説明

筐体構造

【課題】前面と背面に開放部を備えた筐体において、既存の筐体構造に対して大幅な改造を加えることなく、本来脆弱な構造を有する筐体を十分に補強することが可能な筐体構造を提供する。
【解決手段】少なくとも前面と背面に開放部3、4を備えた筐体本体2と、筐体本体の前面開放部を開閉する前扉10と、筐体本体の背面開放部に着脱自在に固定される後パネル20と、を備えた筐体構造であって、筐体本体の背面開放部の対向する2つの端縁に差し渡されて両端部を固定された補強部材30を備え、補強部材に対して後パネルを着脱自在に固定することにより背面開放部に対して該後パネルを固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動券売機等の自動販売機、情報端末装置等を構成する筐体構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動券売機等の自動販売機、金銭払出装置、情報端末装置等の各種装置類は、金属製の筐体内に機械部品、電気部品、電子部品等を収容した構成を備えている。
これらの装置類にあっては、筐体内部の各構成要素に対するメンテナンスや、筐体内へ券類、物品、金銭等を出入れするために、筐体の前面、背面、その他の部位に開放部を設けておき、この開放部を扉によって開閉するように構成されている。筐体の前面には操作部、表示部等を備えた前扉を開閉自在に支持するのが一般的である。
また、筐体の背面開放部を開放することによってメンテナンスを行う機種を製作する場合には、背面開放部に後扉を開閉自在に軸支するか、或いは後パネルを筐体に対してネジなどによって着脱自在に取り付けるのが一般的である。
【0003】
図3は従来の筐体構造の一例を示す分解斜視図であり、この筐体構造101は例えば券売機に利用されるものであり、この筐体構造101は、少なくとも前面と背面に夫々開放部103、104を備えた筐体本体102と、筐体本体102の前面開放部103を開閉するように軸支された前扉110と、筐体本体102の背面開放部104に着脱自在に固定される後パネル120と、を備えている。更に、筐体本体102の背面開放部104の対向する2つの端縁104a、104a、及び上辺104bには夫々断面L字状のアングル部材105を固定し、このアングル部材105に対して後パネル120をネジ止め固定していた。
【0004】
しかし、このように前面及び背面に開放部を有した筐体本体102は、前扉110、及び後扉120を取り外した状態では単なる筒状の金属箱体であり、機械的強度が著しく低いため、筐体本体内に重量物であるユニット等を組み込む際に筐体本体が歪み、変形を起こすという問題があった。
更に、特許文献1にはスキー場等に設置されるリフト利用カード販売機において、筐体の前面を開閉する販売操作部を備えた外扉の他に、筐体の背面開放部を開閉する内側(屋内側)のメンテナンス扉を配置することによって屋内側からメンテナンス等を実施することができるようにした構成が開示されている。
しかし、この従来例においても筐体の強度が十分でなく、重量物を支持した場合にはその荷重によって変形を起こすという問題がある。
【0005】
これに対して筐体の強度を高めるために、筐体の適所に熔接補強部材を追加したり、前扉、後扉、或いは後パネルに補強構造を追加する対策が採られるが、十分な補強効果を得ることはできない。また、筐体構造材の板厚を増したり、基本的な構造形状そのものを変更する対策も考えられるが、設計変更要素の増大をもたらして設計作業におけるロスが大きくなるため、このような対策は回避される傾向にある。
【特許文献1】特開平8−315235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように従来の機械装置、電気装置、電子装置等の筐体構造において、操作者が位置する筐体前面側に前扉を開閉自在に軸支すると共に、背面開放部に後扉を開閉自在に軸支したり、或いは背面開放部に後パネルを固定する場合には、筐体自体の機械的強度が十分でないため、重量物を内部に組み込んだ場合に重量物からの荷重により筐体が変形するという問題があった。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、前面と背面に開放部を備えた筐体において、既存の筐体構造に対して大幅な改造を加えることなく、本来脆弱な構造を有する筐体を十分に補強することが可能な筐体構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、少なくとも前面と背面に開放部を備えた筐体本体と、該筐体本体の前面開放部を開閉する前扉と、該筐体本体の背面開放部に着脱自在に固定される後パネルと、を備えた筐体構造であって、前記筐体本体の背面開放部の対向する2つの端縁に差し渡されて両端部を固定された補強部材を備え、前記補強部材に対して前記後パネルを着脱自在に固定することにより前記背面開放部に対して該後パネルを固定したことを特徴とする。
補強部材は背面開放部の対向する2つの端縁に跨って固定されることによって筐体本体の機械的強度を高める補強性能を発揮する一方で、補強部材間に形成される隙間を利用して筐体本体内部のユニットや部品に対するメンテナンスを行うことが可能となっている。
【0009】
しかも、従来の筐体構造において後パネルを固定するために用いていたアングル部材の取付け手数と同等の簡易な作業によって取り付けが可能な補強部材によって筐体の補強を実現するばかりでなく、この補強部材に後パネルを固定する機能をも併有させたものである。
