説明

窒化ケイ素およびベータユークリプタイトに基づくセラミック組成物の製造方法

【課題】 窒化ケイ素およびベータユークリプタイトに基づくセラミック組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 焼結されたセラミック組成物を、窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトに基づいて製造する方法であって、結晶形態の窒化ケイ素の粉体と、その組成が(LiO)(Al(SiOである結晶形態の第1のリチウムアルミノシリケートの粉体とからなる第1の粉体混合物(101)を調製するステップを含む製造方法。このリチウムアルミノシリケートの組成におけるモル分率の組合せ(x、y、z)が、(1、1、2)の組合せと異なるものになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、ミラーのような宇宙用途用の光学部品の製作と、光学構造物であってその機能が光学部品を位置決めして支持することにある光学構造物(構造部品とも呼ばれる)の製作とに適した材料の設計の分野である。
【背景技術】
【0002】
宇宙観測における一般的な傾向として、宇宙を観測する未来の科学的使命と、例えば静止軌道からの地球の観測との両者のためのミラーの直径の増大がある。このため、近未来においては、高度の軽量化の実現が可能であると共に、一方また剛性が高くかつ強固なきわめて安定した材料であって、2mより大きい直径と、25kg/m未満の単位面積当たり質量とを備えたミラーの製造が可能になるような安定した材料に対するニーズが存在するであろう。寸法的に安定したミラーを得るために、非常に低いCTE(coefficient of thermal expansion:熱膨張係数)を有する材料が探索されている。
【0003】
望遠鏡構造体のような光学構造物も、寸法的安定性の点で、エンジン燃焼の間およびミッションの全期間を通じて、像の品質を確保し、特に、地上において光学部品の間に作られるアライメントを保存し得るようにするため、非常に厳格な要求を受ける。さらに、増大する寸法のために、材料の高度の軽量化の実現を可能としながら、一方では依然として材料の剛性が高く強固であることを必要とする。
【0004】
さらに具体的には、宇宙分野における光学的用途に適した熱膨張係数および機械的特性を有する材料を得ることが目標である。「宇宙用途に適した熱膨張係数」という表現は、およそ周囲温度および/または低温度(T<150K)において1.3×10−6−1未満の熱膨張係数を意味すると理解される。また、「宇宙空間用途に適した機械的特性を有する材料」という表現は、高いYoung率、すなわち100GPaより高いYoung率と、高い測定曲げ強さ、すなわち100MPaより高い測定曲げ強さとを有する材料を意味するものと理解される。
【0005】
窒化ケイ素(Si)は、良好な機械的特性を有するため、以上の用途に対する優良な候補材料である。特に、それは、約320GPaに等しいYoung率と、高い測定曲げ強さ、すなわち700MPaより高い測定曲げ強さとを有する。しかし、窒化ケイ素は、非ゼロの、僅かに正の熱膨張係数を有する。
【0006】
β−ユークリプタイトは、広くLASの頭字語によって呼称されるリチウムアルミノシリケート(lithium aluminosilicate)である。このリチウムアルミノシリケートの組成は、次のとおり、すなわち(LiO)(Al(SiOであり、ここで、x、yおよびzは、それぞれ、酸化リチウムLiO、アルミナAlおよびシリカSiOのモル分率である。β−ユークリプタイトの各モル分率はx=1、y=1およびz=2である。
【0007】
β−ユークリプタイトは、高い負の熱膨張係数を有するという特殊な特徴を有する。すなわち、それは温度が上昇すると収縮する。β−ユークリプタイトのナノスケールまたはミクロンサイズの多結晶の熱膨張係数は、約−8×10−6−1(KはKelvin温度)である。β−ユークリプタイトを窒化ケイ素母材の中に組み込むと、それは、このように調製される組成物の膨張係数を低下させる傾向を有する。
【0008】
焼結されたセラミック組成物の製造方法であって、β−ユークリプタイトおよび窒化ケイ素の粉体を水溶液またはアルコール溶液において混合するステップを含む製造方法が知られている。続いて、この混合物を、窒化ケイ素を焼結する温度に加熱する。
【0009】
出願人は、この既知の方法からは、宇宙分野における光学的用途に適した寸法的安定性と機械的特性とを有する組成物を得ることは不可能であることを見出したが、このことはこれまで開示していない。具体的に言うと、この既知の方法によって、宇宙用途に適した膨張係数を有する材料を窒化ケイ素/β−ユークリプタイトの混合物から得ることが、この混合物のβ−ユークリプタイトの質量比率が少なくとも60%に等しい場合に限り、可能である。ところが、Young率が約70GPaのβ−ユークリプタイトは、組成物の機械的特性を、窒化ケイ素のそれに比べて低下させる。得られる組成物は、宇宙分野における光学的用途に適合しない機械的特性を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、宇宙用途に適合する寸法的安定性と、大きな光学部品および構造物の製作を可能にする良好な機械的特性とを備えた焼結されたセラミック組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
