立体画像表示装置および立体画像表示方法
【課題】コヒーレント光を用いてホログラム画像を再生する際に、スペックルの発生を抑制する。
【解決手段】レーザ光源50からのビームL50を、光ビーム走査装置60によって反射させ、照明用ホログラム記録媒体45に照射する。媒体45には、走査基点Bに収束する参照光を用いて散乱板の像35がホログラムとして記録されている。光ビーム走査装置60は、ビームL50を走査基点Bで屈曲させて媒体45に照射する。このとき、ビームの屈曲態様を時間的に変化させ、ビームL60を媒体45上で走査する。ビームの照射位置にかかわらず、媒体45からの回折光L45は、同一の散乱板の再生像35を同じ位置に再生する。この再生像35の位置に空間光変調器80を配置し、所定の画像データに基づくホログラム干渉縞を形成すれば、視点Eからは、スペックルを抑制した再生像FFが観察される。
【解決手段】レーザ光源50からのビームL50を、光ビーム走査装置60によって反射させ、照明用ホログラム記録媒体45に照射する。媒体45には、走査基点Bに収束する参照光を用いて散乱板の像35がホログラムとして記録されている。光ビーム走査装置60は、ビームL50を走査基点Bで屈曲させて媒体45に照射する。このとき、ビームの屈曲態様を時間的に変化させ、ビームL60を媒体45上で走査する。ビームの照射位置にかかわらず、媒体45からの回折光L45は、同一の散乱板の再生像35を同じ位置に再生する。この再生像35の位置に空間光変調器80を配置し、所定の画像データに基づくホログラム干渉縞を形成すれば、視点Eからは、スペックルを抑制した再生像FFが観察される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体画像表示装置および立体画像表示方法に関し、特に、ホログラムとして記録された立体画像を、コヒーレント光を用いて再生してこれを表示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
立体画像を表示する代表的な方法として、二次元視差画像方式が古くから知られている。この方式は、三次元物体を両眼で観察した場合に、左右の眼の網膜に得られる画像にわずかな視差が生じ、この視差を手がかりに奥行きを知覚するという人間の知覚特性を利用する方式である。この方式で立体画像を提示するには、予め、左眼に提示するための左眼視差画像と右眼に提示するための右眼視差画像とを別個に用意しておき、何らかの方法で、左眼視差画像を左眼のみに提示し、右眼視差画像を右眼のみに提示すればよい。具体的な提示方法としては、アナグリフ方式、液晶シャッター方式、偏光眼鏡方式、パララックスバリア方式、レンチキュラレンズ方式、ヘッドマウントディスプレイ方式など、多数の方法が提案され、実用化されてきている。
【0003】
ところが、この二次元視差画像方式には、一般に「輻輳調節矛盾」と呼ばれる問題が生じることが知られている。この問題は、「眼の焦点調節距離(ピント位置)」と「輻輳角(物体から見て、左右両眼のなす角)から得られる奥行き距離」との不一致に起因するものである。すなわち、眼は常に二次元画像の表示面に焦点を合わせるため、焦点調節距離は固定であるのに対して、輻輳角は表示される物体の奥行きに応じた異なる角度になるので、脳が両者間の矛盾を認識することになる。この矛盾は、立体画像を観察する際に生じる眼精疲労の原因とも言われている。
【0004】
これに対して、ホログラフィの技術を利用した立体画像の提示方法では、物体から生じる光の波面の情報を一旦ホログラムという形式で記録し、再生時には、このホログラムに再生用照明光を照射することにより、記録されていた波面を再生することになる。この方法では、物体の波面の情報を正確に再現することができるため、上述した「輻輳調節矛盾」の問題は生じない。このため、ホログラフィは理想的な立体表示技術と言われている。ホログラムを作成するには、通常、記録対象となる物体からの物体光と、これとは別の参照光とを、感光材料からなる媒体の記録面上で重ね合わせ、物体光と参照光との干渉による干渉縞を記録面に形成する方法がとられる。
【0005】
最近は、コンピュータを利用してホログラムを作成する技術も実用化されており、CG技術で作成された仮想物体を用いて、コンピュータ上でシミュレーションを行い、記録面上に形成される干渉縞パターンを演算によって求めることによって作成された計算機合成ホログラム(CGH)も普及し始めている。また、物体からの波面の情報を干渉縞(振幅強度)として記録する代わりに、物体波の位相のみを記録する方式(キノフォーム方式)や物体波の位相と振幅との双方を記録する方式(複素振幅方式)も提案されている。更に、このようなコンピュータの演算によって得られた干渉縞パターン等の画像データを、液晶ディスプレイなどの空間光変調素子(SLM:Spatial Light Modulator)に与え、再生用照明光に対する変調を行い、物体光の波面を再生する方法も提案されている。たとえば、下記の特許文献1には、右眼用の空間光変調素子と左眼用の空間光変調素子とを用意し、これらに右眼用画像データおよび左眼用画像データ(ホログラムやキノフォームなど、物体光の波面の情報を記録した画像データ)をそれぞれ与え、左右両眼のそれぞれに物体光の波面を提示する方法が開示されている。
【0006】
空間光変調素子を用いた立体画像提示方法のメリットは、任意の画像データに基づいて任意の立体画像を提示できる点である。感光材料からなるホログラム記録媒体による再生像は、予め記録されている特定の立体画像に固定されてしまうが、空間光変調素子による再生像は、与える画像データに依存して自由に変えることができる。このため、たとえば、時系列に並べられた複数の画像データを用意し、これらを順番に空間光変調素子に与えて駆動するようにすれば、提示する画像を時間的に更新してゆくことができるため、観察者に対して立体画像を動画として提示することも可能になる。
【0007】
一方、ホログラムの再生にレーザ光などのコヒーレント光を用いた場合、スペックルと呼ばれている不快なノイズが発生することが知られている。このような問題に対処するため、下記の特許文献2,3には、スペックルの発生を抑制するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−262962号公報
【特許文献2】特開平6−208089号公報
【特許文献3】特開2004−144936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、紙幣やクレジットカードなどに偽造防止用シールとして利用されているホログラムは、一般的な照明環境で再生することを前提としたものであり、通常の生活空間で得られる照明光による再生像が得られれば、一応、その役割を果たすことができる。一方、映画などの一般的な映像コンテンツを視聴者に提示するためには、鑑賞に耐えうる鮮明で明るい立体画像を再生する必要があり、そのような高品質の立体画像を再生するためには、レーザ光などのコヒーレント光を再生用照明光として用いることが不可欠である。
【0010】
しかしながら、上述したとおり、照明光としてレーザ光などのコヒーレント光を用いた場合、スペックルの発生という新たな問題が生じる。スペックル(speckle)は、レーザ光などのコヒーレント光を拡散面に照射したときに現れる斑点状の模様であり、レーザ光を照明対象物に照射した際に、照射面に斑点状の輝度ムラとして観察される。たとえば、レーザポインタでスクリーン上の1点を指示した場合、レーザ光のスポットがスクリーン上でギラギラと光って見える。これは、スクリーン上にスペックルノイズが生じているためであり、観察者に対して生理的な悪影響を及ぼす要因になる。コヒーレント光を用いるとスペックルが発生する理由は、スクリーンなどの拡散反射面の各部で反射したコヒーレント光が、その極めて高い可干渉性ゆえに、互いに干渉し合うためとされている。たとえば、"Speckle Phenomena in Optics, Joseph W. Goodman, Roberts & Co., 2006" には、スペックル発生についての詳細な理論的考察がなされている。
【0011】
レーザポインタのような用途であれば、観察者には、微小なスポットが見えるだけなので、スペックルの発生は大きな問題にはならない。しかしながら、レーザ光を再生用照明光としてホログラム記録媒体に照射した場合、ホログラム記録媒体上にスペックルが発生することになるので、観察者には、ホログラム再生像上にスペックルが重なって観察されることになる。このように、表示対象となる再生像上にスペックルノイズが生じると、ギラギラとした斑点状の模様が画像上に現れることになり、観察者に生理的な悪影響が及び、気分が悪くなるなどの症状が現れる。このような問題があるため、従来、レーザ光源を用いてホログラム再生像を得る立体画像表示装置の商業化は困難とされてきた。
【0012】
もちろん、このようなスペックルノイズを低減させるための具体的な方法もいくつか提案されている。たとえば、前掲の特許文献2には、レーザ光を散乱板に照射し、そこから得られる散乱光を照明光として利用するとともに、散乱板をモータによって回転駆動することにより、スペックルを低減する技術が開示されている。また、前掲の特許文献3には、レーザ光源と照明対象物との間に光拡散素子を配置し、この光拡散素子を振動させることによりスペックルを低減する技術が開示されている。しかしながら、散乱板を回転させたり、光拡散素子を振動させたりするには、大掛かりな機械的駆動機構が必要であり、装置全体が大型化するとともに、消費電力も増加する。また、このような方法では、必ずしもスペックルを効果的に除去することはできない。
【0013】
そこで本発明は、ホログラムとして記録された立体画像を、コヒーレント光を用いて再生してこれを表示する際に、スペックルの発生を効率的かつ十分に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1) 本発明の第1の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
照明用の像が記録された照明用ホログラム記録媒体と、
光ビームを照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、光ビームの照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を設け、
照明用ホログラム記録媒体には、照明用の像がホログラムとして記録されており、
コヒーレント光源は、照明用の像および立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
光ビーム走査装置は、照明用ホログラム記録媒体に対して、照明用の像が再生されるように光ビームの走査を行い、
表示用ホログラム記録媒体は、照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として、立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0015】
(2) 本発明の第2の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
照明用の像が記録された照明用ホログラム記録媒体と、
光ビームを照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、光ビームの照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
画像データ格納部から読み出した画像データを空間光変調器に与える制御装置と、
を設け、
照明用ホログラム記録媒体には、照明用の像がホログラムとして記録されており、
コヒーレント光源は、照明用の像および立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
光ビーム走査装置は、照明用ホログラム記録媒体に対して、照明用の像が再生されるように光ビームの走査を行い、
空間光変調器は、照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて立体画像のホログラム再生像を形成するようにしたものである。
【0016】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第2の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、照明用ホログラム記録媒体上の複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行う機能を有し、
画像データ格納部には、複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の画像データは、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、複数N通りの画像データを空間光変調器に順に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の画像データが空間光変調器に与えられるような同期制御を行うようにしたものである。
【0017】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第3の態様に係る立体画像表示装置において、
コヒーレント光源は、それぞれ三原色の各波長をもった単色光のレーザビームを発生する3台のレーザ光源と、これら3台のレーザ光源が発生したレーザビームを合成して合成光ビームを生成する光合成器と、を有し、
光ビーム走査装置が、光合成器が生成した合成光ビームを照明用ホログラム記録媒体上で走査し、
照明用ホログラム記録媒体には、3台のレーザ光源が発生する各レーザビームによってそれぞれ再生像が得られるように、照明用の像が3通りのホログラムとして記録されており、
画像データ格納部には、複数N通りの各照射点に対応して、三原色のそれぞれについて、合計(3×N)通りの単色画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の照射点に対応した第j番目(1≦j≦3)の単色画像データは、第i番目の照射点からの第j番目の単色光の再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像の第j番目の原色についてのホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、複数N通りの照射点に対応した各単色画像データを空間光変調器に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の各単色画像データが順番に空間光変調器に与えられるようにし、しかも、空間光変調器に第j番目の単色画像データが与えられているときに、第j番目の単色光を発生するレーザ光源のみが選択的に動作するよう、各レーザ光源に対して動作制御信号を与える同期制御を行うようにしたものである。
【0018】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第2〜第4の態様に係る立体画像表示装置において、
空間光変調器を、透過型もしくは反射型の液晶ディスプレイ、透過型もしくは反射型のLCOS素子、またはデジタルマイクロミラーデバイスによって構成したものである。
【0019】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第1または第2の態様に係る立体画像表示装置を3組と、これら3組の立体画像表示装置によって形成された再生像を合成する合成光学系と、を設け、
第j番目(1≦j≦3)の立体画像表示装置は、三原色のうちの第j番目の原色の波長をもった単色光のレーザビームを発生させるコヒーレント光源を用いることにより、第j番目の原色の立体画像の再生像を形成する機能を有し、
合成光学系を用いて三原色の各再生像を合成することによりカラー立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0020】
(7) 本発明の第7の態様は、上述の第1〜第6の態様に係る立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体によって形成される照明用の像の再生位置に、表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器を配置したものである。
【0021】
(8) 本発明の第8の態様は、上述の第1〜第6の態様に係る立体画像表示装置において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光する機能をもち、照明用ホログラム記録媒体と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に配置された光学系を更に設けたものである。
【0022】
(9) 本発明の第9の態様は、上述の第8の態様に係る立体画像表示装置において、
光学系として、視点から照明用ホログラム記録媒体の記録面に下ろした垂線を光軸とし、照明用ホログラム記録媒体と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に配置された1組もしくは複数組の凸レンズを用いるようにしたものである。
【0023】
(10) 本発明の第10の態様は、上述の第9の態様に係る立体画像表示装置において、
光学系として1組の凸レンズを用い、当該凸レンズの焦点距離をfとしたときに、照明用ホログラム記録媒体と凸レンズとの距離を2fに設定し、凸レンズと視点との距離を2fに設定したものである。
【0024】
(11) 本発明の第11の態様は、上述の第9の態様に係る立体画像表示装置において、
光学系として2組の凸レンズを用い、照明用ホログラム記録媒体に近い位置に配置された第1の凸レンズの焦点距離をf1とし、表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器に近い位置に配置された第2の凸レンズの焦点距離をf2としたときに、照明用ホログラム記録媒体と第1の凸レンズとの距離をf1に設定し、第2の凸レンズと視点との距離をf2に設定したものである。
【0025】
(12) 本発明の第12の態様は、上述の第9〜第11の態様に係る立体画像表示装置において、
視点の位置と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に、凸レンズの光軸に対して傾斜した反射面を有するハーフミラーを配置し、照明用ホログラム記録媒体の配置方向とは異なる方向の背景上に立体画像の再生像が形成されるようにしたものである。
【0026】
(13) 本発明の第13の態様は、上述の第8〜第12の態様に係る立体画像表示装置において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の位置に仮想的な瞳を配置した場合に、「表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器からの0次回折光が瞳の内部に入射する」という条件を満たす「照明用ホログラム記録媒上の光ビームの照射範囲」を走査禁止領域と定め、光ビーム走査装置が、走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにしたものである。
【0027】
(14) 本発明の第14の態様は、上述の第13の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、走査中に光ビームのスポットが走査禁止領域に入らないように、走査禁止領域の外側に円形の走査軌道を設定し、光ビームの中心軸が走査軌道に沿って周回運動するように走査を行うようにしたものである。
【0028】
(15) 本発明の第15の態様は、上述の第1〜第14の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、光ビームを所定の走査基点で屈曲させ、屈曲された光ビームを照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、光ビームの屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームの照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置を時間的に変化させ、
照明用ホログラム記録媒体には、特定の収束点に収束する参照光または特定の収束点から発散する参照光を用いて照明用の像がホログラムとして記録されており、
光ビーム走査装置が、上記収束点を走査基点として光ビームの走査を行うようにしたものである。
【0029】
(16) 本発明の第16の態様は、上述の第15の態様に係る立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体に、収束点を頂点とした円錐の側面に沿って三次元的に収束もしくは発散する参照光を用いて照明用の像が記録されているようにしたものである。
【0030】
(17) 本発明の第17の態様は、上述の第1〜第14の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、光ビームを平行移動させながら照明用ホログラム記録媒体に照射することにより、光ビームの照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置を時間的に変化させ、
照明用ホログラム記録媒体には、平行光束からなる参照光を用いて照明用の像がホログラムとして記録されており、
光ビーム走査装置が、参照光に平行になる方向から光ビームを照明用ホログラム記録媒体に照射して、光ビームの走査を行うようにしたものである。
【0031】
(18) 本発明の第18の態様は、上述の第1〜第17の態様に係る立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体に記録されているホログラムとして、計算機合成ホログラムを用いるようにしたものである。
【0032】
(19) 本発明の第19の態様は、上述の第1〜第18の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置として、走査型ミラーデバイス、全反射プリズム、屈折プリズム、もしくは電気光学結晶を用いるようにしたものである。
【0033】
(20) 本発明の第20の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
多数の個別レンズの集合体からなるマイクロレンズアレイと、
光ビームをマイクロレンズアレイに照射し、かつ、光ビームのマイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を設け、
マイクロレンズアレイを構成する個別レンズは、それぞれが、光ビーム走査装置から照射された光を屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
コヒーレント光源は、立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
表示用ホログラム記録媒体は、マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として、立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0034】
(21) 本発明の第21の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、
入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を設け、
光ビーム走査装置は、コヒーレント光源が発生した光ビームを、光拡散素子に向けて射出し、かつ、光ビームの光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査し、
光拡散素子は、入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
コヒーレント光源は、立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
表示用ホログラム記録媒体は、光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として、立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0035】
(22) 本発明の第22の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
多数の個別レンズの集合体からなるマイクロレンズアレイと、
光ビームをマイクロレンズアレイに照射し、かつ、光ビームのマイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
画像データ格納部から読み出した画像データを空間光変調器に与える制御装置と、
を設け、
マイクロレンズアレイを構成する個別レンズは、それぞれが、光ビーム走査装置から照射された光を屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
コヒーレント光源は、立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
空間光変調器は、マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0036】
(23) 本発明の第23の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、
入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
画像データ格納部から読み出した画像データを空間光変調器に与える制御装置と、
を設け、
光ビーム走査装置は、コヒーレント光源が発生した光ビームを、光拡散素子に向けて射出し、かつ、光ビームの光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査し、
光拡散素子は、入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
コヒーレント光源は、立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
空間光変調器は、光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0037】
(24) 本発明の第24の態様は、上述の第22または第23の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置は、マイクロレンズアレイもしくは光拡散素子上の複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行う機能を有し、
画像データ格納部には、複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の画像データは、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、複数N通りの画像データを空間光変調器に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の画像データが空間光変調器に与えられるような同期制御を行うようにしたものである。
【0038】
(25) 本発明の第25の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法において、
照明用の像をホログラムとして記録用媒体上に記録することにより照明用ホログラム記録媒体を作成する照明用ホログラム準備段階と、
照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
照明用の像を得るのに適したコヒーレントな光ビームを、照明用ホログラム記録媒体上に照明用の像を得るのに適した方向から照射し、かつ、照射位置が時間的に変化するように光ビームを照明用ホログラム記録媒体上で走査するホログラム再生段階と、
を行うようにしたものである。
【0039】
(26) 本発明の第26の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法において、
それぞれ特定方向から照射された光ビームを屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有する多数の個別レンズの集合体からなり、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されているマイクロレンズアレイを用意するマイクロレンズアレイ準備段階と、
マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、マイクロレンズアレイに特定方向から照射し、かつ、光ビームのマイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、
を行うようにしたものである。
【0040】
(27) 本発明の第27の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法において、
特定方向から入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されている光拡散素子を用意する光拡散素子準備段階と、
光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、光拡散素子に照射し、かつ、光ビームの光拡散素子に対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、
を行うようにしたものである。
【0041】
(28) 本発明の第28の態様は、上述の第25〜第27の態様に係る立体画像表示方法において、
表示用ホログラム準備段階では、複数N通りのホログラムの画像データと、再生用照明光を与えることにより、画像データに応じたホログラム再生像を形成する空間光変調器と、を用意し、
ホログラム再生段階では、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行い、第i番目(1≦i≦N)の照射点に光ビームが照射されているときに、空間光変調器が第i番目の画像データに応じたホログラム再生像を形成するようにし、
第i番目の画像データとして、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データを用いるようにしたものである。
【0042】
(29) 本発明の第29の態様は、上述の第25〜第28の態様に係る立体画像表示方法において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の位置に仮想的な瞳を配置した場合に、「表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器からの0次回折光が瞳の内部に入射する」という条件を満たす光ビームの照射範囲を走査禁止領域と定め、ホログラム再生段階で、走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにしたものである。
【0043】
(30) 本発明の第30の態様は、上述の第25〜第29の態様に係る立体画像表示方法において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光する機能をもった光学系により集光した再生用照明光を表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器に与えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0044】
本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置では、照明用ホログラム記録媒体と表示用ホログラム記録媒体とが用意される。照明用ホログラム記録媒体には、照明用の像が記録されており、表示用ホログラム記録媒体には、表示対象となる立体画像が記録されている。コヒーレント光源からの光ビームは、照明用ホログラム記録媒体上の1点に照射され、かつ、照射位置が時間的に変化するように走査される。ホログラムの性質上、照明用ホログラム記録媒体上の任意の1点にコヒーレントな光ビームが照射されると、照明用の像の再生像が形成されることになる。この再生像を形成するための再生光は、表示用ホログラム記録媒体に対して再生用照明光として機能し、表示対象となる立体画像が再生される。しかも、コヒーレント光源からの光ビームは、照明用ホログラム記録媒体上を走査され、光ビームの照射点は時間的に常に変動する。このため、照明用の像の再生像を形成する光の光路は時間的に変動し多重化される。結局、表示用ホログラム記録媒体に入射する再生用照明光の入射角度が時間的に多重化されることになり、スペックルの発生を抑制することができる。
【0045】
表示用ホログラム記録媒体としては、必ずしもホログラムの干渉縞パターン等が固定された物理的な媒体を用いる必要はなく、液晶ディスプレイをはじめとする空間光変調器を用いることができる。空間光変調器を用いれば、所望の干渉縞パターン等に対応する画像データを与えることにより、任意の立体画像を表示することが可能になる。また、コヒーレント光源からの光ビームの走査によって、空間光変調器に入射する再生用照明光の入射角度が時間的に変化することになるが、光ビームの走査に同期して、それぞれ最適な干渉縞パターン等を示す画像データを与えるようにすれば、光ビームの照射位置に関わらず、常に、最適な干渉縞パターン等に基づく立体画像の再生が可能になる。
【0046】
コヒーレント光源として、三原色のそれぞれの単色光ビームを発生する光源を用い、三原色の再生像を合成するようにすれば、カラーの立体画像を表示することも可能になる。また、立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光するための光学系を付加するようにすれば、表示用ホログラム記録媒体(空間光変調器)の回折能力が不十分であっても、視点位置から観察した場合に十分な視野角をもった立体画像の再生が可能になる。
【0047】
更に、0次回折光が視点位置におかれた瞳の内部に入射してしまう走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにすれば、視点位置から観察した場合に、0次回折光が視野内に入ることを防ぐことができるので、光源に含まれているスペックルによる悪影響を防止できる。
【0048】
なお、照明用ホログラム記録媒体の代わりに、マイクロレンズアレイや光拡散素子を用いても、表示用ホログラム記録媒体あるいは空間光変調器に対する入射角度が時間的に多重化された再生用照明光を得ることができるので、上述した効果と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】一般的なホログラムの記録方法を示す側面図である。
【図2】図1に示す方法で記録されたホログラムの再生方法を示す側面図である。
【図3】ホログラムを利用した立体画像表示装置の一般的な構成を示す側面図である。
【図4】ホログラムを利用した立体画像表示装置の別な形態を示す側面図である。
【図5】本発明に係る立体画像表示装置の構成要素である照明用ホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す光学系の配置図である。
【図6】図5に示すプロセスにおける参照光L23の断面S1とホログラム感光媒体40との位置関係を示す平面図である。
【図7】図5に示すプロセスにおける参照光L23の別な断面S2とホログラム感光媒体40との位置関係を示す平面図である。
【図8】図5に示す光学系における散乱板30およびホログラム感光媒体40の周囲の部分拡大図である。
【図9】図5に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45を用いて、散乱板の像35を再生するプロセスを示す図である。
【図10】図5に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45に対して、1本の光ビームのみを照射して散乱板の像35を再生するプロセスを示す図である。
【図11】図5に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45に対して、1本の光ビームのみを照射して散乱板の像35を再生するプロセスを示す別な図である。
【図12】図10および図11に示す再生プロセスにおける光ビームの照射位置を示す平面図である。
【図13】本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置における再生用照明光生成部の構成を示す側面図である。
【図14】本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置に用いる表示用ホログラム記録媒体の作成方法の一例を示す側面図である。
【図15】本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置の構成および動作を示す側面図である。
【図16】本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置の構成および動作を示す別な側面図である
【図17】本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置に用いる表示用ホログラム記録媒体の作成方法の別な一例を示す側面図である。
【図18】本発明の実用的実施形態に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。
【図19】本発明の実用的実施形態の小型化に適した変形例に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。
【図20】図19に示す変形例に用いる照明用ホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す側面図である。
【図21】図19に示す変形例に用いる照明用ホログラム記録媒体をCGHの手法で作成するプロセスを示す側面図である。
【図22】図21に示されている仮想の散乱板30′の正面図である。
【図23】本発明の実用的実施形態のレンズを付加した変形例に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。
【図24】本発明の実用的実施形態の2枚のレンズを付加した変形例に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。
【図25】図23に示す変形例における0次回折光の視点近傍への入射位置を示す図である。
【図26】図25における照明用ホログラム記録媒体に対する光ビームの照射点と0次回折光の視点近傍への入射位置との関係を示す図である。
【図27】図25に示す立体画像表示装置における0次回折光の集光位置および1次回折光の入射範囲を示す平面図である。
【図28】図25に示す立体画像表示装置における0次回折光の集光位置および1次回折光の入射範囲を示す別な平面図である。
【図29】照明用ホログラム記録媒体に対する光ビームの理想的な走査軌道を示す平面図である。
【図30】図23に示す変形例における制御装置の具体的な同期制御を示す表である。
【図31】本発明によりスペックルの低減効果が得られた実験結果を示す表である。
【図32】図23に示す変形例にハーフミラーを付加した変形例を示す側面図である。
【図33】カラーの立体画像を表示させる第1の構成例を示す配置図である。
【図34】図33に示す構成例における同期制御を説明するための表である。
【図35】カラーの立体画像を表示させる第2の構成例を示す平面図である。
【図36】本発明に用いる光ビーム走査装置の変形例を示す側面図である。
【図37】照明用ホログラム記録媒体の代わりにマイクロレンズアレイを用いた変形例の基本構成を示す側面図である。
【図38】図37に示す変形例の動作原理を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0051】
<<< §1. ホログラムの基本原理およびスペックルの発生 >>>
はじめに、ホログラムの基本原理とスペックルの発生について簡単に述べておく。図1は、一般的なホログラムの記録方法を示す側面図であり、記録対象となる原画像F(この例では、立方体の物体F)を感光媒体Mにホログラムとして記録する方法が示されている。
【0052】
図において、物体Fにはコヒーレントな照明光が当たっており、この物体Fの表面に位置する任意の物体点Kからは、コヒーレントな物体光Lobj が発せられる。図には、1つの物体点Kから発せられた物体光Lobj のみが示されているが、実際には、物体Fの表面上のあらゆる点から物体光Lobj が発せられる。一方、感光媒体Mには、物体光Lobj と同一波長のコヒーレントな参照光Lref (図示の例の場合、図の斜め左上方向からの平行光束)が照射され、物体光Lobj と参照光Lref とによる干渉縞が感光媒体M上に記録されることになる。以下、このような干渉縞の記録が行われた感光媒体Mをホログラム記録媒体Hと呼ぶことにする。
【0053】
図2は、図1に示す方法で記録されたホログラムの再生方法を示す側面図である。図示のとおり、ホログラム記録媒体Hの斜め左上方向から平行光束からなる再生用照明光Lrep を照射し、視点Eの位置から見ると、立方体の物体Fの再生像FFが虚像として観察されることになる。ここで、図2に示す再生用照明光Lrep は、図1に示す参照光Lref と同一の波長をもち、同一の方向から照射されるコヒーレント光である。視点Eの位置において、再生像FFが虚像として観察される理由は、再生用照明光Lrep が、ホログラム記録媒体Hに記録されている干渉縞によって回折し、回折光Ldif が、図1に示す物体Fからの物体光Lobj と同じ波面をもった光として視点Eへ伝わるためである。
【0054】
図2ではホログラム記録媒体Hが透過型の媒体である例を示したが、反射型の媒体の場合は、回折光Ldif は光学的に共役となるように図の左側へと反射し、媒体Hの左側に置かれた視点から図の右方を見ることにより、媒体Hの右側の位置に再生像が虚像として観察されることになる。なお、本願図面では、説明の便宜上、光の光路を一点鎖線もしくは二点鎖線で描き、再生像を破線で示すことにする。
【0055】
さて、図2に示す再生用照明光Lrep は、上述したとおり、参照光Lref と同一波長のコヒーレント光である必要がある。したがって、ホログラムによる立体画像表示装置の一般的な構成は、図3に示すように、コヒーレント光源S(たとえば、レーザ)と、ビームエキスパンダーXと、ホログラム記録媒体Hという形態をとる。コヒーレント光源Sで生成されたコヒーレントな光ビームLsは、ビームエキスパンダーXによって平行光束に広げられ、所定の方向(図1の参照光Lref と同一方向)から再生用照明光Lrep として、ホログラム記録媒体Hに照射される。そして、視点Eに向かう回折光Ldif により、再生像FFが虚像として観察される点は既に述べたとおりである。
【0056】
なお、図1に示す例では、感光媒体Mに参照光Lref を斜め方向から照射しているが、ホログラムの記録時に、参照光Lref は必ずしも感光媒体Mに対して斜め方向から照射する必要はない。原画像F(立方体の物体F)に邪魔されずに感光媒体Mを照射することができる向きであれば、どのような向きから参照光Lref を照射して、ホログラムの記録を行ってもかまわない。ただ、像の再生時には、再生用照明光Lrep を、ホログラムの記録に用いた参照光Lref の照射方向(もしくは、光学的に共役な方向)から照射する必要がある。
【0057】
したがって、たとえば、図1に示す例において、参照光Lref を斜め左上から照射する代わりに、左から右へ向かう水平方向に照射したとすると、そのようなホログラムを再生するための立体画像表示装置は、図3に示す構成の代わりに図4に示す構成になる。すなわち、ビームエキスパンダーXによって広げられた平行光束からなる再生用照明光Lrep は、ホログラム記録媒体Hに対して、左から右へ向かう水平方向(記録時の参照光Lref と同じ方向)に照射される。
【0058】
前述したとおり、最近は、コンピュータを利用してホログラムを作成する計算機合成ホログラム(CGH)の技術も発展してきている。このCGHの手法を用いてホログラム記録媒体Hを作成する場合は、図1に示す光学的な干渉縞記録プロセスは、コンピュータシミュレーションとして実行される。すなわち、コンピュータに、原画像FをCG画像として与え、感光媒体Mの代わりに記録面を定義する。そして、物体光Lobj と参照光Lref とをそれぞれ波動を示す方程式で定義し、記録面上の各サンプル点における物体光と参照光との合成振幅値を算出し、記録面上に形成される干渉縞の情報を画像データとして得る演算を行えばよい。このようなCGHの手法を用いれば、参照光Lref が原画像Fに邪魔されることはないので、参照光Lref の照射方向に制限はなくなり、図4に示す例のように、ホログラム記録媒体Hの記録面に対して垂直な方向から再生用照明光Lrep を照射するタイプの立体画像表示装置も容易に実現できる。
【0059】
また、ホログラム記録媒体Hの代わりに、液晶ディスプレイ等の空間光変調器を用いるタイプの立体画像表示装置も提案されている。たとえば、上述したCGHの手法で求めた画像データを液晶ディスプレイに与えて、画面上に干渉縞を表示させるようにすれば、当該液晶ディスプレイ自体をホログラム記録媒体Hに代用することができる。しかも、表示させる干渉縞は与える画像データにより自由に変更することができるため、予め多数の画像データを用意しておけば、任意の立体画像を表示することが可能になり、必要があれば、立体動画を提示することも可能になる。
【0060】
ところが、このような立体画像表示装置には、スペックルの発生という問題があることは、既に述べたとおりである。スペックルは、レーザ光などのコヒーレント光を拡散面に照射したときに現れる斑点状の模様であり、観察者からはギラギラと光った斑点状の輝度ムラとして観察される。図3や図4に示す立体画像表示装置では、ホログラム記録媒体Hにコヒーレントな再生用照明光Lrep が照射されているため、ホログラム記録媒体Hの表面においてスペックルが発生することになる。また、ホログラムの再生像FFにもスペックルが発生するため、視点Eから見ると、再生像FFと背景部分との双方に斑点状のスペックルノイズが観察されることになる。このようなスペックルノイズの発生という問題は、ホログラム記録媒体Hの代わりに、液晶ディスプレイ等の空間光変調器を用いた場合も同様に生じる問題である。
【0061】
更に、図4に示すような配置をとった立体画像表示装置の場合、上述したホログラム記録媒体H側で発生するスペックルに加えて、更に、光源側で発生するスペックルも加わることになる。すなわち、図4に示す配置を採ると、視点Eからの観察方向(図の左方向)に、コヒーレント光源SおよびビームエキスパンダーXが位置しているため、これら光源を正面から覗き込むことになるので、光源側に含まれていたスペックルも観察されることになる。
【0062】
このように、コヒーレント光源Sを利用してホログラムの再生を行うと、鮮明な明るい再生像FFが得られるという利点が得られるものの、本来提示すべき再生像FFに加えて、視界全面にスペックルノイズが生じることになり、観察者に生理的な悪影響を及ぼすという重大な問題が発生する。レーザポインタのスポットのように、微小な領域にギラギラしたスペックルが含まれていても、観察者にそれほど大きな悪影響を及ぼすことはないが、立体画像表示装置によって提示された画像にスペックルノイズが含まれていると、多くの観察者に、気分が悪くなるなどの生理的な症状が現れる。
【0063】
本発明は、このように、ホログラムとして記録された立体画像を、コヒーレント光を用いて再生してこれを表示する際に、スペックルの発生を効率的かつ十分に抑制する技術を提供するものである。
【0064】
<<< §2. スペックル抑制の基本原理 >>>
続いて、本発明におけるスペックル抑制の基本原理を説明する。ここでは、説明の便宜上、まず、本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置に用いる「照明用ホログラム記録媒体」の特徴を説明する。この「照明用ホログラム記録媒体」は、表示対象となる立体画像を記録するための「本来のホログラム記録媒体」ではなく、いわば「本来のホログラム記録媒体」に再生用照明光を供給する役割を果たす補助的な媒体ということになる。本願では、この「本来のホログラム記録媒体」を「表示用ホログラム記録媒体」と呼び、「照明用ホログラム記録媒体」と区別することにする。
【0065】
図5は、この「照明用ホログラム記録媒体」を作成するプロセスを示す光学系の配置図である。この光学系の目的は、照明用の像(ここで述べる実施形態の場合は、散乱板の像)が記録されたホログラム記録媒体(照明用ホログラム記録媒体)を作成することにある。以下、その構成を詳述する。
【0066】
図の右上に示されているコヒーレント光源10は、コヒーレントな光ビームL10を生成する光源であり、実際には、断面が円形をした単色レーザ光を発生するレーザ光源が用いられている。このレーザ光源で生成されたコヒーレントな光ビームL10は、ビームスプリッタ20で2本のビームに分けられる。すなわち、光ビームL10の一部は、そのままビームスプリッタ20を透過して図の下方へと導かれ、残りの一部は、ビームスプリッタ20で反射して光ビームL20として図の左方へと導かれる。
【0067】
ビームスプリッタ20を透過した光ビームL10は、散乱板の物体光Lobj を発生させる役割を果たす。すなわち、図の下方へと進んだ光ビームL10は、反射鏡11で反射して光ビームL11となり、更に、ビームエキスパンダー12によって径が広げられ、平行光束L12を構成し、散乱板30の右側の面の全領域に照射される。散乱板30は、照射された光を散乱する性質をもった板であり、一般に光学的拡散板とも呼ばれている。ここに示す実施例の場合、内部に光を散乱するための微小粒子(光の散乱体)が練り込まれた透過型散乱板(たとえば、オパールガラス板)を用いている。したがって、図示のとおり、散乱板30の右側の面に照射された平行光束L12は、散乱板30を透過して、左側の面から散乱光L30として射出する。この散乱光L30は、散乱板30の物体光Lobj を構成する。
【0068】
一方、ビームスプリッタ20で反射した光ビームL20は、参照光Lref を発生させる役割を果たす。すなわち、ビームスプリッタ20から図の左方へと進んだ光ビームL20は、反射鏡21で反射して光ビームL21となり、更に、ビームエキスパンダー22によって径が広げられ、平行光束L22を構成し、点Cを焦点とする凸レンズ23で屈折された後に感光媒体40に照射される。なお、平行光束L22は、必ずしも厳密な平行光線の集合でなくても、ほぼ平行な光線の集合であれば、実用上は問題ない。感光媒体40は、ホログラム像を記録するために用いる感光性の媒体である。この感光媒体40への照射光L23は、参照光Lref を構成する。
【0069】
結局、感光媒体40には、散乱板30の物体光Lobj と、参照光Lref とが照射されることになる。ここで、物体光Lobj および参照光Lref は、いずれもコヒーレント光源10(レーザ光源)で生成された同一波長λをもったコヒーレント光であるから、感光媒体40には、両者の干渉縞が記録されることになる。別言すれば、感光媒体40には、散乱板30の像がホログラムとして記録される。なお、本願に言う「散乱板」とは、必ずしも一般産業界において「散乱板」という名称で流通したり、利用されたりしている物品に限定されるものではなく、光を散乱する性質をもった物体を広く意味するものである。したがって、たとえば、石膏ボード、白色紙、発砲スチロール板などを散乱板30として用いることも可能である。もちろん、後述するように、CGHの手法によって、光を散乱する性質をもった物体の像と同等の像を照明用ホログラム記録媒体に記録してもかまわない。要するに、本発明における照明用ホログラム記録媒体には、表示用ホログラム記録媒体や空間光変調器に対する照明機能をもった何らかの「照明用の像」がホログラムとして記録されていれば足りる。ただ、実用上は、照明効率を向上させるため、前掲のオパールガラス板などの像を散乱板の像(すなわち、「照明用の像」)として記録するのが好ましい。
【0070】
図6は、図5に示す参照光L23(Lref )の断面S1と感光媒体40との位置関係を示す平面図である。ビームエキスパンダー22によって径が広げられた平行光束L22は円形断面を有しているため、凸レンズ23で集光された参照光Lref は、レンズの焦点Cを頂点とする円錐状に収束する。ただ、図5に示す例では、感光媒体40が、この円錐の中心軸に対して斜めに配置されているため、参照光L23(Lref )を感光媒体40の表面で切断した断面S1は、図6に示すように楕円になる。
