説明

立体音響再生装置

【課題】部屋の形状や家具などの配置によらず、サラウンドサウンドの各音像を聴取者の周囲に理想的に定位させる立体音響再生装置を提供する。
【解決手段】立体音響再生装置1は、聴取者Uの前方にスピーカアレイ2を設置し、スピーカアレイ2の各スピーカユニットSP1〜SPnに対して分配する4チャンネルサラウンドサウンドの各チャンネルのオーディオ信号について、遅延時間やゲインを調整して、各オーディオ信号を再生する2つの仮想音源4,5を聴取者Uの左右前方に定位させる。また、立体音響再生装置1は、リアチャンネルのオーディオ信号に対して、上記処理と、聴取者Uの左右後方から聞こえる音声の周波数特性の付与処理と、2つの仮想音源4,5の位置から聞こえる音声の周波数特性をキャンセルする処理とクロストークキャンセル処理とを行い、リアチャンネルのオーディオ信号を再生する2つの仮想音源6,7を聴取者Uの左右後方に定位させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカアレイを用いて聴取者の周囲に複数の音像を定位させる立体音響再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、聴取者の周囲に複数のスピーカを配置して、サラウンドサウンドを再生するサラウンドシステムが普及しつつある。しかし、このサラウンドシステムを設置する際には、複数のスピーカを聴取位置の周囲に設ける必要があり、設置作業や各スピーカのバランス調整が繁雑であるという問題があった。
【0003】
そこで、受聴者の前方に配置される一対の実在するスピーカへ、ステレオ信号と仮想のスピーカから出力されるべき他の音響信号とを供給して、立体音響を再生する音響信号処理装置が開示されている(特許文献1参照。)。
【0004】
また、複数のスピーカをライン状に並べたスピーカアレイを聴取者の前方に設置し、このスピーカアレイから放音させた音声を部屋の壁や天井に反射させて、仮想音源またはファントムを聴取位置の周囲に形成するオーディオ再生装置、ラインアレイスピーカユニット及びオーディオ再生方法に関する発明が開示されている(特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平06−189399号公報
【特許文献2】特開2005−64746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の音響信号処理装置では、一対の実在するスピーカとして、あるサイズの振動板を備えた一般的なスピーカを使用しており、これらのスピーカは点音源とは言えない。しかしながら、この装置では、点音源から受聴者の各耳までの頭部伝達関数を用いて音像を定位させる。そのため、この装置では、計算上の音像の定位位置と、実際の音像の定位位置とにずれが生じるので、サラウンドサウンドの各チャンネルの音像を受聴者の周囲に理想的には定位できず、立体音響効果を最適化できないという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明では、上記のようにスピーカアレイから放音させる音声を部屋の壁や天井に反射させるので、スピーカユニットの設置位置やその部屋の形状や家具などの配置によっては、サラウンドサウンドの各チャンネルの音声を聴取位置へ反射させることができない場合があった。
【0007】
そこで、本発明は、部屋の形状や家具などの配置によらず、サラウンドサウンドの各音像を聴取者の周囲に理想的に定位させることができる立体音響再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の課題を解決するための手段として、以下の構成を備えている。
【0009】
(1)複数のスピーカユニットを配列して成るスピーカアレイと、
前記スピーカアレイから出力された音声信号が聴取者の前方に設定された仮想点音源から出力された音声と同様の波面を形成するよう、各スピーカユニットに分配する音声信号の出力タイミング及びゲインを制御するフロント処理部と、
前記仮想点音源から出力された音声信号が聴感上聴取者の後方に定位するような周波数特性を、音声信号に付与した後に、この音声信号を前記フロント処理部に入力するリア処理部と、
を備え、入力された音声信号のうちフロントチャンネルの信号を前記フロント処理部に入力し、リアチャンネルの音声信号を前記リア処理部に入力することを特徴とする。
【0010】
この構成においては、立体音響再生装置は、聴取者の前方に設定された仮想点音源から出力されたリアチャンネルの音声信号が、聴感上聴取者の後方に定位するような周波数特性を、リアチャンネルの音声信号に付与した後に、このリアチャンネルの音声信号と、フロントチャンネルの音声信号と、を前記フロント処理部に入力し、スピーカアレイから出力された音声信号が聴取者の前方に設定された仮想スピーカ位置から出力された音声と同様の波面を形成するよう、各スピーカユニットに分配する音声信号の出力タイミング及びゲインを制御する。したがって、フロントチャンネルの仮想点音源を聴取者の前方に、リアチャンネルの仮想音源を聴取者の後方に、それぞれ定位させることができる。また、立体音響再生装置は、スピーカアレイから出力させる音声を部屋の壁面や天井面に反射させることなく、サラウンドサウンドの各チャンネルの音像を受聴者の周囲に理想的に定位させて、その設置場所にかかわらず立体音響効果を最適化できる。
【0011】
(2)前記リア処理部は、前記リアチャンネルのオーディオ信号に対して、聴取位置の後方に設定された後方仮想音源から聴取者の耳に伝搬する音声の周波数特性を頭部伝達関数に基づいて付与する後方定位付与処理を行う後方定位付与部と、
