空調機制御装置および方法
【課題】省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい空調機制御装置を提供する。
【解決手段】空調機制御装置1は、制御設定値Tsetを基準設定値Tiniから省エネルギー側の緩和目標設定値Tsvへ変更する際の設定値変更速度α(n)を決定する設定値変更速度決定部32と、制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価する要望評価部33と、設定値変更速度α(n)で制御設定値Tsetを基準設定値Tiniから緩和目標設定値Tsvまで変更する設定値決定部34と、制御対象空間の室温が制御設定値Tsetと一致するように制御機器4を制御する機器制御部2を備える。設定値変更速度決定部32と設定値決定部34とは、要望量が所定の緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を繰り返し探索する。
【解決手段】空調機制御装置1は、制御設定値Tsetを基準設定値Tiniから省エネルギー側の緩和目標設定値Tsvへ変更する際の設定値変更速度α(n)を決定する設定値変更速度決定部32と、制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価する要望評価部33と、設定値変更速度α(n)で制御設定値Tsetを基準設定値Tiniから緩和目標設定値Tsvまで変更する設定値決定部34と、制御対象空間の室温が制御設定値Tsetと一致するように制御機器4を制御する機器制御部2を備える。設定値変更速度決定部32と設定値決定部34とは、要望量が所定の緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を繰り返し探索する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省エネルギーを実現する空調機制御装置および方法に係り、特に居住者の要望に応じて省エネルギー性と快適性のバランスをとりながら、安定的な制御を実現する空調機制御装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、室内温度条件としては夏23〜26℃、冬20〜24℃が国際的に推奨されているが、緊急の省エネルギー対策として日本では冷房28℃、暖房20℃を推奨値としている。室温設定値を推奨値にする空調運転管理は設備管理者にとって容易であり導入しやすいが、冷房28℃、暖房20℃という設定値は温度以外の環境要因等に依存して快適性や知的生産性の大幅な悪化や低下に結びつく可能性がある。このような快適性や知的生産性の低下は居住者にとって好ましくないだけでなく、テナントや事務所などの事業者にとっては従業員の生産性低下による経済的損失に結びつくものである。さらに、居住者や事業者の居住環境への不満は建物価値の低下につながり、特にテナントオーナーにとっての不利益も少なくない。そこで、大きく分けて下記の2通りの技術が実用されている。
【0003】
第1の技術は、室温の制御設定値を、日毎の省エネスケジュールに基づいて従来運用の設定値(以下、基準設定値)よりも省エネルギー側に緩和する制御技術である(以下、設定値緩和型省エネ制御と呼ぶ)。例えば、省エネ設定時間帯において冷房運転の制御設定値を基準設定値26℃から緩和設定値27℃に変更することにより、エネルギー消費量を抑制する。緩和設定値は、室内環境に配慮すると共に居住者からの苦情を考慮して、主に現場の設備管理者や省エネ推進担当者が決定することが多い(特許文献1参照)。
【0004】
第2の技術は、申告を取り入れた快適制御技術であり、暑い/寒い(温度を上げて欲しい/温度を下げて欲しい)などの居住者の要望申告を制御設定値に反映させる制御技術である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−121126号公報
【特許文献2】特開2006−214624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された設定値緩和型省エネ制御では、節度のある動作が保証されるが、室温設定が固定的で柔軟性に欠けるという問題点があった。つまり、特許文献1に開示された設定値緩和型省エネ制御では、温度一定制御であるために安定的な制御動作と省エネルギー効果が得られるが、負荷や利用状況の変動などに柔軟に対応できず、居住環境が大きく悪化することがある。
【0007】
一方、特許文献2に開示された、申告を取り入れた快適制御では、状況に対応した室温設定の柔軟性が保たれるが、場当たり的で制御の安定性に欠けるという問題点があった。特許文献2に開示された制御では、例えば「暑い」という要望申告割合と「寒い」という要望申告割合の比率に対応して室温の制御設定値を上下させる。したがって、室内環境が極端に悪化する可能性は低いが、例えば「暑い」と「寒い」という相反する要望が拮抗する状態付近では要望の発生状況に応じて場当たり的に制御設定値が変更されることになり、一定の設定値に収束せずに制御が不安定になる。
【0008】
要望の拮抗状態とは、例えば、暑い側と寒い側の相反する要望が任意の温度付近を境に逆転するような状態を指す。居住者の要望申告を制御設定値に反映する快適制御では、要望が拮抗状態となる温度付近に制御設定値が近づくが、その後、制御設定値が収束に向かわず制御の安定性が大きく損なわれることがある。図16に室温と居住者の要望割合との関係の1例を示す。図16において、100は室温を上げて欲しいという要望の割合を示し、101は要望なしの割合を示し、102は室温を下げて欲しいという要望の割合を示している。図16の例では、26.5℃を境に暑い側と寒い側の要望の割合が反転している。このような環境に特許文献2に開示された快適制御を採用すると、初期段階では暑い/寒いの要望申告に応じて設定値が26.5℃付近に向かうが、その後、暑い/寒いの要望申告の出方に対応して設定値が頻繁に変更され、制御は不安定になる。そして、この制御が不安定な状態は、居住者の在室状況が変化するなどして要望の拮抗状態から自然に抜け出るまで放置されることになる。
【0009】
さらに、特許文献2に開示された、申告を取り入れた快適制御では、居住者の要望が過度に快適追求型になることがあり、過度に快適追求型になると、消費エネルギーが不適切に増大するという問題点があった。居住者の要望として申告されるのは通常、暑い/寒いといった環境改善要求、つまり不満から発生する要望であり、暑くも寒くもない適度な環境にいる居住者は空調環境を強く意識しないのが一般的なため、丁度良いとか、このままでよいといった要望(図16の例では要望なしに対応)は実験的に居住者に申告を要請するケース以外では集まりにくい。よって、実際に運用されている申告システムで収集される申告は暑い/寒いなどの相反する要望申告が主となり、要望の拮抗状態の付近で相反する両方の要望が、最悪の場合は、過度な快適追及型の状態で存在する。さらに、居住者が自由に申告を行なう一般的な申告システムでは、暑い/寒いと感じる居住者は任意のタイミングで短時間に複数回の申告を行なうことが可能である。よって、申告数や申告数割合(全申告数に対する暑い/寒いの割合)は居住者の申告行動に依存して狭い温度範囲で急激に変化する可能性もあり、このような場合に制御はより不安定となる。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい空調機制御装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の空調機制御装置は、温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tiniと、この基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定の制御設定値である緩和目標設定値Tsvとを予め記憶する定値目標記憶手段と、制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvへ変更する際の設定値変更速度α(n)を決定する設定値変更速度決定手段と、制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価する要望評価手段と、前記設定値変更速度決定手段が決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更する設定値決定手段と、制御対象空間の室温が前記設定値決定手段によって決定された制御設定値Tsetと一致するように空調機器を制御する機器制御手段とを備え、前記設定値変更速度決定手段と前記設定値決定手段とは、前記要望量が所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を繰り返し探索することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記要望評価手段は、前記要望量として、同一の居住者からの複数回の要望申告のうち最新の要望申告のみを残したときの要望申告者数、あるいは前記要望申告者数を制御対象空間の居住者数で除した要望申告者割合を導出することを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記緩和目標は、前記制御設定値Tset=緩和目標設定値Tsvの状態で前記要望量が所定の緩和中リミット量以下のまま持続できる時間が所定の緩和目標時間tkeep以上という条件であり、前記設定値決定手段と前記設定値変更速度決定手段とは、前記要望量が前記所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を探索し、探索した設定値変更速度α(n)での制御設定値変更を、前記要望量が前記緩和中リミット量以下の範囲で繰り返すことを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例は、さらに、前記設定値変更速度の探索履歴情報を、前記空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する探索履歴情報記憶手段を備え、前記設定値変更速度決定手段は、前記探索履歴情報記憶手段に記憶されている情報のうち、制御対象空間の外部環境が類似している探索履歴情報を利用して前記設定値変更速度α(n)を決定することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の空調機制御装置の1構成例は、さらに、前記要望量と前記制御設定値Tsetとの履歴を、前記空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する運用情報記憶手段と、この運用情報記憶手段に記憶された情報に基づいて、前記要望量と前記制御設定値Tsetの運用実績とを管理者に提示する情報提示手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例は、制御対象空間の温熱環境に対する居住者の要望のうち、前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定変更中に増加傾向となる可能性のある要望をトレードオフ要望とし、前記要望評価手段は、前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定変更中で、かつ前記居住者の要望に前記トレードオフ要望が含まれる場合には、前記制御設定値Tsetを省エネルギー側に設定変更開始するときの要望量を初期値として、集計を行う現時刻までのトレードオフ要望の要望量を積算して集計し、前記居住者の要望に前記トレードオフ要望が含まれない場合には、集計を行う現時刻から所定の固定評価時間tvalだけ前の時刻を集計の開始時刻として、この開始時刻から現時刻までを集計区間として要望量を集計することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記設定値変更速度決定手段は、前記設定値変更速度α(n)の探索を実施する度に前記設定値変更速度α(n)を一定割合で変化させることを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記設定値決定手段は、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)の探索が完了した場合に、探索した設定値変更速度α(n)での制御設定値変更を、前記要望量が前記緩和中リミット量以下の範囲で繰り返し、この設定値変更速度α(n)で前記緩和目標を満たさない繰り返し回数が所定の変更速度リトライ数Fgmaxを超えたときに、探索回数を初期化して、前記設定値変更速度α(n)の探索をし直すことを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例は、さらに、制御対象空間の室温が前記設定値決定手段によって決定された制御設定値Tsetに整定したかどうかを判定する制御整定判定手段を備え、前記設定値決定手段は、整定後に所定の設定値維持時間twaitの経過を待った上で、前記要望評価手段が集計した要望量と所定の緩和開始リミット量とを比較し、前記要望量が前記緩和開始リミット量以下であるときに、前記設定値変更速度決定手段が決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更開始することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記設定値決定手段は、前記要望量が前記緩和開始リミット量以下であるという条件が満たされない状態の持続時間が所定の上限を超えるか、あるいは前記要望評価手段が集計した要望量と前記緩和開始リミット量との比較回数が所定の上限を超えた場合には、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記設定値決定手段は、所定の探索継続条件を満たさないときに、前記設定値変更速度α(n)の探索を中止して、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の空調機制御方法は、制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価する要望評価ステップと、制御設定値Tsetを、温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tiniから、この基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定の制御設定値である緩和目標設定値Tsvへ変更する際の設定値変更速度α(n)を決定する設定値変更速度決定ステップと、この設定値変更速度決定ステップで決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更する設定値決定ステップと、制御対象空間の室温が前記設定値決定ステップで決定した制御設定値Tsetと一致するように空調機器を制御する機器制御ステップとを備え、前記設定値変更速度決定ステップと前記設定値決定ステップとは、前記要望量が所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を繰り返し探索することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価し、設定値変更速度α(n)で制御設定値Tsetを基準設定値Tiniから緩和目標設定値Tsvまで変更することを繰り返して、要望量が所定の緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を繰り返し探索することにより、居住環境の過剰な悪化を招かない範囲で省エネルギーを実現する安定的な制御の実現可能性を高めることができる。すなわち、本発明では、設定値変更による省エネルギー制御実施の際に制御対象空間の居住者の要望申告を反映した快適性の評価を取り入れることで、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい空調機制御装置を実現することができる。
【0018】
また、本発明では、設定値変更速度の探索履歴情報を、空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する探索履歴情報記憶手段を設け、探索履歴情報記憶手段に記憶されている情報のうち、制御対象空間の外部環境が類似している探索履歴情報を利用して設定値変更速度α(n)を決定することにより、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい設定値変更速度の探索回数を低減する可能性を高めることができる。
【0019】
また、本発明では、要望量と制御設定値Tsetとの履歴を、空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する運用情報記憶手段を設け、運用情報記憶手段に記憶された情報に基づいて、要望量と制御設定値Tsetの運用実績とを管理者に提示することにより、更なる設定値緩和を行って省エネルギーを推進するか、あるいは温熱環境悪化への考慮から基準設定値Tiniや緩和目標設定値Tsvをより快適性を重視した値に変更するのかといった省エネルギー性と快適性のバランスを考慮した運用の意思決定を支援することができる。
【0020】
また、本発明では、制御設定値Tsetを基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定変更中で、かつ居住者の要望にトレードオフ要望が含まれる場合には、制御設定値Tsetを省エネルギー側に設定変更開始するときの要望量を初期値として、集計を行う現時刻までのトレードオフ要望の要望量を積算して集計することにより、過度な環境悪化となる可能性を低減することができる。
【0021】
また、本発明では、探索した設定値変更速度α(n)で緩和目標を満たさない繰り返し回数が所定の変更速度リトライ数Fgmaxを超えたときに、探索回数を初期化して、設定値変更速度α(n)の探索をし直すことにより、室内環境や居住者の状況が変化するなどして、探索した設定値変更速度α(n)では緩和目標を満たせなくなった場合に対応することができる。
【0022】
また、本発明では、制御対象空間の室温が設定値決定手段によって決定された制御設定値Tsetに整定したかどうかを判定し、整定後に所定の設定値維持時間twaitの経過を待った上で、要望評価手段が集計した要望量と所定の緩和開始リミット量とを比較し、要望量が緩和開始リミット量以下であるときに、設定値変更速度決定手段が決定した設定値変更速度α(n)で制御設定値Tsetを基準設定値Tiniから緩和目標設定値Tsvまで変更開始することにより、制御対象空間の居住者が制御設定値Tsetの室温の室内環境に慣れ、要望量が落ち着くまで待ってから、制御設定値Tsetの変更を開始することができる。
【0023】
また、本発明では、要望量が緩和開始リミット量以下であるという条件が満たされない状態の持続時間が所定の上限を超えるか、あるいは要望評価手段が集計した要望量と緩和開始リミット量との比較回数が所定の上限を超えた場合には、緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することにより、管理者は、省エネルギー性と快適性のバランスを加味した運用設定であるかどうかを評価することができ、基準設定値Tiniや緩和目標設定値Tsvをより快適性を重視した側に変更するなどといった改善に向けた検討が可能となる。
【0024】
また、本発明では、所定の探索継続条件を満たさないときに、設定値変更速度α(n)の探索を中止して、緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することにより、管理者は、省エネルギー性と快適性のバランスを加味した運用設定であるかどうかを評価することができ、基準設定値Tiniや緩和目標設定値Tsvをより快適性を重視した側に変更するなどといった改善に向けた検討が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】要望割合と温度変化率との関係の1例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る空調機制御装置の制御目標決定部の動作を説明するフローチャートである。
