説明

竹材を含むキノコ栽培用培地

【課題】 さきに提案された、焼酎蒸留粕乾燥固形物と、木材オガ屑、モミガラ、イナワラ等の繊維性植物材の砕粒とを混合し、該混合物に水を加えて所要の水分率に調整してなるキノコ栽培用培地をさらに改善し、キノコ栽培日数の短縮及び収量の増加と共に、特に味覚において、旨味に甘味及び風味を加えて、コクのある味わいをつくりだすことを課題とする。
【解決手段】 焼酎蒸留粕の乾燥固形物と、竹材の砕粒とを混合し、該混合物に水を加えて所要水分率に調整した、
竹材を含むキノコ栽培用培地。
焼酎蒸留粕の乾燥固形物と、木材等の繊維性植物材の砕粒と、竹材の砕粒とを混合し、該混合物に水を加えて所要水分率に調整した、
竹材を含むキノコ栽培用培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、カンショ、麦、米等を原料とする焼酎蒸留粕及び竹材を用いたシイタケ、ヒラタケ、エリンギ、ナメコ、エノキタケ、シメジ等のキノコの栽培用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
焼酎蒸留粕は栄養分を多量に含むものであるから、これをキノコ栽培用培地に大いに利用したいものである。そこで、本発明者は、さきに、水分率約90〜95%の焼酎蒸留粕を乾燥して水分を除いた高栄養分を含む乾燥固形物とし、これに、木材オガ屑、木材パルプ、果実パルプ、モミガラ、イナワラ、ムギワラ等の繊維性植物材の砕粒を混合し、該混合物に水分を加えて所要の水分率に調整してなるキノコ栽培用培地を提案し(出願中、特願2004−322020)、それにより高栄養分の焼酎蒸留粕を豊富に含み、かつ焼酎蒸留粕と繊維性植物材砕粒とが均一に混合し、しかもアルコール分が除かれてキノコ菌の生長に安全な新たなキノコ栽培用培地を提供することができた。
【0003】
しかし、さきに提案されたキノコ栽培用培地では、一般にヒラタケ、エリンギ等のキノコは培地基材の木材オガ屑等からは栄養分を吸収することはなく、焼酎蒸留粕から栄養を吸収しているのである。ところが焼酎蒸留粕乾燥固形物と木材オガ屑からなる培地のC/N比が約15〜20といわれているように、焼酎蒸留粕乾燥固形物は窒素分が極めて多く、炭素分特に炭素源となる糖分が少いため、栽培において、キノコの生長促進には、高栄養分に基づく予想通りの効果に止まり、又収穫されたヒラタケ、エリンギ等の味覚についてみると、旨味は付与されているが、それ以上の味や風味は乏しいものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、さきに提案されたキノコ栽培用培地をさらに改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する手段として、本発明者は、焼酎蒸留粕乾燥固形物に混合すべき新たな材料について種々研究を重ねた結果、竹材が有効であることを見い出したのである。
【0006】
一般に、竹材は、カリウム含有量ガ極めて多く、灰分の約60%がカリウムであるキノコ類にとっては極めて有効な培地材料となりうるものであり、しかも竹材に含まれる果糖、ブドウ糖、ショ糖等の糖分がキノコの生長及び商品価値の向上に好影響を及ぼすことが予想される。
【0007】
そこで、竹材を混合したキノコ栽培用培地が、キノコ栽培及びキノコの商品価値にどのような効果をもたらすか、を実験によって確認してみる。
【0008】
(実験)
まず、次のような組成割合で水分率は全て63%に調整した5種の培地を用意し、各培地にヒラタケの種菌を接種した。
(1)竹+焼酎粕の培地
竹破砕屑 36%(重量比)
焼酎蒸留粕乾燥固形物 60%
貝化石粉 4%
(2)竹+木材+焼酎粕の培地
竹破砕屑 18%
針葉樹オガ屑 18%
焼酎蒸留粕乾燥固形物 60%
貝化石粉 4%
(3)竹+木材+焼酎粕の培地
竹破砕屑 9%
針葉樹オガ屑 27%
焼酎蒸留粕乾燥固形物 60%
貝化石粉 4%
(4)木材+焼酎粕の培地
針葉樹オガ屑 36%
焼酎蒸留粕乾燥固形物 60%
貝化石粉 4%
(5)従来の一般的培地
針葉樹オガ屑 54%
フスマ 23%
米ヌカ 23%
【0009】
収穫までの栽培日数
上記(1)の培地で栽培した場合が29日と最も早く、ついで(2)、(3)の培地の場合が30日、(4)の培地の場合が33日であった。(5)の場合は40日も要した。
