説明

立坑構築用部材及び立坑構造物

【課題】本発明は、空気連行量が少なく、立坑内に流入した水の到達流速を好適に下げることができる立坑構造物を構築することができる新規な立坑構築用部材、及びこの立坑構築用部材によって構築された立坑構造物を提供することを目的とする。
【解決手段】 立坑構築用部材1内に配された傾斜板3の上端及び下端に、傾斜板3の縦断勾配より緩やかな縦断勾配を付与された上端側接続部4H及び下端側接続部4Lを各々設け、上端側接続部4H及び下端側接続部4Lのうちの少なくとも一方を筒体2の開放端より外部に向かって突出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直方向に複数個積み重ねられることによって立坑を構築する立坑構築用部材、及びこの立坑構築用部材によって構築された立坑構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された下水道、暗渠、電気・通信ケーブルなどには、通常、その管理を行う作業員が地上から出入りできるように、立坑(人坑(マンホール)とも称される。)が設けられている。
【0003】
この立坑に流入した雨水や下水等の水(以下、単に「水」と称する。)が、立坑内を垂直方向に自由落下して、立坑底部に継続的な衝撃を与えると、立坑底部において損傷が生じる。そのため、最近では、立坑内に滑らかなヘリコイド面を有する螺旋状の案内路を設けた垂直導水管(ドロップシャフト)を用い、案内路に沿って水を旋回させながら流下させる手段が提案されている。
【0004】
しかしながら、螺旋状の案内路に沿って旋廻しながら流下する水は立坑の底部に至るまで継続的に加速されるため、依然として到達流速が大きいものであった。
【0005】
この点に鑑み、半楕円形の傾斜平板を左右交互に配置し、それらを三角形又は台形の垂直平板で繋いで、段差のある直線状の折曲した螺旋による案内路を形成し、水の自由落下運動と螺旋落下運動とを組み合わせ、自由落下エネルギー分を螺旋落下エネルギーに衝突させ、落下の初期段階からエネルギーを消費させることにより、加速度勾配を小さくし、もって到達流速を下げる垂直導水管が開発されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0006】
即ち、特許文献1に記載の螺旋流方式の垂直導水管は、傾斜板に沿って流下する水と傾斜板の途中から次の傾斜板へ滝落としのように落下する水とをぶつかり合わせることによって、落下エネルギーを減衰させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004‐339922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、傾斜板に沿って流下する水と傾斜板の途中から落下する水とをぶつかり合わせる方式では、減衰する落下エネルギーの程度を予想して設計流量を設定することが困難であり、その結果、所期の設計流量を流下させることができなくなる場合がある。流入する水が増加する一方で落下エネルギーが過度に減衰すると、排水が不十分となって漏水が発生する。
【0009】
又、傾斜板に沿って流下する水と傾斜板の途中から落下する水とをぶつかり合わせると、流下する水の流れは案内路全体にわたって非常に乱れる。しかも比較的多量の跳水が継続的に発生するため、流下する水には多量の空気が混ざり込み、水と共に下流幹線へ空気が連行される。下流幹線にポンプ場が併設されている場合、空気を多量に包含する水がポンプの正常動作を阻害し、ポンプ故障の原因となる。更に、下流幹線に連行された空気は下流幹線に存する別の立坑内に移り、多くの場合良好に排出されること無く係る立坑内に長期間留まり、係る立坑内の内圧を上げる。立坑内の内圧が上がった状態で豪雨が発生すると、空気が更に圧縮され、最悪の場合、立坑を塞ぐ蓋が吹き飛ばされる事故が発生する。
【0010】
加えて、継続的に傾斜板に沿って流下する水と傾斜板の途中から落下する水とをぶつかり合わせると、低周波振動が発生し、周辺環境に対する振動公害を与える。
【0011】
特に、汚水管渠、雨水管渠、合流管渠、遮集管渠などの汚水を流下させる管渠において跳水が発生した場合、跳水と共に硫化水素ガス等が多量に発生し、管壁の早期腐食につながる。管壁の早期腐食は改築費用が増加するばかりか、作業者の滑落の原因にもなる。又、硫化水素ガスの発生は、管内作業環境を悪化させ、作業者の健康を害する。
【0012】
