説明

立体的植物用床及びそれを用いる水質浄化装置

【課題】湖沼等の水質浄化に用いられる水生植物の水生動物による食害を防いで、この水生植物の正常な生息を維持し得る立体的植物用床及びそれを用いる水質の浄化効果の優れた水質浄化装置を提供すること。
【解決手段】光が当たりうる水深部に水中で光合成を行う水生植物及び炭酸ガス溶解手段を備える水質浄化装置に用いられ、上記水生植物が支持される立体的植物用床であって、上記水生植物の水中にある部分が収容される空間部を有し、この空間部は、その内外の境界面の水中部分が水生動物による上記水生植物の食害を防ぐための水生動物侵入防止部材により、水中に開放されている形状で形成されている立体的植物用床である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体的植物用床、特に、淡水の湖沼、池、河川等(以下、まとめて「湖沼等」という。)の水質の浄化に用いる水生植物を支持、収容する立体的植物用床及びそれを用いる水質浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題として、湖沼等の水質汚染がある。この水質汚染の発生源としては、生活排水(生活系)、工場排水(産業系)、農業/牧畜排水(農畜産系)、大気汚染の降雨による水質汚染(自然系)等が挙げられる。
そして、特に、窒素やリン等の栄養塩類等が湖沼等に流入すると、富栄養化の状態になり、藻類等の植物プランクトンが大量発生し、アオコ、淡水赤潮、青潮等と呼ばれる現象が起こり易い。
この大量に発生した植物プランクトンは、光を遮って水中での水生植物の光合成を妨げて枯死させたり、魚類等を殺したり、更には、水底に堆積した植物プランクトンの死骸が細菌により分解される際に酸素が消費され底層水中の酸素がなくなって生物が棲めなくなったり等、湖沼等の生態系に大きな打撃を与え、そして、汚濁や悪臭の発生や景観を損ねる等、環境に大きな悪影響を及ぼしている。
【0003】
従来、湖沼等の水質浄化方法として、例えば、硫酸バンド等の凝集剤を添加して汚濁物等を沈殿させる方法、空気を吹き込んで汚染物質等を分解する微生物を活性化させる方法、多孔質の担体に固定された微生物で汚染物質等を分解する方法、植物を用いて栄養塩類等を固定化する方法等が提案されている。
しかしながら、水質の浄化効果、コスト、メンテナンス性、継続性、景観等の観点から、いずれも実用化には至っていない。
【0004】
上記の植物による水の浄化法については、特に、従来からホテイアオイと葦が、水質浄化の代表的なものとして挙げられている(例えば、非特許文献1参照)。
しかしながら、その実用化、普及に難点があるのは、成長した植物体の回収及び利用が困難であることもその一因であるとされている。
例えば、ホテイアオイ(浮遊植物)の旺盛な繁殖力を活かして水質浄化に用いる場合には、繁殖した植物体を定期的に回収する必要があること、その際に植物個体が過大で茎が絡み合うため岸辺への回収が困難であること、さらには、風で吹き溜まり状に一箇所に集まってしまう不都合があること等の問題点がある。
また、葦を用いる場合においても、回収した成長植物体のヨシズ等への利用が、安い輸入品と日本の高い労賃との関係から、不可能とされる等の問題点を有している。
【0005】
本発明者は、先に、湖沼等における栄養塩類(窒素やリン等)である富栄養化成分を植物体に固定化させると共に、アオコ、藻、苔及びカビの発生を抑制することを目的として、太陽光が当たりうる対象水深部に、炭酸ガスを供給する手段(炭酸ガス溶解手段)及び対象水中で光合成する水棲(水生)植物を備える水質浄化装置等を発明した(特許文献1参照)。
この水質浄化装置を用いれば、炭酸ガスを対象水深部に供給して水生植物に光合成をより活発に行わせることにより、富栄養化成分等を効率よく植物体に固定化させて水質を浄化することができる。そしてまた、使用される植物体によっては行われるその回収も、上記のホテイアオイや葦等に比べて極めて容易である。
【0006】
【非特許文献1】青井 透、”上流域における水生植物による水環境の浄化”、[online]、2000年12月1日、[平成18年5月24日検索]、インターネット〈URL:http://www.cvl.gunma−ct.ac.jp/〜aoi/aoihtml/kawa_7.html〉
