説明

管継手移動防止具及び方法

【課題】作業手間を要することなく、地震等の不測の外力に抗して両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止し、既設流体管内のシール性能を維持できる管継手移動防止具及び方法を提供すること。
【解決手段】両口部1,2の内周面に亘って対向する対向位置に配置され、少なくとも軸方向に分割された分割構造を有し、互いの相対移動を所定量許容して係止する係止部を備え、対向位置において挿口部1の内周面に対向する箇所、及び受口部2の内周面に対向する箇所に、雌ネジ部11a,12aを有する貫通孔11,12をそれぞれ備えた分割部材21,22から成る筒状体10と、貫通孔11,12の雌ネジ部11a,12aにそれぞれ螺挿されるボルト17,17と、から少なくとも構成されており、ボルト17,17は、先端17b,17b側が両口部1,2の内周面にそれぞれ形成された凹部1b,2b内に進入している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の既設流体管を構成する挿口部と、この挿口部が挿入された他方の既設流体管を構成する受口部と、両口部の対向面間をシールしたシール部と、を備える管継手において、両口部の内周面に亘って架設され、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止する管継手移動防止具及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の管継手移動防止具及び方法は、挿口部及び受口部の内周面にネジ部材を取付けるとともに、このネジ部材を被覆するように両口部の内周面に対向する位置に継ぎ輪を配置することにより、既設流体管に対し地震等の不測の外力が作用する場合に備え、両口部の相対移動を所定量許容して防止している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−113644号公報(第9頁、第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にあっては、ネジ部材を取付けるために、閉塞空間である既設流体管の内部において、両口部の内周面に雌ネジ部を螺設して雌ネジ孔を形成する必要があり、作業手間を伴うものであった。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、作業手間を要することなく、地震等の不測の外力に抗して両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止し、既設流体管内のシール性能を維持できる管継手移動防止具及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の管継手移動防止具は、
一方の既設流体管を構成する挿口部と、
該挿口部が挿入された他方の既設流体管を構成する受口部と、
前記両口部の間をシールしたシール部と、を備えた管継手において、
前記両口部の内周面に亘って架設され、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止する管継手移動防止具であって、
前記両口部の内周面に亘って対向する対向位置に配置され、少なくとも軸方向に分割された分割構造を有し、互いの相対移動を所定量許容して係止する係止部を備え、前記対向位置において前記挿口部の内周面に対向する箇所、及び前記受口部の内周面に対向する箇所に、雌ネジ部を有する貫通孔をそれぞれ備えた分割部材から成る筒状体と、
前記貫通孔の雌ネジ部にそれぞれ螺挿されるボルトと、から少なくとも構成されており、
前記ボルトは、先端側が前記両口部の内周面にそれぞれ形成された凹部内に進入していることを特徴としている。
この特徴によれば、既設流体管の管継手を構成する挿口部と受口部が、両口部に亘って対向する対向位置に配置された分割部材から成る筒状体と、貫通孔の雌ネジ部にそれぞれ螺挿されるボルトとを介し、筒状体とボルトとが一体化して両口部の内周面に亘って架設されることで、他の部材を要しない簡素化した構成部材のみで、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止できるため、両口部の間をシールした既設のシール部により、地震等の不測の外力に抗して、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容する自由度を保ち、既設流体管内のシール性能を維持できる。また、各々の分割部材に備えられた貫通孔の雌ネジ部に、それぞれボルトが螺挿されるため、各々の分割部材をそれぞれ独立して両口部の内周面に簡単に組み付けることができる。
