説明

突出部を有する鋳造製品

【課題】 突出部に湯が回りやすくして鋳巣の発生を防止するとともに突出部の強度を向上した突出部を有する鋳造製品を提供する。
【解決手段】 本体部から突出する突出部が一体に鋳造成型された鋳造製品において、突出部の壁面と本体部とが複数個のリブにより連結されて一体成型されている。これにより、本体部から複数個のリブを通って突出部先端まで湯が回りやすくなり、突出部の先端に鋳巣が発生することを防止できる。さらに、突出部は複数個のリブで補強されて強度アップする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機のケース等のような突出部を有する鋳造製品に係わり、詳しくは、突出部への湯流れを向上した鋳造製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図6に示すように、アルミニウムの鋳造製品である自動変速機のケース30には、マニュアルシャフトの先端を支持するための突出部31が円筒状の本体部32から突出され、この突出部31の背面中央部と本体部32とが1個のリブ33により連結されて一体に鋳造成型されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように突出部31の背面中央部に1個のリブ33を設けた鋳造製品では、これをダイカスト鋳造するとき、1個のリブ33では突出部31先端への湯道として十分でなく、鋳巣の発生要因となる。また、形状が複雑で肉厚が薄い変速機のケース30では、湯の回りが不十分な箇所、特に突出部31については湯流れをよくすることが鋳巣の発生を防止するために必要である。
【0004】
本発明は、突出部に湯が回りやすくして鋳巣の発生を防止するとともに突出部の強度を向上した突出部を有する鋳造製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明の構成上の特徴は、本体部から突出する突出部が一体成型された鋳造製品において、前記突出部の壁面と前記本体部とが複数個のリブにより連結されて一体に鋳造成型されていることである。
【0006】
請求項2に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記複数個のリブが、前記突出部の両側縁部と前記本体部とを連結して一体に鋳造成型された両側の側方リブであることである。
【0007】
請求項3に記載の発明の構成上の特徴は、請求項2において、前記両側の側方リブは、前記突出部から離れるに従って離間するように、前記突出部に対して互いに反対方向に傾斜していることである。
【0008】
請求項4に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記鋳造製品が、アルミニウムまたはマグネシウムのダイカスト鋳造製品であることである。
【0009】
請求項5に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1乃至4のいずれか1項において、前記鋳造製品が、変速機のケースであることである。
【0010】
請求項6に記載の発明の構成上の特徴は、請求項5において、前記本体部は、前記変速機の変速機構を内包するように前記変速機のケースの一部とされていることである。
【0011】
請求項7に記載の発明の構成上の特徴は、請求項5又は請求項6において、前記突出部が、自動変速機のケースより突出したマニュアルシャフトの支持部であることである。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、鋳造製品の突出部の壁面と本体部とが複数個のリブにより連結されて一体に鋳造成型されているので、本体部から複数個のリブを通って突出部先端まで湯が回りやすくなり、突出部の先端に鋳巣が発生することを確実に防止することができる。さらに、突出部を複数個のリブで補強して強度アップすることができる。
【0013】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、突出部の両側縁部と本体部とが両側の側方リブにより連結されて一体に鋳造成型されているので、湯が両側の側方リブを通って突出部の先端まで湯流れよく供給され、突出部の先端に鋳巣が発生することを確実に防止することができる。
【0014】
上記のように構成した請求項3に係る発明によれば、両側の側方リブのうち、一方の側方リブより溶湯が流入され、他方の側方リブより溶湯が流出されることにより、溶湯の流路が形成され、スムーズな溶湯の流れが形成可能となる。
【0015】
上記のように構成した請求項4に係る発明によれば、形状が複雑で肉厚が薄いアルミニウムまたはマグネシウムのダイカスト鋳造製品において、本体部から突出する突出部を先端に鋳巣を発生することなく一体に鋳造成型することができる。
