説明

窒素固定化材料及びそれを用いた窒素固定化方法

【課題】より窒素固定収率の高い窒素固定化材料及び窒素固定化方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる窒素固定材料は、光触媒機能を有する無機物半導体微粒子と、前記無機物半導体微粒子を覆う導電性ポリマーと、を有する。この場合において、無機物半導体微粒子は、酸化チタンナノ粒子であることが好ましい。またこの場合において、導電性ポリマーと前記無機物半導体微粒子の質量比は、前記導電性ポリマーの質量を1とした場合、1以上30以下であることが好ましい。また本発明に係る窒素固定化方法は、光触媒機能を有する無機物半導体微粒子と無機物半導体微粒子を覆う導電性ポリマーを窒素を含む雰囲気中に配置して光を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素の固定化材料及び窒素固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物体は細胞からなり、細胞は炭素、水素、酸素及び窒素の4つの基本元素から成り立っている。炭素、水素及び酸素は植物の行う光合成の産物に由来する。一方、窒素は空気中の窒素ガスがその唯一の起源であり、地中のバクテリアがこの窒素を固定化し、窒素化合物を生産する(生物学的窒素固定)。また窒素を固定化する他の方法としては、空気中の窒素ガスと天然ガスから採取した水素ガスを高温高圧下で反応させアンモニアを作り出す人工窒素固定化法がある(ハーバーボッシュ法)。こうして2つの方法で作り出された窒素化合物は植物に与えられ、植物は自らの身体を形成する。そして動物は植物を摂取し身体を形成する。人間はその双方を摂取し、生命維持を行っている。
【0003】
しかしながら、上記ハーバーボッシュ法は化石エネルギーを必要とするエネルギー浪費プロセスであり、化石燃料が枯渇した場合稼働しなくなるといった問題がある。石油が枯渇した場合、人類の1/3の生命維持が困難になるとの報告もある(例えばV.Smil、Scientific America誌、July 1997、pp58―63及びその日本語訳
V.Smil日経サイエンス誌、1997年12月号、104−110頁を参照)。従って、石油が枯渇する将来において前記生物体内で必要とされる窒素を供給するためには、ハーバーボッシュ法の代替プロセスの開発が急務であり、国際的な問題となっている。
【0004】
このような代替プロセスとしては、近年様々な手法が提案されている。例えば、下記非特許文献1には、還元処理を行ったメソポーラス酸化チタン材料を用いて空中窒素からアンモニアを形成する手法が開示されている。
【0005】
また、下記非特許文献2及び3には、FeTi光触媒材料を合成し、光照射を行い、空中窒素をアンモニア及び硝酸塩に変換する手法が開示されている。
【0006】
また、下記非特許文献4には、溶融塩中で窒素還元を行ってN3−を形成し、水素ガスと反応させることによってアンモニアを得る手法が開示されている。
【0007】
また、下記非特許文献5には、C60とγシクロデキストリンの錯体を形成し、Naとともに水に投入した水溶液に可視光照射を行い、アンモニアを形成する手法が開示されている。
【0008】
また、下記非特許文献6には、1−ブタノールのプラズマ重合反応において、空気中の窒素ガスを固定化しポリマー中に窒素化合物として取り込ませる手法が開示されている。
【0009】
また、本発明者らは、光触媒機能を有する酸化チタンと陰イオンをドーピングした導電性ポリマー材料を接触させて複合材料を形成し、水分と窒素ガスが存在する雰囲気下で複合材料に光照射を行うことによって空気中の窒素ガスをアンモニア及びアンモニウム塩へと物質変換する新たな空中窒素固定化法を提案している(下記特許文献1乃至3並びに非特許文献7乃至11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−72985号公報
【特許文献2】特開2003−200057号公報
【特許文献3】特開2008−221037号公報
