説明

竪型断熱低温タンクの外槽底板構造

【課題】外槽底板の上面に敷設される断熱板の施工性を損なうことなく、外槽底板の強度を向上できる竪型断熱低温タンクの外槽底板構造を提供する。
【解決手段】内槽2を支持スカート3を介して基礎4上に支持し、その内槽2を囲繞すべく、上記支持スカート3に上記内槽2の側方および上方を覆う槽本体51を支持させると共に上記支持スカート3内に上記内槽2の底部を覆う底板52を設けて外槽5を構成し、その底板52上に複数の断熱板6を敷設すると共に、上記内外槽5間に保冷材7を充填してなる竪型断熱低温タンク1の外槽底板構造において、上記底板52を、上記断熱板6の敷設に支障をきたさないよう、かつ内外槽圧を膜力のみで耐えられるように、下方にわずかに湾曲させた球面形状に形成し、その底板52の外周を、上記支持スカート3の内周に、断面ト字状の補強リング部材56で支持させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素、LNGなどを収容する竪型断熱低温タンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、LN、LOX、LNGなどの低温液体を収容するタンクとして、例えば、特許文献1で提案された竪型断熱低温タンクが知られている。
【0003】
図7に示すように、その竪型断熱低温タンク7は、基礎71上に支持スカート72を介して支持されたボンベ状の内槽73と、その内槽73を囲繞する外槽74とを有する。それら内外槽73、74間には、パーライト粒などの保冷材75が窒素ガスと共に充填される。
【0004】
外槽74は、屋根板741と胴板742と支持スカート72内に設けられた底板743とを有する。底板743は、平板状に形成され、その平板状底板743の下面には、内外槽間の内圧(内外槽圧)による変形を防止すべく、補強梁745が格子状に設けられる。また、底板743の上面には、硬質ウレタンフォームなどの断熱板746が、複数、隙間なく敷き詰められる。
【0005】
この竪型断熱低温タンク7では、底板743を平板状にすることで、外槽74内面の断熱板(硬質ウレタンフォーム)746の施工を容易にしていた。
【0006】
【特許文献1】特許第3684318号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1の竪型断熱低温タンク7では、外槽底板743に平板を使用しているため、内外槽圧に対して格子状の補強梁745を必要とした。その補強梁745は平板(底板)743の強度を補うために絶対に必要な部材であるが、材料費、取付・溶接費のコストアップ要因となっていた。
【0008】
この点を図8および図9の一例に基づき説明する。図8および図9は、内外槽圧が作用した時の底板の変形量と補強梁のピッチの関係を示したもので、図8の補強梁ピッチは1200mmであり、図9の補強梁ピッチは2000mmである。図8および図9では、φ8000mmの竪型断熱低温タンクを用い、外槽底板の板厚を6mmとした。
【0009】
図9に示すように、補強梁ピッチが2000mmの場合、補強梁間で底板の変形量が大きくなり、最大変形量は44.3mmとなってしまう。そのため、補強梁ピッチ2000mmは現実には採用できない。一方、図8に示すように、補強梁ピッチが狭い場合(1200mmの場合)は、底板の変形量(最大変形量8.5mm)は抑えられるものの、補強梁の数が増大してしまう。
【0010】
このように、従来の平板状の外槽底板では、多数の補強梁が必要になり、タンクの製造コストが増大してしまうという問題があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、外槽底板の上面に敷設される断熱板の施工性を損なうことなく、外槽底板の強度を向上できる竪型断熱低温タンクの外槽底板構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、内槽を支持スカートを介して基礎上に支持し、その内槽を囲繞すべく、上記支持スカートに上記内槽の側方および上方を覆う槽本体を支持させると共に上記支持スカート内に上記内槽の底部を覆う底板を設けて外槽を構成し、その底板上に複数の断熱板を敷設すると共に、上記内外槽間に保冷材を充填してなる竪型断熱低温タンクの外槽底板構造において、上記底板を、上記断熱板の敷設に支障をきたさないよう、かつ内外槽圧を膜力のみで耐えられるように、下方にわずかに湾曲させた球面形状に形成し、その底板の外周を、上記支持スカートの内周に、断面ト字状の補強リング部材で支持させたものである。
【0013】
好ましくは、上記底板上に長方形状の断熱板を隙間なく敷設したものである。
【0014】
好ましくは、上記底板は、上記内槽の内径に対して1倍以上、より好ましくは上記内槽の内径に対して約3倍〜約9倍の半径で形成された球面の一部をなすものである。
【0015】
好ましくは、上記補強リング部材は、上記支持スカートの内周に沿って設けられたリング部と、そのリング部の内周側から下方に傾斜して延出し上記底板を支持する傾斜フランジ部とからなるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、竪型断熱低温タンクの外槽底板の上面に断熱板を容易に施工でき、かつ外槽底板の強度を向上できるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
