説明

簡易培地及び微生物の検出方法

【課題】 カテキンを含有する被検液中の微生物を簡便、正確かつ迅速に高い精度で検出することができる簡易培地及びそれを用いた微生物の検出方法を提供すること。
【解決手段】 (a)水及びアルコールに可溶な接着剤、(b)水に可溶でアルコールに不溶なゲル化剤、(c)菌体栄養成分及び(d)チオ硫酸塩を含有する培地組成物を乾燥状態で含有する繊維状吸水性シートが、防水性平板に積層されてなる簡易培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテキンを含有する被検液であっても被検試料中の微生物を簡便に精度よく検出する簡易培地及びこれを用いた微生物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カテキンが体脂肪の増加抑制効果、血中コレステロール低下効果等の生理効果があることが明らかになり、カテキンを含有する緑茶飲料は注目を集め、広く飲用されている。かような緑茶飲料は、食品衛生法の清涼飲料水に属し、含まれる微生物数は1ml中100個以下でなければならないとされていることから、緑茶飲料に含まれる微生物の正確かつ簡便な検出方法が求められている。
【0003】
微生物を検出、同定するにあたって、従来から行われている微生物の培養方法としては、平板塗抹法や混釈法、液体培地法などが一般的に用いられている。これらの方法は、培養を行う以前に培地や器具類の滅菌の準備が必要であり、被検試料を培地に接種した後は塗抹や混釈等の熟練を要する操作が必要である。更に、被検試料接種後の培地の輸送や培養後発育したコロニーを計測したあとの培地等の滅菌ではかさばる器具や培地により多大な労力を要する。
【0004】
そのため手軽に培養できるフィルム状簡易培地を用いた簡易検査法が報告されている。その例として、(1)防水性基体の上面部に、接着剤層、栄養成分を含む冷水可溶性ゲル化剤粉末層及びカバーシートを順次積層した培地(特許文献1)、(2)防水性基体の上面部に、空気透過性膜、栄養成分を含む冷水可溶性ゲル化剤粉末層及びカバーシートを順次積層した培地(特許文献2)、(3)濾紙等に菌体栄養成分を含浸させ、その表面をカバーシートで覆ってなる検出紙(特許文献3)が報告されており、さらにこれらの培地に比して被検液が容易に拡散し、かつ明確なコロニーが形成される培地として、各種の簡易培地が報告されている(特許文献4〜7)。
【0005】
しかしながら、本発明者らが見出したところによれば、このような簡易培地にカテキン含有緑茶飲料を接種し培養させる方法では、カテキンの抗菌作用により微生物の生育が阻害されるため、従来から行われている平板塗抹法、混釈法、液体培地法等ほどの検出精度が得られないという問題があった。
【特許文献1】特開昭57−502200号公報
【特許文献2】特開平3−15379号公報
【特許文献3】特開平2−65798号公報
【特許文献4】特開平8−286号公報
【特許文献5】特開平8−140664号公報
【特許文献6】特開平9−19282号公報
【特許文献7】特開2000−325072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、平板塗抹法、混釈法、液体培地法等と同等の高い精度で、カテキンを含有する被検液中の微生物を簡便、正確かつ迅速に検出することができる簡易培地及びそれを用いた微生物の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、被検体中にチオ硫酸塩を添加して測定した場合には十分な効果が得られないにもかかわらず、乾燥状態でチオ硫酸塩を含む簡易培地を用いれば、従来の平板塗抹法、混釈法、液体培地法等と同等の高い精度で、カテキンを含有する被検液中の微生物を検出することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、(a)水及びアルコールに可溶な接着剤、(b)水に可溶でアルコールに不溶なゲル化剤、(c)菌体栄養成分及び(d)チオ硫酸塩を含有する培地組成物を乾燥状態で含有する繊維状吸水性シートが、防水性平板に積層されてなる簡易培地を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、上記の簡易培地に被検液を接種して培養し、そこに形成されるコロニーを検出することを特徴とする微生物の検出方法を提供するものである。
