説明

窒化物系半導体レーザ素子の作製方法

【課題】本発明は、連続発振時の通電時間に対する駆動電圧の上昇を抑制することで、素子寿命の長い窒化物系半導体レーザ素子を作製する窒化物系半導体レーザ素子の作製方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明による窒化物系半導体レーザ素子の作製方法では、ウエハ1からバー15に劈開する前に、基板に形成されるn側電極13にレーザ光を照射して電極の膜質を変化させる。これにより、得られるチップを電気的に接続及び固定するためのはんだが、チップの電極に浸透することが防止され、連続発振する際の通電時間に対する駆動電圧の上昇が抑制される。そのため、素子寿命の長い窒化物系半導体レーザ素子を作製することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物系半導体レーザ素子の作製方法に関するものであり、特に窒化物系半導体基板上に窒化物系半導体を積層することによって作製される窒化物系半導体レーザ素子の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族元素とV族元素とから成る所謂III−V族半導体である窒化物系半導体(例えば、AlN、GaN、InN、AlGaN、InGaNなど)は、そのバンド構造より、青や青紫の光を発する発光素子としての利用が期待され、既に発光ダイオードやレーザ素子などに利用されている。
【0003】
また、これまでは良質な窒化物系半導体の基板が得られなかったため、サファイア基板などの異種基板を用いて窒化物系半導体素子の作製を行っていた。しかし、特にサファイア基板は、室温における熱伝導度が窒化物系半導体基板に比して数分の一程度と悪いために、窒化物系半導体素子から発生した熱を基板を通じて放熱することが困難であった。そのため、発生する熱によって窒化物系半導体素子の寿命が極端に短くなる問題が生じていた。
【0004】
この問題に対して、近年になって良質な窒化ガリウム基板が得られるようになり、これらの基板を利用して半導体素子を作製することで、放熱性に優れた窒化物系半導体素子を得ることができるようになった。(特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−33282号公報
【特許文献2】特開2001−102307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の方法によって作製される基板を用いたとしても、別の問題が存在するために十分な寿命を得ることが困難であった。特に、窒化物系半導体レーザチップをはんだによって電気的に接続及び固定してレーザ素子を作製する場合において、チップとはんだとの界面が良好なものとはならない場合があり、電気特性が不良となるために短寿命化する課題がある。
【0006】
具体的には、図12の窒化物系半導体レーザ素子の通電時間と駆動電圧偏差との関係を示すグラフのように、チップとはんだとの界面が良好でない場合には通電時間の経過に伴い駆動電圧が著しく増大してしまう。そのため、駆動電圧の増大に伴って発熱量が増大し、窒化物系半導体レーザ素子の寿命が短くなってしまう。
【0007】
そこで本発明は、連続発振時の通電時間に対する駆動電圧の上昇を抑制することで、素子寿命の長い窒化物系半導体レーザ素子を作製する窒化物系半導体レーザ素子の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明における窒化物系半導体レーザ素子の作製方法は、基板の第一主面上に複数の素子構造を形成するとともに、前記基板の前記第一主面と反対側の第二主面上を覆う電極を形成してウエハを得る第一工程と、前記第一工程の後に、前記第一工程で形成した電極の一部にレーザ光を照射して前記電極の一部を飛散させる第二工程と、前記第二工程の後に、前記ウエハを分断する第三工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、上記の窒化物系半導体レーザ素子の作製方法において、前記第二工程が、前記電極の前記素子構造が形成された部分の直下となる部分を避けて、レーザ光を照射するものとしても構わない。
【0010】
このように構成することにより、電極の積層構造の直下の部分がレーザ光の照射によって飛散することが無く、チップの周囲のわずかな部分の電極のみが飛散することとなる。そのため、電極が欠けることによる接触抵抗の増大を低減させることができる。
【0011】