【図4】制御目標決定部が決定する制御設定値と要望評価部の評価結果である要望申告者数と設定値緩和動作中か否かを示す設定値緩和フラグの推移を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る申告端末の画面の1例を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る要望評価部が記憶する要望申告データの1例を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態において冷房時の要望申告者数の集計区間を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態において冷房時の「暑い」という要望の集計区間を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る要望評価部の要望申告者数算出の動作を説明するフローチャートである。
【図10】本発明の第1の実施の形態において重複要望申告を削除する例を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態において要望申告データを分類する例を示す図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態における変更速度探索履歴情報の1例を示す図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図15】本発明の第3の実施の形態において情報端末の画面に表示される提示情報の1例を示す図である。
【図16】室温と居住者の要望割合との関係の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[発明の原理]
所定の温度からある目標温度に温度変更する場合、温度変化率を変えて目標温度に近づけると不満足状態が変化することが知られている。例えば、26℃から28℃に温度変更する場合、目標温度が同じ28℃であっても、26℃から28℃に移行する際の温度変化率を変えると、暑いという要望の発生状態(以下、要望状態)が変化する(文献「岩崎 由佳,“居住者の温冷感申告を利用した空調制御と居住者特性の分析”,名古屋大学大学院 環境学研究科 都市環境学専攻 久野覚研究室 原田昌幸研究室,2004年,<http://www.davinci.nuac.nagoya−u.ac.jp/ ̄harada/gakui_thema/gakui.htm>」)。発明者は、この知見を応用すれば要望の拮抗状態から抜け出す可能性を増大させられる点に着目した。そして、この知見を、要望申告を利用した設定値緩和制御に適用することで、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、制御を一定の動作範囲内に収束しやすくできることに想到した。以下では、制御設定値を省エネルギー側に設定することを緩和と言う。
【0027】
図1(A)、図1(B)に要望割合と温度変化率との関係の1例を示す。図16と同様に、100は室温を上げて欲しいという要望割合を示し、101は要望なしの割合を示し、102は室温を下げて欲しいという要望割合を示している。要望割合は、事実上、居住者の不満足度を表している。基準設定値26℃から緩和目標設定値27.5℃に制御設定値を緩和する際、27.5℃に移行する温度変化率をa’とした場合、室温を下げて欲しいという要望割合は室温の上昇に応じて図1(A)の103のように推移し、温度変化率をa’’とした場合、室温を下げて欲しいという要望割合は図1(A)の104のように推移し、温度変化率をa’’とした場合、室温を下げて欲しいという要望割合は図1(A)の105のように推移する。つまり、温度変化率をa’、a’’、a’’’のように変えることで暑い側の要望状態が変化することを示している。このように、暑い/寒いの要望状態のバランスが変化することで、要望の拮抗状態から抜け出て制御設定値が収束方向に向かう可能性が高まる。図1(A)、図1(B)の例では、例えば、26.5℃付近(変化率a’)で要望の拮抗状態に陥っていた状況が、温度変化率をa’’またはa’’’に変えることで、省エネルギー側の緩和値である27℃に移行しやすくなる。このように、温度変化率を変えて制御設定値を緩和させることにより、制御を安定化できる確率が増加する。なお、要望申告の数や強度(例えば、「暑い」要望の強度としては、「やや暑い」、「とても暑い」など)、上記要望割合、要望を申告した居住者の数など、要望を定量化したものを要望量と称するものとする。
【0028】
さらに発明者は、設定値緩和制御を行なう際の快適性の指標に用いる要望量として、個々の要望申告の数や強度ではなく、特に、要望申告者数あるいは要望申告者割合(以下、これらを要望者量とする)に着目した。すなわち、要望者量は要望量の下位概念に相当する。通常、オフィス環境などで特定の個人が極端に強い温熱的な不快感を伴う場合は、例えば、高いストレス状態や極端な睡眠不足、体調不良など特殊な要因によるものと思われる。よって、このような居住者からの要望申告数、あるいは要望強度を制御設定値に反映することは、他の居住者にとって好ましくないばかりか、制御の不安定性の要因になる可能性もある。要望者量を利用すれば、特殊な要因によって強い不満足を感じる居住者の要望強度や、同一居住者からの過剰な重複申告を制御に反映せずに済むため、より安定的な制御を実現しやすくなる。
【0029】
また、要望者量を採用することは、テナント管理者や設備管理者などが要望者量を適切に管理可能な状態を実現する。要望者量に関する条件を定め、この定められた条件を満たすように設定値緩和制御を行なえば、居住環境の過剰な悪化を招かない範囲で省エネルギーを実現する安定的な制御の実現可能性を高めることができるので、より好ましい。
【0030】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、制御設定値Tset=緩和目標設定値Tsvで要望申告者数Nv≦緩和中リミット数Nvlimのまま持続できる時間が緩和目標時間tkeep以上という条件を緩和目標とし、緩和目標を満たす設定値変更速度をNv<Nvlimの範囲で探索しながら設定値緩和制御を行なう。制御目標の決定方法が独自の発明部分であり、目標が決定された機器の制御に関しては汎用の技術である。
【0031】
簡単のためにオフィスなどの制御対象空間の冷房運転モードの例で説明するが、本実施の形態に示す変数や条件等を適用対象に応じて適宜設定すれば、他の適用対象でも同様に実施可能であることはいうまでもない。適用条件とこれらの設定パラメータをセットとして定めておき、条件に応じて設定パラメータを切り替えることで年間を通じて本発明を実施することも可能である。
【0032】
図2は本実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図である。空調機制御装置1は、機器制御部2と、制御目標決定部3とからなる。
機器制御部2は、制御目標決定部3が決定した制御設定値(本実施の形態では、室温設定値)を制御の目標値として制御機器4を制御する。
【0033】
制御目標決定部3の設定値決定部34は、定値目標記憶部30に記憶された定値目標値と、制御整定判定部31が判定する制御整定判定結果と、設定値変更速度決定部32が決定する制御目標の変更速度と、申告端末5から入力される居住者の要望申告とに基づいて要望評価部33が求める要望評価結果を利用し、制御設定値を決定する。
【0034】
要望申告者(制御対象空間の居住者)の要望は、申告端末5から入力され、要望申告者の識別情報とともに要望評価部33に送信されるものとする。要望申告者の識別情報は、要望申告者が要望申告と同時に申告端末5に自身のユーザIDを入力したときに、このユーザIDを要望申告者の識別情報として、要望申告と併せて送信すればよい。あるいは、申告端末5が各要望申告者に対応している場合、すなわち要望申告者毎に申告端末5が設けられている場合には、申告端末5を識別する端末IDを要望申告者の識別情報として、要望申告と併せて送信すればよい。
【0035】
以下、各構成要素について説明する。機器制御部2は、制御機器4の制御を行う。制御機器4との通信や、制御目標に制御機器4を制御するアルゴリズムは汎用の製品や技術を用いたもので構わない。
制御目標決定部3は、上記緩和目標を満たす設定値変更速度(制御設定値の変化率)を探索しながら、所定の基準設定値から所定の緩和目標設定値に向かう制御設定値Tsetを、定値目標記憶部30、制御整定判定部31、設定値変更速度決定部32および要望評価部33の各情報に基づいて逐次決定する。
【0036】
定値目標記憶部30には、温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tini[℃]と、緩和目標設定値Tsv[℃]と、緩和目標時間tkeep[sec]とが予め記憶されている。基準設定値Tiniは、快適性を考慮した従来の設定値であり、例えば国際的に推奨されている例では、夏で23〜26℃、冬で20〜24℃である。緩和目標設定値Tsvは、この基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定になっている設定値である。すなわち、一般的な空調システムで冷暖房を運用している場合、通常は、緩和目標設定値Tsvは、冷房時であれば基準設定値Tiniより高い温度に設定され、暖房時であれば基準設定値Tiniより低い温度に設定される。
【0037】
緩和目標時間tkeepは、制御設定値Tset=緩和目標設定値Tsvで要望申告者数Nv≦緩和中リミット数Nvlimのまま持続したい目標時間である。これらの基準設定値Tini、緩和目標設定値Tsvおよび緩和目標時間tkeepは、実現したい省エネルギーと、極端な室内環境悪化を生じさせないことを想定した一般的な範囲で、設備管理者や制御対象空間の環境管理者(以下、管理者)が適宜設定する。
【0038】
制御整定判定部31は、制御量(本実施の形態では制御対象空間の室温)が、制御目標決定部3で決定した制御設定値に整定したかどうかを判定する。制御整定判定部31には、制御整定の判定条件が設備管理者や制御プロバイダによって予め設定されている。
【0039】
設定値変更速度決定部32は、基準設定値Tini[℃]から緩和目標設定値Tsv[℃]に制御設定値を変更する際の設定値変更速度を決定する。設定値変更速度決定部32には、変更速度初期値αs[℃/sec]と、変更速度決定方法と、変更速度探索継続条件(以下、探索継続条件)とが設備管理者やプロバイダによって予め設定されている。変更速度決定方法としては、汎用の探索手法を用いればよいが、説明を簡単にするため、本実施の形態の変更速度決定方法は設定値変更速度を一定割合で減少させる例とする。探索継続条件は、「変更速度変更回数が所定の上限値以下で、かつ、変更速度が所定の下限値以上」とする。さらに、設定値変更速度決定部32には、変更速度変更幅−a[℃/sec](aは正の数)、変更速度更新上限数nmax[回]、変更速度下限αminが設定されている。
【0040】
要望評価部33は、申告端末5から送信される要望申告者の要望申告と要望申告者の識別情報とを受信して記憶し、所定の評価タイミングで要望申告を評価して要望評価結果(本実施の形態では要望申告者数Nv)を算出する。要望評価は、その要望の種類と、制御設定値を省エネルギー設定に変更する設定値緩和動作中か否かの状態を示す設定値緩和フラグCstatとに基づいて行われる。
【0041】
要望評価部33には、求めた要望評価結果に対して設定値緩和開始判断で利用される緩和開始リミット数Nvs[人]と、設定値緩和の中止判断に利用される緩和中リミット数Nvlim[人]とが予め設定されている。また、要望評価部33には、基準設定値Tini[℃]に制御が整定した後、制御対象空間の居住者が基準設定値Tini[℃]の室内環境に慣れるまでの時間として設定値維持時間twait[min]も予め設定されている。
【0042】
緩和開始リミット数Nvs[人]と緩和中リミット数Nvlim[人]とは、前記管理者が室内環境(温熱環境に限らず、知的生産性などをの環境評価要素を含む)の管理指標としての要望申告者数を考慮して予め設定する。
【0043】
なお、本実施の形態では、要望者量として要望申告者数を用いているが、要望申告者数を制御対象空間の居住者数で除した要望申告者割合を要望者量として用いてもよい。ここで、用いる居住者数はセキュリティシステムの情報や画像センサを利用した正確な人数を採用してもよいが、当該制御対象空間の平均的な居住者数を利用することでも本実施の形態が適用できる。この場合、想定した平均的な居住者数に対する実際の居住者数の変動幅を考慮して、適宜、緩和開始リミット数Nvs[人]や緩和中リミット数Nvlim[人]等のパラメータ値を決定する。
【0044】
また、説明を簡単にするために本実施の形態では、評価タイミングを評価周期Cs毎としているが、要望申告者からの要望申告が発生した任意のタイミングで逐次本実施の形態で説明する要望評価を行なってもよい。
【0045】
制御機器4は、制御対象となる空調機器である。申告端末5は、室内環境の温熱的な改善要望(暑い/寒い、室温を上げて欲しい/下げて欲しい、等)を、要望申告者が入力する端末である。申告端末5としては、専用端末、PC(コンピュータ)、携帯電話機などがある。申告端末5は、要望申告者が入力した要望と、要望申告者の識別情報とを要望評価部33に送信する。上記のとおり、要望申告者の識別情報は、ユーザIDでもよいし、申告端末5が要望申告者と1対1で対応していれば申告端末5の端末IDでもよい。
【0046】
次に、本実施の形態の特徴部分である制御目標決定部3の動作について説明する。図3は制御目標決定部3の動作を説明するフローチャート、図4は制御目標決定部3が決定する制御設定値Tsetと要望評価部33の評価結果である要望申告者数Nvと設定値緩和動作中か否かを示す設定値緩和フラグCstatの推移を示す図である。図3には記載していないが、機器制御部2は制御目標決定部3が決定した制御設定値Tsetを目標値として制御機器4を制御するという一般的な制御の基本動作を、制御目標決定部3の動作と並行して実行しているものとする。また、要望評価部33は、任意のタイミングで要望申告者から申告端末5を介して送信される要望申告を逐次受信しながら、評価周期Cs毎に評価結果である要望申告者数Nv[人]を更新する動作を繰り返すものとする。
【0047】
以下では、制御目標決定部3の基本動作を説明し、その後に要望評価部33の要望評価の詳細について説明する。
定値目標記憶部30には、温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tini[℃]と、緩和目標設定値Tsv[℃]とが予め設定されている。基準設定値Tiniは、快適性を考慮した従来の設定値であり、例えば国際的に推奨されている例では、夏で23〜26℃、冬で20〜24℃である。緩和目標設定値Tsvは、冷房/暖房などの空調の運転モードに応じて基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定される設定値である。説明を簡単にするために本実施の形態では冷房時の代表例を説明するので、Tsv>Tiniである。使用している制御機器4や運転モード(暖房等)に対応して省エネルギー設定となる緩和目標設定値Tsvを適宜設定する。
【0048】
設定値決定動作が起動すると、制御目標決定部3の設定値決定部34は、初期化処理として、設定値緩和フラグCstatを0に初期化し、変更速度変更回数nを1に初期化する。ここで、設定値緩和フラグCstatは、制御目標である制御設定値Tsetが基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定になっているか否かを示す。Cstat=1の場合は、制御設定値Tsetが基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定になっており、設定値緩和動作中であることを示している。Cstat=0の場合は、制御設定値Tsetが基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定になっておらず、設定値緩和動作中でないことを示している。つまり、Cstat=1は省エネルギー制御である設定値緩和によって制御対象空間の居住者の快適性が犠牲となる可能性のある状態を示していることとなる。変更速度変更回数n(nは正の整数)は、設定値変更速度の変更回数である探索回数を示している。以下、変更速度変更回数nを探索回数nとする。
【0049】
初期化処理後、設定値決定部34は、設定値決定開始処理として、Tset=Tini、t0=tnow、Fg=0、Nv=NvHbase=0と設定する(図3ステップS1−1)。ここで、Tsetは制御設定値、Tiniは基準設定値、t0は基準値制御開始時刻、tnowは現在時刻、Fgは探索状態フラグ、Nvは要望申告者数、NvHbaseは「暑い」という要望を出す要望申告者数の初期値である。
この目標決定開始処理でTset=Tiniと設定されることにより、機器制御部2は、制御対象空間の室温が基準設定値Tiniになるように制御機器4の制御を開始する。
【0050】
探索状態フラグFgは、設定値変更速度の探索状態を示す正の整数であり、表1のような状態を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
要望申告者数Nvおよび要望申告者数初期値NvHbaseについては後述する要望評価部33の動作で使用する。
次に、設定値変更速度決定部32は、探索状態フラグFgに基づいて設定値変更速度α(n)を決定する(図3ステップS1−2)。Fg=0の場合は、予め記憶された変更速度決定方法に従って設定値変更速度α(n)を決定する。Fg≧1の場合については、ステップS1−11以降の動作で説明する。
【0053】
本実施の形態の変更速度決定方法は、変更速度初期値αs[℃/sec]と変更速度変更幅−a[℃/sec](aは正の数とする)とを用いた次式で表される決定方法とする。
α(n)=αs−a×(n−1) ・・・(1)
すなわち、設定値変更速度決定部32は、式(1)により設定値変更速度α(n)を決定する。なお、説明を簡単にするため、本実施の形態では式(1)によって設定値変更速度α(n)を所定の変更幅aで減少させていく例を示すが、設定値変更速度α(n)を所定の変更幅で増加させてもよいし、変更幅を可変にするなどしてももちろん構わない。
【0054】
次に、設定値決定部34は、探索継続条件に基づき、設定値変更速度α(n)の探索継続判断を行う(図3ステップS1−3)。本実施の形態の探索継続条件は、予め定められた変更速度更新の上限数nmax[回]と変更速度下限αmin(αmin<αs)に基づき、(n≦nmax)かつ(α(n)≧αmin)とする。探索継続条件を満たさない場合には、設定値決定動作は中止される(図3ステップS1−3においてNO)。この設定値決定動作の中止は、Tset=TsvでNv≦Nvlimのまま持続できる時間がtkeep以上という所定の緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を、探索継続条件の範囲では探索できなかったことを示す。
【0055】
なお、設定値決定動作が中止された場合でも、外気条件や室内負荷、居住者数の変動によって緩和目標が達成できる状況となることもある。このため、設定値決定動作が中止された場合には、所定の時刻、あるいは、設定値決定動作中止の数十分後などに再び設定値決定動作を起動するといった起動スケジュールを予め設定しておくことで、日単位などのより長い期間内では所定の緩和目標を満たす時間帯が実現する可能性がある。なお、探索継続条件は、変更速度決定方法に応じて適宜定めればよく、探索的手法を用いる場合には探索回数や探索範囲などの制約条件を定めればよい。
【0056】
また、設定値決定動作が中止された場合は、イベントをログに残したり、電子メールを発信するなどして前記管理者にその旨を通知することが望ましい。通知された前記管理者は、省エネルギー性と快適性のバランスを加味した運用設定であるかどうかを評価することができ、基準設定値や緩和目標設定値をより快適性を重視した側に変更するなどといった改善に向けた検討が可能となる。
