説明

窒化アルミニウム焼結体

【課題】本発明は、焼成後、未研磨の状態において平滑な表面を有し、光線透過特性が高い窒化アルミニウム焼結体を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明に係る窒化アルミニウム焼結体は、酸素濃度が450ppm以下、酸素、窒素、アルミニウム以外の不純物元素濃度が350ppm以下であり、平均結晶粒径が2μm〜20μmであり、更に、焼成後、未研磨の状態において、表面の算術平均高さRaが1μm以下であり、最大高さRzが10μm以下であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な窒化アルミニウム焼結体に関する。詳しくは、特に、焼成後、未研磨の状態において、平滑な表面を有することにより、光線透過特性が高い焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高圧放電ランプの発光管の材料として、耐熱温度が1100℃以上と高く、比較的安価に製造できるために、石英に替わって透光性アルミナが用いられている。
しかしながら、アルミナからなる発光管を用いた高圧放電ランプは、寿命が約9000時間と短い。これは、主に、アルミナの低い耐熱衝撃性に起因する。また、メタルハライドランプにおいては、アルミナのメタルハライドガスに対する耐食性が低いために、ランプの寿命が更に短くなる。
【0003】
そこで、高い透光性を有する窒化アルミニウムを用いた発光管が提案されている(特許文献1、2等)。窒化アルミニウムは、アルミナよりも、耐熱衝撃性および耐食性に優れており、ランプの長寿命化が図られる。
【0004】
上記のようなセラミックス製発光管は、アルミナや窒化アルミニウム粉末をバインダー樹脂と混合し、所定形状に成形した後、これを焼成することで得られる。発光管材料として用いる場合には、耐熱衝撃性、耐食性に加え、特に光線透過特性に優れていることが求められる。
【0005】
窒化アルミニウム焼結体の光線透過特性を向上するため、たとえば特許文献1においては、原料粉末の粒径、金属不純物含量、酸素含量を特定した原料を用いて1700〜2100℃の不活性雰囲気で焼成した場合に0.2μm〜30μmの波長範囲で75%の透過率を示すAlN焼結体が得られることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2においては、0.3D〜1.8D(D:平均粒子径)の径を有する粒子が70%以上である粒度分布を有する原料窒化アルミニウム粉末を使用して製造される窒化アルミニウム焼結体よりなる透光性カバー(中空管)を備えた発光管が開示されている。そして、当該公報実施例には、全光線透過率84%の窒化アルミニウム焼結体が示されている。
【0007】
また、特許文献3には、酸素濃度が400ppm以下、金属不純物濃度が150ppm以下、且つ炭素濃度が200ppm以下に抑制されているとともに、2μm〜20μmの平均結晶粒径を有していることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体が開示されている。この焼結体は、260〜300nmの波長領域における分光スペクトル曲線の傾きが1.0(%/nm)以上、400〜800nmの波長領域における光透過率が86%以上であり、分光スペクトルにおける光透過率が60%に到達するときの波長が400nm以下である。
【特許文献1】特開平2−26871号公報
【特許文献2】特開昭60−193254号公報
【特許文献3】特開2005−119953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、窒化アルミニウム焼結体の光学的特性の改善については、さまざまな提案がなされている。
ところで、窒化アルミニウム等のセラミック材料は、研磨によりその光学的特性が改善されることが知られている。一般に、表面粗さが小さくなるほど、焼結体の光学的特性(光透過率)は向上すると言われており、焼結体表面を鏡面研磨することにより光透過性の向上が期待される。
【0009】
しかしながら、発光管のような複雑な表面形状(立体面)を有する物品においては、その表面研磨、特に、鏡面研磨は容易ではない。また、前記のように、純度を高めることによって透光性を改良した窒化アルミニウム焼結体は知られているが、その表面は十分平滑とは言えず、未だ改善の余地が残されていた。
【0010】
このため、焼成後、未研磨の状態において平滑な表面を有し、光線透過特性が高い窒化アルミニウム焼結体が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明が提供する上記課題を解決するための手段は以下のとおりである。
(1)表面の算術平均高さRaが1μm以下であり、最大高さRzが10μm以下である窒化アルミニウム焼結体。
(2)酸素濃度が450ppm以下、酸素、窒素、アルミニウム以外の不純物元素濃度が350ppm以下であり、かつ平均結晶粒径が2μm〜20μmである(1)に記載の窒化アルミニウム焼結体。
