説明

米粉パン

【課題】米粉とグルテンを原料としてなる米粉パンにおいて、生地のベタ付きが改良され、作業性が向上する上に、焼き上げ製品の表面が柔らかな米粉パンを提供する。
【解決手段】米粉とグルテンとを原料として作られる米粉パンにおいて、原料として粉末結晶セルロースを配合することを特徴とする米粉パンであり、前記粉末結晶セルロースの嵩密度が0.1〜0.4g/cmであることが好ましく、さらに前記粉末結晶セルロースの含有割合が、米粉とグルテンを併せて100質量部に対し、粉末結晶セルロースが0.2〜2.0重量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は米粉とグルテンとを原料として作られる米粉パンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、発酵パンの主原料として利用されているのは、小麦粉またはライ麦粉であり、小麦パンはふっくら膨らんだ食感が好まれている。小麦粉は、水を加えて練り合わせると、小麦粉中のタンパク質のグリアジンとグルテニンが、ガム状の粘弾性を有するグルテンになり、これが発酵で生じる炭酸ガスを生地中に包蔵する機能を発揮し、発酵パンの容積拡大につながることが知られている。
【0003】
一方日本の食糧自給率を向上するために、米粉を小麦粉の替わりに利用した米粉パンの普及が進んでいる。しかし、米粉とグルテンを原料として作られるパンは、小麦粉で作られるパンに比較し、米粉の吸水率が高いため10%程度多く加水するが、米粉とグルテンのなじみが悪いために、米粉パンの生地は分離し易く、離水により生地がべた付き、安定した製パンが出来にくいという問題があった。
【0004】
そこで、グルテン含有米粉に細胞壁分解酵素類、アミラーゼ類、食品用乳化剤及びイーストの発酵促進剤の1種又は2種以上を適量添加する方法(特許文献1を参照。)、米粉にグルテン及びマルトースを含有させる方法(特許文献2及び特許文献3を参照。)、米粉とともにグルテンと易発酵性糖質と難発酵性糖質とからなる可溶性糖質を含有させる方法(特許文献4を参照。)等が提案されている。
【0005】
しかしながら、前記の増粘多糖類を配合した米粉パン製品は、いずれも表面が硬くなり、焼成時に乾燥してむらが出易く、くすんだ色付きになるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−208561号公報
【特許文献2】特開2004−222548号公報
【特許文献3】特開2008−228743号公報
【特許文献4】特開2004−65250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、米粉とグルテンを原料としてなる米粉パンにおいて、生地のベタ付きを改良し、作業性の向上を図るとともに、焼き上げ製品の表面が柔らかい米粉パンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、米粉とグルテンを原料とする米粉パンの製造において、原料として粉末結晶セルロースを配合することにより、生地のベタ付きが改良されて、作業性が向上し、焼き上げ製品の表面が柔らかい米粉パンが得られることを見出し、本発明をするにいたった。すなわち本発明は以下の通りである。
<1>本発明は、米粉とグルテンとを原料として作られる米粉パンにおいて、原料として粉末結晶セルロースを配合することを特徴とする米粉パンである。
<2>さらに本発明は、前記粉末結晶セルロースの嵩密度が0.1〜0.4g/cmである米粉パンである。
<3>さらに本発明は、前記粉末結晶セルロースの含有割合が、米粉とグルテンを併せて100質量部に対し、粉末結晶セルロースが0.2〜2.0重量部である米粉パンである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、米粉とグルテンで作る米粉パンにおいて、微細な空隙を持ち高い保水性を有する粉末結晶セルロースを配合することにより、発酵時の生地の離水を防止してベタ付を改良し、作業性の向上を図るとともに、焼き上げ製品の表面が柔らかく、鮮やかな焼き色の米粉パンを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の米粉パンの組成物は、米粉とグルテンとからなる穀粉に、少なくとも粉末結晶セルロースを配合することを特徴とする。
【0011】
本発明の米粉パンの組成物は、前記米粉、グルテン、粉末結晶セルロースの他に、パン酵母、及び水を含み、さらに通常の小麦粉パンと同様に、食塩、砂糖、脱脂粉乳、油脂を含む。また必要に応じて、大豆レシチン、卵を配合しても良い。
【0012】
本発明で用いられる米粉は、粳米の生米を精米し粉砕、粉末化したもので、粉砕する前の生米としては、精白米、玄米、屑米、古米など特に制限されるものではないが、損傷澱粉が5%以下と少なく、平均粒度が20〜40μmと細かいものが好ましく、損傷澱粉が4%以下で、平均粒度が25〜30μmが特に好ましい。また該米粉の水分率は、10〜15%が好ましく、12〜14%がより好ましい。
【0013】