本発明は、前記技術的課題を解決するために開発されたもので、空気連行量が少なく、立坑内に流入した水の到達流速を好適に下げることができる立坑を構築することができる新規な立坑構築用部材、及びこの立坑構築用部材によって構築された立坑構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の立坑構築用部材は、垂直方向に複数個積み重ねられることによって、内壁面に沿って周回しつつ垂直方向に変位する旋廻流路を有する立坑を構築するための立坑構築用部材であって、この立坑構築用部材は、中空の筒体と、筒体の内面に沿って設けられた、前記旋廻流路の一部をなす傾斜板と、を具備し、傾斜板の上端及び下端には、傾斜板の縦断勾配より緩やかな縦断勾配を付与された上端側接続部及び下端側接続部が各々設けられ、且つ、上端側接続部及び下端側接続部のうちの少なくとも一方が筒体の開放端より外部に向かって突出されてなり、垂直方向に積み重ねられた際に、前記上端側接続部は、上位に位置する他の立坑構築用部材に存する下端側接続部と隣接され、一方、前記下端側接続部は、下位に位置する更に他の立坑構築用部材に存する上端側接続部と隣接されて、それぞれの隣接箇所において、上端側接続部の上面と下端側接続部の上面とが連続した減速流路を形成するものであることを特徴とする。
【0014】
本発明の立坑構築用部材においては、接続部が、0±5%の縦断勾配を有してなるものが好ましい。
【0015】
又、本発明の立坑構築用部材においては、下端側接続部の上面と筒体内面とがなす角部が、傾斜板の縦断勾配に対して反対向きの縦断勾配を有する緩衝部によって埋められてなるものが好ましい。
【0016】
本発明の立坑構造物は、前記本発明の立坑構築用部材が、垂直方向に複数個積み重ねられてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、空気連行量が少なく、立坑内に流入した水の到達流速を好適に下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施形態1に係る本発明の立坑構築用部材を一部透過状態で示す斜視図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る本発明の立坑構築用部材を示す断面図(a)、及び上面図(b)である。
【図3】図3は、実施形態1に係る本発明の立坑構築用部材を複数個積み重ねて構築した本発明の立坑構造物を示す断面図(a)、及び筒体を一部切り欠いて示す斜視図(b)である。
【図4】図4は、実施形態2に係る本発明の立坑構築用部材を一部透過状態で示す斜視図である。
【図5】図5は、実施形態2に係る本発明の立坑構築用部材を複数個積み重ねて構築した本発明の立坑構造物を示す断面図(a)、及び筒体を一部切り欠いて示す斜視図(b)である。
【図6】図6は、実施形態3に係る本発明の立坑構築用部材を一部透過状態で示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<実施形態1>
図1に実施形態1に係る本発明の立坑構築用部材1を示す。本実施形態に係る立坑構築用部材1は、コンクリートを型枠に打設した後、養生・硬化させて形成したプレキャストコンクリートである。この立坑構築用部材1は、中空の筒体2と、筒体2の内面に沿って設けられた傾斜板3とを具備する。なお、本発明において、立坑構築用部材1を形成する素材は特に限定されるものではない。立坑構築用部材1は、例えば、樹脂や金属などを用いて形成しても良い。又、立坑構築用部材1は、必ずしも一体的に形成する必要は無く、例えば、筒体2と傾斜板3とを別体として形成し、合体させることによって立坑構築用部材1を形成しても良い。
【0021】
本実施形態において筒体2は円筒形状、即ち水平断面形状が円形となっている。なお、本発明において、筒体2の形状は特に限定されるものではない。筒体2の形状としては、円筒形状の他、例えば、水平断面形状が、楕円、四角形或いは更なる多角形状となっているものであっても良い。又、筒体2は、縦方向や横方向などに分割された分割体として形成し、係る分割体を合体させることによって形成しても良い。
【0022】
本実施形態において傾斜板3は、筒体2内壁に沿って配されてなり、図2(a)に示すように、筒体2の上部開放端から下部開放端に向かって傾斜する縦断勾配を有する。傾斜板3の縦断勾配は、通常、10〜100%程度(傾斜角にして約5〜45度程度)に設定される。本実施形態においては、60%(傾斜角にして約30度)の縦断勾配を付与した。傾斜板3の上面は強度及び製造の容易性の観点などから平面状とすることが好ましいが、これに限られず、例えば、なだらかな曲面状等とすることも可能である。又、本実施形態において、傾斜板3は縦断勾配のみが付与されているが、横断勾配を加えた合成勾配を付与しても良い。但し、傾斜板3の上端から下端に向かう水の円滑な流れを維持すべく、横断勾配は、0±5%(傾斜角にして約±3度)内に留めることが好ましい。