(3)焼成後、研磨前の状態にある(1)に記載の窒化アルミニウム焼結体。
(4)上記(1)〜(3)の何れかに記載の窒化アルミニウム焼結体からなる発光管。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焼成後、未研磨の状態において平滑な表面を有し、光線透過特性が高く、特に、発光効率の高い光源の発光管材料として好適に使用することができる窒化アルミニウム焼結体が提供される。このような窒化アルミニウム焼結体では、別途研磨工程を行なわなくても、発光管材料として使用できる。このため、複雑な形状で研磨の困難な発光管の製造においては、本発明の窒化アルミニウム焼結体が特に好ましく使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、最良の形態を含めて、さらに具体的に説明する。
本発明に係る窒化アルミニウム焼結体は、未研磨の状態において、その表面の算術平均高さRaが1μm以下、好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.7μm以下、特に好ましくは0.5μm以下であり、最大高さRzが10μm以下、好ましくは8μm以下、さらに好ましくは6μm以下、特に好ましくは5μm以下である。
【0014】
ここで、算術平均高さRaおよび最大高さRzは、いずれもJIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)に基づいて測定される値であり、測定条件の詳細は後述する。
【0015】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、上記のように、未研磨の状態において、その表面が滑らかであり、また、後述するように、不純物濃度(アルミニウム及び窒素以外の成分濃度)が著しく低い範囲に抑制されていることにより、優れた光透過性を示し、たとえばチューブ形状での全透過率は、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上にも達する。
【0016】
尚、全透過率の具体的評価方法は、実施例において詳述する。
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、不純物濃度(アルミニウム及び窒素以外の成分濃度)が著しく低い範囲に抑制されている。具体的には、酸素濃度が好ましくは450pp
m以下、特に好ましくは300ppm以下、またその他の不純物濃度が好ましくは350ppm以下、特に好ましくは200ppm以下に抑制されている。
【0017】
尚、その他の不純物濃度とは、酸素、窒素、アルミニウム以外の元素濃度を意味し、焼結助剤に由来する金属とその他の金属(例えば原料粉末中の不可避的不純物に由来する金属)、炭素等との合計濃度を意味する。
【0018】
さらに、窒化アルミニウム焼結体は、炭素濃度が200ppm以下に抑制されていることが好ましい。
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、後述するように特定の焼結助剤を特定量用い、特定の加熱条件下で焼成することで得られ、これにより不純物濃度が、従来公知の窒化アルミニウム焼結体に比して著しく低減されており、しかも、焼結後未研磨の状態における平滑性に優れるものであり、この結果として、後述する実施例にも示されているように、優れた光学特性を示す。例えば、不純物濃度が上記範囲内に抑制されており、表面の平滑性が制御された本発明の窒化アルミニウム焼結体は、可視光領域における光全透過率が80%以上であり高い光透過率を示す。
【0019】
従来、公知の窒化アルミニウム焼結体では、不純物含量の増大による透光性の低下を回避するため、焼結助剤を使用せずに焼成を行うことにより製造されているが、この場合、不純物である酸素を十分除去することができず、また、仮に焼結助剤を用いても、焼成条件によって焼結助剤の一部が残留することが多く、これを十分除去しようとした場合、焼結体の表面が荒れ、未研磨の状態で平滑な表面を得ることができなかった。このように、従来の技術においては、不純物濃度を上記範囲内に抑制したり、表面平滑性を制御したりすることができなかったため、上記のような光学特性を得ることは困難であった。
【0020】
また、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、平均結晶粒径が2〜20μm、特に、5〜15μmの範囲にあることも重要である。即ち、平均結晶粒径が2μm未満の場合、窒化アルミニウム焼結体の透光性が低下してしまい、平均結晶粒径が20μmを超えた場合は、窒化アルミニウム焼結体の強度低下が著しく、例えば、透光性カバーの用途において、実用上の強度が不足する。本発明の焼結体は、窒化アルミニウムの平均結晶粒径が上記範囲内にあるため、前述した優れた光学特性を有すると同時に、高強度であり、例えば300MPa以上の抗折強度を示す。
【0021】
このような窒化アルミニウム焼結体は、前述したように、優れた光透過性を有し、発光管材料として好ましく使用できる。
