説明

窒素含有官能基を有する繊維集合体

【課題】出発物質からの重量収率が高く、かつ低温でのガス状アルデヒド類をすばやく除去することができる繊維集合体を得る。
【解決手段】荷電紡糸法で得られた繊維集合体であって、平均繊維径が0.02〜1μmの繊維からなり、液体窒素温度における窒素吸着測定から算出したBET比表面積が100m/g以下であり、X線光電子分光分析(ESCA)における窒素/炭素(N/C)比が0.1以上であることを特徴とする繊維集合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物(以下、VOCという)等を除去する繊維集合体に関し、詳しくは、低温でのガス状アルデヒド類をすばやく除去することができる繊維集合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の室内や自動車の車内等における、タバコ臭の主成分であるアセトアルデヒド、あるいは、シックハウスの原因物質とされるホルムアルデヒド等の除去を主目的に除去材を含有したシート材料、またはそれ自体が除去材として機能するシート材料が広く用いられている。
【0003】
活性炭はVOC等を吸着する材料として知られているが、低分子で比較的極性が高い有機物質(例えば、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等)を除去することは困難とされている。一般的には、活性炭にアミン類を担持させ、化学吸着によって吸着除去性能を高めたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、上記に示した、アミン類を活性炭などの担持体へ担持させる手法は、半乾燥担持法、沈殿担持法、溶剤蒸発法、平衡吸着担持法、イオン交換法等の公知の手法で、種々存在する。しかし、アミン類の薬剤が活性炭の細孔深部へ吸着され、反応しない部分が生じることや、担持体に均一に分散しにくいことなど、技術的に問題がある。また、薬剤を担持する工程が必要なため、製造コストは高くなるという問題もある。
【0005】
上記の課題を考えると、薬剤などを添着せず、吸着材だけでガス状のアルデヒド類を除去することができる材料が望ましいといえる。その検討として、ポリアクリロニトリルを出発物質とした、窒素含有官能基を有した活性炭素繊維で、ガス状のアルデヒド類への優れた除去性能が示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
また、ガス状有機物質の除去効率は、ガス状アルデヒド類などの対象物質と除去材との接触効率に関係する。繊維径を細くし、さらに活性炭素化によってBET比表面積を大きし、接触効率を高める検討も報告されている(例えば、非特許文献2、3参照)。
【0007】
しかしながら、活性炭素化を行うには、500℃以上1300℃以下の温度で、炭素と反応する水蒸気、酸素、二酸化炭素などを含む活性な雰囲気で賦活する必要があり、出発物質からの重量収率が大きく減少するため、製造コストが高くなりやすい。その上、活性炭素化によって生じた有害ガスやCOなど排出量が増えることになり、環境面においても好ましくない。また、ポリアクリロニトリルなど出発物質に窒素原子を含む場合でも、炭素化工程で形成された窒素含有官能基が賦活工程によるガス化などで減少し、ガス状アルデヒド類の除去性能が低下する可能性があるため好ましくない。
【0008】
上記のように、アミン類の薬剤などを担持せず、吸着材のみでガス状アルデヒド類を高い除去効率で除去することができる材料で、かつ、出発物質からの重量収率が高いものは存在しないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭56−53744号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science, Vol.106, 2151-2157 (2007)
【非特許文献2】第34回 炭素材料学会要旨集, 48-49 (2007)
【非特許文献3】Journal of Applied Polymer Science, Vol.102, 2454-2462 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、上記従来技術の課題を背景になされたものであり、BET比表面積が小さくても、アルデヒド類ガスをすばやく除去することができる耐熱性をもったケミカルフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.平均繊維径が0.02〜1μmの繊維からなり、液体窒素温度における窒素吸着測定から算出したBET比表面積が100m/g以下であり、X線光電子分光分析(ESCA)における窒素/炭素(N/C)比が0.1以上であることを特徴とする繊維集合体。2.ドライアイス/メタノール寒剤温度における炭酸ガス吸着測定から算出したBET比表面積が30m/g以上である上記1記載の繊維集合体。