前記後方定位付与処理がなされたリアチャンネルのオーディオ信号に対して、前記2つの仮想点音源の一方から放音させるリアチャンネルのオーディオ信号が前記聴取者の一方の耳のみに聞こえ、前記2つの仮想点音源の他方から放音させるリアチャンネルのオーディオ信号が前記聴取者の他方の耳のみに聞こえるように、反対側の耳に聞こえるオーディオ信号を打ち消すオーディオ信号を生成して、前記フロント処理部へ出力するクロストークキャンセル処理を行うクロストークキャンセル補正部と、を備え、
前記フロント処理部は、マルチチャンネルサラウンドサウンドの各チャンネルのオーディオ信号を前記スピーカアレイの全部または一部のスピーカユニットに対して分配し、各チャンネルの音声の出力タイミング及びゲインをスピーカユニット毎に制御して、前記スピーカアレイから放音された音声により、前記聴取位置の前方に設定された2つの仮想点音源から放音された波面を形成するよう、各スピーカユニットに分配する音声信号の出力タイミング及びゲインを制御する点音源定位処理を行うことを特徴とする。
【0012】
この構成においては、立体音響再生装置は、スピーカアレイの各スピーカユニットから音声を放音させるタイミングを調整することで、マルチチャンネルサラウンドサウンドのフロントチャンネル及びリアチャンネルのオーディオ信号を放音する2つの仮想音源として、点音源を聴取位置の前方に定位させることができる。また、本発明の立体音響再生装置は、これら2つの仮想点音源からリアチャンネルのオーディオ信号を放音させる際に、聴取位置の後方に音像を定位させる処理として、2つの仮想点音源の一方から放音させるリアチャンネルのオーディオ信号が聴取者の一方の耳のみに聞こえ、2つの仮想点音源の他方から放音させるリアチャンネルのオーディオ信号が聴取者の他方の耳のみに聞こえるように、反対側の耳に聞こえるオーディオ信号を打ち消すオーディオ信号を生成する処理を行うことで、フロントチャンネルのオーディオ信号を放音する2つの仮想点音源を聴取者の前方に定位させるとともに、リアチャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源(後方仮想音源)を聴取位置の後方に定位させることができる。したがって、立体音響再生装置は、リアチャンネルのオーディオ信号を点音源から放音させるので、点音源から聴取者の耳までの頭部伝達関数を用いて音像を定位させる位置と、スピーカアレイから実際に放音させて形成する音像の位置と、が等しくなり、理想的な効果を得ることができる。また、この構成では、スピーカアレイを使用しているので、仮想点音源を遠くに配置しても、スピーカ自体を視聴者の近距離に配置することができるため、空間伝播の距離を短くすることができ、理想値とのずれを小さくすることができる。そのため、クロストークのキャンセル量を大きくすることができるので、2つの仮想点音源から放音される音声の周波数特性をキャンセルする処理を行う必要がなく、この処理を行う補正部を省略できる。
【0013】
(3)前記仮想点音源または前記後方仮想音源の少なくとも一方の定位位置を設定する操作部と、
前記操作部により設定された定位位置の情報に基づいて、前記フロント処理部が前記点音源定位処理を行うのに必要なパラメータ、前記後方定位付与部が後方定位付与処理を行うのに必要なパラメータ、及び前記クロストークキャンセル補正部が前記クロストークキャンセル処理を行うのに必要なパラメータの少なくともいずれかを算出して、これら各部へ出力するパラメータ算出部と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成においては、立体音響再生装置は、操作部で仮想点音源または前記後方仮想音源の少なくとも一方の定位位置が設定されると、パラメータ算出部がその定位位置の情報に基づいて、点音源定位処理を行うのに必要なパラメータ、後方定位付与処理を行うのに必要なパラメータ、またはクロストークキャンセル処理を行うのに必要なパラメータの少なくともいずれかを算出して、フロント処理部、後方定位付与部、またはクロストークキャンセル補正部の少なくともいずれかへパラメータを出力する。したがって、操作部で仮想音源の定位位置の情報が設定されると、直ちに仮想音源の定位位置を設定・変更することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の立体音響再生装置は、スピーカアレイの各スピーカユニットから音声を放音させるタイミングを調整することで、サラウンドサウンドのフロントチャンネル及びリアチャンネルのオーディオ信号を放音する2つの仮想音源(Lチャンネル及びRチャンネルの音源)として、点音源を聴取位置の前方に定位させることができる。また、本発明の立体音響再生装置は、これら2つの仮想点音源からリアチャンネルのオーディオ信号(SLチャンネル及びSRチャンネルのオーディオ信号)を放音させる際に、聴取位置の後方に音像を定位させる処理や、クロストークキャンセル処理を行い、リアチャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源を聴取位置の後方に定位させることができる。
【0016】
このように、リアチャンネルのオーディオ信号を点音源から放音させることができるので、点音源から聴取者の耳までの頭部伝達関数を用いて音像を定位させる位置と、スピーカアレイから実際に放音させて形成する音像の位置と、が等しくなるので、理想的な効果を得ることができる。
【0017】
また、聴取者の前方にスピーカアレイを配置して、音声を部屋の壁面や天井面に反射させることなく、フロントチャンネルの音像を聴取位置の前方に定位させるとともに、リアチャンネルの音像を聴取位置の後方に定位させるので、本発明の立体音響再生装置により設置場所にかかわらず、マルチチャンネルサラウンドサウンドの各チャンネルの音像を受聴者の周囲に理想的に定位させるので、立体音響効果を最適化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下の説明では、4チャンネルのサラウンドサウンドを再生する構成の立体音響再生装置を例に挙げて説明する。ここで、4チャンネルのサラウンドサウンドの各チャンネルについて、フロントチャンネルの左側をL(Left)ch、フロントチャンネルの右側をR(Right )ch、リアチャンネルの左側をSL(Surround Left )ch、及びリアチャンネルの右側をSR(Surround Right)chと称する。