また、本発明に係る窒化アルミニウム焼結体は、その熱伝導率が好ましくは170W/mK以上、さらに好ましくは190W/mK以上、特に好ましくは200W/mK以上であり、窒化アルミニウム焼結体が本来有する高熱伝導性をも兼ね備える。
【0022】
上記特性を有する窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウムが元来有する高い熱伝導性や高い化学的耐食性に加え、上記のような高い表面平滑性に裏付けられた、優れた光学特性を有しているため、発光管材料として好ましく使用できる。
【0023】
また、紫外線透過窓のような透光性カバーの用途に適用した場合においては、前記光学的特性により、高い紫外線透過率を実現できる。
尚、本発明の窒化アルミニウム焼結体における上記諸特性、特に算術平均高さRa、最大高さRzおよび光透過性は、焼成後、研磨前の状態、すなわち焼成直後(as fired)における物性を示す。
【0024】
一般に、セラミック材料の研磨により、表面の算術平均高さRaは低くなる。特に鏡面
研磨によってRaの値を著しく低くすることができる。そして、セラミック材料の光学的特性は、算術平均高さRaと関連していることが多く、算術平均高さRaが小さくなるほどセラミック材料の光学的特性は向上する。したがって、光学用セラミックにおいては、多くの場合、研磨されている。
【0025】
一方、砥石による通常の研磨においては、被研磨体である焼結体からの脱粒が起こり、表面の最大高さRzは、研磨前よりむしろ悪化(増加)する。脱粒とは、セラミック材料を構成する結晶粒が、研磨時の衝撃により脱落する現象であり、脱落した粒子の大きさに相当する空隙が表面に形成される。このため、表面の最大高さRzは研磨前よりも大きくなる。
【0026】
これに対し、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、焼成後、未研磨の状態でRa、Rzが共に低いという、優れた表面平滑性を有する。したがって、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、研磨、特に、鏡面研磨が困難な、湾曲面、屈曲面等の立体面を有する焼結体に優れた透光性を付与するために極めて効果的である。
【0027】
勿論、本発明の焼結体は、その形状や、用途、要求物性に応じて、研磨を行なうことは当然に許容される。
次に本発明に係る窒化アルミニウム焼結体の製造方法について具体例をあげて説明するが、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、上記物性を有する限り、その製造方法は特に限定はされない。
【0028】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウム粉末と特定量のカルシウムアルミネート系焼結助剤との混合物を所定形状(たとえば、発光管形状;具体的には、後述の筒状、球状、これらの組合せ等の形状)に成形し、成形体を還元雰囲気下で特定の温度条件において焼成することで得られる。
【0029】
原料として用いる窒化アルミニウム粉末としては、焼結によって、2〜20μmの結晶粒径が達成可能な粒子径を有するものが好ましく使用される。一般には、焼成に際しての粒成長を考慮して、前記結晶粒径より若干小さい平均粒子径を有するものが好適に使用され、例えば、平均粒子径が0.5〜15μm、0.5〜10μmのものが好適である。
【0030】
また、焼結体中の不純物濃度を低濃度の範囲に抑制するため、窒化アルミニウム粉末は、純度97重量%以上、望ましくは99重量%以上の高純度のものが好ましく、最も好適には、金属不純物濃度(Al以外の金属の濃度)が50ppm以下であり、且つ酸素濃度が1重量%以下、特に0.8重量%以下に低減されている高純度の窒化アルミニウムが使用される。
【0031】
さらに、焼結体中の酸素濃度を低減させるため、不純物成分として炭素を含有する窒化アルミニウム粉末を用いることもできる。即ち、炭素の存在下で焼成を行うことにより、不純物として含まれている酸素が炭素と反応し、炭酸ガスとして取り除かれるからである。但し、このような炭素が原料粉末中に多く含まれると、焼結体中に不純物として残存してしまい透光性を損なうおそれがあるため、窒化アルミニウム粉末中の炭素濃度は、1500ppm以下とするのがよい。
【0032】
焼結助剤としては、前述したように、Ca3Al26(3CaO・Al23)、CaA
24(CaO・Al23)等のカルシウムアルミネートが用いられる。特にCa3Al26を用いることで、原料窒化アルミニウム粉末に含まれる不純物酸素を効率良く除去で
きる。さらに、焼結助剤としてCa3Al26を用い、後述する特定の温度条件下で焼成
を行なうことで、焼結終了後に助剤が揮散され、各不純物濃度をさらに低減する上で好適
であり、これにより、焼結体の光学特性をさらに向上させることができる。
【0033】
上述した焼結助剤の使用量は、一般に、窒化アルミニウム粉末100重量部当り、1〜15重量部、特に1〜10重量部の範囲にあることが、各不純物濃度を前述した範囲に抑制し、透光性等の光学的特性に優れた窒化アルミニウム焼結体を得るために好ましい。
