説明

管継手の抜け止め部材

【課題】管継手に装着する抜け止め部材により接続管の軸方向及び周方向への移動を確実に防止する。
【解決手段】抜け止め部材(5)を冷間圧延鋼により形成するため、接続管(3)の外周面(4)に対してより深く食い込むことができ、接続管(3)を管継手(1)に強固に固定できる。また、管継手(1)内での接続管(3)の軸方向及び周方向への移動を確実に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管継手の抜け止め部材、特に機械加工、溶接加工又は被覆加工が施されない無頭管又はプレーンエンド管と呼ばれる接続管を接続する管継手に装着される抜け止め部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレーンエンド管を接続する管継手に使用される従来の抜け止め部材は、例えば、下記特許文献に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特許第1629578号公報
【特許文献2】特許第2547707号公報
【特許文献3】実開昭56−70280号公報
【0004】
無頭管又はプレーンエンド管は、機械加工、溶接加工又は被覆加工の施されない外周面を有する接続管を指し、接続管の外周面には一対の管を接続する凹凸が形成されない。このようなプレーンエンド管では、管継手により一度接続した後に、高圧で流れる内部流体からの内圧によって接続管が管継手から完全に外れる抜け出しが発生するおそれがあった。
【0005】
図7及び図8に示す特許文献1の管継手は、C形に形成されたハウジング部材(71)と、ハウジング部材(71)内に配置されて一対の接続管(3)の間隙を密封するシールスリーブ(72)とを備える。特許文献1の抜け止め部材は、シールスリーブ(72)とハウジング部材(71)の折り曲げ端部(75)との間に配置されて接続管(3)が挿入される円錐台形のばね輪(74)と、ばね輪(74)の下方でハウジング部材(71)の折り曲げ端部(75)と接続管(3)との間に配置される支持リング(76)と、ばね輪(74)の上方でハウジング部材(71)とシールスリーブ(72)との間に配置されるスナップリング(73)とを有する。ばね輪(74)は、金属の薄板から円錘台形に成形される。ハウジング部材(71)内に配置されるシールスリーブ(72)は、接続管(3)の外周面(4)に圧接されて密封構造を形成する。ばね輪(74)の小径側端部に設けられるエッジ(74a)は、接続管(3)に当接する。締付部材(78)を締め付けると、ハウジング部材(71)が縮径されて、ばね輪(74)のエッジ(74a)が接続管(3)の外周面(4)に食い込み、接続管(3)の管継手(1)からの抜け出しが阻止される。
【0006】
ところで、一枚の環状金属板により形成される円錐台形で皿状のばね輪(74)は、締付部材(78)を締め付けることにより接続管(3)の外周面(4)に押圧される押圧力によって撓みが生じるため、接続管(3)の外周面(4)に十分に食い込まない難点がある。そこで、最終的にばね輪(74)のエッジ(74a)が接続管(3)の外周面(4)に食い込むまで締付部材(78)を十分に締め込む必要がある。例えば、締付部材(78)を軸方向に20〜30mmにも達する移動量で締め込む必要があり、例えば、1.5mmのピッチで形成されたねじを有する締付部材(78)を十分に締め付けるには、13〜20回転必要であり、施工性が悪い。また、抜け止め部材に使用されるビッカース硬度H200〜250のステンレス材では、接続管(3)に食い込んだ場合でも保持力が弱く、内部流体が接続管(4)内を流れる際の圧力に抗し切れず、ばね輪(74)と接続管(3)との間でずれが生ずる可能性もあった。
【0007】
特許文献2の抜け止め部材は、全体がほぼC形で接続管に固定される止輪と、外周側山型部が止輪の内周凹部に押圧され、内周面側が管外周面と接触する逆三角形の連続した複数の鋭角部を有するC形の楔とを備えている。締付部を締結すると、止輪の合口部分が縮径され、止輪の内側凹部に押圧された楔の鋭角部が接続管の外周面に食い込み、管継手本体に対する接続管の離脱を阻止する。
【0008】
特許文献3に示される抜け止め部材は、環状で円周上の一箇所を切欠かれ、断面の両端に周方向に連続した鋭角部を有して継手本体と接続管の間に配置される。抜け止め部材は、自由状態では接続管の外周面よりも小さい内径を有し、装着時には若干拡径して接続管の外周面に装着される。
