説明

空気駆動回転切削器

【課題】ロータの回転トルクを維持しながら、ロータの回転速度を低減させ、加えて、ヘッド部の一層の小型化をも図ることができる空気駆動回転切削器を提供する。
【解決手段】2段式ロータ14を備える空気駆動回転切削器であって、ロータ14を構成する第1のタービンブレード部15における第1のタービン翼151をロータ14の回転軸41aに向かう方向から見た側面形状が、前記ロータ14の回転方向42の上流側から下流側に向かって凹む凹曲形状とされ、ロータ14を構成する第2のタービンブレード部16における第2のタービン翼161の同側面形状が、該第1のタービン翼151とは反対の方向に凹む凹曲形状とされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧空気を利用して切削用工具を回転させる医療用、歯科用、或いは他の切削加工用の空気駆動回転切削器に関し、更に具体的には、例えば、歯科用エアタービンハンドピースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人に係る特許文献1〜4には、医療用、歯科用、或いは他の切削加工用として用いられる空気駆動回転切削器が開示されている。これら特許文献に開示された空気駆動回転切削器は、いずれも加圧空気のエネルギーを有効に回転力に変換する手段として、2段式ロータを備えている。この2段式ロータは、リング状のハブと、該ハブの外周面に形成された第1のタービンブレード部及び第2のタービンブレード部とよりなる。そして、第1のタービンブレード部及び第2のタービンブレード部は、ハブの中心から放射状に伸びる複数の第1のタービン翼及び第2のタービン翼をそれぞれ備えている。
【0003】
特許文献1〜4に開示された空気駆動回転切削器は、いずれも術者により把持されるグリップ部と、該グリップ部の先端部に設けられたヘッド部とを備えて、ハンドピース形状に構成されている。前記ヘッド部には内空部が形成され、この内空部には、内空部の内面形状に対応した外形を有する筒状の内側ハウジングが収容され、この内側ハウジングの内部に、前記ロータ及び該ロータを軸回転可能に支持する軸受機構部が収容されている。ロータは、その軸心部に沿って各種切削工具を着脱自在に装着し得るよう構成されている。また、ヘッド部と内側ハウジングとには、ロータの第の1のタービンブレード部に加圧空気を噴出する為の給気路と、第2のタービンブレード部から送り出された空気を排気する為の排気路とが形成されている。そして、内側ハウジングには、第1のタービンブレード部から送り出された加圧空気を第2のタービンブレード部に案内する中継通路(導入部)が形成されている。従って、給気路から噴出された加圧空気は、まず第1のタービンブレード部の第1のタービン翼に当たり、その作用によってロータを回転軸周りに回転させる。次に、加圧空気は、中継通路から第2のタービンブレード部に送られ、第2のタービン翼に当たり、前記ロータの回転軸周りの回転を更に推進させるよう作用する。その後、加圧空気は排気路を通じて外部に排出される。
【0004】
このように、2段式ロータを採用したハンドピースにおいては、加圧空気のエネルギーが、2つのタービンブレード部で有効に活用されることから、従来のハンドピースに比べて、より高速回転下での高トルク特性をもって切削工具を回転できるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3208345号公報
【特許文献2】特許第3672781号公報
【特許文献3】WO2006/101133A1号公報
【特許文献4】特許第4160319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、歯科用のハンドピースは、患者の口腔内にハンドピースのヘッド部を挿入して歯牙の切削診療等を行うものであり、患者の不快感を緩和する為、或いは術者の視界をできるだけ遮らずハンドリング性を良くする為に、小型であることが望まれる。ヘッド部を小型化するには、前記ロータの径を小さくすることが考えられるが、ロータの径を小さくした上で所定のトルクを得ようとすると、ロータの回転を高める必要がある。しかし、ロータに装着される切削工具の耐用回転速度には制限があり(通常の歯科用切削工具の場合回転数が45万rpm以下)、また、切削工具の回転速度を高くし過ぎると切削工具の折損や、工具保持部からの飛び出し等の事態に至る懸念や、切削時の騒音或いは発熱が大きくなる等の問題も惹起される。従って、ロータの回転速度を高めることなくヘッド部を小型化することには難しさがあった。
【0007】
特許文献2では、2段式ロータを採用するハンドピースであって、第1のタービンブレード部からの空気を第2のタービンブレード部に導く為の第2の空気通路を単一の部材で形成し、更に、第2の空気通路が形成されている領域を給気路が形成されている領域よりも大きくすることにより、加圧空気の漏れをなくし、高トルクを維持しながらロータの回転速度を僅かに下げることが可能とされたハンドピースが開示されている。しかし、ここで得られるロータの回転速度は、前記のような問題点を払拭するには充分ではなく、トルクを維持したまま、より効果的なロータの回転速度の低減が求められていた。また、本特許文献に示されたハンドピースの場合、ヘッド部内において、空気ガイドリングを介してロータ等を収容支持するよう構成されており、この空気ガイドリングの存在が、ヘッド部を更に小型することを難しくさせる要因の一つともなっていた。
【0008】
本発明は、前記に鑑みなされたものであり、ロータの回転トルクを維持しながら、ロータの回転速度を低減させ、加えて、ヘッド部の一層の小型化をも図ることができる空気駆動回転切削器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る空気駆動回転切削器は、術者により把持されるグリップ部と、前記グリップ部の先端部に設けられたヘッド部と、前記ヘッド部に形成された内空部に軸受を介して回転軸周りに回転可能に支持されたロータとを有し、前記ロータは、前記回転軸の周りに沿って複数の第1のタービン翼を配置する第1のタービンブレード部と、同じく前記回転軸の周りに沿って複数の第2のタービン翼を配置する第2のタービンブレード部とを一体に有しており、前記ヘッド部の内空部には、前記グリップ部に設けた給気路から前記ロータの第1のタービンブレード部に向けて空気を噴出する為の給気口と、前記第1のタービンブレード部からの空気を前記第2のタービンブレード部に導く導入部と、前記第2のタービンブレード部からの空気を前記グリップ部に設けた排気路に排出する為の排気口とが設けられており、前記給気口から噴出した空気は、前記ロータの回転軸に実質垂直な方向から前記第1のタービンブレード部に作用して前記ロータを前記回転軸の軸心回りに回転させ、前記各第1のタービン翼間に形成した第1の空気通路を経て、前記第1のタービンブレードから回転軸の軸方向に沿って排出され、更に前記導入部に形成した第2の空気通路を経て第2のタービンブレードに導かれ、該第2のタービンブレードに導かれた空気は、前記回転軸と実質垂直な方向に前記第2のタービンブレード部に作用して前記ロータの回転を推進し、前記各第2のタービン翼間に形成した第3の空気通路を経て、前記排気口から排出されるようにした空気駆動回転切削器であって、前記第1のタービン翼の前記回転軸に向かう方向から見た側面形状は、前記ロータの回転方向上流側から下流側に向かって凹む凹曲形状とされ、前記第2のタービン翼の同側面形状は、該第1のタービン翼とは反対の方向に凹む凹曲形状とされていることを特徴とする。
