筋萎縮性側索硬化症を処置するためのプラミペキソールの使用
【課題】広範な神経変性疾患に関連のある症候を防止および/または遅延、または緩和するための方法を提供する。
【解決方法】神経変性疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するためのプラミペキソール(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール)を含む組成物およびかかる組成物の使用を提供する。図6Bに示したように、12人のALS患者についての平均+/−SEM 血清2,3-DHBAレベルは、プラミペキソール処置後に有意に低下した。
【解決方法】神経変性疾患、例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するためのプラミペキソール(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール)を含む組成物およびかかる組成物の使用を提供する。図6Bに示したように、12人のALS患者についての平均+/−SEM 血清2,3-DHBAレベルは、プラミペキソール処置後に有意に低下した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国政府の権利
本発明は、国立健康研究所によって授与された、助成金番号NS35325、AG14373、NS39788およびNS39005のもとに、米国政府の援助によりなされたものである。米国政府は本発明に関して一定の権利を持つ。
【0002】
関連出願
本願は、35 U.S.C.§119(e)の下で、2001年12月11日に出願した米国仮特許出願60/339,383号および2002年1月11日に出願した同60/347,371号の優先権を主張するものである。なお、両出願の開示内容は、出典明示により本明細書の一部とする。
【0003】
本発明の分野
本発明は、神経変性疾患を処置するためのプラミペキソール(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール)の使用に関する。より具体的には、本発明は、神経変性疾患を処置するために、神経保護剤として、実質的に純粋なステレオアイソマーであるR(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールおよび薬理学的に許容し得るそれらの塩の使用を目的とするものである。
【背景技術】
【0004】
本発明の背景
神経変性疾患(NDD)、例えばアルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)は、脳内のある種のニューロン群の急速な損失から生じる。パーキンソン病(PD)およびアルツハイマー病(AD)は、通常、明白なメンデルの法則による遺伝パターンが全くなく、散発的に発生するが、母性的な偏りを示し得る。成人NDDの稀なまたは一般的でない遺伝形態は存在するが、より一般的に発生する散発形態に対するこれら常染色体の遺伝的変異体における病因論に関する関連性は、熱心な議論のテーマである。
【0005】
証拠を重ねると、散発性成人NDDの一次的な病因成分が、ミトコンドリアの機能不全およびその結果起こる増加した細胞性酸化ストレスに関連があるという強い支持を提供する。PDおよびADの脳および非CNS組織は、ミトコンドリアの電子伝達系(ETC)活性の低下を示す。細胞質ハイブリッド("cybrid")細胞モデルにおいて選択的に増幅した場合、PD(Swerdlow, et al, Exp Neurol 153: 135-42,1998)およびAD(Swerdlow, et al, Exp Neurol 153: 135-42 1997)患者由来のミトコンドリア遺伝子は、ETC欠損を反復して、酸化ストレスの増加、多様な他の重要なミトコンドリアおよび細胞の機能不全を生じる。組織研究および散発性PDおよびADのcybridモデルからの証拠を組合せた評価により、酸素フリーラジカルを除去し、かつミトコンドリアで生じる細胞死からの細胞を保護し得る薬剤による酸化ストレスの除去が、これら疾患のための神経保護剤として開発される化合物の重要な特徴として考えられると示唆される(Beal, Exp Neurol 153: 135-42,2000)。
【0006】
酸化ストレスは、致命的な神経変性疾患筋萎縮性側索硬化症(ALS)にも関連する。また、ルー・ゲーリック(Lou Gehrig)病として知られるALSは、皮質、脳幹および脊髄のモーターニューロンに関連する進行性かつ重篤な神経変性疾患である。ALSは、随意筋に関する進行的な衰弱化を生じる上位および下位モーターニューロンの変性疾患であり、結果として死を伴う。通常、発病は、人生の40代もしくは50代であり、罹病した人は発病後2〜5年のうちに死亡する。ALSは、散発性および家族性の両方の形態で起こる。
【0007】
全ALS患者の約10%が家族性であり、その中の20%が、スーパーオキシドジムスターゼI(SOD1)遺伝子(正式には、Cu、Zn−SODとして知られる)における突然変異を持っており、そのことは、異常な作用をするCu、Zn−SOD酵素が、家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)の病因および進行における中枢的役割を担っている可能性があることを、示唆するものである。変異体SOD1による酸素フリーラジカル、特にヒドロキシルラジカルの発生の増加が、FALSにおけるモーターニューロンの死を導く連続的事象を生じる開始ファクターであると考えられる。この仮説は、変異体SOD1の神経の前駆体細胞のトランスフェクションが、ヒドロキシルラジカルの産生の増加およびアポトーシスによる細胞死の速度増加を発生させるという、最近の報告によって支持されている。さらに、本出願人は、酸化ストレスが、ALSなどの散発性形態におけるモーターニューロンの死に関与すると考える。
【0008】
最近の調査により、ALSと関連のある未熟神経死において誘因となりそうな事象は変異ミトコンドリア遺伝子(ミトコンドリアDNA、mtDNA)の存在であることが明らかになった。これらのmtDNA変異は、ミトコンドリア中のエネルギー産生経路の機能の異常を導き、「酸素フリーラジカル」と呼ばれる物質を含む「反応性酸素種」(ROS)として知られる、有害な(損傷を与える)酸素誘導体の過剰生成を生じる。ROS産生が、ROSを除去/不活性化する細胞メカニズムの能力を超える場合に、「酸化ストレス」として知られる状態が存在する。
【0009】
酸化ストレスは、多くの細胞成分を損傷する可能性がある。本発明者によりなされた仕事により、ADおよびPDの細胞モデルにおける酸化ストレスによって損傷した重要な細胞成分は、「ミトコンドリア膜透過性遷移孔複合体(mitochondrial transition pore complex)」)(MTPC)として知られる特別なミトコンドリアのタンパク質複合体であることを示している。MTPCの通常の活性は、ミトコンドリア膜内外の生体電位差(ΔΨ)の維持に重要であり、これは、次いで、エネルギー貯蔵化学物質、例えばATPのミトコンドリアの合成に使用される。ΔΨの損失はミトコンドリアにおける脱分極をもたらし、これは「プログラムされた細胞死」もしくは「アポトーシス」として知られるメカニズムにより細胞死を最終的に引き起こす生物化学的反応のカスケードを開始する。アポトーシスメカニズムは、ADおよびPDだけでなく、他のNDD、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびハンチントン病でも観察されている。
【0010】
従って、これら多様な神経(組織)変性疾患を処置するための一つのストラテジーには、神経保護剤の投与が含まれる。このような衰弱化(debilitating)および致死的疾病に対する有効な神経保護剤は、これらの疾患の細胞培養および動物モデルにおいて有効なだけでなく、神経組織における治療レベルを達成するのに十分高い用量で長期的に耐容性がなければならない。また、理想的には、このような薬剤は細胞死経路の制御に関与する細胞成分を標的とし、疾患の病態生理を阻止するものでもある。
【0011】
本発明のある実施態様に従って、神経変性疾患、例えばALSを治療する方法を提供する。該方法は、当人の酸化ストレスを低下するに有効な量で、プラミペキソールを個人に投与する過程を含む。
【0012】
プラミペキソール(PPX,2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール)は、2つのステレオアイソマーとして存在する:
【化1】
S(−)エナンチオマーは、D2ファミリードーパミン受容体で強力なアゴニストであり、PD症候の取扱いにおいて広範に使用される。プラミペキソールの合成、処方および投与は、US特許番号4,843,086、4,886,812および5,112,842に記載されており、この開示内容を出典明示により本明細書の一部とする。S(−)PPXは、ドーパミンニューロンに対するMPTP毒性(US特許番号560,420および6,156,777を参照されたい。この開示物を、出典明示により本明細書の一部とする)を含む酸化ストレスの増加に関する細胞および動物モデルにおいて神経保護性であることがいくつかのグループによって示されてきた。S(−)PPXは、イン・ビトロおよびイン・ビボの両方でパーキンソン病細胞毒およびETC複合体I阻害剤メチルピリジニウム(MPP+)によって生成した酸化ストレスを低減し、MPP+および他の刺激因子(Cassarino, et al, 1998)によって誘導されるミトコンドリア膜透過性遷移孔(MTP)の開口を遮断し得る。PPXの脂肪親和性カチオン構造は、ΔΨMを通してのミトコンドリア中への濃縮が、その低い還元電位(320mV)との組合せにおいて、これらの望ましい神経保護特性の説明となり得る可能性を示唆する。
【0013】
S(−)PPXを用いる投与量は、その強いドーパミンアゴニスト特性により、ヒトにおいて限定され、達成し得る脳の薬物レベルを制限する。PPXのR(+)エナンチオマーは、ドーパミンアゴニスト活性(Schneider and Mierau, J Med Chem 30: 494-498,1987)をほとんど持たないが、S(−)PPXの望ましい分子的/抗酸化剤特性を保持することができるので、この化合物は、本明細書中で細胞死カスケードの活性化および神経変性疾患により生じる活力消失の有効な阻害剤としての有用性を持つものとして示唆される。
【発明の概要】
【0014】
発明の要旨
本発明は、広範な神経変性疾患に関連のある症候を防止および/または遅延、または緩和するための方法を提供する。より具体的には、本発明は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するために、プラミペキソールを含む組成物、およびかかる組成物を用いる方法を指向する。
【0015】
図面の簡単な説明
図1Aは、MPP+で誘導されるシトクロームCの放出のタイムコースを示し、図1Bは、MPP+で誘導されるカスパーゼ3の活性化のタイムコースを示す。SH−SY5Y細胞を、時間を変えて5mM MPP+と共にインキュベートし、回収した。図1Aにおいて、細胞を等張スクロース中で均質化し、遠心分離にかけ、上清タンパク質(100μg)を、SDS−PAGEを用いる電気泳動に供し、ナイロン膜に移し、強い化学発光検出によりシトクロームCについて免疫染色をした。一番左側のバンド(x軸上の「0時間」を明示する)が、「0」時点のミトコンドリアのシトクロームCに対応し、その他のバンドは、シトクロームCについて免疫染色された電気泳動細胞質タンパク質を示す。MWマーカーの位置をy軸上に示す。他の細胞バッチを、製造業者の指示書に従って(Biomol)、市販システムを用いるカスパーゼ3についてアッセイした。図1Bに示されるカスパーゼアッセイは、3−4の独立した実験の結果である。
*p<0.05、0.25時間での活性との比較。
【0016】
図2は、PPX、ボンクレキン酸(bongkreckic acid)およびアリストロキア酸により、MPP+で誘導されるカスパーゼ3活性化の阻害を示すデータを表す。SH−SY5Y細胞を、5mM MPP+で24時間、1mM S(−)PPX、1mM R(+) PPX、250 μM ボンクレキン酸(BKA)または25μM アリストロキア酸(ARA)またはそれらの組合せ物の存在もしくは非存在下でインキュベートした。次いで、細胞をカスパーゼ3活性についてアッセイした。図2に示したものは、4−5の独立した実験に対する平均+/−SEMである。レーンA−Fは、下記化合物でインキュベートした細胞によるカスパーゼ3活性化を示す:A、対照(化合物を添加しない);B、MPP+;C、MPP+/BKA;D、MPP+/S(−)PPX;E、MPP+/R(+)PPX;F、MPP+/ARA。レーンBについて、p<0.05、対照との比較;レーンC−Fについて、p<0.05、MPP+処置した細胞(レーンB)との比較。
【0017】
図3は、PPX、ボンクレキン酸およびアリストロキア酸による、MPP+で誘導されるカスパーゼ9活性化の阻害を示すデータを表す。SH−SY5Y細胞を、5mM MPP+で4時間または8時間、1mM S(−)PPX、1mM R(+)PPX、250μM ボンクレキン酸(BKA)または25μM アリストロキア酸(ARA)の存在下もしくは非存在下でインキュベートした。次いで、細胞をカスパーゼ9活性についてアッセイした。図3に示したものは、3−4の独立した実験に対する平均+/−SEMである。レーンA−Iは、下記化合物とインキュベートした細胞によるカスパーゼ9の活性化を示す:A、対照(化合物を添加しない);B、15分間、MPP+;C、4時間、MPP+;D、4時間、MPP+/PPX;E、8時間、MPP+;F、8時間、MPP+/BKA;G、8時間、MPP+/S(−)PPX;H、8時間、MPP+/R(+)PPX;I、8時間、MPP+/ARA。レーンCおよびEについて、p<0.01、対照との比較;および/またはレーンF、G、HおよびIについて、p<0.05、対照との比較。
【0018】
図4Aと4B:PPXエナンチオマーによるMPP+で誘導される細胞死の阻害。SH−SY5Y細胞を、5mM MPP+で、24時間、濃度増加させたS(−)PPX(図4A)またはR(+)PPX(図.4B)の存在もしくは非存在下でインキュベートした。レーンA−Fは、0nM、3nM、30nM、300nM、3uM、30uMのPPXで各々処置した細胞を示す。次いで、該細胞を、カルセイン−AMとインキュベートし、洗浄し、蛍光プレートリーダー上で読み取った。独立した実験の数は、各バー上に示し、不含PPX(MPP+単独)との比較のためのt試験によるP値は、各バーの上部に示した。MPP+の存在下では、3nM R(+)PPXは、S(−)PPX(p=0.035)以上のカルセイン保持を引き起し、また3μM、S(−)PPXは、R(+)PPX(p=0.027)以上のカルセイン保持を引き起こす。
【0019】
図5は、アスピリン(1.3g)投与後、ALSおよび対照(CTL)患者における血清2,3-DHBAレベルの変化のタイムコースを図に示す。図5Aは、血清2,3-DHBA濃度における平均+/−SEMを示す;図5Bは、血清2,3-DHBA濃度対サリチレート濃度の比を示す;そして図5Cは、タイムコースに関する血清サリチレート濃度を示す。
【0020】
図6は、血清2,3-DHBA濃度に対するプラミペキソールの効果の図である。
図6Aは、プラミペキソール処置前および後の両方において、個々の患者におけるDHBA濃度を示す。患者2、3、7および12は歩行できなかった。患者3および7は、人工呼吸器に依存性であった。図6Bは、プラミペキソール処置前および後の2,3-DHBAの平均+/−SEM血清レベルを示す。図6Cは、プラミペキソール処置前および後の平均+/−SEM血清レベルの2,3-DHBA濃度/サリチレートを示す。
【0021】
図7.マウスに飲料水中R(+)PPXを投与し、次いで、脳および前脳に酸化ストレスを増加させる神経毒(N−メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン、MPTP)で処置し、2,3-DHBAレベルを測定した。
【0022】
本発明の詳細な説明
定義
本発明の明細書および請求の範囲において、下記用語は、下記に示した定義に従って使用される。
【0023】
本明細書で使用される用語「精製された」および類似語は、天然または自然環境においてその分子または化合物と通常関連のある混入物を実質的に含まない形態にある、分子または化合物の単離に関する。
【0024】
本明細書で使用される用語「処置」には、特異的異常または症状の予防、または特異的異常または症状に関連した症候の緩和および/または該症状の防止または除去が含まれる。
