説明

筒型電池用ガスケット及び筒型電池

【課題】電池内容積を十分に確保することができ、かつ耐衝撃性に優れた筒型電池用ガスケットを提供すること。
【解決手段】封口ガスケット23において、ボス部32と缶接触部33とを連結する円盤状部34の途中に、応力緩衝部37が設けられている。応力緩衝部37は、鋭角的に屈曲する第1の屈曲部37aと第2の屈曲部37bとを有し、正極缶への装着時に正極合剤12よりも缶中心側となる領域に設けられる。缶接触部33の内面33bと円盤状部34の平坦面34aとが交差する角部38に、0.1mm以上0.5mm以下の寸法のRが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池缶の開口部を封口するための筒型電池用ガスケット及びそれを備えた筒型電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、筒型アルカリ電池は、有底筒状の正極缶(電池缶)と、その正極缶内に収納されるリング状の正極合剤と、正極缶の中心部に配置されるゲル状負極合剤と、正極合剤とゲル状負極合剤との間に介在される有底筒状のセパレータと、正極缶の開口部に装着される集電体とを備えている。集電体は、負極端子板、負極集電子、及び封口ガスケットを含んで構成されており、負極端子板は、封口ガスケットを介して正極缶の開口部を封止している。
【0003】
図6は、筒型アルカリ電池に用いられる封口ガスケット40の従来例を示している。図6に示されるように、封口ガスケット40は、負極集電子が挿通される中央孔41を有するボス部42と、電池缶の内周面に接触した状態で固定される缶接触部43と、ボス部42と缶接触部43とを連結すべくボス部42の外周面から径方向に延びるように設けられた円盤状部44と、ボス部42と円盤状部44との連結部分において環状に設けられる破断誘起用の環状薄肉部45とを備える。アルカリ電池内において、ガスの発生により内圧が高まった場合には、その圧力上昇により封口ガスケット40の環状薄肉部45を破断させてガスを外部に放出する。これにより、アルカリ電池の破裂を防止している。
【0004】
また、封口ガスケット40の円盤状部44において、外周側の缶接触部43寄りの位置には、ガスケット40の裏面側(図6では下側)に突出するように屈曲した形状を有する応力緩衝部47が形成されている。応力緩衝部47は、正極缶の開口部を封口する際に径方向に変形して、環状薄肉部45に加わる応力を吸収する役割を果たす。従って、応力緩衝部47は、応力吸収を行うために撓やかに形成する必要があり、板厚が薄く設定されている。なお、このような構成の封口ガスケット40は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−80574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アルカリ電池において、封口ガスケット40の外側(図6では上側)には、負極端子板などの他の部品が設けられている。このため、従来の封口ガスケット40において、応力緩衝部47は、電池の内側(図6では下側)の方向に突出するように設ける必要があり、また、封口時の径方向の変形を確実に吸収するためには、一定の高さ寸法を確保しなければならない。しかしながら、応力緩衝部47を電池の内側方向に延ばすと、以下のような問題が生じる。即ち、従来の封口ガスケット40では、応力緩衝部47は外周側の缶接触部43寄りの位置に設けられているため、応力緩衝部47を長くすると、正極合剤の設置位置と重なってしまう。この場合、応力緩衝部47と接触しないようにサイズの小さな正極合剤を用いる必要があり、このことが正極活物質の容積減少につながってしまう。ゆえに、電池の放電性能の向上を妨げる結果となる。
【0007】
本発明者らは、上記問題を解消すべく、図7のような形状の封口ガスケット50を検討している。図7の封口ガスケット50では、円盤状部44の途中に、鋭角的に屈曲した2つの屈曲部(第1の屈曲部51a及び第2の屈曲部51b)を有する応力緩衝部51が設けられている。第1の屈曲部51aは電池缶の内側に凸形状となるように屈曲し、第2の屈曲部51bは第1の屈曲部51aよりもガスケット外周側に位置し、電池缶の内側に凹形状となるように屈曲している。このため、電池缶の封口時に応力緩衝部51が変形した場合でも、第2の屈曲部51bが正極合剤に対して接触することが回避される。従って、封口ガスケット50を用いれば、電池缶の封口時において径方向に加わる応力を吸収する機能を低下させることなく、電池内容積を十分に確保することが可能となる。