【0034】
窒化アルミニウム粉末と焼結助剤粉末との混合は、公知の方法によって行なうことができる。例えば、ボールミル等の混合機によって、乾式または湿式により混合する方法が好適に採用できる。また、湿式混合では、アルコール類、炭化水素類等の分散媒を使用するが、分散性の点でアルコール類、炭化水素類を用いることが好ましい。
【0035】
尚、この混合にあたっては、焼結助剤の水分吸着或いは凝集を生じないように、ドライエア中で保存され、必要により真空乾燥された焼結助剤の粉末を直ちに窒化アルミニウム粉末と混合するのがよい。
【0036】
焼成に先立っては、上記混合粉末を、用途に応じて所定形状に成形するが、このような成形は、それ自体公知の手段で行うことができるが、強度の高い成形体を成形し、歩留まりを高めるためには、有機バインダーを用いて成形してもよい。
【0037】
例えば、上記混合粉末を有機バインダーと、必要により分散剤、可塑剤、溶媒などと混合して成形用スラリー乃至ペーストを調製し、この成形用スラリー乃至ペーストを、ドクターブレード法、押出成形法、射出成形法、鋳込み成形法などの成形手段によって成形体を作製することができる。有機バインダーとしては、ポリビニルブチラール等のブチラール樹脂、ポリメタクリルブチル等のアクリル樹脂等を例示することができ、このような有機バインダーは、窒化アルミニウム粉末100重量部当り、0.1〜30重量部、特に1〜15重量部の量で使用することができる。また、分散剤としては、グリセリン化合物類などを例示することができ、可塑剤としては、フタル酸エステル類などを挙げることができ、溶媒には、イソプロピルアルコールや炭化水素類などが使用される。
【0038】
また、有機バインダーを用いずに、圧縮成形法により成形を行うこともできる。例えば、窒化アルミニウム粉末と焼結助剤粉末との混合粉末を、一軸成形機にて、仮成形体を製造し、これを、CIP(冷間アイソスタテックプレス)成形機にて1〜4t/cm2で加
圧成形することにより、成形体を作製することができる。
【0039】
得られた成形体は、脱脂(脱バインダー)した後、焼成に付される。
脱脂は、空気中、窒素中、水素中等の任意の雰囲気で加熱することにより行うことができるが、残留炭素量の調整がし易い、窒素中で脱脂を行うことが好ましい。また、脱脂温度は、有機バインダーの種類によっても異なるが、一般には、300〜900℃、特に300〜700℃が好適である。尚、圧縮成形法のように、有機バインダーを用いずに成形を行った場合には、上記の脱脂工程は不要である。
【0040】
焼結助剤の除去を有効に行い、焼結体中の金属不純物濃度や酸素濃度を低減するために、焼成は、還元雰囲気下で行われる。
上記還元性雰囲気での焼成を実現する方法としては、焼成用の容器として、非カーボン製、例えば、窒化アルミニウム焼結体、窒化ホウ素成形体等の容器を使用し、該容器の外部にカーボン発生源を存在させることにより、カーボンもしくは炭素化合物をガスの状態で焼成用の容器内に供給する方法が最も好適である。即ち、成形体とカーボン発生源とを焼成用の容器内に共存させた場合、還元濃度が高くなり過ぎ、強い還元力のため、焼結助剤の揮散速度が速くなることがある。このため、焼結後の窒化アルミニウム焼結体の表面粗度が大きくなってしまうおそれがある。
【0041】
尚、前記容器内のカーボン濃度の調整は、容器と蓋との間に形成される隙間を利用しても良いし、容器に細孔を空けてもよい。
また、上記カーボンの発生源は特に制限されず、無定形炭素や黒鉛等の公知の形態のカーボンを用いることができ、固体状のカーボンが好適である。上記カーボンの形状としては、特に制限されず、粉末状、繊維状、フェルト状、シート状、板状のいずれもよく、またそれらを組み合わせてもよい。その中でも、より高い熱伝導率を得ることを勘案すると、板状の無定形炭素や黒鉛が好適である。
【0042】
上記還元雰囲気下における焼成は、温度1500〜2000℃、好ましくは1600〜1950℃、さらに好ましくは1700〜1900℃で、少なくとも3時間、特に10時間以上実施することが好ましい。また、上記焼成は、長時間行うことによって、窒化アルミニウム焼結体の結晶粒子の成長を伴い、さらには、焼結体中の炭素濃度が増大してしまうため、還元雰囲気下での焼成時間を100時間以内、特に50時間以内、最も好適には、30時間以内とすることが好ましい。還元雰囲気下での焼成を長時間行うと、金属不純物濃度は前述した範囲内に抑制されるとしても、炭素濃度が増大してしまい、結局、焼結体の光学特性が損なわれてしまうおそれがある。
【0043】
上記の焼成工程を経ることで、本発明に係る窒化アルミニウム焼結体が得られる。
また、得られた焼結体を、高温分解性アルミニウム化合物の共存下で加熱処理(アニール処理)することで窒化アルミニウム焼結体の光透過性をさらに向上できる。共存させる高温分解性アルミニウム化合物は、窒化アルミニウムの焼成中期、さらには、焼成後期において安定に存在し尚且つ、アルミニウム系ガスを気相に放出する材料が好ましい。すなわち、1000℃以上の温度において安定に存在し尚且つアルミニウム系ガスを放出する材料が好ましい。例えば、Al23、Al23、AlF3、AlNなどが挙げられる。尚
