説明

端子圧着装置および端子圧着方法

【課題】クリンパーの振れを端子片に極力伝え難くし、比較的簡素な制御構造で不良品を大幅に低減して歩留りを高める端子圧着装置および端子圧着方法を提供する。
【解決手段】端子片4をかしめる時、クリンパー2は、押圧部2aに端子片4を略内接させるかしめ位置Jで一時的に停止し、かしめ位置Jから再び下死点位置Lの方向に変位するので、製作誤差などに起因するクリンパー2の振れが端子片4に伝わることを極力避けることができる。これにより、端子片4を芯線10にかしめた時、端子片4に「へこみ傷」、「首吊り現象」、「被覆噛み」や「芯線食み出し」に起因する不良品が大幅に低減し、歩留りを高めて生産性の向上にも繋がる。しかも、クリンパー2をかしめ位置Jで一時的に停止させるといった簡素な制御構造で済み、全体が大型化せずコンパクトでコスト的にも有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスなどに使用する端子付き電線を作製する端子圧着装置および端子圧着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に端子圧着装置では、かしめ用のクリンパーが、クランク機構により上死点位置と下死点位置との間で往復昇降可能に設けられている。クリンパーの下方には、端子片の上に被覆電線の露出部分を載せるアンビルが設置されている。クリンパーが上死点位置から下死点位置に下降するに伴い、クリンパーが打ち下ろされて端子片を変形させて被覆電線の露出部分にかしめる。
【0003】
この場合、クリンパーとクランク機構との間には、作製誤差や組付誤差などの要因が不可避的に加わり、クリンパーがアンビルに対して所定のストロークで打ち下ろされる時、クリンパーが芯ずれなどで僅かに振れて圧着不良を招くことがある。
このため、端子片を被覆電線の露出部分にかしめた時、端子片に「へこみ傷」が生じたり、被覆電線から露出部分が引き出された「首吊り現象」が発生することがある。あるいは、クリンパーの圧着不良に起因して、端子片が被覆電線の被覆部分を噛み込む「被覆噛み」や被覆電線の露出部分が端子片から食み出す「芯線食み出し」といった現象を招来する不具合がある。
【0004】
上記の不具合などによる不良品を見分けるものとして、端子圧着装置の圧着不良検出方法が登場している(例えば、特許文献1参照)。
この圧着不良検出方法では、クリンパーが所定の高さ(クリンパー高)の時、その速度(クリンパー速度)が特定値になるように予めプログラム化して設定されている。端子片のかしめ時、クリンパーが打ち下ろされるクリンパー高に対するクリンパー速度をプログラム化したクリンパー高に対するクリンパー速度と比較し、クリンパー速度が一定の許容範囲から外れた場合に不良品と見なしている。
【特許文献1】特開平11−273823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、不良品を見分ける際、所定のクリンパー高に対するクリンパー速度の許容範囲を検出するので、クランク機構およびクリンパーの制御が複雑化するとともに、かしめ時にクリンパーの振れが働いて再び圧着不良を来す虞がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的はクリンパーの振れを端子片に極力伝え難くすることにより、比較的簡素な制御構造で不良品の発生を大幅に低減し、歩留りを高めて生産性の向上にも繋がる端子圧着装置および端子圧着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1および請求項5について)
アンビルは、端子片の上に被覆電線の露出部分を載置する。クリンパーは、被覆電線から離れた上死点位置と被覆電線の露出部分に端子片をかしめる下死点位置との間でアンビルに対して接離方向に変位する。クリンパーは、サーボモータを駆動して変位する。クリンパーが上死点位置からアンビルに向かって所定距離だけ変位する時、ハイトセンサは、クリンパーが端子片に接触するかしめ位置に到ることを検出して出力信号を発する。電流制御部は、ハイトセンサからの出力信号を受け、かしめ位置でサーボモータの運転を止めてクリンパーを一時的に停止させた後、サーボモータを再運転してクリンパーを下死点位置の方向に再び変位させる。
【0008】
