説明

管肉厚測定装置

【課題】検査体の表面にキズや凹み等の損傷部が存在する場合であっても精度よく且つ簡単に肉厚測定を行なうことができる管肉厚測定装置を提供する。
【解決手段】超音波探傷により管50の肉厚測定を行なう管肉厚測定装置において、局部水浸式の超音波探触子10と、内部に接触媒質が充填される媒質空間を形成する筒体21、筒体の一端側に設けられ管の外表面に対応した曲率に形成された開口部22、筒体の他端側に設けられ超音波探触子10を保持する保持部及び媒質空間を封止する蓋部23を有する治具本体2と、開口部22の端縁と管50の外表面との間に介装されるシール部材3と、媒質空間に接触媒質を注入する媒質注入手段4と、治具本体2を管50の外表面に押圧固定する固定手段とを備え、固定手段によりシール部材3を介して治具本体2を管50の外表面に固定した状態で超音波探触子10により管の肉厚を測定する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局部水浸式超音波探触子を用いて管外表面から管の肉厚を測定する管肉厚測定装置に係り、特に、キズや凹み等の損傷部の局所的な管肉厚を測定する場合に好適に用いられる管肉厚測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、非破壊検査法の一つとして被検査体の肉厚測定に超音波探傷が多く用いられている。例えば、図11に示すボイラ100において、火炉101の壁面に付着したクリンカがボトムスロープ102に落下した際、図12に示すように底部の伝熱管50に部分的なキズや凹み等の損傷部51が発生することがある。この損傷部51により伝熱管50が部分的に圧力容器の規定を外れる肉厚となった場合、その伝熱管50を補修したり交換したりする必要がある。そこで従来は、図13に示すように、超音波探傷により伝熱管50の肉厚Dを測定し、伝熱管50の肉厚Dから損傷部51の深さdを差し引くことで損傷部51の肉厚を推定して補修の可否を判断していた。しかし、ボイラ運転中は伝熱管50の高温強度が低下するためクリンカが落下した損傷部51の内側に凹み52ができ、伝熱管50が変形するのみで実際には管肉厚は規定以上に保たれていることがある。その場合、伝熱管50の補修作業に不要な手間や補修コストがかかってしまうという問題があった。
【0003】
一方、被検査体の肉厚を検出する有効な超音波探傷法として、特許文献1(特開2001−349880号公報)等に開示されるように、従来から局部水浸法が広く用いられている。局部水浸法は、接触媒質を充填した筒体を被検査体と超音波探触子との間に介在させ、筒体と被検査体との接触面には膜を張って接触媒質を保持する構成となっている。そして、超音波探触子から接触媒質を介して被検査体に超音波を入射させ、被検査体の端面で反射した反射波に基づいて肉厚を測定する。
【0004】
また、特許文献2(特開2002−131297号公報)には、キズ部やスポット溶接部等の局所的な肉厚測定に適した超音波検査装置が開示されている。この装置は、被検査体の凹凸に接触媒質を充填させ、さらにこの凹凸部と超音波探触子との間に前記凹凸の高さ以上の遅延材を配置して超音波探傷を行なう構成となっている。遅延材としては、金属、非金属、樹脂等が挙げられ、この遅延材により超音波探触子を安定して走査することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349880号公報
【特許文献2】特開2002−131297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1等に記載される局部水浸法は主に鉄骨や橋梁等の大型の構造物に適用されることが多く、例えば伝熱管等の比較的小型な被検査体の肉厚測定を行なう場合は、被検査体の表面に小さなキズや凹み等の損傷部が存在すると膜を介して接触媒質が損傷部まで入り込みにくく、微小な空間ができて精度よく探傷することができないという問題があった。さらに、超音波探触子と被検査体との間に膜が介在しているため、膜表面からの反射波や膜内での多重反射波により反射波の解析が困難となることがあった。
【0007】
また、特許文献2に開示される装置では、超音波探触子により遅延材の端面や内部からの反射波も受信することとなり、膜が介在する場合と同様に反射波の解析が困難となることがあった。さらに、接触媒質は遅延材と超音波探触子との間に充満させるのみでこれを保持する構成は開示されていないため、平板状の被検査体を上方から測定することは可能であるが、例えば伝熱管のように被検査体表面が曲面である場合や、水平方向に肉厚測定する場合には適用することができなかった。
