説明

空洞含有ポリエステルフィルム

【課題】優れた熱寸法安定性と低比重性およびそれに付随する特性を同時に、かつ安定して達成することができ、太陽電池のバックシートや液晶ディスプレイ用バックライトユニットの反射板などとして好適に用いることのできる、空洞含有ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルとポリエステルに非相溶な成分を含有し、フィルム全体の見かけ比重が0.75以下であり、150℃30分での熱収縮率が長手方向、幅方向ともに1.0%以下である、空洞含有ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルムに関する。さらに詳しくは、空洞含有ポリエステルフィルム、特に熱寸法安定性と低比重を兼ね備えた空洞含有ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
空洞含有ポリエステルフィルムは、インクジェット、感熱転写、オフセット印刷などの印刷記録受容シートの基材や太陽電池のバックシート、液晶ディスプレイ用バックライトユニットの反射板などとして広く用いられている。この空洞含有ポリエステルフィルムは、ポリエステルに無機微粒子または/および非相溶樹脂を含有させて製造することが一般的である。
【0003】
無機粒子または/および非相溶樹脂を含有させる方法では、フィルム内部の空洞部分により、見かけ比重が軽くなる傾向があり、クッション性や絶縁性などが高く、単位面積あたりのコスト面でも有利である反面、熱寸法安定性に劣ることが多い。特許文献1には、熱寸法安定性が比較的良好であり、かつ低比重の白色ポリエステルフィルムが記載されているが、現在の市場の要求に合致できるものではない。高レベルの熱寸法安定性と低比重性およびそれに付随する特性を同時に、かつ安定して達成することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−178421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決することを課題とし、優れた熱寸法安定性と低比重およびそれに付随する特性を同時に、かつ安定して達成することができ、太陽電池のバックシートや液晶ディスプレイ用バックライトユニットの反射板などとして好適に用いることのできる、空洞含有ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明の空洞含有ポリエステルフィルムは下記の構成からなるものである。すなわち本発明の空洞含有ポリエステルフィルムは、ポリエステルとポリエステルに非相溶な成分を含有し、フィルム全体の見かけ比重が0.75以下であり、150℃30分での熱収縮率が長手方向、幅方向ともに1.0%以下であり、空洞を含有するポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた熱寸法安定性と低比重性およびそれに付随する特性を同時に、かつ安定して達成することができ、太陽電池のバックシートや液晶ディスプレイ用バックライトユニットの反射板などとして好適に用いることのできる、空洞含有ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
[層構成]
本発明の空洞含有ポリエステルフィルムは、単層フィルムでもよいが、ポリエステルとポリエステルに非相溶な成分を含有する層(B層)と、該B層の少なくとも片側に、ポリエステルを含有する層(A層)を有する積層フィルムであることが、製膜安定性の観点から好ましい。ポリエステルとポリエステルに非相溶な成分を含有する単層フィルムは、製膜安定性の観点から好ましくないことがある。A層とそれに隣接するB層を有する積層フィルムは、いくつの層から構成されてもよい。例えば、A層/B層の2層構成であってもよく、A層/B層/A層の3層構成、あるいは4層以上の構成であってもよいが、製膜上の容易さと製膜安定性を考慮するとA層/B層/A層の3層構成が好ましい。
【0010】
[ポリエステル]
本発明に用いるポリエステルとしては、ジカルボン酸成分とジオール成分とからなるポリエステルを用いる。ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸を挙げることができる。ジオールとしては、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールを挙げることができる。本発明では、これらのポリエステルの中で、製膜安定性が高く安価なポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエチレン2,6−ナフタレートを基本構成とすることが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートが好ましい。ポリエステルの含有量は、単層フィルムの場合は、フィルムに対して、65重量%以上が好ましく、さらに好ましくは70重量%以上である。積層フィルムの場合は、各層におけるポリエステルの含有量が、それぞれ、各層に対して65重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは70重量%以上である。ポリエステルの含有量を上記範囲内とすることにより、製膜安定性を向上させることができる。
