説明

米粉の澱粉損傷度の予測方法及び加工適性の評価方法

【課題】 簡便且つ迅速な米粉の澱粉損傷度の予測方法を提供することを目的とする。また、米粉の澱粉損傷度を予測することにより、米粉の加工適性を評価することを目的とする。
【解決手段】 米粉を水と接触させて前記米粉に水を吸収させ、接触後の経過時間に対する米粉の含水率の変化を測定する第1の工程と前記接触後の経過時間と米粉の含水率を下記近似式(I)に当てはめ、吸水係数a、K、n、bを求める第2の工程とを含む、米粉の澱粉損傷度の予測方法:Y(t)=a[1−exp(−K×t)]+b (I)。式中、tは時間である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉の澱粉損傷度の予測方法及び加工適性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米粉は団子、餅、せんべいのような伝統的な米菓に利用されてきたが、近年、食糧自給率向上の観点から、米粉の新規用途開発による消費促進が図られている。
【0003】
従来の米粉は製法により粉の特性が異なり、目的に応じて上新粉や落雁粉のような多種の米粉が存在する。近年、新規の用途として、パン、洋菓子及び麺などに米粉を使用することが試みられている。しかし、従来の米粉では粒子径が大きすぎるため良質なパンが作れないという問題があった。そのため、製粉方法が改良され、従来よりも米粉の粒子径を小さくすることが可能となった。
【0004】
しかしながら、粒子径を小さくすると、粉砕による摩擦熱や物理的な衝撃によって米に含まれる澱粉が損傷し、澱粉損傷度の高い米粉が調製されやすくなる。米粉の澱粉損傷度は特に製パン適性に大きく関与すると言われており、米粉の特性として澱粉損傷度は重要な因子である(非特許文献1)。
【0005】
現在、澱粉の損傷度を測定するための方法には、α−アミラーゼとアミログルコシダーゼを使用して澱粉損傷度を測定する酵素法(AACC法76−31)がある。この酵素法は、小麦粉の澱粉損傷度を評価する方法として用いられているものであるが、米粉にも適用されている。この方法は定量性があるものの、操作が煩雑であり、また、酵素反応が温度と時間に鋭敏であるため結果がばらつきやすい。そのため、再現性のある結果を得るには熟練した操作が必要である。また、吸光度測定をするため分光光度計が必要である。
【0006】
特許文献1には、澱粉の損傷度を迅速で簡便に測定する方法として、酵素処理する際の消費酸素量を溶存酸素電極で測定する方法が開示されている。この方法では、酸素消費量の測定時間は3分とされているが、酵素処理にかかる時間は測定時間に含まれておらず、実際は数時間の測定が必要である。したがって簡便ではあるものの迅速な測定とは言えない。
【0007】
非特許文献2には、澱粉の糊化度を測定する方法として、β−アミラーゼとプルラナーゼを使用して澱粉損傷度を測定する酵素法(BAP法)が開示されている。澱粉損傷度と糊化度は密接な関係があるため、糊化度から澱粉損傷度を予測することは可能である。しかしながら、BAP法は特許文献1に開示されている測定方法と同様に、定量性はあるものの操作が煩雑で熟練を要する。
【0008】
非特許文献3には、澱粉溶液の透明度で評価する濁度法が開示されている。濁度法は簡便であり、ある程度精度があるという利点を有する。しかしながら、この方法は広く知られておらず、米粉での適用事例は少ない。
【0009】
その他、X線回折、示差走査熱量計による熱分析などにより澱粉の損傷度を測定する方法がある。また、米粒の炊飯時の糊化度を推定する方法としてFT−IRを用いた検討がされている(非特許文献4)。これらの方法は、それぞれ測定に高額な装置を必要とするため、汎用には適さないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−242891号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】與座宏一、松木順子、岡留博司、岡部繭子、鈴木啓太郎、奥西智哉、北村義明、堀金彰、山田純代、松倉潮、「食総研報[技術報告]」、2010年、第74巻、p.37−44
【非特許文献2】貝沼圭二、松永暁子,枝川正秀,小林昭一,「澱粉科学」、1981年、第28巻、第4号、p.235−240
【非特許文献3】渋川祥子、福場博保、「家政誌」、1973年、第24巻、第1号、p.45−48
【非特許文献4】綾部園子、田中京子、浜田陽子、香西みどり、畑江敬子、「日本食品科学工学会誌」、2006年、第53巻、第9号,p.481−488