【0008】
したがって、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、被検査体の表面にキズや凹み等の損傷部が存在する場合であっても精度よく且つ簡単に肉厚測定を行なうことができる管肉厚測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために本発明は、超音波探傷により管の肉厚測定を行なう管肉厚測定装置において、局部水浸式の超音波探触子と、接触媒質が充填される媒質空間を形成する筒体、前記筒体の一端側に設けられ前記管の外表面に対応した曲率に形成された開口部、前記筒体の他端側に設けられ前記超音波探触子を保持する保持部及び前記媒質空間を封止する蓋部を有する治具本体と、前記開口部の端縁と前記管の外表面との間に介装されるシール部材と、前記媒質空間に前記接触媒質を注入する媒質注入手段と、前記治具本体を前記管の外表面に固定する固定手段とを備え、前記固定手段により前記シール部材を介して前記治具本体を前記管の外表面に固定した状態で前記超音波探触子により前記管の肉厚を測定することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、筒体の媒質空間に充填された接触媒質を筒体の開口部から管の外表面に直接接触させる構成としたため、管の外表面にキズや凹み等の損傷部が存在する場合であってもその損傷部の凹凸に接触媒質が入り込み、精度よく超音波探傷を行なうことが可能となる。また、超音波探触子と管との間には接触媒質しか介在しないため、肉厚測定に必要とされる反射波を容易に検出でき、精度よく且つ簡単に肉厚測定を行なうことができる。さらに、超音波探触子により管肉厚を直接測定する構成としたため、測定ミスを低減し、測定結果から管の補修要否を容易に判断できる。さらにまた、筒体の開口部を管の外表面に対応した曲率に形成し、且つ開口部の端縁と管外表面との間にシール部材を介装しているため、媒質空間に充填した接触媒質が開口部から漏れ出ることを防止できる。
【0011】
また、前記固定手段が前記シール部材に磁粉を混入させて磁力を持たせたストリングベースであり、磁性体で形成された前記管に前記ストリングベースの吸着力により前記治具本体を固定する構成とすることが好ましい。
このように、筒体の開口部の端縁にストリングベースを取り付け、このストリングベースに接触媒質の漏出防止と治具本体の固定の機能を持たせることによりシール部材と固定手段を一体化することができ、装置構成の簡素化及び小型化が図れる。
【0012】
また、前記固定手段が前記筒体の外周面に取り付けられたマグネットベースであり、磁性体で形成された前記管に前記マグネットベースの吸着力により前記治具本体を固定する構成とすることが好ましい。
このように、筒体の外周面にマグネットベースを取り付け、このマグネットベースにより治具本体を管外表面に固定する構成とすることで、より強力に治具本体を管外表面に固定することができる。
さらに、上記したようにストリングベースやマグネットベースを用いて磁力により治具本体を管外表面に吸着させる構成とすることで治具本体の着脱が容易となる。
【0013】
また、前記保持部は、前記超音波探触子の超音波送受信面周囲を支持して前記開口部から前記超音波送受信面までの距離を一定に保持するガイド板を含むことが好ましい。
このようにガイド板を設けることにより、治具本体を管外表面に固定するのみで管外表面から超音波送受信面までの距離を一定に保持するように超音波探触子の位置決めができ、管の異なる部位を測定した際にも簡単に肉厚を検出することができる。
【0014】
さらに、前記媒質空間が前記ガイド板により微小間隙を有して連通する2つの空間に仕切られ、前記開口部側に形成された第1の媒質空間に前記媒質注入手段から前記接触媒質が注入されるようにし、前記蓋部側に形成された第2の媒質空間に空気穴を設けた構成とすることが好ましい。
このように、ガイド板により第1の媒質空間と第2の媒質空間とを仕切り、第1の媒質空間に接触媒質を隙間なく充填させることで超音波探触子と管外表面との間の水浸を確保することができる。さらにまた、第2の媒質空間を形成することで、第1の媒質空間から漏れ出た接触媒質が装置外部に多量に流出することを防止できる。