【0025】
本明細書で使用される「有効量」は、選択された効果を生じるに十分な量を意味する。例えば、それらのプラミペキソールまたは誘導体の有効量には、個々に存在する反応性酸素種の生成を阻害するか、該レベルを低下させる量を包含する。
【0026】
本明細書で使用される用語「ハロゲン」は、Cl、Br、FおよびIを意味する。特に、Cl、BrおよびFを包含するハロゲンが好まれる。本明細書で使用される用語「ハロアルキル」は、少なくとも1つのハロゲン置換基を持つC1−C4アルキル基、例えば、クロロメチル、フルオロエチルまたはトリフルオロメチルなどを指す。
【0027】
本明細書で使用される用語「C1-Cnアルキル」(ここでnは整数である)は、1個〜特定の炭素原子数を持つ分枝または直鎖アルキル基を示す。典型的に、C1−C6アルキル基には、メチル、エチル、n−プロピル、イソ-プロピル、ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシルおよび類似物が含まれるが、これに限定するものではない。
【0028】
本明細書で使用される用語「C2-Cnアルケニル」(ここでnは整数である)は、2個〜特定された炭素原子数および少なくとも1つの二重結合を有する、オレフィン不飽和の分枝または直鎖基を示す。かかる基の例には、1-プロペニル、2-プロペニル、1,3-ブタジエニル、1-ブテニル、ヘキセニル、ペンテニルおよび類似物が含まれるが、これに限定するものではない。
【0029】
用語「C2-Cnアルキニル」(ここでnは整数である)は、2個〜特定の炭素原子数および少なくとも1つの三重結合を持つ、不飽和分枝または直鎖基を指す。かかる基の例には、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、1-ペンチニルおよび類似物が含まれるが、これに限定するものではない。
【0030】
用語「C3-Cnシクロアルキル」(ここでnは8である)は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルを指す。
【0031】
本明細書で使用される用語「アリール」は、フェニル、ベンジル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、インデニルおよび類似物を包含する1個または2個の芳香環を持つ、単環または二環式炭素環式環系を指すが、これらに限定するものではない。用語「(C5-C8アルキル)アリール」は、アルキル基を介して親部分構造に結合する全てのアリール基を指す。
【0032】
用語「複素環式基」は、1〜3個のヘテロ原子(ヘテロ原子は、酸素、硫黄および窒素からなる群から選択される)を含有する単環または二環式炭素環式環系を指す。
【0033】
本明細書で使用される用語「ヘテロアリール」は、1〜3個のヘテロ原子を含有する1または2個の芳香環を持つ、単環または二環式炭素環式環系を指し、これに限定するものではないが、フリル、チエニル、ピリジルおよび類似物を包含する。
【0034】
用語「二環式」は、不飽和または飽和のいずれかの安定な7員〜12員架橋または縮合二環式炭素環を指す。該二環式環は、安定な構造を与える全ての炭素原子で結合し得る。該用語には、ナフチル、ジシクロヘキシル、ジシクロヘキセニルおよび類似物を含むが、これに限定するものではない。
【0035】
本発明に含まれる化合物は、分子中の1以上の不斉中心を有する化合物を含有する。本発明において、立体異性を表示していない化合物は、その全ての光学アイソマー、さらにそのラセミ混合物を含むものと解すべきである。
【0036】
本明細書で使用される用語「神経保護剤」は、神経変性の進行を防止または遅延させる、および/または神経細胞死を防止する薬剤を指す。
【0037】
本発明
本発明は、ALSを含む神経変性疾患を処置するためにテトラヒドロベンゾチアゾールの使用を指向する。より具体的には、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾールは、一般構造式:
【化2】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、独立して、H、Cl−C3アルキルおよびCl−C3アルケンからなる群から選択される)を持つ。ある好ましい実施態様において、NR3R4基は6位に存在する。別の実施態様において、R1、R2およびR4はHであり、R3はCl−C3アルキルであり、NR3R4基は6位に存在する。ある実施態様において、該化合物は、式Iの一般構造式(式中、R1およびR2は各々Hであり、R3およびR4はHまたはCl−C3アルキルである)を持つ。
【0038】
ある実施態様に従って、本発明は、ALSを処置する方法を指向する。該方法は、患者に、一般構造式:
【化3】
(式中、R1およびR2はHであり、R3およびR4はHまたはC1−C3アルキルである)を持つ化合物を投与することを含む。ある好ましい実施態様において、R1、R2およびR4はHであり、R3はプロピルである。別の態様において、該組成物は、プラミペキソールを含み、プラミペキソール成分は、主に、プラミペキソールの2つのステレオアイソマー(R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたはS(−)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールのいずれか)のうちの1つからなる。ある実施態様において、該組成物の活性な薬剤は、プラミペキソールのステレオアイソマー、R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールジヒドロクロリド、または他の薬理学的に許容し得る塩(実質的にそのS(−)エナンチオマーを含まない)からなる。ある実施態様において、組成物を提供するが、組成物中、プラミペキソール化合物の80%以上が、R(+)立体配座で存在し、より好ましくはプラミペキソール化合物の90%以上または95%以上が、R(+)立体配座で存在する。ある実施態様において、プラミペキソールを含む組成物を提供するが、組成物中、プラミペキソール化合物の99%以上は、R(+)立体配座で存在する。
【0039】
ある実施態様において、組成物を提供するが、該組成物は、本質的に、R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールジヒドロクロリドまたは薬理学的に許容し得るそれらの塩、および医薬的に許容し得る担体からなる活性な薬剤を含む。この組成物は、NDDにおける神経細胞損失を防止する(より具体的には、ALS患者の酸化ストレスを低下させる)ために長期的に経口投与し得るか、急性脳損傷における神経細胞損失の防止のために処方され、静脈投与され得る。
【0040】
本発明の組成物に関する神経保護効果は、3つのメカニズムのうちの少なくとも1つによって、少なくとも一部分は、神経細胞死を防止する活性な化合物の能力に由来する。第一に、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾールは、PDを擬態することが可能な神経毒で誘導されるROS(イン・ビボではラットの脳において、またイン・ビトロではミトコンドリアエネルギー産生が損なわれている細胞の両方で)の形成を低下し得る。この様式において、テトラヒドロベンゾチアゾールは、「フリーラジカルスカベンジャー」として機能する。第2に、テトラヒドロベンゾチアゾールは、ADおよびPDのミトコンドリアと関連する低下したΔΨを部分的に回復し得る。第3に、テトラヒドロベンゾチアゾールは、ADおよびPDミトコンドリアの損傷の薬理学的モデルによって生じるアポトーシス細胞死の経路を遮断し得る。
【0041】
ある実施態様に従って、ALS患者における酸化ストレスを低下させる方法を提供する。本発明の目的のための酸化ストレスにおいての低下は、患者に存在する活性酸素種のレベルのいかなる低下も包含し、例えば、サリチレートの2,3DHBAへの変換によって検出される血清ROSレベルの低下も包含することを意図するものである。該方法は、一般式:
【化4】
(式中、R1、R2およびR4はHであり、R3はCl−C3アルキルである)を持つ、テトラヒドロベンゾチアゾールの有効量を投与することを含む。ある実施態様において、テトラヒドロベンゾチアゾールは、R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたはS(−)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたはR(+)およびS(−)ステレオアイソマーのラセミ混合物である。ALS処置のために投与されるテトラヒドロベンゾチアゾールの量は、投与経路、さらに、年齢、体重、健康に関する一般状態、重症度、処置頻度、そして追加の医薬をその処置に加えるかどうかを含む、追加的ファクターに基づいて変化するものである。投与されるべき活性な化合物の用量は、当業者には既知の定法で容易に決定される。
【0042】
一方、本発明は、ミトコンドリアのエネルギー産生が損なわれている細胞のミトコンドリア膜内外の生体電位差(ΔΨ)を増強するための方法を提供する。該方法は、ミトコンドリアのエネルギー産生が損なわれている細胞を、プラミペキソール活性薬物および薬学的に許容し得る担体を含む組成物と接触させる過程を含む。ある実施態様において、プラミペキソール活性薬物は、本質的にR(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールステレオアイソマーおよび薬理学的に許容し得るその塩からなる。
【0043】
多数の中枢神経系疾患および症状は神経損傷を引き起こし、これらの各症状は、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾール組成物で処置され得る。神経損傷を起こし得る症状には下記が含まれる:原発性神経変性疾患;ハンチントン舞踏病;卒中および他の低酸素症または虚血状態;神経外傷;代謝性神経損傷;脳性発作後遺症; 出血性卒中;続発性神経変性疾患(代謝性または中毒性);パーキンソン病、アルツハイマー病、アルツハイマー型老人性痴呆(SDAT);加齢関連認知機能不全;または血管性痴呆、多発梗塞性痴呆、Lewy小体型痴呆または神経変性性痴呆。
【0044】
また、本発明はヒトに投与するのに安全である。PD症候の処置に対して承認された強いドーパミンアゴニストであるS(−)プラミペキソールは、R(+)プラミペキソールのエナンチオマーである。しかし、R(+)プラミペキソールは、薬理学的ドーパミン活性を欠いている。従って、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールおよび薬理学的に許容し得るそれらの塩は、S(−)プラミペキソールよりもかなり多くの用量を投与でき、神経保護を提供し得る脳のレベルを達成しうる。ある実施態様に従って、ALSは、R(+)またはS(−)プラミペキソールのいずれかを投与することによって処置されるが、しかしながら、S(−)よりかなり高い用量を与えることが可能であるため、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールの投与が好ましい。実施例1に記載したように、S(−)およびR(+)アイソマーは、酸化ストレスの低下においてはほぼ等力である。しかし、R(+)アイソマーの使用により、より高用量を投与することが可能となり、その結果、毒性酸素フリーラジカルのより大きな低下を達成する。従って、ある実施態様において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹った患者での神経細胞死を低下させる方法を提供し、その方法において、該患者は、一般構造式:
【化5】
の化合物を含む医薬組成物を投与される。
【0045】
プラミペキソールの合成は、欧州特許186 087およびその対応出願US特許番号4,886,812に記載され、出典明示により本明細書の一部とする。
【0046】
ある実施態様において、プラミペキソール、より好ましくはR(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールは、経口投与のための錠剤を得るための結合剤と、または連続送達のための経皮パッチ(「スキンパッチ」)を得るための当業者に既知の物質と混合される。あるいは、プラミペキソールは、非経腸的(すなわち、静脈内、筋肉内、皮下)投与され得る溶液を生成するのに必要な安定化剤と共に製剤化され得る。本発明の経口および/または経皮製剤は、NDD(すなわち、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症である)に罹った患者の神経細胞死を低下させるのに用いられる。本発明の非経腸製剤は、急性脳損傷(すなわち、卒中、くも膜下出血、低酸素性虚血性脳損傷、痙攣重積状態、外傷性脳損傷、低血糖脳損傷)を持つ患者における神経細胞死を低下させるのに使用される。
【0047】
NDDを処置するためのR(+)プラミペキソールの使用は、ドーパミンアゴニストのS(−)プラミペキソール(Mirapex,Pharmacia and Upjohn)に関する比較的不活性なステレオアイソマーであるために、ドーパミンアゴニストとしてのS(−)プラミペキソールの使用に関連する重要な問題を解決する。Mirapexの用量は、血圧および精神作用に対するドーパミン作用性の副作用により制限される。R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールは、S(−)プラミペキソールの使用から起こる副作用を生じる効力が1%以下である。そのため、本発明は、一般的に、少量のドーパミンアゴニスト薬物療法でさえ不耐容であるAD患者に対して、より安全に投与され得る。また、本発明は、S(−)プラミペキソールよりかなり多くの用量で静脈投与され得る。すなわち、血圧の低下が有害であり得る卒中のような症状において安全に用いることができる。
【0048】
ある実施態様において、神経変性疾患を持つ患者を処置するための方法が提供される、と同時にドーパミン作用性の副作用のリスクを低下させる。該方法は、プラミペキソール活性薬物および医薬的に許容し得る担体を含む組成物を投与する過程を含み、ここで、プラミペキソール活性薬物は、本質的にR(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールステレオアイソマーおよび薬理学的に許容し得るその塩からなる。ある実施態様において、処置される神経変性疾患は、ALS、アルツハイマー病およびパーキンソン病からなる群から選択され、該組成物は、1日あたり約10mgから約500mgの用量で、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたは薬理学的に許容し得るその塩を投与される。
【0049】
使用される用量は、もちろん処置されるべき特定の異常によるが、加えて年齢、体重、健康の一般的状態、重症度、処置頻度、そして追加の医薬が該処置に加わるかどうかを含む追加的ファクターによる。個々の活性な化合物の量は、当業者には既知の定法によって容易に決定される。例えば、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾールは、10mg〜500mgの1日全用量で、NDDに罹ったヒトに経口的に投与され得る。あるいは、テトラヒドロベンゾチアゾールは、10mgから100mgの単回用量で、および/または10mg/日〜500mg/日の連続静脈点滴によって、急性脳損傷に罹ったヒトに非経腸投与され得る。
【0050】
ある好ましい態様において、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール(または薬理学的に許容し得るその塩)を、神経変性病疾患、例えばALSに罹った患者に投与して、該疾患を処置する。本明細書で使用される用語「処置する」には、特定の異常または症状と関連のある症候の緩和、および/または該症状の防止または除去を包含する。より具体的には、プラミペキソール活性薬物および医薬的に許容し得る担体を含む組成物は、患者に投与され、神経細胞死を防止、または実質的に低下させ、ここで、プラミペキソール活性薬物は、本質的に、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール(および薬理学的に許容し得るその塩)である、プラミペキソールのステレオアイソマーを含む。プラミペキソールの合成、製剤および投与は、US特許番号4,843,086;4,886,812;および5,112,842に記載されている;出典明示により本明細書の一部とする。
【0051】
