説明

第3級アルコールの製造方法

【課題】 不純物としての鉛等の含量を数ppbのレベルまで低減させた第3アルコールの製造方法を提供すること。
【解決手段】 不純物として鉛及び/又は鉛化合物を含有する粗製の第3級アルコールを、鉛換算での該不純物のモル数以上のモル数の、ヨウ素、臭素及び塩素よりなる群より選ばれるハロゲンと接触させた後、水又は水溶液で洗浄することを含む、第3級アルコールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度の第3級アルコールの製造方法に関し、詳しくは、製造過程において混入する不純物としての鉛の混入を低減させた第3級アルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第3級アルコールは、それ自体溶媒として、あるいは種々の化合物の原料として広く使用されており、特に、(メタ)アクリル酸エステルの合成原料としても使用されている。(メタ)アクリル酸エステルは、種々のモノマーとの組成構築の簡便さから、様々な分野に利用されているが、近年、半導体製造分野において、エレクトロニクス用レジスト材料の合成原料としての使用が増大している。マイクロプロセッサやDRAMその他の半導体の製造の最初の工程であるパターン転写工程においては、エレクトロニクス用レジスト材料が半導体基板上に塗布され、これにフォトマスクを通して照射される単色光又は電子線により微細回路パターンが転写(露光)される。その後の現像、プラズマエッチング、レジストの除去その他の工程を経て形成される微細回路は、線幅が極めて狭く且つ密に形成されることから、不純物の混入、取り分け金属成分の混入は、回路の短絡等の問題を引き起こし得る。集積された膨大な数のトランジスタからなる回路の一箇所でも欠陥があるとその半導体製品は欠陥品となり、製品の歩留まり低下に直結するため、半導体製造においては工程全体をとおして、混入してくる不純物低減に向けて絶えず努力がなされている。
【0003】
このため、エレクトロニクス用レジストや、その原料たるレジストモノマーについても不純物の低減が強く求められ、特に、金属含量についてはppbオーダーレベルへの低減が求められている。これに対し、レジストモノマーに混入し得る金属のうち、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、鉄、亜鉛、銅等は、レジストモノマーの蒸留、又は硝酸、シュウ酸等による酸洗浄若しくはキレート剤による洗浄によって効果的に除去されている。
【0004】
しかしながら、有機金属化合物を用いた製造工程を経て製造された(メタ)アクリル酸エステル等のレジストモノマーには、有機金属化合物に不可避的に混入している鉛、又は有機鉛化合物と推定される鉛化合物が含有されており、蒸留してもレジストモノマーと同時に留出する上、酸洗浄によっても効果的に除去することができない。これらの方法による精製を反復して行えばかなりの除去ができるとしても、収率の大幅な低下と工程増加によるコスト上昇で、レジストモノマー製品としては非常に高価なものとならざるを得ず、このため、そのようなレジストモノマーは、エレクトロニクス用レジストとして実際上使用できないという問題があった。
【0005】
これに対し、鉛又は鉛化合物を不純物として含有するレジストモノマーを、塩素、臭素又はヨウ素と接触させることにより、レジストモノマー中の鉛含有量を低減させる方法が提案され(特許文献1を参照)、この方法によれば、105ppbの鉛を含有するレジストモノマー中の鉛含有量を、3〜9ppbの濃度まで低減できたことが記載されている。しかしながら、レジストモノマーは、もともと反応性に富み、明所では用いる塩素、臭素又はヨウ素と特に反応しやすくなり、反応が起こるとレジストモノマーの品質を低下させる。このため、鉛の低減のための塩素等による処理は、遮光下で行わねばならず、工程管理上不便であるとともに、依然として、レジストモノマーの品質低下の懸念があった。
【0006】
一方、(メタ)アクリル酸エステルの合成原料となる第3級アルコールは、その代表的な製造方法が、有機金属化合物とケトンとの反応によるものであり、工業上もこの方法で量産されている。有機金属化合物としては、有機マグネシウム化合物であるグリニヤール(Grignard)試薬が代表的なものである(例えば、非特許文献1及び2を参照)。しかしながら、グリニヤール試薬中には、鉛又は有機鉛化合物等の微量金属成分が不可避的に混入している。これを除去するのは極めて困難であるため、グリニヤール試薬はそのまま使用されるが、その結果製造された第3級アルコール中にもそれらの微量金属成分が混入し、やはり蒸留や酸洗浄、キレート剤による洗浄等の通常の手段では除去が困難であった。
