説明

米加工品およびその製造方法

【課題】 体内で消化されにくい食品、摂食後の血糖上昇を抑制する米加工品を提供すること。より具体的には、難消化性澱粉の多い米を原料とする米加工品を提供すること。
【解決手段】 アミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が20%以下である突然変異米を原料とする粒食形態または粉食形態の米加工品;突然変異米が、アミロペクチン短鎖のグルコース重合度が6〜12であり、当該アミロペクチン短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が20%以下のものであることを特徴とする該米加工品並びに上記粒食形態または粉食形態の米加工品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米加工品およびその製造方法に関し、詳しくは難消化性澱粉(レジスタントスターチ)の多い米を原料とする米加工品に関する。より詳しくは、難消化性澱粉の多い米を原料とする米飯、発芽玄米、粥あるいは高圧処理米飯等の粒食形態、もしくはパン、麺あるいは米菓等の粉食形態であって、血糖上昇抑制作用を有する米加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、糖尿病や高脂血症、心臓病などの生活習慣病を予防する観点、あるいは生活習慣病の患者向けの食品開発の観点から、消化酵素による分解を受けにくいために体内で消化されにくい食品、摂食後の血糖上昇を抑制する米加工品が必要とされている。
【0003】
従来、米の澱粉のアミロース含量の高い米、即ち高アミロース米やインド型の米が上記の目的に合致した米、すなわち消化されにくい澱粉が多い米であると報告されてきた。
【0004】
しかし、高アミロース米やインド型米は極めて硬く、日本人の嗜好に合わないのみならず、その消化されにくい澱粉(Resistant starch、レジスタントスターチ、以下RSと略記する。)量を測定したところ、米同士の比較では、低アミロース米や中アミロース米、あるいは日本型米に比べて、RSが多いことは確かであるが、高アミロース米やインド型米といえども、アミロース含量は30%から35%であり、その相違は顕著なものではなく、例えばRSの多い高アミロースコーン(アミロース含量が50%から75%)に比べると、桁違いに少なかった。
従って、消化酵素による分解試験を行っても、高アミロースコーンに比べて、高アミロース米やインド型米のRSは桁違いに少なく、生活習慣病の予防や摂食後の血糖上昇抑制効果が期待できなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、これら従来技術の問題点を解決し、糖尿病や高脂血症、心臓病などの生活習慣病を予防する観点、あるいは生活習慣病の患者向けの食品開発の観点から、消化酵素による分解を受けにくいために体内で消化されにくい食品、摂食後の血糖上昇を抑制する米加工品を提供することである。より具体的には、本発明の第一の目的は、難消化性澱粉の多い米を原料とする米加工品を提供することである。
【0006】
本発明の第二の目的は、難消化性澱粉の多い米飯、発芽玄米、粥あるいは高圧処理米飯等の粒食形態の加工品を提供することである。
【0007】
本発明の第三の目的は、難消化性澱粉の多いパン、麺あるいは米菓等の粉食形態の加工品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、アミロペクチンの短鎖の少ない突然変異米、即ち、アミロペクチン短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が5〜20%である、澱粉枝作り酵素II b欠損の突然変異米を原料とする米加工品である。このアミロペクチンの短鎖の少ない突然変異米は、九州大学の佐藤 光らによって、メチルニトロソウレア(MNU)処理を用いて開発された系統である(Plant Physiology, vol.127, pp.459-472, 2001)。