個人組織中でのヒドロキシルラジカル生成は、サリチレートの2,3-ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)(Floyd et al.(1984) J. Biochem. Biophys. Methods 10:221-235; Hall et al. (1993) J.Neurochem. 60: 588-594)への変換において増加を生じる。すなわち、個人の血清中の2,3-DHBA蓄積は、その個人がこうむった酸化ストレスのレベルの指標として使用され得る。2,3-ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)血清レベルに対する、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたはS(-)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールの効果を調べた。図5および6に示したように、2,3-DHBAの個々の血清レベルは、S(-)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールによる処置後のALS患者において低下した。これらのデータは、プラミペキソールによる処置が、ALS患者においてイン・ビボでの酸化ストレスを低下することを示す。
【0052】
さらに、図7に示したように、追加の研究を、マウスに対して行い、イン・ビボでの酸化ストレスの低下におけるプラミペキソールの有効性を証明している。この研究において、マウスは、8週間、3つの異なる1日用量で、マウス飲料水中のR(+)PPXを投与され、次いで、脳中の酸化ストレスを増加させる神経毒(N−メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン、MPTP)が投与された。次いで、脳組織は、酸素フリーラジカル産生について分析した。該データは、30mg/kg/日および100mg/kg/日用量が、脳中のフリーラジカルレベルの顕著な低下を生じることを示す。
【0053】
また、毒性学的研究がなされ、有害な作用の証拠は検出されなかった。特に、8週間の毒性学研究を、マウスの飲料水中にR(+)PPXを与えたマウスで行った。マウスの主な臓器の全ては、病理学的に試験され、病変はみられなかった。これは、神経保護剤としてR(+)PPXの有効性の問題を提示しない一方で、その薬物を、非常に高用量で長期的にヒトに投与する際の潜在的な安全性(すなわち、実用性)を示している。
【0054】
本発明は、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾール化合物を含む医薬組成物を指向する。より具体的には、テトラヒドロベンゾチアゾール化合物は、当業者には既知の標準的な医薬的に許容し得る担体、増量剤、可溶化剤および安定化剤を用いる医薬組成物として処方され得る。テトラヒドロベンゾチアゾールを含む医薬組成物は、以下に限定するものではないが、局所、経口、静脈内、筋内、動脈内、髄内、くも膜下腔内、心室内、経皮、皮下、腹膜内、鼻腔内、腸、局所、舌下または直腸手段を含む全ての経路によって、それを必要とする個人に投与される。
【0055】
本発明は、本発明の医薬組成物の1以上の成分で充填された1以上の容器を含む、医薬用パックまたはキットを提供する。ある実施態様に従って、キットは、ALS患者の処置用に提供される。この実施態様において、キットは、本発明の1以上のテトラヒドロベンゾチアゾールを含み、より具体的には、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールステレオアイソマーである。これらの医薬品は、多様な容器、例えば、バイアル、チューブ、マイクロタイターウェルプレート、ボトルおよび類似物につめられ得る。キットには、使用説明書も含まれるのが好ましい。
【実施例】
【0056】
実施例1
R(+)およびS(−)PPXは、細胞死カスケードの活性化に関する有効な阻害剤である
材料および方法
細胞培養
SH−SY5Yヒト神経芽(細胞)腫細胞を、American Tissue Culture Collection (www. atcc. org)から得、複製状態の培養物中で維持した。カスパーゼアッセイおよびシトクロームC放出研究のために、細胞を10%胎児ウシ血清、抗生物質/抗真菌剤(micotic)[ペニシリン(100 IU/ml)、ストレプトマイシン硫酸塩(100μg/ml)、アンフォテリシンB(0.25μg/ml)]およびウリジン(50μg/ml)およびピルビン酸塩(100μg/ml)を含有するDMEM/高グルコースを用いて、5%CO2雰囲気、37℃で、T75フラスコ内でほぼ最大コンフルエンス(2×107細胞/フラスコ)まで増殖させた。次いで、5mM メチルピリジニウムヨウ化物(MPP+;Sigma;www.sigma-aldrich.com)または100μM 25−35または35−25βアミロイドペプチド(Bachem;www.bachem.com)と共に、時間を変えて、インキュベートし、その後回収した。細胞死の研究のために、該細胞を、96ウェルの黒底プレートに播種し、24時間、DMEM培地で増殖させ、次いで毒素に暴露した。
【0057】
カスパーゼアッセイ
MPP+またはβアミロイドペプチドに暴露した後、細胞をPBS中に回収し、450xg、6分間、4℃で遠心分離した。細胞ペレットを、2x107細胞/100μlの分解緩衝液の濃度で、低張細胞分解用緩衝液[25mM HEPES、5mM MgCl2、5mM EDTA、1M DTTおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma Chemical)]に再懸濁した。分解物を、凍結および溶解の4サイクルに供した。次いで、細胞分解物を、16,000 xg、30分間、4℃で遠心分離にかけた。上清分画を回収し、タンパク質含量をLowryアッセイ(BioRad)により測定した。タンパク質(100μg)を用いて、96ウェルプレートでカスパーゼ活性を測定し、4回アッセイした。該活性を、アッセイ緩衝液および製造者によって提供されるプロトコール(Biomol, カスパーゼ3;Promega, カスパーゼ3および9)を用いて測定した。カスパーゼ活性は、染色(p−ニトロアニリン(p-NA),Biomol)または蛍光(アミノメチルクマリン(AMC), Promega)クロモゲンの遊離を生じる合成ペプチド基質の開裂に基づく。活性化したカスパーゼのみが、これらの基質を開裂でき、各アッセイキットで提供されるカスパーゼ阻害剤をアッセイに含む場合、クロモゲン生成を完全に阻害する。記載のアッセイ条件下、クロモゲン生成の線形速度が、2時間にわたって観察された。0時および37℃でのインキュベーション30分後に、クロモゲン吸光度(p-NA)をOpti Maxプレート・リーダー上で、またはクロモゲン蛍光(AMC)をSpectraMax Gemini プレート・リーダー上で測定し、カスパーゼ比活性を概算した。0時でのクロモゲンシグナルを30分時の測定値から引いた。
【0058】
細胞死
細胞死を、製造指示書に従って、96ウェル・プレートで増殖し、カルセインAMとインキュベートした細胞において、“Live-Dead”アッセイ(分子プローブ;www.molecularprobes.com)でカルセイン保持の減少を測定することによって概算した。カルセインシグナルを、SpectraMax Gemini adjustable fluorescent plate reader (Molecular Devices)でアッセイした。メタノールとプレインキュベートした細胞からのカルセイン蛍光をバックグラウンドとして、全ての測定値から引いた。各アッセイを、8ウェル/条件で行い、これを平均した。3−8回の独立した実験を行い、このパラダイムにおいて、広範囲な濃度のS(−)およびR(+)PPXを評価した。
【0059】
シトクロームCのウェスタンブロッド
シトクロームCを、100μgの細胞上清タンパク質のポリアクリルアミド電気泳動、ナイロン膜への転写後のウェスタンブロッドにより検出した。一次抗体は、Pharmingenから得たマウスモノクローナル抗シトクロームCであり、1:10000希釈で用いた。検出を、増強した化学ルミネセンス(Pierce)で行い、BioRad Fluors imaging station上で可視化した。
【0060】
薬物
R(+)およびS(−)PPX(Pharmacia Corporationからの供与)を、それらの二塩酸塩として得、培養培地に直接溶解した。アデニン・ヌクレオチド・トランスロケーターに対するATP結合部位のアンタゴニストであるボンクレキン酸は、1M NH4OH中の溶液として提供された。ホスホリパーゼA2阻害剤であるアリストロキア酸(ナトリウム塩)は、Sigma Chemical Co.から得た。カスパーゼ実験において、薬物を、MPP+またはβアミロイドペプチドの1時間前に添加した。カルセイン/細胞死実験において、薬物をMPP+の4時間前に添加した。
【0061】
結果
MPP+およびBA25-35によるカスパーゼ活性化
図1Bは、SH−SY5Y細胞と5mM MPP+とのインキュベーション中の、カスパーゼ3活性に関するタイムコースを示す。活性の増加が4時間まで検出でき、24時間までに約2倍増加していた。図1Aは、細胞質中に放出されたシトクロームCタンパク質に対するウェスタンブロッドの結果を示す。生物化学的活性曲線と同様に、細胞質シトクロームCは、4時間まで少量で検出可能で、12時間まで実質的に増加した。
【0062】
図2は、R(+)およびS(−)PPXエナンチオマーの両方が、MPP+暴露中、カスパーゼ3活性化を抑制することを示す。MPP+誘導によるカスパーゼ3活性の増加は、アデニン・ヌクレオチド・トランスロケーターの内部膜部位上のATP結合部位の特異的アンタゴニストであるボンクレキン酸により遮断された。ホスホリパーゼA2阻害剤であるアリストロキア酸は、以前、SH−SY5Y細胞のMPP+誘導されたアポトーシスを遮断することが示され(Fall and Bennett, 1998)、カスパーゼ3活性の増加を阻害することも示された。MPP+およびBA25-35ペプチドによるカスパーゼの活性化は、PPXエナンチオマーとミトコンドリアの遷移孔で活性な薬物により遮断された。S(−)PPXは、BA25-35ペプチドとのインキュベーション後のカスパーゼ3活性の増加を約70%まで低下させ、それ自身による抑制効果を示さなかった。また、MPP+暴露は、カスパーゼ3の活性化と同様に、時間経過とともにカスパーゼ9の活性を増加させた(図3参照)。カスパーゼ9の活性の増加は、S(−)およびR(+)PPX、ボンクレキン酸およびアリストロキア酸によっても遮断された。
【0063】
図4は、24時間、5mM MPP+に暴露する前に濃度を変化させたR(+)またはS(−)PPXと共にSH−SY5Y細胞をインキュベートした細胞のカルセイン保持に対する効果を示す。カルセインは、血漿膜の電位を維持する能力の機能として細胞内に保持される蛍光色素である。MPP+単独は、約60%までカルセインの取込みを低下させた。両方のPPXエナンチオマーは、実質的に30nMレベルでカルセインの取込みを回復させ、この保護効果は30μM PPXまで保持された。
【0064】
検討
この研究は、パーキンソン病およびアルツハイマー病の各々に有用な可能性のある神経保護作用の化合物を研究するための細胞培養モデルとして自己複製SH−SY5Y神経芽(細胞)腫細胞に添加した神経毒のMPP+および25-35βアミロイドペプチドの使用を対象としている。SH−SY5Y細胞は、新生物の神経外胚葉起源の分裂中の細胞で、一次ニューロンではない。それらは、Ras変異の結果としての有糸分裂であり、MAPK/ERKシグナリングの慢性的な活性化を導く。SH−SY5Y細胞は、一次ニューロンと比較すると、MPP+との短時間のインキュベーションでは、比較的非感受性である。我々は、1mMではなく、2.5および5mMのMPP+が、18-24時間以内でアポトーシス形態およびDNA核濃縮フラグメントを生成することを見出した。しかし、MPP+低濃度での長時間のインキュベーションは、動物でのPDのイン・ビボ MPTPモデルとより密接に近似しており、比較的低いMPP+レベルへの長時間の暴露は、ミトコンドリア細胞死カスケードを依然活性化し得ると報告されている。
【0065】
SH−SY5Y細胞はβアミロイドペプチドに感受性である。Liら(1996)は、血清飢餓のSH−SY5Yが、100μMのβアミロイド2S−3Sへの暴露3日後、広範なDNAニックエンドラベリングを示し、DNAラダリングにおける濃度依存の増加を示すことを見いだした。カスパーゼのβアミロイドペプチド誘導活性化は、SH−SY5Yでは説明されてきていなかったようであるが、いくつかの報告により、様々な一次神経系においてβアミロイドペプチドへの暴露によるカスパーゼ活性化が示された。これらは、小脳顆粒細胞において25-35アナログによるカスパーゼ-2、−3および−6、およびラット一次的皮膚ニューロンにおいてカスパーゼ−3の活性化が含まれる。従って、カスパーゼ3活性(DEVDアーゼ)は、100μM βアミロイド25-35に暴露したSH(−)SY5Yで観察されるが、リバース35-25配列に暴露した後にはカスパーゼ活性化が観察されなかったことは、驚くべきことではない。
【0066】
本実験の焦点は、PPXエナンチオマーが、カスパーゼの活性化を阻止できるのか、また急性の毒素暴露したADおよびPDの細胞培養モデルにおいて、細胞生存に関するマーカーとして、カルセイン保持を促進することが可能かどうかを決定することであった。「イニシエーター(開始者)」である「カスパーゼ9」および「エグゼクチオナー(執行者)」である「カスパーゼ3」の両方の活性化は、PDのためのMPP+モデルにおいて両方のPPXエナンチオマーによって遮断され、カスパーゼ3の活性化は、ADのためのBA25−3SモデルにおいてS(−)PPXによって遮断された。ナノモルレベルでの両PPXエナンチオマーは、PDのためのMPP+モデルにおいて細胞生存性を促進することができた。従って、本発明の発見は、PPXの神経保護作用を説明する増大しつつある研究成果に加え、神経変性疾患におけるこのファミリー化合物の臨床的有用性の可能性を示唆するものであった。
【0067】
この試験は、PPXの最も近い作用部位を試験しなかったが、いくつかの知見は、これらの細胞モデルにおけるミトコンドリア膜透過性遷移孔複合体(MTPC)を含んでいた。まず、選択的アデニン・ヌクレオチド・トランスロケーター・アンタゴニストおよびMTP開口の阻害剤であるボンクレキン酸は、カスパーゼ9および3の両方のMPP+で誘導される活性化を阻害した。これは、直接的かまたは酸化ストレスを包含するメカニズムを通じてかのいずれかの、MPP+がもたらすMTP開口と一致するであろう。単離された肝臓ミトコンドリアにおいて、MPP+は、フリーラジカルスカベンジャー酵素によって不完全に遮断され、S(−)PPXによってより完全に遮断されている、古典的なMTP開口をもたらし得る。神経毒性25-35BAペプチドはまた、単離したミトコンドリアにおいてMTP開口を刺激し得る。MPP+および2S-35BAペプチドの両方は、インビボでの脳ミクロ透析研究、およびイン・ビトロでの神経細胞培養において酸化ストレスを増加させ、一方、S(−)PPXは、イン・ビトロおよびイン・ビボでのMPP+で誘導される酸化ストレスを低下させることを示した。
【0068】
実施例2
ALSを処置するためのプラミペキソールの使用
酸化的異常性が、家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)と、より一般的な散発性ALS(SALS)との両方で同定された。2,3-DHBAは、ヒドロキシル化サリチレートの副産物であり、フリーラジカル活性増加の信頼性のあるイン・ビボマーカーであり、かつHPLCにより確実にアッセイされた。サリチレート負荷を経口投与後、2,3-ジヒドロキシ安息香酸(2,3-DHBA)およびDHBA/サリチレートの高い血清レベルを、SALS患者で観察した。本明細書中に記載のように、12人のSALS患者を試験し、プラミペキソール処置前および後の両方の2,3-DHBAレベルを測定した。
【0069】
方法
試験者の準備
本試験は2フェーズで行った。第1フェーズにおいて、Airlie House基準を満たす11人の明確なSALS患者と、7人の対照を試験した。これら試験者は、アスピリン負荷を受け、続く2,3-DHBA分析を行った。アスピリン (1.3g)を経口的に与えた後、血液を、2、3および4時間後に採血した。血清を、分離し、氷結させ、-80℃で貯蔵した。血清のアリコートをコード表示し、2,3-DHBAおよびサリチレートアッセイに対してブラインドとした。
【0070】
