説明

節足動物へのdsRNAの送達

【課題】遺伝子サイレンシングによる節足動物の害虫制御方法、並びに寄生虫および捕食動物に対する節足動物の保護方法の提供。また、単一の自己相補的RNA鎖または少なくとも2つの相補的RNA鎖によって形成されるポリリボヌクレオチド構造(dsRNA)分子を発現するトランスジェニック節足動物の提供。
【解決手段】節足動物組織にdsRNAを送達するために、節足動物と該節足動物に対するdsRNAとを接触させること、および/または該節足動物に該dsRNAを直接給餌する。該方法は節足動物における遺伝子の生物学的機能を決定するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、dsRNA、及び遺伝子のサイレンシング(沈黙化)におけるその使用に関する。さらに、本発明は、節足動物へのdsRNAの送達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(RNAi)は、少なくともいくつかの生物において、ウイルスに対する、及びトランスポゾンの移動性により産生されるものなどの異常な転写物の産生に対する天然の適応防御であると考えられている(Bosher及びLabouesse、2000;Waterhouseら、2001)。
【0003】
dsRNAが標的RNAの分解を媒介する実際のプロセスは完全には理解されていないが、関与する細胞機構は徐々に同定されている。全長dsRNAはDicer-1と呼ばれる酵素により、約21ヌクレオチドのdsRNAへと徐々に分解されることが観察されている(Elbashirら、2001)。Dicer-1タンパク質は、それらの結合した21merのdsRNAと共に、配列同一性を有する一本鎖RNAを探し、一本鎖RNA標的の切断を促進すると考えられる(Waterhouseら、2001)。
【0004】
線虫(C. elegans)の腸は、わずか20個の細胞から構成される単純な管である(White、1988)。線虫(C. elegans)については、dsRNAを成虫の生殖腺組織にマイクロインジェクションしてきているが、うんざりするマイクロインジェクション法を回避するより簡便な方法が開発されてきている。センス及びアンチセンスRNAを同時に発現する大腸菌(Escherichia coli)を食した線虫はdsRNAを獲得することができる。興味深いことに、その後、摂取されたdsRNAは、消化管から広がって、その線虫が有するほとんど全ての組織を標的とすることができる(Timmons及びFire、1998)。あるいは、該線虫を、リポソームを加えたか又は裸のRNAとしてのdsRNA溶液に浸してもよい(Tabaraら、1998;Maedaら、2001)。
【0005】
節足動物の消化管は非常に多くの細胞型から構成され、高度に変化に富んでいるが、それはそれらがそれぞれの種の必要性及びそれぞれに特有な食餌選択に適合しているからである。線虫と昆虫の間の進化的距離はかなりのものであるので、線虫(C. elegans)へのdsRNAの給餌は成功したものの、それが昆虫に対して容易に移転可能な技術であろうと考える理由はない。栄養囲膜などの昆虫消化管における特異的バリアの存在もまた、経口的に送達されたdsRNAの直接吸収を制限又は妨害し得る。節足動物の中腸は栄養摂取の主要部位であり、異なる節足動物の中腸内部環境は非常に多様であり得る。例えば、ショウジョウバエDrosophila melanogasterはかなり酸性の中腸内腔を有するが、多くの鱗翅目(Lepidoptera)(蛾及び蝶)は、まさに対立的な、高度に塩基性の中腸環境を有する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、dsRNAを利用して節足動物におけるRNAの生物学的機能を決定するために方法を提供する。特に、本発明は、トランスフェクション促進剤の助けにより節足動物にdsRNAを送達する効率的な仕組みを提供する。さらに、本発明は、有害な節足動物集団を制御するための方法、節足動物により運搬される病原体を制御するための方法、並びに病原体、寄生虫又は捕食性生物から節足動物を保護するための方法を提供する。さらに、本発明は、小dsRNA分子を発現する、トランスジェニック生物、特に、トランスジェニック節足動物を提供する。
【0007】
一態様において、本発明は、節足動物における標的RNAの生物学的機能を決定する方法であって、標的RNAのレベル及び/又は該節足動物の細胞において標的RNAによりコードされるタンパク質の産生を特異的に低下させるdsRNA分子を該節足動物に送達し、該節足動物の少なくとも1種の生物学的機能に対する該dsRNAの効果を評価することを含む、前記方法を提供する。
【0008】
本発明の方法を用いて、特性評価されていないRNA又は発現された配列タグ(EST)の機能について、特に、有害な節足動物のESTライブラリーの高効率スクリーニングにおいて迅速にスクリーニングすることができる。究極的には、この方法により、新規な殺虫剤標的の同定が容易になる。例えば、ある節足動物に対して致死をもたらす特定のdsRNAは、対応するRNAそれ自身又はmRNAによりコードされるタンパク質が節足動物の生存にとって必須であり、結果として、前記RNA又はタンパク質が良好な殺虫剤標的であることを示唆している。従って、このRNA、又はmRNAによりコードされるタンパク質は、有害な節足動物集団を制御するための薬剤の設計、及び/又は該薬剤のスクリーニングにおいて特異的標的となる。
【0009】
代替的な実施形態においては、前記方法を用いて、以前に特性評価された節足動物RNAのさらなる任意の機能を決定する。
【0010】
あるいは、特定の生物学的プロセスに潜在的に関与するRNA(例えば、既知の遺伝子との配列同一性により、及び/又は発現パターンを通じて決定される)に対して特異性を有するdsRNAを設計し、それをスクリーニングして特定の表現型をもたらすdsRNAを取得することができる。そのような表現型としては、節足動物の死又は不妊性が挙げられる。実際、無作為なdsRNAをこの方法により所望の表現型についてスクリーニングすることができる。
【0011】
節足動物に感染するウイルスなどの病原体を遺伝子工学的に操作して、特定のRNAのダウンレギュレーションのためにdsRNAを発現させることができる。典型的には、これは有害な節足動物集団を制御するための生物学的薬剤の製造のためのものである。しかしながら、そのような病原体を容易に操作することはできず、遺伝子工学的に操作された好適な病原体の同定における進展を遅延させている。本発明を用いて、候補dsRNA分子を迅速にスクリーニングして、それらが標的有害節足動物に対して所望の効果をもたらすかどうかを決定することができる。一度、候補体が所望の効果をもたらすことが示されれば、好適な病原体を遺伝子工学的に操作し、節足動物集団の生物学的制御薬剤として試験することができる。
【0012】
また、本発明の方法を用いて、節足動物の生産形質を増強させるのに重要なRNAを同定することもできる。この例においては、dsRNAの活性は該生産形質をダウンレギュレートし得る。一度同定されれば、対応する遺伝子を過剰発現させて、これらの生産形質を増強することができる。本発明のこの実施形態に従って、対応する内在性節足動物遺伝子を、生産形質を増強するために節足動物において異所性発現させる。本明細書において意図される生産形質の例としては、ハチにより産生される蜂蜜の組成及び/又は量、並びにクルマエビ、ザリガニ及びロブスターなどの食用甲殻類の成長速度及び/又は大きさが挙げられる。
【0013】
本発明の方法の代替的な使用においては、標的RNAを、該RNA又は該RNAによりコードされるタンパク質に殺虫剤などの薬剤が作用するかどうかを決定するように、評価することができる。この例においては、前記方法はまた、節足動物を前記薬剤に曝露することを含み、ここで、該薬剤が該節足動物に対してわずかな効果しか示さないか、又はさらなる効果を示さない場合、前記RNA、もしくは該RNAによりコードされるタンパク質は、該薬剤により直接的な作用を受けるか、又は該薬剤が影響を及ぼす生物学的経路に関与することを示唆する。前記薬剤の作用機構の同定に際して、この情報を用いて、同じ分子/経路に作用する別の殺虫剤(例えば)を設計することができる。これは、薬剤が強力な殺虫剤であることが知られているが、無害な生物に対するその毒性などの心配のために使用の認可がされていない場合に特に有用である。
【0014】
好ましい実施形態においては、前記dsRNAを、節足動物と該dsRNAとを接触させることを含むプロセスにより送達する。好ましくは、前記接触は、前記dsRNAを含む組成物中に前記節足動物を全体的に又は部分的に浸すことを含む。
【0015】
さらに好ましい実施形態においては、前記dsRNAを前記節足動物に給餌することを含むプロセスにより該dsRNAを送達する。
【0016】
好ましくは、前記dsRNAを、トランスフェクション促進剤を含む組成物中で送達する。より好ましくは、該トランスフェクション促進剤は脂質含有化合物である。
【0017】
一実施形態においては、前記脂質含有化合物を、リポフェクタミン、セルフェクチン、DMRIE-C、DOTAP及びリポフェクチンからなる群より選択する。別の実施形態においては、前記脂質含有化合物はトリス陽イオン脂質である。好適なトリス陽イオン脂質の例としては、限定されるものではないが、CS096、CS102、CS129、CS078、CS051、CS027、CS041、CS042、CS060、CS039、又はCS015が挙げられる。
【0018】
好ましくは、前記組成物はさらに核酸濃縮剤を含む。この核酸濃縮剤は当業界で公知のそのような任意の化合物であってよい。核酸濃縮剤の例としては、限定されるものではないが、スペルミジン(N-[3-アミノプロピル]-1,4-ブタンジアミン)、硫酸プロタミン、ポリリジン並びに他の正に荷電したペプチドが挙げられる。好ましくは、前記核酸濃縮剤はスペルミジン又は硫酸プロタミンである。
【0019】
さらに別の好ましい実施形態においては、前記組成物はさらに緩衝化スクロース又はリン酸緩衝生理食塩水を含む。
【0020】
別の実施形態においては、前記dsRNAを発現するトランスジェニック生物を前記節足動物に給餌することを含むプロセスにより該dsRNAを送達する。このトランスジェニック生物は、限定されるものではないが、前記dsRNAを発現する植物、酵母、菌類、藻類、細菌又は別の節足動物からなる群より選択される。好適な細菌の例としては、Pseudomonas fluorescens、E. coli、B. subtilis(Gawron-Burke及びBaum、1991)、及びWolbachia sp.が挙げられる。好ましくは、前記トランスジェニック生物はトランスジェニック植物である。
【0021】
さらに別の実施形態においては、前記dsRNAを、前記節足動物と該dsRNAを発現するウイルスとを接触させることを含むプロセスにより送達する。
【0022】
好ましくは、前記dsRNAは、標的RNAの配列の少なくとも一部に対して、少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列を含み、より好ましくは、該dsRNAは標的RNAの配列の少なくとも一部に対して、少なくとも97%の同一性を有するヌクレオチド配列を含み、さらにより好ましくは、該dsRNAは標的RNAの配列の少なくとも一部に対して、少なくとも99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0023】
前記dsRNAは、節足動物宿主においてそれが二本鎖コンフォメーションを取ることが可能になるような自己相補的な領域を有する。好ましくは、自己相補的な領域は標的RNAの少なくとも約20〜約23個の連続したヌクレオチドに対応し、より好ましくは標的RNAの全長配列に対応する。
【0024】
前記節足動物は任意の種であってよい。好ましくは、前記節足動物は、例えば、食用甲殻類、疾患を引き起こす節足動物、家庭の害虫、農業害虫、又は例えば、絹、食用物質(例えば、蜂蜜)又は薬剤物質もしくは化合物(例えば、毒素もしくは毒液)などの有用な物質又は化合物を産生する節足動物など、経済的に重要なものである。
