説明

端子圧着用金型及び端子金具付き電線の製造方法

【課題】簡易な構成で芯線の周囲に形成されている酸化膜が除去可能な端子圧着用金型及び端子金具付き電線の製造方法を提供する。
【解決手段】アンビル50は、加圧部70は、一段高くされた中央部には、最初に底板部36を加圧する第一加圧面71を有し、この第一加圧面71から芯線21の先端方向(図1の左斜め下方向)漸次低くなる傾斜面である第二加圧面72を有する。クリンパ60を下降させていくと、アンビル50の第二加圧面72である傾斜面により底板部36が変形し、その底板部36に宛がわれた芯線21も圧縮される方向に変形して芯線21は、圧縮率の少ない芯線21の先端側に逃げる方向に流動する力が生じる。この力による伸びは、底板部36よりも芯線21に大きく生じ、芯線21と端子金具30との間に相対的な移動(伸びの差)が生じ、両部材の間に擦れが生じ、芯線21周囲に形成された酸化膜が剥がされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子圧着用金型及び端子金具付き電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆電線に端子金具を取り付けるに際して被覆電線の芯線を端子金具に圧着接続することが行われる。
【0003】
具体的には、例えば、端子金具をアンビル上に位置決めし、被覆電線の露出させた芯線を端子金具の底板上に載置する。底板の両側部からは、一対のバレル部が立ち上げられて形成されており、アンビルの上方に配されたクリンパを降下させると、バレル部の先端部がクリンパに押し下げられ当該先端部が芯線に食い込んでいく。これにより、芯線と端子金具とが圧着接続されるようになっている(特許文献1参照)。
【0004】
ここで、露出した芯線の周囲には、酸化膜が形成されているが、導電性の向上のために酸化膜が除去されることが望ましい。そのため、特許文献1のバレル部には、酸化膜を除去するためのセレーションが凹設されている。
【特許文献1】特開2003−31274公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、セレーションにより酸化膜を除去する方法では、酸化膜の除去性能が充分でなく、導電性の改良の余地があった。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、簡易な構成で芯線の周囲に形成されている酸化膜の除去性を高めて導電性を改善できる端子圧着用金型及び端子金具付き電線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、底板部と、その底板部の側縁から立ち上げた一対のバレル部とを有する銅又は銅合金製の端子金具を、被覆電線のアルミニウム又はアルミニウム合金製の芯線に圧着するための端子圧着用金型であって、前記端子金具の底板部を受ける下型と、前記端子金具の前記底板部に前記芯線の先端部を宛がった状態で前記下型との間で前記バレル部を押し潰すことにより前記バレル部及び前記芯線を前記バレル部が前記芯線を圧縮しつつ包み込むように変形させる上型とを備えた端子圧着用金型であって、前記下型のうち前記底板部を受ける部分の形状を、前記芯線の先端側に位置する部分ほど前記上型との間のギャップが広がる形状に形成したことを特徴を有する(手段1)。
【0007】
また、上記構成の手段1において、前記下型のうち前記端子金具の前記底板部を受ける部分には、前記芯線の先端側ほど前下がりに下降傾斜する傾斜面が形成されていることを特徴とするようにしてもよい(手段2)。
【0008】
さらに、上記構成の手段2において、更に、前記傾斜面は、前記芯線の軸方向に沿って延びる溝状の傾斜凹部として形成されると共に、その傾斜凹部の底面が前記下型の両側部側ほど高くなる断面弧状をなすように形成されており、かつ、当該傾斜凹部の前記芯線の軸方向と直交する幅寸法は、前記芯線の先端側ほど狭くなるように設定してもよい。
【0009】
