説明

立体選択的不斉ニトロアルドール反応用触媒

【課題】光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物の前駆体として有用な光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物を触媒的不斉反応によりアンチ選択的に製造する方法を提供する。
【解決手段】光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物の製造方法であって、アルデヒド化合物と炭素数2以上のニトロアルカン化合物とを式(I)(R1はC3-8アルキル基又はアラルキル基、X1及びX2はフッ素原子などのハロゲン原子、水酸基、アミノ基など)で表される化合物を配位子として含むネオジム/ナトリウムなどの異種金属複合型の錯体の存在下で反応させる工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は立体選択的な触媒的不斉ニトロアルドール反応、及び該反応用の触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
有機合成化学、特に医薬品合成化学の分野において光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物は極めて有用性の高いキラルビルディングブロックとして汎用されている。例えば、β-アゴニストなどの医薬品や多くの天然生理活性化合物に光学活性アンチ-1,2-アミノアルコールが基本ユニットとして含まれており、光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物を原料化合物や反応試薬として用いることにより、これらの化合物を効率的かつ安価に製造することができる。このような理由から、光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物を効率的に製造する方法の開発が求められている。
【0003】
光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物の前駆体として有用な光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物を触媒的不斉反応によりアンチ選択的に製造する方法として、各種アルデヒド化合物とニトロアルカンとを光学活性テトラアミノホスホニウム塩の存在下で反応させる方法が知られている(Uraguchi, D., et al., J. Am. Chem. Soc.,129, pp.12392, 2007)。しかしながら、この方法は-78℃の極低温下に行なう必要があり、工業的な製造方法として応用できないという問題があった。
【0004】
一方、下記のアミド化合物:
【化1】

を配位子として含むランタン錯体が不斉アミノ化反応用触媒として有用であることが知られている(Mashiko, T., et al., J. Am. Chem. Soc., 129, pp.11342, 2007)。しかしながら、上記刊行物には上記のアミド化合物において水酸基の位置が異なる異性体は開示されておらず、上記化合物について不斉アミノ化反応用触媒以外の用途について示唆ないし教示はない。また、上記のアミド化合物とは水酸基の位置が異なる異性体を配位子とするネオジム錯体が立体選択的な触媒的不斉ニトロアルドール反応に有用であることが知られている(Tetrahedron Letters, 49, pp.272-276, 2008)。しかしながら、上記のアミド化合物の芳香環にフッ素原子などのハロゲン原子や他の官能基を導入した化合物を配位子として含む錯体が立体選択的な触媒的不斉ニトロアルドール反応に有用であることは従来知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 129, 12392, 2007
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 129, 11342, 2007
【非特許文献3】Tetrahedron Letters, 49, pp.272-276, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は立体選択的な触媒的不斉ニトロアルドール反応、及び該反応用の触媒を提供することにある。より具体的には、光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物の前駆体として有用な光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物を触媒的不斉反応によりアンチ選択的に製造する方法及び該反応に用いる触媒を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、上記の非特許文献3に記載されたアミド化合物において芳香環上にハロゲン原子などの官能基を導入した化合物を製造し、この化合物を配位子としてネオジムなどのランタノイド及びナトリウムなどのアルカリ金属に配位させた異種金属複合型の錯体を反応触媒として用いて各種アルデヒド化合物とニトロアルカンとを用いたニトロアルドール反応を行なうことにより、光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物の前駆体である光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物を効率よく製造できること、及びこの反応が-40℃程度の冷却下においても速やかに進行し、高アンチ選択的に、かつ極めて高い不斉収率で目的物を製造できることを見出した。本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明により、光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物の製造方法であって、アルデヒド化合物と炭素数2以上のニトロアルカン化合物とを下記の一般式(I):
【化2】

(式中、R1はC3-8アルキル基又はアラルキル基を示し、X1及びX2はそれぞれ独立にハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、又はカルボキシル基を示す)で表される化合物を配位子として含む異種金属複合型の錯体(ただし2種の金属のうちの1種はランタノイドから選択され、もう1種の金属はアルカリ金属である)の存在下で反応させる工程を含む方法が提供される。
【0009】
本発明の好ましい方法によれば、上記錯体が上記一般式(I)で表される化合物においてR1がイソブチル基である化合物、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、プラセオジム(Pr)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、及びイッテルビウム(Yb)からなる群から選ばれる金属、及びアルカリ金属を含む異種金属複合型錯体である上記の方法;上記錯体が上記一般式(I)で表される化合物においてR1がイソブチル基である化合物、ネオジム(Nd)及びナトリウムを含む異種金属複合型錯体である上記の方法;