さらには、米加工品が米飯、発芽玄米、粥あるいは高圧処理米飯等の粒食形態の加工品であること、並びに米加工品がパン、麺あるいは米菓等の粉食形態の加工品であることを特徴とする。また、本発明により、米加工品の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第二の特徴は、突然変異米のアミロペクチン短鎖のグルコース重合度が6〜12であり、当該アミロペクチン短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が20%以下であり、RS含量が5%以上であることである。
【0010】
本発明の第三の特徴は、米加工品が米飯、発芽玄米、粥あるいは高圧処理米飯のいずれかの粒食形態の加工品であることである。
【0011】
本発明の第四の特徴は、米加工品がパン、麺あるいは米菓のいずれかの粉食形態の加工品であることである。
【0012】
本発明の第五の特徴は、米加工品が血糖上昇抑制作用を有することである。
【0013】
本発明の第六の特徴は、アミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が20%以下である突然変異米の精米に、その重量の2倍以上の重量の水を加えて炊飯することである。
【0014】
本発明の第七の特徴は、アミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が20%以下である突然変異米に、10気圧以上300気圧以下の圧力を加えた後、急激に除圧することによって比容積を3ml/g〜20ml/gの多孔質構造の膨化米とすることである。
【0015】
即ち、請求項1記載の本発明は、アミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が5〜20%である突然変異米を原料とする粒食形態または粉食形態の米加工品である。
請求項2記載の本発明は、突然変異米のアミロペクチン短鎖のグルコース重合度が6〜12であり、当該アミロペクチン短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が5〜20%であり、レジスタントスターチ含量が5%以上のものであることを特徴とする請求項1に記載の米加工品である。
請求項3記載の本発明は、米加工品が、米飯、発芽玄米、粥あるいは高圧処理米飯のいずれかの粒食形態の加工品であることを特徴とする請求項1または2に記載の米加工品である。
請求項4記載の本発明は、米加工品がパン、麺あるいは米菓のいずれかの粉食形態の加工品であることを特徴とする請求項1または2に記載の米加工品である。
請求項5記載の本発明は、米加工品が、血糖上昇抑制作用を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の米加工品である。
請求項6記載の本発明は、アミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が5〜20%である突然変異米の精米に、該重量の2倍以上の重量の水を加えて炊飯することを特徴とする粒食形態の米加工品の製造方法である。
請求項7記載の本発明は、アミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が5〜20%である突然変異米の精米に、10気圧以上300気圧以下の圧力を加えた後、急激に除圧することによって比容積を3〜20ml/gの多孔質構造の膨化米とすることを特徴とする請求項1に記載の米加工品の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
(1)本発明により、難消化性澱粉の多い米飯、粥、発芽玄米、高圧処理米飯(レトルト米飯)などを提供することが可能となり、米飯摂食後の血糖値の上昇を抑制することによって糖尿病などを予防する効果が期待できる。
(2)本発明により、難消化性澱粉の多いパン、麺、米菓などを提供することが可能となり、粉食用途としての美味しさ、他用途利用という特徴を生かしながら、米粉摂食後の血糖値の上昇を抑制することによって糖尿病などを予防する効果が期待できる。
(3)本発明により、アミロペクチン短鎖の少ない低食味米を、新たな機能性米加工品原料としての新しい用途が開発される。