また、手段1のものに、前記下型のうち前記端子金具の前記底板部を受ける部分には、前記芯線の先端側ほど階段状に下降傾斜する段差面が形成されているようにしてもよい。
【0010】
本発明の端子金具付き電線の製造方法は、底板部とその底板部の側縁から立ち上げた一対のバレル部とを有する端子金具を、被覆電線の芯線に端子圧着用金型によって圧着してなる端子金具付き電線の製造方法であって、前記端子圧着用金型として、前記端子金具の底板部を受ける下型と、前記端子金具の前記底板部に前記芯線の先端部を宛がった状態で前記下型との間で前記バレル部を押し潰すことにより前記バレル部及び前記芯線を前記バレル部が前記芯線を圧縮しつつ包み込むように変形させる上型とを備え、かつ、前記下型のうち前記底板部を受ける部分の形状が、前記芯線の先端側に位置する部分ほど前記下型との間のギャップが広がる形状に形成されているものを使用することに特徴を有する。
【発明の効果】
【0011】
下型のうち底板部を受ける部分の形状を、芯線の先端側に位置する部分ほど上型との間のギャップが広がる形状に形成したから、上型と下型とを挟みつけると、底板部のうちの後端側が、より大きく挟み付けによる力を受ける。この力を受けて底板部が変形すると、その底板部に宛がわれた芯線も圧縮される方向に変形して当該芯線の圧縮率が高くなる。すると、芯線は、圧縮率の少ない芯線の先端側に逃げる方向に流動する力が生じる。
【0012】
この力による伸びは、底板部よりも芯線に大きく生じるから、芯線と端子金具との間に相対的な移動(伸びの差)が生じ、両部材の間に擦れが生じる。この擦れにより、芯線周囲に形成された酸化膜が剥がされる。したがって、芯線の周囲に形成されている酸化膜の除去性を高めて導電性を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1の端子金具付き電線10の製造方法について、図1〜図7を参照して説明する。
本実施形態の端子金具付き電線10は、図1に示すように、被覆電線20の端末部に端子金具30が圧着接続されてなり、例えば電気自動車において走行用の動力源を構成するバッテリ、インバータ、モータなどの装置(図示せず)の間に配索されるものである。
【0014】
被覆電線20は、複数の細いアルミ線21A(金属素線)を螺旋状に撚り合わせてなる芯線21を樹脂製の絶縁被覆22(絶縁層)で被覆したものであり、その端末部においては、絶縁被覆22が剥き取られて芯線21が露出されている。
【0015】
端子金具30は、いわゆるオープンバレル型であって、箱型の端子部31と、端子部31と連続し被覆電線20が接続される電線接続部32とからなり、アルミ製よりも高い強度が得られる銅合金製とされている。
端子部31は、箱型の雌端子金具30であって、図示しない雄端子が挿入孔31Aに挿入されることにより、外部と電気的接続が図られるようになっている。
【0016】
電線接続部32は、被覆電線20を保持する電線保持部33と、芯線21と接続される芯線接続部35と、を有する。
電線保持部33は、芯線接続部35から連続した底板の左右両側縁から一対のカシメ片33A,33Aが立ち上げられてなり、これらの一対のカシメ片33A,33Aを被覆電線20側に湾曲させることにより、被覆電線20が離脱や位置ずれしないように保持されている。
【0017】
芯線接続部35は、半円筒形状(樋状)の底板部36と、底板部36の両側部から延出されてなる一対のバレル部37と、からなる。
バレル部37は、底板部36の両側部から立ち上げられてなり、芯線21を外方から包み込むように圧縮しつつ、その先端部を芯線21上部から芯線21内部に食い込ませてかしめられている。これにより、バレル部37にかしめられた芯線21は、バレル部37の内側で圧縮されている。
【0018】
底板部36の下部には、後述するアンビル50(本発明の「下型」に相当)とクリンパ60(本発明の「上型」に相当)の相対移動により凹設される食い込み凹部40が形成されている。この食い込み凹部40は、後述するアンビル50の加圧部70に応じた形状となっている。
【0019】