出願人は、結晶性のβ−ユークリプタイトの粒子が分散される窒化ケイ素の母材が焼結されている間、シリカと窒化ケイ素との間に反応が生起することを見出した。これらの反応によって、β−ユークリプタイトの組成を修飾する効果を有する酸窒化ケイ素が形成される。得られる組成物は、β−ユークリプタイトそのものだけでなく、β−ユークリプタイトとは異なるリチウムアルミノシリケート(LAS)をも含有する。(LiO)(Al(SiOの組成を有するリチウムアルミノシリケートは、モル分率の組合せ(x、y、z)が(1、1、2)と異なると、β−ユークリプタイトとは違ったものになる。ところが、リチウムアルミノシリケートは、その組成がβ−ユークリプタイトの組成である場合にのみ、非常に大きな負の熱膨張係数を有する。従って、先行技術の方法では、大量のβ−ユークリプタイトを用いてのみ、所望の低熱膨張係数を得ることが可能になる。
【0012】
出願人は、さらに、結晶性のβ−ユークリプタイトの粒子が分散される窒化ケイ素の母材が焼結されている間、β−ユークリプタイトの粒子の溶融が生起することを見出した。このため、冷却後に得られるβ−ユークリプタイトはアモルファスの形態である。ところが、アモルファス形態のβ−ユークリプタイトは、結晶形態の場合より高い熱膨張係数を有する。
【0013】
従って、本発明の主題は、焼結されたセラミック組成物を、窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトに基づいて製造する方法であって、結晶形態の窒化ケイ素の粉体と、その組成が(LiO)(Al(SiOである結晶形態の第1のリチウムアルミノシリケートの粉体とからなる第1の粉体混合物を調製するステップを含む方法である。この製造方法において、リチウムアルミノシリケートの組成におけるモル分率の組合せ(x、y、z)が、(1、1、2)の組合せと異なるものになっている点が特徴である。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、この方法は、窒化ケイ素を焼結するために、かつ、窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトに基づくセラミック組成物を得るために、窒化ケイ素と、第1の混合から得られる第1のリチウムアルミノシリケートとからなる組成物に対する1回目の熱処理を含む。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、この1回目の熱処理は、1回目の熱処理の操作条件の下で、β−ユークリプタイトの融点を超える第1温度において実施される。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、この方法は、1回目の熱処理後に、β−ユークリプタイトを結晶化するための2回目の熱処理を含む。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、この2回目の熱処理は、窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトに基づくセラミック組成物を少なくとも500℃と800℃の間の温度に加熱し、それを前記温度に維持することによって行われる。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、この2回目の熱処理は、核生成温度における核生成ステップと、その核生成温度を超える成長温度における成長ステップとを含む。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、この2回目の熱処理は、焼結後に得られたセラミック組成物を放置して冷却した後に行われる。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、この方法は、窒化ケイ素の粉体を第1のリチウムアルミノシリケートと混合するステップの前に、第1の窒化ケイ素の粉体を汚染するシリカを除去するために、第1の窒化ケイ素の粉体を洗浄するステップを含む。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、この方法は、第1のリチウムアルミノシリケートの粉体を製造するステップであって、
― 第1のリチウムアルミノシリケートを得るために、炭酸リチウムとアルミナとシリカとの適切な比率の粉体混合物を調製するステップと、