【0019】
本発明の立体音響再生装置は、聴取者の前方にスピーカアレイを設置し、このスピーカアレイを構成する複数のスピーカユニットの各々に対して分配する4チャンネルサラウンドサウンドの各チャンネルのオーディオ信号について、遅延時間やゲインを調整して、各オーディオ信号を再生する2つの仮想音源を、聴取者の左右前方に点音源として定位させる。また、立体音響再生装置は、リアチャンネルのオーディオ信号に対して、上記の処理と、聴取者の左右後方から聞こえる音声の周波数特性の付与処理と、2つの仮想音源の位置から聞こえる音声の周波数特性をキャンセルする処理と、クロストークキャンセル処理と、を行って、リアチャンネルのオーディオ信号を再生する2つの仮想音源を聴取者の左右後方に定位させる。
【0020】
まず、立体音響再生装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る立体音響再生装置の構成を示すブロック図である。
【0021】
立体音響再生装置1は、オーディオ信号入力端子10L,10R,10SL,10SR、受信部11、操作部12、表示部13、頭部伝達関数係数テーブル14、パラメータ算出部15、バーチャルサラウンド信号処理部16、加算器17、遅延信号処理部18、D/Aコンバータ(DAC)19−1〜19n、及びアンプ(AMP)20−1〜20−nを備えている。また、立体音響再生装置1は、n個のスピーカユニットSP1〜SPnが配列されたスピーカアレイ2が外部に接続され、聴取者Uによるリモートコントローラ(以下、リモコンと称する。)3の操作を受け付ける。
【0022】
オーディオ信号入力端子10L,10R,10SL,10SRは、マルチチャンネルサラウンドサウンドを再生するDVDプレーヤやチューナなどのオーディオ信号出力端子とオーディオケーブルで接続され、4チャンネルサラウンドサウンドの各チャンネルのオーディオ信号が入力される。
【0023】
リモコン3は、聴取者Uによる仮想音源の定位位置の設定などの操作を受け付けて、その操作に応じた信号を出力する。
【0024】
受信部11は、リモコン3が出力した信号を受信し、その受信した信号に応じた信号をパラメータ算出部15へ出力する。
【0025】
操作部12は、聴取者Uによる仮想音源の定位位置の設定などの操作を受け付けて、その操作に応じた信号をパラメータ算出部15へ出力する。
【0026】
表示部13は、聴取者Uへ伝達する事項などを表示する。また、聴取者Uが仮想音源の定位位置を変更する場合に、仮想音源の定位位置などの情報を表示する。
【0027】
頭部伝達関数係数テーブル14は、聴取者Uの聴取位置の周囲の複数の点から聴取者Uの左耳EL及び右耳ERまでの頭部伝達関数の係数を記憶している。
【0028】
パラメータ算出部15は、受信部11または操作部12からフロントチャンネルの仮想音源の定位位置の情報(座標情報)が送られてくると、この定位位置の情報に基づいて、仮想音源からスピーカユニットSP1〜SPnまでの音声の伝達遅延時間t1〜tnと、仮想音源から放音された音声がスピーカユニットSP1〜SPnに到達するまでに減衰する音圧のゲイン(音圧減衰ゲイン)G1〜Gnと、の2種類のパラメータを算出する(詳細は後述する。)。そして、パラメータ算出部15は、2種類のパラメータを遅延信号処理部18へ出力する。また、パラメータ算出部15は、フロントチャンネルの仮想音源の定位位置の情報が出力されると、この定位位置の情報に応じた頭部伝達関数の係数を頭部伝達関数係数テーブル14から読み出す。そして、パラメータ算出部15は、これらの係数に基づいてパラメータを算出し、バーチャルサラウンド信号処理部16へこのパラメータを出力する。
【0029】
また、パラメータ算出部15は、受信部11または操作部12から、リアチャンネルの仮想音源の定位位置の情報が出力されると、この定位位置の情報に応じた頭部伝達関数の係数を頭部伝達関数係数テーブル14から読み出す。そして、パラメータ算出部15は、これらの係数に基づいてパラメータを算出し、バーチャルサラウンド信号処理部16へこのパラメータを出力する。
【0030】
バーチャルサラウンド信号処理部16は、リアチャンネルのオーディオ信号に対して、聴取者Uの左右後方から聞こえる音声の周波数特性の付与処理と、クロストークキャンセル処理と、を行う。
【0031】
加算器17は、オーディオ信号入力端子10L,10Rから入力されたフロントチャンネルのオーディオ信号と、バーチャルサラウンド信号処理部16で処理されたリアチャンネルのオーディオ信号と、を加算して、遅延信号処理部18へ出力する。
【0032】
遅延信号処理部18は、聴取者Uの前方に設置したスピーカアレイ2の各スピーカユニットSP1〜SPnに対して分配するフロントチャンネル及びリアチャンネルのオーディオ信号の遅延時間やゲインを調整する。また、後述するように、遅延信号処理部18は、SLchの仮想音源を定位させる遅延信号処理部18Lと、SRchの仮想音源を定位させる遅延信号処理部18Rからなる。
【0033】
D/Aコンバータ19−1〜19nは、遅延信号処理部18から出力されたディジタルオーディオ信号をアナログオーディオ信号に変換して出力する。
【0034】
アンプ20−1〜20−nは、D/Aコンバータ19−1〜19−nから出力されたアナログオーディオ信号を増幅して、スピーカアレイ2の各スピーカユニットSP1〜SPnへ出力する。
【0035】
制御部21は、立体音響再生装置1の各部の動作を制御する。
【0036】