【特許文献1】特開平2000−334488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が先に発明した上記の水質浄化装置についても、この装置を用いて湖沼等の水質を浄化する場合、用いられる水生植物がそこに生息する魚、かに、亀等の水生動物により食害を蒙ることがあったり(特に、鯉、草魚等の大型のものは、この水生植物にとって大敵である。)等して、上記水生植物の正常な生息の維持に問題があり、その水質の浄化効果が必ずしも満足すべきものではなかった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上記した水質浄化装置に用いられる水生植物を支持、収容する立体的植物用床であって、上記水生植物の正常な生息を維持し得る立体的植物用床、及びそれを用いる水質の浄化効果の優れた水質浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、先ず、上記した水質浄化装置にに用いられる水生植物の少なくとも水中にある部分を、空間部を有する立体的植物用床に支持、収容すること、また、この空間部は、その内外の境界面の水中部分を水生動物侵入防止部材で形成し、かつ、この水中部分の境界面を網状、格子状等の水中に開放される形状で形成すること等により、通水性及び上記水生植物の受光を確保しつつ、上記水生動物による食害を防いで、水生植物の正常な生息を維持することができること、そして、このようにすることによって湖沼等の水質を効率よく浄化し得ること等の新知見を得た。
【0010】
また、上記した水質浄化装置に用いられる上記水生植物が過度に生育し極端に密生してしまうと、局所的な栄養分の不足状態が生じてこの水生植物の一部が枯死したり、光合成に必要な光が遮られて光量が不足したり等して、上記水生植物の正常な生息の維持に支障を来たす場合があるという問題も本発明者により認識された。
そこで、本発明者は、更に検討した結果、上記水生植物が支持、収容された立体的植物用床を使用するに際しては、上記立体的植物用床の複数を水中の水平方向に互いに離間して配置することにより、上記水生植物の極端な密生をも未然に防いでより正常な生息を維持することができること、そして、このようにすることによって水質をより効率よく浄化し得ること等の新知見も得た。
本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明の立体的植物用床は、光が当たりうる水深部に水中で光合成を行う水生植物及び炭酸ガス溶解手段を備える水質浄化装置に用いられ、上記水生植物が支持される立体的植物用床であって、上記水生植物の少なくとも水中にある部分が収容される空間部を有し、この空間部は、その内外の境界面の水中部分が水生動物による上記水生植物の食害を防ぐための水生動物侵入防止部材により、水中に開放される形状で形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の立体的植物用床の好適形態は、上記水生動物侵入防止部材が網又は格子であることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の立体的植物用床の他の好適形態は、上記立体的植物用床が直方体又は立方体であることを特徴とする。
【0014】
更にまた、本発明の立体的植物用床の更に他の好適形態は、上記空間部内に炭酸ガス溶解手段が備えられていることを特徴とする。
【0015】
そしてまた、本発明の立体的植物用床の他の好適形態は、上記水生植物が沈水植物であることを特徴とする。
【0016】
一方、本発明の水質浄化装置は、光が当たりうる水深部に水中で光合成を行う水生植物及び炭酸ガス溶解手段を備える水質浄化装置において、上記水生植物が支持された上記立体的植物用床が水中に配置されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の水質浄化装置の他の好適形態は、上記水生植物が支持された上記立体的植物用床の複数が水中の水平方向に互いに離間して配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記水生植物体を水生動物侵入防止部材で形成された空間部を有する立体的植物用床に収容することにより、上記水生動物による食害を防ぐこと等としたため、更には、上記水生植物が支持、収容された上記立体的植物用床の使用に際しては、上記立体的植物用床の複数を水中の水平方向に互いに離間して配置することにより、水生植物の極端な密生を未然に防ぐこと等としたため、上記水生植物の正常な生息を維持し得る立体的植物用床及びそれを用いる水質の浄化効果の優れた水質浄化装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0020】
本発明の水生植物を支持、収容する立体的植物用床は、上記したごとく、本発明者が先に発明した水質浄化装置に用いられるものであるので、先ず、この水質浄化装置の概略について説明する。
【0021】
上記水質浄化装置は、光が当たりうる水深部に、水中で光合成を行う水生植物及び炭酸ガス溶解手段を具備しており、水中に溶存炭酸ガス(溶解状態の炭酸ガス)を供給してそこに生息させる水生植物の水中での光合成をより活発化させることにより、水中の富栄養化成分等を積極的に固定化させ、もって淡水の湖沼等の水質を浄化するものである。