また、上記の窒化物系半導体レーザ素子の作製方法において、前記第二工程が、前記電極を飛散させることによって溝部を形成するものであり、当該溝部の深さが、前記電極の厚さと略等しいこととしても構わない。
【0012】
このように構成することによって、溝部が基板の深部にまで到達する深さを有しない構成となるため、ウエハの強度を十分なものとすることができる。そのため、ウエハを劈開したり分割したりする際に、意図しない方向にウエハが割れることを防ぐことができる。また、基板の材料が大量に飛散して電極に付着すると、チップを固定するためのはんだと、チップの電極と、の界面が不良となることがあるが、本願の方法では、基板材料を大量に飛散させることがないため、はんだとチップの電極との界面を良好に保つことができる。
【0013】
また、上記の窒化物系半導体レーザ素子の作製方法において、前記基板が、転位が局所的に集中した第一領域と、当該第二領域よりも転位密度の小さな第二領域と、を備えるとともに、前記第一工程が、前記素子構造を前記基板の前記第一領域を避けて形成するものであり、前記第二工程が、前記電極の前記第一領域上に形成された部分にレーザ光を照射するものであることとしても構わない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の窒化物系半導体レーザ素子の作製方法によれば、電極にレーザ光を照射することによって電極の膜質を変化させることが可能となる。そして、これによってチップを電気的に接続及び固定するためのはんだが、チップの電極に浸透することを防止することが可能となり、はんだと電極との界面が良好なものとなる。そのため、連続発振する際の通電時間に対する駆動電圧の上昇が抑制され、作製される窒化物系半導体レーザ素子の素子寿命を長いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明における窒化物系半導体レーザ素子の作製方法について図1〜図11に基づき説明する。最初に、一連の窒化物系半導体レーザ素子の作製方法について図1〜図5を用いて説明し、その後に、本発明の実施例について図6〜図11を用いて説明する。
【0016】
<<窒化物系半導体レーザ素子の作製方法>>
<ウエハ作製方法>
最初に、ウエハ作製方法の一例について図1(a)、(b)のウエハの模式図を用いて説明する。図1(a)はウエハの模式的な平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A断面を示した模式的な断面図である。なお、図1(a)、(b)には基板の結晶方位をあわせて示しており、以下の図においても同様に基板の結晶方位をあわせて示すこととする。
【0017】
本例のウエハ作製方法によると、基板2上に種々の層を積層することによって図1(a)、(b)に示すような電流通路部(リッジ部10)が基板の<1−100>方向と略平行になるように複数整列した構成のウエハ1が作製される。ここで、パッド電極12はリッジ部10に沿った方向と、リッジ部10と略垂直な方向とにそれぞれ整列している。また、パッド電極12の1つ分が1つの素子構造となり、後述するようにウエハ1をパッド電極12毎に分断することで複数のチップが得られる。
【0018】
次に、ウエハ作製方法の一例について図2及び図3を用いて説明する。図2は図1と同様の断面を示した模式的な断面図であり、図3は活性層の模式的な断面図である。
【0019】
図2(a)に示すように、まず厚さ約100μmのn型GaN基板2の{0001}面上に、n型AlGaNから成るn型クラッド層3を約1.5μm形成し、さらにこのn型クラッド層3の上に活性層4を形成する。このとき活性層4を、図3に示すようにアンドープのInGaNから成る厚さ約3.2nmの井戸層4aと、アンドープのInGaNから成る厚さ約20nmの障壁層4bと、を交互に複数層積層することによって形成した多重量子井戸構造とする。なお、図3の例においては、井戸層4aを三層、障壁層4bを四層積層した場合について示している。
【0020】
また、この多重量子井戸構造となる活性層4の上に、アンドープのInGaNから成る厚さ約50nmの光ガイド層5を形成し、この光ガイド層5の上にアンドープのAlGaNから成る厚さ約20nmキャップ層6を形成する。なお、図2(a)は、このキャップ層6まで基板2上に積層した状態について示している。
【0021】