【0023】
傾斜板3の上端及び下端には、傾斜板3の縦断勾配より緩やかな縦断勾配が付与された上端側接続部4H及び下端側接続部4Lが各々設けられている。各接続部4H、4Lの面積は、設計流量等に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。通常、各接続部4H、4Lの面積は、傾斜板3の面積に対し、それぞれ5〜20%程度とされる。本実施形態においては、各接続部4H、4Lの面積を、傾斜板3の面積に対して、それぞれ約10%に設定している。
【0024】
本実施形態においては、上端側接続部4Hを筒体2の上部開放端より外部(上部)に向かって突出させている。なお、本発明においては、下端側接続部4Lを筒体2の下部開放端より外部(下部)に向かって突出させても良い。又、各接続部4H、4Lをそれぞれ筒体2の開放端より外部に突出させても良い。
【0025】
各接続部4H、4Lの縦断勾配は、傾斜板3の縦断勾配より緩やかになっていれば特に限定されるものではない。通常は、0±5%(好ましくは0±2%(傾斜角にして約±1度))程度として、各接続部4H、4Lの上面がほぼ水平面となるようにすることが好ましい。前記傾斜板3と同様、各接続部4H、4Lの上面も平面状とすることが好ましいが、これに限られず、なだらかな曲面状とすることも可能である。又、本実施形態において、各接続部4H、4Lの勾配は、横断勾配を加えた合成勾配としても良い。なお、各接続部4H、4Lの横断勾配は、前記傾斜板3と同様に、0±5%内(好ましくは0±2%内)に留めることが好ましい。
【0026】
本実施形態においては、前記傾斜板3と共に各接続部4H、4Lの横断勾配を0%(Level)に設定していることから、図2(b)に示すように、各接続部4H、4Lの上面と傾斜板3の上面とがなす角部(勾配の変化点)は、傾斜板の縦断勾配に対し垂直に交差する。傾斜板3や各接続部に曲面や横断勾配が付与されている場合、係る勾配の変化点は、曲面や横断勾配の程度に応じて、傾斜板の縦断勾配に対し垂直からずれた状態で交差する。係る勾配の変化点は、面取りしたり、埋めたりすることによって縦断曲線を付与することが好ましい。
【0027】
傾斜板3と各接続部4H、4Lは、筒体2内を上部開放端から下部開放端に向かって平行投影した際に筒体2の開口面積の半分を占める。本実施形態においては、平板状の傾斜板3にできるだけ大きな面積と緩やかな傾斜角を付与すべく、傾斜板3と各接続部4H、4Lが筒体2の開口面積の半分を占めるように配置しているが、筒体2の開口面積に対して傾斜板3と各接続部4H、4Lが占める割合は適宜変更して設計することが可能である。又、本実施形態において傾斜板3と各接続部4H、4Lは、筒体2の内壁のみによって支持されているが、更にリブや支柱などの支持部材で支持することによって支持強度を高めることが好ましい。
【0028】
図3(a)に示すように、立坑構築用部材1は、垂直方向に複数個積み重ねられることによって立坑(本発明の立坑構造物)10を構築するものである。図3(b)に示すように、立坑構築用部材1を積み重ねるにあたっては、下位に位置する立坑構築用部材1における上端側接続部4Hと、その上位に位置する立坑構築用部材1における下端側接続部4Lとを隣接させ、各隣接箇所において、上端側接続部4Hの上面と下端側接続部4Lの上面とが連続した減速流路7を形成する。この際、筒体2の上部開放端より外部(上部)に向かって突出させた上端側接続部4Hが、その突出高さ分、上位に位置する立坑構築用部材1側に入り込むため、隣接させた上端側接続部4Hの上面と下端側接続部4Lの上面との間に生じる段差が小さくなる。本実施形態においては、減速流路7を構成する上端側接続部4Hの上面と、下端側接続部4Lの上面とが平坦面となるように、上端側接続部4Hの突出高さを設定している。
【0029】
このようにして複数の立坑構築用部材1を垂直方向に積み重ねると、立坑10の内部には、内壁面に沿って周回しつつ垂直方向に変位する旋廻流路が形成される。この旋廻流路は、傾斜板3の上面と減速流路7とが交互に繋がった流路である。
【0030】