【0008】
ところで、アルカリ電池に対しては、電池内容積の確保のみならず、耐衝撃性の向上に対する要望がある。しかしながら、図7の封口ガスケット50を用いたアルカリ電池の場合、過酷な落下試験を繰り返し行った際に封口ガスケット50が破断する可能性があり、耐衝撃性の向上に関してまだまだ改良の余地があった。具体的には、アルカリ電池の封口時には、負極端子板と正極缶との間に缶接触部43が挟み込まれた状態で封口ガスケット50が固定される。そして、アルカリ電池を負極端子側から落下させ、負極端子板に衝撃が加わると、缶接触部43と円盤状部44との境界部分に応力が集中する。図6の従来の封口ガスケット40では、缶接触部43と円盤状部44との境界部分の近傍となる外周側に応力緩衝部47が形成されているため、その応力緩衝部47で落下時の衝撃を吸収することが可能である。これに対して、図7の封口ガスケット50を使用した場合、応力緩衝部51は、缶接触部43と円盤状部44との境界部分から遠い位置(ガスケット中心側)に形成されている。さらに、封口ガスケット50において、封口時の応力は、応力緩衝部51に加えて円盤状部44にも加わった状態となっている。このため、落下時の衝撃によって、缶接触部43と円盤状部44との境界部分に応力が集中すると予想される。さらに、缶接触部43と円盤状部44との境界部分の内側には、ピン角の角部52が形成されているため、その角部52が起点となって亀裂が生じることが予想される。そして、繰り返し衝撃が加わると、境界部分が破断してその部分から漏液が生じてしまう可能性がある。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電池内容積を十分に確保することができ、かつ耐衝撃性に優れた筒型電池用ガスケットを提供することにある。また、上記筒型電池用ガスケットを用いて電池内容積を確保することにより、放電性能の高い筒型電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段[1]〜[3]を以下に列挙する。
【0011】
[1]電池缶の開口部とその開口部を封口する負極端子板との間に介在される筒型電池用ガスケットであって、負極集電子が挿通される孔を有するボス部と、前記電池缶の封口時に前記負極端子板の外縁部と前記開口部の内周面とに接触した状態で固定される缶接触部と、前記ボス部と前記缶接触部とを連結すべく前記ボス部の外周面から径方向に延びるように設けられた円盤状部と、前記電池缶の内側に凸形状となるように鋭角的に屈曲した第1の屈曲部と、前記第1の屈曲部よりもガスケット外周側に位置し、前記電池缶の内側に凹形状となるように鋭角的に屈曲した第2の屈曲部とを有し、前記電池缶の封口時にてガスケット径方向の変形を吸収すべく前記円盤状部の途中に設けられた応力緩衝部とを備え、前記応力緩衝部は、前記電池缶への装着時に前記正極合剤よりも電池缶中心側となる領域に設けられ、前記円盤状部において前記正極合剤に対応する外周側の部分に、前記缶接触部の内面と直交する平坦面が形成され、前記缶接触部の内面と前記円盤状部の平坦面とが交差する角部に、0.1mm以上0.5mm以下の寸法のRを設けたことを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【0012】