【非特許文献1】M.Vettraino、M.Trudeau、A.Y.H.Lo、R.W.Schurko、D.Antonelli、Journalof theAmerican Chemical Society誌、124巻、9567頁、2002年
【非特許文献2】O.Rusina、O.Linnik、A.Eremenko、H.Kisch、Chemistryof EuropeanJournal誌、9巻、561頁、2003年
【非特許文献3】O.Rusina、A.Eremenko、G.Frank、H.−P.Strunk、H.Kisch、AngewandteChemieInternational Edition誌、40巻、3993頁、2001年)
【非特許文献4】T.Murakami、T.Nishibayashi,T.Nishikiori、T.Nohira,Y.Ito、Journaoof AmericanChemical Society誌、125巻、334頁、2003年
【非特許文献5】Y.Nishibayashi、M.Saito,S.Uemura、S.Takekuma、H.Takekuma、Z.Yoshida、Nature誌、428巻、279頁、2004年
【非特許文献6】H.Matsuura、T.Tanikawa、H.Takaba、Y.Fujiwara、Journalof PhysicalChemistry B誌、108巻、17748頁、2004年
【非特許文献7】K.Hoshino、M.Inui、T.Kitamura、H.Kokado、AngewandteChemie InternationalEdition誌、39巻、2509頁、2000年
【非特許文献8】K.Hoshino、T.Kitamura、ChemistryLetters誌、1120頁、2000年
【非特許文献9】K.Hoshino、Chemistryof EuropeanJournal誌、7巻、2727頁、2001年
【非特許文献10】T.Ogawa、T.Kitamura、T.Shibuya、K.Hoshino、ElectrochemistryCommunications誌、6巻、55頁、2004年
【非特許文献11】T.Ogawa、T.Igarashi、T.Kawanishi、T.Kitamura、K.Hoshino、Journalof PhotopolymerScience andTechnology誌、17巻、143頁、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1及び2、並びに上記非特許文献1乃至11に開示された手法ではいずれも使用する酸化チタン材料の窒素固定活性自体は高いものの、導電性ポリマーを接触させるプロセスにおいて著しく窒素固定活性が低下し、窒素固定収率が抑制されてしまうという課題があった。
【0012】
一方、上記特許文献3に関する技術は、導電性ポリマーにおける窒素固定活性の低下を防止することができるが、それでもまだ窒素固定回収率の向上が望まれる。
【0013】
そこで、本発明は、より窒素固定収率の高い窒素固定化材料及び窒素固定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する第一の手段として、本発明に係る窒素固定化材料は、光触媒機能を有する無機物半導体微粒子と、この無機物半導体微粒子を覆う導電性ポリマーと、を有する。
【0015】
また上記課題を解決する第二の観点として、本発明に係る窒素固定化方法は、光触媒機能を有する無機物半導体微粒子と無機物半導体微粒子を覆う導電性ポリマーを窒素を含む雰囲気中に配置して光を照射する。
【発明の効果】
【0016】
上記の構成によって、より窒素固定収率の高い窒素固定化材料及び窒素固定化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る窒素固定化材料のイメージを示す図である。
【図2】実施形態に係る窒素固定化材料の製造方法の例を示す図である。
【図3】実施形態に係る窒素固定化材料の窒素固定の原理のイメージを示す図である。
【図4】実施例のアクリルボックスの概要を示す図である。
【図5】実施例に係る窒素固定化材料のPEDOTとアモルファス酸化チタンナノ微粒子の質量比を示す図である。