【0057】
次に、設定値決定部34は、(n≦nmax)かつ(α(n)≧αmin)という探索継続条件を満たす場合(図3ステップS1−3においてYES)、制御量が制御設定値Tsetに整定するのを待つ(図3ステップS1−4)。整定したか否かの判定は予め定められている整定判定条件に基づき、制御整定判定部31が行う。整定判定条件は、空調制御において一般的に用いられる判定条件でよい。例えば制御量である室温が、所定の時間以上、制御設定値Tset付近の所定の範囲内にあることを整定判定条件とする。具体的には、例えばTset±0.2℃の範囲で10分以上制御量が推移することを整定判定条件とすればよい。
【0058】
設定値決定部34は、制御整定後、Tset=Tiniのまま、さらに設定値維持時間twaitが経過するのを待つ(図3ステップS1−5)。設定値維持時間twaitは、制御対象空間の居住者が室温Tiniの室内環境に慣れるまでのおおよその目安となる時間でよい。例えば温熱環境の心理・生理に関する実験等で目安として採用される20分などの値が設定値維持時間twaitとして要望評価部33に予め設定されている。
【0059】
設定値維持時間twaitが経過すると、設定値決定部34は、設定値緩和開始判断を行う(図3ステップS1−6)。設定値決定部34は、要望評価部33に設定されている緩和開始リミット数Nvs[人]と、要望評価部33の最新の要望評価結果である要望申告者数Nv[人]とを比較して、Nv≦Nvsかどうかを判断する。設定値決定部34は、Nv≦Nvsが満たされない場合(図3ステップS1−6においてNO)、ステップS1−6の設定値緩和開始判断を繰り返して条件が満たされるのを待つ。この間、制御設定値Tsetは基準設定値Tiniのままであるから、室温はTiniで維持される。
【0060】
なお、Nv≦Nvsが満たされない状態の持続時間や設定値緩和開始判断の繰り返し数に上限を設け、持続時間が上限を超えたり、設定値緩和開始判断の繰り返し数が上限を超えたりしても、Nv≦Nvsが満たされない場合には、ステップS1−3の探索継続条件を満たさない場合と同様に設定値決定動作を中止し、管理者に通知することが好ましい。この場合も、通知された前記管理者は、省エネルギー性と快適性のバランスを加味した運用設定であるかどうかの検討や改善に向けた検討が可能となる。
【0061】
以上のステップS1−4〜S1−6の動作中における制御設定値Tset、要望申告者数Nv、設定値緩和フラグCstatの推移の例を図4のW−1,W−2,W−3の区間に示している。区間W−1,W−2,W−3の各々においては、Nv≦Nvsが満たされていないため、制御設定値Tsetは基準設定値Tiniのままとなっており、設定値緩和フラグCstatは設定値緩和動作中でないことを示す値0のままとなっている。
【0062】
次に、設定値決定部34は、Nv≦Nvsを満たす場合(図3ステップS1−6においてYES)、設定値緩和開始処理として、設定値緩和フラグCstat=1、設定値緩和開始時刻t1=tnowとする(図3ステップS1−7)。tnowは、この設定値緩和開始処理を行う時点の時刻である。また、設定値決定部34は、設定値緩和開始時の「暑い」という要望の申告者数の初期値NvHbase[人]を、「暑い」という要望を出している最新の要望申告者数であるNvH[人]とする(ステップS1−7)。NvH、NvHbaseについては後述する要望評価部33の動作で説明する。
【0063】
次に、設定値決定部34は、設定値変更速度決定部32がステップS1−2で決定した設定値変更速度α(n)を利用して、制御設定値Tsetを省エネルギー設定の緩和値に決定する(図3ステップS1−8)。
A=Tini+α(n)×F_et(tnow,t1) ・・・(2)
【0064】
ここで、F_et(tnow,t1)は設定値緩和開始時刻t1から現在時刻tnowまでの経過時間[sec]である。nは探索回数であり、n=1,2,3,・・・・,nmaxの整数である。なお、ここでの現在時刻tnowとは、設定値決定部34が制御設定値Tsetを決定しようとする時点の時刻であることは言うまでもない。設定値決定部34は、式(2)で計算した値Aが緩和目標設定値Tsvより小さい、すなわちA<Tsvのとき、制御設定値Tset=Aとし、値Aが緩和目標設定値Tsv以上、すなわちA≧Tsvのとき、制御設定値Tset=Tsvとする。
機器制御部2は、制御対象空間の室温が、設定値決定部34によって決定された新たな制御設定値Tsetと一致するように制御機器4を制御する。
【0065】
そして、設定値決定部34は、要望評価部33の評価結果である要望申告者数Nv[人]が緩和中リミット数Nvlim[人]を超えていないかどうかをチェックする設定値緩和中止判断を行なう(図3ステップS1−9)。設定値決定部34は、要望申告者数Nvが緩和中リミット数Nvlimを超えていなければ(図3ステップS1−9においてNO)、ステップS1−8に戻って、式(2)によって制御設定値Tsetを更新する。したがって、Nv≦Nvlimであれば、ステップS1−8とステップS1−9の処理が繰り返され、制御設定値Tsetは基準設定値Tini[℃]から緩和目標設定値Tsv[℃]に向けて変更速度α(n)[℃/sec]で省エネルギー側に徐々に変更される。制御設定値Tsetが緩和目標設定値Tsvに到達した後もNv≦Nvlimであれば、制御設定値Tsetは緩和目標設定値Tsvのまま維持される。
【0066】
そして、設定値決定部34は、要望申告者数Nvが緩和中リミット数Nvlimを超える(Nv>Nvlim)と、設定値緩和動作を中止し(図3ステップS1−9においてYES)、現在の探索状態フラグFgと緩和目標維持時間tmtおよび緩和目標時間tkeep[sec]に基づき、探索状態フラグFgを更新する(図3ステップS1−10)。ここで、tmtは(Tset=Tsv)かつ(Nv≦Nvlim)という条件を維持した実績時間[sec]、tkeepは(Tset=Tsv)かつ(Nv≦Nvlim)という条件を維持したい目標時間[sec]である。目標時間tkeepは、前記管理者によって予め定められている。
【0067】
設定値決定部34は、実績時間tmtを式(3)により算出する。
B=(Tsv−Tini)/α(n) ・・・(3)
設定値決定部34は、式(3)で計算した値Bが、設定値緩和開始時刻t1から現在時刻tnowまでの経過時間F_et(tnow,t1)以上のとき、実績時間tmt=0とし、値Bがこの経過時間F_et(tnow,t1)未満のとき、実績時間tmtを経過時間F_et(tnow,t1)からBを引いた値F_et(tnow,t1)−Bとする。なお、ここでの現在時刻tnowとは、設定値決定部34が探索状態フラグFgを更新しようとする時点の時刻であることは言うまでもない。
【0068】
そして、設定値決定部34は、現在の探索状態フラグFg=0かつtmt<tkeepの場合、すなわち以前の設定値緩和処理および今回の設定値緩和処理において緩和目標を満たしていない場合、探索状態フラグを現在と同じFg=0とする。設定値決定部34は、現在の探索状態フラグFg=0かつtmt≧tkeepの場合、すなわち今回の設定値緩和処理において緩和目標を満たした場合、探索状態フラグをFg=1に更新する。設定値決定部34は、現在の探索状態フラグFg≧1かつtmt<tkeepの場合、すなわち以前の設定値緩和処理において緩和目標を1回以上満たし、今回の設定値緩和処理において緩和目標を満たしていない場合、探索状態フラグFgの値を1増やす(Fg=Fg+1)。設定値決定部34は、現在の探索状態フラグFg≧1かつtmt≧tkeepの場合、すなわち以前の設定値緩和処理において緩和目標を1回以上満たし、今回の設定値緩和処理においても緩和目標を満たした場合、探索状態フラグをFg=1に更新する。
【0069】
このように、Fg=1のときは今回緩和目標を満たしたことを示し、Fg≧2のときは同じ変更速度で設定値変更を繰り返した場合に連続で緩和目標を満たさなかった回数が(Fg−1)として示される。
実績時間tmtは式(3)により算出されるが、ステップS1−8とS1−9が繰り返される中でTset=Tsvとなった時刻をメモリに記憶するようにして、この時刻とステップS1−10時点の時刻との差から実績時間tmtを算出するなどの方法でももちろん構わない。
【0070】
設定値決定部34は、探索状態フラグFgの更新後、設定値決定動作更新処理として、設定値緩和フラグCstat=0とし、さらに探索状態フラグFgに基づき探索回数nを更新する(図3ステップS1−11)。探索回数nは、探索状態フラグFgおよび変更速度リトライ数Fgmaxに基づき以下のように更新される。変更速度リトライ数Fgmaxは、一度は緩和目標を満たした変更速度で設定値変更を繰り返し試行した場合に、緩和目標を連続で満たさない回数の許容値であり、前記管理者や制御プロバイダによって予め定められた正の整数である。設定値決定部34は、具体的には探索状態フラグFg=0のとき、探索回数nを1増やす(n=n+1)。設定値決定部34は、1≦Fg≦(Fgmax+1)のとき、現在の探索回数nを維持する。また、設定値決定部34は、Fg>(Fgmax+1)のとき、探索回数nを1に初期化する(n=1)。
【0071】
つまり、以前の設定値緩和処理および今回の設定値緩和処理において緩和目標を満たさない場合であるFg=0の場合には、探索回数nをインクリメントして(n=n+1)、次のステップS1−1〜S1−11の処理で設定値変更速度α(n)を再び変更し、Fg≧1で、緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)の探索が完了している場合には、探索回数nをインクリメントせずに(n=n)、次のステップS1−1〜S1−11の処理でも同じ設定値変更速度α(n)を用いる。
【0072】
ただし、この同じ設定値変更速度α(n)での設定値緩和再試行において緩和目標を満たさない回数が連続でFgmaxを超えると、探索回数nを初期化するので(n=1)、次のステップS1−1〜S1−11の処理では設定値決定動作起動時と同様の動作となる。つまり、緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索しても、その後、室内環境や居住者の状況が変化するなどしてその設定値変更速度α(n)では緩和目標を満たせなくなる場合があり、この場合に対応して設定値変更速度α(n)を探索し直すようにする。
【0073】
そして、再び、ステップS1−1において設定値決定開始処理が行われ、直前のステップS1−11で更新された探索回数nに基づき設定値変更速度α(n)が決定され(ステップS1−2)、ステップS1−3以降の処理が実行される。
【0074】
以上のように、本実施の形態では、緩和目標(制御設定値Tset=緩和目標設定値Tsvで要望申告者数Nv≦緩和中リミット数Nvlimのまま持続できる時間が緩和目標時間tkeep以上)を満たす設定値変更速度α(n)を探索し、探索した設定値変更速度α(n)での制御設定値変更をNv≦Nvlimの範囲で繰り返すことで、居住環境の過剰な悪化を招かない範囲で省エネルギーを実現する安定的な制御の実現可能性を高めることができる。
【0075】
図4の区間X−1,X−2においては、要望申告者数Nvが緩和中リミット数Nvlim以下である間、設定値緩和フラグCstatは設定値緩和動作中であることを示す値1となっており、制御設定値Tsetが設定値変更速度α(n)で繰り返し変更され、要望申告者数Nvが緩和中リミット数Nvlimを超えた時点で設定値緩和動作が停止される。一方、区間X−3においても、同様に、制御設定値Tsetが設定値変更速度α(n)で繰り返し変更されるが、要望申告者数Nvが緩和中リミット数Nvlimを超える前に、制御設定値Tsetが緩和目標設定値Tsvに達している。
【0076】
次に、要望評価部33の要望評価の動作を説明する。申告端末5は、室内環境の温熱的な改善要望(暑い/寒い、室温を上げて欲しい/下げて欲しい、等)を、要望申告者が入力する端末である。申告端末5としては、専用端末、PC(コンピュータ)、携帯電話機などがある。申告端末5は、要望申告者が申告する要望を任意のタイミングで受け付け、この要望と要望申告者の識別情報とを要望評価部33に送信する。上記のとおり、要望申告者の識別情報は、ユーザIDでもよいし、申告端末5が要望申告者と1対1で対応していれば申告端末5の端末IDでもよい。図5に申告端末5の画面の1例を示す。
【0077】
本実施の形態では、居住環境の過剰な悪化を招かない範囲で省エネルギーを実現する安定的な制御の実現可能性を高めるようとするものであるため、現状の環境に対する改善要求に関わる要望を対象とする。
【0078】
要望評価部33は、申告端末5から送信される要望申告と要望申告者識別情報とを逐次受信し、要望発生時刻とともに要望申告データとして記憶する。この要望申告データの1例を図6に示す。図6の例では、要望申告の欄の値「1」が「寒い」という要望申告を示し、値「2」が「暑い」という要望申告を示している。要望評価部33は、この要望申告データを利用して所定の評価周期Cs[分]毎に予め定められた要望評価対象となる要望種類(暑い/寒い等)毎に要望申告者数を集計し、各要望種類の要望申告者数の合計値を要望評価結果である要望申告者数Nvとして算出する。
【0079】
要望種類(暑い/寒い等)毎の要望申告者数の集計は、その要望種類が空調運転モード(冷房/暖房等)と評価時点の設定値の状態とにより特定されるトレードオフ要望か否かによって異なる集計を行なう。トレードオフ要望とは、省エネルギー性を重視した設定値によって室内環境が悪化した場合に増加傾向となる要望である。本実施の形態(冷房時)では、設定値緩和動作中であることを示すCstat=1のときに時間と共に増加する可能性のある「暑い」という要望がトレードオフ要望である。図7は冷房時の要望申告者数の集計区間を示す図である。図7の例では、70で表される区間で集計される「暑い」という要望がトレードオフ要望である。
【0080】
なお、ここでいう要望の増加傾向とは、多少の増減があっても時間経過と共に徐々に増加することを指している。評価対象の要望がトレードオフ要望である場合、要望申告者数はトレードオフ要望の積算値とし、評価対象の要望がトレードオフ要望以外の要望の場合、要望申告者数は直近の固定評価区間の集計値として評価の度毎に要望申告者数を更新する。
【0081】
つまり、本実施の形態では、評価時点での要望種類がトレードオフ要望か否かによって異なった集計区間を採用する。図8は冷房時の「暑い」という要望の集計区間を示す図である。要望評価部33は、評価対象の要望がトレードオフ要望である場合、図7に示すように設定値緩和開始時刻t1から現在時刻tnowまでを集計区間として設定値緩和開始後のトレードオフ要望の申告者数の積算値を算出する。なお、ここでの現在時刻tnowとは、要望評価部33が要望申告者数を集計しようとする時点の時刻であることは言うまでもない。要望評価部33は、トレードオフ要望の要望申告者数の初期値を設定値緩和開始時の要望申告者数とする。図8の例では、80がトレードオフ要望の申告者数の集計区間を示し、81がトレードオフ要望の申告者数の集計時点を示している。集計時点81の間隔は評価周期Csである。
【0082】
一方、要望評価部33は、評価対象の要望がトレードオフ要望以外の要望の場合、現在時刻tnow直近の過去の固定評価区間を集計区間として要望の申告者数の積算値を算出する。トレードオフ要望以外の要望は、冷房時の「寒い」という要望、および設定値緩和動作中でないことを示すCstat=0のときの「暑い」という要望である。冷房時の場合、「寒い」という要望は、設定値緩和フラグCstatの値に関係なくトレードオフ要望以外の要望となる。
【0083】
このトレードオフ要望以外の要望については、図7に示すように現在時刻tnowよりも固定評価時間tvalだけ前の時刻を集計の開始時刻として、この開始時刻から現在時刻tnowまでを要望申告者数の集計区間とする。図8の例では、82がトレードオフ要望以外の要望の申告者数の集計時点を示し、集計時点82よりも固定評価時間tvalだけ前の時点と82との間が、トレードオフ要望以外の要望の申告者数の集計区間84である。
【0084】
例えば、固定評価時間tvalが20分で、現在時刻tnowが11時20分の場合には、集計区間は11時00から11時20分までとなる。ただし、評価対象の要望がトレードオフ要望以外の要望の場合、集計区間の開始時刻が基準制御開始時刻t0より早い場合には基準制御開始時刻t0を集計の開始時刻とする。また、固定評価時間tval[min]は制御対象空間の居住者が一定温度の室内環境に慣れるまでの目安となる時間でよく、tval[min]=設定値維持時間twait[min]が適当である。
【0085】
以上の点から、評価対象の要望がトレードオフ要望の場合、要望申告者数の集計区間開始時刻は設定値緩和開始時刻t1となり、評価対象の要望がトレードオフ要望以外の要望の場合、要望申告者数の集計区間開始時刻はF_late(t0,F_past(tnow,tval))となる。ここで、F_past(tnow,tval)は、現在時刻tnowよりも固定評価時間tvalだけ前の時刻であり、F_late(t0,F_past(tnow,tval))は基準制御開始時刻t0と時刻F_past(tnow,tval)のうち遅い方の時刻である。
【0086】
そして、要望評価部33は、集計区間で集計した「寒い」という要望の要望申告者数NvCと「暑い」という要望の要望申告者数NvHとの合計値NvH+NvCを、要望申告者数Nvとして算出する。なお、図8の例では、冷房時の「暑い」という要望の集計区間のみを示しているが、同時に各集計時点において「寒い」という要望の申告者数が集計されていることは言うまでもない。冷房時の場合、「寒い」という要望は、設定値緩和フラグCstatの値に関係なくトレードオフ要望以外の要望である。したがって、Cstat=0の場合、図8に示した集計区間84で「暑い」という要望と同じ集計区間で「寒い」という要望の申告者数が集計される。また、Cstat=1の場合、図8に示した集計時点81よりも固定評価時間tvalだけ前の時刻から、集計時点81までを集計区間として「寒い」という要望の申告者数が集計される。
【0087】
図9に要望評価部33の要望申告者数算出の動作フローを示す。要望評価部33は、現在時刻tnowにおいて評価対象の要望にトレードオフ要望が含まれるか否かを判断し、トレードオフ要望が含まれるか否かに応じて要望申告者数の集計区間の開始時刻を決定し、現在時刻tnowを集計区間の終了時刻とする(図9ステップS1−21)。上記のとおり、評価対象の要望がトレードオフ要望の場合、集計区間開始時刻は設定値緩和開始時刻t1となり、評価対象の要望がトレードオフ要望以外の要望の場合、集計区間開始時刻はF_late(t0,F_past(tnow,tval))となる。
【0088】
このようにして求めた「寒い」という要望の集計区間をPC(tcs,tnow)とし、「暑い」という要望の集計区間をPH(ths,tnow)とする。ここで、tcsは「寒い」という要望の申告者数の集計区間の開始時刻、thsは「暑い」という要望の申告者数の集計区間の開始時刻である。評価対象の要望にトレードオフ要望が含まれない場合には、「寒い」という要望と「暑い」という要望の集計区間は同じとなるが(tcs=ths)、Cstat=1のときにトレードオフ要望、すなわち「暑い」という要望が含まれる場合には、通常、「寒い」という要望と「暑い」という要望の集計区間は異なる(tcs≠ths)。
【0089】
次に、要望評価部33は、評価に利用する要望申告データの抽出区間E(tes,tnow)を決定し、この抽出区間Eにおける要望申告データを抽出する(図9ステップS1−22)。ここで、tesは抽出区間Eの開始時刻である。tcs=thsのときは、tes=tcs=thsとなり、tcs≠thsのときは、tes=F_ear(tcs,ths)となる。ここで、F_ear(tcs,ths)は、時刻tcsと時刻thsのうち早い方の時刻である。
【0090】