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示される楔及び特許文献3に開示される抜け止め部材は、鋭角部が中心方向に同じ圧力で押圧され、周方向に連続した鋭角部を有するため周方向への回転力に対する固定が十分でなく、食い込みによる接続管の損傷が懸念された。また、炭素鋼の焼入品を使用した特許文献3の抜け止め部材は、接続管がステンレス鋼から成る場合に、抜け止め部材と接続管とが異なる金属となり、異種金属接触による腐食作用で、抜け止め部材と接続管との押圧部分の強度が低下することがあった。加えて、断面形状から歯先を切削加工などにより形成する必要があり製造コストが高くなる欠点があった。
【0010】
特許文献1のように接続管に対する抜け止め部材の食い込む能力に種々の改良、例えば、抜け止め部材先端に爪部などが加えられただけでは、薄板から製作される円錐台形で皿状の抜け止め部材の剛性は不十分である。例えば、施工時に、通常のステンレス鋼で形成された接続管の外周面に抜け止め部材が食い込むが、直径約100mm程度以上のステンレス鋼管では4MPa(メガパスカル)前後の高い圧力を内部流体にかけると、離脱方向の荷重によって管軸方向の微少移動により、接続管の外周面に食い込むべき抜け止め部材の歯先が塑性変形して、歯先の鋭利な先端部が失われることが実験により判明した。このため、歯先の十分な食い込みが不能となり、締付部材の締め付けトルク及び離脱阻止力が低下して脱管に至る可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、接続管の抜け出しを確実に防止できる高硬度な管継手の抜け止め部材を提供することを目的とする。また、本発明は、機械的剛性が高く接続管の外周面に確実に食い込む管継手の抜け止め部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
管継手(1)の内面に形成された溝(2)内に配置されかつ管継手(1)内に挿入される接続管(3)の外周面(4)に当接して、管継手(1)からの接続管(3)の抜け出しを阻止する本発明による環状の抜け止め部材(5)は、冷間圧延鋼より形成されるため、接続管(3)に対してより深く食い込むことができ、接続管(3)を強固に固定できる。接続管(3)に管継手(1)を取付ける際に、ボルト(13)又はナット(14)を締め付けると、抜け止め部材(5)が接続管(3)の外周面(4)に食い込む。このため、抜け出し方向又は押圧方向の何れに外力が接続管(3)に加えられても、管継手(1)内での接続管(3)の軸方向及び周方向への移動を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
管継手内での接続管の移動を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による抜け止め部材の実施の形態を図1〜図6について説明する。
図1及び図2に示す本発明の抜け止め部材(5)は、互いに逆方向に傾斜して外周部で接続されて逆V字型に形成された2つの辺部材(6,7)を備えている。抜け止め部材(5)の周方向で各辺部材(6,7)の内周部に複数の切欠部(8)が形成され、接続管(3)の外周面(4)に当接する複数の突起(9)が各切欠部(8)間で各辺部材(6,7)の内縁(6a,7a)に設けられる。また、抜け止め部材(5)は、全体に環状に形成され一部に合口(5a)が設けられる。
【0015】
抜け止め部材(5)は、例えば、厚さ0.8〜2.0mmの硬質ステンレス鋼からプレス形成されるので、切削加工を行わない。プレス成形の際に、最初のストロークで切欠部(8)と突起(9)を形成した後、次のストロークで逆V字状に成形して、更に環状に成形することができる。切欠部(8)を形成する際に、一方の辺部材(6)の切欠部(8)と他方の辺部材(7)の切欠部(8)とは、互いに並列又は交互に形成される。逆V字形状の2つの辺部材(6,7)がなす内側の角度は、好ましくは90°〜120°の角度範囲とする。角度が90°より小さいと、プレス成形時に各辺部材(6,7)の接続された曲部となるV字形状頂点部分に割れが発生する可能性があり、角度が120°より大きいと、各辺部材(6,7)の内縁部(6a,7a)の食い込みが浅くなって接続管(3)への食い込み性能が低下する可能性がある。