【0025】
前記節足動物は昆虫又は甲殻類であるのが好ましい。最も好ましくは、前記節足動物は昆虫である。
【0026】
前記節足動物は任意の発生段階のものであってよいが、該節足動物はdsRNAを送達する場合には幼虫又は成体の発生段階にあるのが好ましい。本発明は、たとえdsRNAをより早期の発生段階で送達する場合でも、より後期の発生段階で節足動物の表現型に対する該dsRNAの効果を決定することを明確に包含する。
【0027】
好ましくは、前記RNAはmRNAである。
【0028】
さらなる実施形態においては、前記dsRNA分子を、前記節足動物から単離されたmRNAに由来するESTのヌクレオチド配列に基づいて設計する。
【0029】
別の態様において、本発明は、天然の節足動物RNA、節足動物により担持される病原体である生物の天然のRNA、節足動物に感染するウイルスの天然のRNA、節足動物に感染する天然のDNAウイルスのRNAコピー、及び節足動物に感染する細菌の天然のRNAからなる群から選択される標的RNAの配列に対して、少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含むdsRNAとトランスフェクション促進剤とを含む組成物を提供する。
【0030】
この天然の節足動物RNAは、節足動物の発生、神経機能、生殖又は消化に関与するタンパク質、より好ましくはこれらにとって必須であるタンパク質をコードするmRNAであるのが好ましい。
【0031】
好ましくは、前記トランスフェクション促進剤は脂質含有化合物である。
【0032】
一実施形態においては、前記脂質含有化合物はリポフェクタミン、セルフェクチン、DMRIE-C、DOTAP及びリポフェクチンからなる群より選択される。別の実施形態においては、前記脂質含有化合物はトリス陽イオン脂質である。好適なトリス陽イオン脂質の例としては、限定されるものではないが、CS096、CS102、CS129、CS078、CS051、CS027、CS041、CS042、CS060、CS039、又はCS015が挙げられる。
【0033】
好ましくは、前記組成物はさらに核酸濃縮剤を含む。この核酸濃縮剤は当業界で公知のそのような任意の化合物であってよい。その例としては、限定されるものではないが、スペルミジン(N-[3-アミノプロピル]-1,4-ブタンジアミン)、硫酸プロタミン、ポリリジン並びに他の正に荷電したペプチドが挙げられる。好ましくは、前記核酸濃縮剤はスペルミジン又は硫酸プロタミンである。
【0034】
好ましくは、前記組成物を、節足動物の集団が生息する領域に適用できるように製剤化する。この領域としては、作物植物、観賞植物もしくは原生植物、又は動物が挙げられる。さらに、前記組成物を、ウシ又はヒツジなどの動物に直接適用することができる。従って、好ましい実施形態においては、前記組成物はさらに農業的に許容し得る担体を含む。
【0035】
本発明の組成物を餌として製剤化することもできる。この例においては、前記組成物はさらに、食物物質、及び/又は節足動物に対する餌の誘引性を増強するためのフェロモンなどの誘引物質を含む。
【0036】
さらなる態様において、本発明は、dsRNA又はその分解産物が節足動物の細胞中での標的RNAのレベル及び/もしくは該標的RNAによりコードされるタンパク質の産生を特異的に低下させるのに十分である時間及び条件下で、該節足動物と該dsRNAとを接触させるか又は該dsRNAを該節足動物に給餌することを含むプロセスにより、該節足動物に該dsRNAを送達することを含み、但し該標的RNA又は該タンパク質が節足動物の生存、発生及び/もしくは生殖にとって重要なものである、有害節足動物の制御方法を提供する。
【0037】
好ましくは、前記dsRNAを本発明の組成物中に含めて送達する。
【0038】
好ましくは、前記標的RNA又は標的タンパク質は節足動物の発生、神経機能、生殖又は消化にとって必須なものである。
【0039】
また、本発明を用いて、節足動物により担持される疾患病原体を制御する。例えば、マラリア、睡眠病、及び多くのアルボウイルスを制御するために蚊を駆除しないことについては生態学的な議論が存在する。
【0040】
従って、さらに別の態様において、本発明は、節足動物により伝播される病原体を制御する方法であって、dsRNA又はその分解産物が病原体の細胞中での標的RNAのレベル及び/もしくは該標的RNAによりコードされるタンパク質の産生を特異的に低下させるのに十分である時間及び条件下で、該節足動物と該dsRNAとを接触させるか又は該dsRNAを該節足動物に給餌することを含むプロセスにより、該節足動物に該dsRNAを送達することを含み、但し該標的RNA又は該タンパク質が病原体の生存、発生及び/もしくは生殖にとって重要なものである、前記方法を提供する。
【0041】
好ましくは、前記dsRNAを本発明による組成物中に含めて送達する。
【0042】
第3の態様の好ましい実施形態においては、前記病原体は菌類、原生動物、細菌及びウイルスからなる群より選択される。
【0043】
前記病原体がウイルスである例においては、節足動物の細胞中でのdsRNA又はその分解産物の存在は、標的RNAの蓄積、又はウイルスの生存及び/もしくは複製にとって必須であるタンパク質の産生を特異的に減少させる。
【0044】
有益な節足動物を、適当なdsRNAを含む組成物の送達により、寄生虫/病原体の攻撃から保護することができる。昆虫のコロニー、特に、ハチ、カイコなどのコロニー、又は昆虫の実験室ストックでさえ、有害寄生虫もしくは有害捕食動物(例えば、線虫、ダニ)、又はウイルス病原体及び微生物病原体から保護することができる。同様に、甲殻類の商業的に重要な在庫品を疾患病原体から保護することができる。
【0045】
かくして、さらなる態様において、本発明は、病原体、寄生虫又は捕食生物に対して節足動物を保護する方法であって、dsRNA又はその分解産物が病原体、寄生虫もしくは捕食生物の細胞中での標的RNAのレベル及び/又は該標的RNAによりコードされるタンパク質の産生を特異的に低下させるのに十分である時間及び条件下で、該節足動物と該dsRNAとを接触させるか又は該dsRNAを該節足動物に給餌することを含むプロセスにより、該節足動物に該dsRNAを送達することを含み、但し該標的RNA又は該タンパク質が病原体、寄生虫、もしくは捕食生物の生存、発生及び/もしくは生殖にとって重要なものである、前記方法を提供する。
【0046】
好ましくは、前記dsRNAを本発明による組成物中に含めて送達する。
【0047】
前記病原体がウイルスである例においては、前記節足動物の細胞中のdsRNA、又はその分解産物の存在は、RNAの蓄積又はウイルスの生存及び/もしくは複製にとって必須であるタンパク質の産生を特異的に減少させる。
【0048】
以前は、dsRNA技術は、dsRNAがRNAのオープンリーディングフレーム全体の長さ又はそのかなりの部分と近似する構築物の使用を含んでいた。本発明者らは、RNA干渉をもたらすためにはそのような長いdsRNA構築物を必要としないことを見出した。驚くべきことに、本発明者らは、わずか21ヌクレオチドのdsRNAが遺伝子をサイレンシングすることができることを見出した。さらに、驚くべきことに、本発明者らは、ある生物内で予め処理され、部分的に分解されたdsRNAが、別の節足動物において依然としてRNAiを促進し得ることをも見出した。
【0049】
従って、別の態様において、本発明は、dsRNAの二本鎖である部分が約21〜約50塩基対の長さであるdsRNAを産生するように転写される異種核酸を含むトランスジェニック生物を提供する。
【0050】
好ましくは、前記dsRNAは、天然の節足動物RNA、節足動物により担持される病原体である生物の天然のRNA、節足動物に感染するウイルスの天然のRNA、節足動物に感染する天然のDNAウイルスのRNAコピー、及び節足動物に感染する細菌の天然のRNAからなる群より選択される標的RNAの配列の少なくとも一部と少なくとも90%同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
【0051】
好ましくは、dsRNAの二本鎖である部分は約21〜約23塩基対の長さである。
【0052】
好ましくは、前記生物は植物及び節足動物からなる群より選択される。
【0053】
トランスジェニック生物が植物である例においては、前記dsRNAは、該植物を餌とする節足動物中で発現されるRNAの少なくとも一部と少なくとも90%同一であるのが好ましい。
【0054】
好ましくは、前記dsRNAは病原体に対する前記トランスジェニック生物の抵抗性を増加させる。好ましくは、該病原体はウイルスである。
【0055】
好ましくは、前記dsRNAを、トランスジェニック生物中で単一のオープンリーディングフレームとして製造するが、この場合センス配列及びアンチセンス配列は、非関連配列に隣接しており、それにより該センス配列及びアンチセンス配列はハイブリダイズして、ループ構造を形成している非関連配列を有するdsRNA分子を形成することができる。
【0056】
明らかであるように、本発明の一態様の好ましい特徴及び特性を本発明の多くの他の態様に適用することができる。
【0057】
本明細書を通して、用語「含む(comprise;あるいはcomprisesやcomprisingなどのバリエーション)」は記述された要素、整数もしくは工程、又は要素群、整数群もしくは工程群を包含することを意味するものと理解されるが、任意の他の要素、整数もしくは工程、又は要素群、整数群もしくは工程群を排除することを意味するものではない。
【0058】
本明細書に含められた文献、文書、材料、装置、論文などの任意の説明はいずれも単に本発明の内容を提供する目的でなされたものである。これは、これらの物事の任意のものもしくは全てのものが従来技術の基礎の一部を形成するか、又は本出願の各請求項についての優先日以前に存在した本発明と関連する分野における一般的な常識であったと認めているものとして受け取られるべきものではない。
【0059】
以後、本発明を、限定するものではない以下の図面及び実施例を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】後期胚時にプラスミドを注入した昆虫におけるphspGUS[i/r]プラスミドのPCR検出。最も左から7レーンでは、ハエにおけるGUSトランスジーンの存在が全発生段階での1 kb PCR産物の産生により明らかである。野生型の非トランスジェニックハエ(wt)においてはPCR産物が存在しなかった。ゲルの右側では、L1(1齢幼虫)のみが、単一の500 bp PCR産物により示される、注入したプラスミドの証拠を示す。
【図2】新生虫(neonate)にdsRNAを給餌した後のD. melanogasterの幼虫及び成虫における遺伝子サイレンシング。新生幼虫をトランスフェクション促進剤とGUS dsRNAとを含む組成物に浸し、個体を2齢幼虫(上段)又は成虫(下段)時にアッセイした。合計40匹の個体を各群につきアッセイした。各ドットは非処理対照と比較した1個体のGUS遺伝子サイレンシングのレベルを表す。
【図3】トランスフェクション促進剤と種々の濃度のdsRNAとを含む組成物中に新生幼虫を浸した後のGUS活性の低下。各ドットは非処理GUS対照の比率として、1個体の成虫ハエのGUS活性を表す。合計20匹のハエを各濃度のdsRNAについてアッセイした。
【図4】D. melanogaster新生幼虫へのdsRNAの経口送達に対する種々のトランスフェクション促進剤の有効性。合計20匹の幼虫を、1μg/μl dsRNAを含む種々のトランスフェクション促進剤に浸し、2齢幼虫においてGUS活性を評価した。
【図5】RNA混合物中にスペルミジンを存在させずに、新生虫にdsRNAを給餌した後のD. melanogaster幼虫における遺伝子サイレンシング。新生幼虫を、トランスフェクション促進剤とGUS dsRNAとを含む組成物中に浸し、個体を2齢幼虫時にアッセイした。合計25匹の個体をアッセイした。各ドットは非処理対照と比較した1個体のGUS遺伝子サイレンシングのレベルを表す。