【0071】
このように、図6に示す例では、参照光Lref は、感光媒体40の全領域のうち、図にハッチングを示す領域内にのみ照射されるので、散乱板30のホログラムは、このハッチングを施した領域内にのみ記録されることになる。もちろん、ビームエキスパンダー22によって径がより大きな平行光束L22を生成し、径がより大きな凸レンズ23を用いれば、図7に示す例のように、参照光Lref の断面S2内に、感光媒体40がそっくり含まれるようにすることもできる。この場合、図にハッチングを施したように、感光媒体40の全面に散乱板30のホログラムが記録される。本発明に用いる照明用ホログラム記録媒体を作成する上では、図6,図7のいずれの形態で記録を行ってもかまわない。
【0072】
続いて、散乱板30の像が、感光媒体40上に記録される光学的なプロセスを、より詳しく見てみよう。図8は、図5に示す光学系における散乱板30および感光媒体40の周囲の部分拡大図である。上述したように、参照光Lref は、円形断面を有する平行光束L22を、焦点Cをもつ凸レンズ23で集光したものであり、焦点Cを頂点とする円錐状に収束する。そこで、以下、この焦点Cを収束点と呼ぶことにする。感光媒体40に照射される参照光L23(Lref )は、図示のとおり、この収束点Cに収束する光ということになる。
【0073】
一方、散乱板30から発せられる光(物体光Lobj )は散乱光であるから、様々な方向に向かうことになる。たとえば、図示のように、散乱板30の左側面の上端に物体点Q1を考えると、この物体点Q1からは、四方八方に散乱光が射出される。同様に、任意の物体点Q2やQ3からも、四方八方に散乱光が射出される。したがって、感光媒体40内の任意の点P1に着目すると、物体点Q1,Q2,Q3からの物体光L31,L32,L33と収束点Cへ向かう参照光Lref との干渉縞の情報が記録されることになる。もちろん、実際には、散乱板30上の物体点は、Q1,Q2,Q3だけではないので、散乱板30上のすべての物体点からの情報が、同様に、参照光Lref との干渉縞の情報として記録される。別言すれば、図示の点P1には、散乱板30の全情報が記録されることになる。また、全く同様に、図示の点P2にも、散乱板30の全情報が記録される。このように、感光媒体40内のいずれの部分にも、散乱板30の全情報が記録されることになる。これがホログラムの本質である。
【0074】
さて、このような方法で、散乱板30の情報が記録された感光媒体40を、以下、照明用ホログラム記録媒体45と呼ぶことにする。この照明用ホログラム記録媒体45を再生して、散乱板30のホログラム再生像を得るためには、記録時に用いた光と同一波長のコヒーレント光を、記録時の参照光Lref に応じた方向から、再生用照明光として照射すればよい。
【0075】
図9は、図8に示すプロセスで作成された照明用ホログラム記録媒体45を用いて、散乱板のホログラム再生像35を再生するプロセスを示す図である。図示のとおり、照明用ホログラム記録媒体45に対して、下方から再生用照明光Lrep が照射されている。この再生用照明光Lrep は、収束点Cに位置する点光源から球面波として発散するコヒーレント光であり、その一部分は、図示のように円錐状に広がりながら照明用ホログラム記録媒体45を照射する光になる。また、この再生用照明光Lrep の波長は、照明用ホログラム記録媒体45の記録時の波長(すなわち、図5に示すコヒーレント光源10が発生するコヒーレント光の波長)に等しい。
【0076】
ここで、図9に示す照明用ホログラム記録媒体45と収束点Cとの位置関係は、図8に示す感光媒体40と収束点Cとの位置関係と全く同じである。したがって、図9に示す再生用照明光Lrep は、図8に示す参照光Lref の光路を逆進する光に対応する。このような条件を満たす再生用照明光Lrep を照明用ホログラム記録媒体45に照射すると、その回折光L45(Ldif )によって、散乱板30のホログラム再生像35(図では、破線で示す)が得られる。図9に示す照明用ホログラム記録媒体45と再生像35との位置関係は、図8に示す感光媒体40と散乱板30との位置関係と全く同じである。
【0077】
このように、任意の物体の像をホログラムとして記録し、これを再生する技術は、古くから実用化されている公知の技術である。ただ、一般的な用途に利用するホログラム記録媒体を作成する場合、図1に示す例のように、参照光Lref として平行光束が用いられる。平行光束からなる参照光Lref を用いて記録したホログラムは、再生時にも、平行光束からなる再生用照明光Lrepを利用すればよいので、利便性に優れている。
【0078】
これに対して、図8に示すように、収束点Cに収束する光を参照光Lref として利用すると、再生時には、図9に示すように、収束点Cから発散する光(もしくは収束点Cに収束する光)を再生用照明光Lrep として用いる必要がある。実際、図9に示すような再生用照明光Lrep を得るためには、特定の位置にレンズなどの光学系を配置する必要がある。また、再生時の照明用ホログラム記録媒体45と収束点Cとの位置関係が、記録時の感光媒体40と収束点Cとの位置関係に一致していないと、正確な再生像35が得られなくなるので、再生時の照明条件が限定されてしまう(平行光束を用いて再生する場合であれば、照明条件は照射角度だけが満足されていればよい)。
【0079】
このような理由から、収束点Cに収束する参照光Lrefを用いて作成したホログラム記録媒体は、一般的な用途には不向きである。それにもかかわらず、ここに示す実施形態において、収束点Cに収束する光を参照光Lref として用いる理由は、再生時に行う光ビーム走査を容易にするためである。すなわち、図9では、説明の便宜上、収束点Cから発散する再生用照明光Lrep を用いて散乱板30の再生像35を生成する方法を示したが、本発明では、実際には、図示のように円錐状に広がる再生用照明光Lrep を用いた再生は行わない。その代わりに、光ビームを走査するという方法を採る。以下、この方法を詳しく説明する。
【0080】
図10は、図8に示すプロセスで作成された照明用ホログラム記録媒体45に対して、1本の光ビームのみを照射して散乱板30の像35を再生するプロセスを示す図である。すなわち、この例では、収束点Cから媒体内の1点P1に向かう1本の光ビームL61のみが再生用照明光Lrep として与えられる。もちろん、光ビームL61は、記録時の光と同じ波長をもったコヒーレント光である。既に図8を参照して説明したとおり、照明用ホログラム記録媒体45内の任意の点P1には、散乱板30全体の情報が記録されている。したがって、図10の点P1の位置に対して、記録時に用いた参照光Lref に対応した条件で再生用照明光Lrep を照射すれば、この点P1の近傍に記録されている干渉縞のみを用いて、散乱板30の再生像35を生成することが可能である。図10には、点P1からの回折光L45(Ldif )によって、再生像35が再生された状態が示されている。
【0081】
一方、図11は、収束点Cから媒体内の別な点P2に向かう1本の光ビームL62のみを再生用照明光Lrep として与えた例である。この場合も、点P2には、散乱板30全体の情報が記録されているので、点P2の位置に対して、記録時に用いた参照光Lref に対応した条件で再生用照明光Lrep を照射すれば、この点P2の近傍に記録されている干渉縞のみを用いて、散乱板30の再生像35を生成することが可能である。図11には、点P2からの回折光L45(Ldif )によって、再生像35が再生された状態が示されている。図10に示す再生像35も、図11に示す再生像35も、同じ散乱板30を原画像とするものであるから、理論的には、同じ位置に生成される同じ再生像ということになる。
【0082】
図12は、図10および図11に示す再生プロセスにおける光ビームの照射位置を示す平面図である。図12の点P1は、図10の点P1に対応し、図12の点P2は、図11の点P2に対応する。A1,A2は、それぞれ再生用照明光Lrep の断面(光ビームのスポット)を示している。断面A1,A2の形状および大きさは、光ビームL61,L62の断面の形状および大きさに依存する。また、照明用ホログラム記録媒体45上の照射位置にも依存する。ここでは、便宜上、円形の断面A1,A2を示しているが、実際には、円形断面をもつ光ビームL61,L62を用いた場合、断面形状は照射位置に応じて扁平した楕円になる。
【0083】
このように、図8に示す点P1近傍と、点P2近傍では、それぞれ記録されている干渉縞の内容は全く異なるものであるが、いずれの点に再生用照明光Lrep となる光ビームを照射した場合でも、同じ位置に同じ再生像35が得られることになる。これは、再生用照明光Lrep が収束点Cから各点P1,P2に向かう光ビームであるため、いずれの点についても、図8に示す記録時の参照光Lref の向きに応じた向きの再生用照明光Lrep が与えられるためである。
【0084】
図12には、2つの点P1,P2のみを例示したが、もちろん、照明用ホログラム記録媒体45上の任意の点についても同様のことが言える。したがって、照明用ホログラム記録媒体45上の任意の点に光ビームを照射した場合、当該光ビームが収束点Cからの光である限り、同一位置に同一の再生像35が得られることになる。もっとも、図6に示すように、感光媒体40の一部分の領域(図にハッチングを施して示す領域)にのみホログラムを記録した場合、再生像35が得られるのは、当該領域内の点に光ビームを照射した場合に限られる。
【0085】
結局、ここで述べた照明用ホログラム記録媒体45は、特定の収束点Cに収束する参照光Lref を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されている媒体であり、この収束点Cを通る光ビームを再生用照明光Lrep として任意の位置に照射すると、散乱板30の再生像35が生成される、という特徴を有している。したがって、再生用照明光Lrep として、収束点Cを通る光ビームを、照明用ホログラム記録媒体45上で走査すると、個々の照射点から得られる回折光Ldif によって、同一の再生像35が同一位置に再生されることになる。
【0086】
本発明では、このようにして「照明用ホログラム記録媒体45」から得られる再生光(散乱板の再生像35を形成するための回折光)を、「表示用ホログラム記録媒体」(表示対象となる立体画像が記録された「本来のホログラム記録媒体」)に対する再生用照明光として利用することになる。
【0087】
図13は、このような再生用照明光を生成するための再生用照明光生成部100の構成を示す側面図である。図示のとおり、この再生用照明光生成部100は、照明用ホログラム記録媒体45、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。
【0088】
ここで、照明用ホログラム記録媒体45は、上述したとおり、図5に示す光学系を用いたプロセスで作成された媒体であり、散乱板30の像35が記録されている。また、コヒーレント光源50は、照明用ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源である。
【0089】
一方、光ビーム走査装置60は、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50を、所定の走査基点Bで屈曲させて照明用ホログラム記録媒体45に照射し、かつ、光ビームL50の屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する装置である。具体的には、図示の光ビーム走査装置60は、走査基点B側に反射面を有する可動ミラーによって構成されており、図のV軸(紙面に垂直な軸)およびW軸を回動軸として所望の方向に傾斜させることができる。
【0090】
このような装置は、一般に、走査型ミラーデバイスとして公知の装置である。図には、説明の便宜上、時刻t1における屈曲態様を一点鎖線で示し、時刻t2における屈曲態様を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)としてホログラム記録媒体45の点P(t1)に照射されるが、時刻t2では、光ビームL50は、走査基点Bで屈曲し光ビームL60(t2)としてホログラム記録媒体45の点P(t2)に照射される。
【0091】
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における屈曲態様しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームの屈曲方向は滑らかに変化し、光ビームL60のホログラム記録媒体45に対する照射位置は、図の点P(t1)〜P(t2)へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL60の照射位置は、照明用ホログラム記録媒体45上において点P(t1)〜P(t2)へと走査されることになる。
【0092】
ここで、走査基点Bの位置を、図8に示す収束点Cの位置に一致させておけば(別言すれば、図13における照明用ホログラム記録媒体45と走査基点Bとの位置関係が、図8における感光媒体40と収束点Cとの位置関係に等しくなるようにしておけば)、照明用ホログラム記録媒体45の各照射位置において、光ビームL60は、図8に示す参照光Lref に応じた向き(図8に示す参照光Lref の光路を逆進する向き)に照射されることになる。したがって、光ビームL60は、照明用ホログラム記録媒体45の各照射位置において、そこに記録されているホログラムを再生するための正しい再生用照明光Lrep として機能する。
【0093】
たとえば、時刻t1では、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)によって、散乱板30の再生像35が生成され、時刻t2では、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)によって、散乱板30の再生像35が生成される。もちろん、時刻t1〜t2の期間においても、光ビームL60が照射された個々の位置からの回折光によって、同様に散乱板30の再生像35が生成される。すなわち、光ビームL60が、走査基点Bから照明用ホログラム記録媒体45へ向かう光である限り、照明用ホログラム記録媒体45上のどの位置に光ビームL60が照射されたとしても、照射位置からの回折光によって、同一の再生像35が同一位置に生成されることになる。
【0094】
このような現象が起こるのは、図8に示すとおり、照明用ホログラム記録媒体45には、特定の収束点Cに収束する参照光L23を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されており、光ビーム走査装置60が、この収束点Cを走査基点Bとして光ビームL60の走査を行うためである。もちろん、光ビーム走査装置60による走査を停止して、光ビームL60の照射位置を照明用ホログラム記録媒体45上の1点に固定したとしても、同じ再生像35が同一位置に生成され続けることに変わりはない。それにもかかわらず、光ビームL60を走査するのは、スペックルノイズを抑制するために他ならない。
【0095】
上述したとおり、本発明では、図13に示す散乱板の再生像35を形成するための回折光L45を、表示用ホログラム記録媒体に対する再生用照明光として利用する。別言すれば、図13に示す再生用照明光生成部100は、再生像35の位置に置かれた物体を照明する照明装置としての役割を果たすことになる。
【0096】
そこで、いま、図13に示すように、再生像35上の任意の位置に着目点Qを設定し、この着目点Qに到達する回折光がどのようなものかを考えてみる。まず、時刻t1では、コヒーレント光源50から出た光ビームL50は、図に一点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)として点P(t1)に照射される。そして、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)の一部が着目点Qに到達する。一方、時刻t2では、コヒーレント光源50から出た光ビームL50は、図に二点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t2)として点P(t2)に照射される。そして、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)の一部が着目点Qに到達する。
【0097】
結局、このような回折光によって、着目点Qの位置には、常に、散乱板30の着目点Qの位置に対応する再生像が生成されることになるが、着目点Qに対する回折光の入射角は、時刻t1と時刻t2とで異なる。別言すれば、光ビームL60を走査した場合、空間上に形成される再生像35に変わりはないものの、再生像35の個々の点に到達する回折光の入射角度は時間とともに変化することになる。このような入射角度の時間変化は、スペックルを低減させる上で大きな貢献を果たす。
【0098】
前述したとおり、コヒーレント光を用いるとスペックルが発生する理由は、受光面の各部で反射したコヒーレント光が、その極めて高い可干渉性ゆえに、互いに干渉し合うためである。ところが、本発明では、たとえば、図示の着目点Qについての回折光の入射角度を考えると、光ビームL60を走査することにより、当該入射角度は時間的に変動することになる。これは、図示の着目点Qの位置についてのみ言えることではなく、照明用ホログラム記録媒体45からの回折光が到達する任意の点について言えることである。したがって、当該回折光が届く空間内に配置された任意の対象物の表面に対する当該回折光の入射角度は、時間的に変動することになる。このため、コヒーレント光であるにもかかわらず、干渉の態様も時間的に変動し、多重度をもつことになる。このため、スペックルの発生要因は、時間的に分散し、生理的に悪影響を与える斑点状の模様が定常的に観察される事態を緩和することができる。これが本発明によるスペックル抑制の基本原理である。
【0099】
<<< §3. 本発明の基本的実施形態 >>>
次に、本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置の構成および動作を説明する。図14は、この立体画像表示装置に用いる表示用ホログラム記録媒体の作成方法の一例を示す側面図である。図示の再生用照明光生成部100は、図13で説明したとおり、照明用ホログラム記録媒体45、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。
【0100】
この再生用照明光生成部100を配置したら、続いて、散乱板の再生像35が形成される位置(図13に破線で示した位置)に感光媒体70を配置し、更に、任意の位置に表示対象となる原画像F(この例では立方体)を配置する。そして、コヒーレント光源50から出た光ビームL50を、図に一点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲させ、光ビームL60(t1)として照射点P(t1)に照射し、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)が感光媒体70に照射されるようにする。
【0101】
このとき、光ビーム走査装置60による走査は行わず、感光媒体70には、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)が感光媒体70に照射され続けるようにする(いわば、走査系を時刻t1の位置に固定した状態にする)。一方、感光媒体70には、原画像Fからの物体光Lobj も届くようにする(図では、説明の便宜上、原画像F上の代表点Kからの物体光Lobj のみが示されている)。そうすれば、回折光L45(t1)を参照光Lref として、この参照光Lref と物体光Lobj とによって生じる干渉縞が感光媒体70に記録されることになる。別言すれば、原画像Fが感光媒体70にホログラムとして記録される。このようなホログラムが記録された感光媒体70を、ここでは表示用ホログラム記録媒体75と呼ぶことにする。
【0102】
なお、上述したプロセスは、光学的な方法によって表示用ホログラム記録媒体75を作成するプロセスであるが、CGHの手法によって表示用ホログラム記録媒体75を作成することも可能である。その場合は、図14に示す再生用照明光生成部100の幾何学的な配置を示す情報をコンピュータにデータとして与え、更に、感光媒体70の受光面の位置に記録面を定義し、原画像Fとして、その形状を示すCGデータをコンピュータに与え、記録面上に形成されるホログラム干渉縞をシミュレーション演算によって画像データとして求めるようにすればよい。
【0103】
光学的な方法を採る場合、参照光Lref (すなわち、回折光L45(t1))が原画像Fを構成する物理的な物体に妨げられないように配置を工夫する必要があるが、CGHの手法を利用すれば、コンピュータ上での演算によって、ホログラム干渉縞を示す画像データが得られるので、現実的には無理な配置であっても問題は生じない。たとえば、図14に示す幾何学的条件では、回折光L45(t1)の一部が原画像Fに妨げられており、光学的な方法を採る場合は問題であるが、CGHの手法を利用すれば、問題は生じない。
【0104】
こうして、表示用ホログラム記録媒体75が作成できたら、図15に示すような配置をとることにより、本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置を構成することができる。すなわち、図15に示す装置は、図13に示す再生用照明光生成部100に、図14に示す方法で作成した表示用ホログラム記録媒体75を付加することにより構成される立体画像表示装置である。ここで、表示用ホログラム記録媒体75は、図13に破線で示した散乱板の再生像35が形成される位置(すなわち、図14に示す感光媒体70の位置)に配置されている。
【0105】
この立体画像表示装置による立体画像の表示動作は次のとおりである。まず、図15に示すように、コヒーレント光源50から出た光ビームL50を、図に一点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲させ、光ビームL60(t1)として照明用ホログラム記録媒体45上の照射点P(t1)に照射し、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)が表示用ホログラム記録媒体75に照射されるようにする。この回折光L45(t1)は、図14の記録プロセスにおいて参照光Lref として機能する回折光L45(t1)と等価であるから、図15の再生プロセスでは、表示用ホログラム記録媒体75に対して再生用照明光Lrep として機能する。したがって、視点Eに届いた回折光L75(t1)により、図に破線で描かれているように、再生像FF(t1)が虚像として観察されることになる。再生像FF(t1)の位置は、図14に示す原画像Fの位置になる。
【0106】
もちろん、図15に示す再生状態をそのまま維持した場合、スペックルノイズが発生し、観察者にはギラギラと光った斑点状の輝度ムラが観察される。これは、コヒーレント光である回折光L45(t1)が表示用ホログラム記録媒体75の表面において反射し、互いに干渉し合うためである。そこで、本発明では、立体画像の再生時に、光ビーム走査装置60による走査を行う。このような走査を行えば、光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射点Pが時間的に変動することになるので、表示用ホログラム記録媒体75に対する回折光L45の入射角度が時間的に変動する。
【0107】
たとえば、図16は、時刻t2において、光ビーム走査装置60の走査によって走査基点Bで屈曲した光ビームL60(t2)が、照明用ホログラム記録媒体45上の照射点P(t2)に照射され、この照射点P(t2)からの回折光L45(t2)が表示用ホログラム記録媒体75に照射された状態を示している。この場合、視点Eに届いた回折光L75(t2)により、図に破線で描かれているような再生像FF(t2)が虚像として表示されることになる。
【0108】
実際には、光ビーム走査装置60の走査機能によって、光ビームL60の照射点は、図15に示す照射点P(t1)から図16に示す照射点P(t2)に至る経路に沿って徐々に移動してゆくことになる。したがって、表示用ホログラム記録媒体75に対する回折光L45の入射角度は時間とともに徐々に変化し、多重化される。このため、スペックルの発生要因は、時間的に分散し、生理的に悪影響を与える斑点状の模様が定常的に観察される事態を緩和することができる。これが本発明の基本原理である。
【0109】
もっとも、図15に示す再生像FF(t1)は、ホログラムとして記録されている原画像Fの正しい再生像になるが、図16に示す再生像FF(t2)は、原画像Fの正しい再生像にはならない。なぜなら、表示用ホログラム記録媒体75は、図14に示す記録プロセス、すなわち、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)を参照光Lref として原画像Fを記録した媒体であるから、図15に示すように、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)を再生用照明光として利用して得られた再生像FF(t1)は本来のホログラム再生像になるが、図16に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)を再生用照明光として利用して得られた再生像FF(t2)は本来のホログラム再生像にはならない。
【0110】
すなわち、もし、図16に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)を再生用照明光として利用して得られた再生像FF(t2)が、本来の正しいホログラム再生像になるようにするためには、表示用ホログラム記録媒体75を作成するための像の記録プロセスにおいて、図17に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)を参照光Lref として原画像Fの記録を行っておく必要がある。もちろん、そのような記録プロセスで表示用ホログラム記録媒体75を作成した場合、今度は、図15に示すように、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)を再生用照明光として利用して得られた再生像FF(t1)が本来のホログラム再生像ではなくなってしまう。
【0111】
このように、この§3で述べる基本的実施形態に係る立体画像表示装置では、表示用ホログラム記録媒体75として、干渉縞パターンが物理的に固定された媒体を用いているため、光ビーム走査装置60が光ビームL60を特定の照射点P(記録プロセスで用いた照射点)に照射している時点においてのみ、本来の正しいホログラム再生像FFが表示され、それ以外の時点では、正しいホログラム再生像FFの表示は行われず、位置や形状が若干変動した再生像FFの表示が行われることになる。その結果、視点Eから見ると、若干ぼやけた再生像FFが観察されることになる。このような問題を解決するには、§5で述べるように、干渉縞パターンが物理的に固定された表示用ホログラム記録媒体75の代わりに、与える画像データに基づいて任意の干渉縞パターンを形成させることができる空間光変調器(たとえば、液晶ディスプレイ)を用いる必要がある。
【0112】
もっとも、この立体画像表示装置では、原画像Fの記録時に用いたコヒーレント光と同じコヒーレント光を用いてホログラムの再生が行われるので、室内照明などの一般光源を用いた再生像に比べれば、はるかに鮮明で明るい再生像を得ることができる。したがって、この§3で述べる基本的実施形態に係る立体画像表示装置は、一般光源を用いた従来の立体画像表示装置に比べれば、より鮮明で明るい立体画像の表示が可能であり、産業上の利用可能性を十分に備えているものである。
【0113】
この基本的実施形態に係る立体画像表示装置において、より鮮明な再生像FFが得られるようにする第1の方法は、視点から見たときに再生像FFが現れる奥行き位置を、できるだけ表示用ホログラム記録媒体75の位置に近づけることである。一般に、奥行きに関して記録媒体の近傍に再生像が得られるホログラムは、イメージホログラムと呼ばれている。このようなイメージホログラムであれば、記録媒体に対する再生用照明光の入射角度が変化しても、再生像の位置や形状に大きな変化は生じない。したがって、表示用ホログラム記録媒体75を作成する記録プロセスにおいて、原画像Fを感光媒体の直近に配置して(CGHの場合は、原画像Fが記録面に重なるように配置して)、像の記録を行うようにすればよい。
【0114】
より鮮明な再生像FFが得られるようにする第2の方法は、光ビーム走査装置60による照明用ホログラム記録媒体45上の走査範囲を限定する方法である。図15に示す例のように、照明用ホログラム記録媒体45の下端の照射点P(t1)から、図16に示す例のように、照明用ホログラム記録媒体45の上端の照射点P(t2)に至るまでの広範囲な走査領域を設定すると、表示用ホログラム記録媒体75に対する再生用照明光L45の入射角度は大幅に変化する。その結果、再生像FFの位置や形状の時間的な変動幅は大きくなり、観察される像のぼけ具合も大きくなる。そこで、光ビーム走査装置60による走査範囲を、基準照射点の近傍に限定するようにすれば、再生像FFの位置や形状の時間的な変動幅を抑え、観察される像のぼけ具合を低減させることができる。この場合、基準照射点は、表示用ホログラム記録媒体75を作成する記録プロセスにおける照射点とするのが好ましい。
【0115】
もっとも、光ビーム走査装置60による走査範囲を限定すると、表示用ホログラム記録媒体75に対する再生用照明光L45の入射角度の変化幅が減少するので、スペックルノイズを抑制する、という本発明の本来の効果を損なうというデメリットも生じる。したがって、スペックルノイズを抑制するという観点からは、光ビーム走査装置60による走査範囲をあまり限定すべきではない。したがって、実際には、再生像の鮮明さを重視するか、スペックルノイズの低減を重視するか、に応じて、最適な走査範囲を設定すればよい。
【0116】
なお、これまで述べた基本的実施形態では、表示用ホログラム記録媒体75を、照明用ホログラム記録媒体45によって得られた散乱板の再生像35の位置に配置する例を示したが、表示用ホログラム記録媒体75の位置は、必ずしも散乱板の再生像35の位置に限定されるものではない。別言すれば、図14に示す記録プロセスにおいて、感光媒体70は、必ずしも散乱板の再生像35の位置に配置する必要はない。表示用ホログラム記録媒体75には、照明用ホログラム記録媒体45から回折してきた光が再生用照明光として照射されればよいので、表示用ホログラム記録媒体75は、照明用ホログラム記録媒体45からの回折光が届く位置であれば、空間上の任意の位置に配置してかまわない。
【0117】
ただ、照明効率の点を考慮すると、これまで述べた基本的実施形態のように、表示用ホログラム記録媒体75を、照明用ホログラム記録媒体45によって得られた散乱板の再生像35の位置に配置するのが好ましい。たとえば、図15に示す例の場合、コヒーレント光源50から出た光ビームL50は、走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)として照明用ホログラム記録媒体45上の照射点P(t1)に照射し、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)となって表示用ホログラム記録媒体75の全面に照射される。このように、表示用ホログラム記録媒体75の全面に再生用照明光が照射されるのは、表示用ホログラム記録媒体75が、散乱板の再生像35の位置に配置されており、かつ、散乱板の再生像35と同じ大きさを有しているためである。
【0118】
照射点P(t1)からの回折光L45(t1)は、散乱板の再生像35を形成するための光であるから、再生像35と同じ大きさの表示用ホログラム記録媒体75を、再生像35と同じ位置に配置しておけば、表示用ホログラム記録媒体75が回折光L45(t1)によって照射されるのは当然である。これは、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)に限られるわけではなく、すべての照射点Pからの回折光について言えることである。たとえば、図16に示す例の場合、回折光L45(t2)は、やはり表示用ホログラム記録媒体75の全面を照射する光になる。
【0119】
このように、表示用ホログラム記録媒体75を、照明用ホログラム記録媒体45によって得られた散乱板の再生像35の位置に配置し、再生像35と同じ大きさの媒体としておけば、コヒーレント光源50から出た光ビームL50の全エネルギーを、表示用ホログラム記録媒体75の表面に照射することができ、エネルギーのロスを防ぐことができる。もちろん、表示用ホログラム記録媒体75を、再生像35よりも大きくしてもかまわないが、その場合、媒体の周囲は再生用照明光が照射されない無駄な領域ということになる。
【0120】
<<< §4. 基本的実施形態の各部の詳細構成 >>>
§3で述べた本発明の基本的実施形態は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であり、図15に示されているとおり、コヒーレントな光ビームL50を発生させるコヒーレント光源50と、散乱板の像が記録された照明用ホログラム記録媒体45と、光ビームL50を光ビームL60として照明用ホログラム記録媒体45に照射し、かつ、光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置60と、表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体75と、を備えた装置ということになる。
【0121】
ここで、照明用ホログラム記録媒体45には、図8に示すように、所定光路に沿って照射される参照光Lref を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されている。また、コヒーレント光源50は、照明用ホログラム記録媒体45に記録されている散乱板30の像および表示用ホログラム記録媒体75に記録されている立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームL50を発生させ、光ビーム走査装置60は、照明用ホログラム記録媒体45に対する光ビームL60の照射方向が、図8に示す参照光Lref の光路に沿った方向になるように光ビームの走査を行う。そして、表示用ホログラム記録媒体75は、照明用ホログラム記録媒体45から得られる散乱板の像の再生光L45を再生用照明光として、立体画像の再生像FFを形成することになる。そこで、以下、これら各構成要素について、より詳細な説明を行う。
【0122】
<§4−1:コヒーレント光源>
まず、コヒーレント光源50としては、照明用ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源を用いればよい。もっとも、コヒーレント光源50が発生させる光ビームL50の波長は、ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光の波長と完全に同一である必要はなく、近似する波長であれば、ホログラムの再生像を得ることができる。要するに、本発明に用いるコヒーレント光源50は、散乱板の像35を再生することが可能な波長をもったコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源であればよい。
【0123】
ここに示す実施形態の場合、波長λ=532nm(緑色)のレーザ光を射出することが可能なDPSS(Diode Pumped Solid State)レーザ装置をコヒーレント光源50として用いた。DPSSレーザは、小型でありながら比較的高出力の所望の波長のレーザ光を得ることができるため、本発明に係る立体画像表示装置への利用に適したコヒーレント光源である。
【0124】
このDPSSレーザ装置は、一般的な半導体レーザに比べてコヒーレント長が長いため、スペックルが発生しやすく、従来は、照明の用途には不適当と考えられていた。すなわち、従来は、スペックルを低減させるためには、レーザ光の発振波長に幅をもたせ、できるだけコヒーレント長を短くする努力が払われてきた。これに対して、本発明では、コヒーレント長が長い光源を用いたとしても、前述した原理により、スペックルの発生を効果的に抑制することができるので、光源としてDPSSレーザ装置を用いたとしても、実用上、スペックルの発生は問題にならなくなる。このような点において、本発明を利用すれば、光源の選択範囲をより広げる効果が得られる。
【0125】
<§4−2:光ビーム走査装置>
光ビーム走査装置60は、照明用ホログラム記録媒体45上で、光ビームを走査する機能をもった装置である。光ビームの具体的な走査方法としては、たとえば、CRTにおける電子線の走査と同様に、照明用ホログラム記録媒体45上を水平方向に走査し、そのような走査を垂直方向に繰り返すことにより、媒体全面を走査するような方法をとることができる。ただ、実用上は、照明用ホログラム記録媒体45上を円形の走査軌道に沿って走査するのが好ましい。
【0126】
なお、図6に示す例のように、感光媒体40の一部の領域(ハッチングを施した領域)にのみ参照光Lref を照射して記録を行った場合は、他の領域(外側の白い領域)にはホログラムが記録されていない。このような場合、外側の白い領域まで走査を行うと再生像35が得られないため、照明が一時的に暗くなってしまう。したがって、この場合は、ホログラムが記録されている領域内のみを走査するようにするのが好ましい。
【0127】
図15に示すとおり、照明用ホログラム記録媒体45上における光ビームL60の走査は、光ビーム走査装置60によって行われる。この光ビーム走査装置60は、コヒーレント光源50からの光ビームL50を、走査基点B(ホログラム記録時の収束点C)で屈曲させて照明用ホログラム記録媒体45に照射する機能を有する。しかも、その屈曲態様(屈曲の方向と屈曲角度の大きさ)を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。このような機能をもった装置は、走査型ミラーデバイスとして種々の光学系で利用されている。
【0128】
たとえば、図15に示す例では、光ビーム走査装置60として、便宜上、単なる反射鏡の図が描かれているが、実際には、この反射鏡を2軸方向に回動させる駆動機構が備わっている。すなわち、図示の反射鏡の反射面の中心位置に走査基点Bを設定し、この走査基点Bを通り、反射面上で互いに直交するV軸およびW軸を定義した場合に、この反射鏡をV軸(図の紙面に垂直な軸)まわりに回動させる機構と、W軸(図に破線で示す軸)まわりに回動させる機構とが備わっている。
【0129】
このように、V軸およびW軸まわりに独立して回動可能な反射鏡を用いれば、反射した光ビームL60を、照明用ホログラム記録媒体45上で水平方向および垂直方向に走査することが可能である。たとえば、上述の機構において、反射光をV軸まわりに回動すれば、図15に示す照射点P(t1)から図16に示す照射点P(t2)へ向けて、光ビームL60を走査することができる。また、W軸まわりに回動すれば、紙面に対して垂直方向に走査することができる。
【0130】
結局、光ビーム走査装置60が、走査基点Bを含む平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能を有していれば、照明用ホログラム記録媒体45上で光ビームL60の照射位置を一次元方向に走査することができる。これに対して、照明用ホログラム記録媒体45上で光ビームL60の照射位置を二次元方向に走査する運用をとるのであれば、光ビーム走査装置60に、走査基点Bを含む第1の平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能と、走査基点Bを含み第1の平面と直交する第2の平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能と、をもたせておけばよい。
【0131】
光ビームの照射位置を一次元方向に走査するための走査型ミラーデバイスとしては、ポリゴンミラーが広く利用されている。また、二次元方向に走査するための走査型ミラーデバイスとしては、ポリゴンミラーを2組組み合わせたものを用いることもできるし、ジンバルミラー、ガルバノミラー、MEMSミラーなどのデバイスが知られている。更に、通常のミラーデバイス以外でも、全反射プリズム、屈折プリズム、電気光学結晶(KTN結晶など)等も、光ビーム走査装置60として利用可能である。
【0132】
なお、光ビーム走査装置60による光ビームの走査速度は、スペックルノイズを抑制する効果が生じる速度に設定する必要がある。たとえば、図15に示す照射点P(t1)から図16に示す照射点P(t2)に至る一方向の走査に1時間を要するような遅い速度で走査したとしても、人間の視覚的な時間分解能の観点からは、走査を行っていないのと同じであり、スペックルが認識されることになる。光ビームを走査することによりスペックルが低減するのは、前述したとおり、表示用ホログラム記録媒体75の各部に照射される光の入射角度が時間的に多重化されるためである。したがって、ビーム走査によるスペックル低減の効果を十分に得るためには、スペックルを生じさせる原因となる同一の干渉条件が維持される時間が、人間の視覚的な時間分解能よりも短くなるようにすればよい。
【0133】
一般に、人間の視覚的な時間分解能の限界は、1/20〜1/30秒程度とされており、1秒間に20〜30フレーム以上の静止画像を提示すれば、人間には滑らかな動画として認識される。このような点を考慮すれば、光ビームの直径をdとした場合、1/20〜1/30秒でd以上の距離を進む走査速度(秒速20d〜30dの速度)で走査を行えば、十分なスペックル抑制効果が得られることになる。
【0134】
<§4−3:ホログラム記録媒体>
§3で述べた基本的実施形態では、照明用ホログラム記録媒体45と表示用ホログラム記録媒体75とが用いられている。前者は、特定の収束点Cに収束する参照光を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されている、という特徴を有している媒体であればよく、後者は、前者から得られる回折光を参照光として用いて、表示対象となる立体画像がホログラムとして記録されている、という特徴を有している媒体であればよい。ここでは、本発明に利用するのに適した具体的なホログラム記録媒体の形態を述べておく。
【0135】
ホログラムには、いくつかの物理的な形態がある。本願発明者は、本発明に利用するには、体積型ホログラムが最も好ましいと考えている。特に、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムを用いるのが最適である。
【0136】
一般に、キャッシュカードや金券などに偽造防止用シールとして利用されているホログラムは、表面レリーフ(エンボス)型ホログラムと呼ばれており、表面の凹凸構造によってホログラム干渉縞の記録が行われる。もちろん、本発明を実施する上では、像を表面レリーフ型ホログラムとして記録しているホログラム記録媒体(一般に、ホログラフィック・ディフューザーと呼ばれている)を利用することも可能である。しかしながら、この表面レリーフ型ホログラムの場合、表面の凹凸構造による散乱が、新たなスペックル生成要因となる可能性があるため、スペックルを低減させる、という観点からは好ましくない。また、表面レリーフ型ホログラムでは、多次回折光が発生するため、回折効率が低くなり、更に、回折性能(回折角をどこまで大きくできるかという性能)にも限界がある。
【0137】
これに対して、体積型ホログラムでは、媒体内部の屈折率分布としてホログラム干渉縞の記録が行われるため、表面の凹凸構造による散乱による影響を受けることはない。また、一般に、回折効率や回折性能も表面レリーフ型ホログラムより優れている。したがって、本発明を実施する際には、像を体積型ホログラムとして記録している媒体を利用するのが最適である。
【0138】
ただ、体積型ホログラムでも、銀塩材料を含む感光媒体を利用して記録するタイプのものは、銀塩粒子による散乱が新たなスペックル生成要因となる可能性があるため、避けた方が好ましい。このような理由から、本願発明者は、本発明に利用するホログラム記録媒体としては、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムが最適であると考えている。このようなフォトポリマーを用いた体積型ホログラムの具体的な化学組成は、たとえば、特許第2849021号公報に例示されている。
【0139】
もっとも、量産性という点では、体積型ホログラムよりも表面レリーフ型ホログラムの方が優れている。表面レリーフ型ホログラムは、表面に凹凸構造をもった原版を作成し、この原版を用いたプレス加工により、媒体の量産を行うことができる。したがって、製造コストを低減させる必要がある場合には、表面レリーフ型ホログラムを利用すればよい。
【0140】
一方、ホログラムの記録方式としては、物体光と参照光との合成波の振幅を干渉縞として記録する干渉縞記録方式の他に、合成波の位相を記録するキノフォーム方式や、振幅と位相の双方を記録する複素振幅方式があり、本発明では、これらのいずれの方式でホログラムを記録してもかまわない。
【0141】
また、ホログラムの物理的な形態としては、平面上に濃淡パターンとして干渉縞を記録した振幅変調型ホログラムも広く普及している。しかしながら、この振幅変調型ホログラムは、回折効率が低く、濃いパターン部分で光の吸収が行われてしまうため、本発明に利用した場合、十分な照明効率を確保することができない。ただ、その製造工程では、平面上に濃淡パターンを印刷する簡便な方法を採ることができるため、製造コストの点ではメリットが得られる。したがって、用途によっては、振幅変調型ホログラムを本発明に採用することも可能である。
【0142】
なお、これまで述べてきた記録方法では、いわゆるフレネルタイプのホログラム記録媒体が作成されることになるが、散乱板30や原画像Fをレンズを通して記録することにより得られるフーリエ変換タイプのホログラム記録媒体を作成してもかまわない。
【0143】
<<< §5. 本発明の実用的実施形態 >>>
§3で述べた基本的実施形態に係る立体画像表示装置では、表示用ホログラム記録媒体75として、干渉縞パターンが物理的に固定された媒体を用いているため、光ビーム走査装置60が光ビームL60を特定の照射点P(記録プロセスで用いた照射点)に照射している時点においてのみ、本来の正しいホログラム再生像FFが表示され、それ以外の時点では、正しいホログラム再生像FFの表示は行われず、若干ぼやけた再生像FFが観察される、という欠点があることは既に述べたとおりである。
【0144】
ここで述べる実用的実施形態は、干渉縞パターンが物理的に固定された表示用ホログラム記録媒体75の代わりに、与える画像データに基づいて任意の干渉縞パターン等を形成させることができる空間光変調器(たとえば、液晶ディスプレイ)を用いることにより、上記欠点を解消するものである。また、空間光変調器に与える画像データを変えることにより、任意の立体画像を表示することができ、必要に応じて、動画の表示も可能になるという利点も有している。
【0145】
図18は、この実用的実施形態に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。ここで、再生用照明光生成部100の部分(すなわち、コヒーレント光源50と、光ビーム走査装置60と、照明用ホログラム記録媒体45)は、図15に示す基本的実施形態と全く同じ構成である。まず、コヒーレント光源50は、散乱板の像および立体画像を再生することが可能な波長をもったコヒーレントな光ビームL50を発生させる構成要素である。また、照明用ホログラム記録媒体45には、所定光路に沿って照射される参照光を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されている。そして、光ビーム走査装置60は、照明用ホログラム記録媒体45に対する光ビームL60の照射方向が、散乱板30の像を記録する際に用いた参照光の光路に沿った方向になるように、光ビームL50を屈曲して照明用ホログラム記録媒体45に照射し、かつ、光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。
【0146】
一方、図15に示す基本的実施形態で用いられていた表示用ホログラム記録媒体75の代わりに、図18に示す実用的実施形態では、空間光変調器80が用いられている。この空間光変調器80は、所定の変調平面を有し、当該変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、当該変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する機能を有している。空間光変調器80は、照明用ホログラム記録媒体45からの回折光が届く位置であれば任意の位置に配置することが可能であるが、実用上は、既に述べたとおり、照明効率を向上させるために、照明用ホログラム記録媒体45によって得られた散乱板の再生像35の位置に配置するのが好ましい。また、空間光変調器80の大きさも、散乱板の再生像35の大きさとほぼ同じ程度に設定するのが好ましい。図18に示す例は、再生像35の形成位置に完全に重複するように、空間光変調器80を配置した例である。
【0147】
空間光変調器80としては、たとえば、透過型の液晶ディスプレイを利用することができる。液晶ディスプレイは、与えられた画像データに応じて、任意の画像を表示することが可能であるから、液晶ディスプレイに、図15に示す基本的実施形態で用いられていた表示用ホログラム記録媒体75に記録された干渉縞パターンを表示させるようにすれば、表示用ホログラム記録媒体75と同等の光学的機能が得られる。すなわち、照明用ホログラム記録媒体45から得られる散乱板の像の再生光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて立体画像のホログラム再生像FFを形成する機能を果たす。
【0148】
この立体画像表示装置には、空間光変調器80を駆動するための構成要素として、更に、制御装置200と画像データ格納部250とが設けられている。画像データ格納部250は、表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納する構成要素であり、たとえば、コンピュータ用のハードディスク装置などによって構成することができる。一方、制御装置200は、この立体画像表示装置を統括制御するユニットであり、専用のデジタル回路もしくは専用のプログラムを組み込んだコンピュータによって構成することができる。
【0149】
制御装置200は、画像データ格納部250から読み出した画像データを空間光変調器80に与える供給制御を行うとともに、コヒーレント光源50に動作制御信号(電源のON/OFF制御を行う信号)を与え、更に、光ビーム走査装置60に走査制御信号を与える制御を行う。このように、制御装置200は、空間光変調器80への画像データの供給制御を行うとともに、光ビーム走査装置60の走査制御を行う機能を有しているため、両者を同期させる同期制御が可能になる。そして、この同期制御を行うことにより、§3で述べた基本的実施形態のもつ「再生像FFのぼけ」という問題を解決することが可能になる。
【0150】
§3で述べた基本的実施形態において、「再生像FFのぼけ」という問題が生じる理由は、前述したとおり、光ビーム走査装置60が光ビームL60を特定の照射点P(記録プロセスで用いた照射点)に照射している時点においてのみ、本来の正しいホログラム再生像FFが表示されるためである。たとえば、図15に示す立体画像表示装置の場合、表示用ホログラム記録媒体75は、図14に示すように、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)を参照光Lref として原画像Fを記録した媒体であるから、図15に示すように、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)が再生用照明光として与えられる時点t1では、本来のホログラム再生像FF(t1)が形成されることになるが、図16に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)が再生用照明光として与えられる時点t2では、形成される再生像FF(t2)は正しいホログラム再生像にはならない。
【0151】
換言すれば、図16に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)が再生用照明光として与えられる時点t2において、本来の正しいホログラム再生像FF(t2)を形成するためには、表示用ホログラム記録媒体75として、図17に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)を参照光Lref として原画像Fを記録したホログラムを用いるようにすればよい。
【0152】