【図6】実施例に係る窒素固定化材料のアニール温度依存性を示す図である。
【図7】実施例に係る窒素固定化材料の加熱処理温度依存性を示す図である。
【図8】実施例に係る窒素固定化材料の加熱処理時間依存性を示す図である。
【図9】実施例に係る窒素固定化材料の露光時間と窒素固定収量の関係を示す図である。
【図10】実施例に係る窒素固定化材料のPEDOTとルチル・アナターゼ酸化チタンナノ微粒子の質量比を示す図である。
【図11】実施例に係る窒素固定化材料の露光時間と窒素固定収量の関係を示す図である。
【図12】実施例に係る窒素固定化材料のアニール温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本実施形態に係る窒素固定化材料のイメージを示す図である。本実施形態に係る窒素固定化材料は、光触媒機能を有する無機物半導体微粒子と、この無機物半導体微粒子を覆う導電性ポリマーと、を有する。
【0020】
本実施形態において、無機物半導体微粒子は、光触媒機能を有するものであって、この限りにおいて限定されるわけではなく、酸化チタンナノ微粒子であることが好ましい。ナノ微粒子が酸化チタンの場合、限定されるわけではないが二酸化チタン(TiO)であることが好ましく、二酸化チタンの場合アモルファスであってもよいが、ルチル型、アナターゼ型及びこれらの混合型の少なくともいずれかであればより窒素固定収率が高くなるため好ましい。
【0021】
また本実施形態において、無機物半導体微粒子の粒径は、限定されるわけではないが、いわゆるナノレベルであることが好ましく、平均粒径としては、5nm以上500nm以下の範囲にあることが好ましく、より好ましくは10nm以上300nm以下の範囲である。この範囲とすることで、窒素固定の効率を飛躍的に向上させる範囲でうまく導電性ポリマー中に分散可能となるといった効果がある。
【0022】
また本実施形態において、導電性ポリマーは、導電性を有するポリマーであり、窒素固定を行なうことができる限りにおいて限定されるわけではないが、下記式で示される化合物(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、以下「PEDOT」ともいう。)又はそれら誘導体の少なくともいずれかを含むことが好ましい。PEDOTは、ClOを含み、これが光との反応を介してHClOとなり、同様に光照射によって精製されるNHと結合し過塩素酸アンモニウムNHClOとして窒素固定化材料表面に析出させることができる。なお下記式中n、mは整数である。
【化1】

【0023】
また本実施形態において、上適宜調整可能であるが、導電性ポリマーと無機物半導体微粒子の質量比は、導電性ポリマーの質量を1とした場合、1以上30以下であることが好ましく、より好ましくは2以上25以下、更に好ましくは8以上20以下の範囲内にあることが好ましく、最も好ましい比としては10である。
【0024】
ここで、上記窒素固定化材料の製造方法について説明する。上記窒素固定化材料は、製造できる限りにおいて限定されないが、例えば、導電性ポリマーを分散させた溶液に無機物半導体微粒子を加え、混合、攪拌を行なった後、乾燥処理することで作製することができる。この例を図2に示しておく。なお、本図においては、導電性ポリマーを分散させた溶液に無機物半導体微粒子を加える方法として、導電性ポリマーを分散させた溶液に無機物半導体微粒子を投入する方法を開示しているがこれに限定されず、例えば、無機物半導体微粒子を配置した容器内に導電性ポリマーを分散させた溶液を滴下させる方法もあり、これに限定されるわけではない。
【0025】
また本実施形態において、導電性ポリマーを分散させた溶液を作成するに当たり、用いる溶媒としては、この機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばニトロメタン、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、アセトン、エタノール、メタノール、ブタノール、γ−ブチロラクトン、塩化メチレン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン等を用いることができる。なお、この溶媒に対する導電性ポリマーの濃度も適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えば、溶媒に対し0.01重量%以上10重量%以下の範囲としておくことが分散性を高める上で好ましい。