【図6】胚時にdsRNA発現プラスミドphspGUS[i/r]を注入したD. melanogaster成虫に由来するRNA抽出物を給餌したD. melanogasterにおけるGUS遺伝子サイレンシング。上段のパネルは抽出したRNAを予め給餌した3齢幼虫における遺伝子サイレンシングの範囲を示し、下段のパネルは成虫ハエにおいて観察された遺伝子サイレンシングの範囲を示す。各ドットは1個体の昆虫を表す。合計20匹の個体を各群につきアッセイした。
【発明を実施するための形態】
【0061】
発明の詳細な説明
一般的技術
特に指摘しない限り、本発明で用いられる組換えDNA技術は当業者には周知の標準的な手法である。そのような技術はJ. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley及びSons(1984)、J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T.A. Brown(編), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, 第1巻及び第2巻, IRL Press(1991)、D.M. Glover及びB.D. Hames(編), DNA Cloning: A Practical Approach, 第1〜4巻, IRL Press(1995及び1996)、並びにF.M. Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates及びWiley-Interscience(1988、現在までの全アップデートを含む)などの出典中の文献を通して記載及び説明されており、これらは参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0062】
トランスジェニック昆虫の製造に関する標準的な方法は「Insect Transgenesis - Methods and Applications」(A.M. Handler及びA.A. James編, CRC Press, London, 2000)に概略されている。
【0063】
dsRNA
本明細書で用いる、「dsRNA」又は「RNAi」は、単一の自己相補的RNA鎖によって、又は少なくとも、2つの相補的RNA鎖によって形成されるポリリボヌクレオチド構造を指す。相補性の程度、換言すれば同一性%は、100%である必要はない。というよりは、用いる条件下で二本鎖構造を形成させるのに十分なものでなければならない。
【0064】
好ましくは、ポリリボヌクレオチドの同一性%を、デフォルト設定を用いるGAP (Needleman及びWunsch、1970)分析(GCGプログラム)により決定する。ここで、クエリー(照会)配列は少なくとも約21〜約23ヌクレオチドの長さであり、GAP分析では2つの配列を少なくとも約21ヌクレオチドの領域に渡ってアラインさせる。別の実施形態においては、クエリー配列は少なくとも150ヌクレオチドの長さであり、GAP分析では2つの配列を少なくとも150ヌクレオチドの領域に渡ってアラインさせる。さらなる実施形態においては、クエリー配列は少なくとも300ヌクレオチドの長さであり、GAP分析では2つの配列を少なくとも300ヌクレオチドの領域に渡ってアラインさせる。さらに別の実施形態においては、クエリー配列は標的RNAの全長と対応し、GAP分析では2つの配列を標的RNAの全長に渡ってアラインさせる。
【0065】
本発明にとって好適なdsRNA分子の設計及び製造は、特にDougherty及びParks(1995)、Waterhouseら(1998)、Elbashirら(2001)、WO 99/32619、WO 99/53050及びWO 99/49029を考慮すれば、十分に当業者の能力の範囲内にある。
【0066】
便利なことに、dsRNAを、組換え宿主細胞中で単一のオープンリーディングフレームから製造することができるが、この場合センス配列及びアンチセンス配列は非関連配列に隣接しており、それにより、該センス配列及びアンチセンス配列はハイブリダイズして、ループ構造を形成している非関連配列を有するdsRNA分子を形成することができる。
【0067】
また、この2つの鎖を、1つはセンス鎖をコードし、1つはアンチセンス鎖をコードする2つの転写物として別々に発現させることもできる。
【0068】
RNA二本鎖形成は細胞の内部でも外部でも開始させることができる。dsRNAは部分的又は完全に二本鎖であればよい。RNAはin vitro又はin vivoで、酵素的又は化学的に合成することができる。
【0069】
dsRNAは一次転写産物又は完全にプロセシングされたRNAのいずれかに対して完全長である必要はない。一般的には、より高い同一性を用いることで、より短い配列の使用を補うことができる。さらに、dsRNAは同様に一本鎖領域を含んでもよく、例えば、dsRNAは部分的又は完全に二本鎖であってもよい。dsRNAの二本鎖領域は少なくとも約21〜約23塩基対の長さを有し、場合によっては約21〜約50塩基対の配列、場合によっては約50〜約100塩基対、場合によっては約100〜約200塩基対の配列、場合によっては約200〜約500塩基対の配列、及び場合によっては約500〜約1000以上の塩基対の配列を有し、全長の標的RNA分子と大きさにおいて一致する、その全長について二本鎖である分子に至るまでを有し得る。
【0070】
dsRNAは、合成、天然、及び非天然のものである、公知のヌクレオチド類似体又は修飾された主鎖残基もしくは結合を含んでもよい。そのような類似体の例としては、限定されるものではないが、ホスホロチオエート、ホスホルアミダート、メチルホスホナート、キラルメチルホスホナート及び2-O-メチルリボヌクレオチドが挙げられる。
【0071】
本明細書で用いる用語「標的RNAのレベル及び/又は該RNAによりコードされる標的タンパク質の産生を特異的に低下させる」並びにそのバリエーションは、dsRNAの一方の鎖の一部の配列が標的RNAと十分に同一であり、そのために細胞中の該dsRNAの存在が標的RNAの安定状態レベル及び/又は産生を低下させることを意味する。多くの例においては、標的RNAはmRNAであり、該mRNAを産生する細胞中でのdsRNAの存在は前記タンパク質の産生の低下をもたらすであろう。好ましくは、この蓄積又は産生は、野生型細胞と比較した場合、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも75%、さらにより好ましくは少なくとも95%、及び最も好ましくは100%低下する。
【0072】
阻害の結果は、細胞もしくは生物の外面的な特性を調べることによるか、又は限定されるものではないが、ノーザンハイブリダイゼーション、逆転写、マイクロアレイを用いる遺伝子発現モニタリング、抗体結合、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロッティング、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及び他の免疫アッセイなどの生化学的技術により確認することができる。
【0073】
トランスフェクション促進剤
生細胞への核酸の取込みを容易にするのに用いるトランスフェクション促進剤は当業界で周知である。トランスフェクションを増強する試薬としては、ポリカチオン、デンドリマー、DEAE Dextran、ブロックコポリマー及び陽イオン性脂質といった種類の化学物質ファミリーが挙げられる。好ましくは、トランスフェクション促進剤は、ミセル又はリポソームとして一般的に知られる小胞へと水性溶液中で自己集合することができる、正に荷電した親水性領域と脂肪酸アシル疎水性領域とを提供する脂質含有化合物(又は製剤)、並びにリポポリアミンである。
【0074】
脂質含有化合物中に封入されるポリヌクレオチドの製剤は当業界で公知であり、例えば、「Liposomes: from physical structure to therapeutic applications」(C.G. Knight編. Elsevier Press, 1981)に記載されている。
【0075】
本明細書で用いる場合、
1) CellFECTINは、膜濾過された水中の陽イオン性脂質N,NI,NII,NIII-テトラメチル-N,NI,NII,NIII-テトラパルミチルスペルミン(TM-TPS)及びジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)の1:1.5 (M/M)リポソーム製剤を指し;
2) リポフェクチンは、陽イオン性脂質N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)及びジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)の1:1 (w/w)リポソーム製剤を指し;
3) リポフェクタミンは、膜濾過された水中のポリ陽イオン性脂質2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミン-カルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)及び中性脂質ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)の3:1 (w/w)リポソーム製剤を指し;
4) DMRIE-Cは、膜濾過された水中の陽イオン性脂質DMRIE(1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド)及びコレステロールの1:1 (M/M)リポソーム製剤を指し;
5) DOTAPは、陽イオン性脂質N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチル硫酸を指し;
6) CS096: K3C10TChol (トリス分子を介してコレステロールの疎水性ドメインに結合したC10脂肪族スペーサーを有するT型トリリジン頭部基);
7) CS102: K3C10TL3 (トリス分子を介して3つの脂肪族脂肪酸(C12)に結合したC10脂肪族スペーサーを有するT型トリリジン);
8) CS129: K3C7TS3 (トリス分子を介して3つの脂肪族脂肪酸(C18)に結合したC7脂肪族スペーサーを有するT型トリリジン);
9) CS078: K2C10TL3 (トリス分子を介して3つの脂肪族脂肪酸(C12)に結合したC10脂肪族スペーサーを有するジリジン);
10) CS051: K3GTL3 (トリス分子を介して3つの脂肪族脂肪酸(C12)に結合したより短いグリシンスペーサーを有するトリリジン);
11) CS027: KATP3 (トリス分子を介して3つの脂肪族脂肪酸(C16)に結合した短いアラニンスペーサーを有するモノリジン);
12) CS041: K3ATL2 (トリス分子を介して2つの脂肪族脂肪酸(C16)に結合した短いアラニンスペーサーを有するトリリジン);
13) CS042: K3ATL3 (トリス分子を介して3つの脂肪族脂肪酸(C16)に結合した短いアラニンスペーサーを有するトリリジン);
14) CS060: K3C6TL3 (トリス分子を介して3つの脂肪族脂肪酸(C16)に結合したC6脂肪族スペーサーを有するトリリジン);
15) CS039: K3ATM3 (トリス分子を介して3つの脂肪族脂肪酸(C16)に結合した短いアラニンスペーサーを有するトリリジン);
16) CS015: K3ATP3 (トリス分子を介して3つの脂肪族脂肪酸(C16)に結合した短いアラニンスペーサーを有するトリリジン)。
【0076】
CS096、CS102、CS129、CS078、CS051、CS027、CS041、CS042、CS060、CS039及びCS015は、本発明の方法及び組成物にとって好適なトランスフェクション促進剤の特定例であり、これらを合成する方法はWO 96/05218、US 5,583,198、US 5,869,606及びUS 5,854,224 (以下を参照)並びにCameronら(1999)に詳述されている。
【0077】
本明細書で用いる用語「ミセル」及び「リポソーム」とは、水性溶液中で自己集合して3次構造を形成する両親媒性脂質から構成される小胞を意味する。
【0078】
