説明

管推進敷設工法用推進力伝達装置

【課題】推進管路の状況によらず常に確実に推進力を先行管に伝達することができる管推進敷設工法用推進力伝達装置を提供する。
【解決手段】先行管Pの受け口30と後行管Pの挿し口31との間の隙間に、押し輪33によりゴム輪を押し込んで、管継手部の水密性を保持する管継手構造を用いて、さや管式管推進敷設工法により管路を構築する際に使用される管推進敷設工法用推進力伝達装置において、後行管Pの外周面に固定される、前記さや管の内面に沿って転動するローラ39を有する固定部材1と、固定部材1に、受け口30側に向けて固定される複数個の推進力伝達部材5と、固定部材1と推進力伝達部材5の各々との間に介在される弾性体8とを備え、推進力伝達部材5は、押し輪33に形成された開口33aを貫通して受け口30のフランジ30bに当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管推進敷設工法用推進力伝達装置、特に、推進管路の状況によらず常に確実に推進力を先行管に伝達することができる管推進敷設工法用推進力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、道路工事による交通障害や掘削残土の処理等の問題が少なく、しかも、軌道下等の開削工事が行えない場所であっても管の敷設が可能なさや(鞘)管式管推進敷設工法が実施されている。
【0003】
以下に、さや管式管推進敷設工法の一例を、図面を参照しながら説明する。
【0004】
図7は、さや管式管推進敷設工法を示す一部省略断面図である。
【0005】
図7に示すように、さや管式管推進敷設工法は、発進側立坑21と到達側立坑22との間に予めさや管23を敷設し、発進側立坑21内に、新設管24を推進する支圧壁25、推進用油圧ジャッキ26、推進用台27等を設置し、推進用油圧ジャッキ26によりさや管23内に新設管24を順次、挿入して接合する。すなわち、先行管Pに後行管Pを順次、接合する。最先端の新設管24の先端には、挿入抵抗を小さくするための先導ソリ又はガイドローラー28が取り付けられている。なお、さや管23が既設の配管の場合もある。
【0006】
近年、管路にも耐震性が要求されている。耐震性を有する管継手構造の一例を、図8に示す。この管継手構造は、内周面に形成された溝30a内にロックリング29が嵌め込まれた受け口30に、外周面に突起31aが形成された挿し口31がゴム輪32を介在して挿入され、受け口30のフランジ30bと押し輪33とにTボルト34が貫通して通され、ナット35の締め付けにより押し輪33を介してゴム輪32を受け口30と挿し口31との隙間に押し込んで水密性を確保するものである。
【0007】
上記管継手構造によれば、管継手部に作用する引き抜き力は、図中(L)の移動が許容され、一方、管継手部に作用する押し込み力は、図中(L)の移動が許容される。これによって、管継手部の耐震性が確保される。
【0008】
上記管継手構造により接合される管を、上記さや管式管推進敷設工法により敷設する場合の管推進敷設工法用推進力伝達装置の一例が特許文献1(特開2008−223860号公報)に開示されている。以下、この管推進敷設工法用推進力伝達装置を従来推進力伝達装置といい、図面を参照しながら説明する。
【0009】
図9は、従来推進力伝達装置を装着した管継手部を示す斜視図、図10は、図9のA−A線断面図、図11は、従来推進力伝達装置の推進力伝達部材を示す斜視図である。
【0010】
図9から図11に示すように、従来推進力伝達装置は、固定部材36と推進力伝達部材37と間隔保持材38とからなっている。
【0011】
固定部材36は、複数個の円弧状部材36aをリング状に連結したものからなり、円弧状部材36aの連結部分には、管敷設に際してさや管の内面を転動するローラ39が取り付けられている。固定部材36は、後行管Pの挿し口31の外周面に固定される。
【0012】
推進力伝達部材37は、図11に示すように、複数個の円弧状部材37aをリング状に連結したものからなり、円弧状部材37aの前面には、受け口30のフランジ30bに当接される複数本の棒状突起37bが形成されている。推進力伝達部材37は、挿し口31の外周面に固定部材36と間隔をあけて、かつ、挿し口31の軸方向に移動可能に装着される。なお、従来推進力伝達装置を用いる場合には、押し輪33に棒状突起37bの開口33aを形成する必要がある。
【0013】
間隔保持材38は、樹脂発泡体からなり、固定部材36と推進力伝達部材37との間に介在される。間隔保持材38は、推進力を先行管に伝達する際のクッションの作用と、カーブ推進時にも確実に推進力を先行管に伝達する作用を有している。間隔保持材38は、複数ピースに分割しても、一体成型したものでも良い。
【0014】
次に、従来推進力伝達装置を用いたさや管式管推進敷設工法の一例を説明する。
【0015】
先ず、ゴム輪32およびロックリング29を介在させて、先行管Pの受け口30内に後行管Pの挿し口31を挿入する。次に、押し輪33をゴム輪32に当てがい、Tボルト34のナット35を締め付けて押し輪33を介してゴム輪32を押し込む。
【0016】
このようにして、先行管Pに後行管Pを接合したら、図9および図10に示すように、後行管Pの挿し口31の外周面に固定部材36を固定し、挿し口31の外周面に固定部材36と間隔をあけて推進力伝達部材37を装着する。次に、固定部材36と推進力伝達部材37との間に間隔保持材38を挿入する。このとき、推進力伝達部材37の棒状突起37bは、押し輪33の開口33aを貫通して受け口30のフランジ30bに当接させる。このようにして、従来推進力伝達装置を後行管Pに取り付けたら、図7に示すように、後行管Pを推進用油圧ジャッキ26により押し込む。
【0017】
なお、上述した例は、間隔保持材38が複数ピースに分割されている場合であるが、間隔保持材38が一体成型されている場合には、後から固定部材36と推進力伝達部材37との間に間隔保持材38を挿入することができないので、この場合には、先行管Pに後行管Pを接合する前に、後行管Pの挿し口31の外周面に間隔保持材38を前もって預け入れておく。