なお、上記の「光」とは、光合成が可能なものであればよく、特に制限されない。湖沼等の水質浄化の観点からは、太陽光が好ましく、この場合、太陽光が上記水生植物に直接当たらなくても、その反射光や拡散光により光合成ができる照度の光が当たればよい。
また、上記「水深部」とは、光が当たりうる水深で、水中で光合成を行う水生植物が生息する域をいい、通常は、植物体の葉の位置が水面から水面下約300cmの水深域である。濁度が高い湖沼等では、光が遮られるため、その水深部は、比較的浅くなる。
【0022】
水生植物としては、シダ植物、種子植物等の高等植物が挙げられるが、本発明に用いられる水中で光合成を行うことができる水生植物としては、葉緑素を有する葉が水中(水面下)にあって水中の溶存炭酸ガスを取り込んで光合成を行うことができるものであればよく、特に制限されない。すなわち、本発明において、上記水生植物としては、根で水中の栄養を吸収するものではなくて、水中での光合成により水中の葉で栄養を吸収するものが、水中の富栄養化成分等を吸収、固定させ、水質を浄化するために用いられ、また、葉で空気中の炭酸ガスを吸収するホテイアオイのような水生植物は水面近傍(表層)の栄養を根で吸収するが、水面近傍は固より、それ以下の水深部の富栄養化成分等をも吸収、固定化させるためにも、水中に葉が存在する水生植物が用いられる。
それには、葉の一部、すなわち、植物体の一部が水中(水面下)にある抽水植物、葉を含め植物体の全部が通常水中(水面下)にある沈水植物等が好適例として挙げられるが、水中での光合成の効率の観点から、沈水植物がより好適である。
上記抽水植物としては、キクモ、ミズユキノシタ等が、また、上記沈水植物としては、オオカナダモ(アナカリス)、スギナモ、フサモ、ホザキノフサモ(キンギョモ)、タチモ等が例示されるが、栄養成分、水温、日照量等を考慮して好適な水生植物を選択、採用すればよい。
【0023】
上記炭酸ガス溶解手段としては、水中の上記水生植物の近傍に炭酸ガスを溶解し、供給することができる手段であれば、特に制限されず、有効に使用される。この炭酸ガス溶解手段の例としては、外部の炭酸ガス供給源(例えば、ガスボンベ、ボイラーの燃料排ガス等)から送給された陽圧の炭酸ガスを水中に溶解し溶存炭酸ガスとして供給できるもの、水中に設けられた炭素を含む陽極及び陰極の両極間に電流を供給するすることにより、水中で直接溶存炭酸ガスを発生することができるもの等が挙げられる。
前者の例の炭酸ガス溶解手段としては、例えば、ガス透過性膜(ガスは透過するが、液体は透過しない膜(例えば、シリコンゴム、セグメント化ポリウレタンの膜等)を介して、外部から送給された陽圧の炭酸ガスを水中に溶解させるもの、下部に開口を有する容器内に外部から供給された陽圧の炭酸ガスをこの開口部の水との接触面から溶解させるもの等が挙げられる。
【0024】
中でも、外部の炭酸ガス供給源に連通して水中に配置される管状のガス透過性膜(例えば、シリコンゴムチューブ等)を備えた炭酸ガス溶解手段が好適に使用され、更に、この管状のガス透過性膜の加圧ガス溜空間部(中空部)に徐々に溜まるドレインを、その末端部から、例えば、安全弁等により適時排出させるようにした炭酸ガス溶解手段が特に好適に使用される(例えば、本出願人による特許出願 特願2005−380985等参照。)
【0025】
次に、本発明の立体的植物用床は、上記水質浄化装置において、水中に配置されるものであって、上記水生植物の少なくとも水中にある部分が収容される空間部を有するものである。
なお、上記水生植物の「水中にある部分」とは、原則、水中で光合成を行う上記水生植物の自生状態において水中(水面下)にある部分をいい、これには、葉等の植物体の一部が水中にある場合と、植物体の全部が水中にある場合とがあるが、前者の場合には、この植物体の正常な生息に支障がない限り、自生状態で水面より上にある部分も水中で収容することができる。
そして、この水中部分の空間部の内外の境界面は、上記水生動物侵入防止部材で形成されていて、上記水生動物による上記水生植物の食害が防がれている。
【0026】
ここで、上記立体的植物用床の水中での配置状態等につき、図1を参照して説明する。
同図(a)において、立体的植物用床1は、水生植物10の水中にある部分、すなわち、植物体の一部が収容されている空間部2を有し、この空間部2(すなわち、立体的植物用床1)の上面が略水面になるように配置されている。
なお、4は、空間部2の内外の境界面の側面及び底面を形成する水生動物侵入防止部材であり、この境界面の上面、すなわち、水面は、水生動物の侵入がないので、全面開口になっている。
