説明

第4級アンモニウム塩組成物

【課題】色相及び保存安定性に優れた第4級アンモニウム塩組成物、その製造方法、及びその第4級アンモニウム塩組成物を含有する木材保存剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩(a)、特定の第3級アミン(b)、及び有機酸エステル(c)を特定質量比で含有する第4級アンモニウム塩組成物、その製造方法、及びその第4級アンモニウム塩組成物を含有する木材保存剤である。


(式中、R1はアルキル基又はアルケニル基、R2はアルキル基、アルケニル基又はヒドロキシアルキル基、R3はアルキル基又はヒドロキシアルキル基、R4はアルキレン基、nは1〜5、Aはスルホン酸等の対イオンを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色相及び保存安定性に優れた第4級アンモニウム塩組成物、その製造方法、及びその第4級アンモニウム塩組成物を含有する木材保存剤に関する。
【背景技術】
【0002】
木材保存剤は、シロアリ等の木材害虫等から木材を保護するものであり、防虫・防蟻性能や防腐・防黴性能が高い第4級アンモニウム塩を用いることが知られている。
第4級アンモニウム塩は、通常、第3級アミンを4級化して製造される。しかし、多くの場合、4級化剤として塩化メチルや臭化メチル等のハロゲン化アルキルを使用するため、得られる第4級アンモニウム塩に塩素イオンや臭素イオン等のハロゲンの混入が避けられない。その結果、含有されたハロゲンが金属と接触することによりサビが発生し、製造装置を傷めてしまい、生産効率の低下を招くという問題があった。そこで、この問題を解決するため、ハロゲン化アルキルではなく有機酸を用いることが知られている。
【0003】
有機酸を用いる第4級アンモニウム塩の製造方法として、イオン交換樹脂法や電気透析法等が知られている。しかし、イオン交換樹脂法は、イオン交換樹脂の再生のためにアルカリ処理又は酸処理、更に定期的に樹脂の交換を行う必要があり、製造工程が長い上に設備コスト、製造コストが非常に高く、高濃度で反応することができないため大量生産に向いていない。また、電気透析法は、引火性の溶剤を用いると、爆発の危険性があるため、溶剤の使用が限定され汎用性に欠ける。
【0004】
更に、特許文献1には、第3級アミンとハロゲン化アルキルを反応させ、次いでナトリウム等を含むアルコールと有機酸を添加することにより対イオン変換する第4級アンモニウム塩の合成方法が開示されている。しかし、この方法は反応溶媒を多量に使用するために生産性が低く、溶媒除去や回収等の操作も必要となる。そのため、製造設備の大型化や製造工程が煩雑となり、安価に製造することができない等の問題があった。
特許文献2及び非特許文献1には、第3級アミンとアルキレンオキサイドを用いた第4級アンモニウム塩の製造方法が開示されている。しかし、この方法は反応率が低いことや色相が悪いこと、保存時にpHの低下や色相が悪化する等の問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−336070
【特許文献2】特公平6−96243
【非特許文献1】藤本武彦「新・界面活性剤入門」(三洋化成工業株式会社、昭和56年10月1日第1刷発行)第68頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、色相及び保存安定性に優れた第4級アンモニウム塩組成物、その製造方法、及びその第4級アンモニウム塩組成物を含有する木材保存剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、第4級アンモニウム塩、第3級アミン、及び有機酸エステルを特定質量比で含有する第4級アンモニウム塩組成物が上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔3〕を提供する。
〔1〕下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩(a)、下記一般式(2)で表される第3級アミン(b)、及び下記一般式(3)で表される有機酸エステル(c)を含有し、〔(a)成分/(b)成分〕(質量比)が100/0.01〜100/7であり、かつ〔(a)成分/(c)成分〕(質量比)が100/0.01〜100/10である第4級アンモニウム塩組成物。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1は炭素数6〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、R2は炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、又はヒドロキシアルキル基、R3は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はヒドロキシアルキル基、R4は炭素数2〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、nは平均付加モル数で1〜5、Aはスルホン酸、ホスフェート及びカルボン酸から選ばれる有機酸の対イオンを示す。)
【0010】
【化2】