― 第1のリチウムアルミノシリケートを得るために、前記混合物から得られる粉体をか焼焼成するステップと、
を含むステップを含む。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、このか焼ステップは、温度を最高温度まで上昇させるステップと、それに続けて、温度がその最高温度に達するとすぐに温度を低下させ始めるステップとを含む。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、窒化ケイ素粉体の結晶がナノスケールまたはミクロンサイズであり、第1のリチウムアルミノシリケートの粉体の結晶がナノスケールまたはミクロンサイズである。
【0024】
本発明による方法は、β−ユークリプタイトに基づく焼結された組成物を得ることを可能にするものであって、β−ユークリプタイトとは異なるLASに基づく組成物を得るものではない。従って、非常に低い膨張係数またはゼロの膨張係数を有し、かつまた、宇宙分野における光学的用途に適合した機械的特性を有する組成物を得ることが可能になる。
【0025】
本発明の他の特徴および利点は、非制限的な例として、添付の図面を参照して記述される以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による方法のステップを表現するフローチャートである。
【図2】本発明による方法において用いられるLASの合成法の1つの例のステップを表現するフローチャートである。
【0027】
両図において、同一の要素は同じ参照符号によって特定される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
焼結された窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトに基づくセラミック組成物の、本発明による製造方法のステップが図1に示される。
【0029】
本発明による方法は、その組成がβ−ユークリプタイトの組成とは異なる結晶状態の第1のリチウムアルミノシリケートLASの粉体と、結晶形態の窒化ケイ素の粉体との、任意選択により添加剤を加えた、第1の混合物を、101において溶液として調製するステップを含む。この第1の混合物は、例えば水中分散液またはアルコール分散液として調製される。
【0030】
ナノスケールまたはミクロンサイズのLASおよび窒化ケイ素の粒子を有する粉体を用いることが好ましい。
【0031】
窒化ケイ素の量に比べて少量のLASを添加することによって、窒化ケイ素の機械的特性に近い機械的特性が維持される。
【0032】
任意選択により、例えば、Al+Y、Y+MgO、LiO−Y、MgO、またはYタイプの焼結助剤のような添加剤を用いることができる。
【0033】
混合ステップは、例えば分散ステップである。このステップは、第1のLASの分散を可能にするもので、例えば、第1の混合物を回転ボールミルに通すことによって実施される。このようにして得られたスリップを、次に、102において成型する。すなわち、適切な型の形状を選択することによって、管または単純なプレートのような種々の形状を製造することができる。
【0034】
得られた組成物を104において乾燥する。乾燥は、例えば炉内において実施される。この乾燥ステップは、部品を103において離型した後に実施するのが有利である。
【0035】
変形態様として、ステップ101において得られたスリップを、(例えば、噴霧乾燥造粒法、結合剤および可塑剤添加によって)乾燥し、続いて冷間または熱間加圧法を用いてプレス加工する。
【0036】
変形態様として、混合物を、溶液において調製せず、例えば回転ボールミル内において乾燥混合物として調製し、続いて冷間または熱間加圧法を用いてプレス加工する。
【0037】
この段階において、鋳造または冷間加圧法によって得られた部品は、それに複雑な形状を付与するために機械加工することができる。例えば、部品を軽量化するため、中間成形品内部に空洞を設けることが可能である。
【0038】
中間成形品から結合剤を除去するために、105における先行熱処理を実施するのが有利である。すなわち、良好な粉体の圧密を得るために用いた有機結合剤を、先行温度Tpにおいて、時間Dpの間に除去する。
【0039】
105におけるこの先行熱処理は、例えば、部品を600℃の温度に加熱して、この温度に1時間保持することからなる。温度上昇および/または温度降下は、例えば1℃/分において進行する。
【0040】
次に、窒化ケイ素を106において焼結する。この焼結は、得られた第1の組成物であって、窒化ケイ素および第1のリチウムアルミノシリケートに基づく組成物に対して1回目の熱処理を実施することによって行われる。この1回目の熱処理は、第1の組成物を第1温度T1に加熱して、それをその温度に第1時間D1保持することからなる。任意選択により、温度上昇を、気体圧力または機械的圧力を補助的に用いて実施する。この1回目の熱処理は、不活性雰囲気内または真空内で実施するのが有利である。