端子片をかしめる時、クリンパーは、端子片に接触するかしめ位置で一時的に停止し、かしめ位置から再び下死点位置の方向に変位するので、製作誤差や組付誤差などに起因するクリンパーの振れが端子片に伝わることを極力避けることができる。
【0009】
これにより、端子片を被覆電線の露出部分にかしめた時、端子片に「へこみ傷」、「首吊り現象」、「被覆噛み」や「芯線食み出し」といった不具合を招来し難くなって不良品の発生を大幅に低減し、歩留りを高めて生産性の向上にも繋がる。しかも、クリンパーをかしめ位置で一時的に停止させるといった簡素な制御構造で済み、全体が大型化せずコンパクトでコスト的にも有利である。
【0010】
(請求項2について)
クリンパーの下端部は、アーチ状の湾曲凹面部を端子片に対する押圧部として切欠き状に形成している。このため、押圧部の構造が簡素で済みコンパクトでコスト的に有利である。
【0011】
(請求項3について)
かしめ位置では、略U字状をなす端子片の先端部は、押圧部の内周面部に略内接状態になっている。このため、端子片が押圧部の内周面部に沿って円滑に押圧されるようになり、圧着不良を招き難くなる。
【0012】
(請求項4について)
アンビルの前方には、頂点に通過孔を有する円錐面状の窪みを形成した案内ブロックが設けられ、被覆電線は、案内ブロックの通過孔を通過してアンビルに載置される。
この場合、被覆電線を案内ブロックの通過孔に通過させる際、被覆電線が円錐面状の窪みに案内されながら通過孔に導かれるので、被覆電線を通過孔に迅速かつ容易に挿入することができて生産性の向上に資する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
端子片をかしめる時、クリンパーは、端子片に接触するかしめ位置で一時的に停止し、かしめ位置から再び下死点位置の方向に変位するので、製作誤差などに起因するクリンパーの振れが端子片に伝わることを極力避けることができる。これにより、端子片を被覆電線の芯線(露出部分)にかしめた時、端子片に「へこみ傷」、「首吊り現象」、「被覆噛み」や「芯線食み出し」などに基づく不良品の発生を大幅に低減して歩留りを高め、生産性の向上にも繋がる。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図5に基づいて、本発明の実施例1に係る端子圧着装置1を説明する。図1に示すように端子圧着装置1は、下端部にアーチ状の湾曲凹面部を押圧部2aとして切欠き状に形成したクリンパー2を備えている。クリンパー2の下方には、クリンパー2に対向する厚板状のアンビル3が設置されている。アンビル3には、後述する端子片4を載せる細長台部3aとともに、クリンパー2の脚部2bに対応する窪み部3bが細長台部3aの両側に形成されている。
【0015】
アンビル3の細長台部3aには、連鎖帯5で連結された端子片4が一個づつ順にセットされるようになっている。端子片4は略U字状に曲成されており、その先端部4aは、クリンパー2における押圧部2aの内周面部に略内接状態に接触するようになっている。アンビル3には、ハイトセンサ25が取り付けられており、クリンパー2が上死点位置H{図5の(a)参照}から下方に所定距離だけ変位する時、クリンパー2が端子片4に略内接するかしめ位置J(同図参照)に到ることを検出して出力信号を発するようになっている。
【0016】
アンビル3の前方には、頂点に通過孔7を有する円錐面状の窪み8を形成した案内ブロック6が設けられている。案内ブロック6は、山状突部6aを有する上ブロック部6Aと、山状突部6aに嵌合される谷状溝6bを有する下ブロック部6Bからなる。山状突部6aは、先端部に半円孔部6cを形成し、谷状溝6bは、底面部に半円孔部6dを形成している。
上ブロック部6Aと下ブロック部6Bとの嵌合により、半円孔部6c、6d同士が向き合って通過孔7を形成する。被覆電線9は、案内ブロック6の通過孔7を通過し、芯線10を露出部分としてアンビル3上の端子片4に載置する。
【0017】
クリンパー2の上端部には、先端に略T字状の連結片11aを有する連結体11が取り付けられている。連結片11aは、上端に従動リンク12を有する把持部13に嵌込みにより連結されている(図2参照)。従動リンク12は、クランク機構14を構成し、主動リンク15に回動可能に連結されている。主動リンク15の先端部は、ピン16を介して駆動盤17に偏心状態に連結されている。駆動盤17の中心部には、サーボモータ18の回転軸18aが駆動盤17に対して回転駆動可能に嵌着されている。