(式中、R1、R2及びR3は前記と同じ意味を示す。)
【化3】


(式中、R4及びAは前記と同じであり、mは平均付加モル数で1〜5を示す。)
【0011】
〔2〕前記第3級アミン(b)から第4級アンモニウム塩組成物を製造する方法であって、全仕込量に対して0.5〜30質量%の水、及び前記第3級アミン(b)に対して0.95〜1.5モル倍の有機酸(d)の存在下に、前記第3級アミン(b)に対して1.5〜5.0モル倍のアルキレンオキサイド(e)を30〜90℃の条件下で反応させる、前記〔1〕の第4級アンモニウム塩組成物の製造方法。
〔3〕前記〔1〕の第4級アンモニウム塩組成物を含有する木材保存剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第4級アンモニウム塩組成物は、色相及び保存安定性に優れ、本発明の製造方法によれば、色相及び保存安定性に優れた第4級アンモニウム塩組成物を高反応率で製造でき、更に得られた第4級アンモニウム塩組成物を含有する防腐効果及び耐サビ効果を有する木材保存剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第4級アンモニウム塩組成物は、下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩(a)、下記一般式(2)で表される第3級アミン(b)、及び下記一般式(3)で表される有機酸エステル(c)を含有し、〔(a)成分/(b)成分〕(質量比)が100/0.01〜100/7であり、かつ〔(a)成分/(c)成分〕(質量比)が100/0.01〜100/10であることを特徴とする。
【0014】
〈第4級アンモニウム塩(a)〉
本発明の(a)成分は、下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩である。
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R1は炭素数6〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、R2は炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基又はヒドロキシアルキル基、R3は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はヒドロキシアルキル基を示す。R4は炭素数2〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、nは平均付加モル数で1〜5、Aはスルホン酸、ホスフェート及びカルボン酸から選ばれる有機酸の対イオンを示す。)
一般式(1)において、R1は、好ましくは炭素数8〜22の直鎖アルキル基、より好ましくは炭素数8〜18の直鎖アルキル基である。
2は、好ましくはメチル基又は炭素数2〜3の直鎖又は分岐鎖のヒドロキシアルキル基、若しくは炭素数8〜22の直鎖アルキル基であり、より好ましくはメチル基又は炭素数8〜18の直鎖アルキル基である。
1及びR2の直鎖アルキル基の具体例としては、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
3は、好ましくは炭素数1〜2のアルキル基、より好ましくはメチル基である。
4は好ましくはエチレン基である。また、nは好ましくは1〜2、特に好ましくは1〜1.2である。
【0017】
〈第3級アミン(b)〉
本発明の(b)成分は、下記一般式(2)で表される第3級アミンである。
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、R1、R2及びR3は前記と同じ意味を示す。)
一般式(2)のR1〜R3の具体例及び好ましい態様は、一般式(1)のR1〜R3の具体例及び好ましい態様と同一である。
【0020】
前記第3級アミン(b)の具体例としては、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジメチルテトラデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジオクチルメチルアミン、ジデシルメチルアミン、ジドデシルメチルアミン、ジテトラデシルメチルアミン、ジヘキサデシルメチルアミン、ジオクタデシルメチルアミン、N−メチル−N−デシル−ドデシルアミン、N−メチル−N−ドデシル−テトラデシルアミン、N−メチル−N−テトラデシル−ヘキサデシルアミン、N−メチル−N−ヘキサデシル−オクタデシルアミン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジオクチルメチルアミン、ジデシルメチルアミン、ジドデシルメチルアミン、ジテトラデシルメチルアミンであり、より好ましくはジメチルオクタデシルアミン、ジデシルメチルアミン、ジドデシルメチルアミンである。
【0021】
〈有機酸エステル(c)〉
本発明の(c)成分は、下記一般式(3)で表される有機酸エステルである。
【化6】