サマリウム(Sm)及びナトリウムを含む異種金属複合型錯体である上記の方法;プラセオジム(Pr)及びナトリウムを含む異種金属複合型錯体である上記の方法;ニトロアルカンがR11-CH2-NO2(式中、R11はC1-C20アルキル基を示し、該アルキル基は置換基を有していてもよい)で表されるニトロアルカンである上記の方法;反応温度を-50〜-30℃の範囲で行なう上記の方法;調製された錯体を単離して再懸濁する工程を含む上記の方法;及びランタノイドとほぼ等量の水の存在下で行なう上記の方法が提供される。
【0010】
別の観点からは、上記一般式(I)で表される化合物を配位子として含む上記の異種金属複合型錯体が本発明により提供される。また、アルデヒド化合物と炭素数2以上のニトロアルカン化合物とを反応させて光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物を製造するための反応触媒であって、上記錯体を含む反応触媒;光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物の製造方法であって、(A)アルデヒド化合物とニトロアルカン化合物とを上記の錯体の存在下で反応させて光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物を製造する工程、及び(B)上記工程(A)で得られた光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物を還元して光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物を製造する工程を含む方法も本発明により提供される。
さらに別の観点からは、上記一般式(I)で表される化合物も本発明により提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、医薬品や天然生理活性化合物の製造のために有用な光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物の前駆体として有用な光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物を緩和な条件下で効率的に製造することができる。本発明の方法は-40℃程度の低温化で行なうことができるので、工業的製造方法として利用することができる。また、本発明の方法では、錯体調製において生成する沈殿を単離した後に再懸濁して触媒懸濁液として用いることができ、高純度な触媒を簡便に調製して使用することにより高アンチ選択的に、かつ極めて高い不斉収率で目的物を製造できるという優れた特徴がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法はアルデヒド化合物と炭素数2以上のニトロアルカン化合物とを用いてニトロアルドール反応により光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物を製造する方法であり、上記反応において上記一般式(I)で表される化合物を配位子として含む異種金属複合型錯体を反応触媒として用いることを特徴としている。
【0013】
アルデヒド化合物の種類は特に限定されず、芳香族アルデヒド化合物又は脂肪族アルデヒド化合物のいずれを用いてもよい。アルデヒド化合物は、例えばアルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子など任意の置換基を1個又は2個以上有していてもよい。アルデヒド化合物を本発明の方法における原料として用いる際に、必要に応じてアルデヒド以外の反応性官能基を保護基で保護することにより、本発明の方法を好適に行なうことができる。保護基については、例えば、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができる。アルデヒド化合物として、例えば、ベンズアルデヒド、ハロゲノベンズアルデヒド(クロルベンズアルデヒド、ブロムベンズアルデヒドなど)、アルコキシベンズアルデヒド(メトキシベンズアルデヒド、エトキシベンズアルデヒドなど)、アルキルベンズアルデヒド(メチルベンズアルデヒド、エチルベンズアルデヒドなど)、ナフチルアルデヒドなどの芳香族アルデヒド化合物、アルキルアルデヒド(ブチルアルデヒド、シクロプロピルアルデヒドなど)などの脂肪族アルデヒド、又はアラルキルアルデヒド(フェネチルアルデヒド、ベンジルアルデヒドなど)などの芳香族置換脂肪族アルデヒドなどを用いることができるが、これらに限定されることはない。
【0014】
ニトロアルカン化合物の種類は炭素数2以上であれば特に限定されないが、例えば、アルキル鎖の炭素数が2〜20個程度のニトロアルカン化合物を用いることができる。ニトロアルカン化合物の主鎖を構成するアルキル基は、例えばアルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン原子など任意の置換基を1個又は2個以上有していてもよく、アルキル鎖中に二重結合又は三重結合を任意の個数含んでいてもよい。必要に応じてニトロ基以外の反応性官能基を保護基で保護することにより、本発明の方法を好適に行なうことができる。保護基については上掲のGreenらの成書を参照することができる。ニトロアルカンとして、好ましくはニトロエタン、ニトロプロパン、ニトロブタンなどを用いることができるが、これらに限定されることはない。
【0015】
上記一般式(I)で表される錯体において、R1はC3-8アルキル基又はアラルキル基を示す。R1が示すC3-8アルキル基としては、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組合せからなるアルキル基を用いることができるが、分枝鎖状、環状、又はそれらの組合せからなるアルキル基が好ましく、分枝鎖状又は環状のアルキル基がより好ましい。例えば、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基(-CH2-CH(CH3)2)、若しくはtert-ブチル基などの分枝鎖状C3-4アルキル基、又はシクロペンチル基、シクロヘキシル基、若しくはシクロヘプチル基などの環状C5-7アルキル基が好ましい。これらのうち、イソプロピル基、イソブチル基、又はtert-ブチル基がさらに好ましく、特に好ましいのはイソブチル基である。
【0016】
R1が示すアラルキル基としては、例えば、1個又は数個、好ましくは1個のアリール基又はヘテロアリール基により置換された直鎖状又は分枝鎖状のC1-4アルキル基を用いることができる。R1が示すアラルキル基を構成するアリール基としては単環式又は縮合多環式の芳香族炭化水素基を用いることができ、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、アントラニル基、又はフェナンスリル基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。ヘテロアリール基としては、単環式又は縮合多環式の芳香族ヘテロ環基を用いることができる。環構成ヘテロ原子の個数は特に限定されないが、1個ないし数個、好ましくは1個ないし5個程度である。2個以上の環構成ヘテロ原子を含む場合にはそれらは同一でも異なっていてもよい。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、又はイオウ原子等を挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0017】