そして、図2(a)に示すキャップ層6の上にp型AlGaNから成る厚さ約400nmのp型クラッド層7を形成する。そして、このp型クラッド層7の上にアンドープのInGaNから成る厚さ約3nmのコンタクト層7を形成する。そして、このコンタクト層7の上に、厚さ約1nmのPt層と厚さ約10nmのPd層とから成るp側オーミック電極9を形成し、このp側オーミック電極9の上に厚さ約240nmのSiO層14を形成する。このように各層を形成し、図2(b)に示すような構造を得る。
【0022】
次に、リッジ部10を形成するために、図2(b)に示す積層構造をエッチングする。このとき、幅約1.5μmであるとともに基板の<1−100>方向に延びたストライプ状のフォトレジスト(不図示)を、リッジ部10を形成する予定の部分に形成する。そして、CF系のガスを用いてRIE法によるエッチングを行なう。すると、フォトレジストを形成した部分のSiO層14及びオーミック電極9のみが残り、フォトレジストを形成していない部分のSiO層14及びオーミック電極9は除去される。
【0023】
また、ここでフォトレジストを除去し、ClやSiClなどの塩素系のガスを用いたRIE法によるエッチングを行なう。このとき、SiO層14をマスクとして、SiO層14が無い部分のコンタクト層8及びp型クラッド層7をエッチングする。そして、p型クラッド層7が約80nm残った状態となったときにエッチングを停止し、SiO層14を除去する。すると、図2(c)に示すような、p型クラッド層7の一部が突出し、そのp型クラッド層7の突出した部分の上にコンタクト層8、オーミック電極9が順に形成されたリッジ部10を備える構造が得られる。
【0024】
次に、図2(c)に示した構造の上に厚さ200nmのSiO層を形成し、フォトレジストをリッジ部10以外の部分に形成されたSiO層の上に形成する。そして、CF系のガスを用いたRIE法によるエッチングを行ない、リッジ部10上に形成されたSiO層を除去することでSiO層から成る電流ブロック層11を形成する。すると、図2(d)に示すような構造が得られ、この後、電流ブロック層11で囲まれたリッジ部10を覆うように、Auから成る厚さ3μmのパッド電極12を一続きとなるリッジ部10に複数形成する。
【0025】
また、上述した積層構造が形成される基板2の面と反対側の面には、n側電極13を形成する。そして、n側電極13形成した後に、n側電極13の一部にレーザ光を照射して電極材料を飛散させる。なお、このn側電極13へのレーザ光の照射方法やそれによって得られる効果などについては、後述する実施例において詳述する。そして、以上説明した作製方法によって、図1(b)に示すようなウエハを得ることができる。
【0026】
なお、以上説明したウエハ作製方法において、各窒化物系半導体層の形成に、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いても構わないし、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法や、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法や、その他の方法を用いても構わない。また、電極の形成に、スパッタ法や蒸着などの形成方法を用いることとしても構わなく、蒸着として、電子ビーム蒸着を用いても構わないし、抵抗加熱蒸着を用いても構わない。また、SiO層の形成に、PECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法やスパッタ法などの方法を用いても構わない。
【0027】
なお、図1(a)では簡単のためにウエハ1を四角形のものとして表しているが、結晶方位を確認するためのオリエンテーションフラット面や切り欠き部を含む略円形の基板上に積層構造を形成し、ウエハを作製するものであっても構わない。
【0028】
また、このウエハの作製方法の例においては、基板の{0001}面に積層構造を形成することとしているが、基板の{11−20}面や{1−100}面に形成することとしても構わない。また、このように積層構造を形成する基板2の面を変更する場合は、リッジ部10を形成する方向や劈開方向を適宜変更することとする。また、上述したウエハ作製方法は一例であり、他のどのような作製方法を用いてウエハを作製しても構わない。例えば、パッド電極12や基板2上に形成する積層構造の形状が図1(a)、(b)に示す形状と異なることとしても構わない。
【0029】
<ウエハの分断>
次に、得られたウエハ1を劈開及び分割してチップを得るとともに、このチップを用いた窒化物系半導体レーザ素子の作製方法の一例について図4及び図5を用いて説明する。図4は、バー及びチップを示した模式的な平面図であり、バー及びチップの図1(a)と同様の平面について示したものである。また、図5は、窒化物系半導体レーザ素子の模式的な斜視図である。なお、以下では上述したウエハ作製方法の一例によって得られたウエハを用いる場合について説明する。