従って、手段1に記載の発明によれば、筒型電池用ガスケットにおける応力緩衝部が、鋭角的に屈曲する第1の屈曲部及び第2の屈曲部を有した構造となっているので、電池缶の封口時にてガスケット径方向に変形して応力を吸収することができる。また、応力緩衝部は、第1の屈曲部よりもガスケット外周側に位置する第2の屈曲部が電池缶の内側に凹形状となるように屈曲しているので、電池缶の封口時に応力緩衝部が変形した場合でも、第2の屈曲部が正極合剤に対して接触することが回避される。さらに、応力緩衝部は、電池缶への装着時に正極合剤よりも電池缶中心側となる領域に設けられているので、従来技術のように缶接触部寄りの位置に応力緩衝部を設ける場合と比較して、正極合剤の収容スペースを十分に確保することができる。また、缶接触部の内面と円盤状部の平坦面とが交差する角部に、曲率半径が0.1mm以上0.5mm以下の寸法のR(アール)が設けられるので、角部を厚くすることができ、角部の強度を高めることができる。さらに、角部にRを設けることで、Rが設けられていない、いわゆるピン角の角部と比較して応力集中を回避でき、角部に加わる応力を分散することができる。この結果、電池落下時に負極端子板からガスケットに衝撃が加わったとしても、ガスケットにおいて缶接触部と円盤状部との境界部分が破断するといった問題を回避することができる。
【0013】
[2]手段1に記載の筒型電池用ガスケットと、前記筒型電池用ガスケットの缶接触部と接触するように直角に折り曲げられた外縁部を有し、前記筒型電池用ガスケットを介して前記電池缶の開口部を封口する負極端子板とを備えたことを特徴とする筒型電池。
【0014】
手段2に記載の発明によると、負極端子板において直角に折り曲げられた外縁部と電池缶の開口部との間に、上記構成の筒型電池用ガスケットが挟み込まされて固定され筒型電池が封口される。このように筒型電池を構成すると、電池落下時等にて負極端子板からガスケットに衝撃が加わる。このとき、ガスケットにおいて、負極端子板の外縁部と電池缶の開口部と間に挟まれている缶接触部と円盤状部との境界部分に応力が集中する。本発明では、ガスケットにおいてその境界部分の角部にRが設けられているため、応力集中を回避でき、角部に加わる応力を分散することができる。また、Rを設けることで角部が厚くなりその強度を増すことができる。この結果、ガスケットにおいて缶接触部と円盤状部との境界部分が破断するといった問題を回避することができる。さらに、上記構成の筒型電池用ガスケットを用いると、電池内容積を増やすことができるため、筒型電池の放電性能を向上させることができる。
【0015】
[3]手段2において、前記電池缶の開口部側には、前記ガスケットを載置するためのビード部が設けられ、前記電池缶の封口時において、前記負極端子板の折り曲げられた外縁部と前記ビード部との間に前記缶接触部が挟み込まれて固定され、前記缶接触部の内面と前記円盤状部の平坦面との角部と対向する前記負極端子板の角部には、0.5mmよりも大きな寸法のRが設けられていることを特徴とする筒型電池。
【0016】
手段3に記載の発明によると、負極端子板において折り曲げられた外縁部と電池缶のビード部との間に上記構成の筒型電池用ガスケットが挟み込まされて固定され筒型電池が封口される。このように筒型電池を構成すると、電池落下時等の衝撃は、負極端子板からガスケットに加わる。このとき、ガスケットにおいて、負極端子板の外縁部とビード部と間に挟まれている部分、つまり缶接触部と円盤状部との境界部分に応力が集中する。本発明では、ガスケットにおいてその境界部分の角部にRが設けられているため、応力集中を回避でき、角部に加わる応力を分散することができる。また、Rを設けることで角部が厚くなりその強度を増すことができる。さらに、缶接触部の内面と円盤状部の平坦面との角部と対向する負極端子板の角部には、0.5mmよりも大きな寸法のRが設けられているので、各角部の間には隙間が形成される。この場合、各角部が互いに干渉しないように非接触の状態となる。従って、負極端子板からガスケットの角部に応力が直接作用しないため、ガスケットの破断を確実に回避することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上詳述したように、手段1に記載の発明によると、電池内容積を十分に確保することができ、かつ耐衝撃性に優れた筒型電池用ガスケットを提供することができる。また、手段2または3に記載の発明によると、電池内容積を確保することにより、放電性能の高い筒型電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施の形態のアルカリ電池の概略構成を示す断面図。
【図2】一実施の形態の封口ガスケットを示す断面図。
【図3】封口ガスケット及び負極端子板の要部を示す拡大断面図。
【図4】別の実施の形態の封口ガスケットを示す断面図。
【図5】別の実施の形態の封口ガスケットを示す断面図。
