説明

管楽器の演奏装置と演奏方法

【課題】 管楽器の演奏者が行っている微妙な調整動作を再現して管楽器を演奏可能な技術を提供する。
【解決手段】 演奏装置40は、管楽器16の吹口部18の空気を振動させる手段42と、管楽器16の音階調整用操作部31、32、33を操作する手段55、56、57と、演奏者が管楽器16を演奏したときに実測された吹口部18空気の経時的振動数データに基づいて空気振動手段42を制御するとともに、演奏者が管楽器16を演奏したときに実測された音階調整用操作部31、32、33の経時的操作データに基づいて操作手段55、56、57を制御する手段43を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管楽器を演奏する装置と、管楽器を演奏する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
管楽器を演奏する演奏者は、唇を振動させて吹口部に空気を吹き込みながら、音階調整用の操作部(例えば、トランペットのピストン)を操作している。唇の振動数の調整は、唇の硬さを微妙に変化させて行っている。操作部は、管楽器の共鳴部の管長を調整して共鳴振動数を変化させるために、半押しの状態を含めて、絶えず微妙に操作されている。
特許文献1には、鍵盤を駆動して楽音を発生させるアコースティック楽器の自動演奏システムが記載されているが、管楽器の演奏者が行っている微妙な調整動作を再現して管楽器を演奏する装置は、いまだ開発されていない。
【0003】
【特許文献1】特開平7−271354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、管楽器の演奏者が行っている微妙な調整動作を再現して管楽器を演奏可能な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の演奏装置は、管楽器の吹口部の空気を振動させる手段と、管楽器の音階調整用操作部を操作する手段と、演奏者が管楽器を演奏したときに実測された吹口部空気の経時的振動数データに基づいて空気振動手段を制御するとともに、演奏者が管楽器を演奏したときに実測された音階調整用操作部の経時的操作データに基づいて操作手段を制御する手段を備えている。
この演奏装置の制御手段は、演奏者が管楽器を演奏したときに実測された吹口部空気の経時的振動数データに基づいて空気振動手段を制御するとともに、演奏者が管楽器を演奏したときに実測された音階調整用操作部の経時的操作データに基づいて操作手段を制御する。演奏者が管楽器を演奏したときに実測された経時的振動数データと経時的操作データを利用することによって、演奏者が行っている微妙な調整動作を再現して管楽器を演奏することが可能になる。
【0006】
上記の演奏装置において、管楽器の吹口部に供給する空気の流量を調整する手段をさらに備えており、制御手段は、演奏者が管楽器を演奏したときに実測された吹口部空気の経時的流量データに基づいて空気流量調整手段を制御することが好ましい。
演奏者が管楽器を演奏したときに実測された吹口部空気の経時的流量データに基づいて制御手段が空気流量調整手段を制御すると、演奏者が吹口部に吹き込む空気の流量を微妙に調整しながら演奏している状態を再現して、管楽器を演奏することが可能になる。
【0007】
本発明の管楽器の演奏方法は、演奏者が管楽器を演奏したときの「吹口部空気の経時的振動数データと音階調整用操作部の経時的操作データ」を実測する第1工程と、第1工程で実測した経時的振動数データに基づいて空気振動手段が管楽器の吹口部の空気を振動させるとともに、第1工程で実測した経時的操作データに基づいて操作手段が管楽器の音階調整用操作部を操作する第2工程を備えている。
この演奏方法は、実測した経時的振動数データに基づいて空気振動手段が管楽器の吹口部の空気を振動させるとともに、実測した経時的操作データに基づいて操作手段が管楽器の音階調整用操作部を操作する。よって、演奏者が行っている微妙な調整動作を再現して管楽器を演奏することが可能になる。
【0008】
上記の演奏方法において、第1工程で、演奏者が管楽器を演奏したときの吹口部空気の経時的流量データをさらに実測し、第2工程で第1工程で実測した経時的流量データに基づいて空気流量調整手段が管楽器の吹口部に供給する空気流量をさらに調整することが好ましい。
この演奏方法によれば、演奏者が吹口部に吹き込む空気流量を微妙に調整しながら演奏している状態を再現して、管楽器を演奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好適な実施形態を例示する。
