金属窒化物等が挙げられる。また、炭素材料も負極活物質として用いることができる。負極活物質としては、単体金属又は合金が好ましく、特に単体金属が好ましい。負極立つ物質の単体金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム及び亜鉛等が挙げられ、合金としては、これら単体金属を少なくとも1種含む合金が挙げられる。
より具体的には、リチウム空気電池の負極活物質としては、例えば金属リチウム;リチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等のリチウム合金;スズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物等の金属酸化物;スズ硫化物、チタン硫化物等の金属硫化物;リチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等の金属窒化物;並びにグラファイト等の炭素材料等を挙げることができ、中でも金属リチウム及び炭素材料が好ましく、高容量化の観点から金属リチウムがより好ましい。
【0046】
負極層は、少なくとも負極活物質を含有してればよいが、必要に応じて、負極活物質を固定化する結着材を含有していてもよい。例えば、負極活物質として箔状の金属や合金を用いる場合には、負極層を負極活物質のみを含有する形態とすることができるが、粉末状の負極活物質を用いる場合には、負極層を負極活物質と結着材を含有する形態とすることができる。また、負極層は、導電性材料を含有していてもよい。結着材及び導電性材料の種類、使用量等については、上述した空気極と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0047】
負極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されない。例えば、銅、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、及びメッシュ状等が挙げられる。また、電池ケースが負極集電体としての機能を有していてもよい。
【0048】
負極の製造方法は特に限定されない。例えば、箔状の負極活物質と負極集電体とを重ね合わせて加圧する方法が挙げられる。また、別の方法として、負極活物質と結着材とを含有する負極材混合物を調製し、該混合物を負極集電体上に塗布、乾燥する方法を挙げることができる。
【0049】
(その他)
空気電池は、通常、空気極、負極、電解質層を収納する電池ケースを有する。電池ケースの形状は特に限定されないが、具体的にはコイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を挙げることができる。電池ケースは、大気開放型であっても、密閉型であってもよい。大気開放型の電池ケースは、少なくとも空気極層が十分に大気を接触可能な構造を有する。一方、密閉型の電池ケースは、正極活物質である酸素(空気)の導入管及び排気管を設けることができる。導入される酸素濃度は高いことが好ましく、純酸素であることが特に好ましい。
空気電池が、空気極、電解質、負極の順番で配置されている積層体を、繰り返し何層も重ねる構造を取る場合には、安全性の観点から、異なる積層体に属する空気極および負極の間に、セパレータを有することが好ましい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;および樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
上記セパレータに使用できるこれらの材料は、電解質として電解液を用いる場合、電解液を含浸させる支持材として使用することもできる。
【0050】
また、空気極集電体及び負極集電体には、それぞれ、外部との接続部となる端子を設けることができる。
本発明の空気電池の製造方法は特に限定されず、一般的な方法を採用することができる。
【実施例】
【0051】
[空気電池の作製]
(実施例1)
まず、図2に示すプロセスBにより、実施例1の空気極を作製した。
すなわち、カーボンブラック(以下、「CB」と称する場合がある。TIMCAL社製、製品名SuperP、比表面積60m/g)と、既に磁化させたNdFeBと、PTFEと、エタノール(EtOH)とを、CB:NdFeB:PTFE=80:10:10(重量比)となるように混合して混合物を調製した。次に、該混合物を、ツインローラーを用いて圧延してフィルムを作製した。得られたフィルムは、切断した後、120℃で乾燥し、空気極を得た。
次に、作製した空気極を用いて、図1に示すような金属空気電池を作製した。
すなわち、空気極集電体(SUS304製メッシュ)と、空気極と、セパレータ(ポリプロピレン製不織布)と、負極(金属リチウム)と、負極集電体(SUS304製メッシュ)とを、この順序で積層させ、空気極と負極との間に電解液(PP13−TFSAに0.32mol/kgのLiTFSAを溶解させたもの)が介在するように、セパレータに電解液を含浸させた。
【0052】
(実施例2)
カーボンブラックと、既に磁化させたNdFeBと、PTFEとを、CB:NdFeB:PTFE=50:40:10(重量比)で混合して混合物を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、金属空気電池を作製した。
