説明

管状組織吻合器具

【課題】手術効率を大幅に向上することが可能で、かつ、術者の手技レベルへの依存度を極力低くすることを可能としつつ、管状組織外周面の表層部に存在する細胞の壊死を抑制することが可能な管状組織吻合器具を提供する。
【解決手段】外側吻合部材10と、外側吻合部材10との間に所定の隙間gを設けるようにして外側吻合部材10の内側に配置される内側吻合部材20とを備える管状組織吻合器具1。外側吻合部材10は、所定の形状記憶処理が施された部材であって、所定温度以上に再加熱することにより、隙間gを狭くするようにその形状を変形可能に構成されており、一方側の開口端12から他方側の開口端14に向けて側面の一部が削除された形状(C字状)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、血管、消化管、胆管、尿管、尿道等の生体の管状組織を吻合するために用いる管状組織吻合器具に関する。
【背景技術】
【0002】
血管を吻合するための血管吻合器具として、従来、中央に血管を通すための孔が設けられた2つの管状の吻合部材と、当該2つの吻合部材を向き合わせた状態で締め合わせる締結手段とを備える血管吻合器具が知られている(例えば、特許文献1参照。)。各吻合部材の端部には、血管端部を外側に向けて折り返すための引っ掛け部が設けられている。
従来の血管吻合器具は、吻合部材の孔に血管を通して引っ掛け部に血管端部を引っ掛けた状態で、血管端部の内面同士が合わさるように2つの吻合部材を向かい合わせて、さらに締結手段で締め合わせることにより、血管を吻合するものである。
【0003】
従来の血管吻合器具によれば、上記の構成からなる吻合部材及び締結手段を備えているため、血管の内面同士が接した状態で血管を吻合することが可能となる。
また、従来の血管吻合器具によれば、縫合糸で血管を縫合するといった非常に煩雑な作業を行うことも無いので、手術効率を大幅に向上することが可能となるとともに、術者の手技レベルへの依存度を極力低くすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−118308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の血管吻合器具においては、吻合部材が配置された部分の血管外周面は吻合部材と完全に密着した状態となるため、血管外周面の表層部を流れる血液の流れは、吻合部材によって遮断されてしまうこととなる。その結果、血管外周面の表層部に存在する細胞の一部が壊死してしまう可能性がある。
【0006】
なお、このような問題は、血管吻合器具に限らず、血管以外の管状組織(例えば、消化管、胆管、尿管、尿道等)を吻合するために用いる管状組織吻合器具全般に対して存在するものである。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、手術効率を大幅に向上することが可能で、かつ、術者の手技レベルへの依存度を極力低くすることを可能としつつ、管状組織外周面の表層部に存在する細胞の壊死を抑制することが可能な管状組織吻合器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明の管状組織吻合器具(1)は、略管状の外側吻合部材(10)と、前記外側吻合部材(10)との間に所定の隙間(g)を設けるようにして前記外側吻合部材(10)の内側に配置される略管状の内側吻合部材(20)とを備える管状組織吻合器具(1)であって、当該管状組織吻合器具は、管状組織の吻合対象部分を前記隙間に配置した状態で、前記外側及び内側吻合部材で当該吻合対象部分を挟むように吻合するタイプのものであり、前記外側及び内側吻合部材(10,20)のうち少なくとも一方の吻合部材は、所定の形状記憶処理が施された、形状記憶性能を備える部材であって、所定温度以上に再加熱することにより、前記隙間を狭くするようにその形状を変形可能に構成されており、前記外側吻合部材(10)は、一方側の開口端(12)から他方側の開口端(14)に向けて側面の一部が削除された形状であることを特徴とする。
【0009】
このため、本発明の管状組織吻合器具によれば、管状組織を吻合するにあたり、管状組織に対して各吻合部材を配置した後、形状記憶性能を備える吻合部材を所定温度以上に再び加熱するだけでよいことから、縫合糸で血管を縫合するといった非常に煩雑な作業を行わなくてよい。その結果、手術効率を大幅に向上することが可能となるとともに、術者の手技レベルへの依存度を極力低くすることが可能となる。
【0010】
また、本発明の管状組織吻合器具によれば、管状組織の外面側に配置される外側吻合部材が、一方側の開口端から他方側の開口端に向けて側面の一部が削除された形状であるため、外側吻合部材を管状組織の外周面に配置したときの、当該外側吻合部材が配置された部分の管状組織を周方向に沿って見ると、外側吻合部材と接触している部分(接触部分)と接触していない部分(非接触部分)とが存在することとなる。この非接触部分が、表層部を流れる血液の流路となり得るため、管状組織外周面の表層部の血流が吻合部材によって遮断されてしまうことが無くなり、結果として、管状組織外周面の表層部に存在する細胞が壊死するのを抑制することが可能となる。
【0011】
したがって、本発明の管状組織吻合器具は、手術効率を大幅に向上することが可能で、かつ、術者の手技レベルへの依存度を極力低くすることを可能としつつ、管状組織外周面の表層部に存在する細胞の壊死を抑制することが可能な管状組織吻合器具となる。
【0012】
また、本発明の管状組織吻合器具によれば、上述したように、外側吻合部材の側面の一部が削除された形状であることから、管状組織を吻合するにあたって、外側吻合部材の中に管状組織の一方端をわざわざ通さなくても、外側吻合部材の側面の当該削除された部分を介して管状組織の側方から外側吻合部材を取り付けることが可能である。このため、手術効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0013】