スピーカアレイ2は、複数のスピーカユニットSP1〜SPnを備えており、アンプ20−1〜20−nで増幅されたアナログオーディオ信号に応じた音声を放音する。
【0037】
次に、立体音響再生装置1の動作について説明する。図2は、スピーカアレイ2を用いて1つの仮想音源の音波面を合成する様子を示す図である。図2には、遅延信号処理部18Rの詳細な構成を示している。また、図2には、説明の容易のために、スピーカアレイ2のスピーカユニットSP1〜SP8により仮想音源4を定位させる構成とし、図1に示したD/Aコンバータ19−1〜19−8、及びアンプ20−1〜20−8の表記を省略している。
【0038】
図2に示すように、遅延信号処理部18Rは、ディジタルフィルタ21R−1〜21R−8と、ゲイン調整回路22R−1〜22R−8を備えている。
【0039】
パラメータ算出部15は、リモコン3または操作部12(不図示)の操作により設定・変更された仮想音源4の定位位置から、スピーカユニットSP1〜SP8までのそれぞれの距離L1〜L8を求める。また、パラメータ算出部15は、仮想音源4からスピーカユニットSP1〜SP8までの音の伝達遅延時間t1〜t8を、下記の式1を用いて算出する。
【0040】
tn=Ln/C (C:音速)‥‥‥(式1)
そして、パラメータ算出部15は、式1を用いて算出した伝達遅延時間t1〜t8に応じたパラメータを遅延信号処理部18Rに出力し、遅延信号処理部18Rは、これらのパラメータをディジタルフィルタ21R−1〜21R−8に設定する。
【0041】
また、パラメータ算出部15は、仮想音源4から放音された音声がスピーカユニットSP1〜SP8に到達するまでに減衰する音圧のゲイン(音圧減衰ゲイン)G1〜G8を、下記の式2を用いて算出する。
【0042】
Gn=GM/Ln (GM:単位長当たりの減衰ゲイン定数)‥‥‥(式2)
そして、パラメータ算出部15は、式2を用いて算出した音圧減衰ゲインG1〜G8に応じたパラメータを遅延信号処理部18Rに出力し、遅延信号処理部18Rは、これらのパラメータをゲイン調整回路22R−1〜22R−8に設定する。
【0043】
遅延信号処理部18Rは、オーディオ信号入力端子10Rから入力されたRチャンネルのオーディオ信号を8つに分配し、ディジタルフィルタ21R−1〜21R−8によって各オーディオ信号を遅延させ(遅延処理)、さらにゲイン調整回路22R−1〜22R−8によって音圧減衰ゲインをそれぞれ乗算して(音圧減衰処理)、各スピーカユニットSP1〜SP8へ出力する。このように、立体音響再生装置1は、仮想音源4の定位位置からスピーカアレイ2のスピーカユニットSP1〜SP8に到達する音声をシミュレートするので、聴取者Uの右前方であってスピーカアレイ2の右後方に、仮想音源4が定位しているように定位感を与えることができる。また、複数のスピーカユニットを用いることで、図2に示したように点音源から発せられた音波面を合成することができるので、仮想音源4を点音源とすることができる。
【0044】
遅延信号処理部18Rは、上記の処理に加えて、音声が伝搬する際の周波数特性の変化をシミュレートする処理を行うことも可能である。すなわち、仮想音源4から聴取者Uの耳までの頭部伝達関数に基づいた係数を頭部伝達関数係数テーブル14から読み出して、これらの係数に応じたパラメータを算出し、このパラメータをディジタルフィルタ21R−1〜21R−8に設定する。これにより、仮想音源4の位置から聴取者Uの耳に伝搬する音声の周波数特性をRchのオーディオ信号に付与することができるので、仮想音源4の定位感をさらに高めることができる。
【0045】
また、各スピーカユニットSP1〜SPnを平面上(例えば、マトリックス状)に配置したスピーカアレイ2を立体音響再生装置1に接続することで、仮想音源4を3次元的に定位させることが可能になる。
【0046】
次に、スピーカアレイ2を用いて2チャンネルステレオ音声を再生する方法を説明する。図3は、スピーカアレイ2を用いて2つの異なる仮想音源の音波面を合成する様子を示す図である。ここで、図3には、説明の容易のために、図2と同様にスピーカアレイ2のスピーカユニットSP1〜SP8により仮想音源4,5を定位させる構成とし、図1に示したD/Aコンバータ19−1〜19−8、及びアンプ20−1〜20−8の表記を省略している。
【0047】
図3に示すように、立体音響再生装置1は、Rチャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源4を聴取者Uの右前方に定位させる処理を行う遅延信号処理部18Rと、Lチャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源5を聴取者Uの左前方に定位させる処理を行う遅延信号処理部18Lと、を備えている。また、遅延信号処理部18Rは、図2に示した構成と同様である。さらに、遅延信号処理部18Lは、ディジタルフィルタ21L−1〜21L−8と、ゲイン調整回路22L−1〜22L−8を備えている。
【0048】
遅延信号処理部18Rは、図2に基づいて説明した遅延信号処理部18Rと同様に、オーディオ信号入力端子10Rから入力されたRチャンネルのオーディオ信号を8つに分配し、ディジタルフィルタ21R−1〜21R−8によって各オーディオ信号を遅延させ(遅延処理)、さらにゲイン調整回路22R−1〜22R−8によって音圧減衰ゲインをそれぞれ乗算して(音圧減衰処理)、各スピーカユニットSP1〜SP8へ出力する。
【0049】
遅延信号処理部18Lは、オーディオ信号入力端子10Lから入力されたLチャンネルのオーディオ信号を8つに分配し、ディジタルフィルタ21L−1〜21L−8によって各オーディオ信号を遅延させ(遅延処理)、さらにゲイン調整回路22L−1〜22L−8によって音圧減衰ゲインをそれぞれ乗算して(音圧減衰処理)、各スピーカユニットSP1〜SP8へ出力する。
【0050】
