説明

第2級ブタノールの製造方法

【課題】設備の稼動によるチタン酸化皮膜の劣化を抑制できる第2級ブタノールの製造方法を提供する。
【解決手段】ヘテロポリ酸水溶液を触媒として用い、n−ブテンを直接水和する第2級ブタノールの製造方法において、原料水に酸素を溶存させた水を使用することを特徴とする第2級ブタノールの製造方法。原料の水は飽和酸素水であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第2級ブタノール(2−ブタノール)の製造方法に関する。さらに詳しくは、直接水和法による第2級ブタノールの製造において、原料水に酸素含有水を使用する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第2級ブタノールは、主に溶剤として有用なメチルエチルケトン(MEK)の原料として使用されている。第2級ブタノールの製造法としては、間接水和法と直接水和法がある。
間接水和法では、n−ブテンを硫酸でエステル化し、この硫酸エステルをスチームで加水分解することにより、第2級ブタノールを得る。この方法では、硫酸を利用するため、再利用等の工程が複雑となり、また、エネルギーの消費が大きい。さらに、装置の腐食や廃硫酸の処理等の問題がある。
一方、本出願人は直接水和法として、ヘテロポリ酸水溶液を使用し、n−ブテンを直接水和することによって第2級ブタノールを得る方法を開示している(例えば、特許文献1参照。)。この方法では硫酸エステルを経由せずに第2級ブタノールが製造できるため工程が簡略化できる。
【0003】
ところで、直接水和法ではn−ブテンを高温、高圧下にてヘテロポリ酸水溶液に接触させる必要があり、また、比較的強酸性領域での反応であることから、反応容器等の設備には酸に対する腐食に強い金属チタンが使用されている。また、金属チタンは水素によって水素脆化を生じるため、その表層に酸化皮膜を形成することによって、水素による腐食を抑制している。
【0004】
しかしながら、酸化皮膜を形成した設備であっても、設備の稼動により酸化皮膜は徐々に還元されて金属チタンに戻るため、稼働時間が長くなるにつれて水素に対する腐食性が低下する。従って、設備の水素脆化による劣化を防止するためには、定期的に設備に酸化皮膜を形成しなおす必要があった。酸化皮膜を形成するためには、例えば、チタンを高温で加熱する方法、塩酸や硝酸で処理する方法又は過酸化水素水で処理する方法がある(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、これらの方法では設備の稼動を長期間休止する必要があり、また、廃液等の処理が必要となるため、時間的又は費用的に負担が大きかった。
【特許文献1】特開昭60−149536号公報
【特許文献2】特開昭63−223187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、設備の稼動によるチタン酸化皮膜の劣化を抑制できる第2級ブタノールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、第2級ブタノールの原料となる水に、酸素を溶存させた水を使用することによって、酸化皮膜の劣化が抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の第2級ブタノールの製造方法が提供できる。
1.ヘテロポリ酸水溶液を触媒として用い、n−ブテンを直接水和する第2級ブタノールの製造方法において、原料である水に酸素を溶存させた水を使用することを特徴とする第2級ブタノールの製造方法。
2.前記水が飽和酸素水である1記載の第2級ブタノールの製造方法。
3.前記水が純水を大気開放して得られる水である1又は2に記載の第2級ブタノールの製造方法。
4.連続式液相直接水和用反応装置を使用する1〜3のいずれかに記載の第2級ブタノールの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の第2級ブタノールの製造方法では、チタンの酸化皮膜の劣化を抑制できるため、設備の寿命が長くなる。従って、設備のメンテナンスに係る時間及び費用を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の第2級ブタノールの製造方法は、ヘテロポリ酸水溶液を触媒として用い、n−ブテンを直接水和する第2級ブタノールの製造方法において、出発原料である水として、酸素を溶存させた水を使用することを特徴とする。
