説明

窒化珪素複合焼結体及びその製造方法

【課題】加工性の優れた窒化珪素複合焼結体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Si34粉末と、Ti粉末とを遊星ボールミルを用いて混合する。そして、十分に乾燥させた後に、パルス通電焼結法(Spark Plasma Sintering、以下、SPS)により放電プラズマ焼結を行う。1523K以上の焼結温度で作製した焼結体では、電気抵抗率が1Ω・cmよりも小さいため、ワイヤー放電加工によって切断することができ、さらに、1573K以上の焼結温度では、空隙率が0.3%以下となるので、十分な硬さを備え、機械的特性の優れた焼結体を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れた窒化珪素複合焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、窒化珪素(Si34)などのセラミックスは非常に硬質であり、耐摩耗性や耐食性に優れている。また、高温強度も優れているため、切削工具や機械構造用材料等として用いられている。例えば、特許文献1には、平均粒径が100nm以下であり、摩擦係数が0.3以下の窒化ケイ素系複合焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−34579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような高硬度の材料を加工するためには、ワイヤー放電加工が一般的に用いられている。ところが、Si34などを主成分としたセラミックスは、Si34が絶縁材料であるため一般的に電気抵抗が大きい。そのため、ワイヤー放電加工が困難であるという問題点がある。
【0005】
本発明は前述の問題点に鑑み、加工性の優れた窒化珪素複合焼結体及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の窒化珪素複合焼結体は、窒化チタンを含有する窒化珪素複合焼結体であって、電気抵抗率が1Ω・cm以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明の窒化珪素複合焼結体の製造方法は、窒化珪素の粉末とチタンの粉末とを湿式で混合する工程と、前記混合する工程により得られた混合粉を大気中で乾燥させる工程と、前記乾燥させる工程において乾燥した混合粉を放電プラズマ焼結により1500K以上の温度で焼結する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電気抵抗率を小さくしたのでワイヤー放電加工を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】パルス通電焼結法による放電プラズマ焼結の概要を説明する図である。
【図2】本発明の実施例において、SPSにおける温度制御を示す図である。
【図3】本発明の実施例における焼結体のBSE像を示す写真である。
【図4】本発明の実施例における各焼結体の表面の状態を示すSEM写真である。
【図5】本発明の実施例において、空隙率とビッカース硬さとの関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例において、焼結体の密度の違いを示す図である。
【図7】本発明の実施例において、X線回折の測定結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例において、電気抵抗率の測定結果を示す図である。
【図9】本発明の実施例において、ワイヤー放電加工を行った後の切断された焼結体を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、セラミックス材料である窒化チタン(TiN)が優れた導電性を有することに着目し、窒化珪素(Si34)の焼結体にTiNを含有させることにより電気抵抗率が低下し、ワイヤー放電加工が可能になることを見いだした。このように本発明の窒化珪素複合焼結体は、前述したように導電性に優れたTiNが焼結体に含まれている。ここで、ワイヤー放電加工が容易にできるようにするためには、電気抵抗率が1Ω・cm以下である必要があり、それより大きいと、ワイヤーと焼結体との間で放電しにくくなり、加工が困難になる。
【0011】
さらに、焼結温度を1500K以上にすると、TiNの割合が増加して電気抵抗率が1Ω・cm以下になるとともに、焼結により生じた空隙が減少し、セラミックス材料として高硬度のものが得られる。この空隙は、焼結が完了していない場合に生成されるものであり、空隙が著しく少なくなると焼結体の収縮がなくなり、焼結が終了したことになる。したがって、空隙率が大きい場合には、セラミックス材料として焼結が完全に終了していないため、焼結が完全に終了した場合と比べて硬度が低くなる。そのため、空隙率は0.3%以下であることが望ましい。
【0012】
このような本発明の窒化珪素複合焼結体を製造する方法としては、まず、Si34粉末と、Ti粉末とを容器に入れ、エタノールを用いて湿式混合する。なお、混合に用いる装置はボールミルやアトライターなど特に限定はしないが、効率よく湿式混合を行うためには、遊星ボールミルを用いることが望ましい。本実施形態では、真空雰囲気もしくは特定のガスの雰囲気で混合を行わず、エタノールによる湿式混合を行うため、簡単に混合を行うことができる。また、遊星ボールミルを用いて混合する場合に、ボールが摩耗してボールの材料が混合粉の中に混入する可能性がある。したがって、混合粉の中に混入してもよいように窒化珪素製のボールを用いることが好ましい。そして、混合が終了した後に大気中に乾燥させる。また、Tiは酸化しやすいため、Ti粒子の表面では以下の(1)に示すような化学反応が起こる。なお、Tiの表面は酸化されてTiO2が生成されるが、Ti粒子の内部は酸素と接触しないため、金属Tiのままになっている。
(1)Ti+O2→TiO2
【0013】
次に、パルス通電焼結法(Spark Plasma Sintering、以下、SPS)により放電プラズマ焼結を行う。図1は、SPSによる放電プラズマ焼結の概要を説明する図である。
【0014】
図1において、まず、大気中で黒鉛ダイ10の中に混合粉を充填し、黒鉛パンチ20によって両側から押さえつける。そして、真空チャンパー30内に取り付け、真空雰囲気にして加圧するとともにパルス電流を流し、プラズマ放電焼結を行う。前述したようにプラズマ放電焼結は1500K以上の温度で行う。これにより、以下の(2)〜(4)に示すような化学反応が起こり、TiNが生成される。また、混合粉末の充填は大気中で行うので、真空雰囲気にして加圧した段階でも圧粉体中の空気がわずかながら残留し、前述した(1)に示す化学反応も起こる。
(2)3TiO2+Si34→3SiO2+3TiN+1/2N2
(3)Si34+SiO2+Ti+1/2N2→Si22O+TiN
(4)Si34+4Ti→4TiN+3Si
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施例について説明する。
まず、Si34(助剤としてY23を5wt%、Al23を2wt%含む)粉末(和光薬品社製)と、Ti粉末(和光薬品社製)とを容器の中に入れ、さらに、混合用のボールを入れ、粉末とエタノールとの比が体積比で20:80となるようにエタノールを容器に注入した。本実施例で用いたSi34粉末及びTi粉末は、以下の表1に示すものである。また、混合した割合については以下の表2に示すとおりである。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
そして、以下の表3に示す条件で遊星ボールミルにより湿式混合を行い、混合後、表3に示す条件により混合粉末を大気中で乾燥させた。
【0019】
【表3】