第2フェーズにおいて、SALSに確実に罹患した17人の患者を、臨床集団からランダムに選択した。その患者に、アスピリン(1.3g)を経口的に与え、血液を3時間後に採取した。これらのベースライン用の試料を取得後、SALS試験者は、プラミペキソール治療を開始した。用量漸増(増加)は、最終用量として1.5mg t.i.d.−q.i.d.に達するようにしたPD患者と同様に行い、その後7週間タイトレーションを行った。各被験者が、各被験者の最も高いプラミペキソール用量で3週間続けた後、アスピリン負荷試験をもう一度行った。元々の17人のSALS患者のうち12人は、プラミペキソール漸増フェーズを完了できた。2人を除くこれらすべての者は、6mg/日のプラミペキソール用量を達することができ、全ての患者は少なくとも3mg/日の用量を得た。次いで、各試験者に、プラミペキソール処置を続ける機会を与えた。
【0071】
検体調製
血清の調製:4℃で血清(0.9ml)を、1M 過塩素酸(0.2ml)と混合し、冷蔵遠心分離器中で、10分間、15000rpmで遠心分離した。
【0072】
2,3-DHBAアッセイ:上清(20μL)を、C18の「カテコールアミン」Adsorbosphere column (Alltech)上に2回重層し、アセトニトリル(125ml/L)、ヘプタンスルホン酸ナトリウム(1.5gm/L)、トリエチルアミン(3ml/L)、Na2EDTA(100 mg/L)を含み、リン酸で2.8に調整した最終pHの緩衝液を用いて、0.6ml/minで流した。検出には、CouloChem II フロー・スルー・エレクトロケミカル検出器(ESA, with the following settings: guard cell=+600 mV;E1=-100 mV; E2=+400mV)を利用した。2,3-DHBAを、この条件下で10-10.5分で溶出した。
【0073】
サリチレートアッセイ:血清(50μL)を、C8Kromosil HPLC column (Alltech)上に2回重層し、70%メタノール/30%水/0.5%トリフルオロ酢酸により0.8-1.0ml/minで流した。サリチレートをこれらの条件下で6-7分間で溶出し、315nMでUV吸収により検出した。
【0074】
結果
図5Aは、11人のSALS(59.2±12.3yr)および第1フェーズで試験した年齢をマッチさせた7人の対照患者(56.7±10.7yr)において、2,3-DHBA血清レベルでの増加に関するタイムコースを示す。SALS患者は、この疾患の急性および慢性的段階の両方を示す症候開始の10〜156ヶ月の範囲で投薬した。2,3-DHBAの最高レベルを、アスピリン投与3時間後のSALS患者で見いだし、この時点を試験の第2フェーズとして選択した。さらに、SALSおよび対照群を時間に対して比較した場合、2ウェイANOVAは2,3-DHBAの産生における差違を明らかにした。この差違は、2集団に対してp=0.033レベルで有意であった;post-hoc試験(Tukey test)は、各時点で全く有意差はなかった。
【0075】
追加比較として、2,3-DHBA/サリチレートの割合を、2群について時間に対して比較した。ALS群は、アスピリン投与後3時間で2,3-DHBA産生のこの標準的マーカーにおいて、約1.5倍の増加を示した。2ウェイANOVAは、p=0.06レベルで有意差を示した(図5B)。血清サリチレートレベルは、ALSとCTL集団との間に時間に対して有意差はなかった(図5C)。この試験の第2フェーズに入れた元々の17人の患者のうち、5人は疾患の合併症または薬物療法に耐えられないために省いた。残りの試験者は、8人の男性および4人の女性からなる。平均年齢は63.2歳であった。プラミペキソール治療は、これらALS患者に十分耐えられた。これら試験者は、臨床的痴呆の症候を全く示さず、また、明白な心血管症状の不安定性を持たなかった。
【0076】
この試験に登録された患者は、疾患進行の様々な臨床試験段階を提示した。4人の試験者は歩行できず、そのうちの2人は人工呼吸器に依存していた。残りの8人は、試験開始時は歩行できた。試験に入ってから最終の血液採取までは、49-105日の範囲で平均時間76.6日であった。
【0077】
2,3-DHBAの血清レベルを、プラミペキソール処置前および後で比較した。例外なく、2,3-DHBAの個々の血清レベルが低下した(図6A)。図6Bは、ALS患者において、安定なプラミペキソール用量を達成する前および後の血清2,3-DHBA濃度に対する平均+/−SEMを示す。平均の低下は、約45%であって、p=0.015レベルで有意であった。血清サリチレートレベル(μM)は、プラミペキソール処置前(18.8+/−7.2,S.D.)および処置中(20.2+/−5.5, S.D.)の両方で変化しなかった。図6Cは、各患者についてのサリチレートレベルを標準化した2,3-DHBAの血清レベルが、プラミペキソール処置により平均59%低下することを示した;t−試験により、この差違はp=0.010レベルで有意であることを示した。
【0078】
検討
この試験は、2,3-DHBA産生の増加に基づいた、経口アスピリン負荷後のALS患者で、イン・ビボでの酸化ストレスの約2倍の増加が観察されることを明らかにした。2,3-DHBAの増加が臨床的疾患進行に関する様々な段階で観察され、この代謝物は、この疾患過程にわたって、特に初期ステージでの診断が不確実である場合に、高酸化ストレスの信頼性のあるマーカーとして役立つことを示唆するものである。小さな集団サイズのため、疾患段階と2,3-DHBA産生のレベルとの相関関係を算定する試験は行わなかった。
【0079】
本試験は、パーキンソン病において一般的に耐性のある用量でのプラミペキソール治療は、ALS患者におけるイン・ビボ酸化ストレスを低下させることが明らかとなった。プラミペキソールの最高耐性用量を達成する前および数週間後の12人の患者からの血清は、2,3-DHBAベースラインの約45%およびサリチレートレベルに対して正常化した2,3-DHBAベースラインの約59%の低下を明らかにした。プラミペキソールは、そのフリーラジカルの除去/抗酸化剤特性の結果としてROS産生におけるこの低下をもたらす傾向がある。プラミペキソールは、メチルピリジニウムによる複合体I阻害に急性的に暴露させた、イン・ビトロでのSY5Y神経芽(細胞)腫細胞およびイン・ビボでのラット線上体の両方において、ROS産生を低下し得ることを示した(Cassarino et al., J. Neurochem 1998; 71:295-301)。また、プラミペキソールは、神経毒6-ヒドロキシドーパミンの点滴後のイン・ビボでの脳ROS産生を低下させ(Ferger et al., Brain Res 2000;883:216-23)、シトクロームC放出を阻害し、前−神経毒のMPTP[16]による処理後のイン・ビボでの脳脂質酸化を低下させた。
【0080】
ほぼ等しいプラミペキソールの神経保護作用が、R(+)およびS(−)エナンチオンマーにおいて観察されることから、ドーパミンアゴニスト作用が主にS(−)エナンチオマーに存在するので、ROSスカベンジャー作用は、ドーパミンアゴニスト特性には関係がないようである。これが事実であれば、プラミペキソールのR(+)エナンチオマーは、イン・ビボでの抗酸化活性に対する可能性を持ち、本試験で用いられるS(−)エナンチオマーよりもかなり高い用量にも耐性があるはずである。
【0081】
酸化ストレッサーは、散発性ALSにおいて十分に確立されているが、しかし、増加した酸化ストレスの原因論は曖昧なままである。ALSにおけるCNS酸化ストレス損傷のマーカーには、脂質過酸化生成物についての腰部脊髄における免疫組織化学染色の増加、およびニトロチロシンおよびニトロシル化マンガンスーパーオキシドジスムターゼの髄液レベルの増加が含まれる。これらの結果は、一酸化窒素誘導体を包含するROSによるALS組織への損傷増加と一致する。
【0082】
ALSの動物および細胞モデルもまた、酸化ストレスおよびモーターニューロンの脆弱性についての洞察を提供する。ALS脊髄モーターニューロンは、シトクロームCオキシダーゼの活性を低下させ(組織化学的に考察した)、このように低下した電子伝達系機能は、酸素のフリーラジカル生成を増加させるように働き得る。変異ヒトSOD1FALS遺伝子を担持するマウスの脊髄ミクロ透析は、ROSの生成増加およびマロンジアルデヒドのレベルを明らかにし、そのコンセプトとも一致する。さらに、CuZn−SOD FALS変異は、興奮毒性により死に導く脊髄モーターニューロンの脆弱性を増加させ、関与する該メカニズムが酸化ストレス増加させることが報告されている。最終的に、ALSで増加した酸化ストレスは、ALS脊髄で観察されるアポトーシスの細胞死過程のマーカー増加に関与し、FALSマウスモデルでのモーターニューロンの死におけるカスパーゼの関連性の原因である。
【0083】
ミトコンドリアの病理は、実験用モーターニューロン疾患の初期の経過で生じる。これらの構造は、酸化的損傷に対して感受性であるだけでなく、その機能不全は、加速されたフリーラジカル産生を導き、ミトコンドリアDNAへの起こりうる損傷を導く。ALS筋肉生検におけるミトコンドリア機能の視覚化により、複合体Iの低い活性を明らかにし、ALS前角細胞樹状体の超構造分析により凝集した暗いミトコンドリアが明らかとなった。ALSにおいて、変性した前角細胞周辺のグリア刺激アミノ酸トランスポーター−2(EAAT2)の選択的な損失は、増加した興奮毒性を与え得るさらなるタンパク質損傷を反映し得る。
【0084】
そのため、ALSにおける酸化的損傷は、原発性神経変性過程、モーターニューロンミトコンドリア病理学の続発性付帯徴候または両方の組合せを示す。SALSミトコンドリア遺伝子の増幅に関するCybrid研究は、SALSにおける酸化ストレスの増加が、原発性ミトコンドリア遺伝学的原因論の点から、理解し得ることを示す。どのようなミトコンドリアのDNAがSALSにおいて欠陥となるかは知られていない;母方から受継いだメカニズムと散発的に獲得したメカニズムの両方がありうる。
【0085】
サリチレート負荷の使用および相対的なイン・ビボ酸化ストレスレベルの概算値としての2,3-DHBA測定を、成人性糖尿病、アルコール依存症における肝不全および関節炎に適用した。ヒドロキシルラジカルおよびペルオキシ亜硝酸アニオンを含む多くの酸化種は、2,3-DHBAの生成に寄与し得る。従って、観察された2,3-DHBAレベルについて、特定のROS源を指定することはし得ないし、また増加したサリチレートヒドロキシル化の組織源を限定することもできない。
【0086】
要するに、酸化ストレスのマーカーである2,3-DHBAの血清レベルベースラインは、SALS患者のコホートでは増加することが明らかとなり、このレベルはプラミペキソールによる処置後に低下した。図6に示したように、2,3-DHBAの個々の血清レベルは、S(−)2−アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールによる処置後のALS患者で低下した。特に、患者に、1日用量のS(-)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール(3〜6mg)を、7週間、経口投与した。7週間の最後に血清試料を採取し、2,3-DHBA濃度を測定し、処置前に採取した血清試料における2,3DHBAレベルと比較した。これらのデータは、プラミペキソールによる処置が、ALS患者におけるイン・ビボでの酸化ストレスを低下させることを示した。
【0087】
実施例3
イン・ビボでのMptp誘導された酸化ストレスを低下させるプラミペキソールの効果
方法
オスC57BL/6マウスに、8週間、毎日0、10、30または100mg/kg/dayを与えるために計算した用量で飲料水中R(+)プラミペキソールジヒドロクロリドを与えた。試験日に、マウスを神経毒N−メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)の30mg/kg s.c.を用いて注射し、脳中の酸化ストレスを増加させた。1時間後、マウスにサリチル酸ナトリウム(100mg/kg i.p.)を注射した。サリチレート注射1時間後、マウスを屠殺し、前脳を2,3-ジヒドロキシ安息香酸 (2,3-DHBA)含量について分析した。
【0088】
図7に示したように、該結果は、R(+)プラミペキソールによる30および100mg/kg/day処置が、MPTPによって生成した前脳の酸化ストレスを有意に低下させた。毒性学試験も行い、副作用の症候を検出しなかった。特に、8週間の毒性学試験を、その飲料水中のR(+)PPXを与えたマウスで行った。彼らの全主要臓器を病理学的に試験し、病変は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1A】図1Aは、MPP+で誘導されるシトクロームCの放出のタイムコースを示す。
【図1B】図1Bは、MPP+で誘導されるカスパーゼ3の活性化のタイムコースを示す。
【図2】図2は、PPX、ボンクレキン酸およびアリストロキア酸により、MPP+で誘導されるカスパーゼ3活性化の阻害を示すデータを表す。
【図3】図3は、PPX、ボンクレキン酸およびアリストロキア酸による、MPP+で誘導されるカスパーゼ9活性化の阻害を示すデータを表す。
【図4A】図4Aは、PPXエナンチオマーによるMPP+で誘導される細胞死の阻害を示す。
【図4B】図4Bは、PPXエナンチオマーによるMPP+で誘導される細胞死の阻害を示す。
【図5】図5は、アスピリン(1.3g)投与後、ALSおよび対照(CTL)患者における血清2,3-DHBAレベルの変化のタイムコースを示す。
【図6A】図6は、血清2,3-DHBA濃度に対するプラミペキソールの効果の図である。図6Aは、プラミペキソール処置前および後の両方において、個々の患者におけるDHBA濃度を示す。
【図6B】図6は、血清2,3-DHBA濃度に対するプラミペキソールの効果の図である。図6Bは、プラミペキソール処置前および後の2,3-DHBAの平均+/−SEM血清レベルを示す。
【図6C】図6は、血清2,3-DHBA濃度に対するプラミペキソールの効果の図である。図6Cは、プラミペキソール処置前および後の平均+/−SEM血清レベルの2,3-DHBA濃度/サリチレートを示す。
【図7】図7は、マウスに、R(+)PPXに投与し、次いで、脳および前脳に酸化ストレスを増加させる神経毒(N−メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン、MPTP)で処置した2,3-DHBAレベルである。
【技術分野】
【0001】
米国政府の権利
本発明は、国立健康研究所によって授与された、助成金番号NS35325、AG14373、NS39788およびNS39005のもとに、米国政府の援助によりなされたものである。米国政府は本発明に関して一定の権利を持つ。
【0002】
関連出願
本願は、35 U.S.C.§119(e)の下で、2001年12月11日に出願した米国仮特許出願60/339,383号および2002年1月11日に出願した同60/347,371号の優先権を主張するものである。なお、両出願の開示内容は、出典明示により本明細書の一部とする。
【0003】
本発明の分野
本発明は、神経変性疾患を処置するためのプラミペキソール(2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール)の使用に関する。より具体的には、本発明は、神経変性疾患を処置するために、神経保護剤として、実質的に純粋なステレオアイソマーであるR(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールおよび薬理学的に許容し得るそれらの塩の使用を目的とするものである。
【背景技術】
【0004】
本発明の背景
神経変性疾患(NDD)、例えばアルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病(PD)は、脳内のある種のニューロン群の急速な損失から生じる。パーキンソン病(PD)およびアルツハイマー病(AD)は、通常、明白なメンデルの法則による遺伝パターンが全くなく、散発的に発生するが、母性的な偏りを示し得る。成人NDDの稀なまたは一般的でない遺伝形態は存在するが、より一般的に発生する散発形態に対するこれら常染色体の遺伝的変異体における病因論に関する関連性は、熱心な議論のテーマである。
【0005】