液晶ディスプレイなどの空間光変調器80では、与える画像データを変えることにより、変調面に形成するホログラムの内容を変えることができるので、各照射点に応じて、それぞれ異なる画像データを用意しておき、光ビーム走査装置60の走査に同期させて、それぞれ対応する画像データを空間光変調器80に与える同期制御が可能になる。
【0153】
たとえば、図18に示す例の場合、時刻t1において、光ビーム走査装置60が光ビームL60(t1)を照射点P(t1)に照射しているときには、空間光変調器80には画像データPIC(t1)が与えられ、時刻t2において、光ビーム走査装置60が光ビームL60(t2)を照射点P(t2)に照射しているときには、空間光変調器80には画像データPIC(t2)が与えられるような同期制御を行えばよい。ここで、画像データPIC(t1)は、回折光L45(t1)が空間光変調器80に照射されたときに、正しい再生像FFが形成されるようなホログラムを形成するための画像データであり、画像データPIC(t2)は、回折光L45(t2)が空間光変調器80に照射されたときに、正しい再生像FFが形成されるようなホログラムを形成するための画像データである。
【0154】
このような画像データは、コンピュータによるシミュレーション演算によって、予め作成しておくことができる。たとえば、上例の画像データPIC(t1)は、図14に示すような光学的な配置状態において、感光媒体70の受光面上に形成される干渉縞を示す画像データとして演算することができる。同様に、上例の画像データPIC(t2)は、図17に示すような光学的な配置状態において、感光媒体70の受光面上に形成される干渉縞を示す画像データとして演算することができる。
【0155】
実際には、照明用ホログラム記録媒体45上に複数N通りの照射点を予め設定しておき、光ビーム走査装置60が、この複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行うようにし、この複数N通りの照射点にそれぞれ対応するN通りの画像データを予め求めておき、画像データ格納部250に格納しておくようにすればよい。すなわち、画像データ格納部250には、複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データが格納されており、しかも、第i番目(1≦i≦N)の画像データPIC(ti)は、第i番目の照射点P(ti)からの再生用照明光が空間光変調器80に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであるようにしておけばよい。
【0156】
実際に立体画像を表示する際には、制御装置200が、複数N通りの照射点に光ビームL60が順に照射されるように、光ビーム走査装置60に対して走査制御信号を与えるとともに、複数N通りの画像データを空間光変調器80に順に与え、かつ、光ビーム走査装置60が第i番目の照射点P(ti)に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の画像データPIC(ti)が空間光変調器80に与えられるような同期制御を行えばよい。
【0157】
また、画像データ格納部250に動画からなる画像データを用意しておけば、立体画像を動画として表示することも可能である。その場合、個々の画像データとしては、特定の時刻に光ビームの走査を受ける特定の照射点からの参照光と、当該特定の時刻に表示すべき特定の原画像からの物体光と、によって形成される干渉縞パターンを示す画像データにしておけばよい。
【0158】
なお、本発明に用いる空間光変調器80は、上例のような透過型の液晶ディスプレイに限定されるものではなく、空間上の個々の位置ごとに、それぞれ入射光を所望の形に変調して射出する機能をもった素子であれば、どのような素子を用いてもかまわない。たとえば、透過型のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)素子を空間光変調器80として用いてもよい。あるいは、反射型の液晶ディスプレイや反射型のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)素子を用いることも可能である(この場合、視点Eの位置は、図18に示す例とは逆に、空間光変調器80の左側にくることになり、再生像FFは、空間光変調器80の右側に虚像として形成される。)。反射光を利用する場合、空間光変調器80としてDMD(デジタルマイクロミラーデバイス:Digital Micromirror Device)などのMEMS素子を用いることも可能である。
【0159】
<<< §6. 実用的実施形態の変形例 >>>
ここでは、§5で述べた実用的実施形態について、いくつかの変形例を説明する。
【0160】
<§6−1:小型化に適した変形例>
図19は、図18に示す実用的実施形態を更に小型化した変形例に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。図18に示す装置との相違は、図の水平方向に描かれている光軸Zを定義し、この光軸Z上に、光ビーム走査装置60,照明用ホログラム記録媒体45,空間光変調器(液晶ディスプレイ)80,視点Eが並ぶように配置した点にある。光ビーム走査装置60の走査基点Bは、光軸Z上に位置しており、照明用ホログラム記録媒体45は、その光変調面が光軸Zに垂直になるように配置されている。このように、主たる構成要素を光軸Z上に配置するようにしたため、装置全体の小型化を図ることができる。なお、空間光変調器80は、照明用ホログラム記録媒体45によって再生される散乱板の再生像の形成位置に配置されている。
【0161】
このように、図19に示す変形例は、図18に示す装置の各構成要素の配置を若干変更したものであり、個々の構成要素の機能に変わりはない。ただ、照明用ホログラム記録媒体45については、光ビーム走査装置60から照射される光ビームL60の入射角度が異なるため、記録されているホログラムも若干異なることになる。すなわち、走査基点Bと照明用ホログラム記録媒体45との位置関係に着目すると、図18に示す装置の場合、走査基点Bは媒体45の斜め方向に配置されているのに対して、図19に示す装置の場合、走査基点Bは媒体45の中心軸(光軸Z)上に配置されている。
【0162】
既に述べたように、図18に示す照明用ホログラム記録媒体45は、図5に示す記録プロセスにより、感光媒体40上に散乱板30の像をホログラムとして記録することにより得られたものであり、図5に示す参照光Lref の収束点Cが、図18に示す走査基点Bに対応することになる。これに対して、図19に示す照明用ホログラム記録媒体45は、図20に示す記録プロセスにより、感光媒体40上に散乱板30の像をホログラムとして記録することにより得られる。すなわち、感光媒体40上には、散乱板30からの光L30(物体光Lobj )と参照光Lref との干渉縞が記録される。ここで、図20に示す参照光Lref の収束点Cが、図19に示す走査基点Bに対応することになる。
【0163】
図18に示す装置も、図19に示す装置も、光ビームL60を走査する基本原理は同じである。すなわち、いずれの場合も、光ビーム走査装置60が、コヒーレント光源50から発せられた光ビームL50を所定の走査基点Bで屈曲させ、屈曲された光ビームL60を照明用ホログラム記録媒体45に照射し、かつ、光ビームの屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射位置を時間的に変化させる走査を行うことになる。しかも、いずれの場合も、照明用ホログラム記録媒体45には、特定の収束点Cに収束する参照光Lref (または特定の収束点Cから発散する参照光でもよい)を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されており、当該収束点Cを走査基点Bとして光ビームL60の走査が行われることになる。
【0164】
より具体的に言えば、いずれの場合も、照明用ホログラム記録媒体45には、収束点Cを頂点とした円錐の側面に沿って三次元的に収束する参照光(もしくは発散する参照光でもよい)を用いて散乱板30の像が記録されていることになる。このように、収束点Cを頂点とした円錐の側面に沿った参照光を用いて散乱板30の像を記録する理由は、図示の光ビーム走査装置60が、走査基点Bを頂点とした円錐の側面に沿った方向に光ビームL60を射出する機能を有しているためである。
【0165】
図19における一点鎖線の光路は、時刻t1における光の光路を示している。すなわち、光ビーム走査装置60により屈曲した光ビームL60(t1)は、照明用ホログラム記録媒体45の照射点P(t1)に照射され、ここからの回折光(散乱板30の像を再生するための再生光)が空間光変調器80に対して再生用照明光として与えられる。このとき、空間光変調器80には、制御装置200から所定の画像データが与えられており、当該画像データに応じたホログラムによる回折機能により、視点Eから見たときに再生像FFが観察されることになる。
【0166】
一方、図19における二点鎖線の光路は、時刻t2における光の光路を示している。すなわち、光ビーム走査装置60により屈曲した光ビームL60(t2)は、照明用ホログラム記録媒体45の照射点P(t2)に照射され、ここからの回折光(散乱板30の像を再生するための再生光)が空間光変調器80に対して再生用照明光として与えられる。このとき、空間光変調器80には、制御装置200から所定の画像データが与えられており、当該画像データに応じたホログラムによる回折機能により、視点Eから見たときに再生像FFが観察されることになる。
【0167】
なお、図5や図20には、照明用ホログラム記録媒体45の作成プロセスとして、感光媒体40に実際に光を照射し、そこに生じる干渉縞を感光媒体40の化学変化によって固定する、という光学的な方法をとる例を示したが、もちろん、この照明用ホログラム記録媒体45をCGHの手法で作成してもかまわない。
【0168】
図21は、照明用ホログラム記録媒体45を、CGHの手法で作成する原理を示す側面図であり、図20に示す光学的な現象を、コンピュータ上でシミュレートする方法を示すものである。ここで、図21に示す仮想の散乱板30′は、図20に示す実在の散乱板30に対応し、図21に示す仮想の記録面40′は、図20に示す実在の感光媒体40の受光面に対応する。図示の物体光Lobj は、仮想の散乱板30′から発せられる仮想の光であり、図示の参照光Lref は、この物体光Lobj と同一波長の仮想の光である。参照光Lref が、収束点Cに収束する光である点は、これまで述べた方法と全く同じである。記録面40′上の各点では、この仮想の物体光Lobj と参照光Lref との干渉縞の情報が演算される。
【0169】
なお、仮想の散乱板30′としては、たとえば、ポリゴンなどで表現された微細な三次元形状モデルを用いることも可能であるが、ここでは、平面上に多数の点光源Dを格子状に配列した単純なモデルを用いている。図22は、図21に示されている仮想の散乱板30′の正面図であり、小さな白丸は、それぞれ点光源Dを示している。図示のとおり、多数の点光源Dが、横方向ピッチPa,縦方向ピッチPbで格子状に配列されている。ピッチPa,Pbは、散乱板の表面粗さを定めるパラメータとなる。
【0170】
本願発明者は、点光源DのピッチPa,Pbをそれぞれ10μm程度の寸法に設定して記録面40′上に生じる干渉縞の情報を演算し、その結果に基づいて、実在の媒体表面に凹凸パターンを形成し、表面レリーフ型のCGHを作成した。そして、このCGHを照明用ホログラム記録媒体45として用いたところ、スペックルを抑制した良好な照明環境が得られた。
【0171】
<§6−2:レンズを付加した変形例>
これまで、図18や図19を参照して、本発明の実用的な実施形態に係る立体画像表示装置の構成例を説明した。これらの実施形態の特徴は、表示用ホログラム記録媒体75の代わりに、液晶ディスプレイなどの空間光変調器80を用い、この空間光変調器80を利用した光の変調により、ホログラム再生像を生成する点にある。
【0172】
しかしながら、図18や図19に示す構成をもった立体画像表示装置を量産型の工業製品として提供することを考えると、現在のところ、採算に合う価格で、十分な性能をもった空間光変調器80を調達することは困難である。たとえば、最も安価な量産型の空間光変調器80としては、液晶ディスプレイが挙げられるが、現在市販されている一般的な液晶ディスプレイの画素ピッチは32μm程度であり、ホログラムの干渉縞を表示させる上では、決して十分な解像度をもっているとは言えない。光学的な方法で感光媒体上にホログラムを記録した場合、光の波長のオーダーの解像度をもった精細な干渉縞パターンを記録することができる。ところが、画素ピッチが32μm程度の液晶ディスプレイでは、そのような精細な干渉縞パターンを表示することはできない。
【0173】
もちろん、特殊な用途に利用するための専用ディスプレイには、画素ピッチがより細かなものも存在するが、そのような特殊なディスプレイは量産されておらず、また、極めて高価であるため、量産型の立体画像表示装置に利用するには不適当である。したがって、図18や図19に示す実施形態に係る立体画像表示装置を商用レベルで量産するためには、一般用途の液晶ディスプレイなどを利用するしかない。
【0174】
いま、画素ピッチdをもった液晶ディスプレイに波長λの光を入射させ、ディスプレイに表示した干渉縞によって光を回折させる場合を考えてみよう。もちろん、表示される干渉縞の解像度は、画素ピッチdによって定まる。この場合、入射角θin と射出角θout との間には、「2d=mλ/(sin θout − sin θin)」なる式が成り立つ。ここで、mは回折光の次数である。結局、入射角θin と射出角θout との差、すなわち、光の回折角は、画素ピッチdが小さければ小さいほど、大きくなる。逆に言えば、画素ピッチdが大きいと、十分な回折角をとることができず、入射光を大きく回折させることはできないことになる。
【0175】
したがって、現実的には、画素ピッチが32μm程度の一般的な液晶ディスプレイを空間光変調器80として利用した場合、十分な回折角を確保することができない。たとえば、図19に示す例の場合、時刻t1において、照射点P(t1)から空間光変調器80の上端に向かう再生用照明光(上側の一点鎖線で示す光)を、視点Eへ向かうように回折させることは可能かもしれないが、照射点P(t1)から空間光変調器80の下端に向かう再生用照明光(下側の一点鎖線で示す光)を、視点Eへ向かうように回折させることは困難である。
【0176】
結局、画素ピッチが32μm程度の一般的な液晶ディスプレイを空間光変調器80として利用して、図18や図19に示すタイプの立体画像表示装置を構成する場合、十分な回折能力は期待できないため、視点Eから観察した場合、十分な視野角を得ることができない上、ディスプレイ全面を有効に利用できなくなる。視野角を拡大するためには、照明用ホログラム記録媒体45と空間光変調器80とを十分に離し(図19に示す例の場合、位置aと位置bとの距離d1を十分大きく設定し)、空間光変調器80に入射する再生用照明光が平行光束に近くなるようにすればよいが、実用上、距離d1を十分大きく設定することは困難である。一方、ディスプレイ全面を有効利用するためには、空間光変調器80から十分に離れた位置に視点Eを設定し(図19に示す例の場合、位置bと位置cとの距離d2を十分大きく設定し)、液晶ディスプレイの光軸Z近傍の部分からの回折光のみを利用して再生像FFが形成されるようにする、といった工夫が必要になるが、そのような工夫を施すと、視野角はより縮小してしまうことになる。
【0177】
このような問題を解決するには、立体画像の観察が行われると想定される視点Eの近傍に光を集光する機能をもった光学系を、照明用ホログラム記録媒体45と空間光変調器80との間に配置すればよい。このような光学系を挿入することにより、観察時に十分な視野角を確保することが可能になる。図23は、図19に示す立体画像表示装置において、光学系として1組の凸レンズ110を追加した例を示す側面図である。この凸レンズ110は、視点Eから照明用ホログラム記録媒体45の記録面に下ろした垂線を光軸Zとするレンズであり、照明用ホログラム記録媒体45と空間光変調器80との間に配置されている。
【0178】
照明用ホログラム記録媒体45と空間光変調器80との間に凸レンズ110を介挿すると、照明用ホログラム記録媒体45の1照射点から射出された再生用照明光が凸レンズ110によって集光され、視点Eの近傍に集光されることになる。図23に一点鎖線で描かれた光路は、時刻t1において、照射点P(t1)から射出された再生用照明光が、空間光変調器80による回折を受けずに進んだ場合の光路を示すものである。図示の例では、この一点鎖線で示す再生用照明光は、凸レンズ110によって集光され、視点Eの近傍の集光点E1に収束している。一方、図23に二点鎖線で描かれた光路は、時刻t2において、照射点P(t2)から射出された再生用照明光が、空間光変調器80による回折を受けずに進んだ場合の光路を示すものである。図示の例では、この二点鎖線で示す再生用照明光は、凸レンズ110によって集光され、視点Eの近傍の集光点E2に収束している。
【0179】
もちろん、実際には、再生用照明光は空間光変調器80による回折を受け、その一部は視点Eに置かれた眼球内の網膜まで進み、再生像FFを結像させることになる。図示する一点鎖線および二点鎖線の光路は、このような回折を受けない場合の光の進路を示すものであり、別言すれば、空間光変調器80による0次回折光(回折せずに直進した光)の進路を示すものである。したがって、集光点E1,E2は、時刻t1,t2における0次回折光の集光点ということになる。
【0180】
このように、凸レンズ110を介挿すれば、0次回折光の集光点E1,E2が、視点Eの近傍に形成されることになるので、再生像FFを得るために必要な光を視点Eの位置に回折させるために必要な回折角は比較的小さく抑えることができるようになる。したがって、空間光変調器80の回折能力が十分でなくても、視点Eの位置から十分な視野角をもって再生像FFを観察することができるようになる。
【0181】
なお、このような凸レンズ110の集光効果を高めるためには、凸レンズ110の焦点距離をfとしたときに、照明用ホログラム記録媒体45と凸レンズ110との距離(図23における位置aと位置bとの距離)を2fに設定し、凸レンズ110と視点Eとの距離(図23における位置bと位置cとの距離)を2fに設定するのが好ましい。このような配置を行えば、位置aにある照射点Pからの光(点光源からの光)を、位置cの集光点に集めることができるので、理想的な集光効果が得られるようになる。もちろん、凸レンズ110を上記以外の位置に配置しても視点E近傍への集光効果は得られるが、上記配置を採れば、最適な集光効果を得ることができる。
【0182】
<§6−3:2組のレンズを付加した変形例>
もちろん、複数組の凸レンズを用いて視点Eへの集光を行うことも可能である。図24は、2組のレンズを付加した変形例を示す側面図である。すなわち、この変形例では、視点Eから照明用ホログラム記録媒体45の記録面に下ろした垂線を光軸Zとする2組のレンズ120,130が、照明用ホログラム記録媒体45と空間光変調器80との間に配置されており、これら2組のレンズの間に再生像FFが観察される構成をとっている。
【0183】
しかも、図示の変形例では、照明用ホログラム記録媒体45に近い位置に配置された第1の凸レンズ120の焦点距離をf1とし、空間光変調器80に近い位置に配置された第2の凸レンズ130の焦点距離をf2としたときに、照明用ホログラム記録媒体45と第1の凸レンズ120との距離(図24における位置aと位置bとの距離)をf1に設定し、第2の凸レンズ130と視点Eとの距離(図24における位置cと位置dとの距離)をf2に設定している。
【0184】
もちろん、2組の凸レンズ120,130は、必ずしも上例のような位置に配置しなくても集光効果は得られるが、上例のような配置をとれば、位置aにある照射点Pからの光(点光源からの光)を、第1の凸レンズ120によって平行光束とすることができ、更に、この平行光束を第2の凸レンズ130によって位置dの集光点に集めることができるので、集光点の位置を自由に設定することができるようになる。
【0185】
たとえば、時刻t1では、図24に一点鎖線で示すように、照射点P(t1)から射出された再生用照明光L45(t1)は、第1の凸レンズ120によって平行光束L120(t1)に変換されて第2の凸レンズ130に入射する。第2の凸レンズ130は、この平行光束を位置d上の集光点E1に集光する。同様に、時刻t2では、図24に二点鎖線で示すように、照射点P(t2)から射出された再生用照明光L45(t2)は、第1の凸レンズ120によって平行光束L120(t2)に変換されて第2の凸レンズ130に入射する。第2の凸レンズ130は、この平行光束を位置d上の集光点E2に集光する。
【0186】
ここで、位置bと位置cとの間を伝わる光は常に平行光束となるので、距離d3の長さに制約はなく、距離d3をどのような値に設定しようとも、第2の凸レンズ130は、入射した平行光束を所定の集光点に集光する機能を果たすことができる。したがって、たとえば、視点Eの位置を図示の位置dから更に右方にδだけ移動させたい場合には、第2の凸レンズ130を右方にδだけ移動させ、2組のレンズの間隔をd3+δに設定すればよい。このように、上例のレンズ配置をとれば、集光点の位置を自由に設定することができ、視点Eの位置の自由度を高めることができる。
【0187】
なお、1組の凸レンズ110を付加することによる集光効果や、2組の凸レンズ120,130を付加することによる集光効果は、図18や図19に示すような空間光変調器80を用いる実施形態への適用に限定されるものではなく、図15に示すような表示用ホログラム記録媒体75を用いる実施形態に適用した場合にも有効な効果である。また、このような集光効果を得るための光学系は、凸レンズに限定されるものではなく、ホログラフィック光学素子(HOE)や回折光学素子(DOE)を用いてもよい。
【0188】
<<< §7. 0次回折光の排除 >>>
本発明の目的は、ホログラムとして記録された立体画像を、コヒーレント光を用いて再生し、これを表示する際に、スペックルの発生を効率的かつ十分に抑制することにある。そして、この目的は、散乱板の像が記録された照明用ホログラム記録媒体45に対してコヒーレント光からなる光ビームを走査する、という手法を導入することにより達成される。これは、光ビーム走査により、表示用ホログラム記録媒体75もしくは空間光変調器80に入射する再生用照明光の入射角度が時間的に変動し、スペックルの発生要因が時間的に分散するためである。
【0189】
しかしながら、視点Eから観察されるスペックルには、表示用ホログラム記録媒体75もしくは空間光変調器80の表面で発生するスペックルだけではなく、再生用照明光にもともと存在していたスペックル(光源側のスペックル)も含まれている。
【0190】
たとえば、図25に一点鎖線で示されている光路を考えてみよう。この図25は、図23に示す変形例(1組の凸レンズ110を介挿した実施例)における0次回折光の視点近傍への入射位置を示す図であり、ある時刻t0における光の経路を示している。すなわち、コヒーレント光源50で発生した光ビームL50は、時刻t0において、光ビーム走査装置60によって光ビームL60(t0)へと屈曲させられ、照明用ホログラム記録媒体45の中心(光軸Z上)に位置する照射点P(t0)に照射される。この照射点P(t0)から発せられた回折光L45(t0)は、図示のとおり、光軸Zを中心軸とする円錐状に広がり、凸レンズ110に入射する。そして、凸レンズ110によって集光され、空間光変調器80による回折を受けなかった場合には、図に一点鎖線で示すように集光点E0に収束する。この集光点E0は、光軸Z軸上の視点Eの位置に他ならない。
【0191】
結局、この図25に一点鎖線で示された光路の意味するところは、時刻t0において、光ビームL60(t0)が照射点P(t0)の位置を走査している状態では、0次回折光(すなわち、空間光変調器80による回折を受けずに直進した光)が視点Eの位置(集光点E0)に集光する、ということである。これは、観察者が、視点Eの位置に瞳を置いて観察していた場合、空間光変調器80からの0次回折光が瞳の内部に入射する、ことを意味し、観察者から見ると、0次回折光が見える状態になることを意味する。別言すれば、観察者は、光源を正面から覗き込むことになり、光源にもともと含まれていたスペックルが目に入ることになる。
【0192】
一方、図23に示すとおり、時刻t1において、光ビームL60(t1)が照射点P(t1)の位置を走査している状態では、0次回折光は集光点E1に集光し、時刻t2において、光ビームL60(t2)が照射点P(t2)の位置を走査している状態では、0次回折光は集光点E2に集光する。図示の例では、これらの集光点E1,E2は、視点Eから若干外れているため、観察者が、視点Eの位置に瞳を置いて観察していた場合、空間光変調器80からの0次回折光が瞳の内部に入射することはない。図25では、図が繁雑になるのを避けるため、照射点P(t1),P(t2)からの光路は図示を省略し、集光点E1,E2の位置のみを示してある。
【0193】
結局、図25において、光ビームL60が、照射点P(t1)やP(t2)に照射されている状態であれば、集光点E1,E2が視点Eから外れるため、観察者が光源を目にすることはなく、光源に含まれていたスペックルが目に入ることもない。ところが、照射点P(t0)に照射されている状態だと、集光点E0は視点Eの位置になるので、0次回折光が観察者の目に入り、光源に含まれていたスペックルが目に入ることになる。したがって、光源側のスペックルが観察者の目に入らないようにするには、空間光変調器80からの0次回折光が観察者の瞳の内部に入射するのを避けるようにすればよい。そのためには、0次回折光が観察者の瞳の内部に入射してしまうような照射点P(t0)を避けて光ビームの走査を行えばよいことになる。
【0194】
図26は、図25に示す照明用ホログラム記録媒体45に対する光ビームL60の照射点と0次回折光の視点近傍への入射位置との関係を示す図である。すなわち、図26(a) は、図25に示す照明用ホログラム記録媒体45の平面図であり、X印は各照射点の位置を示している。一方、図26(b) は、図25に示す位置cに紙面に垂直な受光面を定義したときに、この受光面の平面図を示しており、円EEは、この受光面上に置かれた仮想的な瞳の輪郭を示している。凸レンズ110による0次回折光の集光点が、この瞳の輪郭EEの内部に位置すると、0次回折光が瞳に入射して網膜まで達し、観察者の目に光源側のスペックルが見えることになる。
【0195】
図26(a) に示す各照射点P(t0),P(t1),P(t2),P(t11),P(t12),P(t13),P(t14)は、それぞれ図26(b) に示す各集光点E0,E1,E2,E11,E12,E13,E14に対応する。すなわち、光ビームL60が照明用ホログラム記録媒体45上の各照射点P(t0)〜P(t14)に照射されると、0次回折光はそれぞれ対応する集光点E0〜E14の位置に集光する。ここでは、各照射点の位置と各集光点の位置との間に、このような対応関係が得られるという前提で、照明用ホログラム記録媒体45上で照射点が円を描くように、光ビーム走査装置60によって光ビームL60を円錐面に沿って走査する場合を考えてみよう。
【0196】
たとえば、図26(a) に破線で示す円形の走査軌道Tに沿って光ビームL60を走査した場合、0次回折光は、図26(b) に示す瞳の輪郭EEに沿って移動することになる。したがって、0次回折光が瞳の内部に入射するのを避けるには、照明用ホログラム記録媒体45上で光ビームL60を走査する際に、図26(a) に破線で示す円形の走査軌道Tよりも内側の領域を走査禁止領域と定め、この走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにすればよい。
【0197】
ここで、「0次回折光が瞳の内部に入射するのを避ける」という点だけを考慮すると、照明用ホログラム記録媒体45上の光ビームL60の走査軌道は、できるだけ外側に設定すればよい。たとえば、図26(a) に示す例において、光ビームL60を破線で示す円形の走査軌道Tに沿って走査した場合、光ビームのスポットが所定の面積を有していることを考えると、0次回折光の一部が瞳の内部に入射してしまうおそれがある。そこで円形の走査軌道Tの直径をより大きく設定し、たとえば、照射点P(t1),P(t2)のような外側に位置する点を通るような円形の走査軌道を設定すれば、0次回折光が瞳の内部に入射することを完全に避けることができる。
【0198】
しかしながら、このように外側の走査軌道に沿って走査を行うと、再生像に悪影響が及ぶ可能性がある。その原因は、前述したとおり、液晶ディスプレイなどの空間光変調器80には、回折能力に限界があるため、十分な回折角度を確保することができないためである。以下、この点を詳細に説明する。
【0199】
図27は、図25に示す立体画像表示装置における0次回折光の集光位置および1次回折光の入射範囲を示す平面図である。この平面図は図25に示す位置cに紙面に垂直な受光面を定義したときに、この受光面の平面図を示しており、中心に描かれた点Zは光軸Zに相当する。また、実線の円EEは、この受光面上に置かれた仮想的な瞳の輪郭を示しており、破線の円G1は、0次回折光の集光点の軌跡を示している。
【0200】
前述したとおり、図26(a) に破線の円で示す走査軌道Tに沿って光ビームを走査すると、0次回折光の集光点E11〜E14は図26(b) に実線の円で示す瞳の輪郭EEに沿って移動する。したがって、図27に破線の円で示す軌跡G1は、図26(a) に示す円形の走査軌道Tよりも直径の大きな走査軌道に沿って、媒体45上をビーム走査した場合に得られる0次回折光の集光点の軌跡ということになる。この軌跡G1上の集光点E11〜E14は、瞳の輪郭EEよりも十分に離れているため、0次回折光が瞳の内部に入射することはない。
【0201】
しかしながら、ホログラム再生像を形成する役割を果たす1次回折光の入射位置を考慮すると、0次回折光の集光点の軌跡G1が瞳の輪郭EEから離れるほど、1次回折光は瞳の内部に入射しにくくなることがわかる。1次回折光は、0次回折光を所定の回折方向に所定の回折角度だけ曲げることによって得られる光であり、回折方向や回折角度は、空間光変調器80上のホログラム(干渉縞パターン)によって定まる。ただ、前述したとおり、回折角度の上限は、ホログラム(干渉縞パターン)の解像度に依存し、液晶ディスプレイなどを空間光変調器80として用いた場合、解像度の制限から十分な回折角度を確保することができない。
【0202】
図27に一点鎖線で示されている円は、1次回折光の回折可能領域を示しており、その直径は、空間光変調器80の解像度に基づいて定まる。たとえば、領域C11は、0次回折光の集光点E11を中心とする円になっているが、これは0次回折光が集光点E11に集光するような光ビーム走査が行われている時点において、空間光変調器80によって曲げられた1次回折光の到達可能範囲を示すものである。もちろん、実際の1次回折光の到達点は、空間光変調器80上に形成されたホログラム(干渉縞パターン)によって定まるが、空間光変調器80の解像度に限界があるため、領域C11の範囲外に1次回折光が到達することはない。別言すれば、この空間光変調器80は、集光点E11に向かって進む光を、領域C11の範囲外にまで回折する能力をもっていないことになる。
【0203】
図27に示す例の場合、1次回折光の回折可能領域C11は、瞳の輪郭EEの内部を完全に覆うことはできず、一部にカバーしきれない部分が生じている。これは、0次回折光が集光点E11に集光するような光ビーム走査が行われている時点において、瞳の内部に1次回折光が届かない領域が生じてしまうことを意味する。図示されている回折可能領域C12,C13,C14についても同様であり、いずれの場合も、瞳の内部に1次回折光が届かない領域が生じてしまう。これは網膜上に結像する再生像に欠けが生じることを意味する。もちろん、光ビームの走査により再生像の欠け部分も時間的に変動するので、時間的に平均すれば、欠けのない再生像を観察することができるが、再生像に部分的な輝度差が生じてしまうことは避けられない。
【0204】
このような再生像の欠けを防ぐという観点からは、照明用ホログラム記録媒体45上の光ビームL60の走査軌道は、できるだけ内側に設定すればよいことになる。たとえば、図28に示す例を見てみよう。この図28も、図27と同様に0次回折光の集光位置および1次回折光の入射範囲を示す平面図であり、実線の円EEは仮想的な瞳の輪郭を示しており、破線の円G2は、0次回折光の集光点の軌跡を示している。ここで、図28に示す軌跡G2は、図27に示す軌跡G1に比べて、径の小さな円になっている。このような軌跡G2を得るためには、照明用ホログラム記録媒体45上の光ビームL60の円形走査軌道の径をより小さくすればよい。
【0205】
図28に示す一点鎖線の円C11〜C14は、図27と同様に1次回折光の回折可能領域を示すものである。空間光変調器80の解像度に変わりはないので、当然ながら、図28に示す円C11〜C14の径は、図27に示す円C11〜C14の径に等しい。ただ、集光点E11〜E14の軌跡G2の径が小さくなったため、回折可能領域C11〜C14は、いずれも瞳の輪郭EEの内部を十分にカバーしている。これは、空間光変調器80の回折能力によって、瞳の内部の全領域に1次回折光を届けることができることを意味する。したがって、図28に示す例の場合、再生像に欠けが生じることはなく、再生像に部分的な輝度差が生じることはない。
【0206】
結局、照明用ホログラム記録媒体45上の光ビームL60の走査軌道は、「0次回折光が瞳の内部に入射するのを避ける」という観点では、できるだけ外側に設定すればよいが、「1次回折光を瞳の内部の任意の位置に届け、再生像の欠けを防ぐ」という観点では、できるだけ内側に設定すればよいことになる。したがって、実用上は、両者のバランスをとって、適切な走査軌道を設定すればよい。なお、回折光には、−1次、2次、−2次などの多次回折光も存在するが、これらの回折光は0次や1次回折光に比べて強度が小さいため、実用上は、これら多次回折光の挙動は無視しても問題はない。
【0207】
図29は、照明用ホログラム記録媒体45に対する光ビームL60の理想的な走査軌道T′を示す平面図である。上述したように、観察時に光源側のスペックル発生を避けるには、0次回折光が瞳の内部に入射するのを防ぐ必要があり、そのためには、立体画像の観察が行われると想定される視点Eの位置に仮想的な瞳を配置した場合に、「空間光変調器80(表示用ホログラム記録媒体75の場合も同様である)からの0次回折光が瞳の内部に入射する」という条件を満たす「照明用ホログラム記録媒45上の光ビームL60の照射範囲」を走査禁止領域と定め、光ビーム走査装置60が、この走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにすればよい。なお、瞳の大きさには個人差があり、また、周囲の照明環境によって瞳孔の開閉状態は変化するので、仮想的な瞳の径としては、一般人の平均的な瞳孔径(たとえば、直径4.5mm程度)を採用すれば十分である。
【0208】
図29に示す照射点P(t0)は光軸Z軸上の点であり、この照射点P(t0)を中心として破線で描かれた円形の走査軌道Tは、図26の走査軌道Tである。したがって、走査軌道Tの内部の領域が走査禁止領域ということになる。すなわち、この走査禁止領域内に光ビームL60を照射すると、瞳の内部に0次回折光が入射することになる。ただ、光ビームL60は幾何学的な線ではなく、幅をもったビームであるため、照明用ホログラム記録媒体45に照射した場合、照射点Pを中心として一定の面積をもったスポットAが形成される。そこで、図29に示す例では、このスポットAの半径に相当する距離だけ走査軌道Tから外側に位置する円形の走査軌道T′を設定し、この走査軌道T′に沿って照射点が移動するように光ビームL60の走査を行うようにしている。
【0209】
もちろん、走査軌道T′の更に外側を通るような軌道に沿ってビーム走査を行ってもよいし、走査軌道は必ずしも円形の軌道にする必要はないが、上述したように、「1次回折光を瞳の内部の任意の位置に届け、再生像の欠けを防ぐ」という観点では、走査軌道はできるだけ内側に設定するのが好ましい。したがって、実用上は、光ビーム走査装置60が、走査中に光ビームL60のスポットAが走査禁止領域(図29に示す円Tの内部)に入らないように、走査禁止領域の外側に円形の走査軌道T′を設定し、光ビームL60の中心軸がこの走査軌道T′に沿って周回運動するように走査を行うようにするのが好ましい。
【0210】
この走査軌道T′に沿ったビーム走査は、連続的な走査(軌道上をスポットAが一定速度で連続的に移動する走査)にしてもよいし、断続的な走査(軌道上でスポットAが移動と静止を繰り返す走査)にしてもよい。図29に示す例は、円形の走査軌道T′上に等間隔に12個の照射点P(t1)〜P(t12)を設定し、断続的な走査を行う例である。すなわち、光ビームL60は、時刻t1に照射点P(t1)に照射され、スポットA(t1)を形成した状態でしばらく静止し、時刻t2に照射点P(t2)に移動し、スポットA(t2)を形成した状態でしばらく静止し、... 、時刻t12に照射点P(t12)に移動し、スポットA(t12)を形成した状態でしばらく静止し、という動作を繰り返す。したがって、光ビームL60のスポットAが、時計の文字盤の1時〜12時の位置を順にジャンプしながら移動することになる。
【0211】
§5で述べたように、空間光変調器80を用いる実用的な実施形態の場合、この光ビームL60の走査に同期して、空間光変調器80に与える画像データが切り替えられる。たとえば、図23に示す立体画像表示装置において、図29に示す断続的な走査を行う場合であれば、画像データ格納部250内に12組の画像データPIC(t1)〜PIC(t12)を用意しておき、制御装置200によって、光ビーム走査装置60による走査と、空間光変調器80への画像データの提供とを同期させる制御を行うようにすればよい。
【0212】
図30は、このような同期制御を説明するための表である。期間欄の「t1〜」等の表示は、ビーム走査の各期間を示しており、たとえば、1行目の「t1〜」は、時刻t1から時刻t2の直前までの期間を示し、12行目の「t12〜」は、時刻t12から時刻t1の直前までの期間を示している。この表の1行目〜12行目に示す動作は、ビーム走査の1周期に相当し、実際には、このような周期動作が繰り返し実行されることになる。また、照射点欄の「P(t1)」等の表示は、図29に示す各照射点を示しており、スポット欄の「A(t1)」等の表示は、図29に示す各スポットを示している。一方、画像データ欄の「PIC(t1)」等の表示は、当該期間に空間光変調器80に提供される画像データを示している。これらの画像データは、前述したとおり、コンピュータによるシミュレーション演算によって、予め作成しておくことができる。
【0213】
図30に示す表に基づく装置の動作は次のとおりである。まず、時刻t1において、光ビームL60は、照射点P(t1)に照射され、スポットA(t1)を形成した状態で時刻t2の直前まで静止した状態になる。この期間に、空間光変調器80には画像データPIC(t1)が提供される。空間光変調器80として液晶ディスプレイを用いた場合、画面には画像データPIC(t1)に対応するホログラム(干渉縞パターン)が表示されることになる。当該ホログラムは、光ビームL60を照射点P(t1)の位置、すなわち、図29における時計の文字盤の1時の位置に照射した場合に、正しい再生像FFが得られるようなホログラムになっている。
【0214】
続いて、時刻t2になると、光ビームL60の照射位置は、照射点P(t2)に移動し、スポットA(t2)を形成した状態で時刻t3の直前まで静止した状態になる。この期間に、空間光変調器80には画像データPIC(t2)が提供される。この画像データPIC(t2)は、光ビームL60を照射点P(t2)の位置、すなわち、図29における時計の文字盤の2時の位置に照射した場合に、正しい再生像FFが得られるようなホログラムを形成するための画像データである。
【0215】
再生像FFの形状や位置が同じでも、光ビームL60の照射点が異なると、空間光変調器80に与えられる再生用照明光の入射角度が異なるため、正しい再生像FFを得るためのホログラムも若干異なることになる。図30に示す例では、12箇所に設定された個々の照射点ごとに、それぞれ異なる画像データ(ホログラム)が用意されており、照射点と画像データとを同期させる制御が行われるため、常に、正しい再生像FFが得られるようになり、再生像のボケを防止することができる。しかも、空間光変調器80に照射される再生用照明光の入射角度が時間的に変動するため、空間光変調器80の表面で発生するスペックルノイズを抑制することができる。また、図29に示す円Tの内部(走査禁止領域)を避けた光ビーム走査が行われるため、0次回折光が瞳の内部に入射することを防ぐことができ、光源側のスペックルノイズが観察されることを防ぐこともできる。
【0216】
図31は、上述したような制御動作を行うことにより、スペックルの低減効果が得られた実験結果を示す表である。一般に、観察対象となる画像上に生じたスペックルの程度を示すパラメータとして、スペックルコントラスト(単位%)という数値を用いる方法が提案されている。このスペックルコントラストは、本来は均一の輝度分布をとるべきテストパターン画像を表示した際に、実際に観察される画像上に生じる輝度のばらつきの標準偏差を、輝度の平均値で除した値として定義される量である。このスペックルコントラストの値が大きければ大きいほど、観察される画像上のスペックル発生程度が大きいことを意味し、観察者に対して、斑点状の輝度ムラ模様がより顕著に提示されていることになる。
【0217】
図31の表は、図23に示す立体画像表示装置もしくはこれに対比するための従来の立体画像表示装置を利用して、本来は均一の輝度分布をとるべきテストパターン画像が観察される環境下において、スペックルコントラストを測定した結果を示すものである。測定例1〜3は、いずれも、緑色のレーザ光を射出することが可能な同一のDPSSレーザ装置をコヒーレント光源50として用いた結果である。なお、測定例2,3で用いる照明用ホログラム記録媒体45の拡散角(ホログラム記録媒体上の点から散乱板の再生像35を望む最大角度)は、いずれの場合も20°に設定されている。
【0218】
まず、測定例1として示す測定結果は、図23に示す立体画像表示装置における光ビーム走査装置60および照明用ホログラム記録媒体45を省略し、コヒーレント光源50からの光ビームL50をビームエキスパンダーで広げて平行光束とし、この平行光束(レーザ平行光)を凸レンズ110で集光して空間光変調器80に照射する測定系を用いて得られた結果である。より具体的には、この測定例1は、空間光変調器80の位置にスクリーンを設置し、このスクリーン上に投影された無地テストパターンのスペックルコントラストの測定結果であり、空間光変調器80に入射する照明光のスペックルコントラストに相当する。この場合、表に示すとおり、スペックルコントラスト20.1%という結果が得られた。これは、視点Eから観察した場合に、斑点状の輝度ムラ模様がかなり顕著に観察できる状態であり、実用的な再生像の鑑賞には不適当なレベルである。
【0219】
一方、測定例2および3として示す測定結果は、いずれも図23に示す立体画像表示装置を利用して照明を行った結果である(測定例1と同様、空間光変調器80の位置に設置したスクリーン上のスペックルコントラストを示す)。ここで、測定例2は、照明用ホログラム記録媒体45として、光学的な方法で作成された体積型ホログラムを利用した結果であり、測定例3は、照明用ホログラム記録媒体45として、表面レリーフ型CGHを利用した結果である。いずれも4%に満たないスペックルコントラストが得られており、これは肉眼観察した場合に、輝度ムラ模様がほとんど観察できない極めて良好な状態である(一般に、スペックルコントラスト値が5%以下であれば、観察者に不快感が生じないとされている)。したがって、照明用ホログラム記録媒体45として、光学的な方法で作成された体積型ホログラムを利用した場合も、表面レリーフ型CGHを利用した場合も、実用的に十分な立体画像表示装置を構成することができる。測定例2の結果(3.0%)が、測定例3の結果(3.7%)よりも良好になった理由は、原画像となる実在の散乱板30の解像度が、仮想の散乱板30′(図22に示す点光源の集合体)の解像度よりも高いためと考えられる。
【0220】
最後の測定例4として示す測定結果は、緑色のLED光源からの光を凸レンズ110で集光して空間光変調器80に照射する測定系を用いて得られた結果である(この測定結果も、測定例1と同様、空間光変調器80の位置に設置したスクリーン上のスペックルコントラストを示す)。そもそもLED光源は、コヒーレント光源ではないので、スペックルの発生という問題を考慮する必要はなく、表に示すとおり、スペックルコントラスト4.0%という良好な結果が得られた。非コヒーレント光を用いた測定例4の結果が、コヒーレント光を用いた測定例2,3の結果に劣る理由は、LED光源が発する光自体に輝度ムラが生じていたためと考えられる。
【0221】
<<< §8. その他の変形例 >>>
ここでは、これまで説明してきた種々の実施形態および変形例について、更なる変形例をいくつか述べておく。
【0222】
<§8−1:ハーフミラーを追加した変形例>
図32は、図23に示す変形例にハーフミラー150を付加した変形例を示す側面図である。図32には、説明の便宜上、主要な光学的な構成要素のみが示されているが、実際には、図示の構成要素の他に、コヒーレント光源50,制御装置200,画像データ格納部250が設けられる。
【0223】
図示のとおり、この変形例では、視点Eの位置と空間光変調器80との間に、凸レンズ110の光軸Zに対して傾斜した反射面を有するハーフミラー150が配置されている。このようにハーフミラー150を配置すると、本来、視点Eの近傍に届くはずであった光の一部は、ハーフミラー150で反射し、別な視点E′の近傍に導かれる。図では、参考のため、照射点P(t1)から発せられた0次回折光の光路を一点鎖線で示し、照射点P(t2)から発せられた0次回折光の光路を二点鎖線で示してある。0次回折光の一部はハーフミラー150を透過して、視点E近傍の集光点E1,E2に収束するが、別な一部はハーフミラー150で反射して、別な視点E′近傍の集光点E1′,E2′に収束する。
【0224】
この変形例では、観察者は別な視点E′から観察を行うことができる。その場合、観察者には、再生像FFの代わりに、再生像FF′が観察されることになる。しかも、この再生像FF′は、照明用ホログラム記録媒体45の配置方向とは異なる方向に存在する背景Bkに重なった状態で観察される。したがって、所望の背景Bk上に立体画像の再生像FF′が形成される、という特殊効果を得ることができる。
【0225】
なお、このハーフミラー150を付加する変形例は、もちろん、空間光変調器80の代わりに表示用ホログラム記録媒体75を用いた実施形態に対しても適用可能である。
【0226】
<§8−2:カラー画像を表示する変形例>
これまで述べてきた実施形態は、いずれも単色のレーザ光源をコヒーレント光源50として用いた立体画像表示装置の例であり、観察者に表示される再生像FFは、このレーザの色に対応するモノクロ画像ということになる。しかしながら、一般的な立体画像表示装置では、カラー画像を表示できることが望ましい。そこで、ここでは、カラー画像を表示可能な立体画像表示装置の構成例を説明する。
【0227】
(1) 第1の構成例
カラー画像を表示するには、R(赤)、G(緑)、B(青)の三原色を定め、これら各原色の個別画像を合成して表示すればよい。ここに示す第1の構成例は、図23に示す再生用照明光生成部100におけるコヒーレント光源50として、R,G,Bの三原色の成分を時分割合成した合成光ビームを生成する光源を採用し、三原色の成分を含む再生用照明光を空間光変調器80に照射する方法を採る。
【0228】
図33は、そのようなコヒーレント光源50の一例を示す構成図である。この装置は、赤,緑,青の三原色を合成して白色の光ビームを生成する機能を有する。すなわち、赤色レーザ光源50Rが発生する赤色レーザビームL(R)と、緑色レーザ光源50Gが発生する緑色レーザビームL(G)とを、ダイクロイックプリズム15で合成し、更に、青色レーザ光源50Bが発生する青色レーザビームL(B)をダイクロイックプリズム16で合成することにより、白色の合成光ビームL(R,G,B)を生成することができる。もっとも、後述するように、各レーザ光源50R,50G,50Bは時分割動作を行うため、ある1時点を捉えると、合成光ビームL(R,G,B)は白色ではなく、赤,緑,青のいずれか1色の光ビームになる。
【0229】
一方、図23に示す光ビーム走査装置60は、こうして生成された合成光ビームL(R,G,B)を屈曲させてホログラム記録媒体45上で走査すればよい。ホログラム記録媒体45には、予め、上記3台のレーザ光源50R,50G,50Bが発生するレーザビームL(R),L(G),L(B)と同一波長(もしくは近似波長)の光をそれぞれ用いて、散乱板30の像35を3通りのホログラムとして記録しておくようにする。そうすれば、ホログラム記録媒体45からは、R,G,Bの各色成分についてそれぞれ回折光が得られ、R,G,Bの各色成分についての再生像35が同じ位置に生成されることになり、白色の再生像が得られる。
【0230】
なお、R,G,Bの3色の光を用いて散乱板30の像が記録されたホログラム記録媒体を作成するには、たとえば、R色の光に感光する色素、G色の光に感光する色素、B色の光に感光する色素が一様に分布したホログラム感光媒体と、上記合成光ビームL(R,G,B)とを用いてホログラムを記録するプロセスを行えばよい。また、R色の光に感光する第1の感光層、G色の光に感光する第2の感光層、B色の光に感光する第3の感光層を積層した3層構造からなるホログラム感光媒体を用いてもよい。あるいは、上記3つの感光層をそれぞれ別々の媒体として用意しておき、それぞれ対応する色の光を用いてホログラムの記録を別個に行い、最後に、この3層を貼り合わせて、3層構造をもつホログラム記録媒体を構成してもよい。
【0231】
結局、図23に示す空間光変調器80には、R,G,Bの各色成分を含んだ照明光が時分割されて供給されることになる。そこで、画像データ格納部250内には、R,G,Bの色成分ごとの画像データを用意しておき、制御装置200が、これらの画像データを時分割して空間光変調器80に供給する制御動作を行うようにする。また、制御装置200は、光ビーム走査装置60に対する走査制御を行うとともに、各レーザ光源50R,50G,50Bが時分割動作を行うような同期制御を行うようにする。
【0232】
図34は、このような同期制御を説明するための表である。図30に示す表と同様に、期間欄の「t1〜」等の表示は、ビーム走査の各期間を示しており、たとえば、「t1〜」は、時刻t1から時刻t2の直前までの期間を示している。ただ、当該期間は、更に、「t1R〜」,「t1G〜」,「t1B〜」という小期間に3等分されている。ここで、小期間「t1R〜」は、時刻t1R(=時刻t1)から時刻t1Gの直前までの期間であり、小期間「t1G〜」は、時刻t1Gから時刻t1Bの直前までの期間であり、小期間「t1B〜」は、時刻t1Bから時刻t2R(=時刻t2)の直前までの期間である。
【0233】
また、図30に示す表と同様に、照射点欄の「P(t1)」等の表示は、図29に示す各照射点を示しており、スポット欄の「A(t1)」等の表示は、図29に示す各スポットを示している。図34の表には、新たに、レーザ光源欄が付加されており、各レーザ光源50R,50G,50Bの時分割動作が示されている。このレーザ光源欄に「ON」と記載されている期間は、当該レーザ光源がONになって動作している期間を示す。レーザ光源欄が空欄となっている期間は、当該レーザ光源がOFF状態となっていることを示しており、当該期間中、レーザ光は照射されない。
【0234】
一方、画像データ欄の「PIC(t1R)」,「PIC(t1G)」,「PIC(t1B)」等の表示は、各期間に空間光変調器80に提供される画像データを示している。ここで、末尾にRが記されている画像データはカラー立体画像の赤色成分を再生するホログラムを形成するための画像データであり、末尾にGが記されている画像データはカラー立体画像の緑色成分を再生するホログラムを形成するための画像データであり、末尾にBが記されている画像データはカラー立体画像の青色成分を再生するホログラムを形成するための画像データである。これらの画像データも、コンピュータによるシミュレーション演算によって、予め作成しておくことができる。
【0235】
図34に示す表に基づく装置の動作は次のとおりである。まず、期間「t1〜」の間、光ビームL60は、照射点P(t1)に照射され、スポットA(t1)を形成する。ただ、この期間「t1〜」は、「t1R〜」,「t1G〜」,「t1B〜」という小期間に分けられており、小期間「t1R〜」の間、レーザ光源50RのみがONになる。したがって、空間光変調器80には、赤色の再生用照明光のみが照射される。このとき、空間光変調器80には、画像データPIC(t1R)が与えられており、カラー立体画像の赤色成分が再生されることになる。続く小期間「t1G〜」の間は、レーザ光源50GのみがONになり、空間光変調器80には、緑色の再生用照明光のみが照射される。このとき、空間光変調器80には、画像データPIC(t1G)が与えられており、カラー立体画像の緑色成分が再生されることになる。更に、小期間「t1B〜」の間は、レーザ光源50BのみがONになり、空間光変調器80には、青色の再生用照明光のみが照射される。このとき、空間光変調器80には、画像データPIC(t1B)が与えられており、カラー立体画像の青色成分が再生されることになる。