竹を含む培地(1)、(2)、(3)は、竹を含まない培地(4)よりも3日以上早く、竹がキノコの生長に有効であった。
【0010】
収量
上記(2)の培地で栽培した場合が145.2g/瓶と最も多く、ついで(1)の場合が142.8g/瓶、(3)の場合が139.3g/瓶、(4)の場合が130.0g/瓶であった。(5)の場合は98.5g/瓶であった。
竹を含む培地(1)、(2)、(3)は、竹を含まない培地(4)よりもかなりの増収となった。又竹を含む培地(1)、(2)、(3)は、竹を含まない従来の培地(5)の1.4〜1.5倍の増収であった。
【0011】
ヒラタケの成分
竹を含まない(4)の培地で得たヒラタケの成分は、
タンパク質含有率 47.1%(乾物%)
脂質 3.5%
灰分 7.7%
炭水化物 41.7%
【0012】
上述の栽培日数が短かく、収量の最も多かった(2)の培地で得たヒラタケの成分は、
タンパク質含有率 43.8%(乾物%)
脂質 3.0%
灰分 8.0%
炭水化物 45.2%
(2)の培地によるヒラタケは炭水化物の占める割合が増加した。
【0013】
なお、一般的培地(5)によるヒラタケの成分は次のようである。
タンパク質含有率 34.5%(乾物%)
脂質 3.2%
灰分 7.7%
炭水化物 54.6%
【0014】
味覚
10人の試験員による味覚調査の結果によると、竹を含む培地(1)、(2)、(3)より得たヒラタケは、いずれも、竹を含まない培地(4)により得たヒラタケに比べ、旨味に甘味及び竹の風味が加わってコクのある良好な味となった。これは、竹に含まれる糖類がヒラタケに吸収されて好結果をもたらしたものと考えられる。そのうち(1)の培地によるものが最も美味しく、ついで(2)、(3)、(4)の順であった。
【0015】
なお、一般的培地(5)により得たヒラタケは、上記のように炭水化物を多く含んでいるが、甘味は感じられなかったばかりでなく、竹を含む培地(1)、(2)、(3)により得たヒラタケと比べると、全く異なる味覚が感じられた。
【0016】
以上の実験結果から、焼酎蒸留粕乾燥固形物に竹材を混合し、又は木材及び竹材を混合した各キノコ栽培用培地は、さきの焼酎蒸留粕乾燥固形物に木材等の繊維性植物材を混合したキノコ栽培用培地よりすぐれた利点を有することが確認された。
【0017】
そこで、上記課題の解決手段として、本願第1発明は、
焼酎蒸留粕の乾燥固形物と、竹材の砕粒とを混合し、該混合物に水を加えて所要水分率に調整した、
竹材を含むキノコ栽培用培地を提案し、
【0018】
又、本願第2発明は、
焼酎蒸留粕の乾燥固形物と、木材等の繊維性植物材の砕粒と、竹材の砕粒とを混合し、該混合物に水を加えて所要水分率に調整した、
竹材を含むキノコ栽培用培地を提案する。
【発明の効果】
【0019】
本願第1及び第2発明の竹材を含むキノコ栽培用培地によれば、竹材に含まれる糖分及びカリウムをキノコに吸収させてキノコ栽培日数の短縮及びキノコ収量の増加を実現できると共に、特に味覚において、高栄養分の焼酎蒸留粕から主に供される旨味に、竹材から主に供される甘味及び竹の風味が加えられて、それらが融合したコクのあるすぐれた味を付与することができるのである。
【0020】
又、培地の組成である焼酎蒸留粕乾燥固形物と竹材砕粒とが通常の混合機によっても十分混合して均質な培地となっているから、栽培においてはキノコ菌糸全体で万べんなく栄養分、糖分を吸収することができ、さらには、水を加えて水分率を調整された培地では、焼酎蒸留粕の粘稠性がバインダーとなって培地全体を通気性を保ちつつ形を保持することができるから、シイタケ等の袋栽培にも便利となるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本願発明における上記「焼酎蒸留粕の乾燥固形物」は、焼酎蒸留粕(含水率90〜95%)を遠心分離機等により固形物と液分に分離し、該固形分(含水率75〜85%)をドラムドライヤー等により乾燥する方法、又は焼酎蒸留粕を減圧濃縮装置等により乾燥する方法等により水分をほとんど含まない固形物としたものである。
【0022】
又、上記焼酎蒸留粕乾燥固形物は、培地内にできるだけ多量に混合したいが、培地の通気性等を考慮すると、好ましくは全重量の約40〜70%である。
【0023】
本願発明に使用される竹材には、モウソウチク、マダケ、ハチク、クロチク、ヤダケ、メダケ等があり、これら竹材の加工時に得られるオガ屑、竹材を破砕機により細かく破砕切断して得られる破砕粒等の乾燥した砕粒である。砕粒の大きさは約2〜6mm径である。これらの竹材砕粒は、好ましくは、全重量の約8〜50%混合する。