なお、この明細書において「一方側の開口端から他方側の開口端に向けて側面の一部が削除された形状」とは、例えば、外側吻合部材が円管である場合には、断面C字状となる形状のことを意味しており、外側吻合部材が断面四角形の角管である場合には、断面コの字状となる形状のことを意味している。
【0014】
[2]上記[1]に記載の管状組織吻合器具(2)においては、前記外側吻合部材(30)は、複数のリング状部材(32,36)からなり、前記複数のリング状部材(32,36)のそれぞれは、一方側の開口端から他方側の開口端に向けて側面の一部が削除された形状であり、前記複数のリング状部材(32,36)を前記吻合対象部分に配置したときの、隣り合う前記リング状部材の当該削除された部分の位置は、周方向に沿って所定量ずれていることが好ましい。
【0015】
隣り合うリング状部材の当該削除された部分の位置が周方向に沿って所定量ずれていることにより、管状組織に望ましくない応力が加わったとしても外側吻合部材が外れにくくなるため、吻合力の強い管状組織吻合器具となる。
【0016】
[3]上記[2]に記載の管状組織吻合器具(2)においては、前記隣り合うリング状部材(32,36)は、前記削除された部分の位置が管軸(2ax)を中心として点対称となるように配置されていることが好ましい。
【0017】
このように構成することにより、外側吻合部材がより外れにくくなるため、吻合力をより強くすることが可能となる。また、この効果に加えて、各リング状部材が管軸方向に沿って所定距離をあけて並置されている場合に次の効果がある。
すなわち、各リング状部材が管軸方向に沿って所定距離をあけて並置されている場合は、管状組織の表層部のうち、リング状部材とリング状部材との間の領域の表層部に対しても血液を行き渡らせることが望ましいが、上記のように構成することにより、当該領域の表層部に対して血液を満遍なく行き渡らせることが可能となる。その結果、管状組織外周面の表層部に存在する細胞の壊死をさらに抑制することが可能となる。
【0018】
[4]上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の管状組織吻合器具(1)においては、前記外側及び内側吻合部材のうち前記所定の形状記憶処理が施されたほうの吻合部材(10)は、脂肪族エステル系樹脂を、所定の成形温度に加熱して第1形状に成形し、当該第1形状からなる成形体を前記樹脂のガラス転移点よりも高く前記樹脂の融点よりも低い温度で第2形状に変形処理し、当該変形処理された前記第2形状からなる中間体を前記樹脂のガラス転移点よりも低い温度に冷却して前記第2形状に形状固定することにより形成された、形状記憶性能を備えるものであり、かつ、所定温度以上に再加熱することにより、前記隙間を狭くするように前記第2形状から前記第1形状へと変形可能に構成されていることが好ましい。
【0019】
本発明の「所定の形状記憶処理が施された吻合部材」としては、例えば形状記憶合金からなる吻合部材を用いてもよいが、上記のように脂肪族エステル系樹脂を材料とする吻合部材を用いる方が、軽量で成形が容易であり、コスト面での低廉化も図ることが可能となる。また、脂肪族エステル系樹脂は、生分解性を有することから、本発明の管状組織吻合器具は、生分解性に優れた吻合器具となる。
【0020】
[5]上記[4]に記載の管状組織吻合器具(1b)においては、前記外側及び内側吻合部材(10b,20b)はともに、脂肪族エステル系樹脂から構成された前記形状記憶性能を備えるものであり、前記外側吻合部材(10b)は、所定温度以上に再加熱することにより、前記隙間を狭くするように前記第2形状から前記第1形状へと収縮変形可能に構成されており、前記内側吻合部材(20b)は、所定温度以上に再加熱することにより、前記隙間を狭くするように前記第2形状から前記第1形状へと拡張変形可能に構成されていることが好ましい。
【0021】
このように構成することにより、各吻合部材を所定温度に再加熱したときに2つの吻合部材と管状組織との間に発生する挟持力をより強くすることが可能となるため、吻合力の強い管状組織吻合器具となる。
【0022】
[6]上記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の管状組織吻合器具においては、前記外側及び内側吻合部材のうち少なくとも一方の吻合部材は、複数の孔が設けられた構造を有することが好ましい。
【0023】
このように構成することにより、吻合部分の管状組織に加わる圧力を軽減することができるため、吻合部分の管状組織の表層部を通る血流が滞ってしまうのを抑制することができ、結果として、吻合部分の細胞が壊死するのをさらに抑制することが可能となる。
【0024】
なお、特許請求の範囲及び本欄(課題を解決するための手段の欄)に記載した各部材等の文言下に括弧をもって付加された符号は、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容の理解を容易にするために用いられたものであって、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態1に係る管状組織吻合器具1を説明するために示す図。
【図2】外側吻合部材10の製造方法を説明するために示すフローチャート。
【図3】外側吻合部材10製造時の温度条件を模式的に示す図。
【図4】実施形態1に係る管状組織吻合器具1を用いて血管を吻合する方法を説明するために示す図。
【図5】実施形態1に係る管状組織吻合器具1を用いて血管を吻合する方法を説明するために示す図。