、高温分解性アルミニウム化合物として用いられる窒化アルミニウムは、上記焼成工程を経て得られる本発明の焼結体とは異なり、1500℃程度の温度においてアルミニウム系ガスを徐放する。高温分解性窒化アルミニウムのガス徐放性は、粒界相の組成や構造に起因するものと考えられる。これら高温分解性アルミニウム化合物は、粉末、成形体、焼結体などのいずれの形態であっても構わず、ガス化したアルミニウム系化合物を上記焼結体に曝すことによっても同様の効果が得られる。アニール工程では、N2ガスを0.1〜3
0L/minの条件でフローさせる。アニール温度は、1600〜2000℃で、1〜200時間、緻密質なカーボン、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの材質からなる焼成容器を用いて、高温分解性アルミニウム化合物を焼成容器内に共存させることにより行われる。
【0044】
なんら理論的に拘束されるものではないが、上記のようなアニール処理により、焼結体中の空孔型欠陥に、アルミニウムが補完され、完全結晶あるいはそれに近い窒化アルミニウム結晶粒が形成され、光透過性等の光学特性が向上するものと考えられる。
【0045】
このようにして得られる本発明の窒化アルミニウム焼結体は、透光性カバー等の用途における構造に応じて、種々の形状、例えば、チューブ状、板状、曲面状、球状、楕円球状、カップ状、お碗状等の形状で使用に供される。
【0046】
本発明に係る発光管は、上記した窒化アルミニウム粉末、焼結助剤および有機バインダー等からなるスラリー乃至ペーストを用いて、押出成形法、射出成形法、鋳込み成形法などの成形手段によって発光管形状の成形体(グリーン体)を作製し、これを上記条件において脱脂、焼成、アニールすることで得られる。
【0047】
発光管の形状は、使用分野において様々であり、たとえば単純な円筒形状であってもよ
く、また円筒の一部に球状の中空部が設けられた構造でもよく、またその他の形状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、焼成後、未研磨の状態において平滑な表面を有し、光線透過特性が高く、特に、発光効率の高い光源の発光管材料として好適に使用することができる窒化アルミニウム焼結体が提供される。このような窒化アルミニウム焼結体では、別途研磨工程を行なわなくても、発光管材料として使用できる。このため、複雑な形状で研磨の困難な発光管の製造においては、本発明の窒化アルミニウム焼結体が特に好ましく使用される。
【0049】
(実施例)
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
尚、実施例および比較例における各種の物性の測定は次の方法により行った。
1)算術平均表面高さRa
表面粗さは、(株)東京精密製サーフコム470Aを用いて、トレーシングスピード0.3mm/秒、カットオフ0.8、測定長さ2.5mmの条件で測定した。
2)最大表面高さRz
表面粗さは、(株)東京精密製サーフコム470Aを用いて、トレーシングスピード0.3mm/秒、カットオフ0.8、測定長さ0.5mmの条件で測定した。
3)不純物濃度
金属不純物濃度(金属元素濃度)は、窒化アルミニウム焼結体を粉砕し粉末状にした後、アルカリ溶融後、酸で中和し、島津製作所製「ICP−1000」を使用して溶液のICP発光分析により定量した。
【0051】
炭素濃度は、窒化アルミニウム焼結体を粉末状にした後、堀場製作所製「EMIA−110」を使用して、粉末を酸素気流中で燃焼させ、発生したCO、CO2ガス量から定量
した。
【0052】
酸素濃度は、窒化アルミニウム焼結体を粉砕し粉末状にした後、堀場製作所製「EMGA−2800」を使用して、グラファイトるつぼ中での高温熱分解法により発生したCOガス量から求めた。
【0053】
また、窒化アルミニウム粉末の各不純物濃度は、上記窒化アルミニウム焼結体の粉末と同様にして測定した。
4)熱伝導率
理学電気(株)製の熱定数測定装置PS−7を使用して、レーザーフラッシュ法により測定した。厚み補正は検量線により行った。
5)光透過率
チューブ形状の窒化アルミニウム焼結体の光透過率は、図1に示すように、積分球の中に光ファイバーでハロゲン光を導入し、光ファイバーの先端にサンプルを覆ったときに漏れ出した光量を測定した。サンプルを覆わなかったとき、つまり、空気をリファレンスとして、その比を透過率とした。サンプルの厚さは0.8mmとした。
(実施例1)
内容積が2.4Lのナイロン製ポットに、鉄心をナイロンで被覆した、直径15mmのナイロンボール(表面硬度100kgf/mm2以下、密度3.5g/cm3)を入れ、次いで、平均粒径が1.3μm、比表面積が3.39m2/g、酸素濃度0.8wt%、金
属元素濃度35ppmの窒化アルミニウム粉末100重量部に対して、焼結助剤粉末として平均粒径が1.8μm、比表面積が3.75m2/gのカルシウムアルミネート化合物