【図6】従来の封口ガスケットを示す断面図。
【図7】別の封口ガスケットを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態におけるアルカリ電池10(筒型電池)の概略構成を示す断面図である。なお、本実施の形態のアルカリ電池10は、LR6タイプ(単3形)の電池である。
【0020】
図1に示されるように、アルカリ電池10は、有底筒状の正極缶11(電池缶)と、その正極缶11の内面に沿って嵌着されたリング状の正極合剤12と、正極合剤12の内側に挿入される有底筒状のセパレータ13と、正極缶11の中心部となるセパレータ13の中空部に配置されるゲル状負極合剤14と、正極缶11の開口部11aに装着される集電体16とを備える。
【0021】
正極缶11は、ニッケルメッキ鋼板を有底筒状にプレス成形することで作製され、その底部の中央に正極端子18が突設されている。また、正極合剤12は、電解二酸化マンガン、黒鉛、水酸化カリウム、及びバインダーを混合した正極合剤粉を整粒した後、円筒状にプレス成形することで作製される。
【0022】
セパレータ13は、ビニロン・レーヨン不織布やポリオレフィン・レーヨン不織布などのセパレータ原紙を円筒状に巻回し、重なり合う部分を熱融着させることで作製される。
【0023】
ゲル状負極合剤14は、水と酸化亜鉛と水酸化カリウムとを混ぜて溶解し、ポリアクリル酸などのゲル化剤と亜鉛粉とを混合することで作製される。
【0024】
集電体16は、負極端子板21、負極集電子22、及び封口ガスケット23(筒型電池用ガスケット)を含んで構成されている。正極缶11の開口部11a付近には、集電体16を載置するためのビード部24が形成されている。そして、そのビード部24上に集電体16を載置した状態で、正極缶11の開口部11aにカール及び絞り加工を施すことにより、正極缶11が封口されている。つまり、本実施の形態において、正極缶11は、開口部11aを径方向(横方向)に収縮させてかしめること(横締め方式)により封口されている。
【0025】
集電体16は、真鍮を用いて棒状に形成された負極集電子22をその基端側の頭部で負極端子板21に抵抗溶接するとともに、負極集電子22の首部に封口ガスケット23を嵌着することで、形成されている。そして、負極集電子22の先端側がゲル状負極合剤14に挿入されている。
【0026】
負極端子板21は、正極缶11と同じくニッケルメッキ鋼板をプレス成形することで作製され、封口ガスケット23を介して正極缶11の開口部11aを封口している。負極端子板21は、キャップ状に形成されており、その外縁部21aが缶外側に向くようにほぼ直角に折り曲げられている。また、負極端子板21の側面には、複数のガス抜き穴25が設けられている。本実施の形態では、負極端子板21の側面において、90°の角度間隔で4箇所にガス抜き穴25が設けられている。
【0027】
封口ガスケット23は、樹脂材料を用いて射出成形された樹脂成形品である。封口ガスケット23の形成材料としては、6,12ナイロン樹脂、6,10ナイロン樹脂、6,6ナイロン樹脂などのポリアミド樹脂が好適である。
【0028】
図1及び図2に示されるように、封口ガスケット23は、ボス部32、缶接触部33、円盤状部34、破断誘起用の環状薄肉部35、応力緩衝部37を備えている。また、ボス部32、缶接触部33、円盤状部34、環状薄肉部35及び応力緩衝部37は、同心状に一体形成されている。ボス部32は、負極集電子22が挿通される中央孔31を有している。缶接触部33は、正極缶11の内周面に接触した状態で固定される部分である。円盤状部34は、ボス部32と缶接触部33とを連結すべく、ボス部32の外周面から径方向に延びるように設けられている。破断誘起用の環状薄肉部35は、ボス部32と円盤状部34との連結部分において環状に設けられている。応力緩衝部37は、円盤状部34の途中に設けられ、屈曲した形状を有している。
【0029】
ボス部32は略円筒状に形成されている。ボス部32における中央孔31の内径は1.25mmである。ボス部32において、環状薄肉部35が連結されている部位よりも正極缶11の開口部11a側に、小径の部位が形成されている。本実施の形態では、環状薄肉部35が連結されている部位の外径D1は4mmであり、小径の部位の外径D2は3.6mmである。