そして、要望評価部33は、同一の申告者が複数回申告した場合の重複集計を避けるため、抽出した要望申告データの中に同一の申告者からの要望申告が複数ある場合には、最新の要望申告以外の当該申告者の要望申告を削除する(図9ステップS1−23)。抽出区間E(11:00,11:20)の要望申告データに対して重複要望申告を削除する処理を実施した例を図10に示す。図10の例では、識別情報「UID51」の要望申告者が2回申告しているので、この要望申告者が11時19分に申告した最新の要望申告のみを残し、11時1分の要望申告を削除している。
【0091】
要望評価部33は、ステップS1−23の処理後の要望申告データを要望種類毎に分類する(図9ステップS1−24)。要望申告データを「寒い」という要望申告と「暑い」という要望申告に分類した例を図11に示す。
【0092】
次に、要望評価部33は、要望種類に対応した集計区間の要望申告データのみを抽出し、この集計区間の要望申告データから要望種類毎に要望者数、つまりは要望申告者識別情報の数を集計して、「寒い」という要望の要望申告者数NvCと「暑い」という要望の要望申告者数NvHを求める(図9ステップS1−25)。要望申告データの中にトレードオフ要望が含まれないtcs=thsのときには、抽出区間E(tes,tnow)が「寒い」という要望の集計区間PC(tcs,tnow)および「暑い」という要望の集計区間PH(ths,tnow)と一致する。一方、要望申告データの中にトレードオフ要望が含まれる場合には、PC(tcs,tnow)、PH(ths,tnow)の一方のみが抽出区間E(tes,tnow)と一致するため、重複申告者の処理後に改めて要望種類に対応した集計区間のデータを抽出する。
【0093】
そして、要望評価部33は、集計区間の要望申告データから「寒い」という要望の要望申告者数NvCと「暑い」という要望の要望申告者数NvHを集計するが、集計対象の要望がトレードオフ要望の場合に限ってはこのトレードオフ要望の申告者識別情報の数に、設定値緩和開始時の初期値を加算した値を要望申告者数とする。
【0094】
つまり、本実施の形態では、Cstat=1のときのトレードオフ要望、すなわち「暑い」という要望の申告者数の集計においては、設定値緩和開始時の「暑い」という要望の申告者数の初期値NvHbaseをトレードオフ要望の申告者識別情報の数の集計値に加算した値をNvHとし、設定値緩和開始時からの要望申告者数を積算する。設定値緩和開始時の「暑い」という要望の申告者数の初期値NvHbaseについては、前記のステップS1−7で設定される。このように、要望申告者数が増加傾向となるトレードオフ要望については初期段階からの積算値を評価することで、過度な環境悪化となる可能性を低減することができる。
【0095】
最後に、要望評価部33は、「寒い」という要望の要望申告者数NvCと「暑い」という要望の要望申告者数NvHとの合計値NvH+NvCを要望申告者数Nvとして要望評価を終了する(図9ステップS1−26)。要望評価部33は、以上のステップS1−21〜S1−26の処理を評価周期Cs[分]毎に繰り返し実行する。
【0096】
なお、本実施の形態では、要望評価の対象となる要望種類として暑い/寒いの2種類の要望を評価の対象としたが、運転モードや制御設定値の緩和目標に応じ、居住環境の管理指標として適切なトレードオフ要望を含むような要望種類を1つ以上選択すればよく、例えば冷房運転時は「暑い」という要望のみを集計の対象とし、暖房運転時は「寒い」という要望のみを集計の対象としてもよい。
【0097】
さらに、要望申告を例えば「とても暑い」、「暑い」、「寒い」、「とても寒い」として、冷房運転時は「とても暑い」という要望のみを評価の対象とし、暖房運転時は「とても寒い」という要望のみを評価の対象としてもよい。いずれの場合も、評価対象として選択した要望種類、基準設定値Tini、緩和目標設定値Tsvなどに応じて管理指標としたい緩和開始リミット数Nvs[人]や緩和中リミット数Nvlim[人]を適切に設定しておくことは言うまでもない。
【0098】
以上により、本実施の形態では、設定値変更による省エネルギー制御実施の際に制御対象空間の居住者の要望申告を反映した快適性の評価を取り入れることで、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい空調機制御装置を実現することができる。
【0099】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態では、過去の設定値緩和制御の運用履歴を活用し、設定値変更速度探索の初期値決定の際に、類似条件で緩和目標を満たした過去の設定値変更速度を利用する。図12は本実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図であり、図2と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の空調機制御装置1aは、第1の実施の形態の空調機制御装置1に対して運用情報記憶部6を加え、制御目標決定部3の代わりに制御目標決定部3aを設けたものである。制御目標決定部3aは、設定値変更速度決定部32の代わりに設定値変更速度決定部32aを有する。
【0100】
制御目標決定部3aの基本動作は第1の実施の形態と同様であり、ステップS1−2の動作が異なる。ステップS1−2以外の動作は同じであるので、異なる動作のみを説明する。
運用情報記憶部6には、変更速度探索履歴情報が設定値緩和開始時の制御機器4の運転モード(冷房/暖房などの空調運転モード)や設定値緩和開始時の日時情報とともに記憶される。変更速度探索履歴情報とは、設定値変更速度決定部32aが決定した設定値変更速度α(n)、探索回数n、ステップS1−10で更新した探索状態フラグFg、および緩和目標維持時間tmtを含む情報である。変更速度探索履歴情報の1例を図13に示す。図13の例では、Fgmax=2、tkeep=20[分]としている。
【0101】
変更速度探索履歴情報によれば、探索回数nおよび探索状態フラグFgの値から緩和目標を達成した設定値変更速度を判別することができ、さらにその設定値変更速度で設定値緩和を繰り返した際に緩和目標を達成した回数や緩和目標設定値での維持時間を抽出することができる。図13の例では、9時、9時40分、13時40分、14時15分の設定値緩和制御で使用された設定値変更速度α(n)=P1、α(n)=P2、α(n)=P2’では、緩和目標を達成できなかったことが分かる(Fg=0)。一方、設定値変更速度α(n)=P3での設定値緩和制御は合計5回(Fg≧1の回数)実施され、そのうち、緩和目標を達成したのは2回(Fg=1の回数)であり、緩和目標を達成していないのは3回(Fg≧2の回数)であることが分かる。
【0102】
また、運用情報記憶部6には、変更速度探索履歴情報として、設定値変更速度α(n)=P3で設定値緩和制御を実施した際の緩和目標維持時間tmtも記憶されている。なお、図13において第1の実施の形態の変更速度決定方法では、α(n)=P2=P2’であるが、採用する変更速度決定方法によっては変更速度の初期値であるα(n)=P1を除いて設定値変更速度が異なる場合ももちろんある。
【0103】
本実施の形態の設定値変更速度決定部32aは、図3のステップS1−2の処理において、探索回数n=1(すなわち、設定値変更速度探索の初回)の場合に、運用情報記憶部6に記憶されている変更速度探索履歴情報から、少なくとも前記運転モードおよび日時情報を利用して決定する外部環境類似データを抽出し、この外部環境類似データのうち、緩和目標を満たしている設定値変更速度を設定値変更速度α(n)の初期値として採用する。
【0104】
外部環境類似データは、建物の外部環境や利用状態が類似していると見なされる変更速度探索履歴情報であり、例えば前記運転モードが同一でかつ季節が類似した期間の変更速度探索履歴情報である。季節類似とする条件としては、例えば、前年度の同月、過去数年間の同月、前年度の同季節(3ヶ月単位で分類した春夏秋冬の期間)など適宜設定する。なお、建物の外部環境や利用状態が類似と判断する情報として、建物の管理情報として通常保持している外気温や日射量、天候データや建物利用スケジュール(居住域人数や季節イベントの開催期間か否かなど)などを併せて利用しても構わない。
【0105】
外部環境類似データに同じ設定値変更速度が複数ある場合には、いずれの設定値変更速度を試行してみてもよいし、例えば、上記で示したような緩和目標の達成回数や未達成回数、あるいは、設定値緩和制御を繰り返し実施した場合の緩和目標維持時間tmtの積算値などで採用の優先順位をつけて採用する設定値変更速度を決定してもよい。いずれにしろ、設定値変更速度決定部32aは、変更速度探索履歴情報から建物の外部環境や利用状態が現在と類似していると見なされる外部環境類似データを抽出し、この外部環境類似データのうち、緩和目標を満たしている設定値変更速度を設定値変更速度α(n)の初期値として採用すればよい。
【0106】
なお、初期値に限らず、変更速度探索履歴情報から抽出した外部環境類似データに含まれる1つ以上の設定値変更速度を、ステップS1−2の処理で設定値変更速度として採用する方法を変更速度決定方法としてもよい。また、外部環境類似データに含まれる設定値変更速度を採用し、この設定値変更速度で緩和目標が達成できなかった場合に第1の実施の形態で述べたような変更速度決定方法を引き続き行うようにしてもよい。
【0107】
以上により、本実施の形態では、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい設定値変更速度の探索回数を低減する可能性を高めることができる。
【0108】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態では、要望評価結果と設定値(緩和)運用実績とを実績管理情報としてユーザに提示する。図14は本実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図であり、図2、図12と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の空調機制御装置1bは、第1の実施の形態の空調機制御装置1に対して運用情報記憶部6bを加え、さらに提示情報生成部7と情報端末8とを加えたものである。提示情報生成部7と情報端末8とは、情報提示手段を構成している。
【0109】
制御目標決定部3の基本動作は、第1の実施の形態と同様であるので、ここでは説明しない。運用情報記憶部6bには、要望評価結果(要望申告者数Nv)と、運用した緩和目標設定値Tsvの実績を示す運用実績データとが制御機器4の運転モード(冷房/暖房など)や日時情報とともに記憶される。ユーザ(主に前記管理者)が情報端末8により指定した期間を対象として、提示情報生成部7がユーザに提示する提示情報を生成し、この提示情報をユーザが情報端末8で確認する。情報端末8は、PC、携帯電話機などの汎用の情報端末でよく、申告端末5と同一でももちろん構わない。
【0110】
図15に情報端末8の画面に表示される提示情報の1例を示す。提示情報は、居住域の快適性に関わる要望評価結果と空調の省エネルギー運用に関わる制御設定値の少なくとも一方の情報に基づく、所定期間の実績管理情報であればよい。提示情報としては、例えば統計処理を施した要望申告者数Nv(最大値、平均値、標準偏差など)や要望申告者数Nvの時系列推移、制御設定値の時系列推移、管理者が室内環境管理の目安として設定した緩和中リミット数Nvlimを要望申告者数Nvが超えた回数、要望申告者数Nvの平均値と緩和中リミット数Nvlimとの差などがある。すなわち、提示情報は、空調運用実績などで一般的に行なわれる処理を、要望評価結果あるいは制御設定値に施した数値やグラフでよい。
【0111】
本実施の形態では、提示情報を提示することで、更なる設定値緩和を行って省エネルギーを推進するか(すなわち、冷房運転の場合、緩和目標設定値Tsvを上げる)、あるいは温熱環境悪化への考慮から基準設定値Tiniや緩和目標設定値Tsvをより快適性を重視した値に変更するのかといった省エネルギー性と快適性のバランスを考慮した運用の意思決定を支援することができ、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい空調機制御装置を実現することができる。
【0112】
第1〜第3の実施の形態で説明した空調機制御装置1,1a,1bは、CPU、メモリ及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、メモリに格納されたプログラムに従って第1〜第3の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、空調の制御設定値を省エネルギーのために適切に設定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1,1a,1b…空調機制御装置、2…機器制御部、3,3a…制御目標決定部、4…制御機器、5…申告端末、6…探索履歴情報記憶部、6b…運用情報記憶部、7…提示情報生成部、8…情報端末、30…定値目標記憶部、31…制御整定判定部、32,32a…設定値変更速度決定部、33…要望評価部、34…設定値決定部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、省エネルギーを実現する空調機制御装置および方法に係り、特に居住者の要望に応じて省エネルギー性と快適性のバランスをとりながら、安定的な制御を実現する空調機制御装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、室内温度条件としては夏23〜26℃、冬20〜24℃が国際的に推奨されているが、緊急の省エネルギー対策として日本では冷房28℃、暖房20℃を推奨値としている。室温設定値を推奨値にする空調運転管理は設備管理者にとって容易であり導入しやすいが、冷房28℃、暖房20℃という設定値は温度以外の環境要因等に依存して快適性や知的生産性の大幅な悪化や低下に結びつく可能性がある。このような快適性や知的生産性の低下は居住者にとって好ましくないだけでなく、テナントや事務所などの事業者にとっては従業員の生産性低下による経済的損失に結びつくものである。さらに、居住者や事業者の居住環境への不満は建物価値の低下につながり、特にテナントオーナーにとっての不利益も少なくない。そこで、大きく分けて下記の2通りの技術が実用されている。
【0003】
第1の技術は、室温の制御設定値を、日毎の省エネスケジュールに基づいて従来運用の設定値(以下、基準設定値)よりも省エネルギー側に緩和する制御技術である(以下、設定値緩和型省エネ制御と呼ぶ)。例えば、省エネ設定時間帯において冷房運転の制御設定値を基準設定値26℃から緩和設定値27℃に変更することにより、エネルギー消費量を抑制する。緩和設定値は、室内環境に配慮すると共に居住者からの苦情を考慮して、主に現場の設備管理者や省エネ推進担当者が決定することが多い(特許文献1参照)。
【0004】
第2の技術は、申告を取り入れた快適制御技術であり、暑い/寒い(温度を上げて欲しい/温度を下げて欲しい)などの居住者の要望申告を制御設定値に反映させる制御技術である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−121126号公報
【特許文献2】特開2006−214624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された設定値緩和型省エネ制御では、節度のある動作が保証されるが、室温設定が固定的で柔軟性に欠けるという問題点があった。つまり、特許文献1に開示された設定値緩和型省エネ制御では、温度一定制御であるために安定的な制御動作と省エネルギー効果が得られるが、負荷や利用状況の変動などに柔軟に対応できず、居住環境が大きく悪化することがある。
【0007】
一方、特許文献2に開示された、申告を取り入れた快適制御では、状況に対応した室温設定の柔軟性が保たれるが、場当たり的で制御の安定性に欠けるという問題点があった。特許文献2に開示された制御では、例えば「暑い」という要望申告割合と「寒い」という要望申告割合の比率に対応して室温の制御設定値を上下させる。したがって、室内環境が極端に悪化する可能性は低いが、例えば「暑い」と「寒い」という相反する要望が拮抗する状態付近では要望の発生状況に応じて場当たり的に制御設定値が変更されることになり、一定の設定値に収束せずに制御が不安定になる。
【0008】
要望の拮抗状態とは、例えば、暑い側と寒い側の相反する要望が任意の温度付近を境に逆転するような状態を指す。居住者の要望申告を制御設定値に反映する快適制御では、要望が拮抗状態となる温度付近に制御設定値が近づくが、その後、制御設定値が収束に向かわず制御の安定性が大きく損なわれることがある。図16に室温と居住者の要望割合との関係の1例を示す。図16において、100は室温を上げて欲しいという要望の割合を示し、101は要望なしの割合を示し、102は室温を下げて欲しいという要望の割合を示している。図16の例では、26.5℃を境に暑い側と寒い側の要望の割合が反転している。このような環境に特許文献2に開示された快適制御を採用すると、初期段階では暑い/寒いの要望申告に応じて設定値が26.5℃付近に向かうが、その後、暑い/寒いの要望申告の出方に対応して設定値が頻繁に変更され、制御は不安定になる。そして、この制御が不安定な状態は、居住者の在室状況が変化するなどして要望の拮抗状態から自然に抜け出るまで放置されることになる。
【0009】