(式中、R4及びAは前記と同じであり、mは平均付加モル数で1〜5を示す。)
一般式(3)において、Aはスルホン酸、ホスフェート及びカルボン酸から選ばれる有機酸に由来する部分である。具体的には、本発明の4級アンモニウム塩組成物の製造法に用いる有機酸として後に示す有機酸が好適である。R4は好ましくはエチレン基である。また、mは好ましくは1〜2である。
【0022】
本発明の第4級アンモニウム塩組成物において、第4級アンモニウム塩(a)と第3級アミン(b)の質量比〔(a)成分/(b)成分〕は、100/0.01〜100/7であり、好ましくは100/0.01〜100/5、更に好ましくは100/0.05〜100/3であり、かつ第4級アンモニウム塩(a)と有機酸エステル(c)の質量比〔(a)成分/(c)成分〕は、100/0.01〜100/10、好ましくは100/0.01〜100/8、更に好ましくは100/0.05〜100/6である。
更に、本発明の第4級アンモニウム塩組成物において、前記第4級アンモニウム塩(a)全体の質量に対して、前記一般式(1)で表されるn=1の第4級アンモニウム塩の質量が、93〜100質量%であり、好ましくは、95〜100質量%であり、更に好ましくは、97〜100質量%である。
【0023】
本発明の第4級アンモニウム塩組成物の好適な製造方法は、一般式(1)で表される第3級アミン(b)を出発原料とし、全仕込量に対して0.5〜30質量%の水、及び第3級アミン(b)に対して0.95〜1.5モル倍の有機酸(d)の存在下に、第3級アミン(b)に対して1.5〜5.0モル倍のアルキレンオキサイド(e)を30〜90℃の条件下で反応させる方法である。
本発明で使用される水の量は、特に反応速度、反応率が向上することによる生産性向上の観点から、全仕込量に対して0.5〜30質量%であり、好ましくは0.8〜15質量%、より好ましくは1〜10質量%である。
なお、反応率とは第3級アミンに対する、粗生成物(100%4級アンモニウム塩とした場合)のモル%を意味する(下記同じ)。
【0024】
〈有機酸(d)〉
本発明で使用される有機酸(d)は、前記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩(a)の対イオンA-となる。
一般式(1)において、Aは、好ましくは炭素数1〜8のスルホン酸又はカルボン酸の対イオン、より好ましくは炭素数1〜5のカルボン酸の対イオンである。
有機酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸、パラトルエンスルホン酸、アルキルリン酸等が挙げられる。これらの中では、色相及び保存安定性改善の観点から、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、グルコン酸、パラトルエンスルホン酸が好ましく、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸が特に好ましい。
有機酸(d)の使用量は、反応率、保存によるpH安定性及び色相安定性の観点から、第3級アミン(b)に対して0.95〜1.5モル倍であり、好ましくは1.0〜1.4モル倍、より好ましくは1.01〜1.25モル倍である。
【0025】
〈アルキレンオキサイド(e)〉
アルキレンオキサイド(e)の好適例としては、酸化エチレン、酸化プロピレン等が挙げられ、特に好ましくは酸化エチレンである。
アルキレンオキサイド(e)の使用量は、特に反応速度及び反応率向上の観点から、第3級アミン(b)に対して1.5〜5.0モル倍であり、好ましくは1.6〜4.0モル倍、特に好ましくは1.7〜3.0モル倍である。
【0026】
〈反応条件〉
反応温度は、反応率の観点から30〜90℃であり、好ましくは40〜85℃、より好ましくは50〜78℃である。
反応時間は反応温度等により異なるが、好ましくは0.25〜25時間、より好ましくは0.5〜15時間、更に好ましくは1〜10時間である。
本発明方法においては、反応溶媒を使用することができる。
反応溶媒の種類は特に限定されず、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1、2−プロパンジオール、1、3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられ、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコールである。
溶媒の使用量は、生産性の観点から、全仕込量に対して好ましくは75質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
また、反応時の色相劣化を抑制するために、必要に応じて窒素等の不活性ガスを用いることができる。具体的には、反応前に系内を不活性ガスで置換するか、又は不活性ガス気流下で反応を行う。
【0027】
本発明の第4級アンモニウム塩組成物は、保存剤、殺菌消毒剤、防腐剤、農薬製剤等に用いる事ができる。具体的には、木材保存剤、畜舎用殺菌消毒剤、動物用殺菌剤農薬製剤用効力増強剤として特に効果が認められる。
【0028】
〈木材保存剤〉
本発明の第4級アンモニウム塩組成物は、保存による色相劣化やpH低下を引き起こすことがなく、保存安定性に優れている。そのため、保存安定性を要する使用に対して効果的であり、特に、木材保存剤の原料として有用である。
ここで、木材保存剤とは、一般工業用材料や土木工業材料等に使用される木材を、シロアリ等の木材害虫から保護、また木材腐朽菌やカビを殺菌したり発育を阻止し腐朽から保護する薬剤である。
本発明の第4級アンモニウム塩組成物を木材保存剤として用いる場合、木材保存剤中の第4級アンモニウム塩組成物の濃度は、好ましくは0.01〜80質量%、より好ましくは0.1〜60質量%、更に好ましくは1.0〜50質量%である。
【0029】