3.繊維集合体がシート状である上記1または2に記載の繊維集合体。
4.空気中300℃、5時間での熱処理における重量の減量が10%以下である上記1〜
3のいずれかに記載の繊維集合体。
5.FT−IR測定にて1500〜1700cm−1の間にピークを有す上記1〜4のいずれかに記載の繊維集合体。
6.ホルムアルデヒド除去量が0.5mg/g以上である上記1〜5のいずれかに記載の繊維集合体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の繊維集合体によれば、迅速にホルムアルデヒドを除去することが可能となり、例えば、家庭用空調機、自動車用空調機に用いた場合、極めて短時間で空気を浄化できる。また、本発明の繊維集合体は、粉末や粒状の除去材または除去材担持体を用いていないため、改めてシート化する必要がなく、脱落する可能性がないため、取扱い性に優れる。さらに、従来の活性炭素繊維を用いた薄い不織布やペーパーなどの繊維集合体に対して、出発物質から活性化した際の重量収率が高く、経済的である。その上、より薄いシートで効果を発現できるため、設置スペースの自由度が高いという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の繊維集合体は、窒素含有官能基を有する平均繊維径が0.02〜1μmの繊維からなり、液体窒素温度(−195.8℃)における窒素吸着測定から算出したBET比表面積が100m/g以下であり、X線光電子分光分析(ESCA)における窒素/炭素(N/C)比が0.1以上であることを特徴とする繊維集合体である。本願発明者らは、窒素含有官能基が優れたガス状アルデヒド類の吸着性能を有することを見出した。しかし、窒素含有官能基を単に付与するのみでは充分な性能を得ることができず、ガス状アルデヒド類との接触効率を大きくする必要があった。
【0015】
接触効率を大きくする手段として、BET比表面積を大きくする方法があり、液体窒素温度(−195.8℃)における窒素吸着測定からBET比表面積として算出する方法が一般的な手段として用いられている。しかし、木炭など一般的に水蒸気などによる賦活工程を加えていない炭化物などは窒素吸着測定ではほとんどBET比表面積が観測されないが、ドライアイス/メタノール寒剤温度(−78℃)における炭酸ガス吸着測定で評価するとBET比表面積及び細孔が観測されることが知られている。
【0016】
一般的に、BET比表面積を大きくするためには、500℃以上1300℃以下の温度で炭化し、さらには炭素と反応する水蒸気、酸素、二酸化炭素などを含む活性な雰囲気で賦活する活性炭化工程が必要であり、出発物質からの重量収率が著しく減少し、さらには、窒素含有官能基の量も減少する。そのため、賦活工程を加えないことは出発物質からの重量収率も維持しやすく経済的であり、また、窒素含有官能基の量も維持しやすいためガス状アルデヒド類の吸着には望ましい。
【0017】
接触効率を上げるためにはBET比表面積だけでなく、吸着材の幾何学的表面積も重要である。繊維状吸着材の場合、繊維径が細いものほど幾何学的表面積は大きくなり好ましい。
【0018】
本発明者らが鋭意検討した結果、窒素含有官能基を有する平均繊維径が0.02〜1μmの繊維からなり、液体窒素温度(−195.8℃)における窒素吸着測定から算出したBET比表面積が100m/g以下であり、X線光電子分光分析(ESCA)における窒素/炭素(N/C)比が0.1以上である繊維集合体からなるシート材料は、BET比表面積の値は小さいが、幾何学的表面積が大きいため、接触効率が非常に高いものを得ることができ、その結果、非常に優れたガス状アルデヒド類の吸着性能を有する繊維集合体が得られることを知見した。
【0019】
この繊維集合体は、活性炭素化工程を加えていないため、重量収率を著しく減少させることがなく経済的であり、ガス状アルデヒド類の吸着性能に寄与する窒素含有官能基の減少も抑制することが可能である。また、シート材料としての強度も保ちやすいという優れた効果を有するものである。
【0020】
