説明

空間的に精細な横波分散超音波振動測定サンプリング

横波分散超音波振動測定(SDUV)が、幾つかの実施例では、単一のトラッキングパルスから単色横波の測定を行うための平行に向けられた受信ライン411〜426を形成するように実施される。幾つかの実施例において、サンプリングは、空間位置にわたって該空間位置にわたるパスにより、上記波の測定を行うためのインターレースされたパターン600で実行される。幾つかの実施例において、上記波に関して複数の測定がなされ、これら測定に対して、全て異なる空間位置451〜454における波位相の間の差を決定することを要さずに、対応する候補波速度に同調されたフィルタのバンクS724が適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は横波の測定に係り、更に詳細には横波分散超音波振動測定法(SDUV)による斯かる測定の実行に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織のメカニカルな変化は、病理的な変化と相関している。健康な及び病的な組織の間では、剪断弾性係数(硬さ)及び粘度が著しく変化し得る。過去10年にわたる超音波弾性画像化開発の出現により、多くの臨床的研究は、組織の粘弾性的特性が医師に対して一層良好なガン診断及び治療評価のための有効な情報を提供することを示している。
【0003】
横波分散超音波振動測定法(SDUV: Shear Wave Dispersion Ultrasound Vibrometry)は、横波速度の分散を特徴付けることにより(即ち、周波数により)組織の剪断弾性及び粘度を測定する音響放射圧に基づく技術である。この技術の応用は、肝線維症及び肝硬変のステージを決定するための肝臓の硬さの非侵襲性測定である。
【0004】
医療画像化の目的のための超音波による診断は、しばしば、縦波を利用する。人体組織において、超音波は波の形で伝搬する。実際には、全伝搬経路に沿う粒子が、その場で、前後に振動し、該振動は伝搬方向に生じる。斯かる振動は圧縮及び希薄(疎)を形成する。これらは、シヌソイドのピーク(山)及び谷としてモデル化される。エネルギは振動的な粒子運動により目標に伝達され、戻される。
【0005】
対照的に、超音波剪断(即ち、横)波は、伝搬方向に対して垂直な往復面内運動により特徴付けられる。振動は一方向ではピークを形成し、他方向では谷を形成する。
【0006】
SDUVを実行することは、一連の収束された縦波のプッシュパルスの送出を伴う。これらパルスは、(例えば)100Hzの繰り返しレートで発射される高い強度で狭い帯域幅の信号である。これらパルスのうちの幾つかが、各々が横方向に一致して同一方向に発射された後、これらは、焦点を外れて、上記プッシュパルスのものに対して垂直な方向に伝搬するような横波を確立する。焦点深度は、該横波が関心領域(ROI)を介して進行するように選択されている。
【0007】
横波の振幅をサンプリング点において評価するために、縦波のトラッキングパルスがROIに対して放出される。この測定は、サンプリングされた位置における横波の位相を推定する際に使用される。
【0008】
他の位置をサンプリングするために、他のプッシュパルスが同じプッシング焦点に対して生じ、これには当該位置に対するトラッキングパルスが後続する。この第2サイクルは、2つの点の間の位相の差が弾性及び粘度の決定の際に使用される故に必要となる。
【0009】
上記プッシュ(プッシング)パルスの包絡線は矩形波であるので、典型的には100Hzの周波数の横波及び高調波(200Hz、300Hz、400Hz)、即ち成分(又は"単色横波")が存在する。異なる周波数における速度推定が、組織の横波弾性及び粘度を導出する際に使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術の欠点を、以下に説明する。
【0011】
SDUVを用いて放射圧誘起横波を検出することに関連する1つの大きな挑戦は、相対的に小さな振幅振動である。軸方向変位は、10μmのオーダである。従って、振動振幅はノイズに影響されやすい。システム電子系のノイズ及び心臓の又は呼吸の運動等の患者の動きは、横波変位推定に対して大きなノイズとなる。
【0012】
加えて、横波を検出するために高速画像化が必要とされる。400Hzまでの振動が記録されねばならない。何故なら、より高い周波数の横波が媒体により減衰されるからである。従って、ナイキスト閾を安全に超過するために、エイリアシングを回避するために、各空間位置は1000Hzより高い周波数でサンプリングされねばならない。トラッキングパルスの繰り返し周波数は組織内での音速及びROIの深さにより制限されるので、このことは、従来の非マルチライン検出シーケンスを用いてサンプリングすることが可能な空間位置の数を制限する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下に提案するマルチラインビーム形成器を用いることは、一層精細な変位場の空間サンプリング及び/又は高さ方向(elevation)及び横方向(lateral)の両画像化面における空間サンプリングを可能にする(従来の1Dアレイに対して2Dアレイを用いる場合)。検出パルスの各々から一層多くの情報が抽出されるので、SDUVからの弾性の尺度の強さが増加される。従って、追加される利点として、当該手順において費やされる合計時間を短縮することができる。このことは、患者の都合良さの観点からも、及び励起点へのプッシュの繰り返される供給からの熱的効果の潜在的影響を低減するためにも有利である。更に、ラジオ周波数(RF)のデータ収集の速度の増加は、高速での高空間解像度を必要とする他の横波画像化/定量化技術の採用のための道を開く。
【0014】
本発明の1つのバージョンにおいて、横波分散超音波振動測定(SDUV)は、単一のトラッキングパルスから、単色横波(monochromatic shear wave)の測定を行うための平行方向(in-parallel-directed)受信ラインを形成することにより実行される。
【0015】
一態様として、少なくとも1つの他のトラッキングパルスから、被写界深度を増加させるために、結果としての受信ラインを重ね合わせるように上記形成が実行される。
【0016】
更に詳細には、幾つかの実施例において、上記増加は、少なくとも1つの再生Aライン(reconstructed A-line)を形成するために前記重ね合わされた受信ラインから組み合わせるステップを伴う。
【0017】
関連する他の可能性のある態様は、前記少なくとも1つの他のトラッキングパルスのうちの異なる時点のトラッキングパルスから、前記組み合わせるステップにより形成された対応する複数の再生Aラインを形成するステップを含む。
【0018】
特定の実施例として、測定の実行は、前記単色横波の振幅測定を行うステップを含む。
【0019】
ここに提案されるものは、横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する装置であって、単一のトラッキングパルスから、単色横波の測定を行うための複数の平行方向受信ラインを形成するように構成された装置として実施化することができる。