【0016】
ステンレスのプレーンエンド管の接続に用いる抜け止め部材(5)を構成する硬質ステンレス鋼は、浸炭処理、窒化処理又は冷間加工硬化を生じさせたオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS SUS301)の冷間圧延鋼板を用いることにより、H400以上のビッカース硬度を有する。この硬度は、接続管(3)の外周面(4)を構成するステンレス材のビッカース硬度H200〜250を大きく上回る。抜け止め部材(5)には、冷間加工硬化によりビッカース硬度をH400以上としたステンレス鋼を用いるのがコスト面からより好ましい。また、逆V字形状断面を有する抜け止め部材(5)は、各辺部材(6,7)の幅の等しい等辺山形断面又は辺部材(6,7)の幅が異なる不等辺山形断面を有するため、径方向の押圧力及び周方向の圧縮力による変形に対して十分な機械的剛性を有する。また、接続管(3)の外周面(4)に対する突起(9)も十分に大きなせん断応力及び圧縮応力を有する。
【0017】
抜け止め部材(5)は、0.8mm未満の厚さでは機械的強度が不足して、接続管(3)への食い込み不十分となるか又は締め込みの押圧力により変形することにより、内部流体が接続管(4)内を流れる際の内圧に抗し切れずに脱管などの可能性がある。逆に、抜け止め部材(5)は、2.0mmより厚いと、逆V字形状への冷間加工性が低下し、V字形状頂点部分への割れ発生が起こり易くなる。
【0018】
プレス成形により抜け止め部材(5)をV字形状に形成する前に、切欠部(8)を形成する。この場合に、各辺部材(6,7)の切欠部(8)は、抜け止め部材(5)の全内周長さの15〜50%であることが好ましい。切欠部(8)が抜け止め部材(5)の内周長さの50%を超えると、突起(9)部の全体的な機械的強度が低下して、締付け時に変形や内部流体の内圧により締結力が低下する可能性があり、15%未満では接続管(3)への食い込み不十分となり締結力及び周方向への回転防止力が低下する可能性がある。
【0019】
前記にプレーンエンド管の接続に用いるステンレスの抜け止め部材(5)を示したが、プレーンエンド管及び抜け止め部材(5)をステンレス鋼又は炭素鋼同士の組み合わせとすることで異種金属接触による腐食を防止できる。そのため、炭素鋼のプレーンエンド管の接続には炭素鋼からなる抜け止め部材(5)を組み合わせて用いることが好ましい。
【0020】
図3及び図4に示す第1の実施の形態による管継手(1)は、一対の半割形状のハウジング(15)と、ハウジング(15)内に配置された環状のガスケット(11)と、ハウジング(15)の縁部に形成された溝(2)と、溝(2)に嵌合された抜け止め部材(5)と、ハウジング(15)の両端に形成されたフランジ部(18)を締め付けるボルト(13)及びナット(14)とを備えている。抜け止め部材(5)との異種金属接触による腐食を考慮して、同種のステンレス鋼を用いた表面硬度がビッカース硬度H200〜250であるステンレス鋼管を接続管(3)に使用する。
【0021】
接続管(3)に管継手(1)を取付ける際に、仮締め状態とした管継手(1)のフランジ部(18)内に接続管(3)を挿入した後に、ボルト(13)又はナット(14)を締め付けると、一対のフランジ部(18)は、互いに接近する方向に移動され、これによりハウジング(15)は、抜け止め部材(5)と共に縮径され、接続管(3)の外周面(4)に対して抜け止め部材(5)は、径方向内側に押圧される。その際に、抜け止め部材(5)の切欠部(8)が押圧力により縮径し、隣り合う突起(9)の間隔が狭まると共に、各辺部材(6,7)に設けられる2列の突起(9)が接続管(3)の外周面(4)に当接しかつ外周面(4)に食い込む。この際、抜け止め部材(5)が冷間加工硬化でビッカース硬度H400以上、好ましくはH500〜600とした冷間圧延鋼から成ることにより、より深く接続管(3)の外周面(4)に食い込む。このため、抜け出し方向又は押圧方向の何れに外力が接続管(3)に加えられても、管継手(1)内での接続管(3)の軸方向及び周方向への移動を確実に防止することができる。また、逆V字型断面を有する抜け止め部材(5)は、径方向の押圧力に対して十分な機械的剛性を構造上備えているので、大きな押圧力を加えても変形せずに、十分な押圧力を突起(9)に加えて管継手(1)内での接続管(3)の軸方向及び周方向への移動を確実に阻止することができる。