【0236】
このように、光ビームL60が照射点P(t1)に留まる期間「t1〜」を3つの小期間に分割し、各小期間において各色成分の再生像を順番に再生するという時分割方式を採ることにより、観察者にカラー立体画像を提示することが可能になる。
【0237】
結局、この第1の構成例では、コヒーレント光源50を、それぞれ三原色の各波長をもった単色光のレーザビームを発生する3台のレーザ光源50R,50G,50Bと、これら3台のレーザ光源が発生したレーザビームを合成して合成光ビームを生成する光合成器15,16と、によって構成し、光ビーム走査装置60が、この光合成器が生成した合成光ビームを照明用ホログラム記録媒体45上で走査するような構成を採っていることになる。しかも、照明用ホログラム記録媒体45には、3台のレーザ光源が発生する各レーザビームによってそれぞれ再生像が得られるように、散乱板30の像が3通りのホログラムとして記録されている。
【0238】
また、画像データ格納部250には、複数N通り(上例は、N=12の例)の各照射点に対応して、三原色のそれぞれについて、合計(3×N)通りの単色画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の照射点に対応した第j番目(1≦j≦3)の単色画像データは、第i番目の照射点からの第j番目の単色光の再生用照明光が空間光変調器80に与えられた場合に、表示対象となる立体画像の第j番目の原色についてのホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データとなっている。
【0239】
そして、制御装置200は、複数N通りの照射点に光ビームL60が順に照射されるように、光ビーム走査装置60に対して走査制御信号を与えるとともに、複数N通りの照射点に対応した各単色画像データを空間光変調器80に与え、かつ、光ビーム走査装置60が第i番目の照射点に光ビームL60を照射させる走査を行っているときに、第i番目の各単色画像データが順番に空間光変調器80に与えられるようにし、しかも、空間光変調器80に第j番目の単色画像データが与えられているときに、第j番目の単色光を発生するレーザ光源のみが選択的に動作するよう、各レーザ光源に対して動作制御信号を与える同期制御を行うことになる。
【0240】
(2) 第2の構成例
カラー画像を表示するための第2の構成例は、これまで述べてきた単色用の立体画像表示装置を3組用意し、それぞれ各原色の再生像を形成し、これらを合成して観察者に提示するものである。
【0241】
図35は、この第2の構成例を示す配置図である。図示のとおり、この装置は、赤色ユニット500R,緑色ユニット500G,青色ユニット500Bという3組の立体画像表示装置と、これら3組の立体画像表示装置によって形成された再生像を合成する合成光学系550と、を備えている。ここで、第j番目(1≦j≦3)の立体画像表示装置は、三原色のうちの第j番目の原色の波長をもった単色光のレーザビームを発生させるコヒーレント光源を用いることにより、第j番目の原色の立体画像の再生像を形成する機能を有している。一方、合成光学系550は、たとえば、クロスダイクロイックプリズムなどの光学系によって構成され、三原色の各再生像を合成することによりカラー立体画像の再生像を形成する機能を有している。
【0242】
観察者は、視点Eの位置において、合成光学系550によって合成されたカラー立体画像の再生像を観察することができる。
【0243】
<§8−3:光ビーム走査装置の変形例>
これまで述べた実施形態では、再生用照明光生成部100内の光ビーム走査装置60が、光ビームを所定の走査基点Bで屈曲させ、この屈曲態様(屈曲の方向と屈曲角度の大きさ)を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームを走査する方式をとっていたが、光ビーム走査装置60の走査方法は、光ビームを走査基点Bで屈曲させる方法に限定されるものではない。
【0244】
たとえば、光ビームを平行移動させるような走査方法を採ることも可能である。ただ、その場合は、照明用ホログラム記録媒体45に対する散乱板30の記録方法も変更する必要がある。すなわち、感光媒体40に対して、平行光束からなる参照光Lref を照射し、散乱板30からの物体光Lobj との干渉縞の情報を記録するようにする。図36は、そのような方法で作成された照明用ホログラム記録媒体46を用いた再生用照明光生成部100Aの側面図である。図示のとおり、この再生用照明光生成部100Aは、照明用ホログラム記録媒体46、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置65によって構成されている。
【0245】
ここで、照明用ホログラム記録媒体46には、上述したとおり、平行光束からなる参照光Lref を利用して、散乱板30の像35がホログラムとして記録されている。また、コヒーレント光源50は、照明用ホログラム記録媒体46を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長(もしくは、ホログラムの再生が可能な近似波長)をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源である。
【0246】
一方、光ビーム走査装置65は、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50を照明用ホログラム記録媒体46に照射する機能を有するが、このとき、ホログラムの記録プロセスで用いた参照光Lref に平行になる方向から光ビームL65が照明用ホログラム記録媒体46に照射されるように走査を行う。より具体的には、光ビームL65を平行移動させながら照明用ホログラム記録媒体46に照射することにより、光ビームL65の照明用ホログラム記録媒体46に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。
【0247】
このような走査を行う光ビーム走査装置65は、たとえば、可動反射鏡66と、この可動反射鏡66を駆動する駆動機構とによって構成することができる。すなわち、図36に示すように、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50を受光可能な位置に可動反射鏡66を配置し、この可動反射鏡66を光ビームL50の光軸に沿って摺動させる駆動機構を設けておけばよい。なお、実用上は、MEMSを利用したマイクロミラーデバイスにより、上記機能と同等の機能をもった光ビーム走査装置65を構成することができる。あるいは、図13に示す光ビーム走査装置60によって走査基点Bの位置で屈曲された光ビームL60を、走査基点Bに焦点をもつ凸レンズに通すことによっても、平行に移動する光ビームを生成することができる。
【0248】
図36に示す例の場合、可動反射鏡66で反射した光ビームL65の照射を受けた照明用ホログラム記録媒体46は、記録された干渉縞に基づく回折光を発生し、この回折光によって、散乱板30の再生像35が生成される。再生用照明光生成部100Aは、こうして得られる再生像35の再生光を再生用照明光として利用した照明を行うことになる。
【0249】
図36では、説明の便宜上、時刻t1における光ビームの位置を一点鎖線で示し、時刻t2における光ビームの位置を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は、可動反射鏡66(t1)の位置で反射し、光ビームL65(t1)として照明用ホログラム記録媒体46の照射点P(t1)に照射されるが、時刻t2では、光ビームL50は、可動反射鏡66(t2)の位置で反射し(図示の可動反射鏡66(t2)は、可動反射鏡66(t1)が移動したものである)、光ビームL65(t2)として照明用ホログラム記録媒体46の照射点P(t2)に照射される。
【0250】
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における走査態様しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL65は図の左右に平行移動し、光ビームL65の照明用ホログラム記録媒体46に対する照射位置は、図の照射点P(t1)〜P(t2)へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL65の照射位置は、照明用ホログラム記録媒体46上において照射点P(t1)〜P(t2)へと走査されることになる。ここでは、光ビームL65を一次元方向(図の左右方向)に平行移動する例を述べたが、もちろん、光ビーム65を図の紙面に垂直な方向にも平行移動させる機構(たとえば、XYステージ上に反射鏡を配置した機構)を設けておけば、二次元方向に平行移動させることが可能になる。
【0251】
ここで、光ビームL65は、ホログラムの記録プロセスで用いた参照光Lref に常に平行になるように走査されるので、光ビームL65は、照明用ホログラム記録媒体46の各照射位置において、そこに記録されているホログラムを再生するための正しい再生用照明光Lrep として機能する。
【0252】
たとえば、時刻t1では、照射点P(t1)からの回折光L46(t1)によって、散乱板30の再生像35が生成され、時刻t2では、照射点P(t2)からの回折光L46(t2)によって、散乱板30の再生像35が生成される。もちろん、時刻t1〜t2の期間においても、光ビームL65が照射された個々の位置からの回折光によって、同様に散乱板30の再生像35が生成される。すなわち、光ビームL65が平行移動走査を受ける限り、照明用ホログラム記録媒体46上のどの位置に光ビームL65が照射されたとしても、照射位置からの回折光によって、同一の再生像35が同一位置に生成されることになる。
【0253】
結局、この図36に示す再生用照明光生成部100Aでは、光ビーム走査装置65が、光ビームL65を平行移動させながら照明用ホログラム記録媒体46に照射することにより、光ビームL65の照明用ホログラム記録媒体46に対する照射位置を時間的に変化させる機能を果たす。しかも、照明用ホログラム記録媒体46には、平行光束からなる参照光を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されており、光ビーム走査装置65が、この参照光に平行になる方向から光ビームL65を照明用ホログラム記録媒体46に照射して、光ビームの走査を行うことになる。その結果、常に同一の再生像35を同一位置に生成することができ、図13に示す再生用照明光生成部100と同様に、再生像35によって表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80を照明することができる。もちろん、図29に示す例のように、円形の走査軌道に沿って平行な光ビーム走査を行うことも可能である。この場合は、たとえば、円錐状に走査した光ビームを凸レンズ等で屈曲する光学系を利用したり、図36に示す光ビーム走査装置65における可動反射鏡66を二次元的に駆動する機構を用意したりすればよい。
【0254】
要するに、本発明では、照明用ホログラム記録媒体に、所定光路に沿って照射される参照光を用いて散乱板の像をホログラムとして記録しておき、光ビーム走査装置によって、このホログラム記録媒体に対する光ビームの照射方向が参照光の光路に沿った方向(光学的に共役な方向)になるように、光ビームの走査を行うようにすればよい。なお、光ビーム走査装置としては、この他にも、走査型ミラーデバイス、全反射プリズム、屈折プリズム、電気光学結晶などを利用することが可能である。
【0255】
<§8−4:マイクロレンズアレイを用いた変形例>
これまで述べた実施形態は、散乱板30のホログラム像が記録された照明用ホログラム記録媒体45,46を用意し、この照明用ホログラム記録媒体45,46に対して、コヒーレント光を走査し、得られる回折光を再生用照明光として利用するものであった。ここでは、この照明用ホログラム記録媒体の代わりに、マイクロレンズアレイを利用した変形例を述べる。
【0256】
図37は、このマイクロレンズアレイを利用した再生用照明光生成部の変形例の側面図である。この変形例に係る再生用照明光生成部100Bは、マイクロレンズアレイ48、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。コヒーレント光源50は、これまで述べてきた実施形態と同様に、コヒーレントな光ビームL50を発生させる光源であり、具体的には、レーザ光源を用いることができる。
【0257】
また、光ビーム走査装置60は、これまで述べてきた実施形態と同様に、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50の走査を行う装置である。より具体的には、光ビームを走査基点Bで屈曲させてマイクロレンズアレイ48に照射する機能を有し、しかも、光ビームL50の屈曲態様を時間的に変化させることにより、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。
【0258】
一方、マイクロレンズアレイ48は、多数の個別レンズの集合体からなる光学素子である。このマイクロレンズアレイ48を構成する個別レンズは、それぞれが、走査基点Bから入射した光を屈折させ、所定位置に配置された照明対象物90の受光面(ここでは基準面Rと呼ぶ)上に所定の照射領域Iを形成する機能を有している。しかも、いずれの個別レンズによって形成される照射領域Iも、基準面R上において同一の共通領域となるように構成されている。このような機能をもったマイクロレンズアレイとしては、たとえば、「フライアイレンズ」と呼ばれるものが市販されている。
【0259】
図38は、図37に示す再生用照明光生成部100Bの動作原理を示す側面図である。ここでも、説明の便宜上、光ビームL60の時刻t1における屈曲態様を一点鎖線で示し、時刻t2における屈曲態様を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)としてマイクロレンズアレイ48の下方に位置する個別レンズ48−1に入射する。この個別レンズ48−1は、走査基点Bから入射した光ビームについては、これを広げて、照明対象物90の基準面R上の二次元照射領域Iに照射する機能を有する。したがって、照明対象物90の基準面Rには、図示のように照射領域Iが形成される。
【0260】
また、時刻t2では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t2)としてマイクロレンズアレイ48の上方に位置する個別レンズ48−2に入射する。この個別レンズ48−2は、走査基点Bから入射した光ビームについては、これを広げて、照明対象物90の基準面R上の二次元照射領域Iに照射する機能を有する。したがって、時刻t2においても、照明対象物90の基準面Rには、図示のように照射領域Iが形成される。
【0261】
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における動作状態しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームの屈曲方向は滑らかに変化し、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置は、図の下方から上方へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL60の照射位置は、マイクロレンズアレイ48上で上下に走査されることになる。もちろん、マイクロレンズアレイ48として、多数の個別レンズが二次元的に配置されたものを用いた場合は、光ビーム走査装置60によって、この二次元配列上で光ビームが走査されるようにすればよい。
【0262】
上述したマイクロレンズアレイ48の性質から、光ビームL60がどの個別レンズに入射したとしても、基準面R上に形成される二次元照射領域Iは共通になる。すなわち、光ビームの走査状態にかかわらず、基準面Rには、常に同一の照射領域Iが形成されることになる。したがって、照明対象物90として、表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80(液晶ディスプレイ)を配置し、その光変調面(ホログラム記録面)が上記基準面Rの照射領域I内に位置するようにすれば、光変調面には常に再生用照明光が照射された状態になり、ホログラムとして記録されていた立体画像を再生することができる。すなわち、照明対象物90として配置された表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80は、マイクロレンズアレイ48から得られる屈折光を再生用照明光として、立体画像の再生像を形成することができる。
【0263】
なお、実用上は、個別レンズによって生じる照射領域Iが完全に同一でなく、多少ずれていたとしても、少なくとも光変調面の領域内に対して、常に再生用照明光が照射された状態になっていれば、立体画像を再生する上で問題は生じない。また、図の照明対象物90の位置に表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80を配置する代わりに、照射領域I内に照射される再生用照明光を凸レンズなどの光学系で集光した後に、この光学系を通った再生用照明光を表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80に照射するようにしてもよい。
【0264】
結局、ここに示す再生用照明光生成部100Bの場合、光ビーム走査装置60は、光ビームL60をマイクロレンズアレイ48に照射し、かつ、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置が時間的に変化するように走査する機能をもっている。一方、マイクロレンズアレイ48を構成する個別レンズは、それぞれが、光ビーム走査装置60から照射された光を屈折させ、照明対象物90の基準面R上に所定の照射領域Iを形成する機能を有しており、この照射領域I内に照射される再生用照明光を用いて、表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80上のホログラムを再生することにより、再生像が得られることになる。したがって、マイクロレンズアレイ48を構成する各個別レンズからの屈折光L48によって形成される各照射領域Iは、表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80上のホログラムを再生するのに必要な再生用照明光が得られる位置およびサイズに設定されていればよい。もちろん、ホログラム再生に必要な再生用照明光が得られるのであれば、各個別レンズによって形成される各照射領域Iは、完全に同一の共通領域である必要はなく、相互に多少のずれが生じていてもかまわないが、ずれが大きければ大きいほど、照明エネルギーが無駄に使われることになるので好ましくない。したがって、実用上は、いずれの個別レンズによって形成される照射領域Iも、基準面R上においてほぼ同一の共通領域(表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80に対する効率的な照明が可能になる程度に互いに重複した領域)となるように構成するのが好ましい。
【0265】
この再生用照明光生成部100Bを用いた場合も、これまで述べてきた実施形態と同様に、再生用照明光の入射角度は、時間的に多重化されることになり、スペックルの発生が抑制される。
【0266】
<§8−5:光拡散素子を用いた変形例>
これまで、散乱板30のホログラム像が記録された照明用ホログラム記録媒体45,46を用いて再生用照明光生成部100,100Aを構成した例を説明し、更に、上記<§8−4>では、照明用ホログラム記録媒体45,46の代わりにマイクロレンズアレイ48を用いて再生用照明光生成部100Bを構成した例を説明した。これらの再生用照明光生成部において、照明用ホログラム記録媒体やマイクロレンズアレイは、結局のところ、入射した光ビームを拡散して所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有する光拡散素子の役割を果たしていることになる。しかも、当該光拡散素子は、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上において同一の共通領域となる、という特徴を有している。
【0267】
したがって、本発明に係る立体画像表示装置に用いられる再生用照明光生成部を構成するには、必ずしも上述した照明用ホログラム記録媒体やマイクロレンズアレイを用いる必要はなく、一般的に、上記特徴を有する光拡散素子を用いて構成することができる。
【0268】
要するに、本発明に係る立体画像表示装置に用いられる再生用照明光生成部は、本質的には、コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、この光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、を用いることによって構成することができる。
【0269】
ここで、光ビーム走査装置は、コヒーレント光源が発生した光ビームを、光拡散素子に向けて射出し、かつ、当該光ビームの光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査する機能を有していればよい。また、光拡散素子は、入射した光ビームを拡散して所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上においてほぼ同一の共通領域(表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80に対する効率的な照明が可能になる程度に互いに重複した領域)となるように構成されていればよい。このような光拡散素子から得られる拡散光は、再生用照明光として、表示用ホログラム記録媒体や空間光変調器に与えられ、立体画像の再生像が形成されることになる。
【0270】
もちろん、空間光変調器80を用いて再生像を形成する場合は、これまで述べた実施形態と同様に、画像データ格納部250に、複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データを格納しておき、光ビーム走査装置60による複数N通りの照射点を走査する動作に同期させて、対応する画像データを空間光変調器80に提供する制御を行うことになる。
【0271】
<<< §9. 本発明に係る立体画像表示方法 >>>
最後に、本発明を、ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法として捉え、その概要を簡単に述べておく。
【0272】
まず、再生用照明光を生成する手段として、照明用ホログラム記録媒体を用いる実施形態の場合、本発明に係る立体画像表示方法は、散乱板の像をホログラムとして記録用媒体上に記録することにより照明用ホログラム記録媒体を作成する照明用ホログラム準備段階と、この照明用ホログラム記録媒体から得られる散乱板の像の再生光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体もしくはこれと同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、散乱板の再生像を得るのに適したコヒーレントな光ビームを、照明用ホログラム記録媒体上に、散乱板の再生像を得るのに適した方向から照射し、かつ、照射位置が時間的に変化するように光ビームを照明用ホログラム記録媒体上で走査するホログラム再生段階と、によって構成される。
【0273】
また、再生用照明光を生成する手段として、マイクロレンズアレイを用いる実施形態の場合、本発明に係る立体画像表示方法は、それぞれ特定方向から照射された光ビームを屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有する多数の個別レンズの集合体からなり、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されているマイクロレンズアレイを用意するマイクロレンズアレイ準備段階と、このマイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体もしくはこれと同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、マイクロレンズアレイに特定方向から照射し、かつ、光ビームのマイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、によって構成される。
【0274】
更に、再生用照明光を生成する手段として、光拡散素子を用いる実施形態の場合、本発明に係る立体画像表示方法は、特定方向から入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されている光拡散素子を用意する光拡散素子準備段階と、この光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体もしくはこれと同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、光拡散素子に照射し、かつ、光ビームの光拡散素子に対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、によって構成される。
【0275】
そして、上述した立体画像表示方法における表示用ホログラム準備段階で、複数N通りのホログラムの画像データと、再生用照明光を与えることにより画像データに応じたホログラム再生像を形成する空間光変調器を用意した場合は、ホログラム再生段階では、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行い、第i番目(1≦i≦N)の照射点に光ビームが照射されているときに、空間光変調器が第i番目の画像データに応じたホログラム再生像を形成するようにし、第i番目の画像データとして、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データを用いるようにすればよい。
【0276】
また、0次回折光が瞳の内部に入射することにより光源側のスペックルが観察されるのを避けるためには、立体画像の観察が行われると想定される視点の位置に仮想的な瞳を配置し、「表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器からの0次回折光がこの瞳の内部に入射する」という条件を満たす光ビームの照射範囲を走査禁止領域と定め、ホログラム再生段階で、当該走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにすればよい。
【0277】
更に、立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光する機能をもった光学系により集光した再生用照明光を表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器に与えるようにすれば、立体画像の再生に寄与する回折光を視点位置に集光しやすくなり、観察時に十分な視野角を確保することができるようになる。
【符号の説明】
【0278】
10:コヒーレント光源
11:反射鏡
12:ビームエキスパンダー
15,16:ダイクロイックプリズム
20:ビームスプリッタ
21:反射鏡
22:ビームエキスパンダー
23:凸レンズ
30:散乱板
30′:仮想の散乱板
35:散乱板のホログラム再生像
40:感光媒体
40′:記録面
45:照明用ホログラム記録媒体
46:照明用ホログラム記録媒体
48:マイクロレンズアレイ
48−1,48−2:マイクロレンズアレイを構成する個別レンズ
50,50R,50G,50B:コヒーレント光源
60:光ビーム走査装置
65:光ビーム走査装置
66:可動反射鏡
70:感光媒体
75:表示用ホログラム記録媒体
80:空間光変調器(液晶ディスプレイ)
90:照明対象物
100,100A,100B:再生用照明光生成部
110,120,130:凸レンズ
150:ハーフミラー
200:制御装置
250:画像データ格納部
500R:赤色ユニット
500G:緑色ユニット
500B:青色ユニット
550:合成光学系(ダイクロイックプリズム)
A,A1,A2:光ビームの断面(スポット)
a:各構成要素の配置位置
B:走査基点
Bk:背景
b:各構成要素の配置位置
C:レンズの焦点/収束点
C11〜C14:1次回折光の回折可能領域
c:各構成要素の配置位置
D:点光源
d:各構成要素の配置位置
d1〜d3:距離
E,E′:視点
E0〜E14:0次回折光の集光点
E1′,E2′:0次回折光の集光点
EE:仮想的な瞳の輪郭
F:原画像/物体
FF,FF′:再生像
f,f1,f2:凸レンズの焦点距離
G1,G2:0次回折光の集光点の軌跡
H:ホログラム記録媒体
I:照射領域
K:物体点/代表点
L10,L11:光ビーム
L12:平行光束
L20,L21:光ビーム
L22:平行光束
L23:照射光
L30:散乱光
L31〜L33:物体光
L45:回折光
L46:回折光
L48:屈折光
L50:光ビーム
L60:光ビーム
L61,L62:光ビーム
L65:光ビーム
L71,L72:回折光
L110:0次回折光
L120:平行光束
L130:0次回折光
L(R):赤色レーザビーム
L(R,G):赤緑色合成光ビーム
L(R,G,B):三原色合成光ビーム
Ldif :回折光
Lobj :物体光
Lref :参照光
Lrep :再生用照明光
Ls:光ビーム
M:感光媒体
P,P1,P2:媒体上の点/光ビームの照射点
Pa,Pb:点光源Dのピッチ
PIC:画像データ
Q:着目点
Q1〜Q3:物体点
R:基準面
S:コヒーレント光源
S1,S2:参照光の断面
T,T′:円形の走査軌道
t0〜t14:時刻
V:回動軸(図の紙面に垂直な軸)
W:回動軸
X:ビームエキスパンダー
Z:光軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体画像表示装置および立体画像表示方法に関し、特に、ホログラムとして記録された立体画像を、コヒーレント光を用いて再生してこれを表示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
立体画像を表示する代表的な方法として、二次元視差画像方式が古くから知られている。この方式は、三次元物体を両眼で観察した場合に、左右の眼の網膜に得られる画像にわずかな視差が生じ、この視差を手がかりに奥行きを知覚するという人間の知覚特性を利用する方式である。この方式で立体画像を提示するには、予め、左眼に提示するための左眼視差画像と右眼に提示するための右眼視差画像とを別個に用意しておき、何らかの方法で、左眼視差画像を左眼のみに提示し、右眼視差画像を右眼のみに提示すればよい。具体的な提示方法としては、アナグリフ方式、液晶シャッター方式、偏光眼鏡方式、パララックスバリア方式、レンチキュラレンズ方式、ヘッドマウントディスプレイ方式など、多数の方法が提案され、実用化されてきている。
【0003】
ところが、この二次元視差画像方式には、一般に「輻輳調節矛盾」と呼ばれる問題が生じることが知られている。この問題は、「眼の焦点調節距離(ピント位置)」と「輻輳角(物体から見て、左右両眼のなす角)から得られる奥行き距離」との不一致に起因するものである。すなわち、眼は常に二次元画像の表示面に焦点を合わせるため、焦点調節距離は固定であるのに対して、輻輳角は表示される物体の奥行きに応じた異なる角度になるので、脳が両者間の矛盾を認識することになる。この矛盾は、立体画像を観察する際に生じる眼精疲労の原因とも言われている。
【0004】
これに対して、ホログラフィの技術を利用した立体画像の提示方法では、物体から生じる光の波面の情報を一旦ホログラムという形式で記録し、再生時には、このホログラムに再生用照明光を照射することにより、記録されていた波面を再生することになる。この方法では、物体の波面の情報を正確に再現することができるため、上述した「輻輳調節矛盾」の問題は生じない。このため、ホログラフィは理想的な立体表示技術と言われている。ホログラムを作成するには、通常、記録対象となる物体からの物体光と、これとは別の参照光とを、感光材料からなる媒体の記録面上で重ね合わせ、物体光と参照光との干渉による干渉縞を記録面に形成する方法がとられる。
【0005】
最近は、コンピュータを利用してホログラムを作成する技術も実用化されており、CG技術で作成された仮想物体を用いて、コンピュータ上でシミュレーションを行い、記録面上に形成される干渉縞パターンを演算によって求めることによって作成された計算機合成ホログラム(CGH)も普及し始めている。また、物体からの波面の情報を干渉縞(振幅強度)として記録する代わりに、物体波の位相のみを記録する方式(キノフォーム方式)や物体波の位相と振幅との双方を記録する方式(複素振幅方式)も提案されている。更に、このようなコンピュータの演算によって得られた干渉縞パターン等の画像データを、液晶ディスプレイなどの空間光変調素子(SLM:Spatial Light Modulator)に与え、再生用照明光に対する変調を行い、物体光の波面を再生する方法も提案されている。たとえば、下記の特許文献1には、右眼用の空間光変調素子と左眼用の空間光変調素子とを用意し、これらに右眼用画像データおよび左眼用画像データ(ホログラムやキノフォームなど、物体光の波面の情報を記録した画像データ)をそれぞれ与え、左右両眼のそれぞれに物体光の波面を提示する方法が開示されている。
【0006】
空間光変調素子を用いた立体画像提示方法のメリットは、任意の画像データに基づいて任意の立体画像を提示できる点である。感光材料からなるホログラム記録媒体による再生像は、予め記録されている特定の立体画像に固定されてしまうが、空間光変調素子による再生像は、与える画像データに依存して自由に変えることができる。このため、たとえば、時系列に並べられた複数の画像データを用意し、これらを順番に空間光変調素子に与えて駆動するようにすれば、提示する画像を時間的に更新してゆくことができるため、観察者に対して立体画像を動画として提示することも可能になる。
【0007】
一方、ホログラムの再生にレーザ光などのコヒーレント光を用いた場合、スペックルと呼ばれている不快なノイズが発生することが知られている。このような問題に対処するため、下記の特許文献2,3には、スペックルの発生を抑制するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−262962号公報
【特許文献2】特開平6−208089号公報
【特許文献3】特開2004−144936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、紙幣やクレジットカードなどに偽造防止用シールとして利用されているホログラムは、一般的な照明環境で再生することを前提としたものであり、通常の生活空間で得られる照明光による再生像が得られれば、一応、その役割を果たすことができる。一方、映画などの一般的な映像コンテンツを視聴者に提示するためには、鑑賞に耐えうる鮮明で明るい立体画像を再生する必要があり、そのような高品質の立体画像を再生するためには、レーザ光などのコヒーレント光を再生用照明光として用いることが不可欠である。
【0010】
しかしながら、上述したとおり、照明光としてレーザ光などのコヒーレント光を用いた場合、スペックルの発生という新たな問題が生じる。スペックル(speckle)は、レーザ光などのコヒーレント光を拡散面に照射したときに現れる斑点状の模様であり、レーザ光を照明対象物に照射した際に、照射面に斑点状の輝度ムラとして観察される。たとえば、レーザポインタでスクリーン上の1点を指示した場合、レーザ光のスポットがスクリーン上でギラギラと光って見える。これは、スクリーン上にスペックルノイズが生じているためであり、観察者に対して生理的な悪影響を及ぼす要因になる。コヒーレント光を用いるとスペックルが発生する理由は、スクリーンなどの拡散反射面の各部で反射したコヒーレント光が、その極めて高い可干渉性ゆえに、互いに干渉し合うためとされている。たとえば、"Speckle Phenomena in Optics, Joseph W. Goodman, Roberts & Co., 2006" には、スペックル発生についての詳細な理論的考察がなされている。
【0011】
レーザポインタのような用途であれば、観察者には、微小なスポットが見えるだけなので、スペックルの発生は大きな問題にはならない。しかしながら、レーザ光を再生用照明光としてホログラム記録媒体に照射した場合、ホログラム記録媒体上にスペックルが発生することになるので、観察者には、ホログラム再生像上にスペックルが重なって観察されることになる。このように、表示対象となる再生像上にスペックルノイズが生じると、ギラギラとした斑点状の模様が画像上に現れることになり、観察者に生理的な悪影響が及び、気分が悪くなるなどの症状が現れる。このような問題があるため、従来、レーザ光源を用いてホログラム再生像を得る立体画像表示装置の商業化は困難とされてきた。
【0012】
もちろん、このようなスペックルノイズを低減させるための具体的な方法もいくつか提案されている。たとえば、前掲の特許文献2には、レーザ光を散乱板に照射し、そこから得られる散乱光を照明光として利用するとともに、散乱板をモータによって回転駆動することにより、スペックルを低減する技術が開示されている。また、前掲の特許文献3には、レーザ光源と照明対象物との間に光拡散素子を配置し、この光拡散素子を振動させることによりスペックルを低減する技術が開示されている。しかしながら、散乱板を回転させたり、光拡散素子を振動させたりするには、大掛かりな機械的駆動機構が必要であり、装置全体が大型化するとともに、消費電力も増加する。また、このような方法では、必ずしもスペックルを効果的に除去することはできない。
【0013】
そこで本発明は、ホログラムとして記録された立体画像を、コヒーレント光を用いて再生してこれを表示する際に、スペックルの発生を効率的かつ十分に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1) 本発明の第1の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
照明用の像が記録された照明用ホログラム記録媒体と、
光ビームを照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、光ビームの照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を設け、
照明用ホログラム記録媒体には、照明用の像がホログラムとして記録されており、
コヒーレント光源は、照明用の像および立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
光ビーム走査装置は、照明用ホログラム記録媒体に対して、照明用の像が再生されるように光ビームの走査を行い、
表示用ホログラム記録媒体は、照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として、立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0015】
(2) 本発明の第2の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
照明用の像が記録された照明用ホログラム記録媒体と、
光ビームを照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、光ビームの照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
画像データ格納部から読み出した画像データを空間光変調器に与える制御装置と、
を設け、
照明用ホログラム記録媒体には、照明用の像がホログラムとして記録されており、
コヒーレント光源は、照明用の像および立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
光ビーム走査装置は、照明用ホログラム記録媒体に対して、照明用の像が再生されるように光ビームの走査を行い、
空間光変調器は、照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて立体画像のホログラム再生像を形成するようにしたものである。
【0016】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第2の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、照明用ホログラム記録媒体上の複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行う機能を有し、
画像データ格納部には、複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の画像データは、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、複数N通りの画像データを空間光変調器に順に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の画像データが空間光変調器に与えられるような同期制御を行うようにしたものである。
【0017】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第3の態様に係る立体画像表示装置において、
コヒーレント光源は、それぞれ三原色の各波長をもった単色光のレーザビームを発生する3台のレーザ光源と、これら3台のレーザ光源が発生したレーザビームを合成して合成光ビームを生成する光合成器と、を有し、
光ビーム走査装置が、光合成器が生成した合成光ビームを照明用ホログラム記録媒体上で走査し、
照明用ホログラム記録媒体には、3台のレーザ光源が発生する各レーザビームによってそれぞれ再生像が得られるように、照明用の像が3通りのホログラムとして記録されており、
画像データ格納部には、複数N通りの各照射点に対応して、三原色のそれぞれについて、合計(3×N)通りの単色画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の照射点に対応した第j番目(1≦j≦3)の単色画像データは、第i番目の照射点からの第j番目の単色光の再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像の第j番目の原色についてのホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、複数N通りの照射点に対応した各単色画像データを空間光変調器に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の各単色画像データが順番に空間光変調器に与えられるようにし、しかも、空間光変調器に第j番目の単色画像データが与えられているときに、第j番目の単色光を発生するレーザ光源のみが選択的に動作するよう、各レーザ光源に対して動作制御信号を与える同期制御を行うようにしたものである。
【0018】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第2〜第4の態様に係る立体画像表示装置において、
空間光変調器を、透過型もしくは反射型の液晶ディスプレイ、透過型もしくは反射型のLCOS素子、またはデジタルマイクロミラーデバイスによって構成したものである。
【0019】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第1または第2の態様に係る立体画像表示装置を3組と、これら3組の立体画像表示装置によって形成された再生像を合成する合成光学系と、を設け、
第j番目(1≦j≦3)の立体画像表示装置は、三原色のうちの第j番目の原色の波長をもった単色光のレーザビームを発生させるコヒーレント光源を用いることにより、第j番目の原色の立体画像の再生像を形成する機能を有し、
合成光学系を用いて三原色の各再生像を合成することによりカラー立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0020】
(7) 本発明の第7の態様は、上述の第1〜第6の態様に係る立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体によって形成される照明用の像の再生位置に、表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器を配置したものである。
【0021】
(8) 本発明の第8の態様は、上述の第1〜第6の態様に係る立体画像表示装置において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光する機能をもち、照明用ホログラム記録媒体と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に配置された光学系を更に設けたものである。
【0022】
(9) 本発明の第9の態様は、上述の第8の態様に係る立体画像表示装置において、
光学系として、視点から照明用ホログラム記録媒体の記録面に下ろした垂線を光軸とし、照明用ホログラム記録媒体と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に配置された1組もしくは複数組の凸レンズを用いるようにしたものである。
【0023】
(10) 本発明の第10の態様は、上述の第9の態様に係る立体画像表示装置において、
光学系として1組の凸レンズを用い、当該凸レンズの焦点距離をfとしたときに、照明用ホログラム記録媒体と凸レンズとの距離を2fに設定し、凸レンズと視点との距離を2fに設定したものである。
【0024】
(11) 本発明の第11の態様は、上述の第9の態様に係る立体画像表示装置において、
光学系として2組の凸レンズを用い、照明用ホログラム記録媒体に近い位置に配置された第1の凸レンズの焦点距離をf1とし、表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器に近い位置に配置された第2の凸レンズの焦点距離をf2としたときに、照明用ホログラム記録媒体と第1の凸レンズとの距離をf1に設定し、第2の凸レンズと視点との距離をf2に設定したものである。
【0025】
(12) 本発明の第12の態様は、上述の第9〜第11の態様に係る立体画像表示装置において、
視点の位置と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に、凸レンズの光軸に対して傾斜した反射面を有するハーフミラーを配置し、照明用ホログラム記録媒体の配置方向とは異なる方向の背景上に立体画像の再生像が形成されるようにしたものである。
【0026】
(13) 本発明の第13の態様は、上述の第8〜第12の態様に係る立体画像表示装置において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の位置に仮想的な瞳を配置した場合に、「表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器からの0次回折光が瞳の内部に入射する」という条件を満たす「照明用ホログラム記録媒上の光ビームの照射範囲」を走査禁止領域と定め、光ビーム走査装置が、走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにしたものである。
【0027】
(14) 本発明の第14の態様は、上述の第13の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、走査中に光ビームのスポットが走査禁止領域に入らないように、走査禁止領域の外側に円形の走査軌道を設定し、光ビームの中心軸が走査軌道に沿って周回運動するように走査を行うようにしたものである。
【0028】
(15) 本発明の第15の態様は、上述の第1〜第14の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、光ビームを所定の走査基点で屈曲させ、屈曲された光ビームを照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、光ビームの屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームの照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置を時間的に変化させ、
照明用ホログラム記録媒体には、特定の収束点に収束する参照光または特定の収束点から発散する参照光を用いて照明用の像がホログラムとして記録されており、
光ビーム走査装置が、上記収束点を走査基点として光ビームの走査を行うようにしたものである。
【0029】
(16) 本発明の第16の態様は、上述の第15の態様に係る立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体に、収束点を頂点とした円錐の側面に沿って三次元的に収束もしくは発散する参照光を用いて照明用の像が記録されているようにしたものである。
【0030】
(17) 本発明の第17の態様は、上述の第1〜第14の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、光ビームを平行移動させながら照明用ホログラム記録媒体に照射することにより、光ビームの照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置を時間的に変化させ、
照明用ホログラム記録媒体には、平行光束からなる参照光を用いて照明用の像がホログラムとして記録されており、
光ビーム走査装置が、参照光に平行になる方向から光ビームを照明用ホログラム記録媒体に照射して、光ビームの走査を行うようにしたものである。
【0031】
(18) 本発明の第18の態様は、上述の第1〜第17の態様に係る立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体に記録されているホログラムとして、計算機合成ホログラムを用いるようにしたものである。
【0032】
(19) 本発明の第19の態様は、上述の第1〜第18の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置として、走査型ミラーデバイス、全反射プリズム、屈折プリズム、もしくは電気光学結晶を用いるようにしたものである。
【0033】
(20) 本発明の第20の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
多数の個別レンズの集合体からなるマイクロレンズアレイと、
光ビームをマイクロレンズアレイに照射し、かつ、光ビームのマイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を設け、
マイクロレンズアレイを構成する個別レンズは、それぞれが、光ビーム走査装置から照射された光を屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
コヒーレント光源は、立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
表示用ホログラム記録媒体は、マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として、立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0034】
(21) 本発明の第21の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、
入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を設け、
光ビーム走査装置は、コヒーレント光源が発生した光ビームを、光拡散素子に向けて射出し、かつ、光ビームの光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査し、
光拡散素子は、入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
コヒーレント光源は、立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
