説明

管体の水圧試験装置

【課題】フランジキャップ等の溶接を不要とし、ヘッドストックやテールストックの構造を簡易化する。
【解決手段】管体1の開口端面が液密的に当接させられるシール部材47と、管体1の開口縁に近い外周に嵌装されて当該開口縁に向けて上り傾斜する傾斜面5aを有する楔断面のリング体5と、リング体5の楔断面の傾斜面5aに沿った傾斜面を楔断面の上記傾斜面5aに当接させて位置する保持部材43と、保持部材43を開口縁方向へ引き寄せ移動させる駆動手段45と、管体1内に高圧水を供給する高圧水供給路48と、管体1内から空気を排出させる空気排出路49とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は管体の水圧試験装置に関し、特に、試験に際して管体の両端開口にフランジキャップ等を設ける必要が無い水圧試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
管体の水圧試験を行う場合には従来、管体の両端にフランジキャップ等を溶接し、これらを介してそれぞれヘッドストックとテールストックで挟圧して管体を封鎖しつつ管体内へ高圧水を供給していた。しかしこれによるとフランジキャップの溶接が必要であるために手間を要するとともに、管体の両端部に溶接代を確保する必要があるため管材が無駄になるという問題があった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1では、ヘッドストックおよびテールストックの一部を構成するパッキンホルダ内に管体端部を挿入して当該端部の外周にリングパッキンを当接させ、さらにリングパッキンに高圧の背圧を作用させてこれを端部外周に圧接させることによって管体内を封鎖する構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−181055
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の装置構造では、リングパッキンの収納部やリングパッキンに背圧を作用させる高圧水流路をパッキンホルダ内に設ける必要があるためその構造が複雑になるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、フランジキャップ等の溶接が不要であるとともにヘッドストックやテールストックの構造も簡易化できる管体の水圧試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明では、管体(1)の開口端面が液密的に当接させられるシール部材(47)と、管体(1)の開口縁に近い外周に嵌装されて当該開口縁に向けて上り傾斜する傾斜面(5a)を有する楔断面のリング体(5)と、リング体(5)の楔断面の傾斜面(5a)に沿った傾斜面を楔断面の上記傾斜面(5a)に当接させて位置する保持部材(43)と、保持部材(43)を開口縁方向へ引き寄せ移動させる駆動手段(45)と、管体(1)内に高圧水を供給する高圧水供給路(48)と、管体(1)内から空気を排出させる空気排出路(49)とを備える。
【0008】
本第1発明において、駆動手段によって保持部材を開口縁方向へ引き寄せ移動させると、リング体が縮径させられて管体の外周に圧着させられるとともに、管体の開口端面がシール部材に圧接させられて、管体の開口が閉鎖される。このように、管体の外周を保持し、この状態で管体の開口端面をシール部材に圧接させることによって管体内を閉鎖しているから、従来のようなフランジキャップ等の溶接は不要であり、作業の手間が軽減されるとともに管材の無駄も生じない。また、特許文献1に記載の装置のようなリングパッキンに高圧の背圧を作用させる高圧水流路は不要であるから、ヘッドストックやテールストックの構造の簡易化が実現される。
【0009】
本第2発明では、シール部材(47)、駆動手段(45)および保持部材(43)を一体に備えた管体封止機構(4)を、対向方向へ移動可能とした一対の移動台車(31)上にそれぞれ設ける。
【0010】
本第2発明においては、管体の両端の開口閉鎖を簡易かつ迅速確実に行うことができる。
【0011】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の管体の水圧試験装置によれば、フランジキャップ等の溶接が不要であるとともにヘッドストックやテールストックの構造を簡易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】装置の全体概略側面図である。
【図2】管体封止機構の部分断面側面図である。
【図3】管体封止機構の部分断面正面図で、上半は図2のIII−III線に沿った断面図、下半は図2のA矢視図である。
【図4】リング体の断面図で、図5のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】リング体の正面図である。
【図6】リング体5の力学モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本発明の管体の水圧試験装置の全体概略側面図を示す。図1において、管体1は長手方向の三箇所を支持台2によって水平姿勢に支持されている。各支持台2にはハンドル21で昇降する昇降機構22が設けられ、当該昇降機構22に支持された左右(紙面前後方向)の支持ローラ23上に管体1が載置されている。
【0015】
管体1の両端は、ヘッドストックHSおよびテールストックTS内へ挿入されている。ヘッドストックHSとテールストックTSは互いに対向するように対称形に配置されている以外は実質的に同一構造であり、いずれも移動台車31上に昇降機構32を介して基台33を設けたものである。
【0016】
基台33上には詳細を以下に説明する管体封止機構4が設置されており、管体1の両端はそれぞれヘッドストックHSとテールストックTSの管体封止機構4内に挿入されている。以下は、ヘッドストックHSの管体封止機構4について説明するが、テールストックTSのものは高圧水供給路と空気排出路が設けられていない点以外はヘッドストックHSのものと同一構造である。
【0017】
管体封止機構4は基台33上に起立姿勢で固定された厚肉四角板状(図3参照)の主部材41と、その前後に位置する副部材42,43とを備えている。これら副部材42,43は主部材41とほぼ同形の厚肉板状体である。管体封止機構4の詳細を図2に示す。
【0018】