木材保存剤の形態に特に制限はなく、水溶剤、水和剤、粉剤、乳液剤、油剤、ペースト剤のいずれの形態でも使用することができる。その際、使用形態に応じて、本発明の第4級アンモニウム塩組成物以外に、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、高分子化合物等の乳化剤、分散剤を含有させることができる。更に、他の殺虫剤や殺菌剤、防腐剤等の一種以上を混合することもできる。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、担体、キレート剤、pH調整剤、酸化防止剤、消泡剤、色素等を含有することができる。
この様にして得られた木材保存剤は、加圧注入法、真空処理法、浸漬処理法、スプレー法、塗布法等の方法を採用して木材処理に使用し、その効果を発揮させることができる。加圧注入法は、加圧鉄釜に木材と木材保存剤を入れ、圧力をかけて木材保存剤を木材に注入させることにより、表面だけでなく木材内部にまで深く浸透させることができるため、好適である。
【実施例】
【0030】
以下の実施例及び比較例において、「%」は特記しない限り「質量%」である。
なお、第4級アンモニウム塩組成物中の成分質量比、色相(APHA)、pHの測定、及び保存安定性の評価は、次の方法により行った。
<第4級アンモニウム塩組成物(反応混合品)中の成分質量比の測定方法>
得られた反応混合物について、4級塩の純分は、医薬部外品原料規格の塩化ジアルキル(炭素数12〜15)ジメチルアンモニウムの定量法に準じた方法で測定し、4級塩の分子量換算することで算出した。
反応混合物中の第3級アミンと有機酸エステルの含有量及び4級塩のn=1とn=2以上の質量比は、プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルを測定しそれぞれのシグナルの積分値から算出した。
測定機器:バリアン社製、1H−NMR装置「Mercury−400」
測定方法:本反応混合物を重水/重メタノール=1/1(容量比)に溶解し、室温にてノンデカップリング法で測定した。
測定条件:濃度5%、緩和時間3.3秒、パルス45度、室温、積算回数8回
【0031】
<色相(APHA)の測定方法>
得られた第4級アンモニウム塩の原液の色をAPHA(JIS K0071−1に準じる)として、色相計(日本電色工業株式会社製「OME−2000」)を用いて測定した。
<pHの測定方法>
得られた第4級アンモニウム塩を1%水溶液に希釈し、25℃で、pH計(株式会社堀場製作所製「F−52」)を用いて測定した。
<保存安定性>
得られた第4級アンモニウム塩の色相及びpHを測定し、更に測定した第4級アンモニウム塩を40℃で3ヶ月間保存した後、同様に色相及びpHを測定した。そして、保存前と保存後の色相及びpHの測定値を比較し、その変化をみて評価した。
【0032】
実施例1
攪拌機、温度計を設置した500mLのオートクレーブに、ジデシルメチルアミン152.3g(0.49mol)、水15.0g(全仕込量300gに対して5%)、プロピオン酸38.0g(0.51mol、ジデシルメチルアミンに対して1.05モル倍)、エチレングリコール51.7g(全仕込量300gに対して17.2%)を仕込み、攪拌し、65℃まで昇温した。次に、酸化エチレン43.1g(0.98mol、ジデシルメチルアミンに対して2.0モル倍)を圧入後、65℃にて、5時間攪拌して熟成を行った。
得られた第4級アンモニウム塩組成物(水、エチレングリコール等の溶媒等を含む反応混合物)には、第4級アンモニウム塩の純分として69.3%(質量%)を含有し、第4級アンモニウム塩を反応率99%で得た。
続けて、上記測定方法により保存前と保存後の色相及びpHを測定した。
【0033】
実施例2〜5及び比較例1〜4
表1の条件で、実施例1と同様の操作を行い、得られた第4級アンモニウム塩の保存前と保存後の色相及びpHを測定した。結果を表1に示す。
比較例1では水の質量%、比較例2では有機酸のモル比、比較例3ではアルキレンオキサイドのモル比、比較例4では反応温度をそれぞれ本発明の特定数値範囲外に設定した。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例6〜9
第3級アミン、有機酸、反応条件を表2の条件にした以外は、実施例1と同様の操作を行い、得られた第4級アンモニウム塩の色相及びpHを測定した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表1及び2から、実施例1〜9の組成物は比較例1〜4の組成物よりも反応率及び純分が良好であり、かつ製造直後の色相に関して非常に優れていることが分かる。また、3ヶ月経過後の色相及びpHについても、実施例1〜9の組成物は劣化されることなく安定した色相及びpHを保っているが、比較例1〜4の組成物は特に色相の劣化が進み、本発明の第4級アンモニウム塩組成物との違いが顕著に現れた。
このように、本発明によれば、色相が良好で保存安定性に優れた第4級アンモニウム塩を高い反応率で得ることができる。
【0038】
〈第4級アンモニウム塩組成物の殺菌効果試験〉
実施例6〜9で得られた第4級アンモニウム塩組成物の木材保存剤としての性能を評価するため、木材保存剤に要求される木材腐朽菌に対する殺菌効果を下記の簡易試験法にて評価した。その結果を表3に示す。
また、比較例5として、現行の木材保存剤に使用されている第4級アンモニウムの塩素塩(花王株式会社製「コータミンD−10P」)を用いて同様に殺菌効果試験を行った。その結果を表3に示す。
なお、表中の「−」「+」は、「−:菌の生育なし」、「+:菌の生育あり」を意味する。
(殺菌効果の簡易試験法)
最小生育阻止濃度法(MIC法)により効果判定を行った。具体的には、第4級アンモニウム塩の濃度を水で50.0ppm、10.0ppm、5.0ppm、2.5ppm、1.0ppm、(0ppm)に調整し、カワラタケ(IFO−30340株)及びオオウズラタケ(IFO−30339株)の2種の菌を用いて、各濃度に調整した第4級アンモニウム塩を含有するPDA培地上に滅菌水菌懸濁液を接種し、25℃で10日間培養させ、菌糸の生育の育成の有無を調べた。
【0039】
【表3】