表示用ホログラム記録媒体は、光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として、立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0035】
(22) 本発明の第22の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
多数の個別レンズの集合体からなるマイクロレンズアレイと、
光ビームをマイクロレンズアレイに照射し、かつ、光ビームのマイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
画像データ格納部から読み出した画像データを空間光変調器に与える制御装置と、
を設け、
マイクロレンズアレイを構成する個別レンズは、それぞれが、光ビーム走査装置から照射された光を屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
コヒーレント光源は、立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
空間光変調器は、マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0036】
(23) 本発明の第23の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置において、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、
入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
画像データ格納部から読み出した画像データを空間光変調器に与える制御装置と、
を設け、
光ビーム走査装置は、コヒーレント光源が発生した光ビームを、光拡散素子に向けて射出し、かつ、光ビームの光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査し、
光拡散素子は、入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
コヒーレント光源は、立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
空間光変調器は、光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて立体画像の再生像を形成するようにしたものである。
【0037】
(24) 本発明の第24の態様は、上述の第22または第23の態様に係る立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置は、マイクロレンズアレイもしくは光拡散素子上の複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行う機能を有し、
画像データ格納部には、複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の画像データは、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、複数N通りの画像データを空間光変調器に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の画像データが空間光変調器に与えられるような同期制御を行うようにしたものである。
【0038】
(25) 本発明の第25の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法において、
照明用の像をホログラムとして記録用媒体上に記録することにより照明用ホログラム記録媒体を作成する照明用ホログラム準備段階と、
照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
照明用の像を得るのに適したコヒーレントな光ビームを、照明用ホログラム記録媒体上に照明用の像を得るのに適した方向から照射し、かつ、照射位置が時間的に変化するように光ビームを照明用ホログラム記録媒体上で走査するホログラム再生段階と、
を行うようにしたものである。
【0039】
(26) 本発明の第26の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法において、
それぞれ特定方向から照射された光ビームを屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有する多数の個別レンズの集合体からなり、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されているマイクロレンズアレイを用意するマイクロレンズアレイ準備段階と、
マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、マイクロレンズアレイに特定方向から照射し、かつ、光ビームのマイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、
を行うようにしたものである。
【0040】
(27) 本発明の第27の態様は、ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法において、
特定方向から入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されている光拡散素子を用意する光拡散素子準備段階と、
光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、光拡散素子に照射し、かつ、光ビームの光拡散素子に対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、
を行うようにしたものである。
【0041】
(28) 本発明の第28の態様は、上述の第25〜第27の態様に係る立体画像表示方法において、
表示用ホログラム準備段階では、複数N通りのホログラムの画像データと、再生用照明光を与えることにより、画像データに応じたホログラム再生像を形成する空間光変調器と、を用意し、
ホログラム再生段階では、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行い、第i番目(1≦i≦N)の照射点に光ビームが照射されているときに、空間光変調器が第i番目の画像データに応じたホログラム再生像を形成するようにし、
第i番目の画像データとして、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データを用いるようにしたものである。
【0042】
(29) 本発明の第29の態様は、上述の第25〜第28の態様に係る立体画像表示方法において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の位置に仮想的な瞳を配置した場合に、「表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器からの0次回折光が瞳の内部に入射する」という条件を満たす光ビームの照射範囲を走査禁止領域と定め、ホログラム再生段階で、走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにしたものである。
【0043】
(30) 本発明の第30の態様は、上述の第25〜第29の態様に係る立体画像表示方法において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光する機能をもった光学系により集光した再生用照明光を表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器に与えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0044】
本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置では、照明用ホログラム記録媒体と表示用ホログラム記録媒体とが用意される。照明用ホログラム記録媒体には、照明用の像が記録されており、表示用ホログラム記録媒体には、表示対象となる立体画像が記録されている。コヒーレント光源からの光ビームは、照明用ホログラム記録媒体上の1点に照射され、かつ、照射位置が時間的に変化するように走査される。ホログラムの性質上、照明用ホログラム記録媒体上の任意の1点にコヒーレントな光ビームが照射されると、照明用の像の再生像が形成されることになる。この再生像を形成するための再生光は、表示用ホログラム記録媒体に対して再生用照明光として機能し、表示対象となる立体画像が再生される。しかも、コヒーレント光源からの光ビームは、照明用ホログラム記録媒体上を走査され、光ビームの照射点は時間的に常に変動する。このため、照明用の像の再生像を形成する光の光路は時間的に変動し多重化される。結局、表示用ホログラム記録媒体に入射する再生用照明光の入射角度が時間的に多重化されることになり、スペックルの発生を抑制することができる。
【0045】
表示用ホログラム記録媒体としては、必ずしもホログラムの干渉縞パターン等が固定された物理的な媒体を用いる必要はなく、液晶ディスプレイをはじめとする空間光変調器を用いることができる。空間光変調器を用いれば、所望の干渉縞パターン等に対応する画像データを与えることにより、任意の立体画像を表示することが可能になる。また、コヒーレント光源からの光ビームの走査によって、空間光変調器に入射する再生用照明光の入射角度が時間的に変化することになるが、光ビームの走査に同期して、それぞれ最適な干渉縞パターン等を示す画像データを与えるようにすれば、光ビームの照射位置に関わらず、常に、最適な干渉縞パターン等に基づく立体画像の再生が可能になる。
【0046】
コヒーレント光源として、三原色のそれぞれの単色光ビームを発生する光源を用い、三原色の再生像を合成するようにすれば、カラーの立体画像を表示することも可能になる。また、立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光するための光学系を付加するようにすれば、表示用ホログラム記録媒体(空間光変調器)の回折能力が不十分であっても、視点位置から観察した場合に十分な視野角をもった立体画像の再生が可能になる。
【0047】
更に、0次回折光が視点位置におかれた瞳の内部に入射してしまう走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにすれば、視点位置から観察した場合に、0次回折光が視野内に入ることを防ぐことができるので、光源に含まれているスペックルによる悪影響を防止できる。
【0048】
なお、照明用ホログラム記録媒体の代わりに、マイクロレンズアレイや光拡散素子を用いても、表示用ホログラム記録媒体あるいは空間光変調器に対する入射角度が時間的に多重化された再生用照明光を得ることができるので、上述した効果と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】一般的なホログラムの記録方法を示す側面図である。
【図2】図1に示す方法で記録されたホログラムの再生方法を示す側面図である。
【図3】ホログラムを利用した立体画像表示装置の一般的な構成を示す側面図である。
【図4】ホログラムを利用した立体画像表示装置の別な形態を示す側面図である。
【図5】本発明に係る立体画像表示装置の構成要素である照明用ホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す光学系の配置図である。
【図6】図5に示すプロセスにおける参照光L23の断面S1とホログラム感光媒体40との位置関係を示す平面図である。
【図7】図5に示すプロセスにおける参照光L23の別な断面S2とホログラム感光媒体40との位置関係を示す平面図である。
【図8】図5に示す光学系における散乱板30およびホログラム感光媒体40の周囲の部分拡大図である。
【図9】図5に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45を用いて、散乱板の像35を再生するプロセスを示す図である。
【図10】図5に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45に対して、1本の光ビームのみを照射して散乱板の像35を再生するプロセスを示す図である。
【図11】図5に示すプロセスで作成されたホログラム記録媒体45に対して、1本の光ビームのみを照射して散乱板の像35を再生するプロセスを示す別な図である。
【図12】図10および図11に示す再生プロセスにおける光ビームの照射位置を示す平面図である。
【図13】本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置における再生用照明光生成部の構成を示す側面図である。
【図14】本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置に用いる表示用ホログラム記録媒体の作成方法の一例を示す側面図である。
【図15】本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置の構成および動作を示す側面図である。
【図16】本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置の構成および動作を示す別な側面図である
【図17】本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置に用いる表示用ホログラム記録媒体の作成方法の別な一例を示す側面図である。
【図18】本発明の実用的実施形態に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。
【図19】本発明の実用的実施形態の小型化に適した変形例に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。
【図20】図19に示す変形例に用いる照明用ホログラム記録媒体を作成するプロセスを示す側面図である。
【図21】図19に示す変形例に用いる照明用ホログラム記録媒体をCGHの手法で作成するプロセスを示す側面図である。
【図22】図21に示されている仮想の散乱板30′の正面図である。
【図23】本発明の実用的実施形態のレンズを付加した変形例に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。
【図24】本発明の実用的実施形態の2枚のレンズを付加した変形例に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。
【図25】図23に示す変形例における0次回折光の視点近傍への入射位置を示す図である。
【図26】図25における照明用ホログラム記録媒体に対する光ビームの照射点と0次回折光の視点近傍への入射位置との関係を示す図である。
【図27】図25に示す立体画像表示装置における0次回折光の集光位置および1次回折光の入射範囲を示す平面図である。
【図28】図25に示す立体画像表示装置における0次回折光の集光位置および1次回折光の入射範囲を示す別な平面図である。
【図29】照明用ホログラム記録媒体に対する光ビームの理想的な走査軌道を示す平面図である。
【図30】図23に示す変形例における制御装置の具体的な同期制御を示す表である。
【図31】本発明によりスペックルの低減効果が得られた実験結果を示す表である。
【図32】図23に示す変形例にハーフミラーを付加した変形例を示す側面図である。
【図33】カラーの立体画像を表示させる第1の構成例を示す配置図である。
【図34】図33に示す構成例における同期制御を説明するための表である。
【図35】カラーの立体画像を表示させる第2の構成例を示す平面図である。
【図36】本発明に用いる光ビーム走査装置の変形例を示す側面図である。
【図37】照明用ホログラム記録媒体の代わりにマイクロレンズアレイを用いた変形例の基本構成を示す側面図である。
【図38】図37に示す変形例の動作原理を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0051】
<<< §1. ホログラムの基本原理およびスペックルの発生 >>>
はじめに、ホログラムの基本原理とスペックルの発生について簡単に述べておく。図1は、一般的なホログラムの記録方法を示す側面図であり、記録対象となる原画像F(この例では、立方体の物体F)を感光媒体Mにホログラムとして記録する方法が示されている。
【0052】
図において、物体Fにはコヒーレントな照明光が当たっており、この物体Fの表面に位置する任意の物体点Kからは、コヒーレントな物体光Lobj が発せられる。図には、1つの物体点Kから発せられた物体光Lobj のみが示されているが、実際には、物体Fの表面上のあらゆる点から物体光Lobj が発せられる。一方、感光媒体Mには、物体光Lobj と同一波長のコヒーレントな参照光Lref (図示の例の場合、図の斜め左上方向からの平行光束)が照射され、物体光Lobj と参照光Lref とによる干渉縞が感光媒体M上に記録されることになる。以下、このような干渉縞の記録が行われた感光媒体Mをホログラム記録媒体Hと呼ぶことにする。
【0053】
図2は、図1に示す方法で記録されたホログラムの再生方法を示す側面図である。図示のとおり、ホログラム記録媒体Hの斜め左上方向から平行光束からなる再生用照明光Lrep を照射し、視点Eの位置から見ると、立方体の物体Fの再生像FFが虚像として観察されることになる。ここで、図2に示す再生用照明光Lrep は、図1に示す参照光Lref と同一の波長をもち、同一の方向から照射されるコヒーレント光である。視点Eの位置において、再生像FFが虚像として観察される理由は、再生用照明光Lrep が、ホログラム記録媒体Hに記録されている干渉縞によって回折し、回折光Ldif が、図1に示す物体Fからの物体光Lobj と同じ波面をもった光として視点Eへ伝わるためである。
【0054】
図2ではホログラム記録媒体Hが透過型の媒体である例を示したが、反射型の媒体の場合は、回折光Ldif は光学的に共役となるように図の左側へと反射し、媒体Hの左側に置かれた視点から図の右方を見ることにより、媒体Hの右側の位置に再生像が虚像として観察されることになる。なお、本願図面では、説明の便宜上、光の光路を一点鎖線もしくは二点鎖線で描き、再生像を破線で示すことにする。
【0055】
さて、図2に示す再生用照明光Lrep は、上述したとおり、参照光Lref と同一波長のコヒーレント光である必要がある。したがって、ホログラムによる立体画像表示装置の一般的な構成は、図3に示すように、コヒーレント光源S(たとえば、レーザ)と、ビームエキスパンダーXと、ホログラム記録媒体Hという形態をとる。コヒーレント光源Sで生成されたコヒーレントな光ビームLsは、ビームエキスパンダーXによって平行光束に広げられ、所定の方向(図1の参照光Lref と同一方向)から再生用照明光Lrep として、ホログラム記録媒体Hに照射される。そして、視点Eに向かう回折光Ldif により、再生像FFが虚像として観察される点は既に述べたとおりである。
【0056】
なお、図1に示す例では、感光媒体Mに参照光Lref を斜め方向から照射しているが、ホログラムの記録時に、参照光Lref は必ずしも感光媒体Mに対して斜め方向から照射する必要はない。原画像F(立方体の物体F)に邪魔されずに感光媒体Mを照射することができる向きであれば、どのような向きから参照光Lref を照射して、ホログラムの記録を行ってもかまわない。ただ、像の再生時には、再生用照明光Lrep を、ホログラムの記録に用いた参照光Lref の照射方向(もしくは、光学的に共役な方向)から照射する必要がある。
【0057】
したがって、たとえば、図1に示す例において、参照光Lref を斜め左上から照射する代わりに、左から右へ向かう水平方向に照射したとすると、そのようなホログラムを再生するための立体画像表示装置は、図3に示す構成の代わりに図4に示す構成になる。すなわち、ビームエキスパンダーXによって広げられた平行光束からなる再生用照明光Lrep は、ホログラム記録媒体Hに対して、左から右へ向かう水平方向(記録時の参照光Lref と同じ方向)に照射される。
【0058】
前述したとおり、最近は、コンピュータを利用してホログラムを作成する計算機合成ホログラム(CGH)の技術も発展してきている。このCGHの手法を用いてホログラム記録媒体Hを作成する場合は、図1に示す光学的な干渉縞記録プロセスは、コンピュータシミュレーションとして実行される。すなわち、コンピュータに、原画像FをCG画像として与え、感光媒体Mの代わりに記録面を定義する。そして、物体光Lobj と参照光Lref とをそれぞれ波動を示す方程式で定義し、記録面上の各サンプル点における物体光と参照光との合成振幅値を算出し、記録面上に形成される干渉縞の情報を画像データとして得る演算を行えばよい。このようなCGHの手法を用いれば、参照光Lref が原画像Fに邪魔されることはないので、参照光Lref の照射方向に制限はなくなり、図4に示す例のように、ホログラム記録媒体Hの記録面に対して垂直な方向から再生用照明光Lrep を照射するタイプの立体画像表示装置も容易に実現できる。
【0059】
また、ホログラム記録媒体Hの代わりに、液晶ディスプレイ等の空間光変調器を用いるタイプの立体画像表示装置も提案されている。たとえば、上述したCGHの手法で求めた画像データを液晶ディスプレイに与えて、画面上に干渉縞を表示させるようにすれば、当該液晶ディスプレイ自体をホログラム記録媒体Hに代用することができる。しかも、表示させる干渉縞は与える画像データにより自由に変更することができるため、予め多数の画像データを用意しておけば、任意の立体画像を表示することが可能になり、必要があれば、立体動画を提示することも可能になる。
【0060】
ところが、このような立体画像表示装置には、スペックルの発生という問題があることは、既に述べたとおりである。スペックルは、レーザ光などのコヒーレント光を拡散面に照射したときに現れる斑点状の模様であり、観察者からはギラギラと光った斑点状の輝度ムラとして観察される。図3や図4に示す立体画像表示装置では、ホログラム記録媒体Hにコヒーレントな再生用照明光Lrep が照射されているため、ホログラム記録媒体Hの表面においてスペックルが発生することになる。また、ホログラムの再生像FFにもスペックルが発生するため、視点Eから見ると、再生像FFと背景部分との双方に斑点状のスペックルノイズが観察されることになる。このようなスペックルノイズの発生という問題は、ホログラム記録媒体Hの代わりに、液晶ディスプレイ等の空間光変調器を用いた場合も同様に生じる問題である。
【0061】
更に、図4に示すような配置をとった立体画像表示装置の場合、上述したホログラム記録媒体H側で発生するスペックルに加えて、更に、光源側で発生するスペックルも加わることになる。すなわち、図4に示す配置を採ると、視点Eからの観察方向(図の左方向)に、コヒーレント光源SおよびビームエキスパンダーXが位置しているため、これら光源を正面から覗き込むことになるので、光源側に含まれていたスペックルも観察されることになる。
【0062】
このように、コヒーレント光源Sを利用してホログラムの再生を行うと、鮮明な明るい再生像FFが得られるという利点が得られるものの、本来提示すべき再生像FFに加えて、視界全面にスペックルノイズが生じることになり、観察者に生理的な悪影響を及ぼすという重大な問題が発生する。レーザポインタのスポットのように、微小な領域にギラギラしたスペックルが含まれていても、観察者にそれほど大きな悪影響を及ぼすことはないが、立体画像表示装置によって提示された画像にスペックルノイズが含まれていると、多くの観察者に、気分が悪くなるなどの生理的な症状が現れる。
【0063】
本発明は、このように、ホログラムとして記録された立体画像を、コヒーレント光を用いて再生してこれを表示する際に、スペックルの発生を効率的かつ十分に抑制する技術を提供するものである。
【0064】
<<< §2. スペックル抑制の基本原理 >>>
続いて、本発明におけるスペックル抑制の基本原理を説明する。ここでは、説明の便宜上、まず、本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置に用いる「照明用ホログラム記録媒体」の特徴を説明する。この「照明用ホログラム記録媒体」は、表示対象となる立体画像を記録するための「本来のホログラム記録媒体」ではなく、いわば「本来のホログラム記録媒体」に再生用照明光を供給する役割を果たす補助的な媒体ということになる。本願では、この「本来のホログラム記録媒体」を「表示用ホログラム記録媒体」と呼び、「照明用ホログラム記録媒体」と区別することにする。
【0065】
図5は、この「照明用ホログラム記録媒体」を作成するプロセスを示す光学系の配置図である。この光学系の目的は、照明用の像(ここで述べる実施形態の場合は、散乱板の像)が記録されたホログラム記録媒体(照明用ホログラム記録媒体)を作成することにある。以下、その構成を詳述する。
【0066】
図の右上に示されているコヒーレント光源10は、コヒーレントな光ビームL10を生成する光源であり、実際には、断面が円形をした単色レーザ光を発生するレーザ光源が用いられている。このレーザ光源で生成されたコヒーレントな光ビームL10は、ビームスプリッタ20で2本のビームに分けられる。すなわち、光ビームL10の一部は、そのままビームスプリッタ20を透過して図の下方へと導かれ、残りの一部は、ビームスプリッタ20で反射して光ビームL20として図の左方へと導かれる。
【0067】
ビームスプリッタ20を透過した光ビームL10は、散乱板の物体光Lobj を発生させる役割を果たす。すなわち、図の下方へと進んだ光ビームL10は、反射鏡11で反射して光ビームL11となり、更に、ビームエキスパンダー12によって径が広げられ、平行光束L12を構成し、散乱板30の右側の面の全領域に照射される。散乱板30は、照射された光を散乱する性質をもった板であり、一般に光学的拡散板とも呼ばれている。ここに示す実施例の場合、内部に光を散乱するための微小粒子(光の散乱体)が練り込まれた透過型散乱板(たとえば、オパールガラス板)を用いている。したがって、図示のとおり、散乱板30の右側の面に照射された平行光束L12は、散乱板30を透過して、左側の面から散乱光L30として射出する。この散乱光L30は、散乱板30の物体光Lobj を構成する。
【0068】
一方、ビームスプリッタ20で反射した光ビームL20は、参照光Lref を発生させる役割を果たす。すなわち、ビームスプリッタ20から図の左方へと進んだ光ビームL20は、反射鏡21で反射して光ビームL21となり、更に、ビームエキスパンダー22によって径が広げられ、平行光束L22を構成し、点Cを焦点とする凸レンズ23で屈折された後に感光媒体40に照射される。なお、平行光束L22は、必ずしも厳密な平行光線の集合でなくても、ほぼ平行な光線の集合であれば、実用上は問題ない。感光媒体40は、ホログラム像を記録するために用いる感光性の媒体である。この感光媒体40への照射光L23は、参照光Lref を構成する。
【0069】
結局、感光媒体40には、散乱板30の物体光Lobj と、参照光Lref とが照射されることになる。ここで、物体光Lobj および参照光Lref は、いずれもコヒーレント光源10(レーザ光源)で生成された同一波長λをもったコヒーレント光であるから、感光媒体40には、両者の干渉縞が記録されることになる。別言すれば、感光媒体40には、散乱板30の像がホログラムとして記録される。なお、本願に言う「散乱板」とは、必ずしも一般産業界において「散乱板」という名称で流通したり、利用されたりしている物品に限定されるものではなく、光を散乱する性質をもった物体を広く意味するものである。したがって、たとえば、石膏ボード、白色紙、発砲スチロール板などを散乱板30として用いることも可能である。もちろん、後述するように、CGHの手法によって、光を散乱する性質をもった物体の像と同等の像を照明用ホログラム記録媒体に記録してもかまわない。要するに、本発明における照明用ホログラム記録媒体には、表示用ホログラム記録媒体や空間光変調器に対する照明機能をもった何らかの「照明用の像」がホログラムとして記録されていれば足りる。ただ、実用上は、照明効率を向上させるため、前掲のオパールガラス板などの像を散乱板の像(すなわち、「照明用の像」)として記録するのが好ましい。
【0070】
図6は、図5に示す参照光L23(Lref )の断面S1と感光媒体40との位置関係を示す平面図である。ビームエキスパンダー22によって径が広げられた平行光束L22は円形断面を有しているため、凸レンズ23で集光された参照光Lref は、レンズの焦点Cを頂点とする円錐状に収束する。ただ、図5に示す例では、感光媒体40が、この円錐の中心軸に対して斜めに配置されているため、参照光L23(Lref )を感光媒体40の表面で切断した断面S1は、図6に示すように楕円になる。
【0071】
このように、図6に示す例では、参照光Lref は、感光媒体40の全領域のうち、図にハッチングを示す領域内にのみ照射されるので、散乱板30のホログラムは、このハッチングを施した領域内にのみ記録されることになる。もちろん、ビームエキスパンダー22によって径がより大きな平行光束L22を生成し、径がより大きな凸レンズ23を用いれば、図7に示す例のように、参照光Lref の断面S2内に、感光媒体40がそっくり含まれるようにすることもできる。この場合、図にハッチングを施したように、感光媒体40の全面に散乱板30のホログラムが記録される。本発明に用いる照明用ホログラム記録媒体を作成する上では、図6,図7のいずれの形態で記録を行ってもかまわない。
【0072】
続いて、散乱板30の像が、感光媒体40上に記録される光学的なプロセスを、より詳しく見てみよう。図8は、図5に示す光学系における散乱板30および感光媒体40の周囲の部分拡大図である。上述したように、参照光Lref は、円形断面を有する平行光束L22を、焦点Cをもつ凸レンズ23で集光したものであり、焦点Cを頂点とする円錐状に収束する。そこで、以下、この焦点Cを収束点と呼ぶことにする。感光媒体40に照射される参照光L23(Lref )は、図示のとおり、この収束点Cに収束する光ということになる。
【0073】
一方、散乱板30から発せられる光(物体光Lobj )は散乱光であるから、様々な方向に向かうことになる。たとえば、図示のように、散乱板30の左側面の上端に物体点Q1を考えると、この物体点Q1からは、四方八方に散乱光が射出される。同様に、任意の物体点Q2やQ3からも、四方八方に散乱光が射出される。したがって、感光媒体40内の任意の点P1に着目すると、物体点Q1,Q2,Q3からの物体光L31,L32,L33と収束点Cへ向かう参照光Lref との干渉縞の情報が記録されることになる。もちろん、実際には、散乱板30上の物体点は、Q1,Q2,Q3だけではないので、散乱板30上のすべての物体点からの情報が、同様に、参照光Lref との干渉縞の情報として記録される。別言すれば、図示の点P1には、散乱板30の全情報が記録されることになる。また、全く同様に、図示の点P2にも、散乱板30の全情報が記録される。このように、感光媒体40内のいずれの部分にも、散乱板30の全情報が記録されることになる。これがホログラムの本質である。
【0074】
さて、このような方法で、散乱板30の情報が記録された感光媒体40を、以下、照明用ホログラム記録媒体45と呼ぶことにする。この照明用ホログラム記録媒体45を再生して、散乱板30のホログラム再生像を得るためには、記録時に用いた光と同一波長のコヒーレント光を、記録時の参照光Lref に応じた方向から、再生用照明光として照射すればよい。
【0075】
図9は、図8に示すプロセスで作成された照明用ホログラム記録媒体45を用いて、散乱板のホログラム再生像35を再生するプロセスを示す図である。図示のとおり、照明用ホログラム記録媒体45に対して、下方から再生用照明光Lrep が照射されている。この再生用照明光Lrep は、収束点Cに位置する点光源から球面波として発散するコヒーレント光であり、その一部分は、図示のように円錐状に広がりながら照明用ホログラム記録媒体45を照射する光になる。また、この再生用照明光Lrep の波長は、照明用ホログラム記録媒体45の記録時の波長(すなわち、図5に示すコヒーレント光源10が発生するコヒーレント光の波長)に等しい。
【0076】
ここで、図9に示す照明用ホログラム記録媒体45と収束点Cとの位置関係は、図8に示す感光媒体40と収束点Cとの位置関係と全く同じである。したがって、図9に示す再生用照明光Lrep は、図8に示す参照光Lref の光路を逆進する光に対応する。このような条件を満たす再生用照明光Lrep を照明用ホログラム記録媒体45に照射すると、その回折光L45(Ldif )によって、散乱板30のホログラム再生像35(図では、破線で示す)が得られる。図9に示す照明用ホログラム記録媒体45と再生像35との位置関係は、図8に示す感光媒体40と散乱板30との位置関係と全く同じである。
【0077】
このように、任意の物体の像をホログラムとして記録し、これを再生する技術は、古くから実用化されている公知の技術である。ただ、一般的な用途に利用するホログラム記録媒体を作成する場合、図1に示す例のように、参照光Lref として平行光束が用いられる。平行光束からなる参照光Lref を用いて記録したホログラムは、再生時にも、平行光束からなる再生用照明光Lrepを利用すればよいので、利便性に優れている。
【0078】
これに対して、図8に示すように、収束点Cに収束する光を参照光Lref として利用すると、再生時には、図9に示すように、収束点Cから発散する光(もしくは収束点Cに収束する光)を再生用照明光Lrep として用いる必要がある。実際、図9に示すような再生用照明光Lrep を得るためには、特定の位置にレンズなどの光学系を配置する必要がある。また、再生時の照明用ホログラム記録媒体45と収束点Cとの位置関係が、記録時の感光媒体40と収束点Cとの位置関係に一致していないと、正確な再生像35が得られなくなるので、再生時の照明条件が限定されてしまう(平行光束を用いて再生する場合であれば、照明条件は照射角度だけが満足されていればよい)。
【0079】
このような理由から、収束点Cに収束する参照光Lrefを用いて作成したホログラム記録媒体は、一般的な用途には不向きである。それにもかかわらず、ここに示す実施形態において、収束点Cに収束する光を参照光Lref として用いる理由は、再生時に行う光ビーム走査を容易にするためである。すなわち、図9では、説明の便宜上、収束点Cから発散する再生用照明光Lrep を用いて散乱板30の再生像35を生成する方法を示したが、本発明では、実際には、図示のように円錐状に広がる再生用照明光Lrep を用いた再生は行わない。その代わりに、光ビームを走査するという方法を採る。以下、この方法を詳しく説明する。
【0080】
図10は、図8に示すプロセスで作成された照明用ホログラム記録媒体45に対して、1本の光ビームのみを照射して散乱板30の像35を再生するプロセスを示す図である。すなわち、この例では、収束点Cから媒体内の1点P1に向かう1本の光ビームL61のみが再生用照明光Lrep として与えられる。もちろん、光ビームL61は、記録時の光と同じ波長をもったコヒーレント光である。既に図8を参照して説明したとおり、照明用ホログラム記録媒体45内の任意の点P1には、散乱板30全体の情報が記録されている。したがって、図10の点P1の位置に対して、記録時に用いた参照光Lref に対応した条件で再生用照明光Lrep を照射すれば、この点P1の近傍に記録されている干渉縞のみを用いて、散乱板30の再生像35を生成することが可能である。図10には、点P1からの回折光L45(Ldif )によって、再生像35が再生された状態が示されている。
【0081】
一方、図11は、収束点Cから媒体内の別な点P2に向かう1本の光ビームL62のみを再生用照明光Lrep として与えた例である。この場合も、点P2には、散乱板30全体の情報が記録されているので、点P2の位置に対して、記録時に用いた参照光Lref に対応した条件で再生用照明光Lrep を照射すれば、この点P2の近傍に記録されている干渉縞のみを用いて、散乱板30の再生像35を生成することが可能である。図11には、点P2からの回折光L45(Ldif )によって、再生像35が再生された状態が示されている。図10に示す再生像35も、図11に示す再生像35も、同じ散乱板30を原画像とするものであるから、理論的には、同じ位置に生成される同じ再生像ということになる。
【0082】
図12は、図10および図11に示す再生プロセスにおける光ビームの照射位置を示す平面図である。図12の点P1は、図10の点P1に対応し、図12の点P2は、図11の点P2に対応する。A1,A2は、それぞれ再生用照明光Lrep の断面(光ビームのスポット)を示している。断面A1,A2の形状および大きさは、光ビームL61,L62の断面の形状および大きさに依存する。また、照明用ホログラム記録媒体45上の照射位置にも依存する。ここでは、便宜上、円形の断面A1,A2を示しているが、実際には、円形断面をもつ光ビームL61,L62を用いた場合、断面形状は照射位置に応じて扁平した楕円になる。
【0083】
このように、図8に示す点P1近傍と、点P2近傍では、それぞれ記録されている干渉縞の内容は全く異なるものであるが、いずれの点に再生用照明光Lrep となる光ビームを照射した場合でも、同じ位置に同じ再生像35が得られることになる。これは、再生用照明光Lrep が収束点Cから各点P1,P2に向かう光ビームであるため、いずれの点についても、図8に示す記録時の参照光Lref の向きに応じた向きの再生用照明光Lrep が与えられるためである。
【0084】
図12には、2つの点P1,P2のみを例示したが、もちろん、照明用ホログラム記録媒体45上の任意の点についても同様のことが言える。したがって、照明用ホログラム記録媒体45上の任意の点に光ビームを照射した場合、当該光ビームが収束点Cからの光である限り、同一位置に同一の再生像35が得られることになる。もっとも、図6に示すように、感光媒体40の一部分の領域(図にハッチングを施して示す領域)にのみホログラムを記録した場合、再生像35が得られるのは、当該領域内の点に光ビームを照射した場合に限られる。
【0085】
結局、ここで述べた照明用ホログラム記録媒体45は、特定の収束点Cに収束する参照光Lref を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されている媒体であり、この収束点Cを通る光ビームを再生用照明光Lrep として任意の位置に照射すると、散乱板30の再生像35が生成される、という特徴を有している。したがって、再生用照明光Lrep として、収束点Cを通る光ビームを、照明用ホログラム記録媒体45上で走査すると、個々の照射点から得られる回折光Ldif によって、同一の再生像35が同一位置に再生されることになる。
【0086】
本発明では、このようにして「照明用ホログラム記録媒体45」から得られる再生光(散乱板の再生像35を形成するための回折光)を、「表示用ホログラム記録媒体」(表示対象となる立体画像が記録された「本来のホログラム記録媒体」)に対する再生用照明光として利用することになる。
【0087】
図13は、このような再生用照明光を生成するための再生用照明光生成部100の構成を示す側面図である。図示のとおり、この再生用照明光生成部100は、照明用ホログラム記録媒体45、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。
【0088】
ここで、照明用ホログラム記録媒体45は、上述したとおり、図5に示す光学系を用いたプロセスで作成された媒体であり、散乱板30の像35が記録されている。また、コヒーレント光源50は、照明用ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源である。
【0089】
一方、光ビーム走査装置60は、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50を、所定の走査基点Bで屈曲させて照明用ホログラム記録媒体45に照射し、かつ、光ビームL50の屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する装置である。具体的には、図示の光ビーム走査装置60は、走査基点B側に反射面を有する可動ミラーによって構成されており、図のV軸(紙面に垂直な軸)およびW軸を回動軸として所望の方向に傾斜させることができる。
【0090】
このような装置は、一般に、走査型ミラーデバイスとして公知の装置である。図には、説明の便宜上、時刻t1における屈曲態様を一点鎖線で示し、時刻t2における屈曲態様を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)としてホログラム記録媒体45の点P(t1)に照射されるが、時刻t2では、光ビームL50は、走査基点Bで屈曲し光ビームL60(t2)としてホログラム記録媒体45の点P(t2)に照射される。
【0091】
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における屈曲態様しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームの屈曲方向は滑らかに変化し、光ビームL60のホログラム記録媒体45に対する照射位置は、図の点P(t1)〜P(t2)へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL60の照射位置は、照明用ホログラム記録媒体45上において点P(t1)〜P(t2)へと走査されることになる。
【0092】
ここで、走査基点Bの位置を、図8に示す収束点Cの位置に一致させておけば(別言すれば、図13における照明用ホログラム記録媒体45と走査基点Bとの位置関係が、図8における感光媒体40と収束点Cとの位置関係に等しくなるようにしておけば)、照明用ホログラム記録媒体45の各照射位置において、光ビームL60は、図8に示す参照光Lref に応じた向き(図8に示す参照光Lref の光路を逆進する向き)に照射されることになる。したがって、光ビームL60は、照明用ホログラム記録媒体45の各照射位置において、そこに記録されているホログラムを再生するための正しい再生用照明光Lrep として機能する。
【0093】
たとえば、時刻t1では、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)によって、散乱板30の再生像35が生成され、時刻t2では、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)によって、散乱板30の再生像35が生成される。もちろん、時刻t1〜t2の期間においても、光ビームL60が照射された個々の位置からの回折光によって、同様に散乱板30の再生像35が生成される。すなわち、光ビームL60が、走査基点Bから照明用ホログラム記録媒体45へ向かう光である限り、照明用ホログラム記録媒体45上のどの位置に光ビームL60が照射されたとしても、照射位置からの回折光によって、同一の再生像35が同一位置に生成されることになる。
【0094】
このような現象が起こるのは、図8に示すとおり、照明用ホログラム記録媒体45には、特定の収束点Cに収束する参照光L23を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されており、光ビーム走査装置60が、この収束点Cを走査基点Bとして光ビームL60の走査を行うためである。もちろん、光ビーム走査装置60による走査を停止して、光ビームL60の照射位置を照明用ホログラム記録媒体45上の1点に固定したとしても、同じ再生像35が同一位置に生成され続けることに変わりはない。それにもかかわらず、光ビームL60を走査するのは、スペックルノイズを抑制するために他ならない。
【0095】
上述したとおり、本発明では、図13に示す散乱板の再生像35を形成するための回折光L45を、表示用ホログラム記録媒体に対する再生用照明光として利用する。別言すれば、図13に示す再生用照明光生成部100は、再生像35の位置に置かれた物体を照明する照明装置としての役割を果たすことになる。
【0096】
そこで、いま、図13に示すように、再生像35上の任意の位置に着目点Qを設定し、この着目点Qに到達する回折光がどのようなものかを考えてみる。まず、時刻t1では、コヒーレント光源50から出た光ビームL50は、図に一点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)として点P(t1)に照射される。そして、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)の一部が着目点Qに到達する。一方、時刻t2では、コヒーレント光源50から出た光ビームL50は、図に二点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t2)として点P(t2)に照射される。そして、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)の一部が着目点Qに到達する。
【0097】
結局、このような回折光によって、着目点Qの位置には、常に、散乱板30の着目点Qの位置に対応する再生像が生成されることになるが、着目点Qに対する回折光の入射角は、時刻t1と時刻t2とで異なる。別言すれば、光ビームL60を走査した場合、空間上に形成される再生像35に変わりはないものの、再生像35の個々の点に到達する回折光の入射角度は時間とともに変化することになる。このような入射角度の時間変化は、スペックルを低減させる上で大きな貢献を果たす。
【0098】
前述したとおり、コヒーレント光を用いるとスペックルが発生する理由は、受光面の各部で反射したコヒーレント光が、その極めて高い可干渉性ゆえに、互いに干渉し合うためである。ところが、本発明では、たとえば、図示の着目点Qについての回折光の入射角度を考えると、光ビームL60を走査することにより、当該入射角度は時間的に変動することになる。これは、図示の着目点Qの位置についてのみ言えることではなく、照明用ホログラム記録媒体45からの回折光が到達する任意の点について言えることである。したがって、当該回折光が届く空間内に配置された任意の対象物の表面に対する当該回折光の入射角度は、時間的に変動することになる。このため、コヒーレント光であるにもかかわらず、干渉の態様も時間的に変動し、多重度をもつことになる。このため、スペックルの発生要因は、時間的に分散し、生理的に悪影響を与える斑点状の模様が定常的に観察される事態を緩和することができる。これが本発明によるスペックル抑制の基本原理である。
【0099】
<<< §3. 本発明の基本的実施形態 >>>
次に、本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置の構成および動作を説明する。図14は、この立体画像表示装置に用いる表示用ホログラム記録媒体の作成方法の一例を示す側面図である。図示の再生用照明光生成部100は、図13で説明したとおり、照明用ホログラム記録媒体45、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。
【0100】
この再生用照明光生成部100を配置したら、続いて、散乱板の再生像35が形成される位置(図13に破線で示した位置)に感光媒体70を配置し、更に、任意の位置に表示対象となる原画像F(この例では立方体)を配置する。そして、コヒーレント光源50から出た光ビームL50を、図に一点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲させ、光ビームL60(t1)として照射点P(t1)に照射し、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)が感光媒体70に照射されるようにする。
【0101】
このとき、光ビーム走査装置60による走査は行わず、感光媒体70には、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)が感光媒体70に照射され続けるようにする(いわば、走査系を時刻t1の位置に固定した状態にする)。一方、感光媒体70には、原画像Fからの物体光Lobj も届くようにする(図では、説明の便宜上、原画像F上の代表点Kからの物体光Lobj のみが示されている)。そうすれば、回折光L45(t1)を参照光Lref として、この参照光Lref と物体光Lobj とによって生じる干渉縞が感光媒体70に記録されることになる。別言すれば、原画像Fが感光媒体70にホログラムとして記録される。このようなホログラムが記録された感光媒体70を、ここでは表示用ホログラム記録媒体75と呼ぶことにする。
【0102】
なお、上述したプロセスは、光学的な方法によって表示用ホログラム記録媒体75を作成するプロセスであるが、CGHの手法によって表示用ホログラム記録媒体75を作成することも可能である。その場合は、図14に示す再生用照明光生成部100の幾何学的な配置を示す情報をコンピュータにデータとして与え、更に、感光媒体70の受光面の位置に記録面を定義し、原画像Fとして、その形状を示すCGデータをコンピュータに与え、記録面上に形成されるホログラム干渉縞をシミュレーション演算によって画像データとして求めるようにすればよい。
【0103】
光学的な方法を採る場合、参照光Lref (すなわち、回折光L45(t1))が原画像Fを構成する物理的な物体に妨げられないように配置を工夫する必要があるが、CGHの手法を利用すれば、コンピュータ上での演算によって、ホログラム干渉縞を示す画像データが得られるので、現実的には無理な配置であっても問題は生じない。たとえば、図14に示す幾何学的条件では、回折光L45(t1)の一部が原画像Fに妨げられており、光学的な方法を採る場合は問題であるが、CGHの手法を利用すれば、問題は生じない。
【0104】
こうして、表示用ホログラム記録媒体75が作成できたら、図15に示すような配置をとることにより、本発明の基本的実施形態に係る立体画像表示装置を構成することができる。すなわち、図15に示す装置は、図13に示す再生用照明光生成部100に、図14に示す方法で作成した表示用ホログラム記録媒体75を付加することにより構成される立体画像表示装置である。ここで、表示用ホログラム記録媒体75は、図13に破線で示した散乱板の再生像35が形成される位置(すなわち、図14に示す感光媒体70の位置)に配置されている。
【0105】
この立体画像表示装置による立体画像の表示動作は次のとおりである。まず、図15に示すように、コヒーレント光源50から出た光ビームL50を、図に一点鎖線で示すように走査基点Bで屈曲させ、光ビームL60(t1)として照明用ホログラム記録媒体45上の照射点P(t1)に照射し、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)が表示用ホログラム記録媒体75に照射されるようにする。この回折光L45(t1)は、図14の記録プロセスにおいて参照光Lref として機能する回折光L45(t1)と等価であるから、図15の再生プロセスでは、表示用ホログラム記録媒体75に対して再生用照明光Lrep として機能する。したがって、視点Eに届いた回折光L75(t1)により、図に破線で描かれているように、再生像FF(t1)が虚像として観察されることになる。再生像FF(t1)の位置は、図14に示す原画像Fの位置になる。
【0106】
もちろん、図15に示す再生状態をそのまま維持した場合、スペックルノイズが発生し、観察者にはギラギラと光った斑点状の輝度ムラが観察される。これは、コヒーレント光である回折光L45(t1)が表示用ホログラム記録媒体75の表面において反射し、互いに干渉し合うためである。そこで、本発明では、立体画像の再生時に、光ビーム走査装置60による走査を行う。このような走査を行えば、光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射点Pが時間的に変動することになるので、表示用ホログラム記録媒体75に対する回折光L45の入射角度が時間的に変動する。
【0107】
たとえば、図16は、時刻t2において、光ビーム走査装置60の走査によって走査基点Bで屈曲した光ビームL60(t2)が、照明用ホログラム記録媒体45上の照射点P(t2)に照射され、この照射点P(t2)からの回折光L45(t2)が表示用ホログラム記録媒体75に照射された状態を示している。この場合、視点Eに届いた回折光L75(t2)により、図に破線で描かれているような再生像FF(t2)が虚像として表示されることになる。
【0108】
実際には、光ビーム走査装置60の走査機能によって、光ビームL60の照射点は、図15に示す照射点P(t1)から図16に示す照射点P(t2)に至る経路に沿って徐々に移動してゆくことになる。したがって、表示用ホログラム記録媒体75に対する回折光L45の入射角度は時間とともに徐々に変化し、多重化される。このため、スペックルの発生要因は、時間的に分散し、生理的に悪影響を与える斑点状の模様が定常的に観察される事態を緩和することができる。これが本発明の基本原理である。