また、同図(b)において、立体的植物用床11は、水生植物20の水中にある部分、すなわち、植物体の全部が収容される空間部12を有し、この立体的植物用床11の全体が水中のある深さ位置に配置されている。
なお、14は、空間部12の境界面の全面(上面、側面及び底面)を形成する水生動物侵入防止部材である。
【0027】
そして、上記水生動物侵入防止部材は、例えば、網状、格子状等のごとく、水中に開放される形状を有していて、この境界面は略全面開口の状態を呈している。
このような構成により、上記空間部の内外の境界面の通水性による富栄養化成分等の拡散、移動及び上記水生植物の受光が確保され、上記水生植物の正常な生息が維持される。
【0028】
上記立体的植物用床において、上記水生植物の中の抽水植物のごとく、植物体の一部が水中でその空間部内に収容される場合には、上記空間部の境界面の上面は、上記のごとく、全面開口でもよいが、上記水生動物侵入防止部材により形成されていても勿論よく、また、上記空間部の境界面の側面は、その上端部を水面より上方に延長し突出させて形成することもできる。
更に、上記水生植物の中の沈水植物のごとく、植物体の全部が水中でその空間部内に収容される場合には、この水生植物体の全部が実質的に収容されていればよく、葉等の一部がこの空間部外にはみ出ていて上記水生動物により食されたとしても、この水生植物の正常な生息の維持に、ひいては水質浄化に悪影響を及ぼさない状態で収容されていればよい。
【0029】
上記立体的植物用床の空間部の大きさの具体的な選択決定については、用いられる上記水生植物の生育特性(成長速度、植物丈等)等を勘案して行われるが、この立体的植物用床の湖沼等への人手、機械等による設置の容易性等も考慮するのが好ましく、このような観点から、例えば、縦、横はそれぞれ50cm〜2mのもの等、また、高さは抽水植物では30cm〜1.8mのもの等が、沈水植物では50cm〜2mのもの等が好適例として挙げられる。
【0030】
上記立体的植物用床の形状、すなわち、その空間部については、例えば、直方体、立方体、円柱体、釣鐘状のもの等が挙げられ、特に制限されないが、直方体又は立方体がその製作上や配置上の観点から好適である。
【0031】
次に、上記水生動物侵入防止部材は、上記したごとく、水生動物、例えば、鯉、草魚、かに、亀等の大型あるいは比較的大型の水生動物による食害を防ぐためのものであって、目高、テナガエビ、幼魚等の小動物は、食害があったとしても、無視できる程度で、問題にはならない。
上記水生動物侵入防止部材の形状例としては、水中の上記空間部の境界面に廻らす網、格子(棒を縦横又は縦若しくは横に組んだもの)等、上記空間部内に立設した複数の棒状体(このときの空間部の内外の境界面は、後記実施例4に記載のごとく、この棒状体群の外側の並びの面、上端部の面等がそれに相当する。)等が挙げられるが、網、格子が好適である。
【0032】
上記水生動物侵入防止部材において、網の目合や格子等の棒の間隔については、動物の侵入を防ぐべく適宜選択すればよく、特に制約されないが、網のときには、例えば、角目網地では、目合が1〜5cm等のものが、また、上記空間部の境界面を形成する格子やこの空間内に立設した棒状体のときには、棒の間隔(隙間)を1〜5cm等にしたのもの等が用いられる。
更に、上記棒状体の太さ等も適宜選択される。
なお、上記水生動物侵入部材の材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂等の合成樹脂、鉄、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0033】
上記立体的植物用床の空間部の骨格部分については、必要により、その一部又は全部に強度のある部材を用いることもでき、更に、後記実施例1に記載のごとく、この骨格部分の一部、例えば、空間部の上下の稜線部分を管状で軽量の材料(例えば、塩化ビニル樹脂等)で中空体にして浮力を与えるようにし、水中への設置の利便を図ることもできる。
また、上記立体的植物用床は、上記水生植物の支持、収容等の取扱いを容易にするために、一部取り外し可能な構造にするのが好ましい。
なお、上記空間部の底面は、上記水生植物の茎、根等を支持する部分であって、上記のごとく、水中に必ずしも開放する必要はない。
【0034】
上記立体的植物用床の空間部に収容され、その底面に支持、固定される上記水生植物としては、自生又は別途栽培されたものの採取物でもよく、更には、この立体的植物用床の底面を水生植物の根が支持され得る材料、例えば、通常の野菜等の水耕栽培に用いられる材料(例えば、多孔質の合成樹脂、多孔質スポンジ等)等で構成し、これに上記水生植物の種を蒔き、一定期間水耕栽培する方法等を採用して得られたものでもよい。
なお、上記水生植物の採取物を上記立体的植物用床に支持、固定する方法としては、適宜の方法、例えば、紐等による物理的な支持、固定法等を採用することができる。