【0007】
本発明の請求項2に記載の管継手移動防止具及び方法は、請求項1に記載の管継手移動防止具であって、
前記筒状体の外周面に密封部材が設けられており、該密封部材は、前記分割部材が互いに所定量相対移動した状態において、前記両口部の内周面と筒状体の外周面との間の密封を維持していることを特徴としている。
この特徴によれば、密封部材が、分割部材が所定量相対移動した状態においても、両口部の内周面と筒状体の外周面との間の密封を維持しているため、分割部材の相対移動による漏水等の虞を解消できる。
【0008】
本発明の請求項3に記載の管継手移動防止具は、
一方の既設流体管を構成する挿口部と、
該挿口部が挿入された他方の既設流体管を構成する受口部と、
前記両口部の間をシールしたシール部と、を備えた管継手において、
前記両口部の内周面に亘って架設され、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止する管継手移動防止具であって、
前記両口部の内周面に亘って対向する対向位置に配置され、少なくとも軸方向に分割された分割構造を有し、内面側に係合部を備え、前記対向位置において前記挿口部の内周面に対向する箇所、及び前記受口部の内周面に対向する箇所に、雌ネジ部を有する貫通孔をそれぞれ備えた分割部材から成る筒状体と、
前記貫通孔の雌ネジ部にそれぞれ螺挿されるボルトと、
前記筒状体と別体であって、前記係合部に係合し、前記分割部材の互いの相対移動を所定量許容して係止する係止体と、から少なくとも構成されており、
前記ボルトは、先端側が前記両口部の内周面にそれぞれ形成された凹部内に進入していることを特徴としている。
この特徴によれば、既設流体管の管継手を構成する挿口部と受口部が、両口部に亘って対向する対向位置に配置された分割部材から成る筒状体と、貫通孔の雌ネジ部にそれぞれ螺挿されるボルトと、分割部材の係合部に係合する係止体とを介し、筒状体とボルトとが一体化して両口部の内周面に亘って架設されることで、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止できるため、両口部の間をシールした既設のシール部により、地震等の不測の外力に対し、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容する自由度を保ち、既設流体管内のシール性能を維持できる。また、各々の分割部材に備えられた貫通孔の雌ネジ部に、それぞれボルトが螺挿されるため、各々の分割部材をそれぞれ独立して両口部の内周面に組み付けることができる。更に、分割部材を互いに係止させることなく容易に配置できるとともに、分割部材の互いの相対移動を所定量許容して係止する係止体を、配置した分割部材の内周面側の係合部に係合し易い。
【0009】
本発明の請求項4に記載の管継手移動防止方法は、
一方の既設流体管を構成する挿口部と、
該挿口部が挿入された他方の既設流体管を構成する受口部と、
前記両口部の間をシールしたシール部と、を備えた管継手において、
前記両口部の内周面に亘って架設し、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止する管継手移動防止方法であって、
軸方向に互いに離間した所定箇所に、少なくとも軸方向に分割された分割構造を有し、互いの相対移動を所定量許容して係止する係止部を備え、雌ネジ部を有する貫通孔をそれぞれ備えた分割部材から成る筒状体を、前記両口部の内周面に亘って対向する対向位置に配置する筒状体配置工程と、
前記筒状体配置工程の後に、前記貫通孔を介し、前記両口部の内周面に凹部をそれぞれ形成する凹部形成工程と、