【図6】管状組織吻合器具1を用いて血管を吻合する方法の変形例を説明するために示す図。
【図7】実施形態2に係る管状組織吻合器具2を説明するために示す図。
【図8】実施形態1の変形例1〜4に係る管状組織吻合器具1a〜1dを説明するために示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の管状組織吻合器具について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、管状組織の一例としての血管に、本発明の管状組織吻合器具を用いた場合を例示して説明する。
【0027】
[実施形態1]
まず、実施形態1に係る管状組織吻合器具1の構成について、図1を用いて説明する。
図1は、実施形態1に係る管状組織吻合器具1を説明するために示す図である。図1(a)は管状組織吻合器具1の斜視図であり、図1(b)は管状組織吻合器具1の正面図(図1(a)のA方向から見た図)であり、図1(c)は管状組織吻合器具1の背面図であり、図1(d)は管状組織吻合器具1の平面図であり、図1(e)は管状組織吻合器具1の右側面図である。なお、図1(a)は、外側吻合部材10と内側吻合部材20とを組み合わせていない状態で図示しており、図1(b)〜図1(e)は、外側吻合部材10と内側吻合部材20とを組み合わせた状態で図示している。
【0028】
実施形態1に係る管状組織吻合器具1は、図1に示すように、外側吻合部材10と、外側吻合部材10との間に所定の隙間gを設けるようにして外側吻合部材10の内側に配置された内側吻合部材20とを備える。
管状組織吻合器具1は、詳細については後述するが、血管の吻合対象部分を隙間gに配置した状態で、外側及び内側吻合部材10,20で当該吻合対象部分を挟むように吻合するタイプのものである。
【0029】
外側吻合部材10は、略管状であって、一方側の開口端12から他方側の開口端14に向けて側面の一部が削除された形状である。実施形態1の場合、図1(a)及び図1(e)から分かるように、外側吻合部材10は断面C字状となる形状である。
外側吻合部材10の切欠き角度θ(図1(e)参照。)は、例えば140度である。ここで、「切欠き角度」とは、吻合部材(外側吻合部材10)を管軸1ax方向に沿って見たとき(図1(e)に示すようにして見たとき)の、管軸1axを中心として側面の一方端部16から他方端部18までの角度のことをいう。
【0030】
内側吻合部材20は、直管状であり、図1(a)及び図1(e)から分かるように、断面円環状となる形状である。
【0031】
外側吻合部材10は、長さが例えば2.0mmであり、内径が例えば1.5mmであり、肉厚が例えば0.2mmに設定されている。
内側吻合部材20は、長さが例えば3.0mmであり、内径が例えば1.1mmであり、肉厚が例えば0.3mmに設定されている。
なお、本発明の管状組織吻合器具における外側及び内側吻合部材の長さ等については、これらの数値に限定されるものではない。
【0032】
外側及び内側吻合部材10,20は、脂肪族エステル系樹脂から構成されている。脂肪族エステル系樹脂としては、例えば、ポリ(ラクチド)類、ポリ(グリコリド)類、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)類、ポリ(乳酸)類、ポリ(グリコール酸)類、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)類、ポリカプロラクトン類、ポリカーボネート類、ポリエステルアミド類、ポリアンヒドリド類、ポリ(アミノ酸)類、ポリオルトエステル類、ポリアセタール類、ポリシアノアクリレート類、ポリエーテルエステル類、ポリ(ジオキサノン)類、ポリ(アルキレンアルキレート)類、ポリエチレングリコールとポリオルトエステルとのコポリマー、生分解性ポリウレタン混合物、その他これらの共重合体、ポリマーアロイなどの樹脂を好適に用いることができる。
実施形態1の場合、外側及び内側吻合部材10,20は、例えば、ポリ乳酸−ポリグリコール酸−ポリεカプロラクトンの共重合体から構成されている。
【0033】
詳細については後述するが、外側吻合部材10は、所定の形状記憶処理が施された、形状記憶性能を備える部材であって、所定温度以上に再加熱することにより、隙間gを狭くするようにその形状を変形可能に構成されている。
【0034】
次に、外側吻合部材10の製造方法について、図2及び図3を用いてさらに詳細に説明する。
図2は、外側吻合部材10の製造方法を説明するために示すフローチャートである。図3は、外側吻合部材10製造時の温度条件を模式的に示す図である。
【0035】
外側吻合部材10は、図2に示すように、成形工程(成形体作製工程)S1、変形処理工程S2及び形状固定工程S3を行うことにより製造することができる。以下、これら各工程を順に説明する。
【0036】
1.成形工程(成形体作製工程)S1
まず、脂肪族エステル系樹脂を、所定の成形温度T1に加熱して第1形状に成形する。このとき作製された第1形状からなる成形体は、図示による説明は省略するが、略管状であって、一方側の開口端から他方側の開口端に向けて側面の一部が削除された形状(図1に示す外側吻合部材10と同様の形状)である。ただし、外側吻合部材10よりも内径が小さい。
成形工程S1における成形温度T1は、図3に示すように、使用する樹脂のガラス転移点Tgよりも高く当該樹脂の融点Tmよりも低い温度である。脂肪族エステル系樹脂として「ポリ乳酸−ポリグリコール酸−ポリεカプロラクトンの共重合体」を用いた場合、成形温度T1は、例えば約120℃であり、ガラス転移点Tgは、例えば約60℃であり、融点Tmは、例えば約135℃である。
なお、作製後の成形体は、室温まで急冷している。
【0037】
2.変形処理工程S2