【0011】
なお、ポリエステルには、必要に応じてその他の成分を共重合させてもよい。ジカルボン酸成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸やイソフタル酸の他に、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸を挙げることができる。ジオール成分としては、エチレングリコールの他に、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールを挙げることができる。
【0012】
これらのポリエステル樹脂中には、本発明の効果を阻害しない範囲内で各種添加物、例えば蛍光増白剤、架橋剤、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、紫外線吸収剤、有機の滑剤、無機の微粒子、充填剤、耐光剤、帯電防止剤、核剤、染料、分散剤、カップリンブ剤などが添加されていてもよい。
【0013】
[非相溶成分]
本発明に用いるポリエステルに非相溶な成分としては、ポリエステルに非相溶な樹脂や無機粒子が挙げられる。該非相溶樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン(PMP)などのポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フッ素樹脂などが好適に用いられる。これらは単独重合体であっても共重合体であってもよく、2種以上を併用してもよい。特にポリエステルとの臨界表面張力差が大きく、延伸後の熱処理によって変形しにくい樹脂が好ましく、具体的には、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、および、環状ポリオレフィン樹脂、ならびに、これらの共重合体を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂のなかでも、ポリメチルペンテンが特に好ましい。また、無機粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素、特に好ましくは、硫酸バリウムを用いるが、ポリエステルに非相溶な樹脂の方がフィルムの空洞部分が多く、見かけ比重が軽くなるため、好ましい。
【0014】
非相溶成分の含有量としては、A層およびB層を有する積層フィルムの場合は、B層に対して、5重量%以上35重量%以下が好ましく、さらに好ましくは10重量%以上30重量%以下である。また、単層フィルムの場合は、フィルムに対して、5重量%以上35重量%以下が好ましく、さらに好ましくは10重量%以上30重量%以下である。
【0015】
これより少ないと、空洞の数が不十分となり、見かけ比重が十分に軽くならないため、好ましくない。また、これより多いと、製膜安定性が劣るため、好ましくないことがある。
【0016】
また、B層以外の層(たとえばA層)についても、非相溶成分を含有させることができるが、その含有量は、非相溶成分を含有する層に対して、30重量%以下が好ましく、さらに好ましくは20重量%以下である。これより多いと、製膜安定性が劣るため、好ましくないことがある。もちろん、製膜性を向上させるために、A層に非相溶成分を含有させず、A層をポリエステルのみからなる層としても良い。
【0017】
本発明のフィルムは、非相溶成分を含有することが必要であるため、ポリエステルの含有量は、単層フィルムの場合は、フィルムに対して、95重量%以下とすることが好ましいことになり、より好ましくは90重量%以下である。一方、A層およびB層を有する積層のフィルムの場合、B層におけるポリエステルの含有量は、B層に対して、95重量%以下が好ましいこととなり、より好ましくは90重量%以下である。
【0018】
[製造方法]
以下、本発明のフィルムを製造する方法の一例を説明する。
【0019】
まず、ダイから溶融したポリエステルと非相溶成分の混合体を、フィードブロックを用いた同時多層押出法により、押出し、積層未延伸シートを製造する。すなわちA層を形成するポリエステルおよび非相溶成分の混合物とB層を形成するポリエステルおよび非相溶成分の混合物を、溶融し、フィードブロックを用いて、例えばA層/B層/A層となるように積層し、その積層構成を維持しながら、ダイに展開して押出す。なお、マルチマニホールドダイでも製造できるが、積層フィルムの界面での密着性、製造上の簡便さからフィードブロックを用いる方が、好ましい。
【0020】
ダイより押出された積層未延伸シートは、キャスティングドラム上で冷却固化され、未延伸積層フィルムとなる。この未延伸積層フィルムを、例えばロール加熱、赤外線加熱といった加熱手段で加熱し、まず長手方向(以降、縦方向と呼ぶこともある)に延伸して縦延伸フィルムを得る。この延伸は、2本以上のロールの周速差を利用して行うことが好ましい。延伸温度はポリエステルのガラス転移点(Tg)以上の温度とし、延伸倍率は、2.5〜4.0倍とすることが好ましい。
【0021】