【0018】
運転時、サーボモータ18が通電により駆動されると、サーボモータ18の回転軸18aを介して駆動盤17が正方向に回転する(図1の矢印A参照)。駆動盤17の回転に伴い、クランク機構14の主動リンク15、従動リンク12および連結体11を介してクリンパー2が下降変位する(図1の矢印B参照)。クリンパー2の下降変位により、後述するように押圧部2aが端子片4の先端部4aを押圧して芯線10をかしめるようになっている。
【0019】
このかしめ工程において、図3に示す制御部19による端子圧着方法を図4のフローチャートに沿って説明する。
図4のステップS1で、制御部19の速度制御部20は、端子片4に対するかしめ動作を開始させる作動信号が入力されたか否かを判定し、否の場合は作動信号が入力されるまで待機する。ステップS2で、速度制御部20は、データ格納部21よりサーボモータ18を回転させる加速度を読み出し、中央演算処理部22を介して増幅部23に出力し、増幅部23で電力増幅し、読み出した加速度となるようにサーボモータ18に電流を供給する。
【0020】
ステップS3で、速度制御部20は、サーボモータ18に付設されたロータリーエンコーダ(図示せず)からの出力値が、データ格納部21に記憶された等速回転位置に対応するか否かを判定する。判定が否の場合は、ステップS2における加速を続行し、等速回転位置に対応する場合、ステップS4に移行してサーボモータ18を等速回転で駆動する。
【0021】
その後、ステップS5で、データ格納部21に記憶された減速回転位置が検出されると、速度制御部20は、ステップS6でサーボモータ18の回転を減速させ、ステップS7で、アンビル3に設けたハイトセンサ25からの出力信号が中央演算処理部22を介して電流制御部24に送られ、アンビル3がかしめ位置Jになったことを知らせて、サーボモータ18の運転を一時的に止める。
クリンパー2が上死点位置Hから下降変位して、図5の(a)に示すかしめ位置Jに到る場合、クリンパー2は、押圧部2aの内周面部に端子片4の先端部4aを略内接状態に接触させる。
【0022】
ステップS8では、ハイトセンサ25からの出力信号により、クリンパー2がかしめ位置Jにあるか否かを確認する。否であればステップS7に戻り、かしめ位置Jを確認した場合、ステップS9に移行し、電流制御部24が中央演算処理部22を介してサーボモータ18に駆動指令を送ってサーボモータ18の運転を再開する。
【0023】
これにより、図5の(b)に示すように、クリンパー2は、下死点位置Lに下降して端子片4を芯線10にスプリングバックが生じないようにかしめて端子付き電線を作製する。この後、クリンパー2は上昇変位し、かしめ位置Jを経て元の上死点位置Hに戻って単一サイクルが終了する{図5の(c)参照}。このサイクルを繰り返すことにより、新たな被覆電線9の芯線10に端子片4が次々とかしめられ、ワイヤハーネスなどに用いる多数の端子付き電線を加工生産する。
【0024】
上記構成によれば、端子片4をかしめる時、クリンパー2は、押圧部2aが端子片4に略内接するかしめ位置で一時的に停止し、かしめ位置Jから再び下死点位置Lの方向に変位するので、製作誤差や組付誤差などに起因するクリンパー2の振れが端子片4に伝わることを極力避けることができる。
【0025】
これにより、端子片4を被覆電線9の芯線10にかしめた時、端子片4に「へこみ傷」、「首吊り現象」、「被覆噛み」や「芯線食み出し」といった不具合を招来し難くなって不良品の発生が大幅に低減し、歩留りを高めて生産性の向上にも繋がる。しかも、クリンパー2をかしめ位置Jで一時的に停止させるといった簡素な制御構造で済み、全体が大型化せずコンパクトでコスト的にも有利である。
【0026】
(変形例)
(a)なお、クリンパー2によるかしめ加工は、芯線10に限らず、被覆部分に対して行ってもよく、複数の端子片を連接した連鎖端子を同時にかしめるようにしてもよい。また、クリンパー2をかしめ位置Jで一時的に停止させる時間は、例えば数十分の1秒単位で計数設定が可能となるように極く短くすることができる。
(b)クランク機構14では、駆動盤17の代わりにカム盤を設け、カム盤の回転により従動リンク12および連結体11を介してクリンパー2を昇降変位させてもよい。
