説明

窓貼り用二軸配向積層ポリエステルフィルム

【課題】 フィルム製造工程におけるフィルム表面への色剤の析出が抑制された透明感のある優れた遮光性を有する窓貼り用フィルムを提供する。
【解決手段】 色剤を含有する中間層と、厚み3〜21μmの最外層をそれぞれ両面に有するポリエステルフィルムであり、フィルム表面の析出色剤を抽出した溶液の可視光線透過率が90%以上であり、フィルムヘーズが5%以下であることを特徴とする窓貼り用積層二軸延伸ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の窓、建築物の窓等のガラスに貼り合わせをして使用される色剤入り中間層を有する窓貼り用二軸配向積層ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の窓や建築物の窓等に、プライバシーの保護、意匠性、日照調整、ガラス飛散防止等の目的で貼り合わされるフィルムには、透明性、耐光性、耐水性、耐熱性、耐薬品性、機械的強度に優れているポリエステルフィルムがよく用いられる。またこれらポリエステルフィルムは一般的に色剤を含み透明感のある着色フィルムである。
【0003】
特許文献1〜2によれば色剤が表面に析出することを防ぐために内層に色剤を含む少なくとも3層からなる積層フィルムが提案されている。
【0004】
しかしながら、フィルム生産ラインで熱処理したあとフィルムと接触するロールに色剤が付着して、ロール拭きの頻度があがりフィルム生産性に悪影響を与える。また、色剤付着物によりフィルム表面に押跡を生じ、フィルム外観品質に悪影響を与える問題があり、析出を抑制できるフィルムが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−264843号公報
【特許文献2】特開平10−157040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みなされたものであって、その解決課題は、フィルム製造工程におけるフィルム表面への色剤の析出が抑制された透明感のある優れた遮光性を有する窓貼り用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、色剤を含有する中間層と、厚み3〜21μmの最外層をそれぞれ両面に有するポリエステルフィルムであり、フィルム表面の析出色剤を抽出した溶液の可視光線透過率が90%以上であり、フィルムヘーズが5%以下であることを特徴とする窓貼り用積層二軸延伸ポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動車の窓、建築物の窓等のガラスに貼り合わせをして使用される窓貼り用積層二軸延伸ポリエステルフィルムの製造工程において、フィルム表面への色剤の析出が抑制され、透明感のある優れた遮光性を維持できるものであり、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおける積層された各層に用いるポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グルコースとを重縮合させて得られるものである。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グルコースとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンカルボキシレート(PEN)等が例示される。これらの中でもPETは物性とコストのバランスが良好であり、最も良く用いられるポリエステルである。
【0011】
また本発明で用いるポリエステルは、合計で通常10モル%以内、好ましくは5モル%以内であれば第三成分を含有した共重合体であってもよい。共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
【0012】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、少なくとも3層以上のポリエステルフィルム層が積層されたフィルムであることが必要であり、さらに詳しくは、全ての層が押出口金から共に溶融押し出しされる、いわゆる共押出法により押し出しされたフィルムである。
【0013】
また、フィルムは未延伸の状態や一軸延伸フィルムではなくて、縦方向および横方向の二軸方向に延伸して配向させ、その後に熱固定を施したフィルムであることが必要である。このような積層フィルムは、両面に共押出表層を有し、その間には共押出中間層を有するが、この共押出中間層自体が積層構造となっていてもよい。
【0014】
ポリエステルフィルムが単層構造である場合には、添加した色剤が多様化するフィルム熱加工や高温下での使用条件で、フィルム表面に内部から浸出してくる現象(ブリードアウト)、およびそれが昇華する現象が発生しやすく、これによってフィルム製膜機が汚染されるため、好ましくない。
【0015】
本発明におけるフィルム両面の最外層厚さは、それぞれ3〜21μmの範囲であり、好ましくは5〜16μm、さらに好ましくは8〜12μmの範囲である。いずれかの最外層厚みが3μm未満では、製膜工程中の熱固定処理時に中間層の色剤の浸出を十分に防ぐことができなくなるので好ましくない。また、いずれかの最外層厚みが21μmを超えたとしても色剤の析出防止効果は飽和しており、むしろフィルムヘーズが高くなることになり、フィルムの透明性が損なわれる。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、表層面の滑り性を確保するために、その両側の共押出表層面に微細な突起を形成させ得るに十分な粒子径と添加量の微粒子を含有させることができる。この目的で使用できる微細な不活性粒子としては、酸化ケイ素、酸化チタン、ゼオライド、窒化ケイ素、窒化ホウ素、セライト、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、リン酸リチウム、リン酸マグネシウム、フッ化リチウム、酸化アルミニウム、カオリン、タルク、カーボンブラック、および架橋高分子微粉体を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、本発明においては、配合する不活性粒子は単成分でもよく、また2成分以上を同時に用いてもよい。また、本発明においてポリエステルに不活性粒子および色剤を含有させる方法は、特に限定されるものではないが、重合工程に添加する方法、押出機を用いて粒子および色剤を練込みマスターバッチとする方法等が採用される。