【0018】
このような操作を順次行うことによって、さや管23内に新設管24が敷設される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2008−223860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記従来推進力伝達装置によれば、後行管Pの推進力は、推進力伝達部材37の棒状突起37bを介して受け口30のフランジ30bに伝達されるので、ゴム輪32に推進力が直接作用することがない。従って、過大な推進力によるゴム輪32の損傷を確実に防止することができる。
【0021】
しかも、推進力は、固定部材36と推進力伝達部材37との間に挿入された間隔保持材38を介して先行管Pに伝達されるので、間隔保持材38の有するクッション効果により急激な推進力の変動を抑えることができる。
【0022】
さらに、間隔保持材38は、変形可能であるので、カーブ推進時にも推進力を均一に後行管Pに伝達することができる。
【0023】
しかしながら、間隔保持材38は、樹脂発泡体からなっているので、上がり勾配で推進するような場合等において、過大な推進力が作用すると、間隔保持材38が元の状態に復元せず、クッション効果が発揮されない恐れがある。
【0024】
また、推進管路の状況が複雑で、カーブ推進を繰り返す場合には、間隔保持材38に圧縮側と圧縮されない側とが交互に発生し、これが繰り返されることになる。この結果、間隔保持材38は、次第に永久変形して、カーブ推進に追従できなくなる恐れがある。
【0025】
さらに、管径が大きくなると、それに応じて大型の間隔保持材用射出成型機と金型が必要となり、コスト高となる。大型の間隔保持材を成型する代わりに、間隔保持材をいくつかに分割して接着させることが考えられるが、このようにした場合には、接着面と他の部位との弾力性および変位量が異なるため、十分なクッション効果が発揮されず、しかも、接着部分から剥離する可能性がある。
【0026】
従って、この発明の目的は、推進管路の状況によらず常に確実に推進力を先行管に伝達することができる管推進敷設工法用推進力伝達装置に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
請求項1に記載の発明は、先行管の受け口と後行管の挿し口との間の隙間に、押し輪によりゴム輪を押し込んで、管継手部の水密性を保持する管継手構造を用いて、さや管式管推進敷設工法により管路を構築する際に使用される管推進敷設工法用推進力伝達装置において、前記後行管の外周面に固定される、前記さや管の内面に沿って転動するローラを有する固定部材と、前記固定部材に、前記受け口側に向けて固定される複数個の推進力伝達部材と、前記固定部材と前記推進力伝達部材の各々との間に介在される弾性体とを備え、前記推進力伝達部材は、前記押し輪に形成された開口を貫通して前記受け口に当接することに特徴を有するものである。
【0028】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の管推進敷設工法用推進力伝達装置において、前記推進力伝達部材は、複数股に分かれて形成されていることに特徴を有するものである。
【0029】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の管推進敷設工法用推進力伝達装置において、前記弾性体は、ゴムからなることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0030】
この発明によれば、後行管の外周面に固定される固定部材と複数個の推進力伝達部材の各々との間に弾性体を介在させることによって、推進管路の状況が複雑で、カーブ推進を繰り返す場合であっても、常に確実に推進力を先行管に伝達することができる。また、弾性体の大きさはそれほど大きくする必要がないので、弾性体の製造コストの低減が図れる。しかも、推進力伝達部材を複数股にすることによって、推進力伝達部材の数を減少させることができ、この結果、推進力伝達装置の構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置を管継手部に装着した状態を示す正面図である。
【図2】この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置を管継手部に装着した状態を示す部分断面図である。
【図3】この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置の固定部材を示す部分斜視図である。
【図4】この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置の推進力伝達部材を示す斜視図である。
【図5】この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置の弾性体を示す斜視図である。
【図6】管継手部を示す斜視図である。
【図7】さや管式管推進敷設工法を示す一部省略断面図である。
【図8】管継手構造を示す断面図である。
【図9】従来推進力伝達装置を装着した管継手部を示す斜視図である。
【図10】図9のA−A線断面図である。
【図11】従来推進力伝達装置の推進力伝達部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0033】