次に、第1形状からなる成形体を、ガラス転移点Tgよりも高く融点Tmよりも低い温度T2に加熱し、第2形状に変形処理する。このとき作製された第2形状からなる中間体は、図示による説明は省略するが、略管状であって、一方側の開口端から他方側の開口端に向けて側面の一部が削除された形状(図1に示す外側吻合部材10と同様の形状)である。また、第2形状からなる中間体は、内径寸法も含めて、外側吻合部材10とほぼ同じサイズである。
脂肪族エステル系樹脂として「ポリ乳酸−ポリグリコール酸−ポリεカプロラクトンの共重合体」を用いた場合、温度T2は、例えば約70℃である。
【0038】
3.形状固定工程S3
そして、変形処理された第2形状からなる中間体を、ガラス転移点Tgよりも低い温度T3に冷却して(例えば、25℃程度の室温環境下に放置して)、第2形状に形状固定する。
【0039】
以上の工程を行うことによって製造された外側吻合部材10は、所定温度T4以上に再び加熱することにより、上記した第2形状から第1形状へと変形可能に構成されている。脂肪族エステル系樹脂として「ポリ乳酸−ポリグリコール酸−ポリεカプロラクトンの共重合体」を用いた場合、この再加熱したときの温度(以下、再加熱温度)T4は、例えば約60℃である。
なお、人体の体温が約35℃〜37℃であることから、再加熱温度T4は、40℃以上であることが好ましい。一方、再加熱したときの生体組織の細胞への影響を考慮すると、再加熱温度T4は、70℃以下であることが好ましい。
このような観点から、再加熱温度T4は、40℃〜70℃であることが好ましい。
【0040】
次に、実施形態1に係る管状組織吻合器具1を用いて血管を吻合する方法の一例について、図4及び図5を用いて説明する。
図4及び図5は、実施形態1に係る管状組織吻合器具1を用いて血管を吻合する方法を説明するために示す図である。図4(a)〜図5(e−1)及び図5(e−2)は血管を吻合する流れを示す図である。図4(a)〜図4(d)並びに図5(a)、図5(b−1)、図5(d−2)及び図5(e−2)においては、外側及び内側吻合部材10,20並びに血管V1,V2を側面断面で図示しており、図5(b−2)、図5(c)、図5(d−1)及び図5(e−1)においては、図5(b−1)のA−A線で切断したときの断面で図示している。
なお、図4及び図5においては、発明の理解を容易にするため、外側及び内側吻合部材10,20の肉厚並びに血管V1,V2の厚み(血管壁の厚み)については、模式的に図示している。また、図4においては、血管V1の外径と内側吻合部材20の内径とを同じにしたものを図示しているが、これは図の簡略化を図ったことに由来するものであり、血管V1の外径と内側吻合部材20の内径とが同じである必要はない。
【0041】
管状組織吻合器具1を用いて2つの血管V1,V2を吻合するにあたっては、まず、図4(a)〜図4(c)に示すように、内側吻合部材20を一方の血管V1の外側に通し、内側吻合部材20を所定位置まで移動させる。
次に、図4(c)及び図4(d)に示すように、血管V1の内面が露出するようにして血管V1の端部を外側に折り返す。
次に、図5(a)〜図5(b−2)に示すように、血管V1の内面の露出した部分(折り返された部分)を覆うように血管V2を被せ、血管V1と血管V2とを重ね合わせる。このようにすると、血管V1,V2の内面同士が接することとなる。
次に、図5(c)に示すように、血管V1,V2の側方から外側吻合部材10を取り付ける。外側吻合部材10を取り付けると、図5(d−1)及び図5(d−2)から分かるように、外側吻合部材10と内側吻合部材20との間(隙間)に血管V1,V2の吻合対象部分が配置された状態となる。
そして、外側吻合部材10を所定温度以上(例えば60℃)に加熱する。これにより、外側吻合部材10と内側吻合部材20との隙間が狭くなる方向(図5(d−1)及び図5(d−2)の白矢印方向)に向けて、外側吻合部材10が収縮変形し、血管V1,V2の吻合が完了する(図5(e−1)及び図5(e−2)参照。)。
【0042】
以上のように構成された実施形態1に係る管状組織吻合器具1によれば、血管V1,V2を吻合するにあたり、血管V1,V2に対して外側及び内側吻合部材10,20を配置した後、形状記憶性能を備える外側吻合部材10を所定温度以上に再び加熱するだけでよいことから、縫合糸で血管を縫合するといった非常に煩雑な作業を行わなくてよい。その結果、手術効率を大幅に向上することが可能となるとともに、術者の手技レベルへの依存度を極力低くすることが可能となる。
【0043】
また、実施形態1に係る管状組織吻合器具1によれば、血管の外面側に配置される外側吻合部材10が、一方側の開口端12から他方側の開口端14に向けて側面の一部が削除された形状であるため、外側吻合部材10を血管の外周面に配置したときの、外側吻合部材10が配置された部分の血管を周方向に沿って見ると、外側吻合部材10と接触している部分(接触部分)と接触していない部分(非接触部分)とが存在することとなる。この非接触部分が、表層部を流れる血液の流路となり得るため、血管外周面の表層部の血流が吻合部材によって遮断されてしまうことが無くなり、結果として、血管外周面の表層部に存在する細胞が壊死するのを抑制することが可能となる。
【0044】
したがって、実施形態1に係る管状組織吻合器具1は、手術効率を大幅に向上することが可能で、かつ、術者の手技レベルへの依存度を極力低くすることを可能としつつ、血管外周面の表層部に存在する細胞の壊死を抑制することが可能な管状組織吻合器具となる。
【0045】