【0010】
本発明において、前記第2の空気通路が、前記ヘッド部に形成された内空部の内周に設けられ、前記回転軸に平行な複数の壁部と、該壁部間に形成され前記回転軸に平行な面を横切る底壁部とより形成される複数の凹状空所からなり、前記凹状空所は、前記底壁部の表面を構成する第1の面と、該第1の面における前記回転軸に対する遠心側部より連続して立ち上がる曲面からなる第2の面と、前記底壁部の両側に位置する前記壁部の底壁部側内面を構成する第3及び第4の面とより形成されていることが望ましい。
この場合、前記底壁部は、前記回転軸の軸心から放射方向に向けられ、或いは、前記回転軸の軸心からの放射方向に対し、前記ロータの回転方向下流側に向かって遠心するよう斜めに向けられていても良い。また、前記第1および第2の面と前記第3および第4の面との接続部が曲面によって連続的に形成されていることが望ましい。更に、前記第3および第4の面のうち、前記ロータの回転方向上流側に位置する第3の面には、前記凹状空所の開口側部分が切欠かれて、前記底壁部に向かって傾斜する第5の面が形成されていることが望ましい。
【0011】
第2の発明に係る空気駆動回転切削器は、術者により把持されるグリップ部と、前記グリップ部の先端部に設けられたヘッド部と、前記ヘッド部に形成された内空部に軸受を介して回転軸周りに回転可能に支持されたロータとを有し、前記ロータは、前記回転軸の周りに沿って複数の第1のタービン翼を配置する第1のタービンブレード部と、同じく前記回転軸の周りに沿って複数の第2のタービン翼を配置する第2のタービンブレード部とを一体に有しており、前記ヘッド部の内空部には、前記グリップ部に設けた給気路から前記ロータの第1のタービンブレード部に向けて空気を噴出する為の給気口と、前記第1のタービンブレード部からの空気を前記第2のタービンブレード部に導く導入部と、前記第2のタービンブレード部からの空気を前記グリップ部に設けた排気路に排出する為の排気口とが設けられており、前記給気口から噴出した空気は、前記ロータの回転軸に実質垂直な方向から前記第1のタービンブレード部に作用して前記ロータを前記回転軸の軸心回りに回転させ、前記各第1のタービン翼間に形成した第1の空気通路を経て、前記第1のタービンブレードから回転軸の軸方向に沿って排出され、更に前記導入部に形成した第2の空気通路を経て第2のタービンブレードに導かれ、該第2のタービンブレードに導かれた空気は、前記回転軸と実質垂直な方向に前記第2のタービンブレード部に作用して前記ロータの回転を推進し、前記各第2のタービン翼間に形成した第3の空気通路を経て、前記排気口から排出されるようにした空気駆動回転切削器であって、前記第2の空気通路は、前記ヘッド部に形成された内空部の内周に設けられ、前記回転軸に平行な複数の壁部と、該壁部間に形成され前記回転軸に平行な面を横切る底壁部とより形成される複数の凹状空所からなり、前記凹状空所は、前記底壁部の表面を構成する第1の面と、該第1の面における前記回転軸に対する遠心側部より連続して立ち上がる曲面からなる第2の面と、前記底壁部の両側に位置する前記壁部の底壁部側内面を構成する第3及び第4の面とより形成され、前記第3および第4の面のうち、前記ロータの回転方向上流側に位置する第3の面には、前記凹状空所の開口側部分が切欠かれて、前記底壁部に向かって傾斜する第5の面が形成されていることを特徴とする。
【0012】
前記いずれかの発明において、前記回転軸を中心とする円周方向に関し、前記第2の空気通路の形成されている領域を、前記給気口が形成されている領域よりも大きくしても良い。この場合、前記第2の空気通路の形成されている領域は、前記回転軸を中心とする円周方向に関し、前記排気口に近い側を除く全周にわたっていることが望ましい。
【0013】
また、前記第2の空気通路の形成されている領域が、複数の領域からなり、前記各領域に含まれるそれぞれの第1の面は、前記回転軸の放射方向に対して異なる角度を有するようにしても良い。この場合、前記第1の面の前記回転軸側端部から前記第1の面を前記回転軸側に延長した線と、前記第1の面の前記回転軸側端部を通り且つ前記回転軸側端部から前記ロータの回転方向に伸ばした接線との間に形成される接線角に関して、前記各領域に含まれる前記第1の面の接線角は、前記ロータの回転方向下流側に向け小さくなるよう設定されていることが望ましい。
【0014】
前記いずれかの発明において、前記ロータが、大径リング部と、該大径リング部と同心の小径リング部とを含むリング状ハブを有し、前記第1のタービンブレード部は、前記大径リング部の外周部に形成され、前記第2のタービンブレード部は、前記小径リング部の外周部に形成されているものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明に係る空気駆動回転切削器によれば、術者はグリップ部を把持することにより、前記グリップ部の先端部に設けられたヘッド部を切削対象部位に向けて切削作業を行うことができる。前記ヘッド部に形成された内空部には、軸受を介してロータが回転軸周りに回転可能に支持されており、該ロータは、2段式ロータからなり、給気口から噴出される空気が、2段式ロータを構成する第1のタービンブレード部および第2のタービンブレード部に作用して、そのエネルギーがロータの前記回転に有効に活用される。このとき、給気口から第1のタービンブレード部に噴出される空気は、第1のタービンブレード部に作用して前記ロータを前記回転軸の軸心回りに回転させた後、ヘッド部の内空部に形成された導入部によって導かれて第2のタービンブレード部に至る。第2のタービンブレード部に至った空気は第2のタービンブレード部に作用して前記ロータの回転を更に推進し、その後、前記排気口から排出される。第1のタービンブレード部および第2のタービンブレード部に導入される空気は、実質上それぞれに形成された第1のタービン翼および第2のタービン翼に作用する。この場合、第1のタービン翼の前記回転軸に向かう方向から見た側面形状は、前記ロータの回転方向上流側から下流側に向かって凹む凹曲形状とされているから、給気口から噴出される空気が保有するエネルギーは、該第1のタービン翼を介してロータ前記回転軸の軸心回りに回転させる動力として効果的に使用される。そして、前記導入部から第2のタービンブレード部に至った空気は、第2のタービン翼に作用して、ロータの回転を更に推進するが、該第2のタービン翼の前記側面形状は、第1のタービン翼とは反対の方向に凹む凹曲形状とされているから、実質的に第2のタービン翼の凸曲面部に沿って流れるように作用する。従って、第2のタービンブレード部に導入された空気による回転推進力は左程大きくなく、ここでのロータの回転速度が高められる度合いは小さく、ロータの回転速度を抑えることができる。しかし、給気口から噴出される空気が保有するエネルギーは、第1のタービンブレード部で効果的に使用されるから、ロータが保有する回転トルクは充分に確保される。
【0016】