主部材41には四隅に板厚方向へ貫通するガイド孔411が設けられており、これらガイド孔411に摺動可能にシャフト部材44が挿通されている。そしてこれらシャフト部材44の一端に上記副部材42の四隅が固定されている。また、シャフト部材44の他端には保持部材としての副部材43の四隅が固定されている。
【0019】
主部材41には一方の板面の内周部に、駆動手段としての油圧シリンダ45が固定されており、油圧シリンダ45の中心から突出するロッド451の先端が副部材42の中心部に固定されている。このような構造により、油圧シリンダ45が伸縮すると、これに応じて副部材42と、これとシャフト部材44によって連結された副部材43が一体に前後動(図2の左右方向)させられる。
【0020】
主部材41の他方の板面の内周部には受け部材46が装着されている。受け部材46は厚肉の円環状をなし、主部材41の板面中心に形成された円形突出部412に液密的に嵌装されている。受け部材46の周面には全周に凹溝461が形成されてここにシール部材47が挿置されている。そして、シール部材47に、管体1の開口端面1aが液密的に当接させられている。
【0021】
主部材41内には外周側から中心部へ延びる高圧水供給路48が形成されており、当該高圧水供給路48は受け部材46が嵌着された突出部412の中心に開口して管体1の内空間に連通している。主部材41内にはまた、外周側から受け部材46の背後に至る空気排出路49が形成されて、これは受け部材46内に形成された流路462を経て管体1の内空間に連通している。なお、受け部材46は管体1の管径の大小に応じて適当なものに変更する。
【0022】
副部材43には内周部に大径の開口431が形成されており、当該開口431内に管体1が挿通されている。開口431は管体1の開口縁に向けて漸次大径となるラッパ状に成形されており、上記開口431内には、管体1の外径に応じて肉厚の異なるものに適宜変更される一定厚の円錐台状スペーサ筒432が一体に嵌着されている。スペーサ筒432の内周と管体1の外周との間には全周に、管体1の開口縁に向けて上り傾斜する傾斜面を有する一定の間隙Sが形成され、当該間隙S内に、上記傾斜面に沿った傾斜面5aを有する楔断面のリング体5が挿入されている。
【0023】
図4、図5にリング体5の断面図と正面図を示す。リング体5は周方向の一箇所が欠落しており、欠落部51の間隙を小さくするようにリング体5全体を比較的容易に縮径させることができる。なお、リング体5自体の縮径変形が可能である場合には欠落部51は必ずしも必要ではない。
【0024】
このような構成の水圧試験装置において、管体1の水圧試験を行う場合には、管体1を支持台2によって水平姿勢に支持し、ヘッドストックHSおよびテールストックTSを適当に移動させて、管体1の両端をそれぞれ管体封止機構4の副部材43のスペーサ筒432内に通す。この後、管体1の端部外周にリング体5を嵌装するとともに、管体1の開口端面をシール部材47に当接させる。
【0025】
この状態でリング体5をスペーサ筒432内周と管体1外周との間の間隙内に挿入する。この後、油圧シリンダ45のロッド451を伸長させると、シャフト部材44を介して副部材43が管体1の開口縁方向へ引き寄せ移動させられる。これに伴い、リング体5が縮径させられて管体1の外周に圧着させられるとともに、管体1の開口端面がシール部材47に圧接させられる。
【0026】
以上の操作がヘッドストックHSとテールストックTSの両方で行われて、管体1の両端の開口端面がそれぞれシール部材47に圧接して両端開口が閉鎖された管体1内へ、空気排出路49から空気を逃がしつつ高圧水供給路48より高圧水を供給して耐圧試験を行う。
【0027】
この時のリング体5部分での力学モデルを図6に示す。管径φ115mmの管体1で、高圧水の水圧が12.4MPaであると、シール部材47から管体1が離間しようとする力Faは8594.9Kgfとなる。そこで、油圧シリンダ45は離間力Faよりもやや大きい引寄せ力Fc(例えば9t)で副部材43を管体1の開口縁方向へ引き寄せる。この際、リング体5の楔断面形状によって、管体1の外周面に対し直交する方向の保持力Fhが生じるが、この保持力FhはFh=Fc/tanθ(ここでθは楔角)となって、θが例えば3°であると、引寄せ力Fcの19倍となる。このような十分な保持力Fhで管体1を掴み、管体1の開口端面1aを確実にシール部材47に圧接させて管体1内を閉鎖することができる。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、管体1の外周を保持し、この状態で管体1の開口端面1aをシール部材47に圧接させることによって管体1内を閉鎖しているから、従来のようなフランジキャップ等の溶接は不要であり、作業の手間が軽減されるとともに管材の無駄も生じない。また、特許文献1に記載の装置のようなリングパッキンに高圧の背圧を作用させる高圧水流路は不要であるから、ヘッドストックやテールストックの構造の簡易化が実現される。
【符号の説明】
【0029】
1…管体、31…移動台車、4…管体封止機構、43…副部材(保持部材)、45…油圧シリンダ(駆動手段)、47…シール部材、48…高圧水供給路、49…空気排出路、5…リング体、5a…傾斜面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管体の開口端面が液密的に当接させられるシール部材と、前記管体の開口縁に近い外周に嵌装されて当該開口縁に向けて上り傾斜する傾斜面を有する楔断面のリング体と、前記リング体の楔断面の傾斜面に沿った傾斜面を前記楔断面の傾斜面に当接させて位置する保持部材と、前記保持部材を開口縁方向へ引き寄せ移動させる駆動手段と、前記管体内に高圧水を供給する高圧水供給路と、前記管体内から空気を排出させる空気排出路とを備える管体の水圧試験装置。
【請求項2】
前記シール部材、前記駆動手段および前記保持部材を一体に備えた管体封止機構を、対向方向へ移動可能とした一対の移動台車上にそれぞれ設けた請求項1に記載の管体の水圧試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−127833(P2012−127833A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280171(P2010−280171)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】