また、実施形態1に係る管状組織吻合器具1によれば、上述したように、外側吻合部材10の側面の一部が削除された形状であることから、血管V1,V2を吻合するにあたって、外側吻合部材10の中に血管V1又は血管V2の一方端をわざわざ通さなくても、外側吻合部材10の側面の当該削除された部分を介して血管V1,V2の側方から外側吻合部材10を取り付けることが可能である(図5(c)参照。)。このため、手術効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0046】
実施形態1に係る管状組織吻合器具1においては、外側吻合部材10は、脂肪族エステル系樹脂をもとにして、上記した形状記憶処理が施されたものである。これにより、例えば形状記憶合金からなる吻合部材を用いた場合に比べて、軽量で成形が容易となり、コスト面での低廉化も図ることが可能となる。また、脂肪族エステル系樹脂は、生分解性を有することから、実施形態1に係る管状組織吻合器具1は、生分解性に優れた吻合器具となる。
【0047】
[変形例]
上記実施形態1では、実施形態1に係る管状組織吻合器具1を用いて血管を吻合する方法として、図4及び図5を用いて説明したように、血管V1,V2の内面同士が接するようにして血管V1,V2を吻合する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のようにして血管を吻合する方法もある。
【0048】
図6は、管状組織吻合器具1を用いて血管を吻合する方法の変形例を説明するために示す図である。図6(a)〜図6(f−1)及び図6(f−2)は血管を吻合する流れを示す図である。図6(a)、図6(b)、図6(e−2)及び図6(f−2)においては、外側及び内側吻合部材10,20並びに血管V1,V2を側面断面で図示しており、図6(c)、図6(d)、図6(e−1)及び図6(f−1)においては、図6(b)のB−B線で切断したときの断面で図示している。
なお、図6においては、発明の理解を容易にするため、外側及び内側吻合部材10,20の肉厚並びに血管V1,V2の厚み(血管壁の厚み)については、模式的に図示している。また、図6においては、血管V1,V2の内径と内側吻合部材20の外径とを同じにしたものを図示しているが、これは図の簡略化を図ったことに由来するものであり、血管V1,V2の内径と内側吻合部材20の外径とが同じである必要はない。
【0049】
管状組織吻合器具1を用いて血管を吻合する方法の変形例として、まず、図6(a)〜図6(c)に示すように、内側吻合部材20を血管V1,V2の内側に通す。このとき、血管V1の端部と血管V2の端部とを当接させる。
次に、図6(d)に示すように、血管V1,V2の側方から外側吻合部材10を取り付ける。外側吻合部材10を取り付けると、図6(e−1)及び図6(e−2)から分かるように、外側吻合部材10と内側吻合部材20との間(隙間)に血管V1,V2の吻合対象部分が配置された状態となる。
そして、外側吻合部材10を所定温度以上(例えば60℃)に加熱する。これにより、外側吻合部材10と内側吻合部材20との隙間が狭くなる方向(図6(e−1)及び図6(e−2)の白矢印方向)に向けて、外側吻合部材10が収縮変形し、血管V1,V2の吻合が完了する(図6(f−1)及び図6(f−2)参照。)。
【0050】
管状組織吻合器具1を用いて上記変形例のように吻合した場合であっても、血管V1,V2を確実に吻合することができる。
【0051】
[実施形態2]
図7は、実施形態2に係る管状組織吻合器具2を説明するために示す図である。図7(a)は管状組織吻合器具2の斜視図であり、図7(b)は管状組織吻合器具2の正面図(図7(a)のA方向から見た図)であり、図7(c)は管状組織吻合器具2の平面図であり、図7(d)は図7(b)のC−C線断面図であり、図7(e)は図7(b)のD−D線断面図である。なお、図7(a)は、外側吻合部材30と内側吻合部材20とを組み合わせていない状態で図示しており、図7(b)〜図7(e)は、外側吻合部材30と内側吻合部材20とを組み合わせた状態で図示している。また、図7において、図1と同一の部材については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0052】
実施形態2に係る管状組織吻合器具2は、基本的には実施形態1に係る管状組織吻合器具1と良く似た構成を有するが、外側吻合部材の構成が、実施形態1に係る管状組織吻合器具1とは異なる。
【0053】
すなわち、実施形態2に係る管状組織吻合器具2においては、図7に示すように、外側吻合部材30は、2つのリング状部材32,36からなる。各リング状部材32,36は、図7(a)及び図7(b)に示すように、略四角形の端面を有する。各リング状部材32,36は、図7(b)及び図7(c)に示すように、管軸2ax方向に沿って所定距離をあけて並置されている。
【0054】
各リング状部材32,36は、図7(d)及び図7(e)に示すように、一方側の開口端33,37から他方側の開口端34,38に向けて側面の一部が削除された形状(C字状)である。2つのリング状部材32,36を吻合対象部分に配置したとき(外側吻合部材30と内側吻合部材20とを組み合わせた状態のとき)の、リング状部材32,36の当該削除された部分の位置は、図7(d)及び図7(e)から分かるように、周方向に沿って180度ずれている。言い換えれば、隣り合うリング状部材32,36は、当該削除された部分の位置が管軸2axを中心として点対称となるように配置されている。
各リング状部材32,36の切欠き角度θ(図7(d)及び図7(e)参照。)は、例えば140度である。
【0055】
なお、詳細な説明は省略するが、外側吻合部材30(リング状部材32,36)には、実施形態1で説明した外側吻合部材10と同様の形状記憶処理が施されている。このため、外側吻合部材30(リング状部材32,36)は、所定温度以上(例えば60℃)に再加熱することにより、隙間g(図7(d)及び図7(e)参照。)を狭くするようにその形状を変形可能である。
【0056】