前記第2の空気通路が、前記ヘッド部に形成された内空部の内周に設けられ、前記回転軸に平行な複数の壁部と、該壁部間に形成され前記回転軸に平行な面を横切る底壁部とより形成される複数の凹状空所からなるものとすれば、前記特許文献2に示されるような空気ガイドリングを構成する部品が不要となり、ヘッド部の小型化を図ることができる。そして、この凹状空所が、第1〜第4の面により形成されているものとすれば、ヘッド部の内空部内周に切削加工するだけで所望の形状に容易且つ的確に加工することができる。前記底壁部を、前記回転軸の軸心から放射方向に向けられるように形成すれば、その加工はより容易となる。また、当該底壁部を、前記回転軸の軸心からの放射方向に対し、前記ロータの回転方向下流側に向かって遠心するよう斜めに向けられように形成すれば、第1のタービンブレード部の第1の空気通路から第2の空気通路への空気の流入が円滑になされ、ここでの圧損を少なくすることができる。更に、前記第1および第2の面と前記第3および第4の面との接続部が曲面によって連続的に形成されている場合、第2の空気通路での空気の流通が圧損少なく円滑になされる。加えて、前記ロータの回転方向上流側に位置する第3の面には、前記凹状空所の開口側部分が切欠かれて、前記底壁部に向かって傾斜する第5の面が形成されている場合、第1の空気通路から第2の空気通路への空気の流入がより円滑化され、この円滑性と前記第2のタービン翼の形状による特性とが相乗して、ロータの回転トルクを維持した回転速度の抑制効果がより顕著となる。
【0017】
第2の発明に係る空気駆動回転切削器によれば、前記と同様に、供給空気のエネルギーがロータの前記回転に有効に活用されるという2段式ロータ特有の効果に加え、ヘッド部の小型化が図られ、且つ、前記第5の面を有した第2の空気通路の特有の構造により、所要の回転トルクを維持しながら低減された回転速度のロータを得ることができる。そして、第1及び第2の発明に共通して、第2の空気通路が、前記ヘッド部に形成された内空部の内周に設けられ、前記回転軸に平行な複数の壁部と、該壁部間に形成され前記回転軸に平行な面を横切る底壁部とより形成される複数の凹状空所からなるから、第1のタービンブレード部に導入された空気は、ロータの回転に伴い、当該凹状空所内に圧縮されるように導入されながら、第2のタービンブレード部に導かれ、これによってヘッド部内が常に正圧状態とされる。従って、前記特許文献3或いは4に開示されたように、空気の供給を遮断してロータの回転を停止させたときのサックバック防止機能も得られる。
【0018】
第1及び第2の発明において、前記回転軸を中心とする円周方向に関し、前記第2の空気通路の形成されている領域を、前記給気口が形成されている領域よりも大きくした場合、給気口から噴出される空気の、第1の空気通路を経た第2の空気通路への流入が確実になされる。この場合、前記第2の空気通路の形成されている領域が、前記回転軸を中心とする円周方向に関し、前記排気口に近い側を除く全周にわたっているものとすれば、第2の空気通路に流入した空気が直ぐに排気口に向かわず第2の空気通路に一時的に滞留することになるから、前記バックサック防止効果がより向上し、更に、第1のタービンブレード部から導かれた空気を、第2の空気通路から第2のタービンブレードへと円滑に導入することができるので、ロータの回転トルクを維持したまま、回転速度を抑制することができる。
【0019】
また、第1及び第2の発明において、前記第2の空気通路の形成されている領域が、複数の領域からなり、前記各領域に含まれるそれぞれの第1の面は、前記回転軸の放射方向に対して異なる角度を有するようにした場合、各領域での第2の空気通路に流入した空気の作用が異なる。従って、各領域毎の角度を適宜設定することにより、第3の空気通路への空気の導入機能と、第2の空気通路での空気の一時的滞留機能とを調和させて、ロータの回転速度低減及びサックバック防止機能の両方を効率よく行うことができる。特に、前記第1の面の前記回転軸側端部から前記第1の面を前記回転軸側に延長した線と、前記第1の面の前記回転軸側端部を通り且つ前記回転軸側端部から前記ロータの回転方向に伸ばした接線との間に形成される接線角に関して、前記各領域に含まれる前記第1の面の接線角が、前記ロータの回転方向下流側に向け小さくなるよう設定すれば、ロータの回転方向上流側では、第2の空気通路での空気の一時的滞留を図り、下流側では第3の空気通路への速やかな流入を図ることができる。
【0020】
更に、第1及び第2の発明において、前記ロータが、大径リング部と、該大径リング部と同心の小径リング部とを含むリング状ハブを有し、前記第1のタービンブレード部は、前記大径リング部の外周部に形成され、前記第2のタービンブレード部は、前記小径リング部の外周部に形成されているものとすれば、2段式ロータを容易に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る空気駆動回転切削器の一実施形態としての歯科用エアタービンハンドピースの側面図である。
【図2】同歯科用エアタービンハンドピースの要部の縦断面図である。
【図3】同歯科用エアタービンハンドピースの要部の部分破断、部分縦断及び部分斜視図である。
【図4】図2におけるIV−IV線矢視断面図である。
【図5】同歯科用エアタービンハンドピースに組み込まれるロータの一例を示す斜視図である。
【図6】同歯科用エアタービンハンドピースのヘッド部の平面図である。
【図7】図6におけるVII−VII線矢視断面図である。
【図8】図6におけるVIII線部の拡大図である。
【図9】図7におけるIX線部の拡大図である。
【図10】図6におけるX−X線矢視断面図である。
【図11】同歯科用エアタービンハンドピースにおけるロータの回転速度と回転トルクとの関係を比較例と共に示すグラフである。
【図12】ヘッド部の他の実施形態を示す概略的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の空気駆動回転切削器の実施の形態について図面に基づき説明する。図1は、本発明に係る空気駆動回転切削器の一実施形態としての歯科用エアタービンハンドピースの全体構成を示す側面図である。図1において、ハンドピース1は、術者が治療する際に手に持つ部分であるグリップ部2を有し、このグリップ部2の基端部には、従来のハンドピースと同様に空気や水などの作用媒体の供給チューブ3と接続する為の接続部2aが設けられ、グリップ部2の先端部にはネック部2bを介してヘッド部4が連結されている。このヘッド部4には切削工具5が着脱自在に装着可能とされている。図2〜図4は、図1のヘッド部4及びその近傍部を拡大した図である。これらの図面に示すように、ヘッド部4は、グリップ部2の先端に連結される軸部40と、前記切削工具5及び該切削工具5を駆動する駆動部6を収容する筒状ハウジング部41とを一体的に備えており、軸部40の軸心40aに対して、筒状ハウジング部41の中心軸(後述する切削工具の回転中心軸に相当するもので以後回転軸と言う)41aが図2のように垂直又はほぼ垂直に方向付けられている。
【0023】
図2〜図4に示すように、ヘッド部4の軸部40は、筒状グリップ部2の先端に挿入固定できる大きさと形に加工された断面縮小部40bを有する。また、軸部40には、グリップ部2側の後端面40c(図3及び図4に示す図面上右側の端面)と筒状ハウジング部41の内壁面とを流体的に連通する複数の貫通孔が形成されている。これら複数の貫通孔には、切削工具駆動部6に加圧空気を供給するための給気路71〜73と、切削工具駆動部6からの加圧空気を排気するための排気路81,82が含まれる。
