説明

等沈下地盤構造

【課題】 液状化した地盤からできるだけ早期に過剰間隙水圧を消散させることで支持力を回復させるとともに、透水性の高い領域で人工的な水みちを設けることにより、強制的に過剰間隙水圧の消散距離を均一化して舗装面を等しく沈下させる等沈下地盤構造を提供することである。
【解決手段】 等沈下地盤構造1は、舗装部下側の液状化対象地盤4に未改良部7を所望の厚さ分残し、これ以外の液状化対象地盤4に改良材が注入されて改良部8が形成され、該改良部8の両側面側には未改良部7から地表部12に伸びた高透水性領域2が舗装部3の長さ方向に沿って形成されたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は地震により液状化した地盤を等沈下させるための等沈下地盤構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の液状化対策における地盤改良は、設計地震動に対して液状化する可能性がある部分に薬液注入やセメント混合を行って全層改良する方法や部分改良する方法がとられており、地震後における地表面の平坦性や液状化によって支持力を失った地盤の早期回復な どを積極的に考慮したものではない(例えば、特開2004−346636号公報の発明)。また、近年の設計地震動は振動特性、伝搬経路特性、サイト特性を考慮して設定されるため、従来の設計地震動よりも大きくなる可能性がある。そのため従来設計による全面改良の液状化対策は、広義では部分改良の効果しか期待できない場合があり、改良部の下側における未改良部が液状化して、地表面の平坦性に悪影響を与えるおそれがあった。また上記の薬液注入やセメント混合により液状化対策をした地盤は改良部の透水性が著しく低く、液状化対策をしていない地盤と比べて液状化により発生した過剰間隙水圧の消散(排水)時間が長くなる。例えば、空港滑走路断面において部分的に液状化対策をした地盤と、液状化対策をしていない地盤との圧密時間の比較を下記のテルツアギ一次元圧密方程式

を用いて行うと(ここでt:圧密時間、H:排水距離、Cv:圧密係数、Tv:時間係数)、図7の(1)に示すような液状化対策をしていない地盤の場合は、液状化による過剰間隙水圧が水面(大気圧境界)に向かって消散するため片面排水であれば着目点の排水距離が7.5mとなり、上記の式からt=56.25×Tv/Cvになる。一方、図7の(2)に示すような液状化対策をした地盤(5m厚の部分改良)の場合は、改良部の透水性が著しく低く(砂質地盤の1万分の1程度)、着目点の過剰間隙水圧の消散が最短距離をたどるため、排水距離Lは、

となって、t=907.5×Tv/Cvになる。したがって、圧密にかかわる地盤定数が同じであれば、液状化対策をした地盤は、液状化対策をしていない地盤の16倍もの圧密時間を要することになり、仮に液状化対策をしていない地盤の過剰間隙水圧の消散時間が1日かかる場合は、液状化対策をした地盤では16日が必要になり、供用開始時期を遅延させる原因となり得る。
【特許文献1】特開2004−346636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の空港滑走路や道路などの舗装施設は、地震後において緊急物資の輸送や復旧支援活動などに供用されるため、車両が走行できる舗装面の平坦性が要求される。とりわけ空港滑走路では高度な舗装面の平坦性が要求され、部分的にでも液状化した地盤の不均質性がもたらす平坦性への影響は無視できない。このことから図8に示すように、空港滑走路24の下側の地盤25を液状化対策のために部分改良し、この改良部26下側の未改良部27が液状化した場合は、有効土被り圧相当の過剰間隙水圧が蓄積され、この水圧が消散する過程において地盤25および未改良部27が体積圧縮して舗装面が沈下する。その際、不透水性の粘土層28や透水性の高い水みち29がある場合は、局所的に透水性の高い部分が水みちとなって過剰間隙水圧の消散(排水)経路が集中する。その結果、早く過剰間隙水圧が消散される部分から沈下が生じ、舗装面の平坦性に悪影響を及ぼすことになる。また液状化した地盤は、有効土被り圧相当の過剰間隙水圧が発生して土の骨格構造が壊れて期待されていた支持力が失われるため、過剰間隙水圧の消散(排水)が遅れると舗装面を走行する車両の上載荷重を支えることが難しくなるという問題があった。