【0026】
また導電性ポリマーと無機物半導体微粒子を混合、攪拌した後、乾燥する処理は、温度時間とも適宜調整可能であり特に限定はされない。
【0027】
また本実施形態においては、更に、無機物半導体微粒子にアニール処理を施すことが好ましい。アニール処理の条件についても適宜調整可能であり限定されるわけではないが、アルゴンや水素を含む非酸化性の雰囲気中で行なうことが好ましい。
【0028】
以上の工程を経ることで、本実施形態に係る窒素固定化材料を作製することができる。
【0029】
更に、本窒素固定化材料を用いた窒素固定化方法について説明する。具体的に本実施形態に係る窒素固定化方法は、光触媒機能を有する無機物半導体微粒子と無機物半導体微粒子を覆う導電性ポリマーを窒素を含む雰囲気中に配置して光を照射することで実現できる。なお本実施形態において窒素を含む雰囲気としては、限定されず、空気中で十分可能である。また、光としては太陽光を用いることができる。即ち本実施形態に係る窒素固定化材料は、空気中において太陽光に晒すだけで窒素を固定することができる。
【0030】
なおここで図3に、本実施形態に係る窒素固定化の原理について示しておく。まず、導電性ポリマーに太陽光が当たると、無機物半導体微粒子表面の酸素欠陥部位において水が原子状の水素になる反応が進行する。一方、酸素欠陥部位のなかには窒素を捕獲している部位もあり、この水素と窒素とが結合してアンモニアとなる。一方、導電性ポリマー中ではClOがドープされており、太陽光によってClOが遊離し、水素イオンと結合してHClOとなる。そして上記アンモニアとHClOとが反応して過塩素酸アンモニウム(NHClO)の針状結晶として導電性ポリマー表面に析出することとなる。すなわち、本実施形態に係る窒素固定化材料は、このような反応する場を広く有しているため、極めて効率の良い窒素固定を行なうことができるようになる。特に本実施形態に係る窒素固定化材料は、公知の材料とは異なり、無機物半導体として基板を用いる必要がなく、微小な粒としての形状を有しているため、様々な形状とすることが可能であり、適用場所が極めて広くなるといった効果もある。
【実施例】
【0031】
ここで、上記窒素固定化材料の効果について、実際に作成しその効果を確認した。以下具体的に説明する。
【0032】
(実施例1:アモルファス酸化チタンの例)
(試料1)
導電性ポリマーとして、PEDOT(アルドリッチ社製)を1wt%の濃度でニトロメタン中に分散させ、分散溶液0.1gを作製し、容器中にアモルファス酸化チタンナノ微粒子(出光興産(株)製、出光チタニア、平均粒径209nm)を10mg配置し、上記分散溶液を加え混合し、60℃で60分乾燥させ、溶媒を除去した。
【0033】
その後、蓋がくり抜され、その部分に円形の石英窓(22cm×厚さ2mm)が配置されたアクリルボックス(500mm×500mm×750mm)内に上記試料を2cmの面積となるよう配置し、擬似太陽光灯(セリック社製、XC−100BF1RC、100W)により20℃、常圧下で1週間露光した。なお上記アクリルボックス内には調湿溶液として塩化カリウムを配置し、常時湿度が50〜60%となるよう調節した。また露光強度は、日射計(英弘精機社製、MS−601)を用い、260W/mとなるよう設定した。なおこのアクリルボックスの概略図を図4に示しておく。
【0034】
その後、上記試料に固定化された過塩素酸アンモニウム及びアンモニアの量をインドナフトール法を用いて定量した。なおインドナフトール法は、アンモニアが次亜塩素酸塩によってモノクロラミンとなり、これがαナフトールと反応して4−アミノ−1−ナフトール或いはナフトキノンクロルイミンを経てインドフェノール型の色素を生成し、呈色することを利用したNH及びNHの吸光光度定量法である。