【特許文献1】特開2003−128630
【非特許文献1】Org. Synth. II, 602 (1943)
【非特許文献2】Org. Synth. II, 402 (1943)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の背景の下で、本発明者は、エレクトロニクス用レジストにおけるモノマー(メタ)アクリル酸エステル中の鉛及び/又は鉛化合物(以下、「鉛等」ということもある。)の混入が、(メタ)アクリル酸の製造に用いる第3級アルコール中に混入する鉛等に由来するものであること、及び、不純物としての鉛等を実質的に除去した第3級アルコールを製造できれば、これから合成されるエレクトロニクス用レジストのモノマーにおける鉛等の混入の問題が解決できることに着目した。すなわち、本発明の目的は、不純物としての鉛等の含量を数ppbのレベルまで低減させた第3級アルコールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的のために検討を重ねた結果、ケトンのグリニヤール反応によって第3級アルコールを生成させ、これに有機溶媒中でハロゲンを接触させて鉛(又は鉛化合物)と反応させて系から除去し、過剰のハロゲンを洗浄除去することで、鉛(又は鉛化合物)の含有量を数ppbに低減させた第3級アルコールを得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
(1)不純物として鉛及び/又は鉛化合物を含有する粗製の第3級アルコールを、鉛換算での該不純物のモル数以上のモル数の、ヨウ素、臭素及び塩素よりなる群より選ばれるハロゲンと接触させた後、水又は水溶液で洗浄することを含む、第3級アルコールの製造方法。
(2)該ハロゲンとの接触が、該粗製の第3級アルコールと、ハロゲンを含有する水溶液とを混合することによるものである、上記1の製造方法。
(3)該粗製の第3級アルコールを有機溶媒に溶解させた状態で該ハロゲンと接触させるものである、上記1又は2の製造方法。
(4)該ハロゲンを含有する水溶液が、水溶液中におけるモノオキソハロゲン酸のアルカリ金属塩と酸との反応で生成されるものである、上記3の製造方法。
(5)該洗浄が、該ハロゲンを対応するハロゲンイオンへと還元する能力のある還元剤を含有する水溶液による洗浄を含むものである、上記1ないし4の何れかの製造方法。
(6)該粗製の第3級アルコールが、ケトンとグリニヤール試薬との反応によって製造されるものである、上記1ないし5の何れかの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉛及び/又は鉛化合物を数ppbレベルまで低減させた第3級アルコールを製造することができる。これにより得られた第3級アルコールは、これを用いて合成されるエレクトロニクス用レジストのモノマー中のこれら不純物含量(ppb)を、更に低減させることができる。また、第3級アルコールは(メタ)アクリル酸エステルなどのレジストモノマーに比して安定性が高いため、鉛及び/又は鉛化合物の除去のための処理が、レジストモノマーの品質の劣化を招来するおそれもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、粗製第3級アルコールは、グリニヤール試薬のような、不純物として鉛を含有する有機金属化合物とケトンとの反応(グリニヤール反応)によって得られる。すなわち、第3級アルコールの1位の炭素に結合している何れかの炭化水素基に対応する有機金属化合物と、同炭素にオキソ基(=O)を有するケトンとの反応により、得ることができる。この反応の条件その他の詳細は当業者に周知のものである。
【0012】
また、本発明において第3級アルコールとしては、グリニヤール試薬等の有機金属化合物との反応で製造されるものであること以外特に限定されない。本発明の目的にとって特に有用であるのは、炭素数4〜15の第3級アルコールであるが、それ以外の炭素数のものもでもよい。そのような第3級アルコールは、直鎖状のみならず環状の炭化水素部分を有していてもよく、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香環を有していてもよい。また、第3級アルコールは、ヒドロキシル基などの置換基を更に有するものも含まれる。