【0030】
まず、図4(a)に示すように、基板2の<11−20>方向に沿ってウエハ1を劈開してバー15を得る。このとき得られるバー15は、劈開することによって得られる2つの端面({1−100}面)が共振器端面となり、素子構造が<11−20>方向に一列に整列する構成となる。
【0031】
そして、得られたバー15の共振器端面に、例えばSiOやTiO、Alから成るコーティングを施しても構わない。また、いずれか一方の端面に形成するコーティングを10層程度の多数の層から成るものとして反射率を高くするとともに、いずれか一方の端面に形成するコーティングを1層程度の少数の層から成るものとして反射率を低くしても構わない。
【0032】
また、図4(b)に示すように、得られたバー15を<1−100>方向に沿って分割することでチップ16得る。このとき、1つのチップ16には1つの素子構造が含まれることとなり、このチップ16を用いて、図5に示すような窒化物系半導体レーザ素子20が作製される。
【0033】
なお、上述したウエハ1からバー15への劈開及びバー15からチップ16への分割において、それぞれの劈開方向及び分割方向に沿った溝をウエハ1またはバー15に形成するとともに、この溝に沿って劈開及び分割を行なうこととしても構わない。また、この溝は実線状であっても破線状であっても構わない。また、ウエハ1やバー15においてパッド電極12や電流ブロック層11が形成される方の面に溝を形成することとしても構わないし、n側電極13が形成される方の面に溝を形成しても構わない。
【0034】
<チップのマウント>
図5に示すように、窒化物系半導体レーザ素子20は、チップ16がはんだによって電気的に接続及び固定(マウント)されるサブマウント23と、サブマウント23と接続するヒートシンク22と、ヒートシンク22がある面に接続するステム21と、ヒートシンク22が接続するステム21のある面と当該ある面の反対側の面とを貫通するとともにステム21と絶縁されているピン24a、24bと、一方のピン24aとチップ16のパッド電極12とを電気的に接続するワイヤ25aと、他方のピン24bとサブマウント23とを電気的に接続するワイヤ26bと、を備えている。
【0035】
また、窒化物系半導体レーザ素子20の構成をわかりやすく表示するため図示していないが、ヒートシンク22が接続するステム21のある面に接続するとともに、チップ16と、サブマウント23と、ヒートシンク22と、ピン24a、24bのステム21のある面から突出する部分と、ワイヤ25a、25bと、を封止するキャップを備える。
【0036】
そして、この2本のピン24a、24bを介してチップ16に電流が供給されることで発振し、チップ16からレーザ光が出射される。このとき、キャップには出射されるレーザ光に対して透明な物質から成る窓が備えられており、この窓を透過してレーザ光が出射される。
【0037】
なお、図5に示す窒化物系半導体レーザ素子20の構成は一例であり、ヒートシンク22や、サブマウント23、ピン24a、24b、ワイヤ25a、25bやキャップなどの構成について、他の構成であっても構わない。
【0038】
<<実施例>>
以上、本発明における窒化物系半導体レーザ素子の一連の作製方法について説明したが、以下では上述したウエハの作製方法におけるn側電極へのレーザ光の照射方法について、図6〜図11を用いて詳述する。
【0039】
<第1実施例>
最初に、本発明におけるn側電極へのレーザ光の照射方法の第1実施例について図6を用いて説明する。図6(a)、(b)は、図1(a)の平面図に示したウエハの面と反対側の面を示した平面図である。また、図1(a)の平面図において表面に見えていたリッジ部10及びパッド電極12は図6ではウエハの裏面側になるため、この図においてはそれぞれ破線で示している。
【0040】
本実施例におけるn側電極13の形成方法によってn側電極13を形成する場合、まず図6(a)に示すように、基板2の積層構造が形成される面の反対側の面の全体にn側電極13を形成する。
【0041】
次に、図6(b)に示すように、基板2上に形成されたn側電極13の一部にレーザ光を照射することで、照射した部分のn側電極13を飛散させる。このときのレーザ光の出力としては、基板の深部まで傷つけることなくn側電極13のみを飛散させる程度のものであることが望ましい。なお、本実施例では、隣接するリッジ部10の略中間の位置に、リッジ部10と略平行な方向である<1−100>方向にレーザ光を照射した場合について示している。また、レーザ光を照射した部分のn側電極13は飛散されて溝部が形成され、図6(b)ではその溝部から下地となる基板2が表出しているが、基板2自体にはレーザ光の照射による溝部が形成されていないものとする。