立坑10内に流入した水は、旋廻流路に沿って立坑10内を旋廻しながら流下する。図3(a)、(b)において矢印で示すように、旋廻流路に沿って旋廻しながら流下する水は、各傾斜板3において位置エネルギーを運動エネルギーに変換しつつ加速していく。その後、減速流路7に至った水は、立坑10の内壁と衝突し、立坑10の内壁に沿ってベクトルを変化させつつ、ほぼ水平な減速流路7を拡がりながら移動し、運動エネルギーを消費して減速する。その後、運動エネルギーを消費して減速した水は、更に下段に位置する傾斜板3に沿って流下する。この繰り返しによって、水の到達流速は好適に下がる。
【0031】
旋廻流路に沿って流下する水は立坑10の内壁と衝突してその向きを変えるため、減速流路7において多少の流れの乱れが生じる。しかしながら、この流れの乱れは、豪雨時などの高流量時以外、即ち、小〜中流量時であれば比較的穏やかである。又、傾斜板3においては、流れの乱れはほとんど発生しない。更に、跳水については高流量時以外殆ど生じない。旋回流路において跳水がほとんど生じないことから、硫化水素ガスの発生や振動公害の発生は抑制される。又、下流幹線への空気の連行は少なくなる。
【0032】
特に、本実施形態においては、減速流路7を構成する上端側接続部4Hの上面と下端側接続部4Lの上面とが平坦面となるように、上端側接続部4Hの突出高さを設定しているから、下端側接続部4Lから隣接する上端側接続部4Hへ向かう水の移行が円滑となり、減速流路7において跳水の発生がより一層少なくなる。
【0033】
下記表1において、特許文献1に記載された垂直導水管と、本実施形態に係る立坑構築用部材1によって構築された立坑10のそれぞれについて、同一条件下で汚水を流下させた際の空気連行量、騒音、跳水の発生、硫化ガスの発生量及び流下流量を比較した結果を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
ところで、本発明において、上端側接続部4Hの上面と下端側接続部4Lの上面とを連続させて減速流路7を形成するにあたっては、本実施形態のように、上端側接続部4Hの上面と下端側接続部4Lの上面とが平坦面となるようにすることが最も好ましい態様となるが、隣接させた上端側接続部4Hの上面と、下端側接続部4Lの上面との間に多少の段差が生じていても良い。
【0036】
減速流路7において生じ得る段差としては、下端側接続部4Lの上面が高位置となる段差と、上端側接続部4Hの上面が高位置となる段差の二通りの段差がある。このうち、上端側接続部4Hの上面が高位置となる段差が生じている場合、係る段差が障壁となり、減速流路7を流れる水は、係る段差を乗り越えるために運動エネルギーを多く消費する。これより、水の到達流速をより一層下げることが可能となる。なお、係る段差が大きすぎると水の円滑な流れを阻害する場合があるため、通常係る段差は、5cm以下、好ましくは3cm以下に留めることが好ましい。又、係る段差は、なだらかな段差となるようにモルタル等で埋めて緩やかな傾斜面を付与することが好ましい。
【0037】
<実施形態2>
図4に実施形態2に係る本発明の立坑構築用部材1を示す。前記実施形態1に係る立坑構築用部材1と異なる点は、下端側接続部4Lの上面と筒体2の内面とがなす角部が、傾斜板3の縦断勾配に対して反対向きの縦断勾配を有する緩衝部5によって埋められてなることにある。
【0038】
ここで下端側接続部4Lの上面と筒体2の内面とがなす角部を緩衝部5によって埋めるにあたっては、各接続部4H、4Lの上面の面積が50〜80%程度残るようにすることが好ましい。本実施形態においては、各接続部4H、4Lの上面の面積が70%程度残るように、係る角部を緩衝部5によって埋めている。
【0039】
又、緩衝部5の縦断勾配は、傾斜板3の縦断勾配に対して反対向きの勾配であれば特に限定されるものではない。通常は、40〜160%(傾斜角にして、約20〜60度)程度に設定することが好ましい。本実施形態においては、緩衝部5の縦断勾配を100%(傾斜角にして45度)に設定している。なお、緩衝部5の傾斜面は平面状であっても曲面状であっても良い。又、緩衝部5の傾斜面は横断勾配を加えた合成勾配としても良い。
【0040】
なお、本実施形態においては、上端側接続部4Hの上面と筒体2の内面の延長線とがなす角部において、補助緩衝部51を設けている。この補助緩衝部51は、立坑10を構築した際に、前記緩衝部5と隣接して並び、緩衝部5を補完するものである。
【0041】
図5(a)、(b)に示すように、この立坑構築用部材1は、前記実施形態1と同様にして、垂直方向に複数個積み重ねられることによって立坑10を構築するものである。構築された立坑10の内部には、内壁面に沿って周回しつつ垂直方向に変位する旋廻流路が形成される。
【0042】
立坑10内に流入した水は、旋廻流路の上面に沿って立坑10内を旋廻しながら流下する。図5(a)、(b)において矢印で示すように、旋廻流路の上面に沿って旋廻しながら流下する水は、各傾斜板3において位置エネルギーを運動エネルギーに変換しつつ加速していくが、減速流路7において運動エネルギーを消費して減速する。