本発明の繊維集合体を形成する繊維は、活性炭素化工程を加えていないため、窒素含有官能基の定量的な評価法であるX線光電子分光分析(ESCA)による、炭素原子に対する窒素原子の比である窒素/炭素(N/C)比を測定すると、窒素/炭素(N/C)比が0.1以上と、多くの窒素含有官能基を有する繊維集合体である。窒素/炭素(N/C)比が0.1未満であると、ガス状アルデヒド類の吸着性能が低下してしまう。
【0021】
本発明の繊維集合体を形成する繊維は、繊維形状、さらにはシート形状を維持する観点から、繊維径として、平均繊維径が0.02〜1μmである繊維であり、好ましい平均繊維径としては、0.05〜0.7μmである。平均繊維径が0.02μm未満の繊維では、繊維集合体の強度が低くなり、平均繊維径が1μmを超えると、繊維集合体の幾何学的表面積が減り、吸着性能が低下してしまう。
【0022】
本発明の繊維集合体は、液体窒素温度(−195.8℃)における窒素の吸着測定から算出したBET比表面積が100m/g以下である。重量収率と液体窒素温度(−195.8℃)における窒素吸着測定から算出したBET比表面積とには相関関係があり、100m/gを超える場合は重量収率が50%を下回り、経済的に好ましくない。BET比表面積の下限は特に限定されるものではないが、0.01m/gが測定下限である。
【0023】
また、本発明の繊維集合体は、木炭など一般的に水蒸気などによる賦活工程を加えていない炭化物など窒素吸着測定ではほとんどBET比表面積が観測されないものでも、BET比表面積が測定可能な、ドライアイス/メタノール寒剤温度(−78℃)における炭酸ガス吸着測定で評価すると、BET比表面積が測定可能で、その値は30〜2000m/gである。
【0024】
本発明の繊維集合体を得る手段を、例として具体的に説明する。
本発明における繊維集合体は、窒素含有官能基を持つ樹脂を出発物質とし、耐熱化することを特徴とする。ここでいう耐熱化とは、出発物質を空気中で熱処理する耐炎化だけでなく、さらにその耐炎化物を不活性雰囲気中で炭化する処理も含む。
【0025】
窒素含有官能基を持つ樹脂として、例えば、アクリル樹脂、アミド樹脂、アラミド樹脂、イミド樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂などがあげられる。またそれらの成分を含んだ、共重合やブレンドなどの手法で混合された混合樹脂を用いてもかまわない。その中でも、アクリル樹脂の一種であるポリアクリトニトリルを出発物質とするのが望ましい。耐熱化を行うにあたり、窒素含有官能基が残りやすく好ましい。また、耐熱化を行っても重量収率が高いため好ましい。
【0026】
さらにその中でも、酸成分(カルボン酸など)を有する成分を共重合させた、変性ポリアクリロニトリルを出発物質とすることが望ましい。変性をしない場合、急激な反応が起きる場合があり、制御が困難である。変性をすることで反応開始点を局所化し制御が容易になる。
【0027】
本発明の繊維集合体を構成する極細繊維を得る手段は特に限定されないが、荷電紡糸法によることが好ましい。ここでいう荷電紡糸法とは、捕集基盤をアースに繋がった電極上にセットし、前駆体となる樹脂を溶解した溶液を注射器の筒状の容器に入れ、注射器の先端部の溶液噴出ノズルに電圧をかけ、捕集基材に噴出することで前駆体の繊維集合体を得るものである。
【0028】
前駆体の繊維集合シートの耐炎化処理は、空気雰囲気中で温度範囲200〜300℃で熱処理する。耐炎化は、バッチ式焼成炉でも連続焼成炉でもよい。
【0029】
さらに、この耐炎化処理を行った繊維集合体シートを300℃以上1300℃以下の温度の不活性雰囲気で炭化してもかまわない。1300℃を超える温度で行うと重量収率が大きく低下してしまうため好ましくない。また、300℃未満の耐炎化処理以下の温度では炭化はされない。
【0030】
本発明の繊維集合体は、空気中300℃、5時間での熱処理における重量の減量が10%以下である耐熱性を持つことが好ましい。かかる耐熱性を有することにより、消費者等の使用時の安全性が高いからである。減量の下限は特に問題にならないが、1%を下回ることは市場の要請が乏しい一方で、技術的な困難性が高くなる。
【0031】
本発明の繊維集合体は、FT−IR測定にて、1500〜1700cm−1の間にピー
クを有することが望ましい。このピークは窒素を含有するアミン基またはピリジン基に由来されるピークであり、これによるアルデヒド類との化学吸着が可能なためである。
【0032】