R1が示すアラルキル基を構成する単環式ヘテロアリール基としては、例えば、2-フリル基、3-フリル基、2-チエニル基、3-チエニル基、1-ピロリル基、2-ピロリル基、3-ピロリル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、4-イソオキサゾリル基、5-イソオキサゾリル基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、5-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、4-イソチアゾリル基、5-イソチアゾリル基、1-イミダゾリル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、5-イミダゾリル基、1-ピラゾリル基、3-ピラゾリル基、4-ピラゾリル基、5-ピラゾリル基、(1,2,3-オキサジアゾール)-4-イル基、(1,2,3-オキサジアゾール)-5-イル基、(1,2,4-オキサジアゾール)-3-イル基、(1,2,4-オキサジアゾール)-5-イル基、(1,2,5-オキサジアゾール)-3-イル基、(1,2,5-オキサジアゾール)-4-イル基、(1,3,4-オキサジアゾール)-2-イル基、(1,3,4-オキサジアゾール)-5-イル基、フラザニル基、(1,2,3-チアジアゾール)-4-イル基、(1,2,3-チアジアゾール)-5-イル基、(1,2,4-チアジアゾール)-3-イル基、(1,2,4-チアジアゾール)-5-イル基、(1,2,5-チアジアゾール)-3-イル基、(1,2,5-チアジアゾール)-4-イル基、(1,3,4-チアジアゾリル)-2-イル基、(1,3,4-チアジアゾリル)-5-イル基、(1H-1,2,3-トリアゾール)-1-イル基、(1H-1,2,3-トリアゾール)-4-イル基、(1H-1,2,3-トリアゾール)-5-イル基、(2H-1,2,3-トリアゾール)-2-イル基、(2H-1,2,3-トリアゾール)-4-イル基、(1H-1,2,4-トリアゾール)-1-イル基、(1H-1,2,4-トリアゾール)-3-イル基、(1H-1,2,4-トリアゾール)-5-イル基、(4H-1,2,4-トリアゾール)-3-イル基、(4H-1,2,4-トリアゾール)-4-イル基、(1H-テトラゾール)-1-イル基、(1H-テトラゾール)-5-イル基、(2H-テトラゾール)-2-イル基、(2H-テトラゾール)-5-イル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、3-ピリダジニル基、4-ピリダジニル基、2-ピリミジニル基、4-ピリミジニル基、5-ピリミジニル基、2-ピラジニル基、(1,2,3-トリアジン)-4-イル基、(1,2,3-トリアジン)-5-イル基、(1,2,4-トリアジン)-3-イル基、(1,2,4-トリアジン)-5-イル基、(1,2,4-トリアジン)-6-イル基、(1,3,5-トリアジン)-2-イル基、1-アゼピニル基、1-アゼピニル基、2-アゼピニル基、3-アゼピニル基、4-アゼピニル基、(1,4-オキサゼピン)-2-イル基、(1,4-オキサゼピン)-3-イル基、(1,4-オキサゼピン)-5-イル基、(1,4-オキサゼピン)-6-イル基、(1,4-オキサゼピン)-7-イル基、(1,4-チアゼピン)-2-イル基、(1,4-チアゼピン)-3-イル基、(1,4-チアゼピン)-5-イル基、(1,4-チアゼピン)-6-イル基、(1,4-チアゼピン)-7-イル基等の5ないし7員の単環式ヘテロアリール基が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0018】
R1が示すアラルキル基を構成する縮合多環式ヘテロアリール基としては、例えば、2-ベンゾフラニル基、3-ベンゾフラニル基、4-ベンゾフラニル基、5-ベンゾフラニル基、6-ベンゾフラニル基、7-ベンゾフラニル基、1-イソベンゾフラニル基、4-イソベンゾフラニル基、5-イソベンゾフラニル基、2-ベンゾ[b]チエニル基、3-ベンゾ[b]チエニル基、4-ベンゾ[b]チエニル基、5-ベンゾ[b]チエニル基、6-ベンゾ[b]チエニル基、7-ベンゾ[b]チエニル基、1-ベンゾ[c]チエニル基、4-ベンゾ[c]チエニル基、5-ベンゾ[c]チエニル基、1-インドリル基、1-インドリル基、2-インドリル基、3-インドリル基、4-インドリル基、5-インドリル基、6-インドリル基、7-インドリル基、(2H-イソインドール)-1-イル基、(2H-イソインドール)-2-イル基、(2H-イソインドール)-4-イル基、(2H-イソインドール)-5-イル基、(1H-インダゾール)-1-イル基、(1H-インダゾール)-3-イル基、(1H-インダゾール)-4-イル基、(1H-インダゾール)-5-イル基、(1H-インダゾール)-6-イル基、(1H-インダゾール)-7-イル基、(2H-インダゾール)-1-イル基、(2H-インダゾール)-2-イル基、(2H-インダゾール)-4-イル基、(2H-インダゾール)-5-イル基、2-ベンゾオキサゾリル基、2-ベンゾオキサゾリル基、4-ベンゾオキサゾリル基、5-ベンゾオキサゾリル基、6-ベンゾオキサゾリル基、7-ベンゾオキサゾリル基、(1,2-ベンゾイソオキサゾール)-3-イル基、(1,2-ベンゾイソオキサゾール)-4-イル基、(1,2-ベンゾイソオキサゾール)-5-イル基、(1,2-ベンゾイソオキサゾール)-6-イル基、(1,2-ベンゾイソオキサゾール)-7-イル基、(2,1-ベンゾイソオキサゾール)-3-イル基、(2,1-ベンゾイソオキサゾール)-4-イル基、(2,1-ベンゾイソオキサゾール)-5-イル基、(2,1-ベンゾイソオキサゾール)-6-イル基、(2,1-ベンゾイソオキサゾール)-7-イル基、2-ベンゾチアゾリル基、4-ベンゾチアゾリル基、5-ベンゾチアゾリル基、6-ベンゾチアゾリル基、7-ベンゾチアゾリル基、(1,2-ベンゾイソチアゾール)-3-イル基、(1,2-ベンゾイソチアゾール)-4-イル基、(1,2-ベンゾイソチアゾール)-5-イル基、(1,2-ベンゾイソチアゾール)-6-イル基、(1,2-ベンゾイソチアゾール)-7-イル基、(2,1-ベンゾイソチアゾール)-3-イル基、(2,1-ベンゾイソチアゾール)-4-イル基、(2,1-ベンゾイソチアゾール)-5-イル基、(2,1-ベンゾイソチアゾール)-6-イル基、(2,1-ベンゾイソチアゾール)-7-イル基、(1,2,3-ベンゾオキサジアゾール)-4-イル基、(1,2,3-ベンゾオキサジアゾール)-5-イル基、(1,2,3-ベンゾオキサジアゾール)-6-イル基、(1,2,3-ベンゾオキサジアゾール)-7-イル基、(2,1,3-