【0016】
上記のように構成した請求項5に係る発明によれば、形状が複雑で肉厚が薄い鋳造製品である変速機のケースにおいて、本体部から突出する突出部を先端に鋳巣を発生することなく一体に鋳造成型することができる。
【0017】
上記のように構成した請求項6に係る発明によれば、自動変速機のケースの肉厚が薄くて面積が広い本体部において、該本体部から突出する突出部を先端に鋳巣を発生することなく一体に鋳造成型することができる。
【0018】
上記のように構成した請求項7に係る発明によれば、形状が複雑で肉厚が薄い鋳造製品である自動変速機のケースにおいて、本体部から突出するマニュアルシャフトの支持部を先端に鋳巣を発生することなく一体に鋳造成型することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明に係る突出部を有する鋳造製品の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1において、10は、自動変速機のケースで、アルミニウム合金をダイカスト鋳造して成型されている。自動変速機は、トルクコンバータと多段変速機構を1軸上に直列的に配置して構成されている。ケース10内には、複数のプラネタリギヤ、クラッチ、ブレーキ等が内蔵され、クラッチおよびブレーキの係脱により、複数のプラネタリギヤの動力伝達経路が変更されて、入力部材の回転が複数の変速段に変速されて出力部材に伝達される。ケース10は、マグネシウム合金など他の金属で鋳造成型してもよい。
【0020】
図2乃至図4に示すように、ケース10は、変速機の変速機構である複数のプラネタリギヤ、クラッチ、ブレーキ等を内包する円筒状の本体部11と、制御機器であるバルブボディを収納するとともに潤滑油を貯溜する下室部12とを一体にして鋳造成型されている。そして、ケース10の一側方には、下室部12の側壁12aと対向する舌状の突出部13が本体部11から下室部12内に突出して一体に鋳造成型されている。突出部13の先端部には加工穴16が設けられている。
【0021】
突出部13の両側縁部と本体部11とは、側方リブ15a,15bにより夫々連結されて一体に鋳造成型されている。側方リブ15a,15bは略3角形状をなし、各側方リブ15a,15bは、一辺で突出部13先端の加工穴16の各側方部から壁面に沿って突出部13と一体に結合し、他辺で本体部11と一体に結合している。側方リブ15a,15bは、突出部13から離れるに従って離間するように、突出部13に対して互いに反対方向に傾斜している。側方リブ15aと側方リブ15bとの間に配設された略3角形状の中央リブ15cは、一辺で加工穴16の手前から壁面に沿って突出部13と一体に結合し、他辺で本体部11と一体に結合している。
【0022】
突出部13の加工穴16は機械加工されてマニュアルシャフトを支持する加工穴16となり、この加工穴16と下室部12の側壁に穿設された貫通穴17とにマニュアルシャフト18が回動可能に嵌合して軸承されている。マニュアルシャフト18は、リンク機構でセレクトレバーに連結され、セレクトレバーがパーキングP,リバースR,ニュートラルN,ドライブDにシフトされるのに応じて回動され、回動に応じてレバーおよびロッドを介して図不示のバルブボディ内のマニュアルバルブを切り替え、或いはパーキングポールをパーキングギヤと係脱させるようになっている。突出部13と下室部12の側壁12aとの間には、円筒状の本体部11の内部と下室部12とを連通する開口19が設けられている。マニュアルシャフト18は図不示のディテントレバーを介してパーキングポールをパーキングギヤと係脱させるパーキングロッドと連結されている。
【0023】
ケース10は、ケース10の肉厚部と対応する空洞が形成された金型に溶融されたアルミニウム合金が所定圧力で噴入され、冷却後に型開きして鋳造製品であるケース10を取り出して成型される。ケース10は図1,3に示すように、突出部13が水平方向に延在し、中央リブ15cが突出部13から上方に垂直に延在することとなる姿勢で鋳造されるので、突出部13の下方に開口19が位置することとなり、面積が広い薄肉円筒状の本体部11から突出部13への湯流れはよくない。しかしながら、溶湯は本体部11から突出部13に直接流入するだけでなく、本体部11から側方リブ15a,15bを通って突出部13の側縁部および先端部の加工穴16に対応する部分の各側方部から加工穴16に対応する部分より先端に流入若しくは流出が可能となる。例えば、側方リブ15aより溶湯が流入され、側方リブ15bより溶湯が流出されることにより、溶湯の流路が形成される。さらに、中央リブ15cを通って突出部13の中央部にも溶湯が流入若しくは流出する。このように、突出部13に対して側方リブ15a,15bおよび中央リブ15cにより溶湯の流路が形成されるので、スムーズな溶湯の流れが形成可能となる。よって、突出部13の先端に鋳巣が発生することを防止することができるとともに、突出部13は複数個のリブで補強されることとなり、突出部13の強度を向上させることができる。