図3に示すように、立体音響再生装置1では、オーディオ信号入力端子10Rから入力されたRチャンネルのオーディオ信号に対して、遅延信号処理部18Rで前記の遅延処理及び音圧減衰処理を行い、仮想音源4の定位位置からスピーカアレイ2のスピーカユニットSP1〜SP8に到達する音声をシミュレートする。また、立体音響再生装置1では、オーディオ信号入力端子10Lから入力されたLチャンネルのオーディオ信号に対して、遅延信号処理部18Lで遅延処理及び音圧減衰処理を行い、仮想音源5の定位位置からスピーカアレイ2のスピーカユニットSP1〜SP8に到達する音声をシミュレートする。遅延信号処理部18Rと遅延信号処理部18Lの信号処理結果は、スピーカアレイ2の各スピーカユニット毎に加算器23−1〜23−8により足し合わされて、各スピーカユニットSP1〜SP8へ供給され、スピーカアレイ2の各スピーカユニットSP1〜SP8から音声を放音させる。これにより、立体音響再生装置1は、聴取者Uの右前方であってスピーカアレイ2の右後方に仮想音源4を、また聴取者Uの左前方であってスピーカアレイ2の左後方に仮想音源5を、それぞれ定位させることができる。また、複数のスピーカユニットを使用しているので、前記のように点音源から発せられた音波面を合成することができるので、仮想音源4,5を点音源とすることができる。
【0051】
次に、スピーカアレイ2を用いて4チャンネルサラウンドサウンドを再生する方法を説明する。図4は、スピーカアレイ2を用いて4つの異なる仮想音源を聴取者の周囲に定位させる様子を示す図である。図5は、バーチャルサラウンド信号処理部の詳細な構成を示すブロック図である。ここで、図4には、説明の容易のために、図3と同様にスピーカアレイ2のスピーカユニットSP1〜SP8により仮想音源4〜7を定位させる構成とし、図1に示したD/Aコンバータ19−1〜19−8、及びアンプ20−1〜20−8の表記を省略している。
【0052】
図4に示すように、立体音響再生装置1は、オーディオ信号入力端子10SRから入力されたSRchのオーディオ信号、及びオーディオ信号入力端子10SLから入力されたSLchのオーディオ信号に対して、バーチャルサラウンド信号処理部16でそれぞれ聴取者Uの左右後方の定位を付与するとともに、クロストークキャンセル処理を行う。
【0053】
図5に示すように、バーチャルサラウンド信号処理部16は、フィルタ31R,31Lを備えたSRch定位付加部31と、フィルタ32R,32Lを備えたSLch定位付加部32と、加算器34,35、Rchクロス補正部37、Lchクロス補正部38、及び加算器40,41を備えたクロストークキャンセル補正部33と、からなる。
【0054】
バーチャルサラウンド信号処理部16は、聴取者UにはSRchのオーディオ信号を放音する仮想音源6が聴取者Uの右後方に定位して聞こえるように、また、聴取者UにはSLchのオーディオ信号を放音する仮想音源7が聴取者Uの左後方に定位して聞こえるように、信号処理を行う。
【0055】
ここで、クロストークキャンセル処理において2つのスピーカを使用した場合、視聴者の耳とスピーカ音源との距離が離れているため、空間伝播での周波数特性や位相変化がシミュレーション通りに起きないことによる理想値とのずれが生じる。そのため、クロストークのキャンセル量が減少するので、2つのスピーカから放音される音声の周波数特性をキャンセルする処理を行うために補正部を設けていた。
【0056】
これに対し、本発明のようにアレイスピーカを使用した場合には、仮想点音源を遠くに配置しても、スピーカ自体を視聴者の近距離に配置することができるため、空間伝播の距離を短くすることができ、理想値とのずれを小さくすることができる。そのため、クロストークのキャンセル量を大きくすることができるので、2つの仮想点音源から放音される音声の周波数特性をキャンセルする処理を行う必要がなく、この処理を行う補正部を省略できる。
【0057】
バーチャルサラウンド信号処理部16の各部は、具体的には以下のような動作を行う。SRch定位付加部31は、前記のように、フィルタ31R及びフィルタ31Lを備えている。フィルタ31Rには聴取者Uの右後方に定位する音像から聴取者Uの右耳ERまでの頭部伝達関数に基づいたフィルタ係数及び遅延時間が設定され、フィルタ31Lには聴取者Uの右後方に定位する音像から聴取者Uの左耳ELまでの頭部伝達関数に基づいたフィルタ係数及び遅延時間が設定される。SRch定位付加部31は、聴取位置の聴取者Uには聴取者Uの右後方にSRchの仮想音源6が定位しているように右耳ERと左耳ELにそれぞれ聞こえる周波数特性をSRchのオーディオ信号に付与する。
【0058】
また、SLch定位付加部32は、前記のように、フィルタ32R及びフィルタ32Lを備えている。フィルタ32Rには聴取者Uの左後方に定位する音像から聴取者Uの右耳ERまでの頭部伝達関数に基づいたフィルタ係数が及び遅延時間が設定され、フィルタ32Lには聴取者Uの左後方に定位する音像から聴取者Uの左耳ELまでの頭部伝達関数に基づいたフィルタ係数及び遅延時間が設定される。SLch定位付加部32は、聴取位置の聴取者Uには聴取者Uの左後方にSLchの仮想音源7が定位しているように右耳ERと左耳ELにそれぞれ聞こえる周波数特性をSLchのオーディオ信号に付与する。
【0059】
フィルタ31R,32Rから出力されたオーディオ信号は、加算器34で加算されて、クロストークキャンセル補正部33のRchクロス補正部37及び加算器40へ出力される。また、フィルタ31L,32Lから出力されたオーディオ信号は、加算器35で加算されて、クロストークキャンセル補正部33のLchクロス補正部38及び加算器41へ出力される。
【0060】
ここで、聴取者Uに対して、例えば仮想音源4からフラットな周波数特性の音を放音すると、聴取者Uの右耳ERに届く音は各周波数成分が減衰して独特の周波数特性となる。また、仮想音源4から聴取者Uの左耳ELに届く音は、各周波数成分が減衰して独特の周波数特性となる。そのため、聴取者Uは、このような周波数特性の音が聴取者Uの耳EL,ERにある時間差で届くので、仮想音源4から放音されたと無意識に判断することができる。