【0035】
上記した水質浄化装置においては、上記炭酸ガス溶解手段を設けることが必要であるが、本発明の上記立体的植物用床を用いる場合には、この空間部内に、上記炭酸ガス溶解手段を備えるのが好適であり、中でも、外部の炭酸ガス供給源から送給された陽圧の炭酸ガスを溶解する炭酸ガス溶解手段を備えるのが特に好適である。
この炭酸ガス溶解手段としては、上記したごとく、例えば、適宜の太さ、長さでその末端が封止された管状のガス透過性膜(例えば、シリコンゴムチューブ等)を具備したもの等が好適に用いられる。
そして、この炭酸ガス溶解手段は、上記立体的植物用床の空間部内の底面近傍等に配置され、また、複数の上記立体的植物用床の複数を用いる水質浄化装置の場合には、後記実施例5に記載のごとく、上記管状のガス透過性膜を各立体的植物用床を連ねるようにして連通及び貫通させ配置するのが、水中への設置上効率的であり、好ましい。この場合、ガス透過性膜内に供給された炭酸ガスは、気泡にならず、ガス透過性膜を介して溶存炭酸ガスとして供給されることになる。
【0036】
次に、本発明の水質浄化装置において、上記立体的植物用床は、その空間部内に上記水生植物が支持、収容され、そして、湖沼等の水中に配置されて使用される。上記立体的植物用床の複数が使用される場合には、その配置方法に特に制限はないが、通常は水平方向に配置される。このとき、上記立体的植物用床の複数を互いに密着させて配置してもよいが、上記水生植物の極端な密生を防いで栄養成分が各立体的植物用床内の水生植物に円滑に供給されるように、互いに適宜の間隔を確保し、離間して配置するのが好ましい。
この際の上記立体的植物用床の互いの間隔は、この立体的植物用床の大きさ、配置される場所の流れの強さ等により適宜選択されるが、例えば、10〜50cm等である。このような間隔を設けることにより、上記水生植物が極端に密生したときに生じることがある栄養成分の供給不足が未然に防止されて、この水生植物のより正常な生息が維持される。
また、その配置は、例えば、碁盤目状等が好ましい。
更に、上記立体的植物用床を配置する水深位置は、その上面が水面、水中の一定の深さに位置させる等、用いられる上記水生植物により、適宜選択される。
【0037】
上記立体的植物用床を上記のような配置状態で設置する方法としては、適宜の方法が採用されるが、例えば、湖沼等の底を基点とし、この立体的植物用床を浮かせる方法(例えば、この立体的植物用床の一部(例えば、この空間部の上下の稜線部分等)を管状の塩化ビニル樹脂等で中空体にしたり、立体的植物用床に浮きなどを取り付けたり等して浮力を与えるようにし、立体的植物用床の底部に下げた錘等を湖沼等の底に到達させ固定する方法等)、立体的植物用床の底部に連結した支持部材の他端を湖沼等の底に到達させ固定する方法、各立体的植物用床間に支持部材を介在させて互いの間隔を確保する方法等を単独又は組み合わせて採用することができる。
【0038】
本発明の水質浄化装置は、このようにして、上記水生植物を支持、収容した立体的植物用床を水中に配置することにより、水中における上記植物の正常な生息を維持して水質を効率よく浄化することができ、水質の浄化効果の優れたものである。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を図面を参照しつつ実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
図2は、植物体の全部が水中にある水生植物(例えば、沈水植物等)が支持、収容される本発明の立体的植物用床の一実施例を示すものであって、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は上面、側面及び底面の網の一部を図示した概略斜視図である。
同図において、立体的植物用床21は、略立方体のものであって、その空間部22を形成する上部及び下部の中空管(例えば、塩化ビニル樹脂製等)からなる枠部材23a、23bと、この空間部22の内外の境界面(上面22a、側面22b及び底面22c)を形成する水生動物侵入防止部材24とからなる。
そして、この水生動物侵入防止部材24としては、境界面22a、22b、22cが水中に開放される形状である網(例えば、ポリエチレン樹脂製、金属製等)が用いられている。
なお、この網の目合(目の大きさ)は、水生植物に食害を与える水生動物の侵入を防止できるものが採用される。
また、25はこの枠体23a、23bの4隅を連結するエルボーを示す。
【0041】
立体的植物用床21において、水生植物(図示せず)は、空間部22の上面22aの網を一旦取り外した後、例えば、その茎部を縛った紐を空間部22の底面22cの網に固定する等して支持され、次いで、取り外した網を取り付ける等して空間部22内に収容される。