縦延伸後のフィルムは、続いて、縦方向と直交する方向(以降、横方向と呼ぶこともある)の延伸、熱固定の工程を順次経て、二軸配向フィルムとするが、これらの処理はフィルムを走行させながら行う。横延伸の処理はポリエステルのガラス転移点(Tg)より高い温度から始める。そしてTgより5〜70℃高い温度まで昇温しながら行う。横延伸過程での昇温は連続的でも段階的(逐次的)でもよいが逐次的に昇温することが好ましい。例えばテンターの横延伸ゾーンをフィルム走行方向に沿って複数に分け、ゾーン毎に所定温度の加熱媒体を流すことで昇温する。横延伸の倍率は、2.5〜4.5倍とすることが好ましい。
【0022】
得られた二軸延伸フィルムの結晶配向を完了させて、平面性と寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内にて120〜220℃の温度で1〜30秒間の熱固定を行い、均一に徐冷後、室温まで冷却し、巻き取る。上記熱固定工程中では、必要に応じて横方向あるいは縦方向に3〜12%の弛緩処理を施してもよい。
【0023】
得られる二軸延伸フィルムは、非相溶成分の周りに空洞を形成しており、これにより従来のポリエステルフィルムよりも見かけ比重が低下している。この空洞含有ポリエステルフィルムは、従来のポリエステルフィルムと比較して、熱収縮率が大きい傾向がある。熱収縮率を小さくするためには、横延伸後の熱固定の温度を高くすることが一般的に有効であるが、熱固定の温度を高くしたならば、ポリエステルおよび非相溶樹脂が軟化してしまい、空洞がつぶれてしまったり、あるいは消滅してしまうため、見かけ比重が大きくなり、本来の目的が果たせなくなってしまう。ポリエステルフィルムは空気透過性が低いため、横延伸により空洞が発生した直後は空洞内に空気が十分に充填されていない(つまり、真空状態に近い)。この状態で、高温での熱固定により、ポリエステルおよび非相溶樹脂が軟化すると、空洞が真空状態であるがゆえに、空洞がつぶれてしまうのである。
【0024】
そこで、空洞内に空気を充填するために、二軸延伸の完了したフィルムを一定時間大気圧(90000Pa)以上の圧力条件下にて空気中に据え置く。据え置きする環境の温度は、ポリエステルのTg以下の温度であることが好ましく、具体的には、70℃以下が好ましく、より好ましくは55℃以下、さらに好ましくは40℃以下である。温度が70℃を超えると、ポリエステルおよび/または非相溶樹脂が軟化する可能性があり、この後の熱処理の効果が薄れるため、また、コスト面でも好ましくない。温度の下限は特に限定されるものではないが、コストの観点から−5℃以上が好ましい。また、静置する時間は、空洞に空気を十分に充填させるために、24時間以上が好ましい。
【0025】
上記のようにフィルムを据え置いて、空洞に空気を充填させた後、オーブンなどで熱処理を行う。この熱処理により、熱収縮率を小さくすることができるだけでなく、空洞内に充填された空気が膨張し、空洞を拡張させることにより、見かけ比重を低下させることができる。熱処理の温度は、ポリエステルの融点(Tm)以下であることが好ましく、具体的には、170〜230℃が好ましく、より好ましくは180〜220℃である。熱処理の温度が170℃よりも低いと熱収縮率が十分に小さくならず、230℃よりも高いと見かけ比重が十分に低下しないため、好ましくない。また、熱処理の時間は、5〜50秒間が好ましく、より好ましくは10〜40秒間である。熱処理の時間が5秒間よりも短いと熱収縮率が十分に小さくならず、50秒間よりも長いと見かけ比重が十分に低下しないため、好ましくない。このような熱処理により、従来の手法では成し得なかった低比重と熱寸法安定性の両立を達成することができる。つまり、従来の手法では、フィルムの見かけ比重を小さくするために、非相溶成分を多量に含有せしめていたが、非相溶成分の含有量を多くすればするほど、製膜性は悪化してしまう。これに対し、本願発明の製造方法は、製膜安定性に影響を与えずに、見かけ比重を低下させることができるため、非常に有効である。
【0026】
[物性]
本発明の空洞含有ポリエステルフィルム全体の見かけ比重は0.75以下であり、好ましくは0.65以下、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.55以下である。フィルム全体の見かけ比重が0.75を超えると、クッション性や絶縁性などが不十分となり、また、コストの観点からも好ましくない。見かけ比重の下限は特に限定されるものではないが、製膜安定性の観点から0.4以上であることが好ましい。上記範囲の見かけ比重は、二軸延伸してフィルム内に空洞を発生せしめることにより達成できる。
【0027】
本発明の空洞含有ポリエステルフィルムの150℃30分での熱収縮率は、長手方向、幅方向ともに1.0%以下であり、好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.6%以下、さらに好ましくは0.4%以下である。150℃30分での熱収縮率が1.0%を超えると、熱寸法安定性が不十分となる。熱収縮率の下限は特に限定されるものではないが、コストの観点から−0.2%以上であることが好ましい。上記範囲の熱収縮率は、上述した製法(二軸延伸後のフィルムに適切な据置処理と熱処理を施す製法)を採用することにより達成できる。
【0028】