【0041】
温度は、放射加熱またはパルス電流加熱またはマイクロ波加熱によって上昇させることできる。第1温度T1は、窒化ケイ素を焼結するためのものとして選択される。第1温度T1は、操作条件(圧力、温度上昇速度、電流、焼結温度における保持時間)の下において、β−ユークリプタイトの融点を超えた温度である。一例として、β−ユークリプタイトの融点は通常の焼結条件の下で約1340℃であるため、焼結温度は、例えば1340℃を超えている。温度T1は、例えば0時間と12時間の間で適用される。
【0042】
106における焼結の間、第1のリチウムアルミノシリケートに含有されるシリカと窒化ケイ素との間に反応が生起する。
【0043】
この効果を打ち消すために、第1のリチウムアルミノシリケートの組成を、β−ユークリプタイトに対してシリカが過剰もしくは不足となる組成であって、この過剰もしくは不足が、焼結中に窒化ケイ素と反応するシリカの量に正確に一致するような組成に選択する。この組成の選択は、シリカの量が過剰の場合または不足の場合のいずれであれ、出発点となる窒化ケイ素粉体のシリカ成分に依存している。この結果、106における焼結後に、窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトに基づく焼結されたセラミック組成物が得られる。β−ユークリプタイトに対してシリカが不足している第1のリチウムアルミノシリケートは、窒化ケイ素の粉体中に存在しているシリカの量が焼結中に反応するシリカの量よりも多い場合に用意される。過剰量のシリカは、窒化ケイ素の粉体中に存在するシリカの量が焼結中に反応するシリカの量よりも少ない場合に用いられる。
【0044】
また、窒化ケイ素を第1のLASと混合するステップ101の前に、従来から窒化ケイ素の粉体を汚染するとされる表面のシリカ層を除去するために、第1の窒化ケイ素粉体を洗浄することも可能である。得られるものは、101において第1のリチウムアルミノシリケートと混合される窒化ケイ素の粉体である。洗浄は、例えば、酸、例えばフッ化水素酸、塩酸または酸の混合物を用いて実施される。洗浄ステップ後には窒化ケイ素がもはやシリカを含有していないと想定すると、第1のリチウムアルミノシリケートの組成を、β−ユークリプタイトに対して僅かに過剰のシリカを有するように、かつその過剰量が窒化ケイ素と反応するシリカの量に合致するように調整することで十分である。この先行の洗浄ステップを実施することによって、窒化ケイ素の内部に存在するシリカの量を測定する必要がなくなるため、第1のLASの組成の調整が容易になる。すなわち、窒化ケイ素と反応するシリカの比率部分のみを補償すればよいことになる。
【0045】
窒化ケイ素の結晶サイズが大きくなればなる程、この材料の焼結温度が高くなる。第1温度T1をできるだけ下げるためには、ナノスケールの窒化ケイ素粉体を用いることが有利であり得る。これは、シリカと窒化ケイ素との間の反応の大きさをも低減する。
【0046】
β−ユークリプタイトの融点は1340℃と1380℃の間にある。窒化ケイ素を焼結するステップ106はβ−ユークリプタイトの溶融を惹起する。β−ユークリプタイトが溶融すると、窒化ケイ素の液相における焼結が可能になる。しかし、溶融β−ユークリプタイトが冷却されると、それは、アモルファス状態のままであり、アモルファス状態においては、結晶状態の場合ほど低い熱膨張係数を有しない。
【0047】
窒化ケイ素を焼結して得られる焼結されたセラミック組成物の寸法的安定性を改善するために(すなわち、その熱膨張係数を下げるために)、β−ユークリプタイトのすべてまたは一部分を結晶化するように、107における2回目の熱処理を行うのが有利である。この熱処理は、焼結後に得られたセラミック組成物を、少なくとも第2の温度T2、有利には500℃と800℃の間に加熱して、それをその温度に維持することによって行われる。この温度は、x=1、y=1およびz=2のモル分率を有するβ−ユークリプタイトを溶融して急冷することによって得られるLASガラス相の示差熱分析によって決定される。
【0048】
107におけるこの2回目の熱処理によって、負の熱膨張係数を有する主として結晶形態のβ−ユークリプタイトを得ることが可能になる。このステップは、セラミック組成物の熱膨張係数を低下させることができる。窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトに基づく結晶性のセラミックである組成物が得られる。組成物中における窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトの相対的な比率が熱膨張係数を決定する。β−ユークリプタイトの結晶化の量が大きくかつその程度が高い程、組成物の熱膨張係数は低くなる。結晶化のステップによって主として結晶形態のβ−ユークリプタイトを得ることが可能になるため、この結晶化のステップによって、当初の混合物中に必要なLASの量を制限した上で、低い熱膨張係数を有する組成物を得ること、従って、宇宙分野における光学的用途に適合した機械的特性を有する組成物を得ることができる。当初の混合物中におけるLASの重量比率は、0%と25%の間、好ましくは10%と15%の間とするのが有利である。