(形態1)
演奏者が管楽器を演奏したときの「吹口部空気の経時的振動数データと音階調整用操作部の経時的操作データ」を記憶する手段と、
管楽器の吹口部の空気を振動させる手段と、
管楽器の音階調整用操作部を操作する手段と、
記憶手段が記憶している経時的振動数データに基づいて空気振動手段を制御するとともに、記憶手段が記憶している経時的操作データに基づいて操作手段を制御する手段と、
を備える演奏システム。
【実施例】
【0010】
(第1実施例)
本発明の第1実施例を説明する。この第1実施例では、図1に示す演奏記録装置10が記録したデータに基づいて、演奏装置40(後述する)が管楽器の一種であるトランペット16を演奏する。演奏記録装置10は、第1圧力センサ12、第2圧力センサ14、第3圧力センサ17、ピストン変位センサ15、データレコーダ20を備えている。図2に詳しく示すように、第1圧力センサ12と第2圧力センサ14は、測定用マウスピース18に装着されている。測定用マウスピース18は、トランペット16の実際のマウスピース61(後述する)の代わりに用いられている。測定用マウスピース18とトランペット本体16aとの間には、測定用アダプタ19が介装されている。第3圧力センサ17は、測定用アダプタ19に取り付けられる。トランペット16を演奏するとき、演奏者11は、測定用マウスピース18の唇接触部24に唇23を接触させ、空気を測定用マウスピース18に吹き込みながら唇23を振動させる。測定用マウスピース18に空気を吹き込みながら唇23を振動させると、その振動数(音階)の楽音がトランペット16から発生する。唇23の振動数は、唇23の硬さを変えることによって調整される。唇23の振動数を調整すると、それにともなってトランペット16が発生する楽音の振動数も変化する。
【0011】
第1圧力センサ12は、測定用マウスピース18内の圧力を経時的に検出する。第1圧力センサ12が有している時間的分解能は、唇23の振動にともなって生じる圧力変化の振動数よりも充分に高い。第2圧力センサ14は、第1圧力センサ12の下流側に配置されており、測定用マウスピース18を流れる空気の圧力を経時的に検出する。第3圧力センサ17は、測定用アダプタ19を流れる空気の圧力を経時的に検出する。第2圧力センサ14と第3圧力センサ17の検出圧力差から、演奏者11がトランペット16に吹き込んだ空気の流量を推定する。具体的には、トランペット16を流れる空気の流量と、第2圧力センサ14と第3圧力センサ17の検出圧力差との対応関係を予め計測しておく。そして、検出された第2圧力センサ14と第3圧力センサ17の圧力差と、上述した対応関係からトランペット16に吹き込まれた空気流量を推定する。第2圧力センサ14と第3圧力センサ17は、流量変化に追従する程度の時間的分解能を有している。圧力検出タイプ以外のセンサ(例えば、流速センサ)を用いて、トランペット16に吹き込まれた空気の流量を検出することもできる。
【0012】
図1に示すように、演奏者11がトランペット16のピストン31、32、33を押下げ操作したときの、ピストン31、32、33の変位量(ストローク量)は、ピストン変位センサ15によって連続的に検出される。ピストン変位センサ15は、ピストン31、32、33毎に設けられている(図1では、ピストン変位センサ15を一体で図示している)。ピストン31は人差指によって操作され、ピストン32は中指によって操作され、ピストン33は薬指によって操作される。
図3は、ピストン変位センサ15を例示している。ピストン変位センサ15は、ラック26、ピニオン27、エンコーダ28を備えている。ラック26は、ピストン31、32、33の下端に固定されている。ラック26とピニオン27は噛み合わされている。ピストン31、32、33が変位すると、それにともなってラック26も変位する。ラック26が変位すると、ピニオン27が回転し、その回転角度をエンコーダ28が検出する。ピニオン27の回転角度は、ピストン31、32、33に対応する。従って、エンコーダ28は、ピニオン27の回転角度から、ピストン31、32、33の変位量を検出することができる。
ピストン31、32、33を操作すると、トランペット16の管長が調整され、トランペット16の共鳴振動数が変化する。トランペット16の共鳴振動数と、演奏者11の唇23の振動数が共鳴すると、きれいな楽音が大音量で発生される。
図1に示すように、第1圧力センサ12、第2圧力センサ14、第3圧力センサ17、ピストン変位センサ15の検出値は、データレコーダ20に記録される。