前記米粉の製粉方法は、胴搗き製粉、ロール製粉、石臼製粉、気流粉砕製粉、高速回転打撃製粉等のいずれの方法も用いられるが、本発明の米分は、損傷澱粉の割合及び平均粒度の観点から、超高速回転の衝撃粉砕機により製粉された米粉が好ましい。
【0014】
本発明のグルテンも特に限定されないが、粗蛋白質含量が75%以上の高活性のものが好ましく、80%以上がより好ましい。また200μm以下の目開きの篩で篩い分けられる、粗い粒子を含まないものが望ましい。
【0015】
前記米粉とグルテンの配合割合は、米粉80〜90重量部とグルテン20〜10重量部が好ましく、米粉82〜88重量部とグルテン18〜12重量部がより好ましく、米粉84〜86重量部とグルテン16〜14重量部が特に好ましい。
【0016】
広義の結晶セルロースには、パルプを原料として加水分解によりセルロース結晶領域を取り出した狭義の結晶セルロースと、パルプを原料とし、苛性ソーダで処理した後に酸化メチル等のエーテル化剤と反応させて得られる水溶性セルロースエーテルがある。前記狭義の結晶セルロースも、狭義の結晶セルロースを水溶性高分子等で特殊コーティングしたものと、そのまま狭義の結晶セルロースを乾燥させ粉末状としたものとがある。
【0017】
本発明の結晶セルロースは、前記狭義の結晶セルロースを乾燥させ粉末状としたもの(以後粉末結晶セルロースという。)が用いられる。中でも嵩密度が0.1〜0.4g/cmが好ましく、0.2〜0.3g/cmが特に好ましい。本発明の粉末結晶セルロースとして、市販の粉末結晶セルロースを用いることが出来、具体的には旭化成ケミカルズ(株)製の、商品名セオラスST−02、セオラスFD−F20等を好適に用いることが出来る。
【0018】
前記粉末結晶セルロースの添加量は、配合された米粉とグルテン100重量部に対して、0.2〜2.0重量部が好ましく、0.3〜1.5重量部がより好ましく、0.5〜1.0重量部が特に好ましい。
【0019】
前記本発明のパン酵母としては、パンの製造に通常用いられているサッカロミセス・セレビシエのパン酵母が用いられるが、中でも生酵母が好ましい。
【0020】
前記食塩、砂糖、脱脂粉乳、油脂について、特に制限は無く、米粉パンの用途に応じて、市販品を任意に使用することが出来る。また必要に応じて用いられる大豆レシチンや卵についても、前記食塩等と同様に市販品を任意に使用することが出来る。
【0021】
前記本発明の米粉パンの組成物に加水、混捏することにより、生地を製作する。前記加水量は、水分率が11〜12%の米粉を用いた場合、配合された米粉とグルテン100重量部に対して70〜80重量部である。なお、生地に牛乳や卵等の液体成分を混合する場合は、前記加水量にこれらの液体成分中の水分も加える。該混捏はミキサーその他の任意の装置を用いて行うことができる。該混捏は、油脂を添加する場合は、始めに低速で2〜4分混合、その後高速で2〜4分混合、油脂添加、更に低速で2〜4分混合、その後高速で2〜4分混合をして、生地がなめらかな状態になるまで行うことが好ましい。また油脂を添加しない場合は、始めに低速で2〜4分混合をし、その後高速で5〜6分混合をして、生地がなめらかな状態になるまで行うことが好ましい。
【0022】
前記により混捏した生地を、20〜40分間一次発酵させて、分割し、さらにベンチタイムを15〜25分設けることが好ましい。該ベンチタイム後に、所定形状に成型、二次発酵させた後に、ベーカリーオーブンで焼成して、パンとする。
【0023】
前記生地または発酵生地を成形する際に、アン、カレー、各種惣菜などの具材料を包み込んでアンパン、カレーパン、惣菜パンや中華饅頭等に仕上げることも可能である。
【0024】
前記により得られた米粉パンは、コッペパン、バターロール、揚げパン、菓子パン、フランスパン、ドイツパン、ベーグル、デニッシュパン、中華饅頭、イーストドーナツ、プレッツェル、ピザもしくはナン等の発酵により得られるパン、またはパイ、スコーン、マフィンなどの発酵せずに得られるパンなど多種多様に及ぶが、本発明の米粉組成物、及び製造方法により得られるものであればこれらに限定されるものではない。
【0025】
このようにして得られた米粉パンは、日持ちがよく、冷蔵または冷凍保存することも容易であり、必要に応じて加温、解凍して喫食し、その食味を楽しむことができる。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
実施例1の米粉パン組成物は、表1に示す組成、配合割合を用いた。表1において、米粉は、熊本製粉(株)製、商品名:瑞穂パン用米粉を用いた。該米粉は、国内産の粳米を精米し、超高速回転の衝撃粉砕機で粉砕したもので、損傷澱粉が3.6%、平均粒度が28μmである。グルテンは、オーストラリア、マニルドラ社製、商品名:プロマックスFG−80を用いた。該グルテンは、粗蛋白質が80%以上である。粉末結晶セルロースは、旭化成ケミカルズ(株)製、商品名:セオラスST−02を用いた。該粉末結晶セルロースは、嵩密度が0.29g/cmである。また砂糖は第一糖業(株)製上白糖を、食塩は(株)日本海水製、商品名:赤穂塩を、脱脂粉乳は弘乳舎製脱脂粉乳を、油脂は日油(株)製ショートニング、商品名:ブレディSAを、パン酵母は協和発酵フーズ(株)製、商品名:ダイヤイーストを、それぞれ用いた。
【0027】
【表1】