アンビル50は、図2に示すように、端子金具30の圧着の際に用いられる金属製の金型であり、略直方体状をなし、その上端部(先端部)に、底板部36に下面から加圧して食い込む加圧部70(下型のうち底板部36を受ける部分)が形成されている。
【0020】
加圧部70は、芯線21の軸方向に長く、その軸方向の位置により高さが異なる。具体的には、軸方向の中央部は、一段高い第一加圧面71とされ、この第一加圧面71が最初に底板部36に食い込む。次に、この第一加圧面71よりも芯線21の先端側(図2の左斜め下方向)は、漸次低くなる傾斜面(芯線21の先端側ほど前下がりに下降傾斜する傾斜面。芯線21の先端側に位置する部分ほど前記上型との間のギャップが広がる形状)である第二加圧面72とされ、第一加圧面71が底板部36に食い込んだ後で、この第二加圧面72の高い部分から徐々に底板部36に食い込んでいく。また、第一加圧面71よりも芯線21の後端側(図2の右斜め上方向)は、段差状に低くなる第三加圧面73とされており、この第三加圧面73は、第二加圧面72の下端と、ほぼ同じ高さになっている。したがって、第二加圧面72が全て底板部36に食い込むと同時にこの第三加圧面73が底板部36に食い込むことになる。
【0021】
これら第一加圧面71、第二加圧面72、第三加圧面73は、ほぼ同じ面積の略正方形状であって、第一加圧面71及び第二加圧面72は、半円形の底板部36を受けやすくするために、幅方向の略中央部が漸次低くなるように湾曲した形状となっている。一方、第三加圧面73は、平坦な形状となっている。このように、本実施形態では、アンビルは、圧着の際に端子金具を載置して位置決めする目的の他に、端子金具の底板部36に食い込み凹部40を形成するものである。
【0022】
クリンパ60は、図3に示すように、端子金具30の載置されるアンビル50の上方に配されており、クリンパ60を下降させることにより、端子金具30のバレル部37が芯線21を包み込みつつ押し潰されて芯線21がかしめられる。クリンパ60の内面形状は、立ち上げられた一対のバレル部37を包み込むように変形させるために、山形に凹設されており、その頂部は、一対のバレル部37に応じて半円形状になっている。
【0023】
そして、詳しくは後述するが、芯線21がバレル部37にほぼかしめられると、クリンパ60の更なる下降により、端子金具30の底板部36にアンビル50の加圧部70が下方から食い込むようになっている。
【0024】
次に、端子金具付き電線10の製造方法を説明する。
金属板材に打ち抜き加工を施した後、一対のバレル部37が立ち上げられた形態になるように曲げ加工を施し(図3参照)、図4に示すように、芯線21を端子金具30の底板部36の内面36Aに収容した状態で、アンビル50の第一加圧面71上に底板部36の中心部(バレル部37の軸方向の中間部付近の位置)を載置する。
【0025】
そして、この状態からクリンパ60を下降させると、立ち上げられた一対のバレル部37がクリンパ60の内面形状に沿って、内向きに変形し、クリンパ60の更なる下降により、バレル部37がU字状に折り返し、バレル部37の先端部37Aが芯線21に突き当てられる。そして、このまま、バレル部37の先端部37Aが芯線21内部に食い込み、バレル部37が押し潰されて芯線21と端子金具30の圧着接続が行われる。
【0026】
この状態から、更にクリンパ60を下降させていくと、まずアンビル50の第一加圧面71が端子金具30の底板部36に食い込む。このとき、第一加圧面71の後端部分のエッジ部分の擦れにより芯線21周囲に形成された酸化膜が除去される。
【0027】
更にクリンパ60を下降させていくと、傾斜面である第二加圧面72が徐々に底板部36に食い込んでいく。このとき、図7に示すように、第二加圧面72が食い込む前は、内部の芯線21はほぼ一様(図7上図)であったのに対して、第二加圧面72が食い込むにしたがって、この食い込んだ後方ほど芯線21の圧縮率が高くなる(図7下図。x1<x2)。そのため、芯線21は、圧縮率の少ない芯線21の先端側に流動しようとする(伸びようとする)力を生じる一方、底板部36については、そのような力(伸びようとする力)が比較的生じないため、芯線21と底板部36との境界部分に伸びの差、すなわち擦れが生じる(図7下図の芯線と底板部の境界部分の矢印で示す)。この擦れは、芯線21の周囲に形成されていた酸化膜を除去するため、芯線21と端子金具30との間の導電率を向上させることができる。