【0013】
図4は、データレコーダ20に記録されたデータを例示している。図4に示されているグラフの縦軸は、それぞれ、第1圧力センサ12が測定したマウスピース18の圧力(マウスピース圧力)、第2圧力センサ14と第3圧力センサ17の検出値から推定したマウスピース18に吹き込まれた空気の流量(マウスピース流量)、ピストン31、32、33の変位に対応している。横軸は、時間経過を示している。図4では、最初に、薬指によってピストン33が操作され(押し下げられ)ている。この時には、マウスピース圧力は小さな振幅で振動しており、マウスピース流量は少ない値で安定している。すなわち、演奏者11は、測定用マウスピース18に空気を弱く吹き込んでいる。薬指によるピストン33の操作が終了すると、人差指によってピストン31が操作され、同時に、マウスピース圧力の振幅が大きくなるとともに、マウスピース流量も多くなっている。つまり、演奏者11は、測定用マウスピース18に空気を強く吹き込んでいる。このときのマウスピース圧力の振動数は、その前のピストン33が操作された場合よりも低くなっている(マウスピース圧力のカーブの時間経過方向の間隔が広くなっている)。このようにして、演奏者11が測定用マウスピース18に空気が吹き込みながら、吹き込む空気流量と唇23の振動数を調整しつつピストン31、32、33を操作することによって、トランペット18が演奏される。
【0014】
演奏装置40について説明する。図5に示すように、演奏装置40は、演奏用アクチュエータ42、空気ボンベ44、流量弁46、制御部43、読込装置45、アンプ51、人工指52、53、54、指アクチュエータ55、56、57を備えている。
図6に示すように、演奏用アクチュエータ42は、ケーシング62と、ケーシング62に収容された励振部63を有している。ケーシング62は、円筒状部材64の両端部に円板状部材65と略円板状のマウスピース支持部材66がスクリュウ67で締結され、その内部に収容空間を形成している。マウスピース支持部材66には、中央部に貫通孔66aが形成されているとともに、収容空間側に横断面が円形状の凹部66bが形成されている。また、マウスピース支持部材66には、外部に開口したポート81と、ポート81と凹部66bとを連通させる孔82が形成されている。
【0015】
励振部63は、複数本のボルト74、コアホルダ71、コア72、永久磁石73、メンブレンフイルム78、リング79、コイル68を有している。ボルト74は、一端がマウスピース支持部材66にネジ込まれている。コアホルダ71の本体71aは円筒状であり、その片側端部には、鍔状のフランジ71bが形成されている。フランジ71bは、ナット76、77によってボルト74の他端に固定されている。コア72は、凹部72aが形成された円柱状の部材であり、コアホルダ71に固定されている。永久磁石73は、コア72の凹部72aに固定されている。メンブレンフイルム78は可撓性の膜であり、外周部にボルト74通過用の穴が複数形成されている。そして、メンブレンフイルム78は、ボルト74に挿通されたリング79とマウスピース支持部材66との間に介装された状態で、マウスピース支持部材66の凹部66bを覆うように張り渡される。リング79は、ナット75によって固定されている。
【0016】
トランペット16のマウスピース61は、マウスピース支持部材66の貫通孔66aに挿通される。また、その状態では、マウスピース61の端部に形成されている鍔状の唇接触部61aが、メンブレンフイルム78と接触し、かつ唇接触部61aとマウスピース支持部材66との間にシム83を挟み込んだ状態で、凹部66bに配置される。マウスピース支持部材66には、外部から貫通孔66aまで貫通するネジ穴66cが形成されている。ネジ穴66cに締め込まれたスクリュウ80の先端がマウスピース61に当接することによって、マウスピース支持部材66に対してマウスピース61が固定される。スクリュウ80を締め込む前に、マウスピース61を軸方向にスライドさせると、マウスピース61とマウスピース支持部材66との軸方向の位置関係を調整することができる。シム83の厚さを予め調整しておくと、マウスピース61とマウスピース支持部材66との位置関係の調整が容易になる。厚いシム83を用いると、メンブレンフイルム78と唇接触部61aが強く接触する(接触圧力が大きい)。薄いシム83を用いると、メンブレンフイルム78と唇接触部61aが弱く接触する(接触圧力が小さくなる)。
コイル68は、一端がメンブレンフイルム78に接着され、他端側が永久磁石73とコア72の凹部72bが形成する空間に配置されている。コイル68は、リード線(図示省略)によってアンプ51と接続されている。