【0020】
このような装置は、前記トラッキングパルス及び少なくとも1つの横方向にオフセットされたトラッキングパルスが共通の深さに収束され、当該装置が、前記深さに収束されたパルスからのエコーデータに基づいて、より浅い送信焦点を再構築するよう構成されることを特徴とする。
【0021】
又は、代替的な若しくは補足的な態様において、当該装置は、少なくとも1つの他のトラッキングパルスのために且つ受信ラインを重ね合わせるように斯様な形成を行うよう構成されると共に、更に、位相差を決定する場合にサンプル間波伝搬を補正するためにパルス発射時点を補間するよう構成される。
【0022】
一形態において、横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行するためのコンピュータソフトウェア製品は、単一のトラッキングパルスから単色横波の測定を行うための複数の平行方向受信ラインを形成するためにプロセッサによって実行可能な命令を含むコンピュータプログラムを具現化するコンピュータ読取可能な媒体を含む。
【0023】
更に、幾つかのバージョンにおいて、横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する方法は、複数の位置にわたる複数のパスにより該複数の位置にわたって、単色横波の測定を行うためにインターレースされたパターンでサンプリングするステップを有する。
【0024】
これらのバージョンの特定の変形例において、前記複数のパスのうちの1つにおいてサンプリングされた位置は、前記複数のパスのうちの次の1つにおいてサンプリングされた位置とインターリーブする。
【0025】
可能性のある態様として、複数のパスわたる前記複数の位置のうちの所与の1つの位置における前記サンプリングの結果は基準Aラインと比較されて、該位置における前記単色横波の変位を決定する。
【0026】
同様に、幾つかの態様において、横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する装置は、複数の位置にわたる複数のパスにより、単色横波の測定を行うためにインターレースされたパターンで前記複数の位置にわたりサンプリングするよう構成される。
【0027】
ここで提案されるものは、同様に、横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する方法であって、単色横波の測定を行うステップと、前記測定の値に対して、異なる空間位置における前記波の位相の間の差を決定する必要性無しに、前記波の対応する候補速度に同調されたフィルタのバンクを適用するステップとを含む方法の形態をとることができる。
【0028】
更なる態様において、前記適用するステップの準備としてノイズを低減するために、前記測定の値に対してローパスフィルタを用いることができる。
【0029】
更に他の態様において、前記バンク内のフィルタは二次元のものであり、一方の次元が空間位置であり、他方の次元は時間である。
【0030】
更なる態様において、横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する装置は、単色横波の測定を行うと共に、前記測定の値に対して、全て異なる空間位置における前記波の位相の間の差を決定する必要性無しに、前記波の対応する候補速度に同調されたフィルタのバンクを適用するよう構成される。
【0031】
更なる追加の態様として、上述した装置は、1以上の集積回路として実施化することができる。
【0032】
SDUVのための該新規な高精細サンプリング方法の詳細を、添付図面を参照して後述する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、2つの連続したSDUVサンプルを例示する概要図である。
【図2】図2は、順次のSDUVトラッキングを例示する時間記録である。
【図3】図3は、図2の時間記録に対応するフローチャートである。
【図4】図4は、16xマルチラインビーム形成器上で実施される遡及的ダイナミック送信(RDT)を用いたSDUVサンプル収集を例示する概略送信/受信図である。
【図5】図5は、RDTの関連で、可能性のある検出ビーム送信焦点の配置を示す概要図である。
【図6】図6は、例示的なインターレースされたサンプリング方法のグラフ表示である。
【図7】図7は、組織の剪断弾性及び粘度を如何にして決定するかの例としての特定の実施例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
最初に、より速いサンプリングを有するSDUVの1つのバージョンに関して一般的な説明を行う。それに続くものは、この文脈においては図4で開始する、一層精細な空間サンプリングに関する他の例示的発展である。
【0035】
図1は、2つの連続するSDUVサンプルの間の関係を、解説的な制限するものでない例として示す。超音波プッシングプローブ(pushing probe)104が、超音波トラッキングプローブ(図示略)により各サンプリング時刻t1、t2において放出される第1及び第2トラッキングパルス108、112と共に示されている。プッシングプローブ104は、横波115を確立するために一連の収束されたプッシングパルス(又は"プッシュ")114を送出し、該横波の周波数成分(即ち"単色横波")が第1トレース116により表されている。組織はy方向に沿って振動し、横波115はx方向に沿って伝搬する。
【0036】
プッシング及びトラッキングのために2つの別個のプッシングを各々使用することもできる。しかしながら、このタイプの嵩張る構造は、臨床用途にとっては実用的でない。
【0037】
更に、別個の単一素子トランスジューサの場合、異なる横方向位置における横波位相遅延を測定するためにプッシュパルスの繰り返し発射を要するが、その結果として繰り返しの組織の加熱が生じる。
【0038】
一方、トラッキングがアレイトランスジューサにより実施される場合、繰り返しのプッシュの必要性は、本明細書における提案により緩和される。
【0039】
更に、1つの単一アレイトランスジューサは、プッシング及びトラッキングの両機能を果たすことができる。両用単一アレイトランスジューサは、当該システムを一層小型にし及び制御を容易にさせるであろう。しかしながら、この構成は、単一のトランスジューサにより音響放射圧を発生すると共に結果としての横波115を画像化することが可能となることを保証するために、より多くのハードウェア及びソフトウェアのサポートを要する。上記単一トランスジューサは、横方向及び高さ方向のプッシュ及び/又はトラッキングパルス位置を許容する複列アレイ(1.75若しくは2Dトランスジューサ)又は単列アレイ(1Dトランスジューサ)とすることができる。
【0040】
進んだ2Dアレイ技術は、トラッキングパルスが3D次元で送信されるのを可能にするであろうが、下記の説明は軸方向/横方向面内で組織運動をトラッキングするものに関するものである。同じ扱いが、一般性を失うことなく、軸方向/高さ方向の面にも当てはまる。
【0041】
