説明

管球における溶融接合構造体およびその製造方法

【課題】安定した高強度な溶接強度を得られ、変形不良の削減、溶接強度不足不良の削減、溶接穴あき不良の削減が実現できる管球における溶融接合構造体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】管球における高融点金属からなる導電部材5と金属箔6の溶融接合構造体であって、高融点金属からなる導電部材5の表面に金属箔6が重ねられた領域において、導電部材の高融点金属5と金属箔6とが溶融化されて、導電部材の高融点金属5が金属箔6の表面に形成された開口の周縁を覆っていることを特徴とする。また、管球における溶融接合構造体の製造方法であって、高融点金属からなる導電部材5の表面に金属箔6が重ねられた領域において、金属箔6側から、ファイバーレーザー装置によってエネルギーが40MW/cm以上のレーザー光を照射して導電部材5と金属箔6を接合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管球の給電構造に係わる溶融接合構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、OA用ハロゲンランプや、液晶プロジェクタ光源用の水銀ランプや、一般照明用のメタルハライドランプ等においては、封止部において内部リードと外部リードとを金属箔を介して接合し、管球内における発光空間の気密性を確保している。内部リードと外部リードとを金属箔に接合する場合、例えば、ピンチシールで封止されるOA用ハロゲンランプの金属箔と内部リードの接合部分や、シュリンクシールで封止されるプロジェクタ光源用の水銀ランプの金属箔と内部リードの接合部分は、従来は抵抗溶接法により接合されていた。
【0003】
しかし、抵抗溶接法では、溶接電極棒による経時変化により、溶接条件が変動し、溶接品質が安定せず、溶接強度が不足して剥離する剥離不良や、溶接により金属箔に穴があく穴あき不良が発生していた。さらに、抵抗溶接においては、溶接強度を得るために溶接時に加圧する必要があり、その加圧により電極やリード棒などの微細な部品に変形不良や折れ不良が発生するおそれがあった。
【0004】
特許文献1には、高圧放電ランプの製造において、タングステン電極とモリブデン箔の接合のために、抵抗溶接に替えYAGレーザーを用いたレーザー溶接により接合することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−363014号公報
【特許文献2】特開2003−257373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本件発明者らが実際にランプ電極のリード棒と金属箔をYAGレーザーによって溶接を行ったところ、図10に示すように、ランプに使用されるタングステン電極とモリブデン箔などの金属箔では、YAGレーザー溶接のエネルギーにより、溶接ナゲット部が再結晶し、溶接後の熱収縮によって再結晶部分と非再結晶部分の粒界が破断し易く、非常に脆い溶接となってしまう場合が多く、溶接剥がれ不良が発生することが分かった。
【0006】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑みて、安定した高強度な溶接強度を得られ、変形不良の削減、溶接強度不足不良の削減、溶接穴あき不良の削減が実現できる、管球における溶融接合構造体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用した。
第1の手段は、管球における高融点金属からなる導電部材と金属箔の溶融接合構造体であって、前記高融点金属からなる導電部材の表面に前記金属箔が重ねられた領域において、前記導電部材の高融点金属と前記金属箔とが溶融化されて、前記導電部材の高融点金属が前記金属箔の表面に形成された開口の周縁を覆っていることを特徴とする管球における溶融接合構造体である。
第2の手段は、第1の手段において、前記高融点金属からなる導電部材がタングステンまたはモリブデン、前記金属箔がモリブデンであることを特徴とする請求項1に記載の管球における溶融接合構造体である。
第3の手段は、第1の手段または第2の手段に記載の管球における溶融接合構造体の製造方法であって、前記高融点金属からなる導電部材の表面に前記金属箔が重ねられた領域において、前記金属箔側から、ファイバーレーザー装置によってエネルギーが40MW/cm以上のレーザー光を照射して前記導電部材と前記金属箔を接合したことを特徴とする管球における溶融接合構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の管球における溶融接合構造体によれば、安定した高強度な溶接強度を得られ、変形不良の削減、溶接強度不足不良の削減、溶接穴あき不良の削減が実現される。さらに、本発明の管球における溶融接合構造体の製造方法によれば、安定した高強度な溶接強度を有する溶融接合構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の溶融接合構造体が供される管球としては、ハロゲンランプに代表される白熱ランプや放電ランプがある。なお、本発明において、「導電部材」とはハロゲンランプで言えば、内部リード棒および外部リード棒を指し、1枚の金属箔封止を用いる放電ランプについては、電極芯棒および外部リード棒を指し、多数枚の金属箔封止を用いる放電ランプについては、金属箔が多数枚溶接される、電極芯棒に連設されたディスク状部材および外部リードに連設されたディスク状部材を指す。