リポソームは、親油性物質から形成される膜と水性の内側を有する二分子層からなる一重層又は多重層小胞である。この水性部分は、送達すべき組成物を含有するように構成されていてもよい。
【0079】
陽イオン性リポソームはその親水性頭部基に正の電荷を担持し、そのため該リポソームは負に荷電した核酸分子と相互作用して複合体を形成する。正に荷電したリポソーム/核酸複合体は負に荷電した細胞表面に結合し、主にエンドソーム経路を通して内部に取り込まれ。エンドソームの一部は破裂し、その内容物のリポソーム/核酸複合体を細胞の細胞質中に放出する。
【0080】
pH感受性であるか、又は負に荷電したリポソームは、核酸との複合体よりもむしろ核酸を捕捉する。核酸及び脂質の双方が同様に荷電しているため、複合体の形成よりもむしろ反発が起こる。にもかかわらず、核酸はこれらのリポソームの水性内部内に捕捉され得る。
【0081】
リポソーム組成物の1つの主要な型としては、天然由来のホスファチジルコリン以外のリン脂質が挙げられる。中性リポソーム組成物は、例えば、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)又はジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)から形成され得る。陰イオン性リポソーム組成物は、一般的には、ジミリストイルホスファチジルグリセロールから形成されるが、陰イオン性融合性リポソームは主にジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)から形成される。別の型のリポソーム組成物は、例えば、ダイズPC、及びタマゴPCなどのホスファチジルコリン(PC)から形成される。別の型はリン脂質及び/又はホスファチジルコリン及び/又はコレステロールの混合物から形成される。
【0082】
リポソームはまた、「立体化学的に安定化された」リポソームをも含むが、本明細書で用いるこの用語は、リポソーム中に組み込まれる場合、循環半減期の増大をもたらす1種以上の特殊化された脂質を含むリポソーム(そのような特殊化された脂質を欠くリポソームと比較して)を指す。立体化学的に安定化されたリポソームの例は、リポソームの小胞形成脂質部分の一部が、(A)1種以上の糖脂質を含むか、又は(B)ポリエチレングリコール(PEG)成分などの1種以上の親水性ポリマーで誘導体化されているものである。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、ガングリオシド、スフィンゴミエリン、又はPEG誘導体化脂質を含む立体化学的に安定化されたリポソームについては少なくとも、これらの立体科学的に安定化されたリポソームの循環半減期の増大は網様内皮系(RES)の細胞中への取込みの低下に起因する(Allen及びChonn、1987;Wuら、1993)と当業界では考えられている。
【0083】
核酸を含むいくつかのリポソームが当業界で公知である。WO 96/40062は、リポソーム中に高分子量の核酸を封入する方法を開示している。US 5,264,221はタンパク質を結合したリポソームを開示しており、そのようなリポソームの内容物がアンチセンスRNAを含んでもよいと主張している。US 5,665,710は、リポソーム中にオリゴデオキシヌクレオチドを封入する特定の方法を記載している。WO 97/04787はraf遺伝子に標的化されたアンチセンスオリゴヌクレオチドを含むリポソームを開示している。
【0084】
本発明の方法及び組成物にとって有用なトランスフェクション促進剤としては、WO 96/05218、US 5,854,224、US 5,583,198及びUS 5,869,606に開示されている「トリス陽イオン性脂質」が挙げられ、これらの文献の内容は参照により本明細書に組み入れられるものとする。これらの薬剤としては、下記式:
【化1】


(式中、
wはdsRNA又はdsRNAをコードする核酸であり、
xはペプチド、アミノ酸、非アミノ酸核酸結合基又は非ペプチド核酸結合基であり、
yは1〜20個の炭素原子と等価な鎖長を有するリンカーであるか、又は存在せず、
R4はHもしくはCH2O-R3であり;並びにR1、R2及びR3は、同じであっても異なっていてもよく、かつ水素、メチル基、エチル基、ヒドロキシル基又は飽和していても不飽和であってもよい3〜24個の炭素原子の炭素鎖を有する脂肪酸由来のアシル基のいずれかであるが、ただし、R1、R2及びR3の少なくとも1つは脂肪酸由来のアシル基である);
【化2】


(式中、
wはdsRNA又はdsRNAをコードする核酸であり、
xはペプチド、アミノ酸、非アミノ酸核酸結合基又は非ペプチド核酸結合基であり、
yは1〜20個の炭素原子と等価な鎖長を有するリンカーであるか、又は存在せず、
R5は飽和していても不飽和であってもよい3〜24個の炭素原子の炭素鎖を有する脂肪酸由来のアシル基である);
【化3】


(式中、
wはdsRNA又はdsRNAをコードする核酸であり、
xはペプチド、アミノ酸、非アミノ酸核酸結合基又は非ペプチド核酸結合基であり、
yは1〜20個の炭素原子と等価な鎖長を有するリンカーであるか、又は存在せず、
R4はHもしくはCH2O-R3であり;並びにR1、R2及びR3は、同じであっても異なっていてもよく、かつ水素、メチル基、エチル基、ヒドロキシル基又は飽和していても不飽和であってもよい3〜24個の炭素原子の炭素鎖を有する脂肪酸由来のアシル基のいずれかであるが、ただし、R1、R2及びR3の少なくとも1つは脂肪酸由来のアシル基である);
【化4】


(式中、
wはdsRNA又はdsRNAをコードする核酸であり、
xはペプチド、アミノ酸、非アミノ酸核酸結合基又は非ペプチド核酸結合基であり、
yは1〜20個の炭素原子と等価な鎖長を有するリンカーであるか、又は存在せず、
R5は飽和していても不飽和であってもよい3〜24個の炭素原子の炭素鎖を有する脂肪酸由来のアシル基である);並びに
【化5】


(式中、
wはdsRNA又はdsRNAをコードする核酸であり、
xはペプチド、アミノ酸、非アミノ酸核酸結合基又は非ペプチド核酸結合基であり、
yは1〜30個の炭素-炭素単一共有結合と等価な鎖長を有するスペーサーであるか、又は存在せず、
R4はHもしくはハロゲンもしくはCH2O-R3であり;並びにR1、R2及びR3は、同じであっても異なっていてもよく、かつ水素、メチル基、エチル基、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシル化アルキル基、ヒドロキシル化アルケニル基、又は、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシル化アルキル基もしくはヒドロキシル化アルケニル基を含むエーテルのいずれかであり、必要に応じて、飽和していても不飽和であってもよい3〜24個の炭素原子と等価な炭素鎖長を有する脂肪酸由来のアシル基であるが、ただし、R1、R2及びR3の少なくとも1つは飽和していても不飽和であってもよい3〜24個の炭素原子の炭素鎖を有する基を含む)、
からなる群より選択される化学式を有する化合物が挙げられる。
【0085】
本発明の意味の範囲内では、用語「リポポリアミン」は少なくとも1つの親水性ポリアミン領域と1つの親油性領域とを含む任意の両親媒性分子を意味する。このリポポリアミンの陽イオン性に荷電したポリアミン領域は負に荷電した核酸と可逆的に結合することができる。この相互作用は核酸を強力に凝縮させる。親油性領域は、形成されるヌクレオリピド粒子を脂質層で被覆することにより、このイオン性相互作用の外部媒質に対する反応性を低下させる。好適なリポポリアミンの例としては、US 6,172,048及びUS 6,171,612に開示されたものが挙げられる。
【0086】
有利には、本発明の内容において用いられるリポポリアミンのポリアミン領域は、一般式:
【化6】


(式中、mは2以上の整数であり、nは1以上の整数であり、mについては2つのアミン間に含まれる異なる炭素基間で変動してもよい)
に一致する。好ましくは、mは2〜6(境界値を含む)であり、nは1〜5(境界値を含む)である。より好ましくは、ポリアミン領域はスペルミン、又は核酸への結合特性を保持したスペルミンの類似体に相当する。
【0087】
親油性領域は飽和していても不飽和であってもよい炭化水素鎖、コレステロール、天然脂質又はラメラ相、立方相、もしくは六角形相を形成し得る合成脂質であってよい。
【0088】
試験した節足動物種において試験したトランスフェクション試薬の有効性にはいくらかの変動があった。しかしながら、本発明の開示を考慮すると、任意の所与の節足動物種にとって、どのトランスフェクション促進剤が最良の結果をもたらすかを決定するために多くの該薬剤を試験するための日常的な実験を設計することは十分に当業者の能力の範囲内にある。
【0089】
農業上許容し得る担体
節足動物の制御にとって農業上好適な、及び/又は環境上許容し得る組成物は当業界で公知である。植物及び/又は動物に対する有害節足動物の制御のための農業用組成物が農業上の使用及び野外における散布にとって好ましく好適である。好ましくは、他の有害節足動物の制御のための組成物も環境上許容し得るものであるべきである。
【0090】
農業上許容し得る担体はまた、本明細書においては「賦形剤」とも呼ぶ。賦形剤は処理しようとする動物、植物又は環境が許容し得る任意の物質であってよい。さらに、この賦形剤は本発明の組成物が遺伝子のサイレンシングを依然として引き起こすことができるようなものでなければならない。そのような賦形剤の例としては、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース又は他の糖溶液、ハンクス溶液、及び他の水性の生理学的に平衡化された塩溶液、リン酸緩衝液、炭酸水素緩衝液並びにトリス緩衝液が挙げられる。さらに、前記組成物は、組成物の半減期を増加させる化合物を含んでもよい。そのような化合物は当業者には公知である。
【0091】
本発明の組成物はまた、従来の殺虫剤、味覚刺激剤、増粘剤、UV遮蔽剤、蛍光漂白剤、分散剤、流動化剤、展着剤及び固着剤から選択される薬剤を含んでもよい。好ましくは、前記組成物が標的節足動物により摂取されるのを可能にするか又は該標的節足動物と接触させるのに好適な長さの時間にわたって、環境中に存続するように該組成物を製剤化する。
【0092】
節足動物
前記節足動物は、この分類群に分類される任意の生物であってよい。好ましくは、前記節足動物を、甲殻綱、昆虫綱及びクモ綱からなる群より選択する。
【0093】
好ましい昆虫綱の例としては、限定されるものではないが、甲虫目(例えば、Anobium、Ceutorhynchus、Rhynchophorus、Cospopolites、Lissorhoptrus、Meligethes、Hypothenemus、Hylesinus、Acalymma、Lema、Psylliodes、Leptinotarsa、Gonocephalum、Agriotes、Dermolepida、Heteronychus、Phaedon、Tribolium、Sitophilus、Diabrotica、Anthonomus又はAnthrenus属種)、鱗翅目(例えば、Ephestia、Mamestra、Earias、Pectinophora、Ostrinia、Trichoplusia、Pieris、Laphygma、Agrotis、Amathes、Wiseana、Tryporyza、Diatraea、Sporganothis、Cydia、Archips、Plutella、Chilo、Heliothis、Helicoverpa (特に、Helicoverpa armigera)、Spodoptera又はTineola属種)、双翅目(例えば、Musca、Aedes、Anopheles、Culex、Glossina、Simulium、Stomoxys、Haematobia、Tabanus、Hydrotaea、Lucilia、Chrysomia、Callitroga、Dermatobia、Gasterophilus、Hypoderma、Hylemyia、Atherigona、Chlorops、Phytomyza、Ceratitis、Liriomyza、及びMelophagus属種)、シラミ目(Phthiraptera)、半翅目(例えば、Aphis、Bemisia、Phorodon、Aeneoplamia、Empoasca、Parkinsiella、Pyrilla、Aonidiella、Coccus、Pseudococcus、Helopeltis、Lygus、Dysdercus、Oxycarenus、Nezara、Aleurodes、Triatoma、Rhodnius、Psylla、Myzus、Megoura、Phylloxera、Adelyes、Niloparvata、Nephrotettix又はCimex属種)、直翅目(例えば、Locusta、Gryllus、Schistocerca又はAcheta属種)、網翅目(例えば、Blattella、Periplaneta又はBlatta属種)、膜翅目(例えば、Athalia、Cephus、Atta、Lasius、Solenopsis又はMonomorium属種)、シロアリ目(例えば、Odontotermes及びReticulitermes属種)、ノミ目(例えば、Ctenocephalides又はPulex属種)、シミ目(例えば、Lepisma属種)、ハサミムシ目(例えば、Forficula属種)並びにチャタテムシ目(例えば、Peripsocus属種)並びに総翅目(例えば、Thrips tabaci)のメンバーが挙げられる。一実施形態においては、前記節足動物はショウジョウバエ種ではない。