【0042】
このように、レーザ光を照射することによって、n側電極13の表面にn側電極13の材料の一部を飛散させるとともに、n側電極13及び基板2に熱が加えられる。そのため、n側電極13の膜質が変化し、ウエハ1を劈開及び分割して得られるチップをマウントする際に用いるはんだが、n側電極13に浸透することを防ぐことができる。
【0043】
したがって、このようにn側電極13の一部にレーザ光を照射したウエハ1を劈開及び分割して得られるチップを用いて上述のように窒化物系半導体レーザ素子を作製し、連続発振させた場合、図7の通電時間と駆動電圧偏差との関係を示すグラフのように、通電時間に対して駆動電圧の上昇が抑制される。
【0044】
特に、従来例と比較するとその効果が顕著である。従来例について示した図12では20時間通電すると駆動電圧が0.1程度大きくなってしまうが、本実施例では図7に示すように、20時間通電しても駆動電圧は0.01〜0.02程度しか大きくならない。したがって、本実施例における作製方法を適用することによって、駆動電圧の上昇及び発熱量の上昇を抑制することが可能となり、窒化物系半導体レーザ素子の長寿命化を図ることができる。
【0045】
また、このようにレーザ光を照射することによって、基板2の深部に到達するような深い溝が形成されてウエハ1が割れ易くなることを防ぐことが可能となり、ウエハ1を劈開及び分割する際にウエハ1が意図しない方向に割れることを防ぐことができる。
【0046】
また、基板2がレーザ光によって深くまで傷つけられることがないため、基板2の材料が大量に飛散することを防ぐことができる。そのため、基板2の材料が大量に飛散してn側電極13に付着することによってチップをマウントする際に生じる、はんだとn側電極13との界面不良を防ぐことが可能となり、連続発振する際の通電時間に対する駆動電圧の上昇が抑制され、作製される窒化物系半導体レーザ素子の素子寿命を長いものとすることができる。
【0047】
なお、n側電極13の一部を飛散させるために使用するレーザ装置として、Nd−YAG(Neodymium doped Yttrium Aluminum Garnet)レーザなどの固体レーザや、炭酸ガスレーザやArFエキシマレーザなどの気体レーザなど、どのようなレーザ装置を用いても構わない。また、レーザ光の照射を、大気雰囲気中で行なうこととしても構わない。ただし、これらのレーザ装置によって出力されるレーザ光は、基板を深く傷つけない程度に抑制されていることが望ましい。
【0048】
また、本実施例では基板が表出する程度まで電極にレーザ光を照射することとしたが、電極の飛散量や与えられる熱が十分であれば、必ずしも基板を表出させる必要はない。そのため、電極を貫通しない程度の深さとなるようにレーザ光の出力を調整し、照射することとしても構わない。
【0049】
また、ウエハ1にオリエンテーションフラット面などの目印となるものがあれば、その目印からの距離によってレーザ光を照射する位置を特定することとしても構わない。また、このような目印を予め基板に形成することとしても構わない。
【0050】
<第2実施例>
次に、本発明におけるn側電極へのレーザ光の照射方法の第2実施例について図8を用いて説明する。図8は、第1実施例について示した図6(b)に相当するものであり、図6(b)について示した面と同じ側の面について示したウエハの平面図である。また、この図においても図6(b)と同様に、リッジ部10とパッド電極12とを破線で示している。
【0051】
本実施例におけるn側電極へのレーザ光の照射方法は第1実施例と同様のものであり、図6(a)に示すように、基板にn側電極13を形成した後に、レーザ光を照射することによってn側電極13の一部を飛散させるものである。そして、相違点はレーザ光の照射によって飛散させるn側電極13の位置だけであるため、第1実施例と同様のものに関しては説明を省略する。
【0052】
本実施例におけるn側電極13へのレーザ光の照射方法では、基板にn側電極13を形成した後、図8に示すようにリッジ部10と略平行な方向にレーザ光を照射する。このとき、レーザ光を照射する方向やレーザ光の出力については第1実施例と同様の方向及び出力であるが、第2実施例では第1実施例よりもレーザ光を照射する位置同士の間隔が広くなっている。
【0053】