本発明における典型的な第3級アルコールの例としては、1−エチルシクロペンタノール、1−メチルシクロペンタノール、1−エチルシクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、1−プロピシクロヘキサノール、1−プロピルシクロペンタノール、2−メチル−2−アダマンタノール、2−エチル−2−アダマンタノール、tert−ブタノール、1,1−ジエチル−1−プロパノール、1,1−ジメチル−1−プロパノール等の無置換のアルカノール;2−フェニル−2−プロパノール、3−フェニル−3−ペンタノール、2−フェニル−2−ブタノール、2−メチル−1−フェニル−2−プロパノール、2−メチル−1−フェニル−2−ブタノール、3−ベンジル−3−ヘキサノール、2−α−ナフチル−2−プロパノール、2−メチル−1−β−ナフチル−2−プロパノール等の無置換の芳香環含有第3級アルコール;2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルプロパノール等のヒドロキシル基により置換されたアルカノール;1−ヒドロキシ−2−フェニル−2−プロパノール、1−ヒドロキシ−3−フェニル−3−ペンタノール、1−ヒドロキシ−2−フェニル−2−ブタノール、1−ヒドロキシ−2−メチル−3−フェニル−2−プロパノール、1−ヒドロキシ−2−メチル−3−フェニル−2−ブタノール、1−ヒドロキシ−3−ベンジル−3−ヘキサノール、1−ヒドロキシ−2−α−ナフチル−2−プロパノール、2−ヒドロキシメチル−1−β−ナフチル−2−プロパノール等のヒドロキシル基に置換された芳香環含有第3級アルコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
本発明において、「鉛化合物」とは、鉛を構成要素とする有機、無機の化合物を包含する。不純物である鉛及び/又は鉛化合物の含有量について、「鉛換算での該不純物のモル数」とは、不純物としての鉛及び/又は鉛化合物中に含有される鉛原子のモル数の和をいう。
【0014】
本発明において、ハロゲンは、ヨウ素、臭素又は塩素から選ばれる。これらの何れをも使用できるが、取扱の便からは、塩素が特に好ましい。また、本発明において、ハロゲンについて「モル数」というときは、ハロゲン2原子からなる分子(X2)換算でのモル数をいう。
【0015】
不純物として鉛及び/又は鉛化合物を含有する粗製の第3級アルコールとハロゲンとの接触により、ハロゲン化鉛が生成するから、これを第3級アルコールから分離除去すればよい。ハロゲン化鉛の生成は、鉛及び/又は鉛化合物と実質的に化学量論的に(1:1で)起こる。従って、接触させるハロゲンの量は、不純物としての鉛及び/又は鉛化合物の量(鉛換算)と等モルあればよい。但し、反応の迅速のためには、これより多いハロゲン量を適宜設定してもよく、その方が好ましい。
【0016】
ハロゲンは、気体(塩素ガス)、液体(臭素)又は溶液(例えば、臭素水、ヨウ素水溶液)、固体(ヨウ素)の何れの状態で加えてもよい。処理効率と取扱の便利さからは、気体又は液体として添加することが好ましく、液体として添加することがより好ましい。水溶液を用いる場合には、飽和水溶液であっても、比較的希薄な未飽和水溶液であってもよいが、濃度が高い方がより迅速な処理が可能である。粗製の第3級アルコールの液量(有機溶媒に溶解させているときはその全液量)と、これと接触させるべきハロゲン含有水溶液の液量との間には、特に制限はなく、取り扱い易い液量とすればよい。通常は、液量の比は、1:10〜10:1の範囲とするのが好ましい。またハロゲン水溶液中のハロゲン濃度は、水溶液の液量と、鉛及び/又は鉛化合物のモル数に対して接触させようとするハロゲンのモル数に応じて決定すればよい。また、粗製の第3級アルコールとハロゲンとの接触は、室温で行えばよい。
【0017】
ハロゲンと接触させるべき粗製の第3級アルコール中に含有される鉛及び/又は鉛化合物の量(鉛換算)は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS: Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)その他、当業者に周知の適宜の分析方法を用いて測定することができる。
【0018】
粗製の第3級アルコールとハロゲン水溶液とを接触させる場合、その水溶液の調製は適宜な方法で行ってよい。例えば、ハロゲンをそのまま水に溶解させたものであってもよく(水溶液中で、平衡反応により一部モノオキソハロゲン酸(HCXO)が形成)、ハロゲン含有化合物から水中で遊離させたものであってもよい。後者の場合、ハロゲン含有化合物としては、例えばモノオキソハロゲン酸のアルカリ金属塩の水溶液に、酸を添加することによって生成させることができる。取扱の便利さからは、モノオキソハロゲン酸(次亜ヨウ素酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸)のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩に、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸その他の酸、好ましくは強酸を加えることによってモノオキソハロゲン酸を遊離させ、そこから平衡反応によりハロゲンを生成させることができる。酸としては、無機、有機何れも使用できる。