前記凹部形成工程の後に、前記貫通孔の雌ネジ部それぞれに、先端側が前記凹部内に進入するまでボルトを螺挿するボルト螺挿工程と、から少なくとも構成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、既設流体管の管継手を構成する挿口部と受口部が、両口部に亘って対向する対向位置に配置された分割部材から成る筒状体と、貫通孔の雌ネジ部それぞれに先端側が凹部内に進入するまで螺挿されるボルトとを介し、両口部の内周面に亘って架設されることで、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止できるため、作業手間を要することなく、筒状体配置工程後に、凹部形成工程において両口部の内周面に凹部を形成するだけで、両口部の間をシールした既設のシール部により、地震等の不測の外力に抗して、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容する自由度を保ち、既設流体管内のシール性能を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明の実施例1を図面に基づいて説明すると、先ず図1(a)は、本発明の実施例1における挿口部及び受口部の接続状態を示す拡大断面図であり、(b)は、同じくモルタル層を剥がした状態を示す拡大断面図である。図2(a)は、分割された筒状体の正面図であり、(b)は、同じく左側面図であり、(c)は、(a)のA−A断面図である。図3(a)は、両口部内に筒状体を配置した状態を示す断面図であり、(b)は、(a)のB−B断面図である。図4(a)は、両口部に凹部を形成した状態を示す拡大断面図であり、(b)は、凹部に向けてボルトを螺挿した状態を示す拡大断面図である。図5(a)は、管継手移動防止具を組付けた状態を示す断面図であり、(b)は、(a)のC−C断面図である。図6は、両口部が離間方向に所定量相対移動した状態を示す拡大断面図である。
【0012】
図1(a)に示されるように、本実施例における既設流体管の管継手は、一方の既設流体管を構成する挿口部1と、この挿口部1が挿入された他方の既設流体管を構成する受口部2と、両口部1,2の対向面間をシールしたシール部3とを主に備え、両方の既設流体管は、同じ管軸D(図5(a)参照)の略直線状に接続されている。
【0013】
また、挿口部1の外周面に配置された押輪4が、この押輪4に軸方向に形成された挿通孔4aと受口部2の端部外面に形成された挿通孔2cとに挿通されたボルトナット5により、シール部3を両口部1,2の対向する周面間に押圧保持している。
【0014】
尚、本実施例の既設流体管は、金属製の上水管であって、金属素地の内周面に亘ってモルタル層6,7が設けられている。また管路には、上述した管継手が管軸方向の所定間隔に設けられており、後述のように管内部において作業員が作業できる程度の比較的大径の流体管であるものとする。
【0015】
次に、管継手移動防止具及び方法について工程順に説明する。
【0016】
先ず筒状体配置工程について説明すると、図1(b)に示されるように、挿口部1におけるモルタル層6及び受口部2におけるモルタル層7を周方向に沿ってそれぞれ剥がし、金属素地の内周面1a,2aを露出させて、金属素地の露出位置に、防錆用の塗料を塗布した後、後述のように管継手移動防止具を配設する。
【0017】
図2(a)〜(c)に示されるように、管継手移動防止具は、軸方向に2分割された分割部材21,22から成る筒状体10を備えており、各々の分割部材21,22が、周方向にも2分割された分割構造、すなわちそれぞれ略半円弧状の形状を有し両口部1,2の金属素地の内径よりも若干小径の外径を備えている。一方の分割部材22は、係止部を構成する内方に突出した凸状片22aを備えるとともに、他方の分割部材21は、凸状片22aと係止する係止部を構成する凹状溝21aを備えており、凹状溝21aと凸状片22aとは、凹凸嵌合により互いに組み付けられている。更に筒状体10は、各々の分割部材21,22が、軸方向に互いに離間した所定箇所において、雌ネジ部11aを有する貫通孔11及び雌ネジ部12aを有する貫通孔12をそれぞれ周方向に所定間隔で点在して備えている。また、両貫通孔11,12の間における筒状体10の外周面に、凹溝10aが周方向に沿って形成されている。尚、筒状体の分割構造は、必ずしも周方向に2分割された分割構造に限られず、例えば、周方向に3分割以上の構造であってもよい。
【0018】
図3(a)に示されるように、両口部1,2における金属素地の内周面1a,2aの露出位置、すなわち両口部1,2の内周面に亘って対向する対向する対向位置に、筒状体10を配置する。対向位置に配置された筒状体10の貫通孔11,12は、挿口部1の内周面と受口部2の内周面とにそれぞれ対向している。また、環状に形成された弾性材から成る密封部材16が、筒状体10の凹溝10aに嵌合されており、両口部1,2の内周面と筒状体10の外周面との間で水密に介在している。