【0028】
そして、更にクリンパ60を下降(図5のクリンパの下端60Aが端子金具30よりも下方の所定位置に至るまで下降)させていくと、図5に示すように、第二加圧面72の全体が底板部36に食い込むとともに、平坦な第三加圧面73の全体が底板部36に食い込む。このとき、第三加圧面73の後端部分のエッジの擦れにより芯線21周囲に形成された酸化膜が除去される。
そして、クリンパ60を元に戻すと、図6に示すように、本実施形態の端子金具付き電線10が製造される。なお、食い込み凹部40のうちの第一加圧面71及び第二加圧面72により凹設された部分は、第一加圧面71及び第二加圧面72が湾曲した形状であるため、これに応じて幅方向の中間部がわずかに膨らんだ膨出部40Aを有する形状となっている。
【0029】
このように、アンビル50(下型)のうち底板部36を受ける部分の形状を、芯線21の先端側ほど前下がりに下降傾斜(芯線21の先端側に位置する部分ほどクリンパ60(上型)との間のギャップが広がる形状)する傾斜面である第二加圧面72とした。そのため、クリンパ60とアンビル50とを挟みつけると、芯線21と端子金具30との間に相対的な移動(伸びの差)が生じ、両部材の間に擦れが生じる。この擦れにより、芯線21周囲に形成された酸化膜が剥がされて、芯線21と端子金具30との導電性を向上させることができる。
また、第二加圧面72を傾斜面とすることで、エッジ部分だけでなく傾斜状に形成された食い込み凹部40の当該傾斜部分の全体に亘って芯線21の伸びを生じさせることができ、これにより傾斜部分の全体で擦れが生じるから、より芯線21と端子金具30との間の酸化膜を除去することができる。
【0030】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図8及び図9を参照して説明する。
実施形態2は、図9に示すように、アンビル150の第二加圧面172が凹設され、芯線21の先端側に向かうほど細くされており、端子金具付き電線110の食い込み凹部140もアンビル150の形状に応じた形状となっている(図8参照)。以下、実施形態1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0031】
加圧部170の第二加圧面172には、図9に示すように、芯線21の軸方向に沿って溝状に延びた傾斜凹部80が形成されている。この傾斜凹部80の底面は、アンビル150(第二加圧面172)の両側部81,81側ほど高くなる断面弧状をなし、この傾斜凹部80の芯線21の軸方向と直交する幅寸法は、前記芯線21の先端側ほど狭くなるように設定されている。すなわち、傾斜凹部80は、先端に向かうほど細くなる先窄みした形状となっている。
【0032】
これにより、実施形態1で示した芯線21の先端側に生じる芯線21の伸びは、傾斜凹部80の両側部81,81によって更に絞られるから、その絞られた際に生じる芯線21と底板部36の内面36Aとの間の擦れにより、実施形態1の端子金具付き電線10よりも、芯線21周囲に形成された酸化膜が剥がされて、芯線21と端子金具30との導電性を向上させることができる。
【0033】
<実施形態3>
次に、本発明の実施形態3を図10ないし図16を参照して説明する。
実施形態3は、図11に示すように、アンビル250の加圧部270が、芯線21の先端側(図11の左斜め下方向)ほど下降傾斜する階段状(芯線21の先端側に位置する部分ほど上型との間のギャップが広がる形状)の段差面として形成されている。端子金具付き電線210の食い込み凹部240もアンビル250の形状に応じた形状となっている(図10参照)。
【0034】