(4)本発明により、腸内有用細菌の増殖による整腸作用やコレステロール減少による心臓病予防などの健康増進・疾病予防効果が期待できる食品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において生活習慣病とは、糖尿病、高脂血症、心臓病など、生活習慣によって発症あるいは病勢が進行する病気を指す。
【0018】
本発明において摂食後の血糖上昇を抑制する食品とは、摂食後の血液中のグルコース量の増加やインシュリンの増加を抑制する食品を指し、グライセミックインデックスの低い食品あるいは低GI食品とも呼ばれる。
【0019】
本発明における突然変異米とは、メチルニトロソウレア(MNU)やN-ビス(2-ヒドロキシプロピル)ニトロソアミン(DHPN)等の化学試薬やコバルト6などの物理的刺激によって、人為的に変異を起こした米であって、その特性が遺伝的に保持されるものを指す。
このような突然変異米は、グルコース重合度が6〜12のアミロペクチン短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が20%以下、通常は5〜20%のものであり、例えばEM10、EM16、EM72、EM129、EM189、EM192などが挙げられる。これらは、適正な手続のもとで、九州大学大学院農学研究院の佐藤 光研究室より入手することができる。5%未満では米加工品が硬くなりすぎて使用に耐えられなくなり、不適当である。一方、20%を超えると、難消化性澱粉の量が多くなりすぎて、本発明の目的を達成できなくなるので、不適当である。
【0020】
本発明におけるアミロースとは、澱粉の構成成分であって、グルコースが主としてα−1,4グリコシド結合によって重合した直鎖状高分子を指す。本発明におけるアミロペクチンとは、澱粉の構成成分であって、グルコースがα−1,4グリコシド結合によって重合した主鎖に、α−1,6グリコシド結合による枝分かれが派生した、樹枝状の高分子を指す。
また、本発明におけるアミロペクチン短鎖とは、アミロペクチン分子の外側を構成するグルコース重合度が6〜12の短鎖長部分を指す。アミロペクチン短鎖は、イソアミラーゼ等の澱粉枝切り酵素によって澱粉分子を分解した後に、イオンクロマトグラフィーなどの装置で分子量の相違に基づいて分離定量することによって測定することができる。本発明においては、デンプンのアミロペクチン短鎖を枝付けするBE IIbが欠損したために、アミロペクチン短鎖の全体に対する割合が20%以下、通常は5〜20%である突然変異米が良好な加工適正と特に顕著な難消化性を示すので好適である。
【0021】
本発明における米飯、発芽玄米、粥、パン、麺、米菓等は通常の米加工品を指す。これらの米加工品は、上記アミロペクチン短鎖の少ない突然変異米を原料とすることにより、通常の高アミロース米を原料とする米加工品よりも難消化性の澱粉が極めて多い米加工品となる。
この理由により、摂食後の血糖上昇を緩やかにして糖尿病の発症を予防したり、あるいは、腸内有用細菌増殖促進による整腸作用やコレステロール低下効果が期待できる。
米飯、発芽玄米、粥、高圧処理米飯などの粒食形態の加工品の場合は、消化が遅いために、血糖上昇抑制効果がさらに顕著になるという特徴がある。他方、パン、麺、米菓などの粉食形態で利用する場合は、血糖上昇抑制効果に加えて、食味も良好になるという特徴がある。
【0022】
しかしながら、これらの米加工品は、本来的に極めて硬く、食味が悪いものであるが、該突然変異米の精米に、その重量の2倍以上、通常は2〜10倍の重量の水を加えて炊飯することにより、米飯、発芽玄米、粥あるいは高圧処理米飯等の粒食形態の加工品の食味を顕著に改善することができる。なお、通常の日本型米の場合、炊飯時の加水量は、精米重量の1.2〜1.8倍である。本発明では、加水量を従来と異なる2倍以上とすることにより、突然変異米を原料とする米加工品の食味を改善することができたのである。
【0023】
これらの米加工品の食味をさらに改良するために、高圧処理、膨化加工、酵素処理などの前処理あるいは後処理を加えることもできる。高圧処理の例としては、1.2kg/cm2 程度の高圧処理によるレトルト米飯から、1,000MPaの超高圧加工による処理を含む。