本発明の空洞含有ポリエステルフィルムの部分放電電圧Umaxは、Umax(V)≧フィルム厚みT(μm)×2+400を満たすことが好ましく、より好ましくはUmax(V)≧フィルム厚みT(μm)×2+500、さらに好ましくはUmax(V)≧フィルム厚みT(μm)×2+600を満たすことである。部分放電電圧UmaxがUmax(V)<フィルム厚みT(μm)×2+400であると、絶縁性が不十分となるため、好ましくない。部分放電電圧Umaxの上限は特に限定されるものではないが、コストの観点からUmax(V)<フィルム厚みT(μm)×2+1000であることが好ましい。上記範囲の部分放電電圧は、上述した製法(二軸延伸後のフィルムに適切な据置処理と熱処理を施す製法)を採用することにより達成できる。
【0029】
本発明の空洞含有ポリエステルフィルム長手方向の最大熱収縮応力は、180g/mm以下であることが好ましく、より好ましくは160g/mm以下、さらに好ましくは140g/mm以下である。最大熱収縮応力が180g/mmを超えると、貼り合わせ加工などをした時に変形しやすいため、好ましくない。最大熱収縮応力の下限は特に限定されるものではないが、コストの観点から80g/mm以上であることが好ましい。上記範囲の最大熱収縮応力は、上述した製法(二軸延伸後のフィルムに適切な据置処理と熱処理を施す製法)を採用することにより達成できる。
【0030】
このように、本発明によれば、優れた熱寸法安定性と低比重性およびそれに付随する特性を同時に、かつ安定して達成することができ、太陽電池のバックシートや液晶ディスプレイ用バックライトユニットの反射板などとして好適に用いることのできる、空洞含有ポリエステルフィルムを提供することができる。
【0031】
なお、各特性値は以下の方法で測定する。
【0032】
(1)フィルム厚み
フィルムサンプルを、ダイアルゲージ(三豊製作所製No.2109−10)に直径10mmの測定子(No.7002)を取り付けたものにて、10点厚みを測定し、平均値をフィルムの厚みとした。
【0033】
(2)各層の厚み
フィルムを三角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋する。そして、包埋されたフィルムサンプルをミクロトーム(ULTRACUT−S)で縦方向に平行な断面を50nm厚の薄膜切片にした後、日立製作所製S−2100A形走査電子顕微鏡を用いて、倍率300倍、加速電圧3.0kvにて観察撮影し、写真から各層の厚みを測定し、平均厚みを求めた。
【0034】
(3)製膜安定性
フィルムが、二軸延伸製膜工程において、安定して製膜できるか、下記基準で評価した。
○:1日以上破断が発生せず、安定して製膜できる。
△:1時間以上1日以内に破断が発生する。
×:1時間以内に破断が発生し、安定な製膜ができない。
【0035】
(4)見かけ比重
フィルムを100mm×100mmの大きさにカットし、ダイアルゲージ(三豊製作所製No.2109−10)に直径10mmの測定子(No.7002)を取り付けたものにて10点の厚みを測定し、厚みの平均値d(μm)を計算した。また、このフィルムを直示天秤にて秤量し、重さw(g)を読みとり、下記の式で計算される値を、見かけ比重とした。
見かけ比重=w/d×100 (g/cm)。
【0036】
(5)熱収縮率
温度を150℃に設定したオーブン中でフィルムサンプルを無緊張状態で30分間保持し、加熱処理前後の標点間距離を測定し、長手方向と幅方向それぞれ下記式により熱収縮率を算出した(ASTM D1204 1984年版に準ずる)。この測定を5回繰り返し、平均値をフィルムの熱収縮率とした。
熱収縮率(%)=((L0−L)/L0)×100
L0:熱処理前の標点間距離
L :熱処理後の標点間距離
(6)部分放電電圧
サンプルを23℃、65%Rhの室内で一晩放置した後に、部分放電試験器KPD2050(菊水電子工業製)を用い、部分放電電圧を10回測定し、その平均値をフィルムの部分放電電圧とした。なお試験条件は下記のとおりとする。
・出力シートにおける出力電圧印加パターンは、1段階目が0Vから所定の試験電圧までの単純に電圧を上昇させるパターン、2段階目が所定の試験電圧を維持するパターン、3段階目が所定の試験電圧から0Vまでの単純に電圧を降下させるパターンの3段階からなるパターンのものを選択する。
・周波数は50Hzとする。
・試験電圧は1kVとするが、部分放電が観測されなかった場合には、1kVずつ試験電圧を上昇させて、部分放電が観測されるまで測定する。
・1段階目の時間T1は10sec、2段階目の時間T2は2sec、3段階目の時間T3は10secとする。
・パルスカウントシートにおけるカウント方法は「+」(プラス)、検出レベルは50%とする。
・レンジシートにおける電荷量はレンジ1000pCとする。
・プロテクションシートでは、電圧のチェックボックスにチェックを入れた上で5kVを入力する。また、パルスカウントは100000とする。
・計測モードにおける開始電圧は10pC、消滅電圧は10pCとする。
【0037】
(7)最大熱収縮応力
アルバック理工製TM−9300を使用し、サンプルサイズ幅10mm×長さ100mmのものを用い、45℃での初期荷重を30gに調整し、昇温速度10℃/分で45℃から250℃まで昇温しながら応力測定を行った。応力が最大となった点での最大熱収縮応力をフィルム断面積あたりの値に換算した。この測定を10回繰り返し、平均値をフィルムの最大熱収縮応力とした。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を詳述する。
【0039】
[実施例1〜36]