【0109】
もっとも、図15に示す再生像FF(t1)は、ホログラムとして記録されている原画像Fの正しい再生像になるが、図16に示す再生像FF(t2)は、原画像Fの正しい再生像にはならない。なぜなら、表示用ホログラム記録媒体75は、図14に示す記録プロセス、すなわち、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)を参照光Lref として原画像Fを記録した媒体であるから、図15に示すように、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)を再生用照明光として利用して得られた再生像FF(t1)は本来のホログラム再生像になるが、図16に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)を再生用照明光として利用して得られた再生像FF(t2)は本来のホログラム再生像にはならない。
【0110】
すなわち、もし、図16に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)を再生用照明光として利用して得られた再生像FF(t2)が、本来の正しいホログラム再生像になるようにするためには、表示用ホログラム記録媒体75を作成するための像の記録プロセスにおいて、図17に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)を参照光Lref として原画像Fの記録を行っておく必要がある。もちろん、そのような記録プロセスで表示用ホログラム記録媒体75を作成した場合、今度は、図15に示すように、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)を再生用照明光として利用して得られた再生像FF(t1)が本来のホログラム再生像ではなくなってしまう。
【0111】
このように、この§3で述べる基本的実施形態に係る立体画像表示装置では、表示用ホログラム記録媒体75として、干渉縞パターンが物理的に固定された媒体を用いているため、光ビーム走査装置60が光ビームL60を特定の照射点P(記録プロセスで用いた照射点)に照射している時点においてのみ、本来の正しいホログラム再生像FFが表示され、それ以外の時点では、正しいホログラム再生像FFの表示は行われず、位置や形状が若干変動した再生像FFの表示が行われることになる。その結果、視点Eから見ると、若干ぼやけた再生像FFが観察されることになる。このような問題を解決するには、§5で述べるように、干渉縞パターンが物理的に固定された表示用ホログラム記録媒体75の代わりに、与える画像データに基づいて任意の干渉縞パターンを形成させることができる空間光変調器(たとえば、液晶ディスプレイ)を用いる必要がある。
【0112】
もっとも、この立体画像表示装置では、原画像Fの記録時に用いたコヒーレント光と同じコヒーレント光を用いてホログラムの再生が行われるので、室内照明などの一般光源を用いた再生像に比べれば、はるかに鮮明で明るい再生像を得ることができる。したがって、この§3で述べる基本的実施形態に係る立体画像表示装置は、一般光源を用いた従来の立体画像表示装置に比べれば、より鮮明で明るい立体画像の表示が可能であり、産業上の利用可能性を十分に備えているものである。
【0113】
この基本的実施形態に係る立体画像表示装置において、より鮮明な再生像FFが得られるようにする第1の方法は、視点から見たときに再生像FFが現れる奥行き位置を、できるだけ表示用ホログラム記録媒体75の位置に近づけることである。一般に、奥行きに関して記録媒体の近傍に再生像が得られるホログラムは、イメージホログラムと呼ばれている。このようなイメージホログラムであれば、記録媒体に対する再生用照明光の入射角度が変化しても、再生像の位置や形状に大きな変化は生じない。したがって、表示用ホログラム記録媒体75を作成する記録プロセスにおいて、原画像Fを感光媒体の直近に配置して(CGHの場合は、原画像Fが記録面に重なるように配置して)、像の記録を行うようにすればよい。
【0114】
より鮮明な再生像FFが得られるようにする第2の方法は、光ビーム走査装置60による照明用ホログラム記録媒体45上の走査範囲を限定する方法である。図15に示す例のように、照明用ホログラム記録媒体45の下端の照射点P(t1)から、図16に示す例のように、照明用ホログラム記録媒体45の上端の照射点P(t2)に至るまでの広範囲な走査領域を設定すると、表示用ホログラム記録媒体75に対する再生用照明光L45の入射角度は大幅に変化する。その結果、再生像FFの位置や形状の時間的な変動幅は大きくなり、観察される像のぼけ具合も大きくなる。そこで、光ビーム走査装置60による走査範囲を、基準照射点の近傍に限定するようにすれば、再生像FFの位置や形状の時間的な変動幅を抑え、観察される像のぼけ具合を低減させることができる。この場合、基準照射点は、表示用ホログラム記録媒体75を作成する記録プロセスにおける照射点とするのが好ましい。
【0115】
もっとも、光ビーム走査装置60による走査範囲を限定すると、表示用ホログラム記録媒体75に対する再生用照明光L45の入射角度の変化幅が減少するので、スペックルノイズを抑制する、という本発明の本来の効果を損なうというデメリットも生じる。したがって、スペックルノイズを抑制するという観点からは、光ビーム走査装置60による走査範囲をあまり限定すべきではない。したがって、実際には、再生像の鮮明さを重視するか、スペックルノイズの低減を重視するか、に応じて、最適な走査範囲を設定すればよい。
【0116】
なお、これまで述べた基本的実施形態では、表示用ホログラム記録媒体75を、照明用ホログラム記録媒体45によって得られた散乱板の再生像35の位置に配置する例を示したが、表示用ホログラム記録媒体75の位置は、必ずしも散乱板の再生像35の位置に限定されるものではない。別言すれば、図14に示す記録プロセスにおいて、感光媒体70は、必ずしも散乱板の再生像35の位置に配置する必要はない。表示用ホログラム記録媒体75には、照明用ホログラム記録媒体45から回折してきた光が再生用照明光として照射されればよいので、表示用ホログラム記録媒体75は、照明用ホログラム記録媒体45からの回折光が届く位置であれば、空間上の任意の位置に配置してかまわない。
【0117】
ただ、照明効率の点を考慮すると、これまで述べた基本的実施形態のように、表示用ホログラム記録媒体75を、照明用ホログラム記録媒体45によって得られた散乱板の再生像35の位置に配置するのが好ましい。たとえば、図15に示す例の場合、コヒーレント光源50から出た光ビームL50は、走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)として照明用ホログラム記録媒体45上の照射点P(t1)に照射し、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)となって表示用ホログラム記録媒体75の全面に照射される。このように、表示用ホログラム記録媒体75の全面に再生用照明光が照射されるのは、表示用ホログラム記録媒体75が、散乱板の再生像35の位置に配置されており、かつ、散乱板の再生像35と同じ大きさを有しているためである。
【0118】
照射点P(t1)からの回折光L45(t1)は、散乱板の再生像35を形成するための光であるから、再生像35と同じ大きさの表示用ホログラム記録媒体75を、再生像35と同じ位置に配置しておけば、表示用ホログラム記録媒体75が回折光L45(t1)によって照射されるのは当然である。これは、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)に限られるわけではなく、すべての照射点Pからの回折光について言えることである。たとえば、図16に示す例の場合、回折光L45(t2)は、やはり表示用ホログラム記録媒体75の全面を照射する光になる。
【0119】
このように、表示用ホログラム記録媒体75を、照明用ホログラム記録媒体45によって得られた散乱板の再生像35の位置に配置し、再生像35と同じ大きさの媒体としておけば、コヒーレント光源50から出た光ビームL50の全エネルギーを、表示用ホログラム記録媒体75の表面に照射することができ、エネルギーのロスを防ぐことができる。もちろん、表示用ホログラム記録媒体75を、再生像35よりも大きくしてもかまわないが、その場合、媒体の周囲は再生用照明光が照射されない無駄な領域ということになる。
【0120】
<<< §4. 基本的実施形態の各部の詳細構成 >>>
§3で述べた本発明の基本的実施形態は、ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であり、図15に示されているとおり、コヒーレントな光ビームL50を発生させるコヒーレント光源50と、散乱板の像が記録された照明用ホログラム記録媒体45と、光ビームL50を光ビームL60として照明用ホログラム記録媒体45に照射し、かつ、光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置60と、表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体75と、を備えた装置ということになる。
【0121】
ここで、照明用ホログラム記録媒体45には、図8に示すように、所定光路に沿って照射される参照光Lref を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されている。また、コヒーレント光源50は、照明用ホログラム記録媒体45に記録されている散乱板30の像および表示用ホログラム記録媒体75に記録されている立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームL50を発生させ、光ビーム走査装置60は、照明用ホログラム記録媒体45に対する光ビームL60の照射方向が、図8に示す参照光Lref の光路に沿った方向になるように光ビームの走査を行う。そして、表示用ホログラム記録媒体75は、照明用ホログラム記録媒体45から得られる散乱板の像の再生光L45を再生用照明光として、立体画像の再生像FFを形成することになる。そこで、以下、これら各構成要素について、より詳細な説明を行う。
【0122】
<§4−1:コヒーレント光源>
まず、コヒーレント光源50としては、照明用ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源を用いればよい。もっとも、コヒーレント光源50が発生させる光ビームL50の波長は、ホログラム記録媒体45を作成する際に用いた光の波長と完全に同一である必要はなく、近似する波長であれば、ホログラムの再生像を得ることができる。要するに、本発明に用いるコヒーレント光源50は、散乱板の像35を再生することが可能な波長をもったコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源であればよい。
【0123】
ここに示す実施形態の場合、波長λ=532nm(緑色)のレーザ光を射出することが可能なDPSS(Diode Pumped Solid State)レーザ装置をコヒーレント光源50として用いた。DPSSレーザは、小型でありながら比較的高出力の所望の波長のレーザ光を得ることができるため、本発明に係る立体画像表示装置への利用に適したコヒーレント光源である。
【0124】
このDPSSレーザ装置は、一般的な半導体レーザに比べてコヒーレント長が長いため、スペックルが発生しやすく、従来は、照明の用途には不適当と考えられていた。すなわち、従来は、スペックルを低減させるためには、レーザ光の発振波長に幅をもたせ、できるだけコヒーレント長を短くする努力が払われてきた。これに対して、本発明では、コヒーレント長が長い光源を用いたとしても、前述した原理により、スペックルの発生を効果的に抑制することができるので、光源としてDPSSレーザ装置を用いたとしても、実用上、スペックルの発生は問題にならなくなる。このような点において、本発明を利用すれば、光源の選択範囲をより広げる効果が得られる。
【0125】
<§4−2:光ビーム走査装置>
光ビーム走査装置60は、照明用ホログラム記録媒体45上で、光ビームを走査する機能をもった装置である。光ビームの具体的な走査方法としては、たとえば、CRTにおける電子線の走査と同様に、照明用ホログラム記録媒体45上を水平方向に走査し、そのような走査を垂直方向に繰り返すことにより、媒体全面を走査するような方法をとることができる。ただ、実用上は、照明用ホログラム記録媒体45上を円形の走査軌道に沿って走査するのが好ましい。
【0126】
なお、図6に示す例のように、感光媒体40の一部の領域(ハッチングを施した領域)にのみ参照光Lref を照射して記録を行った場合は、他の領域(外側の白い領域)にはホログラムが記録されていない。このような場合、外側の白い領域まで走査を行うと再生像35が得られないため、照明が一時的に暗くなってしまう。したがって、この場合は、ホログラムが記録されている領域内のみを走査するようにするのが好ましい。
【0127】
図15に示すとおり、照明用ホログラム記録媒体45上における光ビームL60の走査は、光ビーム走査装置60によって行われる。この光ビーム走査装置60は、コヒーレント光源50からの光ビームL50を、走査基点B(ホログラム記録時の収束点C)で屈曲させて照明用ホログラム記録媒体45に照射する機能を有する。しかも、その屈曲態様(屈曲の方向と屈曲角度の大きさ)を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。このような機能をもった装置は、走査型ミラーデバイスとして種々の光学系で利用されている。
【0128】
たとえば、図15に示す例では、光ビーム走査装置60として、便宜上、単なる反射鏡の図が描かれているが、実際には、この反射鏡を2軸方向に回動させる駆動機構が備わっている。すなわち、図示の反射鏡の反射面の中心位置に走査基点Bを設定し、この走査基点Bを通り、反射面上で互いに直交するV軸およびW軸を定義した場合に、この反射鏡をV軸(図の紙面に垂直な軸)まわりに回動させる機構と、W軸(図に破線で示す軸)まわりに回動させる機構とが備わっている。
【0129】
このように、V軸およびW軸まわりに独立して回動可能な反射鏡を用いれば、反射した光ビームL60を、照明用ホログラム記録媒体45上で水平方向および垂直方向に走査することが可能である。たとえば、上述の機構において、反射光をV軸まわりに回動すれば、図15に示す照射点P(t1)から図16に示す照射点P(t2)へ向けて、光ビームL60を走査することができる。また、W軸まわりに回動すれば、紙面に対して垂直方向に走査することができる。
【0130】
結局、光ビーム走査装置60が、走査基点Bを含む平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能を有していれば、照明用ホログラム記録媒体45上で光ビームL60の照射位置を一次元方向に走査することができる。これに対して、照明用ホログラム記録媒体45上で光ビームL60の照射位置を二次元方向に走査する運用をとるのであれば、光ビーム走査装置60に、走査基点Bを含む第1の平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能と、走査基点Bを含み第1の平面と直交する第2の平面上で揺動運動を行うように光ビームL60を屈曲させる機能と、をもたせておけばよい。
【0131】
光ビームの照射位置を一次元方向に走査するための走査型ミラーデバイスとしては、ポリゴンミラーが広く利用されている。また、二次元方向に走査するための走査型ミラーデバイスとしては、ポリゴンミラーを2組組み合わせたものを用いることもできるし、ジンバルミラー、ガルバノミラー、MEMSミラーなどのデバイスが知られている。更に、通常のミラーデバイス以外でも、全反射プリズム、屈折プリズム、電気光学結晶(KTN結晶など)等も、光ビーム走査装置60として利用可能である。
【0132】
なお、光ビーム走査装置60による光ビームの走査速度は、スペックルノイズを抑制する効果が生じる速度に設定する必要がある。たとえば、図15に示す照射点P(t1)から図16に示す照射点P(t2)に至る一方向の走査に1時間を要するような遅い速度で走査したとしても、人間の視覚的な時間分解能の観点からは、走査を行っていないのと同じであり、スペックルが認識されることになる。光ビームを走査することによりスペックルが低減するのは、前述したとおり、表示用ホログラム記録媒体75の各部に照射される光の入射角度が時間的に多重化されるためである。したがって、ビーム走査によるスペックル低減の効果を十分に得るためには、スペックルを生じさせる原因となる同一の干渉条件が維持される時間が、人間の視覚的な時間分解能よりも短くなるようにすればよい。
【0133】
一般に、人間の視覚的な時間分解能の限界は、1/20〜1/30秒程度とされており、1秒間に20〜30フレーム以上の静止画像を提示すれば、人間には滑らかな動画として認識される。このような点を考慮すれば、光ビームの直径をdとした場合、1/20〜1/30秒でd以上の距離を進む走査速度(秒速20d〜30dの速度)で走査を行えば、十分なスペックル抑制効果が得られることになる。
【0134】
<§4−3:ホログラム記録媒体>
§3で述べた基本的実施形態では、照明用ホログラム記録媒体45と表示用ホログラム記録媒体75とが用いられている。前者は、特定の収束点Cに収束する参照光を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されている、という特徴を有している媒体であればよく、後者は、前者から得られる回折光を参照光として用いて、表示対象となる立体画像がホログラムとして記録されている、という特徴を有している媒体であればよい。ここでは、本発明に利用するのに適した具体的なホログラム記録媒体の形態を述べておく。
【0135】
ホログラムには、いくつかの物理的な形態がある。本願発明者は、本発明に利用するには、体積型ホログラムが最も好ましいと考えている。特に、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムを用いるのが最適である。
【0136】
一般に、キャッシュカードや金券などに偽造防止用シールとして利用されているホログラムは、表面レリーフ(エンボス)型ホログラムと呼ばれており、表面の凹凸構造によってホログラム干渉縞の記録が行われる。もちろん、本発明を実施する上では、像を表面レリーフ型ホログラムとして記録しているホログラム記録媒体(一般に、ホログラフィック・ディフューザーと呼ばれている)を利用することも可能である。しかしながら、この表面レリーフ型ホログラムの場合、表面の凹凸構造による散乱が、新たなスペックル生成要因となる可能性があるため、スペックルを低減させる、という観点からは好ましくない。また、表面レリーフ型ホログラムでは、多次回折光が発生するため、回折効率が低くなり、更に、回折性能(回折角をどこまで大きくできるかという性能)にも限界がある。
【0137】
これに対して、体積型ホログラムでは、媒体内部の屈折率分布としてホログラム干渉縞の記録が行われるため、表面の凹凸構造による散乱による影響を受けることはない。また、一般に、回折効率や回折性能も表面レリーフ型ホログラムより優れている。したがって、本発明を実施する際には、像を体積型ホログラムとして記録している媒体を利用するのが最適である。
【0138】
ただ、体積型ホログラムでも、銀塩材料を含む感光媒体を利用して記録するタイプのものは、銀塩粒子による散乱が新たなスペックル生成要因となる可能性があるため、避けた方が好ましい。このような理由から、本願発明者は、本発明に利用するホログラム記録媒体としては、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムが最適であると考えている。このようなフォトポリマーを用いた体積型ホログラムの具体的な化学組成は、たとえば、特許第2849021号公報に例示されている。
【0139】
もっとも、量産性という点では、体積型ホログラムよりも表面レリーフ型ホログラムの方が優れている。表面レリーフ型ホログラムは、表面に凹凸構造をもった原版を作成し、この原版を用いたプレス加工により、媒体の量産を行うことができる。したがって、製造コストを低減させる必要がある場合には、表面レリーフ型ホログラムを利用すればよい。
【0140】
一方、ホログラムの記録方式としては、物体光と参照光との合成波の振幅を干渉縞として記録する干渉縞記録方式の他に、合成波の位相を記録するキノフォーム方式や、振幅と位相の双方を記録する複素振幅方式があり、本発明では、これらのいずれの方式でホログラムを記録してもかまわない。
【0141】
また、ホログラムの物理的な形態としては、平面上に濃淡パターンとして干渉縞を記録した振幅変調型ホログラムも広く普及している。しかしながら、この振幅変調型ホログラムは、回折効率が低く、濃いパターン部分で光の吸収が行われてしまうため、本発明に利用した場合、十分な照明効率を確保することができない。ただ、その製造工程では、平面上に濃淡パターンを印刷する簡便な方法を採ることができるため、製造コストの点ではメリットが得られる。したがって、用途によっては、振幅変調型ホログラムを本発明に採用することも可能である。
【0142】
なお、これまで述べてきた記録方法では、いわゆるフレネルタイプのホログラム記録媒体が作成されることになるが、散乱板30や原画像Fをレンズを通して記録することにより得られるフーリエ変換タイプのホログラム記録媒体を作成してもかまわない。
【0143】
<<< §5. 本発明の実用的実施形態 >>>
§3で述べた基本的実施形態に係る立体画像表示装置では、表示用ホログラム記録媒体75として、干渉縞パターンが物理的に固定された媒体を用いているため、光ビーム走査装置60が光ビームL60を特定の照射点P(記録プロセスで用いた照射点)に照射している時点においてのみ、本来の正しいホログラム再生像FFが表示され、それ以外の時点では、正しいホログラム再生像FFの表示は行われず、若干ぼやけた再生像FFが観察される、という欠点があることは既に述べたとおりである。
【0144】
ここで述べる実用的実施形態は、干渉縞パターンが物理的に固定された表示用ホログラム記録媒体75の代わりに、与える画像データに基づいて任意の干渉縞パターン等を形成させることができる空間光変調器(たとえば、液晶ディスプレイ)を用いることにより、上記欠点を解消するものである。また、空間光変調器に与える画像データを変えることにより、任意の立体画像を表示することができ、必要に応じて、動画の表示も可能になるという利点も有している。
【0145】
図18は、この実用的実施形態に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。ここで、再生用照明光生成部100の部分(すなわち、コヒーレント光源50と、光ビーム走査装置60と、照明用ホログラム記録媒体45)は、図15に示す基本的実施形態と全く同じ構成である。まず、コヒーレント光源50は、散乱板の像および立体画像を再生することが可能な波長をもったコヒーレントな光ビームL50を発生させる構成要素である。また、照明用ホログラム記録媒体45には、所定光路に沿って照射される参照光を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されている。そして、光ビーム走査装置60は、照明用ホログラム記録媒体45に対する光ビームL60の照射方向が、散乱板30の像を記録する際に用いた参照光の光路に沿った方向になるように、光ビームL50を屈曲して照明用ホログラム記録媒体45に照射し、かつ、光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。
【0146】
一方、図15に示す基本的実施形態で用いられていた表示用ホログラム記録媒体75の代わりに、図18に示す実用的実施形態では、空間光変調器80が用いられている。この空間光変調器80は、所定の変調平面を有し、当該変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、当該変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する機能を有している。空間光変調器80は、照明用ホログラム記録媒体45からの回折光が届く位置であれば任意の位置に配置することが可能であるが、実用上は、既に述べたとおり、照明効率を向上させるために、照明用ホログラム記録媒体45によって得られた散乱板の再生像35の位置に配置するのが好ましい。また、空間光変調器80の大きさも、散乱板の再生像35の大きさとほぼ同じ程度に設定するのが好ましい。図18に示す例は、再生像35の形成位置に完全に重複するように、空間光変調器80を配置した例である。
【0147】
空間光変調器80としては、たとえば、透過型の液晶ディスプレイを利用することができる。液晶ディスプレイは、与えられた画像データに応じて、任意の画像を表示することが可能であるから、液晶ディスプレイに、図15に示す基本的実施形態で用いられていた表示用ホログラム記録媒体75に記録された干渉縞パターンを表示させるようにすれば、表示用ホログラム記録媒体75と同等の光学的機能が得られる。すなわち、照明用ホログラム記録媒体45から得られる散乱板の像の再生光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて立体画像のホログラム再生像FFを形成する機能を果たす。
【0148】
この立体画像表示装置には、空間光変調器80を駆動するための構成要素として、更に、制御装置200と画像データ格納部250とが設けられている。画像データ格納部250は、表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納する構成要素であり、たとえば、コンピュータ用のハードディスク装置などによって構成することができる。一方、制御装置200は、この立体画像表示装置を統括制御するユニットであり、専用のデジタル回路もしくは専用のプログラムを組み込んだコンピュータによって構成することができる。
【0149】
制御装置200は、画像データ格納部250から読み出した画像データを空間光変調器80に与える供給制御を行うとともに、コヒーレント光源50に動作制御信号(電源のON/OFF制御を行う信号)を与え、更に、光ビーム走査装置60に走査制御信号を与える制御を行う。このように、制御装置200は、空間光変調器80への画像データの供給制御を行うとともに、光ビーム走査装置60の走査制御を行う機能を有しているため、両者を同期させる同期制御が可能になる。そして、この同期制御を行うことにより、§3で述べた基本的実施形態のもつ「再生像FFのぼけ」という問題を解決することが可能になる。
【0150】
§3で述べた基本的実施形態において、「再生像FFのぼけ」という問題が生じる理由は、前述したとおり、光ビーム走査装置60が光ビームL60を特定の照射点P(記録プロセスで用いた照射点)に照射している時点においてのみ、本来の正しいホログラム再生像FFが表示されるためである。たとえば、図15に示す立体画像表示装置の場合、表示用ホログラム記録媒体75は、図14に示すように、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)を参照光Lref として原画像Fを記録した媒体であるから、図15に示すように、照射点P(t1)からの回折光L45(t1)が再生用照明光として与えられる時点t1では、本来のホログラム再生像FF(t1)が形成されることになるが、図16に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)が再生用照明光として与えられる時点t2では、形成される再生像FF(t2)は正しいホログラム再生像にはならない。
【0151】
換言すれば、図16に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)が再生用照明光として与えられる時点t2において、本来の正しいホログラム再生像FF(t2)を形成するためには、表示用ホログラム記録媒体75として、図17に示すように、照射点P(t2)からの回折光L45(t2)を参照光Lref として原画像Fを記録したホログラムを用いるようにすればよい。
【0152】
液晶ディスプレイなどの空間光変調器80では、与える画像データを変えることにより、変調面に形成するホログラムの内容を変えることができるので、各照射点に応じて、それぞれ異なる画像データを用意しておき、光ビーム走査装置60の走査に同期させて、それぞれ対応する画像データを空間光変調器80に与える同期制御が可能になる。
【0153】
たとえば、図18に示す例の場合、時刻t1において、光ビーム走査装置60が光ビームL60(t1)を照射点P(t1)に照射しているときには、空間光変調器80には画像データPIC(t1)が与えられ、時刻t2において、光ビーム走査装置60が光ビームL60(t2)を照射点P(t2)に照射しているときには、空間光変調器80には画像データPIC(t2)が与えられるような同期制御を行えばよい。ここで、画像データPIC(t1)は、回折光L45(t1)が空間光変調器80に照射されたときに、正しい再生像FFが形成されるようなホログラムを形成するための画像データであり、画像データPIC(t2)は、回折光L45(t2)が空間光変調器80に照射されたときに、正しい再生像FFが形成されるようなホログラムを形成するための画像データである。
【0154】
このような画像データは、コンピュータによるシミュレーション演算によって、予め作成しておくことができる。たとえば、上例の画像データPIC(t1)は、図14に示すような光学的な配置状態において、感光媒体70の受光面上に形成される干渉縞を示す画像データとして演算することができる。同様に、上例の画像データPIC(t2)は、図17に示すような光学的な配置状態において、感光媒体70の受光面上に形成される干渉縞を示す画像データとして演算することができる。
【0155】
実際には、照明用ホログラム記録媒体45上に複数N通りの照射点を予め設定しておき、光ビーム走査装置60が、この複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行うようにし、この複数N通りの照射点にそれぞれ対応するN通りの画像データを予め求めておき、画像データ格納部250に格納しておくようにすればよい。すなわち、画像データ格納部250には、複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データが格納されており、しかも、第i番目(1≦i≦N)の画像データPIC(ti)は、第i番目の照射点P(ti)からの再生用照明光が空間光変調器80に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであるようにしておけばよい。
【0156】
実際に立体画像を表示する際には、制御装置200が、複数N通りの照射点に光ビームL60が順に照射されるように、光ビーム走査装置60に対して走査制御信号を与えるとともに、複数N通りの画像データを空間光変調器80に順に与え、かつ、光ビーム走査装置60が第i番目の照射点P(ti)に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の画像データPIC(ti)が空間光変調器80に与えられるような同期制御を行えばよい。
【0157】
また、画像データ格納部250に動画からなる画像データを用意しておけば、立体画像を動画として表示することも可能である。その場合、個々の画像データとしては、特定の時刻に光ビームの走査を受ける特定の照射点からの参照光と、当該特定の時刻に表示すべき特定の原画像からの物体光と、によって形成される干渉縞パターンを示す画像データにしておけばよい。
【0158】
なお、本発明に用いる空間光変調器80は、上例のような透過型の液晶ディスプレイに限定されるものではなく、空間上の個々の位置ごとに、それぞれ入射光を所望の形に変調して射出する機能をもった素子であれば、どのような素子を用いてもかまわない。たとえば、透過型のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)素子を空間光変調器80として用いてもよい。あるいは、反射型の液晶ディスプレイや反射型のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)素子を用いることも可能である(この場合、視点Eの位置は、図18に示す例とは逆に、空間光変調器80の左側にくることになり、再生像FFは、空間光変調器80の右側に虚像として形成される。)。反射光を利用する場合、空間光変調器80としてDMD(デジタルマイクロミラーデバイス:Digital Micromirror Device)などのMEMS素子を用いることも可能である。
【0159】
<<< §6. 実用的実施形態の変形例 >>>
ここでは、§5で述べた実用的実施形態について、いくつかの変形例を説明する。
【0160】
<§6−1:小型化に適した変形例>
図19は、図18に示す実用的実施形態を更に小型化した変形例に係る立体画像表示装置の全体構成を示す図である。図18に示す装置との相違は、図の水平方向に描かれている光軸Zを定義し、この光軸Z上に、光ビーム走査装置60,照明用ホログラム記録媒体45,空間光変調器(液晶ディスプレイ)80,視点Eが並ぶように配置した点にある。光ビーム走査装置60の走査基点Bは、光軸Z上に位置しており、照明用ホログラム記録媒体45は、その光変調面が光軸Zに垂直になるように配置されている。このように、主たる構成要素を光軸Z上に配置するようにしたため、装置全体の小型化を図ることができる。なお、空間光変調器80は、照明用ホログラム記録媒体45によって再生される散乱板の再生像の形成位置に配置されている。
【0161】
このように、図19に示す変形例は、図18に示す装置の各構成要素の配置を若干変更したものであり、個々の構成要素の機能に変わりはない。ただ、照明用ホログラム記録媒体45については、光ビーム走査装置60から照射される光ビームL60の入射角度が異なるため、記録されているホログラムも若干異なることになる。すなわち、走査基点Bと照明用ホログラム記録媒体45との位置関係に着目すると、図18に示す装置の場合、走査基点Bは媒体45の斜め方向に配置されているのに対して、図19に示す装置の場合、走査基点Bは媒体45の中心軸(光軸Z)上に配置されている。
【0162】
既に述べたように、図18に示す照明用ホログラム記録媒体45は、図5に示す記録プロセスにより、感光媒体40上に散乱板30の像をホログラムとして記録することにより得られたものであり、図5に示す参照光Lref の収束点Cが、図18に示す走査基点Bに対応することになる。これに対して、図19に示す照明用ホログラム記録媒体45は、図20に示す記録プロセスにより、感光媒体40上に散乱板30の像をホログラムとして記録することにより得られる。すなわち、感光媒体40上には、散乱板30からの光L30(物体光Lobj )と参照光Lref との干渉縞が記録される。ここで、図20に示す参照光Lref の収束点Cが、図19に示す走査基点Bに対応することになる。
【0163】
図18に示す装置も、図19に示す装置も、光ビームL60を走査する基本原理は同じである。すなわち、いずれの場合も、光ビーム走査装置60が、コヒーレント光源50から発せられた光ビームL50を所定の走査基点Bで屈曲させ、屈曲された光ビームL60を照明用ホログラム記録媒体45に照射し、かつ、光ビームの屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームL60の照明用ホログラム記録媒体45に対する照射位置を時間的に変化させる走査を行うことになる。しかも、いずれの場合も、照明用ホログラム記録媒体45には、特定の収束点Cに収束する参照光Lref (または特定の収束点Cから発散する参照光でもよい)を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されており、当該収束点Cを走査基点Bとして光ビームL60の走査が行われることになる。
【0164】
より具体的に言えば、いずれの場合も、照明用ホログラム記録媒体45には、収束点Cを頂点とした円錐の側面に沿って三次元的に収束する参照光(もしくは発散する参照光でもよい)を用いて散乱板30の像が記録されていることになる。このように、収束点Cを頂点とした円錐の側面に沿った参照光を用いて散乱板30の像を記録する理由は、図示の光ビーム走査装置60が、走査基点Bを頂点とした円錐の側面に沿った方向に光ビームL60を射出する機能を有しているためである。
【0165】
図19における一点鎖線の光路は、時刻t1における光の光路を示している。すなわち、光ビーム走査装置60により屈曲した光ビームL60(t1)は、照明用ホログラム記録媒体45の照射点P(t1)に照射され、ここからの回折光(散乱板30の像を再生するための再生光)が空間光変調器80に対して再生用照明光として与えられる。このとき、空間光変調器80には、制御装置200から所定の画像データが与えられており、当該画像データに応じたホログラムによる回折機能により、視点Eから見たときに再生像FFが観察されることになる。
【0166】
一方、図19における二点鎖線の光路は、時刻t2における光の光路を示している。すなわち、光ビーム走査装置60により屈曲した光ビームL60(t2)は、照明用ホログラム記録媒体45の照射点P(t2)に照射され、ここからの回折光(散乱板30の像を再生するための再生光)が空間光変調器80に対して再生用照明光として与えられる。このとき、空間光変調器80には、制御装置200から所定の画像データが与えられており、当該画像データに応じたホログラムによる回折機能により、視点Eから見たときに再生像FFが観察されることになる。
【0167】
なお、図5や図20には、照明用ホログラム記録媒体45の作成プロセスとして、感光媒体40に実際に光を照射し、そこに生じる干渉縞を感光媒体40の化学変化によって固定する、という光学的な方法をとる例を示したが、もちろん、この照明用ホログラム記録媒体45をCGHの手法で作成してもかまわない。
【0168】
図21は、照明用ホログラム記録媒体45を、CGHの手法で作成する原理を示す側面図であり、図20に示す光学的な現象を、コンピュータ上でシミュレートする方法を示すものである。ここで、図21に示す仮想の散乱板30′は、図20に示す実在の散乱板30に対応し、図21に示す仮想の記録面40′は、図20に示す実在の感光媒体40の受光面に対応する。図示の物体光Lobj は、仮想の散乱板30′から発せられる仮想の光であり、図示の参照光Lref は、この物体光Lobj と同一波長の仮想の光である。参照光Lref が、収束点Cに収束する光である点は、これまで述べた方法と全く同じである。記録面40′上の各点では、この仮想の物体光Lobj と参照光Lref との干渉縞の情報が演算される。
【0169】
なお、仮想の散乱板30′としては、たとえば、ポリゴンなどで表現された微細な三次元形状モデルを用いることも可能であるが、ここでは、平面上に多数の点光源Dを格子状に配列した単純なモデルを用いている。図22は、図21に示されている仮想の散乱板30′の正面図であり、小さな白丸は、それぞれ点光源Dを示している。図示のとおり、多数の点光源Dが、横方向ピッチPa,縦方向ピッチPbで格子状に配列されている。ピッチPa,Pbは、散乱板の表面粗さを定めるパラメータとなる。
【0170】
本願発明者は、点光源DのピッチPa,Pbをそれぞれ10μm程度の寸法に設定して記録面40′上に生じる干渉縞の情報を演算し、その結果に基づいて、実在の媒体表面に凹凸パターンを形成し、表面レリーフ型のCGHを作成した。そして、このCGHを照明用ホログラム記録媒体45として用いたところ、スペックルを抑制した良好な照明環境が得られた。
【0171】
<§6−2:レンズを付加した変形例>
これまで、図18や図19を参照して、本発明の実用的な実施形態に係る立体画像表示装置の構成例を説明した。これらの実施形態の特徴は、表示用ホログラム記録媒体75の代わりに、液晶ディスプレイなどの空間光変調器80を用い、この空間光変調器80を利用した光の変調により、ホログラム再生像を生成する点にある。
【0172】
しかしながら、図18や図19に示す構成をもった立体画像表示装置を量産型の工業製品として提供することを考えると、現在のところ、採算に合う価格で、十分な性能をもった空間光変調器80を調達することは困難である。たとえば、最も安価な量産型の空間光変調器80としては、液晶ディスプレイが挙げられるが、現在市販されている一般的な液晶ディスプレイの画素ピッチは32μm程度であり、ホログラムの干渉縞を表示させる上では、決して十分な解像度をもっているとは言えない。光学的な方法で感光媒体上にホログラムを記録した場合、光の波長のオーダーの解像度をもった精細な干渉縞パターンを記録することができる。ところが、画素ピッチが32μm程度の液晶ディスプレイでは、そのような精細な干渉縞パターンを表示することはできない。
【0173】
もちろん、特殊な用途に利用するための専用ディスプレイには、画素ピッチがより細かなものも存在するが、そのような特殊なディスプレイは量産されておらず、また、極めて高価であるため、量産型の立体画像表示装置に利用するには不適当である。したがって、図18や図19に示す実施形態に係る立体画像表示装置を商用レベルで量産するためには、一般用途の液晶ディスプレイなどを利用するしかない。
【0174】
いま、画素ピッチdをもった液晶ディスプレイに波長λの光を入射させ、ディスプレイに表示した干渉縞によって光を回折させる場合を考えてみよう。もちろん、表示される干渉縞の解像度は、画素ピッチdによって定まる。この場合、入射角θin と射出角θout との間には、「2d=mλ/(sin θout − sin θin)」なる式が成り立つ。ここで、mは回折光の次数である。結局、入射角θin と射出角θout との差、すなわち、光の回折角は、画素ピッチdが小さければ小さいほど、大きくなる。逆に言えば、画素ピッチdが大きいと、十分な回折角をとることができず、入射光を大きく回折させることはできないことになる。
【0175】
したがって、現実的には、画素ピッチが32μm程度の一般的な液晶ディスプレイを空間光変調器80として利用した場合、十分な回折角を確保することができない。たとえば、図19に示す例の場合、時刻t1において、照射点P(t1)から空間光変調器80の上端に向かう再生用照明光(上側の一点鎖線で示す光)を、視点Eへ向かうように回折させることは可能かもしれないが、照射点P(t1)から空間光変調器80の下端に向かう再生用照明光(下側の一点鎖線で示す光)を、視点Eへ向かうように回折させることは困難である。
【0176】
結局、画素ピッチが32μm程度の一般的な液晶ディスプレイを空間光変調器80として利用して、図18や図19に示すタイプの立体画像表示装置を構成する場合、十分な回折能力は期待できないため、視点Eから観察した場合、十分な視野角を得ることができない上、ディスプレイ全面を有効に利用できなくなる。視野角を拡大するためには、照明用ホログラム記録媒体45と空間光変調器80とを十分に離し(図19に示す例の場合、位置aと位置bとの距離d1を十分大きく設定し)、空間光変調器80に入射する再生用照明光が平行光束に近くなるようにすればよいが、実用上、距離d1を十分大きく設定することは困難である。一方、ディスプレイ全面を有効利用するためには、空間光変調器80から十分に離れた位置に視点Eを設定し(図19に示す例の場合、位置bと位置cとの距離d2を十分大きく設定し)、液晶ディスプレイの光軸Z近傍の部分からの回折光のみを利用して再生像FFが形成されるようにする、といった工夫が必要になるが、そのような工夫を施すと、視野角はより縮小してしまうことになる。
【0177】
このような問題を解決するには、立体画像の観察が行われると想定される視点Eの近傍に光を集光する機能をもった光学系を、照明用ホログラム記録媒体45と空間光変調器80との間に配置すればよい。このような光学系を挿入することにより、観察時に十分な視野角を確保することが可能になる。図23は、図19に示す立体画像表示装置において、光学系として1組の凸レンズ110を追加した例を示す側面図である。この凸レンズ110は、視点Eから照明用ホログラム記録媒体45の記録面に下ろした垂線を光軸Zとするレンズであり、照明用ホログラム記録媒体45と空間光変調器80との間に配置されている。
【0178】
照明用ホログラム記録媒体45と空間光変調器80との間に凸レンズ110を介挿すると、照明用ホログラム記録媒体45の1照射点から射出された再生用照明光が凸レンズ110によって集光され、視点Eの近傍に集光されることになる。図23に一点鎖線で描かれた光路は、時刻t1において、照射点P(t1)から射出された再生用照明光が、空間光変調器80による回折を受けずに進んだ場合の光路を示すものである。図示の例では、この一点鎖線で示す再生用照明光は、凸レンズ110によって集光され、視点Eの近傍の集光点E1に収束している。一方、図23に二点鎖線で描かれた光路は、時刻t2において、照射点P(t2)から射出された再生用照明光が、空間光変調器80による回折を受けずに進んだ場合の光路を示すものである。図示の例では、この二点鎖線で示す再生用照明光は、凸レンズ110によって集光され、視点Eの近傍の集光点E2に収束している。
【0179】
もちろん、実際には、再生用照明光は空間光変調器80による回折を受け、その一部は視点Eに置かれた眼球内の網膜まで進み、再生像FFを結像させることになる。図示する一点鎖線および二点鎖線の光路は、このような回折を受けない場合の光の進路を示すものであり、別言すれば、空間光変調器80による0次回折光(回折せずに直進した光)の進路を示すものである。したがって、集光点E1,E2は、時刻t1,t2における0次回折光の集光点ということになる。
【0180】
このように、凸レンズ110を介挿すれば、0次回折光の集光点E1,E2が、視点Eの近傍に形成されることになるので、再生像FFを得るために必要な光を視点Eの位置に回折させるために必要な回折角は比較的小さく抑えることができるようになる。したがって、空間光変調器80の回折能力が十分でなくても、視点Eの位置から十分な視野角をもって再生像FFを観察することができるようになる。
【0181】
なお、このような凸レンズ110の集光効果を高めるためには、凸レンズ110の焦点距離をfとしたときに、照明用ホログラム記録媒体45と凸レンズ110との距離(図23における位置aと位置bとの距離)を2fに設定し、凸レンズ110と視点Eとの距離(図23における位置bと位置cとの距離)を2fに設定するのが好ましい。このような配置を行えば、位置aにある照射点Pからの光(点光源からの光)を、位置cの集光点に集めることができるので、理想的な集光効果が得られるようになる。もちろん、凸レンズ110を上記以外の位置に配置しても視点E近傍への集光効果は得られるが、上記配置を採れば、最適な集光効果を得ることができる。
【0182】
<§6−3:2組のレンズを付加した変形例>
もちろん、複数組の凸レンズを用いて視点Eへの集光を行うことも可能である。図24は、2組のレンズを付加した変形例を示す側面図である。すなわち、この変形例では、視点Eから照明用ホログラム記録媒体45の記録面に下ろした垂線を光軸Zとする2組のレンズ120,130が、照明用ホログラム記録媒体45と空間光変調器80との間に配置されており、これら2組のレンズの間に再生像FFが観察される構成をとっている。
【0183】
しかも、図示の変形例では、照明用ホログラム記録媒体45に近い位置に配置された第1の凸レンズ120の焦点距離をf1とし、空間光変調器80に近い位置に配置された第2の凸レンズ130の焦点距離をf2としたときに、照明用ホログラム記録媒体45と第1の凸レンズ120との距離(図24における位置aと位置bとの距離)をf1に設定し、第2の凸レンズ130と視点Eとの距離(図24における位置cと位置dとの距離)をf2に設定している。
【0184】
もちろん、2組の凸レンズ120,130は、必ずしも上例のような位置に配置しなくても集光効果は得られるが、上例のような配置をとれば、位置aにある照射点Pからの光(点光源からの光)を、第1の凸レンズ120によって平行光束とすることができ、更に、この平行光束を第2の凸レンズ130によって位置dの集光点に集めることができるので、集光点の位置を自由に設定することができるようになる。
【0185】
たとえば、時刻t1では、図24に一点鎖線で示すように、照射点P(t1)から射出された再生用照明光L45(t1)は、第1の凸レンズ120によって平行光束L120(t1)に変換されて第2の凸レンズ130に入射する。第2の凸レンズ130は、この平行光束を位置d上の集光点E1に集光する。同様に、時刻t2では、図24に二点鎖線で示すように、照射点P(t2)から射出された再生用照明光L45(t2)は、第1の凸レンズ120によって平行光束L120(t2)に変換されて第2の凸レンズ130に入射する。第2の凸レンズ130は、この平行光束を位置d上の集光点E2に集光する。
【0186】
ここで、位置bと位置cとの間を伝わる光は常に平行光束となるので、距離d3の長さに制約はなく、距離d3をどのような値に設定しようとも、第2の凸レンズ130は、入射した平行光束を所定の集光点に集光する機能を果たすことができる。したがって、たとえば、視点Eの位置を図示の位置dから更に右方にδだけ移動させたい場合には、第2の凸レンズ130を右方にδだけ移動させ、2組のレンズの間隔をd3+δに設定すればよい。このように、上例のレンズ配置をとれば、集光点の位置を自由に設定することができ、視点Eの位置の自由度を高めることができる。
【0187】
なお、1組の凸レンズ110を付加することによる集光効果や、2組の凸レンズ120,130を付加することによる集光効果は、図18や図19に示すような空間光変調器80を用いる実施形態への適用に限定されるものではなく、図15に示すような表示用ホログラム記録媒体75を用いる実施形態に適用した場合にも有効な効果である。また、このような集光効果を得るための光学系は、凸レンズに限定されるものではなく、ホログラフィック光学素子(HOE)や回折光学素子(DOE)を用いてもよい。
【0188】
<<< §7. 0次回折光の排除 >>>
本発明の目的は、ホログラムとして記録された立体画像を、コヒーレント光を用いて再生し、これを表示する際に、スペックルの発生を効率的かつ十分に抑制することにある。そして、この目的は、散乱板の像が記録された照明用ホログラム記録媒体45に対してコヒーレント光からなる光ビームを走査する、という手法を導入することにより達成される。これは、光ビーム走査により、表示用ホログラム記録媒体75もしくは空間光変調器80に入射する再生用照明光の入射角度が時間的に変動し、スペックルの発生要因が時間的に分散するためである。
【0189】
しかしながら、視点Eから観察されるスペックルには、表示用ホログラム記録媒体75もしくは空間光変調器80の表面で発生するスペックルだけではなく、再生用照明光にもともと存在していたスペックル(光源側のスペックル)も含まれている。
【0190】
たとえば、図25に一点鎖線で示されている光路を考えてみよう。この図25は、図23に示す変形例(1組の凸レンズ110を介挿した実施例)における0次回折光の視点近傍への入射位置を示す図であり、ある時刻t0における光の経路を示している。すなわち、コヒーレント光源50で発生した光ビームL50は、時刻t0において、光ビーム走査装置60によって光ビームL60(t0)へと屈曲させられ、照明用ホログラム記録媒体45の中心(光軸Z上)に位置する照射点P(t0)に照射される。この照射点P(t0)から発せられた回折光L45(t0)は、図示のとおり、光軸Zを中心軸とする円錐状に広がり、凸レンズ110に入射する。そして、凸レンズ110によって集光され、空間光変調器80による回折を受けなかった場合には、図に一点鎖線で示すように集光点E0に収束する。この集光点E0は、光軸Z軸上の視点Eの位置に他ならない。
【0191】
結局、この図25に一点鎖線で示された光路の意味するところは、時刻t0において、光ビームL60(t0)が照射点P(t0)の位置を走査している状態では、0次回折光(すなわち、空間光変調器80による回折を受けずに直進した光)が視点Eの位置(集光点E0)に集光する、ということである。これは、観察者が、視点Eの位置に瞳を置いて観察していた場合、空間光変調器80からの0次回折光が瞳の内部に入射する、ことを意味し、観察者から見ると、0次回折光が見える状態になることを意味する。別言すれば、観察者は、光源を正面から覗き込むことになり、光源にもともと含まれていたスペックルが目に入ることになる。
【0192】