【0004】
本願発明は上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、液状化した地盤からできるだけ早期に過剰間隙水圧を消散させることで支持力を回復させるとともに、透水性の高い領域で人工的な水みちを設けることにより、強制的に過剰間隙水圧の消散距離を均一化して舗装面を等しく沈下させる等沈下地盤構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための等沈下地盤構造は、舗装部下側の液状化対象地盤に未改良部を所望の厚さ分残し、これ以外の液状化対象地盤に改良材が注入されて改良部が形成され、該改良部の両側面側には未改良部から地表部に伸びた高透水性領域が舗装部の長さ方向に沿って形成されたことを特徴とする。また高透水性領域は未改良部から地表部にかけて鉛直に形成された鉛直形の高透水性領域、改良部の下側における未改良部から地表部にかけて傾斜して形成された傾斜形の高透水性領域、改良部の下側における未改良部から地表部にかけて湾曲して形成された湾曲形の高透水性領域のいずれかであることを含む。また高透水性領域は高透水性層と、該高透水性層の上部に形成された排水マットとから構成されたことを含む。また高透水性層の横幅は液状化対象地盤の厚さの10〜40%であることを含む。また高透水性層はグラベルドレーンまたは人工材料によるドレーンで構成されたことを含む。また人工材料によるドレーンは液状化対策用ドレーンであることを含むものである。
【発明の効果】
【0006】
改良部の両側面側に未改良部から地表部にかけて、透水性の高い人工的な水みちである高透水性領域を形成したことにより、該高透水性領域と液状化発生箇所の過剰間隙水圧の消散(排水)距離が強制的に均一化されるので舗装面を等しく沈下させることができる。また改良部の両側面側に未改良部から地表部に伸びた高透水性領域が形成されたことにより、部分的に液状化した地盤の過剰間隙水圧の消散距離を強制的に短くして、過剰間隙水圧の消散(排水)を速やかに行うことにより地盤の支持力を早期に回復させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の等沈下地盤構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。また各実施の形態において同じ構成は同じ符号を付して説明し、異なった構成にのみ異なった符号を付して説明する。
【0008】
図1は第1の実施の形態の等沈下地盤構造1を示し、鉛直形の高透水性領域2を備えたものである。この等沈下地盤構造1は舗装部、例えば、空港滑走路(既存または新設)3の下側における液状化対象地盤(砂質地盤)である液状化層4と、その下側の非液状化層5とからなる地盤6において、この非液状化層5から所定の厚さの未改良部7を残し、これ以外の空港滑走路の下側にあたる液状化層4に薬液またはセメントなどの改良材を注入して改良した改良部8の両側面側に鉛直形の高透水性領域2が形成されて構成されている。この未改良部7は、図1においては、非液状化層5に沿って横方向に形成されているが、図2に示すように、空港滑走路3の長さ方向に沿っても広がっている。
【0009】
このように本願発明においては空港滑走路3下側の液状化層4を液状化対策として部分的に改良し、該改良部8の下側に未改良部7の液状下層4が残っている部分改良地盤9が対象になっている。この非液状化層5から未改良部7を残した部分改良地盤9は、所望厚さ分の未改良部7が残るため、この未改良部7に地震時における液状化が発生する可能性が高い。そのため未改良部7に発生した液状化による過剰間隙水圧を強制的に排水するための水みちとしての高透水性領域2を改良部8の両側に設けたものである。すなわち、液状化発生箇所から高透水性領域2までの距離を、図7に示す高透水性領域が形成されていない地盤と比べて、短くかつ均一にすることにより、液状化した地盤の過剰間隙水圧の消散(排水)を速やかに行うようにしたものである。
【0010】