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願発明は、簡便且つ迅速な米粉の澱粉損傷度の予測方法を提供することを目的とする。また、米粉の澱粉損傷度を予測することにより、米粉の加工適性を評価することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、米粉の澱粉損傷度の予測方法が提供される。該方法は、米粉を水と接触させて前記米粉に水を吸収させ、接触後の経過時間に対する米粉の含水率の変化を測定する第1の工程と、前記接触後の経過時間と米粉の含水率を下記近似式(I)に当てはめ、吸水係数a、K、n、bを求める第2の工程とを含む。式(I)中のtは時間である。
Y(t)=a[1−exp(−K×t)]+b (I)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便且つ迅速な米粉の澱粉損傷度の予測方法を提供することができる。さらに、製パン適性や製菓子適性のような米粉の加工適性を評価することができ、用途に適した米粉を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】含水率の測定方法の一態様を示す図である。
【図2】実施例1における米粉の粒度分布を示すグラフである。
【図3】実施例1における米粉の含水率の変化を示すグラフである。
【図4】実施例1における吸水係数Kと澱粉損傷度の相関を示すグラフである。
【図5】実施例1における吸水係数K/aと澱粉損傷度の相関を示すグラフである。
【図6】実施例1における吸水係数Kと食パンの比容積の相関を示すグラフである。
【図7】実施例1における吸水係数K/aと食パンの比容積の相関を示すグラフである。
【図8】実施例2における吸水係数Kと澱粉損傷度の相関を示すグラフである。
【図9】実施例2における吸水係数K/aと澱粉損傷度の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一つの態様において、新規の近似式(I)を用いた米粉の澱粉損傷度の予測方法が提供される。該方法では、米粉の含水率の時間変化を測定し、該測定結果を近似式(I)に当てはめることにより、近似式(I)の吸水係数を求める。なお、ここで澱粉損傷度とは、米粉に含まれる澱粉の全質量に対する損傷した澱粉の質量の割合を指す。
【0017】
以下、本態様における米粉の澱粉損傷度の予測方法について詳細に説明する。
まず、第1の工程において、米粉を水と接触させて、米粉に水を吸収させる。水を吸収した米粉の質量を測定し、米粉の含水率を算出する。質量の測定は、米粉を水と接触させてから例えば一定時間毎に行い、接触後の経過時間に対する米粉の含水率の変化を測定する。
【0018】
ここで、米粉の含水率とは、測定開始前の米粉の質量(初期米粉質量)に対する、米粉が含有する水分量の割合を指す。米粉が含有する水分量は、測定開始前の米粉が含有する水分(初期含水量)と測定中に米粉に吸収された水分の合計である。即ち、
米粉の含水率=初期含水量+吸水量/初期米粉質量
である。
【0019】
なお、測定開始前の米粉の質量(乾燥質量)と、米粉が含有する水分又は含水率(初期含水量又は初期含水率)は予め測定しておく。
【0020】
次いで、第2の工程において、測定された前記米粉の含水率と接触後の経過時間を下記近似式(I)に当てはめ、吸水係数a、K、n、bを求める。なお、式(I)においてtは時間である。
Y(t)=a[1−exp(−K×t)]+b (I)
この4種の吸水係数を有する近似式(I)は、その吸水係数が米粉の澱粉損傷度と高い相関を有するものであり、本発明者らが鋭意研究によって見出した新規な式である。
【0021】
近似式(I)において、吸水係数aは測定開始後に米粉が吸水して水分が飽和した際の、初期米粉質量に対する水分量の比、即ち、飽和吸水率を反映する。吸水係数bは初期含水率を反映する。吸水係数aとbを加算した値は飽和含水率を反映する。
【0022】
吸水係数Kは吸水速度を反映する。吸水係数Kの値が大きいほど、米粉の吸水速度は速く、飽和含水率に至る時間が短い。一方、吸水係数Kの値が小さいほど、米粉の吸水速度は遅く、飽和含水率に至る時間が長い。
【0023】
吸水係数nは吸水速度の変化を反映する。吸水係数nの値が大きいほど、米粉の初期の吸水速度の変化が鋭敏で、吸水係数nの値が小さいほど、米粉の吸水速度の変化が緩慢である。
【0024】