【0019】
粗製の第3級アルコールとハロゲンとを接触させるに際して、粗製の第3級アルコールは、有機溶媒に溶解した状態で反応させることができる。有機溶媒としては、使用するハロゲンと実質的に無反応のものであればよく、水と混和性の有機溶媒でも非混和性の有機溶媒でもよい。有機溶媒の例としては、オクタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサンその他の脂肪族炭化水素、テトラクロルメタン、クロロホルム、ジクルエタンその他のハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンその他の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルその他のエステル類、エチルエーテル、プロピルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランその他のエーテル類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
反応混合物は、水又は水溶液により洗浄される。これに際し、該当する場合、水に混和性の有機溶媒から非混和性の有機溶媒へと溶媒交換を行ってもよい。反応混合物中に生成したハロゲン化鉛は、水又は水溶液による洗浄によって容易に除去される。ハロゲンとの接触で使用したハロゲンの過剰量が通常残存する。これを除去する方法は特に限定されず、当業者に知られている種々の方法を用いることができる。例えば、水洗を反復して残存ハロゲンを水に溶解させて除去してもよく、残存するハロゲンをハロゲンイオンの形へと還元した上で洗浄除去してもよい。後者の方が、効率的であり好ましい。残存ハロゲンをハロゲンイオンへと還元するためには、これに必要な強さの還元力を有することが当業者に知られた還元剤から適宜選んで水に添加すればよい。そのような還元剤としては、例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜ニチオン酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明の方法により、粗製の第3級アルコールを、鉛の含有レベルを数ppb以下に低減させた第3級アルコールへと精製することができる。なお、本明細書において、数ppb以下とは、10ppb以下、特に好ましくは5ppb以下、更に好ましくは3ppb以下の濃度をいう。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが、本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0023】
〔実施例1〕
金属マグネシウム118gと塩化エチル365.3gから、濃度を3.0mol/kgに調整した塩化メチルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液1570gを、窒素雰囲気下、サンプル投入口、冷却器、温度計及び撹拌機を備えた3L容のガラス製フラスコに仕込んだ。更に、テトラヒドロフラン190gを加えて撹拌しながら冷却した。10℃以下に達した後、シクロペンタノン370gを釜内温度が40℃を超えないようにゆっくりと滴下し、同温で転化率が98%になるまで熟成させた。ガスクロマトグラフィーにより反応終了を確認した後、20℃まで冷却した。
【0024】
次いで、予め冷却器、温度計、pH計、滴下装置及び撹拌機を備えた5L容のガラス製フラスコに、水870gを仕込み、十分に冷却した。この容器に先の反応混合液と35%塩酸503gを、釜内温度40℃以下で、pH3〜6を保持しながら同時に滴下した。全量を滴下した後、静置し、下層を分離した。上層を炭酸カリウムで中和洗浄し、減圧下テトラヒドロフランを留去した。
【0025】
得られた粗製第3級アルコールをn−ヘキサン1500gに溶解し、0.6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液2500gと35%塩酸20gを加えて洗浄した。次いで、上層(有機層)を1%チオ硫酸ナトリウム2000gで洗浄後、シュウ酸、食塩水、重曹水の順に洗浄した。
【0026】