本発明の繊維集合体は、本文記載のホルムアルデヒド除去評価において、除去量が0.5mg/g以上であると、市場の要請に充分に応えることができる。
【0033】
本発明の繊維集合体は、アルデヒド除去材に用いることが好ましい。本発明の繊維集合体は特にアルデヒド除去性能に優れるため、かかる用途に用いると、特に有用であるからである。
【実施例】
【0034】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また以下の各実施例における評価項目は以下のとおりの手法にて実施した。
【0035】
(重量収率)
ホルムアルデヒド除去評価用のサンプル作成における熱処理前後での絶乾重量を測定し、重量収率(%)を算出した。
【0036】
(平均繊維径)
走査型電子顕微鏡鏡にて10000倍または1000倍に拡大した写真から計30点の繊維径を測定し、平均したものを平均繊維径(単位μm)とした。
【0037】
(BET比表面積)
サンプル15mgを採取し、120℃、12時間真空乾燥して秤量し、自動比表面積装置ジェミニ2375(マイクロメトリックス社製)を使用した。比表面積はBET法を利用し、相対圧は0.02〜0.15の範囲を用いた。また、窒素の吸着断面積を0.162 nm、炭酸ガスの吸着断面積を0.195 nmとして計算した(A.L.McClellan,H.F.Harnsberger,J.Colloid Interface Sci.,23,577(1967))。窒素の吸着温度は−195.8℃(液体
窒素温度)、炭酸ガスの吸着温度は−78℃(ドライアイス/メタノール寒剤温度)である。
【0038】
(FT−IR測定)
日本分光社製フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR6100)にて分解能4cm−1、積算16回で測定し、1500〜1700cm−1のアミンまたはピリジンに由来さ
れるピークの有無を評価した。
【0039】
(X線光電子分光分析(ESCA))
窒素/炭素(N/C)比については、光電子分光法(ESCA)で測定した。試料を試料ホルダ上に金属製カバーを用いて固定し、予備排気室で十分に排気した後、測定室チャンバー内に投入しCCDカメラで測定位置を確定した。X線源としてMg Kα1,2を
用い、出力は14kV、25mA設定した。検出器のパスエネルギーは11.75eV、光電子の脱出角度は45度とした。測定は0.1eVピッチで行い,測定時間は1ピッチあたり100msとし50回以上積算を行った。また測定中試料チャンバー内の真空度を1×10−7Paから1×10−8Paの間に保った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。
C1sピーク面積は結合エネルギー282〜298eVの範囲で,N1sピーク面積は407〜395eVの範囲でそれぞれShirley法のバックグラウンドを引くことにより求めた。バックグラウンドを引く際の2端点強度はそれぞれの端点付近の10点の強度を数値平均した値を用いた。
窒素/炭素(N/C))は、上記N1sピーク面積に対するC1sピーク面積の比を、装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表した。なお、本実施例ではX線光電子分光測定装置として(アルバック・ファイ社製、「ESCA−5801MC」)を用い、かかる装置固有の感度補正値は1.59であった。
【0040】
(耐熱性評価)
乾燥させたサンプル約100mgの重量を熱処理前の重量とし、電気炉にて空気雰囲気下5℃/minで300℃まで昇温し5時間保持したサンプルを乾燥させ、その重量を熱処理後の重量とし、熱処理前後の重量から減量率(%)を算出した。ここで言う乾燥とは、120℃、3時間の真空雰囲気(真空度1.3Pa以下)処理のことである。
【0041】
(ホルムアルデヒド除去評価)
5Lのテドラーバッグ中に、N希釈によりホルムアルデヒドの濃度を4ppmにした
ガスを4L、およびサンプル10mgを封入した。中に入っているホルムアルデヒドを含むガスをサンプルが十分に接触するようにテドラーバッグを適宜振った。なお、テドラーバッグ周囲の雰囲気温度は25℃とした。60分後のテドラーバッグ内のホルムアルデヒド濃度を電気化学式燃料電池法のホルムアルデヒドメーターにて測定し、除去前後のホルムアルデヒドの濃度変化から、ホルムアルデヒドのサンプル重量あたりの除去量(mg/g)を算出した。
【0042】
(実施例1)