本発明者らによって、近似式(I)の吸水係数K、及び、吸水係数K/aが、澱粉損傷度と高い逆相関を有することが明らかとなった。吸水係数K及び吸水係数K/aが澱粉損傷度と高い逆相関を有することは、米粉の澱粉損傷度を酵素法によって測定し、その結果と比較することにより実証されている。よって、吸水係数K又はK/aの値に基づいて、米粉の澱粉損傷度を予測することができる。
【0025】
吸水係数K又はK/aが大きいほど澱粉損傷度が低く、吸水係数K又はK/aが小さいほど澱粉損傷度が高い。澱粉損傷度の予測には、吸水係数KとK/aの何れを用いてもよいが、K/aを用いることがより好ましい。通常、澱粉損傷度が大きいほど水分の吸収量が大きいが、aは飽和吸水率を反映する吸水係数であるため、吸水係数K/aは澱粉損傷度との相関性がより高くなると考えられる。
【0026】
また、近似式(I)に吸水係数nが含まれることにより、あらゆる種類の米粉の吸水パターンを反映することが可能である。それ故、本態様による澱粉損傷度の予測方法は、例えば、初期の吸水量変化は大きいもののその後はほとんど吸水しない米粉や、小麦粉と同様に徐々に吸水する吸水パターンを有する米粉など、何れの吸水パターンを有する米粉にも適用することが可能である。
【0027】
なお、測定された米粉の含水率と接触後の経過時間を近似式(I)に当てはめ、吸水係数a、K、n、bを求める工程は、一般的な表計算ソフトによって行うことができる。例えば、マイクロソフト社製エクセルに実測値を入力し、近似式の係数をソルバー機能による繰り返し計算で求めることができる。
【0028】
上記第1の工程における測定は、これに限定されないが、底部に開孔を有する容器内部にろ紙を敷き、その上に米粉を載せ、該容器の底部を水中に静置することにより行うことができる。
【0029】
含水率の測定の一態様を、図1を参照して説明する。まず、円筒状の測定容器1にろ紙2を敷き、その上に、初期含水率をあらかじめ測定した米粉3を置き、該容器の質量を測定する。これを初期質量とする。なお、測定容器1の底部4には、予め開孔5を設けておく。
【0030】
次いで、測定容器1を、浅く水を張った水槽6内に置くことにより、測定容器1の底部4を水中に静置する。これにより、測定容器1内に底部4の開孔5を通して水が浸入し、米粉3と接触し、米粉3に水が吸収される。測定開始後、例えば一定時間毎に、測定容器の質量を測定する。
【0031】
測定容器1は、吸水しない材料で形成された容器を用いる。例えばアルミ製の缶を用いることができるが、これに限定されない。容器形状は、底を有し内部に米粉を充填できれば、円筒状に限定されず、任意の形状であってよい。
【0032】
測定容器1の底部4には、水が浸入可能なように開孔5が設けられる。開孔5の大きさは特に限定されないが、例えば、直径が1〜4mmとすることができる。開孔5の数は、開孔5が容器の底部4に均等に配置され、且つ、水が円滑に測定容器1内に浸入するのに十分な数であることが好ましい。
【0033】
水槽6内の水深は、測定容器1の高さより低ければよいが、水深が深すぎると米粉3への水の浸透が速くなるため、浅い方が好ましい。水深が5〜20mmの範囲であればより正確な測定が可能である。また、水槽6内に入れられる水の量は、米粉3の最大吸収量より十分に多い量であることが好ましい。
【0034】
測定は、米粉を水と接触させてから米粉の含水率が飽和するまで行うことが好ましく、例えば30分から1時間程度行うことが好ましい。
【0035】
本態様における澱粉損傷度の予測方法に供される米粉は、例えば、精白米、玄米及び発芽玄米の粉、並びに白糠及び赤糠のような種々の米粉であってよく、精白米の粉であることがより好ましい。
【0036】
以上説明したように、本態様によれば、近似式(I)を用いることにより、米粉の澱粉損傷度を簡便、迅速、且つ、安価に測定することが可能である。
【0037】
本発明のさらなる態様おいて、上記近似式(I)の吸水係数に基づいて、製パン適性や製菓子適性のような米粉の加工適性を評価する方法が提供される。ここで、加工適性の高い米粉とは、生地の吸水性が高い米粉や、発酵時及び焼成時の膨張性が高い米粉を指す。
【0038】
本発明者らは、上記の近似式(I)の吸水係数K、及び、吸水係数K/aが、加工適性と相関を有することを明らかにした。よって、吸水係数K又はK/aの値に基づいて、米粉の加工適性を評価することができる。例えば、吸水係数K又はK/aが大きい米粉は、加工適性が高く、そのような米粉を用いて製造されたパンは比容積が大きい。一方、吸水係数K又はK/aが小さい米粉は、加工適性が低く、そのような米粉を用いて製造されたパンは比容積が小さい。
【0039】