【0017】
これらの滑剤粒子を用いフィルム表面性状を実現するため、フィルムの積層構成およびその外層に添加する粒子種の選定や、適正な平均粒子径とその含有量を組み合わせて二軸延伸フィルムの表面設計を確立することが望まれる。
【0018】
使用する不活性粒子の平均粒子径は、通常0.5〜3.0μm、さらには0.8〜2.0μmのものが好ましい。平均粒子径が0.5μm未満の粒子では、巻き取り作業性が劣る傾向がある。また平均粒径が3.0μmを越える粒子では、フィルム表面の平面性や透明性が損なわれることがある。さらに不活性粒子の添加量は、通常0.005〜10.0重量%、好ましくは0.01〜5.0重量%である。不活性粒子の添加量が0.005重量%未満では、フィルムの巻き特性が劣る傾向がある。また、不活性粒子の添加量が10.0重量%を超えると、フィルムの表面の粗面化の度合いが大きくなりすぎ、フィルムの可視光線透過率が減少する傾向がある。
【0019】
本発明における中間層厚に含有する色剤は、ポリエステル、共重合ポリエステル、もしくはポリブチルテレフタレートに実質的に溶解することが好ましい。ここで言う実質的に溶解するとは、ポリエステル、共重合ポリエステル、もしくはポリブチルテレフタレートの溶融状態で混練りしたときに、凝集体などが残らずに均一に混ざることを意味する。またこれらの色剤は、ポリエステル、共重合ポリエステル、もしくはポリブチルテレフタレートの成型温度で分解が少ないものが好ましい。このような色剤は化学構造的にはアントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、アゾメチン系、複素環系色剤等が好ましく挙げられ、染色方式的には分散性色剤、油溶性色剤が好適である。また一般に顔料として分類されているものであっても、上記のように溶融状態のポリエステル共重合ポリエステル、もしくはポリブチルテレフタレート中で溶解するものであれば、本発明では色剤として用いることができる。この例としては、フタロシアニン系などの銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、クロムなどの金属イオンとの錯塩色剤などを挙げることができる。このような色剤は、例えばグレー調やブラウン調に調色するために、適宜選択して数種混合して使用されるのが一般的であり、これら色剤のポリエステル中の含有量は、通常0.01〜10.0重量%、好ましくは0.05〜5.0重量%の範囲から適宜選ぶことができる。
【0020】
本発明のフィルムは、近年では、空き巣などの防犯行為防止のための防犯ガラスとして、ガラス板と貼り合わせた積層ガラスに用いることができ、フィルムの総厚さは、通常50〜200μm、好ましくは60〜180μm、さらに好ましくは70〜160μmの範囲である。フィルム厚みが50μm未満では、フィルムを貼り合わせた積層ガラスの強度が十分でなく防犯効果が十分でないことがある。また、フィルム厚みが200μm超える場合には、貼り合わせ施工性が悪くなり、また製膜時の機械的延伸が難しくなることがある。
【0021】
本発明の積層フィルムのフィルムヘーズは5%以下、好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下である。ヘーズが5%を超えると窓貼りフィルムとして用いる際、不透明さが強くなるので好ましくない。
【0022】
また、本発明のフィルムのフィルム表面への析出した色剤を注した溶液の可視光線透過率(VLT)は90%以上であり、好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上である。なお、フィルム表面への色剤析出溶液の可視光線透過率は、後述する方法で測定される。色剤析出溶液の可視光線透過率90%未満では、フィルム生産ラインで熱処理した後にフィルムと接触するロールに色剤が付着して、ロール拭きの頻度が増し、フィルム生産性に悪影響を与える。また、色剤付着物によりフィルム表面に押跡を生じ、フィルム外観品質に悪影響を与える。
【0023】
以下、本発明のフィルムの製造方法に関して具体的に説明するが、本発明の要旨を満足する限り、本発明は以下の例示に特に限定されるものではない。公知の手法により乾燥したポリエステルチップを溶融押出装置に供給し、それぞれのポリマーの融点以上である温度に加熱し溶融する。次いで、溶融したポリマーをダイから押出し、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法が好ましく採用される。本発明においては、このようにして得られたシートを2軸方向に延伸してフィルム化する。具体的な延伸条件は、前記未延伸シートを好ましくは縦方向に70〜145℃で2〜6倍に延伸し、横方向に90〜160℃で2〜6倍延伸を行い、150〜240℃で1〜600秒間熱処理を行うことが好ましい。さらにこの際、熱処理の最高温度ゾーンや熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向や横方向に0.1〜20%弛緩する方法が好ましい。また、必要に応じて再縦延伸、再横延伸を付加することも可能である。
【0024】