@0001
【0028】
前記組成物を用い、ミキシングは株式会社愛工舎製作所製、商品名:AM−20を使用し、低速3分高速3分、油脂添加、低速3分高速2分、捏ね上げ温度26℃、発酵30分で生地を製造した。
【0029】
該生地を100gに分割し、ベンチタイム20分後に、株式会社オシキリ製、商品名:成型ミニモルダーMQを使用しロール状として天板に並べ、福島工業株式会社製、商品名:ドゥコンディショナーQBXを使用して温度38℃、湿度85%にて二次発酵60分、株式会社ベーカーズプロダクション製、商品名:ファイナルスターオーブンを使用して焼成14分(200℃)の工程によりパンを製造した。
【0030】
(実施例2)
実施例2の米粉パン組成物は、表2に示す組成、配合割合を用いた。表2において、実施例1の米粉パンの組成、配合割合に対し、前記粉末結晶セルロースを1.0重量部に、砂糖を20.0重量部に替えたほか、大豆レシチン、太陽化学(株)製、商品名:レシチンM−035を0.5重量部、生卵を10.0重量部加え、水を70.0重量部とした以外は実施例1と同様な配合とした。工程は、実施例1と同様としてパンを製造した。
【0031】
【表2】

@0002

【0032】
(比較例1)
比較例1の米粉パン組成物は、表3に示す組成、配合割合を用いた。表3において、実施例1の米粉パン組成物に対し、粉末結晶セルロースを配合しない以外は実施例1と同様な配合とした。工程は、実施例1と同様としてパンを製造した。
【0033】
【表3】

@0003

【0034】
(比較例2)
比較例2の米粉パン組成物は、表4に示す組成、配合割合を用いた。表4において、実施例1の米粉パン組成物に対し、粉末結晶セルロースに替えて増粘多糖類であるグアーガム、太陽化学(株)製、商品名:ネオソフトGを0.5重量部配合した以外は実施例1と同様として、比較例2の米粉パン組成物を用いた。工程は、実施例1と同様としてパンを製造した。
【0035】
【表4】

【0036】
(結果)
前記により得られた実施例1、実施例2、及び比較例1、比較例2のパンについて、生地状態および作業性は目視観察と手で触れての観察方法により、製品体積は菜種置換の方法により、24時間後硬さは英弘精機株式会社製、商品名:テクスチャーアナライザーTA‐XT2iを使用して、焼成24時間後の製品表面を1cm圧縮する1cm当りの最大荷重(g)を測定する方法により、さらに製品状態は官能評価の方法により、それぞれ品質評価を行った。結果を表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
以上の結果から米粉とグルテンに粉末結晶セルロースを配合して作られた米粉パンは、生地のべた付きが改良され、製品表面が柔らかく、鮮やかな焼き色の製品が得られることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
生地のべた付きが改良され、製造工程の作業性が向上するとともに、製品表面が柔らかく、鮮やかな焼き色の米粉パンを提供することができ、米の新たな用途を開拓することが出来る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉とグルテンとを原料として作られる米粉パンにおいて、原料として粉末結晶セルロースを配合することを特徴とする米粉パン。
【請求項2】
前記粉末結晶セルロースの嵩密度が0.1〜0.4g/cmである請求項1に記載の米粉パン。
【請求項3】
前記粉末結晶セルロースの含有割合が、米粉とグルテンを併せて100質量部に対し、結晶セルロースが0.2〜2.0重量部である請求項1又は請求項2に記載の米粉パン。