また、吸水係数K又はK/aの値に基づいて、加工に適した米粉を選択することができる。例えば、良好な気泡性を必要とするパンや菓子を製造するためには、吸水係数K又はK/aの値が大きい米粉を選択すればよい。
【0040】
またさらに、吸水係数K又はK/aの値に基づいて、米粉を用いて生地を調製する際の適正な吸水量を予測することができる。これにより、パンや菓子などの発酵時や焼成時のふくらみを良好にすることも可能である。
【実施例1】
【0041】
(含水率の測定)
平均粒子径の異なる試料1〜5の米粉を用いて、含水率の経時変化を測定した。測定容器として、直径約40mmのアルミ缶を用いた。アルミ缶の底に直径約2mmの穴を等間隔に7箇所設けた。測定容器の底に、同じ直径を有する円状のガラス製ろ紙を敷いた後、測定容器の質量を測定した。
【0042】
次に、ろ紙の上に、予め含水率を測定した米粉5gをのせ、容器底部に均一に広げた。次いで、質量を測定した(初期質量)。
【0043】
測定容器を、水深10mmの水を張ったバットに静置した。静置したときの時間を測定時間0分とした。一定時間毎に測定容器を取り出し、布で容器を拭いた後、質量を測定し、再びバットに静置した。この作業を、質量変化が無くなるまで、およそ30分繰り返した。
【0044】
得られた含水率の経時変化を、近似式(I)に当てはめ、吸水係数a、K、n、bを求めた。
【0045】
(酵素法による澱粉損傷度の測定)
試料1〜5の米粉について、酵素法により澱粉損傷度を測定した。15mlのサンプルチューブに米粉試料50mgとα−アミラーゼ溶液100μlを加え、ボルテックスミキサーで撹拌し、40℃の温槽中で10分間、酵素反応を行った。その後、0.2%v/v希硫酸4mlを加えて酵素反応を止め、遠心分離(2,000g、5分)した後、上澄液を採取した。上澄液100μlとアミログルコシダーゼ溶液100μlを10mlガラス試験管に加え、ボルテックスミキサーで5秒間撹拌し、40℃の温槽中で10分間、酵素反応を行った。その後、グルコース発色溶液4mlを加え、40℃の温槽中で20分間、反応させた後、分光光度計で510nmの吸光度を測定した。
【0046】
1.5mg/mlグルコース溶液100μlと酢酸緩衝液100μlとグルコース発色溶液4mlをガラス試験管に加え、20分後の510nmの吸光度を求めて検量線を作成した。この検量線に基づいて、試料1〜5の米粉の澱粉損傷度を算出した。
【0047】
(パン生地の粘性測定)
試料1〜5の米粉を用いて、パン生地を調製し、その粘性を測定した。米粉試料192gと、グルテン48gと、水216g(粉に対して90%)を混練して生地を調製した。試料1〜5の米粉を用いて作製したそれぞれの生地について、機械的剪断力に対する抵抗力(Nm)を温度30℃、回転数63rpmの条件で測定した。生地の粘性は、小麦粉の粘度測定で比較基準値として広く用いられている単位である、ブラベンダーユニット(BU)により表した。
【0048】
(食パンの調製)
試料1〜5の米粉を用いて食パンを調製した。材料の配合は以下の通りとした。
【0049】
米粉試料 240g
グルテン 60g
水 234g
食塩 5g
上白糖 15g
スキムミルク 6g
ショートニング 15g
ドライイースト 5g
米粉とグルテンを混合し、これに食塩、上白糖、スキムミルク、ショートニング、ドライイースト、水を加えて混合し、生地を調製した。調製した生地を型に入れ、40℃、湿度80%の環境で50分間、発酵させた。その後、180℃のオーブンで30分間、焼成した。室温で一晩放冷した後、高さ、質量、比容積を測定した。比容積は菜種法により測定した。
【0050】
(測定結果)
表1に、試料1〜5の米粉の吸水係数a、K、n、bと、初期含水率(%)、平均粒子径(μm)、酵素法により測定した澱粉損傷度(%)、生地粘性(BU)、食パン高さ(cm)、食パン質量(g)、食パン比容積(ml/g)を示した。なお、平均粒子径は、一般的な粒度分布測定機を用いて測定した。
【表1】

【0051】
表1から、澱粉損傷度が高い程、生地粘性が高くなる傾向があり、また、食パンの高さと比容積が小さくなる傾向があることが分かる。このように、澱粉損傷度は生地粘性、パンの高さと比容積と高い相関を示しており、製パン適性に影響する因子であることが分かる。
【0052】
図2に、試料1〜5の米粉の粒度分布のグラフを示した。試料1は、粒度分布が広く、粒子径の小さい米粉が多く含まれている。よって、澱粉損傷度が大きいと予測される。一方、試料5は粒度分布が最も狭かった。
【0053】