具体的には、第1実施例では全てのリッジ部10の間にレーザ光を照射することとしたが、本実施例では1つおきにレーザ光を照射することとする。そのため、レーザ光の照射部分が第1実施例の半分程度となる。
【0054】
このようにレーザ光を照射することとしても、第1実施例と同様に、n側電極13の飛散及び照射による加熱を行なうことができ、図7のグラフに示したような特性を得ることができる。そのため、連続発振時の駆動電圧の上昇を抑制することが可能となり、窒化物系半導体レーザ素子の長寿命化を図ることができる。
【0055】
また、基板2の深部に到達するような深い溝が形成されてウエハ1aが割れ易くなることを防ぐことが可能となり、ウエハ1aを劈開及び分割する際にウエハ1aが意図しない方向に割れることを防ぐことができる。
【0056】
また、基板2がレーザ光によって深くまで傷つけられることがないため、基板2の材料が大量に飛散することを防ぐことができる。そのため、基板2の材料が大量に飛散してn側電極13に付着することによってチップをマウントする際に生じる、はんだとn側電極13との界面不良を防ぐことが可能となる。
【0057】
なお、第1実施例と同様に、レーザ光を照射するn側電極13の位置を、ウエハ1aの所定の目印からの距離によって特定することとしても構わなく、どのような種類のレーザ装置を使用することとしても構わない。また、レーザ光の照射を大気雰囲気中で行なうこととしても構わない。
【0058】
<第3実施例>
次に、本発明におけるn側電極へのレーザ光の照射方法の第三実施例について図9(a)〜(d)を用いて説明する。図9(a)〜(d)は、第1実施例について示した図6(b)及び第2実施例について示した図8に相当するものであり、図6(b)及び図8で示した面と同じ側の面について示したウエハの平面図である。また、この図においても図6(b)及び図8と同様に、リッジ部10とパッド電極12とを破線で示している。
【0059】
本実施例におけるn側電極へのレーザ光の照射方法及び出力は、第1及び第2実施例と同様のものであり、図6(a)に示すように基板にn側電極13を形成した後に、レーザ光を照射することによってn側電極13の一部を飛散させたものである。そして、相違点はレーザ光の照射によって飛散させるn側電極13の位置だけであるため、第1実施例及び第2実施例と同様のものに関しては説明を省略する。
【0060】
また、第1実施例及び第2実施例では、リッジ部10と略平行な方向である<1−100>方向にレーザ光を照射することとしていたが、本実施例ではこの方向だけでなく、あわせてリッジ部10と略垂直な<11−20>方向にもレーザ光を照射することとする。
【0061】
例えば、図9(a)、(b)に示すように、<11−20>方向に沿ってレーザ光を照射する際に、全てのパッド電極12の間にレーザ光を照射することとしても構わない。また、このとき図9(a)に示すように、<1−100>方向に沿ってレーザ光を照射する際に、第1実施例と同様の間隔としても構わないし、図9(b)に示すように、第2実施例と同様の間隔としても構わない。
【0062】
また、図9(c)、(d)に示すように、<11−20>方向に沿ってレーザ光を照射する際の間隔を、図9(a)、(b)に示すものより広くしても構わない。なお、図9(c)、(d)は、パッド電極12の1つおきに<11−20>方向に沿ってレーザ光を照射したものである。また、図9(c)は、<1−100>方向に沿ってレーザ光を照射する間隔が、第2実施例と同様の間隔としている。また、図9(d)は、<1−100>方向に沿ってレーザ光を照射する間隔が、第1実施例と同様の間隔としている。
【0063】
このようにレーザ光を照射することとしても、第1及び第2実施例と同様に、n側電極13の飛散及び照射による加熱を行なうことができ、図7のグラフに示したような特性を得ることができる。そのため、連続発振時の駆動電圧の上昇を抑制することが可能となり、窒化物系半導体レーザ素子の長寿命化を図ることができる。
【0064】
また、基板2の深部に到達するような深い溝が形成されてウエハ1b〜1eが割れ易くなることを防ぐことが可能となり、ウエハ1b〜1eを劈開及び分割する際にウエハ1b〜1eが意図しない方向に割れることを防ぐことができる。
【0065】
また、基板2がレーザ光によって深くまで傷つけられることがないため、基板2の材料が大量に飛散することを防ぐことができる。そのため、基板2の材料が大量に飛散してn側電極13に付着することによって、チップをマウントする際に生じるはんだとn側電極13との界面不良を防ぐことが可能となる。
【0066】