【0035】
インドナフトール法は、6mlの蒸留水に試料を2分間浸し、原液とした。そして原液のうち5mlを取り、次亜塩素酸ナトリウム溶液(有効塩素濃度0.1%以上)を1ml加え、1分間攪拌した。更に、0.2M水酸化ナトリウム溶液3ml加えて攪拌し、同様に5.0wt%の1−ナフトールアセトン溶液1.5mlを加え攪拌した。攪拌後蒸留水を加えて25mlにし、5分後に分光光度計(日立製作所製、U−3000)にて吸収スペクトルを測定した。なおこのときの光路長は5cmとした。そして得られたスペクトルより以下の計算式を用いて窒素固定収量を算出した。なお下記式中、Apは720nm附近のピーク値を、Abはバックグラウンド吸収の値(900nm附近の値)を、Cはアンモニウムイオンの濃度(mol/l)をそれぞれ示す。また下記式中、1680M−1cm−1は0.1mMの過塩素酸アンモニウム標準溶液を用いて行なった呈色実験の結果から得られた吸光係数である。
【数1】

【0036】
なお上記得られた値は6ml中5mlの量であること、更に過塩素酸アンモニウムが2cmの面積状に精製していることを考慮し、下記補正を行い、面積1mあたりに精製するアンモニウム及びアンモニアの物質量Y(mol/m)を下記式を用いて求めた。
【数2】

【0037】
(試料2乃至7)
また、上記試料1における酸化チタンの量を変えた以外は同じ条件で同様に試料2乃至7を作製し、上記試料1と同様の実験を行なった。この結果を図5に示しておく。なお試料2乃至7の酸化チタンの量は2mg(試料2)、4mg(試料3)、6mg(試料4)、8mg(試料5)、20mg(試料6)、30mg(試料7)とした。
【0038】
この結果、導電性ポリマーに対する酸化チタンの質量比が10である場合(試料1の場合)、10mmol/mと非常に高い値が確認でき、導電性ポリマーに対する酸化チタン微粒子の質量比が2、4、6、8、20の場合でも、公知の酸化チタン板/PEDOT膜からなる窒素固定材料の最大収量5.6mmol/mよりも高い値となっており、公知のものよりも高い値となっていることが確認できた。即ち、導電性ポリマーと前記無機物半導体微粒子の質量比は、前記導電性ポリマーの質量を1とした場合、2以上25以下であることが好ましいことが確認できた。
【0039】
(試料8乃至11)
次にアモルファス酸化チタンナノ微粒子にアニール処理を施した後に導電性ポリマー分散液を加えて混合し、60℃で60分乾燥させて溶媒を除去することにより窒素固定化材料を作製した。具体的にはアモルファス酸化チタンナノ粒子を石英管に移し、アルゴン水素(Ar95%、H5%)ガスで30分間パージした後、上記試料を一定温度で1時間アニーリングした。なおアニーリング後は試料が十分冷却されるまで上記ガスを流し続けた。上記ガスの流量は100ml/分とした。アニール処理の温度を異ならせた以外は同様として試料8乃至11をそれぞれ作製し、上記と同様の窒素固定化実験を行なった。なおアニール処理の温度は、それぞれ200℃(試料8)、400℃(試料9)、600℃(試料10)、800℃(試料11)とした。この結果を図6に示しておく。
【0040】
この結果、200℃をピークとして窒素固定収量の増加及び減少が確認できたが、いずれも8mmol/m程度以上を確保できていることが確認できた。この結果、アニール処理としては室温以上800℃以下程度であれば特に問題がないことが確認できた。
【0041】
(試料12乃至20)
次に上記試料1と導電性ポリマー分散液を混合した後に溶媒を蒸発させる過程において、溶媒を除去する際の温度、時間が異なる以外は同じ条件で試料12乃至20の作製を行い、上記試料1と同様の実験を行なった。この結果を図7に示しておく。なお溶媒除去の温度は、それぞれ室温(27℃、試料12)、40℃(試料13)、60℃(試料14)、80℃(試料15)、100℃(試料16)、120℃(試料17)、140℃(試料18)、180℃(試料19)、200℃(試料20)とし、溶媒を除去する時間はいずれも60分とした。
【0042】