【0094】
好ましいクモ綱の例としては、限定されるものではないが、マダニ、例えば、Boophilus、Ornithodorus、Rhipicephalus、Amblyomma、Hyalomma、Ixodes、Haemaphysalis、Dermocentor及びAnocentor属のメンバー、並びにAcarus、Tetranychus、Psoroptes、Notoednes、Sarcoptes、Psorergates、Chorioptes、Demodex、Panonychus、Bryobia及びEriophyes属種などのダニが挙げられる。
【0095】
好ましい甲殻綱の例としては、限定されるものではないが、ザリガニ、クルマエビ、シュリンプ、ロブスター及びカニが挙げられる。
【0096】
組換えベクター
本発明の方法及び/又は組成物にとって有用なdsRNAをコードするポリヌクレオチドを、組換えベクター中に挿入することができる。このベクターはRNAでもDNAであってもよく、原核性でも真核性でもよく、典型的にはウイルス又はプラスミドである。
【0097】
1つの型の組換えベクターは発現ベクターに機能し得る形で連結されたdsRNAをコードするポリヌクレオチドを含む。あるいは、該dsRNAの2つの鎖は別々のオープンリーディングフレームによりコードされる。用語「機能し得る形で連結された」とは、ポリヌクレオチド分子が宿主細胞中に形質転換された場合にそれが発現され得るような様式で発現ベクター中に該分子を挿入することを指す。本明細書で用いる場合、発現ベクターとは宿主細胞を形質転換することができ、かつ特定のポリヌクレオチド分子の発現を行うことができるDNA又はRNAベクターである。この発現ベクターは宿主細胞内で複製することもできるのが好ましい。発現ベクターは原核性でも真核性でもよく、典型的にはウイルス又はプラスミドである。本発明の発現ベクターとしては、本発明の組換え細胞、例えば、細菌、菌類、体内寄生虫、節足動物、他の動物、及び植物の細胞中で機能する(すなわち、遺伝子発現を指令する)任意のベクターが挙げられる。本発明の好ましい発現ベクターは節足動物細胞中で遺伝子発現を指令することができる。
【0098】
特に、本発明の発現ベクターは転写制御配列、複製起点、及び組換え細胞と適合性があり、dsRNA又はその鎖をコードするポリヌクレオチドの発現を制御する他の調節配列などの、調節配列を含む。特に、本発明の組換え分子は転写制御配列を含む。転写制御配列は転写の開始、伸長、及び終結を制御する配列である。特に重要な転写制御配列は、プロモーター、エンハンサー、オペレーター及びリプレッサー配列などの転写の開始を制御するものである。好適な転写制御配列としては、少なくとも1種の本発明の組換え細胞中で機能し得る任意の転写制御配列が挙げられる。様々なそのような転写制御配列が当業者には公知である。好ましい転写制御配列としては、節足動物細胞中で機能するものが挙げられる。さらに好適な転写制御配列としては、組織特異的プロモーター及びエンハンサーが挙げられる。
【0099】
特に好ましい発現ベクターはバキュロウイルスである。「バキュロウイルス」とは、核多角体病ウイルス(NPV)などのバキュロウイルス科の任意のウイルスを意味する。バキュロウイルスは進化学的に近縁なウイルスの大きなグループであり、節足動物にのみ感染する。実際、いくつかのバキュロウイルスは商業的に重要な農作物及び森林作物の害虫である昆虫にのみ感染するが、その他のものは他の有害昆虫に特異的に感染することが知られている。バキュロウイルスは節足動物にのみ感染するので、それらはヒト、植物、又は環境に対してほとんど危険がないか、又は全く危険がない。
【0100】
バキュロウイルスに加えて、好適なDNAウイルスとしてはMelolontha melontha EPV、Amsacta moorei EPV、Locusta migratoria EPV、Melanoplus sanguinipes EPV、Schistocerca gregaria EPV、Aedes aogypti EPV及びChironomus luridus EPVなどのエントモポックスウイルス(EPV)である。他の好適なDNAウイルスはグラニュローシスウイルス(GV)である。好適なRNAウイルスとしては、トガウイルス、フラビウイルス、ピコルナウイルス、細胞質多角体病ウイルス(CPV)などが挙げられる。二本鎖DNAウイルスであるユーバキュロウイルス科(Eubaculovirinae)の亜科には、2つの属としてNPV及びGVが含まれ、これらはその生活環において閉塞体(occlusion body)を産生するため、生物学的制御に特に有用である。GVの例としては、Cydia pomonella GV (coddling moth GV)、Pieris brassicae GV、Trichoplusia ni GV、Artogeia rapae GV、及びPlodia interpunctella GV(Indian meal moth)が挙げられる。
【0101】
本発明の実施に好適なバキュロウイルスは閉塞されていてもいなくてもよい。核多角体病ウイルス(「NPV」)は「閉塞性」のものであるバキュロウイルスの1つのサブグループである。すなわち、NPVグループの顕著な特徴は、多くのビリオンが「閉塞体(occlusion body)」と呼ばれる結晶性タンパク質マトリックス中に包埋されていることである。NPVの例としては、Lymantria dispar NPV (gypsy moth NPV)、Autographa californica MNPV、Anagrapha falcifera NPV (celery looper NPV)、Spodoptera litturalis NPV、Spodoptera frugiperda NPV、Heliothis armigera NPV、Mamestra brassicae NPV、Choristoneura fumiferana NPV、Trichoplusia ni NPV、Helicoverpa zea NPV、及びRachiplusia ou NPVが挙げられる。野外での使用では、ウイルスのポリヘドリンコートが封入された感染性ヌクレオキャプシドに対する保護をもたらすので、閉塞ウイルスはそのより大きな安定性のおかげで好ましいことが多い。
【0102】
本発明の実施において有用なバキュロウイルスは、例示した中でも、Anagrapha falcifera、Anticarsia gemmatalis、Buzura suppressuria、Cydia pomonella、Helicoverpa zea、Heliothis armigera、Manestia brassicae、Plutella xylostella、Spodoptera exigua、Spodoptera littoralis、及びSpodoptera lituraから単離されたものである。本発明の実施に特に有用な「NPV」バキュロウイルスはAcNPVであり、これはAutographa californicaに由来する核多角体病ウイルスである。Autographa californicaは、Spodoptera、Trichoplusia及びHeliothis属内の様々な主要な害虫種がこのウイルスに感染しやすいため、特に興味深い。
【0103】
トランスジェニック植物
用語「植物」とは、植物体、植物器官(例えば、葉、茎、根など)、種子、植物細胞などを指す。本発明の実施における使用が意図される植物は、単子葉植物及び双子葉植物の両方を含む。双子葉植物の例としては、ワタ、脂肪種子及び他のアブラナ、トマト、タバコ、ジャガイモ、マメ、及びダイズが挙げられる。単子葉植物の例としては、小麦、トウモロコシ、大麦、コメ、及びモロコシが挙げられる。植物種の選択を、植物又はその一部の意図される使用及びその植物種の形質転換のされ易さにより決定する。
【0104】
本発明の内容において定義されるトランスジェニック植物は、所望の植物又は植物器官において本発明の方法に有用な少なくとも1種のdsRNAを産生するように、組換えDNA技術を用いて遺伝的に改変された植物(並びにその植物の一部及び細胞)及びその子孫を含む。
【0105】
dsRNAをコードするポリヌクレオチド、又はdsRNAの個々の鎖をコードする2つの異なるポリヌクレオチドを、発生の全段階においてトランスジェニック植物中で構成的に発現させることができる。植物又は植物器官の使用に応じて、dsRNAを段階特異的な様式で産生させることができる。さらに、その使用に応じて、前記ポリヌクレオチドを組織特異的に発現させるか、又は例えば、有害節足動物による損傷などの特定の環境条件下で誘導することができる。
【0106】
植物中で目的のdsRNAをコードするポリヌクレオチドの発現を引き起こすことが知られているか、又はそれが認められる調節配列を本発明に用いることができる。用いる調節配列の選択は目的の標的作物及び/又は標的器官並びに所望の発現様式(例えば、構成的誘導性もしくは組織特異的)に依存する。そのような調節配列を植物もしくは植物ウイルスから取得することもできるし、化学的に合成することもできる。そのような調節配列は当業者には周知である。
【0107】
ターミネーター配列及びポリアデニル化シグナルなどの他の調節配列としては、植物中に存在する際と同様に機能する任意のそのような配列を含み、その選択は当業者には公知である。そのような配列の例はAgrobacterium tumefaciensのノパリンシンターゼ(nos)遺伝子の3'フランキング領域である。
【0108】
目的のdsRNAをコードするポリヌクレオチドを含む発現構築物を標的植物に導入するためにいくつかの技術が利用可能である。そのような技術としては、限定されるものではないが、カルシウム/ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション及びマイクロインジェクション又は(被覆)粒子ボンバードメントを用いるプロトプラストの形質転換が挙げられる。3つのいわゆる直接DNA形質転換法に加えて、ウイルスベクター及び細菌ベクター(例えば、Agrobacterium属由来)などのベクターを含む形質転換系が幅広く利用可能である。選択及び/又はスクリーニングの後、形質転換されたプロトプラスト、細胞又は植物の一部を、当業界で公知の方法を用いて植物体に再生することができる。形質転換技術及び/又は再生技術の選択は本発明にとっては決定的に重要なものではない。
【実施例】
【0109】
方法
GUS RNA in vitro転写プラスミド