【0040】
表3から、本発明により製造される第4級アンモニウム塩は、現行の木材保存剤と同等以上の木材腐朽菌に対する防腐効果を有することが分かる。
【0041】
<第4級アンモニウムの殺バクテリア効果試験>
表1の実施例1〜5の組成物と比較例1,2,4の組成物を用いて、大腸菌(Escherichia coli)の検定により殺バクテリア試験を行った。その結果、第4級アンモニウム塩の純分換算で対比すると、比較例1,2,4の組成物よりも実施例1〜5の組成物の殺バクテリア効果は、10%程度高かった。
【0042】
〈第4級アンモニウム塩組成物の鉄腐食性試験〉
木材保存剤を加圧注入法により処理する場合において、加圧注入時に使用される加圧鉄釜に対する耐サビ発生の性能を評価するため、実施例6〜9から得られた第4級アンモニウム塩組成物の鉄腐食性を下記の簡易試験法にて評価した。その結果を表4に示す。
比較例5は、現行の木材保存剤に使用されている第4級アンモニウムの塩素塩(花王株式会社製「コータミンD−10P」)を用いて行った結果である。
なお、表中の「−」「+」は、「−:サビの発生無」、「+:サビの発生有」を意味する。
(鉄腐食性の簡易試験法)
鉄腐食性試験は、洗浄した鉄丸くぎを第4級アンモニウム塩組成物の1%水溶液に浸漬し、経時おける鉄丸くぎの発サビ状態について判定を行った。
【0043】
【表4】