この高透水性領域2は高透水性層10と、この高透水性層10の上部に形成された排水マット11とから構成される。この高透水性層10は非液状化層5の上面、すなわち未改良部下面16から地表部12にかけて横方向に0.5〜2m間隔(ドレーンピッチ)dでかつ空港滑走路3の長さ方向に沿って0.5〜2m間隔(ドレーンピッチ)dで鉛直に打設されたグラベルドレーン13により形成されている。このグラベルドレーン13を空港滑走路3の長さ方向に沿って二列に形成したことにより、所定の横幅をもった高透水性層10を形成したものである。すなわち、図3に示すように、一本のグラベルドレーン13が負担する過剰間隙水圧の排水領域は有効半径のbの円領域であり、平面正方形配置で0.5〜2m間隔(ドレーンピッチ)dで打設された二本のグラベルドレーン13では横幅Bdが2dとなるため、この幅の高透水性層10、すなわち砂質地盤より高い透水係数をもった高透水性層10が空港滑走路3の長さ方向に沿って形成される。この横幅は液状化対象地盤、すなわち液状化層4の厚さHの10〜40%とする。このように高透水性層10はドレーンの等価半径aと有効な排水半径b、および必要なドレーンピッチdにより形成されるため、これらを液状化対象地盤に応じてそれぞれ決定するものとする。したがって、上記のグラベルドレーン13は二列に形成されているが、これに限らず、これ以上またはこれ以下にすることもでき、配置方法も図3に示すように平面正方形配置または平面三角形配置から選択することができる。またグラベルドレーン13を平面三角形配置にした場合、高透水性層10の横幅Bdは、

となる。なお、排水マット11はドレーンからの排水を円滑に排水できる程度でよい。
【0011】
このように改良部8の両側面に沿って高透水性領域2が形成されると、改良部下側の未改良部7が液状化した場合、図4に示すように、過剰間隙水圧が高透水性領域2から排水される。また液状化発生箇所14から高透水性領域2までの過剰間隙水圧の排水距離15が短いため、液状化した地盤から早期に過剰間隙水圧を消散させて支持力を回復させることができる。さらに液状化発生箇所14から高透水性領域2までの過剰間隙水圧の排水距離15が均一化されるため、過剰間隙水圧を効率的に消散させて空港滑走路3を等しく沈下させる等沈下を促進することができる。
【0012】
図5は第2の実施の形態の等沈下地盤構造17を示し、傾斜形の高透水性領域18を備えたものである。この等沈下地盤構造17は高透水性領域17が逆ハ字形に傾斜して形成されたものであり、これ以外は第1の実施の形態の等沈下地盤構造1と同じ構成である。この傾斜形の高透水性領域18は改良部下側の未改良部7から改良部8を回避または貫通して形成された高透水性層10と、その上部に形成された排水マット11とから構成されている。この高透水性層10は傾斜状のグラベルドレーン13で形成され、改良部下側の未改良部下面16から地表部12にかけて傾斜した逆ハ字形になっている。この傾斜状のグラベルドレーン13も横方向に0.5〜2m間隔dで、かつ空港滑走路3の長さ方向に沿って0.5〜2m間隔dで連続的に打設されている。
【0013】
この傾斜形の高透水性領域18も液状化発生箇所14からの過剰間隙水圧の排水距離15を短くかつ均一化するため、液状化した地盤から早期に過剰間隙水圧を消散させて支持力を回復させることができるとともに、過剰間隙水圧を効率的に消散させて空港滑走路3を等しく沈下させる等沈下を促進することができる。
【0014】
図6は第3の実施の形態の等沈下地盤構造21を示し、湾曲形の高透水性領域22を備えたものである。この等沈下地盤構造21は高透水性領域22が略L字状および略逆L字状に湾曲して形成されたものであり、これ以外は第1の実施の形態の等沈下地盤構造1と同じ構成である。この湾曲形の高透水性領域22は改良部下側の未改良部7から地表部12に向かって略L字状および略逆L字状に湾曲した高透水性層10と、その上部に形成された排水マット11とから構成されている。この高透水性層10は湾曲状のグラベルドレーン13で形成され、地表部12から改良部下側の未改良部7にかけて改良部8を避けるように湾曲している。この湾曲状のグラベルドレーン13も横方向に0.5〜2m間隔dで、かつ空港滑走路3の長さ方向に沿って0.5〜2m間隔dで連続的に打設されている。
【0015】