本実施形態の竪型断熱低温タンクの外槽底板構造は、例えば、LNGサテライト貯槽、液体酸素、液体窒素などに採用される200〜3000KLの中型の低温貯槽に適用される。
【0019】
まず、図1に基づき、竪型断熱低温タンクの外槽底板構造の概略を説明する。
【0020】
図1に示すように、竪型断熱低温タンク1は、内槽2を支持スカート3を介して基礎4上に支持し、その内槽2を囲繞すべく、上記支持スカート3に上記内槽2の側方および上方を覆う槽本体51を支持させると共に上記支持スカート3内に上記内槽2の底部を覆う底板52を設けて外槽5を構成し、その底板52上に複数の断熱板6を敷設すると共に、上記内外槽5間に保冷材7を充填してなる。
【0021】
内槽2は、ボンベ状の外形形状を有し、上部鏡板21と下部鏡板22とそれら上下の鏡板21、22を結ぶ胴板(内槽胴板)23とで構成される。その内槽2は、支持スカート3により鉛直に支持される。内槽2内には、LN、LOX、LNGなどの低温液体(極低温貯蔵物)が収容されるようになっている。
【0022】
支持スカート3は、円筒状の外形形状を有し、内槽2の胴板23の径と同径で形成される。支持スカート3の外周には、複数の補強リブ31が円周方向に間隔を置いて設けられる。支持スカート3は、その下端のベースプレートが基礎4上に設けたアンカーボルトにて固定される(図示せず)。
【0023】
外槽5は、所定間隔を隔てて内槽2を囲繞する。外槽5の槽本体51は、内槽2の上方を覆う屋根板53と、内槽2の側方を覆う胴板54と、その胴板54の下端と支持スカート3とを結ぶ逆円錐状のコーン板55とで構成される。
【0024】
外槽5と内槽2との間には、パーライト粒などの保冷材7が充填されて、保冷材層が形成される。その保冷材層には、ガスが所定の圧力(図例では、窒素ガスを+600mmAq程度)で封入されようになっている。
【0025】
内槽2、支持スカート3には、SUSなど極低温に強い材料が用いられる。外槽5はコーン板55を除き、例えば、SS400、SM400Cなどの材料が用いられる。
【0026】
次に、図1から図5に基づき、本実施形態の外槽底板構造の詳細を説明する。なお、図2および図4では、底板52のみが示され、支持スカート3などは省略される。
【0027】
底板52は、保冷材7の断熱性を考慮して内槽2の下部鏡板22より十分下方に位置するように、支持スカート3の内周に、後述する補強リング部材56を介して取り付けられる。
【0028】
図2に示すように、底板52は、円盤状の板材521の外周に沿って複数の扇状の板材522を並べ、それら板材521、522を重ね溶接して形成される。
【0029】
図1および図3に示すように、本実施形態では、上記底板52を、上記断熱板6の敷設に支障をきたさないよう(例えば、底板52上の断熱板6が自重で滑り出さないよう)、かつ内外槽圧を膜力のみで耐えられるように、下方にわずかに湾曲させた球面形状に形成し、その底板52の外周を、上記支持スカート3の内周に、断面ト字状の補強リング部材56で支持させる。
【0030】
ここで、底板52を湾曲させて球面形状にすると、底板52はその膜力のみで内外槽圧に耐えられるようになるが、過度に湾曲させると、断熱板6の敷設が困難となってしまう。一方、湾曲の度合い(つまり、アール)を緩やかにすると、底板52は平板に近くなり断熱板6の敷設を容易に施工することができるが、内外槽圧に耐えるために[背景技術]の欄で述べたような補強梁が必要となる可能性がある。
【0031】
そこで、底板52は、内槽2の内径に対して1倍以上のアールで湾曲させた球面形状に形成されることが好ましい。より好ましくは、底板52は、内槽2の内径に対して約3倍〜約9倍(図例では、約5倍)のアールで湾曲させた球面形状に形成される。つまり、底板52は、上記内槽2の内径に対して約3倍〜約9倍の半径で形成された球面の一部をなすように形成される。
【0032】
図3に示すように、上記補強リング部材56は、上記支持スカート3の内周に沿って設けられたリング部561と、そのリング部561の内周側から下方に傾斜して延出し上記底板52を支持する傾斜フランジ部562とからなり、断面ト字状に形成される。補強リング部材56は、例えば、鋼板を曲げ加工して形成される。傾斜フランジ部562は、底板52外周の下面に沿って所定角度(図例では、約5.7°)で下方に傾斜する。つまり、傾斜フランジ部562は、底板52の外周部における下面の傾斜に合わせて形成される。
【0033】
図4および図5に示すように、上記底板52上には、長方形状の断熱板6が隙間なく敷設される。本実施形態の断熱板6は、所定の厚さ(図例では、75mm)の硬質ウレタンフォーム保温板からなる。断熱板6の敷設は、例えば、図示しないマンホールを通じて支持スカート3内に断熱板6を搬入し、その後、図4に示すように、底板52の上面に断熱板6を格子状に隙間なく敷き詰めて、行われる。本実施形態では、上述したように、底板52が過度に湾曲していないため、断熱板6の敷設を容易に隙間なく施工することができる。
【0034】
次に、本実施形態の外槽底板構造の作用を説明する。
【0035】