【0010】
さらに、本発明は、(a)水及びアルコールに可溶な接着剤、(b)水に可溶でアルコールに不溶なゲル化剤、(c)菌体栄養成分及び(d)チオ硫酸塩を含有するアルコール懸濁液を調製し、防水性平板上に載置された該ゲル化剤の粒径より大きいメッシュを有する繊維質吸水性シートに含浸させ、これを乾燥して、吸水性シートを防水性平板に固着させることを特徴とする簡易培地の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の簡易培地を用いれば、被検試料がカテキンを含有する被検液であっても、被検試料中の微生物を、簡便かつ正確に精度よく検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
培地組成物に用いられる(a)水及びアルコールに可溶な接着剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等が挙げられるが、ヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましい。
【0013】
培地組成物に用いられる(b)水に可溶でアルコールに不溶なゲル化剤としては、例えばキサンタンガム、ローカストビンガム、グアーガム、カラギーナン、ペクチン等の天然ゲル化剤;ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース等の合成ゲル化剤が好ましい。斯かるゲル化剤は、平均粒径500μm 以下、好ましくは0.5〜50μm の粉体が繊維状吸水性シート中に良好に担持される点で好ましい。なお、培地組成物に用いられる培地成分(b)に、(1)キサンタンガム又はカラギーナン及び(2)ローカストビンガムが含まれ、(1)及び(2)の重量比が6:4〜0.5:9.5であれば、作製された簡易培地に試料液を培地上に滴下するのみで容易に拡散しやすくなる点で好ましい。
【0014】
培地組成物に用いられる(c)菌体培養用栄養分は、検出しようとする微生物の生育に適し、水可溶性のものが選択される。例えば、多種の微生物を増殖させる場合には、一般的な栄養培地成分が用いられ、特定の微生物を選択的に増殖させる場合には選択培地成分が用いられる。
【0015】
本発明において、チオ硫酸塩は簡易培地中に乾燥状態で含有していることが必要である。培地組成物に用いられる(d)チオ硫酸塩としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カリウム等が挙げられる。乾燥状態の培地組成物中のチオ硫酸塩の含有量は、カテキンによる微生物の増殖抑制作用に基づく、検出感度低下防止の点から8〜47重量%、さらに15〜30重量%、特に15〜21重量%が好ましい。
【0016】
さらに、本発明の培地組成物には、コロニーの観察を容易にするために、種々の発色剤を配合するのが好ましい。かかる発色剤には、コロニーを着色する色素、例えばトリフェニルテトラゾリウムクロライド、3−(p−ヨードフェニル)−2−(p−ニトロフェニル)−5−フェニル−2H−テトラゾリウムクロライド、3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロマイド等の色素;5−ブロモ−3−インドリル−β−D−ガラクトシド等の酵素基質;ブロムチモールブルーやニュートラルレッドのようなpH指示薬等が含まれる。また、コロニーの観察を容易にするため、発色剤を配合せず、シート自体を着色してもよい。
【0017】