さらに、パン、麺、米菓等の素材としては、アミロペクチンの短鎖の少ない突然変異米に10気圧以上、通常は10〜300気圧の圧力を加えた後、急激に除圧することによって、比容積が3〜20ml/gの多孔質構造の膨化米とすることにより、製品の食味と加工適正を改善することができる。10気圧未満の圧力では、除圧時の膨化が不十分となり、比容積が3ml/g未満となってしまうため、製品の食味や加工適性の劣ったものしか得られない。また、300気圧以上の圧力を加えた後に急激に除圧した場合には、圧力変化が大きすぎるために膨化製品がもろくなるので不適当である。一方、比容積が20ml/gを超えると、米菓製品や粉末等の密度が低すぎるため、流通・加工時の破砕などが生じるので、不適当である。
【0024】
酵素処理の例としては、澱粉を分解するアミラーゼ処理やタンパク質を分解するプロテアーゼ処理、あるいは細胞壁や結着成分を分解するセルラーゼ処理、さらにはペクチナーゼ処理などを挙げることができる。
また、膨化加工の例としては、10気圧程度の高圧密閉容器中で加熱した後に急激に常温常圧に放出することによる瞬間膨化加工や、1軸あるいは2軸エクストルーダーを用いる20気圧〜300気圧の高温高圧加工を挙げることができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)アミロペクチンの短鎖の少ない突然変異米
(1)米試料
米試料は、一般のジャポニカ米として、突然変異米の母本である金南風、MNU処理によって澱粉枝作り酵素IIを欠損させた突然変異米であるEM10、EM129、EM189を使用した。これらの試料は、平成12年から平成15年までの4年間、本発明者らと九州大学大学院との共同研究において、食味特性を物理化学的に評価するために、九州大学大学院農学研究院の佐藤 光研究室より供与されたものである。
これらの試料米を試験用籾摺り機(サタケ製、THU-35A)によって籾摺りし、試験用精米器(ケット化学研究所製、パーレスト)で歩留まり90%に精白して精米を得た。この精米をサイクロンサンプルミル(Udy製)によって粉砕して試料とした。
【0027】
得られた粉末試料を、4℃の0.2%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、洗浄と遠心分離を繰り返して上澄液にタンパク質が検出されないようになるまで(上澄液の280nmの吸光度が0.02以下になるまで)除タンパク処理を行った。
次いで、200メッシュの金属ふるいでふるい分けし、pHが中性になるまで(フェノールフタレインが赤色を示さなくなるまで)純水で繰り返し洗浄した。このようにして得た粗澱粉を風乾し、粉砕して粉末試料を得た。
【0028】
この粉末試料それぞれ2mgに1ccの水を加え、イソアミラーゼ(生化学工業製)によって澱粉の枝切りを行った。次いで、酵素反応を苛性ソーダ添加によって停止した。枝切り後、電流検出器を装着したイオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス製)によってアミロペクチンの鎖長分布を測定した。また、各突然変異米と金南風との鎖長分布の差を求めた。これらの結果を図1(a)〜(g)に示す。
【0029】
本発明で使用する突然変異米は、鎖長が6〜12のアミロペクチン短鎖割合が18%(EM10)、19%(EM129)、20%(EM189)であり、金南風の30%に比べて顕著に少なかった。
【0030】
(実施例2)RS含量の測定
(1)米試料
米試料は、温帯ジャポニカとして、コシヒカリ、ミルキークイーン、インド型米として、Jasmin Rice、Kalijira、Basmati、インド型高アミロース米として、Kasalath、LPT123、Saohi、日印交雑種として、夢十色、ホシユタカ、アミロペクチン短鎖の少ない突然変異米として、EM10を用いた。
【0031】
(2)アミロース含量およびタンパク質含量の測定
試料を試験用籾摺り機(サタケ製、THU-35A)によって籾摺りし、試験用精米器(ケット化学研究所製、パーレスト)で歩留まり90%に精白して精米を得た。この精米をサイクロンサンプルミル(Udy製)によって粉砕して試料とした。
この試料についてフリアーノのヨード比色法に従って測定した。検量線はポテトアミロース(シグマ社製, Potato amylose III)と米アミロペクチン(脱脂除タンパクしたもち米粉末)を40/60、30/70、20/80、10/90、0/100の割合に混合して作成した。試料粉末のタンパク質含量は燃焼法(LECO FP-528型 窒素分析装置)によって全窒素含量を求め、米における窒素タンパク質換算係数5.95を乗じてタンパク質含量とした。