【0024】
給気路71〜73は、図1に示す作用媒体供給チューブ3との接続部2aからグリップ部2の内部に該グリップ部2の長手軸方向に沿って配設された給気パイプ7に接続されている。各給気路71〜73は、図4に示すように軸部40をそのグリップ部2側の後端面40c及び断面縮小部40bの外周面から筒状ハウジング部41の内壁面に向け所定の長さの穴を加工して形成されている。給気路71は、前記軸部40に穴加工された給気パイプ7の接続部70に通じ、給気路72,73は軸部40に穴加工された連結路72a,73aを介して前記接続部70に通じている。従って、給気パイプ7から供給される加圧空気は、各給気路71〜73を経て筒状ハウジング部41内に導入される。前記給気路72,73の基部側は、断面縮小部40bの外周面に開口しており、その為、該給気路72,73の当該開口側の途中には球形シール部材(例えば、鋼球)72b,73bが圧入されて密閉されている。図例では、連結路73aは、給気路72を横断して給気路72に通じると共に給気路73にも通じるよう形成されている。各給気路71〜73は、先側に小径のノズル部710,720,730を有し、該ノズル部710,720,730の先端が前記筒状ハウジング部41の内壁面に開口して給気口711,721,731とされている(図10も参照)。ノズル部710,720,730は、これらノズル部710,720,730から噴出される加圧空気によって、筒状ハウジング部41の内側に配置される切削工具5が回転軸41aを中心として矢印42方向(図4における時計周り方向)に回転力を受けるように配置するのが好ましい。具体的に、給気口711,721,731を筒状ハウジング部41の円筒内面に周方向に沿って並ぶよう配置し、更に、図4に示すように、ノズル部710,720,730の中心軸と、筒状ハウジング部41の円筒内面上の点であって該中心軸に交差する点を通る接線との交角(ノズル接線角:α)を、約10〜50°に設定することが好ましい。
【0025】
また、各ノズル部710,720,730は、それぞれテーパ部を介して給気路71〜73に連接されているが、該給気路71〜73のテーパ部を介した連接部分の横断面積の合計が、各ノズル部710,720,730が前記筒状ハウジング部41の内壁面に開口される部分の横断面積の合計よりも大きくなるように形成されている。各テーパ部の角度(テーパ角)は、約15〜45°とするのが好ましい。更に、各ノズル部710,720,730から噴出される空気の流速が前記接続部70より供給される空気の流速よりも大きくなるように、ノズル部710,720,730の横断面積を合計した有効断面積は、給気パイプ7の有効断面積よりも小さくするのが好ましい。
【0026】
給気口711,721,731の形は、通常、図10に示すように、楕円形であるが、これに限らず方形(不図示)であってもよい。また、上述のように、前記接続部70は軸部40の軸心40aに平行に形成されており、この接続部70に対して接続部材を介して加圧空気の給気パイプ7が接続される。そのため、例えば接続部70が軸部40の軸心40aに対して斜めに形成されている場合に比べて、軸部後端面40cに隣接する空間を有効に利用できる。排気路81,82は、図2に示すように、給気路71〜73の下方に形成されており、軸部後端面40cから筒状ハウジング部41の内壁面に貫通する孔からなる。排気路81,82の先端部は、筒状ハウジング部41の内壁面に開口して排気口811,821とされ(図10参照)、また基端部は前記軸部後端面40cに開口し、グリップ部2の内筒部を排気通路として、図1に示す前記接続部2a及び供給チューブ3を介して不図示の排気手段に通じている。更に、前記軸部40には、前記切削工具5の先端部を照明する為の導光体9が配設され、また、切削工具5の先側に向け注水する為のチップエア管路10が設けられている。尚、チップエア管路10に通じる給水管路及び給気管路の図示は省略する。
【0027】
図2及び図3に示すように、ヘッド部4の筒状ハウジング部41は、前記給気路71〜73から噴出される加圧空気を切削工具5の回転力に変換する駆動部6の外側形状に対応した形と大きさの円筒状内空部410を有する。この内空部410は、その上部と下部の開口部411、412において開放されている(図10も参照)。そして、前記駆動部6が上部開口部411から内空部410に挿入され、内空部410に挿入された駆動部6に設けた後記する工具支持部50に対して下部の開口部412を介して切削工具5が着脱自在に装着できるよう構成されている。また、内空部410に配置された駆動部6を、該内空部410の所定位置に保持するために、上部の開口部411にはリング状サブハウジング413が着脱自在に設けられている。該サブハウジング413は、その外周部に雄ねじが形成され、開口部411の内周部に形成された雌ねじ部に螺合され、ヘッド部4に取付けられるビス414によって、その螺合状態がロックされるようになされている(図1も参照)。更に、該サブハウジング413の上面には、キャップ支持リング415が設置され、該キャップ支持リング415によってキャップ11が、開口部411に着脱自在に装着されている。該キャップ支持リング415は、キャップ11の回転軸41aに沿った方向での上下動は許容するも、キャップ11の上方への抜け出しを阻止し得るようキャップ11の周縁部を係止している。本実施形態では、図2に示すように、キャップ11の内側と駆動部6との間にスプリング部材(図示では、ウエーブワッシャ)111が弾装され、このスプリング部材111の付勢力により、キャップ11が図示する位置に安定して保持される。このスプリング部材111は、前記弾装状態では、後記する上部軸受部12の外側リング122と前記キャップ支持リング415とに跨るように設置される押さえリング112に作用して、駆動部6を所定位置に保持するよう機能する。前記キャップ11をスプリング部材111の弾力に抗して押圧することにより、工具支持部(例えば、チャック)50での切削工具5の把持を解除して切削工具5の交換を行うことができる。
【0028】
図2に示すように、切削工具5の駆動部6は、内空部410の回転軸41aに沿って切削工具5を支持する工具支持部50を有する。工具支持部50には、一端部(図2及び図3の下端部)から所定の深さの穴(工具支持穴)51が形成されている。また、工具支持部50は、工具支持穴51に挿入された切削工具5を保持するチャック機構(図示せず)を備えている。このチャック機構は、公知の機構でありキャップ11の押圧時に保持を解除して切削工具5の交換を可能とし、キャップ11を離した状態で切削工具5をロックし、キャップ11を押圧した状態で切削工具5を交換できるようにアンロックする。工具支持部50は、チャック方式に限らず、ゴム等の弾性部材のフリクション作用によって、切削工具5を着脱可能に保持する方式を備えるものであってもよい。
【0029】