【0061】
一方、SRchのオーディオ信号に対して、聴取者Uの右後方に定位する音源から放音されて聴取者Uの耳に到達する音声の周波数特性と、仮想音源4から放音されて聴取者Uの右耳ERに到達する音声の周波数特性をキャンセルする周波数特性を、頭部伝達関数に基づいて付与して、仮想音源4から放音させると、聴取者Uは右後方からその音声が聞こえるように感じる。また、このとき、仮想音源4から放音された音声が聴取者Uの右耳のみに聞こえるように、仮想音源4から放音されて聴取者Uの左耳に伝搬する音声を打ち消す音声を生成して仮想音源5から放音させると、聴取者Uは、SRchの音声が仮想音源4から放音されたことを知覚しなくなる。
【0062】
そこで、クロストークキャンセル補正部33では、仮想音源4から放音される音声が聴取者Uの右耳ERのみに聞こえるように、仮想音源5から放音される音声が聴取者Uの左耳ELのみに聞こえるように、反対側の耳に聞こえる音声を打ち消す音声を生成するクロストークキャンセル処理を行う。
【0063】
Rchクロス補正部37には、仮想音源4から聴取者Uの左耳ELまでの頭部伝達関数の逆関数に対応するフィルタ係数が設定される。Rchクロス補正部37は、加算器34から出力されたリアチャンネルのオーディオ信号に対して、仮想音源4から左耳ELに伝搬する特性を打ち消す処理と、を行う。
【0064】
また、Rchクロス補正部37は、加算器34から出力されたリアチャンネルのオーディオ信号について、上記処理を行って図外のバッファで位相を反転し、加算器41で加算して、仮想音源5から放音後にリアチャンネルのオーディオ信号が聴取者Uの左耳ELに伝搬するタイミングと、仮想音源4から放音後にリアチャンネルのオーディオ信号が聴取者Uの左耳ELに伝搬するタイミングと、が同じになるように、リアチャンネルのオーディオ信号の出力タイミングを調整する。したがって、立体音響再生装置1は、仮想音源4から放音されて聴取者Uの左耳ELに回り込む音声を打ち消す音声を仮想音源5から放音させるので、仮想音源4から放音されて聴取者Uの左耳ELに回り込む音声が聴取者Uには聞こえないようにすることができる。
【0065】
また、Lchクロス補正部38は、Rchクロス補正部37と同様に、加算器35から出力されたリアチャンネルのオーディオ信号に対して信号処理を行う。すなわち、Lchクロス補正部38には、仮想音源5から聴取者Uの右耳ERまでの頭部伝達関数の逆関数に対応するフィルタ係数が設定される。Lchクロス補正部38は、加算器35から出力されたリアチャンネルのオーディオ信号に対して、仮想音源5から右耳ERに伝搬する特性を打ち消す処理を行う。
【0066】
また、Lchクロス補正部38は、加算器35から出力されたリアチャンネルのオーディオ信号について、上記処理を行って図外のバッファで位相を反転し、加算器40で加算して、仮想音源4から放音後にリアチャンネルのオーディオ信号が聴取者Uの右耳ERに伝搬するタイミングと、仮想音源5から放音後にリアチャンネルのオーディオ信号が聴取者Uの右耳ERに伝搬するタイミングと、が同じになるように、リアチャンネルのオーディオ信号の出力タイミングを調整する。したがって、立体音響再生装置1は、仮想音源5から放音されて聴取者Uの右耳ERに回り込む音声を打ち消す音声を仮想音源4から放音させるので、仮想音源5から放音されて聴取者Uの右耳ERに回り込む音声が聴取者Uには聞こえないようにすることができる。
【0067】
加算器40は、加算器34から出力されたオーディオ信号と、Lchクロス補正部38から出力されて図外のバッファで反転された(−1倍された)オーディオ信号と、を加算して加算器17Rへ出力する。
【0068】
加算器41は、加算器35から出力されたオーディオ信号と、Rchクロス補正部37から出力されて図外のバッファで反転された(−1倍された)オーディオ信号と、を加算して加算器17Lへ出力する。
【0069】
このように、仮想音源4から放音されたリアチャンネルのオーディオサウンドは聴取者Uの右耳ERのみに聞こえ、仮想音源5から放音されたリアチャンネルのオーディオサウンドは聴取者Uの左耳ELのみに聞こえるようになる。また、リアチャンネルのオーディオ信号には、前記のようにSRch定位付加部31及びSLch定位付加部32により、聴取者Uの周囲に音像が仮想的に定位するように、独特の周波数特性が付与されている。したがって、立体音響再生装置1は、リアチャンネルのオーディオサウンドが、聴取者Uの左右後方の所定位置に定位する仮想音源から放音されているような定位感を与えることができる。
【0070】
立体音響再生装置1は、バーチャルサラウンド信号処理部16から出力されたたSRchのオーディオ信号とRチャンネルのオーディオ信号を加算器17Rで加算し、遅延信号処理部18Rで遅延処理及び音圧減衰処理を行う。また、立体音響再生装置1は、バーチャルサラウンド信号処理部16から出力されたSLchのオーディオ信号とLchのオーディオ信号を加算器17Lで加算し、両オーディオ信号に対して遅延信号処理部18Lで遅延処理及び音圧減衰処理を行う。遅延信号処理部18Rと遅延信号処理部18Lの信号処理結果は、スピーカアレイ2の各スピーカユニット毎に加算器23−1〜23−8により足し合わされて、各スピーカユニットSP1〜SP8へ供給される。そして、スピーカアレイ2は、各スピーカユニットSP1〜SP8から供給されたオーディオ信号に応じた音声を放音させる。
【0071】