洗浄した有機層を、蒸留塔を備えた容器に移し、0.5gの炭酸カリウム粉末を加えた。減圧下、n−ヘキサンを留去し、続いて蒸留を行うことにより、1−エチルシクロペンタノール278gを得た。これをICP−MSにより測定したところ、鉛成分の含有量は、2ppbであった。
【0027】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして、シクロペンタノンの代わりにシクロヘキサノンを用いて操作を行い、1−エチルシクロヘキサノールを得た。これをICP−MSにより測定したところ、鉛成分の含有量は3ppbであった。
【0028】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして、塩化エチルマグネシウムとシクロペンタノンとの反応及び炭酸カリウムによる中和洗浄の後、蒸留塔を備えた容器に反応混合物を移し、炭酸カリウム粉末0.5gを加えて、減圧下、テトラヒドロフランを留去し、続けて蒸留を行って1−エチルシクロペンタノールを得た。これをICP−MSにより測定したところ、鉛成分の含有量は、501ppbであった。
【0029】
〔比較例2〕
実施例2と同様にして、塩化エチルマグネシウムとシクロヘキサノンとの反応及び炭酸カリウムによる中和洗浄の後、比較例1と同様にして1−エチルシクロヘキサノールを得た。これをICP−MCにより測定したところ、鉛成分の含有量は、393ppbであった。
【0030】
〔参考例1〕
実施例1で得られた第3級アルコールを用いて、常法により1−エチルシクロペンチルアクリレートを合成し、ICP−MSにより測定したところ、鉛成分の含有量は1ppbであった。
【0031】
〔参考例2〕
比較例1で得られた粗製の第3級アルコールを用いて、常法により1−エチルシクロペンチルアクリレートを合成し、ICP−MSにより測定したところ、鉛成分の含有量は286ppbであった。
【0032】
〔参考例3〕
実施例2で得られた第3級アルコールを用いて、常法により1−エチルシクロヘキシルメタクリレートを合成し、ICP−MSにより測定したところ、鉛成分の含有量は1ppbであった。
【0033】
〔参考例4〕
比較例2で得られた粗製の第3級アルコールを用いて、常法により1−エチルシクロヘキシルメタクリレートを合成し、ICP−MSにより測定したところ、鉛成分の含有量は、147ppbであった。
【0034】
以上の結果は、本発明によれば、グリニヤール試薬等の有機金属化合物を用いた反応を経て得られた第3級アルコール中の鉛(又は鉛化合物)の含有量を、極度に低減させることができ、その結果、これを用いて得られる(メタ)アクリル酸エステル中の鉛(又は鉛化合物)の含有量をも更に低減させることができることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、グリニヤール反応に基づきつつ、鉛(又は鉛化合物)の混入が極めて低い第3級アルコールを製造するために利用することができ、またその結果、半導体製造における要求を十分満たす鉛純度のレジスト与える高純度のモノマーの製造のための原料の供給に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物として鉛及び/又は鉛化合物を含有する粗製の第3級アルコールを、鉛換算での該不純物のモル数以上のモル数の、ヨウ素、臭素及び塩素よりなる群より選ばれるハロゲンと接触させた後、水又は水溶液で洗浄することを含む、第3級アルコールの製造方法。
【請求項2】
該ハロゲンとの接触が、該粗製の第3級アルコールと、ハロゲンを含有する水溶液とを混合することによるものである、請求項1の製造方法。
【請求項3】
該粗製の第3級アルコールを有機溶媒に溶解させた状態で該ハロゲンと接触させるものである、請求項1又は2の製造方法。
【請求項4】
該ハロゲンを含有する水溶液が、水溶液中におけるモノオキソハロゲン酸のアルカリ金属塩と酸との反応で生成されるものである、請求項3の製造方法。
【請求項5】
該洗浄が、該ハロゲンを対応するハロゲンイオンへと還元する能力のある還元剤を含有する水溶液による洗浄を含むものである、請求項1ないし4の何れかの製造方法。
【請求項6】
該粗製の第3級アルコールが、ケトンとグリニヤール試薬との反応によって製造されるものである、請求項1ないし5の何れかの製造方法。

【公開番号】特開2006−298884(P2006−298884A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126784(P2005−126784)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】