【0017】
図5に示されている制御部43は、CPU、ROM、RAM等を有するコンピュータである。読込装置45は、制御部43に接続されており、演奏記録装置10のデータレコーダ20が記録した第1圧力センサ12、第2圧力センサ14、第3圧力センサ17、ピストン変位センサ15の検出データを記憶媒体(例えば、CD−ROM)を介して読込む。
演奏用アクチュエータ42のポート81と空気ボンベ44は、空気供給流路84によって接続されている。流量弁46は、空気供給流路84の途中に装着されている。流量弁46は、制御部43によって制御される。また、制御部43は、アンプ51を介して、演奏用アクチュエータ42のコイル68に印加する交流電力を制御する。
人工指52、53、54は、それぞれが指アクチュエータ55、56、57のプランジャ55a、56a、57aと接続されている。人工指52、53、54の先端部は、トランペット16のピストン31、32、33と接触している。指アクチュエータ55、56、57のプランジャ55a、56a、57aが制御部43に制御されて伸縮すると、人工指52、53、54がピストン31、32、33を操作する。指アクチュエータ55、56、57には、種々のタイプのもの(例えば、空気圧駆動、液圧駆動、モータ駆動、ソレノイド駆動等)を用いることができる。
【0018】
人工指52、53、54と指アクチュエータ55、56、57の代わりに、例えば、図7に示すピストン操作装置85でピストン31、32、33を操作することもできる。
ピストン操作装置85は、操作部材86、ピニオン87、減速機88、モータ89、エンコーダ90を備えている。操作部材86には、押圧部86aが片側端部に形成されているとともに、歯型が直線上に延びるラック86bを有している。操作部材86は、押圧部86aがピストン31、32、33と接触する位置に配置されている。
モータ89は、制御部43によって制御される。減速機88はモータ89の回転数を減速し、出力軸88aから出力する。出力軸88aは、ピニオン87を駆動する。操作部材86のラック86bは、ピニオン87と噛み合わされている。エンコーダ90はモータ89の回転軸と連結されており、モータ89の回転状態を検出し、制御部43に送信する。
このように構成されているピストン操作装置85によれば、制御部43に制御されてモータ89が回転すると、それにともなってピニオン87が回転する。ピニオン87が回転すると、ピニオン87と噛み合っているラック86が軸方向に移動し、ピストン31、32、33が操作される。モータ89の回転速度や、回転加速度や、回転方向や、回転継続時間を調整すると、ピストン31、32、33をきめ細かく操作することができる。
【0019】
演奏用アクチュエータ42の励振部63のコイル68に交流電力を印加すると、コイル68が軸方向に振動し、それと接着されているメンブレンフイルム78も振動する。メンブレンフイルム78が振動すると、マウスピース61内の空気圧力が振動する。ポート81に加圧空気を供給すると、メンブレンフイルム78とマウスピース61の唇接触部61aとの間に隙間が形成され、その隙間を空気が通過する。メンブレンフイルム78が振動している状態でポート81に空気を供給すると、メンブレンフイルム78と唇接触部61aとの隙間(空気通過面積)が変動する。空気通過面積が変動すると、それにともなってマウスピース61に流れ込む空気流量が変動することによって、マウスピース61内の圧力も振動する。
コイル38に印加する交流電力の周波数と、メンブレンフイルム78の振動数は、よく一致する。従って、制御部43がコイル38に印加する交流電力の周波数を調整すると、メンブレンフイルム78の振動数を制御することができる。トランペット16からは、メンブレンフイルム78の振動数に対応した楽音が発生する。ポート81に供給される空気流量は、制御部43が流量弁46を制御することによって調整される。
ポート81に供給する空気流量と、マウスピース61内の空気振動の振幅は比例する。このため、ポート81に供給する空気流量を多くするとトランペット16が発生する音量が大きくなり、ポート81に供給する空気流量を少なくするとトランペット16が発生する音量が小さくなる。ピストン31、32、33を操作すると、トランペット16の管長が調整されて、トランペット16の共鳴振動数が変化する。マウスピース61内の空気振動数とトランペット16の共鳴振動数が一致すると、きれいに共鳴した楽音が発生する。
【0020】