本発明の培地組成物を含有させる繊維状吸水性シートとしては、シート上に接種された検体液が拡散し、当該検体液中の微生物を培地組成物に到達せしめるため、毛細管現象により水を拡散することのできるものであればよい。かかる性質を有するシートとしては、濾紙、レーヨン不織布、ポリエステル不織布、ポリプロピレン不織布に代表される合成繊維不織布、コットン不織布に代表される天然繊維不織布などが挙げられる。このうち、濾紙、レーヨン不織布及び長繊維セルロース不織布が好ましく、特に濾紙及びレーヨン不織布が好ましい。
【0018】
これらのシートは上記の性質を有するものであれば、特に制限されないが、水の拡散性及び薄膜形成性の両者を考慮すれば5〜200g/m2の密度を有し、0.05〜0.5mmの厚さを有するシート、特に濾紙及びレーヨン不織布が好ましい。
【0019】
また、これらのシートの形状は、正方形、長方形、円形等特に限定されない。またその大きさも特に制限されないが、微生物の簡易検出用の場合には長径で1〜15cmが好ましい。
【0020】
また、上記の繊維状吸水性シートは、接種された被検液が毛細管現象により容易に拡散し、かつ培地組成物中のゲル化剤をその網目構造中に担持できる点から、繊維状吸水性シートはゲル化剤の粒径よりも大きいメッシュを有し、かつ厚さも当該粒径より厚いことが好ましく、例えばゲル化剤として平均粒径500μm 以下、特に0.5〜50μm の粉体のものを用いた場合には、網目の大きさが15〜100メッシュ、特に20〜50メッシュで、厚さが10〜1000μm、特に50〜600μmのものを用いるのが好ましい。
【0021】
上に挙げた(a)〜(d)成分を含有する培地組成物を乾燥状態で含有してなる繊維状吸水性シートの作製は、以下のようにして行われる。まず、(a)〜(d)の培地成分をエタノール、2-プロパノール等のアルコールに添加してアルコール懸濁液を調製する。この際、各成分の濃度が、成分(a)は0.01〜5重量%、特に0.3〜2重量%、成分(b)は0.1〜20重量%、さらに2〜10重量%、特に5〜8重量%、成分(c)は0.5〜20重量%、特に1〜5重量%、成分(d)は1〜10重量%、さらに2〜5重量%、特に2〜3重量%になるようにするのが好ましい。
【0022】
次いで、このアルコール懸濁液を繊維状吸水性シートに注下、噴霧又は塗布等によって含浸させた後、乾燥してアルコールを蒸発除去する。アルコール懸濁液はシート1cm3 当り上記濃度のものを0.5〜2ml含浸させるのが好ましい。乾燥は自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥の何れであってもよい。
【0023】
かくして乾燥状態となった培地組成物中に占めるゲル化剤の割合が、31〜90重量%、特に40〜60重量%であれば、微生物のコロニーの広がりが抑制され、かつ微生物の生育が抑制されず、菌数の計測が容易である点で好ましい。31重量%よりも低い場合には、コロニーの広がりの抑制が不十分である点で好ましくなく、90重量%によりも高い場合には、微生物の生育が抑制されるおそれがある点で好ましくない。
【0024】
本発明簡易培地は、シートの片面全体に1種の培地組成物を含む薄膜が均一に形成されていてもよく、また菌体培養用栄養分と発色剤を変化させた複数種の培地組成物を含む薄膜を形成したものでもよい。
【0025】
繊維状吸水性シートを積層させる防水性平板の材質としては、防水性であれば特に制限されず、例えばポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリスチレン系等のプラスチック、ガラスなどが挙げられ、特にポリスチレン系プラスチックが好ましく、外部からの観察のため透明のものが好ましい。また、平板の表面は、薄膜を形成し得る状態であれば特に制限されず、例えば薄膜が形成し易いように梨子地に仕上げたものであってもよい。
【0026】
また、これらの平板の形状は、正方形、長方形、円形等特に限定されない。またその大きさも特に制限されないが、微生物の簡易検出用の場合には長径で1〜15cmが好ましい。
【0027】
繊維状吸水性シートの防水性平板への積層は、繊維状吸水性シートに含浸させたアルコール懸濁液の乾燥後に行ってもよいが、防水性平板上に載置された繊維状吸水性シートに対して含浸及び乾燥を行うことによるのが、繊維状吸水性シートを防水性平板へ固着できるなどの点で好ましい。