具体的には、図11に示すように、加圧部270は、芯線21の軸方向に伸びる3段の階段状であって、上段の後端部は、最初に底板部36を加圧する第一加圧面271とされ、第一加圧面271から段差271Aだけ下がった中段の中央部は、2番目に底板部36を加圧する第二加圧面272とされ、第二加圧面272から段差272Aだけ下がった下段の後端部は、最後に底板部36を加圧する第三加圧面273とされている。
【0035】
これら第一加圧面271、第二加圧面272、第三加圧面273は、ほぼ同じ面積の正方形状で、共に平坦な面となっている。なお、端子金具30の底板部の下面を第一加圧面271に対応させて平坦な形状としたものを用いてもよく、また、実施形態1のように、第一加圧面271を、幅方向の略中央部が低くなるように湾曲した形状として、この上に半円形状の底板部36を載置してもよい。
【0036】
次に、端子金具付き電線210の製造方法を説明する。
金属板材に打ち抜き加工を施した後、一対のバレル部37が立ち上げられた形態になるように曲げ加工を施し(図12参照)、図13に示すように、アンビル250の第一加圧面271上に、端子金具30の底板部36のうち、中心部よりやや後端側(バレル部37の後端部側)の位置を載置する。
【0037】
そして、この状態からクリンパ60を下降させる。すると、立ち上げられた一対のバレル部37がクリンパ60の内面形状に沿って、内向きに変形し、クリンパ60の更なる下降により、バレル部37がU字状に折り返し、バレル部37の先端部37Aが芯線21に突き当てられる。このまま、バレル部37の先端部37Aが芯線21内部に食い込み、芯線21と端子金具30の圧着接続が行われる。ここから、更にクリンパ60を下降させていくと、まずアンビル250の第一加圧面271が端子金具30の底板部36に食い込む。
このとき、図16に示すように、アンビル250が食い込む前は、内部の芯線21はほぼ一様(図16上図)であったのに対して、第一加圧面271が底板部36に食い込むことにより、底板部36が上方に突き上げられるように塑性変形し、この塑性変形によりその上の芯線21が塑性変形して圧縮率が高くなる(図16下図)。
【0038】
ここで、第一加圧面271の前の部分(第二加圧面272で圧縮される部分)では、第一加圧面71の部分よりも圧縮が少ないため(y1<y2)、第一加圧面271により圧縮された芯線21は、圧縮率の少ない芯線21の先端側に逃げる(伸びる)力を生じ、段差部分36Bにおける芯線21と底板部36との間に擦れが生じる(図16下図の芯線と底板部の境界部分の矢印で示す)。この擦れは、芯線21の周囲に形成されていた酸化膜を除去するため、芯線21と端子金具30との間の導電率を向上させることができる。
【0039】
更にクリンパ60を下降させていくと、まずアンビル250の第二加圧面272が端子金具30の底板部36に食い込む。このときも、第二加圧面272の先端側の段差272Aに対応する部分については、上記と同様に、擦れが生じ、芯線21の周囲に形成されていた酸化膜を除去する。また、ここで生じる芯線21の逃げは、圧縮率の低くなる前方にのみ生じ、圧縮率の高くなる後方には生じないから、芯線21の伸びを前方にのみ生じさせて、電線保持部33により固定された後方には生じさせないようにすることができる。
【0040】
更にクリンパ60を下降させていくと、図14に示すように、第三加圧面273の全体が底板部36に食い込む。このときも、第三加圧面273の先端側の段差については、上記と同様に、擦れが生じ、芯線21の周囲に形成されていた酸化膜を除去する。また、上記と同様に、芯線21の逃げは、圧縮率の低くなる前方にのみ生じ、圧縮率の高くなる後方には生じないから、芯線21の伸びを前方にのみ生じさせて、後方には生じさせないようにすることができる。
そして、クリンパ60を元に戻すと、図15に示すように、本実施形態の端子金具付き電線210が製造される。
【0041】