証拠を重ねると、散発性成人NDDの一次的な病因成分が、ミトコンドリアの機能不全およびその結果起こる増加した細胞性酸化ストレスに関連があるという強い支持を提供する。PDおよびADの脳および非CNS組織は、ミトコンドリアの電子伝達系(ETC)活性の低下を示す。細胞質ハイブリッド("cybrid")細胞モデルにおいて選択的に増幅した場合、PD(Swerdlow, et al, Exp Neurol 153: 135-42,1998)およびAD(Swerdlow, et al, Exp Neurol 153: 135-42 1997)患者由来のミトコンドリア遺伝子は、ETC欠損を反復して、酸化ストレスの増加、多様な他の重要なミトコンドリアおよび細胞の機能不全を生じる。組織研究および散発性PDおよびADのcybridモデルからの証拠を組合せた評価により、酸素フリーラジカルを除去し、かつミトコンドリアで生じる細胞死からの細胞を保護し得る薬剤による酸化ストレスの除去が、これら疾患のための神経保護剤として開発される化合物の重要な特徴として考えられると示唆される(Beal, Exp Neurol 153: 135-42,2000)。
【0006】
酸化ストレスは、致命的な神経変性疾患筋萎縮性側索硬化症(ALS)にも関連する。また、ルー・ゲーリック(Lou Gehrig)病として知られるALSは、皮質、脳幹および脊髄のモーターニューロンに関連する進行性かつ重篤な神経変性疾患である。ALSは、随意筋に関する進行的な衰弱化を生じる上位および下位モーターニューロンの変性疾患であり、結果として死を伴う。通常、発病は、人生の40代もしくは50代であり、罹病した人は発病後2〜5年のうちに死亡する。ALSは、散発性および家族性の両方の形態で起こる。
【0007】
全ALS患者の約10%が家族性であり、その中の20%が、スーパーオキシドジムスターゼI(SOD1)遺伝子(正式には、Cu、Zn−SODとして知られる)における突然変異を持っており、そのことは、異常な作用をするCu、Zn−SOD酵素が、家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)の病因および進行における中枢的役割を担っている可能性があることを、示唆するものである。変異体SOD1による酸素フリーラジカル、特にヒドロキシルラジカルの発生の増加が、FALSにおけるモーターニューロンの死を導く連続的事象を生じる開始ファクターであると考えられる。この仮説は、変異体SOD1の神経の前駆体細胞のトランスフェクションが、ヒドロキシルラジカルの産生の増加およびアポトーシスによる細胞死の速度増加を発生させるという、最近の報告によって支持されている。さらに、本出願人は、酸化ストレスが、ALSなどの散発性形態におけるモーターニューロンの死に関与すると考える。
【0008】
最近の調査により、ALSと関連のある未熟神経死において誘因となりそうな事象は変異ミトコンドリア遺伝子(ミトコンドリアDNA、mtDNA)の存在であることが明らかになった。これらのmtDNA変異は、ミトコンドリア中のエネルギー産生経路の機能の異常を導き、「酸素フリーラジカル」と呼ばれる物質を含む「反応性酸素種」(ROS)として知られる、有害な(損傷を与える)酸素誘導体の過剰生成を生じる。ROS産生が、ROSを除去/不活性化する細胞メカニズムの能力を超える場合に、「酸化ストレス」として知られる状態が存在する。
【0009】
酸化ストレスは、多くの細胞成分を損傷する可能性がある。本発明者によりなされた仕事により、ADおよびPDの細胞モデルにおける酸化ストレスによって損傷した重要な細胞成分は、「ミトコンドリア膜透過性遷移孔複合体(mitochondrial transition pore complex)」)(MTPC)として知られる特別なミトコンドリアのタンパク質複合体であることを示している。MTPCの通常の活性は、ミトコンドリア膜内外の生体電位差(ΔΨ)の維持に重要であり、これは、次いで、エネルギー貯蔵化学物質、例えばATPのミトコンドリアの合成に使用される。ΔΨの損失はミトコンドリアにおける脱分極をもたらし、これは「プログラムされた細胞死」もしくは「アポトーシス」として知られるメカニズムにより細胞死を最終的に引き起こす生物化学的反応のカスケードを開始する。アポトーシスメカニズムは、ADおよびPDだけでなく、他のNDD、例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびハンチントン病でも観察されている。
【0010】
従って、これら多様な神経(組織)変性疾患を処置するための一つのストラテジーには、神経保護剤の投与が含まれる。このような衰弱化(debilitating)および致死的疾病に対する有効な神経保護剤は、これらの疾患の細胞培養および動物モデルにおいて有効なだけでなく、神経組織における治療レベルを達成するのに十分高い用量で長期的に耐容性がなければならない。また、理想的には、このような薬剤は細胞死経路の制御に関与する細胞成分を標的とし、疾患の病態生理を阻止するものでもある。
【0011】
本発明のある実施態様に従って、神経変性疾患、例えばALSを治療する方法を提供する。該方法は、当人の酸化ストレスを低下するに有効な量で、プラミペキソールを個人に投与する過程を含む。
【0012】
プラミペキソール(PPX,2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール)は、2つのステレオアイソマーとして存在する:
【化1】
S(−)エナンチオマーは、D2ファミリードーパミン受容体で強力なアゴニストであり、PD症候の取扱いにおいて広範に使用される。プラミペキソールの合成、処方および投与は、US特許番号4,843,086、4,886,812および5,112,842に記載されており、この開示内容を出典明示により本明細書の一部とする。S(−)PPXは、ドーパミンニューロンに対するMPTP毒性(US特許番号560,420および6,156,777を参照されたい。この開示物を、出典明示により本明細書の一部とする)を含む酸化ストレスの増加に関する細胞および動物モデルにおいて神経保護性であることがいくつかのグループによって示されてきた。S(−)PPXは、イン・ビトロおよびイン・ビボの両方でパーキンソン病細胞毒およびETC複合体I阻害剤メチルピリジニウム(MPP+)によって生成した酸化ストレスを低減し、MPP+および他の刺激因子(Cassarino, et al, 1998)によって誘導されるミトコンドリア膜透過性遷移孔(MTP)の開口を遮断し得る。PPXの脂肪親和性カチオン構造は、ΔΨMを通してのミトコンドリア中への濃縮が、その低い還元電位(320mV)との組合せにおいて、これらの望ましい神経保護特性の説明となり得る可能性を示唆する。
【0013】
S(−)PPXを用いる投与量は、その強いドーパミンアゴニスト特性により、ヒトにおいて限定され、達成し得る脳の薬物レベルを制限する。PPXのR(+)エナンチオマーは、ドーパミンアゴニスト活性(Schneider and Mierau, J Med Chem 30: 494-498,1987)をほとんど持たないが、S(−)PPXの望ましい分子的/抗酸化剤特性を保持することができるので、この化合物は、本明細書中で細胞死カスケードの活性化および神経変性疾患により生じる活力消失の有効な阻害剤としての有用性を持つものとして示唆される。
【発明の概要】
【0014】
発明の要旨
本発明は、広範な神経変性疾患に関連のある症候を防止および/または遅延、または緩和するための方法を提供する。より具体的には、本発明は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置するために、プラミペキソールを含む組成物、およびかかる組成物を用いる方法を指向する。
【0015】
図面の簡単な説明
図1Aは、MPP+で誘導されるシトクロームCの放出のタイムコースを示し、図1Bは、MPP+で誘導されるカスパーゼ3の活性化のタイムコースを示す。SH−SY5Y細胞を、時間を変えて5mM MPP+と共にインキュベートし、回収した。図1Aにおいて、細胞を等張スクロース中で均質化し、遠心分離にかけ、上清タンパク質(100μg)を、SDS−PAGEを用いる電気泳動に供し、ナイロン膜に移し、強い化学発光検出によりシトクロームCについて免疫染色をした。一番左側のバンド(x軸上の「0時間」を明示する)が、「0」時点のミトコンドリアのシトクロームCに対応し、その他のバンドは、シトクロームCについて免疫染色された電気泳動細胞質タンパク質を示す。MWマーカーの位置をy軸上に示す。他の細胞バッチを、製造業者の指示書に従って(Biomol)、市販システムを用いるカスパーゼ3についてアッセイした。図1Bに示されるカスパーゼアッセイは、3−4の独立した実験の結果である。
*p<0.05、0.25時間での活性との比較。
【0016】
図2は、PPX、ボンクレキン酸(bongkreckic acid)およびアリストロキア酸により、MPP+で誘導されるカスパーゼ3活性化の阻害を示すデータを表す。SH−SY5Y細胞を、5mM MPP+で24時間、1mM S(−)PPX、1mM R(+) PPX、250 μM ボンクレキン酸(BKA)または25μM アリストロキア酸(ARA)またはそれらの組合せ物の存在もしくは非存在下でインキュベートした。次いで、細胞をカスパーゼ3活性についてアッセイした。図2に示したものは、4−5の独立した実験に対する平均+/−SEMである。レーンA−Fは、下記化合物でインキュベートした細胞によるカスパーゼ3活性化を示す:A、対照(化合物を添加しない);B、MPP+;C、MPP+/BKA;D、MPP+/S(−)PPX;E、MPP+/R(+)PPX;F、MPP+/ARA。レーンBについて、p<0.05、対照との比較;レーンC−Fについて、p<0.05、MPP+処置した細胞(レーンB)との比較。
【0017】
図3は、PPX、ボンクレキン酸およびアリストロキア酸による、MPP+で誘導されるカスパーゼ9活性化の阻害を示すデータを表す。SH−SY5Y細胞を、5mM MPP+で4時間または8時間、1mM S(−)PPX、1mM R(+)PPX、250μM ボンクレキン酸(BKA)または25μM アリストロキア酸(ARA)の存在下もしくは非存在下でインキュベートした。次いで、細胞をカスパーゼ9活性についてアッセイした。図3に示したものは、3−4の独立した実験に対する平均+/−SEMである。レーンA−Iは、下記化合物とインキュベートした細胞によるカスパーゼ9の活性化を示す:A、対照(化合物を添加しない);B、15分間、MPP+;C、4時間、MPP+;D、4時間、MPP+/PPX;E、8時間、MPP+;F、8時間、MPP+/BKA;G、8時間、MPP+/S(−)PPX;H、8時間、MPP+/R(+)PPX;I、8時間、MPP+/ARA。レーンCおよびEについて、p<0.01、対照との比較;および/またはレーンF、G、HおよびIについて、p<0.05、対照との比較。
【0018】
図4Aと4B:PPXエナンチオマーによるMPP+で誘導される細胞死の阻害。SH−SY5Y細胞を、5mM MPP+で、24時間、濃度増加させたS(−)PPX(図4A)またはR(+)PPX(図.4B)の存在もしくは非存在下でインキュベートした。レーンA−Fは、0nM、3nM、30nM、300nM、3uM、30uMのPPXで各々処置した細胞を示す。次いで、該細胞を、カルセイン−AMとインキュベートし、洗浄し、蛍光プレートリーダー上で読み取った。独立した実験の数は、各バー上に示し、不含PPX(MPP+単独)との比較のためのt試験によるP値は、各バーの上部に示した。MPP+の存在下では、3nM R(+)PPXは、S(−)PPX(p=0.035)以上のカルセイン保持を引き起し、また3μM、S(−)PPXは、R(+)PPX(p=0.027)以上のカルセイン保持を引き起こす。
【0019】
図5は、アスピリン(1.3g)投与後、ALSおよび対照(CTL)患者における血清2,3-DHBAレベルの変化のタイムコースを図に示す。図5Aは、血清2,3-DHBA濃度における平均+/−SEMを示す;図5Bは、血清2,3-DHBA濃度対サリチレート濃度の比を示す;そして図5Cは、タイムコースに関する血清サリチレート濃度を示す。
【0020】
図6は、血清2,3-DHBA濃度に対するプラミペキソールの効果の図である。
図6Aは、プラミペキソール処置前および後の両方において、個々の患者におけるDHBA濃度を示す。患者2、3、7および12は歩行できなかった。患者3および7は、人工呼吸器に依存性であった。図6Bは、プラミペキソール処置前および後の2,3-DHBAの平均+/−SEM血清レベルを示す。図6Cは、プラミペキソール処置前および後の平均+/−SEM血清レベルの2,3-DHBA濃度/サリチレートを示す。
【0021】
図7.マウスに飲料水中R(+)PPXを投与し、次いで、脳および前脳に酸化ストレスを増加させる神経毒(N−メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン、MPTP)で処置し、2,3-DHBAレベルを測定した。
【0022】
本発明の詳細な説明
定義
本発明の明細書および請求の範囲において、下記用語は、下記に示した定義に従って使用される。
【0023】
本明細書で使用される用語「精製された」および類似語は、天然または自然環境においてその分子または化合物と通常関連のある混入物を実質的に含まない形態にある、分子または化合物の単離に関する。
【0024】
本明細書で使用される用語「処置」には、特異的異常または症状の予防、または特異的異常または症状に関連した症候の緩和および/または該症状の防止または除去が含まれる。
【0025】
本明細書で使用される「有効量」は、選択された効果を生じるに十分な量を意味する。例えば、それらのプラミペキソールまたは誘導体の有効量には、個々に存在する反応性酸素種の生成を阻害するか、該レベルを低下させる量を包含する。
【0026】
本明細書で使用される用語「ハロゲン」は、Cl、Br、FおよびIを意味する。特に、Cl、BrおよびFを包含するハロゲンが好まれる。本明細書で使用される用語「ハロアルキル」は、少なくとも1つのハロゲン置換基を持つC1−C4アルキル基、例えば、クロロメチル、フルオロエチルまたはトリフルオロメチルなどを指す。
【0027】
本明細書で使用される用語「C1-Cnアルキル」(ここでnは整数である)は、1個〜特定の炭素原子数を持つ分枝または直鎖アルキル基を示す。典型的に、C1−C6アルキル基には、メチル、エチル、n−プロピル、イソ-プロピル、ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシルおよび類似物が含まれるが、これに限定するものではない。
【0028】
本明細書で使用される用語「C2-Cnアルケニル」(ここでnは整数である)は、2個〜特定された炭素原子数および少なくとも1つの二重結合を有する、オレフィン不飽和の分枝または直鎖基を示す。かかる基の例には、1-プロペニル、2-プロペニル、1,3-ブタジエニル、1-ブテニル、ヘキセニル、ペンテニルおよび類似物が含まれるが、これに限定するものではない。
【0029】
用語「C2-Cnアルキニル」(ここでnは整数である)は、2個〜特定の炭素原子数および少なくとも1つの三重結合を持つ、不飽和分枝または直鎖基を指す。かかる基の例には、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、1-ペンチニルおよび類似物が含まれるが、これに限定するものではない。
【0030】
用語「C3-Cnシクロアルキル」(ここでnは8である)は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルを指す。
【0031】
本明細書で使用される用語「アリール」は、フェニル、ベンジル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、インデニルおよび類似物を包含する1個または2個の芳香環を持つ、単環または二環式炭素環式環系を指すが、これらに限定するものではない。用語「(C5-C8アルキル)アリール」は、アルキル基を介して親部分構造に結合する全てのアリール基を指す。
【0032】
用語「複素環式基」は、1〜3個のヘテロ原子(ヘテロ原子は、酸素、硫黄および窒素からなる群から選択される)を含有する単環または二環式炭素環式環系を指す。
【0033】
本明細書で使用される用語「ヘテロアリール」は、1〜3個のヘテロ原子を含有する1または2個の芳香環を持つ、単環または二環式炭素環式環系を指し、これに限定するものではないが、フリル、チエニル、ピリジルおよび類似物を包含する。
【0034】
用語「二環式」は、不飽和または飽和のいずれかの安定な7員〜12員架橋または縮合二環式炭素環を指す。該二環式環は、安定な構造を与える全ての炭素原子で結合し得る。該用語には、ナフチル、ジシクロヘキシル、ジシクロヘキセニルおよび類似物を含むが、これに限定するものではない。
【0035】
本発明に含まれる化合物は、分子中の1以上の不斉中心を有する化合物を含有する。本発明において、立体異性を表示していない化合物は、その全ての光学アイソマー、さらにそのラセミ混合物を含むものと解すべきである。