前記工具支持部50は、上部と下部にそれぞれ設けた上部軸受部12と下部軸受部13とによって、回転軸41aを中心に回転自在に支持されている。上部軸受部12と下部軸受部13は、基本的に、同一の構成を有し、本実施形態では周知の玉軸受を採用している。しかし、軸受の構造は玉軸受に限るものでなく、他の軸受構造(例えば、滑り軸受や空気軸受等)を採用してもよい。具体的には、上部軸受部(玉軸受)12は、内側リング121と、この内側リング121に同心的に配置された外側リング122と、これら内側リング121と外側リング122との間に配置された複数のボール123を有する。そして、内側リング121は工具支持部50に外装されて固定されている。他方、外側リング122は、前記サブハウジング413に対してOリング124を介して圧入状態で固定されている。サブハウジング413の内周部には該Oリング124を収容する周溝413aが形成されている。このOリング124によって、後記するロータ14に噴出される加圧空気の上方への漏れが防止される。
【0030】
下部軸受部13は、上部軸受部12と同様に玉軸受からなり、該下部軸受部(玉軸受)13は、上部軸受部12と同様に、内側リング131と、外側リング132と、それらの間に配置された複数のボール133からなる。そして、内側リング131は、工具支持部50に外装されて固定されている。他方、外側リング132は、筒状ハウジング部41の内空部410に対してOリング134を介して圧入状態で固定されている。このOリング134によって、加圧空気の下方への漏れが防止される。筒状ハウジング部41の内空部410は、前記上部軸受部12、下部軸受部13及び後記するロータ14が配置される場所に対応した大きさの形状に形成されており、概略的に内径の大きい上部大径筒部416と、内径の小さい下部小径筒部417と、両筒部416,417間に形成される段部418とにより構成されている(図10も参照)。前記下部軸受部13に設けられるOリング134は、下部小径筒部417の内周に形成される周溝417aに収容されている。
【0031】
次に、ロータ14の構成について、図5も参照して説明する。前記工具支持部50における前記上部軸受部12と下部軸受部13との間に位置する部分には、前記給気路71〜73から噴出される加圧空気を利用して、工具支持部50、更に該工具支持部50を介して切削工具5を前記回転軸41a周りに回転させる為の2段式ロータ14が一体に設けられている。ロータ14は、図5のロータ部の斜視図に詳細に示すように、リング状のハブ140からなり、該リング状ハブ140は、中央の貫通孔141と、上段の大径リング部142と、下段の小径リング部143とを同心に備えている。貫通孔141の内径は、ロータ14を支持する工具支持部50における略中段部分の外径にほぼ等しくされ、この貫通孔141に工具支持部50の当該中段部分を圧入することによって、ロータ14と工具支持部50とを一体化している。この一体化としては、焼嵌め、かしめ、或いはキー結合等の手段も採用される。前記大径リング部142及び小径リング部143は上下2段に一体とされ、上段の大径リング部142の外周部には第1のタービンブレード部15が、下段の小径リング部143の外周部には第2のタービンブレード部16が設けられている。
【0032】
第1のタービンブレード部15は、ハブ140の上端部に形成された円形の上部天井壁144と、この上部天井壁144の底部(下面)から前記大径リング部142の外周部に沿って下方に伸び且つ半径方向外側に突出した多数(本実施形態では18個)の突出壁(第1のタービン翼151)からなる。第1のタービン翼151は、大径リング部142の周方向に沿って等間隔に設けられている。また、各第1のタービン翼151には、第1のタービン翼151の一方の面(ロータ14の回転方向42に関して上流側に位置する作用面152)と、他方の面(ロータ14の回転方向42に関して下流側に位置するガイド面153)とを備え、隣接する各第1のタービン翼151の間には、該作用面152及びガイド面153と、上部天井壁144の下面と、大径リング部142の外周部とによって、第1の空気通路154が形成されている。第1の空気通路154の高さ位置(前記回転軸41aに沿った高さ位置)は、ロータ14を前記内空部410に設けた状態で、前記給気ノズル部710,720,730から噴出された加圧空気が第1の空気通路154の上部に吹き込まれるような位置に設定されている。また、各第1の空気通路154における前記上部天井壁144の下面から大径リング部142の外周部にかけての形状は、半径方向内側に向かって湾曲する曲面(曲面形状は図2に最もよく表されている)155とされ、ロータ14の半径方向外側から第1の空気通路154に吹き込まれた空気が上記曲面155に沿って最小の空気抵抗をもって滑らかに下方に方向変換されるように形成されている。また、各第1のタービン翼151の前記回転軸41aに向かう方向から見た側面形状は、前記ロータの回転方向42の上流側から下流側に向かって凹む凹曲形状とされている。
【0033】
第2のタービンブレード部16は、前記第1の空気通路154の下端・内側の縁部によって外周が縁取りされた下部天井壁145と、この下部天井壁145の底部から小径リング部143の外周部に沿って下方に伸び且つ半径方向外側に突出した多数(本実施形態では18個)の突出壁(第2のタービン翼161)からなる。第2のタービン翼161は、周方向に等間隔に設けられている。また、各第2のタービン翼161には、第2のタービン翼161の一方の面(ロータ14の回転方向42に関して上流側に位置する作用面162)と、他方の面(ロータ14の回転方向42に関して下流側に位置するガイド面163)とを備え、隣接する各第2のタービン翼161の間には、該作用面162及びガイド面163と、下部天井壁145の下面と、小径リング部143の外周部とによって、第3の空気通路164が形成されている。特に、各第3の空気通路164における前記下部天井壁145の下面から小径リング部143の外周部にかけての形状は、半径方向内側に向かって湾曲する曲面(曲面形状は図2に最もよく表されている)165とされ、ロータ14の半径方向外側から第3の空気通路164に吹き込まれた空気が上記曲面165に沿って最小の空気抵抗をもって滑らかに下方に方向変換されるように形成されている。また、第3の空気通路164の高さ位置(前記回転軸41aに沿った高さ位置)は、ロータ14を前記内空部410に設けた状態で、第3の空気通路164の底部が前記排気路81,82とほぼ同一の位置になるように設定されている。そして、各第2のタービン翼161の前記回転軸41aに向かう方向から見た側面形状は、前記第1のタービン翼151とは反対の方向に凹む凹曲形状とされている。第2のタービン翼161の下片は、前記回転方向42側に向くよう屈曲され、前記回転軸41aに平行な方向に対する屈曲角度βは、0°より大きく70°以下に設定されている。
【0034】
図2に示すように、前記第1のタービンブレード部15からの空気を第2のタービンブレード部16に導く為の空気の導入部17が、前記ヘッド部4における前記内空部410の内周、詳しくは前記段部418に設けられている。この導入部17について、図6〜図10も参照して説明する。前記給気路71〜73から内空部410に噴出された加圧空気は、第1の空気通路154にその半径方向外側から内側に向かって導かれ、また、第1の空気通路154の下端部から排出された加圧空気は第3の空気通路164にその半径方向外側から内側に向かって導かれる。前記導入部17は、第1の空気通路154の下端部から第3の空気通路164へ空気を導く為の複数(図例では7個)の第2の空気通路170からなり、該複数の第2の空気通路170は、前記回転軸41aを中心とする円周方向に沿って並設され、その形成されている領域171は、当該円周方向に関し、前記排気口811,821に近い側を除く全周にわたっている(図6参照)。また、該複数の第2の空気通路170が形成されている領域171は、前記給気路71〜73の給気口711,721,731が形成されている領域74を含まず、且つ給気口711,721,731が形成されている領域74より大きく形成されている(図4及び図6参照)。