上述したように、読込装置45は、演奏記録装置10のデータレコーダ20が記録した第1圧力センサ12、第2圧力センサ14、第3圧力センサ17、ピストン変位センサ15の検出データを、記憶媒体を介して読込む。これら検出データを利用して、演奏装置40は、演奏者11が演奏したのと同様に、トランペット16を演奏することができる。具体的には、制御部43は、記憶装置45が読み込んだ検出データに基づいて、第1圧力センサ12が検出した振動数でメンブレンフイルム78を振動させるとともに、第2圧力センサ14と第3圧力センサ17が検出した流量の空気をポート81に供給する。さらに制御部43は、指アクチュエータ55、56、57を制御して、ピストン変位センサ15が検出した変位量で、トランペット16のピストン31、32、33を操作する。このようにすると、演奏者11がトランペット16を演奏したときの、測定用マウスピース18内の状態(空気振動数、振幅、空気流量)と、ピストン31、32、32の操作を再現して、トランペット16を演奏することができる。
【0021】
(第2実施例)
本発明の第2実施例に係る演奏装置について説明する。第1実施例の演奏装置40と重複する内容は省略し、本実施例として特徴的な部分を主体に説明する。本第2実施例では、第1実施例の演奏用アクチュエータ42の代わりに、演奏用アクチュエータ112を用いる。
図8に示すように、演奏用アクチュエータ112は、開閉バルブ142、スライダ部143、パイプ144を備えている。開閉バルブ142は、弁本体145、スリーブ146、弁アクチュエータ147、スプリング148を有している。弁本体145には、入口ポート151と出口ポート152を連通させる空気流路153と、その空気流路153と直交する横断面が円形状のガイド孔145aが形成されている。入口ポート51には、空気供給流路84が接続されている。スリーブ146には、シャフト部146aと、シャフト部146aから膨出した開閉部149と、開閉部149を挟んでシャフト部146aから膨出したガイド部159、159が形成されている。開閉部149とガイド部159、159は、円形状の横断面を有している。開閉部149には、シャフト部146aから次第に経が大きく遷移しながら開閉部149の最大直径に至る遷移部149aが形成されている。ガイド部159、159は、ガイド孔145aと摺接することによって、スリーブ146を軸方向に案内する。スリーブ146の一端は、弁アクチュエータ147に取り付けられている。スプリング148は、反弁アクチュエータ147側のガイド部159と、ガイド孔145aの端部との間に介装されている。スリーブ146が、図8に示す位置に配されている状態では、開閉部146aが空気流路153を閉じる。
【0022】
弁アクチュエータ147は、アンプ51を介して制御部43と接続されており、内蔵しているソレノイドでスリーブ146を駆動する。制御部43は、弁アクチュエータ147に駆動信号を出力する。駆動信号が入力された弁アクチュエータ147は、スリーブ146を反弁アクチュエータ147側に移動させる。図9は、スリーブ146が反弁アクチュエータ147側に移動した状態を図示している。この状態では、スリーブ146に押されてスプリング148が収縮するとともに、スリーブ146の開閉部146aが閉位置から移動することによって、空気流路153が開かれる。弁アクチュエータ147に入力する駆動信号の電流が逆転されると、スリーブ146は、スプリング148に付勢されながら弁アクチュエータ147側に移動して空気流路153を閉じ、更に弁アクチュエータ147側に移動して空気流路153を開く。
【0023】
スライダ部143は、スライダ156、駆動ギア158、モータ166、マウスピース155を備えている。スライダ156は、円柱状のスライダ本体156aと、スライダ本体156aの片側端部に設けられたスライダギア156bを有している。スライダ本体156aの外周面には、ネジ156cが形成されている。スライダ156には、軸方向に貫通する孔161が形成されている。マウスピース155は、トランペット16の実際のマウスピース61に代わって用いられるものであり、トランペット16のマウスピース取付部16bに差し込まれている。マウスピース155の内周面にはネジ155aが形成されている。このネジ155aとスライダ本体156aのネジ156cを利用することによって、マウスピース155にスライダ156がネジ込まれている。よって、スライダ156を回転させると、マウスピース155に対してスライダ156が進退する。