ベンゾオキサジアゾール)-4-イル基、(2,1,3-ベンゾオキサジアゾール)-5-イル基、(1,2,3-ベンゾチアジアゾール)-4-イル基、(1,2,3-ベンゾチアジアゾール)-5-イル基、(1,2,3-ベンゾチアジアゾール)-6-イル基、(1,2,3-ベンゾチアジアゾール)-7-イル基、(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)-4-イル基、(2,1,3-ベンゾチアジアゾール)-5-イル基、(1H-ベンゾトリアゾール)-1-イル基、(1H-ベンゾトリアゾール)-4-イル基、(1H-ベンゾトリアゾール)-5-イル基、(1H-ベンゾトリアゾール)-6-イル基、(1H-ベンゾトリアゾール)-7-イル基、(2H-ベンゾトリアゾール)-2-イル基、(2H-ベンゾトリアゾール)-4-イル基、(2H-ベンゾトリアゾール)-5-イル基、2-キノリル基、3-キノリル基、4-キノリル基、5-キノリル基、6-キノリル基、7-キノリル基、8-キノリル基、1-イソキノリル基、3-イソキノリル基、4-イソキノリル基、5-イソキノリル基、6-イソキノリル基、7-イソキノリル基、8-イソキノリル基、3-シンノリニル基、4-シンノリニル基、5-シンノリニル基、6-シンノリニル基、7-シンノリニル基、8-シンノリニル基、2-キナゾリニル基、4-キナゾリニル基、5-キナゾリニル基、6-キナゾリニル基、7-キナゾリニル基、8-キナゾリニル基、2-キノキサリニル基、5-キノキサリニル基、6-キノキサリニル基、1-フタラジニル基、5-フタラジニル基、6-フタラジニル基、2-ナフチリジニル基、3-ナフチリジニル基、4-ナフチリジニル基、2-プリニル基、6-プリニル基、7-プリニル基、8-プリニル基、2-プテリジニル基、4-プテリジニル基、6-プテリジニル基、7-プテリジニル基、1-カルバゾリル基、2-カルバゾリル基、3-カルバゾリル基、4-カルバゾリル基、9-カルバゾリル基、2-(α-カルボリニル)基、3-(α-カルボリニル)基、4-(α-カルボリニル)基、5-(α-カルボリニル)基、6-(α-カルボリニル)基、7-(α-カルボリニル)基、8-(α-カルボリニル)基、9-(α-カルボリニル)基、1-(β-カルボニリル)基、3-(β-カルボニリル)基、4-(β-カルボニリル)基、5-(β-カルボニリル)基、6-(β-カルボニリル)基、7-(β-カルボニリル)基、8-(β-カルボニリル)基、9-(β-カルボニリル)基、1-(γ-カルボリニル)基、2-(γ-カルボリニル)基、4-(γ-カルボリニル)基、5-(γ-カルボリニル)基、6-(γ-カルボリニル)基、7-(γ-カルボリニル)基、8-(γ-カルボリニル)基、9-(γ-カルボリニル)基、1-アクリジニル基、2-アクリジニル基、3-アクリジニル基、4-アクリジニル基、9-アクリジニル基、1-フェノキサジニル基、2-フェノキサジニル基、3-フェノキサジニル基、4-フェノキサジニル基、10-フェノキサジニル基、1-フェノチアジニル基、2-フェノチアジニル基、3-フェノチアジニル基、4-フェノチアジニル基、10-フェノチアジニル基、1-フェナジニル基、2-フェナジニル基、1-フェナントリジニル基、2-フェナントリジニル基、3-フェナントリジニル基、4-フェナントリジニル基、6-フェナントリジニル基、7-フェナントリジニル基、8-フェナントリジニル基、9-フェナントリジニル基、10-フェナントリジニル基、2-フェナントロリニル基、3-フェナントロリニル基、4-フェナントロリニル基、5-フェナントロリニル基、6-フェナントロリニル基、7-フェナントロリニル基、8-フェナントロリニル基、9-フェナントロリニル基、10-フェナントロリニル基、1-チアントレニル基、2-チアントレニル基、1-インドリジニル基、2-インドリジニル基、3-インドリジニル基、5-インドリジニル基、6-インドリジニル基、7-インドリジニル基、8-インドリジニル基、1-フェノキサチイニル基、2-フェノキサチイニル基、3-フェノキサチイニル基、4-フェノキサチイニル基、チエノ[2,3-b]フリル基、ピロロ[1,2-b]ピリダジニル基、ピラゾロ[1,5-a]ピリジル基、イミダゾ[11,2-a]ピリジル基、イミダゾ[1,5-a]ピリジル基、イミダゾ[1,2-b]ピリダジニル基、イミダゾ[1,2-a]ピリミジニル基、1,2,4-トリアゾロ[4,3-a]ピリジル基、1,2,4-トリアゾロ[4,3-a]ピリダジニル基等の8ないし14員の縮合多環式ヘテロアリール基が挙げられるが、これらに限定されることはない。
R1が示すアラルキル基としては、例えば、ベンジル基又は3-インドリルメチル基などを用いることができるが、これらに限定されることはない。
【0019】
X1及びX2はそれぞれ独立にハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、又はカルボキシル基を示す。本明細書においてハロゲン原子とはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を意味するが、X1及びX2が示すハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子が好ましく、フッ素原子又は塩素原子がより好ましく、フッ素原子が特に好ましい。アミノ基は1又は2個の置換基を有していてもよい。例えば、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アラルキルアミノ基、又はアシルアミノ基などであってもよい。X1及びX2がともにハロゲン原子であることが好ましく、X1及びX2がともにフッ素原子であることが特に好ましい。
【0020】
X1及びX2の置換位置は特に限定されない。例えば、X1はベンゼン環上に置換する水酸基に対してパラ位であることが好ましい。また、X2はベンゼン環上に置換する水酸基に対してメタ位であることが好ましい。X1が水酸基に対してパラ位であり、X2がアミノ基に対してパラ位であることがより好ましい。さらに好ましくはX1としてハロゲン原子が水酸基に対してパラ位に位置しており、X2としてハロゲン原子がアミノ基に対してパラ位に位置していることがさらに好ましい。特に好ましくはX1としてフッ素原子が水酸基に対してパラ位に位置しており、X2としてフッ素原子がアミノ基に対してパラ位に位置していることがさらに好ましい。
【0021】
一般式(I)で表される化合物を配位子として含む異種金属複合型錯体において、金属の1種はランタノイドから選択することができる。ランタノイドはランタン系列とも呼ばれ、原子番号57〜71の15元素を含む。より具体的には、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)を含む。これらの金属のうち、ランタン、ネオジム、サマリウム、プラセオジム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、及びイッテルビウムからなる群から選ばれる金属が好ましく、さらに好ましいのはネオジム、サマリウム、又はプラセオジムであり、特に好ましくはネオジム又はサマリウムである。異種金属複合型錯体において、もう1種の金属としてアルカリ金属、例えばナトリウム、カリウム、又はリチウムが用いられる。アルカリ金属としてはナトリウムが好ましい。ナトリウムとネオジム、及びナトリウムとサマリウムの組合せはジアステレオ選択性及びエナンチオ選択性の観点から最も好ましい。