一方、図23に示すとおり、時刻t1において、光ビームL60(t1)が照射点P(t1)の位置を走査している状態では、0次回折光は集光点E1に集光し、時刻t2において、光ビームL60(t2)が照射点P(t2)の位置を走査している状態では、0次回折光は集光点E2に集光する。図示の例では、これらの集光点E1,E2は、視点Eから若干外れているため、観察者が、視点Eの位置に瞳を置いて観察していた場合、空間光変調器80からの0次回折光が瞳の内部に入射することはない。図25では、図が繁雑になるのを避けるため、照射点P(t1),P(t2)からの光路は図示を省略し、集光点E1,E2の位置のみを示してある。
【0193】
結局、図25において、光ビームL60が、照射点P(t1)やP(t2)に照射されている状態であれば、集光点E1,E2が視点Eから外れるため、観察者が光源を目にすることはなく、光源に含まれていたスペックルが目に入ることもない。ところが、照射点P(t0)に照射されている状態だと、集光点E0は視点Eの位置になるので、0次回折光が観察者の目に入り、光源に含まれていたスペックルが目に入ることになる。したがって、光源側のスペックルが観察者の目に入らないようにするには、空間光変調器80からの0次回折光が観察者の瞳の内部に入射するのを避けるようにすればよい。そのためには、0次回折光が観察者の瞳の内部に入射してしまうような照射点P(t0)を避けて光ビームの走査を行えばよいことになる。
【0194】
図26は、図25に示す照明用ホログラム記録媒体45に対する光ビームL60の照射点と0次回折光の視点近傍への入射位置との関係を示す図である。すなわち、図26(a) は、図25に示す照明用ホログラム記録媒体45の平面図であり、X印は各照射点の位置を示している。一方、図26(b) は、図25に示す位置cに紙面に垂直な受光面を定義したときに、この受光面の平面図を示しており、円EEは、この受光面上に置かれた仮想的な瞳の輪郭を示している。凸レンズ110による0次回折光の集光点が、この瞳の輪郭EEの内部に位置すると、0次回折光が瞳に入射して網膜まで達し、観察者の目に光源側のスペックルが見えることになる。
【0195】
図26(a) に示す各照射点P(t0),P(t1),P(t2),P(t11),P(t12),P(t13),P(t14)は、それぞれ図26(b) に示す各集光点E0,E1,E2,E11,E12,E13,E14に対応する。すなわち、光ビームL60が照明用ホログラム記録媒体45上の各照射点P(t0)〜P(t14)に照射されると、0次回折光はそれぞれ対応する集光点E0〜E14の位置に集光する。ここでは、各照射点の位置と各集光点の位置との間に、このような対応関係が得られるという前提で、照明用ホログラム記録媒体45上で照射点が円を描くように、光ビーム走査装置60によって光ビームL60を円錐面に沿って走査する場合を考えてみよう。
【0196】
たとえば、図26(a) に破線で示す円形の走査軌道Tに沿って光ビームL60を走査した場合、0次回折光は、図26(b) に示す瞳の輪郭EEに沿って移動することになる。したがって、0次回折光が瞳の内部に入射するのを避けるには、照明用ホログラム記録媒体45上で光ビームL60を走査する際に、図26(a) に破線で示す円形の走査軌道Tよりも内側の領域を走査禁止領域と定め、この走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにすればよい。
【0197】
ここで、「0次回折光が瞳の内部に入射するのを避ける」という点だけを考慮すると、照明用ホログラム記録媒体45上の光ビームL60の走査軌道は、できるだけ外側に設定すればよい。たとえば、図26(a) に示す例において、光ビームL60を破線で示す円形の走査軌道Tに沿って走査した場合、光ビームのスポットが所定の面積を有していることを考えると、0次回折光の一部が瞳の内部に入射してしまうおそれがある。そこで円形の走査軌道Tの直径をより大きく設定し、たとえば、照射点P(t1),P(t2)のような外側に位置する点を通るような円形の走査軌道を設定すれば、0次回折光が瞳の内部に入射することを完全に避けることができる。
【0198】
しかしながら、このように外側の走査軌道に沿って走査を行うと、再生像に悪影響が及ぶ可能性がある。その原因は、前述したとおり、液晶ディスプレイなどの空間光変調器80には、回折能力に限界があるため、十分な回折角度を確保することができないためである。以下、この点を詳細に説明する。
【0199】
図27は、図25に示す立体画像表示装置における0次回折光の集光位置および1次回折光の入射範囲を示す平面図である。この平面図は図25に示す位置cに紙面に垂直な受光面を定義したときに、この受光面の平面図を示しており、中心に描かれた点Zは光軸Zに相当する。また、実線の円EEは、この受光面上に置かれた仮想的な瞳の輪郭を示しており、破線の円G1は、0次回折光の集光点の軌跡を示している。
【0200】
前述したとおり、図26(a) に破線の円で示す走査軌道Tに沿って光ビームを走査すると、0次回折光の集光点E11〜E14は図26(b) に実線の円で示す瞳の輪郭EEに沿って移動する。したがって、図27に破線の円で示す軌跡G1は、図26(a) に示す円形の走査軌道Tよりも直径の大きな走査軌道に沿って、媒体45上をビーム走査した場合に得られる0次回折光の集光点の軌跡ということになる。この軌跡G1上の集光点E11〜E14は、瞳の輪郭EEよりも十分に離れているため、0次回折光が瞳の内部に入射することはない。
【0201】
しかしながら、ホログラム再生像を形成する役割を果たす1次回折光の入射位置を考慮すると、0次回折光の集光点の軌跡G1が瞳の輪郭EEから離れるほど、1次回折光は瞳の内部に入射しにくくなることがわかる。1次回折光は、0次回折光を所定の回折方向に所定の回折角度だけ曲げることによって得られる光であり、回折方向や回折角度は、空間光変調器80上のホログラム(干渉縞パターン)によって定まる。ただ、前述したとおり、回折角度の上限は、ホログラム(干渉縞パターン)の解像度に依存し、液晶ディスプレイなどを空間光変調器80として用いた場合、解像度の制限から十分な回折角度を確保することができない。
【0202】
図27に一点鎖線で示されている円は、1次回折光の回折可能領域を示しており、その直径は、空間光変調器80の解像度に基づいて定まる。たとえば、領域C11は、0次回折光の集光点E11を中心とする円になっているが、これは0次回折光が集光点E11に集光するような光ビーム走査が行われている時点において、空間光変調器80によって曲げられた1次回折光の到達可能範囲を示すものである。もちろん、実際の1次回折光の到達点は、空間光変調器80上に形成されたホログラム(干渉縞パターン)によって定まるが、空間光変調器80の解像度に限界があるため、領域C11の範囲外に1次回折光が到達することはない。別言すれば、この空間光変調器80は、集光点E11に向かって進む光を、領域C11の範囲外にまで回折する能力をもっていないことになる。
【0203】
図27に示す例の場合、1次回折光の回折可能領域C11は、瞳の輪郭EEの内部を完全に覆うことはできず、一部にカバーしきれない部分が生じている。これは、0次回折光が集光点E11に集光するような光ビーム走査が行われている時点において、瞳の内部に1次回折光が届かない領域が生じてしまうことを意味する。図示されている回折可能領域C12,C13,C14についても同様であり、いずれの場合も、瞳の内部に1次回折光が届かない領域が生じてしまう。これは網膜上に結像する再生像に欠けが生じることを意味する。もちろん、光ビームの走査により再生像の欠け部分も時間的に変動するので、時間的に平均すれば、欠けのない再生像を観察することができるが、再生像に部分的な輝度差が生じてしまうことは避けられない。
【0204】
このような再生像の欠けを防ぐという観点からは、照明用ホログラム記録媒体45上の光ビームL60の走査軌道は、できるだけ内側に設定すればよいことになる。たとえば、図28に示す例を見てみよう。この図28も、図27と同様に0次回折光の集光位置および1次回折光の入射範囲を示す平面図であり、実線の円EEは仮想的な瞳の輪郭を示しており、破線の円G2は、0次回折光の集光点の軌跡を示している。ここで、図28に示す軌跡G2は、図27に示す軌跡G1に比べて、径の小さな円になっている。このような軌跡G2を得るためには、照明用ホログラム記録媒体45上の光ビームL60の円形走査軌道の径をより小さくすればよい。
【0205】
図28に示す一点鎖線の円C11〜C14は、図27と同様に1次回折光の回折可能領域を示すものである。空間光変調器80の解像度に変わりはないので、当然ながら、図28に示す円C11〜C14の径は、図27に示す円C11〜C14の径に等しい。ただ、集光点E11〜E14の軌跡G2の径が小さくなったため、回折可能領域C11〜C14は、いずれも瞳の輪郭EEの内部を十分にカバーしている。これは、空間光変調器80の回折能力によって、瞳の内部の全領域に1次回折光を届けることができることを意味する。したがって、図28に示す例の場合、再生像に欠けが生じることはなく、再生像に部分的な輝度差が生じることはない。
【0206】
結局、照明用ホログラム記録媒体45上の光ビームL60の走査軌道は、「0次回折光が瞳の内部に入射するのを避ける」という観点では、できるだけ外側に設定すればよいが、「1次回折光を瞳の内部の任意の位置に届け、再生像の欠けを防ぐ」という観点では、できるだけ内側に設定すればよいことになる。したがって、実用上は、両者のバランスをとって、適切な走査軌道を設定すればよい。なお、回折光には、−1次、2次、−2次などの多次回折光も存在するが、これらの回折光は0次や1次回折光に比べて強度が小さいため、実用上は、これら多次回折光の挙動は無視しても問題はない。
【0207】
図29は、照明用ホログラム記録媒体45に対する光ビームL60の理想的な走査軌道T′を示す平面図である。上述したように、観察時に光源側のスペックル発生を避けるには、0次回折光が瞳の内部に入射するのを防ぐ必要があり、そのためには、立体画像の観察が行われると想定される視点Eの位置に仮想的な瞳を配置した場合に、「空間光変調器80(表示用ホログラム記録媒体75の場合も同様である)からの0次回折光が瞳の内部に入射する」という条件を満たす「照明用ホログラム記録媒45上の光ビームL60の照射範囲」を走査禁止領域と定め、光ビーム走査装置60が、この走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにすればよい。なお、瞳の大きさには個人差があり、また、周囲の照明環境によって瞳孔の開閉状態は変化するので、仮想的な瞳の径としては、一般人の平均的な瞳孔径(たとえば、直径4.5mm程度)を採用すれば十分である。
【0208】
図29に示す照射点P(t0)は光軸Z軸上の点であり、この照射点P(t0)を中心として破線で描かれた円形の走査軌道Tは、図26の走査軌道Tである。したがって、走査軌道Tの内部の領域が走査禁止領域ということになる。すなわち、この走査禁止領域内に光ビームL60を照射すると、瞳の内部に0次回折光が入射することになる。ただ、光ビームL60は幾何学的な線ではなく、幅をもったビームであるため、照明用ホログラム記録媒体45に照射した場合、照射点Pを中心として一定の面積をもったスポットAが形成される。そこで、図29に示す例では、このスポットAの半径に相当する距離だけ走査軌道Tから外側に位置する円形の走査軌道T′を設定し、この走査軌道T′に沿って照射点が移動するように光ビームL60の走査を行うようにしている。
【0209】
もちろん、走査軌道T′の更に外側を通るような軌道に沿ってビーム走査を行ってもよいし、走査軌道は必ずしも円形の軌道にする必要はないが、上述したように、「1次回折光を瞳の内部の任意の位置に届け、再生像の欠けを防ぐ」という観点では、走査軌道はできるだけ内側に設定するのが好ましい。したがって、実用上は、光ビーム走査装置60が、走査中に光ビームL60のスポットAが走査禁止領域(図29に示す円Tの内部)に入らないように、走査禁止領域の外側に円形の走査軌道T′を設定し、光ビームL60の中心軸がこの走査軌道T′に沿って周回運動するように走査を行うようにするのが好ましい。
【0210】
この走査軌道T′に沿ったビーム走査は、連続的な走査(軌道上をスポットAが一定速度で連続的に移動する走査)にしてもよいし、断続的な走査(軌道上でスポットAが移動と静止を繰り返す走査)にしてもよい。図29に示す例は、円形の走査軌道T′上に等間隔に12個の照射点P(t1)〜P(t12)を設定し、断続的な走査を行う例である。すなわち、光ビームL60は、時刻t1に照射点P(t1)に照射され、スポットA(t1)を形成した状態でしばらく静止し、時刻t2に照射点P(t2)に移動し、スポットA(t2)を形成した状態でしばらく静止し、... 、時刻t12に照射点P(t12)に移動し、スポットA(t12)を形成した状態でしばらく静止し、という動作を繰り返す。したがって、光ビームL60のスポットAが、時計の文字盤の1時〜12時の位置を順にジャンプしながら移動することになる。
【0211】
§5で述べたように、空間光変調器80を用いる実用的な実施形態の場合、この光ビームL60の走査に同期して、空間光変調器80に与える画像データが切り替えられる。たとえば、図23に示す立体画像表示装置において、図29に示す断続的な走査を行う場合であれば、画像データ格納部250内に12組の画像データPIC(t1)〜PIC(t12)を用意しておき、制御装置200によって、光ビーム走査装置60による走査と、空間光変調器80への画像データの提供とを同期させる制御を行うようにすればよい。
【0212】
図30は、このような同期制御を説明するための表である。期間欄の「t1〜」等の表示は、ビーム走査の各期間を示しており、たとえば、1行目の「t1〜」は、時刻t1から時刻t2の直前までの期間を示し、12行目の「t12〜」は、時刻t12から時刻t1の直前までの期間を示している。この表の1行目〜12行目に示す動作は、ビーム走査の1周期に相当し、実際には、このような周期動作が繰り返し実行されることになる。また、照射点欄の「P(t1)」等の表示は、図29に示す各照射点を示しており、スポット欄の「A(t1)」等の表示は、図29に示す各スポットを示している。一方、画像データ欄の「PIC(t1)」等の表示は、当該期間に空間光変調器80に提供される画像データを示している。これらの画像データは、前述したとおり、コンピュータによるシミュレーション演算によって、予め作成しておくことができる。
【0213】
図30に示す表に基づく装置の動作は次のとおりである。まず、時刻t1において、光ビームL60は、照射点P(t1)に照射され、スポットA(t1)を形成した状態で時刻t2の直前まで静止した状態になる。この期間に、空間光変調器80には画像データPIC(t1)が提供される。空間光変調器80として液晶ディスプレイを用いた場合、画面には画像データPIC(t1)に対応するホログラム(干渉縞パターン)が表示されることになる。当該ホログラムは、光ビームL60を照射点P(t1)の位置、すなわち、図29における時計の文字盤の1時の位置に照射した場合に、正しい再生像FFが得られるようなホログラムになっている。
【0214】
続いて、時刻t2になると、光ビームL60の照射位置は、照射点P(t2)に移動し、スポットA(t2)を形成した状態で時刻t3の直前まで静止した状態になる。この期間に、空間光変調器80には画像データPIC(t2)が提供される。この画像データPIC(t2)は、光ビームL60を照射点P(t2)の位置、すなわち、図29における時計の文字盤の2時の位置に照射した場合に、正しい再生像FFが得られるようなホログラムを形成するための画像データである。
【0215】
再生像FFの形状や位置が同じでも、光ビームL60の照射点が異なると、空間光変調器80に与えられる再生用照明光の入射角度が異なるため、正しい再生像FFを得るためのホログラムも若干異なることになる。図30に示す例では、12箇所に設定された個々の照射点ごとに、それぞれ異なる画像データ(ホログラム)が用意されており、照射点と画像データとを同期させる制御が行われるため、常に、正しい再生像FFが得られるようになり、再生像のボケを防止することができる。しかも、空間光変調器80に照射される再生用照明光の入射角度が時間的に変動するため、空間光変調器80の表面で発生するスペックルノイズを抑制することができる。また、図29に示す円Tの内部(走査禁止領域)を避けた光ビーム走査が行われるため、0次回折光が瞳の内部に入射することを防ぐことができ、光源側のスペックルノイズが観察されることを防ぐこともできる。
【0216】
図31は、上述したような制御動作を行うことにより、スペックルの低減効果が得られた実験結果を示す表である。一般に、観察対象となる画像上に生じたスペックルの程度を示すパラメータとして、スペックルコントラスト(単位%)という数値を用いる方法が提案されている。このスペックルコントラストは、本来は均一の輝度分布をとるべきテストパターン画像を表示した際に、実際に観察される画像上に生じる輝度のばらつきの標準偏差を、輝度の平均値で除した値として定義される量である。このスペックルコントラストの値が大きければ大きいほど、観察される画像上のスペックル発生程度が大きいことを意味し、観察者に対して、斑点状の輝度ムラ模様がより顕著に提示されていることになる。
【0217】
図31の表は、図23に示す立体画像表示装置もしくはこれに対比するための従来の立体画像表示装置を利用して、本来は均一の輝度分布をとるべきテストパターン画像が観察される環境下において、スペックルコントラストを測定した結果を示すものである。測定例1〜3は、いずれも、緑色のレーザ光を射出することが可能な同一のDPSSレーザ装置をコヒーレント光源50として用いた結果である。なお、測定例2,3で用いる照明用ホログラム記録媒体45の拡散角(ホログラム記録媒体上の点から散乱板の再生像35を望む最大角度)は、いずれの場合も20°に設定されている。
【0218】
まず、測定例1として示す測定結果は、図23に示す立体画像表示装置における光ビーム走査装置60および照明用ホログラム記録媒体45を省略し、コヒーレント光源50からの光ビームL50をビームエキスパンダーで広げて平行光束とし、この平行光束(レーザ平行光)を凸レンズ110で集光して空間光変調器80に照射する測定系を用いて得られた結果である。より具体的には、この測定例1は、空間光変調器80の位置にスクリーンを設置し、このスクリーン上に投影された無地テストパターンのスペックルコントラストの測定結果であり、空間光変調器80に入射する照明光のスペックルコントラストに相当する。この場合、表に示すとおり、スペックルコントラスト20.1%という結果が得られた。これは、視点Eから観察した場合に、斑点状の輝度ムラ模様がかなり顕著に観察できる状態であり、実用的な再生像の鑑賞には不適当なレベルである。
【0219】
一方、測定例2および3として示す測定結果は、いずれも図23に示す立体画像表示装置を利用して照明を行った結果である(測定例1と同様、空間光変調器80の位置に設置したスクリーン上のスペックルコントラストを示す)。ここで、測定例2は、照明用ホログラム記録媒体45として、光学的な方法で作成された体積型ホログラムを利用した結果であり、測定例3は、照明用ホログラム記録媒体45として、表面レリーフ型CGHを利用した結果である。いずれも4%に満たないスペックルコントラストが得られており、これは肉眼観察した場合に、輝度ムラ模様がほとんど観察できない極めて良好な状態である(一般に、スペックルコントラスト値が5%以下であれば、観察者に不快感が生じないとされている)。したがって、照明用ホログラム記録媒体45として、光学的な方法で作成された体積型ホログラムを利用した場合も、表面レリーフ型CGHを利用した場合も、実用的に十分な立体画像表示装置を構成することができる。測定例2の結果(3.0%)が、測定例3の結果(3.7%)よりも良好になった理由は、原画像となる実在の散乱板30の解像度が、仮想の散乱板30′(図22に示す点光源の集合体)の解像度よりも高いためと考えられる。
【0220】
最後の測定例4として示す測定結果は、緑色のLED光源からの光を凸レンズ110で集光して空間光変調器80に照射する測定系を用いて得られた結果である(この測定結果も、測定例1と同様、空間光変調器80の位置に設置したスクリーン上のスペックルコントラストを示す)。そもそもLED光源は、コヒーレント光源ではないので、スペックルの発生という問題を考慮する必要はなく、表に示すとおり、スペックルコントラスト4.0%という良好な結果が得られた。非コヒーレント光を用いた測定例4の結果が、コヒーレント光を用いた測定例2,3の結果に劣る理由は、LED光源が発する光自体に輝度ムラが生じていたためと考えられる。
【0221】
<<< §8. その他の変形例 >>>
ここでは、これまで説明してきた種々の実施形態および変形例について、更なる変形例をいくつか述べておく。
【0222】
<§8−1:ハーフミラーを追加した変形例>
図32は、図23に示す変形例にハーフミラー150を付加した変形例を示す側面図である。図32には、説明の便宜上、主要な光学的な構成要素のみが示されているが、実際には、図示の構成要素の他に、コヒーレント光源50,制御装置200,画像データ格納部250が設けられる。
【0223】
図示のとおり、この変形例では、視点Eの位置と空間光変調器80との間に、凸レンズ110の光軸Zに対して傾斜した反射面を有するハーフミラー150が配置されている。このようにハーフミラー150を配置すると、本来、視点Eの近傍に届くはずであった光の一部は、ハーフミラー150で反射し、別な視点E′の近傍に導かれる。図では、参考のため、照射点P(t1)から発せられた0次回折光の光路を一点鎖線で示し、照射点P(t2)から発せられた0次回折光の光路を二点鎖線で示してある。0次回折光の一部はハーフミラー150を透過して、視点E近傍の集光点E1,E2に収束するが、別な一部はハーフミラー150で反射して、別な視点E′近傍の集光点E1′,E2′に収束する。
【0224】
この変形例では、観察者は別な視点E′から観察を行うことができる。その場合、観察者には、再生像FFの代わりに、再生像FF′が観察されることになる。しかも、この再生像FF′は、照明用ホログラム記録媒体45の配置方向とは異なる方向に存在する背景Bkに重なった状態で観察される。したがって、所望の背景Bk上に立体画像の再生像FF′が形成される、という特殊効果を得ることができる。
【0225】
なお、このハーフミラー150を付加する変形例は、もちろん、空間光変調器80の代わりに表示用ホログラム記録媒体75を用いた実施形態に対しても適用可能である。
【0226】
<§8−2:カラー画像を表示する変形例>
これまで述べてきた実施形態は、いずれも単色のレーザ光源をコヒーレント光源50として用いた立体画像表示装置の例であり、観察者に表示される再生像FFは、このレーザの色に対応するモノクロ画像ということになる。しかしながら、一般的な立体画像表示装置では、カラー画像を表示できることが望ましい。そこで、ここでは、カラー画像を表示可能な立体画像表示装置の構成例を説明する。
【0227】
(1) 第1の構成例
カラー画像を表示するには、R(赤)、G(緑)、B(青)の三原色を定め、これら各原色の個別画像を合成して表示すればよい。ここに示す第1の構成例は、図23に示す再生用照明光生成部100におけるコヒーレント光源50として、R,G,Bの三原色の成分を時分割合成した合成光ビームを生成する光源を採用し、三原色の成分を含む再生用照明光を空間光変調器80に照射する方法を採る。
【0228】
図33は、そのようなコヒーレント光源50の一例を示す構成図である。この装置は、赤,緑,青の三原色を合成して白色の光ビームを生成する機能を有する。すなわち、赤色レーザ光源50Rが発生する赤色レーザビームL(R)と、緑色レーザ光源50Gが発生する緑色レーザビームL(G)とを、ダイクロイックプリズム15で合成し、更に、青色レーザ光源50Bが発生する青色レーザビームL(B)をダイクロイックプリズム16で合成することにより、白色の合成光ビームL(R,G,B)を生成することができる。もっとも、後述するように、各レーザ光源50R,50G,50Bは時分割動作を行うため、ある1時点を捉えると、合成光ビームL(R,G,B)は白色ではなく、赤,緑,青のいずれか1色の光ビームになる。
【0229】
一方、図23に示す光ビーム走査装置60は、こうして生成された合成光ビームL(R,G,B)を屈曲させてホログラム記録媒体45上で走査すればよい。ホログラム記録媒体45には、予め、上記3台のレーザ光源50R,50G,50Bが発生するレーザビームL(R),L(G),L(B)と同一波長(もしくは近似波長)の光をそれぞれ用いて、散乱板30の像35を3通りのホログラムとして記録しておくようにする。そうすれば、ホログラム記録媒体45からは、R,G,Bの各色成分についてそれぞれ回折光が得られ、R,G,Bの各色成分についての再生像35が同じ位置に生成されることになり、白色の再生像が得られる。
【0230】
なお、R,G,Bの3色の光を用いて散乱板30の像が記録されたホログラム記録媒体を作成するには、たとえば、R色の光に感光する色素、G色の光に感光する色素、B色の光に感光する色素が一様に分布したホログラム感光媒体と、上記合成光ビームL(R,G,B)とを用いてホログラムを記録するプロセスを行えばよい。また、R色の光に感光する第1の感光層、G色の光に感光する第2の感光層、B色の光に感光する第3の感光層を積層した3層構造からなるホログラム感光媒体を用いてもよい。あるいは、上記3つの感光層をそれぞれ別々の媒体として用意しておき、それぞれ対応する色の光を用いてホログラムの記録を別個に行い、最後に、この3層を貼り合わせて、3層構造をもつホログラム記録媒体を構成してもよい。
【0231】
結局、図23に示す空間光変調器80には、R,G,Bの各色成分を含んだ照明光が時分割されて供給されることになる。そこで、画像データ格納部250内には、R,G,Bの色成分ごとの画像データを用意しておき、制御装置200が、これらの画像データを時分割して空間光変調器80に供給する制御動作を行うようにする。また、制御装置200は、光ビーム走査装置60に対する走査制御を行うとともに、各レーザ光源50R,50G,50Bが時分割動作を行うような同期制御を行うようにする。
【0232】
図34は、このような同期制御を説明するための表である。図30に示す表と同様に、期間欄の「t1〜」等の表示は、ビーム走査の各期間を示しており、たとえば、「t1〜」は、時刻t1から時刻t2の直前までの期間を示している。ただ、当該期間は、更に、「t1R〜」,「t1G〜」,「t1B〜」という小期間に3等分されている。ここで、小期間「t1R〜」は、時刻t1R(=時刻t1)から時刻t1Gの直前までの期間であり、小期間「t1G〜」は、時刻t1Gから時刻t1Bの直前までの期間であり、小期間「t1B〜」は、時刻t1Bから時刻t2R(=時刻t2)の直前までの期間である。
【0233】
また、図30に示す表と同様に、照射点欄の「P(t1)」等の表示は、図29に示す各照射点を示しており、スポット欄の「A(t1)」等の表示は、図29に示す各スポットを示している。図34の表には、新たに、レーザ光源欄が付加されており、各レーザ光源50R,50G,50Bの時分割動作が示されている。このレーザ光源欄に「ON」と記載されている期間は、当該レーザ光源がONになって動作している期間を示す。レーザ光源欄が空欄となっている期間は、当該レーザ光源がOFF状態となっていることを示しており、当該期間中、レーザ光は照射されない。
【0234】
一方、画像データ欄の「PIC(t1R)」,「PIC(t1G)」,「PIC(t1B)」等の表示は、各期間に空間光変調器80に提供される画像データを示している。ここで、末尾にRが記されている画像データはカラー立体画像の赤色成分を再生するホログラムを形成するための画像データであり、末尾にGが記されている画像データはカラー立体画像の緑色成分を再生するホログラムを形成するための画像データであり、末尾にBが記されている画像データはカラー立体画像の青色成分を再生するホログラムを形成するための画像データである。これらの画像データも、コンピュータによるシミュレーション演算によって、予め作成しておくことができる。
【0235】
図34に示す表に基づく装置の動作は次のとおりである。まず、期間「t1〜」の間、光ビームL60は、照射点P(t1)に照射され、スポットA(t1)を形成する。ただ、この期間「t1〜」は、「t1R〜」,「t1G〜」,「t1B〜」という小期間に分けられており、小期間「t1R〜」の間、レーザ光源50RのみがONになる。したがって、空間光変調器80には、赤色の再生用照明光のみが照射される。このとき、空間光変調器80には、画像データPIC(t1R)が与えられており、カラー立体画像の赤色成分が再生されることになる。続く小期間「t1G〜」の間は、レーザ光源50GのみがONになり、空間光変調器80には、緑色の再生用照明光のみが照射される。このとき、空間光変調器80には、画像データPIC(t1G)が与えられており、カラー立体画像の緑色成分が再生されることになる。更に、小期間「t1B〜」の間は、レーザ光源50BのみがONになり、空間光変調器80には、青色の再生用照明光のみが照射される。このとき、空間光変調器80には、画像データPIC(t1B)が与えられており、カラー立体画像の青色成分が再生されることになる。
【0236】
このように、光ビームL60が照射点P(t1)に留まる期間「t1〜」を3つの小期間に分割し、各小期間において各色成分の再生像を順番に再生するという時分割方式を採ることにより、観察者にカラー立体画像を提示することが可能になる。
【0237】
結局、この第1の構成例では、コヒーレント光源50を、それぞれ三原色の各波長をもった単色光のレーザビームを発生する3台のレーザ光源50R,50G,50Bと、これら3台のレーザ光源が発生したレーザビームを合成して合成光ビームを生成する光合成器15,16と、によって構成し、光ビーム走査装置60が、この光合成器が生成した合成光ビームを照明用ホログラム記録媒体45上で走査するような構成を採っていることになる。しかも、照明用ホログラム記録媒体45には、3台のレーザ光源が発生する各レーザビームによってそれぞれ再生像が得られるように、散乱板30の像が3通りのホログラムとして記録されている。
【0238】
また、画像データ格納部250には、複数N通り(上例は、N=12の例)の各照射点に対応して、三原色のそれぞれについて、合計(3×N)通りの単色画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の照射点に対応した第j番目(1≦j≦3)の単色画像データは、第i番目の照射点からの第j番目の単色光の再生用照明光が空間光変調器80に与えられた場合に、表示対象となる立体画像の第j番目の原色についてのホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データとなっている。
【0239】
そして、制御装置200は、複数N通りの照射点に光ビームL60が順に照射されるように、光ビーム走査装置60に対して走査制御信号を与えるとともに、複数N通りの照射点に対応した各単色画像データを空間光変調器80に与え、かつ、光ビーム走査装置60が第i番目の照射点に光ビームL60を照射させる走査を行っているときに、第i番目の各単色画像データが順番に空間光変調器80に与えられるようにし、しかも、空間光変調器80に第j番目の単色画像データが与えられているときに、第j番目の単色光を発生するレーザ光源のみが選択的に動作するよう、各レーザ光源に対して動作制御信号を与える同期制御を行うことになる。
【0240】
(2) 第2の構成例
カラー画像を表示するための第2の構成例は、これまで述べてきた単色用の立体画像表示装置を3組用意し、それぞれ各原色の再生像を形成し、これらを合成して観察者に提示するものである。
【0241】
図35は、この第2の構成例を示す配置図である。図示のとおり、この装置は、赤色ユニット500R,緑色ユニット500G,青色ユニット500Bという3組の立体画像表示装置と、これら3組の立体画像表示装置によって形成された再生像を合成する合成光学系550と、を備えている。ここで、第j番目(1≦j≦3)の立体画像表示装置は、三原色のうちの第j番目の原色の波長をもった単色光のレーザビームを発生させるコヒーレント光源を用いることにより、第j番目の原色の立体画像の再生像を形成する機能を有している。一方、合成光学系550は、たとえば、クロスダイクロイックプリズムなどの光学系によって構成され、三原色の各再生像を合成することによりカラー立体画像の再生像を形成する機能を有している。
【0242】
観察者は、視点Eの位置において、合成光学系550によって合成されたカラー立体画像の再生像を観察することができる。
【0243】
<§8−3:光ビーム走査装置の変形例>
これまで述べた実施形態では、再生用照明光生成部100内の光ビーム走査装置60が、光ビームを所定の走査基点Bで屈曲させ、この屈曲態様(屈曲の方向と屈曲角度の大きさ)を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームを走査する方式をとっていたが、光ビーム走査装置60の走査方法は、光ビームを走査基点Bで屈曲させる方法に限定されるものではない。
【0244】
たとえば、光ビームを平行移動させるような走査方法を採ることも可能である。ただ、その場合は、照明用ホログラム記録媒体45に対する散乱板30の記録方法も変更する必要がある。すなわち、感光媒体40に対して、平行光束からなる参照光Lref を照射し、散乱板30からの物体光Lobj との干渉縞の情報を記録するようにする。図36は、そのような方法で作成された照明用ホログラム記録媒体46を用いた再生用照明光生成部100Aの側面図である。図示のとおり、この再生用照明光生成部100Aは、照明用ホログラム記録媒体46、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置65によって構成されている。
【0245】
ここで、照明用ホログラム記録媒体46には、上述したとおり、平行光束からなる参照光Lref を利用して、散乱板30の像35がホログラムとして記録されている。また、コヒーレント光源50は、照明用ホログラム記録媒体46を作成する際に用いた光(物体光Lobj および参照光Lref )の波長と同一波長(もしくは、ホログラムの再生が可能な近似波長)をもつコヒーレントな光ビームL50を発生させる光源である。
【0246】
一方、光ビーム走査装置65は、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50を照明用ホログラム記録媒体46に照射する機能を有するが、このとき、ホログラムの記録プロセスで用いた参照光Lref に平行になる方向から光ビームL65が照明用ホログラム記録媒体46に照射されるように走査を行う。より具体的には、光ビームL65を平行移動させながら照明用ホログラム記録媒体46に照射することにより、光ビームL65の照明用ホログラム記録媒体46に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。
【0247】
このような走査を行う光ビーム走査装置65は、たとえば、可動反射鏡66と、この可動反射鏡66を駆動する駆動機構とによって構成することができる。すなわち、図36に示すように、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50を受光可能な位置に可動反射鏡66を配置し、この可動反射鏡66を光ビームL50の光軸に沿って摺動させる駆動機構を設けておけばよい。なお、実用上は、MEMSを利用したマイクロミラーデバイスにより、上記機能と同等の機能をもった光ビーム走査装置65を構成することができる。あるいは、図13に示す光ビーム走査装置60によって走査基点Bの位置で屈曲された光ビームL60を、走査基点Bに焦点をもつ凸レンズに通すことによっても、平行に移動する光ビームを生成することができる。
【0248】
図36に示す例の場合、可動反射鏡66で反射した光ビームL65の照射を受けた照明用ホログラム記録媒体46は、記録された干渉縞に基づく回折光を発生し、この回折光によって、散乱板30の再生像35が生成される。再生用照明光生成部100Aは、こうして得られる再生像35の再生光を再生用照明光として利用した照明を行うことになる。
【0249】
図36では、説明の便宜上、時刻t1における光ビームの位置を一点鎖線で示し、時刻t2における光ビームの位置を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は、可動反射鏡66(t1)の位置で反射し、光ビームL65(t1)として照明用ホログラム記録媒体46の照射点P(t1)に照射されるが、時刻t2では、光ビームL50は、可動反射鏡66(t2)の位置で反射し(図示の可動反射鏡66(t2)は、可動反射鏡66(t1)が移動したものである)、光ビームL65(t2)として照明用ホログラム記録媒体46の照射点P(t2)に照射される。
【0250】
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における走査態様しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL65は図の左右に平行移動し、光ビームL65の照明用ホログラム記録媒体46に対する照射位置は、図の照射点P(t1)〜P(t2)へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL65の照射位置は、照明用ホログラム記録媒体46上において照射点P(t1)〜P(t2)へと走査されることになる。ここでは、光ビームL65を一次元方向(図の左右方向)に平行移動する例を述べたが、もちろん、光ビーム65を図の紙面に垂直な方向にも平行移動させる機構(たとえば、XYステージ上に反射鏡を配置した機構)を設けておけば、二次元方向に平行移動させることが可能になる。
【0251】
ここで、光ビームL65は、ホログラムの記録プロセスで用いた参照光Lref に常に平行になるように走査されるので、光ビームL65は、照明用ホログラム記録媒体46の各照射位置において、そこに記録されているホログラムを再生するための正しい再生用照明光Lrep として機能する。
【0252】
たとえば、時刻t1では、照射点P(t1)からの回折光L46(t1)によって、散乱板30の再生像35が生成され、時刻t2では、照射点P(t2)からの回折光L46(t2)によって、散乱板30の再生像35が生成される。もちろん、時刻t1〜t2の期間においても、光ビームL65が照射された個々の位置からの回折光によって、同様に散乱板30の再生像35が生成される。すなわち、光ビームL65が平行移動走査を受ける限り、照明用ホログラム記録媒体46上のどの位置に光ビームL65が照射されたとしても、照射位置からの回折光によって、同一の再生像35が同一位置に生成されることになる。
【0253】
結局、この図36に示す再生用照明光生成部100Aでは、光ビーム走査装置65が、光ビームL65を平行移動させながら照明用ホログラム記録媒体46に照射することにより、光ビームL65の照明用ホログラム記録媒体46に対する照射位置を時間的に変化させる機能を果たす。しかも、照明用ホログラム記録媒体46には、平行光束からなる参照光を用いて散乱板30の像がホログラムとして記録されており、光ビーム走査装置65が、この参照光に平行になる方向から光ビームL65を照明用ホログラム記録媒体46に照射して、光ビームの走査を行うことになる。その結果、常に同一の再生像35を同一位置に生成することができ、図13に示す再生用照明光生成部100と同様に、再生像35によって表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80を照明することができる。もちろん、図29に示す例のように、円形の走査軌道に沿って平行な光ビーム走査を行うことも可能である。この場合は、たとえば、円錐状に走査した光ビームを凸レンズ等で屈曲する光学系を利用したり、図36に示す光ビーム走査装置65における可動反射鏡66を二次元的に駆動する機構を用意したりすればよい。
【0254】
要するに、本発明では、照明用ホログラム記録媒体に、所定光路に沿って照射される参照光を用いて散乱板の像をホログラムとして記録しておき、光ビーム走査装置によって、このホログラム記録媒体に対する光ビームの照射方向が参照光の光路に沿った方向(光学的に共役な方向)になるように、光ビームの走査を行うようにすればよい。なお、光ビーム走査装置としては、この他にも、走査型ミラーデバイス、全反射プリズム、屈折プリズム、電気光学結晶などを利用することが可能である。
【0255】
<§8−4:マイクロレンズアレイを用いた変形例>
これまで述べた実施形態は、散乱板30のホログラム像が記録された照明用ホログラム記録媒体45,46を用意し、この照明用ホログラム記録媒体45,46に対して、コヒーレント光を走査し、得られる回折光を再生用照明光として利用するものであった。ここでは、この照明用ホログラム記録媒体の代わりに、マイクロレンズアレイを利用した変形例を述べる。
【0256】
図37は、このマイクロレンズアレイを利用した再生用照明光生成部の変形例の側面図である。この変形例に係る再生用照明光生成部100Bは、マイクロレンズアレイ48、コヒーレント光源50、光ビーム走査装置60によって構成されている。コヒーレント光源50は、これまで述べてきた実施形態と同様に、コヒーレントな光ビームL50を発生させる光源であり、具体的には、レーザ光源を用いることができる。
【0257】
また、光ビーム走査装置60は、これまで述べてきた実施形態と同様に、コヒーレント光源50が発生した光ビームL50の走査を行う装置である。より具体的には、光ビームを走査基点Bで屈曲させてマイクロレンズアレイ48に照射する機能を有し、しかも、光ビームL50の屈曲態様を時間的に変化させることにより、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置が時間的に変化するように走査する。
【0258】
一方、マイクロレンズアレイ48は、多数の個別レンズの集合体からなる光学素子である。このマイクロレンズアレイ48を構成する個別レンズは、それぞれが、走査基点Bから入射した光を屈折させ、所定位置に配置された照明対象物90の受光面(ここでは基準面Rと呼ぶ)上に所定の照射領域Iを形成する機能を有している。しかも、いずれの個別レンズによって形成される照射領域Iも、基準面R上において同一の共通領域となるように構成されている。このような機能をもったマイクロレンズアレイとしては、たとえば、「フライアイレンズ」と呼ばれるものが市販されている。
【0259】
図38は、図37に示す再生用照明光生成部100Bの動作原理を示す側面図である。ここでも、説明の便宜上、光ビームL60の時刻t1における屈曲態様を一点鎖線で示し、時刻t2における屈曲態様を二点鎖線で示している。すなわち、時刻t1では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t1)としてマイクロレンズアレイ48の下方に位置する個別レンズ48−1に入射する。この個別レンズ48−1は、走査基点Bから入射した光ビームについては、これを広げて、照明対象物90の基準面R上の二次元照射領域Iに照射する機能を有する。したがって、照明対象物90の基準面Rには、図示のように照射領域Iが形成される。
【0260】
また、時刻t2では、光ビームL50は走査基点Bで屈曲し、光ビームL60(t2)としてマイクロレンズアレイ48の上方に位置する個別レンズ48−2に入射する。この個別レンズ48−2は、走査基点Bから入射した光ビームについては、これを広げて、照明対象物90の基準面R上の二次元照射領域Iに照射する機能を有する。したがって、時刻t2においても、照明対象物90の基準面Rには、図示のように照射領域Iが形成される。
【0261】
図には、便宜上、時刻t1,t2の2つの時点における動作状態しか示されていないが、実際には、時刻t1〜t2の期間において、光ビームの屈曲方向は滑らかに変化し、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置は、図の下方から上方へと徐々に移動してゆくことになる。すなわち、時刻t1〜t2の期間において、光ビームL60の照射位置は、マイクロレンズアレイ48上で上下に走査されることになる。もちろん、マイクロレンズアレイ48として、多数の個別レンズが二次元的に配置されたものを用いた場合は、光ビーム走査装置60によって、この二次元配列上で光ビームが走査されるようにすればよい。
【0262】
上述したマイクロレンズアレイ48の性質から、光ビームL60がどの個別レンズに入射したとしても、基準面R上に形成される二次元照射領域Iは共通になる。すなわち、光ビームの走査状態にかかわらず、基準面Rには、常に同一の照射領域Iが形成されることになる。したがって、照明対象物90として、表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80(液晶ディスプレイ)を配置し、その光変調面(ホログラム記録面)が上記基準面Rの照射領域I内に位置するようにすれば、光変調面には常に再生用照明光が照射された状態になり、ホログラムとして記録されていた立体画像を再生することができる。すなわち、照明対象物90として配置された表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80は、マイクロレンズアレイ48から得られる屈折光を再生用照明光として、立体画像の再生像を形成することができる。
【0263】
なお、実用上は、個別レンズによって生じる照射領域Iが完全に同一でなく、多少ずれていたとしても、少なくとも光変調面の領域内に対して、常に再生用照明光が照射された状態になっていれば、立体画像を再生する上で問題は生じない。また、図の照明対象物90の位置に表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80を配置する代わりに、照射領域I内に照射される再生用照明光を凸レンズなどの光学系で集光した後に、この光学系を通った再生用照明光を表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80に照射するようにしてもよい。
【0264】
結局、ここに示す再生用照明光生成部100Bの場合、光ビーム走査装置60は、光ビームL60をマイクロレンズアレイ48に照射し、かつ、光ビームL60のマイクロレンズアレイ48に対する照射位置が時間的に変化するように走査する機能をもっている。一方、マイクロレンズアレイ48を構成する個別レンズは、それぞれが、光ビーム走査装置60から照射された光を屈折させ、照明対象物90の基準面R上に所定の照射領域Iを形成する機能を有しており、この照射領域I内に照射される再生用照明光を用いて、表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80上のホログラムを再生することにより、再生像が得られることになる。したがって、マイクロレンズアレイ48を構成する各個別レンズからの屈折光L48によって形成される各照射領域Iは、表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80上のホログラムを再生するのに必要な再生用照明光が得られる位置およびサイズに設定されていればよい。もちろん、ホログラム再生に必要な再生用照明光が得られるのであれば、各個別レンズによって形成される各照射領域Iは、完全に同一の共通領域である必要はなく、相互に多少のずれが生じていてもかまわないが、ずれが大きければ大きいほど、照明エネルギーが無駄に使われることになるので好ましくない。したがって、実用上は、いずれの個別レンズによって形成される照射領域Iも、基準面R上においてほぼ同一の共通領域(表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80に対する効率的な照明が可能になる程度に互いに重複した領域)となるように構成するのが好ましい。
【0265】
この再生用照明光生成部100Bを用いた場合も、これまで述べてきた実施形態と同様に、再生用照明光の入射角度は、時間的に多重化されることになり、スペックルの発生が抑制される。
【0266】
<§8−5:光拡散素子を用いた変形例>
これまで、散乱板30のホログラム像が記録された照明用ホログラム記録媒体45,46を用いて再生用照明光生成部100,100Aを構成した例を説明し、更に、上記<§8−4>では、照明用ホログラム記録媒体45,46の代わりにマイクロレンズアレイ48を用いて再生用照明光生成部100Bを構成した例を説明した。これらの再生用照明光生成部において、照明用ホログラム記録媒体やマイクロレンズアレイは、結局のところ、入射した光ビームを拡散して所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有する光拡散素子の役割を果たしていることになる。しかも、当該光拡散素子は、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上において同一の共通領域となる、という特徴を有している。
【0267】
したがって、本発明に係る立体画像表示装置に用いられる再生用照明光生成部を構成するには、必ずしも上述した照明用ホログラム記録媒体やマイクロレンズアレイを用いる必要はなく、一般的に、上記特徴を有する光拡散素子を用いて構成することができる。
【0268】
要するに、本発明に係る立体画像表示装置に用いられる再生用照明光生成部は、本質的には、コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、この光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、を用いることによって構成することができる。
【0269】
ここで、光ビーム走査装置は、コヒーレント光源が発生した光ビームを、光拡散素子に向けて射出し、かつ、当該光ビームの光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査する機能を有していればよい。また、光拡散素子は、入射した光ビームを拡散して所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上においてほぼ同一の共通領域(表示用ホログラム記録媒体75や空間光変調器80に対する効率的な照明が可能になる程度に互いに重複した領域)となるように構成されていればよい。このような光拡散素子から得られる拡散光は、再生用照明光として、表示用ホログラム記録媒体や空間光変調器に与えられ、立体画像の再生像が形成されることになる。
【0270】
もちろん、空間光変調器80を用いて再生像を形成する場合は、これまで述べた実施形態と同様に、画像データ格納部250に、複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データを格納しておき、光ビーム走査装置60による複数N通りの照射点を走査する動作に同期させて、対応する画像データを空間光変調器80に提供する制御を行うことになる。
【0271】
<<< §9. 本発明に係る立体画像表示方法 >>>
最後に、本発明を、ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法として捉え、その概要を簡単に述べておく。
【0272】
まず、再生用照明光を生成する手段として、照明用ホログラム記録媒体を用いる実施形態の場合、本発明に係る立体画像表示方法は、散乱板の像をホログラムとして記録用媒体上に記録することにより照明用ホログラム記録媒体を作成する照明用ホログラム準備段階と、この照明用ホログラム記録媒体から得られる散乱板の像の再生光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体もしくはこれと同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、散乱板の再生像を得るのに適したコヒーレントな光ビームを、照明用ホログラム記録媒体上に、散乱板の再生像を得るのに適した方向から照射し、かつ、照射位置が時間的に変化するように光ビームを照明用ホログラム記録媒体上で走査するホログラム再生段階と、によって構成される。
【0273】
また、再生用照明光を生成する手段として、マイクロレンズアレイを用いる実施形態の場合、本発明に係る立体画像表示方法は、それぞれ特定方向から照射された光ビームを屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有する多数の個別レンズの集合体からなり、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されているマイクロレンズアレイを用意するマイクロレンズアレイ準備段階と、このマイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体もしくはこれと同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、マイクロレンズアレイに特定方向から照射し、かつ、光ビームのマイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、によって構成される。
【0274】