【0036】
本明細書で使用される用語「神経保護剤」は、神経変性の進行を防止または遅延させる、および/または神経細胞死を防止する薬剤を指す。
【0037】
本発明
本発明は、ALSを含む神経変性疾患を処置するためにテトラヒドロベンゾチアゾールの使用を指向する。より具体的には、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾールは、一般構造式:
【化2】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、独立して、H、Cl−C3アルキルおよびCl−C3アルケンからなる群から選択される)を持つ。ある好ましい実施態様において、NR3R4基は6位に存在する。別の実施態様において、R1、R2およびR4はHであり、R3はCl−C3アルキルであり、NR3R4基は6位に存在する。ある実施態様において、該化合物は、式Iの一般構造式(式中、R1およびR2は各々Hであり、R3およびR4はHまたはCl−C3アルキルである)を持つ。
【0038】
ある実施態様に従って、本発明は、ALSを処置する方法を指向する。該方法は、患者に、一般構造式:
【化3】
(式中、R1およびR2はHであり、R3およびR4はHまたはC1−C3アルキルである)を持つ化合物を投与することを含む。ある好ましい実施態様において、R1、R2およびR4はHであり、R3はプロピルである。別の態様において、該組成物は、プラミペキソールを含み、プラミペキソール成分は、主に、プラミペキソールの2つのステレオアイソマー(R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたはS(−)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールのいずれか)のうちの1つからなる。ある実施態様において、該組成物の活性な薬剤は、プラミペキソールのステレオアイソマー、R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールジヒドロクロリド、または他の薬理学的に許容し得る塩(実質的にそのS(−)エナンチオマーを含まない)からなる。ある実施態様において、組成物を提供するが、組成物中、プラミペキソール化合物の80%以上が、R(+)立体配座で存在し、より好ましくはプラミペキソール化合物の90%以上または95%以上が、R(+)立体配座で存在する。ある実施態様において、プラミペキソールを含む組成物を提供するが、組成物中、プラミペキソール化合物の99%以上は、R(+)立体配座で存在する。
【0039】
ある実施態様において、組成物を提供するが、該組成物は、本質的に、R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールジヒドロクロリドまたは薬理学的に許容し得るそれらの塩、および医薬的に許容し得る担体からなる活性な薬剤を含む。この組成物は、NDDにおける神経細胞損失を防止する(より具体的には、ALS患者の酸化ストレスを低下させる)ために長期的に経口投与し得るか、急性脳損傷における神経細胞損失の防止のために処方され、静脈投与され得る。
【0040】
本発明の組成物に関する神経保護効果は、3つのメカニズムのうちの少なくとも1つによって、少なくとも一部分は、神経細胞死を防止する活性な化合物の能力に由来する。第一に、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾールは、PDを擬態することが可能な神経毒で誘導されるROS(イン・ビボではラットの脳において、またイン・ビトロではミトコンドリアエネルギー産生が損なわれている細胞の両方で)の形成を低下し得る。この様式において、テトラヒドロベンゾチアゾールは、「フリーラジカルスカベンジャー」として機能する。第2に、テトラヒドロベンゾチアゾールは、ADおよびPDのミトコンドリアと関連する低下したΔΨを部分的に回復し得る。第3に、テトラヒドロベンゾチアゾールは、ADおよびPDミトコンドリアの損傷の薬理学的モデルによって生じるアポトーシス細胞死の経路を遮断し得る。
【0041】
ある実施態様に従って、ALS患者における酸化ストレスを低下させる方法を提供する。本発明の目的のための酸化ストレスにおいての低下は、患者に存在する活性酸素種のレベルのいかなる低下も包含し、例えば、サリチレートの2,3DHBAへの変換によって検出される血清ROSレベルの低下も包含することを意図するものである。該方法は、一般式:
【化4】
(式中、R1、R2およびR4はHであり、R3はCl−C3アルキルである)を持つ、テトラヒドロベンゾチアゾールの有効量を投与することを含む。ある実施態様において、テトラヒドロベンゾチアゾールは、R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたはS(−)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたはR(+)およびS(−)ステレオアイソマーのラセミ混合物である。ALS処置のために投与されるテトラヒドロベンゾチアゾールの量は、投与経路、さらに、年齢、体重、健康に関する一般状態、重症度、処置頻度、そして追加の医薬をその処置に加えるかどうかを含む、追加的ファクターに基づいて変化するものである。投与されるべき活性な化合物の用量は、当業者には既知の定法で容易に決定される。
【0042】
一方、本発明は、ミトコンドリアのエネルギー産生が損なわれている細胞のミトコンドリア膜内外の生体電位差(ΔΨ)を増強するための方法を提供する。該方法は、ミトコンドリアのエネルギー産生が損なわれている細胞を、プラミペキソール活性薬物および薬学的に許容し得る担体を含む組成物と接触させる過程を含む。ある実施態様において、プラミペキソール活性薬物は、本質的にR(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールステレオアイソマーおよび薬理学的に許容し得るその塩からなる。
【0043】
多数の中枢神経系疾患および症状は神経損傷を引き起こし、これらの各症状は、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾール組成物で処置され得る。神経損傷を起こし得る症状には下記が含まれる:原発性神経変性疾患;ハンチントン舞踏病;卒中および他の低酸素症または虚血状態;神経外傷;代謝性神経損傷;脳性発作後遺症; 出血性卒中;続発性神経変性疾患(代謝性または中毒性);パーキンソン病、アルツハイマー病、アルツハイマー型老人性痴呆(SDAT);加齢関連認知機能不全;または血管性痴呆、多発梗塞性痴呆、Lewy小体型痴呆または神経変性性痴呆。
【0044】
また、本発明はヒトに投与するのに安全である。PD症候の処置に対して承認された強いドーパミンアゴニストであるS(−)プラミペキソールは、R(+)プラミペキソールのエナンチオマーである。しかし、R(+)プラミペキソールは、薬理学的ドーパミン活性を欠いている。従って、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールおよび薬理学的に許容し得るそれらの塩は、S(−)プラミペキソールよりもかなり多くの用量を投与でき、神経保護を提供し得る脳のレベルを達成しうる。ある実施態様に従って、ALSは、R(+)またはS(−)プラミペキソールのいずれかを投与することによって処置されるが、しかしながら、S(−)よりかなり高い用量を与えることが可能であるため、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールの投与が好ましい。実施例1に記載したように、S(−)およびR(+)アイソマーは、酸化ストレスの低下においてはほぼ等力である。しかし、R(+)アイソマーの使用により、より高用量を投与することが可能となり、その結果、毒性酸素フリーラジカルのより大きな低下を達成する。従って、ある実施態様において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹った患者での神経細胞死を低下させる方法を提供し、その方法において、該患者は、一般構造式:
【化5】
の化合物を含む医薬組成物を投与される。
【0045】
プラミペキソールの合成は、欧州特許186 087およびその対応出願US特許番号4,886,812に記載され、出典明示により本明細書の一部とする。
【0046】
ある実施態様において、プラミペキソール、より好ましくはR(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールは、経口投与のための錠剤を得るための結合剤と、または連続送達のための経皮パッチ(「スキンパッチ」)を得るための当業者に既知の物質と混合される。あるいは、プラミペキソールは、非経腸的(すなわち、静脈内、筋肉内、皮下)投与され得る溶液を生成するのに必要な安定化剤と共に製剤化され得る。本発明の経口および/または経皮製剤は、NDD(すなわち、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症である)に罹った患者の神経細胞死を低下させるのに用いられる。本発明の非経腸製剤は、急性脳損傷(すなわち、卒中、くも膜下出血、低酸素性虚血性脳損傷、痙攣重積状態、外傷性脳損傷、低血糖脳損傷)を持つ患者における神経細胞死を低下させるのに使用される。
【0047】
NDDを処置するためのR(+)プラミペキソールの使用は、ドーパミンアゴニストのS(−)プラミペキソール(Mirapex,Pharmacia and Upjohn)に関する比較的不活性なステレオアイソマーであるために、ドーパミンアゴニストとしてのS(−)プラミペキソールの使用に関連する重要な問題を解決する。Mirapexの用量は、血圧および精神作用に対するドーパミン作用性の副作用により制限される。R(+)-2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールは、S(−)プラミペキソールの使用から起こる副作用を生じる効力が1%以下である。そのため、本発明は、一般的に、少量のドーパミンアゴニスト薬物療法でさえ不耐容であるAD患者に対して、より安全に投与され得る。また、本発明は、S(−)プラミペキソールよりかなり多くの用量で静脈投与され得る。すなわち、血圧の低下が有害であり得る卒中のような症状において安全に用いることができる。
【0048】
ある実施態様において、神経変性疾患を持つ患者を処置するための方法が提供される、と同時にドーパミン作用性の副作用のリスクを低下させる。該方法は、プラミペキソール活性薬物および医薬的に許容し得る担体を含む組成物を投与する過程を含み、ここで、プラミペキソール活性薬物は、本質的にR(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールステレオアイソマーおよび薬理学的に許容し得るその塩からなる。ある実施態様において、処置される神経変性疾患は、ALS、アルツハイマー病およびパーキンソン病からなる群から選択され、該組成物は、1日あたり約10mgから約500mgの用量で、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたは薬理学的に許容し得るその塩を投与される。
【0049】
使用される用量は、もちろん処置されるべき特定の異常によるが、加えて年齢、体重、健康の一般的状態、重症度、処置頻度、そして追加の医薬が該処置に加わるかどうかを含む追加的ファクターによる。個々の活性な化合物の量は、当業者には既知の定法によって容易に決定される。例えば、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾールは、10mg〜500mgの1日全用量で、NDDに罹ったヒトに経口的に投与され得る。あるいは、テトラヒドロベンゾチアゾールは、10mgから100mgの単回用量で、および/または10mg/日〜500mg/日の連続静脈点滴によって、急性脳損傷に罹ったヒトに非経腸投与され得る。
【0050】
ある好ましい態様において、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール(または薬理学的に許容し得るその塩)を、神経変性病疾患、例えばALSに罹った患者に投与して、該疾患を処置する。本明細書で使用される用語「処置する」には、特定の異常または症状と関連のある症候の緩和、および/または該症状の防止または除去を包含する。より具体的には、プラミペキソール活性薬物および医薬的に許容し得る担体を含む組成物は、患者に投与され、神経細胞死を防止、または実質的に低下させ、ここで、プラミペキソール活性薬物は、本質的に、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール(および薬理学的に許容し得るその塩)である、プラミペキソールのステレオアイソマーを含む。プラミペキソールの合成、製剤および投与は、US特許番号4,843,086;4,886,812;および5,112,842に記載されている;出典明示により本明細書の一部とする。
【0051】
個人組織中でのヒドロキシルラジカル生成は、サリチレートの2,3-ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)(Floyd et al.(1984) J. Biochem. Biophys. Methods 10:221-235; Hall et al. (1993) J.Neurochem. 60: 588-594)への変換において増加を生じる。すなわち、個人の血清中の2,3-DHBA蓄積は、その個人がこうむった酸化ストレスのレベルの指標として使用され得る。2,3-ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)血清レベルに対する、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールまたはS(-)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールの効果を調べた。図5および6に示したように、2,3-DHBAの個々の血清レベルは、S(-)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールによる処置後のALS患者において低下した。これらのデータは、プラミペキソールによる処置が、ALS患者においてイン・ビボでの酸化ストレスを低下することを示す。
【0052】
さらに、図7に示したように、追加の研究を、マウスに対して行い、イン・ビボでの酸化ストレスの低下におけるプラミペキソールの有効性を証明している。この研究において、マウスは、8週間、3つの異なる1日用量で、マウス飲料水中のR(+)PPXを投与され、次いで、脳中の酸化ストレスを増加させる神経毒(N−メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン、MPTP)が投与された。次いで、脳組織は、酸素フリーラジカル産生について分析した。該データは、30mg/kg/日および100mg/kg/日用量が、脳中のフリーラジカルレベルの顕著な低下を生じることを示す。
【0053】
また、毒性学的研究がなされ、有害な作用の証拠は検出されなかった。特に、8週間の毒性学研究を、マウスの飲料水中にR(+)PPXを与えたマウスで行った。マウスの主な臓器の全ては、病理学的に試験され、病変はみられなかった。これは、神経保護剤としてR(+)PPXの有効性の問題を提示しない一方で、その薬物を、非常に高用量で長期的にヒトに投与する際の潜在的な安全性(すなわち、実用性)を示している。
【0054】
本発明は、本発明のテトラヒドロベンゾチアゾール化合物を含む医薬組成物を指向する。より具体的には、テトラヒドロベンゾチアゾール化合物は、当業者には既知の標準的な医薬的に許容し得る担体、増量剤、可溶化剤および安定化剤を用いる医薬組成物として処方され得る。テトラヒドロベンゾチアゾールを含む医薬組成物は、以下に限定するものではないが、局所、経口、静脈内、筋内、動脈内、髄内、くも膜下腔内、心室内、経皮、皮下、腹膜内、鼻腔内、腸、局所、舌下または直腸手段を含む全ての経路によって、それを必要とする個人に投与される。
【0055】
本発明は、本発明の医薬組成物の1以上の成分で充填された1以上の容器を含む、医薬用パックまたはキットを提供する。ある実施態様に従って、キットは、ALS患者の処置用に提供される。この実施態様において、キットは、本発明の1以上のテトラヒドロベンゾチアゾールを含み、より具体的には、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールステレオアイソマーである。これらの医薬品は、多様な容器、例えば、バイアル、チューブ、マイクロタイターウェルプレート、ボトルおよび類似物につめられ得る。キットには、使用説明書も含まれるのが好ましい。