【0035】
前記複数の第2の空気通路170は、前記内空部410における段部418から小径筒部417の内周にわたるよう形成されている。前記駆動部6を内空部410に収容した際、ロータ14の第1のタービンブレード部15が、大径筒部416の内周部に若干の隙間をもって嵌まり込み、また、第2のタービンブレード部16が、小径筒部417の内周部に若干の隙間をもって嵌まり込むように形成されている。そして、前記給気口711,721,731は大径筒部416の内面に開口して前記第1の空気通路154に対向するよう位置付けられ、排気口811,821は小径筒部417の内面に開口して前記第3の空気通路164の下端部位に位置付けられている。更に、前記段部418の前記排気路81,82に対応する部位には、該排気路81,82に通じる補助排気口83が長孔状に開口しており、第1の空気通路154に導入された空気の一部が、第2及び第3の空気通路170,164に向かわず直接排気路81,82から排気されるように構成されている。
【0036】
前記第2の空気通路170は、前記ヘッド部4に形成された内空部410の内周に設けられ、前記回転軸41aに平行な複数の壁部181と、該壁部181間に形成され前記回転軸41aに平行な面を横切る底壁部182とより形成される複数の凹状空所18からなる。前記凹状空所18は、前記底壁部182の表面を構成する第1の面18aと、該第1の面18aにおける前記回転軸41aに対する遠心側部より連続して立ち上がる曲面からなる第2の面18bと、前記底壁部182の両側に位置する前記壁部181の底壁部側内面を構成する第3及び第4の面18c,18dとより形成されている。そして、前記第3および第4の面18c,18dのうち、前記ロータ14の回転方向42の上流側に位置する第3の面18cには、前記凹状空所18の上向き開口側部分が切欠かれて、前記底壁部182に向かって傾斜する第5の面18eが形成されている。このように、第5の面18eが形成されていることにより、第1の空気通路154から第2の空気通路170への空気の流入性が向上し、これによりロータ14の回転速度の抑制や、サックバック防止が効果的になされる。更に、前記底壁部182、即ち、第1の面18aは、前記回転軸41aの軸心から放射方向に向けられ、且つこの放射方向に対し、前記ロータ14の回転方向42の下流側に向かって遠心するよう斜めに向けられている。このように第1の面18aをロータ14の回転方向42の下流側に向かって遠心するよう斜めに形成することにより、流入した空気を凹状空所18に一時的に滞留し易くして、前記サックバック防止機能をより顕著にすることができる。図8に示すように、第1の面18aの中心線と、この中心線が前記小径筒部417内周に交差する部分における接線とのなす角度(接線角)γは、45°〜60°に設定されている。また、前記第1および第2の面18a,18bと前記第3および第4の面18c,18dとの接続部が曲面によって連続的に形成されており、これによって第2の空気通路170での空気の流通が圧損少なく円滑になされる。この接続部の曲面の曲率半径は、0.1mm以上とすることが好ましい。
【0037】
以上のように構成されたハンドピース1を用いて歯牙の切削を行なう場合、図1に示すように、目的の作業に適した切削工具5が選択されて、工具支持部50にその下方から装着される。次に、図示しない加圧空気供給源から供給された加圧空気が供給用チューブ3を通じて各給気路71〜73に送り込まれる。次に、加圧空気は、各給気路71〜73から、ノズル部710,720,730に供給される。ノズル部710,720,730を通過する加圧空気は加速され、ロータ14の回転軸41aと直交する方向に(ロータ14の回転方向42に関して下流側に)向け、給気口711,721,731より噴出される。そして、前記第1の空気通路154に加圧空気が吹き込まれることにより、図5に示す第1のタービンブレード部15における第1のタービン翼151の前記作用面152に加圧空気のエネルギーが作用し、ロータ14は回転軸41aの軸心周りに矢印42方向に回転する。この回転に伴い、給気口711,721,731の対向部を通過する第1の空気通路154には順次加圧空気が吹き込まれ、ロータ14の前記回転が継続される。第1のタービン翼151の前記側面形状が回転方向42に凹む凹曲形状とされているから、第1の空気通路154に吹き込まれた加圧空気のエネルギーは、その作用面152に作用してロータ14の回転動力として効果的に消費される。従って、この段階でロータ14は高回転速度で大きな回転トルクを保有した状態で回転することになる。
【0038】
そして、第1の空気通路154に供給された加圧空気は、各第1のタービン翼151の間の第1の空気通路154を下方に流れる。そして、ロータ14の回転と共に第1の空気通路154がヘッド部4の筒状ハウジング部41に形成されている第2の空気通路170の対向位置に移動すると、空気は、第1の空気通路154の底部開口部から第2の空気通路170に流入する。このとき、第5の面18eが、凹状空所18の上流側にあって第1の面18a(底壁部182)に向かって傾斜するよう形成されているから、第2の空気通路170への空気の流入が円滑になされる。第2の空気通路170に入った空気は、この第2の空気通路170を形成している凹状空所18の第1〜第5の面18a〜18eに沿って、ロータ14の半径方向内側に向けて、ロータ14の第3の空気通路164に送り込まれる。凹状空所18は、その第1の面18aが図8に示すように遠心方向に角度γで傾いた状態で形成されているから、凹状空所18に流入する空気が一時的に滞留し易く、その内圧を高めた状態で第3の空気通路164に送り込まれる。第3の空気通路164に流入した加圧空気は、この第3の空気通路164を形成している各第2のタービン翼161の間とそれらの間に挟まれた内側の曲面165に案内されて下方に移動し、排気口811,821を介し排気路81,82に送り出される。排気路81,82に送り出された空気は、グリップ部2の内筒部を経て、ハンドピース1に接続された作用媒体供給チューブ3を通じて外部に放出される。
【0039】
第3の空気通路164に流入した加圧空気は、第2のタービンブレード部16を構成する第2のタービン翼161の前記作用面162に作用して、ロータ14の前記回転を更に推進する。しかし、第2のタービン翼161の側面形状は第1のタービン翼151とは逆方向に凹む凹曲形状とされているから、第2のタービン翼161の作用面162は作用する空気流に対向する凸曲面となり、第3の空気通路164に流入した空気はこの凸曲面に沿って流れるように作用する。従って、第2のタービンブレード部16に導入された空気による回転推進力は左程大きくなく、ここでのロータ14の回転速度が高められる度合いは小さく、全体としてのロータ14の回転速度を抑えることができる。しかし、第1のタービンブレード部15に対する加圧空気の作用によって、ロータ14は回転トルクを充分に保有しているから、歯牙の切削用として求められる切削能力を維持することができる。しかも、ロータ14の回転速度が抑制されることにより、切削工具5の耐用回転速度以下とすることが可能となり、切削工具5の折損や、工具保持部50からの飛び出し等の懸念もなくし、更に、切削時の騒音或いは発熱が小さくなり、患者に不快感を与えることもなくなる。加圧空気の噴出を停止させると、ロータ14の回転が停止するが、ロータ14の回転中は、前記凹状空所18に常時空気が充満され、この部分の内圧が高い状態とされるから、加圧空気の噴出を停止させても、サックバックがおこらず、歯牙の切削部位から切削屑や治療液等がヘッド部4の機構部内に吸引されることがない。