表1に示すA層用の原料と、B層用の原料を、280℃に加熱された2台の押出機にそれぞれ供給し、A層とB層がA層/B層/A層となるような3層フィードブロック装置を使用して合流させ、その積層状態を保持したままダイスよりシート状に成形した。さらにこのシートを表面温度25℃の冷却ドラムで冷却固化して得た未延伸フィルムを、85〜98℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に3.4倍延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き120℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に3.7の倍率で延伸した。その後テンター内において190℃にて熱固定を行い、室温まで冷やして空洞含有二軸延伸フィルムを得た。このフィルムに表2に示す条件で据置処理を施した後、オーブンにて表2に示す条件で熱処理を加え、空洞含有ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの物性は表2のとおりであった。いずれも、見かけ比重、熱収縮率ともに良好であった。
【0040】
[実施例37]
フィルムの層構成を単層とし、条件を表1、2に記載したとおりとすること以外は実施例1と同様にして空洞含有ポリエステルフィルムを得た。層構成を単層のものにするために押出機は、1台のみ用いた。得られたフィルムの物性は表2のとおりであり、見かけ比重、熱収縮率ともに良好であった。
【0041】
[比較例1]
表1、2に記載した条件をとる他は実施例1と同様にして空洞含有ポリエステルフィルムを作製した。二軸延伸後に、静置処理と熱処理を実施していないため、縦方向、横方向ともに熱収縮率が高かった。
【0042】
[比較例2]
表1、2に記載した条件をとる他は実施例1と同様にして空洞含有フィルムを作製した。無機粒子の含有量が多量であったため、見かけ比重が大きくなった。
【0043】
[比較例3]
二軸延伸時の熱固定温度を230℃とし、表1、2に記載した条件をとる他は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを作製した。二軸延伸時の熱固定温度を高くすることにより熱収縮率を小さくすることができたが、空洞がつぶれてしまったため、見かけ比重が大きくなってしまった。
【0044】
[比較例4]
表1、2に記載した条件をとる他は実施例1と同様にしてフィルムを作製した。非相溶成分を多量に添加して比重を小さくしようとしたが、製膜安定性が極めて悪く、製膜時の破断の多発により、フィルムを作製できなかった。
【0045】
[比較例5]
表1、2に記載した条件をとる他は実施例1と同様にして空洞含有フィルムを作製した。非相溶成分が少なく、空洞が少ないため、二軸延伸後の静置処理と熱処理を施しても、見かけ比重が大きかった。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の空洞含有ポリエステルフィルムは、優れた熱寸法安定性と低比重性およびそれに付随する特性を同時に、かつ安定して達成することができるため、太陽電池のバックシートや液晶ディスプレイ用バックライトユニットの反射板などとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルとポリエステルに非相溶な成分を含有し、フィルム全体の見かけ比重が0.75以下であり、150℃30分での熱収縮率が長手方向、幅方向ともに1.0%以下であり、空洞を含有するポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリエステル、および、ポリエステルに非相溶な成分を含有する層(B層)と、該B層の少なくとも片側に、ポリエステルを含有する層(A層)を有する請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステルに非相溶な成分がポリオレフィン系樹脂である請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
部分放電電圧Umax(V)とフィルム厚みT(μm)が下記式を満足する請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
Umax≧T×2+400
【請求項5】
フィルム長手方向の最大熱収縮応力が180g/mm以下である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
太陽電池バックシートに用いられる請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
ポリエステルとポリエステルに非相溶な成分を含有するフィルムを、二軸延伸し、フィルム内に空洞を発生せしめた後、70℃以下の環境下に24時間以上据え置き、170〜230℃で5〜50秒間熱処理する請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−202060(P2011−202060A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71533(P2010−71533)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】