補強部材を差し渡す方向は、水平方向、上下方向、斜め方向等々任意に選択可能である。補強部材に対して後パネルを着脱するように構成されているため、メンテナンス時には後パネルを取り外せばよい。後パネルはネジ止めなどによって着脱できるため、取付作業、取外し作業ともに容易である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、前記後パネルを前記補強部材から離脱させた状態では、前記背面開放部の前記補強部材が位置しない範囲に前記筐体本体内部と連通する隙間が形成されていることを特徴とする。
補強部材間、或いは補強部材と背面開放部端縁との間に形成される隙間から内部ユニット、部品等にアクセスしてメンテナンスを実施することができる。
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記補強部材は、板材から成る部材本体と、該部材本体の長手方向両端部を屈曲させた固定片と、から成ることを特徴とする。
補強部材自体の構成は極めてシンプルであり、補強部材を増設することにより増大するコストは僅かである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1、2又は3において、前記部材本体に開口部、或いは切欠き部を設けたことを特徴とする。
補強部材による筐体本体に対する補強性能を維持しながらも、補強部材に設けた開口部や切欠きを利用して内部ユニット、部品類のメンテナンスを容易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、筐体本体の背面開放部の対向する2つの端縁に差し渡されて両端部を固定された補強部材に対して後パネルを着脱自在に固定することにより背面開放部に対して該後パネルを固定する補強構造としたので、前面と背面に開放部を備えた筐体において、既存の筐体構造に対して大幅な改造を加えることなく、本来脆弱な構造を有する筐体を十分に補強することができる。更に、補強部材間、或いは補強部材と背面開放部の端縁との間に形成される隙間を利用して筐体本体内部のユニット、部品に対するメンテナンス作業を容易に行うことができる。また、補強部材に設けた開口部や切欠き部を利用してユニット等に対するメンテナンスを行うことを可能としながらも、補強部材の補強機能を十分に維持することが可能となる。
【0013】
本発明では、従来の筐体構造において後パネルを固定するために背面開放部の端縁に取り付けていたアングル部材の取付け手数と同等の簡易な作業によって取り付けが可能な補強部材によって筐体の補強を実現するばかりでなく、この補強部材に後パネルを固定する機能をも併有させることができる。従って、従来の後パネル取付け工程と同等の取付手数によって、筐体の補強と後パネルの取付け機能を同時に実現するようにしたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る筐体構造の構成(後パネルの閉止固定構造)を示す分解斜視図であり、この筐体構造1は、前面と背面に夫々開放部3、4を備えた筐体本体2と、筐体本体2の前面開放部3に対して軸支部10aによって開閉自在に軸支された前扉10と、筐体本体の背面開放部4に対して着脱自在に固定される後パネル20と、を概略備えている。
【0015】
この筐体構造1は例えば券売機に利用されるものであり、前扉10の前面には図示しない操作スイッチ、表示部、金銭投入口、金銭払出口等が設けられる。筐体本体2の内部に配置される各種部品、ユニットについては図示を省略する。
この筐体構造1の特徴的な構成は、少なくとも前面と背面に開放部3、4を備えた筐体本体2と、筐体本体2の前面開放部3を開閉するように軸支された前扉10と、筐体本体2の背面開放部4に対してネジ等によって着脱自在に固定される後パネル20と、を備えた筐体構造において、筐体本体2の背面開放部4の対向する2つの端縁4a、4a間に差し渡されて両端部31をネジ、溶接等によって固定された補強部材30を備えた構成にある。この補強部材30に対して後パネル20をネジ等の固定手段を用いて着脱自在に固定することにより背面開放部4に対して後パネル20を固定している。
【0016】
後パネル20を補強部材30から離脱させた状態では、背面開放部4の補強部材が位置しない範囲には筐体本体内部と連通する隙間Sが形成されている。このように補強部材間、或いは補強部材と背面開放部端縁との間に形成される隙間Sから内部ユニット、部品等にアクセスしてメンテナンスを実施することができるように隙間の位置関係、サイズを設定する。
補強部材30は板金製であり、帯状の板材から成る部材本体32と、部材本体32の長手方向両端部を屈曲させることにより形成した固定片33と、から成る。補強部材30の部材本体32の適所にはネジ穴32aを設け、後パネル20側に設けた対応するネジ穴20aとの間をネジ25により着脱自在に締結する。
【0017】
この例では、幅の異なる二個の補強部材30を所定の間隔をおいて平行に配置したが、使用する補強部材30の幅寸法、個数、配置間隔、配置位置等は、筐体本体2のサイズ、用途、内部ユニットの配置、メンテナンスの必要の有無、メンテナンス頻度等々の各種条件に応じて種々選定可能である。筐体本体2の強度アップを考慮する場合には、背面開放部4内にできるだけ隙間が形成されないように補強部材30を配置することが好ましい。一方、頻繁にメンテナンスを必要とするユニットや部品については、補強部材間の隙間Sの内側に配置することにより、後パネル20を取り外した状態で作業者が隙間からユニット等を着脱したり、隙間から治具や手を差し入れてメンテナンスを容易に実施できるように配慮する。このような二つの異なった要請を同時に満たすために、筐体のサイズ等々の各種条件を考慮しながら最適の幅を有した補強部材を最適の個数だけ、最適の隙間Sを隔てて固定する。