【0024】
図5は、図1の5−5線に沿って切断した部分拡大断面図で、下室部12に貯溜された潤滑油の油面レベルを検出する油面センサを取付けるため油面センサ座部20を断面にして示している。油面センサ座部20は下室部12の側壁の一部が途中で下室部12の下面と平行に外方に突出して形成されている。油面センサ座部20には、下室部12内から鋳抜き穴21が下室部12の側壁12aと略平行に設けられている。この鋳抜き穴21および油面センサ座部20の上面が機械加工され、油面センサの先端部が下室部12内に挿入された状態で油面センサが油面センサ座部20に取付けられる。
【0025】
従来は、図7に示すように油面センサ座部25を下室部12の下面に対して傾斜させていたので、油面センサ座部25の外側面25aの上部が外方に張り出していた。さらに、鋳抜き穴26の外側壁面26aは、型が抜けるように上方に向かって下室部12の側壁12aから離れる方向に傾斜しているので、油面センサ座部25の外側面25aと鋳抜き穴26の外側壁面26aとの間の肉厚27が上方で厚くなり、鋳巣が発生する要因となっていた。
【0026】
これに対し、本実施の形態では、上述のように油面センサ座部20は、下面と平行に形成されているので、油面センサ座部20の外側面20aが、下室部12の側壁12aと略平行になる。これにより、鋳抜き穴21の外側壁面21aと油面センサ座部20の外側面20aとの間の肉厚22が均一となり、鋳巣の発生を防止して鋳造性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る突起部を有する鋳造製品である自動変速機のケースを示す図。
【図2】図1の2−2線に沿って切断した拡大断面図にマニュアルシャフトを追加した図。
【図3】図1の突出部の近傍部分を拡大した図。
【図4】図3の4−4線に沿って切断した部分断面図。
【図5】図1の5−5線に沿って切断した部分拡大断面図。
【図6】従来の自動変速機におけるケースの突出部の近傍部分を示す図。
【図7】従来の自動変速機におけるケースの湯面センサ座面部分を示す図。
【符号の説明】
【0028】
10…ケース、11…本体部、12…下室部、13…突出部、14,21,26…鋳抜き穴、15a,15b…側方リブ、15c…中央リブ、18…マニュアルシャフト、19…開口、20,25…油面センサ座面部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部から突出する突出部が一体成型された鋳造製品において、前記突出部の壁面と前記本体部とが複数個のリブにより連結されて一体に鋳造成型されていることを特徴とする突出部を有する鋳造製品。
【請求項2】
請求項1において、前記複数個のリブが、前記突出部の両側縁部と前記本体部とを連結して一体に鋳造成型された両側の側方リブであることを特徴とする突出部を有する鋳造製品。
【請求項3】
請求項2において、前記両側の側方リブは、前記突出部から離れるに従って離間するように、前記突出部に対して互いに反対方向に傾斜していることを特徴とする突出部を有する鋳造製品。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、前記鋳造製品が、アルミニウムまたはマグネシウムのダイカスト鋳造製品であることを特徴とする突出部を有する鋳造製品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、前記鋳造製品が、変速機のケースであることを特徴とする突出部を有する鋳造製品。
【請求項6】
請求項5において、前記本体部は、前記変速機の変速機構を内包するように前記変速機のケースの一部とされていることを特徴とする突出部を有する鋳造品。
【請求項7】
請求項5又は請求項6において、前記突出部が、自動変速機のケースより突出したマニュアルシャフトの支持部であることを特徴とする突出部を有する鋳造製品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−130643(P2007−130643A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323685(P2005−323685)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】