図1は、この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置を管継手部に装着した状態を示す正面図、図2は、この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置を管継手部に装着した状態を示す部分断面図、図3は、この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置の固定部材を示す部分斜視図、図4は、この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置の推進力伝達部材を示す斜視図、図5は、この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置の弾性体を示す斜視図、図6は、耐震管の管継手部を示す斜視図である。
【0034】
なお、図1から図6において、図7から図11におけると同一番号は同一物を示し、説明は省略する。
【0035】
図1および図2において、1は、固定部材である。固定部材1は、図3に示すように、断面L形をなす複数個(この例では、2個)の円弧状部材2と、円弧状部材2に取り付けられた、さや管23の内面に沿って転動するローラ3とからなっている。円弧状部材2は、互いにボルト・ナット4により円形リング状に連結され、後行管Pの外周面に固定される。
【0036】
5は、推進力伝達部材である。推進力伝達部材5は、複数股(この例では、二股)に分かれて形成され、基部には、ボルト6が取り付けられている。推進力伝達部材5は、ボルト6を固定部材1のフランジ1aに形成されたボルト孔1bに通し、ナット7を締めることによって、先行管Pの受け口30側に向けて固定される。推進力伝達部材5は、押し輪33に形成された開口33a(図6参照)を貫通して受け口30のフランジ30bに当接する。
【0037】
8は、弾性体である。弾性体8は、図5に示すように、例えば、そろばん玉形状をなし、ゴム等の弾性力に富んだ材質からなっている。弾性体8は、これに形成された挿通孔8aに推進力伝達部材5のボルト6を通すことによって、固定部材1とフランジ1aと推進力伝達部材5との間に介在される。
【0038】
以上のように構成されている、この発明の推進力伝達装置を用いたさや管式管推進敷設工法の一例を説明する。
【0039】
上述した従来推進力伝達装置におけると同様にして、先行管Pに後行管Pを接合する。次に、後行管Pの挿し口31の外周面に固定部材1を仮止めする。この際、固定部材1には、予め、推進力伝達部材5を固定しておく。次に、固定部材1を先行管P側に、推進力伝達部材5の先端が先行管Pの受け口30のフランジ30bに当接するまで移動させる。
【0040】
このとき、推進力伝達部材5は、二股の推進力伝達部材5が押し輪33のTボルト34を跨いで、押し輪33の開口33aを通して受け口30のフランジ30bに当接させる。このようにして、固定部材1が位置決めされたら、ボルト・ナット4を本締めして固定部材1を後行管Pに固定する。
【0041】
このようにして、この発明の推進力伝達装置を後行管Pに取り付けたら、図7に示すように、後行管Pを推進用油圧ジャッキ26により押し込む。
【0042】
このような操作を順次行うことによって、さや管23内に新設管24が敷設される。
【0043】
この発明の管推進敷設工法用推進力伝達装置によれば、後行管Pの押し込み力は、弾性体8を介して推進力伝達部材5に伝達される。弾性体8は、推進力伝達部材5毎に設けられ、しかも、弾性力に富むゴム等により構成されているので、推進管路の状況が複雑で、カーブ推進を繰り返す場合であっても、優れたクッション効果と復元力とにより、常に確実に推進力を先行管に伝達することができる。また、弾性体8の大きさはそれほど大きくする必要がないので、弾性体8の製造コストの低減が図れる。しかも、推進力伝達部材5を複数股にすることによって、推進力伝達部材5の数を減少させることができ、この結果、推進力伝達装置の構造を簡素化することができる。
【符号の説明】
【0044】
1:固定部材
1a:フランジ
1b:ボルト孔
2:円弧状部材
3:ローラ
4:ボルト・ナット
5:推進力伝達部材
6:ボルト
7:ナット
8:弾性体
8a:挿通孔
21:発進側立坑
22:到達側立坑
23:さや管
24:新設管
25:支持壁
26:推進用油圧ジャッキ
27:推進用台
28:先導ソリ
29:ロックリング
30:受け口
30a:溝
30b:フランジ
31:挿し口
31a:突起
32:ゴム輪
33:押し輪
33a:開口
34:Tボルト
35:ナット
36:固定部材
36a:円弧状部材
37:推進力伝達部材
37a:円弧状部材
38:間隔保持材
39:ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行管の受け口と後行管の挿し口との間の隙間に、押し輪によりゴム輪を押し込んで、管継手部の水密性を保持する管継手構造を用いて、さや管式管推進敷設工法により管路を構築する際に使用される管推進敷設工法用推進力伝達装置において、前記後行管の外周面に固定される、前記さや管の内面に沿って転動するローラを有する固定部材と、前記固定部材に、前記受け口側に向けて固定される複数個の推進力伝達部材と、前記固定部材と前記推進力伝達部材の各々との間に介在される弾性体とを備え、前記推進力伝達部材は、前記押し輪に形成された開口を貫通して前記受け口に当接することを特徴とする管推進敷設工法用推進力伝達装置。
【請求項2】
前記推進力伝達部材は、複数股に分かれて形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の管推進敷設工法用推進力伝達装置。
【請求項3】
前記弾性体は、ゴムからなることを特徴とする、請求項1または2に記載の管推進敷設工法用推進力伝達装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−32632(P2011−32632A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176654(P2009−176654)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000231877)日本鋳鉄管株式会社 (48)
【Fターム(参考)】