【0022】
上記一般式(I)で表される化合物は、側鎖としてR1を有する光学活性L又はD-アミノ酸を原料とし、該アミノ酸のカルボキシル基とX2を置換基として有する2-アミノフェノール誘導体のアミノ基とを縮合して得られる化合物に対してX1を置換基として有するサリチル酸誘導体を縮合させることにより製造することができる。必要に応じて該アミノ酸のアミノ基又は2-アミノフェノールの水酸基を適宜の保護基で保護しておくことができる。保護基については、Greenら、Protective Groups in Organic Synthesis, 3rd Edition, 1999, John Wiley & Sons, Inc.などの成書を参照することができる。アミノ基の保護基としては、例えば、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルカノイル基、又はアリールカルボニル基などを挙げることができる(上記のアリールオキシカルボニル基又はアリールカルボニル基においてアリール環は置換又は無置換であってもよく、置換基を有する場合にはハロゲン原子やアルコキシ基などが挙げられる)。これらのうち、アルコキシカルボニル基が好ましい。アルコキシカルボニル基としては、直鎖又は分枝鎖状のC1-6アルコキシ基で構成されるアルコキシカルボニル基が好ましく、より好ましいのはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、又はtert-ブトキシカルボニル基であり、特に好ましいのはtert-ブトキシカルボニル基である。水酸基の保護基としては、ベンジル基などのアラルキル基、ベンゾイル基、トリアルキルシリル基などを用いることができるが、ベンジル基が好ましい。
【0023】
この縮合反応はアミノ基とカルボキシル基とを反応させる通常のアミド形成反応により行うことができ、例えば、活性エステル化法、混合酸無水物法、又は縮合法など適宜の方法により行われる。活性エステル化法は、溶媒中、カルボン酸を活性エステル化剤と反応させ、活性エステルを製造した後、アミノ基と反応させることによって行われる。使用される溶媒としては、不活性であれば特に限定はないが、例えば、メチレンクロリド、クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素類、エーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチルのようなエステル類、又はこれらの混合溶媒が好適である。活性エステル化剤としては、例えば、N-ヒドロキシサクシイミド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3- ジカルボキシイミドのようなN-ヒドロキシ化合物類;1,1'-オキザリルジイミダゾール、N,N'- カルボニルジイミダゾールのようなジイミダゾール化合物類;2,2'-ジピリジルジサルファイドのようなジサルファイド化合物類;N,N'-ジサクシンイミジルカーボネートのようなコハク酸化合物類;N,N'-ビス(2- オキソ-3- オキサゾリジニル)ホスフィニッククロライドのようなホスフィニッククロライド化合物類;N,N'-ジサクシンイミジルオキザレート(DSO)、N,N'-ジフタルイミドオキザレート(DPO)、N,N'-ビス(ノルボルネニルサクシンイミジル)オキザレート(BNO)、1,1'- ビス(ベンゾトリアゾリル)オキザレート(BBTO)、1,1'- ビス(6- クロロベンゾトリアゾリル)オキザレート(BCTO)、1,1'- ビス(6-トリフルオロメチルベンゾトリアゾリル)オキザレート(BTBO)のようなオキザレート化合物類を挙げることができ、好適には、N,N'-カルボニルジイミダゾールのようなジイミダゾール化合物類を挙げることができる。
【0024】
活性エステルとアミノ基との反応は、例えば、アゾジカルボン酸ジエチル−トリフェニルホスフィンのようなアゾジカルボン酸ジ低級アルキル-トリフェニルホスフィン類、N-エチル-5-フェニルイソオキサゾリウム-3'-スルホナートのようなN-低級アルキル-5- アリールイソオキサゾリウム-3'-スルホナート類、ジエチルオキシジフォルメート(DEPC)のようなオキシジフォルメート類、N',N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC) のようなN',N'-ジシクロアルキルカルボジイミド類、ジ-2-ピリジルジセレニドのようなジヘテロアリールジセレニド類、トリフェニルホスフィンのようなトリアリールホスフィン類、p-ニトロベンゼンスルホニルトリアゾリドのようなアリールスルホニルトリアゾリド類、2-クロル-1- メチルピリジニウム ヨーダイドのような2-ハロ-1- 低級アルキルピリジニウムハライド及びジフェニルホスホリルアジド(DPPA)のようなジアリールホスホリルアジド類、N,N'-カルボジイミダゾール(CDI) のようなイミダゾール誘導体、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)のようなベンゾトリアゾール誘導体、N-ヒドロキシ-5- ノールボルネン-2,3- ジカルボキシイミド(HONB)のようなジカルボキシイミド誘導体、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC) のようなカルボジイミド誘導体、1-プロパンホスホン酸環状無水物(T3P)のようなホスホン酸環状無水物のような縮合剤の存在下に好適に行われる。好適には1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC) のようなカルボジイミド誘導体、又は1-プロパンホスホン酸環状無水物(T3P)のようなホスホン酸環状無水物を用いることができる。活性エステルの調製のための反応温度は-10℃ないし室温であり、活性エステル化合物とアミノ基との反応は室温付近であり、反応時間は30分ないし10時間程度である。
【0025】
混合酸無水物法は、カルボン酸の混合酸無水物を製造した後、アミノ基を反応させることにより行われる。縮合法はカルボン酸とアミンとを前記の縮合剤の存在下で直接反応させることによって行なうことができ、上記の活性エステルを製造する反応と同様にして行われる。また、縮合は不活性溶媒中でカルボキシル基を酸ハライドに変換した後、得られた酸ハライドとアミンとを反応させることによって行うこともできる。
【0026】
本発明の方法の一態様を具体的に反応式で示す。下記の反応において、一般式(I)で表される化合物を配位子として含む上記異種金属複合型錯体、好ましくは一般式(I)においてR1がイソプロピル基であり、X1及びX2がハロゲン原子である化合物を配位子として含むネオジム/ナトリウム錯体を反応触媒として用いることができる。特に好ましくは一般式(I)においてR1がイソブチル基であり、X1としてフッ素原子が水酸基に対してパラ位に位置しており、X2としてフッ素原子がアミノ基に対してパラ位に位置している化合物を配位子として含むネオジム/ナトリウム錯体を反応触媒として用いることができる。