【0030】
缶接触部33は、上側に延びるよう形成されたリング状の外周部であって、正極缶11の封口時に正極缶11の内面に接触する外面33aを有している。また、缶接触部33の内面33bは、負極端子板21の折り曲げられた外縁部21aに接触している。本実施の形態では、負極端子板21の折り曲げられた外縁部21aと正極缶11のビード部24との間に缶接触部33が挟み込まれて封口ガスケット23が固定されている。
【0031】
環状薄肉部35は、円盤状部34における下面側(正極缶11の内面側)を凹ませた形状であり、本実施の形態ではその厚さが0.15mm〜0.20mmとなるよう薄く形成されている。環状薄肉部35は、正極缶11内にてガスが発生したときにそのガスの圧力で破断して外部にガスを逃がすための安全弁として機能する。本実施の形態では、ボス部32の外周面と円盤状部34との連結部分において、正極缶11の内側となる面(図2では円盤状部34の下面)と正極缶中心軸線とのなす角度が鋭角である。
【0032】
円盤状部34において、正極合剤12と対応する外周側の部分には、缶接触部33の内面33bと直交する平坦面34aが形成されている。そして、円盤状部34においてその平坦面34aよりも正極缶中心側の位置に応力緩衝部37が設けられている。
【0033】
応力緩衝部37は、正極缶11の封口時にてガスケット径方向の変形を吸収する部位であり、正極缶11への装着時に正極合剤12(セパレータ13の設置箇所)よりも正極缶中心側となる領域に設けられている。本実施の形態の応力緩衝部37は、鋭角的に屈曲する2つの屈曲部37a,37bを有している。正極缶中心側に位置する第1の屈曲部37aは正極缶11の内側に凸形状となるよう屈曲し、第1の屈曲部37aよりもガスケット外周側に位置する第2の屈曲部37bは正極缶11の内側に凹形状となるよう屈曲している。そして、応力緩衝部37の第2の屈曲部37bにおける凹側には、セパレータ13の開口端が当接した状態で配置されている。
【0034】
本実施の形態において、応力緩衝部37における第1の屈曲部37aの凹側の角度θ1は88°であり、第2の屈曲部37bの凹側の角度θ2は62°である。つまり、本実施の形態では、第1の屈曲部37aの凹側の角度θ1が第2の屈曲部37bの凹側の角度θ2よりも大きくなるよう応力緩衝部37が形成されている。なお、応力緩衝部37における各屈曲部37a,37bの凹側の角度θ1,θ2は適宜変更してもよいが、封口時の応力吸収を確実に行うためには、ともに60°〜89°の範囲内とすることが好ましい。
【0035】
缶接触部33における外面33aの下端側の角部33cは面取りされており、缶接触部33の下端部の外径が若干小さくなっている。このように形成すると、封口時において、正極缶11の開口部11aに封口ガスケット23を挿入し易くなる。また、缶接触部33の内面33bと円盤状部34の平坦面34aとが交差する角部38に、0.1mm以上0.5mm以下(本実施の形態では0.2mm)の寸法のRが設けられている。缶接触部33と円盤状部34との角部38にRを設けることで、角部38の厚みが増してその強度が確保されるようになっている。
【0036】
図3に示されるように、缶接触部33と円盤状部34との角部38と対向する負極端子板21の角部39には、0.5mmよりも大きな寸法(具体的には0.6mm)のRが設けられている。負極端子板21の角部39のRを封口ガスケット23の角部38のRよりも大きくすることで、各角部38,39の間には隙間が設けられる。つまり、封口ガスケット23の角部38に形成されるR面と負極端子板21の角部39に形成されるR面とが非接触の状態となっている。
【0037】
以下、実施例について説明する。ここでは、上記構成の封口ガスケット23を用いて実際にアルカリ電池10(LR6タイプ)を数種類試作した。その際、封口ガスケット23の角部38のR寸法(mm)を変更し、ナンバー1〜6のサンプルを得た。そして、これら6種類のサンプルについて、以下の落下試験を行った。その結果を表1に示す。
【0038】
ここで行ったアルカリ電池10の落下試験は、負極端子板21側を下向きとし、高さ1mの位置からコンクリート製の床面に複数回落下させ、封口ガスケット23の破断が発生したものの数を調査した(試験サンプル数10)。なおここでは、落下の回数が5回の試験と10回の試験とを行い、それらの試験結果を表1に示している。