さらに、特許文献2に開示された、申告を取り入れた快適制御では、居住者の要望が過度に快適追求型になることがあり、過度に快適追求型になると、消費エネルギーが不適切に増大するという問題点があった。居住者の要望として申告されるのは通常、暑い/寒いといった環境改善要求、つまり不満から発生する要望であり、暑くも寒くもない適度な環境にいる居住者は空調環境を強く意識しないのが一般的なため、丁度良いとか、このままでよいといった要望(図16の例では要望なしに対応)は実験的に居住者に申告を要請するケース以外では集まりにくい。よって、実際に運用されている申告システムで収集される申告は暑い/寒いなどの相反する要望申告が主となり、要望の拮抗状態の付近で相反する両方の要望が、最悪の場合は、過度な快適追及型の状態で存在する。さらに、居住者が自由に申告を行なう一般的な申告システムでは、暑い/寒いと感じる居住者は任意のタイミングで短時間に複数回の申告を行なうことが可能である。よって、申告数や申告数割合(全申告数に対する暑い/寒いの割合)は居住者の申告行動に依存して狭い温度範囲で急激に変化する可能性もあり、このような場合に制御はより不安定となる。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい空調機制御装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の空調機制御装置は、温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tiniと、この基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定の制御設定値である緩和目標設定値Tsvとを予め記憶する定値目標記憶手段と、制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvへ変更する際の設定値変更速度α(n)を決定する設定値変更速度決定手段と、制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価する要望評価手段と、前記設定値変更速度決定手段が決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更する設定値決定手段と、制御対象空間の室温が前記設定値決定手段によって決定された制御設定値Tsetと一致するように空調機器を制御する機器制御手段とを備え、前記設定値変更速度決定手段と前記設定値決定手段とは、前記要望量が所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を繰り返し探索することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記要望評価手段は、前記要望量として、同一の居住者からの複数回の要望申告のうち最新の要望申告のみを残したときの要望申告者数、あるいは前記要望申告者数を制御対象空間の居住者数で除した要望申告者割合を導出することを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記緩和目標は、前記制御設定値Tset=緩和目標設定値Tsvの状態で前記要望量が所定の緩和中リミット量以下のまま持続できる時間が所定の緩和目標時間tkeep以上という条件であり、前記設定値決定手段と前記設定値変更速度決定手段とは、前記要望量が前記所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を探索し、探索した設定値変更速度α(n)での制御設定値変更を、前記要望量が前記緩和中リミット量以下の範囲で繰り返すことを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例は、さらに、前記設定値変更速度の探索履歴情報を、前記空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する探索履歴情報記憶手段を備え、前記設定値変更速度決定手段は、前記探索履歴情報記憶手段に記憶されている情報のうち、制御対象空間の外部環境が類似している探索履歴情報を利用して前記設定値変更速度α(n)を決定することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の空調機制御装置の1構成例は、さらに、前記要望量と前記制御設定値Tsetとの履歴を、前記空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する運用情報記憶手段と、この運用情報記憶手段に記憶された情報に基づいて、前記要望量と前記制御設定値Tsetの運用実績とを管理者に提示する情報提示手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例は、制御対象空間の温熱環境に対する居住者の要望のうち、前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定変更中に増加傾向となる可能性のある要望をトレードオフ要望とし、前記要望評価手段は、前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定変更中で、かつ前記居住者の要望に前記トレードオフ要望が含まれる場合には、前記制御設定値Tsetを省エネルギー側に設定変更開始するときの要望量を初期値として、集計を行う現時刻までのトレードオフ要望の要望量を積算して集計し、前記居住者の要望に前記トレードオフ要望が含まれない場合には、集計を行う現時刻から所定の固定評価時間tvalだけ前の時刻を集計の開始時刻として、この開始時刻から現時刻までを集計区間として要望量を集計することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記設定値変更速度決定手段は、前記設定値変更速度α(n)の探索を実施する度に前記設定値変更速度α(n)を一定割合で変化させることを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記設定値決定手段は、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)の探索が完了した場合に、探索した設定値変更速度α(n)での制御設定値変更を、前記要望量が前記緩和中リミット量以下の範囲で繰り返し、この設定値変更速度α(n)で前記緩和目標を満たさない繰り返し回数が所定の変更速度リトライ数Fgmaxを超えたときに、探索回数を初期化して、前記設定値変更速度α(n)の探索をし直すことを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例は、さらに、制御対象空間の室温が前記設定値決定手段によって決定された制御設定値Tsetに整定したかどうかを判定する制御整定判定手段を備え、前記設定値決定手段は、整定後に所定の設定値維持時間twaitの経過を待った上で、前記要望評価手段が集計した要望量と所定の緩和開始リミット量とを比較し、前記要望量が前記緩和開始リミット量以下であるときに、前記設定値変更速度決定手段が決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更開始することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記設定値決定手段は、前記要望量が前記緩和開始リミット量以下であるという条件が満たされない状態の持続時間が所定の上限を超えるか、あるいは前記要望評価手段が集計した要望量と前記緩和開始リミット量との比較回数が所定の上限を超えた場合には、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することを特徴とするものである。
また、本発明の空調機制御装置の1構成例において、前記設定値決定手段は、所定の探索継続条件を満たさないときに、前記設定値変更速度α(n)の探索を中止して、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の空調機制御方法は、制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価する要望評価ステップと、制御設定値Tsetを、温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tiniから、この基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定の制御設定値である緩和目標設定値Tsvへ変更する際の設定値変更速度α(n)を決定する設定値変更速度決定ステップと、この設定値変更速度決定ステップで決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更する設定値決定ステップと、制御対象空間の室温が前記設定値決定ステップで決定した制御設定値Tsetと一致するように空調機器を制御する機器制御ステップとを備え、前記設定値変更速度決定ステップと前記設定値決定ステップとは、前記要望量が所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を繰り返し探索することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価し、設定値変更速度α(n)で制御設定値Tsetを基準設定値Tiniから緩和目標設定値Tsvまで変更することを繰り返して、要望量が所定の緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を繰り返し探索することにより、居住環境の過剰な悪化を招かない範囲で省エネルギーを実現する安定的な制御の実現可能性を高めることができる。すなわち、本発明では、設定値変更による省エネルギー制御実施の際に制御対象空間の居住者の要望申告を反映した快適性の評価を取り入れることで、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい空調機制御装置を実現することができる。
【0018】
また、本発明では、設定値変更速度の探索履歴情報を、空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する探索履歴情報記憶手段を設け、探索履歴情報記憶手段に記憶されている情報のうち、制御対象空間の外部環境が類似している探索履歴情報を利用して設定値変更速度α(n)を決定することにより、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい設定値変更速度の探索回数を低減する可能性を高めることができる。
【0019】
また、本発明では、要望量と制御設定値Tsetとの履歴を、空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する運用情報記憶手段を設け、運用情報記憶手段に記憶された情報に基づいて、要望量と制御設定値Tsetの運用実績とを管理者に提示することにより、更なる設定値緩和を行って省エネルギーを推進するか、あるいは温熱環境悪化への考慮から基準設定値Tiniや緩和目標設定値Tsvをより快適性を重視した値に変更するのかといった省エネルギー性と快適性のバランスを考慮した運用の意思決定を支援することができる。
【0020】
また、本発明では、制御設定値Tsetを基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定変更中で、かつ居住者の要望にトレードオフ要望が含まれる場合には、制御設定値Tsetを省エネルギー側に設定変更開始するときの要望量を初期値として、集計を行う現時刻までのトレードオフ要望の要望量を積算して集計することにより、過度な環境悪化となる可能性を低減することができる。
【0021】
また、本発明では、探索した設定値変更速度α(n)で緩和目標を満たさない繰り返し回数が所定の変更速度リトライ数Fgmaxを超えたときに、探索回数を初期化して、設定値変更速度α(n)の探索をし直すことにより、室内環境や居住者の状況が変化するなどして、探索した設定値変更速度α(n)では緩和目標を満たせなくなった場合に対応することができる。
【0022】
また、本発明では、制御対象空間の室温が設定値決定手段によって決定された制御設定値Tsetに整定したかどうかを判定し、整定後に所定の設定値維持時間twaitの経過を待った上で、要望評価手段が集計した要望量と所定の緩和開始リミット量とを比較し、要望量が緩和開始リミット量以下であるときに、設定値変更速度決定手段が決定した設定値変更速度α(n)で制御設定値Tsetを基準設定値Tiniから緩和目標設定値Tsvまで変更開始することにより、制御対象空間の居住者が制御設定値Tsetの室温の室内環境に慣れ、要望量が落ち着くまで待ってから、制御設定値Tsetの変更を開始することができる。
【0023】
また、本発明では、要望量が緩和開始リミット量以下であるという条件が満たされない状態の持続時間が所定の上限を超えるか、あるいは要望評価手段が集計した要望量と緩和開始リミット量との比較回数が所定の上限を超えた場合には、緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することにより、管理者は、省エネルギー性と快適性のバランスを加味した運用設定であるかどうかを評価することができ、基準設定値Tiniや緩和目標設定値Tsvをより快適性を重視した側に変更するなどといった改善に向けた検討が可能となる。
【0024】
また、本発明では、所定の探索継続条件を満たさないときに、設定値変更速度α(n)の探索を中止して、緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することにより、管理者は、省エネルギー性と快適性のバランスを加味した運用設定であるかどうかを評価することができ、基準設定値Tiniや緩和目標設定値Tsvをより快適性を重視した側に変更するなどといった改善に向けた検討が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】要望割合と温度変化率との関係の1例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る空調機制御装置の制御目標決定部の動作を説明するフローチャートである。
【図4】制御目標決定部が決定する制御設定値と要望評価部の評価結果である要望申告者数と設定値緩和動作中か否かを示す設定値緩和フラグの推移を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る申告端末の画面の1例を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る要望評価部が記憶する要望申告データの1例を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態において冷房時の要望申告者数の集計区間を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態において冷房時の「暑い」という要望の集計区間を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る要望評価部の要望申告者数算出の動作を説明するフローチャートである。
【図10】本発明の第1の実施の形態において重複要望申告を削除する例を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態において要望申告データを分類する例を示す図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態における変更速度探索履歴情報の1例を示す図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図15】本発明の第3の実施の形態において情報端末の画面に表示される提示情報の1例を示す図である。
【図16】室温と居住者の要望割合との関係の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[発明の原理]
所定の温度からある目標温度に温度変更する場合、温度変化率を変えて目標温度に近づけると不満足状態が変化することが知られている。例えば、26℃から28℃に温度変更する場合、目標温度が同じ28℃であっても、26℃から28℃に移行する際の温度変化率を変えると、暑いという要望の発生状態(以下、要望状態)が変化する(文献「岩崎 由佳,“居住者の温冷感申告を利用した空調制御と居住者特性の分析”,名古屋大学大学院 環境学研究科 都市環境学専攻 久野覚研究室 原田昌幸研究室,2004年,<http://www.davinci.nuac.nagoya−u.ac.jp/ ̄harada/gakui_thema/gakui.htm>」)。発明者は、この知見を応用すれば要望の拮抗状態から抜け出す可能性を増大させられる点に着目した。そして、この知見を、要望申告を利用した設定値緩和制御に適用することで、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、制御を一定の動作範囲内に収束しやすくできることに想到した。以下では、制御設定値を省エネルギー側に設定することを緩和と言う。
【0027】
図1(A)、図1(B)に要望割合と温度変化率との関係の1例を示す。図16と同様に、100は室温を上げて欲しいという要望割合を示し、101は要望なしの割合を示し、102は室温を下げて欲しいという要望割合を示している。要望割合は、事実上、居住者の不満足度を表している。基準設定値26℃から緩和目標設定値27.5℃に制御設定値を緩和する際、27.5℃に移行する温度変化率をa’とした場合、室温を下げて欲しいという要望割合は室温の上昇に応じて図1(A)の103のように推移し、温度変化率をa’’とした場合、室温を下げて欲しいという要望割合は図1(A)の104のように推移し、温度変化率をa’’とした場合、室温を下げて欲しいという要望割合は図1(A)の105のように推移する。つまり、温度変化率をa’、a’’、a’’’のように変えることで暑い側の要望状態が変化することを示している。このように、暑い/寒いの要望状態のバランスが変化することで、要望の拮抗状態から抜け出て制御設定値が収束方向に向かう可能性が高まる。図1(A)、図1(B)の例では、例えば、26.5℃付近(変化率a’)で要望の拮抗状態に陥っていた状況が、温度変化率をa’’またはa’’’に変えることで、省エネルギー側の緩和値である27℃に移行しやすくなる。このように、温度変化率を変えて制御設定値を緩和させることにより、制御を安定化できる確率が増加する。なお、要望申告の数や強度(例えば、「暑い」要望の強度としては、「やや暑い」、「とても暑い」など)、上記要望割合、要望を申告した居住者の数など、要望を定量化したものを要望量と称するものとする。
【0028】
さらに発明者は、設定値緩和制御を行なう際の快適性の指標に用いる要望量として、個々の要望申告の数や強度ではなく、特に、要望申告者数あるいは要望申告者割合(以下、これらを要望者量とする)に着目した。すなわち、要望者量は要望量の下位概念に相当する。通常、オフィス環境などで特定の個人が極端に強い温熱的な不快感を伴う場合は、例えば、高いストレス状態や極端な睡眠不足、体調不良など特殊な要因によるものと思われる。よって、このような居住者からの要望申告数、あるいは要望強度を制御設定値に反映することは、他の居住者にとって好ましくないばかりか、制御の不安定性の要因になる可能性もある。要望者量を利用すれば、特殊な要因によって強い不満足を感じる居住者の要望強度や、同一居住者からの過剰な重複申告を制御に反映せずに済むため、より安定的な制御を実現しやすくなる。
【0029】
また、要望者量を採用することは、テナント管理者や設備管理者などが要望者量を適切に管理可能な状態を実現する。要望者量に関する条件を定め、この定められた条件を満たすように設定値緩和制御を行なえば、居住環境の過剰な悪化を招かない範囲で省エネルギーを実現する安定的な制御の実現可能性を高めることができるので、より好ましい。
【0030】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、制御設定値Tset=緩和目標設定値Tsvで要望申告者数Nv≦緩和中リミット数Nvlimのまま持続できる時間が緩和目標時間tkeep以上という条件を緩和目標とし、緩和目標を満たす設定値変更速度をNv<Nvlimの範囲で探索しながら設定値緩和制御を行なう。制御目標の決定方法が独自の発明部分であり、目標が決定された機器の制御に関しては汎用の技術である。
【0031】
簡単のためにオフィスなどの制御対象空間の冷房運転モードの例で説明するが、本実施の形態に示す変数や条件等を適用対象に応じて適宜設定すれば、他の適用対象でも同様に実施可能であることはいうまでもない。適用条件とこれらの設定パラメータをセットとして定めておき、条件に応じて設定パラメータを切り替えることで年間を通じて本発明を実施することも可能である。
【0032】
図2は本実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図である。空調機制御装置1は、機器制御部2と、制御目標決定部3とからなる。
機器制御部2は、制御目標決定部3が決定した制御設定値(本実施の形態では、室温設定値)を制御の目標値として制御機器4を制御する。
【0033】
制御目標決定部3の設定値決定部34は、定値目標記憶部30に記憶された定値目標値と、制御整定判定部31が判定する制御整定判定結果と、設定値変更速度決定部32が決定する制御目標の変更速度と、申告端末5から入力される居住者の要望申告とに基づいて要望評価部33が求める要望評価結果を利用し、制御設定値を決定する。
【0034】
要望申告者(制御対象空間の居住者)の要望は、申告端末5から入力され、要望申告者の識別情報とともに要望評価部33に送信されるものとする。要望申告者の識別情報は、要望申告者が要望申告と同時に申告端末5に自身のユーザIDを入力したときに、このユーザIDを要望申告者の識別情報として、要望申告と併せて送信すればよい。あるいは、申告端末5が各要望申告者に対応している場合、すなわち要望申告者毎に申告端末5が設けられている場合には、申告端末5を識別する端末IDを要望申告者の識別情報として、要望申告と併せて送信すればよい。
【0035】
以下、各構成要素について説明する。機器制御部2は、制御機器4の制御を行う。制御機器4との通信や、制御目標に制御機器4を制御するアルゴリズムは汎用の製品や技術を用いたもので構わない。
制御目標決定部3は、上記緩和目標を満たす設定値変更速度(制御設定値の変化率)を探索しながら、所定の基準設定値から所定の緩和目標設定値に向かう制御設定値Tsetを、定値目標記憶部30、制御整定判定部31、設定値変更速度決定部32および要望評価部33の各情報に基づいて逐次決定する。
【0036】