【0027】
本明細書において「アンチ」配置とは、一般式(II)で表される1,2-ニトロアルカノール化合物において、水酸基とニトロ基とがアンチ配置であることを意味している。本発明の方法においては上記の異種金属複合型錯体を反応触媒として用いることにより、目的物である1,2-ニトロアルカノール化合物が光学活性化合物として得られる。以下の化学式中に示される立体表記は相対配置を示しており、本明細書において示されるその他の化学式においても同様である。
【0028】
【化3】

(上記スキーム中、R10は炭素数1以上の脂肪族炭化水素基又は炭素数5以上の芳香族炭化水素基、あるいはそれらの組合せからなる基を示し、上記の基を構成する任意の個数の炭素原子は窒素原子、酸素原子、又はイオウ原子などのヘテロ原子で置き換えられていてもよく、上記の基は任意の置換基(該置換基は保護基で保護されていてもよい)を1個又は2個以上有していてもよく;R11は水素原子又はC1-C20アルキル基を示し、該アルキル基は任意の置換基を1個又は2個以上有していてもよく、該アルキル基のアルキル鎖は1個又は2個以上の不飽和結合を含んでいてもよい)
【0029】
本発明の方法は、一般的には-50℃〜-30℃程度の低温下、好ましくは-40℃程度の低温下において、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、又はそれらの混合溶媒などの不活性溶媒中で行なうことができる。一般的にはランタノイドアルコキシド又はランタノイドアラルキルオキシド/アルカリ金属/一般式(I)で表される化合物を1/2/2の混合比で調製した錯体を触媒として用い、反応系内における触媒量を5〜20 mol%、好ましくは8〜10 mol%程度、特に好ましくは9 mol%程度として、ニトロアルカン化合物とアルデヒド化合物とを順次添加することにより反応を行なうことができるが、試薬の調製や反応原料の添加順序は適宜選択することが可能である。本発明の方法において、ランタノイドアルコキシド又はランタノイドアラルキルオキシド/アルカリ金属/一般式(I)で表される化合物を1/2/2の混合比で混合して得られる錯体を沈殿物として単離し、必要に応じて洗浄した後に再懸濁して触媒懸濁液として使用することができるが、この手段により高純度の錯体を簡便に調製して触媒として使用することができ、高純度の触媒を使用することにより極めて高いアンチ選択性及び不斉収率を達成できるので、この態様は本発明の方法の好ましい態様である。
【0030】
また、上記反応をランタノイドとほぼ等量、例えば、5〜20 mol%、好ましくは8〜10 mol%程度、特に好ましくは9 mol%程度の水の存在下で行なうことにより、効率的に反応を進行させることができ、単離収率、ジアステレオ選択性、及びエナンチオ選択性を改善できる場合がある。もっとも、原料化合物であるアルデヒド化合物及びニトロアルカン化合物の比率、及び反応触媒としての錯体の添加量は特に限定されることはなく、適宜選択可能である。また、上記に説明した反応条件が適宜変更可能であることは当業者に容易に理解されることであり、本明細書の実施例に具体的に示した典型的な方法を参照しつつ、反応条件を適宜選択ないし改変又は修飾することにより、本発明の方法を好ましく行なうことができる。
【0031】
本発明の方法で得られた光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物を還元することにより医薬品や天然生理活性物質の製造に有用な光学活性アンチ-1,2-アミノアルコール化合物を得ることができる。還元反応の種類は特に限定されず、存在する官能基の種類などに応じて当業者が適宜選択できることは言うまでもない。例えば、パラジウム炭素触媒を用いた接触還元法などを例示することができるが、これに限定されることはない。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1:配位子の合成
【化4】

【0033】
4-フルオロアニソール(3.40 mL, 30 mmol)をテトラヒドロフラン(THF, 30 mL)に溶かし、-70℃に冷却した。この溶液に、リチウムテトラメチルピペリジン(33 mmol)のTHF溶液(24 mL)を5分以上かけて滴下した後、-70℃で13時間攪拌した。続いて、破砕したドライアイス(140 g)を加え、気体の発生が収まるまで室温で攪拌した。THFを減圧留去し、1N塩酸を加え、酢酸エチルで2度抽出した。合わせた酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過・濃縮後に得られる残渣を、ヘキサン/酢酸エチルから再結晶し、2-フルオロ-5-メトキシ安息香酸(化合物1, 2.74 g, 収率54%)を白色固体として得た。
化合物1
1H NMR (CDCl3) : δ 3.82 (s, 3H), 7.06-7.11 (m, 2H), 7.46-7.48 (m, 1H)
【0034】
得られた化合物1(1.70 g, 10 mmol)を塩化メチレン(30 mL)に懸濁させ、N,N-ジメチルホルムアミド(3滴)を加えて0℃に冷却し、この溶液に塩化オキサリル(1.29 mL, 15 mmol)を加えて室温にて2時間攪拌した。溶媒と塩化オキサリルを減圧留去し、塩化メチレン(10 mL)に溶解させ、2-フルオロ-5-メトキシベンゾイルクロリド(10 mL, 10 mmol, 1.0 M塩化メチレン溶液)を黄色液体として得た。
【0035】
N-tert-ブチルオキシカルボニル-L-ロイシン(2.99 g, 12 mmol)をトルエン(60 mL)に懸濁液させ、氷冷下にてトリエチルアミン(1.99 mL, 14 mmol)、ピバロイルクロリド(1.61 mL, 13 mmol)を順次加え、室温にて15分攪拌した。セライト濾過により得られた濾液を0℃に冷却し、2-ベンジルオキシ-4-フルオロアニリン(2.17 g, 10 mmol)を加えた後、室温にて20分攪拌した。1N塩酸を加え、ジエチルエーテルで抽出し、得られた有機層を飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過・濃縮後に得られる残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 4/1)で精製して化合物2を得た。
化合物2
1H NMR (CDCl3) : δ 0.91 (d, J = 6.4 Hz, 6H), 1.38 (s, 9H), 1.46-1.54 (m, 1H), 1.64-1.76 (m, 2H), 4.20 (brs, 1H), 4.87 (brs, 1H), 5.09 (s, 2H), 6.63-6.67 (m, 2H), 7.32-7.40 (m, 5H), 8.27 (brs, 1H), 8.29 (dd, J = 1.4, 8.6 Hz, 1H)
【0036】
