説明

米タンパク質組成物の製造方法及び食品

【課題】舌触り及び口解けが改善された米タンパク質組成物の製造方法及び食品を提供すること。
【解決手段】米タンパク質組成物の製造方法は、米又は米粉をアルカリ性溶液に浸漬して得られる米タンパク質含有抽出液に、2価金属イオンを導入して米タンパク質の凝集体を生成させ、この凝集体を回収する工程を有する。2価金属イオンは、マグネシウムイオン及び/又はカルシウムイオンを含むことが好ましく、凝集体の生成は、シクロデキストリン及び/又はショ糖脂肪酸エステルの存在下で行うことが好ましい。食品は、これらの製造方法で製造される米タンパク質組成物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米タンパク質組成物の製造方法及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、米タンパク質はコレステロール低下作用や脂質代謝改善作用を有し、機能性食品の素材として注目されている。かかる米タンパク質は、米又は米粉をアルカリ性溶液に浸漬することにより抽出され、抽出液を中和して凝集される沈殿として回収できることが開示され(特許文献1)、この方法で得られる米タンパク質組成物が栄養価に優れ、消化及び吸収に優れることも開示されている(非特許文献1及び非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−273840号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kumagaiら、J Nutr Sci Vitaminol 第52巻、467−472頁(2006)
【非特許文献2】Kumagaiら、J Nutr Sci Vitaminol 第55巻、170−177頁(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の方法で得られる米タンパク質組成物は、構成粒子が硬く微粉砕が困難であることや、ザラザラとした食感で舌触りや口解けが悪い。このため、従来の米タンパク質組成物は、利用できる食品が限定されるという問題を有していた。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、舌触り及び口解けが改善された米タンパク質組成物の製造方法及び食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、米タンパク質含有抽出液に2価金属イオンを導入すると米タンパク質が凝集体を生成すること、この凝集体を回収して得られるタンパク質組成物が優れた舌触り及び口解けを呈することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) 米又は米粉をアルカリ性溶液に浸漬して得られる米タンパク質含有抽出液に、2価金属イオンを導入して米タンパク質の凝集体を生成させ、この凝集体を回収する工程を有する米タンパク質組成物の製造方法。
【0009】
(2) 前記2価金属イオンは、マグネシウムイオンを含む(1)記載の製造方法。
【0010】
(3) 前記2価金属イオンは、カルシウムイオンを含む(1)記載の製造方法。
【0011】
(4) 前記凝集体の生成は、シクロデキストリン及び/又はショ糖脂肪酸エステルの存在下で行う(1)から(3)いずれか記載の製造方法。
【0012】
(5) (1)から(4)いずれか記載の製造方法で製造される米タンパク質組成物を含有する食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、米タンパク質含有抽出液に2価金属イオンを導入して生成される凝集体を回収するので、得られる米タンパク質組成物は優れた舌触りや口解けを呈する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を説明するが、これが本発明を限定するものではない。
【0015】
本発明に係る米タンパク質組成物の製造方法では、米又は米粉をアルカリ性溶液に浸漬して得られる米タンパク質含有抽出液を用いる。米タンパク質含有抽出液は、特に限定されず、常法に従って製造できる。
【0016】
米タンパク質含有抽出液の材料は、精白米等の米又はそれを粉砕した米粉の一方又は双方であってよいが、米粉は粒度が細かいため、抽出時間及び効率の点で好ましい。米タンパク質の多くは、米又は米粉の米胚乳中にタンパク質顆粒(プロテインボディー)として存在している。
【0017】
アルカリ性溶液は、タンパク質組成物が食品として有用である点で、水酸化ナトリウム溶液等の食品分野で一般的に使用されるものが好ましい。また、水酸化ナトリウム溶液の場合、抽出効率の観点で、抽出後の終濃度が0.01〜1.0重量%になるようにアルカリ性溶液を調製してよい。
【0018】
米又は米粉をアルカリ性溶液に浸漬すると、米タンパク質が米の組織から遊離し、膨潤した状態で溶液中に浮遊する。このとき、特に限定されないが、米又は米粉をアルカリ性溶液に対して5〜40重量%の量で浸漬し、混合物を懸濁及び撹拌する。このような抽出は、室温で1〜48時間に亘り行うことができるが、抽出時間が長い場合等には、微生物汚染のリスクを軽減するために抽出液の温度を30℃以下に制御することが好ましい。
【0019】