【0032】
(3)RSの定量
RSの定量は、メガザイム社のキット(レジスタントスターチ測定キット)を使用した。具体的には次の通りである。試料(米粉の場合100mg、炊飯米では200mg)に膵臓由来アミラーゼおよびアミログルコシダーゼを含む4mlの0.1Mマレイン酸緩衝液(pH6.0)を加え37℃で16時間処理し、可溶性デンプンを消化した。50%濃度となるようエタノール4mlを加えて混合し1500×g、10分間遠心し、沈殿を回収した。
さらに50%エタノール溶液8mlを加えて懸濁、遠心する操作を2回行った。これらの過程の上清は回収し、可溶性デンプンの測定に用いた。沈殿として回収した残余デンプンに2mlの2M KOHを加えて氷中で20分間懸濁させた。アミログルコシダーゼを含む酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.8)8mlを加えて50℃で30分間反応させ、残余デンプンを分解し、生じたグルコースを比色定量した。可溶性デンプンとRSの総和に占めるRSの割合をパーセンテージで示した。
【0033】
米粉末を用いて、米の品種ごとのRS含量を比較したところ、インディカ米のカサラス(Kasalath)等のアミロース含量が高い品種の方がRS量が多い傾向がみられた(図2)。しかし、図から明らかなように、最も含量が高かったカサラスにおいても、RSは1%程度であった。これに対して、EM10について精米および炊飯米でRSを測定したところ、精米で31%、炊飯米で26%と顕著に高い値を示した(図3)。
【0034】
(実施例3)米飯の調製と物性測定
アミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が20%以下の各種の米、すなわち、EM10、EM72、EM129およびEM189の精米、対照試料米として温帯ジャポニカの金南風、インディカのIR36の精米を、湿度70%において水分含量14.5%±0.5%に調整した。これらの精米試料各10gを外径6.0cm、底径4.2cm、高さ5.5cmのプリンカップに秤取し、純水16mlを加え、25℃で1時間吸水させた。その後、電気炊飯器(東芝製RC183、東京)に5個並べ、釜に75mlの純水を加え、20分間炊飯した。スイッチが切れた後、15分間蒸らしてから、蓋を開けて米飯試料をプリンカップからガラスシャーレに移し、プラスティック袋に密閉して25℃で2時間静置した。
この試料の各30粒を1粒ずつ、テンシプレッサー(タケトモ電機製、マイボーイ、東京)を用いて岡留らの方法(岡留 博司ほか6名、日本食品科学工学会誌、vol. 45,pp.398-407,1998)により物性を測定した。測定項目は、圧縮率25%による米飯表層部の付着量(L3)である。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

単位:表層の硬さ;x1000dyn, 粘り;x1000dyn, 付着量;mm
全体の硬さ;x1000000dyn, 粘り;x1000000dyn
【0036】
表1に示すように、アミロペクチンの短鎖の少ない突然変異米であるEM10、EM72、EM129およびEM189は、米飯が硬く、高アミロース米であるIR36よりさらに硬かった。
しかし、精米10gに対し、加水量を22mlに増加して2時間吸水させた後に炊飯した場合には、米飯物性が著しく向上し、軟らかい米飯となった。
【0037】
(実施例4)パン
ぬるま湯(35℃)100mlに1gの砂糖を加え、ドライイースト8gを加え、予備発酵させた。次いで、実施例1と同様のアミロペクチンの短鎖の少ない米(EM129)の精米粉90gに市販強力粉210gを加え、さらに砂糖15g、食塩6g、牛乳90ml、卵15g、無塩バター15gを加えて混合した。これに、予備発酵させたイーストを加え、混合した。