標準的な遺伝子クローニング法(Sambrookら、1989)を用いて遺伝子構築物を作製した。細菌酵素β-グルクロニダーゼをコードするGUS遺伝子を、プライマーEcoGusF (GAATTCATGGTCCGTCCTGTAGAAACC) (配列番号1)及びEcoGusR (GAATTCCCCCACCGAGGCTGTAGC) (配列番号2)を用いて、pBacPAK8-GUSプラスミド(Clonetech)からPCRにより増幅した。1.87 kbのPCR産物をプラスミドpGEM3Zf(+)のEcoRI部位に、プライマー上のEcoRIリンカーを用いてサブクローニングし、2種のプラスミド:pGEM3Z-GUS[s] (T7プロモーターと比較して、GUS遺伝子のセンス方向);及びpGEM3Z-GUS[a/s] (T7プロモーターと比較して、GUS遺伝子のアンチセンス方向)を作製した。両プラスミドを制限エンドヌクレアーゼEcoRVを用いて消化した後、該プラスミドの再連結を行って、GUS ORFの213 bpを除去した。これはセンスGUS RNAが翻訳される場合、機能的なGUS酵素が産生されないことを確実にした。pGEM3Z-DGUS[s]及びpGEM3Z-DGUS[a/s]と命名した得られたプラスミドを、センス及びアンチセンスGUS RNAのin vitroでの転写に用いた。
【0110】
GUS RNA in vivo発現構築物
D. malanogasterの胚におけるセンス、アンチセンス、及び逆方向反復配列RNAのin vivo発現を、D. malanogasterの熱ショックプロモーターhsp70の制御下でRNAを発現する3つのプラスミドを調製することにより達成した。hsp70プロモーター、小さいマルチクローニング部位、及び熱ショックポリアデニル化シグナルを含む1 kbの断片を、プライマーhsp70F (GAATTCTAGAATCCCAAAACAAACTGG) (配列番号3)及びhst70R (GGATCCTGACCGTCCATCGCAATAAAATGAGCC) (配列番号4)を用いてプラスミドpCaSpeR-hs (Thummelら、1988)からPCRにより増幅した。
【0111】
この1 kbのPCR産物をpGEM-T-Easy中にクローニングし、プラスミドpGEM-Dmhsp70を得た。GUS遺伝子を、制限エンドヌクレアーゼEcoRIを用いてプラスミドpGEM3Z-GUS[s]から切り出し、予めEcoRIで直鎖化したpGEM-Dmhsp70プラスミド中に連結した。この連結により、2つのプラスミド、すなわち、プロモーターに関してセンス方向にGUS遺伝子を有するphspGUS[s]及びアンチセンス方向にGUS遺伝子を有するphspGUS[a/s]が得られた。GUSオープンリーディングフレーム(ORF)に特異的な逆方向反復配列dsRNAを発現する第3のプラスミドpHSP70GUS[i/r]を、GUS遺伝子の5'末端である558 bpのDNA断片をGUS ORFの3'末端に連結することにより調製した。得られたコード配列は、転写された場合、5'及び3'末端で相補配列を有する転写物を産生し、これはそれ自身で折り畳んで558塩基について二本鎖配列を有するヘアピンdsRNAを形成することができた。
【0112】
H. armigera vATPaseのin vitro転写プラスミド
推定vATPase遺伝子の386 bp断片を、2つのプライマーHaATP1f (CCGAAAATCCAATCTACGGACCC) (配列番号5)及びHaATP1r (CGACGAATAACCTGGGCTGTTGC) (配列番号6)を用いてH. armigeraのゲノムDNAから増幅した。このプライマーはHeliothis virescensのvATPase遺伝子(GenBankアクセッション番号L16884)と97%の配列同一性を示すH. armigeraのESTクローンから同定された推定vATPase遺伝子のDNA配列に基づくものであった。386 bpの産物を、以下のPCR条件:95℃にて5分を1サイクル、95℃にて30秒、55℃にて30秒、72℃にて30秒を25サイクル、及び72℃にて10分、25℃にて5分を1サイクルを用いて、Perkin Elmer 2400 Themocyclerにより増幅した。PCR産物を、T7プロモーターに関して両方向でpGem-T-Easyクローニングベクター(Promega)中に連結し、プラスミドpGEMHaATPase1[s]及びpGEMHaATPase1[a/s]を作製し、これを用いてin vitroで転写されたセンス及びアンチセンスvATPase RNAを作製した。
【0113】
ショウジョウバエの形質転換
細菌酵素β-グルクロニダーゼをコードするGUS遺伝子を、GUS遺伝子をact5cプロモーターの制御下に置くPエレメント形質転換ベクターpCaSpeR-act中に挿入した。次いで、GUS遺伝子をPエレメント形質転換(Spradling及びRubin、1982)によりショウジョウバエの生殖細胞系に導入した。形質転換体をバランサー染色体株に対して戻し交配して、どの染色体にトランスジーンが挿入されたかを同定した。G2ハエに由来するDNAのサザン分析を行って、GUSトランスジェニックストック中のトランスジーンのコピー数を測定した。
【0114】
in vitro転写による二本鎖RNAの調製
プラスミドpGEM3Z-ΔGUS[s]及び-ΔDGUS [a/s]を、BamHIを用いて直鎖化した。センス及びアンチセンスRNAを、PromegaのRiboMAX Large Scale RNA Production Systemを製造業者の指示書に従って用いて、T7 RNAポリメラーゼを用いて調製した。dsRNAを作製するために、センス及びアンチセンスRNAを等モル量で混合し、37℃にて10分間アニーリングさせた。このRNAをフェノール/クロロホルム、次にクロロホルムで抽出し、エタノールで沈降させ、10 mM Tris-HCl、pH 9中に再懸濁した。dsRNAの形成を、TBE(90 mM Tris-ホウ酸、2 mM EDTA、pH 8.0)中の1.0%アガロースゲル上で、アニーリングしたRNAとアニーリングしていないRNAとを分離することにより確認した。
【0115】
vATPase dsRNAを作製するために、プラスミドpGEMHaATPase1[s]及びpGEMHaATPase1[a/s]を、BamHIを用いて直鎖化し、センス、アンチセンス、及び二本鎖RNAを上記のように作製した。
【0116】
胚注入
前胞胚葉(preblastoderm)のD. melanogaster胚に、Spradling及びRubin(1982)の方法に従ってDNA又はRNAをマイクロインジェクションし、またH. armigeraの胚を以前に記載のように(Pinkertonら、1996)マイクロインジェクションした。この胚に、100 ng/μlの濃度でインジェクションバッファー(5 mM KCl、0.1 mM PO4、pH 6.8)中に溶解したセンス、アンチセンス、及びdsRNAを注入した。約50 pgのRNAを各胚に注入した。陰性対照の胚にインジェクションバッファーのみをモック注入した。DNAを注入した胚に約250 pgのプラスミドDNAを注入した。胚を16時間完全に発生させ、その後のGUSアッセイにおける使用のために急速冷凍するか、又は孵化させて生存している幼虫を、培地を含むバイアルに移した。個々の幼虫及び成虫を回収し、-80℃にて急速冷凍した。
【0117】
経口dsRNA送達
新たに孵化した1齢幼虫(Drosophila melanogaster又はHelicoverpa armigera)を10〜25群に分けて96穴プレートに移し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄した。センス、アンチセンス、及びアニーリングしたdsRNA(0.05〜2μg)を、20μlのPBS又は緩衝化スクロース(20%スクロース、10 mM Tris、pH 7.5)の容量で、1μlのトランスフェクション促進剤、0.5 mMスペルミジン又は硫酸プロタミン(0.5 mg/mg DNA)と混合した。30分後、赤色食用染料をトランスフェクション促進剤-RNA混合物に添加し、この混合物を新生幼虫に添加した。幼虫を前記混合物中に1時間浸したままにした後、幼虫を飼育用培地に移した。この様式で処理した約90%の個体はその消化管中に赤色食用染料を含んでおり、そのことは大部分の個体が該混合物を摂取したことを示していた。
【0118】
飼育条件
D. melanogasterを、標準的な酵母寒天ショウジョウバエ培地(Roberts及びStanden、1998)上で25℃にて飼育した。H. armigeraを以前に記載のように(Duveら、1997)飼育した。
【0119】
GUSアッセイ
昆虫を、ホモジナイゼーションバッファー(50 mM NaHPO4、pH 7.0、10 mM β-メルカプトエタノール、10 mM EDTA、0.1%ラウリルサルコシン酸ナトリウム、0.1% Triton X-100)中でホモジェナイズし、記載のように(Gallagher、1992)蛍光アッセイにおいて基質として4-メチルウンベリフェリルβ-D-グルクロン酸を用いてGUS酵素活性を測定した。Bradfordアッセイ(Bradford、1976)を用いてタンパク質アッセイを行った。切断した昆虫を、記載のように(Naleway、1992)5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルβ-D-グルクロン酸(X-GlcU)を用いてGUS活性に対して染色した。
【0120】
結果
GUSトランスジェニック株の特性評価
標準的な遺伝子分析及びサザン分析により、D. melanogasterのGUSトランスジェニックストックが第3染色体上に位置するact5c-GUS構築物の1個の挿入が確認された(結果は示さない)。GUS遺伝子は体全体で構成的に発現しており、雄及び雌の双方の脂肪体及び生殖腺において大量のGUS活性が観察された(データは示さない)。蛍光GUS酵素アッセイにより、全ての発生段階のGUSトランスジェニック体が、それらの形質転換されていない等価物と比べて少なくとも18倍を超えるGUS活性を有していることが確認された(表1)。
【0121】
in vitro転写され、アニーリングした二本鎖RNAを用いたショウジョウバエ胚におけるGUS遺伝子のサイレンシング
前胚胞葉胚にRNAを注入した後、GUS活性についてアッセイする前に、孵化の直前まで胚を16時間発生させた。胚を25群にプールしたのに対して、幼虫及び成虫はGUS活性について個々にアッセイした。どの個々の胚がRNA注入により最も影響を受けたかを決定することはできなかったが、センス及びアンチセンスは両方ともGUS活性にほとんど影響しないか、又は全く影響しないのが明らかであったのに対して、dsRNAを注入したこれらの胚はGUS活性の有意な低下を示した(表2)。モック注入した胚及びdsRNAを注入した胚から得たRNAのノザン分析により、GUS活性の低下はdsRNAを注入した胚におけるGUS転写物の減少と相関していることが確認された(結果は示さない)。興味深いことに、GUS遺伝子発現のサイレンシングは発生を通して持続し、胚と同様、dsRNAで処理した幼虫及び成虫の両方もGUS活性の実質的な低下を示した。これらの結果により、in vitro調製したdsRNAの胚への直接送達によりGUS遺伝子発現を効率的に低下させることができることが確認された。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
in vivo産生されたdsRNAを用いたショウジョウバエ胚におけるGUS遺伝子のサイレンシング
GUS株胚にプラスミドphspGUS[s]、phspGUS[a/s]及びphspGUS[i/r]を注入した後、注入後6時間、熱ショックを与えた。孵化直前(16時間発生)に胚を回収し、GUS活性についてアッセイした。phspGUS[s]を注入した胚はGUS活性の差異を示さなかったのに対して、phspGUS[a/s]を注入した胚はモック注入した対照と比較してGUS活性の12%の減少を示した(表3)。逆方向反復配列RNA発現構築物であるphspGUS[i/r]を注入した胚は、GUS活性の実質的な(90%)低下を示した。phspGUS[i/r]プラスミドを注入した胚から発生した成虫は遺伝子サイレンシング表現型の持続を示し、モック注入した対照と比較してGUS活性の55%の低下を示した。センス又はアンチセンスRNAを発現するプラスミドの注入から誘導された成虫は遺伝子サイレンシングの持続を示さなかった。