【0028】
含浸及び乾燥を防水性平板上に載置された繊維状吸水性シートに対して行う場合、含浸させるアルコール懸濁液に含まれる成分(a)の濃度を、アルコール懸濁液中0.01〜0.4重量%、好ましくは0.01〜0.15重量%とし、かつ、乾燥を、アルコールの急速な蒸発を抑制しつつ行う乾燥とすれば、乾燥後の吸水性シートの防水性平板への固着が強固となる点、及び吸水性シートの表面付近では繊維質吸水性シートの繊維が高い吸水性を保持したまま乾燥され、当該繊維目と防水性平板との立体的空洞部の毛細管現象と相俟って、被検液の拡散速度が高くなる点で好ましい。アルコール懸濁液中の成分(a)がこの範囲より高濃度の場合、懸濁液中での培地成分の動きが高濃度の成分(a)により制限され、そのまま培地成分がシート内部でのみ乾燥固化してしまい、防水性平板への固定化が不十分となり、またシートの吸水性も劣るものとなるので好ましくない。アルコールの急速な蒸発を抑制しつつ乾燥を行うための手段としては特に限定されるものではないが、例えばアルコールの蒸気圧の高い雰囲気中で乾燥を行う、低温で乾燥を行う等の方法が挙げられる。ここで行う乾燥が急速な場合には、アルコール懸濁液中の培地成分の沈降が不十分なまま固化してしまうため、吸水性シートの防水性容器への固定が不十分となり、また被検液の拡散性に劣るものとなってしまうので好ましくない。
【0029】
本発明の簡易培地は、汚染及び乾燥を防止するために、その表面をフィルムで覆うか、容器に収納するのが好ましい。特に、防水性平板として容器一体型の防水性容器を用い、これに培地成分を担持させた繊維質吸水性シートを積層固着させるのが好ましい。
【0030】
このようにして製造された本発明の簡易培地は、エチレンオキサイドガス等のガス、γ線、電子線等、好ましくはγ線によって滅菌するのが好ましい。好ましい滅菌方法としては、アルミ包材等、ガスバリヤー性と遮光性を兼ね備えた包材で包装した後、γ線、電子線等の放射線照射を行う方法が挙げられ、特にこの包装の際に簡易培地と共に乾燥剤を封入しておくことが最も好ましい。このような方法で滅菌処理を行うことにより、簡易培地の製造の全工程を無菌状態に管理する必要がなくなり、かつ滅菌後の微生物の混入や光及び湿気による培地の経時変化を抑制することが可能となる。
【0031】
本発明の簡易培地を用いて微生物を検出するには、被検体から調製した被検液を当該培地表面に接種する。本発明にはカテキンを含有する被検体(固体)から調製した被検液や液体被検液も用いることができる。カテキンを含有する被検体(固体、液体)としては、緑茶飲料、食品添加物、特定保健用食品、保健機能食品、栄養食品、健康食品、健康補助食品、サプリメント、栄養ドリンク剤、ペットフ−ド等が挙げられる。そうすると、被検液がメッシュ間の立体的な空洞部の毛細管現象によって容易に拡散し、それに続いて膨潤ゲル化が起こって、被検液中の微生物は捕捉され、自由移動が抑制され、培養によってコロニーが形成される。従って、培地形成面を観察すれば、形成したコロニーが容易に観察できる。また、本発明の簡易培地に乾燥状態で含有されるチオ硫酸塩により、カテキンの微生物増殖抑制作用が中和されるため、被検液がカテキンを含む場合であっても、被検液に含まれる微生物を正確に反映した数のコロニーが形成される。したがって、試料を定量的に簡易培地へ接種すれば、培養後出現したコロニーを計測することにより、容易にかつ精度よく菌数を算定することができる。なお、菌体液の接種は通常ピペット等により一定量を接種する方法が採用されるが、水分の多い個体へスタンプする方法や試料液へ浸す方法でもよい。また、被検液接種後の培養は、静置して行っても、また輸送期間中に行ってもよい。
【0032】
本発明の簡易培地を用いて検出することができる微生物は、特に制限されず、例えば、E.coliB.subtilisS.aureusP.aeruginosaCandida albicansB.thuringiensisB.cereusB.thuringiensisK.oxytoca等が挙げられるが、カテキン抗菌効果へのチオ硫酸塩による影響が大きい点から、S.aureusP.aeruginosaCandida albicans等が好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0034】