得られた化合物2を塩化メチレン(10 mL)に溶かし、0℃にて4N塩化水素シクロペンチルメチルエーテル溶液(40 mL)を加え、室温で30分攪拌した。反応溶液を減圧濃縮し、得られた固形残渣をメタノールに溶解し、ジエチルエーテルを加えた後に得られた不溶性成分を濾取してジエチルエーテルで十分に洗浄した。減圧乾燥後、(2S)-2-アミノ-N-(2-ベンジルオキシ-4-フルオロ)フェニル-2-イソブチルアセタミド 塩酸塩(3.34 g, 2段階収率91%)を無色粉末として得た。
【0037】
得られた塩酸塩(1.65 g, 4.5 mmol)の塩化メチレン(30 mL)懸濁液を0 ℃に冷却し、2-フルオロ-5-メトキシベンゾイルクロリド(5.0 mL, 5.0 mmol, 1.0 M塩化メチレン溶液)、トリエチルアミン(1.39 mL, 10 mmol)を順次加えた。室温で1時間攪拌した後、反応溶液に1N塩酸を加え塩化メチレンで2度抽出し、合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過・濃縮後に得られる残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 4/1)で精製して化合物3(2.0 g, 収率92%)を得た。
化合物3
1H NMR (CDCl3) : δ 0.93 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.94 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 1.66-1.74 (m, 2H), 1.83-1.88 (m, 1H), 3.77 (s, 3H), 4.75-4.78 (m, 1H), 5.07 (s, 2H), 6.64-6.68 (m, 2H), 6.97-7.04 (m, 2H), 7.16 (dd, J = 8.0, 14.3 Hz, 1H), 7.29-7.33 (m, 3H), 7.38 (dd, J = 1.8, 7.9 Hz, 2H), 7.51 (dd, J = 3.4, 6.1 Hz, 1H), 8.28 (dd, J = 6.1, 8.9 HZ, 1H), 8.32 (s, 1H)
【0038】
得られた化合物3(2.0 g, 4.1 mmol)を塩化メチレン(10 mL)に溶解し、0 ℃で三臭化ホウ素(23 mL, 23 mmol, 1.0 M塩化メチレン溶液)を加えた。0 ℃で3時間攪拌した後、水(70 mL)を加え、室温で30分攪拌し、混合溶液を酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過・濃縮後に得られる残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)で精製し、ヘキサン/クロロホルムから再結晶し、化合物4(1.30 g, 収率84%)を無色無定型晶質体として得た。
化合物4
1H NMR (CD3OD) : δ 1.00 (d, J = 6.5 Hz, 3H), 1.02 (d, J = 6.5 Hz, 3H), 1.77-1.83 (m, 3H), 4.75-4.78 (m, 1H), 6.54 (dd, J = 8.8, 8.9 Hz, 1H), 6.58 (dd, J = 2.8, 10.1 Hz, 1H), 6.88-6.92 (m, 1H), 7.04 (dd, J = 9.2, 10.1 Hz, 1H), 7.11 (dd, J = 3.1, 5.5 Hz, 1H), 7.75 (dd, J = 6.4, 8.9 Hz, 1H)
【0039】
また、配位子の比較のため、以下の化合物を製造した。
【化5】

【0040】
化合物5
1H NMR (CDCl3) : δ 0.96 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.98 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 1.52-1.58 (m, 1H), 1.82-1.88 (m, 2H), 2.87-2.91 (m, 2H), 3.56 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 5.49 (t, J = 8.6 Hz, 1H), 6.81 (dd, J = 7.9, 7.9 Hz, 1H), 6.93-6.97 (m, 2H), 7.04-7.09 (m, 3H), 7.60 (brs, 1H), 8.79 (s, 1H)
化合物6
1H NMR (CDCl3) : δ 0.97 (d, J = 6.3 Hz, 3H), 1.00 (d, J = 6.3 Hz), 1.71-1.79 (m, 2H), 1.87-1.93 (m, 1H), 4.81-4.86 (m, 1H), 6.57 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 6.83 (dd, J = 7.5, 7.5 Hz, 1H), 6.98 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 7.08-7.12 (m, 2H), 7.21-7.26 (m, 1H), 7.44 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 8.84 (brs, 1H)
【0041】
化合物7
1H NMR (CD3OD) : δ 0.99 (d, J = 5.5 Hz, 3H), 1.02 (d, J = 5.8 Hz, 3H), 1.76-1.86 (m, 3H), 4.74-4.77 (m, 1H), 6.66 (ddd, J = 3.1, 8.6, 8.6 Hz, 1H), 6.76 (dd, J = 5.2, 8.6 Hz, 1H), 6.96 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.27-7.33 (m, 3H), 7.83 (dd, J = 3.1, 10.7 Hz, 1H)
化合物8
1H NMR (CD3OD) : δ 1.00 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 1.02 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 1.79-1.83 (m, 3H), 4.76-4.79 (m, 1H), 6.80 (ddd, J = 1.5, 7.9, 7.9 Hz, 1H), 6.84 (dd, J = 1.2, 7.9 Hz, 1H), 6.89-6.92 (m, 1H), 6.97 (ddd, J = 1.5, 7.9, 7.9 Hz, 1H), 7.04 (dd, J = 8.9, 10.4 Hz, 1H), 7.10-7.12 (m, 1H), 7.80 (dd, J = 1.5, 7.9 Hz, 1H)
【0042】
例2
【化6】