アクリロニトリルとメタクリル酸のモル比が96:4の変性ポリアクリロニトリル樹脂をN、N−ジメチルアセトアミドに溶解させた溶液から荷電紡糸法によって繊維集合体シートを作成した。この繊維集合体シートを、空気雰囲気中で昇温速度5℃/minで300℃まで昇温し、60分間保持させ、耐炎化繊維集合体シートを得た。熱処理前後の重量変化から、重量収率(%)を算出した。上記繊維集合体シートを基材から剥離させ、平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、X線光電子分光分析(ESCA)、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同じ組成の変性ポリアクリロニトリル樹脂をN、N−ジメチルアセトアミドに溶解させた溶液から荷電紡糸法によって平均繊維径が実施例1と異なる繊維集合体シートを作成し、実施例1と同条件で耐炎化繊維集合体シートを作成した。作成した耐炎化繊維集合体シートを不活性雰囲気中で昇温速度5℃/minで600℃まで昇温し5分保持させ、炭化繊維集合体シートを得た。荷電紡糸法による繊維集合体シートからの重量変化から、重量収率(%)を算出した。この炭化繊維集合体シートを基材から剥離させ、平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、X線光電子分光分析(ESCA)、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0044】
(実施例3)
実施例2と同様にして、平均繊維径が異なる繊維集合体シートを作成し、実施例1と同条件で耐炎化繊維集合体シートを作成した。作成した耐炎化繊維集合体シートを不活性雰囲気中で昇温速度5℃/minで600℃まで昇温し5分保持させ、炭化繊維集合体シートを得た。荷電紡糸法による繊維集合体シートからの重量変化から、重量収率(%)を算出した。この炭化繊維集合体シートを基材から剥離させ、平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、X線光電子分光分析(ESCA)、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0045】
(実施例4)
実施例2と同様にして、平均繊維径が異なる繊維集合体シートを作成し、実施例1と同条件で耐炎化繊維集合体シートを作成した。作成した耐炎化繊維集合体シートを不活性雰囲気中で昇温速度5℃/minで600℃まで昇温し5分保持させ、炭化繊維集合体シートを得た。荷電紡糸法による繊維集合体シートからの重量変化から、重量収率(%)を算出した。この炭化繊維集合体シートを基材から剥離させ、平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、X線光電子分光分析(ESCA)、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0046】
(比較例1)
ポリアクリロニトリル系耐炎化繊維ラスタン(旭化成工業株式会社製)を不活性雰囲気中で昇温速度5℃/minで600℃まで昇温し5分間炭化させ炭素繊維を得た。熱処理前後の重量変化から、重量収率(%)を算出した。得られた炭素繊維で平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、X線光電子分光分析(ESCA)、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0047】
(比較例2)
ノボラック型フェノール樹脂をメタノールに溶解させた溶液から荷電紡糸法によって、フェノール系繊維集合体シートを得た。このフェノール系繊維集合体シートを基材から剥離させ、不活性雰囲気中で昇温速度5℃/minで900℃まで昇温し30分間炭化させ、フェノール系炭化繊維集合体シートを得た。熱処理前後の重量変化から、重量収率(%)を算出した。得られたフェノール系炭化繊維集合体シートで平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、X線光電子分光分析(ESCA)、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0048】
(比較例3)
ノボラック型フェノール樹脂系繊維であるカイノール(群栄化学工業株式会社製)を、不活性雰囲気中で昇温速度5℃/minで900℃まで昇温し30分間炭化させ、フェノール系炭化繊維集合体シートを得た。熱処理前後の重量変化から、重量収率(%)を算出した。得られたフェノール系炭化繊維集合体シートで平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、X線光電子分光分析(ESCA)、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0049】