図3に、試料1〜5の米粉の含水率の時間変化を示した。試料1は、吸水速度の変化が緩慢であり、含水率が飽和するまでの時間が長かった。一方、試料5は吸水速度の変化が鋭敏であり、含水率が飽和するまでの時間が短かった。このことから、粒度分布が広いほど吸水速度の変化が緩慢であり、また、含水率が飽和するまでの時間が長い傾向があると考えられる。
【0054】
図4及び5に、試料1〜5の米粉の吸水係数K及びK/aのそれぞれと、澱粉損傷度との関係を示した。図に示された通り、近似式の吸水係数K及びK/aはそれぞれ、澱粉損傷度と高い逆相関を有することが分かる。従って、吸水係数K又はK/aから、澱粉損傷度が推定できることが示された。
【0055】
図6及び7に、試料1〜5の米粉の吸水係数K及びK/aのそれぞれと、食パンの比容積との関係を示した。図に示された通り、近似式の吸水係数K及びK/aはそれぞれ、食パンの比容積と高い相関性を有することが分かる。従って、吸水係数K又はK/aから、米粉の製パン適性が評価できることが示された。
【実施例2】
【0056】
市販の米粉を用いて、近似式(I)の吸水係数を求め、澱粉損傷度との相関性を調べた。試料6〜10は、ひとめぼれを乾式粉砕した市販の米粉を5分画に分級したものである。試料11〜15は、ひとめぼれを湿式粉砕した市販の米粉を5分画に分級したものである。試料16、17、18、19はそれぞれ、ササニシキ、あきたこまち、国産米、ひとめぼれを原料とした市販の米粉である。
【0057】
試料6〜19のそれぞれについて、実施例1で記載したとおりに含水率を測定し、近似式(I)の吸水係数a、K、n、bを求めた。また、実施例1で記載したとおりに、酵素法による澱粉損傷度の測定を行った。
【0058】
表2に、吸水係数a、K、n、b、平均粒子径(pm)、澱粉損傷度(%)を示した。また、図8及び9に、吸水係数K及びK/aのそれぞれと、澱粉損傷度との関係を示した。
【表2】

【0059】
図8及び9から、吸水係数K及びK/aはそれぞれ、澱粉損傷度と高い逆相関を有することが分かる。従って、吸水係数K又はK/aから、澱粉損傷度が推定できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、簡便且つ迅速に米粉の澱粉損傷度を予測することができる。また、米粉の澱粉損傷度を予測することによって、米粉の製パン適性や製菓子適性を評価することができ、目的に応じた適切な米粉を選択することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…測定容器、2…ろ紙、3…米粉試料、4…測定容器の底部、5…開孔、6…水槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉を水と接触させて前記米粉に水を吸収させ、接触後の経過時間に対する米粉の含水率の変化を測定する第1の工程と、
前記接触後の経過時間と米粉の含水率を下記近似式(I)に当てはめ、吸水係数a、K、n、bを求める第2の工程と、
を含む、米粉の澱粉損傷度の予測方法:
Y(t)=a[1−exp(−K×t)]+b (I)
式中、tは時間である。
【請求項2】
前記吸水係数K及びK/aの少なくとも一つの値に基づいて、米粉の澱粉損傷度を予測することを特徴とする、請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、底部に開孔を有する容器内部にろ紙を敷き、その上に米粉を載せ、該容器の底部を水中に静置することにより、測定が行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の予測方法。
【請求項4】
前記米粉が精白米の粉であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の予測方法。
【請求項5】
米粉の加工適性を評価するために、請求項1に従って得られた近似式(I)の吸水係数を用いることを特徴とする、米粉の加工適性の評価方法。
【請求項6】
前記吸水係数K及びK/aの少なくとも一つの値に基づいて、米粉の加工適性を評価することを特徴とする、請求項5に記載の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−185038(P2012−185038A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48213(P2011−48213)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】