上記のフィルムには必要に応じてコーティングを施すことができる。例えば易接着性向上、帯電防止性向上などを目的として、インライン、オフライン、あるいは両方を組み合わせたコーティングを行うことができる。特にインラインで行うコーティングでは、上記のフィルム製造方法において、縦延伸が終了した段階で水溶性塗布液を塗布した後、テンター内で乾燥・予熱・横延伸を行い、さらに熱固定を行う一連のプロセスを用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、フィルムの諸物性の測定及び評価方法を以下に示す。
【0026】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定
ポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0027】
(2)フィルムの積層厚さ
フィルムの小片をエポキシ樹脂にて固定成形した後、ミクロトームで切断し、フィルムの断面を透過型電子顕微鏡写真にて観察した。その断面のうちフィルム表面とほぼ平行に2本、明暗によって界面が観察される。その2本の界面とフィルム表面までの距離を10枚の写真から測定し、平均値を積層厚さとした。
【0028】
(3)平均粒径(d)
島津製作所製遠心沈降式粒度分布測定装置(SP−CP3型)で測定した。
本発明において平均粒径とは、その形状の如何にかかわらず等価球形分布の積算体積分率50%の粒径を平均粒径(d)とした。
【0029】
(4)フィルムヘーズ
JIS‐K7105に準じ、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH‐300Aによりフィルムの濁度を測定した。
【0030】
(5)色剤析出溶液のVLT(%)
窒素雰囲気下、180℃のオーブンに10分間放置し熱処理した評価フィルムを底面の面積が250cmとなるようにA4サイズのケント紙と合せて折って四角の箱を作成する。次いで箱中にDMF(N,N−ジメチルホルムアルデヒド)10mlを入れ、3分間放置してフィルム表面の色剤を抽出した。次にその溶液をキシレンで50%希釈し、光軸距離10mmの石英セルに入れ、ハンターラボ社製色差計(Ultra Scan VIS)を用いて可視光線率を測定した。
【0031】
(6)フィルム生産への影響評価
フィルム生産への影響評価は以下のようにした。
○:溶液の可視光線透過率は95%%以上でほとんど色剤の析出傾向はなくフィルム生産性への悪影響はない
△:溶液の可視光線透過率が90〜95%でやや色剤の析出傾向があり、フィルム生産にやや悪影響がある
×:溶液の可視光線透過率が90%未満で色剤の析出傾向があり、ロールへの色剤析出物の付着がありロール清掃頻度を上げるため生産性が低下する
【0032】
≪ポリエステル‐Aの製造≫
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒としてテトラブトキシチタネートを加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応時間を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物を重縮合槽に移し、4時間重縮反応を行った。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04部、三酸化アンチモン0.04部、平均粒子径が1.85μmのシリカ粒子0.05重量部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.55に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステルのチップを得た。極限粘度は0.65であった。
【0033】
≪ポリエステル‐Bおよびポリエステル‐B1の製造≫
ポリエステル‐Aの製造において、平均粒子径が1.85μmのシリカ粒子0.05重量部を加えず、重縮合反応を3時間15分とする以外はポリエステル‐Aと同様の方法でポリエステル‐Bを得た。得られたポリエステルの粘度は0.53であった。ポリエステル‐Bを225℃‐0.3mmHgの条件下で15時間固相重合を行い、実質的に微粒子を含まないポリエステルB‐1を得た。得られたポリエステルB‐1の粘度は0.78であった。
【0034】
≪ポリエステル‐Cの製造≫
ポリエステル‐B1 10重量部を乾燥した後、三菱化学社製ダイアレジンレッドHS 0.4重量部、同ブルーH3G 0.8重量部および同イエローF0.3重量部をベント式二軸押出機にて溶融混練りしてポリエステル‐Cを得た。得られたポリエステルの粘度は0.61であった。
【0035】
実施例1〜3、比較例1〜3:
ポリエステル‐Cを180℃で4時間乾燥し、285℃に設定したメインの押出機に、ポリエステル‐Aを285℃に設定したサブの押出機に送り込んだ。サブ押出機のポリマーをフィルムの表裏2層(最外層)に分岐した後、ギヤポンプ、フィルターを介して、サブ押出機からポリマーとフィードブロックで合流させシート状に押出し、表面温度を30℃に設定した回転冷却ドラムで静電加冷却法を利用して急冷固化させ、実質的に非晶質のシートを得た。得られた非晶質シートを縦方向に83℃で3.3倍延伸した後、テンターに導き、横方向に90℃で3.4倍延伸し、225℃で3秒間熱処理を施し、最外層厚さと中間層の厚み構成を変えて全厚み100μmの二軸配向積層フィルムを製造した。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のフィルムは、例えば、窓貼り用のフィルムとして好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色剤を含有する中間層と、厚み3〜21μmの最外層をそれぞれ両面に有するポリエステルフィルムであり、フィルム表面の析出色剤を抽出した溶液の可視光線透過率が90%以上であり、フィルムヘーズが5%以下であることを特徴とする窓貼り用積層二軸延伸ポリエステルフィルム。