得られる液を固液分離(例えば、遠心分離、静置分離、ろ過分離、膜分離)し、沈殿するデンプン粒や不溶性繊維を除去することで、米タンパク質が溶解及び/又は浮遊した清澄な溶液を得ることができる。本発明の方法において用いる米タンパク質抽出液は、固液分離の前後のいずれのものであってよいが、米タンパク質の純度を向上する観点で固液分離後のものであることが好ましい。
【0020】
米タンパク質抽出液には、米タンパク質の他に、水溶性繊維や可溶化したデンプン、オリゴ糖等の不純物が含まれている。このため、米タンパク質の純度を高めるために、米タンパク質を凝集させる必要がある。従来、米タンパク質の沈殿は、米タンパク質抽出液に酸を加えて中和することで行っているが、米タンパク質同士が強固に決着した凝集体が得られ、これを乾燥して得られる米タンパク質組成物は、構成粒子が硬く、舌触りや口解けが悪かった。
【0021】
これに対して、本発明の方法は、米タンパク質抽出液に、2価金属イオンを導入して米タンパク質の凝集体を生成させ、この凝集体を回収する工程を有することを特徴とする。この凝集体から得られるタンパク質組成物は、従来のものに比べ、顕著に優れた舌触り及び口解けを呈する。
【0022】
2価金属イオンは、特に限定されないが、食品分野での使用に適する点で、マグネシウムイオン又はカルシウムイオンの一方又は双方を含むことが好ましい。2価金属イオンの導入は、特に限定されないが、2価金属の生理学的に許容できる塩(例えば、ハロゲン化物(特に塩化物)、炭酸塩、炭酸水素塩)を直接的(つまり、塩を米タンパク質抽出液に添加)又は間接的(つまり、塩の水溶液を米タンパク質抽出液に添加)に添加することで行うことができる。
【0023】
2価金属イオンの導入量は、用いる2価金属イオンの種類等に応じ、所望の凝集体の収率が得られるよう適宜設定されてよい。2価金属イオンの具体的な導入量は、特に限定されないが、マグネシウムイオンの場合、抽出液において10mM以上、好ましくは15mM以上であり、カルシウムイオンの場合、抽出液において15mM以上、好ましくは20mM以上、より好ましくは30mM以上である。
【0024】
本発明の優位性は、任意の温度において、従来の中和法よりも優れた舌触り及び口解けの米タンパク質組成物が得られる点である。このため、米タンパク質の凝集を行う温度は、特に限定されず、幅広い範囲から、米タンパク質の機能が所望程度維持されるよう適宜選択できる。
【0025】
このような凝集体の生成は、シクロデキストリン及び/又はショ糖脂肪酸エステルの存在下で行ってもよい。これにより、更に優れた舌触り及び口解けを呈する米タンパク質組成物を得ることができる。その機構は、これらの物質が疎水基を介して米タンパク質と結合し、結合体が親水基を介して水への分散することによると推測される。このような作用が得られる限りにおいて具体的な構造は特に限定されず、例えばシクロデキストリンはα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンの1種以上であってもよく、ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖とステアリン酸やオレイン酸等の任意の脂肪酸とのエステルの1種以上であってよい。なお、シクロデキストリン及び/又はショ糖脂肪酸エステルの添加量は、所望の舌触り及び口解けが得られるよう、適宜設定されてよい。
【0026】
米タンパク質含有抽出液は、アルカリ性溶液に由来しアルカリ性を呈するため、凝集体を生成する際又は凝集体を生成した後において、pHを調整することが望ましい。
【0027】
凝集体は、固液分離(例えば、遠心分離、静置分離、ろ過分離、膜分離)を行い、固体として回収することができる。pHを調整した凝集体には多量の塩が含まれているため、水に懸濁し再度固液分離を行って回収する等により、脱塩することが好ましい。回収した凝集体を無加工又は加工して米タンパク質組成物を得ることができる。加工としては、例えば、凝集体をそのまま熱風乾燥、凍結乾燥等すること、又は少量の水に懸濁して噴霧乾燥することが挙げられ、これにより保存性に優れた米タンパク質組成物を得ることができる。
【0028】
かかる米タンパク質組成物は、優れた舌触り及び口解けを呈しつつ、コレステロール低下作用や脂質代謝改善作用等の米タンパク質の機能を奏するため、食品そのもの又は食品添加物として有用に使用できる。
【0029】
本発明は、かかる米タンパク質組成物を含有する食品も包含する。食品は、例えば、米菓、和菓子、洋菓子、氷菓、調味料、畜肉加工品、魚肉・水産加工品、乳・卵加工品、野菜加工品、果実加工品、穀類加工品であってよい。中でも、優れた舌触り及び口解けの優位性が発揮される点で、和洋菓子や練り製品が好ましい。
【実施例】
【0030】
<実施例1>
コシヒカリの米粉(新潟製粉株式会社より購入)4kgを0.2重量%の水酸化ナトリウム水溶液20Lに浸漬し、25℃で16時間に亘り撹拌した。得た液を遠心分離(5,000×g、5分)し、清澄な上清約15Lを回収し(米タンパク質含有抽出液)、冷蔵で保存した。
【0031】
米タンパク質含有抽出液を5mLずつ試験管に分注し、70℃で保温した。これに、70℃で保温した1Mの塩化マグネシウム溶液又は2Mの塩化カルシウム溶液を、表1に示すイオン濃度になる量で添加して混合し、その後の米タンパク質の凝集の程度を確認した。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