トラッキングパルス108、112は、Δrなる位置間距離128により空間的に隔てられた各位置120、148を目標とする。該距離128は、典型的には、ミリメートルの範囲である。何故なら、横波115は伝搬距離に伴い減衰するからである。y軸136上で表される振幅(又は変位)132が測定される。サンプリング周波数に関してナイキスト閾が満たされるならば、上記振幅132に基づいて、位置120におけるΦなる位相140を導出することができる。ナイキスト閾は、十分なフレームレートにより、即ち十分な周波数での位置120上の複数のサンプリングパスにより満たすことができる。
【0042】
図2は、順次のSDUVトラッキングの一例を示す。如何なるプッシュパルス114が当該関心領域(ROI)を振動させる前に、基準トラッキングパルス202、204、206、208が、各サンプリング位置x、x、x、xを目標として発する。該位置x、x、x、xは、点xから半径方向外側に、即ちプッシュパルスにより形成されるべき横波115の伝搬方向に、整列される。基準トラッキングパルス202、204、206、208には、エコー210、212、214,216が各々後続する。次いで、横波115が位置x0に、即ち励起点の場所に確立される。これは、典型的には約100Hzであり得るプッシュ周波数で発射されるプッシュパルス218の初期系列(図2には図示されていない)によりなされる。プッシュパルス218のトラッキングシーケンス開始の着手は、波115が確立されたら発し得る。トラッキングパルス222、224、226、228のパス(一連動作)220が、パルス毎に直列にステアリングされて後続する。該トラッキングパルス222、224、226、228は、各サンプリング位置x、x、x、xを目標とする。パルス222、224、226、228の各々には、対応するエコー230、232、234、236が後続し、次いで、これらから対応する受信Aラインがビーム形成される。パス220は、2kHzなる同位置トラッキング周波数238で生じる。従って、プッシュ218には20個のパス(即ち、"フレーム")220が後続することができる。また、2kHzなる同位置トラッキング周波数238は約1kHz(ナイキスト閾)までの周波数の成分116の位相測定を可能にする。トラッキングパルス222、224、226、228の各々は、ナイキスト閾の生来の限界内で当該周波数成分の各々の測定を同時に提供するよう作用することができる。
【0043】
通常のBモード画像化が用いられる。即ち、トラッキングパルス222、224、226、228は、電子的に収束されると共に、2つの隣接するプッシングパルス218の間で異なる位置x,x、x、xに横方向に前後にステアリングされる。従って、異なる位置x,x、x、xにおける受信Aラインが順次形成される。
【0044】
各Bモードフレーム内の送信ラインの数は、横波115のためのサンプリングPRF(パルス繰り返し周波数)が十分に高くなるように制限されるべきである。図2に見られるように、例えば、各位置x,x、x、xに対して、同位置トラッキング周波数238は2kHz(PRF)である一方、送信Aライン周波数242は8kHz(PRF)である。これは、例示に過ぎない。測定される最高高調波が400Hzである場合、このことは、検出パルス(所与の方向において横方向に同一的)は、例えば1000Hzの最少レートで発射される(ナイキストを越える僅かな余裕を可能にする)。この場合、PRFは1kHzに設定されるであろう。従って、ビームを8kHz/1kHz=8個の位置に送信することが可能である。
【0045】
横波速度推定のために要するSDUV情報の全てを得るためには、単一のプッシュ/トラッキングシーケンス240のみが必要とされる。より速いデータ収集が、単点"仮想生体検査(バイオプシ)"ツールから可能性のあるリアルタイム画像化方式へSDUVの技術を進歩させるための重要要件である。また、特に、組織及びトランスジューサ内で発生される熱を、横波トラッキングのために観察される横方向位置x,x、x、x…の数を維持しながら減少させることができる。また、該より速いデータ収集は、横波変位推定におけるノイズを低減することができ、従って、さもなければ組織が異なるプッシュ/トラッキングシーケンス240の過程にわたって受け得る呼吸運動等の大きな時間スケールのノイズを回避することができる。
【0046】
図3は、図2の時間軸に対応するフローチャートである。焦点が、第1位置xに設定される(ステップS304)。現トラッキング基準パルス202が放出される(ステップS308)。該パルスのエコー210が続く(ステップS312)。もっと測定されるべき位置(即ち、x、x、x)が存在するなら(ステップS316)、焦点が次の位置にステアリングされ(ステップS320)、該次の位置を現位置として当該処理はトラッキング基準パルス放出ステップS308に戻る。一方、測定されるべき更なる位置がない場合(ステップS316)、プッシュパルス218が連続的に発射されて、横波115を達成する(ステップS324)。次いで、焦点は第1位置xに設定される(ステップS328)。そして、現トラッキングパルス222が放出され(ステップS330)、該パルスのエコー230が戻る(ステップS332)。現在のパス220で発すべき更なるトラッキングパルス(即ち、224、226、228)がある場合(ステップS333)、焦点は対応する次の位置に設定され(ステップS334)、当該処理は、上記次の位置を現位置として、トラッキングパルス放出ステップS330に戻る。それ以外で、放出されるべき次のトラッキングパルスが存在しない場合、位置x,x、x、xに対して他のパスがなされるべきかについての質問がなされる(ステップS336)。次のパスがなされるべき場合、該次のパスが現パスとなされ(ステップS340)、当該処理はステップS328において該次のパスの始めに戻る。しかしながら、なされるべき次のパス220が存在しない場合(現プッシュ/トラッキングシーケンス240において)、サンプリングは完了する。本提案技術においては、横波速度のSDUVによる決定のため、及び実用的な実施例において組織の弾性及び粘度の計算のために要するサンプリングの全てを提供するのに、単一のプッシュ/トラッキングシーケンス240で十分である。
【0047】
図4は、16xマルチラインビーム形成器、即ち1つの送信ビーム(又は、略して"送信")から16本の受信ラインを形成するビーム形成器上で実施化された遡及的ダイナミック送信(RDT)を用いたSDUVサンプル収集方式400の一例を示す。
【0048】
マルチラインビーム形成器によれば、SDUVサンプリングは依然として順次のもの(シーケンシャル)であるが、一群の空間的位置によるものである。各群に対して、送信ビームが放出される。ROIが送信ビームの焦点とはことなる深さに位置する場合、該送信ビームは焦点におけるものより広くなり、当該群の空間位置を超音波照射する。他の例として、当該ビームはROIと同じ深さにおいて、当該群の位置を超音波照射するのに十分な広さで、弱く収束させることができる。
【0049】
単一のトラッキングパルス404から形成される送信ビームのエコーから、16xのビーム形成回路が、単色横波116の測定を行うための16本の平行方向の(in-parallel-directed)受信ライン411〜426を形成する。対角線のサブアパーチャトラッキングライン427により示されるように、最初の8本の受信ライン411〜418は当該送信の中心の一方の側にあり、第2の8本の受信ライン419〜426は他方の側にあり。