定値目標記憶部30には、温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tini[℃]と、緩和目標設定値Tsv[℃]と、緩和目標時間tkeep[sec]とが予め記憶されている。基準設定値Tiniは、快適性を考慮した従来の設定値であり、例えば国際的に推奨されている例では、夏で23〜26℃、冬で20〜24℃である。緩和目標設定値Tsvは、この基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定になっている設定値である。すなわち、一般的な空調システムで冷暖房を運用している場合、通常は、緩和目標設定値Tsvは、冷房時であれば基準設定値Tiniより高い温度に設定され、暖房時であれば基準設定値Tiniより低い温度に設定される。
【0037】
緩和目標時間tkeepは、制御設定値Tset=緩和目標設定値Tsvで要望申告者数Nv≦緩和中リミット数Nvlimのまま持続したい目標時間である。これらの基準設定値Tini、緩和目標設定値Tsvおよび緩和目標時間tkeepは、実現したい省エネルギーと、極端な室内環境悪化を生じさせないことを想定した一般的な範囲で、設備管理者や制御対象空間の環境管理者(以下、管理者)が適宜設定する。
【0038】
制御整定判定部31は、制御量(本実施の形態では制御対象空間の室温)が、制御目標決定部3で決定した制御設定値に整定したかどうかを判定する。制御整定判定部31には、制御整定の判定条件が設備管理者や制御プロバイダによって予め設定されている。
【0039】
設定値変更速度決定部32は、基準設定値Tini[℃]から緩和目標設定値Tsv[℃]に制御設定値を変更する際の設定値変更速度を決定する。設定値変更速度決定部32には、変更速度初期値αs[℃/sec]と、変更速度決定方法と、変更速度探索継続条件(以下、探索継続条件)とが設備管理者やプロバイダによって予め設定されている。変更速度決定方法としては、汎用の探索手法を用いればよいが、説明を簡単にするため、本実施の形態の変更速度決定方法は設定値変更速度を一定割合で減少させる例とする。探索継続条件は、「変更速度変更回数が所定の上限値以下で、かつ、変更速度が所定の下限値以上」とする。さらに、設定値変更速度決定部32には、変更速度変更幅−a[℃/sec](aは正の数)、変更速度更新上限数nmax[回]、変更速度下限αminが設定されている。
【0040】
要望評価部33は、申告端末5から送信される要望申告者の要望申告と要望申告者の識別情報とを受信して記憶し、所定の評価タイミングで要望申告を評価して要望評価結果(本実施の形態では要望申告者数Nv)を算出する。要望評価は、その要望の種類と、制御設定値を省エネルギー設定に変更する設定値緩和動作中か否かの状態を示す設定値緩和フラグCstatとに基づいて行われる。
【0041】
要望評価部33には、求めた要望評価結果に対して設定値緩和開始判断で利用される緩和開始リミット数Nvs[人]と、設定値緩和の中止判断に利用される緩和中リミット数Nvlim[人]とが予め設定されている。また、要望評価部33には、基準設定値Tini[℃]に制御が整定した後、制御対象空間の居住者が基準設定値Tini[℃]の室内環境に慣れるまでの時間として設定値維持時間twait[min]も予め設定されている。
【0042】
緩和開始リミット数Nvs[人]と緩和中リミット数Nvlim[人]とは、前記管理者が室内環境(温熱環境に限らず、知的生産性などをの環境評価要素を含む)の管理指標としての要望申告者数を考慮して予め設定する。
【0043】
なお、本実施の形態では、要望者量として要望申告者数を用いているが、要望申告者数を制御対象空間の居住者数で除した要望申告者割合を要望者量として用いてもよい。ここで、用いる居住者数はセキュリティシステムの情報や画像センサを利用した正確な人数を採用してもよいが、当該制御対象空間の平均的な居住者数を利用することでも本実施の形態が適用できる。この場合、想定した平均的な居住者数に対する実際の居住者数の変動幅を考慮して、適宜、緩和開始リミット数Nvs[人]や緩和中リミット数Nvlim[人]等のパラメータ値を決定する。
【0044】
また、説明を簡単にするために本実施の形態では、評価タイミングを評価周期Cs毎としているが、要望申告者からの要望申告が発生した任意のタイミングで逐次本実施の形態で説明する要望評価を行なってもよい。
【0045】
制御機器4は、制御対象となる空調機器である。申告端末5は、室内環境の温熱的な改善要望(暑い/寒い、室温を上げて欲しい/下げて欲しい、等)を、要望申告者が入力する端末である。申告端末5としては、専用端末、PC(コンピュータ)、携帯電話機などがある。申告端末5は、要望申告者が入力した要望と、要望申告者の識別情報とを要望評価部33に送信する。上記のとおり、要望申告者の識別情報は、ユーザIDでもよいし、申告端末5が要望申告者と1対1で対応していれば申告端末5の端末IDでもよい。
【0046】
次に、本実施の形態の特徴部分である制御目標決定部3の動作について説明する。図3は制御目標決定部3の動作を説明するフローチャート、図4は制御目標決定部3が決定する制御設定値Tsetと要望評価部33の評価結果である要望申告者数Nvと設定値緩和動作中か否かを示す設定値緩和フラグCstatの推移を示す図である。図3には記載していないが、機器制御部2は制御目標決定部3が決定した制御設定値Tsetを目標値として制御機器4を制御するという一般的な制御の基本動作を、制御目標決定部3の動作と並行して実行しているものとする。また、要望評価部33は、任意のタイミングで要望申告者から申告端末5を介して送信される要望申告を逐次受信しながら、評価周期Cs毎に評価結果である要望申告者数Nv[人]を更新する動作を繰り返すものとする。
【0047】
以下では、制御目標決定部3の基本動作を説明し、その後に要望評価部33の要望評価の詳細について説明する。
定値目標記憶部30には、温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tini[℃]と、緩和目標設定値Tsv[℃]とが予め設定されている。基準設定値Tiniは、快適性を考慮した従来の設定値であり、例えば国際的に推奨されている例では、夏で23〜26℃、冬で20〜24℃である。緩和目標設定値Tsvは、冷房/暖房などの空調の運転モードに応じて基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定される設定値である。説明を簡単にするために本実施の形態では冷房時の代表例を説明するので、Tsv>Tiniである。使用している制御機器4や運転モード(暖房等)に対応して省エネルギー設定となる緩和目標設定値Tsvを適宜設定する。
【0048】
設定値決定動作が起動すると、制御目標決定部3の設定値決定部34は、初期化処理として、設定値緩和フラグCstatを0に初期化し、変更速度変更回数nを1に初期化する。ここで、設定値緩和フラグCstatは、制御目標である制御設定値Tsetが基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定になっているか否かを示す。Cstat=1の場合は、制御設定値Tsetが基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定になっており、設定値緩和動作中であることを示している。Cstat=0の場合は、制御設定値Tsetが基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定になっておらず、設定値緩和動作中でないことを示している。つまり、Cstat=1は省エネルギー制御である設定値緩和によって制御対象空間の居住者の快適性が犠牲となる可能性のある状態を示していることとなる。変更速度変更回数n(nは正の整数)は、設定値変更速度の変更回数である探索回数を示している。以下、変更速度変更回数nを探索回数nとする。
【0049】
初期化処理後、設定値決定部34は、設定値決定開始処理として、Tset=Tini、t0=tnow、Fg=0、Nv=NvHbase=0と設定する(図3ステップS1−1)。ここで、Tsetは制御設定値、Tiniは基準設定値、t0は基準値制御開始時刻、tnowは現在時刻、Fgは探索状態フラグ、Nvは要望申告者数、NvHbaseは「暑い」という要望を出す要望申告者数の初期値である。
この目標決定開始処理でTset=Tiniと設定されることにより、機器制御部2は、制御対象空間の室温が基準設定値Tiniになるように制御機器4の制御を開始する。
【0050】
探索状態フラグFgは、設定値変更速度の探索状態を示す正の整数であり、表1のような状態を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
要望申告者数Nvおよび要望申告者数初期値NvHbaseについては後述する要望評価部33の動作で使用する。
次に、設定値変更速度決定部32は、探索状態フラグFgに基づいて設定値変更速度α(n)を決定する(図3ステップS1−2)。Fg=0の場合は、予め記憶された変更速度決定方法に従って設定値変更速度α(n)を決定する。Fg≧1の場合については、ステップS1−11以降の動作で説明する。
【0053】
本実施の形態の変更速度決定方法は、変更速度初期値αs[℃/sec]と変更速度変更幅−a[℃/sec](aは正の数とする)とを用いた次式で表される決定方法とする。
α(n)=αs−a×(n−1) ・・・(1)
すなわち、設定値変更速度決定部32は、式(1)により設定値変更速度α(n)を決定する。なお、説明を簡単にするため、本実施の形態では式(1)によって設定値変更速度α(n)を所定の変更幅aで減少させていく例を示すが、設定値変更速度α(n)を所定の変更幅で増加させてもよいし、変更幅を可変にするなどしてももちろん構わない。
【0054】
次に、設定値決定部34は、探索継続条件に基づき、設定値変更速度α(n)の探索継続判断を行う(図3ステップS1−3)。本実施の形態の探索継続条件は、予め定められた変更速度更新の上限数nmax[回]と変更速度下限αmin(αmin<αs)に基づき、(n≦nmax)かつ(α(n)≧αmin)とする。探索継続条件を満たさない場合には、設定値決定動作は中止される(図3ステップS1−3においてNO)。この設定値決定動作の中止は、Tset=TsvでNv≦Nvlimのまま持続できる時間がtkeep以上という所定の緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を、探索継続条件の範囲では探索できなかったことを示す。
【0055】
なお、設定値決定動作が中止された場合でも、外気条件や室内負荷、居住者数の変動によって緩和目標が達成できる状況となることもある。このため、設定値決定動作が中止された場合には、所定の時刻、あるいは、設定値決定動作中止の数十分後などに再び設定値決定動作を起動するといった起動スケジュールを予め設定しておくことで、日単位などのより長い期間内では所定の緩和目標を満たす時間帯が実現する可能性がある。なお、探索継続条件は、変更速度決定方法に応じて適宜定めればよく、探索的手法を用いる場合には探索回数や探索範囲などの制約条件を定めればよい。
【0056】
また、設定値決定動作が中止された場合は、イベントをログに残したり、電子メールを発信するなどして前記管理者にその旨を通知することが望ましい。通知された前記管理者は、省エネルギー性と快適性のバランスを加味した運用設定であるかどうかを評価することができ、基準設定値や緩和目標設定値をより快適性を重視した側に変更するなどといった改善に向けた検討が可能となる。
【0057】
次に、設定値決定部34は、(n≦nmax)かつ(α(n)≧αmin)という探索継続条件を満たす場合(図3ステップS1−3においてYES)、制御量が制御設定値Tsetに整定するのを待つ(図3ステップS1−4)。整定したか否かの判定は予め定められている整定判定条件に基づき、制御整定判定部31が行う。整定判定条件は、空調制御において一般的に用いられる判定条件でよい。例えば制御量である室温が、所定の時間以上、制御設定値Tset付近の所定の範囲内にあることを整定判定条件とする。具体的には、例えばTset±0.2℃の範囲で10分以上制御量が推移することを整定判定条件とすればよい。
【0058】
設定値決定部34は、制御整定後、Tset=Tiniのまま、さらに設定値維持時間twaitが経過するのを待つ(図3ステップS1−5)。設定値維持時間twaitは、制御対象空間の居住者が室温Tiniの室内環境に慣れるまでのおおよその目安となる時間でよい。例えば温熱環境の心理・生理に関する実験等で目安として採用される20分などの値が設定値維持時間twaitとして要望評価部33に予め設定されている。
【0059】
設定値維持時間twaitが経過すると、設定値決定部34は、設定値緩和開始判断を行う(図3ステップS1−6)。設定値決定部34は、要望評価部33に設定されている緩和開始リミット数Nvs[人]と、要望評価部33の最新の要望評価結果である要望申告者数Nv[人]とを比較して、Nv≦Nvsかどうかを判断する。設定値決定部34は、Nv≦Nvsが満たされない場合(図3ステップS1−6においてNO)、ステップS1−6の設定値緩和開始判断を繰り返して条件が満たされるのを待つ。この間、制御設定値Tsetは基準設定値Tiniのままであるから、室温はTiniで維持される。
【0060】
なお、Nv≦Nvsが満たされない状態の持続時間や設定値緩和開始判断の繰り返し数に上限を設け、持続時間が上限を超えたり、設定値緩和開始判断の繰り返し数が上限を超えたりしても、Nv≦Nvsが満たされない場合には、ステップS1−3の探索継続条件を満たさない場合と同様に設定値決定動作を中止し、管理者に通知することが好ましい。この場合も、通知された前記管理者は、省エネルギー性と快適性のバランスを加味した運用設定であるかどうかの検討や改善に向けた検討が可能となる。
【0061】
以上のステップS1−4〜S1−6の動作中における制御設定値Tset、要望申告者数Nv、設定値緩和フラグCstatの推移の例を図4のW−1,W−2,W−3の区間に示している。区間W−1,W−2,W−3の各々においては、Nv≦Nvsが満たされていないため、制御設定値Tsetは基準設定値Tiniのままとなっており、設定値緩和フラグCstatは設定値緩和動作中でないことを示す値0のままとなっている。
【0062】
次に、設定値決定部34は、Nv≦Nvsを満たす場合(図3ステップS1−6においてYES)、設定値緩和開始処理として、設定値緩和フラグCstat=1、設定値緩和開始時刻t1=tnowとする(図3ステップS1−7)。tnowは、この設定値緩和開始処理を行う時点の時刻である。また、設定値決定部34は、設定値緩和開始時の「暑い」という要望の申告者数の初期値NvHbase[人]を、「暑い」という要望を出している最新の要望申告者数であるNvH[人]とする(ステップS1−7)。NvH、NvHbaseについては後述する要望評価部33の動作で説明する。
【0063】
次に、設定値決定部34は、設定値変更速度決定部32がステップS1−2で決定した設定値変更速度α(n)を利用して、制御設定値Tsetを省エネルギー設定の緩和値に決定する(図3ステップS1−8)。
A=Tini+α(n)×F_et(tnow,t1) ・・・(2)
【0064】
ここで、F_et(tnow,t1)は設定値緩和開始時刻t1から現在時刻tnowまでの経過時間[sec]である。nは探索回数であり、n=1,2,3,・・・・,nmaxの整数である。なお、ここでの現在時刻tnowとは、設定値決定部34が制御設定値Tsetを決定しようとする時点の時刻であることは言うまでもない。設定値決定部34は、式(2)で計算した値Aが緩和目標設定値Tsvより小さい、すなわちA<Tsvのとき、制御設定値Tset=Aとし、値Aが緩和目標設定値Tsv以上、すなわちA≧Tsvのとき、制御設定値Tset=Tsvとする。
機器制御部2は、制御対象空間の室温が、設定値決定部34によって決定された新たな制御設定値Tsetと一致するように制御機器4を制御する。
【0065】
そして、設定値決定部34は、要望評価部33の評価結果である要望申告者数Nv[人]が緩和中リミット数Nvlim[人]を超えていないかどうかをチェックする設定値緩和中止判断を行なう(図3ステップS1−9)。設定値決定部34は、要望申告者数Nvが緩和中リミット数Nvlimを超えていなければ(図3ステップS1−9においてNO)、ステップS1−8に戻って、式(2)によって制御設定値Tsetを更新する。したがって、Nv≦Nvlimであれば、ステップS1−8とステップS1−9の処理が繰り返され、制御設定値Tsetは基準設定値Tini[℃]から緩和目標設定値Tsv[℃]に向けて変更速度α(n)[℃/sec]で省エネルギー側に徐々に変更される。制御設定値Tsetが緩和目標設定値Tsvに到達した後もNv≦Nvlimであれば、制御設定値Tsetは緩和目標設定値Tsvのまま維持される。
【0066】
そして、設定値決定部34は、要望申告者数Nvが緩和中リミット数Nvlimを超える(Nv>Nvlim)と、設定値緩和動作を中止し(図3ステップS1−9においてYES)、現在の探索状態フラグFgと緩和目標維持時間tmtおよび緩和目標時間tkeep[sec]に基づき、探索状態フラグFgを更新する(図3ステップS1−10)。ここで、tmtは(Tset=Tsv)かつ(Nv≦Nvlim)という条件を維持した実績時間[sec]、tkeepは(Tset=Tsv)かつ(Nv≦Nvlim)という条件を維持したい目標時間[sec]である。目標時間tkeepは、前記管理者によって予め定められている。
【0067】
設定値決定部34は、実績時間tmtを式(3)により算出する。
B=(Tsv−Tini)/α(n) ・・・(3)
設定値決定部34は、式(3)で計算した値Bが、設定値緩和開始時刻t1から現在時刻tnowまでの経過時間F_et(tnow,t1)以上のとき、実績時間tmt=0とし、値Bがこの経過時間F_et(tnow,t1)未満のとき、実績時間tmtを経過時間F_et(tnow,t1)からBを引いた値F_et(tnow,t1)−Bとする。なお、ここでの現在時刻tnowとは、設定値決定部34が探索状態フラグFgを更新しようとする時点の時刻であることは言うまでもない。
【0068】
そして、設定値決定部34は、現在の探索状態フラグFg=0かつtmt<tkeepの場合、すなわち以前の設定値緩和処理および今回の設定値緩和処理において緩和目標を満たしていない場合、探索状態フラグを現在と同じFg=0とする。設定値決定部34は、現在の探索状態フラグFg=0かつtmt≧tkeepの場合、すなわち今回の設定値緩和処理において緩和目標を満たした場合、探索状態フラグをFg=1に更新する。設定値決定部34は、現在の探索状態フラグFg≧1かつtmt<tkeepの場合、すなわち以前の設定値緩和処理において緩和目標を1回以上満たし、今回の設定値緩和処理において緩和目標を満たしていない場合、探索状態フラグFgの値を1増やす(Fg=Fg+1)。設定値決定部34は、現在の探索状態フラグFg≧1かつtmt≧tkeepの場合、すなわち以前の設定値緩和処理において緩和目標を1回以上満たし、今回の設定値緩和処理においても緩和目標を満たした場合、探索状態フラグをFg=1に更新する。
【0069】
このように、Fg=1のときは今回緩和目標を満たしたことを示し、Fg≧2のときは同じ変更速度で設定値変更を繰り返した場合に連続で緩和目標を満たさなかった回数が(Fg−1)として示される。
実績時間tmtは式(3)により算出されるが、ステップS1−8とS1−9が繰り返される中でTset=Tsvとなった時刻をメモリに記憶するようにして、この時刻とステップS1−10時点の時刻との差から実績時間tmtを算出するなどの方法でももちろん構わない。
【0070】
設定値決定部34は、探索状態フラグFgの更新後、設定値決定動作更新処理として、設定値緩和フラグCstat=0とし、さらに探索状態フラグFgに基づき探索回数nを更新する(図3ステップS1−11)。探索回数nは、探索状態フラグFgおよび変更速度リトライ数Fgmaxに基づき以下のように更新される。変更速度リトライ数Fgmaxは、一度は緩和目標を満たした変更速度で設定値変更を繰り返し試行した場合に、緩和目標を連続で満たさない回数の許容値であり、前記管理者や制御プロバイダによって予め定められた正の整数である。設定値決定部34は、具体的には探索状態フラグFg=0のとき、探索回数nを1増やす(n=n+1)。設定値決定部34は、1≦Fg≦(Fgmax+1)のとき、現在の探索回数nを維持する。また、設定値決定部34は、Fg>(Fgmax+1)のとき、探索回数nを1に初期化する(n=1)。