また、多くのn側電極13の材料を飛散させ、熱を与えることが可能である。さらに、チップの周囲を囲むようにレーザ光が照射されるため、n側電極13の全面に渡って略均一にn側電極13の材料を飛散させ、熱を与えることができる。
【0067】
なお、第1及び第2実施例と同様に、レーザ光を照射するn側電極13の位置を、ウエハ1b〜1eの所定の目印からの距離によって特定することとしても構わなく、どのような種類のレーザ装置を使用することとしても構わない。また、レーザ光の照射を大気雰囲気中で行なうこととしても構わない。
【0068】
また、第1〜第3実施例に示した全ての場合において、劈開及び分割するラインに沿った部分にレーザ光を照射することとしているため、n側電極13の飛散される部分はチップの端のわずかな部分となる。そのため、チップをマウントした際のn側電極が欠けることによる接触抵抗の増大はごく小さいものとなる。さらに、上述した例では基板2が表出する深さとなるまでレーザ光を照射することとしたが、n側電極13が一部残るような深さになるようにレーザ光を照射しても構わない。
【0069】
<その他の実施例>
また、本発明は、図10に示すように、転位が集中したストライプコア2bと、ストライプコア2bに転位を集中させることによって転位が低減された他の領域2cと、を備える窒化ガリウム基板2aを用いることとしても構わなく、この基板を用いた場合の実施例について、以下に説明する。なお、ストライプコア2bは、<1−100>方向に延びたストライプ状であり、<11−20>方向におよそ等間隔で整列している。
【0070】
この基板2aに上述したような積層構造を形成したウエハの一例について、図11を用いて説明する。図11は、図1(b)に相当するものであり、ストライプコアを備えた基板を用いて作製されたウエハの断面図である。なお、積層構造やn側電極については図1(b)に示したものと同様のものであるため、同じ符号を付してその詳細な説明について省略する。
【0071】
このウエハ1fは、ストライプコア2bの直上を避けてリッジ部10を形成しており、ストライプコア2bからリッジ部10に転位が伝播しないように構成している。また、このウエハ1fを劈開したバーを分割してチップを作製する場合は、このストライプコア2bに沿って分割を行なう。また、この例ではストライプコア2bの間に2つのリッジ部10を備える構成であるため、この2つのリッジ部10の間、即ちストライプコア2bの中間部分も、バーからチップを得る際に分割する。
【0072】
また、この図11に示す例においては、ストライプコア2b上に形成されるn側電極13にレーザ光を照射してn側電極13を飛散させることとしている。なお、このとき照射されるレーザ光の出力は、第1〜第3実施例と同様に、基板2aを深く傷つけない程度の大きさであることが望ましく、図11に示すようにn側電極13のみを飛散することができる程度の大きさであればさらに望ましい。
【0073】
また、第3実施例に示したように、ストライプコア2bと略垂直な方向、即ち<11−20>方向に沿ってレーザ光を照射しても構わなく、この場合には、図9(b)や図9(c)に示すウエハ1b、1cのように、n側電極13が飛散される部分が形成される。
【0074】
このようにレーザ光を照射することとしても、上述した第1〜第3実施例と同様に、n側電極13の飛散及び照射による加熱を行なうことができ、図7のグラフに示したような特性を得ることができる。そのため、連続発振時の駆動電圧の上昇を抑制することが可能となり、窒化物系半導体レーザ素子の長寿命化を図ることができる。
【0075】
また、基板2aのストライプコア2b上の領域は、n側電極13との密着性が悪いため、ウエハ1fを劈開する際にストライプコア2b上の領域に設けられたn側電極13を起点として、電極が剥がれることがある。そのため、図11に示すように、ストライプコア2a上のn側電極13を予め飛散させておくことによって、電極剥がれの発生を抑制することができる。
【0076】
また、基板2aの深部に到達するような深い溝が形成されてウエハ1fが割れ易くなることを防ぐことが可能となり、ウエハ1fを劈開及び分割する際にウエハ1fが意図しない方向に割れることを防ぐことができる。
【0077】
また、基板2aがレーザ光によって深くまで傷つけられることがないため、基板2aの材料が大量に飛散することを防ぐことができる。そのため、基板2aの材料が大量に飛散してn側電極13に付着することによって、チップをマウントする際に生じるはんだとn側電極13との界面不良を防ぐことが可能となる。
【0078】