(比較例4)
ポリアクリロニトリル系耐炎化繊維ラスタン(旭化成工業株式会社製)を、水蒸気濃度20vol%の水蒸気を雰囲気にて800℃150分間水蒸気賦活を行い活性炭素繊維を得た。熱処理前後の重量変化から、重量収率(%)を算出した。得られたフェノール系炭化繊維集合体シートで平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、X線光電子分光分析(ESCA)、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0050】
(比較例5)
ノボラック型フェノール樹脂系繊維であるカイノール(群栄化学工業製)を、水蒸気濃度20vol%の水蒸気を雰囲気にて900℃30分間水蒸気賦活を行い活性炭素繊維を得た。熱処理前後の重量変化から、重量収率(%)を算出した。得られたフェノール系炭化繊維集合体シートで平均繊維径、BET比表面積、FT−IR測定、X線光電子分光分析(ESCA)、耐熱性評価、ホルムアルデヒド除去評価を行った。
【0051】
結果を表1に示す。表1で明らかなように、本発明である実施例1〜4は、平均繊維径が0.02〜1μmであり、窒素におけるBET比表面積が100m/g以下であり、炭酸ガスにおけるBET比表面積が30m/g以上を有し、さらにN/Cが0.1以上を満たしているため60分後のホルムアルデヒド除去容量は高い値を示している。対して、N/Cが0.1以上であり炭酸ガスにおけるBET比表面積が30m/g以上であるが繊維径が1μm以上の場合(比較例1)、また、繊維径が0.02〜1μmであり、炭酸ガスにおけるBET比表面積が30m/g以上であるがN/Cの値が0の場合(比較例2)は除去容量が低いことがわかる。比較例1に比べ実施例1〜4がN/Cの値が高い理由として、繊維径が細く外表面積が大きいことが上げられる。ESCAは固体表面の数nmの表層の元素量を評価する手法であり、幾何学的表面積が高いため、表層に出ているNの量が多いと考えられる。比較例2と比較例3は繊維径以外の物性はほとんど同じであるが、繊維径が細いほど接触孔率が高いためホルムアルデヒドの除去容量が高いことがわかる。比較例4と比較例5は水蒸気雰囲気で賦活工程を行った活性炭素繊維である。賦活工程を行ったことで重量収率は50%以下とかなり低い。比較例4に比べ、比較例5の方がBET比表面積は大きいが、窒素含有官能基を持っていないためホルムアルデヒドの除去性能は低く、窒素含有官能基の存在が有用であることがわかる。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、出発物質からの重量収率が高く、かつ低温でのガス状アルデヒド類の除去性能に優れた繊維集合体を単独、あるいはそれを部材の一部とした除去フィルターとしての利用が容易であることから、産業界に大きく寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が0.02〜1μmの繊維からなり、液体窒素温度における窒素吸着測定から算出したBET比表面積が100m/g以下であり、X線光電子分光分析(ESCA)における窒素/炭素(N/C)比が0.1以上であることを特徴とする繊維集合体。
【請求項2】
ドライアイス/メタノール寒剤温度における炭酸ガス吸着測定から算出したBET比表面積が30m/g以上である請求項1に記載の繊維集合体。
【請求項3】
繊維集合体がシート状である請求項1または2に記載の繊維集合体。
【請求項4】
空気中300℃、5時間での熱処理における重量の減量が10%以下である請求項1〜
3のいずれかに記載の繊維集合体。
【請求項5】
FT−IR測定にて1500〜1700cm−1の間にピークを有する請求項1〜4のいずれかに記載の繊維集合体。
【請求項6】
ホルムアルデヒド除去量が0.5mg/g以上ある請求項1〜5のいずれかに記載の繊維集合体。

【公開番号】特開2011−12378(P2011−12378A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200219(P2009−200219)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】