立体音響再生装置1は、以上のような処理を行って、スピーカアレイ2の各スピーカユニットから各チャンネルのオーディオ信号を放音させることで、聴取者Uの右前方に定位させた仮想音源4からRチャンネルのオーディオ信号、SRchのオーディオ信号、及びSLchのオーディオ信号を放音させた音波面を合成させる。また、聴取者Uの左前方に定位させた仮想音源5から、Lchのオーディオ信号、SRchのオーディオ信号、及びSLchのオーディオ信号を放音させた音波面を合成させる。また、SLchのオーディオ信号及びSRchのオーディオ信号に対しては、前記のように、定位付与処理及びクロストークキャンセル処理を行っているので、聴取者Uの左右前方であってスピーカアレイ2の左右後方に定位させた仮想音源4,5からオーディオ信号を放音させた音波面を合成させているのにもかかわらず、聴取者Uにその左右後方から両オーディオ信号が放音されているような定位感を与えることができる。
【0072】
したがって、立体音響再生装置1は、4チャンネルのサラウンドサウンドの各オーディオ信号に対して所定の処理を行った後に、スピーカアレイ2の各スピーカユニットから各オーディオ信号に応じた音声を放音させることで、Rチャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源4が聴取者Uの右前方に定位し、Lchのオーディオ信号を放音する仮想音源5が聴取者Uの左前方に定位し、SRチャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源6が聴取者Uの右後方に定位し、SLchのオーディオ信号を放音する仮想音源7が聴取者Uの左後方に定位しているような定位感を聴取者Uに与えることができる。
【0073】
次に、立体音響再生装置1において、各仮想音源の定位位置を移動させる処理について説明する。立体音響再生装置1では、前記のように、マルチチャンネルサラウンドサウンドの各チャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源を、それぞれ聴取者Uの周囲に定位させるだけでなく、リモコン3や操作部12の操作に応じて、各仮想音源が定位する位置を変更することができる。この場合、立体音響再生装置1では、パラメータ算出部15が、リモコン3や操作部12の操作によって設定された各チャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源の定位位置の位置情報に応じたパラメータを算出して、バーチャルサラウンド信号処理部16や遅延信号処理部18にそれらのパラメータを設定させる。具体的な動作は、図6に示すフローチャートに基づいて説明する。図6は、立体音響再生装置1が、各仮想音源の定位位置を移動させる処理を説明するためのフローチャートである。
【0074】
立体音響再生装置1では、聴取者Uがリモコン3や操作部12により、仮想音源の座標を変更する操作が行われた場合(s1)、その操作が、フロントチャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源4または5の座標変更であると(s2)、パラメータ算出部15は、仮想音源4または5の座標からスピーカアレイ2の各スピーカユニットSP1〜SPnへの距離L1〜Lnを算出する(s3)。そして、パラメータ算出部15は、算出した距離L1〜Lnを用いて、仮想音源4または5からスピーカユニットSP1〜SPnまでの音の伝達遅延時間t1〜tn、仮想音源から放音された音声がスピーカユニットSP1〜SPnに到達するまでに減衰する音圧のゲイン(音圧減衰ゲイン)G1〜Gnを算出し、遅延信号処理部18へこのパラメータを出力する(s4)。
【0075】
遅延信号処理部18は、パラメータ算出部15から出力されたパラメータを、ディジタルフィルタ21R−1〜21R−n,ゲイン調整回路22R−1〜22R−n、またはディジタルフィルタ21L−1〜21L−n,ゲイン調整回路22L−1〜22L−nに設定する(s5)。そして、ステップs1に戻って、再度仮想音源の座標が変更されるまで待機する。
【0076】
立体音響再生装置1では、このように変更された座標に応じた新しいパラメータが遅延信号処理部18に設定されるので、Rchのオーディオ信号を放音する仮想音源4、またはLchのオーディオ信号を放音する仮想音源5の定位位置が、直ちに変更される。
【0077】
また、ステップs2において、その操作が、リアチャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源6または7の座標変更であると(s2)、パラメータ算出部15は、仮想音源6または7の変更された座標に最も近い位置から聴取者Uの右耳ER及び左耳ELまでの頭部伝達関数の係数を頭部伝達関数係数テーブル14から読み出す(s6)。そして、パラメータ算出部15は、頭部伝達関数係数テーブル14から読み出した頭部伝達関数の係数に基づいて、SRch定位付加部31のフィルタ31R,31L、またはSLch定位付加部32のフィルタ32R,32Lへ設定するパラメータを算出し、バーチャルサラウンド信号処理部16へこのパラメータを出力する(s7)。
【0078】
バーチャルサラウンド信号処理部16は、パラメータ算出部15から出力されたパラメータを、SRch定位付加部31のフィルタ31R,31L、またはSLch定位付加部32のフィルタ32R,32Lへ設定する(s8)。そして、ステップs1に戻って、再度仮想音源の座標が変更されるまで待機する。
【0079】
立体音響再生装置1では、このように変更された座標に応じた新しいパラメータがバーチャルサラウンド信号処理部16に設定されるので、SRchのオーディオ信号を放音する仮想音源6、またはSLchのオーディオ信号を放音する仮想音源7の定位位置が、直ちに変更される。
【0080】