【0040】
このように、ロータの回転トルクをほぼ維持し、回転速度を低下させることによる歯科用エアタービンハンドピースにおける機能特性について図11を参照して説明する。図11は、ロータを回転させながら切削工具を歯牙に作用させる場合におけるロータの回転速度と、その時に歯牙に負荷されるトルクとの関係を示すグラフである。このグラフから解るように、無負荷の状態から切削工具を歯牙に作用させ、その作用力を強めてゆくに従いロータの回転速度は低下するが、歯牙が受ける負荷、即ちトルクは大きくなる。回転速度がゼロになるとトルクは最大となり、この時のトルクをロックトルクと言い、臨床現場では重要視されるトルクである。このロックトルクが高い程、強い力で歯牙を切削することができ、一般的にエアタービンハンドピースのトルクが高いと言われる。
【0041】
図11におけるグラフaは、従来のエアタービンハンドピースの例を示しており、この場合においてロックトルクをレベルAにしようとすると、ロータの無負荷時の回転速度(回転数、以下同様)60万rpm程度にする必要がある。これでは、切削工具の臨界回転速度45rpmをはるかに超える為に前記の懸念が生じる。そこで、グラフbに示すように、ロータに噴出させる加圧空気の圧力を下げて、回転速度40万rpm程度に下げると、ロックトルクもレベルB程度に下がり、歯牙の切削能力が落ち、エアタービンハンドピースとしての実用性が低下する。グラフcは、前記特許文献2で提案したように、ロータ等の構造を工夫することによってロックトルクを下げずにロータの回転速度を下げるようにしたものであり、歯牙の切削能力の低下を来たすことがない。しかし、ロータの回転速度を切削工具の臨界回転速度以下とすることができず、切削工具の不具合が生じる懸念は払拭できなかった。グラフdは、前記構成を備えるエアタービンハンドピース1の場合における同様の関係を示すものであり、ロックトルクをレベルAに維持したまま、ロータの回転速度を40万rpmに下げることができたことを示している。図11において、グラフa,cとグラフdとを比較すると、例えば、ロータの回転速度が20万rpmの時、グラフa,cの場合よりグラフdの場合の方がトルク値は低い。しかし、ロックトルクはレベルAで同じであるから、実質的な切削能力は変らず、術者の切削感も変化がない。
【0042】
このように、ロータ14を構成する第1及び第2のタービン翼151,161と、第2の空気通路170とのそれぞれの特有の構成が相乗して、トルクを維持したままロータ14の回転速度の低減を実現することができる。これによって、ロータ14を小径のものとすることができ、ヘッド部4の小型化が可能となり、歯科用エアタービンハンドピース1の種々の適性が飛躍的に向上する。しかも、ヘッド部4の内空部410に直接第2の空気通路170を形成しているから、内空部410のスペースが有効に活用され、小型化に一層寄与する。
【0043】
図12は、ヘッド部4の他の実施形態を示す平面図であり、図6に対応する概略図として示している。この実施形態は、複数(図示では6個)の第2の空気通路170の形成されている領域が、複数の領域からなり、前記各領域に含まれるそれぞれの第1の面は、前記回転軸の放射方向に対して異なる角度を有している。即ち、この角度は、図8に示す角度(接線角)γに対応し、図12では、6個の第2の空気通路170が、前記回転方向42の上流側から下流側に向け2個ずつ(170−1,170−2,170−3)の対とされ、各対が前記領域を構成し、それぞれの領域における前記角度γが、γ−1,γ−2,γ−3のようにロータ14の回転方向42の下流側に向け小さくなるよう設定されている。このように、角度γをロータ14の回転方向42の下流側に向け小さくなるよう設定することにより、ロータ14の回転方向上流側では、第2の空気通路170での空気の一時的滞留を図り、下流側では第3の空気通路164への速やかな流入を図ることができる。これにより、ロータ14の回転速度の抑制と前記サックバック防止機能とのバランスを適宜調整することができる。
図12では、6個の第2の空気通路170を2個ずつに分け、これを複数の領域とし、これら各領域の前記接線角γを下流側に向け順次異ならせるようにしているが、領域の構成態様はこれに限られるものではない。例えば、各領域を1個の第2の空気通路170で構成することも可能であり、また、各領域毎に含まれる第2の空気通路170の数を異ならせることも可能である。
図12に示す各第2の空気通路170−1,170−2,170−3は、符号の添付は省略するが、いずれも前記と同様の第1〜第5の面18a〜18eを有する凹状空所18からなる。また、その他の構成も図6と同様であるので、それぞれの符号の添付及びその説明を省略する。
【0044】
尚、前記の実施形態では、歯科用のエアタ−ビンハドピースを例に採って説明したが、術者によって使用されるその他の空気駆動回転切削器にも本発明を適用することができる。また、第1及び第2のタービンブレード部15,16を構成する第1及び第2のタービン翼151,161の数、更には導入部17を構成する第2の空気通路170の数は、例示のものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0045】
1 ハンドピース(空気駆動回転切削器)
2 グリップ部
4 ヘッド部
410 内空部
41a 回転軸
71〜73 給気路
711,721,731 給気口
81,82 排気路
811,821 排気口
12 上部軸受部(軸受)
13 下部軸受部(軸受)
14 ロータ
140 ハブ
142 大径リング部
143 小径リング部
15 第1のタービンブレード部
151 第1のタービン翼
154 第1の空気通路
16 第2のタービンブレード部
161 第2のタービン翼
164 第3の空気通路
17 導入部
170 第2の空気通路
18 凹状空所
181 壁部
182 底壁部
18a 第1の面
18b 第2の面
18c 第3の面
18d 第4の面
18e 第5の面
γ 接線角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
術者により把持されるグリップ部と、
前記グリップ部の先端部に設けられたヘッド部と、
前記ヘッド部に形成された内空部に軸受を介して回転軸周りに回転可能に支持されたロータとを有し、
前記ロータは、前記回転軸の周りに沿って複数の第1のタービン翼を配置する第1のタービンブレード部と、同じく前記回転軸の周りに沿って複数の第2のタービン翼を配置する第2のタービンブレード部とを一体に有しており、