【0125】
【表3】

【0126】
異なる発生段階のPCR分析により、1齢幼虫を過ぎれば注入したプラスミドを検出することができないことが示されたが(図1)、これは一度昆虫が2齢幼虫に脱皮すれば、注入されたDNAが急速に分解されることを示唆している。従って、発生を通した遺伝子サイレンシングの持続はdsRNAの持続に起因する可能性が最も高く、注入されたプラスミドからのdsRNAの持続的発現に起因するものではない。
【0127】
dsRNA中への幼虫の浸漬後のショウジョウバエにおけるGUS遺伝子のサイレンシング
裸のGUS dsRNAを給餌したショウジョウバエの幼虫はGUS遺伝子発現の変化を示さなかった(結果は示さない)。同様に、新生幼虫をGUSセンス又はアンチセンスRNAを含むDMRIE-C混合物中に浸した場合の、2齢幼虫又は成虫におけるGUS活性の変化も観察されなかった(結果は示さない)。対照的に、GUS dsRNAを含むトランスフェクション促進剤中に浸した新生虫の15%が成体ハエへと発生して、GUS活性の90%を超える低下を示した(図2)。別の35%の生存ハエはGUS発現の中間的な(20〜80%)低下を示した。同様に、dsRNAに浸した新生虫由来の2齢幼虫も同様の結果を示し、20%の幼虫がGUS活性の90%を超える低下を示し、別の40%の幼虫が正常なGUS活性レベルの20〜80%のGUS活性の低下を示した。これらの結果は、in vitro転写され、アニーリングしたdsRNAを新生虫に給餌すると、強力で体内に広がる標的遺伝子の遺伝子サイレンシングを引き起こすことができることを示している。トランスフェクション促進剤処理で死んだり傷ついたりした幼虫は観察されなかったので、dsRNA送達のこの方法は比較的害の無いものであるようである。GUS活性の低下を示す昆虫は健康であり、他に観察可能な表現型を示さなかったので、遺伝子サイレンシングは遺伝子特異的なものであるようである。
【0128】
幼虫を混合物に浸したとき、摂取、気管への灌流により、又はクチクラを介した吸収により、dsRNAの進入が起こりうる。しかしながら、低割合(10%)の生存幼虫はその消化管中に着色している食物を有さないことが観察された。これらの個体はGUS活性の低下を示さなかったが、これはdsRNAの進入の主経路が消化管を介するものであることを示唆している(結果は示さない)。
【0129】
幼虫に給餌したdsRNAの濃度はGUS活性の強い抑制を示す個体数と直接相関していた。DMRIE-Cを用いて試験した最も低い濃度(0.25μg/μl)のdsRNAにより、4匹/20匹のハエが25%を超えるGUS活性の低下を示した(図3)。対照的に、試験した最も高い濃度のdsRNA (1.0μg/μl)により、12匹/20匹のハエが25%を超えるGUS活性の低下を示した。この最も高い用量で、最大数(5匹/20匹)のハエが80%を超えるGUS活性の低下を示した。これらのサンプルサイズは小さいが(20個体/処理)、それらは遺伝子サイレンシングの程度がdsRNA用量に依存的であることを示している。
【0130】
リポフェクタミン、セルフェクチン、及びDMRIE-C (Life Technologies)は各々、測定可能なレベルのGUS活性の低下を有する個体を産生した(図4)。DMRIE-Cは最大数の個体に高度な遺伝子サイレンシングをもたらし、25%の幼虫について、75%を超えるGUS活性が消失した。20匹のうち2匹の個体が、このトランスフェクション促進剤を用いて100%の遺伝子サイレンシングを示した。リポフェクタミン及びセルフェクチンを用いたトランスフェクションは試験した35%の幼虫において26〜50%のGUS遺伝子のサイレンシングをもたらしたが、このことは、これらのトランスフェクション促進剤も摂取によりショウジョウバエにdsRNAを送達するのに役立ち得ることを示している。
【0131】
GUS遺伝子発現の大部分(約70%、結果は示さない)が脂肪体及び生殖腺において認められるとき、サイレンシングシグナルは明らかに消化管組織を超えて体全体に拡散した。この遺伝子サイレンシングの拡散現象はdsRNAを食べさせた線虫(C. elegans)線虫において認められるものと類似していないわけではない。しかしながら、ショウジョウバエの消化管は物理的かつ生理学的に線虫(C. elegans)のものよりも複雑であるので、この様式のdsRNAの送達後に昆虫において遺伝子サイレンシングが観察されることは驚くべきことである。最も注目すべきことに、ショウジョウバエは中腸の長さ全体にわたり、理論的には中腸細胞へのdsRNAの伝達を潜在的に低下させるか又は妨げうる栄養囲膜を生成する。
【0132】
RNA混合物への核酸濃縮剤(スペルミジン又は硫酸プロタミン)の添加はショウジョウバエにおいてRNAiの効力を増強させることが判明した。スペルミジンを添加しない場合、処理した幼虫の20%のみが20%を超えるGUS活性の低下を示し、最大32%のGUSサイレンシングが観察されたのみであった(図5)。スペルミジンを用いることにより有意なレベルのGUS遺伝子サイレンシングを示す個体の比率が増加しただけでなく、いくつかの個体においては最大レベルのGUS遺伝子サイレンシングが100%に増加した(図2を参照)。スペルミジンの代わりに硫酸プロタミンを用いた場合も同様のRNAiの増強が観察された(結果は示さない)。
【0133】
ショウジョウバエにおけるRNAiの効力は、RNAとトランスフェクション促進剤との混合の際にPBSを緩衝化スクロースと置換した場合にわずかに改善することが判明した(表4)。それについてはさらに試験していないが、PBSのスクロースとの置換が検討中の多くのトランスフェクション促進剤においてRNAのパッケージングの効率を改善すると予想される。
【0134】
トランスフェクション促進剤の選択はTrevor Lockett and colleagues (CSIRO Molecular Science)の厚意により提供された。これらのトランスフェクション促進剤は特許「核酸の送達」(PCT/AU95/00505、US 5,906,922)に完全に記載されている。11種のこれらのCSIRO試薬と5種の市販試薬との比較を行ったところ、CSIROリポソームの多くがショウジョウバエにおいてRNAi作用をもたらす上でより有効であった(表5)。特に、リポソームCS096、CS102、及びCS129は最良のパフォーマンスを有する市販のリポソーム、DMRIE-Cよりもよく働いた。試験したCSIROリポソームは全て、最も貧弱な市販のリポソーム、DOTAPよりもRNAiによる影響を受けた個体をずっと多い数でもたらした。これらの結果により、昆虫へのdsRNAの最適化された送達を、適当なトランスフェクション促進剤を選択することにより達成することができることが確認された。
【0135】
【表4】

【0136】
H. armigeraにおける内因性遺伝子のサイレンシング
新生幼虫H. armigeraを、トランスフェクション促進剤と、推定上の液胞型ATPase遺伝子に特異的なdsRNAとを含む組成物中に浸した。鱗翅目にはいくつかのvATPase遺伝子が存在し、そのいくつかは中腸細胞におけるプロトンポンプのサブユニットをコードすることが知られている。これらのプロトンポンプは鱗翅目の中腸の高いpH(約pH10)環境の確立及び維持を担っている。
【0137】
全てのショウジョウバエ幼虫は侵漬処理を生き延びたが、RNAを含まないトランスフェクション促進剤への曝露後24時間を生き延びたH. armigera幼虫は64%に過ぎなかった(表6)。同程度の割合(62%)の芋虫がGUS dsRNAと混合したトランスフェクション促進剤を含む処理を生き延びた。vATPase dsRNAと混合したトランスフェクション促進剤中に浸した幼虫の40%のみが最初の24時間を生き延びた。最初の24時間後に生存率がわずかに低下したのに加えて、vATPase dsRNAに曝露した幼虫については発達の遅延も観察された。
【0138】
24時間を超えて生存しているこれらの幼虫のうち、85%の対照幼虫が10日目までに蛹化に達した。対照的に、vATPase dsRNAで処理した生存幼虫の40%のみが10日目までに蛹化した。vATPase dsRNAで処理した幼虫の全体的な致死率は、トランスフェクション促進剤のみで処理した幼虫と比較して、52%であった。GUS dsRNAで処理した幼虫は有意に影響されず、82%が10日目までに蛹化した。従って、vATPase dsRNAの経口送達はH. armigera幼虫における生存率の低下及び発達遅延をもたらした。
【0139】
【表5】

【0140】
vATPase遺伝子が消化管組織において発現されること以外には(それが消化管特異的ESTライブラリーから単離されたため)、標的化された特定のvATPase遺伝子の発現について知られていることはほとんどない。標的化されたvATPase遺伝子が体内の他の場所でも発現されるかどうかも、遺伝子サイレンシングの程度がvATPase活性の大部分を低下させるのに十分なものであったかどうかも現在知られていない。にもかかわらず、GUS dsRNAは芋虫に有害な作用をもたらさなかったが、これはvATPase dsRNAを介する遺伝子サイレンシングが有意なレベルの死亡率及び罹病率を引き起こすのに十分に有効であったことを示唆している。
【0141】
D. melanogasterと違って、リポフェクタミンの使用は非常に良好なRNAiを提供した(表7)。ショウジョウバエと同様、RNAのみの処理、又はスペルミジンと併せたRNAの処理は観察可能なRNAiをもたらさなかった。
【0142】
【表6】

【0143】
dsRNAを産生する昆虫に由来するRNA抽出物の給餌
胚のときにphspGUS[i/r]プラスミドを注入した100匹のハエの群からRNAを抽出した。注入した胚に1回の熱ショックをかけて中期胚発生中にGUS dsRNAを産生させた。1齢を過ぎた発生段階ではプラスミドDNAを検出することができなかったので、この鋳型DNAからさらなるRNAは転写されないと予想される。抽出したRNAを1μg/μlの濃度で胚に注入し、後に胚をGUS活性についてアッセイした。これらの胚においてはGUS活性は40%低下したが、これはdsRNAが、抽出可能であり、かつ実験を受けたことがない昆虫に戻した場合にも依然として遺伝子サイレンシングを促進することができることを示唆している。phspGUS[s]プラスミド(センスRNA)又はphspGUS[a/s]プラスミド(アンチセンスRNA)のいずれかを以前に注入したハエから得たRNAも胚に注入したが、これらの胚はGUS活性における変化を示さなかった(結果は示さない)。
【0144】
【表7】

【0145】
次いで、予めphspGUS[i/r]プラスミドを注入したハエから抽出したRNAをDMRIE-Cと混合し、新生幼虫に給餌した。発生させた幼虫及び成虫をGUS活性についてアッセイしたところ、30%の3齢幼虫及び20%の成虫がGUS活性の25〜50%の低下を示した(図6)。これらの結果は、dsRNAを、in vitro転写され、アニーリングした全長逆方向反復配列dsRNAとしてだけでなく、昆虫内で処理されたdsRNAとして新生虫に給餌することができることを示唆している。抽出した全RNAと比較したdsRNAの比率は測定しなかったが、昆虫から抽出したdsRNAの量は給餌した新生虫において遺伝子サイレンシングを促進するのに十分なものであることは明らかであった。
【0146】
考察
本発明者らは、dsRNAを節足動物に送達することができることを証明した。裸の、パッケージングされていないdsRNAの直接給餌はD. melanogaster又はH. armigeraにおいてRNAi表現型をもたらさなかったが、これはこれらの種における効率的なトランスフェクションにはトランスフェクション促進剤が必要であることを示唆している。しかしながら、単純な消化系を有する節足動物においては、裸のdsRNAが遺伝子サイレンシングを得るのに有効であると考えられる。
【0147】
注目すべきことに、D. melanogasterとH. armigeraの消化管にはpHの差異があるにもかかわらず、これらの2つの種におけるdsRNAの送達には同じトランスフェクション促進剤が有効であった。