【0015】
さらにまた、前記保持部は、前記管の外表面との距離を一定に保った状態で前記超音波探触子をスライド移動させる機構を有することが好ましい。
このように、超音波探触子が例えば管の軸方向にスライド移動する機構を有することにより、筒体が当接される範囲内において探傷範囲を拡張することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上記載のように本発明によれば、治具本体により接触媒質を管の外表面に直接接触させた状態で保持する構成としたため、精度よく超音波探傷を行なうことが可能となる。
また、筒体の開口部を管の外表面に対応した曲率に形成し、且つ開口部の端縁と管外表面との間にシール部材を介装しているため、媒質空間に充填した接触媒質が開口部から漏れ出ることを防止できる。
さらに、超音波探触子により管肉厚を直接測定する構成としたため、測定ミスを低減し、測定結果から管の補修要否を容易に判断できる。
さらにまた本発明に係る管肉厚測定装置は、水平方向の探傷面のみならず垂直方向に探傷面が位置する場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る管肉厚測定装置の測定状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る管肉厚測定装置を示す側断面図である。
【図3】(A)は図2に示した管肉厚測定装置のA−A線断面図で、(B)はB−B線矢視図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る管肉厚測定装置を示す平面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る管肉厚測定装置を示す側断面図である。
【図6】(A)は本発明の第3実施形態に係る管肉厚測定装置を示す平面図で、(B)は側面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る管肉厚測定装置を示す側断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る管肉厚測定装置を示す側断面図である。
【図9】本発明の第5実施形態に係る管肉厚測定装置を示す側断面図である。
【図10】図9に示した管肉厚測定装置のA−A線断面図である。
【図11】ボイラを示す概略構成図である。
【図12】キズ部を有する伝熱管の斜視図である。
【図13】伝熱管のキズ部の肉厚測定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0019】
図1に示すように本発明の実施形態に係る管肉厚測定装置1は、管50の外表面から超音波探傷により管50の肉厚測定を行なう装置であり、治具本体2内に充填された接触媒質を介して水浸式超音波探触子10により管50の肉厚測定を行なうようになっている。この管肉厚測定装置1は、特に、図11に示すようなボイラ100の伝熱管50の肉厚測定に好適に用いられ、その中でも伝熱管50のキズや凹み等の損傷部51の管肉厚を局所的に測定する場合においてより好適に用いられる。なお、以下に示す第1乃至第5実施形態では、一例としてボイラ100の伝熱管50の肉厚測定を行なう場合について説明するが、これに限定されるものではなく、管の肉厚測定全般に用いることができる。
【0020】
(第1実施形態)
図2及び図3を参照して、本発明の第1実施形態に係る管肉厚測定装置1の構成を説明する。ここで図2は本発明の第1実施形態に係る管肉厚測定装置を示す側断面図であり、図3(A)は図2に示した管肉厚測定装置のA−A線断面図で、(B)はB−B線矢視図である。
管肉厚測定装置1は、主に、局部水浸式の超音波探触子10と、接触媒質を保持する治具本体2と、治具本体2と伝熱管50の間に介装されるシール部材3と、治具本体2内に接触媒質を注入する媒質注入手段4と、治具本体2を伝熱管50の外表面に固定する固定手段とを備えている。
【0021】
局部水浸式の超音波探触子10は、垂直型探触子であり、接触媒質に面する超音波送受信面から超音波を発信又は受信し、この受信した反射波に基づいて被検査体の肉厚測定を行なう周知の装置である。