【0049】
107における2回目の熱処理は、106における焼結に続いて、その部品が放置して冷却された後に実施するのが有利である。
【0050】
107における2回目の熱処理は、例えば、600℃と680℃の間の核生成温度における、例えば640℃におけるある特定の核生成時間の核生成段階を含む。核生成時間は、0時間と10時間の間であり、例えば約2時間に等しい。核生成段階に続けて、核成長段階を設けることが有利である。核成長段階は、680℃と720℃の間の成長温度において、例えば690℃において、ある特定の成長時間実施される。成長時間は、例えば約10時間に等しい。
【0051】
結晶化の処理によって、β−ユークリプタイトの融点が窒化ケイ素の焼結温度よりも低くても、焼結された窒化ケイ素中に結晶性のβ−ユークリプタイトを得ることが可能になる。
【0052】
続いて、得られた部品を、機械加工し、研磨し、ミラーの場合にはさらにつや出しも有利に行うことができる。
【0053】
最終的に得られるものは、当初の窒化ケイ素の膨張係数よりも低い膨張係数を有する組成物である。この膨張係数は、第1のLASと窒化ケイ素との間の容積比に応じて、かつまた、β−ユークリプタイト粒子の結晶化の程度を決定する2回目の熱処理の時間的長さによって、正確に調整することができる。
【0054】
この組成物の熱伝導特性を改善するために、例えばカーボンナノチューブのような別の粒子を添加するステップを設けることが考えられる。この添加は、窒化ケイ素をβ−ユークリプタイトと混合するステップ101の間に行われる。
【0055】
図2は、第1のリチウムアルミノシリケートLASの合成方法の1つの例のステップを示す。当然のことながら、LASは、ナノスケールまたはミクロンサイズのLASの合成を可能にする任意の他の方法によって得ることができる。
【0056】
炭酸リチウムLiCO、アルミナAlおよびシリカSiOの粉体を、第1のリチウムアルミノシリケートを得るのに適した比率で、200において混合する。この混合物は、シリカの量が、得ようとするβ−ユークリプタイトに必要な比率に対して過剰もしくは不足となるように調製される。
【0057】
得られた混合物を、201において、例えば混合物を50重量%だけ含有する水溶液にする。任意選択により、例えばポリアクリレートのような分散剤をこの溶液に導入することができる。
【0058】
例えば、溶液の重量の50%が先に得られた混合物からのものであり、重量の0.15%が分散剤に相当するような溶液が調製される。次に、この溶液を202において分散させる。分散ステップは、例えば、ジルコニアのボールを有する回転ボールミルによって24時間実施される。
【0059】
得られたスリップを、続いて203において乾燥する。乾燥操作は、例えば、110℃の炉内において行われる。この操作は重量損失がゼロになるまで続けられる。
【0060】
この方法は、次に、乾燥粉体を最高温度においてか焼するステップ204を含む。か焼ステップの機能は、第1のLASを得るために、炭酸リチウムLiCO、アルミナAlおよびシリカSiOの粉体の間の固体反応を得る条件を作り出すことにある。か焼ステップは、温度を最高温度Tmaxまで上昇させるステップを含み、最高温度に達するとすぐに温度を低下させ始めるステップを続けるのが有利である。すなわち、最高温度における保持時間はゼロである。出願人は、Tmaxにおける温度保持がないことが、得られる第1のLASの高密度化または焼結を防止することを見出した。粉体が最高温度に長時間保持されると状況は異なってくる。変形態様として、大きなサイズのβ−ユークリプタイトの使用が望ましい場合には、か焼を最高温度Tmaxまで実施して、その温度に所定時間保持することができる。保持時間が長い程、高密度化が大きくなる。
【0061】
例えば、乾燥粉体は、次の手順に従って炉内でか焼される。すなわち、1050℃まで5℃/分の速度で温度上昇させ、次に、この温度に達するとすぐに、5℃/分の速度で200℃まで温度を下げ、そして自然冷却する。
【0062】
次に、か焼された粉体を、ナノスケールまたはミクロンサイズの粒子を得るために、205において、水溶液中で粉砕する。粉砕は、例えばアトリッションミルで行われる。
【0063】
例えば、40重量%の固形分含有量を有する水溶液が得られる。続いて、この水溶液を、摩砕機において毎分500回転の速度で6時間粉砕処理する。
【0064】
次に、この溶液を206において乾燥する。
【0065】
乾燥は、例えば、回転蒸発器によって、圧力300mバール、温度70℃で行われる。
【0066】
最後に、LAS粉体を207において粉砕し、208においてスクリーンにかける。
【符号の説明】
【0067】
101 混合ステップ