駆動ギア158は、モータ166の回転軸に結合されているとともに、スライダ156のスライダギア156bと噛み合わされている。モータ66は、制御部43と接続されている。図8は、スライダ156が前進してマウスピース155の前気室157に深く入り込んだ状態を図示している。図9は、スライダ156が後退した状態を示している。スライダ156が前進すると、前気室157の容積は小さくなる。スライダ156が後退すると、前気室157の容積は大きくなる。
パイプ144の一端144aは、開閉バルブ142の出口ポート152に固定されている。パイプ144の他端144bは、スライダ156の貫通孔161に挿通されている。従って、出口ポート152を流出した空気は、パイプ144を通過してマウスピース155の前気室157に流入する。スライダ156が進退するときには、スライダ156はパイプ144に対して移動する。
開閉バルブ142と、スライダ部143のモータ166は、トランペット16と結合された支持部材(図示省略)によって支持されている。
【0024】
開閉バルブ142の入口ポート151に空気供給流路84から空気を供給しながら、開閉バルブ142の弁アクチュエータ147がスリーブ146を振動させると、空気流路153が開閉され、マウスピース155の前気室157に供給される空気の圧力が振動する。この場合、空気圧力の振動数は、スリーブ146の振動数の2倍になる。スリーブ146が1ストローク移動する毎に、空気流路153の開閉が2回行われるからである。例えば、スリーブ146の振動数が100Hzならば、前気室157に供給される空気圧力の振動数は200Hzになる。前気室157の空気圧力の振動数と、スリーブ146の振動数がこのような関係にあるので、スリーブ146の振動数が低くても、前気室157に供給される空気圧力の振動数を高くすることができる。
前気室157内の圧力が振動すると、トランペット16からその振動数の楽音が発生する。例えば、「ド」の楽音が発生する。マウスピース155内の空気振動の振幅は、供給される空気流量に比例する。従って、マウスピース155に供給する空気流量を流量弁46を制御して多くすると、トランペット16が発生する音量が大きくなり、供給する空気流量を少なくすると、トランペット16が発生する音量が小さくなる。例えば、「レ」の楽音が発せられている状態で空気流量を多くすると、「レ」の音量が大きくなる。開閉バルブ142のスリーブ146の振幅を変化させても、前気室157に供給する空気量を調整することができる。例えば、スリーブ146の振幅を小さくすると、開閉バルブ142の開弁面積が減少する。よって、マウスピース155に供給される空気流量が少なくなる。流量弁46と開閉バルブ142との双方を同時に制御すると、空気流量をよりきめ細かく調整することができる。
【0025】
上述したように、開閉バルブ142のスリーブ146の開閉部149には、遷移部149aが設けられている。この遷移部149aの形状を種々選択することにより、開閉バルブ142からマウスピース155に供給される空気の圧力変化を微調整することができる。例えば、遷移部149aを軸方向に長くすると、開閉バルブ142が開閉するときに、空気流路153の開閉の切り換えが急激に起こらないので、空気の圧力変化の立ち上がり/立ち下がりが緩やかになる(圧力変動の山と谷の形状がなだらかになる)。遷移部149aの形状は、図8、図9に図示されているような直線形状に限られるものではない。例えば、遷移部149aを、曲線や、曲線と直線の組合せ等によって形成することもできる。遷移部149aの形状を選択することによって、トランペット16が発する楽曲を微妙にチューニングすることができる。
【0026】
測定用マウスピース18と演奏装置40を直接接続し、演奏者11がトランペット16を演奏しているのと並行して(リアルタイムで)、演奏装置40がトランペット16を演奏してもよい。このようにすると、演奏環境に対応して、演奏装置40にアドリブで演奏を行わせることができる。
本発明の演奏記録装置10や演奏装置40は、トランペット16以外の管楽器(例えば、トロンボーン、ホルン)を演奏させるのにも、好適に用いることができる。
本発明の演奏装置をロボットに適用すると、ロボットに管楽器を演奏させることができる。
開閉バルブ142のスリーブ46は、空気流路53を流れる空気を完全に遮断しなくてもよい。すなわち、空気流路53を流れる空気が、大流量になり、小流量になるように震動してもよい。
開閉バルブ142のスリーブ146の遷移部149a、149aは、スリーブ46の振動中心に対して対称に形成しなくてもよい。
トロンボーンのように、スライダを有する管楽器に本発明を適用する場合には、人工指52、53、54の代わりに、人工腕を用いる。