参考例1. カテキン含有茶飲料の抗菌作用の検討
カテキン含有茶飲料を無菌的に9mlずつ、滅菌試験管へ分注した。対照として、滅菌生理食塩水9mlの希釈液を準備した。次に、各菌株について、細菌はトリプトソイブイヨン(日水製薬社製)で35℃、24時間培養し、酵母はブドウ糖ペプトン(日水製薬社製)で35℃、48時間培養し、得られた菌液をカテキン含有茶飲料又は生理食塩水で10-1から10-8まで希釈した。希釈されたそれぞれの菌液を、コンパクトドライTC(フィルム状簡易培地:日水製薬株式会社製、以下同じ)、SPC混釈、SPC平板塗抹にそれぞれ接種し、35℃で48時間培養後、それぞれの方法により菌数を測定した。
ここで、コンパクトドライTCは、後記の表7における従来のコンパクトドライTCの組成を有する培地組成物が8.11%含まれるアルコール懸濁液を、網目の大きさが30メッシュのセルロ−ス不織布に含浸乾燥させて作製した。
なお、SPC混釈は121℃、15分高圧蒸気滅菌し、45℃〜50℃に保持した標準寒天培地を用いて、予め滅菌シャーレに入れた被検液の1mlとよく混和させ固化したのち、35℃、48時間培養後、増殖したコロニー数の計測を行うという方法であり、加温溶解した標準寒天培地(日水製薬社製)に希釈液を懸濁し、かくして得られる増殖コロニー数を計測することにより菌数を求めた。SPC平板塗抹は、標準寒天培地を121℃、15分高圧蒸気滅菌したのち、滅菌シャーレに分注し固化させた寒天培地(寒天平板培地)に被検液の0.1mlをコンラージ棒で塗抹し、培養後の増殖したコロニー数の計測を行うという方法であり、寒天平板培地(日水製薬社製)に希釈液を塗抹し、増殖したコロニー数の計測により菌数を測定した。
測定された菌数を菌株ごとに表1に示す。表1において、生食は生理食塩水で希釈した菌液を用いたことを示し、カテキンはカテキン含有茶飲料で希釈した菌液を用いたことを示す。また、+は、十分数の菌数が測定されたことを示し、−は、菌が検出されなかったことを示す(以下の表2〜表5−1、表5−2、表10についても同じ)。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すとおり、平板塗抹を用いた場合においてはカテキンの影響は認められなかった。一方、コンパクトドライTC、混釈培養を用いた場合においてはいずれもカテキンの影響による菌数低下が認められた。また、カテキンの影響の度合いはコンパクトドライTCの方がSPC混釈より大きいことが認められた。このことから、フィルム状簡易培地では、カテキンを含有した被検液を精度よく検出することができないことが明らかになった。
【0037】
参考例2. カテキン含有茶飲料の抗菌作用の検討
チオ硫酸ナトリウム、Tween80、レシチンをそれぞれの濃度でカテキン含有茶飲料に溶解し、9mlずつ分注し、100℃で20分間加温溶解後、希釈液として用いた。S.aureus ATCC6538をトリプトソイブイヨンで35℃で24時間培養し、上記の希釈液で10-1から10-8まで希釈しその1mlを摂取し、コンパクトドライTC又はSPC混釈によって35℃で48時間培養した後、それぞれの方法によって菌数を測定した。
【0038】
結果を表2に示す。wは増殖したコロニーが微小であったことを示す。生食は生理食塩水を用いて希釈を行った対照を示し、レシチンは、レシチンを1g/L、Tween80を7g/L含有する希釈液で希釈を行った対照を示す。TCは、コンパクトドライTC(日水製薬株式会社製)を用いて、SPCは、SPC混釈を用いて培養を行ったことを示す(以下同じ)。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示されるように、カテキン含有茶飲料にチオ硫酸ナトリウムを加えることにより何も加えないものに比べて数オーダー回収量が回復することが認められた。しかしながら、SPC平板を用いるよりも少ないコロニー数しか検出できなかったことから、精度は不十分であることが明らかになった。一方、抗菌剤へ中和効果が知られていたレシチンを加えても、大きな改善効果は見られなかった。