このように、アンビル250(下型)のうち端子金具30の底板部36を受ける部分には、芯線21の先端側ほど階段状に下降傾斜する段差面が形成されているから、段差部分により生じる底板部36と芯線21との間の擦れにより、芯線21周囲に形成された酸化膜が剥がされて、芯線21と端子金具30との導電性を向上させることができる。
【0042】
<実施形態4>
次に、本発明の実施形態4を図17ないし図22によって説明する。
実施形態4は、図18に示すように、アンビル350の加圧部370のうち、芯線21の後端側の平坦な部分が最初に底板部36を加圧する第一加圧面371とされ、この第一加圧面371から芯線21の先端方向(図18の左斜め下方向)に漸次低くなる傾斜面(芯線21の先端側ほど前下がりに下降傾斜する傾斜面)が第二加圧面372とされている。端子金具付き電線310の食い込み凹部340もアンビル350の形状に応じた形状となっている(図10)。
なお、端子金具30の底板部の下面を第一加圧面371に対応させて平坦な形状としたものを用いてもよく、また、実施形態1のように、第一加圧面371を、幅方向の略中央部が低くなるように湾曲した形状として、この上に半円形状の底板部36を載置してもよい。
【0043】
次に、端子金具付き電線310の製造方法を説明する。
金属板材に打ち抜き加工を施した後、一対のバレル部37が立ち上げられた形態になるように曲げ加工を施し(図19参照)、図20に示すように、アンビル350の第一加圧面71上に端子金具30の底板部36の中心部よりもやや後端部側の部分を載置する。
【0044】
そして、この状態からクリンパ60を下降させる。すると、立ち上げられた一対のバレル部37がクリンパ60の内面形状に沿って、内向きに変形し、クリンパ60の更なる下降により、バレル部37がU字状に折り返し、バレル部37の先端部37Aが芯線21に突き当てられる。このまま、バレル部37の先端部37Aが芯線21内部に食い込み、芯線21と端子金具30の圧着接続が行われる。ここから、更にクリンパ60を下降させていくと、まずアンビル350の第一加圧面71が端子金具30の底板部36に食い込む。このとき、第一加圧面71の後端部分のエッジの擦れにより芯線21周囲に形成された酸化膜が除去される。
【0045】
次に、更にクリンパ60を下降させていくと、アンビル350の第二加圧面372である傾斜面が徐々に底板部36に食い込んでいく。このとき、アンビル350が食い込む前は、内部の芯線21はほぼ一様であったのに対して、第二加圧面372が食い込むにしたがって、この食い込んだ部分ほど芯線21の圧縮率が高くなる(図7参照)。そのため、芯線21と底板部36との境界部分に擦れが生じる。この擦れは、芯線21の周囲に形成されていた酸化膜を除去するため、芯線21と端子金具30との間の導電率を向上させることができる。
【0046】
更にクリンパ60を下降させていくと、図21に示すように、第二加圧面372の全体が底板部36に食い込む。
そして、図22に示すように、クリンパ60を元に戻すと、本実施形態の端子金具付き電線310が製造される。
【0047】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0048】
(1)上記実施形態では、被覆電線20の芯線21の材質は、アルミニウムとしたが、アルミニウム合金を用いてもよい。また、端子金具30の材質は、銅合金としたが、銅を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施形態1の端子金具付き電線の斜視図
【図2】アンビルの斜視図
【図3】アンビルとクリンパの位置関係を示す図
【図4】圧着前のアンビルに端子金具を載置した状態を示す側面図
【図5】圧着及びアンビルによる底板部の変形が行われた状態の側面図
【図6】実施形態1により製造された端子金具付き電線の側面図
【図7】図4及び図6の丸囲み部分を拡大し、芯線と底板部が擦れる様子を説明する図
【図8】実施形態2の端子金具付き電線の斜視図
【図9】アンビルの斜視図
【図10】実施形態3の端子金具付き電線の斜視図
【図11】アンビルの斜視図
【図12】アンビルとクリンパの位置関係を示す図