【0020】
次に、乾燥させた混合粉末を3g秤量し、直径15mmの図1に示す黒鉛ダイ10に混合粉末を充填して両側から黒鉛パンチ20により閉じ、真空チャンパー30内に設置した。そして、図2に示すように真空圧を10Paにして40MPaで加圧し、昇温速度を100K/minにして温度を上昇させた。そして、1523Kで10分間保持し、試料1を作製した。また、同様の方法により1573Kで10分間保持した試料2、及び1623Kで10分間保持した試料3も作製した。さらに、比較例として、1473Kで10分間保持した試料4も作製した。
【0021】
図3は、試料2の表面におけるBSE像を示す写真であり、図4は、作製した試料1〜試料4の各焼結体の表面の状態を示すSEM写真である。
図3において、白色相はTiNを示しており、TiNが分散していることが確認できた。また、図4(a)〜図4(d)に示すように、焼結温度が上昇するに従って、空隙の数が減少していることが確認できた。特に、試料1及び試料4では、丸印に示すように空隙が多く確認された。
【0022】
次に、図4に示したSE像を基に、総合画像処理ソフト(Easy Access Ver6.7.1.23:ユリシス社製)を用いて焼結体の空隙率(空隙の面積率)を求めた。そして、ビッカース硬さ試験機(島津微小硬度計 HMV-2T、圧痕荷重:980.7mN、島津製作所社製)を用いて、焼結体のビッカース硬さも測定した。さらに、アルキメデス法を採用した電子比重計(MD-300S:alfa mirage製)を用いて、得られた焼結体の密度も測定した。
【0023】
図5は、空隙率とビッカース硬さとの関係を示す図である。また、図6は、焼結体の密度の違いを示す図である。図5に示すように、空隙率が小さくなるとともに、硬さが大きくなることがわかる。また、空隙率が小さくなると、図6に示すように密度も大きくなることがわかる。
【0024】
次に、試料1〜試料4の組成について、高速X線回折装置(XRD:PANalytical社製)を用いて、焼結体のX線回折を行い、組織を同定した。その結果を図7に示す。なお、図7の最下段には、Si34の標準ピークを示し、縦軸にはSi34の標準ピークの強度を示す。図7に示すように、TiNのピーク(2θ=43°付近)に着目すると、試料4では、焼結温度が低いため、TiNが十分に生成されていないことがわかる。また、試料3では焼結温度が高いため、焼結が進行してSi22Oが2θ=26°付近でピークが確認できる程度に生成されていることがわかる。
【0025】
次に、試料1〜試料4の電気抵抗率について、四端子法を用いて測定した。その結果を図8に示す。図8に示すように、試料4では、前述したように導電性を有するTiNが十分に生成されていないため、電気抵抗率が1Ω・cmを超えている。また、1573K、1623Kで電気抵抗率が上昇しているが、これは焼結が進行して電気抵抗率の高いSi22Oが多く生成されたためである。
【0026】
次に、試料1〜試料4について、ワイヤー放電加工機(牧野フライス製作所製)を用いてワイヤー放電加工を行った。なお、ワイヤー放電加工の切断条件は、以下の表4に示すとおりである。
【0027】
【表4】

【0028】
図9は、ワイヤー放電加工を行った後の切断された焼結体を示す写真である。図9(a)に示すように、比較例の試料4では、電気抵抗率が1Ω・cmを超えているため、ワイヤー放電加工によって焼結体を切断することができなかった。これに対して試料1〜試料3では、電気抵抗率が1Ω・cmよりも小さいため、ワイヤー放電加工によって焼結体を切断することができた。
【0029】
以上のように本実施例によれば、1523K以上の焼結温度で作製した焼結体では、電気抵抗率が1Ω・cmよりも小さいため、ワイヤー放電加工によって切断することができるといえる。また、1573K以上の焼結温度では、空隙率が0.3%以下となるので、十分な硬さを備え、機械的特性の優れた焼結体を作製することができるといえる。
【符号の説明】
【0030】
10 黒鉛ダイ
20 黒鉛パンチ
30 真空チャンパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化チタンを含有する窒化珪素複合焼結体であって、電気抵抗率が1Ω・cm以下であることを特徴とする窒化珪素複合焼結体。
【請求項2】
前記窒化珪素複合焼結体の空隙率が0.3%以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素複合焼結体。
【請求項3】
窒化珪素の粉末とチタンの粉末とを湿式で混合する工程と、
前記混合する工程により得られた混合粉を大気中で乾燥させる工程と、
前記乾燥させる工程において乾燥した混合粉を放電プラズマ焼結により1500K以上の温度で焼結する工程とを有することを特徴とする窒化珪素複合焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記混合する工程においては、遊星ボールミルを用いて混合を行うことを特徴とする請求項3に記載の窒化珪素複合焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記混合する工程においては、窒化珪素製のボールを用いて行うことを特徴とする請求項4に記載の窒化珪素複合焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−265141(P2010−265141A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117786(P2009−117786)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【Fターム(参考)】