【0041】
実施例1. カテキン含有茶飲料の抗菌作用の検討
0、1、2、3、4又は5%の濃度でチオ硫酸ナトリウムを含むアルコール懸濁液を吸水性シートに含浸させ乾燥させることにより、乾燥状態の培地組成物中にチオ硫酸ナトリウムをそれぞれ13、23、32、38、44重量%含むフィルム状簡易培地を作製した。ここで、チオ硫酸ナトリウムを含む以外の成分は、前記コンパクトドライTCと同様である。作製した培地又はSPC混釈に、各菌株をカテキン含有茶飲料又は生理食塩水にて10-1〜10-8に希釈して得た各希釈液を摂取し、35℃で48時間培養した後、菌数を測定した。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3に示したように、あらかじめチオ硫酸ナトリウムが乾燥状態で含まれているフィルム状簡易培地を用いることにより、回収菌数がSPC混釈とほぼ同等までに回復することが認められた。また、4%を越えるとチオ硫酸塩の効果が低下する傾向が見られたため、3%の添加がもっとも良好であると考えられた。
【0044】
実施例2. カテキン含有茶飲料の抗菌作用の検討
コンパクトドライは、通常γ線滅菌して流通しているため、チオ硫酸ナトリウムを添加したコンパクトドライTCでのγ線滅菌の影響を検討した。まず、チオ硫酸ナトリウムのγ線滅菌の影響を確認するために、チオ硫酸ナトリウムを乾燥状態の培地組成物中に3%含むフィルム状簡易培地を作製し、γ線滅菌を施した。次に、各菌株を各茶飲料又は生理食塩水(分注後100℃で20分間加温溶解後使用)によって10-1から10-8にまで希釈した菌液を、上記のγ線滅菌を施したコンパクトドライに接種し、35℃、48時間培養後の菌数を確認した。対照としては、γ線滅菌を施したフィルム状簡易培地(滅菌チオTC)の代わりに、コンパクトドライTC(製品TC)、チオ硫酸ナトリウム3%を含む実験3の培地で未滅菌のもの(未滅菌チオTC)、SPC混釈(SPC)を用いた。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表4に示されるとおり、γ線滅菌によるチオ硫酸ナトリウムへの影響は認められなかった。また、カテキン含有茶飲料を検体とした場合、チオ硫酸ナトリウムを含むフィルム状簡易培地を用いることによって、SPC混釈と同等の検出精度で菌数が検出できることが明らかになった。
【0047】
実施例3. 微生物のコロニー拡散の程度の検討
キサンタンガム濃度を30、40、50、60、70、80g/L含むアルコール懸濁液を吸水性シートに含浸させ乾燥させることにより、乾燥状態の培地組成物中キサンタンガムをそれぞれ46、53、59、63、67、70重量%含むフィルム状簡易培地を作製した。作製した培地に、参考例1と同様の方法によって生理食塩水で10-4から10-7まで希釈した各菌株の希釈液を接種し、35℃で48時間培養した後、菌数を確認した。SPC混釈を用いたものを対照とした(SPC)。結果を表5−1及び表5−2に示す。
【0048】


【表5−1】

【0049】
【表5−2】

【0050】
表5−1及び表5−2に示すとおり、キサンタンガムの濃度を30g/Lから80g/Lへ増やしても微生物の増殖抑制は見られなかった。また、視認の結果、B.cereus GH-2、B.cereus GH-3、B.thuringiensis NBRC 13866、P.aeruginosa ATCC 9027の場合には、それぞれキサンタンガム60g/L、50 g/L、60 g/L、50 g/L以上の濃度の培地を用いることにより、コロニーの形状が良好になることが認められた。
【0051】
次に、不織布へ生理食塩水を注加した時から不織布全面へ生理食塩水が拡散する時間をストップウオッチにより測定した。結果を表6に示す。
【0052】
【表6】

【0053】
表6に示すとおり、キサンタンガムを増加させるに従い拡散が小さくなることが明らかになった。
【0054】