n−ブテンを直接水和する製造方法の詳細については、例えば、特開昭60−149536号公報や特開平4−356434号公報を参照できる。以下、概略を説明する。
【0009】
n−ブテンを直接水和する製造方法では、n−ブテン(n−ブテン−1又はn−ブテン−2、あるいはこれらの混合物)を原料としてpHが2.3以下のヘテロポリ酸水溶液と接触させてn−ブテンの水和反応を進行させる。
【0010】
ヘテロポリ酸としては、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、リンモリブデン酸等が使用できる。また、2種以上のヘテロ原子、ポリ原子を組合せたものも使用できる。
ヘテロポリ酸水溶液の濃度は、使用するヘテロポリ酸の種類等により適宜調整する必要があるが、通常、0.001モル/リットル〜0.2モル/リットルである。
【0011】
反応温度は140℃〜300℃とし、反応圧力は6MPa以上とすることが好ましい。このように、高温高圧下、かつ強酸性雰囲気での反応となるため、設備の腐食対策が必要である。このため、反応容器等の設備の内表面には、金属チタンの内張り(爆着クラッド、ライニング)が施され、さらに、金属チタンに酸化皮膜を形成させたものを使用する。
尚、酸化皮膜の形成は公知の方法(例えば、上述した特許文献2)で形成できる。また、酸化皮膜の厚さは150Å〜5000Åが好ましい。
【0012】
製造設備としては、公知の回分式液相直接水和用反応装置や連続式液相直接水和用反応装置を使用することができる。
連続式液相直接水和用反応装置では、第2級ブタノールを連続的に製造するため、水和反応を行う反応容器に原料であるn−ブテンと水を所定の速度で供給し、反応物である第2級ブタノール及び副生成物を取り出す。これにより、反応系におけるヘテロポリ酸水溶液の濃度が所定の範囲に維持される。
【0013】
本発明では、原料として反応容器に供給する水に、酸素を溶存させた水を使用する。これにより、n−ブテンの還元作用による、酸化皮膜からの酸素欠落を抑制できる。これは、水に溶存した酸素が反応容器内で高温高圧下に曝されることによって、反応容器内壁表面を酸化し酸化皮膜を形成するためと推定している。この溶存酸素による酸化皮膜形成作用と、n−ブテンの還元作用とが打ち消しあうことによって、反応容器内の酸化皮膜量の減少が抑制できる。
【0014】
従来、原料として反応容器に供給される水は、脱イオンし、さらに脱気したもの、いわゆる純水が使用されていた。これは、反応系においては、不純物の混入を極力避ける必要があるためである。
また、商用設備では水処理の効率化のため、反応系で使用する水と、熱源や動力源となるスチームで使用する水等は、同じ処理がされた同じ水であることが一般的である。そして、ボイラー等の水蒸気供給系では、装置の酸化防止のために純水を使用することが必須であることから、反応系に供給する水についても純水が使用されていた。
【0015】
本発明では、上記の状況の下でも、敢えて酸素を溶存させた水を反応系に供給することが、反応容器内の酸化皮膜を維持する効果を発揮することを見出したものである。
尚、反応条件によっては、酸素を溶存させた水が反応容器内に酸化皮膜を形成する場合がある。この場合、設備の使用前に酸化皮膜を形成していなくとも、設備の腐食を防止できる。
【0016】
本発明で使用する酸素を溶存させた水としては、反応系に悪影響を与えるイオン等の異物を除去したものであって、酸素を溶存している水が使用できる。具体的には、脱イオン処理後、脱気処理をしない水、純水を大気開放して空気中の酸素を吸収した水、純水に空気や酸素をバブリングすることにより酸素を溶存させた水等が使用できる。
尚、脱イオン処理等はイオン交換樹脂を使用する等、公知の方法が使用できる。
【0017】
上述した商用設備で、反応系で使用する水とスチームで使用する水等が同じ場合は、例えば、反応系で使用する純水を大気開放したタンク等に投入し酸素を溶存させ、その後、反応容器に供給すればよい。これにより、水処理設備は共通したまま、水蒸気供給系には純水を供給でき、反応系に供給する水には酸素を溶存する水を供給できる。
【0018】
尚、水に溶存する酸素量は元々少ないため、本発明においては、5℃〜30℃で大気圧下における飽和酸素水を使用することが好ましい。
また、溶存酸素による酸化皮膜の劣化防止効果を高めるため、反応温度は、150℃〜220℃であることが好ましく、反応圧力は6MPa〜25MPaが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によって、さらに具体的に説明する。