【0071】
つまり、以前の設定値緩和処理および今回の設定値緩和処理において緩和目標を満たさない場合であるFg=0の場合には、探索回数nをインクリメントして(n=n+1)、次のステップS1−1〜S1−11の処理で設定値変更速度α(n)を再び変更し、Fg≧1で、緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)の探索が完了している場合には、探索回数nをインクリメントせずに(n=n)、次のステップS1−1〜S1−11の処理でも同じ設定値変更速度α(n)を用いる。
【0072】
ただし、この同じ設定値変更速度α(n)での設定値緩和再試行において緩和目標を満たさない回数が連続でFgmaxを超えると、探索回数nを初期化するので(n=1)、次のステップS1−1〜S1−11の処理では設定値決定動作起動時と同様の動作となる。つまり、緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索しても、その後、室内環境や居住者の状況が変化するなどしてその設定値変更速度α(n)では緩和目標を満たせなくなる場合があり、この場合に対応して設定値変更速度α(n)を探索し直すようにする。
【0073】
そして、再び、ステップS1−1において設定値決定開始処理が行われ、直前のステップS1−11で更新された探索回数nに基づき設定値変更速度α(n)が決定され(ステップS1−2)、ステップS1−3以降の処理が実行される。
【0074】
以上のように、本実施の形態では、緩和目標(制御設定値Tset=緩和目標設定値Tsvで要望申告者数Nv≦緩和中リミット数Nvlimのまま持続できる時間が緩和目標時間tkeep以上)を満たす設定値変更速度α(n)を探索し、探索した設定値変更速度α(n)での制御設定値変更をNv≦Nvlimの範囲で繰り返すことで、居住環境の過剰な悪化を招かない範囲で省エネルギーを実現する安定的な制御の実現可能性を高めることができる。
【0075】
図4の区間X−1,X−2においては、要望申告者数Nvが緩和中リミット数Nvlim以下である間、設定値緩和フラグCstatは設定値緩和動作中であることを示す値1となっており、制御設定値Tsetが設定値変更速度α(n)で繰り返し変更され、要望申告者数Nvが緩和中リミット数Nvlimを超えた時点で設定値緩和動作が停止される。一方、区間X−3においても、同様に、制御設定値Tsetが設定値変更速度α(n)で繰り返し変更されるが、要望申告者数Nvが緩和中リミット数Nvlimを超える前に、制御設定値Tsetが緩和目標設定値Tsvに達している。
【0076】
次に、要望評価部33の要望評価の動作を説明する。申告端末5は、室内環境の温熱的な改善要望(暑い/寒い、室温を上げて欲しい/下げて欲しい、等)を、要望申告者が入力する端末である。申告端末5としては、専用端末、PC(コンピュータ)、携帯電話機などがある。申告端末5は、要望申告者が申告する要望を任意のタイミングで受け付け、この要望と要望申告者の識別情報とを要望評価部33に送信する。上記のとおり、要望申告者の識別情報は、ユーザIDでもよいし、申告端末5が要望申告者と1対1で対応していれば申告端末5の端末IDでもよい。図5に申告端末5の画面の1例を示す。
【0077】
本実施の形態では、居住環境の過剰な悪化を招かない範囲で省エネルギーを実現する安定的な制御の実現可能性を高めるようとするものであるため、現状の環境に対する改善要求に関わる要望を対象とする。
【0078】
要望評価部33は、申告端末5から送信される要望申告と要望申告者識別情報とを逐次受信し、要望発生時刻とともに要望申告データとして記憶する。この要望申告データの1例を図6に示す。図6の例では、要望申告の欄の値「1」が「寒い」という要望申告を示し、値「2」が「暑い」という要望申告を示している。要望評価部33は、この要望申告データを利用して所定の評価周期Cs[分]毎に予め定められた要望評価対象となる要望種類(暑い/寒い等)毎に要望申告者数を集計し、各要望種類の要望申告者数の合計値を要望評価結果である要望申告者数Nvとして算出する。
【0079】
要望種類(暑い/寒い等)毎の要望申告者数の集計は、その要望種類が空調運転モード(冷房/暖房等)と評価時点の設定値の状態とにより特定されるトレードオフ要望か否かによって異なる集計を行なう。トレードオフ要望とは、省エネルギー性を重視した設定値によって室内環境が悪化した場合に増加傾向となる要望である。本実施の形態(冷房時)では、設定値緩和動作中であることを示すCstat=1のときに時間と共に増加する可能性のある「暑い」という要望がトレードオフ要望である。図7は冷房時の要望申告者数の集計区間を示す図である。図7の例では、70で表される区間で集計される「暑い」という要望がトレードオフ要望である。
【0080】
なお、ここでいう要望の増加傾向とは、多少の増減があっても時間経過と共に徐々に増加することを指している。評価対象の要望がトレードオフ要望である場合、要望申告者数はトレードオフ要望の積算値とし、評価対象の要望がトレードオフ要望以外の要望の場合、要望申告者数は直近の固定評価区間の集計値として評価の度毎に要望申告者数を更新する。
【0081】
つまり、本実施の形態では、評価時点での要望種類がトレードオフ要望か否かによって異なった集計区間を採用する。図8は冷房時の「暑い」という要望の集計区間を示す図である。要望評価部33は、評価対象の要望がトレードオフ要望である場合、図7に示すように設定値緩和開始時刻t1から現在時刻tnowまでを集計区間として設定値緩和開始後のトレードオフ要望の申告者数の積算値を算出する。なお、ここでの現在時刻tnowとは、要望評価部33が要望申告者数を集計しようとする時点の時刻であることは言うまでもない。要望評価部33は、トレードオフ要望の要望申告者数の初期値を設定値緩和開始時の要望申告者数とする。図8の例では、80がトレードオフ要望の申告者数の集計区間を示し、81がトレードオフ要望の申告者数の集計時点を示している。集計時点81の間隔は評価周期Csである。
【0082】
一方、要望評価部33は、評価対象の要望がトレードオフ要望以外の要望の場合、現在時刻tnow直近の過去の固定評価区間を集計区間として要望の申告者数の積算値を算出する。トレードオフ要望以外の要望は、冷房時の「寒い」という要望、および設定値緩和動作中でないことを示すCstat=0のときの「暑い」という要望である。冷房時の場合、「寒い」という要望は、設定値緩和フラグCstatの値に関係なくトレードオフ要望以外の要望となる。
【0083】
このトレードオフ要望以外の要望については、図7に示すように現在時刻tnowよりも固定評価時間tvalだけ前の時刻を集計の開始時刻として、この開始時刻から現在時刻tnowまでを要望申告者数の集計区間とする。図8の例では、82がトレードオフ要望以外の要望の申告者数の集計時点を示し、集計時点82よりも固定評価時間tvalだけ前の時点と82との間が、トレードオフ要望以外の要望の申告者数の集計区間84である。
【0084】
例えば、固定評価時間tvalが20分で、現在時刻tnowが11時20分の場合には、集計区間は11時00から11時20分までとなる。ただし、評価対象の要望がトレードオフ要望以外の要望の場合、集計区間の開始時刻が基準制御開始時刻t0より早い場合には基準制御開始時刻t0を集計の開始時刻とする。また、固定評価時間tval[min]は制御対象空間の居住者が一定温度の室内環境に慣れるまでの目安となる時間でよく、tval[min]=設定値維持時間twait[min]が適当である。
【0085】
以上の点から、評価対象の要望がトレードオフ要望の場合、要望申告者数の集計区間開始時刻は設定値緩和開始時刻t1となり、評価対象の要望がトレードオフ要望以外の要望の場合、要望申告者数の集計区間開始時刻はF_late(t0,F_past(tnow,tval))となる。ここで、F_past(tnow,tval)は、現在時刻tnowよりも固定評価時間tvalだけ前の時刻であり、F_late(t0,F_past(tnow,tval))は基準制御開始時刻t0と時刻F_past(tnow,tval)のうち遅い方の時刻である。
【0086】
そして、要望評価部33は、集計区間で集計した「寒い」という要望の要望申告者数NvCと「暑い」という要望の要望申告者数NvHとの合計値NvH+NvCを、要望申告者数Nvとして算出する。なお、図8の例では、冷房時の「暑い」という要望の集計区間のみを示しているが、同時に各集計時点において「寒い」という要望の申告者数が集計されていることは言うまでもない。冷房時の場合、「寒い」という要望は、設定値緩和フラグCstatの値に関係なくトレードオフ要望以外の要望である。したがって、Cstat=0の場合、図8に示した集計区間84で「暑い」という要望と同じ集計区間で「寒い」という要望の申告者数が集計される。また、Cstat=1の場合、図8に示した集計時点81よりも固定評価時間tvalだけ前の時刻から、集計時点81までを集計区間として「寒い」という要望の申告者数が集計される。
【0087】
図9に要望評価部33の要望申告者数算出の動作フローを示す。要望評価部33は、現在時刻tnowにおいて評価対象の要望にトレードオフ要望が含まれるか否かを判断し、トレードオフ要望が含まれるか否かに応じて要望申告者数の集計区間の開始時刻を決定し、現在時刻tnowを集計区間の終了時刻とする(図9ステップS1−21)。上記のとおり、評価対象の要望がトレードオフ要望の場合、集計区間開始時刻は設定値緩和開始時刻t1となり、評価対象の要望がトレードオフ要望以外の要望の場合、集計区間開始時刻はF_late(t0,F_past(tnow,tval))となる。
【0088】
このようにして求めた「寒い」という要望の集計区間をPC(tcs,tnow)とし、「暑い」という要望の集計区間をPH(ths,tnow)とする。ここで、tcsは「寒い」という要望の申告者数の集計区間の開始時刻、thsは「暑い」という要望の申告者数の集計区間の開始時刻である。評価対象の要望にトレードオフ要望が含まれない場合には、「寒い」という要望と「暑い」という要望の集計区間は同じとなるが(tcs=ths)、Cstat=1のときにトレードオフ要望、すなわち「暑い」という要望が含まれる場合には、通常、「寒い」という要望と「暑い」という要望の集計区間は異なる(tcs≠ths)。
【0089】
次に、要望評価部33は、評価に利用する要望申告データの抽出区間E(tes,tnow)を決定し、この抽出区間Eにおける要望申告データを抽出する(図9ステップS1−22)。ここで、tesは抽出区間Eの開始時刻である。tcs=thsのときは、tes=tcs=thsとなり、tcs≠thsのときは、tes=F_ear(tcs,ths)となる。ここで、F_ear(tcs,ths)は、時刻tcsと時刻thsのうち早い方の時刻である。
【0090】
そして、要望評価部33は、同一の申告者が複数回申告した場合の重複集計を避けるため、抽出した要望申告データの中に同一の申告者からの要望申告が複数ある場合には、最新の要望申告以外の当該申告者の要望申告を削除する(図9ステップS1−23)。抽出区間E(11:00,11:20)の要望申告データに対して重複要望申告を削除する処理を実施した例を図10に示す。図10の例では、識別情報「UID51」の要望申告者が2回申告しているので、この要望申告者が11時19分に申告した最新の要望申告のみを残し、11時1分の要望申告を削除している。
【0091】
要望評価部33は、ステップS1−23の処理後の要望申告データを要望種類毎に分類する(図9ステップS1−24)。要望申告データを「寒い」という要望申告と「暑い」という要望申告に分類した例を図11に示す。
【0092】
次に、要望評価部33は、要望種類に対応した集計区間の要望申告データのみを抽出し、この集計区間の要望申告データから要望種類毎に要望者数、つまりは要望申告者識別情報の数を集計して、「寒い」という要望の要望申告者数NvCと「暑い」という要望の要望申告者数NvHを求める(図9ステップS1−25)。要望申告データの中にトレードオフ要望が含まれないtcs=thsのときには、抽出区間E(tes,tnow)が「寒い」という要望の集計区間PC(tcs,tnow)および「暑い」という要望の集計区間PH(ths,tnow)と一致する。一方、要望申告データの中にトレードオフ要望が含まれる場合には、PC(tcs,tnow)、PH(ths,tnow)の一方のみが抽出区間E(tes,tnow)と一致するため、重複申告者の処理後に改めて要望種類に対応した集計区間のデータを抽出する。
【0093】
そして、要望評価部33は、集計区間の要望申告データから「寒い」という要望の要望申告者数NvCと「暑い」という要望の要望申告者数NvHを集計するが、集計対象の要望がトレードオフ要望の場合に限ってはこのトレードオフ要望の申告者識別情報の数に、設定値緩和開始時の初期値を加算した値を要望申告者数とする。
【0094】
つまり、本実施の形態では、Cstat=1のときのトレードオフ要望、すなわち「暑い」という要望の申告者数の集計においては、設定値緩和開始時の「暑い」という要望の申告者数の初期値NvHbaseをトレードオフ要望の申告者識別情報の数の集計値に加算した値をNvHとし、設定値緩和開始時からの要望申告者数を積算する。設定値緩和開始時の「暑い」という要望の申告者数の初期値NvHbaseについては、前記のステップS1−7で設定される。このように、要望申告者数が増加傾向となるトレードオフ要望については初期段階からの積算値を評価することで、過度な環境悪化となる可能性を低減することができる。
【0095】
最後に、要望評価部33は、「寒い」という要望の要望申告者数NvCと「暑い」という要望の要望申告者数NvHとの合計値NvH+NvCを要望申告者数Nvとして要望評価を終了する(図9ステップS1−26)。要望評価部33は、以上のステップS1−21〜S1−26の処理を評価周期Cs[分]毎に繰り返し実行する。
【0096】
なお、本実施の形態では、要望評価の対象となる要望種類として暑い/寒いの2種類の要望を評価の対象としたが、運転モードや制御設定値の緩和目標に応じ、居住環境の管理指標として適切なトレードオフ要望を含むような要望種類を1つ以上選択すればよく、例えば冷房運転時は「暑い」という要望のみを集計の対象とし、暖房運転時は「寒い」という要望のみを集計の対象としてもよい。
【0097】
さらに、要望申告を例えば「とても暑い」、「暑い」、「寒い」、「とても寒い」として、冷房運転時は「とても暑い」という要望のみを評価の対象とし、暖房運転時は「とても寒い」という要望のみを評価の対象としてもよい。いずれの場合も、評価対象として選択した要望種類、基準設定値Tini、緩和目標設定値Tsvなどに応じて管理指標としたい緩和開始リミット数Nvs[人]や緩和中リミット数Nvlim[人]を適切に設定しておくことは言うまでもない。
【0098】
以上により、本実施の形態では、設定値変更による省エネルギー制御実施の際に制御対象空間の居住者の要望申告を反映した快適性の評価を取り入れることで、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい空調機制御装置を実現することができる。
【0099】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態では、過去の設定値緩和制御の運用履歴を活用し、設定値変更速度探索の初期値決定の際に、類似条件で緩和目標を満たした過去の設定値変更速度を利用する。図12は本実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図であり、図2と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の空調機制御装置1aは、第1の実施の形態の空調機制御装置1に対して運用情報記憶部6を加え、制御目標決定部3の代わりに制御目標決定部3aを設けたものである。制御目標決定部3aは、設定値変更速度決定部32の代わりに設定値変更速度決定部32aを有する。
【0100】
制御目標決定部3aの基本動作は第1の実施の形態と同様であり、ステップS1−2の動作が異なる。ステップS1−2以外の動作は同じであるので、異なる動作のみを説明する。
運用情報記憶部6には、変更速度探索履歴情報が設定値緩和開始時の制御機器4の運転モード(冷房/暖房などの空調運転モード)や設定値緩和開始時の日時情報とともに記憶される。変更速度探索履歴情報とは、設定値変更速度決定部32aが決定した設定値変更速度α(n)、探索回数n、ステップS1−10で更新した探索状態フラグFg、および緩和目標維持時間tmtを含む情報である。変更速度探索履歴情報の1例を図13に示す。図13の例では、Fgmax=2、tkeep=20[分]としている。
【0101】
変更速度探索履歴情報によれば、探索回数nおよび探索状態フラグFgの値から緩和目標を達成した設定値変更速度を判別することができ、さらにその設定値変更速度で設定値緩和を繰り返した際に緩和目標を達成した回数や緩和目標設定値での維持時間を抽出することができる。図13の例では、9時、9時40分、13時40分、14時15分の設定値緩和制御で使用された設定値変更速度α(n)=P1、α(n)=P2、α(n)=P2’では、緩和目標を達成できなかったことが分かる(Fg=0)。一方、設定値変更速度α(n)=P3での設定値緩和制御は合計5回(Fg≧1の回数)実施され、そのうち、緩和目標を達成したのは2回(Fg=1の回数)であり、緩和目標を達成していないのは3回(Fg≧2の回数)であることが分かる。
【0102】
また、運用情報記憶部6には、変更速度探索履歴情報として、設定値変更速度α(n)=P3で設定値緩和制御を実施した際の緩和目標維持時間tmtも記憶されている。なお、図13において第1の実施の形態の変更速度決定方法では、α(n)=P2=P2’であるが、採用する変更速度決定方法によっては変更速度の初期値であるα(n)=P1を除いて設定値変更速度が異なる場合ももちろんある。
【0103】
本実施の形態の設定値変更速度決定部32aは、図3のステップS1−2の処理において、探索回数n=1(すなわち、設定値変更速度探索の初回)の場合に、運用情報記憶部6に記憶されている変更速度探索履歴情報から、少なくとも前記運転モードおよび日時情報を利用して決定する外部環境類似データを抽出し、この外部環境類似データのうち、緩和目標を満たしている設定値変更速度を設定値変更速度α(n)の初期値として採用する。
【0104】
外部環境類似データは、建物の外部環境や利用状態が類似していると見なされる変更速度探索履歴情報であり、例えば前記運転モードが同一でかつ季節が類似した期間の変更速度探索履歴情報である。季節類似とする条件としては、例えば、前年度の同月、過去数年間の同月、前年度の同季節(3ヶ月単位で分類した春夏秋冬の期間)など適宜設定する。なお、建物の外部環境や利用状態が類似と判断する情報として、建物の管理情報として通常保持している外気温や日射量、天候データや建物利用スケジュール(居住域人数や季節イベントの開催期間か否かなど)などを併せて利用しても構わない。
【0105】
外部環境類似データに同じ設定値変更速度が複数ある場合には、いずれの設定値変更速度を試行してみてもよいし、例えば、上記で示したような緩和目標の達成回数や未達成回数、あるいは、設定値緩和制御を繰り返し実施した場合の緩和目標維持時間tmtの積算値などで採用の優先順位をつけて採用する設定値変更速度を決定してもよい。いずれにしろ、設定値変更速度決定部32aは、変更速度探索履歴情報から建物の外部環境や利用状態が現在と類似していると見なされる外部環境類似データを抽出し、この外部環境類似データのうち、緩和目標を満たしている設定値変更速度を設定値変更速度α(n)の初期値として採用すればよい。
【0106】
なお、初期値に限らず、変更速度探索履歴情報から抽出した外部環境類似データに含まれる1つ以上の設定値変更速度を、ステップS1−2の処理で設定値変更速度として採用する方法を変更速度決定方法としてもよい。また、外部環境類似データに含まれる設定値変更速度を採用し、この設定値変更速度で緩和目標が達成できなかった場合に第1の実施の形態で述べたような変更速度決定方法を引き続き行うようにしてもよい。