【0050】
他のトラッキングパルス428、429、430及び最初のトラッキングパルス404は、全て異なるタイミングである。例えば、送信Aライン(又は"トラッキングパルス")PRF 242が10kHzに等しく設定された場合、単一トラッキングパルス404は、次のトラッキングパルス428より100μs前に発する。100μs後に、次のパルス429が発射し、等々となる。
【0051】
トラッキングパルス404、428、429、430の各々は、当該トラッキングプローブの対応するその時点で活性なサブアパーチャにより形成される。該活性なサブアパーチャは、トランスジューサ素子のうちの、超音波を送信するために現在活性な部分群である。このように、例えば、トラッキングパルス404が発射した後、現在活性なサブアパーチャはずれる(例えば、当該アパーチャの一方の側の1以上の素子が除外され、他方の側の1以上の素子が含められる)。次いで次のトラッキングパルス428が発射する場合、該パルスは当該ずらされたサブアパーチャから生じる。隣接するアパーチャの間の空間的距離は、以下では、送信間隔434と称され、該送信間隔は、本例では、0.5mmである。トラッキングパルスの焦点も、連続するトラッキングパルスの間で該送信間隔434だけずれず。
【0052】
16本の平行方向の受信ライン411〜426(即ち、空間的に平行な動的に形成される受信ライン)は、送信404の後に受信されるエコーから形成される。受信ライン411〜426の各々は、受信サブアパーチャにより形成される。該受信サブアパーチャは、所与の受信ラインに貢献するトランスジューサ素子の部分群である。
【0053】
受信ライン411〜426の間の空間的距離は、以下、受信間隔438と称される。本例では、該受信間隔は、0.125mm、即ち0.5mmなる送信間隔434の四分の一である。
【0054】
受信間隔438を送信間隔434の分数にすることは、更に詳細に後述するように、一層密なサンプリングを可能にする。
【0055】
収集されたラジオ周波数データの全ては、一時メモリに退避される。収集されたデータの保持は、サブアパーチャがずれ、最終的に当該トランスジューサアレイにおける最終位置となるまで、即ち全パスのデータが収集されるまで継続する。更に、データはパス毎に保持される。
【0056】
最初のトラッキングパルス404及び次のトラッキングパルス428の発射の間のサブアパーチャにおけるずれにより、該最初のパルスの最後の12本の受信ライン415〜426は、該次のパルスの最初の12本の受信ラインと、各々、空間的に重なり合う。同様に、各々の後続するトラッキングパルスとのサブアパーチャのずれにより、トラッキングパルス428の最後の12本の受信ラインは次のトラッキングパルス429の最初の12本の受信ラインと重なり合い、等々となる。
【0057】
4番目のトラッキングパルス430の発射時点まで、4つの全てのトラッキングパルス404、428、429、430の各受信ラインは重なり合い、4つの再生されたAライン441〜444を形成するよう組み合わせることができる。
【0058】
例えば、最初の再生Aライン441は、最初の受信ライン423の、直後に後続するトラッキングパルス428〜430の3つの対応する受信ラインとの組み合わせから形成される。該組み合わせは、遡及的ダイナミック送信(RDT)に従って行われる。RDT収束の効果は、1996年にPassman及びErmertにより提案された仮想トランスジューサ近似を用いて分析することができる。IEEE Trans. Ultrasonics, Ferroelectrics and Frequency Control、vol.43, no.4, pp.545-52 (1996)のC. Passmann及びH. Ermertによる"A 100-MHz ultrasound imaging system for dermatologic and ophthalmologic diagnostics"を参照されたい。この技術は、"Retrospective Dynamic Transmit Focusing for Spatial Compounding"なる名称のBurcher他による共同出願された米国特許出願公開第2009/0069693号(以下、"693公報"と称する)に更に詳細に説明されている。両文献の開示は、参照により、全体として本明細書に組み込まれるものである。
【0059】
最初の再生Aライン441は、空間位置451における横波115を測定するためのものである。同様に、直後に後続する再生Aライン442〜444(これらは、最初の再生Aライン441から横方向にオフセットされている)は、各空間位置452〜454における横波115を測定するためのものである。
【0060】
ここでは再生Aライン毎に4つの受信ラインが組み合わせ可能となっているが、より少ない受信ラインを組み合わせることもできる。実際に組み合わされる数は、ROIの深さ、及びトラッキングパルスによる該ROIの結果的な超音波照射範囲(coverage)に依存する。また、本例は、限定するものではない。このように、アパーチャのずれは、再生Aラインを形成するために一層多くの又は一層少ない受信ラインが組み合わせ可能となる度合までとすることができる。
【0061】
上記組み合わせにより、被写界深度(DOF)、即ち前記送信が良好に焦点合わせされる領域、及び信号対雑音比(SNR)が向上される。再生Aライン441を、該Aラインが再生される受信Aラインの何れに対して比較しても、その空間解像度が有効である距離は、RDTにより付与される一層大きなDOFにより増加されている。
【0062】
可能性として4つの受信ラインに基づくAラインの再生は、最初の4つの再生Aライン441〜444で開始し、新たな各トラッキングパルスで進行する。このように、次のトラッキングパルスは、各空間位置での4つの新たな再生Aラインの形成を可能にする。同様に、フレームの残りに対して、後続の各トラッキングパルスの結果、対応する複数の再生Aラインが形成され、該複数とは、本例では、4つの再生Aラインからなる。
【0063】
従って、横波115は、トラッキングが発するペースの低減無しに、精細にサンプリングされる。
【0064】
受信焦点位置が千鳥状に重なり合うのではなく、互いに隣接するだけであるような比RDT実施例も可能であることも分かる。横波115は、それでも、トラッキングパルスの送出のペースの低減無しに精細にサンプリングされる。トラッキングパルス当たりの平行方向の受信ラインの数は4つ、例えば当該トラッキングビームの一方の側に2つ、他方の側に2つ、とすることができる。
【0065】