なお、接触媒質としては、例えば水、グリセリンペースト、マシン油が挙げられる。好適には、接触媒質は増粘剤を混ぜた水が用いられる。この増粘剤はセルロース系水溶性高分子を主成分としたものを用いることができ、例えばCMCダイセル(商品名:ダイセル化学工業株式会社製)が挙げられる。さらに好適には、接触媒質は粘度が0.1〜10Pの範囲内であるとよい。これは、粘度が0.1P未満である場合、治具本体2から接触媒質が漏出しやすく、粘度が10P以上であると接触媒質中に気泡が残留しやすいためである。以下、接触媒質は媒質と略称する。
【0022】
治具本体2は、内部に媒質が充填される媒質空間を形成する筒体21と、筒体21の一端側に設けられ伝熱管50の外表面に対応した曲率に形成された開口部22と、筒体21の他端側に設けられ超音波探触子10を保持する保持部と、媒質空間を封止する蓋部23とを有する。
【0023】
筒体21は、断面方形状または断面円形状に形成されるが、図示されるように断面方形状であることが好ましい。これは、筒体21の開口部22を伝熱管50の外周面に沿った曲率に形成しやすいためである。また筒体21は、内部に充填される媒質が可視できるように透明又は半透明であることが好ましい。筒体21の材質は、例えば塩化ビニル樹脂やアクリル樹脂が挙げられ、これらの材質は加工性が良好で且つ軽量化が図れるため適している。筒体21は少なくとも5〜50℃の温度範囲で耐熱性能を有しているとよい。
開口部22は、伝熱管50の外表面に対応した曲率に形成されるが必ずしも完全に一致する必要はなく、シール部材3により伝熱管50の外表面と筒体21との間が補填される曲率範囲であればよい。
【0024】
保持部は、蓋部23に形成された超音波探触子挿入穴24であってもよく、この挿入穴24に超音波探触子10を嵌入させることにより該超音波探触子10を保持する。
また保持部は、超音波探触子10の超音波送受信面周囲を支持するガイド板25を含んでいてもよい。ガイド板25は媒質空間内に設置され、超音波探触子10の超音波送受信面に対応した部位に穴部26が設けられ、この穴部26から超音波が発信又は受信するようになっている。穴部26の周縁には座繰り部27が形成され、座繰り部27に超音波送受信面が嵌合して超音波探触子10が位置決めされる。このガイド板25によって超音波送受信面から開口部22までの距離が一定に保持されるとともに、超音波送受信面の角度が固定される。
【0025】
また、ガイド板25によって筒体21内の媒質空間を第1の媒質空間201と第2の媒質空間202との2つの空間に仕切ることが好ましい。第1の媒質空間201には媒質注入手段4から媒質が注入される。第2の媒質空間202には空気穴204が設けられている。ガイド板25には、空気や媒質が流通する微小間隙203が設けられており、第1の媒質空間201に媒質が注入されたときに空気が第1の媒質空間201から第2の媒質空間202、さらには第2の媒質空間202から空気穴204を介して外部に排出される。第1の媒質空間201には媒質が隙間なく充填され、このとき微小間隙203から第2の媒質空間202に媒質がわずかに漏出するまで第1の媒質空間201に媒質を注入することで、第1の媒質空間201の水浸を確保することができる。
【0026】
なお、微小空間203は、穴部26を超音波探触子10の外径より僅かに大きく形成し、穴部26と超音波探触子10との隙間を用いて、ここから空気又は媒質が通流するようにしてもよいし、図示したようにガイド板25に新たに穴を穿設してもよい。同様に空気穴204は、超音波探触子挿入穴24を超音波探触子10の外径より僅かに大きく形成し、探触子挿入穴24と超音波探触子10との隙間を用いて、ここから空気が通流するようにしてもよいし、図示したように蓋部23に新たに穴を穿設してもよい。
【0027】
シール部材3は環状に形成され、筒体21の開口部22の端縁に沿って配置される。このシール部材3は、筒体21に固着されず別体であってもよく、この場合、シール部材3を筒体21と伝熱管50の間に介装した状態で治具本体2を固定手段で押圧することによりシール部材3が固定される。より好ましくは、シール部材3が筒体21の開口部22に固着された構成とする。これにより治具本体2を伝熱管50に接地する際にシール部材3がずれることを防げる。
【0028】
また、シール部材3は、環状に形成されたシリコンバッグ、ストリングベース若しくはポリウレタン、又はシリコンゴム等のゴム製Oリングが用いられる。さらにまた、このシール部材3を筒体21の内部に位置するように設け、筒体21の開口部22の外周を外側シール部材により2重にシールしてもよい。外側シール部材としては、例えば、粘度、シリコンシーラント、ゴム製印象材が挙げられる。