また、この空間部22内の底面22c近傍には、外部の炭酸ガス供給源(図示せず)に連通する炭酸ガス溶解手段(例:管状のガス透過性膜であるシリコンゴムチューブ使用)(図示せず)が備えられている。
そして、立体的植物用床31が水中に配置された場合、その空間部22の上面22a及び側面22bは水中に開放されていて、通水性及び上記水生植物の受光が確保されている。
【0042】
立体的植物用床21の使用に際しては、その底部に紐等を介して湖沼等の底に達する錘(図示せず)を取り付け、中空管の枠部材23a、23bの浮力により、一定位置、例えば、上部の枠部材23aが水面になる位置、あるいは水中のある深さ位置に配置される。
そして、空間部22内の水生植物は、光と上記炭酸ガス溶解手段からの溶存炭酸ガスとで水中で光合成を行って水中の富栄養化成分等を資化しつつ旺盛に生育し、また、水生動物による食害も防がれて、正常な生息が維持され、もって水質を効率良く浄化することができる。
なお、水生植物の生育が極めて旺盛で、その葉等の一部が空間部22の境界面からはみ出てしまい、水生動物に食されることもあるが、上記したごとく、この空間部22は、水生植物の正常な生息に必要な空間が確保されているので、特に問題にはならない。
【0043】
(実施例2)
図3は、植物体の一部が水中にある水生植物(例えば、抽水植物等)が支持、収容される本発明の立体的植物用床の他の実施例を示すものであって、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は側面及び底面の網の一部を図示した概略斜視図である。
なお、本実施例において、実施例1の場合と実質的に同一の部材、箇所には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図3に示した立体的植物用床31は、略直方体のものであって、その空間部22の内外の境界面の上面22aが全面開口とされていること(水生動物侵入防止部材24は設けず。)及び植物体の一部が空間部22内に支持、収容されるものであるので、その境界面の側面の高さが短いこと以外は、図2に示したと同様の構成等を有する。
立体的植物用床31において、水生植物(図示せず)は、空間部22の上面22aの全面開口の部分を通して例えば、その茎部を縛った紐を空間部22の底面22cの網に固定する等して支持され、空間部22内に収容される。
また、この空間部22内の底面22c近傍には、外部の炭酸ガス供給源(図示せず)に連通する炭酸ガス溶解手段(例:管状のガス透過性膜であるシリコンゴムチューブ使用)(図示せず)が備えられている。
そして、立体的植物用床31が水中に配置された場合、その空間部22の側面22bは水中に開放されていて、通水性及び上記水生植物の受光が確保されている。
【0044】
立体的植物用床31の使用に際しては、その底部に紐等を介して湖沼等の底に達する錘(図示せず)を取り付け、中空管の枠部材23a、23bの浮力により、上部の枠部材23aが水面になる位置に配置される。
そして、立体的植物用床31の空間部22内の水生植物は、光と上記炭酸ガス溶解手段からの溶存炭酸ガスとで水中で光合成を行って水中の富栄養化成分等を資化しつつ旺盛に生育し、また、水生動物による食害も防がれて、正常な生息が維持され、もって水質を効率良く浄化することができる。
【0045】
(実施例3)
図4は、植物体の全部が水中にある水生植物(例えば、沈水植物等)が支持、収容される本発明の立体的植物用床の更に他の実施例を示すものであって、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は上面、側面及び底面を形成する格子の一部を図示した概略斜視図である。
同図において、この立体的植物用床41は、略直方体のものであって、その空間部42を形成する骨格部分(水生動物侵入防止部材の一部であるが、強度のある部材)の部材43(例えば、塩化ビニル樹脂製、鉄製等)と、空間部42の内外の境界面(上面42a、側面42b及び底面42c)を形成する一方の水生動物侵入防止部材44とからなる。
そして、この水生動物侵入防止部材44としては、境界面42a、42b、42cが水中に開放される形状である格子(例えば、塩化ビニル樹脂製、鉄製等)が用いられている。
なお、この格子の上端部及び下端部は、それぞれ上面42a及び底面42cの骨格部分の部材43に連結、固定されている。
また、この格子の棒は、水生植物に食害を与える水生動物の侵入を防止できる間隔に配置されている。
更に、46は、立体的植物用床41の底面42cにおける十文字状補強部材である。
【0046】
立体的植物用床41は、その空間部42の底面42cの部分が、その上方の上面42a及び側面42bからなる蓋状の部分から適宜の方法(例えば、ボルト・ナット等の連結方法等)で取り外し可能に構成されている。