この結果、120℃で溶媒を除去した場合、なんと33mmol/m以上の窒素固定収量を得ることができ、これは公知の酸化チタン板/PEDOT膜からなる窒素固定材料の最大収量5.6mmol/mよりも極めて高い値となっていることが確認できた。この結果の機構はまだ推定の域を出ないが、主生成物がドーパントアニオンのアンモニウム塩であることを考えると予め加熱処理を行うことで導電性ポリマーの脱ドープを誘起し、遊離のドーパントアニオンを形成しておくことができるため、窒素固定収量を増大させることができたと考えられる。
【0043】
(試料21乃至26)
次に、試料17と導電性ポリマーにおける溶媒を除去する際の時間が異なる以外は同じ条件で試料21乃至26の作製を行い、上記試料1と同様の実験を行なった。この結果を図8に示しておく。なお溶媒除去の時間はそれぞれ0分(試料21)、10分(試料22)、30分(試料23)、60分(試料24)、120分(試料25)、180分(試料26)とした。
【0044】
この結果、加熱処理時間が60分までは時間とともに大きく窒素固定量が増加し、その後は増加の傾向が緩やかになっていることが確認できた。このことから、60分の加熱処理によって導電性ポリマーの脱ドープがほぼ完了し、脱ドープによって遊離した過塩素酸イオンの濃度が頭打ちになったことが示唆される。したがって、60分以降は、窒素固定物の一つである過塩素酸アンモニウムの生成量が頭打ちになり、その後はもう一つの生成物であるアンモニアの濃度がわずかずつ増加していくものと解釈できる。なお、公知の酸化チタン板/PEDOT膜からなる窒素固定材料の最大収量5.6mmol/mより高い収量を確保することができる一方、熱エネルギー浪費防止の観点から、加熱処理時間としては0分以上60分以下であることが好ましい範囲である。
【0045】
また上記試料1に対し、光の照射時間を異ならせて窒素固定化実験を行なった。この結果を図9に示しておく。なお、照射時間は、それぞれ0日、1日、3日、5日、7日、9日、14日とした。この結果、照射する時間が7日までは試料に光を照射することで窒素の還元が持続し、時間とともに窒素固定収量が増大することを確認した。一方、これ以上であると、徐々に窒素固定収量が減少していることを確認した。この原因については推論の域を出ないが、生成物である過塩素酸アンモニウム又はアンモニアが時間の経過とともに別の物質へと変化している可能性が考えられる。
【0046】
以上、アモルファス酸化チタンナノ微粒子を含む場合において、本発明の効果を達成できていることを確認した。
【0047】
(実施例2:ルチル・アナターゼ混晶)
(試料27)
導電性ポリマーとして、PEDOT(アルドリッチ社製)を1重量%含有するニトロメタン分散液0.1gをサンプル管瓶(ラボラン社製、容量5ml、容器底面積約1.76cm)に入れた。そしてこの分散溶液にルチル・アナターゼ混晶酸化チタンナノ微粒子(日本アエロジル(株)製、TiO、P25、平均粒径21nm、アナターゼ80%、ルチル20%)を10mg加えて混合し、45℃で40分乾燥させ、溶媒を除去した。
【0048】
その後、蓋がくり抜され、その部分に円形の石英窓(22cm×厚さ2mm)が配置されたアクリルボックス(500mm×500mm×750mm)内に上記試料を2cmの面積となるよう配置し、擬似太陽光灯(セリック社製、XC−100BF1RC、100W)により22℃、常圧下で18日間露光した。なお上記アクリルボックス内には調湿溶液として塩化カリウムを配置し、常時湿度が70RH%となるよう調節した。また露光強度は、日射計(英弘精機社製、MS−601)及びMultimeter(KEITHLEY社製、2000MULTIMETER)を用い、260W/mとなるよう設定した。なおこのアクリルボックスは上記試料1に対して用いたものと同じものを使用した。
【0049】
その後、上記試料に固定化された過塩素酸アンモニウム及びアンモニアの量を上記試料1と同様、インドナフトール法を用いて定量した。
【0050】
(試料28乃至34)
また、上記試料27における酸化チタンナノ微粒子の量を変えた以外は同じ条件で同様に試料28乃至34を作製し、上記試料27と同様の実験を行なった。この結果を図10に示す。なお試料28乃至34の酸化チタンナノ微粒子の量は0mg(試料28)、5mg(試料29)、8mg(試料30)、9mg(試料32)、10mg(試料33)、20mg(試料34)、30mg(試料35)とした。