【表1】

【0039】
表1に示されるように、ナンバー1のサンプルでは、落下試験で破断を起こすものがあった。これは、角部38の強度が不足するのが原因である。また、ナンバー6のサンプルでは、角部38のRが大きすぎるため、角部38が負極端子板21の角部39に干渉する。この結果、電池寸法(具体的には、負極端子板21の高さ寸法など)が所定の規格寸法から外れてしまうといった不具合が生じた。
【0040】
これに対して、ナンバー3〜5のサンプルでは、5回の落下試験、10回の落下試験で破断が認められなかった。また、ナンバー2のサンプルは、10回の落下試験では破断するものがあったが、5回の落下試験における破断数はゼロであり、最低限の効果は得ることができた。以上の結果により、角部38のR寸法を0.1mm〜0.5mmに設定することが、好適であることがわかった。
【0041】
また、上記のように形成した封口ガスケット23を用いると、電池内容積を増やすことができる。具体的には、本実施の形態において封口ガスケット23の外表面で囲まれた空間の体積は0.38cmとなり、図6に示す従来の封口ガスケット40(同体積0.43cm)に比べて13%小さくなり、この体積の減少分だけ電池内容積を増大させることができた。
【0042】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0043】
(1)本実施の形態のアルカリ電池10において、封口ガスケット23における応力緩衝部37が、鋭角的に屈曲する第1の屈曲部37a及び第2の屈曲部37bを有した構造となっている。この場合、正極缶11の封口時にてガスケット径方向に変形して応力を吸収することができる。また、応力緩衝部37は、第1の屈曲部37aよりもガスケット外周側に位置する第2の屈曲部37bが正極缶11の内側に凹形状となるように屈曲しているので、正極缶11の封口時に応力緩衝部37が変形した場合でも、第2の屈曲部37bが正極合剤12に対して接触することが回避される。さらに、応力緩衝部37は、正極缶11への装着時に正極合剤12よりも缶中心側となる領域に設けられているので、従来の封口ガスケット40(図6参照)のように缶接触部43寄りの位置に応力緩衝部47を設ける場合と比較して、正極合剤12の収容スペースを十分に確保することができる。この結果、アルカリ電池10の放電性能を向上させることができる。
【0044】
(2)本実施の形態の封口ガスケット23では、缶接触部33の内面33bと円盤状部34の平坦面34aとが交差する角部38に、0.1mm以上0.5mm以下の寸法のRが設けられるので、角部38を厚くすることができ、角部38の強度を高めることができる。さらに、角部38にRを設けることで、ピン角の角部と比較して応力集中を回避でき、角部38に加わる応力を分散することができる。従って、封口ガスケット23を用いてアルカリ電池10を構成すると、電池落下時に負極端子板21から封口ガスケット23に衝撃が加わった場合でも、封口ガスケット23の破断を回避することができる。
【0045】
(3)本実施の形態のアルカリ電池10において、封口ガスケット23の角部38と対向する負極端子板21の角部39には、0.5mmよりも大きな寸法のRが設けられているので、各角部38,39の間には隙間が形成される。この場合、各角部38,39が互いに干渉しないように非接触の状態となり、負極端子板21の角部39から封口ガスケット23の角部38に応力が直接作用しないため、封口ガスケット23の破断を確実に回避することができる。
【0046】
(4)本実施の形態の封口ガスケット23において、環状薄肉部35が連結されている部位よりも正極缶11の開口部11a側に、小径の部位が形成されている。このようにすると、環状薄肉部35の破断により生じる隙間を十分に確保することができ、電池内容物によってその隙間が詰まるといった問題を回避することができる。
【0047】
(5)本実施の形態の封口ガスケット23において、第2の屈曲部37bの凹側には、セパレータ13の開口端が接した状態で配置されている。このようにすると、セパレータ13の開口端を確実に固定することができ、セパレータ13内のゲル状負極合剤14が外側に漏れることを防止することができる。