図5は、RDTの状況での、トラッキングパルス404により形成された検出ビーム508の焦点504の可能性のある配置を示す。四角形の輪郭により示された関心領域(ROI)512は、横波516が存在する場所である。該検出ビーム508による超音波照射が、収集されるべき受信ラインによりサンプリングされるべき位置に及ぶことを保証するために、焦点504をROI512に対して深く配置することが有利であろう。図5に示される物理的焦点位置は、70mmであり、当該ROI内の所与の点を超音波照射する送信にとり、従ってRDT組み合わせされるべき共通の深さ(common depth)518である。検出ビーム508はROI512の深さ520では広いが、RDT再生検出ビームは、この位置では、狭いであろう、即ち(物理的)焦点504におけるのと同じ幅を有するであろう。実際には、そして例示として、時間的に最初のトラッキングパルス404、及び該時間的に最初のトラッキングパルスのものとRDT組み合わせされるべき送信を形成する少なくとも1つの横方向にオフセットされたトラッキングパルス428〜430の中から、少なくとも幾つかは共通の深さ518に収束される。深さ520への一層浅い送信焦点は、共通の深さ518に収束されたパルス404、428、429、430のものからエコーデータに基づいて再生される。
【0066】
このことは、より大きな送信アパーチャ524の使用を可能にし、これは検出ビーム508で送信することが可能な全パワーを増加させ得る。より多くのパワーは、約10μm程度の小さな波幅の変位132に対して一層大きな感度を提供する。
【0067】
他の例として、検出ビーム508の焦点504は、ROI512に対して浅く配置することもできる。
【0068】
SDUVに対してRDTを適用する場合、追加の配慮事項が存在する。
【0069】
第1に、RDTは、送信イベントの間では当該組織が動かないと仮定している。変位が生じた場合、組み合わされる送信の間のコヒーレンスを低下させ、信号の相殺につながる。したがって、このことはSDUVとは相性が悪いと思われる。何故なら、当該組織は横波により変位されるからである。しかしながら、実際には、変位132は、これがトラッキングパルスの波長(例えば、5MHzにおいて300μm)の小さな部分である程度の小さな大きさのもの(典型的には、<10μm)である。従って、横波の変位132は、送信再生の間におけるコヒーレンスの如何なる大きな喪失も生じさせることはないであろう。
【0070】
第2に、非マルチラインシーケンスによっても、異なる横方向位置x、x、x、xにおけるビームは順次に発射されるので、異なる横方向位置における変位推定は異なる時点t、t…においてサンプリングされる。
【0071】
図1に戻り、説明の簡略化のために例えば非マルチラインシーケンスを仮定すると、サンプリング時点t、tが同時であったなら、トラッキングパルス112からの戻りデータ(即ち、エコー)は、第1波形116上のサンプリング点148に対応する位相142を示唆しているであろう。
【0072】
しかしながら、これら2つの位置120、124に対してトラッキングパルスが順次に発射される場合、サンプリング時点t、tは同時にならない。(同様に、フレーム内で再生Aライン444に後続する再生Aラインは、異なる時点における波115のサンプルであろう。)
【0073】
事実、時点tまでに、横波成分116は、第2トレース144により表された周波数成分を持つ波形のように、前方に伝搬している。
【0074】
第2トレース144上のΦなる対応するサンプリングされた位相152は、第1トレース116上のΦなる位相とは、ΔΦ=Φ−Φだけ相違している。
【0075】
図1から分かるように、ΔΦはωΔtなるサンプル間遅延の位相補正156だけ小さく、ここで"ω"は単色横波116の角周波数を表し、"Δt"は各サンプリング時点において2つのサンプルをとる間の遅延を示す。
【0076】
それでも、ω及びΔtと共に横波周波数成分116の伝搬速度を定めるのは位相140、142の間の差である。
【0077】
該差は、位相差ΔΦに、ωΔtなるサンプル間遅延の位相補正156を加算することにより計算される。
【0078】
単色横波116の速度は、下記の式により与えられる:
【数1】

【0079】
式1の導出は下記の通りである。
【0080】
(ω)=λfであり、ここで、cは伝搬速度であり、λは波長であり、"ω"は単色横波116の角周波数を表し、fは当該波の周波数である。
【0081】
また、ω=2πfであり、Δr=λΔΦ/2πであり、ここで、ΔΦは同時にとられるサンプルの間の所与の時点に対する位相差を表す。
【0082】
全てのパラメータは正であると仮定される。
【0083】
値を代入すると、
【数2】

が得られる。
【0084】
時点t、tにとられる2つの異なる時点のサンプルの間のサンプル間遅延を考慮するために、ωΔtなるサンプル間遅延位相補正156がΔΦに加算され、図1に関連して上述したように、式1に到達する。
【0085】
同じ現象がRDTシーケンスに対しても生じ、異なるように向けられると共に異なる時点で取得されるAライン(例えば、再生Aライン444及び当該フレーム内で後に取得される再生Aライン)に基づいて振幅情報を抽出する場合に、考慮に入れられなければならない。
【0086】
これを式1の適用において考慮するために、RDTが送信を組み合わせて中間送信位置を補間する場合(693公報に開示されているように)、サンプル時点(及びサンプル位置)が送信の間に補間される。言い換えると、パルス発射時点の場合、及び発射に際しての送信位置(例えば、再生において使用される送信のためのサブアパーチャトラッキングライン427に沿うもの)の場合、これらは同一のRDT補間重みにより補間される。このように、式1への代入のためにΔt及びΔrを計算することができる。
【0087】
式1は、横波伝搬の(半径方向の)外側方向へのトラッキング、即ちトラッキングパルスの放出を仮定していることがわかる。トラッキングが逆方向に実行される場合、分母における"+"符号は"−"符号となる。同様の推論により、パス20に伴いトラッキング方向が入れ替わる場合、1対の空間位置120、124に対するΔΦ計算は、隣のパスに基づいてなされた同じ計算と平均化することができ、かくして分母は単にΔΦavgとなる。
【0088】
また、式1は、2つの異なる位置のサンプルは異なる時点で取得されたと仮定している。
【0089】
図2及び3に示された非RDTで非マルチラインの例においては、異なる位置のサンプルは異なる時点で取得される。
【0090】
非RDT、マルチラインの実施例においては、所与の送信の受信ラインは異なる時点ではない。従って、ωΔtなるサンプル間遅延の位相補正156は、所与の送信の受信ラインに基づく(もしあるなら)速度計算に関しては、式1の分母から省略される。しかしながら、それ以外では、式1は、そのまま、使用される。
【0091】
RDTの前後関係では、当該フレームにおける再生Aライン444に後続する再生Aラインは、異なる時点における波115のサンプルであろう。同様に、再生Aライン441〜444は概して異なるサンプル時点を有し、後者は送信発射時点の各補間に基づくものである。これらの各補間は、各々、再生されるべきAラインに沿う目標位置における送信場強度に比例した異なる補間重みを使用する。この場合、典型的には、最初の再生Aライン441は、速度計算の目的で、直後の再生Aライン442より早いサンプリング時刻を有するであろう。したがって、式1は、そのまま、適用可能である。
【0092】