この湾曲形の高透水性領域22も液状化発生箇所14からの過剰間隙水圧の排水距離15を短くかつ均一化するため、液状化した地盤から早期に過剰間隙水圧を消散させて支持力を回復させることができるとともに、過剰間隙水圧を効率的に消散させて空港滑走路3を等しく沈下させる等沈下を促進することができる。
【0016】
なお、上記の実施の形態においては舗装部として空港滑走路3を対象に説明したが、これに限らず、既存道路または新設道路にも適用することができる。また高透水性層10はグラベルドレーン13に限らず、人工材料によるドレーンのいずれかを使用することもでき、いずれのドレーンであっても上記と同じ効果を奏することができる。この人工材料によるドレーンは液状化対策用ドレーンにする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施の形態の等沈下地盤構造であり、(1)は断面図、(2)は(1)のA−A断面図である。
【図2】図1のB−B断面図である。
【図3】(1)は平面正方形配置の高透水性領域の断面図、(2)は同概略図、(3)は平面三角形配置の高透水性領域の断面図、(4)は同概略図である。
【図4】(1)は第1の実施の形態の等沈下地盤構造の断面図、(2)は等沈下を示した等沈下地盤構造の断面図である。
【図5】(1)は第2の実施の形態の等沈下地盤構造の断面図、(2)は等沈下を示した等沈下地盤構造の断面図である。
【図6】(1)は第3の実施の形態の等沈下地盤構造の断面図、(2)は等沈下を示した等沈下地盤構造の断面図である。
【図7】(1)は液状化対策をしていない地盤の圧密状態を示した断面図、(2)は液状化対策をした地盤の圧密状態を示した断面図である。
【図8】(1)は不透水性の粘性土層がある地盤の液状化による不等沈下の断面図、(2)は透水性の高い水みちがある地盤の液状化による不等沈下の断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1、17、21 等沈下地盤構造
2、18、22 高透水性領域
3、24 空港滑走路
4 液状化層
5 非液状化層
6、25 地盤
7、27 未改良部
8、26 改良部
9 部分改良地盤
10 高透水性層
11 排水マット
12 地表部
13 グラベルドレーン
14 液状化発生箇所
15 排水距離
16 未改良部下面
28 粘土層
29 水みち

【特許請求の範囲】
【請求項1】
舗装部下側の液状化対象地盤に未改良部を所望の厚さ分残し、これ以外の液状化対象地盤に改良材が注入されて改良部が形成され、該改良部の両側面側には未改良部から地表部に伸びた高透水性領域が舗装部の長さ方向に沿って形成されたことを特徴とする等沈下地盤構造。
【請求項2】
高透水性領域は未改良部から地表部にかけて鉛直に形成された鉛直形の高透水性領域、改良部の下側における未改良部から地表部にかけて傾斜して形成された傾斜形の高透水性領域、改良部の下側における未改良部から地表部にかけて湾曲して形成された湾曲形の高透水性領域のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の等沈下地盤構造。
【請求項3】
高透水性領域は高透水性層と、該高透水性層の上部に形成された排水マットとから構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の等沈下地盤構造。
【請求項4】
高透水性層の横幅は液状化対象地盤の厚さの10〜40%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の等沈下地盤構造。
【請求項5】
高透水性層はグラベルドレーンまたは人工材料によるドレーンで構成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の等沈下地盤構造。
【請求項6】
人工材料によるドレーンは液状化対策用ドレーンであることを特徴とする請求項5に記載の等沈下地盤構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−168725(P2010−168725A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2350(P2009−2350)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】