【0019】
筒状体10の組み付けについて詳述すると、筒状体10を構成する略半円弧状の各部材を閉塞空間である既設流体管内に運搬する。次に、前記した対向位置において、外周面に密封部材16をあてがった状態で、各々の分割部材21,22における一方の略半円弧状の部材を下半周部分にそれぞれ配置し、これら部材の上に各々の分割部材21,22における他方の略半円弧状の部材をそれぞれ配置する。そして、図3(b)に示されるように、各々の分割部材21,22毎に、略半円弧状の各部材の端部同士に亘ってボルト19で接続した張出部材14を設置する。更に、張出部材14に連結したボルトナット15を螺挿することで、筒状体10を外径方向に張出し両口部1,2の内周面に向けて押圧する。この押圧により、密封部材16が、両口部1,2の内周面と筒状体10の外周面との間に水密に介在することに成る。続いて、前記端部同士を、ボルト18で接続した連結部材13を介して環状に連結する。分割部材22の凸状片22aの外側面と、分割部材21の凹状溝21aの内側面との間に、軸方向に所定量の間隙が形成されている。
【0020】
このように、両口部1,2の内周面と筒状体10の外周面との間に、密封部材16が設けられていることで、この密封部材16と、両口部1,2の間をシールした既設のシール部3とにより、両口部1,2の間を二重にシールできる。
【0021】
筒状体配置工程の後に、凹部形成工程について説明すると、図4(a)に示されるように、挿口部1の金属素地の内周面1aに貫通孔11を介した凹部1bを、そして受口部2の金属素地の内周面2aに貫通孔12を介した凹部2bを、図示しない凹部形成手段としてのドリルによりそれぞれ穿設する。貫通孔11は、雌ネジ部11aの先方側、すなわち挿口部1の内周面1a側に、雌ネジ部11aよりも小径の小径部11bが形成され、同様に、貫通孔12は、雌ネジ部12aの先方側、すなわち受口部2の内周面2a側に、雌ネジ部12aよりも小径の小径部12bが形成されており、これら小径部11b,12bにより前記ドリルを案内することで、各貫通孔11,12と略同軸の凹部1b,2bを形成することができる。凹部1b,2bは、両口部1,2の肉厚の略半分程度の深さまで形成される。また、凹部1b,2b内には、防錆用の塗料を塗布しておく。
【0022】
凹部形成工程の後に、ボルト螺挿工程について説明すると、図4(b)に示されるように、管継手移動防止具を構成する雄ネジ部17aを有するボルト17を、貫通孔11の雌ネジ部11aに外径方向に螺挿し、ボルト17の先端17b側が凹部1b内に進入する位置で螺挿を終了する。同様に、雄ネジ部17aを有するボルト17を、貫通孔12の雌ネジ部12aに外径方向に螺挿し、ボルト17の先端17b側が凹部2b内に進入する位置で螺挿を終了する。ボルト17は、筒状体10の周方向に沿って点在している貫通孔11,12の全てに螺挿する。
【0023】
図5(a)、(b)に示されるように、既設流体管の管継手を構成する挿口部1と受口部2が、両口部1,2に亘って対向する対向位置に配置された分割部材21,22から成る筒状体10と、雄ネジ部17aを有し、貫通孔11の雌ネジ部11aに先端17b側が凹部1b内に進入するまで螺挿されるボルト17、及び貫通孔12の雌ネジ部12aに先端17b側が凹部2b内に進入するまで螺挿されるボルト17とを介し、すなわち筒状体10とボルト17,17とが一体化して両口部1,2の内周面に亘って架設されることで、他の部材を要しない簡素化した構成部材のみで、両口部1,2の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止できるため、両口部1,2の間をシールした既設のシール部3により、地震等の不測の外力に抗して、両口部1,2の管軸方向の相対移動を所定量許容する自由度を保ち、既設流体管内のシール性能を維持できる。特に、閉塞空間である既設流体管の内部において、雌ネジ部を別段に形成することなく凹部1b,2bを穿設するだけの容易な作業で、筒状体10とボルト17,17とが一体化して両口部1,2の内周面に亘って架設することができる。また、各々の分割部材21,22に備えられた貫通孔11,12の雌ネジ部11a,12aに、それぞれボルト17が螺挿されるため、各々の分割部材21,22をそれぞれ独立して両口部1,2の内周面に簡単に組み付けることができる。
【0024】