【0022】
図5及び図6に示す第2の実施の形態では、それぞれ貫通孔(16)を有しかつ対称の形状でC形に形成される一対のC型ハウジング(10)と、一対のC型ハウジング(10)間に配置された環状スリーブ(12)と、環状スリーブ(12)の内側で一対のC型ハウジング(10)間に配置されたガスケット(11)と、各C型ハウジング(10)の合口(17)付近に各C型ハウジング(10)と一体に形成された一対のフランジ部(18)を互いに接近する方向に締め付けるボルト(13)及びナット(14)と、貫通孔(16)を形成するC型ハウジング(10)の内面に形成された溝(2)内に配置される抜け止め部材(5)とを備えている。図5及び図6に示す管継手(1)の組立及び抜け止め部材(5)の作用効果は、前記と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、無頭管又はプレーンエンド管と呼ばれる一対の接続管を接続する管継手に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による抜け止め部材の側面図
【図2】図1に示す抜け止め部材の部分斜視図
【図3】図4のA−A線に沿う断面図
【図4】本発明の抜け止め部材を装着した管継手の第1の実施の形態を示す側面図
【図5】図6のB−B線に沿う断面図
【図6】本発明の抜け止め部材を装着した管継手の第2の実施の形態を示す側面図
【図7】図8のC−C線に沿う断面図
【図8】従来の抜け止め部材を装着した管継手を示す側面図
【符号の説明】
【0025】
(1)・・管継手、 (2)・・溝、 (3)・・接続管、 (4)・・外周面、 (5)・・抜け止め部材、 (6) ・・辺部材、 (7) ・・辺部材、 (8) ・・切欠部、 (9) ・・突起、 (10) ・・C型ハウジング、 (11) ・・ガスケット、 (12)・・環状スリーブ、 (13)・・ボルト、 (14)・・ナット、 (15)・・ハウジング、 (16)・・貫通孔、 (17)・・合口、 (18)・・フランジ部、 (71)・・ハウジング部材、 (72)・・シールスリーブ、 (73)・・スナップリング、 (74)・・ばね輪、 (74a)・・エッジ、(75)・・折り曲げ端部、 (76)・・支持リング、 (78)・・締付部材、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管継手の内面に形成された溝内に配置されかつ管継手内に挿入される接続管の外周面に当接して、管継手からの接続管の抜け出しを阻止する環状の抜け止め部材において、
冷間圧延鋼により形成したことを特徴とする管継手の抜け止め部材。
【請求項2】
互いに逆方向に傾斜して外周部で接続され、断面が逆V字型に形成された2つの辺部材を備え、ビッカース硬度H400以上の硬度を有する請求項1に記載の抜け止め部材。
【請求項3】
各辺部材の内周部の周方向に複数の切欠部を形成することにより、接続管の外周面に当接する複数の突起を各辺部材の内縁に設けた請求項2に記載の抜け止め部材。
【請求項4】
辺部材の断面の厚さは、0.8〜2.0mmである請求項2又は3に記載の抜け止め部材。
【請求項5】
切欠部は、抜け止め部材の全内周長さの15〜50%である請求項3又は4に記載の抜け止め部材。
【請求項6】
管継手は、二分割された半割形状のハウジングと、ハウジングの内側に設けられたガスケットとを備える請求項1〜5の何れか1項に記載の抜け止め部材。
【請求項7】
管継手は、貫通孔及び貫通孔に連絡して形成された合口を夫々有する一対のC型ハウジングと、一対のC型ハウジングの間に配置されかつ各C型ハウジングに固定された環状スリーブと、環状スリーブの内側で一対のC型ハウジングの間に配置されかつC型ハウジングの貫通孔内に配置された接続管の外周面に当接するガスケットとを備えた請求項1〜5の何れか1項に記載の抜け止め部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−250247(P2006−250247A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67771(P2005−67771)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000139023)株式会社リケン (101)
【Fターム(参考)】