【0029】
媒質注入手段4は、媒質を収納した容器42から圧送手段により媒質を注入管41に圧送し、注入管41を介してこの媒質を筒体2内の媒質空間に注入する構成を有している。例えば、容器42と圧送手段はシリンダとピストンからなる注射器状の器具が用いられる。また注入管41は樹脂等の可撓性材料で形成され、例えばシリコンチューブが用いられる。注入管41は、図2に示すように蓋部23とガイド板25を貫通して設置されてもよいし、図9及び図10に示すように筒体21の側面を貫通して設置されてもよい。
図2及び図3に戻り、媒質注入手段4は、注入管41を使用しないときにはクリップ45で注入管41を封止し、媒質空間を略密閉状態に維持することが好ましい。
【0030】
固定手段は治具本体2を伝熱管50の外表面に固定するもので、例えば、シール部材3に磁粉を混入させて磁力を持たせたストリングベースが用いられる。このストリングベースの吸着力により伝熱管50に治具本体2を固定する。なお、伝熱管50は炭素鋼や低合金鋼等の磁性体で形成されているため、ストリングベースの磁力により治具本体2を伝熱管50に固定できる。
このように筒体21の開口部22の端縁にストリングベースを取り付け、このストリングベースに媒質の漏出防止と治具本体2の固定の機能を持たせることによりシール部材3と固定手段を一体化することができ、装置構成の簡素化及び小型化が図れる。また、磁力により治具本体2を伝熱管50の外表面に吸着させる構成とすることで治具本体2の着脱が容易となる。
【0031】
上記した構成を有する管肉厚測定装置1の作用を説明する。
まず、伝熱管50の外表面に、シール部材3を介して治具本体2の開口部22を当接させ、固定手段により治具本体2を伝熱管50に固定する。そして、媒質注入手段4により治具本体2の第1の媒質空間201に媒質を注入する。媒質の注入にともない第1の媒質空間201内の空気は微小間隙203を通って第2の媒質空間202、さらには空気穴204を通って外部へ排出される。媒質注入手段4により第1の媒質空間201が媒質で隙間なく充填されるまで媒質が注入され、第2の媒質空間202に漏出し始めたら注入作業を停止する。この注入作業により、媒質は開口部22より伝熱管50の外表面に直接接触した状態で第1の媒質空間201内に保持される。
【0032】
そして、超音波探触子10から超音波を発信し、超音波は媒質を通って開口部22から伝熱管50内に入射し、伝熱管50の内周面で反射した反射波を超音波探触子10で受信する。この受信した反射波に基づいて伝熱管50の肉厚を検出する。
肉厚の検出が終了したら、治具本体2を伝熱管50から取り外して媒質を排出してもいいし、治具本体2を取り外す前に媒質注入手段4により媒質を吸引してもよい。
【0033】
このように本実施形態によれば、筒体21の媒質空間に充填された媒質を筒体21の開口部22から伝熱管50の外表面に直接接触させる構成としたため、伝熱管50の外表面にキズや凹み等の損傷部51が存在する場合であってもその損傷部51の凹凸に媒質が入り込み、精度よく超音波探傷を行なうことが可能となる。また、超音波探触子10と伝熱管50との間には媒質しか介在しないため、肉厚測定に必要とされる反射波を容易に検出でき、精度よく且つ簡単に肉厚測定を行なうことができる。さらに、超音波探触子10により伝熱管50の肉厚を直接測定する構成としたため、測定ミスを低減し、管肉厚の測定結果から伝熱管50の補修の要否を容易に判断可能となる。さらにまた、筒体21の開口部22を伝熱管50の外表面に対応した曲率に形成し、且つ開口部22の端縁と伝熱管50の外表面との間にシール部材3を介装しているため、媒質空間に充填した媒質が開口部22から漏れ出ることを防止できる。
【0034】
(第2実施形態)
図4及び図5を参照して、本発明の第2実施形態に係る管肉厚測定装置を説明する。ここで、図4は第2実施形態に係る管肉厚測定装置を示す平面図であり、図5はその側断面図である。
なお、以下に示す第2乃至第5実施形態において、上記した第1実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
【0035】
この管肉厚測定装置1は、上記した第1実施形態の構成において、固定手段にマグネットベース6を用いた構成となっている。