(Ca3Al26)を5部、次いで、エタノールを溶媒として40重量部加えて湿式混合
した。この時、前記ナイロンボールはポットの内容積の40%(見かけの体積)充填した。混合はポットの回転数70rpmで3時間行った。更に、得られたスラリーを乾燥して窒化アルミニウム粉末を得た。
【0054】
次に、得られた窒化アルミニウム粉末10gを一軸成形機にて直径40mm、厚み6mmの成形体に仮成形した後、CIP成形機にて3t/cm2の荷重をかけて本成形を行っ
た。
【0055】
上記、操作にて得られた成形体を窒化アルミニウム製のセッターを用いて窒素に還元性物質が含まれたガス雰囲気中で、焼成温度1880℃、30時間で焼成し、直径30mm、厚み5mmの焼結体を得た。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0056】
(実施例2)
最高温度保持時間を50時間としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0057】
(実施例3)
最高温度保持時間を100時間としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0058】
(実施例4)
実施例1により得られた焼結体を、さらに、高温分解性アルミニウム化合物としてアルミナ粉末を3g入れた窒化アルミニウム製のセッターに入れ、温度1880℃、30時間でアニールを行い、窒化アルミニウム焼結体を得た。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0059】
(実施例5)
アニール処理における高温分解性アルミニウム化合物の種類をAlNとしたこと以外は実施例4と同様の操作を行い、窒化アルミニウム焼結体を得た。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。尚、アニール処理で使用した高温分解性窒化アルミニウムは、SH30(トクヤマ製窒化アルミニウム焼結体)である。
【0060】
(実施例6)
焼結助剤の添加量を2部としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0061】
(実施例7)
焼結助剤の添加量を10部としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0062】
(実施例8)
焼成用のセッターの材質を窒化ホウ素としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0063】
(比較例1)
焼結助剤を添加しないこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0064】
(比較例2)
焼結助剤の添加量を0.5部としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0065】
(比較例3)
焼結助剤の添加量を20部としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0066】
(比較例4)
焼結助剤の種類を酸化イットリウムとし、その添加量を5部としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0067】
(比較例5)
焼成用のセッターの材質をカーボンとしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。窒化アルミニウム焼結体の製造条件及び得られた窒化アルミニウム焼結体の特性を表1に示した。
【0068】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】光線透過率の測定装置の概略を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の算術平均高さRaが1μm以下であり、最大高さRzが10μm以下である窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
酸素濃度が450ppm以下、酸素、窒素、アルミニウム以外の不純物元素濃度が350ppm以下であり、かつ平均結晶粒径が2μm〜20μmである請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】
焼成後、未研磨の状態にある請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の窒化アルミニウム焼結体からなる発光管。

【図1】
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【公開番号】特開2007−70218(P2007−70218A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215061(P2006−215061)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】