なお、ストライプコア2bと他の領域2cとは、結晶性が異なっているため電子顕微鏡や光学顕微鏡によって視認することができる。また、n側電極13を形成した上からも視認することが可能であるため、レーザ光を照射する部分を、視認によって特定しても構わない。
【0079】
また、上述した第1〜第3実施例と同様に、レーザ光を照射するn側電極13の位置を、ウエハ1b〜1eの所定の目印からの距離によって特定することとしても構わなく、どのような種類のレーザ装置を使用することとしても構わない。また、レーザ光の照射を大気雰囲気中で行なうこととしても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、窒化物系半導体レーザ素子の作製方法に関するものであり、特に、窒化物系半導体基板上に窒化物系半導体を積層することによって作製される半導体レーザ素子の作製方法に適用すると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】は、ウエハの一例を示す模式的な平面図及び断面図である。
【図2】は、ウエハの作製方法の一例を示す模式的な断面図である。
【図3】は、活性層について示した模式的な断面図である。
【図4】は、バー及びチップの一例を示した模式的な平面図である。
【図5】は、窒化物系半導体レーザ素子の一例を示す模式的な斜視図である。
【図6】は、第1実施例におけるn側電極へのレーザ光の照射方法を示すウエハの模式的な平面図である。
【図7】は、本発明による作製方法によって得られた窒化物系半導体レーザ素子の通電時間と駆動電圧偏差との関係を示すグラフである。
【図8】は、第2実施例におけるn側電極へのレーザ光の照射方法を示すウエハの模式的な平面図である。
【図9】は、第3実施例におけるn側電極へのレーザ光の照射方法を示すウエハの模式的な平面図である。
【図10】は、その他の実施例における基板の模式的な平面図である。
【図11】は、その他の実施例におけるウエハの模式的な断面図である。
【図12】は、従来の窒化物系半導体レーザ素子の通電時間と駆動電圧偏差との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0082】
1 ウエハ
2、2a 基板
2b ストライプコア
2c 他の領域
3 n型クラッド層
4 活性層
4a 井戸層
4b 障壁層
5 光ガイド層
6 キャップ層
7 p型クラッド層
8 コンタクト層
9 p側オーミック電極
10 リッジ部
11 電流ブロック層
12 パッド電極
13 n側電極
14 SiO
15 バー
16 チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の第一主面上に複数の素子構造を形成するとともに、前記基板の前記第一主面と反対側の第二主面上を覆う電極を形成してウエハを得る第一工程と、
前記第一工程の後に、前記第一工程で形成した電極の一部にレーザ光を照射して前記電極の一部を飛散させる第二工程と、
前記第二工程の後に、前記ウエハを分断する第三工程と、
を備えることを特徴とする窒化物系半導体レーザ素子の作製方法。
【請求項2】
前記第二工程が、
前記電極の前記素子構造が形成された部分の直下となる部分を避けて、レーザ光を照射するものであることを特徴とする請求項1に記載の窒化物系半導体レーザ素子の作製方法。
【請求項3】
前記第二工程が、
前記電極を飛散させることによって溝部を形成するものであり、当該溝部の深さが、前記電極の厚さと略等しいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒化物系半導体レーザ素子の作製方法。
【請求項4】
前記基板が、転位が局所的に集中した第一領域と、当該第二領域よりも転位密度の小さな第二領域と、を備えるとともに、
前記第一工程が、前記素子構造を前記基板の前記第一領域を避けて形成するものであり、
前記第二工程が、前記電極の前記第一領域上に形成された部分にレーザ光を照射するものであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の窒化物系半導体レーザ素子の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−294344(P2008−294344A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140292(P2007−140292)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】