内槽2内には、内外槽2、5間の保冷材層に外気温、外気圧の変化に対する呼吸用として窒素ガスを+600mmAq程度まで封入した状態で、低温液体が収容される。
【0036】
その窒素ガスや保冷材7による内外槽圧が底板52にかかることになるが、上述したように底板52がわずかに湾曲しているため、内外槽圧が底板52の膜力のみで支えられ、底板52の変形が所定の範囲内に抑えられる。ここで、底板52を支持する補強リング部材56の傾斜フランジ部562が下方に傾斜しているため、底板52は、支持部分(外周部)に過度の応力が集中することなく、支持されることになる。
【0037】
このように本実施形態では、外槽5の底板52を硬質ウレタンフォームの施工に支障とならない緩やかな球面形状として、内外槽圧を膜力のみで耐えられる構造としたことで、断熱板6の施工性を損なうことなく、外槽底板の強度を向上できる。この結果、外槽底板には補強梁など設ける必要がなくなり、補強梁の取付などにかかる溶接工数を大幅に削減することができ、コストアップ要因が除かれて大幅な工数削減が可能となる。
【0038】
さらに、底板52の外周を補強リング部材56の傾斜フランジ部562で支持することにより、底板52の外周部(取付部分)での過度の応力集中を抑制することができる。
【0039】
また、底板52から傾斜フランジ部562に伝達した荷重は、補強リング部材56のリング部561に、圧縮(コンプレッション)荷重として伝達されるが、その圧縮荷重は、支持スカート3に伝達されることなく、リング部561および傾斜フランジ部562のみで支えられる。その結果、支持スカート3にかかる負荷を軽減することができる。
【0040】
本実施形態の外槽底板構造の強度を検証すべく、シミュレーションにより、本実施形態の外槽底板構造と、底板に補強梁を設ける従来の外槽底板構造との比較を行った。シミュレーションでは、φ8000mmの竪型断熱低温タンクを用い、底板の板厚を6mm(t=6mm)とした。
【0041】
図6に示すように、本実施形態の外槽底板構造の場合、底板の最大変形量は、11.8mmであった。一方、従来の外槽底板構造の場合、底板の最大変形量は、8.5mmであった。この結果から、補強梁を省略した本実施形態の外槽底板構造でも、従来の外槽底板構造と略同様の強度が得られることが分かる。
【0042】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、様々な変形例や応用例が考えられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る一実施形態を示す全体断面図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】図1のIII部拡大図である。
【図4】図1のIV−IV矢視図である。
【図5】図4の部分斜視図である。
【図6】本実施形態の外槽底板構造による底板の強度を説明するための図である。
【図7】従来の外槽底板構造を示す全体断面図である。
【図8】底板の強度と補強梁のピッチと関係を説明するための図である。
【図9】底板の強度と補強梁のピッチと関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0044】
1 竪型断熱低温タンク
2 内槽
3 支持スカート
4 基礎
5 外槽
6 断熱板
7 保冷材
51 槽本体
52 底板
56 補強リング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内槽を支持スカートを介して基礎上に支持し、その内槽を囲繞すべく、上記支持スカートに上記内槽の側方および上方を覆う槽本体を支持させると共に上記支持スカート内に上記内槽の底部を覆う底板を設けて外槽を構成し、その底板上に複数の断熱板を敷設すると共に、上記内外槽間に保冷材を充填してなる竪型断熱低温タンクの外槽底板構造において、
上記底板を、上記断熱板の敷設に支障をきたさないよう、かつ内外槽圧を膜力のみで耐えられるように、下方にわずかに湾曲させた球面形状に形成し、その底板の外周を、上記支持スカートの内周に、断面ト字状の補強リング部材で支持させたことを特徴とする竪型断熱低温タンクの外槽底板構造。
【請求項2】
上記底板上に長方形状の断熱板を隙間なく敷設した請求項1記載の竪型断熱低温タンクの外槽底板構造。
【請求項3】
上記底板は、上記内槽の内径に対して1倍以上の半径で形成された球面の一部をなす請求項1または2記載の竪型断熱低温タンクの外槽底板構造。
【請求項4】
上記補強リング部材は、上記支持スカートの内周に沿って設けられたリング部と、そのリング部の内周側から下方に傾斜して延出し上記底板を支持する傾斜フランジ部とからなる請求項1から3いずれかに記載の竪型断熱低温タンクの外槽底板構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−162772(P2007−162772A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357580(P2005−357580)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(592009281)石川島プラント建設株式会社 (39)
【Fターム(参考)】