マグネットベース6は、筒体2外周面に取り付けられ、その吸着力により伝熱管50に治具本体2を固定する。マグネットベース6は、例えば内部に永久磁石又はコイルが収容されており、ON−OFFスイッチにより磁力の発生が制御されるものが用いられる。そして、肉厚測定時にはスイッチをONに設定することで治具本体2が伝熱管50に固定され、肉厚測定が終了したらOFFに切り替えることで治具本体2を伝熱管50から取り外すことができる。
【0036】
図4に示すように、このマグネットベース6は、筒体21の対向する面を挟む位置に取り付けられていることが好ましく、これにより安定して治具本体2を伝熱管50に固定することができる。勿論、マグネットベース6は筒体21の一部にのみ取り付けてもいいし、筒体21の周囲を囲繞するように取り付けてもよい。
さらに図5に示すように、伝熱管50と接触する側のマグネットベース6の端縁がV字状に切り欠かれた切欠部61を有していてもよい。このV字状の切欠部61により伝熱管50とマグネットベース6が少なくとも2箇所で接触し、治具本体2を安定して固定できるとともに、伝熱管50の径が異なる場合でもこのマグネットベース6を用いることができる。
【0037】
上記した第2実施形態によれば、筒体21の外周面にマグネットベース6を取り付け、このマグネットベース6により治具本体2を伝熱管50の外表面に固定する構成とすることで、より強力に治具本体2を伝熱管50の外表面に固定することができる。また、マグネットベース6を用いて磁力により治具本体2を伝熱管50の外表面に吸着させる構成とすることで治具本体2の着脱が容易となる。
【0038】
(第3実施形態)
図6及び図7を参照して、本発明の第3実施形態に係る管肉厚測定装置を説明する。ここで、図6(A)は本発明の第3実施形態に係る管肉厚測定装置を示す平面図で、(B)は側面図であり、図7は本発明の第3実施形態に係る管肉厚測定装置を示す側断面図である。
この管肉厚測定装置1は、上記した第1実施形態の構成において、固定手段にマグネットベース6を用いた構成とするとともに、マグネットベース6を固定部材7により治具本体2に固定した構成となっている。
【0039】
マグネットベース6は上記した第2実施形態と同一の構成を有する。
固定部材7はL字状に形成され、一端側がマグネットベース6に接合されており、他端側が筒体2の蓋部23側にボルト等の締結部材8で固定されるようになっている。さらに、この固定部材7の他端側は、超音波探触子10の配置される部位が開放された形状となっている。
上記した第3実施形態によれば、マグネットベース6により治具本体2が伝熱管50に固定されるとともに、L字状固定部材7により治具本体2が蓋部23側から伝熱管50側に押圧されるため、第2実施形態より一層安定して治具本体2を固定することが可能となる。
【0040】
(第4実施形態)
図8を参照して、本発明の第4実施形態に係る管肉厚測定装置を説明する。ここで、図8は本発明の第4実施形態に係る管肉厚測定装置を示す側断面図である。
この管肉厚測定装置1は、上記した第1実施形態の構成において、固定手段に環状のマグネットベース6を用いた構成となっている。このとき、筒体21の外周面にマグネットベース6が存在するため、シール部材3は筒体21の内部に収容される位置に取り付けられる。なお、筒体21の内部にシール部材3を配置する場合には、シール部材3としてシリコンバッグが好適に用いられる。
上記した第4実施形態によれば、装置構成を簡素化でき低コストで作製することが可能となる。
【0041】
(第5実施形態)
図9及び図10を参照して、本発明の第4実施形態に係る管肉厚測定装置を説明する。ここで、図9は本発明の第5実施形態に係る管肉厚測定装置を示す側断面図であり、図10は図9に示した管肉厚測定装置のA−A線断面図である。
この管肉厚測定装置1は、上記した第1実施形態の構成において、超音波探触子10と伝熱管50の外表面との距離を一定に保った状態で、超音波探触子10をスライド移動させる機構をさらに有している。
【0042】
図10に示すように、超音波探触子10の保持部はガイド板25から構成され、ガイド板25に形成された座繰り部27に超音波探触子10の超音波送受信面を嵌合することにより超音波探触子10が位置決めされる。さらに、筒体21の対向する内面にそれぞれ取り付けられた2本のガイドレール251、251を有し、ガイド板25がこれらのガイドレール251、251上をスライドするように配置され、このガイド板25とともに超音波探触子10がスライド移動するようになっている。なお、ここでは超音波探触子10が伝熱管50の軸方向にスライド移動する構成となっているが、超音波探触子10が伝熱管50の円周方向にスライド移動する構成としてもよい。