実施例4. カテキンおよびバチルス対策コンパクトドライTCの検討
表7に示す組成からなる培地組成物を用いて、表8に示す組成からなるアルコール懸濁液を用意し、これを用いてフィルム状簡易培地を作製した。各菌株を表9に示した各希釈液にて10-1から10-8まで希釈した菌液を用意し、かかる菌液を作製した培地に接種し、35℃で48時間培養した後、菌数を確認した。供試菌株の初発菌数について滅菌生理食塩水を用いて希釈しSPC混釈にて確認した菌数を対照とした(SPC)。結果を表10及び表11に示す。なお、表10及び表11において、従来品TCとは、コンパクトドライTCを用いて行ったものを示し、改良品TCとは、本発明のフィルム状簡易培地を用いて行ったものを示す。
【0055】
【表7】

【0056】
【表8】

【0057】
【表9】

【0058】
【表10】

【表11】

【0059】
表10及び表11に示すとおり、本発明の培地を用いた場合にはすべての茶飲料の希釈液においてコンパクトドライTC(従来品TC)よりも回収菌数が回復し、ほぼ滅菌生理食塩水を用いた菌数と同等であることが認められた。また視認の結果、コンパクトドライTC(従来品TC)と比較してコロニーの拡散はほとんど見られないことも認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水及びアルコールに可溶な接着剤、(b)水に可溶でアルコールに不溶なゲル化剤、(c)菌体栄養成分及び(d)チオ硫酸塩を含有する培地組成物を乾燥状態で含有する繊維状吸水性シートが、防水性平板に積層されてなる簡易培地。
【請求項2】
ゲル化剤が(1)キサンタンガム又はカラギーナン及び(2)ローカストビンガムであり、(1)及び(2)の重量比が6:4〜0.5:9.5である請求項1記載の簡易培地。
【請求項3】
繊維状吸水性シートに含有された乾燥状態の培地組成物中にゲル化剤が、31〜90重量%含まれるものである請求項1又は2記載の簡易培地。
【請求項4】
繊維状吸水性シートの有するメッシュがゲル化剤より大きいものである請求項1〜3いずれか1項に記載の簡易培地。
【請求項5】
(a)水及びアルコールに可溶な接着剤、(b)水に可溶でアルコールに不溶なゲル化剤、(c)菌体栄養成分及び(d)チオ硫酸塩を含有する培地組成物のアルコール懸濁液を、防水性平板上に載置された繊維質吸水性シートに含浸させ、これを乾燥して、吸水性シートを防水性平板に固着させたものである請求項1〜4いずれか1項に記載の簡易培地。
【請求項6】
培地組成物が、更に発色剤を含有するものである請求項1〜5いずれか1項に記載の簡易培地。
【請求項7】
1枚のシートに異なる組成を有する複数の培地組成物を含有するものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の簡易培地。
【請求項8】
γ線照射により滅菌したものである請求項1〜7のいずれか1項に記載の簡易培地。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の簡易培地に被検液を接種して培養し、そこに形成されるコロニーを検出することを特徴とする微生物の検出方法。
【請求項10】
被検液が、カテキンを含有するものである請求項9記載の検出方法。
【請求項11】
(a)水及びアルコールに可溶な接着剤、(b)水に可溶でアルコールに不溶なゲル化剤、(c)菌体栄養成分及び(d)チオ硫酸塩を含有するアルコール懸濁液を調製し、防水性平板上に載置された該ゲル化剤の粒径より大きいメッシュを有する繊維質吸水性シートに含浸させ、これを乾燥して、吸水性シートを防水性平板に固着させることを特徴とする簡易培地の製造方法。

【公開番号】特開2007−29047(P2007−29047A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220316(P2005−220316)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000226862)日水製薬株式会社 (35)
【Fターム(参考)】