そして、水生植物(図示せず)は、例えば、その茎部を縛った紐を空間部42の底面42cの骨格部分の部材43や水生動物侵入防止部材44としての格子に固定する等して支持された後、その上部の蓋状の部分を被せて連結する等して空間部42内に支持、収容される。
また、この空間部42内の底面42c近傍には、外部の炭酸ガス供給源(図示せず)に連通する炭酸ガス溶解手段(例:シリコンゴムチューブ使用)(図示せず)が備えられている。
立体的植物用床41が水中に配置された場合には、この空間部42の上面42a及び側面42bは水中に開放されていて、通水性及び水生植物の受光が確保されている。
【0047】
立体的植物用床41の使用に際しては、空間部42の上部の骨格部分の部材43に浮き(図示せず)等を取り付け、その底部に紐等を介して湖沼等の底に達する錘(図示せず)を取り付けたり、あるいはその底部に湖沼等の底に達する支持部材(図示せず)を設ける等して、立体的植物用床41の上部が水面、あるいは水中のある深さ位置に配置される。
そして、立体的植物用床41の空間部42内の水生植物は、光と上記炭酸ガス溶解手段からの溶存炭酸ガスとで水中で光合成を行って水中の富栄養化成分等を資化しつつ旺盛に生育し、また、水生動物による食害も防止されて、正常な生息が維持され、もって水質を効率よく浄化することができる。
【0048】
(実施例4)
図5は、植物体の全部が水中にある水生植物(例えば、沈水植物等)が支持、収容される本発明の立体的植物用床の他の実施例を示すものであって、(a)は側面図、(b)は平面図である。
同図において、この立体的植物用床51は、略直方体のものであって、その空間部52の底面52cを板状部材とし、この上面に水生動物侵入防止部材54として棒状体(例えば、鉄、塩化ビニル樹脂製等)の複数を前後左右に略等間隔で多数立設して空間部52を形成したものであり、針山様のものである。
なお、このときの空間部52の内外の境界面については、この棒状体群の外側の面が側面に、その上端部の面が上面に相当することになり、この境界面の側面及び上面は水中に開放される形状になっている。
また、この棒状体の前後左右の間隔(隙間)は、水生植物に食害を与える水生動物の侵入を防止できるものが採用される。
【0049】
この立体的植物用床51において、水生植物(図示せず)は、空間部52内に立設した棒状体間の空間に配置し、この棒状体の下端近傍の空間に、適宜の固定方法、例えば、合成樹脂製のスポンジ等を挿入してその茎部を緩やかに固定する方法等により、空間部52内に支持、収容される。
また、この空間部52内の底面52c近傍には、外部の炭酸ガス供給源(図示せず)に連通する炭酸ガス溶解手段(例:シリコンゴムチューブ使用)(図示せず)が備えられている。
そして、立体的植物用床51が水中に配置された場合には、その空間部52の上面52a及び側面52bは水中に開放されていて、通水性及び水生植物の受光が確保されている。
【0050】
立体的植物用床51の使用に際しては、上記実施例3に記載したと同様にして、立体的植物用床51の上部が水面、あるいは水中のある深さ位置に配置される。
そして、立体的植物用床51の空間部52内の水生植物は、光と上記炭酸ガス溶解手段からの溶存炭酸ガスとで水中で光合成を行って水中の富栄養化成分等を資化しつつ旺盛に生育し、また、水生動物による害も防止されて、正常な生息が維持され、もって水質を効率よく浄化することができる。
【0051】
(実施例5)
図6は、上記実施例1に記載した水生植物が支持、収容される立体的植物用床を用いる水質浄化装置の一実施例を示す概略説明図である。
同図において、水質浄化装置100は、水生植物(図示せず)が支持、収容された複数の立体的植物用床21と、立体的植物用床21の空間部22内に設けられた外部の炭酸ガス供給源82(ガスボンベ)に連通する炭酸ガス溶解手段80(例:管状のガス透過性膜であるシリコンゴムチューブ使用)とを備えている。 そして、この立体的植物用床21の複数が水中の水平方向に互いに離間して碁盤目状(一列複数個が複数列)に配置されている。
なお、各立体的植物用床21は、その上部及び下部の中空管からなる枠部材の浮力と、その底部に紐等を介して湖沼等の底に達する錘(図示せず)とで立体的植物用床21の上部の枠部材が水面になる位置に配置されている。
【0052】
上記した列の複数個の立体的植物用床21は、各炭酸ガス溶解手段80が可撓性の管等で相互に繋がれ、また、最後尾の立体的植物用床21の炭酸ガス溶解手段80には、管状のガス透過性膜の末端に連結される後記の機能を有する安全弁80aも具備している。