102 成型ステップ
103 離型ステップ
104 乾燥ステップ
105 先行熱処理ステップ(結合剤の除去)
106 1回目熱処理ステップ(窒化ケイ素の焼結)
107 2回目熱処理ステップ(β−ユークリプタイトの結晶化)
200 混合ステップ
201 混合物の水溶液化ステップ
202 分散ステップ
203 乾燥ステップ
204 か焼ステップ
205 水中粉砕ステップ
206 乾燥ステップ
207 粉砕ステップ
208 スクリーン処理ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結されたセラミック組成物を、窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトに基づいて製造する方法であって、結晶形態の窒化ケイ素の粉体と、その組成が(LiO)(Al(SiOである結晶形態の第1のリチウムアルミノシリケートの粉体とからなる第1の粉体混合物(101)を調製するステップを含む製造方法において、前記リチウムアルミノシリケートの組成におけるモル分率の組合せ(x、y、z)が、(1、1、2)の前記組合せと異なるものになっていることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記窒化ケイ素を焼結するために、かつ、窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトに基づくセラミック組成物を得るために、窒化ケイ素と、前記第1の混合から得られる第1のリチウムアルミノシリケートとからなる組成物に対する1回目の熱処理(106)を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記1回目の熱処理(106)が、前記1回目の熱処理の操作条件の下で、β−ユークリプタイトの融点を超える第1温度において実施される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記1回目の熱処理(106)後に、前記β−ユークリプタイトを結晶化するための2回目の熱処理(107)を含む、請求項2および3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記2回目の熱処理(107)が、窒化ケイ素およびβ−ユークリプタイトに基づくセラミック組成物を少なくとも500℃と800℃の間の温度に加熱し、それを前記温度に維持することによって行われる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記2回目の熱処理(107)が、核生成温度における核生成ステップと、前記核生成温度を超える成長温度における成長ステップとを含む、請求項4および5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記窒化ケイ素の粉体を前記第1のリチウムアルミノシリケートと混合する前記ステップ(101)の前に、前記第1の窒化ケイ素の粉体を汚染する前記シリカを除去するために、第1の窒化ケイ素の粉体を洗浄するステップを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第1のリチウムアルミノシリケートの粉体を製造するステップであって、
― 前記第1のリチウムアルミノシリケートを得るために、炭酸リチウムとアルミナとシリカとの適切な比率の粉体混合物を調製するステップ(200)と、
― 前記第1のリチウムアルミノシリケートを得るために、前記混合物から得られる粉体をか焼するステップ(204)と、
を含むステップを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記か焼ステップ(204)が、温度を最高温度まで上昇させるステップと、それに続けて、温度がその最高温度に達するとすぐに温度を低下させ始めるステップとを含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記窒化ケイ素粉体の前記結晶がナノスケールまたはミクロンサイズであり、前記第1のリチウムアルミノシリケートの粉体の前記結晶がナノスケールまたはミクロンサイズである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236119(P2011−236119A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−97219(P2011−97219)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(505157485)テールズ (231)
【出願人】(509197324)サントル ナショナル ド ラ ルシェルシュ シアンティフィク (10)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】