このように、実施形態2に係る管状組織吻合器具2は、実施形態1に係る管状組織吻合器具1とは、外側吻合部材の構成が異なるが、実施形態1に係る管状組織吻合器具1の場合と同様に、血管を吻合するにあたり、血管に対して外側及び内側吻合部材30,20を配置した後、形状記憶性能を備える外側吻合部材30(リング状部材32,36)を所定温度以上に再び加熱するだけでよいことから、縫合糸で血管を縫合するといった非常に煩雑な作業を行わなくてよい。その結果、手術効率を大幅に向上することが可能となるとともに、術者の手技レベルへの依存度を極力低くすることが可能となる。
また、実施形態2に係る管状組織吻合器具2によれば、血管の外面側に配置されるリング状部材32,36が、一方側の開口端33,37から他方側の開口端34,38に向けて側面の一部が削除された形状(C字状)であるため、実施形態1に係る管状組織吻合器具1の場合と同様の理由により、血管外周面の表層部に存在する細胞が壊死するのを抑制することが可能となる。
したがって、実施形態2に係る管状組織吻合器具2は、手術効率を大幅に向上することが可能で、かつ、術者の手技レベルへの依存度を極力低くすることを可能としつつ、血管外周面の表層部に存在する細胞の壊死を抑制することが可能な管状組織吻合器具となる。
【0057】
実施形態2に係る管状組織吻合器具2においては、外側吻合部材30は、2つのリング状部材32,36からなり、2つのリング状部材32,36のそれぞれは、一方側の開口端33,37から他方側の開口端34,38に向けて側面の一部が削除された形状(C字状)である。また、2つのリング状部材32,36を吻合対象部分に配置したときの、隣り合うリング状部材の当該削除された部分の位置は、周方向に沿って所定量(例えば180度)ずれている。これにより、血管に望ましくない応力が加わったとしても外側吻合部材30(リング状部材32,36)が外れにくくなるため、吻合力の強い管状組織吻合器具となる。
【0058】
実施形態2に係る管状組織吻合器具2においては、リング状部材32,36は、削除された部分の位置が管軸2axを中心として点対称となるように配置されている。これにより、外側吻合部材30(リング状部材32,36)がより外れにくくなるため、吻合力をより強くすることが可能となる。また、上記のように構成することにより、リング状部材32とリング状部材36との間の領域の表層部に対して血液を満遍なく行き渡らせることが可能となるため、血管外周面の表層部に存在する細胞の壊死をさらに抑制することが可能となる。
【0059】
実施形態2に係る管状組織吻合器具2は、外側吻合部材の構成が異なる点以外では、実施形態1に係る管状組織吻合器具1と同様の構成を有するため、実施形態1に係る管状組織吻合器具1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0060】
以上、本発明の管状組織吻合器具を上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0061】
(1)上記各実施形態においては、外側吻合部材のみ所定の形状記憶処理が施され、かつ、当該外側吻合部材が収縮変形する場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
図8は、実施形態1の変形例1〜4に係る管状組織吻合器具1a〜1dを説明するために示す図である。図8(a−1)及び図8(a−2)は変形例1に係る管状組織吻合器具1aを説明するために示す側面断面図であり、図8(b−1)及び図8(b−2)は変形例2に係る管状組織吻合器具1bを説明するために示す側面断面図であり、図8(c−1)及び図8(c−2)は変形例3に係る管状組織吻合器具1cを説明するために示す側面断面図であり、図8(d−1)及び図8(d−2)は変形例4に係る管状組織吻合器具1dを説明するために示す側面断面図である。なお、図8(a−1)〜図8(d−1)は所定温度以上に再加熱する前の状態を図示しており、図8(a−2)〜図8(d−2)は所定温度以上に再加熱した後の状態を図示している。また、図8(a−1)〜図8(d−1)に示す白矢印は、各吻合部材の拡張又は収縮を表すものであり、その矢印の大きさは、拡張又は収縮する力(拡張度合い又は収縮度合い)を模式的に表すものである。
変形例1に係る管状組織吻合器具1aにおいては、図8(a−1)及び図8(a−2)に示すように、外側吻合部材10aには所定の形状記憶処理が施されておらず、内側吻合部材20aに所定の形状記憶処理が施されている。内側吻合部材20aは、所定温度以上に再加熱することにより、外側吻合部材10aと内側吻合部材20aとの隙間を狭くするようにその形状を拡張変形可能に構成されている。
変形例2に係る管状組織吻合器具1bにおいては、図8(b−1)及び図8(b−2)に示すように、外側及び内側吻合部材10b,20bの両方に所定の形状記憶処理が施されている。外側吻合部材10bは、所定温度以上に再加熱することにより、外側吻合部材10bと内側吻合部材20bとの隙間を狭くするようにその形状を収縮変形可能に構成されている。内側吻合部材20bは、所定温度以上に再加熱することにより、外側吻合部材10bと内側吻合部材20bとの隙間を狭くするようにその形状を拡張変形可能に構成されている。
変形例3に係る管状組織吻合器具1cにおいては、図8(c−1)及び図8(c−2)に示すように、外側及び内側吻合部材10c,20cの両方に所定の形状記憶処理が施されている。外側吻合部材10cは、所定温度以上に再加熱することにより、外側吻合部材10cと内側吻合部材20cとの隙間を広くする方向に向けてその形状を拡張変形可能に構成されている。内側吻合部材20cは、所定温度以上に再加熱することにより、外側吻合部材10cと内側吻合部材20cとの隙間を狭くするようにその形状を拡張変形可能に構成されている。このとき、内側吻合部材20cは外側吻合部材10cに比べて、その拡張度合いが大きいことから、全体的に見れば外側吻合部材10cと内側吻合部材20cとの隙間は狭くなることとなる。