【0051】
この結果、導電性ポリマーに対する酸化チタンナノ微粒子の質量比が10である場合(試料33の場合)、23mmol/m程度と非常に高い値が確認でき、導電性ポリマーに対する酸化チタンナノ微粒子の質量比が5、8、9、20、30の場合でも、公知の酸化チタン板/PEDOT膜からなる窒素固定材料の最大収量5.6mmol/mよりも高い値となっており、公知のものよりも高い値となっていることが確認できた。即ち、導電性ポリマーと前記無機物半導体微粒子の質量比は、前記導電性ポリマーの質量を1とした場合、1以上30以下であることが好ましいことが確認できた。
【0052】
また、上記試料27に対し、露光時間を変化させて、その窒素固定収量を測定した。この結果を図11に示しておく。この結果によると、露光時間の増加に伴い窒素固定収量の増加が見られ、50日では50mmol/mと、公知の酸化チタン板/PEDOT膜からなる窒素固定材料の最大収量5.6mmol/mの9倍程度も高い値が確認できた。
【0053】
(試料35乃至37)
次にルチル・アナターゼ混晶酸化チタンナノ微粒子にアニール処理を施した後に導電性ポリマー分散液を加えて混合し、45℃で40分乾燥させて溶媒を除去することにより窒素固定化材料を作製した。具体的にはルチル・アナターゼ混晶酸化チタンナノ粒子を石英管に移し、アルゴン水素(Ar95%、H5%)ガスで30分間パージした後、上記試料を一定温度で30分間アニーリングした。なおアニーリング後は試料が十分冷却されるまで上記ガスを流し続けた。上記ガスの流量は100ml/分とした。次に上記試料27と、アニール処理の温度を異ならせた以外は同様として試料36乃至37をそれぞれ作製し、上記試料27と同様の実験を行なった。なおアニール処理の温度は、それぞれアニーリングなし(室温、試料36)、600℃(試料37)、800℃(試料38)とした。この結果を図12に示しておく。
【0054】
この結果、いずれも照射時間に対して窒素固定収量の増加が見られたが600℃のものが一番収量の高い結果となった。
【0055】
以上、ルチル・アナターゼ混晶酸化チタンナノ微粒子において、本発明の効果を達成できていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、窒素固定化材料及びそれを用いた窒素固定化方法において産業上の利用可能性がある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒機能を有する無機物半導体微粒子と、前記無機物半導体微粒子を覆う導電性ポリマーと、を有する窒素固定化材料。
【請求項2】
前記無機物半導体微粒子は、酸化チタンナノ粒子である請求項1記載の窒素固定化材料。
【請求項3】
前記導電性ポリマーと前記無機物半導体微粒子の質量比は、前記導電性ポリマーの質量を1とした場合、1以上30以下である請求項1記載の窒素固定化材料。
【請求項4】
光触媒機能を有する無機物半導体微粒子と無機物半導体微粒子を覆う導電性ポリマーを窒素を含む雰囲気中に配置して光を照射する窒素固定化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−55786(P2012−55786A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198394(P2010−198394)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り グリーン・サステナブル ケミストリーネットワーク、第10回 グリーン・サステナブルケミストリーネットワークシンポジウム講演予稿集、3月4日発行、及び、グリーン・サステナブルケミストリーネットワーク、第10回 グリーン・サステナブルケミストリーネットワークシンポジウム、3月4日発表
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】