表4から、本発明により製造された第4級アンモニウム塩組成物は、現行の木材保存剤と比べて、鉄くぎ表面のサビが発生しにくいという結果が得られたことから、加圧注入時に使用される加圧鉄釜のサビ発生を抑制できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩(a)、下記一般式(2)で表される第3級アミン(b)、及び下記一般式(3)で表される有機酸エステル(c)を含有し、〔(a)成分/(b)成分〕(質量比)が100/0.01〜100/7であり、かつ〔(a)成分/(c)成分〕(質量比)が100/0.01〜100/10である第4級アンモニウム塩組成物。
【化1】

(式中、R1は炭素数6〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基、R2は炭素数1〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、又はヒドロキシアルキル基、R3は炭素数1〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はヒドロキシアルキル基、R4は炭素数2〜3の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、nは平均付加モル数で1〜5、Aはスルホン酸、ホスフェート及びカルボン酸から選ばれる有機酸の対イオンを示す。)
【化2】

(式中、R1、R2及びR3は前記と同じ意味を示す。)
【化3】


(式中、R4及びAは前記と同じであり、mは平均付加モル数で1〜5を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)、(2)及び(3)において、R1が炭素数8〜18の直鎖アルキル基、R2がメチル基又は炭素数8〜18の直鎖アルキル基、R3がメチル基、R4がエチレン基、nが1〜1.2である、請求項1に記載の第4級アンモニウム塩組成物。
【請求項3】
前記第4級アンモニウム塩(a)全体の質量に対して、前記一般式(1)で表されるn=1の第4級アンモニウム塩の質量が93〜100質量%である、請求項1又は2に記載の第4級アンモニウム塩組成物。
【請求項4】
前記第3級アミン(b)から第4級アンモニウム塩組成物を製造する方法であって、全仕込量に対して0.5〜30質量%の水、及び前記第3級アミン(b)に対して0.95〜1.5モル倍の有機酸(d)の存在下に、前記第3級アミン(b)に対して1.5〜5.0モル倍のアルキレンオキサイド(e)を30〜90℃の条件下で反応させる、請求項1〜3のいずれかに記載の第4級アンモニウム塩組成物の製造方法。
【請求項5】
前記第3級アミン(b)から第4級アンモニウム塩組成物を製造する方法であって、全仕込量に対して1〜10質量%の水、前記第3級アミン(b)に対して1.01〜1.25モル倍の有機酸(d)の存在下に、前記第3級アミン(b)に対して1.7〜3.0モル倍のアルキレンオキサイド(e)を50〜78℃の条件下で反応させる、請求項4に記載の第4級アンモニウム塩組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の第4級アンモニウム塩組成物を含有する木材保存剤。

【公開番号】特開2008−260694(P2008−260694A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102708(P2007−102708)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】