【0043】
一方、蓋部23は、超音波探触子10がスライド移動しても媒質空間を封止できるように、シート材231で形成されている。具体的には、蓋部23には超音波探触子10が挿入される超音波探触子挿入穴233が形成されたシート材231を用いる。シート材231は例えばビニールやテフロン(登録商標)シート等の防水性のシートが用いられる。このシート材231の外周縁を筒体21の内周面に接着固定し、超音波探触子挿入穴233の端縁を超音波探触子10の外周面に固定して媒質が漏れないようにする。このとき、輪ゴムやOリング等の環状ゴムによりシート材231の超音波探触子挿入穴233の端縁を超音波探触子10の外周面に縛り付けて固定するとよい。なお、シート材231を用いる場合には、媒質注入手段4の注入管41は、筒体21の外周面に設けられた媒質注入口43に設置される。
このように、超音波探触子10が例えば伝熱管50の軸方向にスライド移動する機構を有することにより、筒体21が当接される範囲内において探傷範囲を拡張することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 管肉厚測定装置
2 治具本体
3 シール部材
4 媒質注入手段
6 マグネットベース
7 固定部材
8 締結部材
10 超音波探触子
21 筒体
22 開口部
23 蓋部
24 超音波探触子挿入穴
25 ガイド板
26 穴部
27 座繰り部
50 伝熱管
201 第1の媒質空間
202 第2の媒質空間
203 微小間隙
204 空気穴
231 シート材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探傷により管の肉厚測定を行なう管肉厚測定装置において、
局部水浸式の超音波探触子と、
接触媒質が充填される媒質空間を形成する筒体、前記筒体の一端側に設けられ前記管の外表面に対応した曲率に形成された開口部、前記筒体の他端側に設けられ前記超音波探触子を保持する保持部及び前記媒質空間を封止する蓋部を有する治具本体と、
前記開口部の端縁と前記管の外表面との間に介装されるシール部材と、
前記媒質空間に前記接触媒質を注入する媒質注入手段と、
前記治具本体を前記管の外表面に固定する固定手段とを備え、
前記固定手段により前記シール部材を介して前記治具本体を前記管の外表面に固定した状態で前記超音波探触子により前記管の肉厚を測定することを特徴とする管肉厚測定装置。
【請求項2】
前記固定手段が前記シール部材に磁粉を混入させて磁力を持たせたストリングベースであり、磁性体で形成された前記管に前記ストリングベースの吸着力により前記治具本体を固定する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の管肉厚測定装置。
【請求項3】
前記固定手段が前記筒体の外周面に取り付けられたマグネットベースであり、磁性体で形成された前記管に前記マグネットベースの吸着力により前記治具本体を固定する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の管肉厚測定装置。
【請求項4】
前記保持部は、前記超音波探触子の超音波送受信面周囲を支持して前記開口部から前記超音波送受信面までの距離を一定に保持するガイド板を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の管肉厚測定装置。
【請求項5】
前記媒質空間が前記ガイド板により微小間隙を有して連通する2つの空間に仕切られ、前記開口部側に形成された第1の媒質空間に前記媒質注入手段から前記接触媒質が注入されるようにし、前記蓋部側に形成された第2の媒質空間に空気穴を設けたことを特徴とする請求項4に記載の管肉厚測定装置。
【請求項6】
前記保持部は、前記管の外表面との距離を一定に保った状態で前記超音波探触子をスライド移動させる機構を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の管肉厚測定装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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