前記ヘッド部の内空部には、前記グリップ部に設けた給気路から前記ロータの第1のタービンブレード部に向けて空気を噴出する為の給気口と、前記第1のタービンブレード部からの空気を前記第2のタービンブレード部に導く導入部と、前記第2のタービンブレード部からの空気を前記グリップ部に設けた排気路に排出する為の排気口とが設けられており、
前記給気口から噴出した空気は、前記ロータの回転軸に実質垂直な方向から前記第1のタービンブレード部に作用して前記ロータを前記回転軸の軸心回りに回転させ、前記各第1のタービン翼間に形成した第1の空気通路を経て、前記第1のタービンブレードから回転軸の軸方向に沿って排出され、更に前記導入部に形成した第2の空気通路を経て第2のタービンブレードに導かれ、該第2のタービンブレードに導かれた空気は、前記回転軸と実質垂直な方向に前記第2のタービンブレード部に作用して前記ロータの回転を推進し、前記各第2のタービン翼間に形成した第3の空気通路を経て、前記排気口から排出されるようにした空気駆動回転切削器であって、
前記第1のタービン翼の前記回転軸に向かう方向から見た側面形状は、前記ロータの回転方向上流側から下流側に向かって凹む凹曲形状とされ、前記第2のタービン翼の同側面形状は、該第1のタービン翼とは反対の方向に凹む凹曲形状とされていることを特徴とする空気駆動回転切削器。
【請求項2】
請求項1に記載の空気駆動回転切削器において、
前記第2の空気通路は、前記ヘッド部に形成された内空部の内周に設けられ、前記回転軸に平行な複数の壁部と、該壁部間に形成され前記回転軸に平行な面を横切る底壁部とより形成される複数の凹状空所からなり、
前記凹状空所は、前記底壁部の表面を構成する第1の面と、該第1の面における前記回転軸に対する遠心側部より連続して立ち上がる曲面からなる第2の面と、前記底壁部の両側に位置する前記壁部の底壁部側内面を構成する第3及び第4の面とより形成されていることを特徴とする空気駆動回転切削器。
【請求項3】
請求項2に記載の空気駆動回転切削器において、
前記底壁部は、前記回転軸の軸心から放射方向に向けられていることを特徴とする空気駆動回転切削器。
【請求項4】
請求項2に記載の空気駆動回転切削器において、
前記底壁部は、前記回転軸の軸心からの放射方向に対し、前記ロータの回転方向下流側に向かって遠心するよう斜めに向けられていることを特徴とする請求項2に記載の空気駆動回転切削器。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の空気駆動回転切削器において、
前記第1および第2の面と前記第3および第4の面との接続部が曲面によって連続的に形成されていることを特徴とする空気駆動回転切削器。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1項に記載の空気駆動回転切削器において、
前記第3および第4の面のうち、前記ロータの回転方向上流側に位置する第3の面には、前記凹状空所の開口側部分が切欠かれて、前記底壁部に向かって傾斜する第5の面が形成されていることを特徴とする空気駆動回転切削器。
【請求項7】
術者により把持されるグリップ部と、
前記グリップ部の先端部に設けられたヘッド部と、
前記ヘッド部に形成された内空部に軸受を介して回転軸周りに回転可能に支持されたロータとを有し、
前記ロータは、前記回転軸の周りに沿って複数の第1のタービン翼を配置する第1のタービンブレード部と、同じく前記回転軸の周りに沿って複数の第2のタービン翼を配置する第2のタービンブレード部とを一体に有しており、
前記ヘッド部の内空部には、前記グリップ部に設けた給気路から前記ロータの第1のタービンブレード部に向けて空気を噴出する為の給気口と、前記第1のタービンブレード部からの空気を前記第2のタービンブレード部に導く導入部と、前記第2のタービンブレード部からの空気を前記グリップ部に設けた排気路に排出する為の排気口とが設けられており、
前記給気口から噴出した空気は、前記ロータの回転軸に実質垂直な方向から前記第1のタービンブレード部に作用して前記ロータを前記回転軸の軸心回りに回転させ、前記各第1のタービン翼間に形成した第1の空気通路を経て、前記第1のタービンブレードから回転軸の軸方向に沿って排出され、更に前記導入部に形成した第2の空気通路を経て第2のタービンブレードに導かれ、該第2のタービンブレードに導かれた空気は、前記回転軸と実質垂直な方向に前記第2のタービンブレード部に作用して前記ロータの回転を推進し、前記各第2のタービン翼間に形成した第3の空気通路を経て、前記排気口から排出されるようにした空気駆動回転切削器であって、
前記第2の空気通路は、前記ヘッド部に形成された内空部の内周に設けられ、前記回転軸に平行な複数の壁部と、該壁部間に形成され前記回転軸に平行な面を横切る底壁部とより形成される複数の凹状空所からなり、
前記凹状空所は、前記底壁部の表面を構成する第1の面と、該第1の面における前記回転軸に対する遠心側部より連続して立ち上がる曲面からなる第2の面と、前記底壁部の両側に位置する前記壁部の底壁部側内面を構成する第3及び第4の面とより形成され、
前記第3および第4の面のうち、前記ロータの回転方向上流側に位置する第3の面には、前記凹状空所の開口側部分が切欠かれて、前記底壁部に向かって傾斜する第5の面が形成されていることを特徴とする空気駆動回転切削器。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の空気駆動回転切削器において、
前記回転軸を中心とする円周方向に関し、前記第2の空気通路の形成されている領域は、前記給気口が形成されている領域よりも大きいこと特徴とする空気駆動回転切削器。
【請求項9】
請求項8に記載の空気駆動回転切削器において、
前記第2の空気通路の形成されている領域は、前記回転軸を中心とする円周方向に関し、前記排気口に近い側を除く全周にわたっていることを特徴とする空気駆動回転切削器。
【請求項10】
請求項2乃至7のいずれか1項に記載の空気駆動回転切削器において、
前記第2の空気通路の形成されている領域は、複数の領域からなり、
前記各領域に含まれるそれぞれの第1の面は、前記回転軸の放射方向に対して異なる角度を有することを特徴とする空気駆動回転切削器。
【請求項11】
請求項10に記載の空気駆動回転切削器において、
前記第1の面の前記回転軸側端部から前記第1の面を前記回転軸側に延長した線と、前記第1の面の前記回転軸側端部を通り且つ前記回転軸側端部から前記ロータの回転方向に伸ばした接線との間に形成される接線角に関して、前記各領域に含まれる前記第1の面の接線角は、前記ロータの回転方向下流側に向け小さくなるよう設定されていることを特徴とする空気駆動回転切削器。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の空気駆動回転切削器において、
前記ロータが、大径リング部と、該大径リング部と同心の小径リング部とを含むリング状ハブを有し、
前記第1のタービンブレード部は、前記大径リング部の外周部に形成され、前記第2のタービンブレード部は、前記小径リング部の外周部に形成されていること特徴とする空気駆動回転切削器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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