【実施例】
【0056】
実施例1
R(+)およびS(−)PPXは、細胞死カスケードの活性化に関する有効な阻害剤である
材料および方法
細胞培養
SH−SY5Yヒト神経芽(細胞)腫細胞を、American Tissue Culture Collection (www. atcc. org)から得、複製状態の培養物中で維持した。カスパーゼアッセイおよびシトクロームC放出研究のために、細胞を10%胎児ウシ血清、抗生物質/抗真菌剤(micotic)[ペニシリン(100 IU/ml)、ストレプトマイシン硫酸塩(100μg/ml)、アンフォテリシンB(0.25μg/ml)]およびウリジン(50μg/ml)およびピルビン酸塩(100μg/ml)を含有するDMEM/高グルコースを用いて、5%CO2雰囲気、37℃で、T75フラスコ内でほぼ最大コンフルエンス(2×107細胞/フラスコ)まで増殖させた。次いで、5mM メチルピリジニウムヨウ化物(MPP+;Sigma;www.sigma-aldrich.com)または100μM 25−35または35−25βアミロイドペプチド(Bachem;www.bachem.com)と共に、時間を変えて、インキュベートし、その後回収した。細胞死の研究のために、該細胞を、96ウェルの黒底プレートに播種し、24時間、DMEM培地で増殖させ、次いで毒素に暴露した。
【0057】
カスパーゼアッセイ
MPP+またはβアミロイドペプチドに暴露した後、細胞をPBS中に回収し、450xg、6分間、4℃で遠心分離した。細胞ペレットを、2x107細胞/100μlの分解緩衝液の濃度で、低張細胞分解用緩衝液[25mM HEPES、5mM MgCl2、5mM EDTA、1M DTTおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma Chemical)]に再懸濁した。分解物を、凍結および溶解の4サイクルに供した。次いで、細胞分解物を、16,000 xg、30分間、4℃で遠心分離にかけた。上清分画を回収し、タンパク質含量をLowryアッセイ(BioRad)により測定した。タンパク質(100μg)を用いて、96ウェルプレートでカスパーゼ活性を測定し、4回アッセイした。該活性を、アッセイ緩衝液および製造者によって提供されるプロトコール(Biomol, カスパーゼ3;Promega, カスパーゼ3および9)を用いて測定した。カスパーゼ活性は、染色(p−ニトロアニリン(p-NA),Biomol)または蛍光(アミノメチルクマリン(AMC), Promega)クロモゲンの遊離を生じる合成ペプチド基質の開裂に基づく。活性化したカスパーゼのみが、これらの基質を開裂でき、各アッセイキットで提供されるカスパーゼ阻害剤をアッセイに含む場合、クロモゲン生成を完全に阻害する。記載のアッセイ条件下、クロモゲン生成の線形速度が、2時間にわたって観察された。0時および37℃でのインキュベーション30分後に、クロモゲン吸光度(p-NA)をOpti Maxプレート・リーダー上で、またはクロモゲン蛍光(AMC)をSpectraMax Gemini プレート・リーダー上で測定し、カスパーゼ比活性を概算した。0時でのクロモゲンシグナルを30分時の測定値から引いた。
【0058】
細胞死
細胞死を、製造指示書に従って、96ウェル・プレートで増殖し、カルセインAMとインキュベートした細胞において、“Live-Dead”アッセイ(分子プローブ;www.molecularprobes.com)でカルセイン保持の減少を測定することによって概算した。カルセインシグナルを、SpectraMax Gemini adjustable fluorescent plate reader (Molecular Devices)でアッセイした。メタノールとプレインキュベートした細胞からのカルセイン蛍光をバックグラウンドとして、全ての測定値から引いた。各アッセイを、8ウェル/条件で行い、これを平均した。3−8回の独立した実験を行い、このパラダイムにおいて、広範囲な濃度のS(−)およびR(+)PPXを評価した。
【0059】
シトクロームCのウェスタンブロッド
シトクロームCを、100μgの細胞上清タンパク質のポリアクリルアミド電気泳動、ナイロン膜への転写後のウェスタンブロッドにより検出した。一次抗体は、Pharmingenから得たマウスモノクローナル抗シトクロームCであり、1:10000希釈で用いた。検出を、増強した化学ルミネセンス(Pierce)で行い、BioRad Fluors imaging station上で可視化した。
【0060】
薬物
R(+)およびS(−)PPX(Pharmacia Corporationからの供与)を、それらの二塩酸塩として得、培養培地に直接溶解した。アデニン・ヌクレオチド・トランスロケーターに対するATP結合部位のアンタゴニストであるボンクレキン酸は、1M NH4OH中の溶液として提供された。ホスホリパーゼA2阻害剤であるアリストロキア酸(ナトリウム塩)は、Sigma Chemical Co.から得た。カスパーゼ実験において、薬物を、MPP+またはβアミロイドペプチドの1時間前に添加した。カルセイン/細胞死実験において、薬物をMPP+の4時間前に添加した。
【0061】
結果
MPP+およびBA25-35によるカスパーゼ活性化
図1Bは、SH−SY5Y細胞と5mM MPP+とのインキュベーション中の、カスパーゼ3活性に関するタイムコースを示す。活性の増加が4時間まで検出でき、24時間までに約2倍増加していた。図1Aは、細胞質中に放出されたシトクロームCタンパク質に対するウェスタンブロッドの結果を示す。生物化学的活性曲線と同様に、細胞質シトクロームCは、4時間まで少量で検出可能で、12時間まで実質的に増加した。
【0062】
図2は、R(+)およびS(−)PPXエナンチオマーの両方が、MPP+暴露中、カスパーゼ3活性化を抑制することを示す。MPP+誘導によるカスパーゼ3活性の増加は、アデニン・ヌクレオチド・トランスロケーターの内部膜部位上のATP結合部位の特異的アンタゴニストであるボンクレキン酸により遮断された。ホスホリパーゼA2阻害剤であるアリストロキア酸は、以前、SH−SY5Y細胞のMPP+誘導されたアポトーシスを遮断することが示され(Fall and Bennett, 1998)、カスパーゼ3活性の増加を阻害することも示された。MPP+およびBA25-35ペプチドによるカスパーゼの活性化は、PPXエナンチオマーとミトコンドリアの遷移孔で活性な薬物により遮断された。S(−)PPXは、BA25-35ペプチドとのインキュベーション後のカスパーゼ3活性の増加を約70%まで低下させ、それ自身による抑制効果を示さなかった。また、MPP+暴露は、カスパーゼ3の活性化と同様に、時間経過とともにカスパーゼ9の活性を増加させた(図3参照)。カスパーゼ9の活性の増加は、S(−)およびR(+)PPX、ボンクレキン酸およびアリストロキア酸によっても遮断された。
【0063】
図4は、24時間、5mM MPP+に暴露する前に濃度を変化させたR(+)またはS(−)PPXと共にSH−SY5Y細胞をインキュベートした細胞のカルセイン保持に対する効果を示す。カルセインは、血漿膜の電位を維持する能力の機能として細胞内に保持される蛍光色素である。MPP+単独は、約60%までカルセインの取込みを低下させた。両方のPPXエナンチオマーは、実質的に30nMレベルでカルセインの取込みを回復させ、この保護効果は30μM PPXまで保持された。
【0064】
検討
この研究は、パーキンソン病およびアルツハイマー病の各々に有用な可能性のある神経保護作用の化合物を研究するための細胞培養モデルとして自己複製SH−SY5Y神経芽(細胞)腫細胞に添加した神経毒のMPP+および25-35βアミロイドペプチドの使用を対象としている。SH−SY5Y細胞は、新生物の神経外胚葉起源の分裂中の細胞で、一次ニューロンではない。それらは、Ras変異の結果としての有糸分裂であり、MAPK/ERKシグナリングの慢性的な活性化を導く。SH−SY5Y細胞は、一次ニューロンと比較すると、MPP+との短時間のインキュベーションでは、比較的非感受性である。我々は、1mMではなく、2.5および5mMのMPP+が、18-24時間以内でアポトーシス形態およびDNA核濃縮フラグメントを生成することを見出した。しかし、MPP+低濃度での長時間のインキュベーションは、動物でのPDのイン・ビボ MPTPモデルとより密接に近似しており、比較的低いMPP+レベルへの長時間の暴露は、ミトコンドリア細胞死カスケードを依然活性化し得ると報告されている。
【0065】
SH−SY5Y細胞はβアミロイドペプチドに感受性である。Liら(1996)は、血清飢餓のSH−SY5Yが、100μMのβアミロイド2S−3Sへの暴露3日後、広範なDNAニックエンドラベリングを示し、DNAラダリングにおける濃度依存の増加を示すことを見いだした。カスパーゼのβアミロイドペプチド誘導活性化は、SH−SY5Yでは説明されてきていなかったようであるが、いくつかの報告により、様々な一次神経系においてβアミロイドペプチドへの暴露によるカスパーゼ活性化が示された。これらは、小脳顆粒細胞において25-35アナログによるカスパーゼ-2、−3および−6、およびラット一次的皮膚ニューロンにおいてカスパーゼ−3の活性化が含まれる。従って、カスパーゼ3活性(DEVDアーゼ)は、100μM βアミロイド25-35に暴露したSH(−)SY5Yで観察されるが、リバース35-25配列に暴露した後にはカスパーゼ活性化が観察されなかったことは、驚くべきことではない。
【0066】
本実験の焦点は、PPXエナンチオマーが、カスパーゼの活性化を阻止できるのか、また急性の毒素暴露したADおよびPDの細胞培養モデルにおいて、細胞生存に関するマーカーとして、カルセイン保持を促進することが可能かどうかを決定することであった。「イニシエーター(開始者)」である「カスパーゼ9」および「エグゼクチオナー(執行者)」である「カスパーゼ3」の両方の活性化は、PDのためのMPP+モデルにおいて両方のPPXエナンチオマーによって遮断され、カスパーゼ3の活性化は、ADのためのBA25−3SモデルにおいてS(−)PPXによって遮断された。ナノモルレベルでの両PPXエナンチオマーは、PDのためのMPP+モデルにおいて細胞生存性を促進することができた。従って、本発明の発見は、PPXの神経保護作用を説明する増大しつつある研究成果に加え、神経変性疾患におけるこのファミリー化合物の臨床的有用性の可能性を示唆するものであった。
【0067】
この試験は、PPXの最も近い作用部位を試験しなかったが、いくつかの知見は、これらの細胞モデルにおけるミトコンドリア膜透過性遷移孔複合体(MTPC)を含んでいた。まず、選択的アデニン・ヌクレオチド・トランスロケーター・アンタゴニストおよびMTP開口の阻害剤であるボンクレキン酸は、カスパーゼ9および3の両方のMPP+で誘導される活性化を阻害した。これは、直接的かまたは酸化ストレスを包含するメカニズムを通じてかのいずれかの、MPP+がもたらすMTP開口と一致するであろう。単離された肝臓ミトコンドリアにおいて、MPP+は、フリーラジカルスカベンジャー酵素によって不完全に遮断され、S(−)PPXによってより完全に遮断されている、古典的なMTP開口をもたらし得る。神経毒性25-35BAペプチドはまた、単離したミトコンドリアにおいてMTP開口を刺激し得る。MPP+および2S-35BAペプチドの両方は、インビボでの脳ミクロ透析研究、およびイン・ビトロでの神経細胞培養において酸化ストレスを増加させ、一方、S(−)PPXは、イン・ビトロおよびイン・ビボでのMPP+で誘導される酸化ストレスを低下させることを示した。
【0068】
実施例2
ALSを処置するためのプラミペキソールの使用
酸化的異常性が、家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)と、より一般的な散発性ALS(SALS)との両方で同定された。2,3-DHBAは、ヒドロキシル化サリチレートの副産物であり、フリーラジカル活性増加の信頼性のあるイン・ビボマーカーであり、かつHPLCにより確実にアッセイされた。サリチレート負荷を経口投与後、2,3-ジヒドロキシ安息香酸(2,3-DHBA)およびDHBA/サリチレートの高い血清レベルを、SALS患者で観察した。本明細書中に記載のように、12人のSALS患者を試験し、プラミペキソール処置前および後の両方の2,3-DHBAレベルを測定した。
【0069】
方法
試験者の準備
本試験は2フェーズで行った。第1フェーズにおいて、Airlie House基準を満たす11人の明確なSALS患者と、7人の対照を試験した。これら試験者は、アスピリン負荷を受け、続く2,3-DHBA分析を行った。アスピリン (1.3g)を経口的に与えた後、血液を、2、3および4時間後に採血した。血清を、分離し、氷結させ、-80℃で貯蔵した。血清のアリコートをコード表示し、2,3-DHBAおよびサリチレートアッセイに対してブラインドとした。
【0070】
第2フェーズにおいて、SALSに確実に罹患した17人の患者を、臨床集団からランダムに選択した。その患者に、アスピリン(1.3g)を経口的に与え、血液を3時間後に採取した。これらのベースライン用の試料を取得後、SALS試験者は、プラミペキソール治療を開始した。用量漸増(増加)は、最終用量として1.5mg t.i.d.−q.i.d.に達するようにしたPD患者と同様に行い、その後7週間タイトレーションを行った。各被験者が、各被験者の最も高いプラミペキソール用量で3週間続けた後、アスピリン負荷試験をもう一度行った。元々の17人のSALS患者のうち12人は、プラミペキソール漸増フェーズを完了できた。2人を除くこれらすべての者は、6mg/日のプラミペキソール用量を達することができ、全ての患者は少なくとも3mg/日の用量を得た。次いで、各試験者に、プラミペキソール処置を続ける機会を与えた。
【0071】
検体調製
血清の調製:4℃で血清(0.9ml)を、1M 過塩素酸(0.2ml)と混合し、冷蔵遠心分離器中で、10分間、15000rpmで遠心分離した。
【0072】
2,3-DHBAアッセイ:上清(20μL)を、C18の「カテコールアミン」Adsorbosphere column (Alltech)上に2回重層し、アセトニトリル(125ml/L)、ヘプタンスルホン酸ナトリウム(1.5gm/L)、トリエチルアミン(3ml/L)、Na2EDTA(100 mg/L)を含み、リン酸で2.8に調整した最終pHの緩衝液を用いて、0.6ml/minで流した。検出には、CouloChem II フロー・スルー・エレクトロケミカル検出器(ESA, with the following settings: guard cell=+600 mV;E1=-100 mV; E2=+400mV)を利用した。2,3-DHBAを、この条件下で10-10.5分で溶出した。
【0073】
サリチレートアッセイ:血清(50μL)を、C8Kromosil HPLC column (Alltech)上に2回重層し、70%メタノール/30%水/0.5%トリフルオロ酢酸により0.8-1.0ml/minで流した。サリチレートをこれらの条件下で6-7分間で溶出し、315nMでUV吸収により検出した。
【0074】
結果
図5Aは、11人のSALS(59.2±12.3yr)および第1フェーズで試験した年齢をマッチさせた7人の対照患者(56.7±10.7yr)において、2,3-DHBA血清レベルでの増加に関するタイムコースを示す。SALS患者は、この疾患の急性および慢性的段階の両方を示す症候開始の10〜156ヶ月の範囲で投薬した。2,3-DHBAの最高レベルを、アスピリン投与3時間後のSALS患者で見いだし、この時点を試験の第2フェーズとして選択した。さらに、SALSおよび対照群を時間に対して比較した場合、2ウェイANOVAは2,3-DHBAの産生における差違を明らかにした。この差違は、2集団に対してp=0.033レベルで有意であった;post-hoc試験(Tukey test)は、各時点で全く有意差はなかった。
【0075】
追加比較として、2,3-DHBA/サリチレートの割合を、2群について時間に対して比較した。ALS群は、アスピリン投与後3時間で2,3-DHBA産生のこの標準的マーカーにおいて、約1.5倍の増加を示した。2ウェイANOVAは、p=0.06レベルで有意差を示した(図5B)。血清サリチレートレベルは、ALSとCTL集団との間に時間に対して有意差はなかった(図5C)。この試験の第2フェーズに入れた元々の17人の患者のうち、5人は疾患の合併症または薬物療法に耐えられないために省いた。残りの試験者は、8人の男性および4人の女性からなる。平均年齢は63.2歳であった。プラミペキソール治療は、これらALS患者に十分耐えられた。これら試験者は、臨床的痴呆の症候を全く示さず、また、明白な心血管症状の不安定性を持たなかった。