【0010】
本発明の第1の実施形態を図1ないし図4を用いて説明する。
図1は、1枚の金属箔封止を用いた両端封止型の放電ランプの構成を示す断面図である。
同図に示すように、この放電ランプ1の放電容器2内には、一対の電極3が対向配置されており、放電容器2に連設された封止部4内に一対の電極3に高融点金属からなる電極芯棒5が接合された金属箔6が気密封止され、さらに金属箔6には外部リード7が接合されている。ここで、金属箔6は、例えば、特許文献2に示すように、高圧水銀ランプの封止部において平らで四角い平板形状の金属箔を改良した、金属箔の電極との溶接部分を小幅化し、電極の外表面を巻き付くように形成され、小幅化された部分以外の幅広部の断面が概略Ω状または概略W字状に形成されている。
【0011】
図2は、図1に示した放電ランプの封止部における溶融接合構造体の全体構成を示す平面図、図3はその斜視図である。
これらの図に示すように、高融点金属からなる導電部材としての電極芯棒5の表面に金属箔6が重ねられた領域において、ファイバーレーザーを照射して溶融化し、電極芯棒5と金属箔6とを接合したものである。溶接部8はファイバーレーザーが照射されて電極芯棒5と金属箔6とが接合された箇所を示す。なお、ここでは、電極芯棒5としてタングステン芯棒、金属箔6としてモリブデン箔を用いた場合の例を示す。
【0012】
図4は、図3に示した溶接部8の拡大断面図である。
同図に示すように、ファイバーレーザーを照射すると、タングステン芯棒からなる電極芯棒5とモリブデン箔からなる金属箔6とが溶融化して、タングステン芯棒5の溶融化されたタングステン9がモリブデン箔6の表面に形成された開口の周縁に肉盛りされたように覆われる。このように、タングステン芯棒5とモリブデン箔6表面の開口周縁に肉盛りされたタングステン9とが一体となって結合されているため、タングステン芯棒5とモリブデン箔6とが強固に結合される。
なお、典型的な導電部材材料と金属箔材料との組合わせは、タングステン(W)とモリブデン(Mo)、またはモリブデン(Mo)とモリブデン(Mo)である。これらの組合わせはランプ点灯時に高温となる封止部において、気密不良、箔溶断の防止のためにも好適な組み合わせである。
【0013】
本実施形態に係る溶融接合構造体は、次のようにして製造される。
導電部材としての電極芯棒5と金属箔6を重ね合わせ、金属箔6側から、エネルギー密度が40MW/cm以上としたファイバーレーザー装置からのレーザー光を照射する。
具体的には、モリブデン(Mo)箔−タングステン(W)芯棒の溶接において、ファイバーレーザー装置からのレーザー光の径を約20μmに絞り、エネルギー密度が40MW/cm以上、例えば、60MW/cmで、レーザー出力200Wの出力でモリブデン(Mo)箔側から100mm離間させて、レーザー光を2.5msec照射した。ここで、モリブデン(Mo)箔は、幅0.7mmのモリブデン箔をタングステン芯棒の形状に合わせて樋状に湾曲させて幅0.5mmとし、厚さが20μmであり、タングステン(W)芯棒は0.4mm径である。前述のように、レーザー光を照射したところ、重ねた材料の上材であるモリブデン(Mo)箔を貫通し、下材であるタングステン(W)が噴出し、噴出したタングステン(W)の一部は昇華するが、その他の噴出したタングステン(W)は表面の粘性が下がり周辺に流れ、モリブデン(Mo)箔の上に回りこみ、回り込んだタングステン(W)と下材であるタングステン(W)芯棒の間にモリブデン(Mo)箔を円周状に挟み、下材であるタングステン(W)芯棒の噴出した凹形状に凹んでいる図4で示した溶接構造とすることができた。
【0014】
本発明の第2の実施形態を図5および図6を用いて説明する。
図5は、多数枚の金属箔封止を用いた両端封止型の放電ランプの構成を示す断面図である。
同図に示すように、この放電ランプ11の放電容器12内には、一対の電極13が対向配置されており、放電容器12に連設された封止部14内に一対の電極13に高融点金属からなる電極芯棒15と一体に形成された金属ディスク18に接合された多数枚の金属箔16が気密封止され、さらに金属箔16は外部リード17が接合されている。
【0015】
図6(a)は、図5に示した放電ランプの封止部の溶接時における溶融接合構造体の全体構成を示す平面図、図6(b)はその側面図である。
これらの図に示すように、高融点金属からなる導電部材としての電極芯棒5と一体に形成された金属ディスク18の表面に多数枚の金属箔16が重ねられた領域において、ファイバーレーザーを照射して溶融化し、金属ディスク18と金属箔16とを接合したものである。溶接部19はファイバーレーザーが照射されて金属ディスク18と金属箔16とが接合された箇所を示す。なお、溶接後の金属箔16は図示矢印の方向に折り曲げられて、図5に示すように、封止部14内に配置される。ここでは、金属ディスク18としてモリブデンディスク、金属箔6としてモリブデン箔を用いた場合の例を示す。
【0016】
次に、本実施形態に係る溶融接合構造体は、次のようにして製造される。
導電部材としての電極芯棒5と一体に形成された金属ディスク18と金属箔6を重ね合わせ、金属箔6側から、エネルギー密度が40MW/cm以上としたファイバーレーザー装置からのレーザー光を照射する。