更に、再生用照明光を生成する手段として、光拡散素子を用いる実施形態の場合、本発明に係る立体画像表示方法は、特定方向から入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されている光拡散素子を用意する光拡散素子準備段階と、この光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体もしくはこれと同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、光拡散素子に照射し、かつ、光ビームの光拡散素子に対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、によって構成される。
【0275】
そして、上述した立体画像表示方法における表示用ホログラム準備段階で、複数N通りのホログラムの画像データと、再生用照明光を与えることにより画像データに応じたホログラム再生像を形成する空間光変調器を用意した場合は、ホログラム再生段階では、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行い、第i番目(1≦i≦N)の照射点に光ビームが照射されているときに、空間光変調器が第i番目の画像データに応じたホログラム再生像を形成するようにし、第i番目の画像データとして、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データを用いるようにすればよい。
【0276】
また、0次回折光が瞳の内部に入射することにより光源側のスペックルが観察されるのを避けるためには、立体画像の観察が行われると想定される視点の位置に仮想的な瞳を配置し、「表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器からの0次回折光がこの瞳の内部に入射する」という条件を満たす光ビームの照射範囲を走査禁止領域と定め、ホログラム再生段階で、当該走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うようにすればよい。
【0277】
更に、立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光する機能をもった光学系により集光した再生用照明光を表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器に与えるようにすれば、立体画像の再生に寄与する回折光を視点位置に集光しやすくなり、観察時に十分な視野角を確保することができるようになる。
【符号の説明】
【0278】
10:コヒーレント光源
11:反射鏡
12:ビームエキスパンダー
15,16:ダイクロイックプリズム
20:ビームスプリッタ
21:反射鏡
22:ビームエキスパンダー
23:凸レンズ
30:散乱板
30′:仮想の散乱板
35:散乱板のホログラム再生像
40:感光媒体
40′:記録面
45:照明用ホログラム記録媒体
46:照明用ホログラム記録媒体
48:マイクロレンズアレイ
48−1,48−2:マイクロレンズアレイを構成する個別レンズ
50,50R,50G,50B:コヒーレント光源
60:光ビーム走査装置
65:光ビーム走査装置
66:可動反射鏡
70:感光媒体
75:表示用ホログラム記録媒体
80:空間光変調器(液晶ディスプレイ)
90:照明対象物
100,100A,100B:再生用照明光生成部
110,120,130:凸レンズ
150:ハーフミラー
200:制御装置
250:画像データ格納部
500R:赤色ユニット
500G:緑色ユニット
500B:青色ユニット
550:合成光学系(ダイクロイックプリズム)
A,A1,A2:光ビームの断面(スポット)
a:各構成要素の配置位置
B:走査基点
Bk:背景
b:各構成要素の配置位置
C:レンズの焦点/収束点
C11〜C14:1次回折光の回折可能領域
c:各構成要素の配置位置
D:点光源
d:各構成要素の配置位置
d1〜d3:距離
E,E′:視点
E0〜E14:0次回折光の集光点
E1′,E2′:0次回折光の集光点
EE:仮想的な瞳の輪郭
F:原画像/物体
FF,FF′:再生像
f,f1,f2:凸レンズの焦点距離
G1,G2:0次回折光の集光点の軌跡
H:ホログラム記録媒体
I:照射領域
K:物体点/代表点
L10,L11:光ビーム
L12:平行光束
L20,L21:光ビーム
L22:平行光束
L23:照射光
L30:散乱光
L31〜L33:物体光
L45:回折光
L46:回折光
L48:屈折光
L50:光ビーム
L60:光ビーム
L61,L62:光ビーム
L65:光ビーム
L71,L72:回折光
L110:0次回折光
L120:平行光束
L130:0次回折光
L(R):赤色レーザビーム
L(R,G):赤緑色合成光ビーム
L(R,G,B):三原色合成光ビーム
Ldif :回折光
Lobj :物体光
Lref :参照光
Lrep :再生用照明光
Ls:光ビーム
M:感光媒体
P,P1,P2:媒体上の点/光ビームの照射点
Pa,Pb:点光源Dのピッチ
PIC:画像データ
Q:着目点
Q1〜Q3:物体点
R:基準面
S:コヒーレント光源
S1,S2:参照光の断面
T,T′:円形の走査軌道
t0〜t14:時刻
V:回動軸(図の紙面に垂直な軸)
W:回動軸
X:ビームエキスパンダー
Z:光軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
照明用の像が記録された照明用ホログラム記録媒体と、
前記光ビームを前記照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、前記光ビームの前記照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を備え、
前記照明用ホログラム記録媒体には、前記照明用の像がホログラムとして記録されており、
前記コヒーレント光源は、前記照明用の像および前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記光ビーム走査装置は、前記照明用ホログラム記録媒体に対して、前記照明用の像が再生されるように前記光ビームの走査を行い、
前記表示用ホログラム記録媒体は、前記照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として、前記立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項2】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
照明用の像が記録された照明用ホログラム記録媒体と、
前記光ビームを前記照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、前記光ビームの前記照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、前記変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
前記画像データ格納部から読み出した画像データを前記空間光変調器に与える制御装置と、
を備え、
前記照明用ホログラム記録媒体には、前記照明用の像がホログラムとして記録されており、
前記コヒーレント光源は、前記照明用の像および前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記光ビーム走査装置は、前記照明用ホログラム記録媒体に対して、前記照明用の像が再生されるように前記光ビームの走査を行い、
前記空間光変調器は、前記照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて前記立体画像のホログラム再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置は、照明用ホログラム記録媒体上の複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行う機能を有し、
画像データ格納部には、前記複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の画像データは、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、前記複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、前記複数N通りの画像データを空間光変調器に順に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の画像データが空間光変調器に与えられるような同期制御を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の立体画像表示装置において、
コヒーレント光源は、それぞれ三原色の各波長をもった単色光のレーザビームを発生する3台のレーザ光源と、これら3台のレーザ光源が発生したレーザビームを合成して合成光ビームを生成する光合成器と、を有し、
光ビーム走査装置が、前記光合成器が生成した前記合成光ビームを照明用ホログラム記録媒体上で走査し、
前記照明用ホログラム記録媒体には、前記3台のレーザ光源が発生する各レーザビームによってそれぞれ再生像が得られるように、照明用の像が3通りのホログラムとして記録されており、
画像データ格納部には、複数N通りの各照射点に対応して、三原色のそれぞれについて、合計(3×N)通りの単色画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の照射点に対応した第j番目(1≦j≦3)の単色画像データは、第i番目の照射点からの第j番目の単色光の再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像の第j番目の原色についてのホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、前記複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、前記複数N通りの照射点に対応した各単色画像データを空間光変調器に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の各単色画像データが順番に空間光変調器に与えられるようにし、しかも、空間光変調器に第j番目の単色画像データが与えられているときに、第j番目の単色光を発生するレーザ光源のみが選択的に動作するよう、前記各レーザ光源に対して動作制御信号を与える同期制御を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
空間光変調器が、透過型もしくは反射型の液晶ディスプレイ、透過型もしくは反射型のLCOS素子、またはデジタルマイクロミラーデバイスによって構成されていることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の立体画像表示装置を3組と、これら3組の立体画像表示装置によって形成された再生像を合成する合成光学系と、を備え、
第j番目(1≦j≦3)の立体画像表示装置は、三原色のうちの第j番目の原色の波長をもった単色光のレーザビームを発生させるコヒーレント光源を用いることにより、第j番目の原色の立体画像の再生像を形成する機能を有し、
前記合成光学系を用いて三原色の各再生像を合成することによりカラー立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体によって形成される照明用の像の再生位置に、表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器が配置されていることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光する機能をもち、照明用ホログラム記録媒体と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に配置された光学系を更に備えることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項9】
請求項8に記載の立体画像表示装置において、
光学系として、視点から照明用ホログラム記録媒体の記録面に下ろした垂線を光軸とし、照明用ホログラム記録媒体と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に配置された1組もしくは複数組の凸レンズを用いることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項10】
請求項9に記載の立体画像表示装置において、
光学系として1組の凸レンズを用い、当該凸レンズの焦点距離をfとしたときに、照明用ホログラム記録媒体と凸レンズとの距離を2fに設定し、凸レンズと視点との距離を2fに設定したことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項11】
請求項9に記載の立体画像表示装置において、
光学系として2組の凸レンズを用い、照明用ホログラム記録媒体に近い位置に配置された第1の凸レンズの焦点距離をf1とし、表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器に近い位置に配置された第2の凸レンズの焦点距離をf2としたときに、照明用ホログラム記録媒体と第1の凸レンズとの距離をf1に設定し、第2の凸レンズと視点との距離をf2に設定したことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
視点の位置と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に、凸レンズの光軸に対して傾斜した反射面を有するハーフミラーを配置し、照明用ホログラム記録媒体の配置方向とは異なる方向の背景上に立体画像の再生像が形成されるようにしたことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の位置に仮想的な瞳を配置した場合に、「表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器からの0次回折光が前記瞳の内部に入射する」という条件を満たす「照明用ホログラム記録媒上の光ビームの照射範囲」を走査禁止領域と定め、光ビーム走査装置が、前記走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項14】
請求項13に記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、走査中に光ビームのスポットが走査禁止領域に入らないように、走査禁止領域の外側に円形の走査軌道を設定し、光ビームの中心軸が前記走査軌道に沿って周回運動するように走査を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、光ビームを所定の走査基点で屈曲させ、屈曲された光ビームを照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、前記光ビームの屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームの前記照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置を時間的に変化させ、
前記照明用ホログラム記録媒体には、特定の収束点に収束する参照光または特定の収束点から発散する参照光を用いて照明用の像がホログラムとして記録されており、
前記光ビーム走査装置が、前記収束点を前記走査基点として光ビームの走査を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項16】
請求項15に記載の立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体に、収束点を頂点とした円錐の側面に沿って三次元的に収束もしくは発散する参照光を用いて照明用の像が記録されていることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、光ビームを平行移動させながら照明用ホログラム記録媒体に照射することにより、前記光ビームの前記照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置を時間的に変化させ、
前記照明用ホログラム記録媒体には、平行光束からなる参照光を用いて照明用の像がホログラムとして記録されており、
前記光ビーム走査装置が、前記参照光に平行になる方向から光ビームを前記照明用ホログラム記録媒体に照射して、光ビームの走査を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体に記録されているホログラムが、計算機合成ホログラムであることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、走査型ミラーデバイス、全反射プリズム、屈折プリズム、もしくは電気光学結晶であることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項20】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
多数の個別レンズの集合体からなるマイクロレンズアレイと、
前記光ビームを前記マイクロレンズアレイに照射し、かつ、前記光ビームの前記マイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を備え、
前記マイクロレンズアレイを構成する個別レンズは、それぞれが、前記光ビーム走査装置から照射された光を屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
前記コヒーレント光源は、前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記表示用ホログラム記録媒体は、前記マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として、前記立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項21】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
前記光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、
入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を備え、
前記光ビーム走査装置は、前記コヒーレント光源が発生した前記光ビームを、前記光拡散素子に向けて射出し、かつ、前記光ビームの前記光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査し、
前記光拡散素子は、入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
前記コヒーレント光源は、前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記表示用ホログラム記録媒体は、前記光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として、前記立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項22】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
多数の個別レンズの集合体からなるマイクロレンズアレイと、
前記光ビームを前記マイクロレンズアレイに照射し、かつ、前記光ビームの前記マイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、前記変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
前記画像データ格納部から読み出した画像データを前記空間光変調器に与える制御装置と、
を備え、
前記マイクロレンズアレイを構成する個別レンズは、それぞれが、前記光ビーム走査装置から照射された光を屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
前記コヒーレント光源は、前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記空間光変調器は、前記マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて前記立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項23】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
前記光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、
入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、前記変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
前記画像データ格納部から読み出した画像データを前記空間光変調器に与える制御装置と、
を備え、
前記光ビーム走査装置は、前記コヒーレント光源が発生した前記光ビームを、前記光拡散素子に向けて射出し、かつ、前記光ビームの前記光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査し、
前記光拡散素子は、入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
前記コヒーレント光源は、前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記空間光変調器は、前記光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて前記立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項24】
請求項22または23に記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置は、マイクロレンズアレイもしくは光拡散素子上の複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行う機能を有し、
画像データ格納部には、前記複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の画像データは、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、前記複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、前記複数N通りの画像データを空間光変調器に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の画像データが空間光変調器に与えられるような同期制御を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項25】
ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法であって、
照明用の像をホログラムとして記録用媒体上に記録することにより照明用ホログラム記録媒体を作成する照明用ホログラム準備段階と、
前記照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、前記表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
前記照明用の像の再生像を得るのに適したコヒーレントな光ビームを、前記照明用ホログラム記録媒体上に前記照明用の像の再生像を得るのに適した方向から照射し、かつ、照射位置が時間的に変化するように前記光ビームを前記照明用ホログラム記録媒体上で走査するホログラム再生段階と、
を有することを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項26】
ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法であって、
それぞれ特定方向から照射された光ビームを屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有する多数の個別レンズの集合体からなり、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されているマイクロレンズアレイを用意するマイクロレンズアレイ準備段階と、
前記マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、前記表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
前記立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、前記マイクロレンズアレイに前記特定方向から照射し、かつ、前記光ビームの前記マイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、
を有することを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項27】
ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法であって、
特定方向から入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されている光拡散素子を用意する光拡散素子準備段階と、
前記光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、前記表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
前記立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、前記光拡散素子に照射し、かつ、前記光ビームの前記光拡散素子に対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、
を有することを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項28】
請求項25〜27のいずれかに記載の立体画像表示方法において、
表示用ホログラム準備段階では、複数N通りのホログラムの画像データと、再生用照明光を与えることにより、前記画像データに応じたホログラム再生像を形成する空間光変調器と、を用意し、
ホログラム再生段階では、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行い、第i番目(1≦i≦N)の照射点に光ビームが照射されているときに、空間光変調器が第i番目の画像データに応じたホログラム再生像を形成するようにし、
第i番目の画像データとして、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データを用いることを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項29】
請求項25〜28のいずれかに記載の立体画像表示方法において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の位置に仮想的な瞳を配置した場合に、「表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器からの0次回折光が前記瞳の内部に入射する」という条件を満たす光ビームの照射範囲を走査禁止領域と定め、ホログラム再生段階で、前記走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うことを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項30】
請求項25〜29のいずれかに記載の立体画像表示方法において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光する機能をもった光学系により集光した再生用照明光を表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器に与えることを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項1】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
照明用の像が記録された照明用ホログラム記録媒体と、
前記光ビームを前記照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、前記光ビームの前記照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を備え、
前記照明用ホログラム記録媒体には、前記照明用の像がホログラムとして記録されており、
前記コヒーレント光源は、前記照明用の像および前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記光ビーム走査装置は、前記照明用ホログラム記録媒体に対して、前記照明用の像が再生されるように前記光ビームの走査を行い、
前記表示用ホログラム記録媒体は、前記照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として、前記立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項2】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
照明用の像が記録された照明用ホログラム記録媒体と、
前記光ビームを前記照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、前記光ビームの前記照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、前記変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
前記画像データ格納部から読み出した画像データを前記空間光変調器に与える制御装置と、
を備え、
前記照明用ホログラム記録媒体には、前記照明用の像がホログラムとして記録されており、
前記コヒーレント光源は、前記照明用の像および前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記光ビーム走査装置は、前記照明用ホログラム記録媒体に対して、前記照明用の像が再生されるように前記光ビームの走査を行い、
前記空間光変調器は、前記照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて前記立体画像のホログラム再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置は、照明用ホログラム記録媒体上の複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行う機能を有し、
画像データ格納部には、前記複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の画像データは、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、前記複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、前記複数N通りの画像データを空間光変調器に順に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の画像データが空間光変調器に与えられるような同期制御を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の立体画像表示装置において、
コヒーレント光源は、それぞれ三原色の各波長をもった単色光のレーザビームを発生する3台のレーザ光源と、これら3台のレーザ光源が発生したレーザビームを合成して合成光ビームを生成する光合成器と、を有し、
光ビーム走査装置が、前記光合成器が生成した前記合成光ビームを照明用ホログラム記録媒体上で走査し、
前記照明用ホログラム記録媒体には、前記3台のレーザ光源が発生する各レーザビームによってそれぞれ再生像が得られるように、照明用の像が3通りのホログラムとして記録されており、
画像データ格納部には、複数N通りの各照射点に対応して、三原色のそれぞれについて、合計(3×N)通りの単色画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の照射点に対応した第j番目(1≦j≦3)の単色画像データは、第i番目の照射点からの第j番目の単色光の再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像の第j番目の原色についてのホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、前記複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、前記複数N通りの照射点に対応した各単色画像データを空間光変調器に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の各単色画像データが順番に空間光変調器に与えられるようにし、しかも、空間光変調器に第j番目の単色画像データが与えられているときに、第j番目の単色光を発生するレーザ光源のみが選択的に動作するよう、前記各レーザ光源に対して動作制御信号を与える同期制御を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
空間光変調器が、透過型もしくは反射型の液晶ディスプレイ、透過型もしくは反射型のLCOS素子、またはデジタルマイクロミラーデバイスによって構成されていることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の立体画像表示装置を3組と、これら3組の立体画像表示装置によって形成された再生像を合成する合成光学系と、を備え、
第j番目(1≦j≦3)の立体画像表示装置は、三原色のうちの第j番目の原色の波長をもった単色光のレーザビームを発生させるコヒーレント光源を用いることにより、第j番目の原色の立体画像の再生像を形成する機能を有し、
前記合成光学系を用いて三原色の各再生像を合成することによりカラー立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体によって形成される照明用の像の再生位置に、表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器が配置されていることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光する機能をもち、照明用ホログラム記録媒体と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に配置された光学系を更に備えることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項9】
請求項8に記載の立体画像表示装置において、
光学系として、視点から照明用ホログラム記録媒体の記録面に下ろした垂線を光軸とし、照明用ホログラム記録媒体と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に配置された1組もしくは複数組の凸レンズを用いることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項10】
請求項9に記載の立体画像表示装置において、
光学系として1組の凸レンズを用い、当該凸レンズの焦点距離をfとしたときに、照明用ホログラム記録媒体と凸レンズとの距離を2fに設定し、凸レンズと視点との距離を2fに設定したことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項11】
請求項9に記載の立体画像表示装置において、
光学系として2組の凸レンズを用い、照明用ホログラム記録媒体に近い位置に配置された第1の凸レンズの焦点距離をf1とし、表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器に近い位置に配置された第2の凸レンズの焦点距離をf2としたときに、照明用ホログラム記録媒体と第1の凸レンズとの距離をf1に設定し、第2の凸レンズと視点との距離をf2に設定したことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
視点の位置と表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器との間に、凸レンズの光軸に対して傾斜した反射面を有するハーフミラーを配置し、照明用ホログラム記録媒体の配置方向とは異なる方向の背景上に立体画像の再生像が形成されるようにしたことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の位置に仮想的な瞳を配置した場合に、「表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器からの0次回折光が前記瞳の内部に入射する」という条件を満たす「照明用ホログラム記録媒上の光ビームの照射範囲」を走査禁止領域と定め、光ビーム走査装置が、前記走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項14】
請求項13に記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、走査中に光ビームのスポットが走査禁止領域に入らないように、走査禁止領域の外側に円形の走査軌道を設定し、光ビームの中心軸が前記走査軌道に沿って周回運動するように走査を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、光ビームを所定の走査基点で屈曲させ、屈曲された光ビームを照明用ホログラム記録媒体に照射し、かつ、前記光ビームの屈曲態様を時間的に変化させることにより、屈曲された光ビームの前記照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置を時間的に変化させ、
前記照明用ホログラム記録媒体には、特定の収束点に収束する参照光または特定の収束点から発散する参照光を用いて照明用の像がホログラムとして記録されており、
前記光ビーム走査装置が、前記収束点を前記走査基点として光ビームの走査を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項16】
請求項15に記載の立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体に、収束点を頂点とした円錐の側面に沿って三次元的に収束もしくは発散する参照光を用いて照明用の像が記録されていることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、光ビームを平行移動させながら照明用ホログラム記録媒体に照射することにより、前記光ビームの前記照明用ホログラム記録媒体に対する照射位置を時間的に変化させ、
前記照明用ホログラム記録媒体には、平行光束からなる参照光を用いて照明用の像がホログラムとして記録されており、
前記光ビーム走査装置が、前記参照光に平行になる方向から光ビームを前記照明用ホログラム記録媒体に照射して、光ビームの走査を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
照明用ホログラム記録媒体に記録されているホログラムが、計算機合成ホログラムであることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置が、走査型ミラーデバイス、全反射プリズム、屈折プリズム、もしくは電気光学結晶であることを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項20】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
多数の個別レンズの集合体からなるマイクロレンズアレイと、
前記光ビームを前記マイクロレンズアレイに照射し、かつ、前記光ビームの前記マイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を備え、
前記マイクロレンズアレイを構成する個別レンズは、それぞれが、前記光ビーム走査装置から照射された光を屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
前記コヒーレント光源は、前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記表示用ホログラム記録媒体は、前記マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として、前記立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項21】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
前記光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、
入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、
表示対象となる立体画像が記録された表示用ホログラム記録媒体と、
を備え、
前記光ビーム走査装置は、前記コヒーレント光源が発生した前記光ビームを、前記光拡散素子に向けて射出し、かつ、前記光ビームの前記光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査し、
前記光拡散素子は、入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
前記コヒーレント光源は、前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記表示用ホログラム記録媒体は、前記光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として、前記立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項22】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
多数の個別レンズの集合体からなるマイクロレンズアレイと、
前記光ビームを前記マイクロレンズアレイに照射し、かつ、前記光ビームの前記マイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査する光ビーム走査装置と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、前記変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
前記画像データ格納部から読み出した画像データを前記空間光変調器に与える制御装置と、
を備え、
前記マイクロレンズアレイを構成する個別レンズは、それぞれが、前記光ビーム走査装置から照射された光を屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
前記コヒーレント光源は、前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記空間光変調器は、前記マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて前記立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項23】
ホログラムとして記録された立体画像を再生してこれを表示する立体画像表示装置であって、
コヒーレントな光ビームを発生させるコヒーレント光源と、
前記光ビームの向きもしくは位置またはその双方を制御することにより、ビーム走査を行う光ビーム走査装置と、
入射した光ビームを拡散して射出する光拡散素子と、
変調平面上の個々の位置についての変調特性を示す画像データに基づいて、前記変調平面に入射した光に対して入射位置に応じた変調を施して射出する空間光変調器と、
表示対象となる立体画像を再生するためのホログラムを画像データとして格納した画像データ格納部と、
前記画像データ格納部から読み出した画像データを前記空間光変調器に与える制御装置と、
を備え、
前記光ビーム走査装置は、前記コヒーレント光源が発生した前記光ビームを、前記光拡散素子に向けて射出し、かつ、前記光ビームの前記光拡散素子に対する入射位置が時間的に変化するように走査し、
前記光拡散素子は、入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されており、
前記コヒーレント光源は、前記立体画像を再生することが可能な波長をもった光ビームを発生させ、
前記空間光変調器は、前記光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として、与えられた画像データに基づいて前記立体画像の再生像を形成することを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項24】
請求項22または23に記載の立体画像表示装置において、
光ビーム走査装置は、マイクロレンズアレイもしくは光拡散素子上の複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行う機能を有し、
画像データ格納部には、前記複数N通りの照射点にそれぞれ対応した複数N通りの画像データが格納されており、第i番目(1≦i≦N)の画像データは、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データであり、
制御装置は、前記複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように、光ビーム走査装置に対して走査制御信号を与えるとともに、前記複数N通りの画像データを空間光変調器に与え、かつ、光ビーム走査装置が第i番目の照射点に光ビームを照射させる走査を行っているときに、第i番目の画像データが空間光変調器に与えられるような同期制御を行うことを特徴とする立体画像表示装置。
【請求項25】
ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法であって、
照明用の像をホログラムとして記録用媒体上に記録することにより照明用ホログラム記録媒体を作成する照明用ホログラム準備段階と、
前記照明用ホログラム記録媒体から得られる照明用の像の再生光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、前記表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
前記照明用の像の再生像を得るのに適したコヒーレントな光ビームを、前記照明用ホログラム記録媒体上に前記照明用の像の再生像を得るのに適した方向から照射し、かつ、照射位置が時間的に変化するように前記光ビームを前記照明用ホログラム記録媒体上で走査するホログラム再生段階と、
を有することを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項26】
ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法であって、
それぞれ特定方向から照射された光ビームを屈折させ、所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有する多数の個別レンズの集合体からなり、かつ、いずれの個別レンズによって形成される照射領域も、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されているマイクロレンズアレイを用意するマイクロレンズアレイ準備段階と、
前記マイクロレンズアレイから得られる屈折光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、前記表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
前記立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、前記マイクロレンズアレイに前記特定方向から照射し、かつ、前記光ビームの前記マイクロレンズアレイに対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、
を有することを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項27】
ホログラムとして記録された立体画像を再生して表示する立体画像表示方法であって、
特定方向から入射した光ビームを拡散させて所定の基準面上に所定の照射領域を形成する機能を有し、かつ、光ビームの入射位置にかかわらず、形成される照射領域が、前記基準面上においてほぼ同一の共通領域となるように構成されている光拡散素子を用意する光拡散素子準備段階と、
前記光拡散素子から得られる拡散光を再生用照明光として与えることにより、表示対象となる立体画像を再生する機能をもった表示用ホログラム記録媒体、もしくは、前記表示用ホログラム記録媒体と同等の回折機能を有する空間光変調器を配置する表示用ホログラム準備段階と、
前記立体画像を再生するのに適した波長をもったコヒーレントな光ビームを、前記光拡散素子に照射し、かつ、前記光ビームの前記光拡散素子に対する照射位置が時間的に変化するように走査するホログラム再生段階と、
を有することを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項28】
請求項25〜27のいずれかに記載の立体画像表示方法において、
表示用ホログラム準備段階では、複数N通りのホログラムの画像データと、再生用照明光を与えることにより、前記画像データに応じたホログラム再生像を形成する空間光変調器と、を用意し、
ホログラム再生段階では、複数N通りの照射点に光ビームが順に照射されるように走査を行い、第i番目(1≦i≦N)の照射点に光ビームが照射されているときに、空間光変調器が第i番目の画像データに応じたホログラム再生像を形成するようにし、
第i番目の画像データとして、第i番目の照射点からの再生用照明光が空間光変調器に与えられた場合に、表示対象となる立体画像のホログラム再生像を所定位置に形成するホログラムの画像データを用いることを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項29】
請求項25〜28のいずれかに記載の立体画像表示方法において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の位置に仮想的な瞳を配置した場合に、「表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器からの0次回折光が前記瞳の内部に入射する」という条件を満たす光ビームの照射範囲を走査禁止領域と定め、ホログラム再生段階で、前記走査禁止領域を避けて光ビームの走査を行うことを特徴とする立体画像表示方法。
【請求項30】
請求項25〜29のいずれかに記載の立体画像表示方法において、
立体画像の観察が行われると想定される視点の近傍に光を集光する機能をもった光学系により集光した再生用照明光を表示用ホログラム記録媒体もしくは空間光変調器に与えることを特徴とする立体画像表示方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【公開番号】特開2012−220606(P2012−220606A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84314(P2011−84314)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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