また、既設流体管の管継手を構成する挿口部1と受口部2が、両口部1,2に亘って対向する対向位置に配置された分割部材21,22から成る筒状体10と、雄ネジ部17aを有し、貫通孔11の雌ネジ部11aに先端17b側が凹部1b内に進入するまで螺挿されるボルト17、及び貫通孔12の雌ネジ部12aに先端17b側が凹部2b内に進入するまで螺挿されるボルト17とを介し、両口部1,2の内周面に亘って架設されることで、両口部1,2の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止できるため、作業手間を要することなく、筒状体配置工程後に、凹部形成工程において両口部1,2の内周面に凹部1b,2bをそれぞれ形成するだけで、両口部1,2の間をシールした既設のシール部3により、地震等の不測の外力に抗して、両口部1,2の管軸方向の相対移動を所定量許容する自由度を保ち、既設流体管内のシール性能を維持できる。
【0025】
また、筒状体10が分割構造を有していることで、分割された筒状体10を既設流体管内部の対向位置まで運搬し、対向位置において分割された筒状体10の各部材を互いに組み付けることができるため、閉塞空間である筒状体10の対向位置への配置が容易となる。
【0026】
次に、地震等の不測の外力により、両口部1,2が互いに離間する方向の相対移動が生じた状態について説明すると、図6に示されるように、分割部材22における凸状片22aの右側面と、分割部材21における凹状溝21aの右側壁とが、当接して互いに係止することで、分割部材21,22は、互いの相対移動が所定量で係止され、筒状体10を介し両口部1,2の相対移動が規制される。このように、分割部材21,22が互いに所定量相対移動した状態において、密封部材16は、両口部1,2の内周面と筒状体10の外周面との間の密封を維持しているため、分割部材21,22の互いの相対移動による漏水等の虞を解消できる。
【0027】
特に、密封部材16は、凹溝10aにおいて外径方向に突出して周方向に形成された凸条10bにより係合され、軸方向の移動が規制されているため、両口部1,2が所定量相対移動した状態でも、密封部材16が軸方向に移動してしまうことなく、両口部1,2に渡る内周面と筒状体10の外周面との間の密封を維持する。
【0028】
尚、上述した方向の反対方向、すなわち両口部1,2が更に深く挿入する方向の相対移動が生じた場合は、特に図示しないが、凸状片22aの左側面と凹状溝21aの左側壁とが、当接して互いに係止することで、分割部材21,22は、互いの相対移動が所定量で係止され、筒状体10を介し両口部1,2の相対移動が規制される。このように、分割部材21,22が互いに所定量相対移動した状態において、密封部材16は、上述と同様に、密封を維持しているため、分割部材21,22の互いの相対移動による漏水等の虞を解消できる。
【0029】
本実施例では、略直線状に接続されている挿口部1と受口部2とに、管継手移動防止具を取付ける工程について説明したが、本発明の変形例として、挿口部と受口部とが、互いに所定角度傾斜して接続されており、このように傾斜して接続した前記両口部に、上述と同様に管継手移動防止具を取付けてもよい。このようにすることで、上述したように、地震等の不測の外力に抗して、既設流体管内のシール性能を維持できるばかりか、両口部が接続されている所定角度の傾斜を保持することもできる。
【0030】
次に、本発明の実施例2を以下に説明する。上述した実施例と重複する構成については、説明を省略する。
【実施例2】
【0031】
本発明の実施例2を図面に基づいて説明すると、図7は、実施例2における管継手移動防止具を組付けた状態を示す拡大断面図である。図に示されるように、本実施例の管継手移動防止具は、上述の実施例と同様の分割構造を有する分割部材31,32から成る筒状体30と、各々の分割部材31,32における貫通孔11,12の雌ネジ部11a,12aにそれぞれ螺挿されるボルト17,17と、後述のように、分割部材31,32の互いの相対移動を所定量許容して係止する係止体としての凹溝体33と、から主に構成されている。
【0032】
各々の分割部材31,32は、互いの対向側において、内径方向に突出した係合部としての凸状片31a,32aをそれぞれ周方向に沿って備えている。凹溝体33は、これら分割部材31,32から成る筒状体30とは別体であって、外径方向に向けて開口する断面視略コ字状に形成された環状体であり、特に図示しないが、周方向に所定数に分割された分割構造を有している。
【0033】