変形例4に係る管状組織吻合器具1dにおいては、図8(d−1)及び図8(d−2)に示すように、外側及び内側吻合部材10d,20dの両方に所定の形状記憶処理が施されている。外側吻合部材10dは、所定温度以上に再加熱することにより、外側吻合部材10dと内側吻合部材20dとの隙間を狭くするようにその形状を収縮変形可能に構成されている。内側吻合部材20dは、所定温度以上に再加熱することにより、外側吻合部材10dと内側吻合部材20dとの隙間を広くする方向に向けてその形状を収縮変形可能に構成されている。このとき、外側吻合部材10dは内側吻合部材20dに比べて、その収縮度合いが大きいことから、全体的に見れば外側吻合部材10dと内側吻合部材20dとの隙間は狭くなることとなる。
変形例1〜4に係る管状組織吻合器具1a〜1dに示すように各吻合部材が構成されている場合であっても、2つの血管V1,V2を吻合することができる。
なお、変形例2に係る管状組織吻合器具1bの場合においては、外側吻合部材10bが、上記のように収縮変形可能に構成されており、内側吻合部材20bが、上記のように拡張変形可能に構成されているため、外側及び内側吻合部材10c,20cを所定温度に再加熱したときに、外側及び内側吻合部材10c,20cと血管V1,V2との間に発生する挟持力をより強くすることが可能となる。その結果、吻合力の強い管状組織吻合器具となる。
ここで示す変形例1〜4は実施形態1の変形例であるが、実施形態2の場合(外側吻合部材が複数のリング状部材からなる場合)についても変形例1〜4と同様の変形が可能である。
【0062】
(2)上記各実施形態においては、外側及び内側吻合部材は、側面(管壁部分)に孔が設けられていない構造(側面が平らな構造)であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、側面(管壁部分)に複数の孔が設けられた構造であってもよい。この場合、吻合部分の血管に加わる圧力を軽減することができるため、吻合部分の血管の表層部を通る血流が滞ってしまうのを抑制することができ、結果として、吻合部分の細胞が壊死するのをさらに抑制することが可能となる。
側面(管壁部分)に複数の孔が設けられた構造である場合には、例えばメッシュのように、比較的大きな孔が均等に配列されたものであってもよいし、さほど大きくない孔が均等あるいは不均等に配列(配置)されたものであってもよい。
【0063】
(3)上記各実施形態においては、外側吻合部材の切欠き角度θが140度に設定されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。外側及び内側吻合部材でもって管状組織を吻合したときに、外側吻合部材が外れてしまわない角度であればよく、切欠き角度θが140度よりも大きな角度(例えば180度)に設定されていてもよいし、140度よりも小さな角度(例えば90度)に設定されていてもよい。
【0064】
(4)上記実施形態1においては、外側吻合部材10の長さが内側吻合部材20の長さよりも短く設定されている場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、外側吻合部材と内側吻合部材が同じ長さであってもよいし、外側吻合部材が内側吻合部材よりも長くてもよい。
【0065】
(5)上記実施形態2においては、外側吻合部材として、2つのリング状部材32,36からなる外側吻合部材30を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、3つ以上のリング状部材からなる外側吻合部材であってもよい。
【0066】
(6)上記実施形態2においては、各リング状部材32,36の端面が略四角形である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、端面が略四角形以外の多角形(例えば略六角形など)であるリング状部材であってもよいし、端面が略円形(例えば円形、楕円形など)であるリング状部材であってもよい。
【0067】
(7)上記各実施形態においては、内側吻合部材が、円管である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、断面四角形の角管であってもよい。同様に、上記各実施形態においては、外側吻合部材が、円管の側面一部が削除された形状(断面C字状)である場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、角管の側面一部が削除された形状(断面コの字状)であってもよい。
【0068】
(8)上記各実施形態においては、外側及び内側吻合部材が、脂肪族エステル系樹脂のうち同じ材料で構成されていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、外側吻合部材と内側吻合部材とが脂肪族エステル系樹脂のうち異なる材料で構成されていてもよい。
【0069】
(9)上記実施形態1においては、図3に示したように、成形工程S1における成形温度T1が、変形処理工程S2における温度T2よりも高い場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。外側吻合部材の材料として、「ポリ乳酸−ポリグリコール酸−ポリεカプロラクトンの共重合体」以外の脂肪族エステル系樹脂を用いた場合には、成形温度T1と温度T2とが同じとなる可能性もあるし、成形温度T1が温度T2よりも低くなる可能性もある。ただし、この場合においても、成形温度T1及び温度T2は、使用する樹脂のガラス転移点Tgよりも高く当該樹脂の融点Tmよりも低い温度となる。
