説明

窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード

【目的】 窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードにおけるレーザ発振をし易くすると共に閾値電流を下げること。
【構成】 サファイア基板11上には、 AlN層12、Si ドープn型 GaN層(n層)13、Si ドープn型AlGaN層(n層)14、Si ドープn型 GaN層15、アンドープAlGaN層16、Mg ドープp型AlGaN層(p層)17及びMg ドープp型 GaN層(p層)18が順次積層され形成されている。又、上記 GaN層13及び GaN層18とにはそれぞれ金属電極13a,18aが形成されている。この構成によれば、AlGaN層17からの不純物Mg の拡散をアンドープAlGaN層16にて吸収して防止できる。これにより、本発明の半導体レーザダイオードは、不安定な高エネルギー状態が作り易くなり誘導放出を利用したレーザ発振がし易くなると共にその閾値電流を下げることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードの成膜中における拡散防止構造に関する。
【0002】
【従来技術】従来、短波長レーザダイオードであるサファイア基板を用いた窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード10は、図2の模式図に示したような積層された結晶成長膜構造である。サファイア基板1上には、 AlN層2、Si ドープn型 GaN層(n層)3、Si ドープn型AlGaN層(n層)4、Si ドープn型 GaN層5、Mg ドープp型AlGaN層(p層)6及びMg ドープp型 GaN層(p層)7が順次積層され形成されている。この積層された結晶成長膜では、活性層であるSi ドープn型 GaN層5とMg ドープp型AlGaN層(p層)6とが隣合って形成されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述の結晶成長膜中において、Mg ドープAlGaN層から活性層であるSi ドープGaN層 中にMg が拡散するという現象がある。このMg は、活性層内ではアクセプタ(半導体の電子受容体)として働くため、電流注入を行った場合の発光は、主として、D(ドナー)−A(アクセプタ)間のペア発光が支配的となる。すると、バンド間遷移の発光は僅かとなるため、レーザ発振に至らない又は閾値電流がかなり高くなってしまうという問題があった。
【0004】本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードにおけるレーザ発振をし易くすると共に閾値電流を下げることである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための発明の構成は、n型導電性を示す窒化ガリウム系化合物半導体(AlYGa1-YN:0≦Y≦1)から成るn層と、p型導電性を示す窒化ガリウム系化合物半導体(AlYGa1-YN:0≦Y≦1)から成るp層と、前記n層と前記p層との間にアンドープの窒化ガリウム系化合物半導体(AlxGa1-xN:0≦X≦Y≦1)から成る拡散防止層とを有することを特徴とする。
【0006】
【作用及び効果】上記の手段によれば、p層にドープされた物質はn層の方向に拡散しようとするが、そのp層に隣接したアンドープ(不純物のドーピングなし)の窒化ガリウム系化合物半導体から成る拡散防止層に吸収されることとなる。このため、p層とn層とは完全に分離され、D(ドナー)−A(アクセプタ)ペアの発光確率を少なくすることが可能となる。これにより、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードは、不安定な高エネルギー状態が作り易くなり誘導放出を利用したレーザ発振がし易くなると共にその閾値電流を下げることができる。
【0007】
【実施例】以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。図1は本発明に係るサファイア基板を用いた窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード100の構造を示した模式図である。サファイア基板11上には、 AlN層12、Si ドープn型 GaN層(n層)13、Si ドープn型AlYGa1-YN層(n層)14、Si ドープn型 GaN層15、アンドープAlxGa1-xN層16、Mg ドープp型AlYGa1-YN層(p層)17及びMg ドープp型 GaN層(p層)18が順次積層され形成されている。尚、上記X,Yの化学量論は、0≦X≦Y≦1である。又、13a,18aはSi ドープn型 GaN層(n層)13及びMg ドープp型 GaN層(p層)18とにそれぞれ形成された金属電極である。