加熱真空乾燥した試験管に化合物4(6.8 mg, 0.018 mmol)を加え、10分間真空乾燥した後、アルゴン雰囲気下にてTHF(0.30 mL)、Nd(OiPr)3(0.2 M/THF溶液, 45 μL, 0.009 mmol)を加え10分間攪拌した。この懸濁液に氷冷下NaHMDS(1.0 M/THF溶液, 18 μL, 0.018 mmol)を加え、室温にてニトロエタン(0.21 ml, 3.0 mmol)、水(0.2 M/THF溶液, 45 μL, 0.009 mmol)、THF(1.1 mL)を順次加えた。試験管を-40 ℃の恒温槽に移し、ベンズアルデヒド(30 μL, 0.30 mmol)を加えて15時間攪拌した後、1N塩酸(3 mL)を加え、その混合溶液をジエチルエーテル(30mL)にて抽出し、飽和重曹水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥した。目的物の化学収率98%(1H NMR, 内部標準1,4-dioxane)、anti/syn = >40/1、ee 88%。
【0043】
例3
単離された触媒を用いて調製した触媒懸濁液を用いて例2と同様の反応を行った。加熱真空乾燥したガラス管に化合物4(6.8mg, 0.018 mmol)を加え、10分間真空乾燥した後、アルゴン雰囲気下にてTHF(0.30 mL)、Nd(OiPr)3(0.2 M/THF溶液, 45 μL, 0.009 mmol)を加えてボルテックスミキサーで激しく撹拌した。この懸濁液に氷冷下NaHMDS(1.0 M/THF溶液, 18 μL, 0.018 mmol)、室温にてニトロエタン(40 μL, 0.57 mmol)、水(0.2 M/THF溶液, 45 μL, 0.009 mmol)を順次加えてボルテックスミキサーで激しく撹拌した。30分後、この溶液をエッペンドルフチューブに移し、1分間遠心分離(13750 rpm)し、上清を捨てて錯体を単離した。ここにTHF(1.0 mL)を加えてボルテックスミキサーで激しく撹拌し、再度1分間遠心分離した(13750 rpm)。先と同様に上清を捨てて錯体を単離し、THF(1.3 mL)を加えて触媒懸濁液とした。別途用意した加熱真空乾燥した試験管にニトロエタン(0.21 mL, 3.0 mmol)及び調製した触媒懸濁液をアルゴン雰囲気下にて加え、試験管を-40 ℃の恒温槽に移し、ベンズアルデヒド(30 μL, 0.30 mmol)を加えた。-40 ℃で7時間攪拌した後、1N塩酸(3 mL)を加え、その混合溶液をジエチルエーテル(30 mL)にて抽出し、飽和重曹水、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥した。化学収率99%(1H NMR, 内部標準1,4-dioxane)、anti/syn = >40/1、93% ee。この反応で得られたanti/syn比及び光学収率(ee.%)は、フッ素原子が導入されていない対応の化合物を配位子として用いた場合に比べて顕著に高いものであった(Tetrahedron Letters, 49, pp.272-276, 2008のTable 2のEntry 5を参照のこと)。
【0044】
例4
反応条件、アルデヒド化合物、及び/又はニトロアルカンを変更して例2又は例3と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。エントリー番号1は上記例3の結果を示し、エントリー番号3及び4はニトロエタンの量(通常は10当量)を4又は1当量に変更した結果を示し、エントリー番号5は反応温度を0℃とした場合の結果を示し、エントリー番号6はニトロエタンに代えてニトロプロパンを用いた場合の結果を示し、エントリー番号8は基質の濃度を0.2Mから0.5Mに変化させた場合の結果を示し、エントリー10及び11は、それぞれ触媒調製時の上清及び沈殿を用いた場合の結果を示し、エントリー番号12及び13は触媒調製時に得られる沈殿を一度洗って乾燥させた場合(エントリー番号12)及び同様に調製した触媒を未乾燥で用いた場合(エントリー番号13)の結果を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
例5
比較のため、化合物5〜8を用いて例2と同様に触媒を調製し、触媒量9 mol%、反応温度-40℃で同様のニトロアルドール反応を行った。結果を表2に示す。
【表2】

【0047】
例6
化合物4とNd以外の希土類金属を用いて例2あるいは例3と同様に触媒を調製し、触媒量3 mol%、反応温度-40℃で同様のニトロアルドール反応を行った。結果を表3に示す。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性アンチ-1,2-ニトロアルカノール化合物の製造方法であって、アルデヒド化合物と炭素数2以上のニトロアルカン化合物とを下記の一般式(I):
【化1】

(式中、R1はC3-8アルキル基又はアラルキル基を示し、X1及びX2はそれぞれ独立にハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、又はカルボキシル基を示す)で表される化合物を配位子として含む異種金属複合型の錯体(ただし2種の金属のうちの1種はランタノイドから選択され、もう1種の金属はアルカリ金属である)の存在下で反応させる工程を含む方法。
【請求項2】
該錯体がランタノイドとしてネオジム(Nd)又はサマリウム(Sm)を含み、アルカリ金属としてナトリウムを含む異種金属複合型錯体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R1がイソブチル基である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
X1がフッ素原子である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
X2がフッ素原子である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ニトロアルカンがR11-CH2-NO2(式中、R11はC1-C20アルキル基を示し、該アルキル基は置換基を有していてもよい)で表されるニトロアルカンである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
反応温度を-50〜-30℃の範囲で行なう請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
調製された錯体を単離して再懸濁する工程を含む請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ランタノイドとほぼ等量の水の存在下で行なう請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
一般式(I)で表される化合物を配位子として含む請求項1に記載の異種金属複合型錯体。
【請求項11】
請求項1に記載の一般式(I)で表される化合物。

【公開番号】特開2010−189374(P2010−189374A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165211(P2009−165211)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】