この生地を板に載せ、手で捏ね、コシが出てきた時点でひとまとめにし、丸めてボールに入れ、ラップで覆い、30℃で3倍容に発酵させた。そして、フィンガーテストにより十分に発酵したことを確認した後、丸めてボールに入れ、プラスティック袋で覆って30分間寝かせた。この生地を球状に丸め、乾燥した布巾をかけて15分間、室温で寝かせた。
この生地を延ばし、ショートニングを塗った食パン型枠に入れ、35℃で1時間、発酵させた。次いで、約200℃のオーブンで30分間焼成した。
一方、比較対照品は通常の加工用精米を90gと市販強力粉210gを混合して使用し、上記と同様にしてパンを試作した。
パン製品の外観、物性、成分、食味試験結果は表2の通りであった。なお、総合評価は外観食味、難消化性澱粉含量を総合して評価し、○:良好、X:劣っているとした。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示すように、本発明に係るアミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が19%の突然変異米(EM129)を用いて調製したパンは、パンとしての外観、食感も良好であった。また、機能性の期待される難消化性澱粉含量も15.5%と極めて高く、総合的に見て高い評価となった。
【0040】
(実施例5)麺
原料米として、市販加工用米とアミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が18%の突然変異米(EM192)を用いた。試験用精米機(山本製作所製)によって歩留まり90%に精白し、衝撃式粉砕機(ユーディ社製)によって精米粉末を調製した。市販の中力粉500gに上記の精米粉150gを加え、約40%の加水(食塩30gを含有)を行い、蒸練機(新井製作所製)によって15分間蒸練し、練り出し機(新井製作所製)で蒸練生地を3回練り出しした。
この生地を、圧延機(新井製作所製)によって厚さ約2mmに圧延してシート状にし、切断して低温(5℃)で一晩置いて硬化させた。硬化生地を製麺機の切り歯で約2.5mmに切断して試作麺とした。
【0041】
この2種類の麺は、両方とも、食味の点では良好であった。麺に含まれる難消化性澱粉含量をメガザイム社の測定用キットにより測定した結果、加工用米で試作した麺の場合は、RSが乾物当たり0.3%にすぎないのに対して、EM192で試作した麺の場合はRSが28.9%と極めて高かった。
【0042】
(実施例6)米菓
原料米として、市販加工用米とEM72(アミロペクチン短鎖の割合が少ない突然変異米)の精白米を粉砕して主原料として使用した。これらを表3のような配合で混合し、100gに対して純水70gを加えて練り上げて生地玉を作った。
【0043】
この生地玉を蒸し器によって15分間蒸し、次いで、家庭用餅つき機(タイガー餅つき機、SMK-1800)によって10分間ついた。この蒸し上げ生地をプラスティックフィルム(サランラップ)で包んで1.5mmの厚みに延伸し、円形の型枠で型抜きした。
これらの丸生地を温度15℃、湿度40%の恒温恒湿器で一晩(18時間)乾燥した。乾燥生地を熱風乾燥機(アドバンテック、FC-610)を用いて180℃で10分間乾燥し、次いで230℃で10分間焼き上げて素焼き米菓を試作した。
【0044】
米菓の比容積は柳瀬らの植物種子置換法(柳瀬 肇・遠藤 勲・奥野元子、食品総合研究所研究報告、第42号, pp.1-9, 1983)によって測定した。米菓の食感は12名の試食者による官能検査によって評価を行った。食物繊維はAOAC法によって酵素非分解物重量として測定した。これらの測定・評価の結果を表3に示す。
また、試作品No.1(比較例の品)とNo.2(本発明品)の写真を図4に示す(図中のAが本発明品、Bが比較例の品であり、上が米菓焼き上げ前、下が焼き上げ後を示す)。
【0045】
【表3】

評価: ○良い、X悪い
【0046】
表3に示すように、本発明の米菓(試料No.2)は食感が良好であり、美味しい上に、難消化性澱粉が著しく増加していた。一方、比較例(No.1)の米菓では、原料米が一般の加工用米であるために、難消化性澱粉が少ない製品となった。
【0047】
(実施例7)粥