実施例1
ヘテロポリ酸水溶液として、17wt%ケイタングステン酸水溶液を使用した。ヘテロポリ酸水溶液を内径φ4mmのチタンチューブ(未処理)に約5cc(液高として約40cm)入れ、水素で2MPaに加圧した。系内の水素分圧を一定に保つため、微量の水素を流しながら圧力を背圧弁で制御した。水素分圧の面から、本評価例の水素濃度は実際の製造と比べて、1000倍程度高い条件となっている。
その後、水溶液部分を220℃に加熱した。水素を供給(1cc/min以下)しているため、液面レベルが低下しヘテロポリ酸濃度が上昇するので、大気開放して空気中の酸素を吸収させた純水を1cc/日程度で適宜補充した。
この状態を12日間継続した後、加熱部分のチタンチューブを1cm程度切断し、チタン材中の水素濃度を測定した。その結果、加熱部分のチタン材中の水素濃度の上昇は見られなかった。
尚、水素濃度の測定はJIS H 1619に従った。
【0020】
比較例1
補充する水として、純水を脱気した水を用いた他は、実施例1と同様にしてチタン材の水素濃度を評価した。その結果、加熱部分のチタン材中の水素濃度は23wtppm増加していた。
【0021】
実施例2
加熱期間を34日間とした他は、実施例1と同様に実施した。その結果、加熱部分のチタン材中の水素濃度の上昇は見られなかった。
【0022】
比較例2
加熱期間を34日間とした他は、比較例1と同様に実施した。その結果、加熱部分のチタン材中の水素濃度は48wtppm増加していた。
【0023】
実施例3
ヘテロポリ酸水溶液を30wt%ケイタングステン酸水溶液とした他は、実施例1と同様に実施した。その結果、加熱部分のチタン材中の水素濃度の上昇は見られなかった。
【0024】
比較例3
ヘテロポリ酸水溶液を30wt%ケイタングステン酸水溶液とした他は、比較例1と同様に実施した。その結果、加熱部分のチタン材中の水素濃度は76wtppm増加していた。
【0025】
実施例4
容量が約30mの水和反応器の内部に、チタン材の板状テストピース(45mm×25mm×5mm厚)を複数投入した状態で、第2級ブタノールを製造して、チタン材の水素吸収を評価した。
触媒としては、ケイタングステン酸水溶液を使用し、水和反応器内の濃度が2.1wt%となるように調整した。反応器内の温度を200℃〜220℃、圧力を19〜22MPaとした。これに5℃〜30℃で大気圧下における飽和酸素水を、供給温度が5〜30℃、供給速度が25リットル/分の条件で供給した。また、n−ブテンガスを2150リットル/分の条件で供給した。このn−ブテンガスには、水素が不純物として90molppm程度含まれている。
この条件で3年間運転した後、水和反応器内部からテストピースを2つ取り出し、チタン材の水素吸収量を測定した結果、それぞれ、13wtppmと14wtppmであった。一方、比較試料として、新品のチタン材の水素吸収を測定した結果、17wtppmであった。このことから反応器内のチタン材の水素吸収はなかったものと認められた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の第2級ブタノールの製造方法は、設備の寿命を長くできるので設備のメンテナンスに係る時間及び費用を削減できる。従って、第2級ブタノールの製造法として好適である。また、MEKの製造プロセスの一部として組み入れることによって、MEKの製造効率を向上できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリ酸水溶液を触媒として用い、n−ブテンを直接水和する第2級ブタノールの製造方法において、
原料である水に酸素を溶存させた水を使用することを特徴とする第2級ブタノールの製造方法。
【請求項2】
前記水が飽和酸素水である請求項1記載の第2級ブタノールの製造方法。
【請求項3】
前記水が純水を大気開放して得られる水である請求項1又は2に記載の第2級ブタノールの製造方法。
【請求項4】
連続式液相直接水和用反応装置を使用する請求項1〜3のいずれかに記載の第2級ブタノールの製造方法。



【公開番号】特開2007−230934(P2007−230934A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55935(P2006−55935)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】