【0018】
図3に示した従来例において使用されているアングル部材に比べて本発明の補強部材は背面開放部4の横幅全長に亘って差し渡されている点において筐体本体を補強する効果が格段に高くなる。しかも、従来のアングル部材を筐体の背面開放部の周縁部にネジ止め固定するのと同程度の手数によって、補強部材30を背面開放部の周縁部間に差し渡し状態で固定することが可能となる。更に、本発明の補強部材は、筐体本体の補強機能のみならず、後パネルの取付け具としての機能をも併有している点が特徴的である。
【0019】
なお、補強部材30を筐体本体の対向する端縁間に差し渡す方向は、図1のように必ずしも水平方向である必要はない。垂直方向、斜め方向等々、水平方向以外の任意の方向であっても十分な補強機能を発揮できるのであれば、差し渡し方向に制限はない。また、水平に差し渡した補強部材と交差するように垂直、或いは斜め方向に他の補強部材を差し渡しても良い。複数の補強部材を交差させる場合には例えば筋交いのように対角線に沿って交差させるように構成してもよい。
このように背面開放部の周縁部間に差し渡された補強部材30の板状の部材本体32に対して後パネル20をネジ等によって着脱自在に固定することにより筐体本体の強度を格段に高めることが可能となる一方で、メンテナンス時には後パネル20を取り外すことにより補強部材間の隙間を利用してメンテナンス作業を実施することができる。
【0020】
次に、図2(a)(b)及び(c)は補強部材の変形例を示す図である。
図2(a)に示した補強部材30は、板状の部材本体32の両端部31に固定片33を屈曲形成した点では図1の補強部材の構成と同等であるが、部材本体32の上下両端縁にも前方へ屈曲した補強片34を設けた構成が異なっている。このように補強片34を付加することにより、補強片34により図示しないユニットの一部を支持することが可能となる。また、補強片34を筐体本体2の天板5、或いは底板6に添設、或いは固定することによって筐体本体の強度アップを図ることが可能となる。
【0021】
次に図2(b)に示した補強部材30は板状の部材本体32の適所に開口部35を形成したものであり、筐体本体の強度アップのために背面開放部4に補強部材30を固定配置した場合に、補強部材が障害となって内部のユニットや部品類のメンテナンス作業性が悪化することを防止するための改良構造である。この補強部材30は、部材本体32の適所に開口部35を設けることによって、補強部材30による補強性能を維持しつつ、メンテナンス対象となるユニットや部品類の着脱操作、その他の作業が容易化するように構成されている。
【0022】
なお、図2(c)に示した補強部材30は、部材本体32の下端縁に沿った位置に切欠き部36を形成した構成が図2(b)の補強部材と異なっているが、切欠き部36を形成した目的は図2(b)の補強部材において開口部35を設けた目的と同様に、補強部材30による補強性能を維持しながらも内部ユニット類に対するメンテナンス作業性を低下させないことにある。また、切欠きを形成する位置は部材本体の上端縁に沿った位置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る筐体構造の構成(後パネルの閉止固定構造)を示す分解斜視図である。
【図2】(a)(b)及び(c)は本発明の実施形態に係る補強部材の変形例を示す図である。
【図3】従来例の説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1…筐体構造、2…筐体本体、3…前面開放部、4…背面開放部、4a…端縁、5…天板、6…底板、10…前扉、10a…軸支部、20…後パネル、20a…ネジ穴、25…ネジ、30…補強部材、31…両端部、32…固定片、32…部材本体、32a…ネジ穴、33…固定片、34…補強片、35…開口部、36…切欠き部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前面と背面に開放部を備えた筐体本体と、該筐体本体の前面開放部を開閉する前扉と、該筐体本体の背面開放部に着脱自在に固定される後パネルと、を備えた筐体構造であって、
前記筐体本体の背面開放部の対向する2つの端縁に差し渡されて両端部を固定された補強部材を備え、
前記補強部材に対して前記後パネルを着脱自在に固定することにより前記背面開放部に対して該後パネルを固定したことを特徴とする筐体構造。
【請求項2】
前記後パネルを前記補強部材から離脱させた状態では、前記背面開放部の前記補強部材が位置しない範囲に前記筐体本体内部と連通する隙間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の筐体構造。
【請求項3】
前記補強部材は、板材から成る部材本体と、該部材本体の長手方向両端部を屈曲させた固定片と、から成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の筐体構造。
【請求項4】
前記部材本体に開口部、或いは切欠き部を設けたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の筐体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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