試料米として、平成15年茨城県産キヌヒカリとアミロペクチンの短鎖の少ない突然変異米(EM10)を用いた。試験用精米機(山本製作所製、YP31)によって歩留まり90%に精白し、それぞれ100gの精米を土鍋に取り、これに純水500gを加え、1時間浸漬した後、始めは強火で、次いで沸騰したら弱火にして加熱し、米粒が十分に糊化した時点(約30分後)で火を止めた。15分間蒸らした後、室温まで冷却した。その後、-30℃の冷凍庫で凍結し、凍結乾燥機(アイラ製、FD-1)によって凍結乾燥した。これを小型粉砕器(イワタニ製ミルサー)によって粉末化し、RSを測定した。その結果、キヌヒカリの粥はRS含量が0.3%であったのに対し、EM10の粥は23%と極めて高い値であった。
【0048】
(実施例8)発芽玄米
原料米として、平成16年茨城県産コシヒカリとアミロペクチンの短鎖の少ない突然変異米(EM129)を用いた。玄米試料を0.1%次亜塩素酸ソーダ水溶液中で30分間浸漬し、玄米表面を殺菌した。
次いで、純水で十分に洗浄して次亜塩素酸ソーダを除去した後、1kgの玄米試料を30℃に制御した30Lの浸漬水に浸漬し、24時間ごとに浸漬水を全量交換しながら、72時間浸漬して発芽させた。
得られた発芽玄米試料を凍結乾燥した後に小型粉砕器(イワタニ製ミルサー)を用いて粉砕し、8%トリクロロ酢酸で抽出した遊離アミノ酸をアミノ酸自動分析計(日立自動アミノ酸分析計 8500)によって測定した。
その結果、発芽コシヒカリ玄米は56mg/100g、発芽EM10玄米は76mg/100gのγ−アミノ酪酸を含有していた。また、メガザイム社のキットによって測定したRSは、発芽コシヒカリ玄米で0.2%あったのに対し、発芽EM129玄米で32.6%であり、後者の方が163倍のRSを含んでいた。
【0049】
(実施例9)高圧処理米飯
平成16年茨城県産の高アミロース米である夢十色とアミロペクチンの短鎖の少ない突然変異米(EM72)を原料米とし、試験用研削式精米機(サタケ製、TM5)を用いて歩留まり90%に精白した。これらの精米試料20gをプラスティック袋に入れ、35gの純水を加えてヒートシールした後、オートクレーブ(平山製作所製、パーソナルクレーブ)によって、0.3MPa、150℃で20分間高圧加熱し、レトルト米飯とした。冷却後、-30℃で凍結し、凍結乾燥機(アイラ製、FD-1)によって凍結乾燥した。
これを小型粉砕器(イワタニ製ミルサー)によって粉末化し、RSを測定した。その結果、夢十色のレトルト米飯はRS含量が1.5%であったのに対し、EM72のレトルト米飯は10.2%と極めて高い値であった。この高圧処理米飯は、通常の常圧炊飯の米飯より軟らかく、食味が改良されていた。
【0050】
(実施例10)膨化米
試料米として、アミロペクチンの短鎖の少ない突然変異米EM129を使用し、比較試料として日本晴を使用した。玄米を試験用精米機(山本製作所製、YP31)を用いて歩留まり90%に精白した。これを日本精鋼製の2軸エクストルーダー(TEX38FSS-20AW)によって膨化加工した。操作条件は、バレル温度180℃、圧力60気圧であり、径3mmのノズルを用いて高温高圧押し出し加工を行った。
得られたスナック用米菓は、それぞれ比容積が6.5および7.8であり、どちらもサクサクとした良好な食感を示した。RS含量は、本発明品(EM129)が7.5%と高い値を示したのに対し、比較例の品(日本晴)は0.1%と極めて低い値であった。
【0051】
本発明品の米菓をUdy社製、サイクロンミルを用いて粉砕し、市販強力粉に3:7の割合で混合してパンの試作を行った。ぬるま湯(35℃)100mlに1gの砂糖を加え、さらにドライイースト8gを加え、予備発酵させた。
膨化させたEM129の粉末90gに市販強力粉210gを加え、砂糖15g、食塩6g、牛乳90ml、卵15gおよび無塩バター15gを加えて混合した。これに、予備発酵させたイーストを加え、混合した。
得られた生地を板に載せ、手で捏ね、コシが出てきた時点でひとまとめにし、丸めてボールに入れ、ラップで覆い、30℃で3倍容に発酵させた。フィンガーテストをして十分に発酵したことを確認した後、丸めてボールに入れ、プラスティック袋で覆って30分間寝かせた。この生地を球状に丸め、乾燥した布巾をかけて15分間、室温で寝かせた。この生地を延ばし、ショートニングを塗った食パン型枠に入れ、35℃で1時間、発酵させた。
次いで、約200℃のオーブンで30分間焼成した。一方、比較対照品は前述の日本晴から調製した膨化米を90gと市販強力粉210gを混合して使用し、上記と同様にしてパンを試作した。