【0053】
(実施例3)
まず、図2に示すプロセスAにより、実施例3の空気極を作製した。
すなわち、カーボンブラック(TIMCAL社製、製品名SuperP、比表面積60m/g)と、着磁前の(磁化させていない)NdFeBと、PTFEと、エタノールとを、CB:NdFeB:PTFE=70:20:10(重量比)となるように混合して混合物を調製した。次に、該混合物を、ツインローラーを用いて圧延してフィルムを作製した。得られたフィルムは、切断した後、磁化させ、さらに120℃で乾燥し、空気極を得た。
次に、作製した空気極を用いて、実施例1と同様にして金属空気電池を作製した。
【0054】
(実施例4)
カーボンブラックと、磁化させていないNdFeBと、PTFEとを、CB:NdFeB:PTFE=50:40:10(重量比)で混合して混合物を調製したこと以外は、実施例3と同様にして、金属空気電池を作製した。
【0055】
(実施例5)
カーボンブラックと、磁化させていないNdFeBと、PTFEとを、CB:NdFeB:PTFE=30:60:10(重量比)で混合して混合物を調製したこと以外は、実施例3と同様にして、金属空気電池を作製した。
【0056】
(実施例6)
まず、図2に示すプロセスCにより、実施例6の空気極を作製した。
すなわち、カーボンブラック(以下、「CB」と称する場合がある。TIMCAL社製、製品名SuperP、比表面積60m/g)と、既に磁化させたFeと、PTFEと、エタノール(EtOH)とを、CB:Fe:PTFE=50:40:10(重量比)となるように混合して混合物を調製した。次に、該混合物を、ツインローラーを用いて圧延してフィルムを作製した。得られたフィルムは、切断した後、120℃で乾燥し、空気極を得た。
次に、作製した空気極を用いて、実施例1と同様にして金属空気電池を作製した。
【0057】
(比較例1)
Feを使用せずに、カーボンブラックと、PTFEとを、CB:PTFE=90:10(重量比)で混合して混合物を調製したこと以外は、実施例6と同様にして、金属空気電池を作製した。
【0058】
(比較例2)
カーボンブラックと、MnO(空気極触媒)と、PTFEとを、CB:MnO:PTFE=80:10:10(重量比)で混合して混合物を調製したこと以外は、実施例6と同様にして、金属空気電池を作製した。
【0059】
(比較例3)
カーボンブラックと、La0.6Sr0.4CoO(空気極触媒)と、PTFEとを、CB:La0.6Sr0.4CoO:PTFE=80:10:10(重量比)で混合して混合物を調製したこと以外は、実施例6と同様にして、金属空気電池を作製した。
【0060】
(比較例4)
カーボンブラックと、Ag(空気極触媒)と、PTFEとを、CB:Ag:PTFE=80:10:10(重量比)で混合して混合物を調製したこと以外は、実施例6と同様にして、金属空気電池を作製した。
【0061】
[金属空気電池の評価]
実施例1〜6、比較例1〜4の金属空気電池を、酸素雰囲気(純酸素99.9%)下、0.02mA/cm、60℃にて、定電流充放電測定を行った。
結果を表1に示す。また、図3及び図4に、実施例2〜実施例6及び比較例1の放電容量−電圧曲線を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示すように、本発明の空気電極を備えた実施例1〜実施例6の金属空気電池は、高い放電容量と高い放電電圧との両立を実現し、高いエネルギー密度を得ることができる。特に、実施例2〜実施例5、特に実施例2〜実施例4、中でも、実施例3は非常に高い放電容量を示した。
【符号の説明】
【0064】
1…空気極
2…負極
3…電解質
4…空気極集電体
5…空気極層
6…空気極缶
7…負極缶
8…ガスケット
9…空気孔
10…空気電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを備える空気電池を構成する空気極であって、磁石を含有することを特徴とする空気電池用空気極。
【請求項2】
前記磁石が硬磁性材料である、請求項1に記載の空気電池用空気極。
【請求項3】
前記硬磁性材料が、NdFeB系磁石である請求項2に記載の空気電池用空気極。
【請求項4】
前記NdFeB系磁石を10重量%以上60重量%以下含有する、請求項3に記載の空気電池用空気極。
【請求項5】
空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを備える空気電池であって、
請求項1乃至4のいずれかに記載の空気極を備えることを特徴とする、空気電池。
【請求項6】
空気極と、負極と、前記空気極及び前記負極の間に介在する電解質とを備える空気電池を構成する空気極の製造方法であって、
少なくとも磁石材料を含む空気極材料を成形した空気極成形体に対して、磁化処理を施すことを特徴とする空気電池用空気極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−174655(P2012−174655A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38683(P2011−38683)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】