本実施例における管継手移動防止具の組み付けについて説明すると、上述と同様に分割部材31,32を、貫通孔11,12の雌ネジ部11a,12aにボルト17,17を螺挿することで、それぞれ両口部1,2の内周面に沿って組み付け、次に凹溝体33を、両分割部材31,32の凸状片31a,32aをいずれも嵌合するように、すなわち凹溝体33と凸状片31a,32aとが凹凸嵌合するように、周方向に沿って組み付ける。
【0034】
このように、既設流体管の管継手を構成する挿口部1と受口部2が、両口部1,2に亘って対向する対向位置に配置された分割部材31,32から成る筒状体30と、貫通孔11,12の雌ネジ部11a,12aにそれぞれ螺挿されるボルト17,17と、分割部材31,32の凸状片31a,32aに係合する凹溝体33とを介し、筒状体30とボルト17,17とが一体化して両口部1,2の内周面に亘って架設されることで、他の部材を要しない簡素化した構成部材のみで、両口部1,2の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止できるため、両口部1,2の間をシールした既設のシール部3により、地震等の不測の外力に対し、両口部1,2の管軸方向の相対移動を所定量許容する自由度を保ち、既設流体管内のシール性能を維持できる。また、各々の分割部材31,32に備えられた貫通孔11,12の雌ネジ部11a,12aに、それぞれボルト17,17が螺挿されるため、各々の分割部材31,32をそれぞれ独立して両口部1,2の内周面に組み付けることができる。更に、分割部材31,32を互いに係止させることなく容易に両口部1,2の内周面に配置できるとともに、分割部材31,32の互いの相対移動を所定量許容して係止する凹溝体33を、配置した分割部材31,32の凸状片31a,32aに係合し易い。
【0035】
次に、地震等の不測の外力により、両口部1,2が互いに離間する方向の相対移動が生じた場合は、特に図示しないが、両分割部材31,32の凸状片31a,32aが、それぞれ凹溝体33の両側壁に当接して係止することで、分割部材31,32は、互いの相対移動が所定量で係止され、筒状体30を介し両口部1,2の相対移動が規制される。このように、分割部材31,32が互いに所定量相対移動した状態において、密封部材16は、両口部1,2の内周面と筒状体30の外周面との間の密封を維持しているため、分割部材31,32の互いの相対移動による漏水等の虞を解消できる。特に、密封部材16は、凹溝30aにおいて外径方向に突出して周方向に形成された凸条30bにより係合され、軸方向の移動が規制されているため、両口部1,2が所定量相対移動した状態でも、密封部材16が軸方向に移動してしまうことなく、両口部1,2に渡る内周面と筒状体30の外周面との間の密封を維持する。
【0036】
尚、上述した方向の反対方向、すなわち両口部1,2が更に深く挿入する方向の相対移動が生じた場合は、特に図示しないが、両凸状片31a,32aの互いに対向する対向面同士が、当接して係止することで、分割部材31,32は、互いの相対移動が所定量で係止され、筒状体30を介し両口部1,2の相対移動が規制される。
【0037】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0038】
例えば、上記実施例では、既設流体管は、金属製の上水管であって、金属素地の内周面に亘ってモルタル層が設けられているが、既設流体管の材質や内部流体、若しくは内部層の材質や有無については、必ずしも本実施例に限られない。
【0039】
また、上記実施例では、筒状体を構成する各々の分割部材が、互いの係止部により、若しくは係合部と係止体とにより、凹凸嵌合することで、両口部の相対移動を所定量許容して防止しているが、例えば各々の分割部材が、軸方向に弾性変形可能な弾性部材により接続されていることで、両口部の相対移動を所定量許容して防止するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)は、本発明の実施例1における挿口部及び受口部の接続状態を示す拡大断面図であり、(b)は、同じくモルタル層を剥がした状態を示す拡大断面図である。
【図2】(a)は、分割された筒状体の正面図であり、(b)は、同じく左側面図であり、(c)は、(a)のA−A断面図である。
【図3】(a)は、両口部内に筒状体を配置した状態を示す断面図であり、(b)は、(a)のB−B断面図である。
【図4】(a)は、両口部に凹部を形成した状態を示す拡大断面図であり、(b)は、凹部に向けてボルトを螺挿した状態を示す拡大断面図である。