【図13】圧着前のアンビルに端子金具を載置した状態を示す側面図
【図14】圧着及びアンビルによる底板部の変形が行われた状態の側面図
【図15】実施形態3により製造された端子金具付き電線の側面図
【図16】図13及び図15の丸囲み部分を拡大し、芯線と底板部が擦れる様子を説明する図
【図17】実施形態4の端子金具付き電線の斜視図
【図18】アンビルの斜視図
【図19】アンビルとクリンパの位置関係を示す図
【図20】圧着前のアンビルに端子金具を載置した状態を示す側面図
【図21】圧着及びアンビルによる底板部の変形が行われた状態の側面図
【図22】実施形態4により製造された端子金具付き電線の側面図
【符号の説明】
【0050】
10,110,210,310…端子金具付き電線
20…被覆電線
21…芯線
30…端子金具
33…電線保持部
37…バレル部
40,140,240,340…食い込み凹部
50,150,250,350…アンビル(下型)
60…クリンパ(上型)
70,170,270,370…加圧部
71,271,371…第一加圧面
72,172,272,372…第二加圧面
73,273…第三加圧面
80…傾斜凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板部と、その底板部の側縁から立ち上げた一対のバレル部とを有する銅又は銅合金製の端子金具を、被覆電線のアルミニウム又はアルミニウム合金製の芯線に圧着するための端子圧着用金型であって、
前記端子金具の底板部を受ける下型と、前記端子金具の前記底板部に前記芯線の先端部を宛がった状態で前記下型との間で前記バレル部を押し潰すことにより前記バレル部及び前記芯線を前記バレル部が前記芯線を圧縮しつつ包み込むように変形させる上型とを備えた端子圧着用金型であって、
前記下型のうち前記底板部を受ける部分の形状を、前記芯線の先端側に位置する部分ほど前記上型との間のギャップが広がる形状に形成したことを特徴とする端子圧着用金型。
【請求項2】
前記下型のうち前記端子金具の前記底板部を受ける部分には、前記芯線の先端側ほど前下がりに下降傾斜する傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1記載の端子圧着用金型。
【請求項3】
前記傾斜面は、前記芯線の軸方向に沿って延びる溝状の傾斜凹部として形成されると共に、その傾斜凹部の底面が前記下型の両側部側ほど高くなる断面弧状をなすように形成されており、かつ、当該傾斜凹部の前記芯線の軸方向と直交する幅寸法は、前記芯線の先端側ほど狭くなるように設定されていることを特徴とする請求項2記載の端子圧着用金型。
【請求項4】
前記下型のうち前記端子金具の前記底板部を受ける部分には、前記芯線の先端側ほど階段状に下降傾斜する段差面が形成されていることを特徴とする請求項1記載の端子圧着用金型。
【請求項5】
底板部とその底板部の側縁から立ち上げた一対のバレル部とを有する端子金具を、被覆電線の芯線に端子圧着用金型によって圧着してなる端子金具付き電線の製造方法であって、
前記端子圧着用金型として、前記端子金具の底板部を受ける下型と、前記端子金具の前記底板部に前記芯線の先端部を宛がった状態で前記下型との間で前記バレル部を押し潰すことにより前記バレル部及び前記芯線を前記バレル部が前記芯線を圧縮しつつ包み込むように変形させる上型とを備え、かつ、前記下型のうち前記底板部を受ける部分の形状が、前記芯線の先端側に位置する部分ほど前記下型との間のギャップが広がる形状に形成されているものを使用することを特徴とする端子金具付き電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−301839(P2009−301839A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154297(P2008−154297)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】