【0070】
(10)上記各実施形態においては、「成形工程(成形体作製工程)S1」、「変形処理工程S2」及び「形状固定工程S3」を含む方法(図2参照。)によって、外側吻合部材に所定の形状記憶処理を施す場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、これ以外の方法で外側吻合部材(又は内側吻合部材)に所定の形状記憶処理を施してもよい。その場合、脂肪族エステル系樹脂以外の材料であっても形状記憶処理を施すことができるのであれば、脂肪族エステル系樹脂以外の材料(例えば形状記憶合金)を用いてもよい。
【0071】
(11)上記各実施形態においては、管状組織吻合器具を用いて血管を吻合する場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、血管以外の管状組織(例えば、消化管、胆管、尿管、尿道等)を吻合するために用いてもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
1,1a〜1d,2 管状組織吻合器具
1ax,2ax 管軸
10,10a〜10d,30 外側吻合部材
12,14 (外側吻合部材の)開口端
16,18 (外側吻合部材の)側面の端部
20,20a〜20d 内側吻合部材
22,24 (内側吻合部材の)開口端
32,36 リング状部材
33,34,37,38 (リング状部材の)開口端
g (外側吻合部材と内側吻合部材との)隙間
V1,V2 血管
θ 切欠き角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略管状の外側吻合部材(10)と、
前記外側吻合部材(10)との間に所定の隙間(g)を設けるようにして前記外側吻合部材(10)の内側に配置される略管状の内側吻合部材(20)とを備える管状組織吻合器具(1)であって、
当該管状組織吻合器具は、管状組織の吻合対象部分を前記隙間に配置した状態で、前記外側及び内側吻合部材で当該吻合対象部分を挟むように吻合するタイプのものであり、
前記外側及び内側吻合部材(10,20)のうち少なくとも一方の吻合部材は、
所定の形状記憶処理が施された、形状記憶性能を備える部材であって、所定温度以上に再加熱することにより、前記隙間を狭くするようにその形状を変形可能に構成されており、
前記外側吻合部材(10)は、一方側の開口端(12)から他方側の開口端(14)に向けて側面の一部が削除された形状であることを特徴とする管状組織吻合器具(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の管状組織吻合器具において、
前記外側吻合部材(30)は、複数のリング状部材(32,36)からなり、
前記複数のリング状部材(32,36)のそれぞれは、一方側の開口端から他方側の開口端に向けて側面の一部が削除された形状であり、
前記複数のリング状部材(32,36)を前記吻合対象部分に配置したときの、隣り合う前記リング状部材の当該削除された部分の位置は、周方向に沿って所定量ずれていることを特徴とする管状組織吻合器具(2)。
【請求項3】
請求項2に記載の管状組織吻合器具において、
前記隣り合うリング状部材(32,36)は、前記削除された部分の位置が管軸(2ax)を中心として点対称となるように配置されていることを特徴とする管状組織吻合器具(2)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の管状組織吻合器具において、
前記外側及び内側吻合部材のうち前記所定の形状記憶処理が施されたほうの吻合部材(10)は、
脂肪族エステル系樹脂を、所定の成形温度に加熱して第1形状に成形し、当該第1形状からなる成形体を前記樹脂のガラス転移点よりも高く前記樹脂の融点よりも低い温度で第2形状に変形処理し、当該変形処理された前記第2形状からなる中間体を前記樹脂のガラス転移点よりも低い温度に冷却して前記第2形状に形状固定することにより形成された、形状記憶性能を備えるものであり、かつ、
所定温度以上に再加熱することにより、前記隙間を狭くするように前記第2形状から前記第1形状へと変形可能に構成されていることを特徴とする管状組織吻合器具(1)。
【請求項5】
請求項4に記載の管状組織吻合器具において、
前記外側及び内側吻合部材(10b,20b)はともに、脂肪族エステル系樹脂から構成された前記形状記憶性能を備えるものであり、
前記外側吻合部材(10b)は、所定温度以上に再加熱することにより、前記隙間を狭くするように前記第2形状から前記第1形状へと収縮変形可能に構成されており、
前記内側吻合部材(20b)は、所定温度以上に再加熱することにより、前記隙間を狭くするように前記第2形状から前記第1形状へと拡張変形可能に構成されていることを特徴とする管状組織吻合器具(1b)。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の管状組織吻合器具において、
前記外側及び内側吻合部材のうち少なくとも一方の吻合部材は、複数の孔が設けられた構造を有することを特徴とする管状組織吻合器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−110262(P2011−110262A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270154(P2009−270154)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000200035)川澄化学工業株式会社 (103)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】