【0008】次に、その製造方法について説明する。尚、本実施例の半導体レーザダイオード用単結晶の作製には横型有機金属化合物気相成長装置を用いた。(0001)面を結晶成長面とするサファイア基板11を有機洗浄の後、結晶成長装置の結晶成長部に設置する。成長炉を真空排気の後、水素(H2)を供給し1200℃程度まで昇温する。これによりサファイア基板11の表面に付着していた炭化水素系ガスがある程度取り除かれる。
【0009】次に、サファイア基板11の温度を 600℃程度まで降温し、トリメチルアルミニウム〔Al(CH3)3〕 (以下、TMAという)及びアンモニア(NH3)を供給して、サファイア基板11上に50nm程度の膜厚を持つ AlN層12を形成する。次に、TMAの供給のみを止め、基板温度を1150℃まで上げ、トリメチルガリウム〔Ga(CH3)3〕 (以下、TMGという)及びシラン(SiH4)及びNH3を供給し、厚さ2000nmのSi ドープn型 GaN層(n層)13を成長する。次に、基板温度を1150℃に保持して、TMG及びSiH4及びNH3 の供給にTMAを加え、厚さ 400nmのSi ドープn型AlYGa1-YN層(n層)14を成長する。
【0010】次に、TMAの供給のみを止め、基板温度を1150℃に保持したまま、TMG、SiH4及びNH3 を供給し、厚さ 400nmのSi ドープn型 GaN層(n層)15を成長する。次に、基板温度を1150℃に保持したまま、SiH4の供給を止め、TMG及びNH3 の供給にTMAを加え、厚さ 200nm未満のアンドープAlxGa1-xN層16を成長する。次に、基板温度を1150℃に保持したまま、TMA、TMG及びNH3 の供給にビスシクロペンタディエニルマグネシウム(Cp2Mg)を加え、厚さ 400nmのMgドープp型AlYGa1-YN層(p層)17を成長する。次に、TMAの供給のみを止め、基板温度を1150℃に保持したまま、Cp2Mg、TMG及びNH3 を供給し、厚さ 200nmのMg ドープp型 GaN層(p層)18を成長する。
【0011】次に、Mg ドープp型 GaN層(p層)18上にEB(Electron Beam) 蒸着により厚さ 500nmのSiO2絶縁膜19を形成した後、バッファードフッ酸を用いて部分的にSiO2絶縁膜19を除去し幅10μm のストライプ部分を形成する。このストライプ部分のMg ドープp型 GaN層(p層)18と上記Si ドープn型 GaN層(n層)13とにそれぞれ金属電極18a,13aを形成する。
【0012】最後に、真空チャンバに移して、Mg ドープp型AlYGa1-YN層(p層)17に電子線照射処理を行う。典型的な電子線照射処理条件は、電子線加速電圧:15KV,エミッション電流: 120μA以上,電子線スポット径:φ60μm ,試料温度: 297Kである。
【0013】上述したように構成された窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード100は、Mg ドープp型AlYGa1-YN層(p層)17からの不純物Mg の拡散をアンドープAlxGa1-xN層16にて吸収して防止できる。このため、活性層であるSi ドープn型 GaN層(n層)15とクラッド層であるMg ドープp型AlYGa1-YN層(p層)17とが分離できる。従って、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードは、不安定な高エネルギー状態が作り易くなり誘導放出を利用したレーザ発振がし易くなると共にその閾値電流を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の具体的な一実施例に係る窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードの構造を示した模式図である。
【図2】従来の窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードの構造を示した模式図である。
【符号の説明】
11…サファイア基板
12… AlN層
13…Si ドープn型 GaN層(n層)
14…Si ドープn型AlYGa1-YN層(n層)
15…Si ドープn型 GaN層(n層)
16…アンドープAlxGa1-xN層(拡散防止層)
17…Mg ドープp型AlYGa1-YN層(p層)
18…Mg ドープp型 GaN層(p層)
19…SiO2絶縁膜
13a,18a…電極
100…窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】 n型導電性を示す窒化ガリウム系化合物半導体(AlYGa1-YN:0≦Y≦1)から成るn層と、p型導電性を示す窒化ガリウム系化合物半導体(AlYGa1-YN:0≦Y≦1)から成るp層と、前記n層と前記p層との間にアンドープの窒化ガリウム系化合物半導体(AlxGa1-xN:0≦X≦Y≦1)から成る拡散防止層とを有することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード。

【図1】
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【図2】
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