【0076】
この試験に登録された患者は、疾患進行の様々な臨床試験段階を提示した。4人の試験者は歩行できず、そのうちの2人は人工呼吸器に依存していた。残りの8人は、試験開始時は歩行できた。試験に入ってから最終の血液採取までは、49-105日の範囲で平均時間76.6日であった。
【0077】
2,3-DHBAの血清レベルを、プラミペキソール処置前および後で比較した。例外なく、2,3-DHBAの個々の血清レベルが低下した(図6A)。図6Bは、ALS患者において、安定なプラミペキソール用量を達成する前および後の血清2,3-DHBA濃度に対する平均+/−SEMを示す。平均の低下は、約45%であって、p=0.015レベルで有意であった。血清サリチレートレベル(μM)は、プラミペキソール処置前(18.8+/−7.2,S.D.)および処置中(20.2+/−5.5, S.D.)の両方で変化しなかった。図6Cは、各患者についてのサリチレートレベルを標準化した2,3-DHBAの血清レベルが、プラミペキソール処置により平均59%低下することを示した;t−試験により、この差違はp=0.010レベルで有意であることを示した。
【0078】
検討
この試験は、2,3-DHBA産生の増加に基づいた、経口アスピリン負荷後のALS患者で、イン・ビボでの酸化ストレスの約2倍の増加が観察されることを明らかにした。2,3-DHBAの増加が臨床的疾患進行に関する様々な段階で観察され、この代謝物は、この疾患過程にわたって、特に初期ステージでの診断が不確実である場合に、高酸化ストレスの信頼性のあるマーカーとして役立つことを示唆するものである。小さな集団サイズのため、疾患段階と2,3-DHBA産生のレベルとの相関関係を算定する試験は行わなかった。
【0079】
本試験は、パーキンソン病において一般的に耐性のある用量でのプラミペキソール治療は、ALS患者におけるイン・ビボ酸化ストレスを低下させることが明らかとなった。プラミペキソールの最高耐性用量を達成する前および数週間後の12人の患者からの血清は、2,3-DHBAベースラインの約45%およびサリチレートレベルに対して正常化した2,3-DHBAベースラインの約59%の低下を明らかにした。プラミペキソールは、そのフリーラジカルの除去/抗酸化剤特性の結果としてROS産生におけるこの低下をもたらす傾向がある。プラミペキソールは、メチルピリジニウムによる複合体I阻害に急性的に暴露させた、イン・ビトロでのSY5Y神経芽(細胞)腫細胞およびイン・ビボでのラット線上体の両方において、ROS産生を低下し得ることを示した(Cassarino et al., J. Neurochem 1998; 71:295-301)。また、プラミペキソールは、神経毒6-ヒドロキシドーパミンの点滴後のイン・ビボでの脳ROS産生を低下させ(Ferger et al., Brain Res 2000;883:216-23)、シトクロームC放出を阻害し、前−神経毒のMPTP[16]による処理後のイン・ビボでの脳脂質酸化を低下させた。
【0080】
ほぼ等しいプラミペキソールの神経保護作用が、R(+)およびS(−)エナンチオンマーにおいて観察されることから、ドーパミンアゴニスト作用が主にS(−)エナンチオマーに存在するので、ROSスカベンジャー作用は、ドーパミンアゴニスト特性には関係がないようである。これが事実であれば、プラミペキソールのR(+)エナンチオマーは、イン・ビボでの抗酸化活性に対する可能性を持ち、本試験で用いられるS(−)エナンチオマーよりもかなり高い用量にも耐性があるはずである。
【0081】
酸化ストレッサーは、散発性ALSにおいて十分に確立されているが、しかし、増加した酸化ストレスの原因論は曖昧なままである。ALSにおけるCNS酸化ストレス損傷のマーカーには、脂質過酸化生成物についての腰部脊髄における免疫組織化学染色の増加、およびニトロチロシンおよびニトロシル化マンガンスーパーオキシドジスムターゼの髄液レベルの増加が含まれる。これらの結果は、一酸化窒素誘導体を包含するROSによるALS組織への損傷増加と一致する。
【0082】
ALSの動物および細胞モデルもまた、酸化ストレスおよびモーターニューロンの脆弱性についての洞察を提供する。ALS脊髄モーターニューロンは、シトクロームCオキシダーゼの活性を低下させ(組織化学的に考察した)、このように低下した電子伝達系機能は、酸素のフリーラジカル生成を増加させるように働き得る。変異ヒトSOD1FALS遺伝子を担持するマウスの脊髄ミクロ透析は、ROSの生成増加およびマロンジアルデヒドのレベルを明らかにし、そのコンセプトとも一致する。さらに、CuZn−SOD FALS変異は、興奮毒性により死に導く脊髄モーターニューロンの脆弱性を増加させ、関与する該メカニズムが酸化ストレス増加させることが報告されている。最終的に、ALSで増加した酸化ストレスは、ALS脊髄で観察されるアポトーシスの細胞死過程のマーカー増加に関与し、FALSマウスモデルでのモーターニューロンの死におけるカスパーゼの関連性の原因である。
【0083】
ミトコンドリアの病理は、実験用モーターニューロン疾患の初期の経過で生じる。これらの構造は、酸化的損傷に対して感受性であるだけでなく、その機能不全は、加速されたフリーラジカル産生を導き、ミトコンドリアDNAへの起こりうる損傷を導く。ALS筋肉生検におけるミトコンドリア機能の視覚化により、複合体Iの低い活性を明らかにし、ALS前角細胞樹状体の超構造分析により凝集した暗いミトコンドリアが明らかとなった。ALSにおいて、変性した前角細胞周辺のグリア刺激アミノ酸トランスポーター−2(EAAT2)の選択的な損失は、増加した興奮毒性を与え得るさらなるタンパク質損傷を反映し得る。
【0084】
そのため、ALSにおける酸化的損傷は、原発性神経変性過程、モーターニューロンミトコンドリア病理学の続発性付帯徴候または両方の組合せを示す。SALSミトコンドリア遺伝子の増幅に関するCybrid研究は、SALSにおける酸化ストレスの増加が、原発性ミトコンドリア遺伝学的原因論の点から、理解し得ることを示す。どのようなミトコンドリアのDNAがSALSにおいて欠陥となるかは知られていない;母方から受継いだメカニズムと散発的に獲得したメカニズムの両方がありうる。
【0085】
サリチレート負荷の使用および相対的なイン・ビボ酸化ストレスレベルの概算値としての2,3-DHBA測定を、成人性糖尿病、アルコール依存症における肝不全および関節炎に適用した。ヒドロキシルラジカルおよびペルオキシ亜硝酸アニオンを含む多くの酸化種は、2,3-DHBAの生成に寄与し得る。従って、観察された2,3-DHBAレベルについて、特定のROS源を指定することはし得ないし、また増加したサリチレートヒドロキシル化の組織源を限定することもできない。
【0086】
要するに、酸化ストレスのマーカーである2,3-DHBAの血清レベルベースラインは、SALS患者のコホートでは増加することが明らかとなり、このレベルはプラミペキソールによる処置後に低下した。図6に示したように、2,3-DHBAの個々の血清レベルは、S(−)2−アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールによる処置後のALS患者で低下した。特に、患者に、1日用量のS(-)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾール(3〜6mg)を、7週間、経口投与した。7週間の最後に血清試料を採取し、2,3-DHBA濃度を測定し、処置前に採取した血清試料における2,3DHBAレベルと比較した。これらのデータは、プラミペキソールによる処置が、ALS患者におけるイン・ビボでの酸化ストレスを低下させることを示した。
【0087】
実施例3
イン・ビボでのMptp誘導された酸化ストレスを低下させるプラミペキソールの効果
方法
オスC57BL/6マウスに、8週間、毎日0、10、30または100mg/kg/dayを与えるために計算した用量で飲料水中R(+)プラミペキソールジヒドロクロリドを与えた。試験日に、マウスを神経毒N−メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)の30mg/kg s.c.を用いて注射し、脳中の酸化ストレスを増加させた。1時間後、マウスにサリチル酸ナトリウム(100mg/kg i.p.)を注射した。サリチレート注射1時間後、マウスを屠殺し、前脳を2,3-ジヒドロキシ安息香酸 (2,3-DHBA)含量について分析した。
【0088】
図7に示したように、該結果は、R(+)プラミペキソールによる30および100mg/kg/day処置が、MPTPによって生成した前脳の酸化ストレスを有意に低下させた。毒性学試験も行い、副作用の症候を検出しなかった。特に、8週間の毒性学試験を、その飲料水中のR(+)PPXを与えたマウスで行った。彼らの全主要臓器を病理学的に試験し、病変は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1A】図1Aは、MPP+で誘導されるシトクロームCの放出のタイムコースを示す。
【図1B】図1Bは、MPP+で誘導されるカスパーゼ3の活性化のタイムコースを示す。
【図2】図2は、PPX、ボンクレキン酸およびアリストロキア酸により、MPP+で誘導されるカスパーゼ3活性化の阻害を示すデータを表す。
【図3】図3は、PPX、ボンクレキン酸およびアリストロキア酸による、MPP+で誘導されるカスパーゼ9活性化の阻害を示すデータを表す。
【図4A】図4Aは、PPXエナンチオマーによるMPP+で誘導される細胞死の阻害を示す。
【図4B】図4Bは、PPXエナンチオマーによるMPP+で誘導される細胞死の阻害を示す。
【図5】図5は、アスピリン(1.3g)投与後、ALSおよび対照(CTL)患者における血清2,3-DHBAレベルの変化のタイムコースを示す。
【図6A】図6は、血清2,3-DHBA濃度に対するプラミペキソールの効果の図である。図6Aは、プラミペキソール処置前および後の両方において、個々の患者におけるDHBA濃度を示す。
【図6B】図6は、血清2,3-DHBA濃度に対するプラミペキソールの効果の図である。図6Bは、プラミペキソール処置前および後の2,3-DHBAの平均+/−SEM血清レベルを示す。
【図6C】図6は、血清2,3-DHBA濃度に対するプラミペキソールの効果の図である。図6Cは、プラミペキソール処置前および後の平均+/−SEM血清レベルの2,3-DHBA濃度/サリチレートを示す。
【図7】図7は、マウスに、R(+)PPXに投与し、次いで、脳および前脳に酸化ストレスを増加させる神経毒(N−メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン、MPTP)で処置した2,3-DHBAレベルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ALS患者の処置方法であって、該患者に
一般構造式:
【化1】
[式中、R1、R2、R3およびR4は、独立して、HおよびC1−C3アルキルからなる群から選択される]
を有するテトラヒドロベンゾチアゾールを含む組成物を投与する過程を含む方法。
【請求項2】
R1、R2およびR4はHであり、R3はCl−C3アルキルである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該テトラヒドロベンゾチアゾールがプラミペキソールである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
該組成物においてプラミペキソールの90%以上が、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールである、請求項3記載の該方法。
【請求項5】
ミトコンドリアのエネルギー産生が損なわれている細胞のミトコンドリア膜内外の生体電位差(ΔΨ)を増強するための方法であって、該細胞を
一般構造式:
【化2】
[式中、R1、R2、R3およびR4は、独立して、HおよびCl−C3アルキルからなる群から選択される]
を有するテトラヒドロベンゾチアゾールを含む組成物と接触させる過程を含む方法。
【請求項6】
該テトラヒドロベンチアゾールがプラミペキソールである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
プラミペキソール化合物の90%以上が、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ALS患者における酸化ストレスを低減する方法であって、該患者に、
一般構造式:
【化3】
[式中、R1、R2およびR3がHであり、R4がC1−C3アルキルである]
を有するテトラヒドロベンゾチアゾールを含む組成物を投与する過程を含む方法。
【請求項9】
該テトラヒドロベンゾチアゾールがプラミペキソールである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該プラミペキソールが、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールである、請求項9記載の方法。
【請求項1】
ALS患者の処置方法であって、該患者に
一般構造式:
【化1】
[式中、R1、R2、R3およびR4は、独立して、HおよびC1−C3アルキルからなる群から選択される]
を有するテトラヒドロベンゾチアゾールを含む組成物を投与する過程を含む方法。
【請求項2】
R1、R2およびR4はHであり、R3はCl−C3アルキルである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該テトラヒドロベンゾチアゾールがプラミペキソールである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
該組成物においてプラミペキソールの90%以上が、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールである、請求項3記載の該方法。
【請求項5】
ミトコンドリアのエネルギー産生が損なわれている細胞のミトコンドリア膜内外の生体電位差(ΔΨ)を増強するための方法であって、該細胞を
一般構造式:
【化2】
[式中、R1、R2、R3およびR4は、独立して、HおよびCl−C3アルキルからなる群から選択される]
を有するテトラヒドロベンゾチアゾールを含む組成物と接触させる過程を含む方法。
【請求項6】
該テトラヒドロベンチアゾールがプラミペキソールである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
プラミペキソール化合物の90%以上が、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ALS患者における酸化ストレスを低減する方法であって、該患者に、
一般構造式:
【化3】
[式中、R1、R2およびR3がHであり、R4がC1−C3アルキルである]
を有するテトラヒドロベンゾチアゾールを含む組成物を投与する過程を含む方法。
【請求項9】
該テトラヒドロベンゾチアゾールがプラミペキソールである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該プラミペキソールが、R(+)2-アミノ-4,5,6,7-テトラヒドロ-6-プロピルアミノベンゾチアゾールである、請求項9記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【公開番号】特開2010−31059(P2010−31059A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260955(P2009−260955)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【分割の表示】特願2003−550756(P2003−550756)の分割
【原出願日】平成14年12月2日(2002.12.2)
【出願人】(501149684)ユニバーシティ オブ バージニア パテント ファウンデーション (35)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【分割の表示】特願2003−550756(P2003−550756)の分割
【原出願日】平成14年12月2日(2002.12.2)
【出願人】(501149684)ユニバーシティ オブ バージニア パテント ファウンデーション (35)
【Fターム(参考)】
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