【0148】
重要な知見は、ある節足動物内で予め処理されたdsRNAが、該RNAがその関連タンパク質から精製された場合でさえも、別の節足動物においても依然としてRNAiを促進し得ることである。精製プロセスにより、標的RNAの分解を媒介すると考えられるいわゆるダイサータンパク質などの全てのdsRNA関連タンパク質を除去し得ると考えられる。節足動物から精製され、続いて新生虫により摂取されたdsRNAの大部分が加工された21及び22merのオリゴヌクレオチドであったとすると、後者の実験において有効な機能的ユニットは短いオリゴヌクレオチドであるようである。しかしながら、in vitro転写されたGUS及びvATPase dsRNAの摂取により立証されるように、一度摂取されれば、より長いdsRNAが有効であることは明らかである。
【0149】
広範に記載された本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されるように、本発明に対して多くの変更及び/又は改変を為し得ることは当業者には理解されるであろう。従って、本発明の実施形態は例示的なものであって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0150】
上記で考察した全ての刊行物はその全体が本明細書に組み入れられるものとする。
【0151】
本明細書に含められた文献、文書、材料、装置、論文などの説明は全て、単に本発明の内容を提供する目的のためのものである。それらは、これらの物事の任意のものもしくは全てのものが従来技術の一部を形成するか又は本出願の各請求項の優先日以前に、特にオーストラリアにおいて存在した本発明と関連する分野における一般的な常識であったと認めるものとして受け取るべきものではない。
【0152】
参考文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
節足動物の細胞において標的RNAのレベル及び/又は該標的RNAによりコードされるタンパク質の産生を特異的に低下させるdsRNA分子を該節足動物に送達し、該節足動物の少なくとも1種の生物学的機能に対する該dsRNAの効果を評価することを含む、節足動物における標的RNAの生物学的機能を決定する方法。
【請求項2】
節足動物とdsRNAとを接触させることを含むプロセスによりdsRNAを送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触が節足動物をdsRNAを含む組成物中に全体的又は部分的に浸すことを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
dsRNAを前記節足動物に給餌することを含むプロセスによりdsRNAを送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
dsRNAをトランスフェクション促進剤を含む組成物中に含めて送達する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
トランスフェクション促進剤が脂質含有化合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
脂質含有化合物が、リポフェクタミン、セルフェクチン、DMRIE-C、DOTAP及びリポフェクチンからなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
脂質含有化合物がトリス陽イオン性脂質である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
トリス陽イオン性脂質が、CS096、CS102、CS129、CS078、CS051、CS027、CS041、CS042、CS060、CS039及びCS015からなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が核酸濃縮剤をさらに含む、請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
核酸濃縮剤が、スペルミジン及び硫酸プロタミンからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
dsRNAを発現するトランスジェニック生物を節足動物に給餌することを含むプロセスによりdsRNAを送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
トランスジェニック生物がトランスジェニック植物である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
節足動物と、dsRNAを発現するウイルスとを接触させることを含むプロセスによりdsRNAを送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
dsRNAが、標的RNAの配列の少なくとも一部と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
dsRNAが、標的RNAの配列の少なくとも一部と少なくとも99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
節足動物が昆虫である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
dsRNAとトランスフェクション促進剤とを含む組成物であって、該dsRNAは標的RNAのヌクレオチド配列と少なくとも90%同一であるヌクレオチド配列を含み、該標的RNAは、天然の節足動物RNA、節足動物により担持される病原体である生物の天然のRNA、節足動物に感染するウイルスの天然のRNA、節足動物に感染する天然のDNAウイルスのRNAコピー、及び節足動物に感染する細菌の天然のRNAからなる群より選択される、前記組成物。
【請求項19】
トランスフェクション促進剤が脂質含有化合物である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
脂質含有化合物がリポフェクタミン、セルフェクチン、DMRIE-C、DOTAP及びリポフェクチンからなる群より選択される請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
脂質含有化合物がトリス陽イオン性脂質である、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
トリス陽イオン性脂質がCS096、CS102、CS129、CS078、CS051、CS027、CS041、CS042、CS060、CS039及びCS015からなる群より選択される、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が核酸濃縮剤をさらに含む、請求項18〜22のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項24】
核酸濃縮剤がスペルミジン及び硫酸プロタミンからなる群より選択される、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記組成物を節足動物の集団が生息する領域に適用できるように該組成物が製剤化されている、請求項18〜24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
前記組成物が農業上許容し得る担体をさらに含む、請求項18〜25のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物が餌として製剤化されている、請求項18〜26のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項28】
dsRNA又はその分解産物が節足動物の細胞中での標的RNAのレベル及び/もしくは該標的RNAによりコードされるタンパク質の産生を特異的に低下させるのに十分である時間かつ条件下で、該節足動物と該dsRNAとを接触させるか又は該dsRNAを該節足動物に給餌することを含むプロセスにより、該節足動物に該dsRNAを送達することを含み、但し該標的RNA又は該タンパク質が該節足動物の生存、発生及び/もしくは生殖にとって重要なものである、有害節足動物を制御する方法。
【請求項29】
dsRNAが請求項18〜27のいずれか1項に記載の組成物中に含めて送達される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
節足動物により伝播される病原体を制御する方法であって、該方法が、dsRNAもしくはその分解産物が該病原体の細胞中での標的RNAのレベル及び/もしくは該標的RNAによりコードされるタンパク質の産生を特異的に低下させるのに十分である時間かつ条件下で、該節足動物と該dsRNAとを接触させるか又は該dsRNAを該節足動物に給餌することを含むプロセスにより、該節足動物に該dsRNAを送達することを含み、但し該標的RNA又は該タンパク質が該病原体の生存、発生及び/もしくは生殖にとって重要なものである、前記方法。
【請求項31】
dsRNAが請求項18〜27のいずれか1項に記載の組成物中に含めて送達される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
病原体が菌類、原生動物、細菌及びウイルスからなる群より選択される、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
病原体、寄生虫又は捕食生物に対して節足動物を保護する方法であって、該方法が、dsRNA又はその分解産物が該病原体、寄生虫、もしくは捕食生物の細胞中で標的RNAのレベル及び/又は該標的RNAによりコードされるタンパク質の産生を特異的に低下させるのに十分である時間かつ条件下で、該節足動物と該dsRNAとを接触させるか又は該dsRNAを該節足動物に給餌することを含むプロセスにより、該節足動物に該dsRNAを送達することを含み、但し該標的RNA又は該タンパク質が該病原体、寄生虫、もしくは捕食生物の生存、発生及び/又は生殖にとって重要なものである、前記方法。
【請求項34】
dsRNAが請求項18〜27のいずれか1項に記載の組成物中で送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
転写されてdsRNAを産生する異種核酸を含むトランスジェニック生物であって、該dsRNAの二本鎖である部分が約21〜約50塩基対の長さである、前記トランスジェニック生物。
【請求項36】
dsRNAが、天然の節足動物RNA、節足動物により担持される病原体である生物の天然のRNA、節足動物に感染するウイルスの天然のRNA、節足動物に感染する天然のDNAウイルスのRNAコピー、及び節足動物に感染する細菌の天然のRNAからなる群より選択される標的RNAの配列の少なくとも一部と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項35に記載のトランスジェニック生物。
【請求項37】
dsRNAの二本鎖である部分が約21〜約23塩基対の長さである、請求項35又は36に記載のトランスジェニック生物。
【請求項38】
前記生物が植物及び節足動物からなる群より選択される、請求項35〜37のいずれか1項に記載のトランスジェニック生物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−185044(P2009−185044A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91663(P2009−91663)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願2003−510802(P2003−510802)の分割
【原出願日】平成14年7月5日(2002.7.5)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】