(c)サーボモータ18の代わりに、油圧シリンダーを駆動手段として用い、油圧シリンダーの作動により主動リンク15に駆動力を伝達させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
端子片をかしめる時、クリンパーは、端子片に接触するかしめ位置で一時的に停止し、かしめ位置から再び下死点位置の方向に変位するので、製作誤差や組付誤差などに起因するクリンパーの振れが端子片に伝わることを極力避けることができる。これにより、端子片を被覆電線の芯線にかしめた時、端子片に「へこみ傷」、「首吊り現象」、「被覆噛み」や「芯線食み出し」などに基づく不良品の発生を大幅に低減して歩留りを高め、生産性の効率化を求める需要者の喚起を促し、関連部品の流通を介して機械産業に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】端子圧着装置の分解斜視図である(実施例1)。
【図2】端子圧着装置の正面図である(実施例1)。
【図3】サーボモータを駆動する制御部のブロック図である(実施例1)。
【図4】制御部のフローチャートである(実施例1)。
【図5】(a)、(b)、(c)は、アンビルにおける端子片に対するクリンパーの昇降作動を示す説明図である(実施例1)。
【符号の説明】
【0029】
1 端子圧着装置
2 クリンパー
2a 押圧部
3 アンビル
4 端子片
4a 端子片の先端部
6 案内ブロック
7 通過孔
8 円錐面状の窪み
9 被覆電線
10 芯線(被覆電線の露出部分)
14 クランク機構
18 サーボモータ
19 制御部
24 電流制御部
25 ハイトセンサ
H 上死点位置
J かしめ位置
L 下死点位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子片の上に被覆電線の露出部分を載置するアンビルと、前記被覆電線から離れた上死点位置と前記被覆電線の前記露出部分に前記端子片をかしめる下死点位置との間で前記アンビルに対して接離方向に変位するクリンパーと、このクリンパーを変位させるべく駆動するサーボモータとを備え、
前記クリンパーが前記上死点位置から前記アンビルに向かって所定距離だけ変位する時、前記クリンパーが前記端子片に接触するかしめ位置に到ることを検出して出力信号を発するハイトセンサと、
前記ハイトセンサからの前記出力信号を受け、前記かしめ位置で前記サーボモータの運転を止めて前記クリンパーを一時的に停止させた後、前記サーボモータを再運転して前記クリンパーを前記下死点位置の方向に再び変位させる電流制御部とを備えたことを特徴とする端子圧着装置。
【請求項2】
前記クリンパーの下端部は、アーチ状の湾曲凹面部を前記端子片に対する押圧部として切欠き状に形成していることを特徴とする請求項1に記載の端子圧着装置。
【請求項3】
かしめ位置では、略U字状をなす前記端子片の先端部は、前記押圧部の内周面部に略内接状態になっていることを特徴とする請求項2に記載の端子圧着装置。
【請求項4】
前記アンビルの前方には、頂点に通過孔を有する円錐面状の窪みを形成した案内ブロックが設けられ、前記被覆電線は、前記案内ブロックの前記通過孔を通過して前記アンビルに載置されることを特徴とする請求項1に記載の端子圧着装置。
【請求項5】
端子片の上に被覆電線の露出部分をアンビルに載置する工程と、前記被覆電線から離れた上死点位置と前記被覆電線の前記露出部分に前記端子片をかしめる下死点位置との間でクリンパーが前記アンビルに対して接離方向に変位する工程と、前記クリンパーを変位させるべくサーボモータを駆動する工程とを備え、
前記クリンパーが前記上死点位置から前記アンビルに向かって所定距離だけ変位する時、ハイトセンサにより前記クリンパーが前記端子片に接触するかしめ位置に到ることを検出して出力信号を発する工程と、
前記ハイトセンサからの前記出力信号を受け、前記かしめ位置で前記サーボモータの運転を止めて前記クリンパーを一時的に停止させた後、前記サーボモータを電流制御部により再運転して前記クリンパーを前記下死点位置の方向に再び変位させる工程とを有する端子圧着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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