【0043】
前記実施形態1においては、減速流路7に至った水は、立坑2の内壁に直接衝突することによってベクトルを変えるが、本実施形態においては、減速流路7に至った水は、傾斜板3とは逆向きの傾斜を有する緩衝部5の傾斜面を登りながら、ベクトルを変える。緩衝部5の傾斜面を登る際に、水の運動エネルギーが更に消費されるため、水の到達流速をより下げることができる。又、水が立坑10の内壁に直接衝突しないことから、跳水の発生をより減じることができる。更に、水の衝突に起因する立坑10内壁の浸食を抑制することができる。
【0044】
なお、本実施形態において、緩衝部5(及び補助緩衝部51)は、立坑構築用部材1と一体的に形成されたものであるが、立坑構築用部材1とは別体として形成した後に取り付けても良い。又、立坑10の構築の際、モルタル等で角部を埋めることによって設けても良い。
【0045】
<実施形態3>
図6に実施形態3に係る本発明の立坑構築用部材1を示す。前記実施形態1に係る立坑構築用部材1と異なる点は、傾斜板3における筒体2中心側の端辺(自由端)に沿って階段6を配したことである。
【0046】
この階段6は、立坑10の維持管理作業などの作業者が立坑10内に入る必要が生じたときに足場として使用されるものである。本発明の立坑構築用部材1によって構築された立坑10は、流入した水が立坑10の内壁に沿って旋廻しながら流下し、又、跳水の発生が少ないため、階段6が濡れて滑りやすくなることが好適に防止される。
【0047】
なお、本発明の立坑構築用部材1においては、階段6に替えて梯子を設けたり、階段6と共に手摺りを設けたりしても良い。又、跳水の発生が非常に少ないことから、照明設備を取り付けることも可能である。
【0048】
更に、本発明の立坑構築用部材1においては、傾斜板3の自由端において適宜切り欠きを設けても良い。この切り欠きを設けると、立坑10を構築した際に、立坑10内を上下にわたって連通する吹き抜けとなり、立坑10内に侵入した空気をより一層好適に排出することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、地中に埋設された下水道、暗渠、電気・通信ケーブルなどに設けられる立坑として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 立坑構築用部材
2 筒体
3 傾斜板
4H 上端側接続部
4L 下端側接続部
5 緩衝部
6 階段
7 減速流路
10 立坑(立坑構造物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直方向に複数個積み重ねられることによって、内壁面に沿って周回しつつ垂直方向に変位する旋廻流路を有する立坑を構築するための立坑構築用部材であって、
この立坑構築用部材は、
中空の筒体と、
筒体の内面に沿って設けられた、前記旋廻流路の一部をなす傾斜板と、
を具備し、
傾斜板の上端及び下端には、傾斜板の縦断勾配より緩やかな縦断勾配を付与された上端側接続部及び下端側接続部が各々設けられ、
且つ、上端側接続部及び下端側接続部のうちの少なくとも一方が筒体の開放端より外部に向かって突出されてなり、
垂直方向に積み重ねられた際に、
前記上端側接続部は、上位に位置する他の立坑構築用部材に存する下端側接続部と隣接され、
一方、前記下端側接続部は、下位に位置する更に他の立坑構築用部材に存する上端側接続部と隣接されて、
それぞれの隣接箇所において、上端側接続部の上面と下端側接続部の上面とが連続した減速流路を形成するものであることを特徴とする立坑構築用部材。
【請求項2】
請求項1に記載の立坑構築用部材において、
接続部が、0±5%の縦断勾配を有してなる立坑構築用部材。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載の立坑構築用部材において、
下端接続部の上面と筒体内面とがなす角部が、傾斜板の縦断勾配とは反対向きの勾配を有する緩衝部によって埋められてなる立坑構築用部材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の立坑構築用部材が、垂直方向に複数個積み重ねられてなることを特徴とする立坑構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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