【図5】(a)は、管継手移動防止具を組付けた状態を示す断面図であり、(b)は、(a)のC−C断面図である。
【図6】両口部が離間方向に所定量相対移動した状態を示す拡大断面図である。
【図7】実施例2における管継手移動防止具を組付けた状態を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 挿口部
1b 凹部
2 受口部
2b 凹部
3 シール部
10 筒状体
10a 凹溝
10b 凸条
11,12 貫通孔
11a,12a 雌ネジ部
16 密封部材
17 ボルト
21,22 分割部材
21a 凹状溝(係止部)
22a 凸状片(係止部)
30 筒状体
31,32 分割部材
31a,32a 凸状片(係合部)
33 凹溝体(係止体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の既設流体管を構成する挿口部と、
該挿口部が挿入された他方の既設流体管を構成する受口部と、
前記両口部の間をシールしたシール部と、を備えた管継手において、
前記両口部の内周面に亘って架設され、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止する管継手移動防止具であって、
前記両口部の内周面に亘って対向する対向位置に配置され、少なくとも軸方向に分割された分割構造を有し、互いの相対移動を所定量許容して係止する係止部を備え、前記対向位置において前記挿口部の内周面に対向する箇所、及び前記受口部の内周面に対向する箇所に、雌ネジ部を有する貫通孔をそれぞれ備えた分割部材から成る筒状体と、
前記貫通孔の雌ネジ部にそれぞれ螺挿されるボルトと、から少なくとも構成されており、
前記ボルトは、先端側が前記両口部の内周面にそれぞれ形成された凹部内に進入していることを特徴とする管継手移動防止具。
【請求項2】
前記筒状体の外周面に密封部材が設けられており、該密封部材は、前記分割部材が互いに所定量相対移動した状態において、前記両口部の内周面と筒状体の外周面との間の密封を維持していることを特徴とする請求項1に記載の管継手移動防止具。
【請求項3】
一方の既設流体管を構成する挿口部と、
該挿口部が挿入された他方の既設流体管を構成する受口部と、
前記両口部の間をシールしたシール部と、を備えた管継手において、
前記両口部の内周面に亘って架設され、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止する管継手移動防止具であって、
前記両口部の内周面に亘って対向する対向位置に配置され、少なくとも軸方向に分割された分割構造を有し、内面側に係合部を備え、前記対向位置において前記挿口部の内周面に対向する箇所、及び前記受口部の内周面に対向する箇所に、雌ネジ部を有する貫通孔をそれぞれ備えた分割部材から成る筒状体と、
前記貫通孔の雌ネジ部にそれぞれ螺挿されるボルトと、
前記筒状体と別体であって、前記係合部に係合し、前記分割部材の互いの相対移動を所定量許容して係止する係止体と、から少なくとも構成されており、
前記ボルトは、先端側が前記両口部の内周面にそれぞれ形成された凹部内に進入していることを特徴とする管継手移動防止具。
【請求項4】
一方の既設流体管を構成する挿口部と、
該挿口部が挿入された他方の既設流体管を構成する受口部と、
前記両口部の間をシールしたシール部と、を備えた管継手において、
前記両口部の内周面に亘って架設し、両口部の管軸方向の相対移動を所定量許容して防止する管継手移動防止方法であって、
軸方向に互いに離間した所定箇所に、少なくとも軸方向に分割された分割構造を有し、互いの相対移動を所定量許容して係止する係止部を備え、雌ネジ部を有する貫通孔をそれぞれ備えた分割部材から成る筒状体を、前記両口部の内周面に亘って対向する対向位置に配置する筒状体配置工程と、
前記筒状体配置工程の後に、前記貫通孔を介し、前記両口部の内周面に凹部をそれぞれ形成する凹部形成工程と、
前記凹部形成工程の後に、前記貫通孔の雌ネジ部それぞれに、先端側が前記凹部内に進入するまでボルトを螺挿するボルト螺挿工程と、から少なくとも構成されていることを特徴とする管継手移動防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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