以上のように、本発明の立体音響再生装置は、スピーカアレイの各スピーカユニットから音声を放音させるタイミングを調整することで、マルチチャンネルサラウンドサウンドのフロントチャンネル及びリアチャンネルのオーディオ信号を放音する2つの仮想音源(Lチャンネル及びRチャンネルの音源)として、点音源を聴取位置の前方に定位させることができる。また、本発明の立体音響再生装置は、これら2つの仮想点音源からリアチャンネルのオーディオ信号(SLチャンネル及びSRチャンネルのオーディオ信号)を放音させる際に、聴取位置の後方に音像を定位させる処理や、2つの仮想点音源から放音される音声の周波数特性をキャンセルする処理や、クロストークキャンセル処理を行い、リアチャンネルのオーディオ信号を放音する仮想音源を聴取位置の後方に定位させることができる。
【0081】
また、仮想音源4〜7の各定位位置をリモコン3や操作部12の操作により、任意の位置に変更することができる。
【0082】
なお、以上の説明では、4チャンネルのサラウンドサウンドを再生する構成の立体音響再生装置1について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、さらに複数のチャンネルのサラウンドサウンドを再生する構成とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態に係る立体音響再生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】スピーカアレイ2を用いて1つの仮想音源の音波面を合成する様子を示す図である。
【図3】スピーカアレイ2を用いて2つの異なる仮想音源の音波面を合成する様子を示す図である。
【図4】スピーカアレイ2を用いて4つの異なる仮想音源を聴取者の周囲に定位させる様子を示す図である。
【図5】バーチャルサラウンド信号処理部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図6】立体音響再生装置1が、各仮想音源の定位位置を移動させる処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0084】
1−立体音響再生装置 2−スピーカアレイ 3−リモコン 4,5−仮想音源 6,7−仮想音源 10L,10R,10SL,10SR−オーディオ信号入力端子 11−受信部 12−操作部 13−表示部 14−頭部伝達関数係数テーブル 15−パラメータ算出部 16−バーチャルサラウンド信号処理部 17,17R,17L−加算器 18,18R,18L−遅延信号処理部 19−D/Aコンバータ 20−アンプ 21R,21L−ディジタルフィルタ 22R,22L−ゲイン調整回路 23−加算器 31−SRch定位付加部 31R,31L−フィルタ 32−SLch定位付加部 32R,32L−フィルタ 33−クロストークキャンセル補正部 34,35−加算器 37−Rchクロス補正部 38−Lchクロス補正部 40,41−加算器 EL−左耳 ER−右耳 G1−音圧減衰ゲイン SP1〜SPn−各スピーカユニット t1−伝達遅延時間 U−聴取者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスピーカユニットを配列して成るスピーカアレイと、
前記スピーカアレイから出力された音声信号が聴取者の前方に設定された仮想点音源から出力された音声と同様の波面を形成するよう、各スピーカユニットに分配する音声信号の出力タイミング及びゲインを制御するフロント処理部と、
前記仮想点音源から出力された音声信号が聴感上聴取者の後方に定位するような周波数特性を、音声信号に付与した後に、この音声信号を前記フロント処理部に入力するリア処理部と、
を備え、入力された音声信号のうちフロントチャンネルの信号を前記フロント処理部に入力し、リアチャンネルの音声信号を前記リア処理部に入力する立体音響再生装置。
【請求項2】
前記リア処理部は、前記リアチャンネルのオーディオ信号に対して、聴取位置の後方に設定された後方仮想音源から聴取者の耳に伝搬する音声の周波数特性を頭部伝達関数に基づいて付与する後方定位付与処理を行う後方定位付与部と、
前記後方定位付与処理がなされたリアチャンネルのオーディオ信号に対して、前記2つの仮想点音源の一方から放音させるリアチャンネルのオーディオ信号が前記聴取者の一方の耳のみに聞こえ、前記2つの仮想点音源の他方から放音させるリアチャンネルのオーディオ信号が前記聴取者の他方の耳のみに聞こえるように、反対側の耳に聞こえるオーディオ信号を打ち消すオーディオ信号を生成して、前記フロント処理部へ出力するクロストークキャンセル処理を行うクロストークキャンセル補正部と、を備え、
前記フロント処理部は、マルチチャンネルサラウンドサウンドの各チャンネルのオーディオ信号を前記スピーカアレイの全部または一部のスピーカユニットに対して分配し、各チャンネルの音声の出力タイミング及びゲインをスピーカユニット毎に制御して、前記スピーカアレイから放音された音声により、前記聴取位置の前方に設定された2つの仮想点音源から放音された波面を形成するよう、各スピーカユニットに分配する音声信号の出力タイミング及びゲインを制御する点音源定位処理を行う請求項1に記載の立体音響再生装置。
【請求項3】
前記仮想点音源または前記後方仮想音源の少なくとも一方の定位位置を設定する操作部と、
前記操作部により設定された定位位置の情報に基づいて、前記フロント処理部が前記点音源定位処理を行うのに必要なパラメータ、前記後方定位付与部が後方定位付与処理を行うのに必要なパラメータ、及び前記クロストークキャンセル補正部が前記クロストークキャンセル処理を行うのに必要なパラメータの少なくともいずれかを算出して、これら各部へ出力するパラメータ算出部と、
を備えた請求項2に記載の立体音響再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−208318(P2007−208318A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21370(P2006−21370)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】