【0052】
どちらのパンも良く発酵し、膨化して良好な食味を示した。前者のパンはRS含量が6.3%、後者は2.2%であった。難消化性澱粉の含量の観点から、本発明品は極めて優れていた。
【0053】
(実施例11)血糖上昇抑制効果
被験者は、男性7名、女性9名の健常人16名とした。試料米2品種(EM129および日本晴)を試験用精米機(山本製作所製、YP31)を用いて歩留まり90%に精白した。これらの精米150gに純水180ml(日本晴)あるいは純水320ml(EM129)を加え、25℃で2時間浸漬した。次いで、電気釜(三菱IHジャー炊飯器NJ-DS06型)を用いて炊飯した。各被験者に米飯各100gを食べさせ、米飯摂取前および30分後、60分後、90分後、120分後の計5回、自己採血用穿刺補助器具(ラクレット、三和化学研究所(株))により被験者の採血を行い、血漿中の血糖値を酵素法により測定した。16名の食後の血糖値を平均した結果、日本晴の米飯を試食した場合に比べ、EM129の米飯を試食した後の方が、血糖値の上昇が緩やかであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、難消化性澱粉の多い米加工品並びにその製造方法が提供される。この米加工品の原料として、アミロペクチン短鎖の少ない低食味米を用いるため、新たな機能性を有する米加工品用としての用途が開発される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(a)〜(d)は実施例1における米試料である突然変異米の鎖長分布を示し、(e)〜(g)は各突然変異米と対照米(金南風)の鎖長分布との差異を示す図である。
【図2】実施例2における対照米(精米粉)のレジスタントスターチ含量(%)の品種間の比較を示す。
【図3】実施例2における米試料である突然変異米(精米粉または炊飯米)のレジスタントスターチ含量(%)を示す。
【図4】実施例5の米菓試作品の写真で、Aが本発明の品、Bが比較例の品である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が5〜20%である突然変異米を原料とする粒食形態または粉食形態の米加工品。
【請求項2】
突然変異米が、アミロペクチン短鎖のグルコース重合度が6〜12であり、当該アミロペクチン短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が5〜20%であり、レジスタントスターチ含量が5%以上のものであることを特徴とする請求項1に記載の米加工品。
【請求項3】
米加工品が、米飯、発芽玄米、粥あるいは高圧処理米飯のいずれかの粒食形態の加工品であることを特徴とする請求項1または2に記載の米加工品。
【請求項4】
米加工品がパン、麺あるいは米菓のいずれかの粉食形態の加工品であることを特徴とする請求項1または2に記載の米加工品。
【請求項5】
米加工品が、血糖上昇抑制作用を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の米加工品。
【請求項6】
アミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が20%以下である突然変異米の精米に、該重量の2倍以上の重量の水を加えて炊飯することを特徴とする粒食形態の米加工品の製造方法。
【請求項7】
アミロペクチンの短鎖の全アミロペクチン鎖に対する割合が20%以下である突然変異米の精米に、10気圧以上300気圧以下の圧力を加えた後、急激に除圧することによって比容積を3〜20ml/gの多孔質構造の膨化米とすることを特徴とする請求項1に記載の米加工品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−217813(P2006−217813A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31555(P2005−31555)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(501145295)独立行政法人食品総合研究所 (27)
【Fターム(参考)】