【0024】
本願第2発明における「繊維性植物材」には、針葉樹、広葉樹等の木材のオガ屑、木材パルプ、果実パルプ、モミガラ、イナワラ、ムギラワ等があり、好ましくは全重量の20〜50%(乾物)混合される。これら植物材の砕粒は、培地に保水性を与えると共に、培地内に空隙をつくって通気性を付与する。砕粒の大きさは、好ましくは約1〜6mm径である。
【0025】
なお、上記針葉樹は、伐採後雨ざらし又は水浸漬を3〜6ヶ月行ったものを使用する。
【0026】
培地への他の添加物として、木炭、竹炭、ヤシガラ炭等の炭の粉末、貝ガラ、貝化石等のカルシウム材の粉末やチアミン等が使用される。
【0027】
なお、上記炭粉末は、針葉樹に含まれるフェノール類、フェルギノール等の有害物質を吸収させるのに有効である。
【実施例】
【0028】
本願第1発明及び第2発明の実施例について説明する。
第1発明の実施例1
カンショ焼酎蒸留粕の乾燥固形物は細粒状であるので、これをそのまま使用する。
カンショ焼酎蒸留粕の乾燥固形物細粒 60%(重量比)
モウソウチク砕粒(約2mm径) 35%
貝化石粉末 5%
これらを撹拌機に投入して撹拌し、ついで水を少量づつ加えて水分率63%、PH5.4の培地素材を作る。
【0029】
上記培地素材をキノコ栽培用容器に詰め、ついで高圧滅菌釜にて121℃で3時間滅菌処理し、ついで培地の温度を室温まで下げる。水分率62.1%、PH5.6であった。無菌室において上記培地にヒラタケの種菌を接種し、ついで21℃の養生室において菌糸を一定期間培養し、ついで16℃程度、湿度90%の部屋に容器を移し、そこで芽だしを行い、子実体(キノコ本体)の形成を行う。
【0030】
菌回り日数が3〜4日程度早く、栽培日数30日で収穫できた。収穫量は約143g/容器で、旨味に甘味と竹の風味が加わったコクのある良好な味である。
【0031】
第1発明の実施例2
カンショ焼酎蒸留粕の乾燥固形物細粒 55%(重量比)
モウソウチク砕粒(約3mm径) 40%
貝化石粉末 5%
チアミン 0.04%
これらを撹拌し、ついで水を加えて水分率63%、PH5.4の培地素材を作る。
【0032】
上記培地素材を栽培用容器に詰め、以下上例と同様に処理して水分率61.8%、PH5.7とし、ついで上記培地にヒラタケの種菌を接種し、以下同様に栽培を行った。
【0033】
栽培日数、収穫量は上例とほぼ同等であったが、旨味にすぐれ、これに甘味と竹の風味が融合して一段とコクのある味となった。
【0034】
第2発明の実施例1
カンショ焼酎蒸留粕の乾燥固形物細粒 56%(重量比)
モウソウチク砕粒(約4mm径) 18%
針葉樹オガ屑 18%
竹炭粉末 4%
貝化石粉末 4%
これらを撹拌し、ついで水を加えて水分率63%、PH5.7の培地素材を作り、これを栽培用容器に詰めて滅菌処理し、水分率62.3%、PH6.2とし、これにヒラタケ種菌を接種し、以下上例と同様に栽培を行う。
【0035】
栽培日数29日、収量が146.2g/容器で、旨味にすぐれ、それに甘味と竹の風味が加わった。
【0036】
第2発明の実施例2
カンショ焼酎蒸留粕の乾燥固形物細粒 60%(重量比)
モウソウチク砕粒(約2mm径) 9%
針葉樹オガ屑 26%
木炭粉末 3%
貝ガラ粉末 2%
栽培日数30日、収量138.3g/容器で、旨味にすぐれ、それに少しの甘味と竹の風味が加わった。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼酎蒸留粕の乾燥固形物と、竹材の砕粒とを混合し、該混合物に水を加えて所要水分率に調整した、
竹材を含むキノコ栽培用培地。
【請求項2】
焼酎蒸留粕の乾燥固形物と、木材等の繊維性植物材の砕粒と、竹材の砕粒とを混合し、該混合物に水を加えて所要水分率に調整した、
竹材を含むキノコ栽培用培地。



【公開番号】特開2007−295882(P2007−295882A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128260(P2006−128260)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(504410686)株式会社植村組 (3)
【出願人】(504410697)
【Fターム(参考)】