【0048】
(6)本実施の形態の封口ガスケット23では、円盤状部34において正極合剤12に対応する外周側の部分には、缶接触部33の内面33bと直交する平坦面34aが形成されている。ここで、円盤状部34における外周側の部分が傾斜していると、正極缶11の封口時にて円盤状部34の傾斜部が負極端子板21を押し上げて電池の高さが所定寸法よりも高くなってしまう。これに対して、本実施の形態のように、円盤状部34の外周側の部分を平坦面34aとすると、円盤状部34が負極端子板21を押し上げるといった問題を回避することができる。
【0049】
(7)本実施の形態の封口ガスケット23では、第1の屈曲部37aにおける凹側の角度θ1及び第2の屈曲部37bにおける凹側の角度θ2がともに60°〜89°となるよう応力緩衝部37を形成している。このような応力緩衝部37を形成することにより、正極缶11の封口時にて応力緩衝部37が確実に変形して、環状薄肉部35に加わる応力を吸収することができる。
【0050】
(8)本実施の形態の封口ガスケット23では、ボス部32の外周面と円盤状部34の連結部分において、缶中心軸線と缶内側となる面とがなす角度が鋭角となるよう形成されている。このようにすると、応力緩衝部37の高さ寸法を小さくすることができ、電池内容積を増やすことができる。従って、アルカリ電池10の放電性能を向上させることができる。
【0051】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0052】
・上記実施の形態の封口ガスケット23において、第1の屈曲部37aと第2の屈曲部37bとをつなぐ部分は、各屈曲部37a,37bとほぼ同じ厚さであるが、これに限定されるものではない。図4の封口ガスケット23Aのように、各屈曲部37a,37bをつなぐ部分を肉厚の厚い補強部36Aとしてもよい。この補強部36Aの厚さT3は、第1の屈曲部37aよりもガスケット中心側の位置における第1の厚さT1及び第2の屈曲部37bよりもガスケット外周側の位置における第2の厚さT2に比べて大きくなっている。また、図5の封口ガスケット23Bのように、各屈曲部37a,37bをつなぐ補強部36Bを、第1の屈曲部37a側から第2の屈曲部37b側に行くに従って徐々に厚くなるよう形成してもよい。各封口ガスケット23A,23Bでは、補強部36A,36Bによって応力緩衝部37が補強されるため、アルカリ電池10の内圧上昇時における各屈曲部37a,37bの伸びを防止することができる。また、各封口ガスケット23A,23Bでは、上記実施の形態と同様に、缶接触部33と円盤状部34との角部38に0.1mm以上0.5mm以下の寸法のRが設けられている。従って、封口ガスケット23A,23Bを用いてアルカリ電池10を構成すると、電池落下時における封口ガスケット23A,23Bの破断を回避することができる。
【0053】
・上記実施の形態では、本発明をアルカリ電池10の封口ガスケット23,23A,23Bに具体化するものであったが、アルカリ電池以外の筒型電池の封口ガスケットに具体化してもよい。また、上記実施の形態では、LR6タイプ(単3形)のアルカリ電池10に具体化したが、LR20タイプ(単1形)、LR14タイプ(単2形)、LR03タイプ(単4形)等の他の電池に具体化してもよい。
【0054】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0055】
(1)手段3において、前記缶接触部の内面と前記円盤状部の平坦面との角部に形成されたR面が前記負極端子板のR面と非接触の状態で前記ガスケット及び前記負極端子板を固定したことを特徴とする筒型電池。
【0056】
(2)手段1において、前記応力緩衝部において前記第1の屈曲部と前記第2の屈曲部とをつなぐ部位は補強部として定義され、前記補強部の厚さは、前記第1の屈曲部よりもガスケット中心側の位置における第1の厚さ及び前記第2の屈曲部よりもガスケット外周側の位置における第2の厚さに比べて大きいことを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【0057】