図6は、インターレースされたサンプリング方式600を例示している。該方式は、マルチラインビーム形成器又はRDTには依存しない。従って、簡略化のために、トラッキングパルス222当たり単一の受信ラインのみを形成することが可能な基本的なビーム形成器に関して説明する。x軸604は、第1サンプリング位置xからの、ミリメートルでの、横方向位置である。y軸608は、第1トラッキングパルス222から生じる時間である。大きさが示されていない測定された変位616の運動場612が表されている。サンプリング位置x、x、x、xに対する幾つかのサンプリングパスに関して観察結果が示されている。
【0093】
本発明者は、序数的に適切に離隔されたパターン(例えば、1番目、4番目、7番目、10番目…)に合致するサンプルが伝搬波に、位相的に定位置に又は概ねそのように、"乗る"ようなサンプル方式を形成するのが望ましいであろうと考えた。従って、変位616の各々は略同じであり、これによりサンプリングのアーチファクトを低減する。このような工夫は、厳しいPRF及び他の実施化制約に直面する場合に特に有益である。
【0094】
前述したように、時間的なサンプリングのレートは、横波の最大周波数により制限される。400Hzの横波をサンプリングするには、優に、少なくとも1000Hzの時間的サンプリングレートを必要とする。代わりに、全サンプリングレート(全位置に対する)は、画像化深度により許される最大PRF242により制約される。最大PRF242は、一例に関連して前述したように、10kHzであり得、このことは、多くて10の空間位置をエイリアシング等のサンプリングアーチファクトの出現の危険性無しでサンプリングすることができることを決定づける。
【0095】
要約すると、確かさのためには測定の数を増加させるために多くの横方向位置x、x、x、xをサンプリングすることが望ましい。PRFはサンプリングアーチファクトなしで十分な位置がサンプリングされるのを可能にするために十分に大きくなければならないが、横方向位置の数は、上述したように、最大PRF242により制限される。
【0096】
横波の振幅の減衰(これは、振幅を測定するのを困難にさせる)を回避するために、横方向位置は可能な限り励起点xに近くすることも有益である。もっとも、第1横方向位置xは、近接場効果(near-field effects)により、その励起点への近さが制限される。しかしながら、位置x、xi+1の間の近さは、他の工学的考慮により制約される。
【0097】
或るパスにおけるサンプリングが次のパスにおけるサンプリングと位置的にインターリーブされるようなインターレースされたサンプリング方式600は、測定されるべき運動場が高度に構造化されている、即ち限られた範囲の速度の横波116からなるという事実を、第1位に、利用する。
【0098】
第2に、位置及び時間に各々関係する2つの軸604、608の性質は、サンプリングする連続した位置x、xi+1、xi+2、…が一定のトラッキングパルスの並進(translation)速度を暗示するようなものである。これが、図6において、観測結果の第1行620から分かる。これらは、一定の傾斜のラインを暗示しているから、一定したトラッキングパルス並進速度を暗示している。この前後関係において、該一定のトラッキングパルスの"並進"に関しては、当該ビームが非平行態様でステアリングされた場合、上記"並進"は横方向位置x、xi+1の間で発生すると考えられる。
【0099】
しかしながら、上述した設計判定基準は、単色波速度cの何れよりも高い並進速度を必要とする。
【0100】
けれども、一層遅い一定のトラッキングパルス並進速度は、別のパス220により、2つの連続する位置x、xi+1のサンプリングに精査を限定することにより認識可能である。これが斜めのライン624により例示されており、2つの位置x、xi+1における関心のあるサンプリングが連続するパス220内にあることを特徴とする。
【0101】
一層高い及び一層遅い速度パターンの同様の現象が、非インターレース運動場、即ち各パス220において連続する位置x、xi+1が位置を飛び越すことなしにサンプリングされるような場に対しても存在する。
【0102】
しかしながら、サンプリングをインターレースすることは、より多くの異なる一定したトラッキングパルス並進速度を生成し、これにより目標の横波116の速度との一致(又はライン624から分かるような略一致)を達成する可能性を増加させるツールである。このような技術に対する必要性は、前述した設計制約が与えられた場合に、並進速度を変えるためにパラメータをそれ以外に操作することの困難さ故に生じる。特に、サンプリングをインターレースする結果、同一の数のサンプルも得られる。また、一定に留まるトラッキングパルスのPRF242に悪影響を与えることもない。
【0103】
図6から分かるように、運動場612は、中央の斜めのライン624に平行な観察ラインに区分可能である。
【0104】
結果としてのサンプリングアーチファクトの減少は、より精細な空間サンプリングの如何なる潜在的な副作用も軽減するよう作用し得る。
【0105】
図7は、組織の剪断弾性及び粘度を如何にして決定するかの例としての特定の実施例を示す。横波115の第1成分116(例えば、基本波)が、現成分として選択される(ステップS704)。RDTの前後関係においては、時間的に最初の再生Aライン441〜444、当該フレーム内の後続のもの、及び他のフレームのものからなるエコーRFデータが、例えばマルチラインサンプル収集方式400に従って収集される(ステップS708)。空間位置451〜454…の各々に対して、当該位置における再生Aラインが、各々、対応する再生Aラインと比較され、当該位置における現在の波の成分116の変位132を決定する。相互相関又はドプラ方法等の多数の既知の方法を、該変位132を計算するために使用することができる。
【0106】
同様に、非RDTマルチライン及び非マルチラインの前後関係においては、同位置サンプルが比較される(ステップS712)。
【0107】
ここで提案される方法による一層精細なサンプリング故に、幾つかの実施例では、オプションとして、測定におけるノイズを低減するために、測定値132に対してローパスフィルタ(LPF)が適用される。位置及び時間次元604、608で作用するために、該LPFは二次元フィルタとすることができる。このようなフィルタの一例は、ガウスカーネル等の異方性フィルタであろう:
【数3】

ここで、"r"は位置を表し、"t"は時間を表し、σ及びσは、各々、当該フィルタの空間的及び時間的次元におけるサイズを制御する。
【0108】
運動場612が単一の横波116からなる場合、一定の変位の該運動場上の等高線(contour)は(即ち、インターレース方式600は、軸604、608上の適切なサンプル間間隔により、本質的に一定な変位616の斜めのライン624が結果として生じるように構成されている故に)、右下に傾斜する直線であり、該直線の傾斜又は"勾配"は横波116の速度により決定される。
【0109】
運動場612は変位616の二次元マトリクスにより表すことができ、一方の次元は位置であり、他方は時間である。同様に、前記式1の右辺上の式が、他の二次元マトリクスを形成するように評価され、これら2つのマトリクスは畳み込まれて、測定値616におけるノイズを低減する。
【0110】
他のフィルタはステアリングされるフィルタ(steered filter):
【数4】