具体的には、モリブデン(Mo)箔−モリブデン(Mo)ディスクの溶接において、ファイバーレーザー装置からのレーザー光の径を約20μmに絞り、エネルギー密度を40MW/cm以上、例えば、60MW/cmとし、モリブデン(Mo)箔側から100mm離間させて、治具等でモリブデン(Mo)箔をモリブデン(Mo)ディスクに密着させておき、レーザー出力200Wの出力を数十msec照射した。モリブデン(Mo)箔は幅8〜12mm、厚み40μmであり、モリブデン(Mo)ディスクはφ17mm径である。上材であるモリブデン(Mo)箔40μm、下材であるφ17mm、厚さ0.5mmのモリブデン(Mo)ディスクを重ね、モリブデン(Mo)箔上からファイバーレ−ザーを用い、ビーム径を20μm以下に絞込み、レーザー出力200Wの出力を数十msec照射したところ、下材のモリブデン(Mo)ディスクから噴出したモリブデンにより上材のモリブデンMoを挟み込み、図4で示したと同様の溶接構造が得られた。
【0017】
本発明の第3の実施形態を図7を用いて説明する。
図7は、ハロゲンランプに代表される白熱ランプの封止部の溶接時における溶融接合構造体の全体構成を示す平面図である。
同図に示すように、高融点金属からなる導電部材としての外部リード21の表面にフィラメントコイル23と接続された金属箔22が重ねられた領域において、ファイバーレーザーを照射して溶融化し、外部リード21と金属箔22とを接合したものである。本実施形態の溶融接合構造体においても、第1および第2の実施形態の溶融接合構造体と同様に、図4で示したと同様の溶接構造が得られた。
【0018】
次に、従来の抵抗溶接、特許文献1に記載されているYAGレーザーを使用した溶接、および本発明のファイバーレーザーを使用した溶接で製作した、各々10個の溶融接合構造体を用いて、図8に示した実験方法に基づき得られた溶接強度の結果を図9に示す。
実験方法は、抵抗溶接の条件は、加圧2.0kgf、電圧2.0V、電流2.0kA、保持時間7msecである。YAGレーザー溶接の条件は、15MW/cmのエネルギー密度にて4msec照射した。ファイバーレーザー溶接の条件は、第1、2の実施形態で示した条件と同条件である。
図8に示すように、下材である電極芯棒を固定して、溶接された上材の金属箔を一旦折り曲げ、下材に対して垂直方向に引っ張り、金属箔が破断したときのピール強度を測定した。抵抗溶接による接合強度の平均値を100%として、YAGレーザー溶接およびファイバーレーザー溶接の接合強度を相対比較した。
図9は、溶接強度の測定結果を示す図である。同図から分かるように、モリブデン(Mo)−タングステン(W)接合の場合も、モリブデン(Mo)−モリブデン(Mo)接合の場合も、本発明の溶融接合構造体は、他の溶融接合構造体と比べて溶接強度のばらつきが少なく非常に安定して強固に結合されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図10】高融点金属からなる導電部材と金属箔の溶融接合構造体において、YAGレーザー溶接によれば溶接剥がれ不良が発生することを示す図である。
【図1】第1の実施形態に係る、1枚の金属箔封止を用いた両端封止型の放電ランプの構成を示す断面図である。
【図2】図1に示した放電ランプの封止部における溶融接合構造体の全体構成を示す平面図である。
【図3】図1に示した放電ランプの封止部における溶融接合構造体の全体構成を示す斜視図である。
【図4】図3に示した溶接部8の拡大断面図である。
【図5】第2の実施形態に係る、多数枚の金属箔封止を用いた両端封止型の放電ランプの構成を示す断面図である。
【図6】図5に示した放電ランプの封止部の溶接時における溶融接合構造体の全体構成を示す平面図および側面図である。
【図7】第3の実施形態に係る、ハロゲンランプに代表される白熱ランプの封止部の溶接時における溶融接合構造体の全体構成を示す平面図である。
【図8】溶接強度を測定するための実験方法を示す図である。
【図9】溶接強度の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 放電ランプ
2 放電容器
3 電極
4 封止部
5 電極芯棒
6 金属箔
7 外部リード
8 溶接部
9 タングステン
11 放電ランプ
12 放電容器
13 電極
14 封止部
15 電極芯棒
16 金属箔
17 外部リード
18 金属ディスク
21 外部リード
22 金属箔
23 フィラメントコイル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
管球における高融点金属からなる導電部材と金属箔の溶融接合構造体であって、
前記高融点金属からなる導電部材の表面に前記金属箔が重ねられた領域において、前記導電部材の高融点金属と前記金属箔とが溶融化されて、前記導電部材の高融点金属が前記金属箔の表面に形成された開口の周縁を覆っていることを特徴とする管球における溶融接合構造体。
【請求項2】
前記高融点金属からなる導電部材がタングステンまたはモリブデン、前記金属箔がモリブデンであることを特徴とする請求項1に記載の管球における溶融接合構造体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の管球における溶融接合構造体の製造方法であって、
前記高融点金属からなる導電部材の表面に前記金属箔が重ねられた領域において、前記金属箔側から、ファイバーレーザー装置によってエネルギーが40MW/cm以上のレーザー光を照射して前記導電部材と前記金属箔を接合したことを特徴とする管球における溶融接合構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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