また、並列に配置された各列の最先の立体的植物用床21の炭酸ガス溶解手段80の上流側には、外部の炭酸ガス供給源82からのガス送給管81が連結され、そして、このガス送給管81には、陽圧の炭酸ガスが、炭酸ガス供給源82から調圧弁83、ガス流量調節弁85、ガス流量計86を順次経由して送給される。
なお、84は、圧力計である。
【0053】
本実施例において、上記したごとく、外部から送給される陽圧の炭酸ガスを炭酸ガス溶解手段80のシリコンゴムチューブを介して水中に溶解させる場合、シリコンゴムチューブの中空部(加圧ガス溜空間部)内に徐々にドレインが溜まり、そして、このドレインにより、炭酸ガスが水中へ溶解するのが妨げられると共に、この中空部内の圧力が上昇する。この圧力がある値以上になると各列の最末端の安全弁80aが作動してドレインが系外に排出され、炭酸ガスの水中への正常な溶解が維持される。
【0054】
本発明の水質浄化装置100によれば、立体的植物用床21の空間部22内の水生植物は、光と上記炭酸ガス溶解手段80からの溶存炭酸ガスとで水中で光合成を行って水中の富栄養化成分等を資化しつつ旺盛に生育し、また、水生動物による食害も防止されて正常な生息が維持され、水質を効率よく浄化することができる。
更に、この水質浄化装置100によれば、水生植物が支持、収容された立体的植物用床21が水平方向に互いに適当距離で離間して配置されているので、この水生植物は、その極端な密生が未然に防止されてより正常な生息が維持され、以て水質をより効率よく浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】は、立体的植物用床の水中での配置状態等を例示する概略断面図である。
【図2】は、本発明の立体的植物用床の一実施例を示す側面、平面及び概略斜視図である。
【図3】は、本発明の立体的植物用床の他の実施例を示す側面、平面及び概略斜視図である。
【図4】は、本発明の立体的植物用床の更に他の実施例を示す側面、平面及び概略斜視図である。
【図5】は、本発明の立体的植物用床の他の実施例を示す側面及び平面図である。
【図6】は、本発明の立体的植物用床を用いる水質浄化装置の一実施例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1、11、21、31、41、51 立体的植物用床
2、12、22、42、52 空間部
2a、12a、22a、42a、52a 上面
2b、12b、22b、42b、52b 側面
2c、12c、22c、42c、52c 底面
23a、23b 枠部材
4、14、24、44、54 水生動物侵入防止部材
80 炭酸ガス溶解手段
80a 安全弁
81 ガス送給管
82 炭酸ガス供給源
83 調圧弁
85 ガス流量調節弁
100 水質浄化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が当たりうる水深部に水中で光合成を行う水生植物及び炭酸ガス溶解手段を備える水質浄化装置に用いられ、上記水生植物が支持される立体的植物用床であって、上記水生植物の少なくとも水中にある部分が収容される空間部を有し、この空間部は、その内外の境界面の水中部分が水生動物による上記水生植物の食害を防ぐための水生動物侵入防止部材により、水中に開放される形状で形成されていることを特徴とする立体的植物用床。
【請求項2】
上記水生動物侵入防止部材が網又は格子であることを特徴とする請求項1記載の立体的植物用床。
【請求項3】
上記立体的植物用床が直方体又は立方体であることを特徴とする請求項1又は2記載の立体的植物用床。
【請求項4】
上記空間部内に炭酸ガス溶解手段が備えられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の立体的植物用床。
【請求項5】
上記水生植物が沈水植物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の立体的植物用床。
【請求項6】
光が当たりうる水深部に水中で光合成を行う水生植物及び炭酸ガス溶解手段を備える水質浄化装置において、上記水生植物が支持された請求項1〜5のいずれか1項に記載の立体的植物用床が水中に配置されていることを特徴とする水質浄化装置。
【請求項7】
上記水生植物が支持された上記立体的植物用床の複数が水中の水平方向に互いに離間して配置されていることを特徴とする請求項6記載の水質浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−23508(P2008−23508A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221270(P2006−221270)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(591101490)エイブル株式会社 (21)
【Fターム(参考)】