(3)技術的思想(2)において、前記補強部における前記第1の屈曲部側の厚さよりも前記第2の屈曲部側の厚さが大きいことを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【0058】
(4)手段1において、前記電池缶への装着時において、前記第2の屈曲部の凹側には、セパレータの開口端が当接した状態で配置されることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【0059】
(5)手段1において、前記電池缶は、前記開口部を径方向に収縮させてかしめることにより封口されることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【0060】
(6)手段1において、前記応力緩衝部は、セパレータの配置箇所よりも電池缶中心側に位置するように形成されることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【0061】
(7)手段1において、前記ボス部の外周面と前記円盤状部の連結部分において、電池缶中心軸線と前記電池缶の内側となる面とがなす角度が鋭角であることを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【符号の説明】
【0062】
10…筒型電池としてのアルカリ電池
11…電池缶としての正極缶
11a…開口部
21…負極端子板
21a…外縁部
22…負極集電子
23,23A,23B…筒型電池用ガスケットとしての封口ガスケット
24…ビード部
31…孔としての中央孔
32…ボス部
33…缶接触部
33b…内面
34…円盤状部
34a…平坦面
37…応力緩衝部
37a…第1の屈曲部
37b…第2の屈曲部
38…角部
39…負極端子板の角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池缶の開口部とその開口部を封口する負極端子板との間に介在される筒型電池用ガスケットであって、
負極集電子が挿通される孔を有するボス部と、
前記電池缶の封口時に前記負極端子板の外縁部と前記開口部の内周面とに接触した状態で固定される缶接触部と、
前記ボス部と前記缶接触部とを連結すべく前記ボス部の外周面から径方向に延びるように設けられた円盤状部と、
前記電池缶の内側に凸形状となるように鋭角的に屈曲した第1の屈曲部と、前記第1の屈曲部よりもガスケット外周側に位置し、前記電池缶の内側に凹形状となるように鋭角的に屈曲した第2の屈曲部とを有し、前記電池缶の封口時にてガスケット径方向の変形を吸収すべく前記円盤状部の途中に設けられた応力緩衝部と
を備え、
前記応力緩衝部は、前記電池缶への装着時に前記正極合剤よりも電池缶中心側となる領域に設けられ、
前記円盤状部において前記正極合剤に対応する外周側の部分に、前記缶接触部の内面と直交する平坦面が形成され、
前記缶接触部の内面と前記円盤状部の平坦面とが交差する角部に、0.1mm以上0.5mm以下の寸法のRを設けたことを特徴とする筒型電池用ガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載の筒型電池用ガスケットと、
前記筒型電池用ガスケットの缶接触部と接触するように直角に折り曲げられた外縁部を有し、前記筒型電池用ガスケットを介して前記電池缶の開口部を封口する負極端子板と
を備えたことを特徴とする筒型電池。
【請求項3】
前記電池缶の開口部側には、前記ガスケットを載置するためのビード部が設けられ、
前記電池缶の封口時において、前記負極端子板の折り曲げられた外縁部と前記ビード部との間に前記缶接触部が挟み込まれて固定され、
前記缶接触部の内面と前記円盤状部の平坦面との角部と対向する前記負極端子板の角部には、0.5mmよりも大きな寸法のRが設けられていることを特徴とする請求項2に記載の筒型電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−69459(P2013−69459A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205628(P2011−205628)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】