であり、ここで、csは当該フィルタの角度(速度を表す)であり、"u"は速度csで前方に伝搬する波の輪郭に整列された方向におけるものであり、"v"は速度csで後方に(即ち、励起点xに向かって)伝搬するように仮定され得る仮想波の輪郭に整列された逆方向におけるものである。サイズ決めパラメータσ、σは、当該フィルタの2つの方向、u及びvにおけるサイズを制御する。典型的には、より多くの平滑化がu方向よりもv方向に適用されるように、σはσより大きいであろう。
【0111】
運動場612が速度csで前方に伝搬する単一の横波116からなる場合、一定のvのラインは、該運動場上の一定の変位の等高線に沿って位置する。式3におけるフィルタカーネルksは、運動場612と位置合わせされる。この前後関係では、当該フィルタの角度は、横波116の推測的な速度により与えられる。オプションとして、該フィルタ角度は、当該横波速度の現推定を用いて反復的に調整することができる。
【0112】
カーネルksを測定値132と畳み込むことは、上記等高線に対して垂直方向よりも平行方向に一層滑らかにする。従って、所与の量のノイズ低減に対して、等方性フィルタよりも運動場612の構造を一層良好に保存する傾向がある(ステップS716)。
【0113】
式1によるように、異なる空間位置x、xにおける横波116の位相の間の差を決定するための代替案は、各々が固有の候補波速度に同調された二次元フィルタのバンクを適用することである。
【0114】
斯かるフィルタバンクが適用されるべき場合(ステップS720)、予測される範囲の波速度をカバーする複数のフィルタが使用される。運動場612は斯かるフィルタの各々と畳み込まれる(順に又は並列に)。最大の出力を持つフィルタが、波速度の最良の推定として採られる。当該処理は反復することができ、上記フィルタを現推定値に対して一層密に離隔された波速度の選択に同調させることにより当該推定値を一層正確にする。
【0115】
一例として、運動場は:
【数5】

の形で表され、ここで、"r"は横方向位置であり、"t"は取得時間であり、"n"及び"m"はサンプル指標であり、Δrは横方向サンプリング間隔であり、Δtは同一横方向位置における変位サンプルの間の時間である。
【0116】
この例における運動場は、説明の簡略化のために、"t"の初期値が("r"のように)暗黙的に初期的に零であるような規則的な、均一に離隔された格子を特徴とする。この場合、これは、インターレースされたサンプリング方式600というより、非インターレースパターンでのサンプリングに対応する。しかしながら、この例は、上述した式4並びに下記の式5及び式6を適切に修正することにより、インターレースされたサンプリング方式に適応させることもできる。
【0117】
本例でもって続けると、csiなる波速度に対応するフィルタは同相カーネル:
【数6】

及び直交カーネル:
【数7】

を有する。ここで、λは横波116の波長である。該フィルタの出力は:
【数8】

により与えられる。
【0118】
第1フィルタのカーネルを導出するために、csiの先験的推測値が式5及び式6に使用される。次いで、これらカーネルは式7に適用され、第1出力を生じる。当該バンクにおける他のフィルタは、式5及び式6におけるcsiの値を変化させ、式7においてy(csi)を再計算することにより発生される。横波116の速度は、y(csi)が最大値を有するようなcsiの値により与えられる。
【0119】
カーネルをウインドウ処理することにより、改善された結果を得ることができる。このことは、上記カーネル及びサンプリングされたデータの有限の広がりの結果としての切り捨てにより生じるバイアスを軽減する(ステップS724)。
【0120】
再びステップS720を参照すると、フィルタバンクの代わりに、位相差に基づく波速度計算がなされるべき場合、該計算に対する入力パラメータが導出される。即ち、変位132に対して位相Φが決定される。これは、ナイキスト再生により所与の空間位置451、452、453、454、…において観察される変位132に基づいて実行することができ、異なる空間位置の各々に対して実行される。式1に代入されるべき位相差ΔΦを推定するために、位相差ΔΦ=Φ−Φが対毎に計算される。これらの位相差計算は、例えば時間的に最初の再生Aライン444及び当該フレームにおける何れかの後続のものの場合におけるように、異なる時点で取得される各サンプルに対して実行される。異なる時点のサンプルに対して計算された位相差ΔΦは、ωΔtなるサンプル間遅延位相補正156を用いて、各々、補正される。選択される上記対の少なくとも幾つかは、当該計算の精度を改善するために、空間的に相対的に遠く離れたものとすることができる。最小二乗分析を、上記位相差(場合より、補正されたもの又は補正されていないもの)及びΔrなる斯かる位相差の対応する位置間距離128に対して使用することができる。次いで、式1(場合により、補正156を伴い又は伴わない)が適用され、現波成分116の速度を推定する(ステップS728)。
【0121】
いずれの経路(即ち、ステップS724又はS728を介しての)によっても、現波成分が速度決定を受けるべき最後のものでない場合(ステップS732)、次の成分が現成分とされる(ステップS736)。
【0122】
例えばトラッキングパルスPRF242が最も高い高調波に対して十分であったので、前の成分に対して波速度の決定に使用されたのと同一のRFデータを現成分に対して使用することができる場合(ステップS740)、処理はステップS712に戻る。それ以外で、現成分に対して更なる収集がなされなければならない場合、処理は、代わりに、ステップS708に戻る。
【0123】
ステップS732において、現波成分が、代わりに、速度決定を受けるべき最後のものである場合、従来良く知られたフォークトモデル(Voigt model)を適用して、剪断弾性及び粘度を決定する(ステップS744)。
【0124】
横波分散超音波振動測定法(SDUV)は、幾つかの実施例では、単一のトラッキングパルスから、単色横波の測定を行うための平行方向受信ラインを形成するように実施される。幾つかの実施例において、サンプリングは、複数の位置にわたるパスにより空間的位置に対し、当該波の測定を行うためのインターレースされたパターンで実行される。幾つかの実施例では、全て異なる空間位置における波の位相の間の差を決定する必要性無しに、当該波に関して測定がなされ、各測定値に対して、対応する候補波速度に同調されたフィルタのバンクが適用される。
【0125】
発射される各トラッキングパルスから一層多くの情報を抽出することにより、ここに提案した方法及び装置は、横波変位場の一層完全なサンプリングを提供する。従って、これは、当該媒体の横波速度及び弾性特性の一層確かな推定を可能にする。
【0126】
ここで提案された方法は、ソフトウェアで、又は1以上の集積回路として実現することが可能なデバイスを含む製造物品において実施することができる。
【0127】
RDTを使用する実施例は、例えば16x又は32xのマルチラインビーム形成器等の単一のビーム形成器として形成することができ、ハードウェアはバッファリング及び重なり合う受信ラインの組み合わせのためにのみに追加される。
【0128】