【0107】
以上により、本実施の形態では、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい設定値変更速度の探索回数を低減する可能性を高めることができる。
【0108】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態では、要望評価結果と設定値(緩和)運用実績とを実績管理情報としてユーザに提示する。図14は本実施の形態に係る空調機制御装置の構成を示すブロック図であり、図2、図12と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態の空調機制御装置1bは、第1の実施の形態の空調機制御装置1に対して運用情報記憶部6bを加え、さらに提示情報生成部7と情報端末8とを加えたものである。提示情報生成部7と情報端末8とは、情報提示手段を構成している。
【0109】
制御目標決定部3の基本動作は、第1の実施の形態と同様であるので、ここでは説明しない。運用情報記憶部6bには、要望評価結果(要望申告者数Nv)と、運用した緩和目標設定値Tsvの実績を示す運用実績データとが制御機器4の運転モード(冷房/暖房など)や日時情報とともに記憶される。ユーザ(主に前記管理者)が情報端末8により指定した期間を対象として、提示情報生成部7がユーザに提示する提示情報を生成し、この提示情報をユーザが情報端末8で確認する。情報端末8は、PC、携帯電話機などの汎用の情報端末でよく、申告端末5と同一でももちろん構わない。
【0110】
図15に情報端末8の画面に表示される提示情報の1例を示す。提示情報は、居住域の快適性に関わる要望評価結果と空調の省エネルギー運用に関わる制御設定値の少なくとも一方の情報に基づく、所定期間の実績管理情報であればよい。提示情報としては、例えば統計処理を施した要望申告者数Nv(最大値、平均値、標準偏差など)や要望申告者数Nvの時系列推移、制御設定値の時系列推移、管理者が室内環境管理の目安として設定した緩和中リミット数Nvlimを要望申告者数Nvが超えた回数、要望申告者数Nvの平均値と緩和中リミット数Nvlimとの差などがある。すなわち、提示情報は、空調運用実績などで一般的に行なわれる処理を、要望評価結果あるいは制御設定値に施した数値やグラフでよい。
【0111】
本実施の形態では、提示情報を提示することで、更なる設定値緩和を行って省エネルギーを推進するか(すなわち、冷房運転の場合、緩和目標設定値Tsvを上げる)、あるいは温熱環境悪化への考慮から基準設定値Tiniや緩和目標設定値Tsvをより快適性を重視した値に変更するのかといった省エネルギー性と快適性のバランスを考慮した運用の意思決定を支援することができ、省エネルギー性と快適性のバランスについて柔軟性を取り入れながらも、一定の規範的動作範囲内に収束しやすい空調機制御装置を実現することができる。
【0112】
第1〜第3の実施の形態で説明した空調機制御装置1,1a,1bは、CPU、メモリ及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、メモリに格納されたプログラムに従って第1〜第3の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、空調の制御設定値を省エネルギーのために適切に設定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1,1a,1b…空調機制御装置、2…機器制御部、3,3a…制御目標決定部、4…制御機器、5…申告端末、6…探索履歴情報記憶部、6b…運用情報記憶部、7…提示情報生成部、8…情報端末、30…定値目標記憶部、31…制御整定判定部、32,32a…設定値変更速度決定部、33…要望評価部、34…設定値決定部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tiniと、この基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定の制御設定値である緩和目標設定値Tsvとを予め記憶する定値目標記憶手段と、
制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvへ変更する際の設定値変更速度α(n)を決定する設定値変更速度決定手段と、
制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価する要望評価手段と、
前記設定値変更速度決定手段が決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更する設定値決定手段と、
制御対象空間の室温が前記設定値決定手段によって決定された制御設定値Tsetと一致するように空調機器を制御する機器制御手段とを備え、
前記設定値変更速度決定手段と前記設定値決定手段とは、前記要望量が所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を繰り返し探索することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の空調機制御装置において、
前記要望評価手段は、前記要望量として、同一の居住者からの複数回の要望申告のうち最新の要望申告のみを残したときの要望申告者数、あるいは前記要望申告者数を制御対象空間の居住者数で除した要望申告者割合を導出することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の空調機制御装置において、
前記緩和目標は、前記制御設定値Tset=緩和目標設定値Tsvの状態で前記要望量が所定の緩和中リミット量以下のまま持続できる時間が所定の緩和目標時間tkeep以上という条件であり、
前記設定値決定手段と前記設定値変更速度決定手段とは、前記要望量が前記所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を探索し、探索した設定値変更速度α(n)での制御設定値変更を、前記要望量が前記緩和中リミット量以下の範囲で繰り返すことを特徴とする空調機制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
さらに、前記設定値変更速度の探索履歴情報を、前記空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する探索履歴情報記憶手段を備え、
前記設定値変更速度決定手段は、前記探索履歴情報記憶手段に記憶されている情報のうち、制御対象空間の外部環境が類似している探索履歴情報を利用して前記設定値変更速度α(n)を決定することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
さらに、前記要望量と前記制御設定値Tsetとの履歴を、前記空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する運用情報記憶手段と、
この運用情報記憶手段に記憶された情報に基づいて、前記要望量と前記制御設定値Tsetの運用実績とを管理者に提示する情報提示手段とを備えることを特徴とする空調機制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
制御対象空間の温熱環境に対する居住者の要望のうち、前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定変更中に増加傾向となる可能性のある要望をトレードオフ要望とし、
前記要望評価手段は、前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定変更中で、かつ前記居住者の要望に前記トレードオフ要望が含まれる場合には、前記制御設定値Tsetを省エネルギー側に設定変更開始するときの要望量を初期値として、集計を行う現時刻までのトレードオフ要望の要望量を積算して集計し、前記居住者の要望に前記トレードオフ要望が含まれない場合には、集計を行う現時刻から所定の固定評価時間tvalだけ前の時刻を集計の開始時刻として、この開始時刻から現時刻までを集計区間として要望量を集計することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
前記設定値変更速度決定手段は、前記設定値変更速度α(n)の探索を実施する度に前記設定値変更速度α(n)を一定割合で変化させることを特徴とする空調機制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
前記設定値決定手段は、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)の探索が完了した場合に、探索した設定値変更速度α(n)での制御設定値変更を、前記要望量が前記緩和中リミット量以下の範囲で繰り返し、この設定値変更速度α(n)で前記緩和目標を満たさない繰り返し回数が所定の変更速度リトライ数Fgmaxを超えたときに、探索回数を初期化して、前記設定値変更速度α(n)の探索をし直すことを特徴とする空調機制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
さらに、制御対象空間の室温が前記設定値決定手段によって決定された制御設定値Tsetに整定したかどうかを判定する制御整定判定手段を備え、
前記設定値決定手段は、整定後に所定の設定値維持時間twaitの経過を待った上で、前記要望評価手段が集計した要望量と所定の緩和開始リミット量とを比較し、前記要望量が前記緩和開始リミット量以下であるときに、前記設定値変更速度決定手段が決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更開始することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項10】
請求項9記載の空調機制御装置において、
前記設定値決定手段は、前記要望量が前記緩和開始リミット量以下であるという条件が満たされない状態の持続時間が所定の上限を超えるか、あるいは前記要望評価手段が集計した要望量と前記緩和開始リミット量との比較回数が所定の上限を超えた場合には、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
前記設定値決定手段は、所定の探索継続条件を満たさないときに、前記設定値変更速度α(n)の探索を中止して、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項12】
制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価する要望評価ステップと、
制御設定値Tsetを、温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tiniから、この基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定の制御設定値である緩和目標設定値Tsvへ変更する際の設定値変更速度α(n)を決定する設定値変更速度決定ステップと、
この設定値変更速度決定ステップで決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更する設定値決定ステップと、
制御対象空間の室温が前記設定値決定ステップで決定した制御設定値Tsetと一致するように空調機器を制御する機器制御ステップとを備え、
前記設定値変更速度決定ステップと前記設定値決定ステップとは、前記要望量が所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を繰り返し探索することを特徴とする空調機制御方法。
【請求項1】
温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tiniと、この基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定の制御設定値である緩和目標設定値Tsvとを予め記憶する定値目標記憶手段と、
制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvへ変更する際の設定値変更速度α(n)を決定する設定値変更速度決定手段と、
制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価する要望評価手段と、
前記設定値変更速度決定手段が決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更する設定値決定手段と、
制御対象空間の室温が前記設定値決定手段によって決定された制御設定値Tsetと一致するように空調機器を制御する機器制御手段とを備え、
前記設定値変更速度決定手段と前記設定値決定手段とは、前記要望量が所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を繰り返し探索することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の空調機制御装置において、
前記要望評価手段は、前記要望量として、同一の居住者からの複数回の要望申告のうち最新の要望申告のみを残したときの要望申告者数、あるいは前記要望申告者数を制御対象空間の居住者数で除した要望申告者割合を導出することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の空調機制御装置において、
前記緩和目標は、前記制御設定値Tset=緩和目標設定値Tsvの状態で前記要望量が所定の緩和中リミット量以下のまま持続できる時間が所定の緩和目標時間tkeep以上という条件であり、
前記設定値決定手段と前記設定値変更速度決定手段とは、前記要望量が前記所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を探索し、探索した設定値変更速度α(n)での制御設定値変更を、前記要望量が前記緩和中リミット量以下の範囲で繰り返すことを特徴とする空調機制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
さらに、前記設定値変更速度の探索履歴情報を、前記空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する探索履歴情報記憶手段を備え、
前記設定値変更速度決定手段は、前記探索履歴情報記憶手段に記憶されている情報のうち、制御対象空間の外部環境が類似している探索履歴情報を利用して前記設定値変更速度α(n)を決定することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
さらに、前記要望量と前記制御設定値Tsetとの履歴を、前記空調機器の運転モードと日時情報と共に記憶する運用情報記憶手段と、
この運用情報記憶手段に記憶された情報に基づいて、前記要望量と前記制御設定値Tsetの運用実績とを管理者に提示する情報提示手段とを備えることを特徴とする空調機制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
制御対象空間の温熱環境に対する居住者の要望のうち、前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定変更中に増加傾向となる可能性のある要望をトレードオフ要望とし、
前記要望評価手段は、前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniよりも省エネルギー側に設定変更中で、かつ前記居住者の要望に前記トレードオフ要望が含まれる場合には、前記制御設定値Tsetを省エネルギー側に設定変更開始するときの要望量を初期値として、集計を行う現時刻までのトレードオフ要望の要望量を積算して集計し、前記居住者の要望に前記トレードオフ要望が含まれない場合には、集計を行う現時刻から所定の固定評価時間tvalだけ前の時刻を集計の開始時刻として、この開始時刻から現時刻までを集計区間として要望量を集計することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
前記設定値変更速度決定手段は、前記設定値変更速度α(n)の探索を実施する度に前記設定値変更速度α(n)を一定割合で変化させることを特徴とする空調機制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
前記設定値決定手段は、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)の探索が完了した場合に、探索した設定値変更速度α(n)での制御設定値変更を、前記要望量が前記緩和中リミット量以下の範囲で繰り返し、この設定値変更速度α(n)で前記緩和目標を満たさない繰り返し回数が所定の変更速度リトライ数Fgmaxを超えたときに、探索回数を初期化して、前記設定値変更速度α(n)の探索をし直すことを特徴とする空調機制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
さらに、制御対象空間の室温が前記設定値決定手段によって決定された制御設定値Tsetに整定したかどうかを判定する制御整定判定手段を備え、
前記設定値決定手段は、整定後に所定の設定値維持時間twaitの経過を待った上で、前記要望評価手段が集計した要望量と所定の緩和開始リミット量とを比較し、前記要望量が前記緩和開始リミット量以下であるときに、前記設定値変更速度決定手段が決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更開始することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項10】
請求項9記載の空調機制御装置において、
前記設定値決定手段は、前記要望量が前記緩和開始リミット量以下であるという条件が満たされない状態の持続時間が所定の上限を超えるか、あるいは前記要望評価手段が集計した要望量と前記緩和開始リミット量との比較回数が所定の上限を超えた場合には、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の空調機制御装置において、
前記設定値決定手段は、所定の探索継続条件を満たさないときに、前記設定値変更速度α(n)の探索を中止して、前記緩和目標を満たす設定値変更速度α(n)を探索できなかったことを管理者に通知することを特徴とする空調機制御装置。
【請求項12】
制御対象空間の温熱環境に対する要望量を一定時間毎に評価する要望評価ステップと、
制御設定値Tsetを、温度一定制御の制御設定値である基準設定値Tiniから、この基準設定値Tiniよりも省エネルギー設定の制御設定値である緩和目標設定値Tsvへ変更する際の設定値変更速度α(n)を決定する設定値変更速度決定ステップと、
この設定値変更速度決定ステップで決定した設定値変更速度α(n)で前記制御設定値Tsetを前記基準設定値Tiniから前記緩和目標設定値Tsvまで変更する設定値決定ステップと、
制御対象空間の室温が前記設定値決定ステップで決定した制御設定値Tsetと一致するように空調機器を制御する機器制御ステップとを備え、
前記設定値変更速度決定ステップと前記設定値決定ステップとは、前記要望量が所定の緩和目標を満たす前記設定値変更速度α(n)を繰り返し探索することを特徴とする空調機制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図6】
【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−2748(P2013−2748A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134958(P2011−134958)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】
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