【0027】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】演奏記録装置のシステム図。
【図2】測定用マウスピース、測定用アダプタ等の断面図。
【図3】ピストン変位センサの断面図。
【図4】データレコーダに記憶するデータを例示する図。
【図5】演奏装置のシステム図。
【図6】演奏用アクチュエータの断面図。
【図7】ピストン操作装置の断面図。
【図8】演奏用アクチュエータの断面図(開閉バルブ閉、スライダ前進状態)。
【図9】演奏用アクチュエータの断面図(開閉バルブ開、スライダ後退状態)。
【符号の説明】
【0029】
10:演奏記録装置
11:演奏者
12:第1圧力センサ
14:第2圧力センサ
15:ピストン変位センサ
16:トランペット、16a:トランペット本体、16b:マウスピース取付部
17:第3圧力センサ
18:測定用マウスピース
19:測定用アダプタ
20:データレコーダ
23:唇
24:唇接触部
26:ラック
27:ピニオン
28:エンコーダ
31、32、33:ピストン
40:演奏装置
42:演奏用アクチュエータ
43:制御部
44:空気ボンベ
45:読込装置
46:流量弁
51:アンプ
52、53、54:人工指
55、56、57:指アクチュエータ
55a、56a、57a:プランジャ
61:マウスピース、61a:唇接触部
62:ケーシング
63:励振部
64:円筒状部材
65:円板状部材
66:マウスピース支持部材、66a:貫通孔、66b:凹部、66c:ネジ穴
67:スクリュウ
68:コイル
71:コアホルダ、71a:本体、71b:フランジ
72:コア、72a:凹部
73:永久磁石
74:ボルト
75、76、77:ナット
78:メンブレンフイルム
79:リング
80:スクリュウ
81:ポート
82:連通孔
83:シム
84:空気供給流路
85:ピストン操作装置
86:操作部、86a:押圧部、86b:ラック
87:ピニオン
88:減速機、88a:出力軸
89:モータ
90:エンコーダ
112:演奏用アクチュエータ
142:開閉バルブ
143:スライダ部
144:パイプ、144a:一端、144b:他端
145:弁本体、145a:ガイド孔
146:スリーブ、146a:シャフト部
147:弁アクチュエータ
148:スプリング
149:開閉部、149a:遷移部
151:入口ポート
152:出口ポート
153:空気流路
155:マウスピース、155a:ネジ
156:スライダ、156a:スライダ本体、156b:スライダギア、156c:ネジ
157:前気室
158:駆動ギア
159:ガイド部
161:貫通孔
166:モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管楽器の吹口部の空気を振動させる手段と、
管楽器の音階調整用操作部を操作する手段と、
演奏者が管楽器を演奏したときに実測された吹口部空気の経時的振動数データに基づいて空気振動手段を制御するとともに、演奏者が管楽器を演奏したときに実測された音階調整用操作部の経時的操作データに基づいて操作手段を制御する手段と、
を備える演奏装置。
【請求項2】
管楽器の吹口部に供給する空気の流量を調整する手段をさらに備えており、
制御手段は、演奏者が管楽器を演奏したときに実測された吹口部空気の経時的流量データに基づいて空気流量調整手段を制御する請求項1の演奏装置。
【請求項3】
演奏者が管楽器を演奏したときの「吹口部空気の経時的振動数データと音階調整用操作部の経時的操作データ」を実測する第1工程と、
第1工程で実測した経時的振動数データに基づいて空気振動手段が管楽器の吹口部の空気を振動させるとともに、第1工程で実測した経時的操作データに基づいて操作手段が管楽器の音階調整用操作部を操作する第2工程と、
を備える管楽器の演奏方法。
【請求項4】
第1工程で、演奏者が管楽器を演奏したときの吹口部空気の経時的流量データをさらに実測し、
第2工程で、第1工程で実測した経時的流量データに基づいて空気流量調整手段が管楽器の吹口部に供給する空気流量をさらに調整する請求項3の演奏方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−3582(P2006−3582A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179336(P2004−179336)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】