以上、上述した実施例は本発明を限定するというよりは解説するものであり、当業者であれば添付請求項の範囲から逸脱することなしに多くの代替実施例を設計することができることに注意されたい。例えば、ここに開示された方法は、種々の走査幾何学構造(直線状、フェーズド又は湾曲された)の如何なるものにおいても実施化することができる。また、請求項において、括弧内に配置された参照符号は当該請求項を限定するものと見なしてはならない。また、"有する"なる動詞及びその活用形の使用は、請求項に記載されたもの以外の構成要素又はステップの存在を排除するものではない。また、単数形の構成要素は、複数の斯様な構成要素の存在を排除するものではない。また、本発明は幾つかの個別エレメントを有するハードウェアにより、及びコンピュータ読取可能な媒体を有する適切にプログラムされたコンピュータにより実施化することができる。また、特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを有利に使用することができないということを示すものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する方法であって、
単一のトラッキングパルスから、単色横波の測定を行うための複数の平行方向受信ラインを形成するステップ、
を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
少なくとも1つの他のトラッキングパルスから、被写界深度を増加させるために、結果としての受信ラインの幾つかを重ね合わせるように前記形成するステップを実行するステップ、
を更に有する方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記増加が、少なくとも1つの再生Aラインを形成するために前記重ね合わされた受信ラインから組み合わせるステップを伴う方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記少なくとも1つの他のトラッキングパルスのうちの異なる時点のトラッキングパルスから、前記組み合わせるステップにより形成された対応する複数の再生Aラインを形成するステップを更に有する方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記測定を行うステップが、前記単色横波の振幅測定を行うステップを有する方法。
【請求項6】
横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する装置であって、単一のトラッキングパルスから、単色横波の測定を行うための複数の平行方向受信ラインを形成する装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置であって、前記トラッキングパルス及び少なくとも1つの横方向にオフセットされたトラッキングパルスが共通の深さに収束され、当該装置が、前記深さに収束されたパルスからのエコーデータに基づいて、より浅い送信焦点を再構築する装置。
【請求項8】
請求項6に記載の装置であって、少なくとも1つの他のトラッキングパルスに対して受信ラインを重ね合わせるように形成し、更に、パルス発射時点を、位相差の決定に際して、サンプル間波伝搬を補正するように補間する装置。
【請求項9】
請求項6に記載の装置であって、1以上の集積回路として実施化された装置。
【請求項10】
横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行するためのコンピュータソフトウェアであって、前記ソフトウェアは、複数の動作を行うためにプロセッサにより実行可能な命令を含むコンピュータプログラムを具現化するコンピュータ読取可能な媒体を有し、前記複数の動作が、
単一のトラッキングパルスから、単色横波の測定を行うための複数の平行方向受信ラインを形成する動作、
を有するコンピュータソフトウェア。
【請求項11】
横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する方法であって、
複数の位置にわたる複数のパスにより、単色横波の測定を行うためにインターレースされたパターンでサンプリングするステップ、
を有する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記複数のパスのうちの1つにおいてサンプリングされた位置が、前記複数のパスのうちの次の1つにおいてサンプリングされた位置とインターリーブする方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法であって、基準Aラインに対し前記複数のパスのうちの複数のものにわたり前記複数の位置のうちの所与の1つにおける前記サンプリングの結果を比較して、前記複数の位置のうちの前記1つにおける前記単色横波の変位を決定するステップを更に有する方法。
【請求項14】
横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する装置であって、複数の位置にわたる複数のパスにより、単色横波の測定を行うためにインターレースされたパターンで前記複数の位置にわたりサンプリングする装置。
【請求項15】
請求項14に記載の装置であって、1以上の集積回路として実施化された装置。
【請求項16】
横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する方法であって、
単色横波の測定を行うステップと、
前記測定の値に対して、全て異なる空間位置における前記波の位相の間の差を決定する必要性無しに、前記波の対応する候補速度に同調されたフィルタのバンクを適用するステップと、
を有する方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記適用するステップの準備としてノイズを低減するために前記測定の値に対してローパスフィルタを用いるステップを更に有する方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、前記フィルタが二次元のものであり、一方の次元が空間位置であり、他方の次元が時間である方法。
【請求項19】
横波分散超音波振動測定(SDUV)を実行する装置であって、単色横波の測定を行うと共に、前記測定の値に対して、全て異なる空間位置における前記波の位相の間の差を決定する必要性無しに、前記波の対応する候補速度に同調されたフィルタのバンクを適用する装置。
【請求項20】
請求項19に記載の装置であって、1以上の集積回路として実施化された装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−533329(P2012−533329A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520129(P2012−520129)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052863
【国際公開番号】WO2011/007278
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】