※「−」、「±」、「+」、「++」の順に、凝集の程度が高い。
【0033】
表1に示されるように、マグネシウムイオン濃度が10mM以上のときに米タンパク質の凝集が認められ、15mM以上のときに強い凝集が認められた。また、カルシウムイオン濃度が15mM以上のときに米タンパク質の凝集が認められ、25mM以上、好ましくは30mM以上のときに強い凝集が認められた。
【0034】
<実施例2>
実施例1で得た米タンパク質含有抽出液を100mLずつ6本のビーカーに分注し、3本ずつを25℃又は70℃の温度で保温した。同一温度に保温した2Mの塩化カルシウム水溶液を、カルシウムイオン濃度が0、30、60mMになるように添加し混合した後、直ちに1Nの塩酸でpHを5.5に調整した。遠心分離(5,000×g、5分)により沈殿を回収し、それぞれを100mLの水に再懸濁した後に再度遠心分離を行い、沈殿を凝集体として回収した。沈殿を凍結乾燥することで、それぞれ約0.8gの米タンパク質組成物を得た。各組成物について、良く訓練されたパネラー5名による官能評価(舌触り及び口解けを0〜5点の6段階で評価)を行った。この結果を表2に示す。なお、表2中の点数は、パネラー5名の平均点である。
【0035】
【表2】

【0036】
表2に示されるように、カルシウムイオン導入を用いて得られた米タンパク質組成物は、凝集体生成時の温度にかかわらず、中和法よりも優れた舌触り及び口解けを呈していた。
【0037】
<実施例3>
2Mの塩化カルシウム水溶液の代わりに1Mの塩化マグネシウム水溶液を用い、マグネシウムイオン濃度が0、15、30mMになるように添加した点を除き、実施例2と同様の手順で、米タンパク質組成物を得て、官能評価を行った。この結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3に示されるように、マグネシウムイオン導入を用いて得られた米タンパク質組成物は、凝集体生成時の温度にかかわらず、中和法よりも優れた舌触り及び口解けを呈していた。
【0040】
<実施例4>
実施例1で得た米タンパク質含有抽出液を100mLずつ4本のビーカーに分注し、これらにγ−シクロデキストリン(ワッカーケミカル社製「CAVAMAX W8」)又はショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ社製S−170[ショ糖ステアリン酸エステル])を添加し溶解させた。溶液を70℃で保温し、同温度に保温した1Mの塩化カルシウム溶液を、カルシウムイオン濃度が30mMになる量で添加した後、直ちに塩酸でpHを5.5に調整した。あとは実施例2と同様の手順で米タンパク質組成物を得て、官能評価を行った。この結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
表4に示されるように、2価金属イオンを用いた米タンパク質の凝集体の生成を、γ−シクロデキストリン又はショ糖脂肪酸エステルの存在下で行うことで、得られる米タンパク質組成物の舌触り及び口解けがさらに向上することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米又は米粉をアルカリ性溶液に浸漬して得られる米タンパク質含有抽出液に、2価金属イオンを導入して米タンパク質の凝集体を生成させ、この凝集体を回収する工程を有する米タンパク質組成物の製造方法。
【請求項2】
前記2価金属イオンは、マグネシウムイオンを含む請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記2価金属イオンは、カルシウムイオンを含む請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記凝集体の生成は、シクロデキストリン及び/又はショ糖脂肪酸エステルの存在下で行う請求項1から3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4いずれか記載の製造方法で製造される米タンパク質組成物を含有する食品。

【公開番号】特開2012−16325(P2012−16325A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156466(P2010−156466)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(390019987)亀田製菓株式会社 (18)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】